説明

3−イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子及びその用途

【課題】 製品のオフフレーバーとなるビシナルジケトン類、特にダイアセチル生産量を低減させた酵母、当該酵母を用いた酒類の製造方法などを提供する。
【解決手段】 3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子及びその用途に関し、特に、香味に優れた酒類を製造する醸造酵母、該酵母を用いて製造した酒類、その製造方法などに関する。さらに具体的には、酵母の3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼであるLeu2pをコードするScLEU2遺伝子あるいは特にビール酵母に特徴的なnonScLEU2遺伝子の発現量を高めることによって、製品のオフフレーバーとなるビシナルジケトン類、特にダイアセチル生産量を低減させた酵母、当該酵母を用いた酒類の製造方法などに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子及びその用途に関し、特に、香味に優れた酒類を製造する醸造酵母、該酵母を用いて製造した酒類、その製造方法などに関する。さらに具体的には、本発明は、酵母の3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼであるLeu2pをコードするScLEU2遺伝子あるいは特にビール酵母に特徴的なnonScLEU2遺伝子の発現量を高めることによって、製品のオフフレーバーとなるビシナルジケトン類、特にダイアセチル生産量を低減させた酵母、当該酵母を用いた酒類の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
酒類の香気成分のうち、ダイアセチル(以下、「DA」ともいう)臭はビール、清酒及びワイン等の醸造酒における代表的オフフレーバーのひとつである。DA臭(ビールではムレ臭またはバター臭、清酒ではツワリ香とも表現される)はDAを主とするビシナルジケトン類(以下、「VDK」ともいう)が製品中にある閾値以上存在することによって発生する。ビールにおける閾値は0.1ppmといわれている(Journal of the Institute of Brewing、76、486(1970):非特許文献1)。
【0003】
酒類中のVDKはDA と2,3-ペンタンジオン(以下PD)に大別される。DA とPDは、それぞれバリン及びイソロイシン生合成系中間産物のα-アセト乳酸及びα-アセトヒドロキシ酪酸を前駆体として、酵母の関与しない非酵素的反応によって生成される。
【0004】
以上のことから、VDK(DA及びPD)及びその前駆体α-アセトヒドロキシ酸類(α-アセト乳酸及びα-アセトヒドロキシ酪酸)などが製品にDA臭をもたらし得る化合物として捉えられている。したがって、これらの化合物を安定的に低減させる酵母の育種は酒類の製造管理を容易にするばかりでなく、新商品開発の可能性を広げることになる。
【0005】
清酒製造では、例えば特開2001-204457公報(特許文献1)においては、α-アセトヒドロキシ酸類の前駆体となるピルビン酸濃度の低い酒母を用いることでDAの生成を抑制する方法が報告されている。ビール製造についても、Journal of American Society of Brewing Chemists, Proceeding, 94-99(1973)(非特許文献2)ではバリン・ロイシン・イソロイシン要求性酵母でVDK生成量が低減することが報告されている。しかし、栄養要求性株では増殖・発酵遅延が生じやすいことから、この酵母は未だ実用化には至っていない。特開2002-291465号公報(特許文献2)では、上記分岐アミノ酸のアナログに対して感受性となる変異株を取得し、それらの中からDA低蓄積株を選抜するという方法が開示されている。Journal of American Society of Brewing Chemists, Proceeding, 81-84(1987)(非特許文献3)では、実験室酵母に由来するILV5遺伝子の発現量を調節した遺伝子操作酵母が、また、European Brewery Convention, Proceedings of the 21st EBC congress, Madrid, 553-560(1987)(非特許文献4)では同じくILV3遺伝子の発現量を調節した遺伝子操作酵母がそれぞれ報告されている。このときILV5遺伝子がコードする3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼの酵素活性は5-7倍増加し、VDK生成量は4割程度まで減少した。
【0006】
また、ILV3遺伝子がコードする3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼの酵素活性は5-6倍増加したが、VDK生成量に有意な減少はみられなかった。ただし上記2報告とも合成培地を用いており、実際のビール醸造への影響は解析されていない。Dulieuらは、European Brewery Convention, Proceedings of the 26th EBC congress, Maastricht, 455-460(1997)(非特許文献5)においてα-アセト乳酸脱炭酸酵素を使用することでDAの前駆体となるα-アセト乳酸をアセトインに迅速に変換する方法を提案した。しかし、日本では税制上発酵中の醪に酵素を添加することはできない。特開平2-265488号公報(特許文献3)及び特開平7-171号公報(特許文献4)ではいずれもα-アセト乳酸脱炭酸酵素をコードするDNA鎖を用いた遺伝子操作酵母が報告されている。
【特許文献1】特開2001-204457号公報
【特許文献2】特開2002-291465号公報
【特許文献3】特開平2-265488号公報
【特許文献4】特開平7-171号公報
【非特許文献1】Journal of the Institute of Brewing、76、486(1970)
【非特許文献2】Journal of American Society of Brewing Chemists, Proceeding, 94-99(1973)
【非特許文献3】Journal of American Society of Brewing Chemists, Proceeding, 81-84(1987)
【非特許文献4】European Brewery Convention, Proceedings of the 21st EBC congress, Madrid, 553-560(1987)
【非特許文献5】European Brewery Convention, Proceedings of the 26th EBC congress, Maastricht, 455-460(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような状況において、VDK(ビシナルジケトン類)、特にDA(ダイアセチル)の発生を低減させることのできる酒類の製造方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ビール酵母から既知のタンパク質より有利な効果を奏する3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を同定・単離することに成功した。また、得られた遺伝子を酵母に導入し発現させた形質転換酵母を作製し、ビール中のVDK濃度、特にDA濃度が低減することを確認して、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、ビール酵母に特徴的に存在する新規な3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、該遺伝子がコードするタンパク質、該遺伝子の発現が調節された形質転換酵母、該遺伝子の発現が調節された酵母を用いることによる製品中のVDK濃度、特にDA濃度の制御方法などに関する。本発明は、具体的には、次に示すポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有するベクター、該ベクターが導入された形質転換酵母、該形質転換酵母を用いる酒類の製造方法などを提供する。
【0010】
(1)以下の(a)〜(f)のいずれかに記載のポリヌクレオチド:
(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e)配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(f)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【0011】
(2)以下の(g)〜(i)のいずれかである上記(1)に記載のポリヌクレオチド:
(g)配列番号:2のアミノ酸配列又は配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h) 配列番号:2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(i)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
(3)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する上記(1)に記載のポリヌクレオチド。
(4)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する上記(1)に記載のポリヌクレオチド。
(5)DNAである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
【0012】
(7)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
(8)
以下の(j)〜(l)のいずれかであるポリヌクレオチドを含有するベクター。
(j)配列番号:4のアミノ酸配列又は配列番号:4のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(k) 配列番号:4のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(l)配列番号:3の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号:3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
(8b)以下の(a)〜(c)の構成要素を含む発現カセットを含む上記(7)に記載のベクター:
(a)酵母細胞内で転写可能なプロモーター
(b)該プロモーターにセンス方向またはアンチセンス方向で結合した、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;及び
(c)RNA分子の転写終結およびポリアデニル化に関し、酵母で機能するシグナル。
【0013】
(9)上記(7)に記載のベクターが導入された形質転換酵母。
(10)醸造時に全ビシナルジケトン(ビシナルジケトン類及びその前駆体であるα-アセトヒドロキシ酸類の総称)生産量を低減し得る上記(9)に記載の醸造用酵母。
(11)醸造時に全ダイアセチル(ダイアセチル及びその前駆体であるα-アセト乳酸の総称)生産量を低減し得る上記(9)に記載の醸造用酵母。
(12)上記(6)に記載のタンパク質の発現量を増加させることによって、醸造時に全ビシナルジケトン生産量を低減し得る上記(9)に記載の醸造用酵母。
(13)上記(6)に記載のタンパク質の発現量を増加させることによって、醸造時に全ダイアセチル生産量を低減し得る上記(9)に記載の醸造用酵母。
(14)上記(9)〜(13)のいずれかに記載の酵母を用いた酒類の製造方法。
(15)醸造する酒類が麦芽飲料である上記(14)に記載の酒類の製造方法。
(16)醸造する酒類がワインである上記(14)に記載の酒類の製造方法。
(17)上記(14)〜(16)のいずれかに記載の方法で製造された酒類。
(18)配列番号:1または配列番号:3の塩基配列を有する3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーまたはプローブを用いて、被検酵母の全ビシナルジケトン生産能または全ダイアセチル生産能について評価する方法。
(18a)上記(18)に記載の方法によって、全ビシナルジケトン生産能または全ダイアセチル生産能が低い酵母を選別する方法。
(18b)上記(18a)に記載の方法によって選別された酵母を用いて酒類(例えば、ビール)を製造する方法。
(19)
被検酵母を培養し、配列番号:1又は配列番号:3の塩基配列を有する3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量を測定することによって、被検酵母の亜硫酸生成能を評価する方法。
(20)
基準酵母および被検酵母を培養して配列番号:1又は配列番号:3の塩基配列を有する3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の各酵母における発現量を測定し、基準酵母よりも該遺伝子が高発現している被検酵母を選択する、酵母の選択方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の形質転換酵母を用いる酒類の製造法によれば、製品中でオフフレーバーとなるVDK、とくにDA生産量を低減させることができるため、香味に優れた酒類を容易に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者らは、特開2004-283169に開示の方法で解読したビール酵母ゲノム情報を基に、ビール酵母が有する3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼをコードする2つの遺伝子、nonScLEU2およびScLEU2遺伝子を単離・同定した。nonScLEU2およびScLEU2遺伝子の塩基配列およびそれにコードされるタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号:1と2、配列番号:3と4に示す。
【0016】
1.本発明のポリヌクレオチド
まず、本発明は、(a)配列番号:1又は配列番号:3の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド(具体的には、DNA、以下、これらを単に「DNA」とも称する);及び(b)配列番号:2又は配列番号:4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを提供する。本発明で対象とするDNAは、上記のビール酵母由来の3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼをコードするDNAに限定されるものではなく、このタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする他のDNAを含む。機能的に同等なタンパク質としては、例えば、(c)配列番号:2又は配列番号:4のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。このようなタンパク質としては、配列番号:2又は配列番号:4のアミノ酸配列において、例えば、1〜100個、1〜90個、1〜80個、1〜70個、1〜60個、1〜50個、1〜40個、1〜39個、1〜38個、1〜37個、1〜36個、1〜35個、1〜34個、1〜33個、1〜32個、1〜31個、1〜30個、1〜29個、1〜28個、1〜27個、1〜26個、1〜25個、1〜24個、1〜23個、1〜22個、1〜21個、1〜20個、1〜19個、1〜18個、1〜17個、1〜16個、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入および/または付加の数は、一般的には小さい程好ましい。また、このようなタンパク質としては、(d)配列番号:2又は配列番号:4のアミノ酸配列と約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上99.2%以上99.3%以上99.4%以上99.5%以上99.6%以上99.7%以上99.8%以上99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。なお、3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性は、例えばY.P.Hsuらの方法(J. Biol. Chem., 257: 39-41(1982))などによって測定することができる。
【0017】
また、本発明は、(e)配列番号:1又は配列番号:3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び(f)配列番号:2又は配列番号:4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドも包含する。
【0018】
ここで、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド(DNA)」とは、配列番号:1又は配列番号:3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA又は配列番号:2又は配列番号:4のアミノ酸配列をコードするDNAの全部または一部をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法またはサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるDNAをいう。ハイブリダイゼーションの方法としては、例えばMolecular Cloning 3rd Ed.、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997などに記載されている方法を利用することができる。
【0019】
本明細書でいう「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条件である。これらの条件において、温度を上げるほど高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0020】
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkphos Direct Labelling Reagents(アマシャムファルマシア社製)を用いることができる。この場合は、キットに添付のプロトコルにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを一晩行った後、メンブレンを55℃の条件下で0.1% (w/v) SDSを含む1次洗浄バッファーで洗浄後、ハイブリダイズしたDNAを検出することができる。
【0021】
これ以外にハイブリダイズ可能なDNAとしては、FASTA、BLASTなどの相同性検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメータを用いて計算したときに、配列番号:2又は配列番号:4のアミノ酸配列をコードするDNAと約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上99.2%以上99.3%以上99.4%以上99.5%以上99.6%以上99.7%以上99.8%以上99.9%以上の同一性を有するDNAをあげることができる。
なお、アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(proc. Natl. Acad. Sci. USA 872264-2268, 1990; proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
【0022】
2.本発明のタンパク質
本発明は、上記ポリヌクレオチド(a)〜(e)のいずれかにコードされるタンパク質も提供する。本発明の好ましいタンパク質は、配列番号:2又は配列番号:4のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質である。このようなタンパク質としては、配列番号:2又は配列番号:4のアミノ酸配列において、上記したような数のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。また、このようなタンパク質としては、配列番号:2又は配列番号:4のアミノ酸配列と上記したような相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。このようなタンパク質は、「モレキュラークローニング第3版」、「カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー」、“Nuc. Acids. Res., 10, 6487 (1982)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)”、“Gene, 34, 315 (1985)”、“Nuc. Acids. Res., 13, 4431 (1985)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985)”等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、取得することができる。
【0023】
本発明のタンパク質のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたとは、同一配列中の任意かつ1もしくは複数のアミノ酸配列中の位置において、1または複数のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加があることを意味し、欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン; B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸; C群:アスパラギン、グルタミン; D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸; E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン; F群:セリン、スレオニン、ホモセリン; G群:フェニルアラニン、チロシン。
【0024】
また、本発明のタンパク質は、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法のよっても製造することができる。また、アドバンスドケムテック社製、パーキンエルマー社製、ファルマシア社製、プロテインテクノロジーインストゥルメント社製、シンセセルーベガ社製、パーセプティブ社製、島津製作所等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。
【0025】
3.本発明のベクター及びこれを導入した形質転換酵母
次に、本発明は、上記したポリヌクレオチドを含有するベクターを提供する。本発明のベクターは、上記(a)〜(i)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA)を含有するベクターに関する。また、本発明のベクターは、通常、(a)酵母細胞内で転写可能なプロモーター;(b)該プロモーターにセンス方向またはアンチセンス方向で結合した、上記(a)〜(i)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA);及び(c)RNA分子の転写終結およびポリアデニル化に関し、酵母で機能するシグナルを構成要素として含む発現カセットを含むように構成される。
【0026】
酵母に導入する際に用いるベクターとしては、多コピー型(YEp型)、単コピー型(YCp型)、染色体組み込み型(YIp型)のいずれもが利用可能である。例えば、YEp型ベクターとしてはYEp24 (J. R. Broach et al., Experimental Manipulation of Gene Expression, Academic Press, New York, 83, 1983) 、YCp型ベクターとしてはYCp50 (M. D. Rose et al., gene, 60, 237, 1987) 、YIp型ベクターとしてはYIp5 (K. Struhl et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USP, 76, 1035, 1979) が知られており、容易に入手することができる。
酵母での遺伝子発現を調節するためのプロモーター/ターミネーターとしては、醸造用酵母中で機能するとともに、もろみ中のVDK濃度に影響を受けなければ、任意の組み合わせでよい。例えばグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH3)のプロモーター、3-ホスホグリセレートキナーゼ遺伝子(PGK1)のプロモーターなどが利用可能である。これらの遺伝子はすでにクローニングされており、例えばM. F. Tuite et al., EMBO J., 1, 603 (1982) に詳細に記載されており、既知の方法により容易に入手することができる。
【0027】
形質転換の際に用いる選択マーカーとしては、醸造用酵母の場合は栄養要求性マーカーが利用できないので、ジェネチシン耐性遺伝子(G418r)、銅耐性遺伝子(CUP1)(Marin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, 337 1984)、セルレニン耐性遺伝子(fas2m, PDR4)(それぞれ猪腰淳嗣ら, 生化学, 64, 660, 1992; Hussain et et al., gene, 101, 149, 1991)などが利用可能である。上記のように構築されるベクターは、宿主酵母に導入される。宿主酵母としては、醸造用に使用可能な任意の酵母、例えばビール,ワイン、清酒等の醸造用酵母等が挙げられる。具体的には、サッカロマイセス(Saccharomyces)属等の酵母が挙げられるが、本発明においては、ビール酵母、例えばサッカロマイセス パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)W34/70等、サッカロマイセス カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)NCYC453、NCYC456等、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC1951、NBRC1952、NBRC1953、NBRC1954等が使用できる。さらにウイスキー酵母、例えばサッカロマイセス セレビシエNCYC90等、ワイン酵母、例えば協会ぶどう酒用1号、同3号、同4号等、清酒酵母、例えば協会酵母 清酒用7号、同9号等も用いることができるが、これに限定されない。本発明においては、ビール酵母、例えばサッカロマイセス パストリアヌスが好ましく用いられる。
【0028】
酵母の形質転換方法としては一般に用いられる公知の方法が利用できる。例えば、例えば、エレクトロポレーション法“Meth. Enzym., 194, p182 (1990)”、スフェロプラスト法“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 p1929(1978)”、酢酸リチウム法“J.Bacteriology, 153, p163(1983)”、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 p1929 (1978)、Methods in yeast genetics, 2000 Edition : A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manualなどに記載の方法で実施可能であるが、これに限定されない。
より具体的には、宿主酵母を標準酵母栄養培地(例えばYEPD培地“Genetic Engineering. Vo1.1, Plenum Press, New York, 117(1979)”等)で、OD600nmの値が1〜6となるように培養する。この培養酵母を遠心分離して集め、洗浄し、濃度約1〜2Mのアルカリイオン金属イオン、好ましくはリチウムイオンで前処理する。この細胞を約30℃で、約60分間静置した後、導入するDNA(約1〜20μg)とともに約30℃で、約60分間静置する。ポリエチレングリコール、好ましくは約4,000ダルトンのポリエチレングリコールを、最終濃度が約20%〜50%となるように加える。約30℃で、約30分間静置した後、この細胞を約42℃で約5分間加熱処理する。好ましくは、この細胞懸濁液を標準酵母栄養培地で洗浄し、所定量の新鮮な標準酵母栄養培地に入れて、約30℃で約60分間静置する。その後、選択マーカーとして用いる抗生物質等を含む標準寒天培地上に植えつけ、形質転換体を取得する。 その他、一般的なクローニング技術に関しては、「モレキュラークローニング第3版」、“Methods in Yeast Genitics、A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, NY)”等を参照することができる。
【0029】
4.本発明の酒類の製法及びその製法によって得られる酒類
上述した本発明のベクターを製造対象となる酒類の醸造に適した酵母に導入し、その酵母を用いることによって所望の酒類でVDK、特にDA濃度を低く抑えることができ、香味を増した酒類を製造することができる。対象となる酒類としては、これらに限定されないが、例えば、ビール、ビールテイストドリンク、ワイン、ウイスキー、清酒などが挙げられる。
これらの酒類を製造する場合は、親株の代わりに本発明において得られた醸造酵母を用いる以外は公知の手法を利用することができる。したがって、原料、製造設備、製造管理等は従来法と全く同一でよく、VDK、特にDA濃度を低く抑えた酒類を製造するためのコストを増加させることはない。つまり、本発明によれば、香味安定性等に優れた酒類を、既存の施設を用い、コストを増加させることなく製造することができる。
【0030】
5.本発明の酵母の評価方法
本発明は、配列番号:1または配列番号:3の塩基配列を有する3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーまたはプローブを用いて、被検酵母の全ビシナルジケトン生産能または全ダイアセチル生産能について評価する方法に関する。このような評価方法の一般的手法は公知であり、例えば、WO01/040514号公報、特開平8−205900号公報などに記載されている。以下、この評価方法について簡単に説明する。
まず、被検酵母のゲノムを調製する。調製方法は、Hereford法や酢酸カリウム法など、公知の如何なる方法を用いることができる(例えば、Methods in Yeast Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory Press, p130 (1990))。得られたゲノムを対象にして、3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の塩基配列(好ましくは、ORF配列)に基づいて設計したプライマーまたはプローブを用いて、被検酵母のゲノムにその遺伝子あるいはその遺伝子に特異的な配列が存在するか否かを調べる。プライマーまたはプローブの設計は公知の手法を用いて行うことができる。
遺伝子または特異的な配列の検出は、公知の手法を用いて実施することができる。例えば、特異的配列の一部または全部を含むポリヌクレオチドまたはその塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチドを一つのプライマーとして用い、もう一方のプライマーとしてこの配列よりも上流あるいは下流の配列の一部または全部を含むポリヌクレオチドまたはその塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチドを用いて、PCR 法によって酵母の核酸を増幅し、増幅物の有無、増幅物の分子量の大きさなどを測定する。プライマーに使用するポリヌクレオチドの塩基数は、通常、10bp以上であり、15〜25bpであることが好ましい。
PCR 法の反応条件は、特に限定されないが、例えば、変性温度:90〜95℃、アニーリング温度:40〜60℃、伸長温度:60〜75℃、サイクル数:10回以上などの条件を用いることができる。得られる反応生成物はアガロースゲルなどを用いた電気泳動法等によって分離され、増幅産物の分子量を測定することができる。この方法により、増幅産物の分子量が特異部分のDNA 分子を含む大きさかどうかによって、その酵母の全ビシナルジケトン生産能または全ダイアセチル生産能について予測・評価する。また、増幅物の塩基配列を分析することによって、さらに上記性能についてより正確に予測・評価することが可能である。
【0031】
また、本発明においては、被検酵母を培養し、配列番号1の塩基配列を有する3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量を測定することによって、被検酵母の亜硫酸生成能を評価することもできる。この場合は、被検酵母を培養し、3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の産物であるmRNA又はたんぱく質を定量することによって可能である。mRNA又はたんぱく質の定量は、公知の手法を用いて行うことができる。例えば、mRNAの定量は例えばノーザンハイブリダイゼーションや定量的RT−PCRによって、たんぱく質の定量は例えばウエスタンブロッティングによって行うことができる(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1994-2003)。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明の詳細を述べるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
実施例1:3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(ScLEU2、nonScLEU2)のクローニング
特開2004-283169に記載の比較データベースを用いて検索した結果、ビール酵母ゲノム中に2つの3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、nonScLEU2およびScLEU2を見出した。それぞれの塩基配列を配列番号:1、配列番号:3に示す。得られた塩基配列情報を基に、それぞれ全長遺伝子を増幅するためのプライマーnonScLEU2_F(配列番号:5)/nonScLEU2_R(配列番号:6)、ScLEU2_F(配列番号:7)/ScLEU2_R(配列番号:8)を設計し、ゲノム解読株サッカロマイセス パストリアヌス W34/70株の染色体DNAを鋳型としたPCRによってnonScLEU2およびScLEU2の全長遺伝子を含むDNA断片を取得した。
【0034】
上記のようにして得られたnonScLEU2あるいはScLEU2遺伝子断片をTAクローニングによってpCR2.1-TOPOベクター(インビトロジェン社製)に挿入し、サンガーの方法(Sanger, Science, 214, 1215(1981))によって塩基配列を確認した。
【0035】
実施例2:ビール試醸中のnonScLEU2およびScLEU2遺伝子発現解析
ビール酵母サッカロマイセス パストリアヌスW34/70株を用いてビール試醸を行った。

麦汁エキス濃度 12.69%
麦汁容量 70L
麦汁溶存酸素濃度 8.6ppm
発酵温度 15℃
酵母投入量 12.8×106cells/mL

発酵液を経時的にサンプリングし、酵母増殖量(図1)、外観エキス濃度(図2)の経時変化を観察した。またこれと同時に酵母菌体をサンプリングし、調製したmRNAをビオチンラベルして、特開2004-283169に記載のビール酵母DNAマイクロアレイにハイブリダイズさせた。シグナルの検出はジーンチップオペレーティングシステム(GCOS;GeneChip Operating Software 1.0、アフィメトリクス社製)を用いて行った。nonScLEU2およびScLEU2遺伝子の発現パターンを(図3)に示す。この結果より、通常のビール発酵条件下において両遺伝子が発現していることが確認できた。
【0036】
実施例3:nonScLEU2およびScLEU2遺伝子の構成的発現
実施例1に記載のnonScLEU2/pCR2.1-TOPOおよびScLEU2/pCR2.1-TOPOをそれぞれ制限酵素SacIおよびNotI消化し、タンパク質コード領域全長を含む約1.1kbのDNA断片を調製する。それぞれの断片を制限酵素SacIおよびNotI処理したpYCGPYNotに連結させ、nonScLEU2構成的発現ベクターnonScLEU2/pYCGPYNotを構築する。これと同様の手順でScLEU2構成的発現ベクターScLEU2/pYCGPYNotを構築する。pYCGPYNotはYCp型の酵母発現ベクターであり、導入された遺伝子はピルビン酸キナーゼ遺伝子PYK1のプロモーターによって構成的に発現される。酵母での選択マーカーとしてジェネチシン耐性遺伝子G418rを、また大腸菌での選択マーカーとしてアンピシリン耐性遺伝子Amprを含んでいる。
【0037】
上述の方法で作製した構成的発現ベクターを用い、特開平07-303475に記載された方法でサッカロマイセス パストリアヌス バイヘンステファン34/70株を形質転換する。ジェネチシン300mg/Lを含むYPD平板培地(1%酵母エキス、2%ポリペプトン、2%グルコース、2%寒天)で形質転換体を選択する。
【0038】
実施例4:ビール試験醸造におけるVDK生成量の解析
親株ならびに実施例3で得られたnonScLEU2高発現株、ScLEU2高発現株を用いた発酵試験を以下の条件で行う。

麦汁エキス濃度 12%
麦汁容量 1L
麦汁溶存酸素濃度 約 8ppm
発酵温度 15℃一定
酵母投入量 5g湿酵母菌体/L麦汁

発酵醪を経時的にサンプリングし、酵母増殖量(OD660)、エキス消費量の経時変化を調べる。醪中の全VDKの定量は、VDK(DA及びPD)をヒドロキシルアミンと反応させ、生成したグリオキシム誘導体と2価鉄イオンが反応して生じる錯体の吸光度を測定することによって行う(Drews et al., Mon. fur Brau., 34, 1966)。この時、前駆体であるα-アセト乳酸及びα-アセトヒドロキシ酪酸をあらかじめガス洗い法(酸化的脱炭酸反応)によってそれぞれDA、PDに変換しておくことにより、これらを含めた全VDK量を求めることができる。また、DAの定量は、DAを含むα-ジケトンが、1,2-ジアミノベンゼンと反応して生じる誘導体の紫外部における吸光度をHPLCで測定することにより行う。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の酒類製造法によれば、製品中でオフフレーバーとなるVDK、とくにDA生産量が低減され、香味に優れた酒類を容易に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ビール試験醸造における酵母増殖量の経時変化を示す図である。横軸は発酵時間を、縦軸はOD660の値を示している。
【図2】ビール試験醸造におけるエキス消費量の経時変化を示す図である。横軸は発酵時間、縦軸は外観エキス濃度(w/w%)を示している。
【図3】ビール試験醸造中の酵母におけるnonScLEU2およびScLEU2遺伝子の発現挙動を示す図である。横軸は発酵時間、縦軸は検出されたシグナル輝度を示している。
【配列表フリーテキスト】
【0041】
[配列番号:5] プライマー
[配列番号:6] プライマー
[配列番号:7] プライマー
[配列番号:8] プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(f)のいずれかに記載のポリヌクレオチド:
(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d) 配列番号:2のアミノ酸配列に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e)配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(f)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項2】
以下の(g)〜(i)のいずれかである請求項1に記載のポリヌクレオチド:
(g)配列番号:2のアミノ酸配列又は配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h) 配列番号:2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(i)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
DNAである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項8】
以下の(j)〜(l)のいずれかであるポリヌクレオチドを含有するベクター。
(j)配列番号:4のアミノ酸配列又は配列番号:4のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(k) 配列番号:4のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(l)配列番号:3の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号:3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のベクターが導入された形質転換酵母。
【請求項10】
醸造時に全ビシナルジケトン生産量を低減し得る請求項9に記載の醸造用酵母。
【請求項11】
醸造時に全ダイアセチル生産量を低減し得る請求項9に記載の醸造用酵母。
【請求項12】
請求項6に記載のタンパク質の発現量を増加させることによって、醸造時に全ビシナルジケトン生産量を低減し得る請求項9に記載の醸造用酵母。
【請求項13】
請求項6に記載のタンパク質の発現量を増加させることによって、醸造時に全ダイアセチル生産量を低減し得る請求項9に記載の醸造用酵母。
【請求項14】
請求項9から13のいずれかに記載の酵母を用いた酒類の製造方法。
【請求項15】
醸造する酒類が麦芽飲料である請求項14に記載の酒類の製造方法。
【請求項16】
醸造する酒類がワインである請求項14に記載の酒類の製造方法。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれかに記載の方法で製造された酒類。
【請求項18】
配列番号:1または配列番号:3の塩基配列を有する3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーまたはプローブを用いて、被検酵母の全ビシナルジケトン生産能または全ダイアセチル生産能について評価する方法。
【請求項19】
被検酵母を培養し、配列番号:1又は配列番号:3の塩基配列を有する3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量を測定することによって、被検酵母の亜硫酸生成能を評価する方法。
【請求項20】
基準酵母および被検酵母を培養して配列番号:1又は配列番号:3の塩基配列を有する3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の各酵母における発現量を測定し、基準酵母よりも該遺伝子が高発現している被検酵母を選択する、酵母の選択方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−44016(P2007−44016A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235012(P2005−235012)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】