説明

2足歩行ロボット及びその制御方法

【課題】外乱の作用時に、ハードウェアや環境の制約に則った適切な遊脚の着地位置を設定する。
【解決手段】外乱作用時の遊脚の着地位置の決定に際して、電子制御ユニット1は、ハードウェアの制約により決定される遊脚の着地可能域を第1の着地可能域として算出するとともに、環境の制約により決定される遊脚の着地可能域を第2の着地可能域として算出する。そして電子制御ユニット1は、第1及び第2の着地可能域のAND領域を抽出し、その抽出したAND領域を、外乱が作用したときの遊脚の着地可能域として演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの脚を交互に踏み出して歩行する2足歩行ロボット及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特許文献1や非特許文献1等に見られるように、2本の足でバランスを取りながら歩行する2足歩行ロボットの実用化に向けた研究、開発が進められている。ロボットの2足歩行は、節と関節とからなるリンク機構として構成された脚の関節をアクチュエーターで駆動することで行われる。
【0003】
こうした2足歩行ロボットの歩行制御において、ロボットに外乱が作用した場合には、(1)まず支持多角形からゼロモーメントポイント(ZMP)がはみ出さない範囲で踏ん張る、(2)踏ん張り切れないときには、次の1歩の着地位置を変更して転倒を回避する、というのが基本的な制御の流れとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−201782号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本ロボット学会誌 Vol.25 No.6 834〜841頁,2007 ヒューマノイドのための短周期オンライン歩行軌道生成更新法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記(2)の制御に際しては、姿勢の立て直しに最適な位置が遊脚の着地位置として決定されるようになっている。しかしながら、ロボットの姿勢の安定性のみを考慮して着地位置を決定すると、ロボットのハードウェアの制約や障害物などの環境の制約のため、実際には実現不能な着地位置が算出されてしまうことがある。そのため、歩行中に外乱が作用すると、支持脚と遊脚とが干渉したり、関節が可動域を超えて駆動されようとしたり、アクチュエーターのスペックを超える遊脚軌道が設定されたり、遊脚が障害物に当ったりしてしまうことがあった。
【0007】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、外乱の作用時に、ハードウェアや環境の制約に則った適切な遊脚の着地位置を設定することのできる2足歩行ロボット及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、2つの脚を交互に踏み出して歩行する2足歩行ロボットにおいて、当該ロボットのハードウェアの制約により決定される遊脚の着地可能域を第1の着地可能域として算出するとともに、環境の制約により決定される遊脚の着地可能域を第2の着地可能域として算出するようになる。そして請求項1に記載の発明は、第1及び第2の着地可能域のAND領域を抽出し、その抽出したAND領域が遊脚の着地可能域として演算するようにしている。
【0009】
こうした構成では、環境とハードウェアとの双方の制約を満すように外乱作用時の遊脚の着地可能域が演算されるようになる。そのため、上記構成によれば、外乱の作用時に、ハードウェアや環境の制約に則った適切な遊脚の着地位置を設定することができるようになる。
【0010】
なお、第1の算出手段は、例えば請求項2によるように、遊脚の最大足先速度及び最大足先加速度から着地までに遊脚が到達可能な領域を求め、その求めた領域に基づいて第1の着地可能域を算出するように構成することができる。
【0011】
また、請求項3によるように、支持脚と前記遊脚との干渉を防止可能な前記遊脚の着地可能領域と、当該ロボットの関節の可動域から決定される遊脚の着地可能領域と、着地までに遊脚が到達可能な領域として遊脚の最大足先速度及び最大足先加速度から求められた遊脚の着地可能領域とのAND領域を、第1の着地可能域として算出すべく第1の算出手段を構成することも可能である。
【0012】
更に請求項4によるように、第1及び第2の着地可能域を、凸多角形としてそれぞれ算出するようにすれば、それらのAND領域の演算に、高速に演算可能な既存のアルゴリズムを利用できるため、外乱作用時の遊脚の着地可能域の演算を短時間で行うことができるようになる。
【0013】
一方、2つの脚を交互に踏み出して歩行する2足歩行ロボットの外乱作用時の制御を行う方法としての請求項5に記載の発明では、次の各ステップを通じて遊脚の着地可能域が演算されるようになる。すなわち、(A)当該ロボットのハードウェアの制約により決定される遊脚の着地可能域を第1の着地可能域として算出する第1のステップ、(B)環境の制約により決定される遊脚の着地可能域を第2の着地可能域として算出する第2のステップ、(C)第1及び第2の着地可能域のAND領域を抽出する第3のステップ、及び(D)第3のステップで抽出されたAND領域を遊脚の着地可能域として決定する第4のステップ、の4つのステップである。
【0014】
こうした制御方法によれば、環境とハードウェアとの双方の制約を満すように外乱作用時の遊脚の着地可能域を演算することができる。したがって、上記制御方法によれば、外乱の作用時に、ハードウェアや環境の制約に則った適切な遊脚の着地位置を設定することができるようになる。
【0015】
なお、上記第1のステップは、請求項6によるように、遊脚の最大足先速度及び最大足先加速度から着地までに遊脚が到達可能な領域を求め、その求めた領域に基づいて第1の着地可能域を算出するように設定することができる。
【0016】
また、第1のステップは、請求項7によるように、(a)支持脚と前記遊脚との干渉を防止可能な前記遊脚の着地可能域を求めるステップ、(b)当該ロボットの関節の可動域から決定される遊脚の着地可能域を求めるステップ、(c)着地までに前記遊脚が到達可能な領域を同遊脚の最大足先速度及び最大足先加速度から求めるとともに、その求めた領域を前記遊脚の着地可能域として求めるステップ、及び(d)以上の3つのステップで求められた着地可能域のAND領域を、第1の着地可能域として算出するステップ、を通じて第1の着地可能域を算出するように設定することも可能である。
【0017】
ちなみに、請求項8によるように、第1及び第2の着地可能域を凸多角形としてそれぞれ算出するようにすれば、それらのAND領域の演算に、高速に演算可能な既存のアルゴリズムを利用できるため、外乱作用時の遊脚の着地可能域の演算を短時間で行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態についてその2足歩行ロボットの外乱作用時の遊脚の着地可能域の演算に係る制御構造を模式的に示す略図。
【図2】支持脚と遊脚との干渉を防止可能な遊脚の着地可能域を示す平面図。
【図3】可動域の制限に基づく遊脚の着地可能域を示す平面図。
【図4】前後方向における可動域の制限に基づく遊脚の着地可能域を示す側面図。
【図5】足先速度、足先加速度の制約に基づく遊脚の着地可能域を示す平面図。
【図6】前後方向における足先速度、足先加速度の制約に基づく遊脚の着地可能域を示す側面図。
【図7】着地時のX方向における足先位置が最大となるときの着地までの足先位置の推移を示すグラフ。
【図8】着地時のX方向における足先位置が最大となるときの着地までの足先速度の推移を示すグラフ。
【図9】着地時のX方向における足先位置が最大となるときの着地までの足先加速度の推移を示すグラフ。
【図10】着地時のX方向における足先位置が最小となるときの着地までの足先位置の推移を示すグラフ。
【図11】着地時のX方向における足先位置が最小となるときの着地までの足先速度の推移を示すグラフ。
【図12】着地時のX方向における足先位置が最小となるときの着地までの足先加速度の推移を示すグラフ。
【図13】ハードウェアの制約により決定される遊脚の着地可能域を示す平面図。
【図14】2足歩行ロボットと障害物との関係を示す平面図。
【図15】環境の制約により決定される遊脚の着地可能域の演算手順の第1段階を示す平面図。
【図16】環境の制約により決定される遊脚の着地可能域の演算手順の第2段階を示す平面図。
【図17】環境の制約により決定される遊脚の着地可能域の演算手順の第3段階を示す平面図。
【図18】ハードウェアの制約と環境の制約との双方を満すように設定された遊脚の着地可能域を示す平面図。
【図19】着地可能域演算処理における電子制御ユニットの処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の2足歩行ロボット及びその制御方法を具体化した一実施形態を、図1〜図19を参照して詳細に説明する。
本実施形態の2足歩行ロボットは、通常は、歩行軌道を予め計画しておき、その歩行軌道に沿って歩行を行っている。ただし、外部から力を受けるなどの外乱の作用時には、予め計画された歩行軌道に沿った歩行を中断し、姿勢を安定するように遊脚を動かすことで、転倒を防止するようにしている。
【0020】
図1は、こうした本実施の形態の2足歩行ロボットにおける外乱作用時の遊脚の着地位置の決定に係る制御構造を示している。同図に示す電子制御ユニット1は、2足歩行ロボットに搭載されて、その制御全般を司るコンピューターユニットとして構成されている。電子制御ユニット1は、ロボットに外乱が作用すると、ロボットのハードウェアの制約により決定される遊脚の着地可能域を第1の着地可能域として算出する処理と、環境の制約により決定される遊脚の着地可能域を第2の着地可能域として算出する処理とを実施する。そして電子制御ユニット1は、算出した第1及び第2の着地可能域のAND領域を抽出し、その抽出したAND領域を、外乱作用時の遊脚の着地可能域として演算する。その後、電子制御ユニット1は、演算した着地可能域内で、姿勢の安定に最適な遊脚の着地位置を決定し、その位置に遊脚が着地されるようにアクチュエーター2に指令する。
【0021】
以下、こうした外乱作用時の遊脚の着地位置の決定に係る遊脚着地可能域の算出ロジックの詳細を説明する。
A.ハードウェアの制約により決定される遊脚の着地可能域の算出
まずハードウェアの制約により決定される遊脚の着地可能域の算出について説明する。この算出は、以下の各ステップ(a)〜(d)を通じて行われる。
【0022】
(a)支持脚と遊脚との干渉を防止可能な遊脚の着地可能域を求めるステップ
上記のような遊脚の着地可能域の算出に際しては、まず、ロボットの自己干渉を、すなわち支持脚と遊脚との干渉を防止可能な遊脚の着地可能域が求められる。ここでは、支持脚と交差しないように遊脚を動かすことで、支持脚と遊脚との干渉を回避することとしている。したがって、支持脚と遊脚との干渉を防止可能な遊脚の着地可能域は、図2にハッチングで示す範囲となる。すなわち、干渉を防止可能な遊脚の着地可能域は、支持脚と遊脚との間を通る直線に対して遊脚側の領域となる。
【0023】
(b)関節の可動域から決定される遊脚の着地可能域を求めるステップ
2足歩行ロボットの各関節には、可動域が決っている。そのため、遊脚の着地可能域は、関節の可動域により制限されることになる。この関節の可動域から決定される遊脚の着地可能域は、例えば図3にハッチングで示す範囲となる。
【0024】
この範囲は、次の手順で算出される(図4参照)。すなわち、まずロボットRの現在の重心位置及びその速度と目標ZMP(ゼロ・モーメント・ポイント)位置から、単脚支持期の終端(遊脚の着地時)における重心位置を予測する。次に、ロボットRの現在の重心位置と腰位置との相対ベクトルを、単脚支持期終端の重心位置に加えることで、単脚支持期終端の腰位置を予測する。なお歩行軌道の計画に際し、腰位置の軌道を生成している場合には、その生成した軌道から単脚支持期終端のロボットRの腰位置を求めることができる。続いて、求められた単脚支持期終端の腰位置にて、ロボットRの脚の各関節を可動域限界まで動かしたときの遊脚の着地位置を計算する。以上により、関節の可動域から決定される遊脚の着地可能域が算出される。
【0025】
(c)着地までに遊脚が到達可能な領域を同遊脚の最大足先速度及び最大足先加速度から求めるとともに、その求めた領域を遊脚の着地可能域として求めるステップ
各関節を動かすアクチュエーターの動作速度や発生トルクにより、ロボットの足先速度及び足先加速度には限界がある。そしてその限界により、着地までに遊脚を動かすことのできる範囲が制限されるようになる。このステップでは、そうした範囲が、例えば図5にハッチングで示される矩形の範囲として求められる。
【0026】
ここで図6に示すように、現在の遊脚の足先位置を「Xsw0」、足先速度を「Vsw0」とし、単脚支持期終端の足先位置を「Xsw1」、足先速度を「Vsw1」とする。
ここではまず、遊脚の最大足先速度を考慮したときのロボット前後方向(以下、「X方向」と記載する)における遊脚の到達可能範囲を求める。以下では、X方向における遊脚の最大足先速度を「Vmax」、同じくX方向における最大足先加速度を「Amax」と表すこととする。
【0027】
X方向における遊脚の足先位置xの軌跡を3次関数f(t)に近似すると、着地時Tまでの足先位置xの軌跡は図7に示すようになる。このときの遊脚の足先速度vの軌跡は、図8に示すような2次関数f’(t)で表され、足先加速度aの軌跡は、図9に示すような1次関数f”(t)で表されることになる。すなわち、このときの足先速度vの軌跡は、図8に示すような「σ」を極値とする放物線となり、足先加速度aの軌跡は、図9に示すような直線となる。
【0028】
上記のように現在の、すなわち時刻「0」の足先位置xは「Xsw0」であり、そのときの足先速度vは「Vsw0」となっている。また単脚支持期終端の時刻を「T」とすると、その時刻Tにおける遊脚の足先速度vは「0」となる。更に、最大足先速度Vmaxを考慮した場合、単脚支持期終端の遊脚の足先位置f(T)が最大となるのは、すなわち遊脚が最も前方に踏み出されるのは、X方向の足先速度vの極値σが最大足先速度Vmaxとなるときである。したがって、最大足先速度Vmaxを考慮した場合において、単脚支持期終端の遊脚の足先位置f(T)が最大となるときには、下式(1)〜(4)の関係が得られることになる。
【0029】
【数1】

ここでX方向における遊脚の足先位置xの軌跡を下式(5)のような係数α、β、γ、σを有した3次関数f(t)と置くと、X方向における遊脚の足先速度vの軌跡は下式(6)のような2次関数f’(t)として、またX方向における遊脚の足先加速度aの軌跡は下式(7)のような1次関数f”(t)として、それぞれ表されるようになる。
【0030】
【数2】

ここで上式(5)に上式(1)の関係を代入すると、下式(8)の通りとなり、係数σの値が定まるようになる。また上式(6)に上式(2)の関係を代入すると、下式(9)の通りとなり、係数σの値が定まることになる。更に上式(6)に上式(3)の関係を代入すると、下式(10)のような関係式が得られるようになる。
【0031】
【数3】

ここで下式(11)のように、足先速度vが極値σを取るときの足先加速度aは「0」となる。したがって、足先速度vが極値σを取る時刻を「t」とすると下式(12)が得られ、これを解くことで下式(13)のように時刻tの値が「−β/3α」であることが求められる。
【0032】
【数4】

一方、足先速度vの軌跡は、上式(7)で表される。よって、時刻tが「t(=−β/3α)」のときの足先速度v、すなわちf’(−β/3α)から下式(14)のような、係数αと係数βの関係式が得られるようになる。
【0033】
【数5】

この式(14)からは、下式(15)が導かれ、この式(15)からは更に下式(16)が導かれる。すなわち、下式(16)のように、係数β、現在の足先速度Vsw0及び最大足先速度Vmaxを用いて係数αが表されるようになる。
【0034】
【数6】

上式(10)の「α」を上式(16)の右辺で置換すれば、下式(17)が得られ、この式(17)からは、下式(18)のような、係数βについての2次方程式が得られるようになる。したがって、この2次方程式を解くことで、係数βの値が定まり、ひいては係数αの値も定まるようになる。
【0035】
【数7】

以上により、上式(5)のすべての係数が求まる。すなわち、着地までの期間に足先速度vが最大足先速度Vmaxを取るように、遊脚を前方に踏み出したときのX方向における遊脚の足先位置xの軌跡が求まるようになる。したがって、最大足先速度Vmaxを考慮した場合においての、単脚支持期終端の遊脚の足先位置f(T)の最大値Xmax1が求められることになる。
【0036】
次に、同様に最大足先速度Vmaxを考慮したときの単脚支持期終端の遊脚の足先位置f(T)の最小値Xmin1を計算する。このときにも、X方向の足先位置xの軌跡を図10のような3次関数に近似すると、X方向の足先速度vの軌跡は、図11のような2次関数となり、X方向の足先加速度aの規制は、図12のような1次関数となる。この場合、X方向の足先速度vの軌跡は、極値σを持つ、下に凸の放物線となる。
【0037】
ここで単脚支持期終端の遊脚の足先位置f(T)が最小となるのは、すなわち遊脚が最も後方に踏み戻されるのは、X方向の足先速度vの極値σvが「−Vmax」となるときである。したがって、最大足先速度Vmaxを考慮した場合において、単脚支持期終端の遊脚の足先位置f(T)が最小となるときには、下式(19)〜(22)の関係が得られることになる。そしてこれらの関係からは、先程と同様にして、最大足先速度Vmaxを考慮した場合における単脚支持期終端の遊脚の足先位置f(T)の最小値Xmin1を求めることができる。
【0038】
【数8】

次に、最大足先加速度Amaxを考慮したときの単脚支持期終端の遊脚の足先位置f(T)の最大値Xmax2を計算する。遊脚が前に踏み出されるときのX方向の足先加速度aの軌跡は、X方向の足先位置xの軌跡を3次関数で近似した場合には、図9に示したような1次関数となる。同図に示すように、足先加速度aは、現在、すなわち時刻tが「0」のときに最大値amaxを取り、単脚支持期終端、すなわち時刻tが「T」のときに最小値aminを取る。したがって、遊脚が着地するまでの期間に足先加速度aの絶対値が最大足先加速度Amaxを取るのであれば、それは時刻tが「0」又は「T」のときのいずれかとなる。
【0039】
ここで時刻tが「0」のときに足先加速度aの絶対値が最大足先加速度Amaxとなる場合には、下式(23)〜(26)の関係が得られるようになる。そしてこれらの関係からは、この場合における単脚支持期終端の遊脚の足先位置f(T)の最大値Xmax2aを求めることができる。
【0040】
【数9】

一方、時刻tが「T」のときに足先加速度aの絶対値が最大足先加速度Amaxとなる場合には、下式(27)〜(30)の関係が得られるようになる。これらの関係からも、この場合における単脚支持期終端の遊脚の足先位置f(T)の最大値Xmax2bを求めることができる。
【0041】
【数10】

こうして2つの最大値Xmax2a、Xmax2bが求められる。ここでは、それらの内、絶対値が小さい方の値を、最大足先加速度Amaxを考慮したときの単脚支持期終端の遊脚の足先位置f(T)の最大値Xmax2として採用するようにしている。
【0042】
続いて最大足先加速度Amaxを考慮したときの単脚支持期終端の遊脚の足先位置f(T)の最小値Xmin2を計算する。遊脚が後ろに踏み戻されるときのX方向の足先加速度aの軌跡は、X方向の足先位置xの軌跡を3次関数で近似した場合には、図12に示したような1次関数となる。同図に示すように、足先加速度aは、現在、すなわち時刻tが「0」のときに最小値aminを取り、単脚支持期終端、すなわち時刻tが「T」のときに最大値amaxを取る。したがって、遊脚が着地するまでの期間に足先加速度aの絶対値が最大足先加速度Amaxを取るのであれば、それは時刻tが「0」又は「T」のときのいずれかとなる。
【0043】
ここで時刻tが「0」のときに足先加速度aの絶対値が最大足先加速度Amaxとなる場合には、下式(31)〜(34)の関係が得られるようになる。そしてこれらの関係からは、この場合における単脚支持期終端の遊脚の足先位置f(T)の最小値Xmin2aを求めることができる。
【0044】
【数11】

一方、時刻tが「T」のときに足先加速度aの絶対値が最大足先加速度Amaxとなる場合には、下式(35)〜(38)の関係が得られるようになる。これらの関係からも、この場合における単脚支持期終端の遊脚の足先位置f(T)の最小値Xmin2bを求めることができる。
【0045】
【数12】

こうして2つの最小値Xmin2a、Xmin2bが求められる。ここでは、それらの内、絶対値が小さい方の値を、最大足先加速度Amaxを考慮したときの単脚支持期終端の遊脚の足先位置f(T)の最小値Xmin2として採用するようにしている。
【0046】
以上により、2つの最大値Xmax1、Xmax2、及び2つの最小値Xmin1、Xmin2が求められるようになる。ここでは、2つの最大値Xmax1、Xmax2の内の絶対値が小さい方の値を、遊脚の最大足先速度Vmax及び最大足先加速度Amaxを考慮したときのX方向における遊脚着地位置の最大値Xmaxとして採用するようにしている。また2つの最小値Xmin1、Xmin2の内の絶対値が小さい方の値を、遊脚の最大足先速度Vmax及び最大足先加速度Amaxを考慮したときのX方向における遊脚着地位置の最小値Xminとして採用するようにしている。
【0047】
以上と同様の計算をロボットRの左右方向(Y方向)について行うことで、遊脚の最大足先速度及び最大足先加速度を考慮したときのY方向における遊脚着地位置の最大値Ymax及び最小値Yminを求めることができる。そして求められた最大値Xmax、Ymax及び最小値Xmin、Yminから、最大足先速度及び最大足先加速度により決定される遊脚の着地可能域が算出されることになる。
【0048】
(d)ステップ(a)〜(c)で求められた着地可能域のAND領域を、第1の着地可能域として算出するステップ
以上により、自己干渉の回避、関節の可動域、足先速度及び足先加速度の制限をそれぞれ考慮した遊脚の着地可能域が求められる。よって、図13にハッチングで示されるような、上記3つの着地可能域のAND領域を抽出すれば、自己干渉の回避、関節の可動域、足先速度及び足先加速度の制限のすべてを満足する遊脚の着地可能域が求められることになる。なお、本実施の形態では、こうしたハードウェアの制約により決定される第1の着地可能域が、凸多角形として算出されるようになっている。
【0049】
B.環境の制約により決定される遊脚の着地可能域の算出
続いて、環境の制約により決定される遊脚の着地可能域の算出について説明する。ここでの「環境の制約」とは、要は、障害物により遊脚の着地が妨げられることを意味している。
【0050】
さて、環境の制約により決定される遊脚の着地可能域の算出に際しては、ロボットRの周囲の障害物を確認する必要がある。こうした障害物の検知は、カメラによって撮像された画像の解析や、レーザーレンジファインダーによる反射光到達時間及び到達方向の解析などを通じて行うことができる。ここでは、図14に示すように、ロボットRの周囲に4つの障害物B1〜B4が検知されたものとする。
【0051】
周囲の障害物が検知されると、図15に示されるように、ロボットRと各障害物B1〜B4とを最短で結ぶ線分L1〜L4がそれぞれ算出される。そして図16に示すように、各線分L1〜L4の障害物B1〜B4側の端点を通る、各線分L1〜L4の法線N1〜N4が算出され、各法線N1〜N4により囲まれた、図17にハッチングで示される領域が求められる。そしてこの求められた領域が、環境の制約により決定された遊脚の着地可能域となる。なお、本実施の形態では、こうした環境の制約により決定される第2の着地可能域も、凸多角形として算出されるようになっている。
【0052】
C.最終的な着地可能域の算出
以上により、ハードウェアの制約により決定される第1の着地可能域と、環境の制約により決定される2の着地可能域とが算出される。よって、図18にハッチングで示されるような、これら2つの着地可能域のAND領域を抽出すれば、環境とハードウェアとの双方の制約を満すような遊脚の着地可能域が求まるようになる。こうして着地可能域が求まると、その範囲内でロボットRの姿勢の安定に最適な遊脚の着地位置を決定されることになる。
【0053】
図19は、こうした本実施の形態に採用される着地可能域演算処理のフローチャートを示している。本ルーチンの処理は、ロボットRの歩行中の外乱の作用が検出されたときに電子制御ユニット1により実行されるものとなっている。
【0054】
さて、本ルーチンが開始されると、まずステップS100において、自己干渉を防止可能な遊脚の着地可能域が算出され、続くステップS101において、関節の可動域から決定される遊脚の着地可能域が算出される。また次のステップS102では、最大足先速度及び最大足先加速度から求められた遊脚の着地可能域が算出される。更に続くステップS103では、以上の3つのステップでそれぞれ算出された着地可能域のAND領域が抽出され、その抽出した領域がハードウェアの制約により決定された第1の着地可能域として算出される。
【0055】
一方、次のステップS104では、環境の制約により決定された遊脚の着地可能域が、第2の着地可能域として算出される。そして続くステップS105では、ステップS103で算出された第1の着地可能域とステップS104で算出された第2の着地可能域とのAND領域が算出される。そして、次のステップ106において、その算出された領域が、外乱作用時の遊脚の着地可能域として設定される。
【0056】
なお、以上説明した本実施の形態では、電子制御ユニット1が、第1及び第2の算出手段、及び演算手段にそれぞれ相当する構成となっている。
以上の本実施の形態の2足歩行ロボット及びその制御方法によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0057】
(1)本実施の形態では、電子制御ユニット1は、ロボットRのハードウェアの制約により決定される遊脚の着地可能域を第1の着地可能域として算出するとともに、環境の制約により決定される遊脚の着地可能域を第2の着地可能域として算出するようにしている。そして電子制御ユニット1は、第1及び第2の着地可能域のAND領域を抽出し、その抽出した領域を、外乱が作用したときの遊脚の着地可能域として演算するようにしている。こうした本実施の形態では、環境とハードウェアとの双方の制約を満すように外乱作用時の遊脚の着地可能域が演算されるようになる。そのため、本実施の形態では、外乱の作用時に、ハードウェアや環境の制約に則った適切な遊脚の着地位置を設定することができるようになる。
【0058】
(2)本実施の形態では、電子制御ユニット1は、遊脚の最大足先速度及び最大足先加速度から着地までに遊脚が到達可能な領域を求め、その求めた領域に基づいて上記第1の着地可能域を算出するようにしている。より詳しくは、電子制御ユニット1は、支持脚と遊脚との干渉を防止可能な遊脚の着地可能領域と、ロボットRの関節の可動域から決定される遊脚の着地可能領域と、着地までに遊脚が到達可能な領域として遊脚の最大足先速度及び最大足先加速度から求められた遊脚の着地可能領域とをそれぞれ算出するようにしている。そして電子制御ユニット1はそれら算出した3つの着地可能域のAND領域を、第1の着地可能域として算出するようにしている。そのため、ロボットRのハードウェアの制約により決定される遊脚の着地可能域を適切に算出することができるようになる。
【0059】
(3)本実施の形態では、電子制御ユニット1は、第1及び第2の着地可能域を、凸多角形としてそれぞれ算出するようにしている。そのため、それらのAND領域の演算に、高速に演算可能な既存のアルゴリズムを利用でき、外乱作用時の遊脚の着地可能域の演算を短時間で行うことができるようになる。
【0060】
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態では、第1及び第2の着地可能域を、凸多角形としてそれぞれ算出するようにしているが、AND領域の演算を十分高速に行えるのであれば、両着地可能域の凹多角形やその他の図形として算出するようにしても良い。
【0061】
・上記実施の形態では、ロボットRの周囲の障害物の検知を、カメラやレーザーレンジファインダーを用いて行うことが記載されていたが、そうした検知は、音波を用いたソナーシステムなどの他のシステムを用いて行うことも可能である。
【0062】
・上記実施の形態では、環境の制約により決定される第2の着地可能域を、ロボットRと障害物B1〜B4とを最短で結ぶ線分L1〜L4の法線N1〜N4により囲まれた領域として算出するようにしていた。こうした障害物の無い領域の算出ロジックとして、これ以外のロジックを採用しても良い。
【0063】
・上記実施の形態では、自己干渉の回避、関節の可動域、足先速度及び足先加速度の制限をそれぞれ考慮した遊脚の着地可能域を求めている。そしてそれら3つの着地可能域のAND領域を第1の着地可能域として算出するようにしている。ロボットRのハードウェアの構成によっては、上記3つの着地可能域の算出を一部割愛することが可能な場合がある。例えば自己干渉を確実に回避可能なように関節の可動域が設定されているロボットでは、関節の可動域により決定される着地可能域さえ算出すれば、自己干渉の回避可能な着地可能域を敢えて算出せずとも、自ずと自己干渉は回避されるようになる。また、遊脚の着地までに確実に関節の可動域の限界に到達可能なだけの十分に高い動作性を備えたロボットでは、足先速度及び足先加速度の制限による着地可能域の算出を割愛することができる。
【符号の説明】
【0064】
1…電子制御ユニット(第1の算出手段、第2の算出手段、演算手段)、2…アクチュエーター、R…ロボット、B1〜B4…障害物、L1〜L4…ロボットと障害物とを最短で結ぶ線分、N1〜N4…線分L1〜L4の障害物側の端点を通る、同線分L1〜L4の法線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの脚を交互に踏み出して歩行する2足歩行ロボットにおいて、
当該ロボットのハードウェアの制約により決定される遊脚の着地可能域を第1の着地可能域として算出する第1の算出手段と、
環境の制約により決定される遊脚の着地可能域を第2の着地可能域として算出する第2の算出手段と、
前記第1及び第2の着地可能域のAND領域を抽出し、その抽出したAND領域を前記遊脚の着地可能域として演算する演算手段と、
を備えることを特徴とする2足歩行ロボット。
【請求項2】
前記第1の算出手段は、前記遊脚の最大足先速度及び最大足先加速度から着地までに前記遊脚が到達可能な領域を求め、その求めた領域に基づいて前記第1の着地可能域を算出する
請求項1に記載の2足歩行ロボット。
【請求項3】
前記第1の算出手段は、支持脚と前記遊脚との干渉を防止可能な前記遊脚の着地可能領域と、当該ロボットの関節の可動域から決定される前記遊脚の着地可能領域と、着地までに前記遊脚が到達可能な領域として前記遊脚の最大足先速度及び最大足先加速度から求められた前記遊脚の着地可能領域とのAND領域を、前記第1の着地可能域として算出する
請求項1に記載の2足歩行ロボット。
【請求項4】
前記第1及び第2の着地可能域は、凸多角形としてそれぞれ算出される
請求項1〜3のいずれか1項に記載の2足歩行ロボット。
【請求項5】
2つの脚を交互に踏み出して歩行する2足歩行ロボットの外乱作用時の制御を行う方法であって、
当該ロボットのハードウェアの制約により決定される遊脚の着地可能域を第1の着地可能域として算出する第1のステップと、
環境の制約により決定される前記遊脚の着地可能域を第2の着地可能域として算出する第2のステップと、
前記第1及び前記第2の着地可能域のAND領域を抽出する第3のステップと、
前記第3のステップで抽出された前記AND領域を前記遊脚の着地可能域として演算する第4のステップと、
を備えることを特徴とする2足歩行ロボットの制御方法。
【請求項6】
前記第1のステップでは、前記遊脚の最大足先速度及び最大足先加速度から着地までに前記遊脚が到達可能な領域が求められ、その求められた領域に基づいて前記第1の着地可能域が算出される
請求項5に記載の2足歩行ロボットの制御方法。
【請求項7】
前記第1のステップは、
支持脚と前記遊脚との干渉を防止可能な前記遊脚の着地可能域を求めるステップと、
当該ロボットの関節の可動域から決定される前記遊脚の着地可能域を求めるステップと、
着地までに前記遊脚が到達可能な領域を同遊脚の最大足先速度及び最大足先加速度から求めるとともに、その求めた領域を前記遊脚の着地可能域として求めるステップと、
以上の3つのステップで求められた着地可能域のAND領域を、前記第1の着地可能域として算出するステップと、
を通じて行われる請求項5に記載の2足歩行ロボットの制御方法。
【請求項8】
前記第1及び第2の着地可能域は、凸多角形として算出される
請求項5〜7のいずれか1項に記載の2足歩行ロボットの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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