説明

6−ヒドロキシスタウロスポリノンおよび5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンA

【課題】
天然の動植物、微生物などに含まれる新規の化学成分を提供すること。
【解決手段】
上記(1)式で示されることを特徴とする6−ヒドロキシスタウロスポリノンおよび上記(2)式で示されることを特徴とする5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンAとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物である6−ヒドロキシスタウロスポリノン及び5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンAに関する。
【背景技術】
【0002】
21世紀となった現在でも、地球上の人口の6割以上の人は、ふだんの病気や怪我の治療に、身近な自然の中にある植物や菌類(キノコなど)あるいはそれ由来の生薬を用いていると言われている。また、一方では、現在病院や家庭で使われている医薬品の中には、もともと天然の動植物、微生物などの体の中に含まれる化学成分として見つけ出されたもの(以下、「天然物」という)が沢山ある。また、天然の化学成分を原形として化学構造に改良を加えることにより、元の天然物よりも更に有効で安全な合成化合物も数多く開発されている。このように新しい有用な天然物を探すという研究は、薬を創り出す出発点とも言うべき大変重要なことと位置づけることができる。
【0003】
しかしながら、地球上の全ての生物種の中で、これまでに有効成分を探すための材料として研究されたものは未だ10%にも満たないと言われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑み、天然の動植物、微生物などに含まれる新規の化学成分を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、人間と地球環境との共存・保全の立場を十分尊重しつつ、未利用資源の開発と有効成分の探索研究に力を注いで、野外採取した変形菌Lycogala epidendrum(マメホコリ)の成分研究を行い、新規化合物を見出した。
【0006】
かかる本発明の第一の態様は、下記(1)で示されることを特徴とする6−ヒドロキシスタウロスポリノンにある。
【化1】

【0007】
また、本発明の第二の態様は、下記(2)式で示されることを特徴とする5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンAにある。
【化2】

【発明の効果】
【0008】
本発明は、変形菌Lycogala epidendrum(マメホコリ)由来の新規化合物である6−ヒドロキシスタウロスポリノン及び5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンAを提供することができる。この新規化合物は有用な生物活性が期待でき、大いに有用な医薬品となることが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0010】
本実施形態にかかる化合物は、 本発明の新規化合物は、上記(1)式で表される6−ヒドロキシスタウロスポリノン(6−hydroxystaurosporinone)および上記(2)式で表される5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンA(5,6−dihydroxyarcyriaflavin A)である。この6−ヒドロキシスタウロスポリノン及び5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンAは、変形菌Lycogala epidendrum(マメホコリ)から単離することにより製造することができる。例えば、野外採取した変形菌からメタノール及びアセトンを溶媒として成分を抽出し、分画することにより得ることができ、その方法は限定されない。また、合成してもよい。
【0011】
また、本実施形態にかかるパルビフロレンHおよびパルビフロレンIは、細胞毒性物質として利用できる。本実施形態にかかる6−ヒドロキシスタウロスポリノン及び5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンAはヒト子宮頸がんHeLa細胞に対する細胞毒性を有する可能性があって、しかも従来前例のない新規化学構造を有するため、新規細胞毒性物質(治療薬)としての有用性が期待される。
【0012】
以下、本発明について実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0013】
(実施例)
(1)6−ヒドロキシスタウロスポリノン及び5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンAの単離
野外にて採取した変形菌Lycogala epidendrum(マメホコリ)の子実体(計177.6g)を90%メタノール2.5Lで3回、90%アセトン2.5Lで1回抽出し、それらの抽出物をあわせて溶媒留去し、抽出物46.4
gを得た。この抽出物を水1Lに溶かし、酢酸エチル1Lで3回、n−ブタノール1Lで3回分配を行い、酢酸エチル抽出物24.8g、n−ブタノール抽出物5.5g、水抽出物11.4gを得た。
【0014】
得られた酢酸エチル抽出物について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラムA;φ50×500mm)に負荷し、クロロホルム−メタノール溶媒系で順次溶出し、12のフラクションを得た。クロロホルム/メタノール(9/1)で溶出したフラクション2.1gをODSカラムクロマトグラフィー(φ35×400mm)に負荷し、水−メタノール溶媒系で順次溶出し、11のフラクションを得た。水/エタノール(3/7)で溶出したフラクション460.0mgを逆相HPLC(カラム:Inertsil ODS−3、φ10×250mm;溶出液、60% メタノール;流速2.0mL/min;検出、UV254nm)によって精製した。その結果、保持時間45分のフラクションに6−ヒドロキシスタウロスポリノン(化合物1、6.0mg)を得た。
【0015】
一方、先に述べたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにおいて、クロロホルム/メタノール(8/2)で溶出したフラクショ3.2gを、先ほどと同様にODSカラムクロマトグラフィー(φ50×250mm)に負荷し、水−メタノール溶媒系で順次溶出し、水/メタノール(1/4)で溶出したフラクション195.4mgを逆相HPLC(カラム:Inertsil ODS−3,φ10×250mm;溶出液、68% メタノール;流速、2.0mL/min;検出、UV 254nm)によって精製した。その結果、保持時間27分のフラクションに5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンA(化合物2、5.6mg)を得た。なおこの一連のスキームを図1に示す。
【0016】
(2)構造
得られた6−ヒドロキシスタウロスポリノンおよび5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンAの物理化学的性質を調べた。具体的には、MS、HRFABMS、UV、IRについてそれぞれ測定を行った。
【0017】
(2−1)6−ヒドロキシスタウロスポリノンの構造
粉末は淡黄色の粉末であった。また、高性能FABMSにより[M+]と推測されるm/z327.0981のピークが観測されたことから、分子式C20313をもつと推定された。
【0018】
またUVスペクトル及びIRスペクトルについても測定を行ったところ、UVスペクトルにおいては波長226nmにおいてε27768、波長294nmにおいてε54358、波長342においてε19406の値を示し(図2参照)、IRスペクトルにおいては3282、1646、1583、1453、1402、1327cm−1においてそれぞれ吸収ピークが観測された。なおこれら値を表1に示す。
【表1】

【0019】
また、H NMRおよび 13C NMRによっても測定を行った。H NMRのスペクトルを図3に、H NMR及び13C NMRのデータを表2に示す。H NMRでは、δH 11.08、10.76にNH由来のシグナルが、δH 6.7−9.2付近に芳香環由来のシグナルが、またδH 5.02に積分値2Hのメチレン基由来のシグナルが観測された。また、13C NMRではδC 173.6にカルボニル基由来のシグナルが、δC 97−157付近に二重結合もしくは芳香環由来のシグナルが、δC 46.2にメチレン基由来のシグナルが観測された。さらにH−H COSY,HMQC、HMBCスペクトルの解析により非対称型ビスインドール骨格を導き、化合物1はstaurosporinoneの6位にヒドロキシ基が結合した化合物であると推定した。またNOESY相関によりδH 5.02(H−9')とδH 8.00(H−4')およびδH 7.27(H−5')に相関が観測されたことから、ヒドロキシ基は6位に結合していることが明らかとなった。以上のことから化合物1の構造を下記式に示すものと推定した。なお図4にH−H COSY、HMQC、HMBCスペクトルにより得られた相関データを示しておく。
【化3】

【表2】

【0020】
(2−2)5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンAの構造
一方化合物2は黄色い粉末として得られた。高分解能FABMSにより[M]と推測されるm/z 357.0762のイオンピークを示したことからその分子式をC2011と決定した。
【0021】
またUVスペクトル及びIRスペクトルについても測定を行ったところ、UVスペクトルにおいては波長230nmにおいてε37834、波長284nmにおいてε18863、波長330nmにおいてε36981の値を示し(図5参照)、IRスペクトルにおいては3307、1733、1627、1565、1475、1404、1320cm−1においてそれぞれ吸収ピークが観測された(表1参照)。
【0022】
また、重アセトン(acetone−d)中のHおよび13C NMRデータ(表2参照)から、化合物2も化合物1同様に、非対称型ビスインドールであることが示唆され、二次元NMR(H−H COSY、HMQC、HMBC)より、acyriaflavin Aの5位および6位にヒドロキシ基がそれぞれ結合していることが明らかとなった。以上のことから化合物2の構造は下記式に示すものと推定した。なお図6にH NMRのスペクトルを、図7にH−H COSY、HMQC、HMBCスペクトルにより得られた相関データを示しておく。
【化4】

【0023】
(3)細胞毒性
パルビフロレンHおよびパルビフロレンIのHeLa細胞に対する細胞毒性を調べたところ、IC50値は,各々5.4 および 2.1 μg/mLであった。これにより、上記物質は新規細胞毒性物質(治療薬)としての有用性が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】6−ヒドロキシスタウロスポリノン及び5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンAの抽出における一連のスキームを示す図。
【図2】6−ヒドロキシスタウロスポリノンのUVスペクトル。
【図3】6−ヒドロキシスタウロスポリノンのH NMRスペクトル。
【図4】6−ヒドロキシスタウロスポリノンのH−1H COSY、HMQC、HMBCスペクトルにより得られた相関データを示す図。
【図5】5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンAのUVスペクトル。
【図6】5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンAのH NMRスペクトル。
【図7】5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンAのH−1H COSY、HMQC、HMBCスペクトルにより得られた相関データを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)式で示されることを特徴とする6−ヒドロキシスタウロスポリノン
【化1】

【請求項2】
下記(2)式で示されることを特徴とする5,6−ジヒドロキシアルキリアフラビンA
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−256984(P2006−256984A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74068(P2005−74068)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】