説明

ALCパネルの表面処理装置

【課題】例えば建築物の外壁材等として用いられるALC(軽量気泡コンクリート)パネルの表面処理装置、特に緊張固定されたワイヤで切断されたALCパネル表面に残存する粉およびパネル同士が擦れ合うことで生じる粉の量を極力低減できるようにする。
【解決手段】未養生のALCを所定の張力で緊張させたワイヤでパネル状に切断する際に生じたALCパネル表面の凹凸を均すための表面処理装置1であって、無限軌道体9上に連続的に配置したブラシ10を、上記無限軌道体9とともに上記ワイヤでパネル状に切断する際のワイヤ緊張方向と略平行な方向に走行させながら養生後のALCパネル表面を研削してパネル表面の凹凸を均すことを特徴とする。上記の表面処理装置には必要に応じて上記ブラシでALCパネル表面を研削する際に生じる研削粉を吸引除去するための真空吸引装置等の集塵装置6を備えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば建築物の外壁材などとして用いられるALC(軽量気泡コンクリート)パネルの表面処理装置に関する。更に詳しくは、ALCパネルの移動時などにパネル表面に発生する粉を極力少なくするための表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ALCパネルは、一般に、けい石、生石灰、セメントなどを主成分とするALC原料スラリーに、発泡剤としてアルミ粉末を添加して型枠内に注入し、発泡・硬化して半硬化状態となったALCブロックを型枠から取出して、所定の張力で緊張させたピアノ線等の切断用ワイヤで所定の大きさのパネル状に切断する。次いで、その切断された半硬化状態のALCパネルをオートクレーブ等で養生した後、適宜表面加工等を施して製品化される。
【0003】
このようにして製造されたALCパネルの表面には、上記ワイヤ、特に緊張固定したワイヤでパネル状に切断する際に微細な凹凸が生じ、その凸部は通常先端が尖った先鋭なケバ状となる。このケバ状の凸部は、養生後にパネルを移動する等のパネル取扱い時にパネル同士が擦れ合うことで崩れて粉となる。このようにしてALCパネル表面に発生した粉は、風で飛散して周囲を汚すだけでなく、パネル施工時などには作業者に降りかかるなどして作業環境や施工能率を低下させる原因になっていた。
【0004】
そこで、下記特許文献1においては、ALCパネルのパネル表面をブラシで研削することで、粉の発生の少ないALCパネルを得る方法が提案されている。具体的には、例えばロール状またはディスク状の回転ブラシでALCパネル表面を研削し、必要に応じて真空吸引装置等の集塵装置でALCパネル表面に残った粉を集塵することで、粉の発生が少ないALCパネルを得るものである。また上記ブラシには、紙ヤスリ等のシート状のヤスリを挟み込むことによって、研削効果を高めることも提案されている。
【0005】
しかしながら、上記回転ブラシの回転方向は、パネルの移動方向と同一または逆方向であるため、以下のような問題点がある。その問題点を説明するにあたり、先ず、前記のワイヤで切断した際に生じるALCパネル表面の微細な凹凸の性状と、一般的なALCパネルの処理方法について詳述する。
【0006】
上記のALCパネル表面の微細な凹凸は、オートクレーブ等で加熱養生する前の未養生のALCブロックを、所定の張力で緊張させたワイヤで切断する際に、そのワイヤの緊張方向、すなわちワイヤ長手方向に対して平行な縞模様となって生じ、ワイヤの緊張方向と垂直方向、即ちパネル切断時のパネルとワイヤの相対移動方向には凹凸が生じる。
【0007】
図5は上記の相対移動方向と平行な方向でパネルPを切断したときのパネル表面の拡大図であり、パネル表面には微細な凹凸Pa,Pbが生じ、その凸部Paは先端が尖った先鋭なケバ状を呈している。又そのケバ状の凸部Paの先端は、切断時のパネルに対するワイヤの相対移動方向とは逆方向に(図の場合は右方)に傾斜しており、統一した方向性を持っている。
【0008】
一方、ALCパネルの表面処理装置は、一般にALCパネルの加工装置に設置され、多くのALCパネルの製造工場における加工装置のレイアウトでは、ALCパネルは、その長手方向である前記の相対移動方向(図5で左右方向)に搬送されつつ表面処理が施される。そのため、前記特許文献1のように回転ブラシの回転方向を、パネルの移動方向、すなわちパネル搬送方向と同一または逆方向とすると、パネル表面での回転ブラシとパネルとの相対移動方向は、前記パネル切断時のワイヤとALCブロックとの相対移動方向(図5で左右方向)と同一または逆方向となり、上記切断時のワイヤの緊張方向、すなわちワイヤ長手方向とは、ほぼ直角方向となる。
【0009】
従って、例えばロール状の回転ブラシBを、その中心軸線がALCパネルPの搬送方向とほぼ直角になるように配置し、その回転ブラシBに向かってALCパネルPを送り込む際に、そのブラシBとパネルPとの接触位置においてブラシ先端が回動する方向とパネルPのケバ状凸部Paの先端が向いている方向とが図5のように逆の場合には上記ブラシ先端はケバ状凸部Paの先端に向かって回動することとなる。
【0010】
その結果、上記凸部PaがブラシBで除去される際、そのブラシBによる破壊作用がケバ状凸部Paの根本まで到達して同図波線示のようにALCパネル表面に無数の窪みを生ずるおそれがある。それはブラシの回転による破壊作用が凸部Pa全体に作用し、その凸部Paがパネルから剥離される際にパネル表面の一部まで剥ぎ取られるためである。この剥ぎ取られた窪みは、パネルの外観を低下させるだけでなく、仕上げ塗装を施す場合には塗料の塗付量が増加したり、塗装ムラ等が生じる原因となり、経済的および品質的に問題となる。
【0011】
一方、前記図6のようにブラシ先端が、ケバ状の凸部Paの先端が向いている方向に移動する場合には、上記ブラシBによる上記凸部Paの研削量が少なく、その研削された凸部Paの一部Pa’が、残るパネル表面の微細な凹凸の谷部(凹部)に入り込んで、その除去が困難となる等の問題がある。また図6のように凹凸の向いている方向とブラシの回転方向とが同方向であると、凹凸の谷部に入り込んだ研削紛等はブラシで排出しようとしても、残った凸部に邪魔されて排出することができず、結果として粉がパネル表面に残存することとなる。
【0012】
また前記特許文献1(特に段落[0017])にも記載されているように、パネルの移動方向と回転ブラシの回転方向とが同一の場合は、研削された粉がパネル上に残存し易く、より強力な集塵装置を必要とする。一方、パネルの移動方向と回転ブラシの回転方向とが逆の場合は、研削された粉がパネル表面に残る量は少ないが、ブラシの後方に多くの粉が集まり、ブラシがパネルを通過した後に下方に落下する。その落下する粉は周囲に飛散しないように集塵装置等で収集する必要があり、その場合、少なくともブラシと研削面の接線長さ分の範囲にわたってブラシの回転方向の広範囲にわたる集塵装置が必要となる。これは、集塵口が大きくなることとなり、集塵効率の面からも好ましくない。
【0013】
さらにディスク状の回転ブラシを用いる場合にも、パネル処理面に対して回転運動するので、凹凸の形成方向とブラシの回転方向が同じとなる範囲が生じ、前記と同様に凹部に粉が溜まるおそれがある。またディスク状ブラシの場合、ディスクの回転により全方位に粉が飛散する。その飛散した粉は研削処理面に堆積してしまうため、それを吸引除去するにはディスク全体を覆うような大型の集塵装置が必要となる。
【0014】
またロール状もしくはディスク状の回転ブラシを用いてALCパネル表面を研削する方法では、多種のALCパネルを処理する過程で処理頻度の高い種類のパネル形状、幅、長さに合わせてブラシが偏磨耗してしまい、その他のパネルを処理する場合に、ブラシとALCパネル面とが接しない部分が生じるおそれがあり、ブラシの磨耗状況の管理が煩雑となる等の不具合がある。
【0015】
【特許文献1】特開平5−278020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、多くのALCパネルの製造工場等で採用されているピアノ線等の切断用ワイヤ、特に緊張固定されたワイヤで切断されたALCパネル表面に発生する粉の問題を解消すること、特にALCパネル表面に残存する粉およびパネル同士が擦れ合うことで生じる粉が非常に少なく、ブラシの偏磨耗を抑えて設備管理を簡便にし、研削紛の飛散を抑え、且つ省スペースであるALCパネルの表面処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために本発明によるALCパネルの表面処理装置は、以下の構成としたものである。即ち、未養生のALCブロックを所定の張力で緊張させたワイヤでパネル状に切断する際に生じたALCパネル表面の凹凸を研削するための表面処理装置であって、無限軌道体上に配置したブラシを、上記ALCパネルに対して上記ワイヤでパネル状に切断した際のワイヤ緊張方向と略平行な方向に走行させながら養生後のALCパネル表面を研削することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
上記のように無限軌道体上のブラシを、無限軌道体とともにワイヤ緊張方向と略平行な方向に走行させながら養生後のALCパネル表面を研削するようにしたので、ケバ状の凸部に対しては、その凸部の先端が向いている方向に対して横方向からブラシが作用し、ケバ状凸部の根本まで破壊作用が伝わらず、パネル表面を均すようにして研削するので窪みを生ずることはない。また、ALCパネル表面の微細な凹凸に邪魔されることなく、研削粉が円滑に排出される。
【0019】
また、研削紛の飛散方向が一方向に限られるので、研削紛の飛散方向が1箇所に限定される。つまり、前記飛散方向が処理するALCパネル表面以外となるように配置すれば研削紛が処理面に再堆積しないため、研削面への真空吸引を行なわなくても良い。さらに、本発明においては、その構成上、ブラシはその先端全面において均等に研削面に接するので、ブラシの偏磨耗が発生しない。
【0020】
さらに、多くの工場ではALCパネルは前記凹凸の形成方向に搬送されつつ処理され、その搬送方向はパネルの長さ方向となる。つまり、本発明のALCパネル表面処理方法によれば、ブラシはパネルの幅方向と平行に走行することとなり、装置の少スペース化が可能であり、特に一般的にALCパネルの表面処理装置が設置されるALCパネルの加工装置の配置スペースを増加させることなく設置が可能となり、既存の加工設備への導入も簡単に行なえ、且つ設備投資も少なく経済的である。
【0021】
なお、上記ブラシを配置した無限軌道体を上下一対設け、その両無限軌道体間に、研削すべきALCパネルを移動搬送するようにしてもよく、そのようにするとALCパネルの1回の搬送工程でパネル両面を同時かつ容易・迅速に研削することができる。また上記ブラシの接触圧で上記ALCパネルが浮き上がるのを防止するパネル抑え手段を必要に応じて設けるようにしてもよく、そのようにすると、パネル面へのブラシの当て付け量や接触圧が一定し、より一層安定した研削効果を発揮させることが可能となる。
【0022】
さらに上記無限軌道体を上記ALCパネルの表面に対して接離する方向に移動可能に構成すると、上記無限軌道体に設けたブラシのパネル表面側への進入深さや接触圧を適宜調整できると共に、厚さの異なる複数種類のパネルを研削することが可能となる。また上記無限軌道体に所定の張力を付与する張力付与手段を設けると共に、上記上記無限軌道体をALCパネルの表面とほぼ平行な方向に案内するガイド部材を設けると、無限軌道体のたるみを防止して、走行するブラシをALCパネル表面と略平行な方向に略均一な接触圧力で当て付けることが出来るので、ブラシ走行方向のALCパネル全面に渡って安定した研削効果を発揮することができる。
【0023】
また上記の表面処理装置には、前記ブラシでALCパネル表面を研削する際に生じる研削粉を吸引除去するための真空吸引装置等の集塵装置を必要に応じて設けることができ、その場合、上記集塵装置の集塵口を、上記ブラシがALCパネル表面を研削する際のブラシ走行方向前側に向かって常時開口させるようにすると、飛散方向が一方向に限られる研削紛を効率的に吸引除去することができる。また上記集塵装置の配置箇所は、1つの無限軌道体もしくは上下一対の無限軌道体に対して少なくとも1箇所でよく、最小限の設備投資で充分な吸引除去効果が得られ、作業環境の改善および集塵効率の向上に効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を図に示す実施形態に基づいて具体的に説明する。図1は本発明によるALCパネルの表面処理装置の一実施形態を示す概略構成の斜視図、、図2は上記の表面処理装置で用いたブラシ装置の拡大正面図、図3(a)はその表面処理装置の具体的な構成例を示す正面図、同図(b)はその側面図、図4は図2(a)におけるA−A拡大断面図である。
【0025】
本実施形態の表面処理装置1は、養生後のALCパネルPを搬送するコンベア2内に設けたもので、上記コンベア2として本実施形態においては図1および図3に示すように多数の搬送ローラ3をパネル搬送方向(図1で手前方向、図3(b)で矢印方句)に所定の間隔をおいて略平行に且つ回転可能に配置してなるローラコンベアが用いられている。
【0026】
なお、上記ALCパネルPの製造過程での前記切断用ワイヤによる切断方向や上記コンベア2による搬送方向等は適宜であるが、本実施形態においては、図には省略したが、上記パネルPの幅方向(図1で左右方向、)に所定の張力で緊張状態に張設して固定した切断用ワイヤ(不図示)により、そのワイヤと上記ALCパネルとを該パネルの長手方向に相対移動させて所定の厚さに切断したもので、図1および図3はその際の切断面を上下にして上記パネルPをその長手方向に搬送する構成である。
【0027】
前記の表面処理装置1は、図1に示すように前記コンベア2で搬送されるALCパネルPの上下両面に配置した一対のブラシ装置5・5と、その各ブラシ装置5で発生する切削粉を吸引除去するための真空吸引装置等の集塵装置6などからなり、上記各ブラシ装置5は、図2に示すように左右一対のスプロケット8・8に懸回したチェーン等の無限軌道体9上に多数のブラシ10を所定の間隔をおいて連続的に配置した構成である。図中、13は上記無限軌道体9に所定の張力を付与するエアシリンダ等の張力付与手段、14は上記上記無限軌道体をALCパネルPの表面とほぼ平行な方向に案内するガイド部材である。
【0028】
上記各ブラシ10は図の場合はスチールワイヤや樹脂製ワイヤ等の多数の線材11をホルダ等で1つの束にまとめたものをアタッチメント12を介して上記無限軌道体9の外周面に取付けた構成であるが、その構成は適宜変更可能であり、例えば上記の無限軌道体9としてゴムベルトやワイヤ等を用いたり、その無限軌道体9上にブラシを構成する線材11を直接植え付けたベルト状のブラシでもよい。
【0029】
また上記ブラシ10の材質としては、上記のようなスチールワイヤや樹脂製ワイヤなどの線材11を用いた種々のブラシを使用することができる。それらの線材11がALCパネル表面の微細な凹凸に入り込んで良好な粉の排出を行なうには、上記線材11の直径は0.1mm〜2.0mm程度のものが好ましい。直径が0.1mm以下であるとブラシが柔らかくなり、微細な凹凸を研削する効果が減少してしまい、2.0mm以上であると、前記凹凸に入らなくなり、良好な粉の排出ができなくなるおそれがあるからである。
【0030】
前記各ブラシ装置5は、それぞれ図3および図4に示すように前記コンベア2で搬送されるALCパネルPとの対向面側が開口した略箱状のケース15a・15b内に収容配置され、その各ケース15a・15bは、図3(a)に示すように方形枠状のフレーム20の縦辺21に設けたガイドレール23に沿って上下動可能である。特に図の場合は上記各ケース15a・15bを、その両端部に設けたスライダ16を介して上記ガイドレール23に沿って各々独立に上下動可能に構成したもので、それによって上記各ケース15a・15bは、その各ケース内のブラシ装置5とともに、両ブラシ装置5・5間を通るALCパネルPの表面に対して接離する方向に移動可能である。
【0031】
また上記各ケース15a・15bには、それらをブラシ装置5ともに上記パネル表面に対して接離する方向に移動(昇降)させるための駆動手段が設けられており、その駆動手段の構成は適宜であるが、図の場合は上側のケース15aの駆動手段としてねじ棒25と、そのねじ棒を上下動させるモータ26等を設けたもので、そのモータ26の回転で横軸27a,27b等を介して図に省略した雌ねじ部材が回転し、その雌ねじ部材とかみ合う上記ねじ棒25が筒状のカバー28内を上下動することによって、該ねじ棒25の下端に連結した上側のケース15aが昇降する構成である。また下側のケース15の駆動手段としてはエアシリンダ29を用いたもので、そのエアシリンダ29は前記フレーム20の下側の横辺22b上に載置固定され、そのエアシリンダ29のピストンロッド29aにより下側のケース15を昇降させる構成である。
【0032】
また前記集塵装置6は、上側のケース15aの下側と、下側のケース15bの上側とに設けたもので、その各集塵装置6には、図に省略したモータ等の原動機で回転駆動される空気吸引ファンが内蔵され、そのファンの回転で各集塵装置6の集塵口6aから空気とともに上記の粉を吸引除去する構成である。また上記各集塵装置6の各集塵口6aは上記各ケース15a・15b内のブラシ装置5におけるブラシ10のパネル側での走行方向前側に向かって開口している。
【0033】
なお、本実施形態の表面処理装置1には、上記ブラシ10のALCパネルPに対する接触圧で該パネルが浮き上がるのを防止するためのパネル抑え手段30が設けられている。そのパネル抑え手段30は、図の場合は前記図3(a)のフレーム20の前後両側に、それぞれ同図(b)に示すようにピンチローラ31を配置したもので、その各ピンチローラ31はそれぞれ軸受部材32に回転自由に配置され、上記フレーム20にブラケット33を介して取付けた一対のエアシリンダ34により上記各軸受部材32を介して各ピンチローラ31をパネルPの表面に押し付けることによって該パネルPの浮き上がりを防ぐ構成である。
【0034】
上記のように構成された表面処理装置1により、コンベア2で搬送されるALCパネルをブラシ装置5で研削するに当たっては、前記各ブラシ装置5の一対のスプロケット8・8のいずれか一方を図に省略したモータ等の原動機で駆動することによって、無限軌道体9を回動し、それによってブラシ10を同方向に走行させてパネルPの表面を研削するものである。
【0035】
この場合、上記ブラシ10の走行方向は、前述のようにALCパネルPを切断用ワイヤで切断した際の該ワイヤの緊張方向(ワイヤ長手方向)とほぼ平行な方向に走行させるもので、本実施形態においては前述のようにパネル幅方向(図1で矢印a方向)に走行するように構成されている。また図示例の各ブラシ装置5における両スプロケット8・8の間隔はALCパネルPの幅寸法よりも広く形成され、それによって無限軌道体9上に設けたブラシがALCパネルPの幅方向全長にわたって走行するように構成されている。
【0036】
上記のようにブラシ10の走行方向を、切断用ワイヤの緊張方向とほぼ平行な方向としたことにより、切断時に生じる微細な凹凸は、前記のように切断用ワイヤとパネルとの相対移動方向、本実施形態においてはパネル長手方向に形成されるが、前記ブラシ10を上記ワイヤの緊張方向とほぼ平行な方向、本実施形態においては略パネル幅方向に走行させるようにしたので、前記従来のようにケバ状の凸部が根本から大きく欠けて窪みが生じたり、あるいは凸部の先端が小さく欠けて、その欠けた粉が凹凸に隠れて残留するようなことなく、ケバ状の凹凸がその突出方向とほぼ直角方向にブラシ10で良好に研削されて平らに均すことができると共に、研削時に発生した粉は凹凸内に溜まることなく良好に排除することができるものである。
【0037】
なお上記実施形態のように上記無限軌道体に所定の張力を付与するエアシリンダ等の張力付与手段13を設けると共に、上記上記無限軌道体をALCパネルの表面とほぼ平行な方向に案内するガイド部材14を設けると、無限軌道体9の回動運動による遠心力で該軌道体が外方に膨らんだり振れるのを抑えることが可能となり、ALCパネルPの表面にブラシ10を安定性よく当て付けることができる。その結果、前記のようなケバ状の凹凸を良好に研削することが可能となる。
【0038】
また上記実施形態のようにピンチローラ31等のパネル抑え手段30でパネル表面を押圧すると、上記ブラシ10のALCパネルPに対する接触圧で該パネルPが上方に浮き上がるのを良好に防止することができると共に、上記パネルPの進行方位に対する左右のブレ等を予防することが可能となる。その結果、ALCパネルPへのブラシ10の当て付け量や接触圧を一定に保つことができるので、ケバ状の凹凸を更に良好に研削することが可能となる。
【0039】
さらに、前記のような無限軌道体9上にブラシ10を配置してなるブラシ装置5を上記ALCパネルPの表面に対して接離する方向に移動可能に構成すれば、ALCパネルPへのブラシ10の当て付け量や接触圧を容易に調整できると共に、上記パネルPの走行を一時的に停止させた場合などに、研削のし過ぎを防止するために上記ブラシ装置5をパネルから離間する方向に退避動作させることが可能となる。さらに上記実施形態のようにパネルの上下両側にブラシ装置5を設けるものにあっては、そのいずれか一方、特に上側のブラシ装置、または両方のブラシ装置を移動可能に構成することで、厚みの異なる種々のALCパネルPを同一装置で表面処理することができるので経済的である。
【0040】
なお、上記の構成において、ALCパネルPの搬送速度に対するブラシ10の走行速度の比(ブラシ10の走行速度÷ALCパネルPの搬送速度)は、3〜10となるように調整することが望ましい。一般に、多くのALCパネルの製造工場では、加工機でのALCパネルの搬送速度は10m/min〜50m/minであり、上記の速度比が3未満であると、ALCパネルPの搬送速度が速すぎて、ブラシ10の進行方向がオートクレーブ未養生のALCをワイヤで切断することで生じる凹凸を、オートクレーブ養生後のALCパネル面に対して前記緊張方向と平行となる方向とはならなくなり、良好な粉の排出が困難になる。また上記の速度比を10以上にしても効果はあまり変わらないため経済的でないからである。
【0041】
上記のようにしてブラシ装置5における無限軌道体9上のブラシ10を走行させてALCパネルPの表面を研削すると、その研削時に発生する粉(切削粉)は上記ブラシ10と共にその走行方向、図の場合はパネル幅方向に移送されるが、その方向に上記実施形態のように真空吸引装置等の集塵装置6を配置すれば上記の切削粉を容易に除去することができる。特に図の場合は前記のようにコンベア2で搬送されるALCパネルの上下両側にブラシ装置5を配置し、その各ブラシ装置5におけるブラシ10のパネル側での走行方向前側に向かって上記各集塵装置6の集塵口6aを開口させるようにしたから上記切削粉を極めて効率よく除去できるものである。
【0042】
なお、上記実施形態はコンベア2で搬送されるALCパネルの上下両面にブラシ装置5を配置し、その各ブラシ装置5に対応して集塵装置6を設けたが、共通1個の集塵装置6で上記両ブラシ装置5で排出される切削粉を吸引除去するようにしてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、上記のALCパネルの表面処理装置を用いてALCパネルを製造した場合の具体的な実施例について説明する。
【0044】
〔実施例1〕
前記図1〜図4のブラシ装置5におけるブラシ10を構成する線材11として、直径約0.25mmのスチールワイヤを用い、そのブラシ10の無限軌道体9と略平行な方向の厚みを30mm、ブラシ幅(図2で図の面と直角方向の幅)を60mm、ブラシ長さ(線材11の長さ)を40mmとした。そのブラシ10をチェーンよりなる無限軌道体9の外側全周に約76mm間隔で連続的に取付けた。
【0045】
処理対象となるALCパネルPとしては、その切断用ワイヤとして直径0.8mmのピアノ線を所定の張力で緊張させ且つ固定した状態でALCブロックを相対移動させて、パネル状に切断した後にオートクレーブで加熱養生して、パネル厚さ100mm、パネル幅600mm、パネル長さ1800mmに形成したものを用いた。
【0046】
上記ALCパネルPに対して、ブラシ先端とALCパネル処理面との位置関係は、ブラシ先端の押付け量が1mmとなるように調整した。そして上記無端軌道体9を図に省略した原動機により回転させてブラシ10をパネル表面に沿って走行させ、そのブラシ10の走行速度をインバーターを用いて120m/minに調整し、ALCパネルPを、その長手方向に30m/minの速度でブラシ装置5およびケース15a・15bに対して相対移動させた。なお、ブラシ走行速度は最大で約72m/minとなり、ブラシ速度/パネル搬送速度=4.0となった。
【0047】
以上の条件でパネル表面を処理したALCパネルを積層し、施工現場を想定して最上段のパネルを幅方向にパネル幅分ずらして、生じた粉の重量を計測した。なお、採取した粉は単位面積当たりの重量(g/m )に換算した。その結果、4g/m の粉が得られた。また、前記ブラシによってパネル表面を処理した際に生じた研削紛はそのほとんどが真空吸引され、周囲に飛散することはなかった。
【0048】
〔比較例1〕
上記実施例1に対する比較例として、上記実施例1と同じ条件で製作されたALCパネルを、直径0.25mmのスチールワイヤで構成された直径300mmの円筒状ブラシ(直径220mmの円柱形状のローラに、ブラシ部分長さ40mmのブラシが取付けられている)で表面を研削した。
【0049】
従来技術にならい、上記ALCパネルに対して円筒状ブラシを、その回転軸が、未養生のALCブロックを2点間で緊張支持した固定ワイヤで切断した際のワイヤ緊張方向と平行となるように、養生後のALCパネルの表裏両面に配置した。すなわち本例では、パネル幅方向と円筒状ブラシの軸方向が平行となるように配置した。またブラシの回転方向は、パネルと接する位置でのブラシ先端の回動方向がケバ状凸部の先端が向いている方向と逆となるようにした。なお、ブラシ先端とALCパネル処理面との位置関係は、ブラシ先端の押付け量が約1mmとなるように調整した。
【0050】
そして上記の円筒状ブラシを100rpmの条件で回転させ、ALCパネルを20m/minの速度で相対させた(ブラシ先端の走行速度は最大で94.2m/minとなり、ブラシ速度/パネル移動速度=4.7となる)。上記の条件で表面を処理したALCパネルに対して、実施例1と同じ方法で粉の量を評価した。その結果、15gの粉が得られた。また処理後のパネル表面には、無数のケバ状凸部が剥がされた凹凸が形成されていた。さらに前記円筒状ブラシの回転方向前後に集塵装置の集塵口を配置していたにも関わらず、研削紛が周囲に飛散し、且つ少量が研削面に堆積した。
【0051】
以上の対比から明らかなように、本発明による上記実施例1で表面処理されたALCパネルから出る粉の量は、従来例による比較例1の場合よりも大幅に低減され、表面処理後のパネル表面の性状も良好であり、粉の飛散も非常に少ないことが分かった。また本発明に基づいて集塵装置を配置することで表面処理時に発生する粉を良好に吸引除去できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明によるALCパネルの表面処理装置によれば、ワイヤで切断する際にパネル表面に生じる微細な凹凸を良好に除去してパネル表面をより平坦に均すことができる。またパネルの種類の如何に拘わらず長期間安定かつ良好に表面処理できるので、この種のパネルの表面処理装置として有効適切である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明によるALCパネルの表面処理装置の一実施形態を示す概略構成の斜視図。
【図2】上記の表面処理装置で用いたブラシ装置の拡大正面図。
【図3】(a)は本発明によるALCパネルの表面処理装置の具体的な実施形態の一例を示す正面図、(b)はその側面図。
【図4】図3(a)におけるA−A断面図。
【図5】従来のALCパネル表面処理状態の一例を示す説明図。
【図6】従来のALCパネル表面処理状態の他の例を示す説明図。
【符号の説明】
【0054】
P ALCパネル
1 表面処理装置
2 コンベア
3 搬送ローラ
5 ブラシ装置
6 集塵装置
6a 集塵口
8 スプロケット
9 無限軌道体
10 ブラシ
11 線材
12 アタッチメント
13 張力付与手段
14 ガイド部材
15a、15b ケース
16 スライダ
20 フレーム
21 縦辺
22a、22b 横辺
23 ガイドレール
25 ねじ棒
26 モータ
27a、27b 横軸
28 カバー
29 エアシリンダ
30 パネル抑え手段
31 ピンチローラ
32 軸受部材
33 ブラケット
34 エアシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未養生のALCを所定の張力で緊張させたワイヤでパネル状に切断する際に生じたALCパネル表面の凹凸を研削するための表面処理装置であって、無限軌道体上に配置したブラシを、上記ALCパネルに対して上記ワイヤでパネル状に切断した際のワイヤ緊張方向と略平行な方向に走行させながら養生後のALCパネル表面を研削することを特徴とするALCパネルの表面処理装置。
【請求項2】
上記ブラシを配置した無限軌道体を上下一対設け、その両無限軌道体間に、研削すべきALCパネルを移動搬送するようにした請求項1に記載のALCパネルの表面処理装置。
【請求項3】
上記ブラシの接触圧で上記ALCパネルが浮き上がるのを防止するパネル抑え手段を設けた請求項1または2に記載のALCパネルの表面処理装置。
【請求項4】
上記無限軌道体を上記ALCパネルの表面に対して接離する方向に移動可能に構成してなる請求項1〜3のいずれかに記載のALCパネルの表面処理装置。
【請求項5】
上記無限軌道体に所定の張力を付与する張力付与手段を設けると共に、上記上記無限軌道体をALCパネルの表面とほぼ平行な方向に案内するガイド部材を設けた請求項1〜4のいずれかに記載のALCパネルの表面処理装置。
【請求項6】
上記ブラシでALCパネル表面を研削する際に生じる研削粉を吸引除去するための集塵装置を備え、その集塵装置の集塵口を、上記ブラシがALCパネル表面を研削する際のブラシ走行方向前側に向かって常時開口させるようにした請求項1記載のALCパネルの表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−83702(P2007−83702A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38830(P2006−38830)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】