説明

5‐フルオロウラシルと1,4‐ジヒドロピリジン誘導体の薬学的組合せ、および癌治療におけるその利用

一般式(I)をもつ、2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ジカルボン酸エステルタイプの新規の化合物であって、該式において、Rは、メチルあるいはエチルである低級アルキル基であり、R1とR2は、カルボン酸ナトリウム‐メチルエステルであり、該新規の化合物は、5‐フルオロウラシルとの組合せで相乗的な細胞毒性効果をもつものである。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の水溶性の2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ジカルボン酸エステルタイプの化合物に関するものであり、該化合物は一般式Iをもつものである。
ここで、Rは、メチルまたはエチルである低級アルキル基であり、
1とR2は、カルボン酸ナトリウム‐メチルエステルである。
【化1】

【0002】
一般式Iをもつ、新規の水溶性の2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ジカルボン酸エステルタイプの化合物は、5‐フルオロウラシルとの組合せで相乗的な細胞毒性効果を有する。
【背景技術】
【0003】
癌は、動物および人間の主な死因である。癌患者に投与されるべき、活性を持ち且つ安全な抗腫瘍薬を得るために、いくつかの試みが成され、また今もなおその試みが続けられている。本発明によって解決されるべき問題は、癌治療において有益な更なる化合物を提供することである。
【0004】
5‐フルオロウラシル(5‐FU)は、フッ化ピリミジン類似体であって、結腸直腸癌、膵臓癌、乳癌、そして胃癌を含むさまざまな種類の癌の治療および苦痛緩和管理のための、代謝拮抗抗癌剤として広く利用されているものである。5‐フルオロウラシルは、治療不能だと見なされる癌患者によく処方される。実証されたその臨床的有用性にも拘わらず、用量制限することがあり得、また患者を5‐フルオロウラシルを使用する治療に耐えられなくしてしまうかもしれない、5‐フルオロウラシルの利用に関連したいくつもの重大な不利益がある。
【0005】
5‐フルオロウラシルの抗癌作用を増強することにより改善される治療適応を有する、癌治療に有用である新規の化合物、組成物、そして方法が、当該技術において非常に必要とされている。
【0006】
抗転移作用を有する2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ジカルボン酸のカルボン酸‐メチルエステルのジナトリウム塩(Carbatone)は、1980年3月6日に国際公開第80/00345号(INST ORGANICHESKOGO SINTEZA)において開示されているが、これは、一般式Iをもつ2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ジカルボン酸エステルタイプの化合物に最も類似した化合物である。
【0007】
同じCarbatoneが、ZIDERMANE,A氏その他“Potentiating effect of disodium salt of 2,6‐dimethyl‐1,4‐dihydropyridine‐3,5‐bis‐carbonyl hydroxyacetic acid on the activity of various antitumor agents.”(「2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ビス‐カルボニルヒドロキシ酢酸のジナトリウム塩の、さまざまな抗腫瘍薬の作用に対する増強効果」)Eksp Onkol.、1987年第9巻第2号50〜52ページに記載されたが、ここでは、該Carbatoneは、マウスにおいてシクロホスファン毒性を減らすために利用されたのであり、また白血病P388、マウス肉腫37、そしてウォーカー癌肉腫に対する、シクロホスファン、5‐フルオロウラシル、そしてアラビノシルシトシンの細胞増殖抑制作用を増強している。記載されたとおり、Carbatoneは抗腫瘍活性を示さなかった。
【0008】
ULDRIKIS,J氏その他“1,4−Dihydropyridine derivatives as a means for potentiating the action of antitumor preparations.”(「抗腫瘍製剤の作用を増強するための手段としての1,4‐ジヒドロピリジン誘導体」)LATVIJAS PSR ZINATNU AKADEMIJAS VESTIS,KIMIJAS SERIJA、1983年第1巻122〜123ページにおいて、2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ジカルボン酸のカルボン酸‐メチルエステルのジナトリウム塩(Carbatone)が、5‐フルオロウラシルの抗腫瘍活性を増すことが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の開示
本発明の目的は、5‐FUの細胞毒性効果を効果的に且つ相乗的に増強するであろう化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、新規の水溶性の2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ジカルボン酸エステルタイプの化合物を提供することにより達成され、該化合物は一般式Iをもつ。
ここで、Rは、メチルやエチルのような低級アルキル基であり、
1とR2は、カルボン酸ナトリウム‐メチルエステルである。
【化2】

【0011】
式Iに従った化合物は:
2,4,6‐トリメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ビス‐カルボニルオキシ酢酸のジナトリウム塩であって、式IVをもつものである。
【化3】

4‐エチル‐2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ビス‐カルボニルオキシ酢酸のジナトリウム塩であって、式VIをもつものである。
【化4】

【0012】
一般式Iをもつ化合物は5‐FUの細胞毒性効果を相乗的に増強するのであり、この特性のため、一般式Iをもつ化合物は薬剤に利用することができる。一般式Iをもつ化合物は、注射液剤としてまた錠剤として利用することができる。
【0013】
本発明の目的は、前記式Iの化合物の調製方法である。
【0014】
2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ジカルボン酸エステルタイプの化合物の調製のための一般的なプロセスは、アセト酢酸エステル誘導体の二つの分子、ホルムアルデヒドとアンモニアの縮合を含む。その後、エタノール中の水酸化ナトリウムで処理する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照にすることによって、より詳細に説明されるであろう。
【実施例1】
【0016】
2,4,6‐トリメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ビス‐カルボニルオキシ酢酸のジナトリウム塩の調製。
【化5】

【0017】
アセト酢酸の2‐メトキシカルボニルメチルエステル(2モル)は、アセトアルデヒド(1モル)とアンモニア(1モル)で縮合された。その後、2,4,6‐トリメチル‐3,5‐ビス(メトキシカルボニル)‐1,4‐ジヒドロピリジンが、エタノール中の水酸化ナトリウムで処理される。
【0018】
2,4,6‐トリメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ビス‐カルボニルオキシ酢酸のジナトリウム塩は、室温で乾かされた。収率76%。融点は278〜280℃。
【0019】
1H‐NMRスペクトル(400MHz,CDCl3)δ:0.90(3H,d,J=6.5Hz,4‐CH3);2.19(6H,s,2,6‐CH3);3.76(1H,kv,J=6.5Hz,4‐H);4.15および4.23(4H,ABカルテット,J=16Hz,3,5‐COOCH2CO);8.56(1H,pl.s,NH)。
【実施例2】
【0020】
4‐エチル‐2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ビス‐カルボニルオキシ酢酸のジナトリウム塩の調製。
【化6】

【0021】
アセト酢酸の2‐メトキシカルボニルメチルエステル(2モル)は、プロピオンアルデヒド(1モル)とアンモニア(1モル)で縮合された。その後、4‐エチル‐2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ビス‐カルボニルオキシ酢酸が、エタノール中の水酸化ナトリウムで処理される。
【0022】
4‐エチル‐2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ビス‐カルボニルオキシ酢酸のジナトリウム塩は、室温で乾かされた。融点は65〜67℃。
【0023】
1H‐NMRスペクトル(400MHz,DMSO,TMS)δ:0.59(3H,tr,CH3);1.23‐1.24(2H,m,CH2CH3);2.17(6H,s,2.6‐CH3);3.80(1H,tr,4‐CH);4.10(4H,kv,‐CH2‐);8.30(1H,s,N‐H)。
【実施例3】
【0024】
一般式Iをもつ新規の2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ジカルボン酸エステルタイプの化合物は、ヒト乳癌細胞MDA‐MB‐435sに対する該化合物の細胞毒性効果をインビトロで単独で、および5‐フルオロウラシルとの組合せで試験することによって、抗腫瘍効果があると評価された。
【0025】
細胞培養と細胞生存率の測定
MDA‐MB‐435s細胞を、10%のウシ胎児血清を含む、抗生物質のない、ダルベッコ変法イーグル培地の96ウェルプレートに播種し、そして5‐フルオロウラシルと、2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ジカルボン酸エステルタイプの化合物の、さまざまな濃度にさらして72時間、培養した。細胞生存率を、「Segarman氏その他、1985年」に記載されているように修正されたクリスタルバイオレット染色(CVS)試験を利用して測定した。つまり、細胞を1%のグルタルアルデヒドで15分間固定し、水で洗浄し、そして0.05%のクリスタルバイオレットで15分間、室温で染色した。水道水で洗浄することによって残余のクリスタルバイオレットを取り除いた後、クリスタルバイオレット染色剤を、エタノールクエン酸ナトリウム(1:1)緩衝液を用いて溶出し、そしてマイクロプレートリーダーを利用して、540nmでの吸光度を測定した。
【0026】
細胞生存率50%の減少を引き起こす化合物の濃度に相当する、IC50値を、個々の化合物およびそれらの組合せについて計算し、表1にまとめてある。
【0027】
一般式Iをもつ2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ジカルボン酸エステルタイプの化合物と5‐FUとを組合せる治療のIC50の結果は、表1にまとめられる。
【0028】
5‐フルオロウラシル、2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ジカルボン酸のカルボン酸‐メチルエステルのジナトリウム塩(Carbatone)、そして一般式Iをもつ2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ジカルボン酸エステルタイプの化合物、およびそれらの組合せ(モル比10:1における)についてのIC50であって、インビトロでのヒト乳癌細胞MDA‐MB‐435sの生存率についてのものである。
【表1】

【0029】
比較実験結果は、2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ジカルボン酸のカルボン酸‐メチルエステルのジナトリウム塩(Carbatone)を、単独でおよび5‐FUと組合せる治療で利用することによって得られた。Carbatoneは、MDA‐MB‐435s‐ヒト乳癌細胞における5‐FUの細胞毒性効果を相乗的に増強するが、2,4,6‐トリメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ビス‐カルボニルオキシ酢酸のジナトリウム塩および4‐エチル‐2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ビス‐カルボニルオキシ酢酸のジナトリウム塩ほどには効果的ではなく、これは表1に示されるとおりである。
【0030】
本発明を例証するのであり逸脱するわけではない、経口使用のための可能な医薬組成物は、以下の錠剤製品の組成である。
【表2】

【0031】
本発明を例証するのであり逸脱するわけではない、経口使用のための可能な医薬組成物は、以下のカプセル製品の組成である。
【表3】

【0032】
本発明を例証するのであり逸脱するわけではない、経口使用のための可能な医薬組成物は、以下の液剤および/またはシロップ剤製品の組成である。
【表4】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】国際公開第80/00345号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ジカルボン酸エステルタイプの化合物であって、一般式Iをもち、
ここで、Rは、メチルあるいはエチルである低級アルキル基であり、
1とR2は、カルボン酸ナトリウム‐メチルエステルである、化合物。
【化1】

【請求項2】
2,4,6‐トリメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ビス‐カルボニルオキシ酢酸のジナトリウム塩であり、式IVをもつ、請求項1に記載の化合物。
【化2】

【請求項3】
4‐エチル‐2,6‐ジメチル‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ビス‐カルボニルオキシ酢酸のジナトリウム塩であり、式VIをもつ、請求項1に記載の化合物。
【化3】

【請求項4】
薬剤としての利用のための、請求項1〜3のいずれか一つに記載の化合物。
【請求項5】
癌の治療における利用のための、請求項1〜3のいずれか一つに記載の化合物。
【請求項6】
癌治療用薬剤の製造のための、請求項1〜3のいずれか一つに記載の化合物の利用。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一つに記載の化合物および5‐フルオロウラシルを含む、組合せ医薬品。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか一つに記載の化合物と5‐フルオロウラシルとの有効成分の好ましい比率が、1:100〜100:1、さらに好ましくは1:20〜20:1、最も好ましくは10:1である、請求項7に記載の組合せ医薬品。
【請求項9】
薬剤としての、請求項7に記載の組合せ医薬品の利用。
【請求項10】
癌治療用薬剤の製造のための、請求項1から3のいずれか一つに記載の化合物と5‐フルオロウラシルを含む、請求項7に記載の組合せ医薬品の利用。
【請求項11】
請求項7に記載の組合せ医薬品ならびに薬学的に許容され得る希釈剤あるいは担体を含む、医薬組成物。

【公表番号】特表2012−520264(P2012−520264A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553453(P2011−553453)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053094
【国際公開番号】WO2010/103067
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(509126117)グリンデクス,ア ジョイント ストック カンパニー (9)
【氏名又は名称原語表記】GRINDEKS,a joint stock company
【Fターム(参考)】