説明

5−アミノサリチル酸のアゾ誘導体のナトリウム塩

【課題】本発明は、(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩に関する。
【解決手段】(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩、およびそれを含む薬剤組成物、その製造方法、ならびに炎症性腸疾患を治療または予防する薬剤を製造するためのその使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、5−アミノサリチル酸のアゾ誘導体の新規な塩に関し、より詳細には、(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩に関する。本発明はさらに、それを含有する薬剤組成物、その製造方法、および炎症性腸疾患の治療または予防に有用な薬剤を製造するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
炎症性腸疾患は腸の慢性炎症性疾患であって、その病因はいまだ不明である。この疾患のもっとも一般的な形態は、潰瘍性大腸炎、およびクローン病である。
【0003】
特許出願WO97/09329は、炎症性腸疾患の治療に有用な、5−アミノサリチル酸(5−ASA)の一連のアゾ誘導体を開示している。これらの化合物は同一の分子内でアゾ結合を介して5−ASAとPAF拮抗活性を有する化合物を結合しており、参照化合物スルファサラジンに関して記載されたものと類似の方法で腸内細菌によって結腸で代謝され、5−ASAおよびPAF拮抗薬剤を放出するように設計されている。この特許出願に記載された化合物の1つは、(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸であり、当該文献においてUR−12746と称され、その式を以下に示す:
【0004】
【化1】

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の発明者等は、前記アゾ結合の代謝に関する研究を行っているとき、この化合物で観察されるアゾ還元のレベルが低いことを見出した。この種の化合物は結腸内で代謝され、活性分子である5−ASAおよびPAF拮抗物質を放出するように設計されるので、結腸内でより高程度に代謝される化合物を見出すことが問題となる。この問題は、本発明の目的である新規な塩によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は、式Iの(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩に関する。
【0007】
【化2】

【0008】
本発明のナトリウム塩(すなわち、UR−12746のナトリウム塩)は、種々の形態、特に非晶質または非結晶形態、および結晶形態で存在し得ることが見出された。さらに、本発明のナトリウム塩は、以下に詳しく説明するように、製造条件に応じて、多形Iおよび多形IIと称した2種の異なる結晶形態で存在することが見出された。本発明は、任意の形態のUR−12746のナトリウム塩に関する。
【0009】
本発明はさらに、式Iのナトリウム塩を製造する方法に関する。
【0010】
本発明はさらに、有効量の式Iのナトリウム塩、および1種以上の薬剤として許容される賦形剤を含む薬剤組成物に関する。
【0011】
本発明はさらに、炎症性腸疾患を治療または予防する薬剤を製造するための、式Iのナトリウム塩の使用に関する。本発明の説明において、「炎症性腸疾患」という用語は、潰瘍性大腸炎、クローン病、ならびに他の任意の形態の炎症性腸疾患を含むものと理解される。
【0012】
発明の説明
前述のとおり、本発明は、式Iの(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩に関する。
【0013】
【化3】

【0014】
本発明の説明において、本発明者等は、本発明の目的である新規なナトリウム塩を区別なく、(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩、式Iのナトリウム塩あるいはUR−12746のナトリウム塩と呼ぶものとする。
【発明の効果】
【0015】
驚いたことに、本発明の発明者等は、式Iのナトリウム塩が、従来技術に記載の対応する酸化合物、すなわちUR−12746に比べて、結腸内ではるかに高程度に代謝されることを見出した。したがって、本発明の目的である新規な塩は、炎症性腸疾患を治療または予防する薬剤を製造するためにより適した化合物である。
【0016】
前述のとおり、本発明のナトリウム塩は、以下により詳細に記載するように、それが得られる条件に応じて、非晶質または非結晶形態、および結晶形態で存在し得ることが見出された。本発明は、任意の形態のUR−12746のナトリウム塩に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、非晶質形態の(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩の代表的な赤外線スペクトルを示す。
【図2】図2は、非晶質形態の(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩の代表的なX線粉末回折図を示す。
【図3】図3は、(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩の多形Iの代表的な示差走査熱分析(DSC)図を示す。
【図4】図4は、(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩の多形Iの代表的な赤外線スペクトルを示す。
【図5】図5は、(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩の多形Iの代表的なX線粉末回折図を示す。
【図6】図6は、(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩の多形IIの代表的な赤外線スペクトルを示す。
【図7】図7は、(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩の多形IIの代表的なX線粉末回折図を示す。
【図8】図8は、(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩の多形IIの代表的な示差走査熱分析(DSC)図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態において、式Iのナトリウム塩は、非晶質形態で提供される。
【0019】
本発明の他の実施形態において、式Iのナトリウム塩は、結晶形態で提供される。
【0020】
他の実施形態において、本発明は、放射線源CuKαを用い、λ=1.542Åで得た、6.04、6.38、8.01、8.54、11.73、13.18、13.65、14.55、14.97、16.08、16.90、17.23、19.10、19.53、20.15、21.12、21.86、22.48、23.71、および24.23°±0.2°の角度2θのピークを含むX線粉末回折図を示す、式Iのナトリウム塩の多形Iを提供する。
【0021】
他の実施形態において、式Iのナトリウム塩の多形Iは、実質的に図5に示したものと一致するX線粉末回折図を有する。
【0022】
他の実施形態において、式Iのナトリウム塩の多形Iは、実質的に図4に示したものと一致する赤外線スペクトルを有する。
【0023】
他の実施形態において、式Iのナトリウム塩の多形Iは、実質的に図5に示したものと一致するX線粉末回折図を有し、実質的に図4に示したものと一致する赤外線スペクトルを有する。
【0024】
他の実施形態において、本発明は、放射線源CuKαを用い、λ=1.542Åで得た、6.07、8.30、8.82、11.71、12.52、13.24、15.72、17.77、18.96、19.67、20.33、20.84、21.39、21.71、22.77、22.97、23.50、23.95および29.50°±0.2°の角度2θのピークを含むX線粉末回折図を示す、式Iのナトリウム塩の多形IIを提供する。
【0025】
他の実施形態において、式Iのナトリウム塩の多形IIは、実質的に図7に示したものと一致するX線粉末回折図を有する。
【0026】
他の実施形態において、式Iのナトリウム塩の多形IIは、実質的に図6に示したものと一致する赤外線スペクトルを有する。
【0027】
他の実施形態において、式Iのナトリウム塩の多形IIは、実質的に図7に示したものと一致するX線粉末回折図を有し、実質的に図6に示したものと一致する赤外線スペクトルを有する。
【0028】
本発明はさらに、任意の形態の式Iのナトリウム塩および1種以上の薬剤として許容される賦形剤を含む薬剤組成物を提供する。好ましい実施形態において、この薬剤組成物は経口投与に適合される。
【0029】
本発明はさらに、潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む炎症性腸疾患を治療または予防する薬剤を製造するための任意の形態の式Iのナトリウム塩の使用を提供する。
【0030】
本発明は、また、潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む炎症性腸疾患を治療または予防するための任意の形態の式Iのナトリウム塩の使用に関する。
【0031】
本発明はさらに、治療に用いる、特に潰瘍性大腸炎、およびクローン病を含む炎症性腸疾患を治療または予防するための、任意の形態の式Iのナトリウム塩に関する。
【0032】
本発明はさらに、そのような治療または予防を必要としている哺乳動物、特にヒト、において、潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む炎症性腸疾患を治療または予防する方法であって、前記哺乳動物に、治療上有効量の任意の形態の式Iのナトリウム塩を投与することを含む方法に関する。
【0033】
式Iのナトリウム塩は、塩を製造するための通常の手順によって得ることができる。たとえば、適切な溶媒中で1当量の水酸化ナトリウムと処理することによって、(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸から製造することができる。適切な溶媒の例として、エタノールおよびメタノールを挙げることができる。
【0034】
式Iのナトリウム塩は、実施例1に詳しく説明するとおり、溶媒の蒸発によって、あるいはたとえばより非極性の第2の溶媒に添加することによって、前記UR−12746のナトリウム塩の溶液から非晶質固体として得られる。
【0035】
式Iのナトリウム塩は、適切な溶媒または混合溶媒中で、UR−12746のナトリウム塩の溶液を結晶化することによって結晶形態で得られる。結晶化が行われる条件に応じて、式Iのナトリウム塩は、多形Iまたは多形IIとして得られる。
【0036】
結晶化を行うためのUR−12746のナトリウム塩の原料溶液は、前述のように、水酸化ナトリウムを用いてUR−12746を処理することによって得ることができ、あるいはあらかじめ得られたUR−12746のナトリウム塩から製造することができる。
【0037】
多形Iを得るために、結晶化は、好ましくは溶媒としてエタノールを用いて行われる。本出願人等は、この生成物が、20〜70℃の範囲の結晶化温度において、エタノール中で溶液から良好に結晶化することを見出した。好ましくは、この溶液は、1.9〜6.0ml/gの範囲の濃度(ml溶媒/出発原料として用いたUR−12746のg)のUR−12746のナトリウム塩を含有し、最低必要量、ある場合は4%w/w未満、の水を含有しなければならない。UR−12746のナトリウム塩の多形Iの製造は、実施例2に詳細に説明する。
【0038】
多形IIは、好ましくは、エタノールまたはメタノールと、酢酸エチル、アセトニトリル、またはヘプタンなどの、より非極性な第2の溶媒との混合物から、任意選択で少量の水の存在下で得られる。たとえば、本出願人等は、エタノール−酢酸エチル−水の混合物において、多形IIが良好に結晶化することを見出した。好ましくは、この溶液は、エタノール2.8〜6.6ml/g、酢酸エチル5.4〜15ml/g、水0.13〜0.33ml/gの濃度(溶媒ml/UR−12746のgとして表す出発原料(すなわち、UR−12746、またはUR−12746ナトリウム塩)のg)のUR−12746のナトリウム塩を含有し、結晶化は25〜70℃の範囲の温度で行われる。UR−12746のナトリウム塩の多形IIの製造は、実施例3および4に詳細に説明する。
【0039】
当分野の技術者に明らかなように、あらかじめ獲得した所望の結晶形態の純粋な種結晶を溶液に入れることによって、所望であれば、結晶化を誘発することができる。
【0040】
多形Iおよび多形IIは、有意に異なるX線粉末回折図、および赤外線スペクトルを示し、したがってこれら2種の任意の技法を用いて識別することができる。多形Iおよび多形IIの代表的なX線粉末回折図を図5および図7にそれぞれ示し、代表的な赤外線スペクトルを図4および図6に示す。
【0041】
多形Iおよび多形IIを識別するのに有用なX線粉末回折図の領域は、16.5°から18°(角度2θ)の間に生じる領域である。多形Iは、多形IIに存在しない、16.90°において強いピークを示し、多形IIは、多形Iに存在しない、17.77°に強いピークを示す。
【0042】
2種の多形を識別するために赤外分光学を用いる場合、この2種の多形を識別するのにより有用なスペクトルの領域は、800と900cm−1の間、および550と650cm−1の間である。
【0043】
これに対してDSCは、2種の多形が非常に類似した融点を示すので、それらを識別する適切な方法ではない。
【0044】
当分野の技術者に明らかなように、X線粉末回折図における角度2θ、ならびにピークの相対強度の値は、用いる特定の計器、ならびに試料の製造に応じて多様となる可能性がある。そのため、多形IおよびIIを説明するために述べた2θの値は、絶対値とみなされるべきではなく、±0.2°変動してもかまわない。
【0045】
本発明の目的であるUR−12746のナトリウム塩は、前述のとおり、ヒトを含む、哺乳動物において、炎症性腸疾患の治療または予防に有用である。本発明の化合物は、好ましくは経口により投与されるが、他の方式の投与、特に直腸投与にも適合させることができる。
【0046】
本発明はさらに、本発明の化合物および1種以上の賦形剤、あるいは必要であれば他の助剤を含む薬剤組成物に関する。前記組成物は、参照により本明細書の一部とする特許出願WO97/09329においてUR−12746に関して記載されたものと類似していることができ、標準の製剤技法に従って製造することができる。
【0047】
経口投与のための固体組成物には、錠剤、分散性粉剤、顆粒剤、およびカプセル剤が含まれる。錠剤では、活性成分は、ラクトース、デンプン、マンニトールまたはリン酸カルシウムの少なくとも1種の非活性希釈剤;たとえばコーンスターチ、ゼラチン、微結晶性セルロースまたはポリビニルピロリドンの結合剤;および、たとえばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクの潤滑剤と混合される。錠剤は、通常の製薬の実施においてよく知られている方法によって被覆することができる。経口で用いるための調剤にはさらに、非活性固体希釈剤または他の賦形剤を添加した、または添加しない活性成分を含有する、ゼラチンのような、吸収性材料のカプセル剤が含まれる。
【0048】
経口組成物はまた、水、または他の適切な賦形剤を添加することによって懸濁剤を製造するのに適した分散性粉剤および顆粒剤として提供することができる。これらの製剤は、活性成分ならびに、たとえば分散または湿潤剤の賦形剤、たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、キサンタンガム、アラビアゴムの懸濁剤および、たとえばp−ヒドロキシ安息香酸メチルまたはプロピルの保存薬を含む。たとえば甘味剤、風味剤および着色剤の追加の賦形剤も存在することができる。
【0049】
経口投与のための液体組成物には、一般に用いられる非活性希釈剤、たとえば蒸留水、エタノール、ソルビトール、グリセロール、またはプロピレングリコールなどを含有する、エマルジョン、液剤、懸濁剤、シロップおよびエリキシル剤が含まれる。そのような組成物は、通常の添加剤、たとえば湿潤剤、懸濁剤、甘味剤、風味剤、保存薬および緩衝剤などを含むことができる。
【0050】
本発明の化合物は、たとえば座剤または浣腸の形態で直腸に投与することもでき、これには水性または油性液剤ならびに懸濁剤およびエマルジョンが含まれる。そのような組成物は、当分野の技術者によく知られている標準の手順に従って製造される。たとえば座剤は、活性成分を通常の座剤ベース、たとえばカカオ脂、または他のグリセリドなどと混合することによって製造できる。
【0051】
投与量および投与の頻度は、患者の症状、年齢、および体重を含むいくつかの要因に応じて多様となる可能性がある。一般に本発明の化合物は、成人に対して約500〜約10000mgの1日量で、ヒトの患者に経口または直腸内で投与することができ、それを単回投与、または分割投与によって投与することができる。しかしながら、特殊な場合、および担当医の裁量において、この限度外の用量が必要とされることがある。
【実施例】
【0052】
以下の実施例は本発明の範囲を例示するものであるが、それを限定するものではない。
【0053】
使用した計器:
・赤外線スペクトルは、分光光度計Perkin Elmer983(実施例1および2)またはBomen MB−100(実施例3)を用いるKBrディスクにて記録した。
・DSCスペクトルは、Mettler TA−3000装置およびMettler Toledo STARe Systemソフトウェアを備えたコンピュータシステムと連結したDSC−20を用いて記録した。
・X線粉末回折図は、Philips Xpert−MPD自動粉末回折計および放射線源CuKα(λ=1.542Å)を用いて記録した。
【0054】
実施例1
(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩の非晶質形態での製造
NaOH107mgを沸騰メタノール67mlに溶解した。(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸(特許出願WO97/09329に記載の方法に従って得た)1.7gを加え、その混合物をさらに10分間加熱した。混合物がまだ熱い間にろ過し、容量5mlに濃縮し、結果として生じた溶液を室温で撹拌しながら酢酸エチル(30ml)に滴下して加え、細かい黄色の固体を得た。その固体をろ過し、70℃、真空中で乾燥させて、非晶質形態で(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩1.5gを得た。
【0055】
得られた生成物は、約260℃で小さい熱吸収を有する、非晶質生成物に特有のフラットなDSC図を示す。この生成物の代表的な赤外線スペクトルを図1に示す。X線粉末回折によって、この化合物は非晶質であることが示され、対応する回折図を図2に示す。
【0056】
実施例2
(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩の多形Iの製造
無水エタノール1.5lに(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸(含有率93.3%)100.0gを懸濁した懸濁液に、水酸化ナトリウム6.58gを添加し、その混合物を溶解するまで60〜65℃で撹拌した。結果として生じた溶液をろ過し、真空中で蒸留によって容量200〜300mlに濃縮した。この濃縮溶液を55〜65℃で約4時間撹拌し、豊富な沈殿物を生じさせた。加熱を停止し、混合物をさらに室温(18〜22℃)で約16〜20時間撹拌した。生成物を遠心分離し、遠心分離機内で無水エタノール(2×10ml)を用いて洗浄し、真空中、80℃で乾燥させた。(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩の多形I 85〜87gを得た。
【0057】
多形Iの代表的なDSC図を図3に示す。この生成物は、通常、263〜267℃の範囲にDSC融解ピークを示す。多形Iの代表的な赤外線スペクトルを図4に示す。多形Iの代表的なX線粉末回折図を図5に示す。10%以上の相対強度を有するピークに関して、前記X線回折図の角度2θ(°)、間隔「d」(オングストローム)、および相対強度(%)の値を数字の形で表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例3
UR−12746のナトリウム塩の多形Iからの、(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩の多形IIの製造
UR−12746のナトリウム塩の多形I 41gを、無水エタノール160mlおよび水11mlに60〜65℃で溶解した。この溶液に、温度を65〜70℃に保ちながら、酢酸エチル500mlをゆっくりと添加した。その溶液を2時間かけて室温に冷却し、それによって生成物を結晶化し、氷浴でさらに2時間冷却した。生成物を遠心分離し、真空中、80℃で乾燥させて、多形II30gを得た。
【0060】
多形IIの代表的なDSC図を図8に示す。この生成物は、通常、264〜275℃の範囲にDSC融解ピークを示す。多形IIの代表的な赤外線スペクトルを図6に示す。多形IIの代表的なX線粉末回折図を図7に示す。10%以上の相対強度を有するピークに関して、前記X線回折図の角度2θ(°)、間隔「d」(オングストローム)、および相対強度(%)の値を数字の形で表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
実施例4
UR−12746からの、(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩の多形IIの製造
UR−1274614.80gおよび水酸化ナトリウム0.96gを、3.15%(w/w)の水を含有するエタノール225mlに溶解した。その混合物を溶解するまで45〜50℃で加熱し、次いでろ過した。ろ液を真空中で濃縮し、エタノール約180mlを溶液から留去した。その濃縮溶液に2mlの水を添加し、結果として生じた溶液を65℃で加熱した。60〜65℃で、80mlの酢酸エチルをゆっくりと、少しずつ添加した。生じた溶液を3時間かけて室温に冷却し、それによって生成物を結晶化した。得られた生成物を遠心分離し、真空中、80℃で乾燥させて、多形II 4.75gを得た。
【0063】
実施例5
経口投与後のUR−12746およびUR−12746のナトリウム塩のアゾ還元の比較実験
前述のとおり、UR−12746は、結腸内で腸内細菌によって代謝され、5−ASAおよびPAF拮抗活性を有するアミンUR−12715を放出するように設計された化合物である。
【0064】
【化4】

【0065】
UR−12746およびそのナトリウム塩を、ラットおよびサルに経口投与した後の糞便中のUR−12746およびUR−12715の分布を定量することによって、アゾ還元のレベルを研究した。
【0066】
i)ラットにおける研究
ラットにおける研究のために、体重が169〜185gである雌のSprague−Dawleyラット6匹を用いた。UR−12746およびUR−12746のナトリウム塩(多形I)を、0.2%カルボキシメチルセルロース(CMC)の懸濁液として、投与量50mg/kg(試験化合物100mg/0.2%CMC10ml)で、それぞれ3匹のラットに経口で投与した。
【0067】
尿および糞便を個々に採取できるように、ラットを代謝ケージに入れ、期間0〜24時間および24〜48時間の間、糞便を採取した。同一の期間に採取した糞便の重さを量り、粉砕した。水を添加し(水2ml/糞便1g)、得られたペーストを撹拌して均質化した。次いでそのホモジネートの全重量を求めた。
【0068】
ホモジネートの一定部分(約2g)をMeOH4mlと混合し、Vortexで撹拌し、4500rpm(3000g)で10分間遠心分離した。上澄みを0.45μmフィルタでろ過し、試料中に存在する投与された生成物および代謝産物の濃度を、以下に詳述する条件で、勾配溶離および紫外線検出を用いHPLCクロマトグラフィ法によって求めた。
カラム: Hypersil−Elite C18 5μm(4.6×150mm)
溶離剤: ポンプA:アセトニトリル−メタノール(25:75)
ポンプB:リン酸緩衝液、25mM pH:7.5
0.54gKHPO
3.74gNaHPO・2HO/水1l
【0069】
【表3】

【0070】
アゾ還元のレベルは、糞便中に回収された生成物およびUR−12715の量から求めた。経口投与後に糞便中に見出された生成物(UR−12746、またはUR−12746のナトリウム塩)、および代謝産物(UR−12715)に対応する量の相対パーセントを表3に示す。結果は平均値として示す。
【0071】
【表4】

【0072】
非晶質形態のUR−12746のナトリウム塩を用いたときも、類似の結果が得られた。
【0073】
ii)サルにおける研究
この研究のために、カニクイザル6匹を用いた。各試験生成物を、それぞれ3匹のサルに投与した。UR−12746は、0.2%CMCの懸濁液として、経口投与量100mg/kg(UR−12746、1000mg/0.2%CMC10ml)で投与し、UR−12746のナトリウム塩(多形I)は、各動物に対して個別のカプセルとして、経口投与量100mg/kgで投与した。
【0074】
尿および糞便を個々に採取できるように、サルを代謝ケージに入れ、期間0〜24時間、24〜48時間および48〜72時間に対応する糞便を採取した。
【0075】
糞便の処理、試料中に存在する投与生成物および代謝産物の量の定量はラットの研究に関して上に述べたものと同じ手順で行った。
【0076】
ラットの研究と同様に、アゾ還元レベルは、糞便中に回収された生成物およびUR−12715の量から求めた。得られた結果を表4に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
これらの研究の結果は、UR−12746のナトリウム塩が、UR−12746に比べてはるかに高程度に結腸内で代謝されることを明らかに示している。たとえば、ラットにUR−12746を経口投与した後、わずか24%のアゾ還元が起こるのに対し、UR−12746のナトリウム塩を投与したときには、およそ79%というはるかに高いレベルのアゾ還元が観察される。この異なる挙動はサルにおいていっそう明らかに認められ、UR−12746の投与後にはアゾ還元が観察されないのに対し、UR−12746のナトリウム塩を投与したときには、結腸内で非常に高いレベルの代謝(およそ90%)が観察される。したがって、UR−12746のナトリウム塩は、炎症性腸疾患の治療または予防に用いるのにより適した化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩。
【請求項2】
適切な溶媒中で1当量の水酸化ナトリウムを用いて(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸を処理することを含む、請求項1に記載の化合物を製造する方法。
【請求項3】
炎症性腸疾患の治療または予防のための方法であって、有効量の(Z)−2−ヒドロキシ−5−[[4−[3−[4−[(2−メチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)メチル]−1−ピペリジニル]−3−オキソ−1−フェニル−1−プロペニル]フェニル]アゾ]安息香酸のナトリウム塩をかかる疾患を有する患者に投与することを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−159293(P2010−159293A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94382(P2010−94382)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【分割の表示】特願2001−575582(P2001−575582)の分割
【原出願日】平成13年4月10日(2001.4.10)
【出願人】(508131314)パラウ ファルマ、 ソシエダッド アノニマ (1)
【氏名又は名称原語表記】Palau Pharma, S.A.
【Fターム(参考)】