説明

3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の結晶形

本発明は、結晶形A、結晶形Bおよび結晶形Cと呼ばれる3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオールの新たな結晶形、その調製プロセス、その薬品への利用、および、これらを含む薬学的組成物に関する。この薬学的組成物は、3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の結晶形Aを、純粋な状態で含むこと、あるいは、場合によって、他の結晶形BまたはCの一方または双方と組み合わせて、ならびに/もしくは、不活性で、併用可能で、薬学的受容可能なアジュバントまたは希釈剤を組み合わせた形で含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下の構造:
式I:
【0002】
【化2】

【0003】
で表される3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩(式Iから成る)の3つの結晶形に関する。
【背景技術】
【0004】
特許文献1の特許出願明細書は、炎症性疾患、特に、喘息を処置するための3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール、およびその薬学的受容可能な塩について、記載する。
【0005】
この特許文献1に記載され、調製された3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオールは、特に、酢酸塩の塩の形である。この酢酸塩の形の塩は吸湿性であり、このことは、産業上の開発の点からは、大きな不都合となっている。
【特許文献1】国際公開第01/83512号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述したような不都合を生じない1つ以上の新たな結晶形を見出すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
固体形態、特に医薬品は、1より多くの結晶形を有し得る。これが、いわゆる多形である。ここで、多形の形態とは結晶化した分子の非溶媒和物の任意の形を意味し、偽多形は結晶化した分子の溶媒和物の任意の形を意味する。
【0008】
一つの同じ分子において、多形の形態と偽多形の形態とでは、溶解度、吸湿性および安定性などの物理的特性は、一般的に異なる。今のところ、いかなる多形が存在し、いかなる偽多形が存在するかを確実に認知できる方法(実験的選別)も、予測できる方法(分子モデリングによる理論的選別)も存在しないし、その多形および偽多形の物理的特性を予測できる方法も存在しないことに、注意しなくてはならない。
【0009】
治療上の活性を有する分子の新たな多形あるいは偽多形を得ることは、製薬産業において、特に、産業的規模での調製、薬学的組成物の利用、より高い安定性の研究という観点から、大きな関心事となっている。
【0010】
本出願人は、3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオールの新たな3つの結晶形(結晶形A、結晶形Bおよび結晶形C)を明らかにした。結晶形Aは無水物であり、結晶形Bは二水和物であり、そして結晶形Cは一水和物である。結晶形Aは、上述した利点以外にも、吸湿性を有しないという利点を示す。
【0011】
従って、本発明は、まず、無水3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の新たな結晶形(結晶形Aという)を目的とする。3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の結晶形Aは、本発明によると、結晶性粉末の形で現れる。形Aは、相対湿度(HR)0〜90%で安定であり、約240℃から化学的に分解(de/grader)し始め、280℃を超えると、完全に分解する(de/composer)。これは、以下に述べるように、この粉末のX線図を指数付けすることで、決定された。
【0012】
また、本発明は、水和3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の新たな結晶形(結晶形Bという)を目的とする。これは、結晶形Aの調製における中間体として、利用され得る。また、これは、50%より高いHRにおいて安定な二水和物の形である。これも、また、この粉末のX線図を指数付けすることで、決定される。
【0013】
また、本発明は、水和3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の新たな結晶形(結晶形Cという)を目的とする。結晶形Cは、他の結晶形(無水結晶形Dおよび無水結晶形E)との混合物として現れる。結晶形Cは、HR97%の湿潤雰囲気に数日間保持することによる、補完的な処理によって、純粋に得られた。結晶形Cは、HR0〜90%で安定な一水和物の形である。60℃より高い温度での加熱により、無水物Dに変化する。これも、また、この粉末のX線図を指数付けにすることで、決定義される。
【0014】
式(I)の化合物の結晶形A、BまたはCは、特許文献1において、化合物3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオールについて記載された活性と同様の治療上の活性を示す。
【0015】
これら活性は、炎症性疾患の処置、および、喘息の処置において、特に有用である。
【0016】
(粉末のX線回折)
この分析は、前方にモノクロメーター(銅のKα線の波長:1.54060Å)を備えた、銅の対陰極管を有するPhilips社の回折計X’pert Proにおいて行われる。その構成(montage)は、Philips社の検出器X’celeratorを用い、Bragg−Brentano型である。走査角度の範囲は2θにおいて2°〜40°であり、ピッチは2θにおいて0.02°であった。各ピッチにおいて、カウント時間は300秒とした。
【0017】
(結晶形A)
結晶形Aは、単斜晶系(空間群P2、Z=2)の格子として、結晶化する。単斜晶系の格子パラメーターは、T=295Kにおいて、以下、
a=16.058(2)Å、 β=90.24(2)°
b= 6.995(1)Å、 V=1012.2Å
c= 9.011(2)Å、 密度=1.168
である。
【0018】
非対称単位は、3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩1分子から成る。
【0019】
回折図に現れる全てのピークが、指数付けされたことから、以下に記載される実施例1または実施例2の結晶化プロセスに従って得られた結晶形Aは、物理的に純粋な形である。
【0020】
T=295Kにおいて、3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の結晶形Aの粉末から得られたX線回折図における最初の30のピークを指数付けすると、格子面間隔および2θ<平均λCu Kα>の位置について、以下が得られる。
【0021】
【表4】

【0022】
(結晶形B)
結晶形Bは、結晶形Aの調製の中間体として、利用され得る。結晶形Bは、二水和物の形であり、三斜方晶系(結晶群P1、Z=1)の格子として、結晶化する。この三斜方晶系の格子パラメーターは、T=295Kにおいて、以下、
a= 8.856(2)Å、 α=100.76(1)°
b=18.482(1)Å、 β= 90.06(1)°
c= 6.904(2)Å、 γ= 78.35(1)°
V=1086.5Å
密度=1.198
である。
【0023】
非対称単位は、3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩2分子および水4分子から成る。
【0024】
回折図に現れる全てのピークが、指数付けされたことから、以下に記載される実施例3の結晶化プロセスに従って得られた結晶形Bは、物理的に純粋な形である。
【0025】
T=295Kで、3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の結晶形Bの粉末から得られたX線回折図における最初の30のピークを指数付けすると、格子面間隔および2θ<平均λCu Kα>の位置について、以下が得られる。
【0026】
【表5】

【0027】
(結晶形C)
結晶形Cは、一水和物の形であり、三斜方晶系(空間群P1、Z=1)の格子として、結晶化する。この三斜方晶系の格子パラメーターは、T=295Kにおいて、以下、
a= 7.2328(5)Å、 α= 97.135(6)°
b=21.063(2)Å、 β=102.653(5)°
c= 7.1563(5)Å、 γ= 91.177(6)°
V=1054.2Å
密度=1.178
である。
【0028】
非対称単位は、3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩2分子および水2分子から成る。
【0029】
回折図に現れる全てのピークが、指数付けされたことから、以下に記載される実施例4の結晶化プロセスに従って得られた結晶形Cは、物理的に純粋な形である。
【0030】
T=295Kで、3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の形Cの粉末から得られたX線回折図における最初の30のピークを指数付けすると、格子面間隔および2θ<平均λCu Kα>の位置について、以下が得られる。
【0031】
【表6】

【0032】
従って、本発明は、医薬である、上述した結晶形A、BまたはCを目的とする。
【0033】
3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の結晶形A、BまたはCは、経口経路、非経口経路、吸入による局所経路、あるいは、移植片を介して利用され得る。これらは、慣用された方法に従って、単なる錠剤の形で、あるいは、糖衣錠、カプセル剤、顆粒剤、坐剤、膣坐剤、注射剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル化剤、マイクロスフェア剤、移植片、パッチ剤の形で、処方され得る。
【0034】
3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の結晶形A、BまたはCは、薬学的組成物の製造に携わる当業者にとって周知の賦形剤、希釈剤、およびビヒクルなどと、混合することもできる。これらの薬学的組成物において、通常使われる賦形剤の例として、タルク、アラビアゴム、乳糖、でんぷん、ステアリン酸マグネシウム、カカオバター、含水ビヒクル、非含水ビヒクル、動物性脂肪物質、植物性脂肪物質、パラフィン誘導体、グリコール、各種湿潤剤、各種分散剤、各種乳化剤、保存剤を挙げることができる。
【0035】
このように、本発明は、上記で定義した3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の結晶形A、BまたはCの1つを少なくとも有効成分として含み、さらに、1つまたは複数の薬学的に受容可能な賦形剤、希釈剤または担体を含む薬学的組成物にまで及ぶ。
【0036】
また、本発明は、喘息などの炎症性疾患を処置するための医薬の調製のために、上記で定義した3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の結晶形A、BまたはCを使用することも目的とする。
【0037】
以下に示す実施例は、本発明を例証するものであるが、本発明を以下に限定するものではない。
【実施例】
【0038】
(実施例1:3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩、結晶形A)
式Iの生成物250mgを最低限のメタノール中に、雰囲気温度で溶解した。イソプロピルエーテルを析出開始まで加えた。脱水後、式Iの結晶形Aの生成物195mgを得た。
【0039】
(実施例2:3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩、結晶形A)
式Iの生成物250mgを最低限のエタノール中に、室温で溶解した。水を結晶化開始まで加え、式Iの多形Bの生成物を得た。
【0040】
次いで、雰囲気温度の窒素雰囲気で、エバポレートさせた後、式Iの結晶形Aの生成物を得た。
【0041】
(実施例3:3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩、結晶形B)
3日間にわたり、95%より高い相対湿度に放置した式Iの結晶形Aの生成物は、結晶形Bに変化した。
【0042】
(実施例4:3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩、結晶形C)
式Iの生成物250mgを最低限のメチルエチルケトン中に、雰囲気温度で溶解した。一定容積での共沸蒸留により水中に移し、そして97%より高い相対湿度平衡させた後、式Iの結晶形Cの生成物を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式:
【化1】


の構造であって、295Kにおける粉末X線回折図のピークの指数付けが、最初の30のピークについて以下の結果、
【表1】


を与えることを特徴とする、3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の結晶形A。
【請求項2】
3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の結晶形Aであって、該結晶形Aは、単斜晶系(空間群P2、Z=2)の格子として結晶化し、該単斜晶系の格子パラメーターは、T=295Kにおいて、
a=16.058(2)Å、 β=90.24(2)°
b= 6.995(1)Å、 V=1012.2Å
c= 9.011(2)Å、 密度=1.168
であることを特徴とする、結晶形A。
【請求項3】
295Kにおける粉末X線回折図のピークの指数付けが、以下の結果、
【表2】


を与えることを特徴とする、3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の結晶形B二水和物。
【請求項4】
3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の結晶形B二水和物であって、該結晶形B二水和物は三斜方晶系(結晶群P1、Z=1)の格子として結晶化し、該三斜方晶系の格子パラメーターは、T=295Kにおいて、
a= 8.856(2)Å、 α=100.76(1)°
b=18.482(1)Å、 β= 90.06(1)°
c= 6.904(2)Å、 γ= 78.35(1)°
V=1086.5Å
密度=1.198
であることを特徴とする、結晶形B二水和物。
【請求項5】
295Kにおける粉末X線回折図のピークの指数付けが、最初の30のピークについて、以下の結果、
【表3】


を与えることを特徴とする、3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の結晶形C一水和物。
【請求項6】
3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の結晶形C一水和物であって、三斜方晶系(空間群P1、Z=1)の格子として結晶化し、三斜方晶系の格子パラメーターは、T=295Kにおいて、
a= 7.2328(5)Å、 α= 97.135(6)°
b=21.063(2)Å、 β=102.653(5)°
c= 7.1563(5)Å、 γ= 91.177(6)°
V=1054.2Å
密度=1.178
であることを特徴とする、結晶形C一水和物。
【請求項7】
アルコールとエーテルとの混合物中で、特に、メタノール/イソプロピルエーテルの混合物中で、結晶化を行うことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の結晶形Aの、調製プロセス。
【請求項8】
式Iの生成物250mgをメチルエチルケトンなどの溶媒中に、雰囲気温度で溶解させうること、次いで、該生成物が一定容積にて共沸蒸留により水中に移行されること、および97%より高い相対湿度にて平衡させることを特徴とする、請求項5または請求項6に記載の結晶形Cの、調製プロセス。
【請求項9】
医薬である、請求項1〜8で定義される結晶形A、BまたはC。
【請求項10】
3β−アミノ−17−メチレンアンドロスタン−6α,7β−ジオール塩酸塩の結晶形Aを、純粋な状態で含むか、または、必要に応じて他の結晶形BまたはCの一方もしくは双方と組み合わせて、ならびに/または、不活性で、適合性で、かつ、薬学的に受容可能な任意のアジュバントまたは希釈剤を組み合わせた形態で含むことを特徴とする、薬学的組成物。
【請求項11】
炎症性疾患を処置するための医薬の調製のための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の結晶形の使用。

【公表番号】特表2007−509050(P2007−509050A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534854(P2006−534854)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【国際出願番号】PCT/IB2004/003426
【国際公開番号】WO2005/037851
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(399015908)インフラジム ファーマシューティカルズ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】