説明

5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールから誘導されるカルボン酸エステル、およびそれらの製造方法

【課題】 5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールおよびそのカルボン酸エステルを効率よく製造する。
【解決手段】
2−ヘキセノールとナトリウムアルコキシドとの反応で、5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールを合成した後、エステル化反応により5−エチル−2−プロピルベンジルカルボン酸エステルに誘導する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールから誘導されるカルボン酸エステル、およびその製造方法に関する。さらには、5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールの新規な製造方法に関する。
5−エチル−2−プロピルベンジルアルコール、およびそのカルボン酸エステルは、香料、医薬、および農薬などの原料、あるいはそれらの中間体に関する。
【背景技術】
【0002】

【0003】
5−アルキル−2−アルキルメチレンベンジルアルコールは、今までに、式(4)で表される5−エチル−2−プロピルベンジルアルコール、式(5)で表される2−エチル−5−メチルベンジルアルコールの2例が報告されているのみである。なお、今後式(4)で表される化合物を化合物(4)、式(5)で表される化合物を化合物(5)と記載することがある。また、他の化合物についても、同様のルールで記載を行う事がある。
非特許文献1では、化合物(4)は、リプトン様の香りとの報告がなされていたが、化合物(4)に限定的で、他の5−アルキル−2−アルキルメチレンベンジルアルコールについて報告はなかった。そのエステル体に関しては、3,5−ジニトロ安息香酸エステル(例えば、非特許文献2)のみが報告されており、他の5−エチル−2−プロピルベンジルカルボン酸エステルの報告はなかった。
【0004】
今までに、化合物(4)および化合物(5)は数種の方法で合成されている。例えば、非特許文献3では、トランス−3−ヘキセノールまたはシス−3−ヘキセノールまたはトランス−2−ヘキセノールを金属ナトリウム存在、180℃で加熱、減圧下蒸留することで得られている。この炭素数6の不飽和アルコール縮合により、化合物(4)を生成する反応は、青葉アルコール反応として知られている。式(6)で表されるトランス−2−ヘキセノールから、収率9.2%(mol基準)で、化合物(4)が得られている。この反応は、取り扱いが非常に危険な金属ナトリウムを使用している点で、特殊な反応設備、後処理が必要であり、さらには収率が低いという課題点があった。
【0005】

【0006】
非特許文献1では、ベンジルクロライドから8工程の反応で、化合物(4)を合成する方法が報告されているが、合成に多段階を必要とし、工業的な製造法とは言い難い。
非特許文献4では、トランス−2−ヘキセナールをNaOH水溶液触媒、エタノール中で、一旦、2−プロピル−5−エチル−4,6−ヘキサジエアルデヒドに導いた後、金属ナトリウムを触媒にカニツアロ反応により、化合物(4)を合成する方法が報告されているが、金属ナトリウムの使用や、収率が低いなどの課題点があった。
【0007】
【非特許文献1】畑中顕和ら Agric.Biol.Chem.29,7, 662−664 1965
【非特許文献2】Bulletin of the Institute for Chemical Resarch ,Kyoto University 43 231− 1965 Bulletin of the Institute for Chemical Resarch ,Kyoto University 40 (5/6)322−50 1962
【非特許文献3】大野稔,畑中顕和,井上雄三 Agric.Biol.Chem.7, 460−466 1962:畑中顕和ら Agric.Biol.Chem.36, 2.324 1972
【非特許文献4】畑中顕和ら Agric.Biol.Chem.31,8, 964−8 1967
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的の一つは、背景技術にみられる課題点である、複雑で多段的な合成方法、低収率といった問題を解決することによって、香料、医薬、農薬などの原料として有用な、化合物(1)および化合物(2)を効率よく提供することである。また、別の目的は、化合物(2)を製造するに際し、従来よりも反応工程が短く、高い純度が得られる新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、化合物(1)、および化合物(2)の効率よい製造方法を見出すことにより、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、化合物(1)は、以下の工程1および2より製造される。また、化合物(2)は、以下の工程1から製造される。

【0011】
工程1.
式(3)で表される2−ヘキセノールから、ナトリウムアルコキシドを用いて、式(2)で表される5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールを合成する工程。

Etはエチルである。以下、エチルをEtと示すことがある。
【0012】
工程2.
式(2)で表される5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールをエステル反応により、式(1)で表される5−エチル−2−プロピルベンジルカルボン酸エステルを得る工程。

【発明の効果】
【0013】
5−エチル−2−プロピルベンジルアルコール、およびそれから誘導されるカルボン酸エステルを提供できる。5−エチル−2−プロピルベンジルアルコール、およびのカルボン酸エステルは、香料、医薬、および農薬などの原料、あるいはそれらの中間体として用いることが出来る。
【0014】
本発明によれば、危険性の高い金属ナトリウムを用いず、より取り扱い易いナトリウムアルコキシドを用いるのでより安全性が高い。さらには、従来技術と比較して収率が高いという効果がある。したがって、工業的に極めて優れた技術効果を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、以下の項などである。
[1] 式(1)で表される化合物。



ここでRは、水素または炭素数1から12のアルキルであり、アルキルの隣り合わない任意の2つの−CH−が、1つの−CH−C2n−CH−と置き換えられてもよく、これらにおいて任意の−CH−は、−O−、−C(=O)−、−CH=CH−、またはフェニレンにより置き換えられてもよく、これらの任意の水素は、−OHに置き換えられてもよく、nは0から10の整数であり;Etはエチルである。
【0016】
[2] Rが、水素、炭素数1から12のアルキル、炭素数2から12のアルケニル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルコキシアルキル、または炭素数4から12のアルカジエニルである項1に記載の化合物
【0017】
[3] Rがアリルであり、アリルの任意の水素が、ヒドロキシまたはホルミルに置き換えられてもよく、アリルの−CH−が−C(=O)−に置き換えられてもよい項1に記載の化合物。
【0018】
[4] Rが1,4−ペンタジエニルであり、1,4−ペンタジエニルの任意の水素が、ヒドロキシまたはホルミルに置き換えられてもよく、1,4−ペンタジエニルの任意の−CH−が−C(=O)−に置き換えられてもよい項1に記載の化合物。
【0019】
[5] 式(3)で表される2−ヘキセノールと、ナトリウムアルコキシドとを反応させ、式(2)で表される中間体化合物を合成した後、エステル化反応を行うことを特徴とする、式(1)で表される化合物の製造方法。



ここでRは水素または炭素数1から12のアルキルであり、アルキルの隣り合わない任意の2つの−CH−が、1つの−CH−C2n−CH−と置き換えられてもよく、これらにおいて任意の−CH−は、−O−、−C(=O)−、−CH=CH−、またはフェニレンにより置き換えられてもよく、これらの任意の水素は、−OHに置き換えられてもよく、nは0から10の整数であり;Rはアルキルである。
【0020】
[6] Rが、水素、炭素数1から12のアルキル、炭素数2から12のアルケニル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルコキシアルキル、または炭素数4から12のアルカジエニルである項5に記載の製造方法。
【0021】
[7] Rがアリルであり、アリルの任意の水素が、ヒドロキシまたはホルミルに置き換えられてもよく、アリルの−CH−が−C(=O)−に置き換えられてもよい項5に記載の製造方法。
【0022】
[8] Rが1,4−ペンタジエニルであり、1,4−ペンタジエニルの任意の水素が、ヒドロキシまたはホルミルに置き換えられてもよく、1,4−ペンタジエニルの任意の−CH−が−C(=O)−に置き換えられてもよい項5に記載の製造方法。
【0023】
[9] 式(3)で表される2−ヘキセノールと、ナトリウムアルコキシドを反応させることを特徴とする、式(2)で表される中間体化合物の製造方法。



ここで、Rはアルキルであり;Etはエチルである。
【0024】
[10] ナトリウムアルコキシドとして、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム−t−ブトキシドを用いることを特徴とする、項5または9に記載の製造方法。
【0025】
[11] 項1から4のいずれか1項に記載の化合物を、少なくとも1種含む混合物。
【0026】
[12] 項11に記載の混合物からなる香料組成物。
【0027】
以下に、本発明をより詳細に説明する。
なお、例示した化合物は一例であり、これにより本願発明を限定するものではない。
本発明において、5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールは式(2)で表される。以下、化合物(2)ということもある。5−エチル−2−プロピルベンジルカルボン酸エステルは式(1)で表せられる。以下、化合物(1)ということもある。
【0028】

【0029】
1は、水素または炭素数1から12のアルキルであり、アルキルの隣り合わない任意の2つの−CH−が、1つの−CH−C2n−CH−と置き換えられてもよく、これらにおいて任意の−CH−は、−O−、−C(=O)−、−CH=CH−、またはフェニレンにより置き換えられてもよく、これらの任意の水素は、−OHに置き換えられてもよい。nは0から10の整数である。
Etは、エチルである。
【0030】
1のアルキルは、直鎖であっても、分岐していてもよい。

1が水素または炭素数1から12のアルキルである化合物(1)の例は、化合物群(1−1)などである。
【0031】
1が分岐のアルキルである化合物(1)の例は、化合物群(1−2)などである。


【0032】
1において、アルキルの隣り合わない任意の2つの−CH−が、−CH−C2n−CH−と置き換えられた化合物(1)の例は、化合物群(1−3)などである。なお、nは0から10の整数である。


【0033】
上述した化合物群(1−1)から(1−3)中のR1のパターンにおいて、任意の−CH−が、−O−、−C(=O)−、−CH=CH−、またはフェニレンにより置き換えられた化合物(1)の例は、化合物群(1−4)などである。


【0034】
上述した化合物群(1−1)から(1−4)中のR1のパターンにおいて、任意の水素が−OHに置き換えられた化合物(1)の例は、化合物群(1−5)などである。

【0035】
本願発明において、Rは、水素、炭素数1から12のアルキル、炭素数2から12のアルケニル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルコキシアルキル、または炭素数4から12のアルカジエニルが好ましく用いられる。
【0036】
これらのうち、Rが炭素数2から12のアルケニルである場合の化合物(1)の例は、化合物群(1−6)などである。


二重結合は、トランス体、シス体、またはトランス体とシス体の混合物であってもよい。
【0037】
また、Rが炭素数1から12のアルコキシである場合の化合物(1)の例は、化合物群(1−7)などである。


【0038】
さらにRが炭素数2から12のアルコキシアルキルである場合の化合物(1)の例は、化合物群(1−8)などである。

【0039】
またRが炭素数4から12のアルカジエニルである場合の化合物(1)の例は、化合物群(1−9)などである。


【0040】
本願発明において、Rがアリルであることはより好ましい。アリルの任意の水素が、ヒドロキシまたはホルミルに置き換えられてもよく、アリルの−CH−が−C(=O)−に置き換えられてもよい。
これらの化合物(1)の例は、化合物群(1−10)などである。

【0041】
本願発明において、Rが1,4−ペンタジエニルであることもより好ましい。この場合、1,4−ペンタジエニルの任意の水素が、ヒドロキシまたはホルミルに置き換えられてもよく、1,4−ペンタジエニルの任意の−CH−が−C(=O)−に置き換えられてもよい。
これらの化合物(1)の例は、化合物群(1−11)である。

【0042】
本願発明の、式(1)および(2)で表される化合物は、以下の方法で製造できる。
すなわち、式(3)で表される2−ヘキセノールと、ナトリウムアルコキシドとを反応させ、化合物(2)を合成した後、エステル化反応を行い、化合物(1)を得る方法である。

【0043】
ここでRは水素または炭素数1から12のアルキルであり、アルキルの隣り合わない任意の2つの−CH−が、−CH−C2n−CH−と置き換えられてもよく、これらにおいて任意の−CH−は、−O−、−C(=O)−、−CH=CH−、またはフェニレンにより置き換えられてもよく、これらの任意の水素は、−OHに置き換えられてもよい。nは0から10の整数である。
はアルキルである。
【0044】
の取り得る構造は、上述した化合物群(1−1)から(1−5)に記載のとおりであるが、これらに記載された事項が、本願発明を限定するものではない。
【0045】
はアルキルであり、一例を示すと、メチル、エチル、ブチル、t−ブチル、およびシクロヘキシルなどが挙げられる。
【0046】
式(3)で表される2−ヘキセノールと、ナトリウムアルコキシドとを反応させ、化合物(2)を合成した後、エステル化反応を行い、化合物(1)を得る製造方法において、Rが、水素、炭素数1から12のアルキル、炭素数2から12のアルケニル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルコキシアルキル、または炭素数4から12のアルカジエニルから選択される場合、取り得る構造は、上述した化合物群(1−6)から(1−9)のとおりである。ただし、これらに記載された事項が、本願発明を限定するものではない。
【0047】
式(3)で表される2−ヘキセノールと、ナトリウムアルコキシドとを反応させ、化合物(2)を合成した後、エステル化反応を行い、化合物(1)を得る製造方法において、Rが、アリルであり、アリルの任意の水素が、ヒドロキシまたはホルミルに置き換えられてもよく、アリルの−CH−が−C(=O)−に置き換えられてもよい場合、取り得る構造は、上述した化合物群(1−10)のとおりである。ただし、これらに記載された事項が、本願発明を限定するものではない。
【0048】
式(3)で表される2−ヘキセノールと、ナトリウムアルコキシドとを反応させ、化合物(2)を合成した後、エステル化反応を行い、化合物(1)を得る製造方法において、Rが1,4−ペンタジエニルであり、1,4−ペンタジエニルの任意の水素が、ヒドロキシまたはホルミルに置き換えられてもよく、1,4−ペンタジエニルの任意の−CH−が−C(=O)−に置き換えられてもよい場合、取り得る構造は、上述した化合物群(1−11)のとおりである。ただし、これらに記載された事項が、本願発明を限定するものではない。
【0049】
本願発明において、化合物(2)は、式(3)で表される2−ヘキセノールとナトリウムアルコキシドを反応させることにより得られる。従来技術では、危険な金属ナトリウムを使用していた。この物質は、極めて不安定であり、水や空気との接触により発火するという、非常に取り扱いの難しい物質である。これに対し、本願技術では、ナトリウムアルコキシドを用いることで、安全な合成方法を確立し、さらには収率が高いという優れたものである。
【0050】

ここで、Rはアルキルであり、一例としてメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、およびシクロヘキシルなどが挙げられる。
また化合物(3)は、トランス体、シス体、またはトランス体とシス体の混合物であってもよい。
【0051】
ナトリウムアルコキシドとして、上述した中では特に、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム−t−ブトキシドが好ましく用いられる。
【0052】
上述した化合物(1)を少なくとも1種含む混合物は、すべて本願発明に含まれる。混合物は、最終製品であってもよいし、製品を製造するための原料であってもよい。
最終製品の例としては、医薬品、農薬、香水、工業用香料などが挙げられる。本願発明が香水または工業用香料として用いられる場合、上述した混合物以外にも、単体として用いることも可能である。
製品を製造するための原料の例としては、医薬品中間体、農薬中間体、香料組成物などが挙げられる。
なお、上記例は一例であり、本願発明を限定するものではない。
【0053】
次に、式(2)で表される5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールについて説明する。
5−エチル−2−プロピルベンジルアルコール(2)は、2−ヘキセノール(3)をナトリウムアルコキシドとの反応で合成することができる。この反応に用いる2−ヘキセノールは、トランス体が好ましい。
【0054】
次に、工程1および工程2について説明する。
工程1.式(3)で表される2−ヘキセノールから、ナトリウムアルコキシドを用いて、式(2)の5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールを合成する工程。
式(3)で表される2−ヘキセノールと反応させるためのナトリウムアルコキシドは、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム−t−ブトキシドを用いることができる。ナトリウムアルコキシドは、粉体のままでも、アルコール溶液でも使用できる。使用するナトリウムアルコキシドの割合は、2−ヘキセノールに対して、30%から150%(mol基準)の範囲、好ましくは、30%から100%(mol基準)の範囲である。
【0055】
反応に使用する有機溶媒としては、2−ヘキセノール自体を過剰に使用して、溶媒として使用することができる。また、反応に影響しない例えばトルエン、オルトキシレン、メタキシレン、パラキシレン、およびキシレンの混合物、ジブチルエーテル、ジオクチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどを使用することができる。有機溶剤の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、2−ヘキセノールに対して、重量で0.5倍から30倍程度の範囲で使用できる。
【0056】
式(3)で表される2−ヘキセノールとナトリウムアルコキシドとの反応は、上記溶媒中で行なわれ、反応温度は好ましくは100℃から200℃の範囲、より好ましくは、120℃から180℃の範囲で行うことができる。
【0057】
合成した5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールに含まれるNaOH、未反応NaOMeは、水洗浄または酸による中和洗浄により除去できる。一般に、反応液1部に対して0.3部程度の水を加え、数回水洗浄後、減圧下蒸留することで、溶媒とともに未反応の2−ヘキセノールを回収できる。粗5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールは、減圧蒸留では、高沸点成分として得られる。粗5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールは、さらに減圧蒸留やカラムクロマトグラフィーを用いることで精製できる。
減圧蒸留で未反応の2−ヘキセノールは、5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールより低沸点成分として回収可能であるため、再度、原料として使用することができる。
【0058】
工程2. 式(2)で表される5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールを、エステル反応により、式(1)で表される5−エチル−2−プロピルベンジルカルボン酸エステルを得る工程。
5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールは、従来から知られているエステル化反応により、5−エチル−2−プロピルベンジルカルボン酸エステルに誘導できる。
【0059】
エステル化反応に用いるカルボン酸は、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸などが用いられる。
モノカルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ケイ皮酸などが用いられる。
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フタル酸、フマル酸、アジピン酸などが用いられる。
テトラカルボン酸としては、ピロメリット酸などが用いられる。
【0060】
エステル化反応としては、丸善株式会社発行の新実験化学講座14巻有機の合成と反応IIに記載されている方法が利用できる。具体的な方法として、カルボン酸からの合成(ページ1002から1007)、酸ハロゲン化物からの合成(ページ1012から1014)、酸無水物からの合成(ページ1014から1016)、エステルおよびラクトンの交換反応(ページ1017から1021)、酸アミドからの合成(ページ1021から1022)、ケテン、ケテンアセタールおよび関連化合物からの合成(ページ1023から1025)が挙げられる。また、丸善株式会社発行の第4版実験化学講座22巻有機合成IV−酸・アミノ酸・ペプチド−に記載されている方法が同様に利用できる。カルボン酸とカルボン酸誘導体からの合成において、脱水剤を用いるエステル化反応(ページ45から47)が挙げられる。
【0061】
エステル化反応で得た5−エチル−2−プロピルベンジルカルボン酸エステルは、生成物の物性により、減圧蒸留、カラムクロマトグラフィー、再結晶、昇華などの方法で精製できる。
【実施例】
【0062】
H−NMR:プロトン核磁気共鳴スペクトルは日本電子 FT−NMR GSX 400 (400 MHz)を用い、テトラメチルシランを内部標準として測定した。
IR:赤外吸収スペクトルはパーキンエルマー FT−IR PARAGON 1000を用い、液膜法により液体、結晶をそのまま測定した。以下、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)5−エチル−2−プロピルベンジルアセテート
5−エチル−2−プロピルベンジルアルコール(30.0g;168.2mmol)、酢酸(12.0g;199.8mmol)、トルエン(100ml)、パラトルエンスルホン酸(0.644g;3.99mmol)をジーンスタークにジムロート冷却管を付けた攪拌機付きのフラスコ(300ml)に仕込み、4時間120℃で還流した。その間に生成する水は、ジーンスタークより除いた。放冷した後、水(20 ml)を加え攪拌、静置後、有機層を分離した。有機層に6.5%炭酸水素ナトリウム水溶液(20ml)を加え、攪拌、静置後、有機層を分離した。さらに、有機層に水(20ml)を加え、攪拌、静置後、有機層を分離した。
【0064】
得られた反応粗液を単蒸留した結果、純度96%の5−エチル−2−プロピルベンジルアセテート(35.2g;159.7mmol)得られた。沸点112〜122℃(減圧度20hPa)。
H−NMR(CDCl)δ(ppm):7.17(1H,d,J=8 Hz),7.11(2H,d,J=8 Hz),5.12(2H,s),2.66−2.57(4H,m),2.09(3H,s),1.65−1.50(2H,m),1.23(3H,t,J=8 Hz),0.98(3H,t,J=6 Hz)
IR ν(cm−1)max:2964(C−H伸縮),1742(C=O伸縮),1501(C−C環伸縮),1454(C−C伸縮),1379,1228(C−O伸縮),1026(O−C−C伸縮),961(C−H環変角),889(C−H環変角),832(C−H環変角),605(C−H変角)
【0065】
(実施例2)5−エチル−2−プロピルベンジルサリシレート
5−エチル−2−プロピルベンジルアルコール(30.0g;166.4mmol)、キシレン(100ml)、炭酸カリウム(0.829g;6.00mmol)をジーンスタークにジムロート冷却管を付けた攪拌機付きのフラスコ(300ml)に仕込んだ。釜を加熱し、80℃になった時点でサリチル酸メチル(17.2g;112.7mmol)を滴下した。滴下後、釜温を徐々に昇温し、145℃で4時間還流した。その間に上がってくる低沸分は、ジーンスタークに溜めていた。放冷した後、水(50 ml)を加え攪拌、静置後、有機層を分離した。さらに、有機層に水(50ml)を加え、攪拌、静置後、有機層を分離する操作を2回行った。
【0066】
得られた反応粗液を単蒸留した結果、純度98%の2−プロピル−5−エチルベンジルサリシレート(47.4g;159mmol)が得られた。沸点230〜250℃(減圧度2hPa)
H−NMR(CDCl)δ(ppm):7.83(1H,dd,J=4, 2 Hz),7.44(1H,dd,J=4, 1 Hz),7.15(3H,d,J=2 Hz),6.98(1H,d,J=4 Hz),6.84(1H,dd,J=4, 4 Hz),5.39(3H,s),2.68−2.63(4H,m),1.67−1.59(3H,m),1.24(3H,t,J=4 Hz)0.98(3H,t,J=6 Hz)
IR ν(cm−1)max:3186(O−H伸縮),2961(C−H伸縮),1676(C=O伸縮),1614,1586(C−C環伸縮),1484(C−C伸縮),1380(C−O伸縮),1300(C−H環変角),1250(C−O伸縮),1156,1086(C−H環変角),1032(O−C−C伸縮),946(C−H環変角),888(C−H環変角),834,758,700(C−H環変角),564,530(C−H変角)
【0067】
(実施例3)5−エチル−2−プロピルベンジルアルコール
トランス−2−ヘキセノール(300g;3.00mol)をジーンスタークにジムロート冷却管を付けた攪拌機付きのフラスコ(1L)に仕込んだ。これに28%ナトリウムメトキシド・メタノール溶液(283g;1.47mol)を窒素ガス雰囲気下、ゆっくりと滴下した。滴下後、釜温を徐々に昇温し、ジーンスタークに溜まってくるメタノールを釜温が135℃になるまで除去した。メタノール留去後、釜温が下がらないように滴下ロートでキシレン129mlを徐々に追加し、130℃で16時間攪拌した。室温に冷却後、水(145ml)、36%塩酸水溶液(約137ml)を加え中和した。静置後、水層を分離し、有機層に水(145ml)を加え攪拌した。得られた反応粗液を減圧単蒸留して、減圧度77.33hPaで98℃までの留分をトランス−2−ヘキセノールとして回収した(回収率約72%)。この時の152〜164℃(減圧度13.33hPa)の留分を集め、さらに25段オルダーショウ精留塔で精製を行った。この結果、純度96%の5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールが(53g;300mmol)得られた。沸点133〜134℃(減圧度8.67hPa)。トランス−2−ヘキセノールからのmol基準の収率は10%。ナトリウムメトキシドに対するmol基準の収率は20%であった。
【0068】
(実施例4)
実施例3で回収したトランス−2−ヘキセノール(216g;2.16mol)を用いて、実施例3と同じ条件で合成反応を行い、5−エチル−2−プロピルベンジルアルコール(37g;210.0mmol)を得た。
300gの原料から、回収したトランス−2−ヘキセノールを用いることにより純度96%の5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールを合わせて90g;507mmolを得ることができたことになる。トランス−2−ヘキセノールの回収使用で、5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールを16.9%(トランス−2−ヘキセノールからのmol基準)の収率で得られた。
【0069】
(比較例1)
実施例3と同じように、トランス−2−ヘキセノール(300g;3.00mol)をジーンスタークにジムロート冷却管を付けた攪拌機付きのフラスコ(1L)に仕込んだ。これに28%ナトリウムメトキシド・メタノール溶液(283g;1.47mol)を窒素ガス雰囲気下、ゆっくりと滴下した。滴下後、釜温を徐々に昇温し、ジーンスタークに溜まってくるメタノールを釜温が100℃になるまで除去した。メタノール留去後、釜温が下がらないように滴下ロートでキシレン129mlを徐々に追加し、還流温度で16時間攪拌した。反応終了後、放冷しながら水(145ml)を加えた。十分冷却した後、水を加えた反応粗液に更に36%塩酸水溶液(約137ml)を加え中和した。静置後、水層を分離し、有機層に水(140ml)を加え、攪拌した。得られた有機層をGC(島津GC−14A、カラムG−100)で分析したところ、5−エチル−2−プロピルベンジルアルコールの生成が確認されなかった。
【0070】
実施例に示した方法および一般に知られている方法に準じて、以下の5−エチル−2−プロピルベンジルカルボン酸エステル(化合物番号1−1から1−37)が容易に製造できる。なお、ここに記載した5−アルキル−2−アルキルメチレンベンジルカルボン酸エステルは一例であり、本願発明を限定するものではない。
【0071】

【0072】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物。



ここでRは、水素または炭素数1から12のアルキルであり、アルキルの隣り合わない任意の2つの−CH−が、1つの−CH−C2n−CH−と置き換えられてもよく、これらにおいて任意の−CH−は、−O−、−C(=O)−、−CH=CH−、またはフェニレンにより置き換えられてもよく、これらの任意の水素は、−OHに置き換えられてもよく、nは0から10の整数であり;Etはエチルである。
【請求項2】
が、水素、炭素数1から12のアルキル、炭素数2から12のアルケニル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルコキシアルキル、または炭素数4から12のアルカジエニルである請求項1に記載の化合物
【請求項3】
がアリルであり、アリルの任意の水素が、ヒドロキシまたはホルミルに置き換えられてもよく、アリルの−CH−が−C(=O)−に置き換えられてもよい請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
が1,4−ペンタジエニルであり、1,4−ペンタジエニルの任意の水素が、ヒドロキシまたはホルミルに置き換えられてもよく、1,4−ペンタジエニルの任意の−CH−が−C(=O)−に置き換えられてもよい請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
式(3)で表される2−ヘキセノールと、ナトリウムアルコキシドとを反応させ、式(2)で表される中間体化合物を合成した後、エステル化反応を行うことを特徴とする、式(1)で表される化合物の製造方法。



ここでRは水素または炭素数1から12のアルキルであり、アルキルの隣り合わない任意の2つの−CH−が、1つの−CH−C2n−CH−と置き換えられてもよく、これらにおいて任意の−CH−は、−O−、−C(=O)−、−CH=CH−、またはフェニレンにより置き換えられてもよく、これらの任意の水素は、−OHに置き換えられてもよく、nは0から10の整数であり;Rはアルキルであり;Etはエチルである。
【請求項6】
が、水素、炭素数1から12のアルキル、炭素数2から12のアルケニル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルコキシアルキル、または炭素数4から12のアルカジエニルである請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
がアリルであり、アリルの任意の水素が、ヒドロキシまたはホルミルに置き換えられてもよく、アリルの−CH−が−C(=O)−に置き換えられてもよい請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
が1,4−ペンタジエニルであり、1,4−ペンタジエニルの任意の水素が、ヒドロキシまたはホルミルに置き換えられてもよく、1,4−ペンタジエニルの任意の−CH−が−C(=O)−に置き換えられてもよい請求項5に記載の製造方法。
【請求項9】
式(3)で表される2−ヘキセノールと、ナトリウムアルコキシドとを反応させることを特徴とする、式(2)で表される中間体化合物の製造方法。



ここで、Rはアルキルであり;Etはエチルである。
【請求項10】
ナトリウムアルコキシドとして、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム−t−ブトキシドを用いることを特徴とする、請求項5または9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1から4のいずれか1項に記載の化合物を、少なくとも1種含む混合物。
【請求項12】
請求項11に記載の混合物からなる香料組成物。

【公開番号】特開2008−266154(P2008−266154A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108286(P2007−108286)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】