説明

2次元光走査装置及び光走査型画像表示装置

【課題】2次元走査の位相関係を常に最適に制御して所望の走査軌跡が高精度に得られる、小型で低コストの2次元光走査装置を提供する。
【解決手段】第一の方向及び第二の方向にそれぞれ正弦波またはそれに近いモードで振動する2次元スキャナー(MEMSスキャナー)を用いてリサージュまたはそれに近い軌跡でスクリーン面を走査する2次元光走査装置において、スキャナー自身に、第一の方向の振動に同期した第一の同期信号及び第二の方向の振動に同期した第二の同期信号を出力する手段を設け、該第一の同期信号と第二の同期信号の位相関係を検出し、該検出した位相関係に基づいて2次元走査の位相関係を最適に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一及び第二の方向に所定の周波数で振動する光ミラーにより光ビームを2次元的に往復走査する2次元走査装置、及び、該2次元走査装置を用いて入力画像データに応じて変調された光ビームをスクリーンに導き、走査することにより該スクリーン上に画像を投影する光走査型画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示技術の一つに、入力画像データに応じて変調された光ビームを2次元走査してスクリーン上に画像を投影し表示する方式がある。
【0003】
この種の画像表示技術においては、従来は回転するポリゴンミラーとそれに同期して動くガリバノミラーを組み合わせたものが一般に用いられていたが、近年、半導体製造技術を利用した微細加工プロセスにより製造された、極めて小型で2次元に光走査が可能な所謂MEMS(micro electro mechanical system)スキャナーが実現し、携帯情報端末への組み込みや眼鏡タイプなどの超小型の画像表示装置も実際に登場している。
【0004】
このような光走査型画像表示装置の従来例として、例えば特許文献1に記載のものがある。これは、水平方向及び垂直方向にそれぞれ正弦波またはそれに近いモードで振動する2次元スキャナーを用いて、入力画像データに応じて変調された光ビームをスクリーンに導き、リサージュまたはそれに近い軌跡でスクリーン面を走査して、所望の画像を表示するというものである。
【0005】
しかしながら、このような2次元スキャナーを用いた画像表示装置においては、水平方向と垂直方向の振幅の位相関係が適切でないと、所望の光ビーム走査軌跡が得られず、表示画像の品質が劣化してしまう問題が生じる。具体的には、MEMSスキャナーなど機械振動部品は、一般に温度やその他の環境的要因によって特性が変化し、それによって振幅の位相も変化し、表示画像に悪影響を与える。したがって、実際には水平方向と垂直方向の振幅の位相関係を検知し、適切な位相関係を維持すべく補正する必要があるが、特許文献1には、そのようなことについて一切開示されていない。
【0006】
これに対して、例えば、特許文献2には、ミラー部を水平方向及び垂直方向にそれぞれ正弦波またはそれに近いモードで振動して、光ビームを2次元方向に走査する2次元スキャナー装置において、スキャナー部に、圧電素子などを利用してミラー部の振動に伴う応力を電気信号に変換して検出する手段を設け、その検出信号を水平方向と垂直方向の共振周波数に対応した信号に分離し、各信号に基づいて、水平方向及び垂直方向それぞれについて共振周波数及び振幅を制御して、使用環境の変化によってスキャナー部の振動系の共振周波数が変化しても、ミラー部を所定の走査角度で動作させる技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、この従来技術では、水平方向と垂直方向の振幅の位相関係を検出することは考慮されておらず、両者の位相関係が変化した場合には、表示画像の品質が劣化してしまう問題は解決されない。
【0008】
また、例えば特許文献3には、水平方向及び垂直方向にそれぞれ正弦波又はそれに近いモードで振動する2次元スキャナーを用いてリサージュ又はそれに近い軌跡でスクリーン面を走査して所望の画像を表示する装置において、水平方向と垂直方向の振幅の位相関係を適正に制御する方法が開示されている。しかしながら、この従来技術は、スキャナーから離れたスクリーン面などに受光手段を備え、該受光手段において受光される走査光のタイミングを検出することにより、水平方向と垂直方向の振幅の位相関係を適正に制御すると云うものであり、装置が大型化するとともにコストアップにつながるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、叙上の従来技術の問題に鑑みなされたもので、第一及び第二の所定の周波数で振動する光ミラーにより光ビームを2次元的に往復走査する2次元光走査装置において、2次元走査の位相関係を最適に制御できるようにして、所望の走査軌跡が高精度に得られるとともに、小型で低コストの2次元光走査装置を提供することにある。
【0010】
また、本発明は、該2次元光走査装置を備えて、常に最適な所望の走査軌跡で良好な表示画像品質が得られるとともに、小型で低消費電力の光走査画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の2次元光走査装置は、第一の周波数の駆動信号を印加することによって第一の方向に第一の周波数で光ビームを往復走査すべく振動すると同時に、該振動に同期した第一の同期信号を出力する第一の光走査手段と、第一の周波数よりも低い第二の周波数の駆動信号を印加することによって第二の方向に前記第二の周波数で光ビームを往復走査すべく振動するすると同時に、該振動に同期した第二の同期信号を出力する第二の光走査手段を備えると共に、第一の同期信号と第二の同期信号の位相関係を検出する位相検出手段と、該位相検出手段により検知された位相関係に基いて前記第一あるいは第二の駆動信号の位相を制御する位相制御手段を設けたことを特徴とする。
【0012】
位相検出手段は、第一の走査と第二の走査の位相関係が一巡する1フレーム期間内の所定のタイミングにおける、前記第一の同期信号と第二の同期信号の位相差を検出することを特徴とする。具体的には、1フレーム期間において、第二の光走査手段が前記第二の方向の往復走査の略中心にくるタイミングに対して、第一の走査手段が前記第一の方向の往復走査の略中心にくるタイミングの差を前記位相差として検出する。
【0013】
また、位相検出手段は、位相差の検出をnフレーム期間(但しnは2以上の整数)にわたって行ない、検出されたn個の位相差を統計的に処理し、その結果を第一の同期信号と第二の同期信号の位相差として出力することを特徴とする。例えば、検出されたn個の位相差の平均値を求める。
【0014】
位相制御手段は、検出された位相差が所定の範囲内になるように、第一あるいは第二の駆動信号の位相を制御することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の2次元光走査装置は、位相検出手段に入力される第一及び第二の同期信号の位相が、それぞれ第一及び第二の光走査手段の実振動の位相と適正に対応するように調整する調整手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0016】
本発明の光走査型画像表示装置は、上記2次元光走査装置を含み、画像信号を入力し第一及び第二の光走査手段の動きに同期して光ビームを画像信号に基き強度変調しつつスクリーン面を走査することにより所望の画像を表示する手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の2次元光走査装置によれば、スキャナー自体に2次元走査の状態を示す同期信号を出力する手段を備え、該同期信号に基づいて2次元走査の位相関係を最適に制御するようにしたので、所望の走査軌跡が高精度に得られとともに、小型で低コスト化が実現できる。また、2次元走査の位相関係が一巡する1フレーム期間内の所定のタイミング、例えば、第一の方向の走査と第二の方向の走査がともに振幅中心付近を通過するタイミングで、第一及び第二の同期信号の位相差を検出することで、2次元走査の位相関係を高精度に検出することができ、高い検出精度を容易に実現できる。なお、本発明の2次元光走査装置のさらなる作用効果は、後述の実施形態の説明で明らかになる。
【0018】
そして、本発明の光走査型画像表示装置によれば、このような2次元光走査装置を備えることにより、小型低消費電力でありながら、常に最適で良好な画像品質が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の2次元光走査装置の一実施形態の概略ブロック図である。
【図2】図1における主な信号のタイミングチャートを示した図である。
【図3】図1におけるMEMSスキャナーの具体的構成例の概略斜視図である。
【図4】図1における位相検出部の一実施例の動作を説明するフローチャートである。
【図5】図1における遅延部の一構成例を示す概略ブロック図である。
【図6】図5の遅延部と位相制御部の主な信号のタイミングチャートを示した図である。
【図7】MEMSスキャナーの振動の位相関係とビーム走査軌跡の関係を示した図である(正常なケース)。
【図8】MEMSスキャナーの振動の位相関係とビーム走査軌跡の関係を示した図である(ずれているケース)。
【図9】MEMSスキャナーの振動の位相関係とビーム走査軌跡の関係を示した図である(同じくずれているケース)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0021】
図1は本発明の2次元光走査装置の一実施形態を概略的に示したブロック図であり、図2は該2次元光走査装置の動作を説明するための各信号のタイミングチャートの一例を示した図である。
【0022】
駆動信号生成部1は、後述するMEMSスキャナー10を駆動する電圧VxおよびVyの基となる第一の走査(水平)方向駆動信号Sxと第二の走査(垂直)方向駆動信号Syを生成する(図2の(a),(c))。ここで、駆動信号Syの周波数(第二の周波数)は、駆動信号Sxの周波数(第一の周波数)よりも低く設定される。実施例では、駆動信号Sxと駆動信号Syの周波数は9対2の関係を有すとする。
【0023】
駆動信号Sxは、後述する位相制御部14によって制御される遅延部2により、位相が適当に遅延され、信号dSxとして出力される(図2の(b))。ここで、遅延部2と位相制御部14は位相制御手段として機能する。
【0024】
駆動信号dSx及びSyは、それぞれ増幅回路3−1,3−2によって適当に増幅され、更に、場合によってはフィルター処理され、第一の走査(水平)方向駆動電圧Vx及び第二の走査(垂直)方向駆動電圧Vyとして出力される(図2の(d))。ここで、図2(d)におけるVc1はVxとVyの振幅中心電圧を示す。
【0025】
表示データ(画像データ)は、順次、フレームメモリ4に書き込まれる。データ読出し制御部5は、信号dSx,Syを基にフレームメモリ4の読出しアドレスを生成し、順次、フレームメモリ4から表示データLDDを読み出して出力する。この表示データLDDは、D/A変換器6によってアナログ信号LDAに変換され、さらに、増幅回路7によって適当に増幅され、表示信号LDVとして出力される。レーザユニット8は、表示信号LDVに基づいて光変調されたレーザ光ビーム9を出力する。
【0026】
MEMSスキャナー10は、駆動電圧Vx及びVyによって駆動されて2次元的に振動するミラー部101を有し、レーザユニット8から出力される光ビーム9をミラー部101に入射して、該光ビーム9を走査領域のx方向に往復走査すると同時にy方向にも往復走査する。駆動電圧Vx及びVyの周波数は駆動信号Sx及びSyに対応しており、本実施例では9対2の関係を有しているため、ミラー部101がy方向に2周期振動する間にx方向に9周期振動することによって光ビーム走査が一巡する。これが1フレーム期間を示すことになる。
【0027】
また、MEMSスキャナー10は、ミラー部101のx方向往復走査の振動に同期した同期検出信号Px及びy方向往復走査の振動に同期した同期検出信号Pyを出力する(図2の(e))。これら同期検出信号Px及びPyは、ミラー部101がX軸方向及びY軸方向で共振又はそれに近いモードで振動している時、それぞれの振動モードと一致した正弦波状の信号波形となる。図2(e)におけるVc2は、PxとPyの振幅中心電圧を示している。
【0028】
図3は、本発明に好適なMEMSスキャナー10の構成例を概略的に示したものである。図3において、MEMSスキャナー10は、表面に光反射面が形成されたミラー部101を有し、該ミラー部101は、一対の第一のトーションバー102a,102bを介して一対の第一の支持梁103a,103bに支持されている。詳しくは、第一のトーションバー102a,102bの一端が、それぞれミラー部101の両側に、該ミラー部101の略中心を通る線で互いに結ばれるように接続され、該第一のトーションバー102a,102bのミラー部101と反対側の他端は、一対の支持梁103a,103bの略中央部に接続され、該第一の支持梁103a,103bの両端は、それぞれ可動枠111の内側の端部に接続されている。この第一の支持梁103a,103b上に、それぞれ第一の駆動用圧電部材104a1,104a2,104b1,104b2及び第一の検出用圧電部材105a1,105a2,105b1,105b2を設ける。
【0029】
一方、可動枠111は、一対の第二のトーションバー112a,112bを介して一対の第二の支持梁113a,113bに支持されている。詳しくは、第二のトーションバー112a,112bは、ミラー部101の略中心を通り且つ第一のトーションバー102a,102bの軸と略直交するように配置されて、それぞれ、その一端は可動枠111の外側の側面に接続され、他端は第二の支持梁113a,113bの略中央部に接続され、該第二の支持梁113a,113bの両端は、それぞれ固定ベース120の内側の端部に接続されている。この第二の支持梁113a,113b上に、それぞれ第二の駆動用圧電部材114a1,114a2,114b1,114b2及び第二の検出用圧電部材115a1,115a2,115b1,115b2を設ける。
【0030】
いま、駆動電圧Vxにより、第一の駆動用圧電部材104a1と104b1に同相、104a2,104b2にそれと逆向きの電圧を印加すると、第一の支持梁103a,103bにそれぞれ左右反対の歪み(伸びと縮み)が発生して、第一のトーションバー102a,102bが捻れ、ミラー部101が該第一のトーションバー102a,102bの軸周りに共振往復運動を行う。この場合、MEMSスキャナー10は第一の光走査手段として機能し、入射された光ビームを走査領域の第一の方向としてのx方向に往復走査せしめる。
【0031】
同時に、駆動電圧Vyにより、第二の駆動用圧電部材114a1と114b1に同相、114a2と114b2にそれと逆向きの電圧を印加すると、同様に第二の支持梁113a,113bにそれぞれ左右反対の歪みが発生して、第二のトーションバー112a,112bが捻れ、可動枠110が該第二のトーションバー112a,112bの軸周りに共振往復運動し、これに応じてミラー部101も、該第二のトーションバー112a,112bの軸を中心に共振往復運動を行う。この場合、MEMSスキャナー10は第二の光走査手段として機能し、入射された光ビームを走査領域の第二の方向としてのy方向に往復走査せしめる。
【0032】
一方、第一の支持梁103a,103bに歪みが生じると、第一の検出用圧電部材105a1,105a2,105b1,105b2も歪み、それぞれ歪みの変化に対応した電圧が発生する。そこで、これら第一の検出用圧電材料105a1,105a2,105b1,105b2の電極を、互いに発生した電圧が同相となるように接続することで、ミラー部101のx方向往復走査の振動に同期した同期検出信号Pxを取り出すことができる。同様に、第二の支持梁113a,113bに歪みが生じると、第二の検出用圧電材部材115a1,115a2,115b1,115b2も歪み、それぞれ歪みの変化に対応した電圧が発生する。そこで、これら第二の検出圧電部材115a1,115a2,115b1,115b2の電極を、互いに発生した電圧が同相となるように接続することで、ミラー部101のy方向往復走査の振動に同期した同期検出信号pyを取り出すことができる。同期検出信号Px及びPyは、駆動電圧Vx及びVyの変化に対応しており、正弦波状信号波形をとる(図2の(d),(e))。
【0033】
図1に戻り、同期検出信号Px及びPyは、それぞれ増幅回路11−1,11−2によって適当に増幅されて電圧信号VPxおよびVPyとして出力される(図2の(f))。図2(f)におけるVc3は、VPxとVPyの振幅中心電圧を示す。また、T0はy方向の往復走査の略中心を示している。
【0034】
電圧信号VPx及びVpyは、それぞれコンパレータ12−1,12−2にて2値化される(図2の(g),(h))。この2値化する際の閾値は、電圧信号VPx,VPyの振幅中心Vc3又はその近傍に設定するのが好ましい。これにより、信号の変化の最も早いタイミングで2値化されるので、ジッターの発生を抑えることができる。
【0035】
先に述べたように、本実施例では、MEMSスキャナー10(ミラー部101)がy方向に2周期振動する間に、x方向に9周期振動することによって、光ビーム走査が一巡する。即ち、この場合、1フレーム期間とは、MEMSスキャナー10がy方向に2周期振動する時間になる。
【0036】
位相検出部13は、まず、同期信号DPyを2周期カウントすることにより1フレーム期間を検出する。そして、1フレーム期間内での同期信号DPyの特定の立ち上がり(又は立下り)遷移に対する同期信号DPxの最初の立ち上がり(又は立下り)遷移を計測することにより、同期信号DPxとDPyの位相差TPxyを検出する(図2の(i))。好ましくは、1フレーム期間において、同期信号DPyが略T0にくるタイミング(MEMSスキャナー10がy方向の往復走査の略中心に来るタイミング)に対して、同期信号DPxの最初のパルスがくるタイミング(MEMSスキャナー10がx方向の往復走査の略中心にくるタイミング)の差を検出する。すなわち、x方向の走査とy方向の走査がともに走査領域の中心付近を通過するタイミングで、同期信号DPxとDpyの位相差TPxyを検出する。この場合、DpxとDpyの位相関係を高精度に検出でき、高い検出精度を容易に実現できる。
【0037】
なお、図1では省略したが、位相検出部13に入力される同期信号DPx及びDPyの位相が、それぞれMEMSスキャナー10のx方向及びy方向の実振動の位相と適当に対応するように調整する調整手段を更に設けることでもよい。すなわち、同期信号DPx及びDPyは、それぞれの伝送経路の遅延特性などの影響により、実際の走査の位相に対して無視できない誤差を含んでいる場合がある。調整手段を設けることにより、このような誤差が発生しても、それを補正することで、後述する2次元走査の位相関係を適正に、より一層高精度に制御することが可能になる。
【0038】
位相制御部14は、位相検出部13から出力される位相差TPxyが所定範囲を超えていれば、それを補正すべく制御信号RST_T及び補正データTCを出力する。また、位相差TPxyが所定範囲内であれば、制御信号RST_T及び補正データTCのどちらも出力しない。遅延部2は、制御信号RST_Tを受け取ると、駆動信号Sxの位相を補正データTCに応じて制御して信号dSxとして出力する。この結果、MEMSスキャナー10におけるx方向とy方向の走査が所望の位相関係になるように、SxとSyすなわちVxとVyの位相関係が制御される。すなわち、位相差が所定の範囲になるように制御される。
【0039】
図4は、位相検出部13の動作の一例をフローチャートで概略的に示したものである。まず、同期信号DPyを2周期カウントすることにより1フレーム期間を検出する(ステップ1001)。その後、1フレーム期間の略半分での同期信号DPyの立上がりを検出すると(ステップ1002がYES)、内部タイマー1(不図)を起動してカウントアップを開始し、同時に極性符号SIGNの値を“0”にする(ステップ1003)。ここで、タイマー1のカウント値が位相差TPxyを表し、SIGNはその極性(遅れ、進み)を表す。ここでは、SIGN=0のとき、TPxyは正(遅れ)、SIGN=1の時、TPxyは負(進み)とするが、勿論、この逆でも何ら問題はない。
【0040】
タイマー1のカウントアップを開始した後、カウント値TPxyが駆動信号Sxの1/2周期期間に達する前に同期信号DPxの立上がりを検出するか否か判定する(ステップ1004,1005)。ここで、タイマー1のカウント値TPxyが駆動信号Sxの1/2周期期間に達する前に同期信号DPxの立ち上がりを検出した場合には(ステップ1004がNO、ステップ1005がYES)、その時点でタイマー1のカウントアップ動作を停止(ステップ1008)、極性符号SIGN(0)と共に、その時のカウント値TPxyを位相差データとして出力する(ステップ1009)。すなわち、この場合、MEMSスキャナー10において、X軸方向の振動の位相が、Y軸方向の振動の位相に対してTPxyだけ遅れていることを表わしている。
【0041】
タイマー1のカウント値TPxyが駆動信号Sxの1/2周期期間に達しても同期信号DPxの立ち上がりが検出されない場合には(ステップ1004がYES)、タイマー1のカウント動作をカウントダウンに切り替え、その時点のカウント値TPxy(Sxの1/2周期期間の値)からカウントダウン動作を開始し、同時に極性符号SIGNの値を“1”にする(ステップ1006)。そして、タイマー1のカウント値TPxyが0になる前に周期信号DPxの立ち上がりを検出するか判定する(ステップ1007,1005)。
【0042】
タイマー1がカウントダウン動作を開始してから、カウント値TPxyが0になる前に同期信号DPxの立ち上がりを検出した場合には(ステップ1007がNO、ステップ1005がYES)、その時点でタイマー1のカウントダウン動作を停止し(ステップ1008)、極性符号SIGN(1)と共に、その時のカウント値TPxyを位相差データとして出力する(ステップ1009)。すなわち、この場合、MEMSスキャナー10において、X軸方向の振動の位相が、Y軸方向の振動の位相に対してTPxyだけ進んでいることになる。
【0043】
タイマー1がカウントダウン動作を開始し、カウント値TPxyが0になっても同期信号DPxが検出されなかった場合には(ステップ1007がYES)、その時点でタイマー1のカウント動作を停止し(ステップ1008)、極性符号SIGN(1)と共に、その時のカウント値TPxy=0を出力する(ステップ1009)。すなわち、この場合、同期信号DPxとDPyの位相差はないことになる。
【0044】
その後、極性符号SIGN及びカウント値TRxyをリセットする(ステップ1010)。そして、同期信号DPyの次の立ち上がりを検出すると(ステップ1011)、今のフレーム期間での動作を終了し、次のフレームでの同様の動作に備える。
【0045】
なお、位相検出部13は、同期信号DPxとDPYの位相差の検出動作をnフレーム期間(nは2以上の整数)にわたって行い、検出されたn個の位相差を統計的に処理し(例えば、n個の位相差の平均値を求める)、その値を同期信号DPxとDPyの位相差データとして出力するようにしてもよい。これにより、同期信号にノイズ等によるジッターがあっても、その影響を除去でき、高精度で且つ安定した検出性能が得られる。
【0046】
位相制御部14は、位相検出部13から出力される同期信号DPxとDPyの位相差データであるカウント値TPxy及び極性符号SIGNに基づいて制御信号RST_T及び補正データTCを出力する。先に述べたように、位相制御部14は、TPxyが所定範囲を超えていれば、制御信号RST_T及び補正データTCを出力し、TRxyが所定範囲内であれば、RST_T及びTCのどちらでも出力しない。遅延部2は、制御信号RST_Tを受け取ると、補正データTCに基づいて駆動信号Sxの位相を制御して信号dSxを出力する。
【0047】
図5は遅延部2の一構成例を概略的に示したものである。また、図6は、図5の構成例に基づく遅延部2及び位相制御部14の動作を説明するための各信号のタイミングチャートの一例を示したものである。
【0048】
位相制御部14は、位相差データであるカウント値TPxyが所定範囲を超えている場合、制御信号RST_Tをロー(L)にすると同時に補正データTCを出力する(図6の(a),(b),(c))。制御信号RST_Tは、その後、ハイ(H)に戻る。
【0049】
遅延部2はタイマー(内部タイマー2)201及び発振回路202からなる。発振回路202は、タイマー201からの制御信号OSC_ENがハイ(H)の時、駆動信号Sxと全く同じ周波数で発振する。タイマー201は、通常、制御信号OSC_ENをハイ(H)にしているが、位相制御部14からの制御信号RST_Tがロー(L)になると、制御信号OSC_ENをロー(L)にして(図6の(d))、リセット状態となる。そして、位相制御部14からの制御信号RST_Tがハイ(H)になるタイミングで、該タイマー201は、補正データTCを取り込んで保持し、その後、最初に検出される駆動信号Sxの立ち上がりに同期してカウントを開始し、補正データTCに対応する時間Tdをカウントすると、制御信号OSC_ENをハイ(H)にする(図6の(d),(f))。発信回路202は、タイマー201からの制御信号OSN_ENがロー(L)になると発振を一時停止し、制御信号OSN_ENがロー(L)からハイ(H)に立ち上がると、それに同期して駆動信号Sxと全く同じ周波数で発振を再開し信号dSxを出力する(図6の(e))。
【0050】
図6からわかるように、時間Tdの値に対応して、駆動信号Sxに対する信号dSxの位相を遅れあるいは進めることが可能になる。すなわち、同期信号VPxとVpyの位相差に応じMEMSスキャナー10におけるx方向とy方向の位相関係を補正することができる。
【0051】
前にも述べたように、本実施例では、MEMSスキャナー10がy方向に2周期振動する間にx方向に9周期振動することによって光ビーム走査が一巡する。図7、図8及び図9は、この場合の水平方向と垂直方向の振動の位相関係とビーム走査軌跡の関係を示したものである。各図において、(a)は図2の(f)について所定タイミング(走査の略中心)T0における同期信号VPxとVPyの位相関係(MEMSスキャナーのx方向及びy方向の振動の位相関係)を時間軸方向に拡大して示した図、(b)はその場合のビーム走査軌跡を示した図である。
【0052】
図7は、1フレーム期間においてx方向とy方向の振動の位相関係が一致している場合であり、走査面全体にわたって均一な密度での走査軌跡が得られている。これに対し、図8及び図9は、x方向とy方向の振動の位相関係がずれている場合であり、この場合、走査線の密度にムラが発生している。MEMSスキャナーにより光ビームを走査して画像をスクリーン面に表示する光走査型画像装置においては、図7の走査軌跡が好ましい、本実施形態では、小型で低コスト、簡単な構成により、図7のような所望の走査軌跡が高精度に得られ、良好な画像品質が実現する。
【0053】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、これまで説明した形態に限定されるものではない。例えば、図1の構成では、駆動信号Sxの位相を制御するとしたが駆動信号Syの方の位相を制御することでもよい。また、遅延部は図5の構成である必要はない。検出された位相関係に基づいて、駆動信号SxあるいはSyの位相を制御できれば良く、その具体的構成は問わない。
【符号の説明】
【0054】
1 駆動信号生成部
2 遅延部
3−1,3−2 増幅回路
4 フレームメモリ
5 データ読出し制御部
6 D/A変換器
7 増幅回路
8 レーザユニット
10 MEMSスキャナー
11−1,11−2 増幅回路
12−1,12−2 コンパレータ
13 位相検出部
14 位相制御部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0055】
【特許文献1】特表2005−526289号公報
【特許文献2】特開平9−101474号公報
【特許文献3】特開2010−164954号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の周波数の駆動信号を印加することによって第一の方向に前記第一の周波数で光ビームを往復走査すべく振動すると同時に、該振動に同期した第一の同期信号を出力する第一の光走査手段と、前記第一の周波数よりも低い第二の周波数の駆動信号を印加することによって第二の方向に前記第二の周波数で光ビームを往復走査すべく振動するすると同時に、該振動に同期した第二の同期信号を出力する第二の光走査手段を備えた2次元光走査装置において、
前記第一の同期信号と第二の同期信号の位相関係を検出する位相検出手段と、該位相検出手段により検知された位相関係に基いて前記第一あるいは第二の駆動信号の位相を制御する位相制御手段を設けたことを特徴とする2次元光走査装置。
【請求項2】
前記位相検出手段は、前記第一の走査と第二の走査の位相関係が一巡する1フレーム期間内の所定のタイミングにおける、前記第一の同期信号と第二の同期信号の位相差を検出することを特徴とする請求項1に記載の2次元光走査装置。
【請求項3】
前記位相検出手段は、前記1フレーム期間において、前記第二の光走査手段が前記第二の方向の往復走査の略中心にくるタイミングに対して、前記第一の走査手段が前記第一の方向の往復走査の略中心にくるタイミングの差を前記位相差として検出することを特徴とする請求項2に記載の2次元光走査装置。
【請求項4】
前記位相検出手段は、前記位相差の検出をnフレーム期間(但しnは2以上の整数)にわたって行ない、検出されたn個の位相差を統計的に処理し、その結果を前記第一の同期信号と第二の同期信号の位相差として出力することを特徴とする請求項2または3のいずれかに1項に記載の2次元光走査装置。
【請求項5】
前記統計的処理は、前記検出されたn個の位相差の平均値を求める処理であることを特徴とする請求項4に記載の2次元光走査装置。
【請求項6】
前記位相制御手段は、前記検出された位相差が所定の範囲内になるように、前記第一あるいは第二の駆動信号の位相を制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の2次元光走査装置。
【請求項7】
前記位相検出手段に入力される前記第一及び第二の同期信号の位相が、それぞれ前記第一及び第二の光走査手段の実振動の位相と適正に対応するように調整する調整手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の2次元光走査装置。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の2次元光走査装置を含み、画像信号を入力し前記第一及び第二の光走査手段の動きに同期して前記光ビームを前記画像信号に基き強度変調しつつスクリーン面を走査することにより所望の画像を表示する手段を備えたことを特徴とする光走査型画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−141462(P2012−141462A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294466(P2010−294466)
【出願日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】