説明

2型糖尿病の診断方法

サンプリングが容易な組織における遺伝子の発現解析によって2型糖尿病を診断できる(特に2型糖尿病の発症前において、将来2型糖尿病を発症する可能性があるか否かを診断でき、2型糖尿病の早期発見を可能とする)、2型糖尿病の診断方法を提供することを目的とし、本発明の2型糖尿病の診断方法は、被験者の血液から採取した白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルを指標として2型糖尿病の診断を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、2型糖尿病の診断方法及び診断用キット、並びに2型糖尿病予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法及びスクリーニング用キットに関する。
【背景技術】
糖尿病の患者数は、世界規模で増加の一途をたどっており、2010年度には2億人を越えると予想されている。糖尿病はその病因に基づいて大きく1型と2型とに分類されるが、糖尿病の患者のほとんどが2型糖尿病の患者によって占められており、その克服は人類の大きな課題の一つといえる。
1型糖尿病は、膵臓ランゲルハンス島が炎症を起こしてβ細胞によるインスリン分泌能が著しく低下するもので、インスリンを補充しなくては生存できないインスリン依存型の病像を呈する。
2型糖尿病は、それ以外の原因でインスリンの作用不足が現れて高血糖になるもので、肥満、過食、運動不足、ストレス等の環境因子の関与が大きく、中年以降の比較的高齢の肥満者に発症しやすい。2型糖尿病では、一般的にはインスリン非依存型の病像を呈し、食事療法と運動療法が治療の基本となる。食事療法、運動療法の次の段階として薬物療法が行われ、それでも治療が困難な場合にはインスリン療法が行われる。
糖尿病の初発時期には、多飲、多尿、夜尿等の症状が見られるが、これらの初発症状を自覚する患者は少なく、患者の多くは、合併症に伴う症状が現れるまで自覚できないため、糖尿病がいつの間にか発症していて、それを発見した時には合併症が出現しており、治療が極めて困難となる場合が多い。したがって、糖尿病の克服には、早期発見・早期治療が極めて重要であるが、1型糖尿病に比べて2型糖尿病の発症過程は未だ不明な点が多いため、早期発見・早期治療が困難となる場合がある。
そこで、2型糖尿病の発症過程を明らかにするために、様々な遺伝学的アプローチが行われており、最近、糖尿病患者におけるSNPs解析やハプロタイプ解析によって遺伝子に先天的な塩基配列の異常が存在することが明らかになりつつある。例えば、塩基配列の異常により、糖尿病罹患率の変動(Altshuler,D.ら,Nat Genet,2000.26(1)p.76−80;Yen,C.J.ら,Biochem Biophys Res Commun,1997.241(2)p.270−4)、膵臓β細胞の機能低下(Maechler,P.and C.B.Wollheim,Nature,2001.414(6865)p.807−12;Bell,G.I.and K.S.Polonsky,Nature,2001.414(6865)p.788−91)、さらには薬剤感受性の変化(Umekawa,T.ら,Diabetes,1999.48(1)p.117−20;Hoffstedt,J.ら,Diabetes,1999.48(1)p.203−5)等をきたすことが報告されている。しかし、2型糖尿病の原因となる遺伝子は完全には同定されておらず、2型糖尿病の発症過程には未だ不明な点が多い。
その他の遺伝学的なアプローチとして、遺伝子の発現解析が行われている。遺伝子の発現解析は、遺伝子の発現状態(表現型)を解析するものであり、遺伝子の先天的な異常(遺伝子型)を解析するSNPs解析等と本質的に異なるものであって、遺伝因子及び環境因子を加味した患者の現状を把握できる点で有利である。
しかしながら、これまでの遺伝子の発現解析は、肝臓、骨格筋、脂肪、膵臓等、インスリンの主要標的臓器における糖代謝、脂質代謝等に関連する遺伝子の発現の変化を調べるために行われてきたため、これを臨床応用して2型糖尿病の診断を行うことは困難である。すなわち、インスリンの主要標的臓器を対象とする場合には、検体のサンプリングが困難であるため、遺伝子の発現解析に基づいて2型糖尿病の診断を行うことは困難である。
【発明の開示】
そこで、本発明は、第一に、サンプリングが容易な組織における遺伝子の発現解析によって2型糖尿病を診断できる(特に2型糖尿病の発症前において、将来2型糖尿病を発症する可能性があるか否かを診断でき、2型糖尿病の早期発見を可能とする)、2型糖尿病の診断方法及び診断用キットを提供することを目的とする。
また、本発明は、第二に、サンプリングが容易な組織における遺伝子の発現解析によって2型糖尿病予防・治療効果を有する物質をスクリーニングすることができる、2型糖尿病予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法及びスクリーニング用キットを提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、以下の2型糖尿病の診断方法及び診断用キット、並びに2型糖尿病予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法及びスクリーニング用キットを提供する。
(1)被験者の血液から採取した白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルを指標として2型糖尿病の診断を行うことを特徴とする2型糖尿病の診断方法。
(2)前記発現レベルを、CAPN10又はIRS−1をコードするmRNAの存在量に基づいて測定することを特徴とする前記(1)記載の診断方法。
(3)前記発現レベルを、CAPN10又はIRS−1の存在量に基づいて測定することを特徴とする前記(1)記載の診断方法。
(4)前記被験者の白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルが、健常者の白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルよりも減少しているときに、前記被験者が将来2型糖尿病を発症する可能性がある又は前記被験者が現在2型糖尿病を発症している可能性があると診断することを特徴とする前記(1)記載の診断方法。
(5)CAPN10又はIRS−1をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むことを特徴とする2型糖尿病診断用キット。
(6)CAPN10又はIRS−1に反応し得る抗体又はその断片を含むことを特徴とする2型糖尿病診断用キット。
(7)2型糖尿病モデル動物に候補物質を投与した後、前記動物の血液から採取した白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベル改善効果を指標として、前記候補物質の2型糖尿病予防・治療効果を判定することを特徴とする2型糖尿病予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法。
(8)CAPN10又はIRS−1をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むことを特徴とする2型糖尿病予防・治療効果を有する物質のスクリーニング用キット。
(9)CAPN10又はIRS−1に反応し得る抗体又はその断片を含むことを特徴とする2型糖尿病予防・治療効果を有する物質のスクリーニング用キット。
【図面の簡単な説明】
図1は、OLETFラット及びLETOラットの体重変化を示す図である。
図2は、OLETFラット及びLETOラットの耐糖能変化を示す図である。
図3は、OLETFラット及びLETOラットの白血球におけるIR(図3A)、SHIP2(図3B)、PPARγ(図3C)、CAPN10(図3D)及びIRS−1(図3E)のmRNA発現解析結果を示す図であり、図中、白(□)はLETOラットの結果を、黒(■)はOLETFラットの結果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の2型糖尿病の診断方法は、被験者の血液から採取した白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルを指標として2型糖尿病の診断を行うことを特徴とする。
被験者の血液から白血球を採取する方法は特に限定されるものではなく、例えば、血液中の赤血球を選択的に溶解させた後、遠心分離することによって白血球を採取できる。白血球には、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球及び単球のいずれもが含まれ、検体として用いる白血球は、これらのうちの1種類であってもよいし、2種類以上の混合物であってもよい。
CAPN10遺伝子は、CAPN10(Calpain10,カルパイン10)をコードする遺伝子である。CAPN10は、組織非特異的に発現しているシステインプロテアーゼである。CAPN10は、カルパインが通常有しているカルシウム結合ドメインを有しておらず、代わりにTドメインを有している(Horikawa,Y.ら,Nat Genet,2000.26(2)p.163−75)。CAPN10の機能としては、例えば、IRS−1の分解に関わっている(Smith,L.K.ら,Biochem Biophys Res Commun,1993.196(2)p.767−72)、Aキナーゼ系に組み込まれており、脂肪細胞の分化に関わっている(Patel,Y.M.and M.D.Lane,Proc Natl Acad Sci USA,1999.96(4)p.1279−84)、プロテインキナーゼCを加水分解する(Suzuki,K.ら,FEBS Lett,1987.220(2)p.271−7)等が知られている。
IRS−1遺伝子は、IRS−1(Insulin receptor substrate−1,インスリンレセプター基質−1)をコードする遺伝子である。IRS−1は、インスリン作用機構に関与するタンパク質である。すなわち、インスリンが細胞表面のインスリンレセプターに結合すると、インスリンレセプターに結合したIRS−1をはじめとする各種タンパク質が次々と活性化して、その信号が伝達され、その信号によってトランスポーター(GLUT4)が活性化して、ブドウ糖を細胞外から細胞内へと移送する。
CAPN10遺伝子の塩基配列には、多型、アイソフォーム等によって被験者間で相違が見られる場合があるが、塩基配列が相違する場合であってもCAPN10をコードする限り、CAPN10遺伝子に含まれる。IRS−1遺伝子についても同様である。
「CAPN10遺伝子の発現レベル」には、CAPN10遺伝子のmRNAへの転写レベル及びタンパク質への翻訳レベルが含まれる。同様に、「IRS−1遺伝子の発現レベル」には、IRS−1遺伝子のmRNAへの転写レベル及びタンパク質への翻訳レベルが含まれる。したがって、CAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルは、検体におけるCAPN10又はIRS−1をコードするmRNAの存在量、あるいは、検体におけるCAPN10又はIRS−1の存在量に基づいて測定することができる。
CAPN10又はIRS−1をコードするmRNAの存在量の測定にあたっては、公知の遺伝子解析技術、例えば、ハイブリダイゼーション技術(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、DNAマイクロアレイ法等)、遺伝子増幅技術(例えば、RT−PCR等)等を利用することができる。
ハイブリダイゼーション技術を利用する際には、CAPN10又はIRS−1をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプローブとして利用することができ、遺伝子増幅技術を利用する際には、当該オリゴヌクレオチドをプライマーとして利用することができる。
CAPN10又はIRS−1をコードする核酸には、DNA及びRNAの両者が含まれ、例えば、mRNA、cDNA、cRNA等が含まれる。オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチド、あるいは非天然型ヌクレオチドのいずれであってもよい。オリゴヌクレオチドの塩基長は通常15〜100塩基、好ましくは18〜40塩基であり、ポリヌクレオチドの塩基長は通常200〜3000塩基、好ましくは500〜1000塩基である。
CAPN10又はIRS−1をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの塩基配列は、CAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の塩基配列に基づいて設計することができる。例えば、CAPN10又はIRS−1をコードするcDNAのうち、cDSを含む領域を選択し、当該領域にハイブリダイズするように、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの塩基配列を設計する。また、CDS領域の5’末端側又は3’末端側の領域にハイブリダイズし得るように、あるいは、CDS領域からその5’末端側又は3’末端側の領域にわたる領域にハイブリダイズし得るように設計することもできる。設計したオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドについては、実際にプライマーやプローブとして利用して、目的とする核酸にハイブリダイズするか否かを確認することが好ましい。ヒトのCAPN10をコードするcDNAの塩基配列を配列番号1に示し、ヒトのIRS−1をコードするcDNAの塩基配列を配列番号2に示す。配列番号1記載のcDNAのうち、24〜2024番目の塩基からなる領域がCDS領域であり、配列番号2記載のcDNAのうち、1021〜4749番目の塩基からなる領域がCDS領域である。オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプライマーとして利用する場合には、5’末端側に制限酵素認識配列、タグ等を付加することができる。また、プローブとして利用する場合には、蛍光色素、ラジオアイソトープ等の標識を付加することができる。
CAPN10又はIRS−1をコードするmRNAの存在量の具体的測定方法について、RT−PCRを利用する場合を例にして説明する。被験者の血液から採取した白血球から全RNAを抽出し、抽出した全RNAからcDNAを合成した後、合成したcDNAを鋳型とし、CAPN10又はIRS−1をコードするcDNAにハイブリダイズし得るプライマーセットを用いてPCRを行い、PCR増幅断片を定量することによって、CAPN10又はIRS−1をコードするmRNAの存在量を測定することができる。この際、PCRは、PCR増幅断片生成量が初期鋳型cDNA量を反映するような条件(例えば、PCR増幅断片が指数関数的に増加するPCRサイクル数)で行う。
PCR増幅断片の定量方法は特に限定されるものではなく、PCR増幅断片の定量には、例えば、ラジオアイソトープ(RI)を用いた定量方法、蛍光色素を用いた定量方法等を利用することができる。
RIを用いた定量方法としては、例えば、(i)反応液にRI標識したヌクレオチド(例えば32P標識されたdCTP等)を基質として加えておき、PCR増幅断片に取り込ませてPCR増幅断片をRI標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(ii)RI標識したプライマーを用いることによりPCR増幅断片をRI標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(iii)PCR増幅断片を電気泳動した後、メンブランにブロッティングし、RI標識したプローブをハイブリダイズさせ、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法等が挙げられる。放射活性は、例えば、液体シンチレーションカウンター、X線フィルム、イメージングプレート等を用いて測定することができる。
蛍光色素を用いた定量方法としては、(i)二本鎖DNAにインターカレートする蛍光色素(例えば、エチジウムブロマイド(EtBr)、SYBR GreenI、PicoGreen等)を用いてPCR増幅断片を染色し、励起光の照射によって発せられる蛍光強度を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(ii)蛍光色素で標識したプライマーを用いることによりPCR増幅断片を蛍光色素で標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、蛍光強度を測定してPCR増幅断片を定量する方法等が挙げられる。蛍光強度は、例えば、CCDカメラ、蛍光スキャナー、分光蛍光光度計等を用いて測定することができる。
RT−PCRを利用する場合には、例えばABI PRISM 7700(Applied Biosystems社)等の市販の装置を利用して、遺伝子増幅過程をリアルタイムでモニターリングすることにより、PCR増幅断片のより定量的な解析を行うことができる。
CAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルの測定値は、発現レベルが大きく変動しない遺伝子(例えば、β−アクチン遺伝子、GAPDH遺伝子等のハウスキーピング遺伝子)の発現レベルの測定値に基づいて補正することが好ましい。
CAPN10又はIRS−1の存在量の測定にあたっては、公知のタンパク質解析技術、例えば、CAPN10又はIRS−1に反応し得る抗体又はその断片を利用したウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、ELISA等を利用することができる。
CAPN10又はIRS−1に反応し得る抗体には、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれもが含まれ、「その断片」には、CAPN10又はIRS−1に反応し得る限り、いかなる断片も含まれる。抗体の断片としては、例えば、Fab断片、F(ab)’断片、単鎖抗体(scFv)等が挙げられる。「CAPN10又はIRS−1に反応し得る」には、CAPN10又はIRS−1のいずれの部分と反応する場合も含まれる。CAPN10又はIRS−1に反応し得る抗体又はその断片は、CAPN10又はIRS−1には反応するが、白血球に含まれる他のタンパク質には反応しないことが好ましい。
CAPN10又はIRS−1に反応し得る抗体は、例えば、次のようにして得ることができる。
免疫用抗原としては、CAPN10又はIRS−1の一部又は全部を利用することができる。免疫用抗原としては、例えば、(i)CAPN10又はIRS−1を発現している細胞又は組織の破砕物又はその精製物、(ii)DNA組換え技術を用いて、CAPN10又はIRS−1をコードするcDNA(例えば、CAPN10については配列番号1、IRS−1については配列番号2記載の塩基配列からなるcDNA)を大腸菌、昆虫細胞又は動物細胞等の宿主に導入して発現させた組換えタンパク質、(iii)化学合成したペプチド等を利用することができる。
ポリクローナル抗体の作製に当たっては、まず、免疫用抗原を用いてラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ウシ等の哺乳動物を免疫する。免疫の際には、抗体産生誘導する為に、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)等の免疫助剤を用いてエマルジョン化した後、複数回の免疫することが好ましい。インスリンシグナル伝達制御タンパク質に対する抗体力価を測定し、抗体力価が上昇した後に採血し、抗血清を得る。
モノクローナル抗体の作製に当たっては、ポリクローナル抗体の場合と同様に免疫用抗原を用いて哺乳動物を免疫した後、抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、例えば、脾臓細胞、リンパ節細胞、胸腺細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞が一般的に利用される。次いで、ハイブリドーマを得るために、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。細胞融合処理後、選択培地を用いて培養し、目的とするハイブリドーマを選別する。次いで、増殖したハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。次いで、限界希釈法、軟寒天法、フィブリンゲル法、蛍光励起セルソーター法等によりハイブリドーマのクローニングを行い、最終的にモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを取得する。取得したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法としては、通常の細胞培養法等を利用できる。また、ハイブリドーマをマウス等の腹腔内に移植した後、腹水を採取し、当該腹水からモノクローナル抗体を取得することもできる。
ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の精製が必要とされる場合には、硫酸アンモニウムによる塩析、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の方法を適宜選択して又はこれらを組み合わせて利用することができる。
CAPN10又はIRS−1に反応し得る抗体又はその断片を用いて、CAPN10又はIRS−1の発現量を定量する際には、例えば、放射能免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、化学発光測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)等を利用できる。具体的には、物理吸着や化学結合等により抗体を結合させた固相担体(例えば、イムノプレート、ラテックス粒子等)を用いて、検体中のCAPN10又はIRS−1を捕捉した後、捕捉されたCAPN10又はIRS−1を、固相担体に固定化した抗体とはCAPN10又はIRS−1に対する抗原認識部位が異なる標識化抗体(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、フロレッセンス、ウンベリフェロン等の蛍光物質等で標識した抗体)を用いて定量することができる。
また、CAPN10又はIRS−1の存在量の測定は、CAPN10又はIRS−1の活性を測定することによって行うこともできる。CAPN10又はIRS−1の活性は、例えば、CAPN10又はIRS−1に反応し得る抗体又はその断片を利用したウェスタンブロッティング法、ELISA法等の公知の方法によって測定することができる。
2型糖尿病は緩徐に進行する病気であるため、高血糖、糖尿等の明らかな2型糖尿病の症状が現れる前(すなわち2型糖尿病の発症前)においても2型糖尿病が緩徐に進行している可能性がある。
本発明の2型糖尿病の診断方法では、2型糖尿病の進行に伴って、白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルが正常発現レベルと異なる変化を示すことを利用し、被験者の血液から採取した白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルを指標として2型糖尿病の診断を行う。すなわち、白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルは、2型糖尿病の進行に伴って正常発現レベルよりも減少するので、被験者の白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルが、健常者の白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルよりも減少しているときには、被験者が将来2型糖尿病を発症する可能性がある又は被験者が現在2型糖尿病を発症している可能性があると診断することができる。本発明の2型糖尿病の診断方法において、被験者からのサンプリングが必要となる組織は血液であり、血液は他の組織に比べてサンプリングが容易であるので、2型糖尿病の診断を簡易に行うことができる。
被験者と健常者との間で、白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルを比較する際には、複数の健常者(健常者群)の発現レベルを測定し、その値の分布から正常範囲を設定して、被験者の発現レベルが正常範囲以上になるか正常範囲以下になるかを判別することが好ましい。
健常者群は、複数の健常者を任意に選別して構成することができるが、被験者と同年齢又は同世代である健常者から構成することが好ましい。年齢差がCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルに与える影響をできるだけ排除するためである。
本発明の2型糖尿病診断用キットは、被験者の血液から採取した白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルを測定するための試薬として、CAPN10又はIRS−1をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、あるいは、CAPN10又はIRS−1に反応し得る抗体又はその断片を含むことを特徴とする。
本発明の2型糖尿病診断用キットを利用すれば、被験者の血液から採取した白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルを測定することにより、2型糖尿病の診断を行うことができる。
本発明の2型糖尿病診断用キットは、上記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、あるいは、上記抗体又はその断片を含む限り、いかなる形態であってもよく、任意の試薬、器具等を含むことができる。
本発明の2型糖尿病診断用キットが、上記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含む場合には、PCRに必要な試薬(例えばHO、バッファー、MgCl、dNTPミックス、Taqポリメラーゼ等)、PCR増幅断片の定量に必要な試薬(例えばRI、蛍光色素等)、DNAマイクロアレイ、DNAチップ等の1種類又は2種類以上を含むことができる。また、本発明の2型糖尿病診断用キットが、上記抗体又はその断片を含む場合には、上記抗体又はその断片を固定化するための固相担体(例えば、イムノプレート、ラテックス粒子等)、抗γ−グログリン抗体(二次抗体)、抗体(二次抗体を含む)又はその断片の標識(例えば、酵素、蛍光物質等)、各種試薬(例えば、酵素基質、緩衝液、希釈液等)等の1種類又は2種類以上を含むことができる。
本発明の2型糖尿病予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法は、2型糖尿病モデル動物に候補物質を投与した後、前記動物の血液から採取した白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベル改善効果を指標として、前記候補物質の2型糖尿病予防・治療効果を判定することを特徴とする。
白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルは、2型糖尿病の進行に伴って正常発現レベルよりも減少するので、2型糖尿病モデル動物の白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベル改善効果を有する物質を選択することによって、2型糖尿病予防・治療効果を有する物質をスクリーニングすることができる。
本発明のスクリーニング方法において、2型糖尿病モデル動物からのサンプリングが必要となる組織は血液であり、血液は他の組織に比べてサンプリングが容易であるので、候補物質が糖尿病予防・治療効果を有するか否かを簡易に判定することができる。
「CAPN10又はIRS−1遺伝子の発現レベル改善効果」には、CAPN10又はIRS−1遺伝子の発現レベルを正常発現レベルに戻す効果及び正常発現レベルに近づける効果のいずれもが含まれ、CAPN10又はIRS−1遺伝子の転写・翻訳、CAPN10又はIRS−1の活性発現等のいかなるステップに対して奏される効果も含まれる。
本発明のスクリーニング方法においては、2型糖尿病モデル動物として、白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルが正常発現レベルよりも減少している動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ等)を使用する。このような動物は、将来2型糖尿病を発症する可能性があるか又は現在糖尿病を発症している可能性がある動物である。
候補物質を投与するモデル動物としては、CAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルを人為的に減少させたトランスジェニック動物を利用することもできる。トランスジェニック動物におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルの減少には、CAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルが減少している状態、CAPN10又はIRS−1の分解が亢進された状態のいずれもが含まれる。
本発明のスクリーニング方法においては、白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルの変化が、将来又は現在における2型糖尿病発症の可能性の指標となることを利用し、2型糖尿病モデル動物に候補物質を投与した後、当該動物の血液から採取した白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベル改善効果を指標として候補物質の糖尿病予防・治療効果の判定を行う。すなわち、候補物質を投与した後の発現レベルが、正常発現レベルに戻ったか否か、又は正常発現レベルに近づいたか否かを指標として、候補物質の2型糖尿病予防・治療効果を判定し、この結果に基づいて糖尿病予防・治療効果を有する物質をスクリーニングする。正常発現レベルは、複数の健常動物の発現レベルを測定し、その値の分布から決定することが好ましい。
本発明の癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニング用キットは、検体におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルを測定するための試薬として、CAPN10又はIRS−1をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、あるいは、CAPN10又はIRS−1に反応し得る抗体又はその断片を含むことを特徴とする。
本発明のスクリーニング用キットを利用すれば、被験者の血液から採取した白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルを測定することにより、癌予防・治療効果を有する物質のスクリーニングを行うことができる。
本発明のスクリーニング用キットは、上記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、あるいは、上記抗体又はその断片を含む限り、いかなる形態であってもよく、本発明の2型糖尿病の診断用キットにおいて例示した各種試薬、器具等の他、モデル動物等を含むことができる。
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。
1.OLETFラットにおける糖尿病発症過程
1.1 実験材料及び実験方法
1.1.1 使用動物
実験動物として、大塚製薬(株)徳島研究所で系統維持されている、雄性のOLETF(Otsuka−Long−Evans−Tokushima−Fatty)ラット及びLETO(Long−Evans−Tokushima−Otsuka)ラットを使用した。OLETFラットは、2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)に類似した症状を示す自然発症糖尿病モデル動物であり(Kawano,K.ら,Diabetes Res Clin Pract,1994.24 Suppl p.S317−20)、LETOラットは、糖尿病を全く発症しないコントロール動物である。このように、確実に糖尿病を発症するモデル動物と、全く糖尿病を発症しないモデル動物とを使用することにより、糖尿病の発症前及び発症後における遺伝子の発現状態を解析できるというメリットがある。OLETFラット及びLETOラットは、4週齢で大塚製薬(株)徳島研究所より供与された。
ラットは、人工照明による明暗環境下(明期7:00〜21:00、暗期21:00〜7:00)、一定温度(22℃±0.5℃)、相対湿度(58%)の動物実験室内で飼育し、固形飼料及び水を自由に摂取させた。
1.1.2 実験手順
OLETFラット及びLETOラット(n=5〜6)において、生後5週齢より実験終了時(24週齢)まで体重を測定した。また、サンプリングの前週に糖負荷試験を行った。
1.1.3 糖負荷試験(Glucose Tolerance Test,GTT)
糖負荷試験(以下「GTT」という。)は、Hottaらの方法(Hotta,K.ら,Biochem Biophys Acta,1996.1289(1)p.145−9)を使用した。
すなわち、OLETFラット及びLETOラットの糖耐能の変化をみるために、5週齢及び23週齢の時点で、ラットを21:00より12時間絶食し、1g/kg BWのグルコース溶液を、27Gシリンジを使用して腹腔内投与した。1時間後、尾静脈より採取し、血糖値を測定した。
1.1.4 血糖値測定法
血糖値は、グルコースBテストワコーを使用して、グルコースオキシダーゼ法により測定した(Trinder,P.,J Clin Pathol,1969.22(2)p.158−61)。
すなわち、尾静脈よりサンプリングした血液を、氷上に15〜20分間静置した後、4℃の条件下、10000rpmで2分間遠心分離した。遠心上清20μLを生理食塩水で3倍に希釈した後、20μLをグルコースBテストワコーの発色試験液1mLと混合した。37℃で1時間インキュベートした後、505nmの吸光度を測定した。
1.1.5 使用試薬
グルコースBテストワコーは和光純薬(株)より購入し、グルコースその他の試薬は市販特級品を使用した。
1.1.6 統計学的処理及び検定法
測定値は全て平均値±標準偏差で示してある。群間の比較は、Student t−testによる両側検定を行い、有意差を検定した。p<0.05の値を統計学的に有意であるとみなし、p<0.05を★で、p<0.01を★★で示した。
1.2 実験結果
1.2.1 OLETFラット及びLETOラットの体重変化
5週齢から24週齢までのOLETFラット及びLETOラットの体重変化を図1に示す。なお、図1中、−●−はOLETFラットの体重変化を示し、−〇−はLETOラットの体重変化を示す。
図1に示すように、OLETFラット及びLETOラットの間に、5週齢の段階では有意な体重差は観察されなかったが、6週齢目から顕著な体重差が表れ始め、OLETFラットの方が有意に重かった。週齢が進むに従って体重差は顕著になっていった。
1.2.2 OLETFラット及びLETOラットの耐糖能変化
GTTの結果を図2に示す。なお、図2中、■はOLETFラットの結果を示し、□はLETOラットの結果を示す。
図2に示すように、OLETFラット及びLETOラットの間に、5週齢では有意な耐糖能の差は観察されず、両群の血糖値はいずれも200mg/dLを下回り、両群ともに耐糖能障害は観察されなかった。また、23週齢になると、実験に使用した6匹のOLETFラットのうち、4匹の血糖値が200mg/dLを越え、LETOラットに比べて有意に耐糖能が悪化していた。
1.3 考察
体重変化に関しては、6週齢より有意差が検出された。OLETFラットに関する論文(Ishida,K.ら,Metabolism,1996.45(10)p.1288−95)においても、顕著な体重差が観察されることが報告されているので、本実験において、OLETFラット及びLETOラットがともに順調に発育したものと考えられる。
GTTの結果より、5週齢の耐糖能は、OLETFラット及びLETOラットの間でそれほど変わらないが、23週齢においては、OLETFラットの耐糖能が顕著に悪化していた。1g/kg BWグルコースを腹腔内投与した場合、1時間後の血糖値が200mg/dLを越えていれば、糖尿病の症状であると考えられるので、本実験では、23週齢において6匹のOLETFラットのうち4匹が糖尿病の症状を示したこととなる。
体重変化及びGTTの結果より、OLETFラットが週齢を経るに従い、顕著にLETOラットと異なる発育を示し、糖尿病の症状を示すことが確かめられた。
2.OLETFラットにおける糖尿病関連遺伝子の発現解析
2.1 実験材料及び実験方法
2.1.1 使用動物
前章で耐糖能を測定したOLETFラット及びLETOラットを次の週(6週齢及び24週齢)に使用した。特に、24週齢のOLETFラットは、1g/kgBWグルコース投与後、1時間後の血糖値が200mg/dL以上であった個体を使用した。
2.1.2 実験手順
OLETFラット及びLETOラットを6週齢(非糖尿病状態)、24週齢(糖尿病状態)で21:00より12時間絶食させた後、全血液をサンプリングし、脱血後、肝臓及び筋肉をサンプリングした。血液(白血球)、肝臓及び筋よりRNAを抽出し、RT−PCR法により、インスリンレセプター(Insulin Receptor、以下「IR」という)、SH2含有イノシトール−5−ホスファターゼ(SH2−containing inositol−5−phosphatase、以下「SHIP2」という)、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(Peroxisome Proliferator−Activated Receptor γ、以下「PPARγ」という)、カルパイン10(Calpain10、以下「CAPN10」という)、インスリンレセプター基質−1(Insulin receptor substrate−1、以下「IRS−1」という)の白血球、肝臓及び筋肉における、OLETFラットとLETOラットとの発現量の相対的な違いについて解析した。
2.1.3 血液、肝臓及び筋肉のサンプリング
OLETFラット及びLETOラットを6週齢(非糖尿病状態)、24週齢(糖尿病状態)に21:00より12時間絶食させた。体重測定後、ラットをエーテルガスにより麻酔して開腹し、腹部大静脈よりヘパリンナトリウム(1000U/mL)を、27Gシリンジを使用して注入した。この時、ラット全血量を体重の13分の1と仮定し、添付文章に基づき、必要なヘパリンナトリウムの量を概算し、概算値の2倍量のヘパリンナトリウムを注入した。
注入後、予め0.5%EDTA/生理食塩水溶液を0.5mL分取しておいたファルコンチューブを大動脈の下にあてがい、大動脈を切断して採血した。得られた血液サンプルは、すぐに白血球からのRNA抽出操作を行った。同時に門脈より生理食塩水を灌流させ、肝臓及び筋肉を脱血した後に摘出した。肝臓及び筋肉は摘出後、速やかに液体窒素に浸し、−80℃で保存した。
2.1.4 白血球からのRNA抽出
2.1.3で得た血液サンプルからのRNA抽出は、QIAGEN社のQIAamp RNA Blood Mini Kitsを使用してスピンカラム法により行った。同キットに添付されているプロトコールに沿ってRNAを抽出した後、DEPC水に溶解させ、核酸濃度及び純度を測定し、−80℃でストックした。
なお、6週齢の時点で、RNA水溶液中にDNAがキャリーオーバーしていることが分かったので、24週齢時のRNA抽出は、QIAGEN RNase−Free Dnase Digest Setを併用して行った。
2.1.5 肝臓及び筋肉からのRNA抽出
2.1.3で得た肝臓及び筋肉ストックに液体窒素をかけながら、ハンマーで砕いた。液体窒素をかけた乳鉢に移し、液体窒素をかけながらすりつぶした。粉末状にした肝臓及び筋肉サンプルより、インビトロジェンのTRIZOL Reagentを使用して、同試薬に添付されているプロトコールに従い、RNAを抽出した。RNAはDEPC水に溶解させ、核酸濃度及び純度を測定し、−80℃ストックした。
2.1.6 一本鎖cDNAの合成
total RNA 1μgにoligo(dT)12−18 primer(500μg/mL)を0.2μg加え、0.1%DEPC水で11.5μLとし、70℃で10分間、熱変性後、氷中に静置した。その後、First−Strand Buffer[50mM tris−HCl(pH8.3),75mM KCl,3mM MgCl]、10mM DTT、dNTPs(各0.5mM)、RNase inhibitor(20U)、及びSUPERSCRIPT II RNase Reverse Transcriptase(100U)を加え、全量を20μLとし、42℃で60分間反応させた。その後、94℃で5分間、インキュベートして反応を停止させ、cDNA試料とした。なお、cDNA試料は−20℃で保存した。
2.1.7 プライマーの設定
Gene Bankより、IR[Goldstein,B.J.and A.L.Dudley,Mol Endocrinol,1990.4(2)p.235−44]、SHIP2[Kudo,M.ら,Brain Res Mol Brain Res,2000.75(1)p.172−7]、PPARγ[Guardiola−Diaz,H.M.ら,J Biol Chem,1999.274(33)p.23368−77]、CAPN10[Ma,H.ら,J Biol Chem,2001.276(30)p.28525−31]、IRS−1[Nature 1991 Jul 4;352(6330)p.73−7]、Glyceraldehyde 3−phosphate dehydrogenase(GAPDH)[Tso,J.Y.ら,Nucleic Acids Res,1985.13(7)p.2485−502]のラットのcDNA配列を抽出し、次のプライマーを設計した。
・プライマーセット1(IR用)
[PCR産物の長さ:405bp,アニーリング温度:56.4℃]
Upper,20mer,5’position:3601

Lower,20mer,3’position:3986

・プライマーセット2(SHIP2用)
[PCR産物の長さ:318bp,アニーリング温度:56.5℃]
Upper,20mer,5’position:2787

Lower,20mer,3’position:3085

・プライマーセット3(PPARγ用)
[PCR産物の長さ:484bp,アニーリング温度:55.0℃]
Upper,20mer,5’position:756

Lower,20mer,3’position:1220

・プライマーセット4(CAPN10用)
[PCR産物の長さ:136bp,アニーリング温度:60℃]
Upper,20mer,5’position:282

Lower,21mer,3’position:417

・プライマーセット5(IRS−1用)
[PCR産物の長さ:293bp,アニーリング温度:60℃]
Upper,20mer,5’position:1426

Lower,20mer,3’position:1699

・プライマーセット6(GAPDH用)
[PCR産物の長さ:296bp,アニーリング温度:58.9℃]
Upper,20mer,5’position:628

Lower,20mer,3’position:904

2.1.8 リアルタイム定量的PCR
GAPDHを内部標準としてReal−time SYBR Green PCR法を行うことにより、各遺伝子のmRNA量を定量した。cDNA試料4μL、付属の酵素バッファー25μL、センス及びアンチセンスプライマー各1μL(各6μM)及び滅菌精製水16μLからPCR反応液を調製し、最終容量を50μLとした。PCRはABI PRISM 7700を用いて次のサイクルで行った。95℃で15秒間の熱変性、67℃で5秒間のアニーリング及び72℃で10秒間の増幅を50サイクル行い、全てのサンプルは2回測定した。データは標準曲線法を用いて算出し、GAPDHとの相対量として表した。
2.1.9 統計学的処理及び検定法
測定値は全て平均値±標準偏差で示してある。群間の比較は、Studentt−testによる両側検定を行い、有意差を検定した。p<0.05の値を統計学的に有意であるとみなし、p<0.05を★で、p<0.01を★★で示した。
2.2 実験結果
2.2.1 OLETFラット及びLETOラットのmRNA発現相対量
(i)IRのmRNA発現相対量
6週齢及び24週齢のOLETFラット及びLETOラットの白血球、肝臓及び筋肉におけるIRのmRNA発現相対量(%)を表1に示す。また、白血球におけるIRのmRNA発現相対量(%)を図3Aに示す。なお、図3A中、■はOLETFラットの結果を示し、□はLETOラットの結果を示す。

表1及び図3Aに示すように、6週齢の時点では、白血球、肝臓及び筋肉のいずれの組織においても、LETOラット及びOLETFラット間に有意差は検出されなかった。また、24週齢の時点では、白血球及び筋肉においてLETOラット及びOLETFラット間に有意差は検出されなかったが、肝臓においては、OLETFラットのmRNA発現量がLETOラットの発現量よりも有意に減少していた。
したがって、将来2型糖尿病を発症する動物であっても、2型糖尿病の発症前における白血球、肝臓及び筋肉のIRのmRNA発現量は健常動物と有意差はないと考えられる。また、2型糖尿病を発症している動物において、白血球及び筋肉のIRのmRNA発現量は健常動物と有意差はないと考えられるが、肝臓のIRのmRNA発現量は健常動物よりも有意に減少していると考えられる。
(ii)SHIP2のmRNA発現相対量
6週齢及び24週齢のOLETFラット及びLETOラットの白血球及び肝臓におけるSHIP2のmRNA発現相対量(%)を表2に示す。なお、筋肉におけるSHIP2のmRNA発現量は僅かであるため解析不能であった。また、白血球におけるSHIP2のmRNA発現相対量(%)を図3Bに示す。なお、図3B中、■はOLETFラットの結果を示し、□はLETOラットの結果を示す。

表2及び図3Bに示すように、6週齢及び24週齢の時点では、白血球及び肝臓のいずれの組織においても、LETOラット及びOLETFラット間に有意差は検出されなかった。
したがって、将来2型糖尿病を発症する可能性がある動物であっても、2型糖尿病の発症前における白血球及び肝臓のSHIP2のmRNA発現量は健常動物と有意差はないと考えられる。また、2型糖尿病を発症しいている動物における白血球及び肝臓のSHIP2のmRNA発現量は健常動物と有意差はないと考えられる。
(iii)PPARγのmRNA発現相対量
6週齢及び24週齢のOLETFラット及びLETOラットの白血球、肝臓及び筋肉におけるPPARγのmRNA発現相対量(%)を表3に示す。また、白血球におけるPPARγのmRNA発現相対量(%)を図3Cに示す。なお、図3C中、■はOLETFラットの結果を示し、□はLETOラットの結果を示す。

表3及び図3Cに示すように、6週齢の時点では、白血球、肝臓及び筋肉のいずれの組織においても、LETOラット及びOLETFラット間に有意差は検出されなかった。また、24週齢の時点では、白血球及び肝臓においてLETOラット及びOLETFラット間に有意差は検出されなかったが、筋肉においては、OLETFラットのmRNA発現量がLETOラットの発現量よりも有意に減少していた。
したがって、将来2型糖尿病を発症する動物であっても、2型糖尿病の発症前における白血球、肝臓及び筋肉のPPARγのmRNA発現量は健常動物と有意差はないと考えられる。また、2型糖尿病を発症している動物において、白血球及び肝臓のPPARγのmRNA発現量は健常動物と有意差はないと考えられるが、筋肉のPPARγのmRNA発現量は健常動物よりも有意に減少していると考えられる。
(iv)CAPN10のmRNA発現相対量
6週齢及び24週齢のOLETFラット及びLETOラットの白血球、肝臓及び筋肉におけるCAPN10のmRNA発現相対量(%)を表4に示す。また、白血球におけるCAPN10のmRNA発現相対量(%)を図3Dに示す。なお、図3D中、■はOLETFラットの結果を示し、□はLETOラットの結果を示す。

表4及び図3Dに示すように、6週齢の時点では、肝臓及び筋肉において、LETOラット及びOLETFラット間に有意差は検出されなかったが、白血球においては、OLETFラットのmRNA発現量がLETOラットの発現量よりも有意に減少していた。また、24週齢の時点では、白血球、肝臓及び筋肉のいずれの組織においてもLETOラット及びOLETFラット間に有意差は検出された。
したがって、将来2型糖尿病を発症する動物において、2型糖尿病の発症前における肝臓及び筋肉のCAPN10のmRNA発現量は健常動物と有意差はないと考えられるが、2型糖尿病の発症前における白血球のCAPN10のmRNA発現量は健常動物よりも有意に減少していると考えられる。また、2型糖尿病を発症している動物において、白血球、肝臓及び筋肉のCAPN10のmRNA発現量は健常動物よりも有意に減少していると考えられる。
(v)IRS−1のmRNA発現相対量
6週齢及び24週齢のOLETFラット及びLETOラットの白血球、肝臓及び筋肉におけるIRS−1のmRNA発現相対量(%)を表5に示す。また、白血球におけるCAPN10のmRNA発現相対量(%)を図3Eに示す。なお、図3E中、■はOLETFラットの結果を示し、□はLETOラットの結果を示す。

表5及び図3Eに示すように、6週齢の時点では、肝臓及び筋肉において、LETOラット及びOLETFラット間に有意差は検出されなかったが、白血球においては、OLETFラットのmRNA発現量がLETOラットの発現量よりも有意に減少していた。また、24週齢の時点でも、肝臓及び筋肉において、LETOラット及びOLETFラット間に有意差は検出されなかったが、白血球においては、OLETFラットのmRNA発現量がLETOラットの発現量よりも有意に減少していた。
したがって、将来2型糖尿病を発症する動物において、2型糖尿病の発症前における肝臓及び筋肉のIRS−1のmRNA発現量は健常動物と有意差はないと考えられるが、2型糖尿病の発症前における白血球のIRS−1のmRNA発現量は健常動物よりも有意に減少していると考えられる。また、2型糖尿病を発症している動物において、肝臓及び筋肉のIRS−1のmRNA発現量は健常動物と有意差がないと考えられるが、白血球のIRS−1のmRNA発現量は健常動物よりも有意に減少していると考えられる。
2.2.2 遺伝子発現変化のまとめ
将来2型糖尿病を発症する動物(OLETFラット)において、糖尿病の発症前(6週齢)及び発症後(24週齢)のいずれの時点においても、白血球のCAPN10及びIRS−1のmRNA発現量が健常動物(LETOラット)よりも減少していたことから、糖尿病の進行に伴って、白血球のCAPN10遺伝子及びIRS−1遺伝子の発現レベルが正常発現レベルよりも減少することが判明した。
したがって、白血球におけるCAPN10遺伝子及びIRS−1遺伝子の発現レベルを指標とすることにより、糖尿病の診断を行うことができると考えられる。すなわち、白血球におけるCAPN10遺伝子及びIRS−1遺伝子の発現レベルが正常発現レベルよりも減少しているときには、将来糖尿病を発症する可能性があるか、あるいは、現在糖尿病を発症している可能性があると診断できると考えられる。
【産業上の利用の可能性】
本発明によれば、第一に、サンプリングな容易な組織における遺伝子の発現解析によって2型糖尿病を診断できる(特に2型糖尿病の発症前において、将来2型糖尿病を発症する可能性があるか否かを診断でき、2型糖尿病の早期発見を可能とする)、2型糖尿病の診断方法及び診断用キットが提供される。また、本発明によれば、第二に、サンプリングが容易な組織における遺伝子の発現解析によって2型糖尿病予防・治療効果を有する物質をスクリーニングすることができる、2型糖尿病予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法及びスクリーニング用キットが提供される。
【配列表】



























【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の血液から採取した白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルを指標として2型糖尿病の診断を行うことを特徴とする2型糖尿病の診断方法。
【請求項2】
前記発現レベルを、CAPN10又はIRS−1をコードするmRNAの存在量に基づいて測定することを特徴とする請求項1記載の診断方法。
【請求項3】
前記発現レベルを、CAPN10又はIRS−1の存在量に基づいて測定することを特徴とする請求項1記載の診断方法。
【請求項4】
前記被験者の白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルが、健常者の白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベルよりも減少しているときに、前記被験者が将来2型糖尿病を発症する可能性がある又は前記被験者が現在2型糖尿病を発症している可能性があると診断することを特徴とする請求項1記載の診断方法。
【請求項5】
CAPN10又はIRS−1をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むことを特徴とする2型糖尿病診断用キット。
【請求項6】
CAPN10又はIRS−1に反応し得る抗体又はその断片を含むことを特徴とする2型糖尿病診断用キット。
【請求項7】
2型糖尿病モデル動物に候補物質を投与した後、前記動物の血液から採取した白血球におけるCAPN10遺伝子又はIRS−1遺伝子の発現レベル改善効果を指標として、前記候補物質の2型糖尿病予防・治療効果を判定することを特徴とする2型糖尿病予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法。
【請求項8】
CAPN10又はIRS−1をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むことを特徴とする2型糖尿病予防・治療効果を有する物質のスクリーニング用キット。
【請求項9】
CAPN10又はIRS−1に反応し得る抗体又はその断片を含むことを特徴とする2型糖尿病予防・治療効果を有する物質のスクリーニング用キット。

【国際公開番号】WO2004/040301
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【発行日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−547992(P2004−547992)
【国際出願番号】PCT/JP2002/011306
【国際出願日】平成14年10月30日(2002.10.30)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】