5’−メチルチオアデノシンの神経保護特性
本発明は、神経細胞の損傷又は死の予防又は治療のための医薬品、神経保護的医薬品、神経細胞の再生のための医薬品、及び神経疾患又は精神疾患の予防又は治療のための医薬品の製造における活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用に関する。本発明は、神経細胞の損傷又は死を予防又は治療する方法、神経保護方法、神経細胞を再生する方法、及び神経疾患又は精神疾患を予防又は治療する方法にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経障害、精神障害及び老化の治療法の分野に関する。詳細には、本発明は低分子5’−メチルチオアデノシンの神経保護効果に関する。
【背景技術】
【0002】
老化、神経障害、及び精神障害は、神経細胞に死及び損傷を引き起こす。神経系に対する損傷としては、とりわけニューロン変性、虚血、炎症、免疫応答、外傷及びがんが多く見られ、また注目を集めている。これらの結果として、神経細胞は数分若しくは数時間内に死滅するか、又は神経変性を活性化する活動低下状態としてこの最初の損傷に対しては生存するが、同様に細胞死に帰結する。
【0003】
基礎的な運動技能及び感知を可能にする際の神経系の重要性を考慮すると、神経系を保護する治療法を見出すことは重要である。
【0004】
神経保護は、神経系、その細胞、構造、及び機能の保持、回復、治癒、又は再生を目的とする(非特許文献1)。神経保護の目的は、神経系に対する元々の損傷の効果を防止する若しくは最小限に抑えること、又は軸索、ニューロン、シナプス、及び樹状突起に対して損傷を引き起こす内因性若しくは外因性の有害プロセスの結果を防止する若しくは最小限に抑えることである。
【0005】
治療戦略は、一般に単一の提案された傷害因子の調節に基づくことが多い。かかる治療は高度に制御された動物モデルにおいては有益であることが分かっているが、遺伝的に多様な集団において傷害の重症度がより変動的となる、より複雑なヒト障害においても効果的であることが証明される可能性は低い(非特許文献2)。重要なことには、推定されるニューロン死の機構は、酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害、タンパク質凝集、アポトーシス、及び炎症等、複雑かつ様々なものであるため(非特許文献3)、複数の傷害機構に対する多能性効果を有する単一の化合物が望まれる。
【0006】
複数の神経保護的薬物が研究中であり、これには抗炎症剤、N−メチルDアスパラギン酸(NMDA)アンタゴニスト、α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソオキサゾールプロピオン酸(AMPA)アンタゴニスト、デキサナビノール、ナトリウムチャネル遮断剤、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、増殖因子、グルココルチコイド、カフェイノール、オピオイドアンタゴニスト、アポトーシス阻害剤、フリーラジカル捕捉剤/スカベンジャー、エリスロポエチン、カルシウムチャネル遮断剤、硫酸マグネシウム、スタチンのクラスが含まれる。
【0007】
これらの薬剤が二次的な生化学的損傷及び細胞死を制限する能力は、脳卒中、頭部傷害、及び脊髄傷害の多数の動物モデルにおいて良好に確立されているにもかかわらず、かかる神経保護的な治療戦略の結果は、ヒトの傷害においては望ましい結果が得られていない(非特許文献2)。それゆえ、好ましくは多能性効果を有し神経保護特性のある薬物の提供に対する継続的な必要性がある。
【0008】
5’−メチルチオアデノシン(MTA)は、ポリアミンスペルミン及びスペルミジンの合成中に、S−アデノシルメチオニン(SAM)から産生される親油性含硫アデニンヌクレオシドである。MTAは、サイズの小ささ及び親水性のために経口製剤に好適な薬物である。
【0009】
非特許文献4及び非特許文献5によれば、MTAは、炎症誘導性遺伝子及びサイトカイン(インターフェロン−γ、腫瘍壊死因子−α、及び誘導型一酸化窒素合成酵素)の産生を抑制すること、及び抗炎症性サイトカイン(インターロイキン10)の産生を増加させること;並びに脳の自己免疫疾患を回復させることによる免疫調節活性を有することが記載されており、その結果として多発性硬化症及び他の自己免疫疾患に利益のあることが示唆される。この点に関しては、特許文献1は、多発性硬化症(MS)等の自己免疫疾患の予防及び/又は治療、並びに移植拒絶反応の予防及び/又は治療へのMTAの使用を開示している。さらに、特許文献2(Bioresearch社)は、抗炎症性、解熱性、及び鎮痛性の化合物としてのMTAの使用を開示している。
【0010】
Kang et al.による2つの研究(非特許文献6、非特許文献7)において、MTAが反応性星膠症を部分的に阻害することができることが示唆された。星膠症(星状細胞増加症)は、典型的には低血糖又は酸素欠乏(低酸素)のために近傍のニューロンが破壊されて起こる、星状細胞数の異常な増加である。星膠症は筋萎縮性側索硬化症(ALS)における主要病理所見である。
【0011】
特許文献3(Bioresearch社)は、アデノシン化合物が、脳虚血若しくは心筋虚血の症例等の様々な虚血状況、又は任意の器官若しくは組織の虚血における治療上の使用に好適であることを開示している。
【0012】
Avila et al.(非特許文献8)による総説において、MTAが、遺伝子発現調節、増殖、分化及びアポトーシスを含む細胞の多数の重要な応答に影響を及ぼして、多数の手段で細胞プロセスを達成することができることが示唆されている。Avila et al.は、肝臓損傷及びがんのモデルにおける観察結果を考慮してMTAの治療上の可能性を提案している。
【0013】
驚くべきことに、MTAの神経保護能を研究する網羅的な取り組みにおいて、酸素及びグルコースを枯渇させた大脳皮質における星状細胞及びニューロンの保護;全脳虚血後の細胞死からのアンモン角(Cornu Ammonis)(CA1)海馬ニューロンの保護;興奮毒性及び虚血後の視神経組織損傷からのオリゴデンドロサイトの保護;興奮毒性に曝された神経膠−ニューロン(glial-neuronal)混合培養物の保護;軸索ジストロフィーの減少、並びにミエリン及び軸索の消失の防止において、MTAが実際に効果があることが見出された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2006097547号
【特許文献2】米国特許第4,454,122号
【特許文献3】欧州特許第526866号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Vajda et al. 2002, J Clin Neurosci 9:4-8
【非特許文献2】Faden and Stoica 2007, Arch Neurol.; 64:794-800
【非特許文献3】Youdim et al. 2005, TIPS 26:27-35
【非特許文献4】Moreno et al. Diss. Abstr. Int., C 2007, 68(1), 111
【非特許文献5】Moreno et al. Ann Neurol 2006; 60; 323-334
【非特許文献6】Kang et al. Zhongguo Shenjing Kexue Zazhi 1999, 15(4), 289-296
【非特許文献7】Kang et al. Yike Daxue Xuebao 1999, 26(5), 318-320
【非特許文献8】Avila et al. Int J Biochem Cell Biol. 2004; 36(11):2125-30
【発明の概要】
【0016】
本発明は、活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの、神経細胞の死又は損傷の予防又は治療のための医薬品の製造における使用に関する。換言すると、本発明は、神経細胞の死又は損傷の予防又は治療に使用される、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグに関する。同様に本発明は、神経細胞の死又は損傷を予防又は治療する方法であって、効果的な量のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経細胞の死又は損傷を予防又は治療する方法にも関する。
【0017】
本発明は、神経保護的医薬品の製造における活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用に関する。換言すると、本発明は、神経保護的薬物として使用されるMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグに関する。同様に本発明は、神経保護方法であって、効果的な量のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経保護方法に関する。
【0018】
本発明は更に、活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの、神経細胞の再生のための医薬品の製造における使用に関する。換言すると、本発明は、神経細胞の再生に使用されるMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグにも関する。同様に本発明は、神経細胞を再生する方法であって、効果的な量のMTA、又はその薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグの1つをそれを必要とする被験体に投与することを含む、神経細胞を再生する方法にも関する。
【0019】
本発明は更に、活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの、神経疾患又は精神疾患の予防又は治療のための医薬品の製造における使用に関する。換言すると、本発明は、神経疾患又は精神疾患の予防又は治療に使用される、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグにも関する。同様に本発明は、神経疾患又は精神疾患を予防又は治療する方法であって、効果的な量のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経疾患又は精神疾患を予防又は治療する方法にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】大脳皮質からのニューロンと星状細胞との混合培養物におけるMTA毒性プロファイルを示したグラフである。MTA毒性プロファイルは、大脳皮質からのニューロンと星状細胞との混合培養物において、化合物が分析濃度で無害であることを示す。(左側)カルセイン−AMを使用する生存率分析。(右側)乳酸脱水素酵素(LDH)放出分析。両方の事例において、MTAは分析濃度でニューロン−星状細胞共培養物に対して毒性ではない。
【図2】MTAが、大脳皮質から得られるニューロンと星状細胞との混合培養物を模倣虚血から保護することを示したグラフである。大脳皮質から得られたニューロンと星状細胞との混合培養物における、酸素−グルコース枯渇(OGD)誘導性の損傷及びMTAによる保護。20μM又は50μM(それぞれ左側及び右側)のヨード酢酸(IAA)を使用して、2つの虚血条件を分析した。両方の条件において、MTAは極めて保護的であった。比較のために、NMDA受容体のアンタゴニストである(2R)−アミノ−5−ホスホノ吉草酸(APV)も分析した。10μMのMTAは、APV(50μM)よりも更に保護的であった。*又は#はp<0.05;**又は##はp<0.01。
【図3】局所的虚血後のラットのMTAによる処理を示したグラフである。MTAは、90分の中大脳動脈(MCAO)の閉塞後の脳組織損傷を保護しない。MTAによる処理を虚血発症30分で開始した(1日2回腹腔内)。ラットは再潅流3日目で屠殺し、薄片に切断し、2,3,5−トリフェニル−2H−テトラゾリウムクロライド(TTC)により染色して損傷を受けた区域を観察した。値は、損傷を受けた領域の平均±平均値の標準誤差(SEM)を表す。
【図4】全脳虚血後のラットのMTAによる処理を示したグラフである。MTAは、10分の全脳虚血後の細胞死からCA1海馬ニューロンを保護する。MTAによる処理は虚血後30分で開始した(1日2回腹腔内)。ラットは再潅流7日目で屠殺し、切片を作製し、Fluoro−jadeにより染色して死細胞を観察した。値は、任意の単位(AU)における蛍光の平均±標準誤差を表す(P<0.01)。
【図5】オリゴデンドロサイトにおけるMTA毒性プロファイル及び興奮毒性の損傷からの保護を示したグラフである。(A)視神経に由来する培養オリゴデンドロサイトにおけるMTA毒性プロファイル。(B)MTAはAMPA(10μM)による低強度の興奮毒性の損傷からオリゴデンドロサイトを保護する。しかしながら、MTAは高AMPA投与量(100μM)による死からオリゴデンドロサイトを保護しない。
【図6】MTAが視神経を模倣虚血から保護することを示したグラフである。単離された視神経におけるOGD誘導性の損傷は、AMPA/カイニン酸と、NMDA受容体アンタゴニストである6−シアノ−7−ニトロ−キノキサリン−2,3−ジオン(CNQX)及びAPVのいずれか又は両者とによって減衰した(上部)。加えて、MTAも保護的である(下部)。*はp<0.05;**はp<0.01。
【図7】純粋ニューロン培養物における、NMDA媒介性の神経毒性の時間経過を示したグラフである。データは、12の実験の平均+標準誤差を表す。媒質と比較して、***はp<0.01。
【図8】純粋ニューロン培養物における、NMDA媒介性の神経毒性の濃度−反応曲線を示したグラフである。データは、12の実験の平均+標準誤差を表す。媒質と比較して、***はp<0.01。
【図9】純粋ニューロン培養物における、NMDA媒介性のカスパーゼ3活性の増加の時間経過を示したグラフである。データは、12の実験の平均+標準誤差を表す。媒質と比較して、**はp<0.05。
【図10】純粋ニューロン培養物における、NMDA媒介性の毒性に対するMTA(100μM〜500μM)の効果の欠如を示したグラフである。データは、12の実験の平均+標準誤差を表す。NMDAと比較して、MK(MK−801、10μM)***はp<0.001。
【図11】純粋ニューロン培養物における、NMDA媒介性のカスパーゼ3活性の増加に対するMTA(100μM〜500μM)の効果の欠如を示したグラフである。データは、12の実験の平均+標準誤差を表す。媒質及びNMDAと比較して、MK(MK−801、10μM)***はp<0.001。
【図12】ニューロン−神経膠の混合培養物における、NMDA媒介性のカスパーゼ3活性の増加に対するMTA(250μM)の効果を示したグラフである。データは、12の実験の平均+標準誤差を表す。媒質及びNMDAと比較して、MK(MK−801、10μM)***はp<0.001。
【図13.I】小脳器官型培養物における神経炎症モデルを示した図及びグラフである。A)共焦点顕微鏡検査によって得られたミエリン塩基性タンパク質(MBP)(緑色)及びニューロフィラメントサブユニット(NFL)(赤色)の免疫染色。対照培養物は、多くの場合軸索と一致する髄鞘(緑色)を示す(パネルa及びd)。15μg/mlのリポ多糖(LPS)の処理後の免疫染色は少数の有髄ニューロフィラメントしか示さない(パネルc及びf)が、5μg/mlのLPSにより処理した器官型培養物は、より髄鞘形成が保持され、軸索膨張は少なかった(パネルb及びe)。パネルg〜パネルiにおいて、ニューロフィラメント軽鎖染色を示す。15μg/mlのLPSにより処理した小脳器官型培養物は軸索膨張(パネルi中の矢印)及び軸索離断(パネルi中の矢頭)を示したが、対照及び5μg/mlのLPSにより処理した器官型培養においてそれらは存在しなかった。器官型培養物は24時間の処理後に染色した。スケールバーは、50μm(パネルa〜パネルc)、10μm(パネルd〜パネルf)及び20μm(パネルg〜パネルi)である。B)ELISAによって測定されたTNF−αの濃度。LPS処理(5μg/ml及び15μg/ml)はTNF−αの培地中への放出を誘導し、それは3時間でピークに達する。C)CNPase、APP、iNOS及びGAPDHのウエスタンブロット解析。15μg/mlのLPSは、24時間の処理で脱髄(第1のパネル上部)、軸索損傷(第2のパネル上部)及び酸化ストレス(第3の(thirst)パネル上部におけるiNOS)を誘導し、1時間で開始して96時間までGAPDHが増加する。5μg/mlでは、より少ない脱髄(第1のパネル下部)及び12時間でわずかな軸索の損傷(第2のパネル下部)が誘導される。酸化ストレス(iNOS及びDAPDH)は、15μg/mlのLPSにより処理した器官型培養物におけるものと同じ増加(第3のパネル下部及び第4の(fours)パネル下部)を示した。
【図13.II】マウスの小脳器官型培養物におけるミクログリアの活性化を示した図及びグラフである。A)共焦点顕微鏡により観察したMHCIIの標識。パネル2において、LPSにより処理しない対照(パネル1)と比較して、MHCIIについて多くの陽性細胞が観察することができる。パネル3において、パネル2における増加が観察される。B)グラフは、LPSによる処理が処理後3時間でどのようにMHCIIの活性化を誘導するかを示す。
【図14】神経炎症モデルにおける神経保護剤としてのMTAを示した図及びグラフである。A)共焦点顕微鏡検査によって得られたMBP(緑色)及びNFL(赤色)の免疫染色。対照培養物は、多くの場合軸索と一致する髄鞘(緑色)を示す(パネルa及びd)。15μg/mlのLPS処理後の免疫染色は少数の有髄ニューロフィラメントしか示さない(パネルb及びe)が、192μMのMTAにより処理した器官型培養は、多くの場合軸索と一致する髄鞘を示す(パネルc及びf)。パネルg〜パネルiにおいて、ニューロフィラメント軽鎖染色を示す。15μg/mlのLPSにより処理した小脳器官型培養物は軸索膨張(パネルh中の矢印)及び軸索離断(パネルh中の矢頭)を示し、対照及びMTAにより処理した器官型培養においてそれらは存在しなかった(パネルg及びパネルi)。器官型培養物は24時間の処理後に染色した。スケールバーは、50μm(パネルa〜パネルc)、5μm(パネルd〜パネルf)及び20μm(パネルg〜パネルi)である。B)ELISAによって測定したIL1−βの濃度。LPS処理は培地におけるIL1−βの放出を誘導し、3時間でピークに達する。MTA処理では、3時間でわずかな量のIL1−β放出が誘導される。C)CNPase及びAPPのウエスタンブロット解析。神経炎症モデルにおいて、15μg/mlのLPSは24時間の処理で脱髄(第1のパネル上部)及び軸索損傷(第2のパネル上部)を誘導し、MTAにより処理した器官型培養物においてそれら存在しなかった(第1及び第2のパネル下部)。
【図15】慢性EAEに罹患し、疾患発症後にMTAにより処理したC57B6マウスの臨床スコアを示したグラフである。1日目:2以上のEAEスコアを示したはじめの日である。プラセボ(黒四角)、96μmol/kgのMTA(白四角)。
【図16】プラセボ(黒色)又はMTA(白色)により処理した動物における、脊髄(頸髄及び腰髄)中の2つの位置での軸索密度定量化(方法中に記載されるように)を示したグラフである。
【図17】癲癇重積持続状態(SE)前のMTA(A)、SE後のMTA(B)又は媒質(C)のレジメンにより処理した成体ラットにおけるピロカルピン誘導性のSEの30日後の海馬のNeuN免疫反応性の代表的な例を示した図である。Aに示すSE前のMTA被験体は歯状回及び錐体細胞層中のニューロンをよく保持する一方で、SE後のMTA群におけるラットは歯状回中で軽度の細胞消失のみを示す(B中の矢印)。対照は、歯状回及びCA1領域の錐体細胞層の両方において重度の細胞消失を示す(C)。
【図18】SE後のMTAのラット海馬のCA1領域に対する効果を示したグラフである。90分のSEエピソードを、ピロカルピン処理により成体ラットにおいて誘導し、ジアゼパムにより終結させた。SEの終結直後にMTA処理を開始して、3日間毎日行った。MTA処理の終了の28日後にラットを屠殺した。対照ラットにはMTAの代わりトリスバッファーを投与した。平均±標準誤差を示す。MTA群の細胞数の増加は有意でない傾向が見出された(p=0.057)。
【図19】パーキンソン病の動物モデル(MPTPにより処理されたC57B6マウス)におけるドーパミン作動性ニューロン(TH細胞)の生存に対するMTAの効果を示したグラフである。対照動物は黒質中にTH細胞を正常密度で有する。MPTPにより処理した動物は、対照と比較して、THニューロン数が40%減少した。対照的に、MPTPに曝露した後にMTA(96μM)により処理した動物のTHニューロン数の減少は対照と比較して有意でなく(10%)、THニューロン数はMPTP動物よりも有意に高かった。
【図20A】ニューロン分化に対するMTAの効果を示した図である。NGF(100ng/ml)又は異なる濃度のMTAにより4日間処理したPC12細胞。異なる処理による神経突起発達の違いが観察された。
【図20B】ニューロン分化に対するMTAの効果を示したグラフである。4日間NGF(100ng/ml)又は異なるMTA濃度により処理したPC12細胞における神経突起の定量化。結果は、NGFによる対照に対する分化のパーセンテージとして表現される。
【図21A】NGF(100ng/ml)又は異なる濃度でMTAにより4日間処理したPC12細胞における異なる細胞内タンパク質のリン酸化のパーセンテージの定量化を、Luminex技術を使用して示したグラフである。
【図21B】NGF(100ng/ml)又は異なる濃度でMTAにより4日間処理したPC12細胞における異なる細胞内タンパク質のリン酸化のパーセントの定量化を、Luminex技術を使用して示したグラフである。
【図21C】NGF(100ng/ml)又は異なる濃度でMTAにより4日間処理したPC12細胞における異なる細胞内タンパク質のリン酸化のパーセントの定量化を、Luminex技術を使用して示したグラフである。
【図22】硫酸銅(150μM)によるストレスに曝露され、NGF(100ng/ml)又は異なるMTA濃度により24時間処理したRN22細胞における細胞生存率(MTT分析)のパーセンテージを示したグラフである。
【図23】硫酸銅(150μM)によるストレスに曝露され、NGF(100ng/ml)又は異なるMTA濃度により異なる期間で処理したRN22細胞におけるROSレベルの測定を示したグラフである。
【図24】過酸化水素(100μM)によるストレスに曝露され、異なるMTA濃度により24時間処理したRN22細胞における細胞生存率(MTT分析)のパーセンテージを示したグラフである。
【図25】過酸化水素(100μM)によるストレスに曝露され、異なるMTA濃度により異なる期間で処理したRN22細胞におけるROSレベルの測定を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、神経細胞の死又は損傷の予防又は治療のための医薬品の製造における、活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用に関する。換言すると、本発明は、神経細胞の死又は損傷の予防又は治療に使用される、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグに関する。同様に本発明は、神経保護方法であって、効果的な量のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経保護方法に関する。
【0022】
本発明はまた、神経保護的医薬品の製造における活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用に関する。換言すると、本発明はまた、神経保護的薬物として使用されるMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグにも関する。同様に本発明はまた、神経細胞の死又は損傷を予防又は治療する方法であって、効果的な量のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経細胞の死又は損傷を予防又は治療する方法にも関する。
【0023】
MTA(本明細書において5’−メチルチオアデノシンとも称される)は例えばSigma社によって提供され得る商品である。代替的には、この化合物は、Schlenk F. et al., Arch. Biochem. Biophys., 1964, 106:95-100によって記載される手順に従って、当業者に既知の方法によって、例えばS−アデノシル−メチオニン(SAM)から得ることができる。MTAのCAS登録番号は2457−80−9であり、その構造式は以下の通りである。
【化1】
【0024】
「プロドラッグ」という用語は、本明細書に使用される場合、個体への投与によって、MTA又はその薬学的に許容可能な塩を、直接適又は間接的に、上記個体に提供することができる、MTAに由来する任意の化合物(例えば、エステル、アミド、リン酸塩等)を含む。好ましくは、上記誘導体は、個体に投与した場合、MTAのバイオアベイラビリティを増加させるか、又は生物学的コンパートメント中でのMTAの放出を促進する化合物である。上記誘導体が個体に投与され、それが個体の生物学的コンパートメント中でMTAを提供すれば、上記誘導体の性質は重要ではない。上記プロドラッグの調製は当業者に既知の従来の方法によって行うことができる。MTAのプロドラッグは、例えば、リボース環のヒドロキシル基のいずれか1つ又は両方に対するプロモイエティ(promoiety:修飾基)の付着によって都合よく調製することができる。MTAプロドラッグの一例は、2’−[(2Z)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メトキシ−2−プロペノエート]−3’−[(2E)−3−(1H−イミダゾール−4−イル)−2−プロペノエート]−5’−S−メチル−5’−チオ−アデノシンである(Journal of Medicinal Chemistry, 47(9):2243-2255, 2004)。MTAのプロドラッグ又は前駆体の別の例は、S−アデノシルメチオニン(SAM)である。
【0025】
「薬学的に許容可能な」という用語は、化合物又は化合物の組み合わせが配合物の他の成分と十分に適合し、それらの業界基準によって許容されるレベルまでは患者に有害ではないことを意味する。
【0026】
治療上の使用においては、5’−メチルチオアデノシンの塩はそのカウンターイオンが薬学的に許容可能なものである。
【0027】
本明細書において述べられるような塩という用語は、MTAが形成できる任意の安定した塩を含むことを意味する。薬学的に許容可能な塩が好ましい。薬学的に許容されない塩は薬理活性を有する化合物の調製において有用であり得る中間体を指すので、薬学的に許容されない塩も本発明の範囲内に包含される。
【0028】
塩は、無機酸(ハロゲン化水素酸、例えば塩酸臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、等の酸);又は有機酸(例えば、酢酸、プロパン酸、ヒドロキシ酢酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸(すなわちエタン二酸)、マロン酸、コハク酸(すなわちブタン二酸)、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸(すなわちヒドロキシブタン二酸)、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、シクラミン酸、サリチル酸、p−アミノサリチル酸、パモン酸等の酸)のような適切な酸によりMTAの塩基形態を処理することによって、都合よく得ることができる。
【0029】
薬学的に許容可能な塩は、無機酸(例えば塩酸、臭化水素酸等を含むハロゲン化水素酸;硫酸;硝酸;リン酸等);又は有機酸(例えば、酢酸、プロパン酸、ヒドロキシ酢酸、2−ヒドロキシプロパン酸、2−オキソプロパン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパン−トリカルボン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4−メチルベンゼン−スルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、2−ヒドロキシ安息香酸、4−アミノ−2−ヒドロキシ安息香酸等の酸)のような適切な薬学的に許容可能な酸によりMTAの塩基形態を処理することによって、得ることができる。
【0030】
反対に、塩形態はアルカリによる処理によって遊離塩基形態に転換することができる。
【0031】
「予防すること」という用語は、かかる用語が適用される疾患、障害、若しくは病態、又は疾患、障害、若しくは病態と関連する1つ又は複数の症状が起こること、存在することを避けること、又は代替的には発症若しくは再発を遅らせることを指す。「予防」という用語は、「予防すること」が直前で定義されたように、予防する行為を指す。
【0032】
「治療すること」という用語は、本明細書に使用される場合、かかる用語が適用される障害若しくは病態、又はかかる障害若しくは病態の1つ又は複数の症状の進行を回復、緩和、又は阻害することを指す。「治療」という用語は、「治療すること」が直前で定義されたように、治療する行為を指す。
【0033】
「被験体」という用語は、動物、特にイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ガチョウ、及びヒト等の哺乳動物を意味する。特に好ましい被験体は両性別のヒトを含む哺乳動物である。
【0034】
「効果的な量」のMTA及びその薬学的に許容可能な塩は、1日当たり0.01mg〜50g、1日当たり0.02mg〜40g、1日当たり0.05mg〜30g、1日当たり0.1mg〜20g、1日当たり0.2mg〜10g、1日当たり0.5mg〜5g、1日当たり1mg〜3g、1日当たり2mg〜2g、1日当たり5mg〜1.5g、1日当たり10mg〜1g、1日当たり10mg〜500mgの範囲であり得る。
【0035】
神経細胞は、脳、脊髄、視神経、網膜、及び末梢神経節の任意の領域からのそれらの細胞を含む。ニューロンには、海馬、小脳、脊髄、皮質(例えば、運動皮質又は体性感覚皮質)、線条体、前脳基底部(コリン作動性ニューロン)、腹側中脳(黒質の細胞)、及び青斑核(中枢神経系の神経アドレナリン細胞)からの組織を含む、胚、胎児、又は成体の神経組織中のものが含まれる。
【0036】
本発明の1つの実施形態において、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、酸化ストレス条件等の化学物質、毒性物質、感染性生物、放射線、外傷、低酸素、虚血、ミスフォールドした異常タンパク質、興奮性毒、フリーラジカル、小胞体ストレッサー、電子伝達連鎖の阻害剤を含むがこれらに限定されないミトコンドリアストレッサー、ゴルジ体アンタゴニスト、軸索の損傷又は消失、脱髄、炎症、病理学的ニューロン破壊(発作)から選択されるが、これらに限定されていない神経細胞の死又は損傷に関連する1つ又は複数の、好ましくは2つ以上の病理学的条件又は有害条件の予防又は治療に使用することができる。更に好ましくは、本発明の使用及び方法は、原因にかかわらず神経細胞の死又は損傷の予防又は治療に関する。
【0037】
「神経保護」、「神経保護的」、又は、「神経保護効果」という用語は、ニューロン及び神経膠を含む神経細胞に対する死又は損傷を防止又は減少させる能力、又は例えば、脳、中枢神経系若しくは末梢神経系に対する病理学的条件又は有害条件の後に、神経細胞を救済(rescuing)、蘇生(resuscitating)、復活させる能力を指す。したがって、この神経保護効果には、ニューロンの細胞がそれらのニューロン機能を維持又は回復する能力の付与が含まれる。神経保護効果は、ニューロン細胞の細胞膜を安定化するか、又はニューロン細胞の機能の正常化を助ける。神経保護効果はニューロン細胞の生存率又は機能の消失を防止する。神経保護効果は細胞死をもたらす進行性のニューロン劣化の阻害を含む。神経保護効果はストレスからの任意の検出可能なニューロンの保護も指す。神経保護には、疾患又は外傷後の神経細胞の再生(すなわち神経細胞集団の再増殖)が含まれる。
【0038】
現在、大多数の神経疾患及び精神疾患には、「疾患修飾性薬物」と称される、疾患の経過を停止又は改善することを目的とした特異的な治療がない。疾患修飾性薬物は、かかる疾患に一般に使用されるがその疾患の経過を変更しない対症療法とは対照的である。神経保護薬物は、脳疾患の治療のための疾患修飾性薬物(DMD)である。
【0039】
それゆえ、1つの実施形態において、本発明は、神経細胞の再生のための医薬品の製造における活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用に関する。換言すると、本発明は、神経細胞の再生に使用するMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグに関する。同様に本発明は、神経細胞を再生する方法であって、効果的な量のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経細胞を再生する方法に関する。
【0040】
神経保護は、例えばストレス後の大脳皮質培養物においてアポトーシスを起こしたニューロンの数の減少によって、ニューロン死の遅延又は防止を測定すること等により、直接決定することができる。神経保護は、例えば中大脳動脈閉塞(MCAO)又は再潅流傷害後の脳梗塞のサイズの減少を測定すること等によって、かかるストレス後の神経系の組織若しくは器官に対する損傷の重症度若しくは程度の測定等又は神経系の組織若しくは器官による機能消失の測定等によっても直接決定することができる。また、神経保護は磁気共鳴イメージング(脳体積の測定、トラクトグラフィー、分光法によるN−アセチルアスパラギン酸(acetylasparte)のレベル)、又は光干渉イメージングによる網膜結像(網膜神経線維層の菲薄化)若しくは網膜分光法(シトクロムc、酸素ヘモグロビン、乳酸塩、グルタミン酸塩、iNOSのレベル)によって同定することができる。代替的には、神経保護は、Keap1/Nrf2経路の活性化又はヘムオキシゲナーゼ1(HO−1)を含むがこれらに限定されない1つ又は複数のフェーズ2酵素の誘導の検出を含むが、これらに限定されないニューロンの保護のための1つ又は複数の生物学的機構の活性化を検出することによって間接的に決定することができる。神経保護を検出及び測定する方法は、以下の実施例において提供され、他のかかる方法は当該技術分野において既知である。
【0041】
本発明中のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを用いる様々な使用及び方法は、急性投与(すなわち傷害から数分〜約数時間内に行う)又は慢性投与(慢性的な神経疾患又は精神疾患に好適)を含む。
【0042】
本発明の1つの実施形態において、神経保護、又は神経細胞の死若しくは損傷の予防若しくは治療、又は神経細胞の再生での様々な使用及び方法において、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、神経疾患又は精神疾患に罹患する被験体に投与される。
【0043】
神経疾患は中枢神経系及び末梢神経系の障害であり、脳、脊髄、脳神経、末梢神経、神経根、自律神経系、神経筋接合部、及び筋肉の障害を含む。
【0044】
中枢神経系及び末梢神経系の疾患としては、これらに限定されないが、臨床兆候の知識が進行するのに伴い、透明中隔欠損、酸リパーゼ疾患、酸マルターゼ欠損、後天的癲癇性失語症、急性播種性脳脊髄炎、アジー瞳孔、アディー症候群、脳梁の副腎白質萎縮症、失認、アイカルディ症候群、アイカルディ・グチエール症候群障害、後天性免疫不全症候群の神経系の合併症、アレキサンダー病、アルパーズ病、交代性半側麻痺、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、無脳症、動脈瘤、アンジェルマン症候群、血管腫症、無酸素症、抗リン酸脂質症候群、失語症、失行症、クモ膜嚢腫、クモ膜炎、アーノルド・キアリ症候群、動静脈奇形、アスペルガー症候群、運動失調、欠陥拡張性失調症、運動失調及び小脳変性又は脊髄小脳変性、心房細動及び卒中、注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症、自律神経機能不全、背部痛、バース症候群、バッテン病、ベッカー型ミオトニア、ベーチェット病、ベル麻痺、良性特発性眼瞼痙攣、骨盤内腫瘤、良性脳圧亢進症、ベルンハルト−ロート症候群、ビンスワンガー病、眼瞼痙攣、ブロッホ−サルズバーガー症候群、腕神経叢分娩時外傷、腕神経叢損傷、ブラッドバリー・エグルストン症候群、脳腫瘍及び脊椎腫瘍、中大脳動脈瘤、脳梗塞、脳虚血、脳損傷、ブラウン・セカール症候群、球脊髄性筋萎縮症、カダシル(皮質下梗塞及び白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症)、カナバン疾患、手根管症候群、灼熱痛、海綿腫、海綿状血管腫、海綿状奇形、中心性頚髄損傷、脊髄中心症候群、中枢痛症候群、橋中心髄鞘崩壊、頭部症候群(Cephalic Disorders)、セラミダーゼ欠損症、小脳変性、小脳低形成、脳動脈瘤、脳動脈硬化症、脳萎縮、ウェルニッケ脳症(Cerebral Beriberi)、中枢神経系海綿状血管腫、大脳性巨人症、脳低酸素、脳性小児麻痺、眼脳腎症候群、シャルコー・マリー・トゥース疾患、キアリ奇形、コレステロールエステル欠乏性疾患、舞踏病、神経有棘赤血球症、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、慢性起立性調節障害、慢性疼痛、II型コケーン症候群、コフィン・ローリー症候群、COFS、脳梁欠損、昏睡、複合性局所疼痛症候群、先天性眼筋麻痺、先天性筋無力症、先天性ミオパシー、先天性血管海綿状奇形、大脳皮質基底核変性症、頭部動脈炎、頭蓋骨癒合症、クロイツフェルト・ヤコブ病、累進性心的外傷障害、クッシング症候群、巨細胞性封入体病、サイトメガロウイルス感染、傍腫瘍性眼球クローヌス・ミオクローヌス運動失調(Dancing Eyes-Dancing Feet Syndrome)、ダンディー・ウォーカー症候群、ドーソン病(Dawson disease)、ド・モルシア症候群、パーキンソン病への深部脳刺激、デジェリン・クルムプケ麻痺、痴呆、多発梗塞性痴呆、早発痴呆、皮質下痴呆、レビー小体認知症、ミオクローヌス性小脳性協働収縮異常症、歯状赤核小脳萎縮、皮膚筋炎、発達性協調運動障害、ドゥビック症候群、糖尿病性神経障害、びまん性硬化症、乳児重症ミオクロニー癲癇(Dravet Syndrome)、自律神経失調、書字障害、失読症、嚥下障害、統合運動障害、ミオクローヌス性小脳性共同運動障害、進行性小脳性共同運動障害、筋緊張異常、大田原症候群(Early Infantile Epileptic Encephalopathy)、トルコ鞍空洞症候群、脳炎、嗜眠性脳炎、脳瘤、脳障害、脳障害、頭蓋内石灰化と慢性的な脳脊髄液のリンパ球増加を伴う家族性脳症(familial infantile, with intracranial calcification and chronic cerebrospinal fluid lymphocytosis);クレー脳炎(Cree encephalitis);偽トーチ症候群;偽トキソプラズマ症候群、脳三叉神経領域血管腫症、癲癇、癲癇性半身麻痺、エルブ・デュシェンヌ及びデジェリン・クルムプケ麻痺、エルブ麻痺、特発性振戦、橋中心髄鞘崩壊、ファブリー病、ファール症候群症候群、失神、家族性自律神経失調症、家族性血管腫、家族性特発性基底核石灰化症、家族性周期性四肢麻痺、家族性痙性脊髄麻痺、ファーバー疾患、熱性けいれん、線維筋性過形成症、フィッシャー症候群、筋緊張低下児症候群、下垂足、フリードライヒ運動失調、前頭側頭型認知症、ガングリオシドーシス、ゴーシェ病、ゲルストマン症候群、ゲルトマン・ストロイスラー・シャインカー病、巨大軸索神経病、巨細胞動脈炎、巨細胞性封入体病、グロボイド細胞性ロイコジストロフィ、舌咽神経痛、グリコーゲン蓄積症、ギランバレー症候群、ハレルフォルデン−スパッツ病、頭部損傷、頭痛、連続性偏頭痛(Hemicrania Continua)、片側顔面痙攣、交代性片麻痺、遺伝性ニューロパシー、遺伝性痙性対麻痺、遺伝性多発神経炎性失調、帯状ヘルペス、耳性帯状ヘルペス、平山症候群(Hirayama Syndrome)、ホームズ−エーディ症候群、全前脳欠損症、HTLV−1関連ミエロパチー、ヒューズ症候群、ハンチントン疾患、水頭無脳症、水頭症、正常圧水頭症、副腎皮質ホルモン過剰症、過睡眠、緊張亢進、低血圧症、低酸素症、免疫介在性脳脊髄炎(Immune-Mediated Encephalomyelitis)、封入体筋炎、色素失調症、小児片麻痺、乳児神経軸索性ジストロフィー、乳児レフスム病(Infantile Phytanic Acid Storage Disease)、乳児レフスム病(Infantile Refsum Disease)、乳児けいれん(Infantile Spasms)、炎症性ミオパシー、後頭孔脳脱出、腸リポジストロフィ(Intestinal Lipodystrophy)、頭蓋内嚢腫(Intracranial Cysts)、頭蓋内圧亢進、アイザック症候群、ジュベール症候群、カーンズ−セイヤ症候群、ケネディー病、傍腫瘍性眼球クローヌス・ミオクローヌス運動失調(Kinsbourn syndrome)、クライン−レヴィン症候群、クリッペル・ファイル症候群、クリッペル−トレノーネイ症候群(KTS)、クリューバー・ビュシー症候群、コルサコフ健紡症候群(Korsakoff's Amnesic Syndrome)、クラッベ病、クーゲルバーグ−ヴェランダー病、クールー病、ランバート−イートン筋無力症候群、ランドウ・クレフナー症候群、外側大腿皮神経封入(Lateral Femoral Cutaneous Nerve Entrapment)、外側髄症候群、学習障害、リー症候群(Leigh's Disease)、レノックス・ガストー症候群、レッシュ・ナイハン病(Lesch-Nyhan Syndrome)、白質異栄養症、神経有棘赤血球症(Levine-Critchicy Syndrome)、レビー小体認知症、脂質貯蔵疾患、類脂質性蛋白症、無脳回症、閉込め症候群、ルー・ゲーリック病(筋萎縮性側索硬化症)、ループス神経学的後遺症(Lupus - Neurological Sequelae)、ライム病−神経学的合併症、マシャド・ジョセフ病、巨大脳髄症、巨脳症、メルカーソン−ローゼンタール症候群、髄膜炎、髄膜炎及び脳炎、メンケス病、知覚異常性神経痛、異染性白質ジストロフィー、小頭症、偏頭痛、ミラー・フィッシャー症候群、軽度認知機能障害、小発作、ミトコンドリアミオパシー、メービウス症候群、平山病(Monomelic Amyotrophy)、運動ニューロン疾患、もやもや病、ムコリピドーシス、ムコ多糖症、多巣性運動ニューロパシー、多発梗塞性痴呆、多発性硬化症、多系統萎縮症、起立性低血圧を伴う多系統萎縮症、筋ジストロフィー、先天的筋無力症、重症筋無力症、アルパーズ症候群(Myelinoclastic Diffuse Sclerosis)、幼児のミオクロニー脳症、ミオクローヌス、ミオパシー、先天的ミオパシー、甲状腺中毒性ミオパシー、ミオトニー、先天性筋緊張症、ナルコレプシー、神経有棘赤血球症(Neuroacanthocytosis)、脳への鉄の蓄積を伴う神経変性、神経線維腫症、神経弛緩薬性悪性症候群、AIDSの神経性合併症、ライム病の神経性合併症、サイトメガロウィルス感染神経性の後遺症(Neurological Consequences)、ポンペ病の神経症状、ループスの神経性後遺症、視神経脊髄炎、神経ミオトニー、ニューロンセロイド脂褐素沈着症、神経細胞移動障害、遺伝的ニューロパシー、神経サルコイドーシス、神経毒性、海綿状母斑、ニーマン−ピック病、正常圧水頭症、後頭神経痛、大田原症候群、オリーブ橋小脳萎縮症、眼球クローヌス・ミオクローヌス、起立性低血圧、オサリバン−マクレオド症候群、濫用症候群、慢性疼痛、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症、腫瘍随伴症候群、触覚性錯覚、パーキンソン病、発作性舞踏病、発作性片側頭痛、ペイリー−ロンベルグ病、ペリツェウス−メルツバッハー病、ペナ−ショッカーII症候群、テイラー嚢胞(Perineural Cysts)、周期性四肢麻痺、末梢ニューロパシー、脳室周囲白質軟化症、脳室周囲白質軟化症、広汎性発達障害、フィタン酸蓄積症、ピック病、圧迫神経、梨状筋症候群、下垂体腫瘍、多発性筋炎、ポンペ病、孔脳症、疱疹症後神経痛、後感染性脳脊髄炎、ポリオ後症候群、体位性低血圧、体位性起立性頻拍症候群、体位性頻拍症候群、主歯状核の萎縮、原発性側索硬化症、原発性進行性失語、プリオン病、進行性顔面片側萎縮症、進行性歩行性運動失調症、進行性多巣性白質脳症、進行性硬化性ポリオジストロフィー、進行性核上性麻痺、相貌失認、偽脳腫瘍、ラムゼー−ハント症候群I(以前そのように知られた)、ラムゼー−ハント症候群II(以前そのように知られた)、ラスムッセン脳炎、反射性交感神経性ジストロフィー症候群、レフサム病、乳児のレフサム病、累積外傷性障害、反復ストレス障害、下肢静止不能症候群、レトロウイルス関連脊髄症、レット症候群、ライ症候群、リウマチ性脳炎、ライリー・デイ症候群、仙骨神経根の嚢胞、舞踏病、唾液腺疾患、サンドホフ病、シルダー病、脳裂、ザイテルバーガー病、発作性障害(Disorder)、語義痴呆、中隔視神経異形成症、乳児期の重症ミオクロニー癲癇(SMEI)、揺さぶられっ子症候群、帯状疱疹、シャイ−ドレーガー症候群、シェーグレン症候群、睡眠時無呼吸、眠り病、ソトス症候群、痙縮、脊椎破裂、脊髄梗塞、脊髄損傷、脊髄腫瘍、脊髄性筋萎縮症、脊髄小脳萎縮症、脊椎小脳変性症、スティール−リチャードソン−オルゼウスキー症候群症候群、全身硬直症候群、線条体黒質変性症、脳卒中、スタージ−ウェーバー症候群、亜急性硬化性全脳炎、皮質下動脈硬化性脳症、SUNCT頭痛、嚥下障害、シデナム舞踏病、卒倒、梅毒性脊髄麻痺、脊髄空洞症(Syringohydromyelia)、脊髄空洞症(Syringomyelia)、全身性エリテマトーデス、脊髄癆、脊髄癆、ターロブ嚢胞、テイ・サックス病、ターロブ嚢胞、脊髄係留症候群、トムゼン病(Thomsen's Myotonia)、胸郭出口症候群、甲状腺中毒性ミオパシー、三叉神経痛、トッド麻痺、トゥレット症候群、一過性虚血発作、伝達性海綿状脳症、横断性脊髄炎、外傷性脳損傷、振戦、三叉神経痛、熱帯性痙性不全対麻痺症、トロイヤー症候群、結節性硬化症、血管勃起腫瘍(Vascular Electile Tumor)、中枢神経系及び末梢神経系の血管炎症候群、フォン−エコーノモ病、フォンヒッペル−リンダウ病(VHL)、フォンレックリングハウゼン病、ワレンベルク症候群、ウェルドニッヒ・ホフマン病、ウェルニッケ−コルサコフ症候群、ウェスト症候群、むちうち、ウィップル病、ウィリアムズ症候群、ウィルソン病、ウォルマン病、X連鎖球脊髄性萎縮症、ゼルウィガー症候群、視神経炎、慢性疲労症候群、線維筋痛症、精神疾患(気分障害、大うつ病、双極性障害、精神異常(psycosis)、精神分裂病、強迫性障害等)、アルコール依存及び薬物乱用のような毒物又は薬物乱用疾患、肝性脳症のような脳障害が挙げられる。
【0045】
精神障害としては、アメリカ精神医学会により出版された精神障害の診断・統計の手引き(the Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)、第4版(DSM−IV)に列挙されたものが挙げられ、子供及び大人両方の全ての精神健康障害をカバーする。特に、精神障害としては、急性ストレス障害から選択される障害;不定型の適応障害;不安を伴う適応障害;うつ気分を伴う適応障害;行動障害を伴う適応障害;混合型不安及びうつ気分を伴う適応障害;混合型気分障害及び行動障害を伴う適応障害;パニック障害の病歴を伴わない広場恐怖症広場恐怖症;神経性無食欲症;反社会的人格障害;健康状態から来る不安障害;不安障害、NOS;回避性人格障害;双極性障害NOS;完全緩解にある、最新のエピソードがうつである、双極性I障害;部分的緩解にある、最新のエピソードがうつである、双極性I障害;最新のエピソードがうつである、穏やかな、双極性I障害;最新のエピソードがうつである、適度の、双極性I障害;最新のエピソードがうつである、精神病の特徴を伴う、重症の双極性I障害;最新のエピソードがうつである、精神病の特徴を伴わない、重症の双極性I障害;最新のエピソードがうつである、不定型の双極性I障害;完全緩解の、最新のエピソードが躁である、双極性I障害;部分的緩解の、最新のエピソードが躁である、双極性I障害;最新のエピソードが躁である、穏やかな、双極性I障害;最新のエピソードが躁である、適度の双極性I障害;精神病の特徴を伴う、最新のエピソードが躁である、重症の双極性I障害;精神病の特徴を伴わない、最新のエピソードが躁である、重症の、双極性I障害;最新のエピソードが躁である、不定型の双極性I障害;完全緩解の、最新のエピソードが混合型の双極性I障害;部分的緩解の最新のエピソードが混合型の双極性I障害;最新のエピソードが混合型の、穏やかな双極性I障害;最新のエピソードが混合型で、適度の、双極性I障害;最新のエピソードが混合型で、精神病の特徴を伴う、重症の、双極性I障害;最新のエピソードが混合型で、精神病の特徴を伴わない、重症の、双極性I障害;最新のエピソードが混合型で、不定型の、双極性I障害;最新のエピソードが混合型で、不定型の双極性I障害;最新のエピソードが不定型の双極性I障害;最新のエピソードが軽躁の、双極性I障害;完全緩解の、単一躁エピソードの、双極性I障害;部分的緩解の、単一躁エピソードの、双極性I障害;単一躁エピソードの、穏やかな、双極性I障害;単一躁エピソードの、適度な、双極性障害、;精神病の特徴を伴う、単一躁エピソードの、重症の双極性I障害;精神病の特徴を伴わない、単一躁エピソードの、重症の双極性I障害;単一躁エピソード、不定型の、双極性I障害;双極性II障害;身体醜形障害;ボーダーライン人格障害;呼吸関連睡眠障害;短期的精神障害;神経性過食症;サーカディアンリズム睡眠障害;会話障害;循環障害;妄想性障害;依存性人格障害;離人症性障害;うつ病性障害NOS;解離性健忘;解離性障害NOS;解離性遁走;乖離性同一性障害(多重人格);性交疼痛;睡眠異常NOS;(他の障害)に関連する睡眠異常;気分変調性の障害; 摂食障害NOS;露出症;健康状態から来る女性の性交疼痛;健康状態から来る女性の不感症;女性の冷感症(Orgasmic Disorder);女性の冷感症(Sexual Arousal Disorder);フェティシズム;フロッテリズム(Frotteurism);青年又は大人における性同一性障害;子供における性同一性障害;性同一性障害NOS;全般性不安障害;演技性人格障害;冷感症(Hypoactive Sexual Desire Disorder);心気症;衝動制御障害NOS;(他の障害に関連する)不眠症;間欠性爆発性障害;盗癖;完全緩解で、再発の、大うつ病性障害;部分的緩解で、再発の、大うつ病性障害;穏やかな、再発の、大うつ病性障害;適度の、大うつ病性障害再発;精神病の特徴を伴い、重症の、再発の、大うつ病性障害;精神病の特徴を伴わず、重症の、再発の、大うつ病性障害;不定型の、再発の、大うつ病性障害;完全緩解の、単一エピソードの、大うつ病性障害;部分的緩解の、単一エピソードの、大うつ病性障害;穏やかな、単一エピソードの、大うつ病性障害;適度の、単一エピソードの、大うつ病性障害;精神病の特徴を伴う、重症の単一エピソードの、大うつ病性障害;精神病の特徴を伴わない、重症の、単一エピソードの、大うつ病性障害;不定型の、単一エピソードの、大うつ病性障害;健康状態から来る男性の性交疼痛;男性の勃起障害;男性の健康状態から来る勃起障害;男性の健康状態から来る冷感症;男性の不感症;健康状態から来る気分障害;自己愛人格障害;ナルコレプシー;悪夢障害;強迫性障害;強迫性人格障害;他の女性の健康状態から来る性的機能障害;他の男性の健康状態から来る性的機能障害;心理的要因及び健康状態の両方と関連する疼痛障害;心理的特徴と関連する疼痛障害;広場恐怖を伴うパニック障害;広場恐怖を伴わないパニック障害;妄想性人格障害;性倒錯症、NOS;錯睡眠NOS;病的賭博;小児性愛;人格障害NOS;心的外傷後障害;早発射精;原発性過眠症;原発性不眠症;健康状態から来る、妄想を伴う心理的障害;心理的障害から来る、幻覚を伴う健康状態;心理的障害、NOS;放火癖;統合失調感情性障害;統合失調質人格障害;緊張型統合失調症;解体型統合失調症;妄想型統合失調症;残存型統合失調症;未分化型統合失調症;統合失調症様障害;統合失調症様人格障害;性的嫌悪障害;性的障害NOS;性的機能障害NOS;性的マゾヒズム;性的サディズム;共有精神病性障害;健康状態から来る過眠症型睡眠障害;健康状態から来る不眠症型睡眠障害;健康状態から来る混合型睡眠障害;健康状態から来る錯睡眠型睡眠障害;夜驚症;夢遊病;社交不安;身体化障害;身体表現性障害NOS;単一恐怖;服装倒錯;抜毛癖;未分化型身体表現性障害;膣痙;及び窃視症が挙げられる。
【0046】
好ましくは、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの投与による、神経細胞の死若しくは損傷の予防若しくは治療、又は神経保護の発揮、又は神経細胞の再生の使用及び方法において、被験体は、神経疾患(多発性硬化症、進行性多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、視神経脊髄炎、神経炎症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、フリードライヒ運動失調、ハンチントン病、レビー小体認知症、脊髄性筋萎縮症、脳虚血、全脳虚血、視神経虚血、視神経炎、脳腫瘍、脳外傷及び癲癇、脳症、脳炎、髄膜炎、慢性疼痛、片頭痛、頭痛、慢性疲労並びに線維筋痛から選択される)又は精神疾患(うつ病、双極性障害、統合失調症、強迫神経症、アルコール乱用、薬物乱用から選択される)を患う。
【0047】
神経細胞の死又は損傷を予防又は治療するために、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、第一選択又は初回単独療法として使用することができる。代替的には、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、特定の神経疾患又は精神疾患について既に治療を受けている被験体において他の薬物に対する補助剤として又は付加療法として、例えば部分発作(脳の特定の一部分において開始する癲癇発作)を有する患者における既存の癲癇治療に対する付加物として使用することができる。MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、続発性全般発作(発作が続いて全脳に広がること)のある患者及び続発性全般発作のない患者のいずれにも使用することができる。MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、脳虚血、多発性硬化症、視神経脊髄炎、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ運動失調、ハンチントン病、レビー小体認知症又は脊髄性筋萎縮症について治療を受けている患者においても使用することができる。
【0048】
したがって、本発明の別の実施形態において、神経保護、又は神経細胞の死若しくは損傷の予防若しくは治療、又は神経細胞の再生での使用及び方法において、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、補助療法又は付加療法として神経疾患又は精神疾患に罹患する被験体に使用される。
【0049】
本発明の1つの実施形態において、神経保護、又は神経細胞の死若しくは損傷の予防若しくは治療、又は神経細胞の再生での様々な使用及び方法において、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、健常な被験体、好ましくは18歳を超える健常な被験体、より好ましくは45歳を超える健常な被験体、更により好ましくは、55歳、60歳、65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳又は100歳を超える健常な被験体に投与される。
【0050】
「健常な被験体」という用語には、その単純な意味に加えて、神経疾患又は精神疾患以外の1つ又は複数の病理状態を患い得る被験体が含まれることを意味する。
【0051】
更なる実施形態において、神経保護、又は神経細胞の死若しくは損傷の予防若しくは治療、又は神経細胞の再生での様々な使用及び方法において、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、補助療法又は付加療法として1つ又は複数の神経強化薬物により治療を受けている被験体に使用される。
【0052】
神経促進薬物には、学習及び記憶、注意力、気分、コミュニケーションスキル並びに性的パフォーマンスを改善するものが含まれる。神経促進薬物の例は、長期シナプス増強(LTP)若しくは長期うつ病(LTD)、カルシウムチャネルの修飾、又はcAMP応答エレメント結合(CREB)タンパク質(cAMPは環状アデノシン一リン酸の頭文字である)を標的とするものである。神経促進薬物の具体例は、ロリプラムのようなホスホジエステラーゼ阻害薬;ドネペジル;D−シクロセリンのようなNMDAグルタミン酸受容体のアゴニスト;アンパカイン;モダフィニル;メチルフェニデートである。
【0053】
MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの神経保護特性は、結果として、ニューロンの細胞死又は損傷によって引き起こされた神経系機能における様々な障害を部分的に又は完全に予防又は治療する。それゆえ、本発明は更に、神経疾患又は精神疾患の予防又は治療のための医薬品の製造における活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用に関する。換言すると、本発明は、神経疾患又は精神疾患の予防又は治療に使用されるMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグにも関する。同様に、本発明は、神経疾患又は精神疾患を予防又は治療する方法であって、効果的な量のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経疾患又は精神疾患を予防又は治療する方法にも関する。神経疾患又は精神疾患は上で挙げられたもののいずれか一つであり得る。好ましくは、神経疾患又は精神疾患は視神経虚血、進行性多発性硬化症、視神経脊髄炎、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、フリードライヒ運動失調、ハンチントン病、レビー小体認知症、脊髄性筋萎縮症、癲癇、視神経炎、脳外傷、脳腫瘍、うつ病、双極性障害、統合失調症、強迫神経症、アルコール乱用、薬物乱用、脳症、脳炎、髄膜炎、慢性疲労、線維筋痛、慢性疼痛、片頭痛及び頭痛から選択される。
【0054】
MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、投与目的のために様々な薬学的形態へと配合することができる。適切な組成物として、全身投与用薬物に通常用いられる全ての組成物、例えば、任意の固体(例えば錠剤、カプセル、顆粒等)又は液体組成物(例えば溶液、懸濁液、エマルジョン等)を挙げることができる。MTAの医薬組成物を調製するために、活性成分としての効果的な量のMTA(任意で塩形態又はプロドラッグにおいて)は、密接な混和物中で薬学的に許容可能な担体と組み合わされ、その担体は投与のために所望される調製物の形態に応じて様々な形態をとることができる。これらの医薬組成物は、特に経口投与、経直腸投与、経皮投与、髄腔内投与、静脈内投与、又は非経口注入による投与に好適な単一の剤形であることが望ましい。例えば、経口剤形における組成物の調製において、懸濁液、シロップ、エリキシル、エマルジョン及び溶液等の経口液体調製物の場合においては、例えば水、グリコール、油、アルコール等;又は粉末、ピル、カプセル及び錠剤の場合においては、デンプン、糖類、カオリン、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等の固体担体のような通常の薬学的媒体のいずれかを用いることができる。錠剤及びカプセルは、経口単位剤形のときが投与における容易性において最も有利であり、その場合においては固体の医薬担体がよく用いられる。非経口組成物については、担体は通常少なくとも大部分において滅菌水を含むが、例えば可溶性を支援する他の成分を含むことができる。注入溶液は、例えば、生理食塩水溶液、グルコース溶液、又は生理食塩水とグルコース溶液との混合物が含まれる担体中で調製することができる。注入懸濁物は、適切な液体担体、懸濁化剤等が用いられる場合においても調製することができる。使用直前に液体形態の調製物に転換させることが意図される固体形態の調製物も含まれる。経皮投与に好適な組成物において、担体は、わずかな比率における任意の性質の好適な添加物(この添加物は皮膚上でほとんど有害効果を導入しない)と任意で組み合わせて、浸透促進剤若しくは好適な湿潤剤、又はその両方を任意で含む。薬物の投与のための異なる医薬形態及びそれらの調製の総説は、「Tratado de Farmacia Galenica」(de C. Fauli i Trillo、第10版、1993年、Luzan 5, S.A. de Ediciones)という書籍の中に見出すことができる。
【0055】
投与の容易性及び投与量の均一性のために単位剤形において上述の医薬組成物を配合することは特に有利である。単位剤形は、本明細書に使用される場合、単一の投与量として好適な物理的に不連続の単位を指し、各単位は、必要とされる医薬担体に関連して所望される治療効果を生じるように算出された所定の量の活性成分を含有する。かかる単位剤形の例は、錠剤(分割錠又はコーティング錠を含む)、カプセル、ピル、坐剤、粉末パケット、ウエハ、注入溶液又は懸濁液等、及びそれらの分離した複合物である。
【0056】
単位剤形を含む本発明による組成物は、約0.1%〜70%、又は約0.5%〜50%、又は約1%〜25%、又は約5%〜20%の範囲の量で活性成分を含有することができ、残りは担体を含み、上述のパーセンテージは組成物又は剤形の総重量に対するw/wである。
【0057】
投与されるMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの用量は個体の症例に依存し、習慣的には、最適の効果のために個体の症例の病態に適合させるべきである。したがって、当然この用量は、投与の頻度並びに治療法又は予防法のための各症例において用いる化合物の有効性及び作用持続時間に依存するが、疾患及び症状の性質及び重症度、並びに治療を受ける被験体の性別、年齢、体重、同時投薬及び個体の応答性、並びに治療法が急性又は予防的なものであるかどうかにも依存する。用量は体重に応じて小児適用に適合させることができる。1日の用量は、1日1回で、又は1日2回、1日3回若しくは1日4回等の複数の量で投与することができる。
【0058】
以下の実施例は、本発明を説明するが、これらの実施例に限定しないことが意図される。
【実施例】
【0059】
実施例1:虚血のニューロン培養モデルにおけるMTAの効果
要約
星状細胞及びニューロンが共培養された虚血のニューロンモデルにおけるMTAの神経保護能を調査した。
培養物:ラットの大脳皮質からの星状細胞及びニューロンを使用した。細胞から酸素及びグルコースを枯渇させ、MTAの保護効果を測定した。
【0060】
序論
ニューロン−星状細胞共培養物
文献に記載された手順に従って、胎生18日目のSprague−Dawleyラット胚の皮質葉(cortical lobes)から初代ニューロン培養物を得た(Cheung et al., 1998, Neuropharmacology 37:1419-1429)。B27 Neurobasal培地+10%FBS中に細胞を再懸濁し、次いで、24ウェルプレート中で、文献に記載されるように事前に調製した星状細胞の単層上に、1ウェル当たりの1〜2×105個の細胞で播種した(Vallejo-Illarramendi et al., 2005, Gila 50:276-279)。1日後に、B27を添加したNeurobasal培地及び10%ウシ胎仔血清に培地を置き換え、37℃及び5%CO2で維持した。プレーティングの8〜9日後に培養物を使用した。培養したニューロン及び星状細胞は、それぞれ微小管結合タンパク質−2及び神経膠線維酸性タンパク質に対する抗体を使用して同定した。
【0061】
細胞毒性及び生存率分析
ニューロン−星状細胞共培養物における細胞死及び細胞生存率は、MTA(10μM〜1mM)への24時間の曝露の後に、それぞれ乳酸脱水素酵素分析及びカルセイン−AM分析を使用して、続いて蛍光定量測定(Synergy−HT)を行い分析した。結果は、対照に対する生存細胞又はLDH放出のパーセンテージを、三重で行った少なくとも4つの独立した実験の平均±標準誤差として表す。
【0062】
酸素−グルコース枯渇
NaCl 130mM、KCl 5.4mM、CaCl2 0.1323mM、NaHCO3 0.26mM、MgCl2 0.8mM、NaH2PO4 1.18mM、グルコースの代替物として10mMスクロース、及び解糖(glyocolytic)阻止剤ヨード酢酸(20μM又は50μM)を含有する窒素飽和バッファー中で、高圧タンクにおいて、細胞培養物を1時間インキュベーションすることによって、虚血性損傷を誘導した。損傷後に、細胞を、酸素正常状態で、グルコースを添加しヨード酢酸を除去して、更に24時間インキュベーションした。虚血中にMTA又はNMDA受容体アンタゴニストAPV(50μM)を添加して、それらの神経保護活性を評価した。培養物は、細胞生存率及び細胞死について上述のように分析した。結果は、三重で行った少なくとも4つの独立した実験の平均±標準誤差として表した。
【0063】
処理
ニューロン−星状細胞共培養物における細胞死及び細胞生存率は、MTA(10μM〜1mM)への24時間の曝露の後に、それぞれ乳酸脱水素酵素分析及びカルセイン−AM分析を使用して、続いて蛍光定量測定(Synergy−HT)を行い分析した。
【0064】
材料及び方法
試験成分
5’−デオキシ−5’−メチルチオアデノシン(MTA)
【0065】
動物
【表1】
【0066】
用量及び群
1疾患モデル当たり、各々8匹〜14匹のラットからなる2つの培養群を検査した。
群:
1. 媒質
2. 処理:10μM〜1mM
【0067】
実験手順
1.MTA製品:MTAはENANTIA社(スペイン、バルセロナ)から供給された。
2.データ解析:統計解析はスチューデントのt検定(両側)を使用して行った。
【0068】
結果
ニューロンの培養物に対するMTA(10μM〜1mM)の24時間の添加により、細胞生存率(生存細胞におけるカルセイン蛍光;左側)又は細胞死(死細胞におけるLDH放出;右側)についての分析を使用して実証されるように、この化合物の毒性が非常に低いことが示された(図1)。同様に、星状細胞は分析した条件においてMTAに対する耐性があり生存可能であった。
【0069】
用いた条件でMTAが無害であることが分かった後に、模倣虚血での神経保護能を調査した。したがって、酸素及びグルコース(OGD)を培養培地から除去し、ヨード酢酸(解糖阻止剤;IAA)を添加することによって、虚血を模倣した。大脳皮質から得られたニューロンと星状細胞との混合培養物において、虚血誘導性の損傷はMTAによって低減した(図2)。20μM又は50μMのIAA(それぞれ、左側及び右側)を使用して2つの虚血条件を分析した。両条件においてMTAは極めて保護的であった。比較のために、APV(NMDA受容体のアンタゴニスト)も分析した。10μMのMTAはAPV(50μM)よりも保護的であった。
【0070】
結論
MTAは、大脳皮質から得たニューロンと星状細胞との混合培養物における模倣虚血から保護する。
【0071】
実施例2:全脳虚血のラットモデルにおけるMTAの効果
要約
虚血の細胞モデルにおいてMTAにより得られた結果から、虚血の動物モデルに対する効果の研究を検討した。これらは、中大脳動脈閉塞(MCAO)による局所虚血のモデル及び別に全脳虚血(4血管閉塞モデル)を含んでいた。
動物:成体の若いオスWistarラット(200g〜250g)を使用した。虚血後に、以下に記載されるように動物をMTAにより処理した。
【0072】
序論
手術及び虚血
外科的処置前に、動物は一晩断食させた。文献に記載されるような管腔内フィラメントモデルを使用して、ラットに90分間の中大脳動脈閉塞(MCAO)を行った(Rickhag et al, 2006; J Neurochem 96:14-29)。血流は、ドップラーレーザー(Perimed社)により経頭蓋的にモニタリングされた。研究に含まれる動物のすべての生理的パラメータは正常範囲内であり、通常の虚血誘導性の行動障害、回転非対称性、及び四肢配置の機能障害を示す動物を含んでいた。直腸温及び体温は、加温パッドにより外科手術及び虚血の間37℃で維持した。一過性前脳虚血は、Pulsinelli and Brierley (1979; Stroke 10, 267-272.)によって記載された方法に従って、椎骨動脈及び総頸動脈の閉塞によって10分間誘導した。前脳虚血についての分類基準は、立直り反射の両側性消失、脚の伸長及び散瞳であった。直腸温及び体温は、加温パッドにより外科手術及び虚血の間37℃で維持した。頸動脈閉塞後に立直り反射を完全に失わなかった動物、又は発作を発症した動物を研究から除外した。
【0073】
処理
虚血発症30分で開始して、300mM トリス中で再構成したMTA(30mg/kg又は100mg/kg、腹腔内)、又はプラセボ(300mM トリス)により1日2回動物を処理した。
【0074】
材料及び方法
試験成分
5’−デオキシ−5’−メチルチオアデノシン(MTA)
【0075】
動物
【表2】
【0076】
用量及び群
1疾患モデル当たり、各々8匹〜14匹のラットからなる2つの動物群を検査した。
群:
1. 媒質:300mM トリス、腹腔内
2. 処理:MTA、腹腔内
【0077】
実験手順
1.MTA製品:MTAはENANTIA社(スペイン、バルセロナ)から供給された。
2.データ解析:統計解析はスチューデントのt検定(両側)を使用して行った。
【0078】
結果
局所虚血
中大脳動脈閉塞(MCAO;90分)、続いて3日間の再潅流を行い、虚血発症の30分後にMTA処理(30mg/kg又は100mg/kgで腹腔内、1日2回)を開始した。TTC染色により評価されるように、媒質により処理したラットと比較して、MTA(30mg/kg)により処理したラットは、損傷を受けた領域の減少を示さなかった(図3)。次に、より高用量のMTA(1日2回、100mg/kg)は虚血後のラットに対して毒性があり、完全に評価することができなかった。
【0079】
全脳虚血
10分間の椎骨動脈及び総頸動脈の閉塞(4血管閉塞モデル)、続いて7日間の再潅流を行い、再循環20分後(すなわち虚血発症30分後)にMTA処理(30mg/kgで腹腔内、1日2回)を開始した。Fluoro−jade染色により評価されるように、媒質により処理した動物と比較して、MTAにより処理したラットは海馬体のCA1領域中でより低いレベルの死細胞(約50%;P<0.01)を示した(図4)。
【0080】
結論
MTAは、CA1海馬ニューロンを10分の全脳虚血後の細胞死から保護する。
【0081】
実施例3:オリゴデンドロサイト興奮毒性及び視神経虚血におけるMTAの効果
要約
興奮毒性のオリゴデンドロサイトモデル及び白質虚血のモデルにおけるMTAの神経保護能を調査した。
培養物:オリゴデンドロサイトは周産期ラットからの視神経から培養した。細胞を興奮性毒に曝露し、MTAの保護効果を測定した。
視神経:全視神経を若いラットから単離し、実験的虚血を行った。
【0082】
方法
オリゴデンドロサイト培養物
文献に記載されている方法で、12日齢のSprague Dawleyラットの視神経に由来したオリゴデンドロサイトの初代培養物を得た(Barres et al., 1992)。細胞は、1ウェル当たり5×103個の細胞の密度で、ポリ−D−リジン(10μg/ml)でコーティングした12mm径のカバーグラスを保持する24ウェルプレートへ播種した。細胞は既知組成培地中で37℃及び5%のCO2で維持した(Barres et al., 1992, Cell 70:31-46)。in vitroで2〜4日後、培養物は、少なくとも98%のO4/ガラクトセレブロシド陽性(O4/GalC_)細胞からなり、大多数の残りの細胞は神経膠線維酸性タンパク質(GFAP)に対する抗体により染色された。A2B5+細胞又は小神経膠細胞はこれらの培養物中に検出されなかった(Alberdi et al., 2002, Neurobiol Dis 9:234-243)。
【0083】
細胞生存率及び毒性分析
文献に記載されている方法で、細胞毒性及び生存率分析を行った(Sanchez-Gomez and Matute, 1999, Neurobiol Dis 6:475-485)。MTA毒性の評価のために、培養2〜4日の細胞をその薬物に24時間曝露し、細胞生存率をカルセイン−AM(Invitrogen社)を使用して評価した。保護分析のために、細胞をMTAと15分間プレインキュベーションし、次いで更に15分間AMPAに曝露した。薬物適用の24時間後に、カルセイン−AM(Invitrogen社)を使用して細胞生存率を評価した。カルセイン蛍光を発光する各々のカバーグラス上で生存細胞の総数をカウントし、結果は対照に対する細胞死のパーセンテージとして表わした。結果は、二重で行った少なくとも3つの独立した実験の平均±標準誤差として表した。
【0084】
単離された視神経における虚血
Sprague Dawleyラットから単離された成体の視神経は、酸素飽和人工CSF(aCSF)(126mM NaCl、3mM KCl、2mM MgSO4、26mM NaHCO3、1.25mM NaH2PO4、及び2mM CaCl22H2O、10mMグルコース)で潅流した。虚血性障害は、グルコースをスクロースで置き換えて、解糖阻止剤ヨード酢酸(1mM)の1mMを1時間添加し、続いて窒素飽和aCSFで2時間再潅流することによって誘導した。虚血及び再潅流の間の視神経は、媒質(対照については)、及びMTA又はグルタミン酸受容体のアンタゴニストとインキュベーションし、続いてLDH放出分析のために加工処理した。結果は、二重で行った少なくとも3つの異なる実験の平均±標準誤差である。
【0085】
処理
オリゴデンドロサイト培養物における細胞生存率は、MTA(1μM〜3mM)への24時間の曝露の後に、それぞれカルセイン−AM分析を使用して、続いて蛍光定量測定(Synergy−HT)を行って分析した。興奮毒性からのオリゴデンドロサイト保護及び虚血(1時間+2時間の再潅流)後の視神経損傷は、MTA(3時間、100μM〜300μM)の存在又は非存在下の乳酸脱水素酵素放出分析を使用して検討した。
【0086】
試験成分
5’−デオキシ−5’−メチルチオアデノシン(MTA)
【0087】
動物
【表3】
【0088】
用量及び群
2つの培養物群又は視神経群。
群:
1. 媒質
2. 処理オリゴデンドロサイト:1μM〜3mM
処理視神経:100μM〜300μM
【0089】
実験手順
1.MTA製品:MTAはENANTIA社(スペイン、バルセロナ)から供給された。
2.データ解析:統計解析はスチューデントのt検定(両側)を使用して行った。
【0090】
結果
最初にカルセイン−AM蛍光により評価されるように、24時間化合物に曝露されたオリゴデンドロサイト培養物におけるMTA(1μM〜3mM)の毒性プロファイルを評価した。結果は、300μMを超えるMTA濃度で有意な毒性が観察されたことを示した(図5A)。次いで、MTAが細胞に対して毒性でない実験条件下で(100μM〜300μM)、AMPAタイプのイオンチャネル型グルタミン酸受容体の選択的活性化によって誘導されるオリゴデンドロサイトに対する興奮毒性損傷に対するMTAの保護能を検討した。アポトーシス又は壊死を誘導するアゴニスト濃度で(10μMのAMPA)、MTAは強固な保護活性を発揮した(図5B)。これとは対照的に、壊死によるオリゴデンドロサイト死を引き起こす条件下では保護は観察されなかった(100μMのAMPA;図5B)。
【0091】
用いた条件でMTAが無害で保護的であることが分かった後に、単離された視神経における模倣虚血後の白質組織損傷を減少させる能力を調査した。つまり、酸素及びグルコース(OGD)を培養培地から除去し、ヨード酢酸(解糖阻止剤;IAA)を添加することによって、虚血を模倣した。虚血誘導性の損傷は、CNQX及びAPVをそれぞれ単独で又はともに使用して、AMPAタイプ及びNMDAタイプのグルタミン酸受容体アンタゴニストによって減少された(図6、上部)。加えて、MTAも同様に保護的であった(図6、下部)。
【0092】
結論
MTAは実験的虚血後の興奮毒性及び視神経組織損傷からオリゴデンドロサイトを保護する。
【0093】
実施例4:興奮毒性のニューロンの死に対するMTAの効果
要約
MTAの神経保護作用を興奮毒性のモデル(NMDA曝露)において検査した。MTAは、純粋なニューロン培養物における神経毒性損傷に対する神経保護を全く示さない。しかしながら、神経膠−ニューロンの混合培養物においては、MTAはカスパーゼ3活性化の遮断によって示されるような保護作用を示した。これは、神経興奮毒性のMTAの神経保護作用において神経膠細胞が必要とされるかもしれないことを示唆する。
【0094】
導入
MTAの神経保護効果の可能性は、NMDAグルタミン酸受容体アゴニストのNMDAへの興奮毒性様曝露のモデルを使用して研究した。nNMDA神経毒性は以下の2つのモデルにおいて研究した。1)純粋なラット皮質ニューロン培養物、及び2)神経膠−皮質ニューロンの混合培養物(Nicoletti et al., 1999, Neuropharmacolgy, 38;1477-1484)。
【0095】
材料及び方法
試験成分
5’−デオキシ−5’−メチルチオアデノシン(MTA)
【0096】
動物
【表4】
【0097】
ラット皮質ニューロン培養物
脳皮質ニューロンの初代培養物を本質的には文献に記載されている方法で調製した(Bruno et al., 2001, Eur. J. Neurosci., 13:1469-1478)。前側方皮質葉をSprague−Dawleyの胎生17日目の胎仔から解剖し、ハンクス液中で機械的に解離した。炎で細くした先端を有するパスツールピペットを使用して7回〜10回吸引することによって、皮質葉を粉砕した。800gで5分間の遠心分離後に、細胞を、2mMのL−グルタミン、ペニシリン(20単位/ml)及びストレプトマイシン(5μg/ml)を含有し、B27(GIBCO社)を添加した無血清Neurobasal培地(GIBCO社)中で再懸濁し、ポリ−L−リジンをコートした24ウェルの培養プレート又はポリ−L−リジンをコートした6ウェルの培養プレート上でプレーティングした。細胞は95%空気及び5%CO2を含有する湿度飽和雰囲気中、37℃で維持し、皮質ニューロンはin vitroで7日後(DIV)に実験に使用した。
【0098】
ラット皮質ニューロンと神経膠との混合培養物
脳皮質ニューロンと神経膠との初代培養物を本質的には文献に記載されている方法で調製した(Bruno et al., 2001, Eur. J. Neurosci, 13:1469-1478)。前側方皮質葉をSprague−Dawleyの胎生17日目の胎仔から解剖し、ハンクス液中で機械的に解離した。炎で細くした先端を有するパスツールピペットを使用して7回〜10回吸引することによって、皮質葉を粉砕した。800gで5分間の遠心分離後に、細胞を、2mMのL−グルタミン、ペニシリン(20単位/ml)及びストレプトマイシン(5μg/ml)を含有し、B27(GIBCO社)及び5%ウシ胎仔血清を添加した無血清Neurobasal培地(GIBCO社)中で再懸濁し、ポリ−L−リジンをコートした24ウェルの培養プレート又はポリ−L−リジンをコートした6ウェルの培養プレート上でプレーティングした。細胞は95%空気及び5%CO2を含有する湿度飽和雰囲気中の37℃で維持し、皮質ニューロンはin vitroで7日後(DIV:Days in vitro)に実験に使用した。
【0099】
LDH分析
生存率実験については、皮質ニューロン又は混合した皮質ニューロン及び神経膠を、15×104細胞/ウェルで24ウェルプレート上に播種して7DIVの間培養し、それらを媒質(1‰のDMSO)、NMDA(300μM)、NMDA(300μM)+MTA(異なる濃度で)、又はNMDA(300μM)+MK−801(10μM)により、6時間及び24時間処理した。上清を収集し、細胞をPBSにより洗浄して、生理食塩水中の0.9%トリトンX−100(v/v)により溶解した。乳酸脱水素酵素(LDH)活性を細胞死の指標として測定し、致死率を培養培地に放出されたLDHのパーセンテージとして表わした。LDHは、製造者の使用説明書(Promega社)に従ってCytotox 96キットを使用することによって、96ウェルプレートリーダーで490nmで分光測光法で測定した。LDH放出のパーセンテージは、処理の開始時の細胞中に存在する全LDHに対する放出されたLDHの比によって規定される。サンプルはすべて三重で実行した(Posada et al., 2007, Br. J. Pharmacol., 150;577-585)。
【0100】
MTT分析
生存率実験については、15×104細胞/ウェルで24ウェルプレート上に播種して、7DIVの間培養した皮質ニューロン、又は80%密集度が到達されるまで24ウェル培養プレート中で増殖させたSH−SY5Y神経芽腫細胞を、媒質(1‰のDMSO)、NMDA(300μM)、NMDA(300μM)+MTA(異なる濃度で)、又はNMDA(300μM)+MK−801(10μM)により、24時間処理した。インキュベーション期間後に、添加したMTTの体積がウェルの全体積の10分の1と等しくなるように、5mg/mlのMTTを各ウェルに添加した。これに続いてインキュベーションを37℃で3時間行った。この後、培養培地を除去し、不溶性ホルマザン結晶を300μlのDMSO(Merck社)中で溶解した。次いで各ウェルからの50マイクロリットルのアリコートを96ウェルマイクロプレートに移し、150μlのDMSOにより希釈し、570nm及び630nmの参照波長でELISAリーダー(Microplate Reader 2001、BioWhittaker社)において分光測光法で測定した(Jordan et al., 2000, Br. J. Pharmacol., 130:1496-1504)。
【0101】
カスパーゼ3活性
皮質ニューロン又は混合した皮質ニューロン及び神経膠を、ポリ−L−リジンをコートした6ウェルの培養プレート上にプレーティングし、7DIV後に、細胞を異なる期間で媒質又はNMDA(300μM)により処理した。別の実験セットにおいて、媒質、NMDA単独で、又はMTA若しくはMK−801の存在下において、細胞を1時間処理した。その後、細胞を冷PBSにより2回洗浄し、100mMヘペス、5mM DTT、5mM EGTA、0.04%ノニデットP−40及び20%グリセロール(pH7.4)を含有する溶解バッファー中で溶解した。次いで、抽出液は4℃で10分間5000×gで遠心分離し、タンパク質含有量は製造者の使用説明書に従ってBCAタンパク質分析を使用することによって決定した。細胞抽出液(40μgのタンパク質)は、50μMの蛍光基質Z−DEVD−AFCを含有する反応バッファー(25mMヘペス、10%スクロース、0.1%CHAPS、10mM DTT)中で37℃で1時間インキュベーションした。AFCの蛍光団の切断を400nmの励起波長で分光蛍光計において決定し、蛍光を505nmの発光波長で検出した。カスパーゼ3活性は、蛍光単位/mg(タンパク質)/時間として表わした(Posadas et al., 2009, Pharm. Res., In press)。
【0102】
実験手順
1.MTA製品;MTAはENANTIA社(スペイン、バルセロナ)から供給された。
2.データ解析:データは平均±標準誤差として表わされる。統計解析は、一元配置分散分析(ANOVA)及び複数の比較のために帰納的ボンフェローニのt検定を使用して実行した。統計結果は図7〜図12の説明において示される。統計解析はGraph Pad Prism 4.0を使用して行った。
【0103】
結果
結果を図7〜図12中に示す。
【0104】
結論
ラット皮質ニューロン上の興奮毒性モデルにおいて、純粋なニューロン培養中で500μMまでのMTAには神経保護効果はない。NMDA受容体アゴニストのNMDAによって誘導されたLDH放出及びカスパーゼ3活性の両方で、効果がないことが観察された。しかしながら、神経膠細胞が存在する場合、NMDA誘導性のカスパーゼ3活性からの保護を観察することができる(図12)。この神経保護作用は、NMDA受容体アンタゴニストMK−801(10μM)を使用して観察されたものに類似している。
【0105】
実施例5:in vitroの神経炎症モデルにおけるMTAの神経保護活性の評価
要約
神経炎症は、神経変性の一因となる、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS、又は脳卒中等の複数の神経疾患において起こる共通のプロセスである。MTAの神経保護活性の評価のために、LPSにより刺激された器官型小脳培養物を使用するin vitroの神経炎症モデルを開発した。結果は、MTAがジストロフィー軸索の数を減少させてミエリンの消失を防止したことを示し、免疫媒介性の損傷から軸索及びミエリンを保護するMTAの有益な効果が確認された。
【0106】
序論
小脳器官型培養物における神経炎症モデル
神経炎症の器官型培養モデルは、マウス脊髄におけるリポ多糖(LPS)の全身注入が炎症、脱髄及びウォラー変性を誘導するという以前の観察結果に基づく。マウス小脳器官型培養物において、LPSは、結果として生ずる脱髄及び軸索損傷によりミクログリア活性化を誘導する。特に、LPSは、軸索内輸送の遮断及び軸索密度の減少に起因してTNF−α、IL1−β放出、軸索膨張及び終末小体を誘導する。器官型培養物は、細胞−細胞相互作用及び研究される脳領域の器官型構造を維持するので、in vivo機構を表す最も優れたモデルを代表する。このような手段で、このin vitroの神経炎症モデルは、MSにおいて観察されるミクログリア活性化現象、脱髄現象及び軸索損傷現象を再現する。
【0107】
処理
192μMのMTA及び15μg/mlのLPSにより30分間前処理した小脳器官型培養物を使用して神経炎症モデルを作製した。
【0108】
材料及び方法
試験成分
5’−デオキシ−5’−メチルチオアデノシン(MTA)
【0109】
動物
【表5】
【0110】
用量及び群
3つの動物群(各々出生後8〜10日の5匹のマウスからなる)。
群:
1. 培養培地中に15μg/mlのLPS
2. 培養培地中に5μg/mlのLPS
3. 培養培地+15μg/mlのLPS中に192μMのMTA
【0111】
実験手順
1.MTA製品:MTAはENANTIA社(スペイン、バルセロナ)から供給された。
2.データ解析:ウエスタンブロット解析、免疫蛍光解析及びELISA解析は通常の技法を使用して行った。
【0112】
結果
本発明者らの研究室からの予備的なデータは、マウス小脳器官型培養物におけるLPSの使用が培養物において続いて起こる脱髄及び軸索損傷によりミクログリアの活性化を生ずることを示した。図13.I及び図13.IIは、LPSによる処理が、処理後3時間でMHCII活性化(図13.II.B)、及びLPS刺激の1時間後でTNF−αの放出(図13.I.B)を誘導することを示す。図13.II.Aは、共焦点顕微鏡検査により得られたMBP及びNFLについての免疫蛍光像を示す。図示されるように、LPSによる器官型培養物の処理は脱髄を誘導するが、対照では示されなかった(図13.II.Aのパネル1及びパネル2)。軸索遮断に特徴的な軸索膨張、及び軸索離断の小頭に加えて、軸索密度の減少(図13.II.Aのパネル3及び4)が観察される。
【0113】
in vitroの神経炎症モデルにおいて、15μg/mlのLPSにより処理した小脳器官型培養物とMTAにより前処理した器官型培養物との間で有意な差が観察される。特に、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)及びニューロフィラメント軽鎖(NFL)のための免疫蛍光解析から、神経炎症モデルにおける脱髄及び軸索損傷が示され(図13)、ウエスタンブロット解析によって確認された。また、このモデルにおいて、ミクログリア活性化を示唆するIL−1β及びTNF−α放出が観察される(図13〜図14)。神経炎症を誘導する前のMTAによる30分間の前処理は、脱髄及び軸索損傷を防止し、IL−1βの放出を減少させる(図14)。要約すると、MTAは神経炎症モデルにおける神経保護剤である。
【0114】
結論
MTAは、器官型培養物におけるこの神経炎症モデルにおける神経変性を脱髄から保護する。
【0115】
実施例6:進行性多発性硬化症の遺伝子導入モデルにおける軸索損傷におけるMTAの神経保護活性
要約
多発性硬化症において、永久的な能力障害の存在は主として軸索消失に依存する。このために、MSの治療のための疾患修飾性薬物に重要なエンドポイントは、それらが脳における炎症プロセスに起因する軸索消失を防止することができるかどうかである。MTAは、肝臓疾患のin vitroモデル及び動物モデルにおいて細胞保護特性を示した。加えて、MTAが免疫調節性を有し、MSの動物モデル(EAE:実験的自己免疫性脳脊髄炎)の経過及び発病を改善することができることが示された。本明細書において、MTAがEAEモデルにおける軸索消失を防止することが示され、疾患の治療に有利な神経保護活性が示唆される。正確に軸索消失を測定するために、運動神経路(皮質脊髄路)において蛍光性軸索を発現するトランスジェニックマウスを利用した。
【0116】
方法
進行性MSの動物モデル
慢性EAEを、MOGにより免疫付与した皮質脊髄路YEPマウス(C57B6バックグラウンド;Bareyre et al., Nat Med. 2005 Dec; 11(12):1355-60を参照)において誘導した。運動軸索を標識する蛍光は、EAEの間の軸索損傷の正確な定量化を可能にする。
【0117】
組織学的評価
1.全ての動物の脊髄を整列させて、全ての動物において同じレベルで以下の脊髄片を切り取る。a)C1/2の周囲の上部頸椎レベルの付近で開始する1片の頸髄(長さ約1cm)(これにより脊髄に入るCST線維数の決定が可能になる);b)中央部腰椎レベルL2/3の周囲で開始する1片の腰髄(長さ約1cm)(これにより腰髄に到達する線維数の決定が可能になる)。
2.PBS中の30%スクロースに脊髄を移して、通常3〜7日後に組織が平衡化するのを待つ(脊髄は底に沈む)。
3.組織の上部(=頭部)端での切断開始が確実になるように脊髄の方向をマークして、tissue tek中に脊髄片を包埋し、慎重に凍結する(約−40℃まで冷却したイソプロパノールを使用する)。
4.脊髄片の上部端から開始してクリオスタット切片を切断し(約50マイクロメートル厚)、粘着性スライドグラス(例えばSuperFrost)にマウントする(通常動物1匹当たり頸椎片及び腰椎片から約20の切片を切断し、組織ブロックの残りを−20℃で保存する)。
5.組織をマウントし、共焦点顕微鏡を使用して切片を解析する(高解像度対物レンズ(例えば60倍の油浸対物レンズ)を使用し、全皮質脊髄路をカバーする単一のイメージ図を得る)。
6.次いで点の数(=線維数)を単純にカウントする(通常3〜5切片に対して盲検化してこれを行い、次いでCSTの平均を計算してCSTとする)。特に多くの線維を含有する頸髄においては、規定されたサイズを有する複数のCST領域のカウントに基づいて頸椎CST線維の合計数を推定することがより容易である。各動物における頸椎及び腰椎のCST線維数の数によって、CSTの減少を判断することができる。更に群間で差があるならば、健常な動物の幾つかの脊髄を次にまわすことが可能であり、したがって健常な動物で予期される減少(腰髄の上方で終了するCST線維に起因する)に対して軸索減少を正規化することができ、EAEに対して失われたCST線維のパーセンテージを得ることができる(通常本発明者らの実験において約40%)。
【0118】
材料及び方法
試験成分5’−デオキシ−5’−メチルチオアデノシン(MTA)
【0119】
動物
【表6】
【0120】
用量及び群
2つの動物群
群:
1. プラセボ(PBS)(8匹の動物)
2. MTA、腹腔内、96μmol/kg(10匹の動物)
【0121】
実験手順
1.MTA製品:MTAはENANTIA社(スペイン、バルセロナ)から供給された。
2.データ解析:統計解析はSPSS 13.0を使用して行った。
【0122】
結果
EAEが慢性になった(EAEスコアが2以上になった最初の日(免疫付与後20日目以降))ときに、動物を処理した。動物を無作為化して、MTA(96μmol/kg)又はプラセボ(PBS)のいずれかにより処理した。MTAで処理した動物は、プラセボよりも臨床症状の改善を示した(図15)。
【0123】
軸索密度並びに腰髄及び頸髄の定量的測定を行なった。MTAにより処理した動物がプラセボ動物よりも有意に高い軸索密度を有することが見出され(図16)、疾患の慢性期におけるMTAによる処理は、脳に対する自己免疫攻撃に起因する長期的な軸索消失を防止することができることを示した。
【0124】
結論
この結果は、疾患の慢性期におけるMTAによる処理は、脳に対する自己免疫性攻撃に起因する長期的な軸索消失を防止することができたことを示す。
【0125】
実施例7.実験による側頭葉癲癇におけるMTAの神経保護効果
要約
側頭葉癲癇(TLE)は海馬体中の実質的なニューロンの消失と関連する。TLEの齧歯類モデルにおいて、癲癇重積持続状態(SE)のエピソードは、類似したパターンの海馬ニューロン死、続いて自発性反復発作の発症をもたらす。神経保護化合物はSE誘導性の細胞死の改善には或る程度の有望性を示したが、癲癇誘発の防止においてそれほど目覚ましくなかった。TLEのピロカルピンモデルにおけるメチルチオアデノシン(MTA)の神経保護効果を検討する研究に取り掛かった。1つのラット群にSEの2日前に開始して5日間MTAを与え(SE前MTA)、もう1つの群はSEの終了時に開始して3日間MTAを与え(SE後MTA)、これらはより臨床的に関連のある処理レジメンである。SE後3〜5日(初期の時点)又は30日(後期の時点)で、細胞消失について脳切片を検査した。苔状線維出芽も後期の時点でTimm染色によって検査した。1つの対照群は媒質を投与し、SEを誘導し、第2の対照群はピロカルピンの代わりにMTA及び生理食塩水を投与した。ニッスル染色及びNeuN免疫組織化学によって評価されるように、初期及び後期の時点で、SE前又はSE後のいずれかに開始するMTA処理により、歯状回門並びに海馬のCA1領域及びCA3領域中のニューロンの消失が定性的に減少することが見出された。SEの30日後のCA1領域中のNeuN免疫反応性細胞の予備的な定量化から、SE前MTA群における有意な神経保護効果(p=0.02)、及びSE後MTA群における神経保護の傾向(p=0.057)が示された。苔状線維出芽において定性的な差はいずれの群においても観察されなかった。これらの結果は、MTAがSE誘導性のニューロン死の状況において神経保護特性を発揮することを示唆しているが、MTAが実験的によるTLEにおいて抗癲癇誘発特性を示すかどうかを決定する更なる研究を必要とする。
【0126】
序論
側頭葉癲癇(TLE)は一般的に多くの場合、反復発作及び関連した記憶機能障害に起因する著しい死亡率に結び付く薬剤抵抗性の癲癇である。TLEを患うヒトは、癲癇及び関連する認知機能障害の両方に関与すると考えられる海馬体中のニューロンの実質的な消失を示す。潜伏期間後に自発性反復発作が引き起こされる癲癇重積持続状態(SE)のエピソードに成体動物が曝される齧歯類モデルにおいて、TLEの海馬の病理が再現される。この実験パラダイムは、子供が複雑型熱性発作又は熱性SEを経て、何年かの後にTLEを発症する、一般的な臨床シナリオをモデル化する。
【0127】
TLEに対する抗癲癇誘発性の治療は存在しない。現行のすべての治療法は対症的であり反復発作の防止を目的とする。神経保護化合物は実験によるTLEにおいてSE誘導性の細胞死の改善において或る程度の有望性を示したが、癲癇誘発の防止においてそれほど目覚ましくなかった。したがって、脳損傷後の癲癇の発生を防止する新規の治療法に対する緊急の必要性が存在する。それゆえ、TLEのピロカルピンモデルにおけるメチルチオアデノシン(MTA)の神経保護効果を検討する研究に着手した。ピロカルピンは、SEを生ずる化学痙攣薬として働く、ムスカリン性コリン作動性アゴニストである。ピロカルピンモデルは、ヒトTLEに非常に類似する細胞消失及び異常な再編成のパターンを有する癲癇動物を一貫して生ずる一般に使用されるTLEモデルである。
【0128】
成体ラットにおけるピロカルピン誘導性SEに対する神経保護効果を検討するために2つのMTA処理レジメンを比較した。1つのレジメンは、SEの2日前に開始する5日間のMTA処理(SE前MTA)を含んでいた。他のレジメンは、より臨床的に関連のあるプロトコルであり、SEの終了時に開始する3日間のMTA処理(SE後MTA)からなっていた。予備的な結果は、両方のMTA処理レジメンによる実質的な神経保護効果を示唆する。
【0129】
材料及び方法
試験成分5’−デオキシ−5’−メチルチオアデノシン(MTA)
【0130】
動物
【表7】
【0131】
用量及び群
5つの動物群、SEのない群(2匹のラットのみ)以外は4匹/群〜6匹/群。
群:
1. 対照については100mM トリス
2. 96μM/kg/日のMTA
【0132】
5’−メチルチオアデノシン(MTA)による動物の処理
若い成体(175g〜200g)のオスSprage−Dawleyラットを4つのMTA処理群(1群当たり9匹〜11匹のラット)へと割り当てた。A群では、ラットにピロカルピン誘導性の癲癇重積持続状態(SE)を誘導した。90分の持続性発作活性に続いて、ジアゼパム(10mg/kg)の単一の投与によってSEを停止した。媒質又はMTAのいずれかを1日1回3日間ラットに注入した。ラットをSE後4日目で屠殺し、脳を灌流固定して凍結し、組織学のために切片を作製した。B群では、ラットの処理はラットがSE後30日目で屠殺された以外はA群と同じであった。C群では、ラットはMTAにより1日1回2日間処理した。3日目に、ラットにピロカルピン誘導性SEを行った。ラットはMTAにより1日1回更に3日間継続処理し、対照にはプラセボを投与した。次いでSE後4日目にラットに麻酔をかけ屠殺した。D群では、ラットがSE後30日目で屠殺された以外はC群と同じようにラットを処理した。
【0133】
組織学
切片にクレシルバイオレット(ニッスル)染色及びNeuN免疫染色を行って、細胞消失を検討した。苔状線維出芽を同定するTimm染色を、30日目の生存群に対して行った。
【0134】
実験手順
1.MTA製品:MTAはENANTIA社(スペイン、バルセロナ)から供給された。
2.データ解析:統計解析はSPSS 11.0を使用して行った。
【0135】
結果の要約
初期及び後期の時点の両方で、MTA処理がSE前又はSE後に開始されたかどうかにかかわらず、媒質と比較して、MTA処理ラットの海馬中で定性的により多くのニッスル染色細胞があることが、クレシルバイオレット染色により示された。NeuN免疫染色の結果は類似しており、30日目の時点での例を図17に示す。細胞生存の差は、歯状回門並びに海馬のCA3領域及びCA1領域の錐体細胞層において定性的に明らかであった。領域CA1中のニッスル染色細胞のカウントの定量化は図18に示される。この結果は、MTA処理がこの癲癇モデルにおいて神経保護的であることを示唆する。
【0136】
結論
MTAは、SE誘導性のニューロン死の状況において神経保護特性を発揮する。
【0137】
実施例8.パーキンソン病の動物モデルにおけるMTAの神経保護効果
要約:
パーキンソン病モデルの誘導に対して毒性であるMPTPにより処理されたマウスにおける脳幹の黒質中のドーパミン作動性ニューロン(TH+細胞)の生存に対するメチルチオアデノシンの効果を検査した。
【0138】
序論
パーキンソン病では、複数の神経集団が退化し、運動障害、認知異常及び自律神経症状をともなう慢性的変性疾患をもたらす。この疾患によって損傷を受けた神経集団の中で、最も顕著なものは脳幹中の黒質からのドーパミン作動性ニューロンであり、基底核の機能が損なわれる。この疾患の生物学的基礎を研究するために、複数の動物モデルは使用されるが、最も一般に使用されるものはMPTP(1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン)による中毒である。ヒト及び動物におけるMPTP中毒は、臨床的及び組織学的なレベルで、パーキンソン病を強く連想させる疾患をもたらす。現在、パーキンソン病の対症療法は十分に開発されているが、疾患の経過の修飾を目的とした治療(疾患修飾性薬物)を欠く。パーキンソン病が高頻度であり、医療費用及び社会的費用が高いために、パーキンソン病の経過の停止のための新しい療法を発達させることは優先度が高い。この意味では、治療法は、パーキンソン病が主として標的とするドーパミン作動性ニューロンを保護又は再生することを目的とする。
【0139】
方法
1.MPTPマウスモデル
オスC57B1マウス(23g〜31gの体重範囲の身体)をこの研究において使用した。0.9%NaCl中に溶解したMPTP(Sigma社)を用量30mg/kgで腹腔内に5日間注入した。MTAは6mg/mlの最終濃度で2%のDMSOを含む精製水中に溶解し、96μmol/kg又は192μmol/kgの用量で腹腔内に注入した。実験の1日目は、MPTP注入の24時間前にMTAを注入し、続く4日間は、MPTP投与の1時間前にMTAを投与した。マウスを以下の4群に割り当てた。(1)MPTP(n=6);(2)MPTP+96μmol/kgのMTA(n=6);(3)MPTP+192μmol/kgのMTA(n=9)及び(4)対照群(n=2)。
【0140】
実験の終了時に、蒸留水中の過剰用量の10%抱水クロラールにより動物に麻酔をかけ、次いで生理食塩水リンガー溶液、続いて0.125M PB(pH7.4)中に4%パラホルムアルデヒド及び0.4%グルタルアルデヒドを含有する100mlの冷固定液により経心臓的に潅流した。灌流後に頭蓋骨を開き、摘出した脳を同じ固定液中で4℃で一晩後固定し、次に0.125M PB(pH7.4)中に20%グリセリン及び2%のジメチルスルホキシドを含有する凍結保護溶液中で保存する。凍結した冠状ミクロトーム切片(50μm厚)を得て、6連の隣接切片で0.125M PB(pH7.4)中に採取した。切片は更なる加工処理まで−80℃で保存した。
【0141】
免疫組織化学
無作為に開始して、全SNを通して3つの切片毎にサンプリングし、切片は自由浮遊状態で加工処理した。内因性のペルオキシダーゼ活性は、1.25%のH2O2を含むメタノール中で切片を40分間インキュベーションすることによって除去された。0.125MのPBS中の4%正常ヤギ血清、4%BSA及び0.05%のTX−100によるブロッキング後に(40分、室温)、同じブロッキング溶液中で1:500に希釈したマウス抗THモノクローナル抗体(Sigma社)により切片をインキュベーションした(室温で一晩)。次に切片を、0.125M PBS中の0.5%正常ヤギ血清、2%BSAで1:300に希釈したビオチン化ヤギ抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch社)により室温で60分間インキュベーションした。切片を、0.125M PBS中のペルオキシダーゼコンジュゲートExtrAvidin(登録商標)の1:4000溶液中で室温で90分間インキュベーションし、免疫反応性構造を、0.05M トリスHCl(pH7.4)中の0.05%の3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)及び0.03%の新鮮なH2O2中でのインキュベーション後に可視化した。最終的に切片は、0.05M トリスHCl中の2%のゼラチン溶液を使用してスライドグラスにマウントした。翌日、切片をニッスル(Sigma社)により対比染色し、脱水し、キシレン中で透明化し、DPXによりカバーグラスをかけた。切片を0.125MのPBSにより3回リンスした後、ペルオキシダーゼ阻害、一次抗体及びペルオキシダーゼをコンジュゲートした二次抗体によるインキュベーション、並びにDABインキュベーション、並びにスライドグラス上のマウントを行った。組織学的定量化は、BX50顕微鏡を使用し、Oorschot(J Comp Neurol 366:580-599, 1996)によって記載された方法を従って、Olympus社製のCASTシステムを使用して行った。50μm厚切片を用い、体積の算出にはCavalieruの方法を使用した。視覚的解剖器具を使用して、150μmの距離で3つの切片毎に400倍でニューロンをカウントした。全ての場合において、誤差係数は10%未満であった。
【0142】
結果
MPTPにより処理した動物は、対照動物と比較してドーパミン作動性ニューロン数が40%減少していることが見出された。これとは対照的に、96μM/日のMTAにより処理した動物では、対照動物と比較してニューロンの消失は有意に低く(10%)、MPTPにより処理した動物よりもドーパミン作動性ニューロン数は有意に高かった(30%超)(図19)。
【0143】
結論
この結果は、MTAがMPTPによって誘導された損傷からドーパミン作動性ニューロンを保護することを示し、MTAはパーキンソン病のために神経保護療法(疾患修飾療法)になり得ることを示唆する。
【0144】
実施例9.in vitroモデルにおいてニューロン分化を誘導するMTAの能力及び関与するシグナル伝達経路の研究
要旨
ラットの褐色細胞腫(pheochromocitome)からのドーパミン作動性細胞株(PC12)のニューロンにおける神経前駆細胞の分化の誘導(神経突起の産生によって決定される)に対するメチルチオアデノシン(MTA)の効果を検査し、関与するシグナル伝達経路を研究した。
【0145】
序論
PC12細胞株はニューロン細胞を分化させるためのモデルシステムとして使用される。神経成長因子(NGF)による刺激後に、PC12細胞株は増殖を停止し、突起を形成し、適切な刺激によるシナプス小胞の形成等の他のニューロンのマーカーを発現し始める。ras−MAPK、ホスホリパーゼC(PLC)及びホスファチジルイノシトール(PI)3−キナーゼシグナル伝達経路がNGFによる処理に際して活性化されるようになることは既知である。それゆえ、PC12における神経突起分化システムは、MTAの神経突起を形成する能力及び関与するシグナル伝達経路の研究のために好適なシステムである。
【0146】
方法
PC12培養物
PC12細胞は、2.5%のウシ胎仔血清、15%のウマ血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したHAM培地中で37℃で維持した。神経突起分化分析は、0.5%のウシ胎仔血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したHAM培地中でコラーゲン処理をした24ウェルプレートを使用して行った。NGF(100ng/ml)又は異なる濃度(25μM、100μM及び2mM)のMTAを培養物に添加し、4日後に細胞体の2倍よりも長い神経突起を有する細胞のパーセンテージをカウントした。各実験において、最低300個の細胞を無作為にカウントした。
【0147】
細胞内リン酸化の決定
異なる細胞内タンパク質のリン酸化はLuminex技術を使用して検出した。神経突起分化分析後に、PC12細胞を溶解バッファー中に入れ、以下の異なる抗体を使用して検査した。全Akt/PKB、全p38/SAPK、全STAT3、全ERK/MAPK、全P70 S6キナーゼ、リン酸化Akt/PKB(Ser473)、リン酸化Akt/PKB(Thr308)、リン酸化p38/SAPK(Thr180/Tyr182)、リン酸化(phosphorilyated)STAT3(Tyr705/Ser727)、リン酸化ERK/MAPK(Thr185/Tyr187)及びリン酸化P70 S6キナーゼ(Thr412)。
【0148】
結果
神経突起分化結果は、PC12細胞において新しい突起を発達させるMTAの能力を明らかにする。新しい神経突起の形成は培地に添加されたMTAの濃度に依存し、最適濃度は1mMである。検査した最高濃度(5mM)は神経突起の発達に影響しない(図20A及び図20B)。PC12細胞でのMTAに誘導された分化過程において、MAPK、p38/SAPK及びSTAT3経路の活性化を観察することができ、そのことは神経突起分化に対するMTAの効果がNGFと同じ経路(それはSTAT3リン酸化の阻害を必要とする(図21))に従わなくてもよいことを示唆する。
【0149】
結論
この結果は、MTAが、PC12細胞株においてNGFによって従来使用される経路に対して、同じ細胞において代替の経路を使用してニューロンの分化を促進できることを示す。
【0150】
実施例10.酸化ストレスに対するMTAの「in vitro」の神経保護能
要旨
2つのタイプの酸化ストレス(過酸化水素及び硫酸銅)に対するRN22ラットのシュワン鞘腫細胞株におけるMTAの神経保護能を検査した。神経保護は、ストレス誘導性の死から保護する能力、及び酸化ストレス産生に直接関連する活性酸素種(ROS)の産生を減少させる能力として測定した。
【0151】
序論
RN22細胞株(ラットのシュワン鞘腫)は、この細胞株において、NGFがそのp75膜受容体を介して生存経路を活性化することができることに起因して、硫酸銅によるストレスに対する保護を研究するためのシステムとして使用される。ストレス発生後に、NGFが添加されたそれらの細胞は、これらの細胞がこれらの条件下で生存することを可能にするp75受容体を介して生存経路を活性化する。それゆえ、RN22におけるストレス生存システムは、異なるタイプのストレスから神経系細胞を保護するMTAの能力の研究に好適なシステムである。
【0152】
方法
RN22培養物
RN22細胞は、10%のウシ胎仔血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM培地中で37℃で維持した。硫酸銅によるストレスに対する分析は血清なしのDMEM培地中で24ウェルプレートを使用して行った。3日間細胞接着させた後、NGF(100ng/ml)又はMTAを、硫酸銅(150μM)の30分前に異なる濃度で添加した。24時間後に、MTT分析によって細胞生存率を定量し、蛍光によってROS産生を定量した。過酸化水素によるストレスに対する分析は、ストレス産生剤として100μM過酸化水素を使用して、先のものと同じように行った。
【0153】
MTT分析
不溶性ホルマザンに還元されるMTT(Sigma社)の量を決定した。培地の分離後に、非水溶性ホルマザンをDMSO中で可溶化し、溶解した材料を570nmで分光光度計において測定する。
【0154】
ROS測定
処理あり及び処理なしのストレス後の細胞によって産生されたROSの量を決定した。細胞における酸化ストレスの測定には、2’,7’−ジクロロジヒドロフルオレセイン(DCFH)が一般的に使用される。細胞はDCFH−DA(10μM)により37℃で30分間インキュベーションした。インキュベーション後に、細胞をPBSにより2回洗浄し、0.5%のTween20を含有する10mM トリスHClバッファーの添加によって溶解した。次いで、ホモジネートを10000gで10分間遠心分離して細胞残渣を分離し、上清におけるDVF蛍光を蛍光計(励起波長492nm〜495nm、発光波長517nm〜527nm)(Invitrogen社)を使用して測定した。
【0155】
結果
硫酸銅によるストレスに対する神経保護を検査するために行われた分析において、試験したMTA濃度のほとんどにおいて、MTAが有意な神経保護効果を発揮し、NGF対照の保護レベルにさえも到達していることが観察できる(図22)。MTAの効果は分子の濃度に依存し、高濃度(mM範囲)は最低の応答を生じる。この効果は、ストレス誘導後の異なる期間においてROS産生を減少させるMTAの抗酸化能力により確認された(図23)。
【0156】
過酸化水素によるストレスに対する神経保護を検査するために行われた分析において、試験した濃度範囲(25μM〜3mM)にわたってMTAが細胞生存率を維持できることを観察できる(図24)。硫酸銅によるストレスの場合のように、MTAは過酸化水素によるストレス後の異なる期間においてROS産生を減少させることができる(図25)。
【0157】
結論
これらの結果は、異なるタイプの酸化ストレスに対するMTAの神経保護能を実証する。両方の場合において、MTAはストレス後に細胞生存率を維持し、酸化防止効果を有し、シュワン細胞におけるROS産生レベルを有意に低下させる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経障害、精神障害及び老化の治療法の分野に関する。詳細には、本発明は低分子5’−メチルチオアデノシンの神経保護効果に関する。
【背景技術】
【0002】
老化、神経障害、及び精神障害は、神経細胞に死及び損傷を引き起こす。神経系に対する損傷としては、とりわけニューロン変性、虚血、炎症、免疫応答、外傷及びがんが多く見られ、また注目を集めている。これらの結果として、神経細胞は数分若しくは数時間内に死滅するか、又は神経変性を活性化する活動低下状態としてこの最初の損傷に対しては生存するが、同様に細胞死に帰結する。
【0003】
基礎的な運動技能及び感知を可能にする際の神経系の重要性を考慮すると、神経系を保護する治療法を見出すことは重要である。
【0004】
神経保護は、神経系、その細胞、構造、及び機能の保持、回復、治癒、又は再生を目的とする(非特許文献1)。神経保護の目的は、神経系に対する元々の損傷の効果を防止する若しくは最小限に抑えること、又は軸索、ニューロン、シナプス、及び樹状突起に対して損傷を引き起こす内因性若しくは外因性の有害プロセスの結果を防止する若しくは最小限に抑えることである。
【0005】
治療戦略は、一般に単一の提案された傷害因子の調節に基づくことが多い。かかる治療は高度に制御された動物モデルにおいては有益であることが分かっているが、遺伝的に多様な集団において傷害の重症度がより変動的となる、より複雑なヒト障害においても効果的であることが証明される可能性は低い(非特許文献2)。重要なことには、推定されるニューロン死の機構は、酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害、タンパク質凝集、アポトーシス、及び炎症等、複雑かつ様々なものであるため(非特許文献3)、複数の傷害機構に対する多能性効果を有する単一の化合物が望まれる。
【0006】
複数の神経保護的薬物が研究中であり、これには抗炎症剤、N−メチルDアスパラギン酸(NMDA)アンタゴニスト、α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソオキサゾールプロピオン酸(AMPA)アンタゴニスト、デキサナビノール、ナトリウムチャネル遮断剤、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、増殖因子、グルココルチコイド、カフェイノール、オピオイドアンタゴニスト、アポトーシス阻害剤、フリーラジカル捕捉剤/スカベンジャー、エリスロポエチン、カルシウムチャネル遮断剤、硫酸マグネシウム、スタチンのクラスが含まれる。
【0007】
これらの薬剤が二次的な生化学的損傷及び細胞死を制限する能力は、脳卒中、頭部傷害、及び脊髄傷害の多数の動物モデルにおいて良好に確立されているにもかかわらず、かかる神経保護的な治療戦略の結果は、ヒトの傷害においては望ましい結果が得られていない(非特許文献2)。それゆえ、好ましくは多能性効果を有し神経保護特性のある薬物の提供に対する継続的な必要性がある。
【0008】
5’−メチルチオアデノシン(MTA)は、ポリアミンスペルミン及びスペルミジンの合成中に、S−アデノシルメチオニン(SAM)から産生される親油性含硫アデニンヌクレオシドである。MTAは、サイズの小ささ及び親水性のために経口製剤に好適な薬物である。
【0009】
非特許文献4及び非特許文献5によれば、MTAは、炎症誘導性遺伝子及びサイトカイン(インターフェロン−γ、腫瘍壊死因子−α、及び誘導型一酸化窒素合成酵素)の産生を抑制すること、及び抗炎症性サイトカイン(インターロイキン10)の産生を増加させること;並びに脳の自己免疫疾患を回復させることによる免疫調節活性を有することが記載されており、その結果として多発性硬化症及び他の自己免疫疾患に利益のあることが示唆される。この点に関しては、特許文献1は、多発性硬化症(MS)等の自己免疫疾患の予防及び/又は治療、並びに移植拒絶反応の予防及び/又は治療へのMTAの使用を開示している。さらに、特許文献2(Bioresearch社)は、抗炎症性、解熱性、及び鎮痛性の化合物としてのMTAの使用を開示している。
【0010】
Kang et al.による2つの研究(非特許文献6、非特許文献7)において、MTAが反応性星膠症を部分的に阻害することができることが示唆された。星膠症(星状細胞増加症)は、典型的には低血糖又は酸素欠乏(低酸素)のために近傍のニューロンが破壊されて起こる、星状細胞数の異常な増加である。星膠症は筋萎縮性側索硬化症(ALS)における主要病理所見である。
【0011】
特許文献3(Bioresearch社)は、アデノシン化合物が、脳虚血若しくは心筋虚血の症例等の様々な虚血状況、又は任意の器官若しくは組織の虚血における治療上の使用に好適であることを開示している。
【0012】
Avila et al.(非特許文献8)による総説において、MTAが、遺伝子発現調節、増殖、分化及びアポトーシスを含む細胞の多数の重要な応答に影響を及ぼして、多数の手段で細胞プロセスを達成することができることが示唆されている。Avila et al.は、肝臓損傷及びがんのモデルにおける観察結果を考慮してMTAの治療上の可能性を提案している。
【0013】
驚くべきことに、MTAの神経保護能を研究する網羅的な取り組みにおいて、酸素及びグルコースを枯渇させた大脳皮質における星状細胞及びニューロンの保護;全脳虚血後の細胞死からのアンモン角(Cornu Ammonis)(CA1)海馬ニューロンの保護;興奮毒性及び虚血後の視神経組織損傷からのオリゴデンドロサイトの保護;興奮毒性に曝された神経膠−ニューロン(glial-neuronal)混合培養物の保護;軸索ジストロフィーの減少、並びにミエリン及び軸索の消失の防止において、MTAが実際に効果があることが見出された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2006097547号
【特許文献2】米国特許第4,454,122号
【特許文献3】欧州特許第526866号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Vajda et al. 2002, J Clin Neurosci 9:4-8
【非特許文献2】Faden and Stoica 2007, Arch Neurol.; 64:794-800
【非特許文献3】Youdim et al. 2005, TIPS 26:27-35
【非特許文献4】Moreno et al. Diss. Abstr. Int., C 2007, 68(1), 111
【非特許文献5】Moreno et al. Ann Neurol 2006; 60; 323-334
【非特許文献6】Kang et al. Zhongguo Shenjing Kexue Zazhi 1999, 15(4), 289-296
【非特許文献7】Kang et al. Yike Daxue Xuebao 1999, 26(5), 318-320
【非特許文献8】Avila et al. Int J Biochem Cell Biol. 2004; 36(11):2125-30
【発明の概要】
【0016】
本発明は、活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの、神経細胞の死又は損傷の予防又は治療のための医薬品の製造における使用に関する。換言すると、本発明は、神経細胞の死又は損傷の予防又は治療に使用される、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグに関する。同様に本発明は、神経細胞の死又は損傷を予防又は治療する方法であって、効果的な量のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経細胞の死又は損傷を予防又は治療する方法にも関する。
【0017】
本発明は、神経保護的医薬品の製造における活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用に関する。換言すると、本発明は、神経保護的薬物として使用されるMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグに関する。同様に本発明は、神経保護方法であって、効果的な量のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経保護方法に関する。
【0018】
本発明は更に、活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの、神経細胞の再生のための医薬品の製造における使用に関する。換言すると、本発明は、神経細胞の再生に使用されるMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグにも関する。同様に本発明は、神経細胞を再生する方法であって、効果的な量のMTA、又はその薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグの1つをそれを必要とする被験体に投与することを含む、神経細胞を再生する方法にも関する。
【0019】
本発明は更に、活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの、神経疾患又は精神疾患の予防又は治療のための医薬品の製造における使用に関する。換言すると、本発明は、神経疾患又は精神疾患の予防又は治療に使用される、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグにも関する。同様に本発明は、神経疾患又は精神疾患を予防又は治療する方法であって、効果的な量のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経疾患又は精神疾患を予防又は治療する方法にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】大脳皮質からのニューロンと星状細胞との混合培養物におけるMTA毒性プロファイルを示したグラフである。MTA毒性プロファイルは、大脳皮質からのニューロンと星状細胞との混合培養物において、化合物が分析濃度で無害であることを示す。(左側)カルセイン−AMを使用する生存率分析。(右側)乳酸脱水素酵素(LDH)放出分析。両方の事例において、MTAは分析濃度でニューロン−星状細胞共培養物に対して毒性ではない。
【図2】MTAが、大脳皮質から得られるニューロンと星状細胞との混合培養物を模倣虚血から保護することを示したグラフである。大脳皮質から得られたニューロンと星状細胞との混合培養物における、酸素−グルコース枯渇(OGD)誘導性の損傷及びMTAによる保護。20μM又は50μM(それぞれ左側及び右側)のヨード酢酸(IAA)を使用して、2つの虚血条件を分析した。両方の条件において、MTAは極めて保護的であった。比較のために、NMDA受容体のアンタゴニストである(2R)−アミノ−5−ホスホノ吉草酸(APV)も分析した。10μMのMTAは、APV(50μM)よりも更に保護的であった。*又は#はp<0.05;**又は##はp<0.01。
【図3】局所的虚血後のラットのMTAによる処理を示したグラフである。MTAは、90分の中大脳動脈(MCAO)の閉塞後の脳組織損傷を保護しない。MTAによる処理を虚血発症30分で開始した(1日2回腹腔内)。ラットは再潅流3日目で屠殺し、薄片に切断し、2,3,5−トリフェニル−2H−テトラゾリウムクロライド(TTC)により染色して損傷を受けた区域を観察した。値は、損傷を受けた領域の平均±平均値の標準誤差(SEM)を表す。
【図4】全脳虚血後のラットのMTAによる処理を示したグラフである。MTAは、10分の全脳虚血後の細胞死からCA1海馬ニューロンを保護する。MTAによる処理は虚血後30分で開始した(1日2回腹腔内)。ラットは再潅流7日目で屠殺し、切片を作製し、Fluoro−jadeにより染色して死細胞を観察した。値は、任意の単位(AU)における蛍光の平均±標準誤差を表す(P<0.01)。
【図5】オリゴデンドロサイトにおけるMTA毒性プロファイル及び興奮毒性の損傷からの保護を示したグラフである。(A)視神経に由来する培養オリゴデンドロサイトにおけるMTA毒性プロファイル。(B)MTAはAMPA(10μM)による低強度の興奮毒性の損傷からオリゴデンドロサイトを保護する。しかしながら、MTAは高AMPA投与量(100μM)による死からオリゴデンドロサイトを保護しない。
【図6】MTAが視神経を模倣虚血から保護することを示したグラフである。単離された視神経におけるOGD誘導性の損傷は、AMPA/カイニン酸と、NMDA受容体アンタゴニストである6−シアノ−7−ニトロ−キノキサリン−2,3−ジオン(CNQX)及びAPVのいずれか又は両者とによって減衰した(上部)。加えて、MTAも保護的である(下部)。*はp<0.05;**はp<0.01。
【図7】純粋ニューロン培養物における、NMDA媒介性の神経毒性の時間経過を示したグラフである。データは、12の実験の平均+標準誤差を表す。媒質と比較して、***はp<0.01。
【図8】純粋ニューロン培養物における、NMDA媒介性の神経毒性の濃度−反応曲線を示したグラフである。データは、12の実験の平均+標準誤差を表す。媒質と比較して、***はp<0.01。
【図9】純粋ニューロン培養物における、NMDA媒介性のカスパーゼ3活性の増加の時間経過を示したグラフである。データは、12の実験の平均+標準誤差を表す。媒質と比較して、**はp<0.05。
【図10】純粋ニューロン培養物における、NMDA媒介性の毒性に対するMTA(100μM〜500μM)の効果の欠如を示したグラフである。データは、12の実験の平均+標準誤差を表す。NMDAと比較して、MK(MK−801、10μM)***はp<0.001。
【図11】純粋ニューロン培養物における、NMDA媒介性のカスパーゼ3活性の増加に対するMTA(100μM〜500μM)の効果の欠如を示したグラフである。データは、12の実験の平均+標準誤差を表す。媒質及びNMDAと比較して、MK(MK−801、10μM)***はp<0.001。
【図12】ニューロン−神経膠の混合培養物における、NMDA媒介性のカスパーゼ3活性の増加に対するMTA(250μM)の効果を示したグラフである。データは、12の実験の平均+標準誤差を表す。媒質及びNMDAと比較して、MK(MK−801、10μM)***はp<0.001。
【図13.I】小脳器官型培養物における神経炎症モデルを示した図及びグラフである。A)共焦点顕微鏡検査によって得られたミエリン塩基性タンパク質(MBP)(緑色)及びニューロフィラメントサブユニット(NFL)(赤色)の免疫染色。対照培養物は、多くの場合軸索と一致する髄鞘(緑色)を示す(パネルa及びd)。15μg/mlのリポ多糖(LPS)の処理後の免疫染色は少数の有髄ニューロフィラメントしか示さない(パネルc及びf)が、5μg/mlのLPSにより処理した器官型培養物は、より髄鞘形成が保持され、軸索膨張は少なかった(パネルb及びe)。パネルg〜パネルiにおいて、ニューロフィラメント軽鎖染色を示す。15μg/mlのLPSにより処理した小脳器官型培養物は軸索膨張(パネルi中の矢印)及び軸索離断(パネルi中の矢頭)を示したが、対照及び5μg/mlのLPSにより処理した器官型培養においてそれらは存在しなかった。器官型培養物は24時間の処理後に染色した。スケールバーは、50μm(パネルa〜パネルc)、10μm(パネルd〜パネルf)及び20μm(パネルg〜パネルi)である。B)ELISAによって測定されたTNF−αの濃度。LPS処理(5μg/ml及び15μg/ml)はTNF−αの培地中への放出を誘導し、それは3時間でピークに達する。C)CNPase、APP、iNOS及びGAPDHのウエスタンブロット解析。15μg/mlのLPSは、24時間の処理で脱髄(第1のパネル上部)、軸索損傷(第2のパネル上部)及び酸化ストレス(第3の(thirst)パネル上部におけるiNOS)を誘導し、1時間で開始して96時間までGAPDHが増加する。5μg/mlでは、より少ない脱髄(第1のパネル下部)及び12時間でわずかな軸索の損傷(第2のパネル下部)が誘導される。酸化ストレス(iNOS及びDAPDH)は、15μg/mlのLPSにより処理した器官型培養物におけるものと同じ増加(第3のパネル下部及び第4の(fours)パネル下部)を示した。
【図13.II】マウスの小脳器官型培養物におけるミクログリアの活性化を示した図及びグラフである。A)共焦点顕微鏡により観察したMHCIIの標識。パネル2において、LPSにより処理しない対照(パネル1)と比較して、MHCIIについて多くの陽性細胞が観察することができる。パネル3において、パネル2における増加が観察される。B)グラフは、LPSによる処理が処理後3時間でどのようにMHCIIの活性化を誘導するかを示す。
【図14】神経炎症モデルにおける神経保護剤としてのMTAを示した図及びグラフである。A)共焦点顕微鏡検査によって得られたMBP(緑色)及びNFL(赤色)の免疫染色。対照培養物は、多くの場合軸索と一致する髄鞘(緑色)を示す(パネルa及びd)。15μg/mlのLPS処理後の免疫染色は少数の有髄ニューロフィラメントしか示さない(パネルb及びe)が、192μMのMTAにより処理した器官型培養は、多くの場合軸索と一致する髄鞘を示す(パネルc及びf)。パネルg〜パネルiにおいて、ニューロフィラメント軽鎖染色を示す。15μg/mlのLPSにより処理した小脳器官型培養物は軸索膨張(パネルh中の矢印)及び軸索離断(パネルh中の矢頭)を示し、対照及びMTAにより処理した器官型培養においてそれらは存在しなかった(パネルg及びパネルi)。器官型培養物は24時間の処理後に染色した。スケールバーは、50μm(パネルa〜パネルc)、5μm(パネルd〜パネルf)及び20μm(パネルg〜パネルi)である。B)ELISAによって測定したIL1−βの濃度。LPS処理は培地におけるIL1−βの放出を誘導し、3時間でピークに達する。MTA処理では、3時間でわずかな量のIL1−β放出が誘導される。C)CNPase及びAPPのウエスタンブロット解析。神経炎症モデルにおいて、15μg/mlのLPSは24時間の処理で脱髄(第1のパネル上部)及び軸索損傷(第2のパネル上部)を誘導し、MTAにより処理した器官型培養物においてそれら存在しなかった(第1及び第2のパネル下部)。
【図15】慢性EAEに罹患し、疾患発症後にMTAにより処理したC57B6マウスの臨床スコアを示したグラフである。1日目:2以上のEAEスコアを示したはじめの日である。プラセボ(黒四角)、96μmol/kgのMTA(白四角)。
【図16】プラセボ(黒色)又はMTA(白色)により処理した動物における、脊髄(頸髄及び腰髄)中の2つの位置での軸索密度定量化(方法中に記載されるように)を示したグラフである。
【図17】癲癇重積持続状態(SE)前のMTA(A)、SE後のMTA(B)又は媒質(C)のレジメンにより処理した成体ラットにおけるピロカルピン誘導性のSEの30日後の海馬のNeuN免疫反応性の代表的な例を示した図である。Aに示すSE前のMTA被験体は歯状回及び錐体細胞層中のニューロンをよく保持する一方で、SE後のMTA群におけるラットは歯状回中で軽度の細胞消失のみを示す(B中の矢印)。対照は、歯状回及びCA1領域の錐体細胞層の両方において重度の細胞消失を示す(C)。
【図18】SE後のMTAのラット海馬のCA1領域に対する効果を示したグラフである。90分のSEエピソードを、ピロカルピン処理により成体ラットにおいて誘導し、ジアゼパムにより終結させた。SEの終結直後にMTA処理を開始して、3日間毎日行った。MTA処理の終了の28日後にラットを屠殺した。対照ラットにはMTAの代わりトリスバッファーを投与した。平均±標準誤差を示す。MTA群の細胞数の増加は有意でない傾向が見出された(p=0.057)。
【図19】パーキンソン病の動物モデル(MPTPにより処理されたC57B6マウス)におけるドーパミン作動性ニューロン(TH細胞)の生存に対するMTAの効果を示したグラフである。対照動物は黒質中にTH細胞を正常密度で有する。MPTPにより処理した動物は、対照と比較して、THニューロン数が40%減少した。対照的に、MPTPに曝露した後にMTA(96μM)により処理した動物のTHニューロン数の減少は対照と比較して有意でなく(10%)、THニューロン数はMPTP動物よりも有意に高かった。
【図20A】ニューロン分化に対するMTAの効果を示した図である。NGF(100ng/ml)又は異なる濃度のMTAにより4日間処理したPC12細胞。異なる処理による神経突起発達の違いが観察された。
【図20B】ニューロン分化に対するMTAの効果を示したグラフである。4日間NGF(100ng/ml)又は異なるMTA濃度により処理したPC12細胞における神経突起の定量化。結果は、NGFによる対照に対する分化のパーセンテージとして表現される。
【図21A】NGF(100ng/ml)又は異なる濃度でMTAにより4日間処理したPC12細胞における異なる細胞内タンパク質のリン酸化のパーセンテージの定量化を、Luminex技術を使用して示したグラフである。
【図21B】NGF(100ng/ml)又は異なる濃度でMTAにより4日間処理したPC12細胞における異なる細胞内タンパク質のリン酸化のパーセントの定量化を、Luminex技術を使用して示したグラフである。
【図21C】NGF(100ng/ml)又は異なる濃度でMTAにより4日間処理したPC12細胞における異なる細胞内タンパク質のリン酸化のパーセントの定量化を、Luminex技術を使用して示したグラフである。
【図22】硫酸銅(150μM)によるストレスに曝露され、NGF(100ng/ml)又は異なるMTA濃度により24時間処理したRN22細胞における細胞生存率(MTT分析)のパーセンテージを示したグラフである。
【図23】硫酸銅(150μM)によるストレスに曝露され、NGF(100ng/ml)又は異なるMTA濃度により異なる期間で処理したRN22細胞におけるROSレベルの測定を示したグラフである。
【図24】過酸化水素(100μM)によるストレスに曝露され、異なるMTA濃度により24時間処理したRN22細胞における細胞生存率(MTT分析)のパーセンテージを示したグラフである。
【図25】過酸化水素(100μM)によるストレスに曝露され、異なるMTA濃度により異なる期間で処理したRN22細胞におけるROSレベルの測定を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、神経細胞の死又は損傷の予防又は治療のための医薬品の製造における、活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用に関する。換言すると、本発明は、神経細胞の死又は損傷の予防又は治療に使用される、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグに関する。同様に本発明は、神経保護方法であって、効果的な量のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経保護方法に関する。
【0022】
本発明はまた、神経保護的医薬品の製造における活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用に関する。換言すると、本発明はまた、神経保護的薬物として使用されるMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグにも関する。同様に本発明はまた、神経細胞の死又は損傷を予防又は治療する方法であって、効果的な量のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経細胞の死又は損傷を予防又は治療する方法にも関する。
【0023】
MTA(本明細書において5’−メチルチオアデノシンとも称される)は例えばSigma社によって提供され得る商品である。代替的には、この化合物は、Schlenk F. et al., Arch. Biochem. Biophys., 1964, 106:95-100によって記載される手順に従って、当業者に既知の方法によって、例えばS−アデノシル−メチオニン(SAM)から得ることができる。MTAのCAS登録番号は2457−80−9であり、その構造式は以下の通りである。
【化1】
【0024】
「プロドラッグ」という用語は、本明細書に使用される場合、個体への投与によって、MTA又はその薬学的に許容可能な塩を、直接適又は間接的に、上記個体に提供することができる、MTAに由来する任意の化合物(例えば、エステル、アミド、リン酸塩等)を含む。好ましくは、上記誘導体は、個体に投与した場合、MTAのバイオアベイラビリティを増加させるか、又は生物学的コンパートメント中でのMTAの放出を促進する化合物である。上記誘導体が個体に投与され、それが個体の生物学的コンパートメント中でMTAを提供すれば、上記誘導体の性質は重要ではない。上記プロドラッグの調製は当業者に既知の従来の方法によって行うことができる。MTAのプロドラッグは、例えば、リボース環のヒドロキシル基のいずれか1つ又は両方に対するプロモイエティ(promoiety:修飾基)の付着によって都合よく調製することができる。MTAプロドラッグの一例は、2’−[(2Z)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メトキシ−2−プロペノエート]−3’−[(2E)−3−(1H−イミダゾール−4−イル)−2−プロペノエート]−5’−S−メチル−5’−チオ−アデノシンである(Journal of Medicinal Chemistry, 47(9):2243-2255, 2004)。MTAのプロドラッグ又は前駆体の別の例は、S−アデノシルメチオニン(SAM)である。
【0025】
「薬学的に許容可能な」という用語は、化合物又は化合物の組み合わせが配合物の他の成分と十分に適合し、それらの業界基準によって許容されるレベルまでは患者に有害ではないことを意味する。
【0026】
治療上の使用においては、5’−メチルチオアデノシンの塩はそのカウンターイオンが薬学的に許容可能なものである。
【0027】
本明細書において述べられるような塩という用語は、MTAが形成できる任意の安定した塩を含むことを意味する。薬学的に許容可能な塩が好ましい。薬学的に許容されない塩は薬理活性を有する化合物の調製において有用であり得る中間体を指すので、薬学的に許容されない塩も本発明の範囲内に包含される。
【0028】
塩は、無機酸(ハロゲン化水素酸、例えば塩酸臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、等の酸);又は有機酸(例えば、酢酸、プロパン酸、ヒドロキシ酢酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸(すなわちエタン二酸)、マロン酸、コハク酸(すなわちブタン二酸)、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸(すなわちヒドロキシブタン二酸)、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、シクラミン酸、サリチル酸、p−アミノサリチル酸、パモン酸等の酸)のような適切な酸によりMTAの塩基形態を処理することによって、都合よく得ることができる。
【0029】
薬学的に許容可能な塩は、無機酸(例えば塩酸、臭化水素酸等を含むハロゲン化水素酸;硫酸;硝酸;リン酸等);又は有機酸(例えば、酢酸、プロパン酸、ヒドロキシ酢酸、2−ヒドロキシプロパン酸、2−オキソプロパン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパン−トリカルボン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4−メチルベンゼン−スルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、2−ヒドロキシ安息香酸、4−アミノ−2−ヒドロキシ安息香酸等の酸)のような適切な薬学的に許容可能な酸によりMTAの塩基形態を処理することによって、得ることができる。
【0030】
反対に、塩形態はアルカリによる処理によって遊離塩基形態に転換することができる。
【0031】
「予防すること」という用語は、かかる用語が適用される疾患、障害、若しくは病態、又は疾患、障害、若しくは病態と関連する1つ又は複数の症状が起こること、存在することを避けること、又は代替的には発症若しくは再発を遅らせることを指す。「予防」という用語は、「予防すること」が直前で定義されたように、予防する行為を指す。
【0032】
「治療すること」という用語は、本明細書に使用される場合、かかる用語が適用される障害若しくは病態、又はかかる障害若しくは病態の1つ又は複数の症状の進行を回復、緩和、又は阻害することを指す。「治療」という用語は、「治療すること」が直前で定義されたように、治療する行為を指す。
【0033】
「被験体」という用語は、動物、特にイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ガチョウ、及びヒト等の哺乳動物を意味する。特に好ましい被験体は両性別のヒトを含む哺乳動物である。
【0034】
「効果的な量」のMTA及びその薬学的に許容可能な塩は、1日当たり0.01mg〜50g、1日当たり0.02mg〜40g、1日当たり0.05mg〜30g、1日当たり0.1mg〜20g、1日当たり0.2mg〜10g、1日当たり0.5mg〜5g、1日当たり1mg〜3g、1日当たり2mg〜2g、1日当たり5mg〜1.5g、1日当たり10mg〜1g、1日当たり10mg〜500mgの範囲であり得る。
【0035】
神経細胞は、脳、脊髄、視神経、網膜、及び末梢神経節の任意の領域からのそれらの細胞を含む。ニューロンには、海馬、小脳、脊髄、皮質(例えば、運動皮質又は体性感覚皮質)、線条体、前脳基底部(コリン作動性ニューロン)、腹側中脳(黒質の細胞)、及び青斑核(中枢神経系の神経アドレナリン細胞)からの組織を含む、胚、胎児、又は成体の神経組織中のものが含まれる。
【0036】
本発明の1つの実施形態において、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、酸化ストレス条件等の化学物質、毒性物質、感染性生物、放射線、外傷、低酸素、虚血、ミスフォールドした異常タンパク質、興奮性毒、フリーラジカル、小胞体ストレッサー、電子伝達連鎖の阻害剤を含むがこれらに限定されないミトコンドリアストレッサー、ゴルジ体アンタゴニスト、軸索の損傷又は消失、脱髄、炎症、病理学的ニューロン破壊(発作)から選択されるが、これらに限定されていない神経細胞の死又は損傷に関連する1つ又は複数の、好ましくは2つ以上の病理学的条件又は有害条件の予防又は治療に使用することができる。更に好ましくは、本発明の使用及び方法は、原因にかかわらず神経細胞の死又は損傷の予防又は治療に関する。
【0037】
「神経保護」、「神経保護的」、又は、「神経保護効果」という用語は、ニューロン及び神経膠を含む神経細胞に対する死又は損傷を防止又は減少させる能力、又は例えば、脳、中枢神経系若しくは末梢神経系に対する病理学的条件又は有害条件の後に、神経細胞を救済(rescuing)、蘇生(resuscitating)、復活させる能力を指す。したがって、この神経保護効果には、ニューロンの細胞がそれらのニューロン機能を維持又は回復する能力の付与が含まれる。神経保護効果は、ニューロン細胞の細胞膜を安定化するか、又はニューロン細胞の機能の正常化を助ける。神経保護効果はニューロン細胞の生存率又は機能の消失を防止する。神経保護効果は細胞死をもたらす進行性のニューロン劣化の阻害を含む。神経保護効果はストレスからの任意の検出可能なニューロンの保護も指す。神経保護には、疾患又は外傷後の神経細胞の再生(すなわち神経細胞集団の再増殖)が含まれる。
【0038】
現在、大多数の神経疾患及び精神疾患には、「疾患修飾性薬物」と称される、疾患の経過を停止又は改善することを目的とした特異的な治療がない。疾患修飾性薬物は、かかる疾患に一般に使用されるがその疾患の経過を変更しない対症療法とは対照的である。神経保護薬物は、脳疾患の治療のための疾患修飾性薬物(DMD)である。
【0039】
それゆえ、1つの実施形態において、本発明は、神経細胞の再生のための医薬品の製造における活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用に関する。換言すると、本発明は、神経細胞の再生に使用するMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグに関する。同様に本発明は、神経細胞を再生する方法であって、効果的な量のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経細胞を再生する方法に関する。
【0040】
神経保護は、例えばストレス後の大脳皮質培養物においてアポトーシスを起こしたニューロンの数の減少によって、ニューロン死の遅延又は防止を測定すること等により、直接決定することができる。神経保護は、例えば中大脳動脈閉塞(MCAO)又は再潅流傷害後の脳梗塞のサイズの減少を測定すること等によって、かかるストレス後の神経系の組織若しくは器官に対する損傷の重症度若しくは程度の測定等又は神経系の組織若しくは器官による機能消失の測定等によっても直接決定することができる。また、神経保護は磁気共鳴イメージング(脳体積の測定、トラクトグラフィー、分光法によるN−アセチルアスパラギン酸(acetylasparte)のレベル)、又は光干渉イメージングによる網膜結像(網膜神経線維層の菲薄化)若しくは網膜分光法(シトクロムc、酸素ヘモグロビン、乳酸塩、グルタミン酸塩、iNOSのレベル)によって同定することができる。代替的には、神経保護は、Keap1/Nrf2経路の活性化又はヘムオキシゲナーゼ1(HO−1)を含むがこれらに限定されない1つ又は複数のフェーズ2酵素の誘導の検出を含むが、これらに限定されないニューロンの保護のための1つ又は複数の生物学的機構の活性化を検出することによって間接的に決定することができる。神経保護を検出及び測定する方法は、以下の実施例において提供され、他のかかる方法は当該技術分野において既知である。
【0041】
本発明中のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを用いる様々な使用及び方法は、急性投与(すなわち傷害から数分〜約数時間内に行う)又は慢性投与(慢性的な神経疾患又は精神疾患に好適)を含む。
【0042】
本発明の1つの実施形態において、神経保護、又は神経細胞の死若しくは損傷の予防若しくは治療、又は神経細胞の再生での様々な使用及び方法において、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、神経疾患又は精神疾患に罹患する被験体に投与される。
【0043】
神経疾患は中枢神経系及び末梢神経系の障害であり、脳、脊髄、脳神経、末梢神経、神経根、自律神経系、神経筋接合部、及び筋肉の障害を含む。
【0044】
中枢神経系及び末梢神経系の疾患としては、これらに限定されないが、臨床兆候の知識が進行するのに伴い、透明中隔欠損、酸リパーゼ疾患、酸マルターゼ欠損、後天的癲癇性失語症、急性播種性脳脊髄炎、アジー瞳孔、アディー症候群、脳梁の副腎白質萎縮症、失認、アイカルディ症候群、アイカルディ・グチエール症候群障害、後天性免疫不全症候群の神経系の合併症、アレキサンダー病、アルパーズ病、交代性半側麻痺、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、無脳症、動脈瘤、アンジェルマン症候群、血管腫症、無酸素症、抗リン酸脂質症候群、失語症、失行症、クモ膜嚢腫、クモ膜炎、アーノルド・キアリ症候群、動静脈奇形、アスペルガー症候群、運動失調、欠陥拡張性失調症、運動失調及び小脳変性又は脊髄小脳変性、心房細動及び卒中、注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症、自律神経機能不全、背部痛、バース症候群、バッテン病、ベッカー型ミオトニア、ベーチェット病、ベル麻痺、良性特発性眼瞼痙攣、骨盤内腫瘤、良性脳圧亢進症、ベルンハルト−ロート症候群、ビンスワンガー病、眼瞼痙攣、ブロッホ−サルズバーガー症候群、腕神経叢分娩時外傷、腕神経叢損傷、ブラッドバリー・エグルストン症候群、脳腫瘍及び脊椎腫瘍、中大脳動脈瘤、脳梗塞、脳虚血、脳損傷、ブラウン・セカール症候群、球脊髄性筋萎縮症、カダシル(皮質下梗塞及び白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症)、カナバン疾患、手根管症候群、灼熱痛、海綿腫、海綿状血管腫、海綿状奇形、中心性頚髄損傷、脊髄中心症候群、中枢痛症候群、橋中心髄鞘崩壊、頭部症候群(Cephalic Disorders)、セラミダーゼ欠損症、小脳変性、小脳低形成、脳動脈瘤、脳動脈硬化症、脳萎縮、ウェルニッケ脳症(Cerebral Beriberi)、中枢神経系海綿状血管腫、大脳性巨人症、脳低酸素、脳性小児麻痺、眼脳腎症候群、シャルコー・マリー・トゥース疾患、キアリ奇形、コレステロールエステル欠乏性疾患、舞踏病、神経有棘赤血球症、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、慢性起立性調節障害、慢性疼痛、II型コケーン症候群、コフィン・ローリー症候群、COFS、脳梁欠損、昏睡、複合性局所疼痛症候群、先天性眼筋麻痺、先天性筋無力症、先天性ミオパシー、先天性血管海綿状奇形、大脳皮質基底核変性症、頭部動脈炎、頭蓋骨癒合症、クロイツフェルト・ヤコブ病、累進性心的外傷障害、クッシング症候群、巨細胞性封入体病、サイトメガロウイルス感染、傍腫瘍性眼球クローヌス・ミオクローヌス運動失調(Dancing Eyes-Dancing Feet Syndrome)、ダンディー・ウォーカー症候群、ドーソン病(Dawson disease)、ド・モルシア症候群、パーキンソン病への深部脳刺激、デジェリン・クルムプケ麻痺、痴呆、多発梗塞性痴呆、早発痴呆、皮質下痴呆、レビー小体認知症、ミオクローヌス性小脳性協働収縮異常症、歯状赤核小脳萎縮、皮膚筋炎、発達性協調運動障害、ドゥビック症候群、糖尿病性神経障害、びまん性硬化症、乳児重症ミオクロニー癲癇(Dravet Syndrome)、自律神経失調、書字障害、失読症、嚥下障害、統合運動障害、ミオクローヌス性小脳性共同運動障害、進行性小脳性共同運動障害、筋緊張異常、大田原症候群(Early Infantile Epileptic Encephalopathy)、トルコ鞍空洞症候群、脳炎、嗜眠性脳炎、脳瘤、脳障害、脳障害、頭蓋内石灰化と慢性的な脳脊髄液のリンパ球増加を伴う家族性脳症(familial infantile, with intracranial calcification and chronic cerebrospinal fluid lymphocytosis);クレー脳炎(Cree encephalitis);偽トーチ症候群;偽トキソプラズマ症候群、脳三叉神経領域血管腫症、癲癇、癲癇性半身麻痺、エルブ・デュシェンヌ及びデジェリン・クルムプケ麻痺、エルブ麻痺、特発性振戦、橋中心髄鞘崩壊、ファブリー病、ファール症候群症候群、失神、家族性自律神経失調症、家族性血管腫、家族性特発性基底核石灰化症、家族性周期性四肢麻痺、家族性痙性脊髄麻痺、ファーバー疾患、熱性けいれん、線維筋性過形成症、フィッシャー症候群、筋緊張低下児症候群、下垂足、フリードライヒ運動失調、前頭側頭型認知症、ガングリオシドーシス、ゴーシェ病、ゲルストマン症候群、ゲルトマン・ストロイスラー・シャインカー病、巨大軸索神経病、巨細胞動脈炎、巨細胞性封入体病、グロボイド細胞性ロイコジストロフィ、舌咽神経痛、グリコーゲン蓄積症、ギランバレー症候群、ハレルフォルデン−スパッツ病、頭部損傷、頭痛、連続性偏頭痛(Hemicrania Continua)、片側顔面痙攣、交代性片麻痺、遺伝性ニューロパシー、遺伝性痙性対麻痺、遺伝性多発神経炎性失調、帯状ヘルペス、耳性帯状ヘルペス、平山症候群(Hirayama Syndrome)、ホームズ−エーディ症候群、全前脳欠損症、HTLV−1関連ミエロパチー、ヒューズ症候群、ハンチントン疾患、水頭無脳症、水頭症、正常圧水頭症、副腎皮質ホルモン過剰症、過睡眠、緊張亢進、低血圧症、低酸素症、免疫介在性脳脊髄炎(Immune-Mediated Encephalomyelitis)、封入体筋炎、色素失調症、小児片麻痺、乳児神経軸索性ジストロフィー、乳児レフスム病(Infantile Phytanic Acid Storage Disease)、乳児レフスム病(Infantile Refsum Disease)、乳児けいれん(Infantile Spasms)、炎症性ミオパシー、後頭孔脳脱出、腸リポジストロフィ(Intestinal Lipodystrophy)、頭蓋内嚢腫(Intracranial Cysts)、頭蓋内圧亢進、アイザック症候群、ジュベール症候群、カーンズ−セイヤ症候群、ケネディー病、傍腫瘍性眼球クローヌス・ミオクローヌス運動失調(Kinsbourn syndrome)、クライン−レヴィン症候群、クリッペル・ファイル症候群、クリッペル−トレノーネイ症候群(KTS)、クリューバー・ビュシー症候群、コルサコフ健紡症候群(Korsakoff's Amnesic Syndrome)、クラッベ病、クーゲルバーグ−ヴェランダー病、クールー病、ランバート−イートン筋無力症候群、ランドウ・クレフナー症候群、外側大腿皮神経封入(Lateral Femoral Cutaneous Nerve Entrapment)、外側髄症候群、学習障害、リー症候群(Leigh's Disease)、レノックス・ガストー症候群、レッシュ・ナイハン病(Lesch-Nyhan Syndrome)、白質異栄養症、神経有棘赤血球症(Levine-Critchicy Syndrome)、レビー小体認知症、脂質貯蔵疾患、類脂質性蛋白症、無脳回症、閉込め症候群、ルー・ゲーリック病(筋萎縮性側索硬化症)、ループス神経学的後遺症(Lupus - Neurological Sequelae)、ライム病−神経学的合併症、マシャド・ジョセフ病、巨大脳髄症、巨脳症、メルカーソン−ローゼンタール症候群、髄膜炎、髄膜炎及び脳炎、メンケス病、知覚異常性神経痛、異染性白質ジストロフィー、小頭症、偏頭痛、ミラー・フィッシャー症候群、軽度認知機能障害、小発作、ミトコンドリアミオパシー、メービウス症候群、平山病(Monomelic Amyotrophy)、運動ニューロン疾患、もやもや病、ムコリピドーシス、ムコ多糖症、多巣性運動ニューロパシー、多発梗塞性痴呆、多発性硬化症、多系統萎縮症、起立性低血圧を伴う多系統萎縮症、筋ジストロフィー、先天的筋無力症、重症筋無力症、アルパーズ症候群(Myelinoclastic Diffuse Sclerosis)、幼児のミオクロニー脳症、ミオクローヌス、ミオパシー、先天的ミオパシー、甲状腺中毒性ミオパシー、ミオトニー、先天性筋緊張症、ナルコレプシー、神経有棘赤血球症(Neuroacanthocytosis)、脳への鉄の蓄積を伴う神経変性、神経線維腫症、神経弛緩薬性悪性症候群、AIDSの神経性合併症、ライム病の神経性合併症、サイトメガロウィルス感染神経性の後遺症(Neurological Consequences)、ポンペ病の神経症状、ループスの神経性後遺症、視神経脊髄炎、神経ミオトニー、ニューロンセロイド脂褐素沈着症、神経細胞移動障害、遺伝的ニューロパシー、神経サルコイドーシス、神経毒性、海綿状母斑、ニーマン−ピック病、正常圧水頭症、後頭神経痛、大田原症候群、オリーブ橋小脳萎縮症、眼球クローヌス・ミオクローヌス、起立性低血圧、オサリバン−マクレオド症候群、濫用症候群、慢性疼痛、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症、腫瘍随伴症候群、触覚性錯覚、パーキンソン病、発作性舞踏病、発作性片側頭痛、ペイリー−ロンベルグ病、ペリツェウス−メルツバッハー病、ペナ−ショッカーII症候群、テイラー嚢胞(Perineural Cysts)、周期性四肢麻痺、末梢ニューロパシー、脳室周囲白質軟化症、脳室周囲白質軟化症、広汎性発達障害、フィタン酸蓄積症、ピック病、圧迫神経、梨状筋症候群、下垂体腫瘍、多発性筋炎、ポンペ病、孔脳症、疱疹症後神経痛、後感染性脳脊髄炎、ポリオ後症候群、体位性低血圧、体位性起立性頻拍症候群、体位性頻拍症候群、主歯状核の萎縮、原発性側索硬化症、原発性進行性失語、プリオン病、進行性顔面片側萎縮症、進行性歩行性運動失調症、進行性多巣性白質脳症、進行性硬化性ポリオジストロフィー、進行性核上性麻痺、相貌失認、偽脳腫瘍、ラムゼー−ハント症候群I(以前そのように知られた)、ラムゼー−ハント症候群II(以前そのように知られた)、ラスムッセン脳炎、反射性交感神経性ジストロフィー症候群、レフサム病、乳児のレフサム病、累積外傷性障害、反復ストレス障害、下肢静止不能症候群、レトロウイルス関連脊髄症、レット症候群、ライ症候群、リウマチ性脳炎、ライリー・デイ症候群、仙骨神経根の嚢胞、舞踏病、唾液腺疾患、サンドホフ病、シルダー病、脳裂、ザイテルバーガー病、発作性障害(Disorder)、語義痴呆、中隔視神経異形成症、乳児期の重症ミオクロニー癲癇(SMEI)、揺さぶられっ子症候群、帯状疱疹、シャイ−ドレーガー症候群、シェーグレン症候群、睡眠時無呼吸、眠り病、ソトス症候群、痙縮、脊椎破裂、脊髄梗塞、脊髄損傷、脊髄腫瘍、脊髄性筋萎縮症、脊髄小脳萎縮症、脊椎小脳変性症、スティール−リチャードソン−オルゼウスキー症候群症候群、全身硬直症候群、線条体黒質変性症、脳卒中、スタージ−ウェーバー症候群、亜急性硬化性全脳炎、皮質下動脈硬化性脳症、SUNCT頭痛、嚥下障害、シデナム舞踏病、卒倒、梅毒性脊髄麻痺、脊髄空洞症(Syringohydromyelia)、脊髄空洞症(Syringomyelia)、全身性エリテマトーデス、脊髄癆、脊髄癆、ターロブ嚢胞、テイ・サックス病、ターロブ嚢胞、脊髄係留症候群、トムゼン病(Thomsen's Myotonia)、胸郭出口症候群、甲状腺中毒性ミオパシー、三叉神経痛、トッド麻痺、トゥレット症候群、一過性虚血発作、伝達性海綿状脳症、横断性脊髄炎、外傷性脳損傷、振戦、三叉神経痛、熱帯性痙性不全対麻痺症、トロイヤー症候群、結節性硬化症、血管勃起腫瘍(Vascular Electile Tumor)、中枢神経系及び末梢神経系の血管炎症候群、フォン−エコーノモ病、フォンヒッペル−リンダウ病(VHL)、フォンレックリングハウゼン病、ワレンベルク症候群、ウェルドニッヒ・ホフマン病、ウェルニッケ−コルサコフ症候群、ウェスト症候群、むちうち、ウィップル病、ウィリアムズ症候群、ウィルソン病、ウォルマン病、X連鎖球脊髄性萎縮症、ゼルウィガー症候群、視神経炎、慢性疲労症候群、線維筋痛症、精神疾患(気分障害、大うつ病、双極性障害、精神異常(psycosis)、精神分裂病、強迫性障害等)、アルコール依存及び薬物乱用のような毒物又は薬物乱用疾患、肝性脳症のような脳障害が挙げられる。
【0045】
精神障害としては、アメリカ精神医学会により出版された精神障害の診断・統計の手引き(the Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)、第4版(DSM−IV)に列挙されたものが挙げられ、子供及び大人両方の全ての精神健康障害をカバーする。特に、精神障害としては、急性ストレス障害から選択される障害;不定型の適応障害;不安を伴う適応障害;うつ気分を伴う適応障害;行動障害を伴う適応障害;混合型不安及びうつ気分を伴う適応障害;混合型気分障害及び行動障害を伴う適応障害;パニック障害の病歴を伴わない広場恐怖症広場恐怖症;神経性無食欲症;反社会的人格障害;健康状態から来る不安障害;不安障害、NOS;回避性人格障害;双極性障害NOS;完全緩解にある、最新のエピソードがうつである、双極性I障害;部分的緩解にある、最新のエピソードがうつである、双極性I障害;最新のエピソードがうつである、穏やかな、双極性I障害;最新のエピソードがうつである、適度の、双極性I障害;最新のエピソードがうつである、精神病の特徴を伴う、重症の双極性I障害;最新のエピソードがうつである、精神病の特徴を伴わない、重症の双極性I障害;最新のエピソードがうつである、不定型の双極性I障害;完全緩解の、最新のエピソードが躁である、双極性I障害;部分的緩解の、最新のエピソードが躁である、双極性I障害;最新のエピソードが躁である、穏やかな、双極性I障害;最新のエピソードが躁である、適度の双極性I障害;精神病の特徴を伴う、最新のエピソードが躁である、重症の双極性I障害;精神病の特徴を伴わない、最新のエピソードが躁である、重症の、双極性I障害;最新のエピソードが躁である、不定型の双極性I障害;完全緩解の、最新のエピソードが混合型の双極性I障害;部分的緩解の最新のエピソードが混合型の双極性I障害;最新のエピソードが混合型の、穏やかな双極性I障害;最新のエピソードが混合型で、適度の、双極性I障害;最新のエピソードが混合型で、精神病の特徴を伴う、重症の、双極性I障害;最新のエピソードが混合型で、精神病の特徴を伴わない、重症の、双極性I障害;最新のエピソードが混合型で、不定型の、双極性I障害;最新のエピソードが混合型で、不定型の双極性I障害;最新のエピソードが不定型の双極性I障害;最新のエピソードが軽躁の、双極性I障害;完全緩解の、単一躁エピソードの、双極性I障害;部分的緩解の、単一躁エピソードの、双極性I障害;単一躁エピソードの、穏やかな、双極性I障害;単一躁エピソードの、適度な、双極性障害、;精神病の特徴を伴う、単一躁エピソードの、重症の双極性I障害;精神病の特徴を伴わない、単一躁エピソードの、重症の双極性I障害;単一躁エピソード、不定型の、双極性I障害;双極性II障害;身体醜形障害;ボーダーライン人格障害;呼吸関連睡眠障害;短期的精神障害;神経性過食症;サーカディアンリズム睡眠障害;会話障害;循環障害;妄想性障害;依存性人格障害;離人症性障害;うつ病性障害NOS;解離性健忘;解離性障害NOS;解離性遁走;乖離性同一性障害(多重人格);性交疼痛;睡眠異常NOS;(他の障害)に関連する睡眠異常;気分変調性の障害; 摂食障害NOS;露出症;健康状態から来る女性の性交疼痛;健康状態から来る女性の不感症;女性の冷感症(Orgasmic Disorder);女性の冷感症(Sexual Arousal Disorder);フェティシズム;フロッテリズム(Frotteurism);青年又は大人における性同一性障害;子供における性同一性障害;性同一性障害NOS;全般性不安障害;演技性人格障害;冷感症(Hypoactive Sexual Desire Disorder);心気症;衝動制御障害NOS;(他の障害に関連する)不眠症;間欠性爆発性障害;盗癖;完全緩解で、再発の、大うつ病性障害;部分的緩解で、再発の、大うつ病性障害;穏やかな、再発の、大うつ病性障害;適度の、大うつ病性障害再発;精神病の特徴を伴い、重症の、再発の、大うつ病性障害;精神病の特徴を伴わず、重症の、再発の、大うつ病性障害;不定型の、再発の、大うつ病性障害;完全緩解の、単一エピソードの、大うつ病性障害;部分的緩解の、単一エピソードの、大うつ病性障害;穏やかな、単一エピソードの、大うつ病性障害;適度の、単一エピソードの、大うつ病性障害;精神病の特徴を伴う、重症の単一エピソードの、大うつ病性障害;精神病の特徴を伴わない、重症の、単一エピソードの、大うつ病性障害;不定型の、単一エピソードの、大うつ病性障害;健康状態から来る男性の性交疼痛;男性の勃起障害;男性の健康状態から来る勃起障害;男性の健康状態から来る冷感症;男性の不感症;健康状態から来る気分障害;自己愛人格障害;ナルコレプシー;悪夢障害;強迫性障害;強迫性人格障害;他の女性の健康状態から来る性的機能障害;他の男性の健康状態から来る性的機能障害;心理的要因及び健康状態の両方と関連する疼痛障害;心理的特徴と関連する疼痛障害;広場恐怖を伴うパニック障害;広場恐怖を伴わないパニック障害;妄想性人格障害;性倒錯症、NOS;錯睡眠NOS;病的賭博;小児性愛;人格障害NOS;心的外傷後障害;早発射精;原発性過眠症;原発性不眠症;健康状態から来る、妄想を伴う心理的障害;心理的障害から来る、幻覚を伴う健康状態;心理的障害、NOS;放火癖;統合失調感情性障害;統合失調質人格障害;緊張型統合失調症;解体型統合失調症;妄想型統合失調症;残存型統合失調症;未分化型統合失調症;統合失調症様障害;統合失調症様人格障害;性的嫌悪障害;性的障害NOS;性的機能障害NOS;性的マゾヒズム;性的サディズム;共有精神病性障害;健康状態から来る過眠症型睡眠障害;健康状態から来る不眠症型睡眠障害;健康状態から来る混合型睡眠障害;健康状態から来る錯睡眠型睡眠障害;夜驚症;夢遊病;社交不安;身体化障害;身体表現性障害NOS;単一恐怖;服装倒錯;抜毛癖;未分化型身体表現性障害;膣痙;及び窃視症が挙げられる。
【0046】
好ましくは、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの投与による、神経細胞の死若しくは損傷の予防若しくは治療、又は神経保護の発揮、又は神経細胞の再生の使用及び方法において、被験体は、神経疾患(多発性硬化症、進行性多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、視神経脊髄炎、神経炎症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、フリードライヒ運動失調、ハンチントン病、レビー小体認知症、脊髄性筋萎縮症、脳虚血、全脳虚血、視神経虚血、視神経炎、脳腫瘍、脳外傷及び癲癇、脳症、脳炎、髄膜炎、慢性疼痛、片頭痛、頭痛、慢性疲労並びに線維筋痛から選択される)又は精神疾患(うつ病、双極性障害、統合失調症、強迫神経症、アルコール乱用、薬物乱用から選択される)を患う。
【0047】
神経細胞の死又は損傷を予防又は治療するために、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、第一選択又は初回単独療法として使用することができる。代替的には、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、特定の神経疾患又は精神疾患について既に治療を受けている被験体において他の薬物に対する補助剤として又は付加療法として、例えば部分発作(脳の特定の一部分において開始する癲癇発作)を有する患者における既存の癲癇治療に対する付加物として使用することができる。MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、続発性全般発作(発作が続いて全脳に広がること)のある患者及び続発性全般発作のない患者のいずれにも使用することができる。MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、脳虚血、多発性硬化症、視神経脊髄炎、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ運動失調、ハンチントン病、レビー小体認知症又は脊髄性筋萎縮症について治療を受けている患者においても使用することができる。
【0048】
したがって、本発明の別の実施形態において、神経保護、又は神経細胞の死若しくは損傷の予防若しくは治療、又は神経細胞の再生での使用及び方法において、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、補助療法又は付加療法として神経疾患又は精神疾患に罹患する被験体に使用される。
【0049】
本発明の1つの実施形態において、神経保護、又は神経細胞の死若しくは損傷の予防若しくは治療、又は神経細胞の再生での様々な使用及び方法において、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、健常な被験体、好ましくは18歳を超える健常な被験体、より好ましくは45歳を超える健常な被験体、更により好ましくは、55歳、60歳、65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳又は100歳を超える健常な被験体に投与される。
【0050】
「健常な被験体」という用語には、その単純な意味に加えて、神経疾患又は精神疾患以外の1つ又は複数の病理状態を患い得る被験体が含まれることを意味する。
【0051】
更なる実施形態において、神経保護、又は神経細胞の死若しくは損傷の予防若しくは治療、又は神経細胞の再生での様々な使用及び方法において、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、補助療法又は付加療法として1つ又は複数の神経強化薬物により治療を受けている被験体に使用される。
【0052】
神経促進薬物には、学習及び記憶、注意力、気分、コミュニケーションスキル並びに性的パフォーマンスを改善するものが含まれる。神経促進薬物の例は、長期シナプス増強(LTP)若しくは長期うつ病(LTD)、カルシウムチャネルの修飾、又はcAMP応答エレメント結合(CREB)タンパク質(cAMPは環状アデノシン一リン酸の頭文字である)を標的とするものである。神経促進薬物の具体例は、ロリプラムのようなホスホジエステラーゼ阻害薬;ドネペジル;D−シクロセリンのようなNMDAグルタミン酸受容体のアゴニスト;アンパカイン;モダフィニル;メチルフェニデートである。
【0053】
MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの神経保護特性は、結果として、ニューロンの細胞死又は損傷によって引き起こされた神経系機能における様々な障害を部分的に又は完全に予防又は治療する。それゆえ、本発明は更に、神経疾患又は精神疾患の予防又は治療のための医薬品の製造における活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用に関する。換言すると、本発明は、神経疾患又は精神疾患の予防又は治療に使用されるMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグにも関する。同様に、本発明は、神経疾患又は精神疾患を予防又は治療する方法であって、効果的な量のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経疾患又は精神疾患を予防又は治療する方法にも関する。神経疾患又は精神疾患は上で挙げられたもののいずれか一つであり得る。好ましくは、神経疾患又は精神疾患は視神経虚血、進行性多発性硬化症、視神経脊髄炎、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、フリードライヒ運動失調、ハンチントン病、レビー小体認知症、脊髄性筋萎縮症、癲癇、視神経炎、脳外傷、脳腫瘍、うつ病、双極性障害、統合失調症、強迫神経症、アルコール乱用、薬物乱用、脳症、脳炎、髄膜炎、慢性疲労、線維筋痛、慢性疼痛、片頭痛及び頭痛から選択される。
【0054】
MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグは、投与目的のために様々な薬学的形態へと配合することができる。適切な組成物として、全身投与用薬物に通常用いられる全ての組成物、例えば、任意の固体(例えば錠剤、カプセル、顆粒等)又は液体組成物(例えば溶液、懸濁液、エマルジョン等)を挙げることができる。MTAの医薬組成物を調製するために、活性成分としての効果的な量のMTA(任意で塩形態又はプロドラッグにおいて)は、密接な混和物中で薬学的に許容可能な担体と組み合わされ、その担体は投与のために所望される調製物の形態に応じて様々な形態をとることができる。これらの医薬組成物は、特に経口投与、経直腸投与、経皮投与、髄腔内投与、静脈内投与、又は非経口注入による投与に好適な単一の剤形であることが望ましい。例えば、経口剤形における組成物の調製において、懸濁液、シロップ、エリキシル、エマルジョン及び溶液等の経口液体調製物の場合においては、例えば水、グリコール、油、アルコール等;又は粉末、ピル、カプセル及び錠剤の場合においては、デンプン、糖類、カオリン、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等の固体担体のような通常の薬学的媒体のいずれかを用いることができる。錠剤及びカプセルは、経口単位剤形のときが投与における容易性において最も有利であり、その場合においては固体の医薬担体がよく用いられる。非経口組成物については、担体は通常少なくとも大部分において滅菌水を含むが、例えば可溶性を支援する他の成分を含むことができる。注入溶液は、例えば、生理食塩水溶液、グルコース溶液、又は生理食塩水とグルコース溶液との混合物が含まれる担体中で調製することができる。注入懸濁物は、適切な液体担体、懸濁化剤等が用いられる場合においても調製することができる。使用直前に液体形態の調製物に転換させることが意図される固体形態の調製物も含まれる。経皮投与に好適な組成物において、担体は、わずかな比率における任意の性質の好適な添加物(この添加物は皮膚上でほとんど有害効果を導入しない)と任意で組み合わせて、浸透促進剤若しくは好適な湿潤剤、又はその両方を任意で含む。薬物の投与のための異なる医薬形態及びそれらの調製の総説は、「Tratado de Farmacia Galenica」(de C. Fauli i Trillo、第10版、1993年、Luzan 5, S.A. de Ediciones)という書籍の中に見出すことができる。
【0055】
投与の容易性及び投与量の均一性のために単位剤形において上述の医薬組成物を配合することは特に有利である。単位剤形は、本明細書に使用される場合、単一の投与量として好適な物理的に不連続の単位を指し、各単位は、必要とされる医薬担体に関連して所望される治療効果を生じるように算出された所定の量の活性成分を含有する。かかる単位剤形の例は、錠剤(分割錠又はコーティング錠を含む)、カプセル、ピル、坐剤、粉末パケット、ウエハ、注入溶液又は懸濁液等、及びそれらの分離した複合物である。
【0056】
単位剤形を含む本発明による組成物は、約0.1%〜70%、又は約0.5%〜50%、又は約1%〜25%、又は約5%〜20%の範囲の量で活性成分を含有することができ、残りは担体を含み、上述のパーセンテージは組成物又は剤形の総重量に対するw/wである。
【0057】
投与されるMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの用量は個体の症例に依存し、習慣的には、最適の効果のために個体の症例の病態に適合させるべきである。したがって、当然この用量は、投与の頻度並びに治療法又は予防法のための各症例において用いる化合物の有効性及び作用持続時間に依存するが、疾患及び症状の性質及び重症度、並びに治療を受ける被験体の性別、年齢、体重、同時投薬及び個体の応答性、並びに治療法が急性又は予防的なものであるかどうかにも依存する。用量は体重に応じて小児適用に適合させることができる。1日の用量は、1日1回で、又は1日2回、1日3回若しくは1日4回等の複数の量で投与することができる。
【0058】
以下の実施例は、本発明を説明するが、これらの実施例に限定しないことが意図される。
【実施例】
【0059】
実施例1:虚血のニューロン培養モデルにおけるMTAの効果
要約
星状細胞及びニューロンが共培養された虚血のニューロンモデルにおけるMTAの神経保護能を調査した。
培養物:ラットの大脳皮質からの星状細胞及びニューロンを使用した。細胞から酸素及びグルコースを枯渇させ、MTAの保護効果を測定した。
【0060】
序論
ニューロン−星状細胞共培養物
文献に記載された手順に従って、胎生18日目のSprague−Dawleyラット胚の皮質葉(cortical lobes)から初代ニューロン培養物を得た(Cheung et al., 1998, Neuropharmacology 37:1419-1429)。B27 Neurobasal培地+10%FBS中に細胞を再懸濁し、次いで、24ウェルプレート中で、文献に記載されるように事前に調製した星状細胞の単層上に、1ウェル当たりの1〜2×105個の細胞で播種した(Vallejo-Illarramendi et al., 2005, Gila 50:276-279)。1日後に、B27を添加したNeurobasal培地及び10%ウシ胎仔血清に培地を置き換え、37℃及び5%CO2で維持した。プレーティングの8〜9日後に培養物を使用した。培養したニューロン及び星状細胞は、それぞれ微小管結合タンパク質−2及び神経膠線維酸性タンパク質に対する抗体を使用して同定した。
【0061】
細胞毒性及び生存率分析
ニューロン−星状細胞共培養物における細胞死及び細胞生存率は、MTA(10μM〜1mM)への24時間の曝露の後に、それぞれ乳酸脱水素酵素分析及びカルセイン−AM分析を使用して、続いて蛍光定量測定(Synergy−HT)を行い分析した。結果は、対照に対する生存細胞又はLDH放出のパーセンテージを、三重で行った少なくとも4つの独立した実験の平均±標準誤差として表す。
【0062】
酸素−グルコース枯渇
NaCl 130mM、KCl 5.4mM、CaCl2 0.1323mM、NaHCO3 0.26mM、MgCl2 0.8mM、NaH2PO4 1.18mM、グルコースの代替物として10mMスクロース、及び解糖(glyocolytic)阻止剤ヨード酢酸(20μM又は50μM)を含有する窒素飽和バッファー中で、高圧タンクにおいて、細胞培養物を1時間インキュベーションすることによって、虚血性損傷を誘導した。損傷後に、細胞を、酸素正常状態で、グルコースを添加しヨード酢酸を除去して、更に24時間インキュベーションした。虚血中にMTA又はNMDA受容体アンタゴニストAPV(50μM)を添加して、それらの神経保護活性を評価した。培養物は、細胞生存率及び細胞死について上述のように分析した。結果は、三重で行った少なくとも4つの独立した実験の平均±標準誤差として表した。
【0063】
処理
ニューロン−星状細胞共培養物における細胞死及び細胞生存率は、MTA(10μM〜1mM)への24時間の曝露の後に、それぞれ乳酸脱水素酵素分析及びカルセイン−AM分析を使用して、続いて蛍光定量測定(Synergy−HT)を行い分析した。
【0064】
材料及び方法
試験成分
5’−デオキシ−5’−メチルチオアデノシン(MTA)
【0065】
動物
【表1】
【0066】
用量及び群
1疾患モデル当たり、各々8匹〜14匹のラットからなる2つの培養群を検査した。
群:
1. 媒質
2. 処理:10μM〜1mM
【0067】
実験手順
1.MTA製品:MTAはENANTIA社(スペイン、バルセロナ)から供給された。
2.データ解析:統計解析はスチューデントのt検定(両側)を使用して行った。
【0068】
結果
ニューロンの培養物に対するMTA(10μM〜1mM)の24時間の添加により、細胞生存率(生存細胞におけるカルセイン蛍光;左側)又は細胞死(死細胞におけるLDH放出;右側)についての分析を使用して実証されるように、この化合物の毒性が非常に低いことが示された(図1)。同様に、星状細胞は分析した条件においてMTAに対する耐性があり生存可能であった。
【0069】
用いた条件でMTAが無害であることが分かった後に、模倣虚血での神経保護能を調査した。したがって、酸素及びグルコース(OGD)を培養培地から除去し、ヨード酢酸(解糖阻止剤;IAA)を添加することによって、虚血を模倣した。大脳皮質から得られたニューロンと星状細胞との混合培養物において、虚血誘導性の損傷はMTAによって低減した(図2)。20μM又は50μMのIAA(それぞれ、左側及び右側)を使用して2つの虚血条件を分析した。両条件においてMTAは極めて保護的であった。比較のために、APV(NMDA受容体のアンタゴニスト)も分析した。10μMのMTAはAPV(50μM)よりも保護的であった。
【0070】
結論
MTAは、大脳皮質から得たニューロンと星状細胞との混合培養物における模倣虚血から保護する。
【0071】
実施例2:全脳虚血のラットモデルにおけるMTAの効果
要約
虚血の細胞モデルにおいてMTAにより得られた結果から、虚血の動物モデルに対する効果の研究を検討した。これらは、中大脳動脈閉塞(MCAO)による局所虚血のモデル及び別に全脳虚血(4血管閉塞モデル)を含んでいた。
動物:成体の若いオスWistarラット(200g〜250g)を使用した。虚血後に、以下に記載されるように動物をMTAにより処理した。
【0072】
序論
手術及び虚血
外科的処置前に、動物は一晩断食させた。文献に記載されるような管腔内フィラメントモデルを使用して、ラットに90分間の中大脳動脈閉塞(MCAO)を行った(Rickhag et al, 2006; J Neurochem 96:14-29)。血流は、ドップラーレーザー(Perimed社)により経頭蓋的にモニタリングされた。研究に含まれる動物のすべての生理的パラメータは正常範囲内であり、通常の虚血誘導性の行動障害、回転非対称性、及び四肢配置の機能障害を示す動物を含んでいた。直腸温及び体温は、加温パッドにより外科手術及び虚血の間37℃で維持した。一過性前脳虚血は、Pulsinelli and Brierley (1979; Stroke 10, 267-272.)によって記載された方法に従って、椎骨動脈及び総頸動脈の閉塞によって10分間誘導した。前脳虚血についての分類基準は、立直り反射の両側性消失、脚の伸長及び散瞳であった。直腸温及び体温は、加温パッドにより外科手術及び虚血の間37℃で維持した。頸動脈閉塞後に立直り反射を完全に失わなかった動物、又は発作を発症した動物を研究から除外した。
【0073】
処理
虚血発症30分で開始して、300mM トリス中で再構成したMTA(30mg/kg又は100mg/kg、腹腔内)、又はプラセボ(300mM トリス)により1日2回動物を処理した。
【0074】
材料及び方法
試験成分
5’−デオキシ−5’−メチルチオアデノシン(MTA)
【0075】
動物
【表2】
【0076】
用量及び群
1疾患モデル当たり、各々8匹〜14匹のラットからなる2つの動物群を検査した。
群:
1. 媒質:300mM トリス、腹腔内
2. 処理:MTA、腹腔内
【0077】
実験手順
1.MTA製品:MTAはENANTIA社(スペイン、バルセロナ)から供給された。
2.データ解析:統計解析はスチューデントのt検定(両側)を使用して行った。
【0078】
結果
局所虚血
中大脳動脈閉塞(MCAO;90分)、続いて3日間の再潅流を行い、虚血発症の30分後にMTA処理(30mg/kg又は100mg/kgで腹腔内、1日2回)を開始した。TTC染色により評価されるように、媒質により処理したラットと比較して、MTA(30mg/kg)により処理したラットは、損傷を受けた領域の減少を示さなかった(図3)。次に、より高用量のMTA(1日2回、100mg/kg)は虚血後のラットに対して毒性があり、完全に評価することができなかった。
【0079】
全脳虚血
10分間の椎骨動脈及び総頸動脈の閉塞(4血管閉塞モデル)、続いて7日間の再潅流を行い、再循環20分後(すなわち虚血発症30分後)にMTA処理(30mg/kgで腹腔内、1日2回)を開始した。Fluoro−jade染色により評価されるように、媒質により処理した動物と比較して、MTAにより処理したラットは海馬体のCA1領域中でより低いレベルの死細胞(約50%;P<0.01)を示した(図4)。
【0080】
結論
MTAは、CA1海馬ニューロンを10分の全脳虚血後の細胞死から保護する。
【0081】
実施例3:オリゴデンドロサイト興奮毒性及び視神経虚血におけるMTAの効果
要約
興奮毒性のオリゴデンドロサイトモデル及び白質虚血のモデルにおけるMTAの神経保護能を調査した。
培養物:オリゴデンドロサイトは周産期ラットからの視神経から培養した。細胞を興奮性毒に曝露し、MTAの保護効果を測定した。
視神経:全視神経を若いラットから単離し、実験的虚血を行った。
【0082】
方法
オリゴデンドロサイト培養物
文献に記載されている方法で、12日齢のSprague Dawleyラットの視神経に由来したオリゴデンドロサイトの初代培養物を得た(Barres et al., 1992)。細胞は、1ウェル当たり5×103個の細胞の密度で、ポリ−D−リジン(10μg/ml)でコーティングした12mm径のカバーグラスを保持する24ウェルプレートへ播種した。細胞は既知組成培地中で37℃及び5%のCO2で維持した(Barres et al., 1992, Cell 70:31-46)。in vitroで2〜4日後、培養物は、少なくとも98%のO4/ガラクトセレブロシド陽性(O4/GalC_)細胞からなり、大多数の残りの細胞は神経膠線維酸性タンパク質(GFAP)に対する抗体により染色された。A2B5+細胞又は小神経膠細胞はこれらの培養物中に検出されなかった(Alberdi et al., 2002, Neurobiol Dis 9:234-243)。
【0083】
細胞生存率及び毒性分析
文献に記載されている方法で、細胞毒性及び生存率分析を行った(Sanchez-Gomez and Matute, 1999, Neurobiol Dis 6:475-485)。MTA毒性の評価のために、培養2〜4日の細胞をその薬物に24時間曝露し、細胞生存率をカルセイン−AM(Invitrogen社)を使用して評価した。保護分析のために、細胞をMTAと15分間プレインキュベーションし、次いで更に15分間AMPAに曝露した。薬物適用の24時間後に、カルセイン−AM(Invitrogen社)を使用して細胞生存率を評価した。カルセイン蛍光を発光する各々のカバーグラス上で生存細胞の総数をカウントし、結果は対照に対する細胞死のパーセンテージとして表わした。結果は、二重で行った少なくとも3つの独立した実験の平均±標準誤差として表した。
【0084】
単離された視神経における虚血
Sprague Dawleyラットから単離された成体の視神経は、酸素飽和人工CSF(aCSF)(126mM NaCl、3mM KCl、2mM MgSO4、26mM NaHCO3、1.25mM NaH2PO4、及び2mM CaCl22H2O、10mMグルコース)で潅流した。虚血性障害は、グルコースをスクロースで置き換えて、解糖阻止剤ヨード酢酸(1mM)の1mMを1時間添加し、続いて窒素飽和aCSFで2時間再潅流することによって誘導した。虚血及び再潅流の間の視神経は、媒質(対照については)、及びMTA又はグルタミン酸受容体のアンタゴニストとインキュベーションし、続いてLDH放出分析のために加工処理した。結果は、二重で行った少なくとも3つの異なる実験の平均±標準誤差である。
【0085】
処理
オリゴデンドロサイト培養物における細胞生存率は、MTA(1μM〜3mM)への24時間の曝露の後に、それぞれカルセイン−AM分析を使用して、続いて蛍光定量測定(Synergy−HT)を行って分析した。興奮毒性からのオリゴデンドロサイト保護及び虚血(1時間+2時間の再潅流)後の視神経損傷は、MTA(3時間、100μM〜300μM)の存在又は非存在下の乳酸脱水素酵素放出分析を使用して検討した。
【0086】
試験成分
5’−デオキシ−5’−メチルチオアデノシン(MTA)
【0087】
動物
【表3】
【0088】
用量及び群
2つの培養物群又は視神経群。
群:
1. 媒質
2. 処理オリゴデンドロサイト:1μM〜3mM
処理視神経:100μM〜300μM
【0089】
実験手順
1.MTA製品:MTAはENANTIA社(スペイン、バルセロナ)から供給された。
2.データ解析:統計解析はスチューデントのt検定(両側)を使用して行った。
【0090】
結果
最初にカルセイン−AM蛍光により評価されるように、24時間化合物に曝露されたオリゴデンドロサイト培養物におけるMTA(1μM〜3mM)の毒性プロファイルを評価した。結果は、300μMを超えるMTA濃度で有意な毒性が観察されたことを示した(図5A)。次いで、MTAが細胞に対して毒性でない実験条件下で(100μM〜300μM)、AMPAタイプのイオンチャネル型グルタミン酸受容体の選択的活性化によって誘導されるオリゴデンドロサイトに対する興奮毒性損傷に対するMTAの保護能を検討した。アポトーシス又は壊死を誘導するアゴニスト濃度で(10μMのAMPA)、MTAは強固な保護活性を発揮した(図5B)。これとは対照的に、壊死によるオリゴデンドロサイト死を引き起こす条件下では保護は観察されなかった(100μMのAMPA;図5B)。
【0091】
用いた条件でMTAが無害で保護的であることが分かった後に、単離された視神経における模倣虚血後の白質組織損傷を減少させる能力を調査した。つまり、酸素及びグルコース(OGD)を培養培地から除去し、ヨード酢酸(解糖阻止剤;IAA)を添加することによって、虚血を模倣した。虚血誘導性の損傷は、CNQX及びAPVをそれぞれ単独で又はともに使用して、AMPAタイプ及びNMDAタイプのグルタミン酸受容体アンタゴニストによって減少された(図6、上部)。加えて、MTAも同様に保護的であった(図6、下部)。
【0092】
結論
MTAは実験的虚血後の興奮毒性及び視神経組織損傷からオリゴデンドロサイトを保護する。
【0093】
実施例4:興奮毒性のニューロンの死に対するMTAの効果
要約
MTAの神経保護作用を興奮毒性のモデル(NMDA曝露)において検査した。MTAは、純粋なニューロン培養物における神経毒性損傷に対する神経保護を全く示さない。しかしながら、神経膠−ニューロンの混合培養物においては、MTAはカスパーゼ3活性化の遮断によって示されるような保護作用を示した。これは、神経興奮毒性のMTAの神経保護作用において神経膠細胞が必要とされるかもしれないことを示唆する。
【0094】
導入
MTAの神経保護効果の可能性は、NMDAグルタミン酸受容体アゴニストのNMDAへの興奮毒性様曝露のモデルを使用して研究した。nNMDA神経毒性は以下の2つのモデルにおいて研究した。1)純粋なラット皮質ニューロン培養物、及び2)神経膠−皮質ニューロンの混合培養物(Nicoletti et al., 1999, Neuropharmacolgy, 38;1477-1484)。
【0095】
材料及び方法
試験成分
5’−デオキシ−5’−メチルチオアデノシン(MTA)
【0096】
動物
【表4】
【0097】
ラット皮質ニューロン培養物
脳皮質ニューロンの初代培養物を本質的には文献に記載されている方法で調製した(Bruno et al., 2001, Eur. J. Neurosci., 13:1469-1478)。前側方皮質葉をSprague−Dawleyの胎生17日目の胎仔から解剖し、ハンクス液中で機械的に解離した。炎で細くした先端を有するパスツールピペットを使用して7回〜10回吸引することによって、皮質葉を粉砕した。800gで5分間の遠心分離後に、細胞を、2mMのL−グルタミン、ペニシリン(20単位/ml)及びストレプトマイシン(5μg/ml)を含有し、B27(GIBCO社)を添加した無血清Neurobasal培地(GIBCO社)中で再懸濁し、ポリ−L−リジンをコートした24ウェルの培養プレート又はポリ−L−リジンをコートした6ウェルの培養プレート上でプレーティングした。細胞は95%空気及び5%CO2を含有する湿度飽和雰囲気中、37℃で維持し、皮質ニューロンはin vitroで7日後(DIV)に実験に使用した。
【0098】
ラット皮質ニューロンと神経膠との混合培養物
脳皮質ニューロンと神経膠との初代培養物を本質的には文献に記載されている方法で調製した(Bruno et al., 2001, Eur. J. Neurosci, 13:1469-1478)。前側方皮質葉をSprague−Dawleyの胎生17日目の胎仔から解剖し、ハンクス液中で機械的に解離した。炎で細くした先端を有するパスツールピペットを使用して7回〜10回吸引することによって、皮質葉を粉砕した。800gで5分間の遠心分離後に、細胞を、2mMのL−グルタミン、ペニシリン(20単位/ml)及びストレプトマイシン(5μg/ml)を含有し、B27(GIBCO社)及び5%ウシ胎仔血清を添加した無血清Neurobasal培地(GIBCO社)中で再懸濁し、ポリ−L−リジンをコートした24ウェルの培養プレート又はポリ−L−リジンをコートした6ウェルの培養プレート上でプレーティングした。細胞は95%空気及び5%CO2を含有する湿度飽和雰囲気中の37℃で維持し、皮質ニューロンはin vitroで7日後(DIV:Days in vitro)に実験に使用した。
【0099】
LDH分析
生存率実験については、皮質ニューロン又は混合した皮質ニューロン及び神経膠を、15×104細胞/ウェルで24ウェルプレート上に播種して7DIVの間培養し、それらを媒質(1‰のDMSO)、NMDA(300μM)、NMDA(300μM)+MTA(異なる濃度で)、又はNMDA(300μM)+MK−801(10μM)により、6時間及び24時間処理した。上清を収集し、細胞をPBSにより洗浄して、生理食塩水中の0.9%トリトンX−100(v/v)により溶解した。乳酸脱水素酵素(LDH)活性を細胞死の指標として測定し、致死率を培養培地に放出されたLDHのパーセンテージとして表わした。LDHは、製造者の使用説明書(Promega社)に従ってCytotox 96キットを使用することによって、96ウェルプレートリーダーで490nmで分光測光法で測定した。LDH放出のパーセンテージは、処理の開始時の細胞中に存在する全LDHに対する放出されたLDHの比によって規定される。サンプルはすべて三重で実行した(Posada et al., 2007, Br. J. Pharmacol., 150;577-585)。
【0100】
MTT分析
生存率実験については、15×104細胞/ウェルで24ウェルプレート上に播種して、7DIVの間培養した皮質ニューロン、又は80%密集度が到達されるまで24ウェル培養プレート中で増殖させたSH−SY5Y神経芽腫細胞を、媒質(1‰のDMSO)、NMDA(300μM)、NMDA(300μM)+MTA(異なる濃度で)、又はNMDA(300μM)+MK−801(10μM)により、24時間処理した。インキュベーション期間後に、添加したMTTの体積がウェルの全体積の10分の1と等しくなるように、5mg/mlのMTTを各ウェルに添加した。これに続いてインキュベーションを37℃で3時間行った。この後、培養培地を除去し、不溶性ホルマザン結晶を300μlのDMSO(Merck社)中で溶解した。次いで各ウェルからの50マイクロリットルのアリコートを96ウェルマイクロプレートに移し、150μlのDMSOにより希釈し、570nm及び630nmの参照波長でELISAリーダー(Microplate Reader 2001、BioWhittaker社)において分光測光法で測定した(Jordan et al., 2000, Br. J. Pharmacol., 130:1496-1504)。
【0101】
カスパーゼ3活性
皮質ニューロン又は混合した皮質ニューロン及び神経膠を、ポリ−L−リジンをコートした6ウェルの培養プレート上にプレーティングし、7DIV後に、細胞を異なる期間で媒質又はNMDA(300μM)により処理した。別の実験セットにおいて、媒質、NMDA単独で、又はMTA若しくはMK−801の存在下において、細胞を1時間処理した。その後、細胞を冷PBSにより2回洗浄し、100mMヘペス、5mM DTT、5mM EGTA、0.04%ノニデットP−40及び20%グリセロール(pH7.4)を含有する溶解バッファー中で溶解した。次いで、抽出液は4℃で10分間5000×gで遠心分離し、タンパク質含有量は製造者の使用説明書に従ってBCAタンパク質分析を使用することによって決定した。細胞抽出液(40μgのタンパク質)は、50μMの蛍光基質Z−DEVD−AFCを含有する反応バッファー(25mMヘペス、10%スクロース、0.1%CHAPS、10mM DTT)中で37℃で1時間インキュベーションした。AFCの蛍光団の切断を400nmの励起波長で分光蛍光計において決定し、蛍光を505nmの発光波長で検出した。カスパーゼ3活性は、蛍光単位/mg(タンパク質)/時間として表わした(Posadas et al., 2009, Pharm. Res., In press)。
【0102】
実験手順
1.MTA製品;MTAはENANTIA社(スペイン、バルセロナ)から供給された。
2.データ解析:データは平均±標準誤差として表わされる。統計解析は、一元配置分散分析(ANOVA)及び複数の比較のために帰納的ボンフェローニのt検定を使用して実行した。統計結果は図7〜図12の説明において示される。統計解析はGraph Pad Prism 4.0を使用して行った。
【0103】
結果
結果を図7〜図12中に示す。
【0104】
結論
ラット皮質ニューロン上の興奮毒性モデルにおいて、純粋なニューロン培養中で500μMまでのMTAには神経保護効果はない。NMDA受容体アゴニストのNMDAによって誘導されたLDH放出及びカスパーゼ3活性の両方で、効果がないことが観察された。しかしながら、神経膠細胞が存在する場合、NMDA誘導性のカスパーゼ3活性からの保護を観察することができる(図12)。この神経保護作用は、NMDA受容体アンタゴニストMK−801(10μM)を使用して観察されたものに類似している。
【0105】
実施例5:in vitroの神経炎症モデルにおけるMTAの神経保護活性の評価
要約
神経炎症は、神経変性の一因となる、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS、又は脳卒中等の複数の神経疾患において起こる共通のプロセスである。MTAの神経保護活性の評価のために、LPSにより刺激された器官型小脳培養物を使用するin vitroの神経炎症モデルを開発した。結果は、MTAがジストロフィー軸索の数を減少させてミエリンの消失を防止したことを示し、免疫媒介性の損傷から軸索及びミエリンを保護するMTAの有益な効果が確認された。
【0106】
序論
小脳器官型培養物における神経炎症モデル
神経炎症の器官型培養モデルは、マウス脊髄におけるリポ多糖(LPS)の全身注入が炎症、脱髄及びウォラー変性を誘導するという以前の観察結果に基づく。マウス小脳器官型培養物において、LPSは、結果として生ずる脱髄及び軸索損傷によりミクログリア活性化を誘導する。特に、LPSは、軸索内輸送の遮断及び軸索密度の減少に起因してTNF−α、IL1−β放出、軸索膨張及び終末小体を誘導する。器官型培養物は、細胞−細胞相互作用及び研究される脳領域の器官型構造を維持するので、in vivo機構を表す最も優れたモデルを代表する。このような手段で、このin vitroの神経炎症モデルは、MSにおいて観察されるミクログリア活性化現象、脱髄現象及び軸索損傷現象を再現する。
【0107】
処理
192μMのMTA及び15μg/mlのLPSにより30分間前処理した小脳器官型培養物を使用して神経炎症モデルを作製した。
【0108】
材料及び方法
試験成分
5’−デオキシ−5’−メチルチオアデノシン(MTA)
【0109】
動物
【表5】
【0110】
用量及び群
3つの動物群(各々出生後8〜10日の5匹のマウスからなる)。
群:
1. 培養培地中に15μg/mlのLPS
2. 培養培地中に5μg/mlのLPS
3. 培養培地+15μg/mlのLPS中に192μMのMTA
【0111】
実験手順
1.MTA製品:MTAはENANTIA社(スペイン、バルセロナ)から供給された。
2.データ解析:ウエスタンブロット解析、免疫蛍光解析及びELISA解析は通常の技法を使用して行った。
【0112】
結果
本発明者らの研究室からの予備的なデータは、マウス小脳器官型培養物におけるLPSの使用が培養物において続いて起こる脱髄及び軸索損傷によりミクログリアの活性化を生ずることを示した。図13.I及び図13.IIは、LPSによる処理が、処理後3時間でMHCII活性化(図13.II.B)、及びLPS刺激の1時間後でTNF−αの放出(図13.I.B)を誘導することを示す。図13.II.Aは、共焦点顕微鏡検査により得られたMBP及びNFLについての免疫蛍光像を示す。図示されるように、LPSによる器官型培養物の処理は脱髄を誘導するが、対照では示されなかった(図13.II.Aのパネル1及びパネル2)。軸索遮断に特徴的な軸索膨張、及び軸索離断の小頭に加えて、軸索密度の減少(図13.II.Aのパネル3及び4)が観察される。
【0113】
in vitroの神経炎症モデルにおいて、15μg/mlのLPSにより処理した小脳器官型培養物とMTAにより前処理した器官型培養物との間で有意な差が観察される。特に、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)及びニューロフィラメント軽鎖(NFL)のための免疫蛍光解析から、神経炎症モデルにおける脱髄及び軸索損傷が示され(図13)、ウエスタンブロット解析によって確認された。また、このモデルにおいて、ミクログリア活性化を示唆するIL−1β及びTNF−α放出が観察される(図13〜図14)。神経炎症を誘導する前のMTAによる30分間の前処理は、脱髄及び軸索損傷を防止し、IL−1βの放出を減少させる(図14)。要約すると、MTAは神経炎症モデルにおける神経保護剤である。
【0114】
結論
MTAは、器官型培養物におけるこの神経炎症モデルにおける神経変性を脱髄から保護する。
【0115】
実施例6:進行性多発性硬化症の遺伝子導入モデルにおける軸索損傷におけるMTAの神経保護活性
要約
多発性硬化症において、永久的な能力障害の存在は主として軸索消失に依存する。このために、MSの治療のための疾患修飾性薬物に重要なエンドポイントは、それらが脳における炎症プロセスに起因する軸索消失を防止することができるかどうかである。MTAは、肝臓疾患のin vitroモデル及び動物モデルにおいて細胞保護特性を示した。加えて、MTAが免疫調節性を有し、MSの動物モデル(EAE:実験的自己免疫性脳脊髄炎)の経過及び発病を改善することができることが示された。本明細書において、MTAがEAEモデルにおける軸索消失を防止することが示され、疾患の治療に有利な神経保護活性が示唆される。正確に軸索消失を測定するために、運動神経路(皮質脊髄路)において蛍光性軸索を発現するトランスジェニックマウスを利用した。
【0116】
方法
進行性MSの動物モデル
慢性EAEを、MOGにより免疫付与した皮質脊髄路YEPマウス(C57B6バックグラウンド;Bareyre et al., Nat Med. 2005 Dec; 11(12):1355-60を参照)において誘導した。運動軸索を標識する蛍光は、EAEの間の軸索損傷の正確な定量化を可能にする。
【0117】
組織学的評価
1.全ての動物の脊髄を整列させて、全ての動物において同じレベルで以下の脊髄片を切り取る。a)C1/2の周囲の上部頸椎レベルの付近で開始する1片の頸髄(長さ約1cm)(これにより脊髄に入るCST線維数の決定が可能になる);b)中央部腰椎レベルL2/3の周囲で開始する1片の腰髄(長さ約1cm)(これにより腰髄に到達する線維数の決定が可能になる)。
2.PBS中の30%スクロースに脊髄を移して、通常3〜7日後に組織が平衡化するのを待つ(脊髄は底に沈む)。
3.組織の上部(=頭部)端での切断開始が確実になるように脊髄の方向をマークして、tissue tek中に脊髄片を包埋し、慎重に凍結する(約−40℃まで冷却したイソプロパノールを使用する)。
4.脊髄片の上部端から開始してクリオスタット切片を切断し(約50マイクロメートル厚)、粘着性スライドグラス(例えばSuperFrost)にマウントする(通常動物1匹当たり頸椎片及び腰椎片から約20の切片を切断し、組織ブロックの残りを−20℃で保存する)。
5.組織をマウントし、共焦点顕微鏡を使用して切片を解析する(高解像度対物レンズ(例えば60倍の油浸対物レンズ)を使用し、全皮質脊髄路をカバーする単一のイメージ図を得る)。
6.次いで点の数(=線維数)を単純にカウントする(通常3〜5切片に対して盲検化してこれを行い、次いでCSTの平均を計算してCSTとする)。特に多くの線維を含有する頸髄においては、規定されたサイズを有する複数のCST領域のカウントに基づいて頸椎CST線維の合計数を推定することがより容易である。各動物における頸椎及び腰椎のCST線維数の数によって、CSTの減少を判断することができる。更に群間で差があるならば、健常な動物の幾つかの脊髄を次にまわすことが可能であり、したがって健常な動物で予期される減少(腰髄の上方で終了するCST線維に起因する)に対して軸索減少を正規化することができ、EAEに対して失われたCST線維のパーセンテージを得ることができる(通常本発明者らの実験において約40%)。
【0118】
材料及び方法
試験成分5’−デオキシ−5’−メチルチオアデノシン(MTA)
【0119】
動物
【表6】
【0120】
用量及び群
2つの動物群
群:
1. プラセボ(PBS)(8匹の動物)
2. MTA、腹腔内、96μmol/kg(10匹の動物)
【0121】
実験手順
1.MTA製品:MTAはENANTIA社(スペイン、バルセロナ)から供給された。
2.データ解析:統計解析はSPSS 13.0を使用して行った。
【0122】
結果
EAEが慢性になった(EAEスコアが2以上になった最初の日(免疫付与後20日目以降))ときに、動物を処理した。動物を無作為化して、MTA(96μmol/kg)又はプラセボ(PBS)のいずれかにより処理した。MTAで処理した動物は、プラセボよりも臨床症状の改善を示した(図15)。
【0123】
軸索密度並びに腰髄及び頸髄の定量的測定を行なった。MTAにより処理した動物がプラセボ動物よりも有意に高い軸索密度を有することが見出され(図16)、疾患の慢性期におけるMTAによる処理は、脳に対する自己免疫攻撃に起因する長期的な軸索消失を防止することができることを示した。
【0124】
結論
この結果は、疾患の慢性期におけるMTAによる処理は、脳に対する自己免疫性攻撃に起因する長期的な軸索消失を防止することができたことを示す。
【0125】
実施例7.実験による側頭葉癲癇におけるMTAの神経保護効果
要約
側頭葉癲癇(TLE)は海馬体中の実質的なニューロンの消失と関連する。TLEの齧歯類モデルにおいて、癲癇重積持続状態(SE)のエピソードは、類似したパターンの海馬ニューロン死、続いて自発性反復発作の発症をもたらす。神経保護化合物はSE誘導性の細胞死の改善には或る程度の有望性を示したが、癲癇誘発の防止においてそれほど目覚ましくなかった。TLEのピロカルピンモデルにおけるメチルチオアデノシン(MTA)の神経保護効果を検討する研究に取り掛かった。1つのラット群にSEの2日前に開始して5日間MTAを与え(SE前MTA)、もう1つの群はSEの終了時に開始して3日間MTAを与え(SE後MTA)、これらはより臨床的に関連のある処理レジメンである。SE後3〜5日(初期の時点)又は30日(後期の時点)で、細胞消失について脳切片を検査した。苔状線維出芽も後期の時点でTimm染色によって検査した。1つの対照群は媒質を投与し、SEを誘導し、第2の対照群はピロカルピンの代わりにMTA及び生理食塩水を投与した。ニッスル染色及びNeuN免疫組織化学によって評価されるように、初期及び後期の時点で、SE前又はSE後のいずれかに開始するMTA処理により、歯状回門並びに海馬のCA1領域及びCA3領域中のニューロンの消失が定性的に減少することが見出された。SEの30日後のCA1領域中のNeuN免疫反応性細胞の予備的な定量化から、SE前MTA群における有意な神経保護効果(p=0.02)、及びSE後MTA群における神経保護の傾向(p=0.057)が示された。苔状線維出芽において定性的な差はいずれの群においても観察されなかった。これらの結果は、MTAがSE誘導性のニューロン死の状況において神経保護特性を発揮することを示唆しているが、MTAが実験的によるTLEにおいて抗癲癇誘発特性を示すかどうかを決定する更なる研究を必要とする。
【0126】
序論
側頭葉癲癇(TLE)は一般的に多くの場合、反復発作及び関連した記憶機能障害に起因する著しい死亡率に結び付く薬剤抵抗性の癲癇である。TLEを患うヒトは、癲癇及び関連する認知機能障害の両方に関与すると考えられる海馬体中のニューロンの実質的な消失を示す。潜伏期間後に自発性反復発作が引き起こされる癲癇重積持続状態(SE)のエピソードに成体動物が曝される齧歯類モデルにおいて、TLEの海馬の病理が再現される。この実験パラダイムは、子供が複雑型熱性発作又は熱性SEを経て、何年かの後にTLEを発症する、一般的な臨床シナリオをモデル化する。
【0127】
TLEに対する抗癲癇誘発性の治療は存在しない。現行のすべての治療法は対症的であり反復発作の防止を目的とする。神経保護化合物は実験によるTLEにおいてSE誘導性の細胞死の改善において或る程度の有望性を示したが、癲癇誘発の防止においてそれほど目覚ましくなかった。したがって、脳損傷後の癲癇の発生を防止する新規の治療法に対する緊急の必要性が存在する。それゆえ、TLEのピロカルピンモデルにおけるメチルチオアデノシン(MTA)の神経保護効果を検討する研究に着手した。ピロカルピンは、SEを生ずる化学痙攣薬として働く、ムスカリン性コリン作動性アゴニストである。ピロカルピンモデルは、ヒトTLEに非常に類似する細胞消失及び異常な再編成のパターンを有する癲癇動物を一貫して生ずる一般に使用されるTLEモデルである。
【0128】
成体ラットにおけるピロカルピン誘導性SEに対する神経保護効果を検討するために2つのMTA処理レジメンを比較した。1つのレジメンは、SEの2日前に開始する5日間のMTA処理(SE前MTA)を含んでいた。他のレジメンは、より臨床的に関連のあるプロトコルであり、SEの終了時に開始する3日間のMTA処理(SE後MTA)からなっていた。予備的な結果は、両方のMTA処理レジメンによる実質的な神経保護効果を示唆する。
【0129】
材料及び方法
試験成分5’−デオキシ−5’−メチルチオアデノシン(MTA)
【0130】
動物
【表7】
【0131】
用量及び群
5つの動物群、SEのない群(2匹のラットのみ)以外は4匹/群〜6匹/群。
群:
1. 対照については100mM トリス
2. 96μM/kg/日のMTA
【0132】
5’−メチルチオアデノシン(MTA)による動物の処理
若い成体(175g〜200g)のオスSprage−Dawleyラットを4つのMTA処理群(1群当たり9匹〜11匹のラット)へと割り当てた。A群では、ラットにピロカルピン誘導性の癲癇重積持続状態(SE)を誘導した。90分の持続性発作活性に続いて、ジアゼパム(10mg/kg)の単一の投与によってSEを停止した。媒質又はMTAのいずれかを1日1回3日間ラットに注入した。ラットをSE後4日目で屠殺し、脳を灌流固定して凍結し、組織学のために切片を作製した。B群では、ラットの処理はラットがSE後30日目で屠殺された以外はA群と同じであった。C群では、ラットはMTAにより1日1回2日間処理した。3日目に、ラットにピロカルピン誘導性SEを行った。ラットはMTAにより1日1回更に3日間継続処理し、対照にはプラセボを投与した。次いでSE後4日目にラットに麻酔をかけ屠殺した。D群では、ラットがSE後30日目で屠殺された以外はC群と同じようにラットを処理した。
【0133】
組織学
切片にクレシルバイオレット(ニッスル)染色及びNeuN免疫染色を行って、細胞消失を検討した。苔状線維出芽を同定するTimm染色を、30日目の生存群に対して行った。
【0134】
実験手順
1.MTA製品:MTAはENANTIA社(スペイン、バルセロナ)から供給された。
2.データ解析:統計解析はSPSS 11.0を使用して行った。
【0135】
結果の要約
初期及び後期の時点の両方で、MTA処理がSE前又はSE後に開始されたかどうかにかかわらず、媒質と比較して、MTA処理ラットの海馬中で定性的により多くのニッスル染色細胞があることが、クレシルバイオレット染色により示された。NeuN免疫染色の結果は類似しており、30日目の時点での例を図17に示す。細胞生存の差は、歯状回門並びに海馬のCA3領域及びCA1領域の錐体細胞層において定性的に明らかであった。領域CA1中のニッスル染色細胞のカウントの定量化は図18に示される。この結果は、MTA処理がこの癲癇モデルにおいて神経保護的であることを示唆する。
【0136】
結論
MTAは、SE誘導性のニューロン死の状況において神経保護特性を発揮する。
【0137】
実施例8.パーキンソン病の動物モデルにおけるMTAの神経保護効果
要約:
パーキンソン病モデルの誘導に対して毒性であるMPTPにより処理されたマウスにおける脳幹の黒質中のドーパミン作動性ニューロン(TH+細胞)の生存に対するメチルチオアデノシンの効果を検査した。
【0138】
序論
パーキンソン病では、複数の神経集団が退化し、運動障害、認知異常及び自律神経症状をともなう慢性的変性疾患をもたらす。この疾患によって損傷を受けた神経集団の中で、最も顕著なものは脳幹中の黒質からのドーパミン作動性ニューロンであり、基底核の機能が損なわれる。この疾患の生物学的基礎を研究するために、複数の動物モデルは使用されるが、最も一般に使用されるものはMPTP(1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン)による中毒である。ヒト及び動物におけるMPTP中毒は、臨床的及び組織学的なレベルで、パーキンソン病を強く連想させる疾患をもたらす。現在、パーキンソン病の対症療法は十分に開発されているが、疾患の経過の修飾を目的とした治療(疾患修飾性薬物)を欠く。パーキンソン病が高頻度であり、医療費用及び社会的費用が高いために、パーキンソン病の経過の停止のための新しい療法を発達させることは優先度が高い。この意味では、治療法は、パーキンソン病が主として標的とするドーパミン作動性ニューロンを保護又は再生することを目的とする。
【0139】
方法
1.MPTPマウスモデル
オスC57B1マウス(23g〜31gの体重範囲の身体)をこの研究において使用した。0.9%NaCl中に溶解したMPTP(Sigma社)を用量30mg/kgで腹腔内に5日間注入した。MTAは6mg/mlの最終濃度で2%のDMSOを含む精製水中に溶解し、96μmol/kg又は192μmol/kgの用量で腹腔内に注入した。実験の1日目は、MPTP注入の24時間前にMTAを注入し、続く4日間は、MPTP投与の1時間前にMTAを投与した。マウスを以下の4群に割り当てた。(1)MPTP(n=6);(2)MPTP+96μmol/kgのMTA(n=6);(3)MPTP+192μmol/kgのMTA(n=9)及び(4)対照群(n=2)。
【0140】
実験の終了時に、蒸留水中の過剰用量の10%抱水クロラールにより動物に麻酔をかけ、次いで生理食塩水リンガー溶液、続いて0.125M PB(pH7.4)中に4%パラホルムアルデヒド及び0.4%グルタルアルデヒドを含有する100mlの冷固定液により経心臓的に潅流した。灌流後に頭蓋骨を開き、摘出した脳を同じ固定液中で4℃で一晩後固定し、次に0.125M PB(pH7.4)中に20%グリセリン及び2%のジメチルスルホキシドを含有する凍結保護溶液中で保存する。凍結した冠状ミクロトーム切片(50μm厚)を得て、6連の隣接切片で0.125M PB(pH7.4)中に採取した。切片は更なる加工処理まで−80℃で保存した。
【0141】
免疫組織化学
無作為に開始して、全SNを通して3つの切片毎にサンプリングし、切片は自由浮遊状態で加工処理した。内因性のペルオキシダーゼ活性は、1.25%のH2O2を含むメタノール中で切片を40分間インキュベーションすることによって除去された。0.125MのPBS中の4%正常ヤギ血清、4%BSA及び0.05%のTX−100によるブロッキング後に(40分、室温)、同じブロッキング溶液中で1:500に希釈したマウス抗THモノクローナル抗体(Sigma社)により切片をインキュベーションした(室温で一晩)。次に切片を、0.125M PBS中の0.5%正常ヤギ血清、2%BSAで1:300に希釈したビオチン化ヤギ抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch社)により室温で60分間インキュベーションした。切片を、0.125M PBS中のペルオキシダーゼコンジュゲートExtrAvidin(登録商標)の1:4000溶液中で室温で90分間インキュベーションし、免疫反応性構造を、0.05M トリスHCl(pH7.4)中の0.05%の3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)及び0.03%の新鮮なH2O2中でのインキュベーション後に可視化した。最終的に切片は、0.05M トリスHCl中の2%のゼラチン溶液を使用してスライドグラスにマウントした。翌日、切片をニッスル(Sigma社)により対比染色し、脱水し、キシレン中で透明化し、DPXによりカバーグラスをかけた。切片を0.125MのPBSにより3回リンスした後、ペルオキシダーゼ阻害、一次抗体及びペルオキシダーゼをコンジュゲートした二次抗体によるインキュベーション、並びにDABインキュベーション、並びにスライドグラス上のマウントを行った。組織学的定量化は、BX50顕微鏡を使用し、Oorschot(J Comp Neurol 366:580-599, 1996)によって記載された方法を従って、Olympus社製のCASTシステムを使用して行った。50μm厚切片を用い、体積の算出にはCavalieruの方法を使用した。視覚的解剖器具を使用して、150μmの距離で3つの切片毎に400倍でニューロンをカウントした。全ての場合において、誤差係数は10%未満であった。
【0142】
結果
MPTPにより処理した動物は、対照動物と比較してドーパミン作動性ニューロン数が40%減少していることが見出された。これとは対照的に、96μM/日のMTAにより処理した動物では、対照動物と比較してニューロンの消失は有意に低く(10%)、MPTPにより処理した動物よりもドーパミン作動性ニューロン数は有意に高かった(30%超)(図19)。
【0143】
結論
この結果は、MTAがMPTPによって誘導された損傷からドーパミン作動性ニューロンを保護することを示し、MTAはパーキンソン病のために神経保護療法(疾患修飾療法)になり得ることを示唆する。
【0144】
実施例9.in vitroモデルにおいてニューロン分化を誘導するMTAの能力及び関与するシグナル伝達経路の研究
要旨
ラットの褐色細胞腫(pheochromocitome)からのドーパミン作動性細胞株(PC12)のニューロンにおける神経前駆細胞の分化の誘導(神経突起の産生によって決定される)に対するメチルチオアデノシン(MTA)の効果を検査し、関与するシグナル伝達経路を研究した。
【0145】
序論
PC12細胞株はニューロン細胞を分化させるためのモデルシステムとして使用される。神経成長因子(NGF)による刺激後に、PC12細胞株は増殖を停止し、突起を形成し、適切な刺激によるシナプス小胞の形成等の他のニューロンのマーカーを発現し始める。ras−MAPK、ホスホリパーゼC(PLC)及びホスファチジルイノシトール(PI)3−キナーゼシグナル伝達経路がNGFによる処理に際して活性化されるようになることは既知である。それゆえ、PC12における神経突起分化システムは、MTAの神経突起を形成する能力及び関与するシグナル伝達経路の研究のために好適なシステムである。
【0146】
方法
PC12培養物
PC12細胞は、2.5%のウシ胎仔血清、15%のウマ血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したHAM培地中で37℃で維持した。神経突起分化分析は、0.5%のウシ胎仔血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したHAM培地中でコラーゲン処理をした24ウェルプレートを使用して行った。NGF(100ng/ml)又は異なる濃度(25μM、100μM及び2mM)のMTAを培養物に添加し、4日後に細胞体の2倍よりも長い神経突起を有する細胞のパーセンテージをカウントした。各実験において、最低300個の細胞を無作為にカウントした。
【0147】
細胞内リン酸化の決定
異なる細胞内タンパク質のリン酸化はLuminex技術を使用して検出した。神経突起分化分析後に、PC12細胞を溶解バッファー中に入れ、以下の異なる抗体を使用して検査した。全Akt/PKB、全p38/SAPK、全STAT3、全ERK/MAPK、全P70 S6キナーゼ、リン酸化Akt/PKB(Ser473)、リン酸化Akt/PKB(Thr308)、リン酸化p38/SAPK(Thr180/Tyr182)、リン酸化(phosphorilyated)STAT3(Tyr705/Ser727)、リン酸化ERK/MAPK(Thr185/Tyr187)及びリン酸化P70 S6キナーゼ(Thr412)。
【0148】
結果
神経突起分化結果は、PC12細胞において新しい突起を発達させるMTAの能力を明らかにする。新しい神経突起の形成は培地に添加されたMTAの濃度に依存し、最適濃度は1mMである。検査した最高濃度(5mM)は神経突起の発達に影響しない(図20A及び図20B)。PC12細胞でのMTAに誘導された分化過程において、MAPK、p38/SAPK及びSTAT3経路の活性化を観察することができ、そのことは神経突起分化に対するMTAの効果がNGFと同じ経路(それはSTAT3リン酸化の阻害を必要とする(図21))に従わなくてもよいことを示唆する。
【0149】
結論
この結果は、MTAが、PC12細胞株においてNGFによって従来使用される経路に対して、同じ細胞において代替の経路を使用してニューロンの分化を促進できることを示す。
【0150】
実施例10.酸化ストレスに対するMTAの「in vitro」の神経保護能
要旨
2つのタイプの酸化ストレス(過酸化水素及び硫酸銅)に対するRN22ラットのシュワン鞘腫細胞株におけるMTAの神経保護能を検査した。神経保護は、ストレス誘導性の死から保護する能力、及び酸化ストレス産生に直接関連する活性酸素種(ROS)の産生を減少させる能力として測定した。
【0151】
序論
RN22細胞株(ラットのシュワン鞘腫)は、この細胞株において、NGFがそのp75膜受容体を介して生存経路を活性化することができることに起因して、硫酸銅によるストレスに対する保護を研究するためのシステムとして使用される。ストレス発生後に、NGFが添加されたそれらの細胞は、これらの細胞がこれらの条件下で生存することを可能にするp75受容体を介して生存経路を活性化する。それゆえ、RN22におけるストレス生存システムは、異なるタイプのストレスから神経系細胞を保護するMTAの能力の研究に好適なシステムである。
【0152】
方法
RN22培養物
RN22細胞は、10%のウシ胎仔血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM培地中で37℃で維持した。硫酸銅によるストレスに対する分析は血清なしのDMEM培地中で24ウェルプレートを使用して行った。3日間細胞接着させた後、NGF(100ng/ml)又はMTAを、硫酸銅(150μM)の30分前に異なる濃度で添加した。24時間後に、MTT分析によって細胞生存率を定量し、蛍光によってROS産生を定量した。過酸化水素によるストレスに対する分析は、ストレス産生剤として100μM過酸化水素を使用して、先のものと同じように行った。
【0153】
MTT分析
不溶性ホルマザンに還元されるMTT(Sigma社)の量を決定した。培地の分離後に、非水溶性ホルマザンをDMSO中で可溶化し、溶解した材料を570nmで分光光度計において測定する。
【0154】
ROS測定
処理あり及び処理なしのストレス後の細胞によって産生されたROSの量を決定した。細胞における酸化ストレスの測定には、2’,7’−ジクロロジヒドロフルオレセイン(DCFH)が一般的に使用される。細胞はDCFH−DA(10μM)により37℃で30分間インキュベーションした。インキュベーション後に、細胞をPBSにより2回洗浄し、0.5%のTween20を含有する10mM トリスHClバッファーの添加によって溶解した。次いで、ホモジネートを10000gで10分間遠心分離して細胞残渣を分離し、上清におけるDVF蛍光を蛍光計(励起波長492nm〜495nm、発光波長517nm〜527nm)(Invitrogen社)を使用して測定した。
【0155】
結果
硫酸銅によるストレスに対する神経保護を検査するために行われた分析において、試験したMTA濃度のほとんどにおいて、MTAが有意な神経保護効果を発揮し、NGF対照の保護レベルにさえも到達していることが観察できる(図22)。MTAの効果は分子の濃度に依存し、高濃度(mM範囲)は最低の応答を生じる。この効果は、ストレス誘導後の異なる期間においてROS産生を減少させるMTAの抗酸化能力により確認された(図23)。
【0156】
過酸化水素によるストレスに対する神経保護を検査するために行われた分析において、試験した濃度範囲(25μM〜3mM)にわたってMTAが細胞生存率を維持できることを観察できる(図24)。硫酸銅によるストレスの場合のように、MTAは過酸化水素によるストレス後の異なる期間においてROS産生を減少させることができる(図25)。
【0157】
結論
これらの結果は、異なるタイプの酸化ストレスに対するMTAの神経保護能を実証する。両方の場合において、MTAはストレス後に細胞生存率を維持し、酸化防止効果を有し、シュワン細胞におけるROS産生レベルを有意に低下させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経細胞の死又は損傷の予防又は治療のための医薬品の製造における活性成分としての5’−メチルチオアデノシン(MTA)、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用。
【請求項2】
神経保護的医薬品の製造における活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用。
【請求項3】
神経細胞の再生のための医薬品の製造における活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用。
【請求項4】
神経細胞の死又は損傷の予防又は治療に使用される、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグ。
【請求項5】
神経保護的薬物として使用されるMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグ。
【請求項6】
神経細胞の再生に使用されるMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグ。
【請求項7】
神経細胞の死又は損傷を予防又は治療する方法であって、効果的な量のMTA、又はその薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグの1つを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経細胞の死又は損傷を予防又は治療する方法。
【請求項8】
神経保護方法であって、効果的な量のMTA、又はその薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグの1つを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経保護方法。
【請求項9】
神経細胞を再生する方法であって、効果的な量のMTA、又はその薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグの1つを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経細胞を再生する方法。
【請求項10】
MTAが神経疾患又は精神疾患に罹患した被験体に投与される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグの使用、又は請求項4〜6のいずれか一項に記載の使用のためのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグ、又は請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
MTAが補助療法又は付加療法として神経疾患又は精神疾患に罹患した被験体に使用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグの使用、又は請求項4〜6のいずれか一項に記載の使用のためのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグ、又は請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
MTAが健常な被験体に投与される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグの使用、又は請求項4〜6のいずれか一項に記載の使用のためのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグ、又は請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
MTAが補助療法又は付加療法として1つ又は複数の神経強化薬物により治療を受けている被験体に使用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグの使用、又は請求項4〜6のいずれか一項に記載の使用のためのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグ、又は請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
視神経虚血、進行性多発性硬化症、視神経脊髄炎、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、フリードライヒ運動失調、ハンチントン病、レビー小体認知症、脊髄性筋萎縮症、癲癇、視神経炎、脳外傷、脳腫瘍、うつ病、双極性障害、統合失調症、強迫神経症、アルコール乱用、薬物乱用、脳症、脳炎、髄膜炎、慢性疲労、線維筋痛、慢性疼痛、片頭痛、及び頭痛から選択された神経疾患又は精神疾患の予防又は治療のための医薬品の製造における活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用。
【請求項15】
視神経虚血、進行性多発性硬化症、視神経脊髄炎、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、フリードライヒ運動失調、ハンチントン病、レビー小体認知症、脊髄性筋萎縮症、癲癇、視神経炎、脳外傷、脳腫瘍、うつ病、双極性障害、統合失調症、強迫神経症、アルコール乱用、薬物乱用、脳症、脳炎、髄膜炎、慢性疲労、線維筋痛、慢性疼痛、片頭痛、及び頭痛から選択された神経疾患又は精神疾患の予防又は治療における使用のためのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグ。
【請求項16】
神経疾患を予防又は治療する方法であって、前記神経疾患又は精神疾患が、視神経虚血、進行性多発性硬化症、視神経脊髄炎、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、フリードライヒ運動失調、ハンチントン病、レビー小体認知症、脊髄性筋萎縮症、癲癇、視神経炎、脳外傷、脳腫瘍、うつ病、双極性障害、統合失調症、強迫神経症、アルコール乱用、薬物乱用、脳症、脳炎、髄膜炎、慢性疲労、線維筋痛、慢性疼痛、片頭痛、及び頭痛から選択される、効果的な量のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経疾患を予防又は治療する方法。
【請求項1】
神経細胞の死又は損傷の予防又は治療のための医薬品の製造における活性成分としての5’−メチルチオアデノシン(MTA)、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用。
【請求項2】
神経保護的医薬品の製造における活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用。
【請求項3】
神経細胞の再生のための医薬品の製造における活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用。
【請求項4】
神経細胞の死又は損傷の予防又は治療に使用される、MTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグ。
【請求項5】
神経保護的薬物として使用されるMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグ。
【請求項6】
神経細胞の再生に使用されるMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグ。
【請求項7】
神経細胞の死又は損傷を予防又は治療する方法であって、効果的な量のMTA、又はその薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグの1つを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経細胞の死又は損傷を予防又は治療する方法。
【請求項8】
神経保護方法であって、効果的な量のMTA、又はその薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグの1つを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経保護方法。
【請求項9】
神経細胞を再生する方法であって、効果的な量のMTA、又はその薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグの1つを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経細胞を再生する方法。
【請求項10】
MTAが神経疾患又は精神疾患に罹患した被験体に投与される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグの使用、又は請求項4〜6のいずれか一項に記載の使用のためのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグ、又は請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
MTAが補助療法又は付加療法として神経疾患又は精神疾患に罹患した被験体に使用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグの使用、又は請求項4〜6のいずれか一項に記載の使用のためのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグ、又は請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
MTAが健常な被験体に投与される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグの使用、又は請求項4〜6のいずれか一項に記載の使用のためのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグ、又は請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
MTAが補助療法又は付加療法として1つ又は複数の神経強化薬物により治療を受けている被験体に使用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグの使用、又は請求項4〜6のいずれか一項に記載の使用のためのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/若しくはそのプロドラッグ、又は請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
視神経虚血、進行性多発性硬化症、視神経脊髄炎、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、フリードライヒ運動失調、ハンチントン病、レビー小体認知症、脊髄性筋萎縮症、癲癇、視神経炎、脳外傷、脳腫瘍、うつ病、双極性障害、統合失調症、強迫神経症、アルコール乱用、薬物乱用、脳症、脳炎、髄膜炎、慢性疲労、線維筋痛、慢性疼痛、片頭痛、及び頭痛から選択された神経疾患又は精神疾患の予防又は治療のための医薬品の製造における活性成分としてのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグの使用。
【請求項15】
視神経虚血、進行性多発性硬化症、視神経脊髄炎、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、フリードライヒ運動失調、ハンチントン病、レビー小体認知症、脊髄性筋萎縮症、癲癇、視神経炎、脳外傷、脳腫瘍、うつ病、双極性障害、統合失調症、強迫神経症、アルコール乱用、薬物乱用、脳症、脳炎、髄膜炎、慢性疲労、線維筋痛、慢性疼痛、片頭痛、及び頭痛から選択された神経疾患又は精神疾患の予防又は治療における使用のためのMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグ。
【請求項16】
神経疾患を予防又は治療する方法であって、前記神経疾患又は精神疾患が、視神経虚血、進行性多発性硬化症、視神経脊髄炎、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、フリードライヒ運動失調、ハンチントン病、レビー小体認知症、脊髄性筋萎縮症、癲癇、視神経炎、脳外傷、脳腫瘍、うつ病、双極性障害、統合失調症、強迫神経症、アルコール乱用、薬物乱用、脳症、脳炎、髄膜炎、慢性疲労、線維筋痛、慢性疼痛、片頭痛、及び頭痛から選択される、効果的な量のMTA、その薬学的に許容可能な塩及び/又はそのプロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することを含む、神経疾患を予防又は治療する方法。
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図21A】
【図21B】
【図21C】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図13−I】
【図13−II】
【図14】
【図17】
【図20A】
【図20B】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図21A】
【図21B】
【図21C】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図13−I】
【図13−II】
【図14】
【図17】
【図20A】
【図20B】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公表番号】特表2012−529477(P2012−529477A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514499(P2012−514499)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【国際出願番号】PCT/ES2010/070374
【国際公開番号】WO2010/142827
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(511300503)プロイェクト デ ビオメディシーナ シマ,ソシエダー.リミターダ. (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【国際出願番号】PCT/ES2010/070374
【国際公開番号】WO2010/142827
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(511300503)プロイェクト デ ビオメディシーナ シマ,ソシエダー.リミターダ. (1)
【Fターム(参考)】
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