ATMタンパク又はその発現ベクターを含有する脂肪細胞分化促進剤
【課題】脂肪細胞の分化に関与する新規な分化制御因子の提供。
【解決手段】配列番号1に示すATMタンパク又は脂肪細胞分化誘導活性を有するATMタンパク誘導体を含有する脂肪細胞分化促進剤、及び前記ATMタンパク又は前記ATMタンパク誘導体を発現可能な発現ベクターを含有する脂肪細胞分化促進剤を提供する。この脂肪細胞分化促進剤は、肥満あるいは、糖尿病、動脈硬化症、高脂血症、心臓病、血管障害、痛風、脂肪肝、胆石、膵臓炎、変形性関節症、ヘルニアなどの肥満が関連する疾患を予防、改善又は治療するための医薬組成物、化粧料組成物及び食品組成物に有効成分として含有され得る。
【解決手段】配列番号1に示すATMタンパク又は脂肪細胞分化誘導活性を有するATMタンパク誘導体を含有する脂肪細胞分化促進剤、及び前記ATMタンパク又は前記ATMタンパク誘導体を発現可能な発現ベクターを含有する脂肪細胞分化促進剤を提供する。この脂肪細胞分化促進剤は、肥満あるいは、糖尿病、動脈硬化症、高脂血症、心臓病、血管障害、痛風、脂肪肝、胆石、膵臓炎、変形性関節症、ヘルニアなどの肥満が関連する疾患を予防、改善又は治療するための医薬組成物、化粧料組成物及び食品組成物に有効成分として含有され得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ATMタンパク、又は脂肪細胞分化促進作用を有するATMタンパク誘導体を含有する脂肪細胞分化促進剤、及びこれらを発現可能な発現ベクターを含有する脂肪細胞分化促進剤に関する。さらには、この脂肪細胞分化促進剤を含有する医薬組成物等、及びATMタンパク等を用いた脂肪細胞分化促進剤又は阻害剤のスクリーニング方法、並びにATMタンパク又はATM遺伝子に基づく疾患発症リスクの評価方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、糖尿病や高脂血症、動脈硬化症などの生活習慣病が先進国を中心に大きな問題となっている。その背景には過剰のエネルギー摂取による肥満がある。
【0003】
肥満は過剰なエネルギーが脂肪細胞に蓄積され、脂肪細胞が肥大化し、脂肪組織が過度に増えた状態ということができる。肥満は、上記の三大生活習慣病の他、心臓病(狭心症、心筋梗塞、心肥大、心不全等)や血管障害(高血圧症、脳血栓、脳梗塞等)、痛風、脂肪肝、胆石、膵臓炎、変形性関節症、ヘルニア等の重大なリスクファクターとなっている。
【0004】
これら肥満が関連する疾患の発症メカニズムにおいて、近年、脂肪組織の役割が注目されてきている。成熟した脂肪細胞は様々なアディポカインを分泌し、生体の恒常性の維持に重要な役割を果たしていることが明らかにされた。脂肪細胞が分泌するアディポカインのうち、特にアディポネクチンやレプチンは、個体のインスリン感受性を規定する上で非常に重要である。
【0005】
脂肪細胞は適切な分化状態にあることがその機能を発揮する上で重要であり、個体の過栄養などの要因により肥大化した大型脂肪細胞は、TNFαやレジスチンなどのインスリン抵抗性分子を分泌し、インスリン抵抗性を惹起することが知られている。また、脂肪細胞の発達に障害がある脂肪萎縮性糖尿病が知られ、脂肪細胞への適切な分化がないと、インスリン抵抗性に対し抑制的に働くアディポネクチンなどが分泌されず、2型糖尿病を発症することが知られている。
【0006】
さらに、脂肪細胞はその分化状態のみならず、脂肪組織の局在部位によっても異なった機能を有している。近年、社会的に認知されてきているメタボリック症候群に知られるように、皮下脂肪組織に比べ内臓脂肪組織が増加することが、インスリン抵抗性の発現や肥満に関連した疾患の発症に深く関与していることが明らかにされている。
【0007】
従って、脂肪細胞の分化状態や脂肪組織の局在を制御し、これらを正常な状態に維持することは、肥満及肥満が関連する疾患の予防、改善、治療のため重要な課題となっている。
【0008】
現在まで、脂肪細胞分化のメカニズムを明らかにするため、分子レベルでの検討が数多くなされてきている。PPARγ(peroxisome proliferators-activated receptor γ)遺伝子は、脂肪細胞前駆細胞に発現する遺伝子として同定され(非特許文献1参照)、分化制御におけるマスターレギュレーターとして機能し、脂肪細胞内への脂肪蓄積にも関与していることが明らかにされた。
【0009】
また、ノックアウトマウスの解析により、C/EBP(CCAAT/enhancer binding protein)遺伝子ファミリーが、脂肪細胞の発生分化に関与する遺伝子として報告された。C/EBPα遺伝子のノックアウトマウス由来の脂肪細胞はインスリン抵抗性を示すことから、C/EBPαは脂肪細胞の最終分化段階におけるインスリン感受性の獲得に重要な役割を果たすものと考えられている。
【0010】
ここで、本発明に関連する「毛細血管拡張性運動失調症(Ataxia Telangiectasia: A-T)」について説明する。毛細血管拡張性運動失調症(以下「A-T」という)は、免疫不全、毛細血管拡張、小脳失調を主徴とする多形質発現性の遺伝的疾患である。
【0011】
A-Tの原因遺伝子である「ATM遺伝子」は、1995年にポジショナルクローニングによってヒト11番染色体に存在することが明らかとなった。ATM遺伝子は4つの相同的な遺伝子群からなり、A-T患者ではこれらの遺伝子に少なくとも1つの変異がみられている(非特許文献2参照)。
【0012】
ATM遺伝子は、3,056アミノ酸から構成される370kDのタンパク質であり、進化的に下等な動物から哺乳類に至るまで高度に保存されている。上記4つの遺伝子群は、各々PI-3キナーゼドメインに類似の構造を持ち、このドメイン同士の相同性が非常に高いことが知られている(非特許文献3参照)。ATM遺伝子は、PI3キナーゼドメインを有することから、シグナル伝達及び細胞周期の調節に重要な役割を果たすことが予想された。
【0013】
事実、A-T患者は発ガンのリスクが高いことが知られており、ATM遺伝子の変異に伴うA-T患者の細胞は、細胞周期のチェックポイントでの制御があまく、損傷を受けた細胞の増殖を容易に許容してしまうことが明らかにされている。
【0014】
特許文献1〜3には、A-T の原因遺伝子としてのATM遺伝子及びそのゲノム構成、その欠損遺伝子の検出方法、その欠損遺伝子によりコードされた精製ポリペプチド、及びその欠損タンパク質を認識する抗体等が開示されている。
【0015】
また、特許文献4には、ATM遺伝子における遺伝子変異を検出することにより、被験者が乳癌を発症する素因を有するかを決定するための検査方法が開示されている。
【0016】
なお、以上に挙げた文献において、ATM遺伝子と脂肪細胞分化に関する言及は一切なされていない。
【0017】
【特許文献1】特表平11−505125公報
【特許文献2】特表平11−506909公報
【特許文献3】特開2000−256400公報
【特許文献4】特表2004−521601公報
【非特許文献1】“Transcriptional control of adipocyteformation.” Cell Metabolism, 2006, Vol.4, No.4, p.2644-2273
【非特許文献2】“A single ataxia telagiectasia gene with a product similar to PI-3 kinase.” Science, 1995, Vol.268, No.5218, p.1749-1753
【非特許文献3】“The complete sequence of the coding region of the ATM gene reveals similarity to cell cycle regulators in different species.” Human Molecular Genetics, 1995, Vol.4, No.11, p.2025-2032
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
肥満及肥満が関連する疾患の予防、改善、治療のためには、脂肪細胞分化のメカニズムを明らかにし、脂肪細胞の分化状態や脂肪組織の局在を正常な状態に制御することが有効と考えられる。
【0019】
脂肪細胞は、中胚葉系間細胞に由来し、脂肪前駆細胞を経て分化する。この分化過程を制御し、さらには正常脂肪細胞から大型脂肪細胞への分化を制御することができれば、過度な脂肪細胞の増殖や脂肪組織の蓄積を抑制し、肥満を治療することが可能と考えられる。
【0020】
また、皮下脂肪組織又は内臓脂肪組織のみの分化を選択的に抑制したり、逆に促進したりすることができれば、内臓脂肪の増加に起因するインスリン抵抗性の発現を抑制し、肥満が関連する疾患の発症を予防することが可能と考えられる。
【0021】
そこで、本発明は、脂肪細胞の分化状態や脂肪組織の局在の制御を実現するため、脂肪細胞の分化に関与する新規な分化制御因子を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題解決のため、本発明は、配列番号1に示すATMタンパク又は脂肪細胞分化誘導活性を有するATMタンパク誘導体を含有する脂肪細胞分化促進剤、及び前記ATMタンパク又は前記ATMタンパク誘導体を発現可能な発現ベクターを含有する脂肪細胞分化促進剤を提供する。
この脂肪細胞分化促進剤は、肥満あるいは、糖尿病、動脈硬化症、高脂血症、心臓病、血管障害、痛風、脂肪肝、胆石、膵臓炎、変形性関節症、ヘルニアなどの肥満が関連する疾患を予防、改善又は治療するための医薬組成物、化粧料組成物及び食品組成物に有効成分として含有され得る。
【0023】
また、本発明は、前記ATMタンパク、又は前記ATMタンパク誘導体を用いることを特徴とする、脂肪細胞分化促進剤又は脂肪細胞分化阻害剤のスクリーニング方法を提供する。
【0024】
さらに、下記(1)又は(2)の工程を含む、肥満あるいは肥満が関連する疾患の発症リスク評価方法又は太りやすさの評価方法をも提供する。
(1)被験個体から採取した検体中の前記ATMタンパクの存在量又は配列番号2に示すATM遺伝子の発現量を測定する工程。
(2)被験個体について、前記ATM遺伝子の遺伝子多型又は変異を検出する工程。
【0025】
ここで、本発明において「太りやすさ」とは、脂肪細胞が過剰に蓄積した状態と定義される「肥満」への移行の起こり易さを意味するものとし、個体が過剰なエネルギーを摂取した際に、他の個体に比べて肥満になり易いかを示す指標と位置づけられるものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、新規な脂肪細胞の分化制御因子及びこれを含有する脂肪細胞分化促進剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明者らは、脂肪細胞の分化に関与する新規な分化制御因子を探索するにあたって、まず、上述の毛細血管拡張性運動失調症(A-T)に注目した。A-T患者は、免疫不全や毛細血管拡張、小脳失調の主徴に加えて、るい痩傾向が強く、脂肪組織貯蔵率が低いという特徴を呈することが知られている。本発明者らは、A-T患者におけるこれらの所見が、脂質/糖エネルギー代謝機構の障害に起因するものであると考えた。そして、ATM欠損マウス及びATM欠損細胞を用いたエネルギー代謝機構の解析を進める中で、ATMが脂肪細胞の分化誘導作用を有することを初めて見出すに至った。
【0028】
すなわち、ATM欠損マウスでは、ATMの欠損によって脂肪細胞の適切な分化が障害され、皮下脂肪組織と内臓脂肪組織のバランス不均衡となることで、アディポネクチン及びレプチン等のアディポカインの分泌が障害され、耐糖能異常とインスリン抵抗性が発現していることが明らかになった。また、ATM欠損細胞では、ATMの欠損によって成熟過程に必要なC/EBPα及びPPARγの発現が誘導されないことで、脂肪細胞への分化が阻害されていることが明らかになった。これらの結果は、ATMが脂肪細胞の分化誘導作用を有すること、またATMが脂肪細胞分化の分子メカニズムにおいてC/EBPα及びPPARγの上流で機能し、正常な成熟脂肪細胞の分化に必須の役割を担っていることを示すものである。
【0029】
(A)脂肪細胞分化促進剤
従って、本発明は、新規な脂肪細胞の分化制御因子として、配列番号1に示されるATMタンパクを提供し、これによりATMタンパク又は脂肪細胞分化誘導活性を有するATMタンパク誘導体を含有する脂肪細胞分化促進剤、及び前記ATMタンパク又は前記ATMタンパク誘導体を発現可能な発現ベクターを含有する脂肪細胞分化促進剤を提供するものである。
【0030】
(ATMタンパク誘導体)
ここで、本発明において「ATMタンパク誘導体」とは、配列番号1に示すATMタンパクと実質的に同一のアミノ酸配列を有し、脂肪細胞分化誘導活性を有するタンパク又はその塩を広く包含するものとする。
【0031】
配列番号1に示すATMタンパクと「実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク」としては、配列番号1で表わされるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパクが挙げられる。また、「脂肪細胞分化誘導活性を有するタンパク」とは、実質的にATMタンパクと同質の脂肪細胞分化誘導作用を有するタンパクであればよく、該作用についての活性が同等(例、約0.5〜2倍)であることが好ましいが、活性程度及びタンパクの分子量などの量的要素は異なっていてもよい。脂肪細胞分化誘導作用の活性の測定は、自体公知の方法に準じて行なうことができるが、例えば、本発明に係るスクリーニング方法の説明において後述する脂肪細胞分化促進活性の測定方法に従って測定することができる。
【0032】
また、配列番号1に示すATMタンパクと「実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク」には、配列番号1で表わされるアミノ酸配列中の1または2以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個)のアミノ酸を人為的に欠失、付加、置換、挿入したアミノ酸配列を有する改変タンパク質も含まれる。改変タンパクの一例として、強制的に脂肪細胞に取り込ませることを目的として、TAT配列を付加したATMタンパクが考えられる。
【0033】
ATMタンパク及びATMタンパク誘導体(以下「ATMタンパク等」ともいう)の塩としては、特に生理学的に許容される酸付加塩が含まれる。このような塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩がある。
【0034】
ATMタンパク等のC末端は、通常カルボキシル基(-COOH)またはカルボキシレート(-COO-)であるが、C末端がアミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)であってもよい。エステルにおけるRは、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルもしくはn−ブチルなどのC1-6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α−ナフチルなどのC6-12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル−C1-2アルキル基もしくはα−ナフチルメチルなどのα−ナフチル−C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基のほか、経口用エステルとして汎用されるピバロイルオキシメチルエステルなどであってよい。
【0035】
ATMタンパク等が、C末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明の範囲に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したエステルなどが用いられる。さらに、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成するN末端のグルタミン酸残基がピログルタミン化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上にある、例えばOH、COOH、NH2、SHなどが適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖タンパク質などの複合タンパク質なども本発明に含まれる。
【0036】
(ATMタンパクの取得方法及びATMタンパク発現ベクター)
ATMタンパクは、ヒトや動物の組織や細胞もしくは培養細胞から抽出・精製することにより得ることができる。ヒトや動物の組織又は細胞をホモジナイズした後、酸などで抽出を行ない、抽出液を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーで処理し、ATMタンパクを単離精製する。
【0037】
また、ATMタンパク及びATMタンパク誘導体は、公知の遺伝子工学的手法を用いて、組み換えタンパク質として精製することもできる。組換えタンパク質発現系は、目的タンパク質を大量に生産し、簡便かつ高純度に精製することができる手法として多用されている。
【0038】
具体的には、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、細胞や組織由来のcDNA、cDNAライブラリーなどからATM遺伝子に特異的なプライマーを用いてATM遺伝子cDNAを増幅する。あるいは、細胞や組織からtotalRNAまたはmRNAを抽出し、Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction(RT-PCR)によってATM遺伝子cDNAを増幅してもよい。増幅されたcDNAをベクターにクローニングし、ATM遺伝子を発現する発現ベクターを構築し、これを宿主細胞に導入してATMタンパク等を発現させる。
【0039】
この際、発現ベクターには、大腸菌由来や枯草菌由来、酵母由来のプラスミドや、バクテリオファージ、レトロウイルス,ワクシニアウイルス,バキュロウイルスなどの動物ウイルスなどが用いられる。プロモーターは、遺伝子発現に用いる宿主細胞に応じて適切なプロモーターを選択して使用する。宿主細胞としては、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などが用いられる。宿主細胞への発現ベクターの導入(形質転換体の作製)は、宿主細胞に応じて公知の手法によって行うことができ、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法等を採用できる。形質転換体の細胞培養についても、宿主細胞に応じて公知の培地及び培養条件で行えばよい。
【0040】
培養物からATMタンパク等を分離精製するには、例えば、下記の方法により行なうことができる。培養後の宿主細胞を集め、これを適宜蛋白質変性剤や界面活性剤を加えた緩衝液に懸濁し、超音波処理やリゾチーム添加、凍結融解などによって細胞を破壊したのち、遠心分離やろ過によってタンパクの粗抽出液を得る。抽出液中に含まれるタンパクの精製は、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的新和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などを用いて行うことができる。
【0041】
さらに、ATMタンパク等は、合成タンパクとして得ることもできる。タンパク合成は、クロロメチル樹脂やヒドロキシメチル樹脂、ベンズヒドリルアミン樹脂、アミノメチル樹脂、4−ベンジルオキシベンジルアルコール樹脂等の通常用いられるタンパク質合成用樹脂を使用して行うことができる。このような樹脂を用い、α−アミノ基と側鎖官能基を適当に保護したアミノ酸を、目的とするタンパク質の配列通りに、各種縮合方法に従い樹脂上で縮合させる。反応の最後に樹脂からタンパク質を切り出すと同時に各種保護基を除去し、さらに高希釈溶液中で分子内ジスルフィド結合形成反応を実施し、目的のタンパク質を取得する。
【0042】
(B)医薬品組成物・化粧料組成物・食品組成物
本発明に係る脂肪細胞分化促進剤は、直接的には、例えば、脂肪細胞の発達に障害がある脂肪萎縮性糖尿病などの疾患や、痩せ過ぎの患者に対し適用して、脂肪細胞の分化を促進し、脂質/糖エネルギー代謝の改善を図るために用いられる。また、脂肪細胞の分化メカニズムを解析するための基礎研究において、脂肪細胞の分化を誘導するための試薬として使用することができる。
【0043】
さらに、本発明に係る脂肪細胞分化促進剤によれば、例えば、皮下脂肪組織に投与することで、皮下脂肪細胞を選択的に分化増殖させることが可能と考えられる。これにより、皮下脂肪に対し内臓脂肪が増加した状態を改善し、内臓脂肪貯蓄率の増加に起因するインスリン抵抗性の発現を抑制し、エネルギー代謝を改善できる可能性がある。
【0044】
また、例えば、脂肪組織に投与して、脂肪前駆細胞からの正常な脂肪細胞の分化を促進することで、アディポカインの分泌を亢進させることが可能と考えられる。これにより、分泌されたアディポカインを、肥大化した大型脂肪細胞から分泌されるTNFαやレジスチンなどのインスリン抵抗性分子と拮抗させ、インスリン抵抗性の発現を防止して、エネルギー代謝を改善できる可能性がある。
【0045】
従って、本発明に係る脂肪細胞分化促進を有効成分として含有する医薬組成物は、特に肥満及び肥満に関連する疾患の予防、改善又は治療するために有効と考えられる。
【0046】
「肥満に関連する疾患」としては、糖尿病、動脈硬化症、高脂血症、心臓病、血管障害、痛風、脂肪肝、胆石、膵臓炎、変形性関節症、ヘルニア等が知られており、本発明に係る医薬組成物の適用疾患にはこれらの疾患が含まれるが、他の疾患への適用を除外するものではない。
【0047】
また、本発明において「予防」には、上記の疾患を罹患する前段階の予防だけではなく、疾患治療後の再発に対する予防も含まれる。
【0048】
本発明に係るATMタンパク等を含有する脂肪細胞促進剤を有効成分とする医薬組成物(以下「医薬組成物(タンパク)という」)は、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液又は懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。医薬組成物(タンパク)は、本発明に係るATMタンパク等を含有する脂肪細胞分化誘導促進剤を、生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造される。錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。
【0049】
本発明に係る医薬組成物(タンパク)の投与量は、剤型の種類、投与方法、投与対象者(動物を含む)の年齢や体重、症状等を考慮して決定されるものである。
【0050】
また、本発明に係るATMタンパク等を発現可能な発現ベクター含有する脂肪細胞促進剤を有効成分とする医薬組成物(以下「医薬組成物(ベクター)」という)は、上述のATMタンパクの取得方法において説明した発現ベクターを含んでなる。
【0051】
発現ベクターは、ウイルスベクターやが好適であり、例えば、アデノウイルス、センダイウイルス、又はこれらをリポソームと融合させたものを使用できる。発現ベクターの核酸は一本鎖または二本鎖であってもよく、RNA又はDNAであってよい。発現ベクターに含まれるATMタンパク等のコード領域は、通常1つであるが、2以上の配列を含んでいてもよい。
【0052】
本発明に係る医薬組成物(ベクター)の投与は、上述の宿主細胞への発現ベクターの導入方法と同様のトランスフェクション法によって、例えば、投与対象者の脂肪組織内に直接局所投与し得る。また、経口経路、直腸経路、鼻腔経路、血管経路等によって行うことも可能である。
【0053】
本発明に係るATMタンパク等を含有する脂肪細胞分化促進剤は、これを有効成分として含有し、肥満及び肥満に関連する疾患の予防、改善又は治療を目的とする化粧料組成物及び食品組成物としても供給され得る。
【0054】
本発明に係る化粧料組成物は、例えば、化粧水、ローション、クリーム、パック等として、公知の化粧品成分を用いて、常法により調製することができる。
【0055】
具体的には、本発明に係るATMタンパク等を含有する脂肪細胞分化誘導促進剤と、流動パラフィン、イソパラフィン、ワセリン、スクワラン、ミツロウ、カルナウバロウ、ラノリン、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソパルミチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソオクチル酸セチル、トリイソオクチル酸グリセリル、トリカプリル酸グリセリル、カプリル酸及びカプリン酸の混合脂肪酸のトリグリセリド、ジイソオクチル酸ネオペンチルグリコールエステル、リンゴ酸ジイソステアリル、イソノナン酸イソノニル、12−ヒドロキシステアリン酸コレステリル、イソステアリン酸ジペンタエリスリトールエステル、オリーブ油、ホホバ油、月見草油、ユーカリ油、大豆油、菜種油、サフラワー油、パーム油、ゴマ油、米胚芽油、タートル油、ミンク油、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、ステアリルアルコール、セタノール、ベヘニルアルコール等の油性成分、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリステアレート、グリセリルモノオレエート、グリセリルモノステアレート、レシチン、リゾレシチン、ポリグリセリンやショ糖と前記脂肪酸とのモノ、ジ、トリまたはテトラエステル等の界面活性剤、多価アルコール類、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、天然保湿因子(NMF)、ピロリドンカルボン酸ソーダ、スフィンゴ脂質、リン脂質、コレステロール等の保湿剤、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カラギーナン等の増粘剤、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、安息香酸ナトリウム等の防腐剤、タルク、カオリン、マイカ、ベントナイト、雲母、雲母チタン、酸化チタン、ベンガラ、酸化鉄等の顔料、クエン酸−クエン酸ナトリウム等のpH調節剤、BHT、BHA、ビタミンA類およびそれらの誘導体並びにそれらの塩、ビタミンC類およびそれらの誘導体並びにそれらの塩、ビタミンE類およびそれらの誘導体並びにそれらの塩等の抗酸化剤、ベンゾフェノン誘導体、パラアミノ安息香酸誘導体、メトキシケイ皮酸誘導体、ウロカニン酸等の紫外線吸収剤の適量を適宜組み合わせ、加温もしくは非加温状態で、混合、分散、乳化あるいは溶解させ、液状、ペースト状、ゲル状、クリーム状(半固形状を含む)または固形状となし、本発明の化粧料組成物を得る。
【0056】
また、食品組成物は、本発明に係るATMタンパク等を含有する脂肪細胞分化誘導促進剤に、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤等の通常食品原料として使用されているもを適宜配合することにより製造することができる。
【0057】
本発明に係る食品組成物としては、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品等を挙げることができる。
【0058】
(C)スクリーニング方法
ATMタンパク及びATMタンパク誘導体は、脂肪細胞分化促進剤及び阻害剤のスクリーニングのために用いることが可能である。ここで、「脂肪細胞分化促進(又は阻害)剤」とは、ATMタンパク等の脂肪細胞分化誘導作用を促進(又は阻害)し得る物質を指す。ATMタンパク等は脂肪細胞分化誘導作用を有するため、これらの活性を阻害又はさらに促進し得る物質は、ATMタンパク等と同様に、肥満及び肥満に関連する疾患の予防、改善又は治療のための有効な薬剤となると考えられる。
【0059】
脂肪細胞分化促進(又は阻害)剤の候補物質としては、例えば、精製タンパク質、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成ペプチドのライブラリー、抗体、細胞抽出液、細胞培養上清、合成低分子化合物のライブラリー、リボザイム、アンチセンス核酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
(スクリーニング方法の第一段階)
本発明に係る脂肪細胞分化促進(又は阻害)剤のスクリーニング方法の第一の段階は、(a)ATMタンパク等と候補物質とを接触させる工程と、(b)ATMタンパク等と候補物質との結合を検出する工程と、(c)結合した候補物質を選択する工程を含む。
【0061】
具体的には、例えばタンパクを候補物質とする場合、以下の方法により行うことができる。ATMタンパク等と結合するタンパクを発現していることが予想される組織もしくは細胞からcDNAライブラリーを作製し、これを発現させて得たタンパクをフィルター上に固定し、ビオチン標識あるいはGSTタグ標識を行ったATMタンパク等をハイブリダイズさせ、ストレプトアビジンあるいは抗GST抗体により検出する。これにより、ATMタンパク等と結合するタンパクを得ることが可能である。
【0062】
別法として、従来公知のツーハイブリッドシステムに従い、実施することもできる。ツーハイブリッドシステムにおいては、ATMタンパク等をSRF結合領域またはGAL4結合領域と融合させて酵母細胞の中で発現させ、ATMタンパク等と結合するタンパク質を発現していることが予想される細胞から、VP16又はGAL4転写活性化領域と融合する形で発現するようなcDNAライブラリーを作製する。これを上記酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンからライブラリー由来cDNAを単離する。さらに、単離されたcDNAを大腸菌に導入、発現させれば、目的とするタンパクを得ることができる。
【0063】
さらに、例えば、ATMタンパク等を固定化したアフィニティーカラムに、ATMタンパク等と結合するタンパク質を発現していることが予想される細胞の培養上清もしくは細胞抽出物を通過させ、カラムに特異的に結合するタンパクを精製することにより、ATMタンパク等と結合するタンパクを得ることもできる。
【0064】
合成低分子化合物や合成ペプチドを候補物質とする場合には、固定化したATMタンパク等に、合成低分子化合物等を作用させ、結合する物質をスクリーニングする方法や、コンビナトリアルケミストリー技術によるハイスループットを用いたスクリーニングによりATMタンパク等に結合する低分子化合物やペプチドなどを得る。
【0065】
また、表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを使用して、ATMタンパク等に結合した低分子化合物やペプチドなどの検出を行うこともできる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサー(Biacore,GEHealthcare)は、ATMタンパク等と候補物質との間の相互作用を微量のタンパク質を用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である
【0066】
(スクリーニング方法の第二段階)
このスクリーニングの第一段階によって得られた候補化合物は、ATMタンパク等に結合して、そのシグナル伝達を制御することにより、ATMタンパク等の有する脂肪細胞分化誘導作用を促進(又は阻害)する物質の候補となる。
【0067】
本発明に係るスクリーニング方法の第二の段階は、得られた候補物質がATMタンパク等の分化誘導作用に及ぼす影響を評価することによって、候補物質の中から脂肪細胞分化促進作用又は阻害作用を有する物質の選別を行う。
【0068】
第二段階は、具体的には、(a)ATMタンパク等を発現し得る細胞を候補物質存在下にて培養する工程、(b)脂肪細胞分化促進活性を測定する工程、(c)候補物質非存在下で培養した対照細胞との比較により、脂肪細胞分化促進活性を増強(又は阻害)する候補物質を選択する工程、を含む。
【0069】
この第二段階において、脂肪細胞への分化誘導は、公知の分化刺激カクテルを培養液に添加して行うことができ、例えば、デキサメサゾン、1-メチル3-イソブチルキサンチン、インシュリンからなるカクテルを好適に採用できる。また、候補物質としてタンパクやRNAを用いる場合には、これらをコードするcDNAを上述したベクターを用いて細胞内へ導入し、発現させる。あるいは、タンパクやRNAをマイクロインジェクション等により直接細胞内へ導入する。
【0070】
脂肪細胞分化促進活性の測定は、例えば、実施例において用いた胎児線維芽細胞(MEF)や線維芽細胞3T3L1細胞などの脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程において、細胞質内に形成される脂肪滴を指標として脂肪細胞を検出することにより行うことができる。この方法では、脂肪滴を有する細胞が多く検出される程、脂肪細胞分化促進活性が強いこととなる。脂肪滴の検出は顕微鏡下における観察により行うことができ、この際細胞をフォルムアルデヒド等で固定しOid-Red O染色を行うことで、赤色に染まる脂肪滴をより明瞭に検出することが可能となる。
【0071】
また、脂肪細胞分化促進活性の測定は、例えば、脂肪前駆細胞から分化した脂肪細胞に蓄積される脂肪酸や中性脂肪、コレステロールエステルの量を生化学的手法により定量することにより行うことが可能である。この方法では、脂肪酸の量が多いほど、脂肪細胞分化促進活性が強いこととなる。
【0072】
さらに、脂肪細胞分化促進活性の測定は、例えば、脂肪細胞に特異的に発現するマーカー遺伝子や、脂肪細胞の分化過程で多量に発現する遺伝子の発現を、ノーザンブロットやリアルタイムPCR、ウェスタンブロット等の分子生物学的手法を用いて検出することにより行うことができる。検出対象とする遺伝子は、例えば、PPARγ遺伝子やC/EBPファミリー遺伝子が好適である。脂肪細胞分化促進活性が強い程、これら遺伝子の発現が増強されることとなる。
【0073】
脂肪細胞分化促進活性の測定の結果、候補物質の添加又は細胞内への導入により有意な活性増強が検出されれば、候補物質は脂肪細胞分化促進剤となり得ると判定される。一方、活性の抑制が検出された場合には、候補物質は脂肪細胞分化阻害剤となり得ると判定される。
【0074】
本発明に係るスクリーニング方法により同定された脂肪細胞分化促進(又は阻害)剤は、本発明に係るATMタンパク等を含有する脂肪細胞分化促進剤と同様の利用が可能であり、医薬組成物や化粧料組成物、食品組成物として提供され得る。
【0075】
(D)疾患の発症リスク評価方法及び太りやすさの評価方法
次に、本発明に係る疾患の発症リスク評価方法及び太りやすさの評価方法について説明する。
【0076】
本発明者らによって、ATMが脂肪細胞の分化誘導に重要な役割を有していることが明らかにされたことから、被験個体から採取した検体中のATMタンパクの存在量やATM遺伝子の発現量を調べることによって、該被験個体の肥満に関連する疾患の発症リスクや太りやすさを評価することが可能となった。
【0077】
また、ATM遺伝子の遺伝子多型/変異は、脂肪組織におけるATM遺伝子又はタンパクの発現量に影響を与え、さらにアミノ酸配列の変化を介してATMタンパクの脂肪細胞分化誘導活性そのものにも影響を与え得る。従って、被験個体のATM遺伝子の遺伝子多型/変異を検出することによっても、該被験個体の肥満に関連する疾患の発症リスクや太りやすさの評価を行うことが可能である。
【0078】
ここで、肥満に関連する疾患には、上述の通り、糖尿病、動脈硬化症、高脂血症、心臓病、血管障害、痛風、脂肪肝、胆石、膵臓炎、変形性関節症、ヘルニア等が含まれるが、これら以外の疾患への適用を除外するものではない。
【0079】
(ATMタンパクの存在量の測定)
ATMタンパク(配列番号1参照)の存在量を測定する方法としては、被検個体から採取した検体中に含まれるATMタンパクを抽出し、例えば、プロテインチップ(Ciphergen)や免疫学的方法(ELISA、EIA法、ウェスタンブロッティング)を行う方法が挙げられる。被験個体から採取する検体は、各種細胞や組織であってよいが、特に脂肪組織を採取することが望ましい。検体として細胞や組織を採取した場合には、定法により細胞等からタンパクを抽出し、上記に例示した方法によりATMタンパクの発現量を測定する。また、検体として血液や尿を採取し、血液や尿中に現れるATMタンパクの存在量を測定してもよい。
【0080】
(ATM遺伝子の発現量の測定)
ATM遺伝子(配列番号2参照)の発現量は、被検個体から採取した検体からRNAを抽出し、ATM遺伝子に特異的な塩基配列を有するプライマーやプローブを用いてRT−PCRやDNAアレイ、ノーザンハイブリダイゼーション等を行うことにより測定することができる。
【0081】
(ATM遺伝子の遺伝子多型/変異の検出)
ATM遺伝子の遺伝子多型/変異には、SNPs(single nucleotide polymorphism:一塩基多型)のような塩基置換に加え、ミニサテライト、マイクロサテライト等の非コード領域の多型も含まれる。現在までに、ATM遺伝子に関し、コード領域における多数の遺伝子多型/変異が報告されている(上記特許文献4参照)。従って、本発明においては、これら公知の多型/変異を検出することが好適となる。
【0082】
ATM遺伝子の遺伝子多型/変異の検出は、公知の方法によって行うことができる。例えば、多型部位を含むゲノムDNAの塩基配列を直接決定することによって行うことができる。この方法においては、まず、被検個体から検体を採取しゲノムDNAを抽出する。検体には、被検個体の毛髪、爪、血液、皮膚、口腔粘膜、手術により採取あるいは切除した組織又は細胞、検査等の目的で採取された体液等を用いることができる。また、ゲノムDNAに替えて、これらの組織又は細胞から抽出されたmRNAから逆転写により調整したDNAを用いることもできる。
【0083】
次いで、得られたDNAに関し、多型部位を含む領域を特異的に増幅し得るプライマーを用いて、PCR増幅及びシークエンスリアクションを行い、DNAシークエンサーを用いて多型部位の塩基配列を決定する。
【0084】
予め多型部位の塩基配列のバリエーションが明らかにされている場合には、そのバリエーションを同定するための公知の方法が採用される。例えば、TaqMan PCR法、Intercalator mediated FRET probe (IFP)法、AcycloPrime法、およびMALDI-TOF/MS法等が実用化されている。この他、Invader法やRCA法、アレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法、多型検出用のDNAアレイによって、多型の検出を行うことができる。また、従来方法として、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR-RFLP法、PCR-SSCP法、変性剤濃度勾配ゲル(denaturant gradient gel electrophoresis: DGGE)法等を採用することもできる。
【0085】
このうち、TaqMan PCR法は、多型部位を含む領域を増幅することができるプライマーセットと、TaqManプローブを利用した解析方法である。TaqMan PCR法は、プローブの解離温度(Tm)に近い条件でハイブリダイズ反応を行ない、1塩基の相違によってTaqManプローブのハイブリダイズ効率が著しく低下することを利用している。
【0086】
TaqManプローブの存在下でPCR法を行うと、プライマーからの伸長反応は、ハイブリダイズしたTaqManプローブに到達する。このときDNAポリメラーゼの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性によって、TaqManプローブは5'末端から分解される。TaqManプローブをレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、TaqManプローブの分解によって、クエンチャーから遊離したレポーター色素からの蛍光シグナルが検出されるようになる。このとき、プローブと標的塩基配列に1塩基以上の相違が存在すると、TaqManプローブのハイブリダイズが低下することとなるため、プローブの分解が進まず蛍光シグナル強度が低下する。従って、この蛍光シグナル強度の低下を検知することによって、多型の存在を検出することが可能となる。
【0087】
さらに、各多型に対応するTaqManプローブをデザインし、各プローブに異なるレポーター色素を標識すれば、同時に塩基種の判定を行うこともできる。例えば、レポーター色素として、ある多型1のTaqManプローブに6-carboxy-fluorescein(FAM)を、多型2のプローブにVICを標識する。プローブが分解されない状態では、クエンチャーによってレポーター色素の蛍光シグナル生成は抑制されている。各プローブが対応する多型にハイブリダイズすれば、ハイブリダイズに応じたレポーター色素からの蛍光シグナルが観察される。これにより、FAMまたはVICのいずれかのシグナルが得られた場合には、多型1又は多型2のホモの多型を検出できる。また、FAM及びVICのシグナルがほぼ同じレベルで得られた場合には、多型1又は多型2のヘテロの多型を検出できる。
【0088】
Intercalatormediated FRET probe (IFP)法は、多型部位を含む領域を増幅することができるプライマーセットと、FRETプローブを利用した解析方法である。
【0089】
IFP法においては、まず、多型部位を含む領域を増幅することができるプライマーセットにより該領域を増幅し、増幅産物を得る。次に、増幅産物を蛍光標識する。蛍光試薬としては、二重鎖DNAに結合することによってのみ蛍光を発し、二重鎖DNAに結合してない遊離状態ではほとんど蛍光しないようなインターカレータ性蛍光試薬(SYBR Green等)が用いられる。次に、蛍光標識された増幅産物と、該蛍光と蛍光エネルギー共鳴反応(FRET)を起し得るような対応する蛍光により標識されたFRETプローブを会合させ、蛍光エネルギー共鳴反応を促す。次に、徐々にこの産物を加熱することにより、増幅産物とFRETプローブとを解離させ、蛍光エネルギー共鳴反応を消失させる。このとき、蛍光エネルギー共鳴反応が消失する温度を測定することにより、FRETプローブと増幅産物の配列が一致すれば、前記温度は比較的高くなり、不一致であれば、前記温度は比較的低くなる。これにより、FRETプローブと増幅産物の配列の一致・非一致を判定し、多型を検出することが可能である。
【0090】
以上のようにして、ATMタンパクの存在量やATM遺伝子の発現量の測定、ATM遺伝子の遺伝子多型/変異の検出を行い、その結果を解析することにより、被験個体の疾患発症リスク又は太りやすさを判定することが可能となる。
【実施例】
【0091】
(実施例1)ATM欠損マウスにおける耐糖能異常の検討
ヒトA-T患者で推定された脂質/糖エネルギー代謝機構の障害がATM欠損マウスにおいて確認できるかを検証する目的でブドウ糖負荷試験を行った。
【0092】
実験前夜より16時間絶食させ、試験前血糖値が50-90mg/dlにあるマウス(8〜10週齢)の腹腔内に10% D-glucose (Sigma-Aldrich)を 1g/kgで投与し、投与後0, 30, 60, 120分の時点で採血を行い、トーエコースーパー2(京都第一科学)を用いて血糖値の測定を行った。
【0093】
血糖値の測定結果を「図1」に示す。横軸は時間、縦軸は血糖値(mg/dl)を示す。結果は、4回の独立した試験の平均値により示す。
【0094】
結果、ATMホモ欠損マウス(ATM−/−)は、野生型マウス(ATM+/+)に比していずれの測定時間でも有意に高い血糖値を示し、耐糖能異常を呈することが明らかとなった。なお、野生型マウスとATMヘテロ欠損マウス(ATM+/−)の間には有意差はみられなかった。
【0095】
(実施例2)ATM欠損マウスにおけるインスリン分泌能及びインスリン感受性の検討
実施例1でATM欠損マウスにみられた耐糖能異常が、インスリン抵抗性に基づくものであるかを明らかにするため、糖負荷後のインスリン分泌量の測定と、インスリン投与後の血糖値の測定を行った。
【0096】
インスリン分泌量は、上記ブドウ糖負荷試験において投与0、20分後の時点で採血を行い、Insulin (Mouse) Ultrasensitive EIA (ALPCO DIAGNOSTICS)を用いて血中濃度を測定した。インスリン投与後の血糖値の測定は、マウス(8〜10週齢)の腹腔内にインスリン(Sigma-Aldrich)を 0.75IU/kgで投与し、投与後0,30,60,120分の時点で採血を行い、プレシジョンエクシード(アボットジャパン株式会社)を用いて測定を行った。
【0097】
インスリン分泌量の測定結果を「図2」に示す。また、インスリン投与後の血糖値の測定結果を「図3」に示す。図3中、横軸は時間、縦軸は血糖値(mg/dl)を示す。結果は、4回の独立した試験の平均値により示す。
【0098】
結果、ATMホモ欠損マウスにおけるブドウ糖負荷後のインスリン分泌量は、野生型マウスに比してむしろ高く、インスリン分泌能に異常は見られなかった(図2参照)。一方、インスリン投与後のATMホモ欠損マウスの血糖値は、野生型マウスに比して有意に高く、ATMホモ欠損マウスではインスリン感受性が低下していることが明らかになった(図3参照)。これらの結果は、ATMホモ欠損マウスにおける耐糖能異常がインスリン抵抗性に基づくものであることを示している。
【0099】
(実施例3)ATM欠損マウスにおける血中アディポネクチン濃度及びレプチン濃度の測定
インスリン感受性は、脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンやレプチンなどのアディポカインによって規定される。ATM欠損マウスにおけるインスリン感受性低下の要因を明らかにするため、これらアディポカインの血中濃度の測定を行った。
【0100】
アディポネクチン及びレプチン濃度の測定は、マウスの心臓から全血を採取し、Mouse Adiponectin(SPI BIO)、マウスレプチン測定キット(森永生科学研究所)を用い、添付のプロトコールに従って測定を行った。
【0101】
アディポネクチン及びレプチン濃度の測定結果を「図4」に示す。(A)は血中アディポネクチン濃度、(B)は血中レプチン濃度を示す。図中、縦軸は血糖値(ng/ml)を示す。結果は、4回の独立した試験の平均値により示す。
【0102】
結果、ATMホモ欠損マウスの血中アディポネクチン濃度(A)及び血中レプチン濃度(B)は、野生型マウス(ATM+/+)に比して有意に低かった。また、血中アディポネクチン及びレプチン量の低下は、ATMヘテロ欠損マウスにおいても認められた。これらの結果は、ATM欠損マウスにおけるインスリン感受性の低下に、アディポネクチン及びレプチンの分泌障害が関与していることを示している。
【0103】
(実施例4)ATM欠損マウスの脂肪貯蔵比率の検討
アディポカインによるインスリン感受性の規定には、皮下脂肪組織と内臓脂肪組織のバランスが大きく影響していることが知られている。ATM欠損マウスにおけるアディポネクチン及びレプチンの分泌障害の要因を明らかにするため、皮下脂肪組織と内臓脂肪組織の脂肪貯蔵比率の検討を行った。
【0104】
10週齢のマウスの内臓脂肪(大網、腸間膜、腎臓周囲、性腺周囲脂肪)に対する皮下脂肪貯蔵率比を測定した。野生型マウス及びATMホモ欠損マウス背面より皮下脂肪組織を採取した。また内臓脂肪組織として大網、腸間膜、腎臓周囲、性腺周囲脂肪を採取した。それぞれの重量を測定し、その比を検討した。 また、皮下脂肪組織のパラフィン切片を作成し、組織学的検討を行った。
【0105】
皮下脂肪貯蔵率比の測定結果を「図5」に示す。図中、縦軸は内臓脂肪量に対する皮下脂肪量の比率を示す。また、「図6」には、皮下脂肪組織の組織像を示す。(A)は野生型マウス、(B)はATMホモ欠損マウスの組織像を示す。
【0106】
結果、ATMホモ欠損マウスは、野生型マウスに比べ、内臓脂肪に対する皮下脂肪貯蔵率比が低いことが明らかとなった(図5参照)。また、図6に示す組織像において、ATMホモ欠損マウスは、皮下脂肪組織がほとんど認められなかった。これらの結果から、ATMホモ欠損マウスでは、皮下脂肪組織の発達が顕著に阻害されており、脂肪細胞の分化や局在に異常が生じていることが示された。
【0107】
(実施例5)ATM欠損マウスへの皮下脂肪組織移植による検討
ATM欠損マウスに正常な皮下脂肪組織を移植することにより、インスリン抵抗性の改善を試みた。
【0108】
野生型マウス背面より皮下脂肪組織0.8gを採取し、ATMホモ欠損マウスの背面に3箇所に分けて移植した。術後の回復期を設け、その後ATMホモ欠損マウス(ATM-/-脂肪移植)について、上記と同様の方法でブドウ糖負荷試験を行った。
【0109】
血糖値の測定結果を「図7」に示す。横軸は時間、縦軸は血糖値(mg/dl)を示す。結果は、4回の独立した試験の平均値により示す。
【0110】
結果、皮下脂肪組織を移植したATMヘテロ欠損マウスでは、耐糖能異常が改善し、野生型マウスとほぼ同様のレベルにまで血糖値が低下した。
【0111】
以上、実施例1〜5の結果から、ATM欠損マウスでは、ATMの欠損によって脂肪細胞の適切な分化が障害され、皮下脂肪組織と内臓脂肪組織のバランスが不均衡となることで、アディポネクチン及びレプチン等のアディポカインの分泌が障害され、インスリン抵抗性が発現していることが強く示唆された。
【0112】
(実施例6)ATM欠損細胞を用いた脂肪細胞への分化誘導実験
ATM欠損マウスで得られた実験結果から、ATM欠損細胞では脂肪細胞分化に障害があることが予想された。そこで、野生型マウス及びATM欠損マウスの胎児線維芽細胞(MEF)に脂肪細胞分化刺激を与え、脂肪細胞の分化状態をin vitroで観察した。
【0113】
MEFの培養は、10% Fetal Bovine Serum (FBS), 2mML-glutamine, 0.1mM non essential amino acid, 55μMβ-Mercaptoethanol, 1% penicillin / streptomycine (GibcoInvitrogen, Carlsbad, CA)を含むDMEM (Sigma-Aldrich, St.Louis, Mo) で37 ℃、5% CO2条件下にて行った。
【0114】
コラーゲンコート済みの細胞培養皿にMEFを播種し、細胞接着阻止がかかるまで培養した。細胞接着阻止が起こったことを確認した後、MEFの脂肪細胞への分化刺激カクテルとして公知の0.5mM 3-Isobutyl-Metyhl-Xanthine(3-IMX)、1μM dexamethason、5μg/ml insulin (Sigma-Aldrich)を含む分化誘導培地に交換し、2日毎に分化誘導培地を交換した。
【0115】
分化刺激後、細胞をPBSで洗い、10% formaldehydeで室温10分固定、60% isopropanolに置換した後、Oil-Red O 染色液(3% Oil-Red O (Sigma-Aldrich)、60% isopropanol)で室温10分間染色した。染色後60% isopropanolで洗浄し、PBSで洗浄の後、顕微鏡で観察した。また、酵素法(GK-GPO・遊離グリセロール消去)により中性脂肪量の測定を行った。
【0116】
分化刺激後の細胞をトリプシン処理、回収し、BrdU Flow Kit(BD Biosciences Pharmingen)を用いて固定・染色等を行い、さらに、分化刺激後の細胞の細胞周期をBrdUの取り込みをもとにフローサイトメトリーにより解析した。
【0117】
分化刺激後8日目にOil-Red O 染色を行った結果を「図8」に、中性脂肪量の測定結果を「図9」に示す。図9中、縦軸は細胞抽出タンパク量当たりの中性脂肪量(mg/mg protein)を示す。また、細胞周期の測定結果を「図10」に示す。
【0118】
結果、野生型MEFでは、分化刺激後Oil-Red O染色により赤く染まる脂肪滴を有する成熟脂肪細胞が多数認められた(図8(A)及び(B)参照)。また、細胞中には多量の中性脂肪の蓄積が認められた(図9参照)。これに対して、ATM欠損MEFでは、Oil-Red O染色陽性像が顕著に少なく、細胞内への中性脂肪の蓄積もみられなかった。
【0119】
細胞周期G0/G1期に停止した前駆脂肪細胞は、脂肪細胞への分化刺激により、成熟脂肪細胞へと分化する前に1〜2回細胞分裂を生じるクローン増殖を起こし、このクローン増殖の完了後、細胞は再び細胞周期を停止して、成熟脂肪細胞へと分化することが知られている。
【0120】
図10上段に示す野生型細胞では、分化刺激後1日目及び3日目においてはクローン増殖過程にある細胞がそれぞれ全体の7.0%,8.7%存在している(図中ゲートしたポピュレーション参照)が、成熟脂肪細胞への分化が完了する8日目においてはクローン増殖過程にある細胞は1.1%にまで減少している。このことは、分化刺激後8日目では、多くの細胞が細胞周期を停止し、脂肪細胞への成熟過程に進行していることを示している。
【0121】
これに対して、ATM欠損細胞では、分化刺激後8日目においても、クローン増殖過程にある細胞が全体の8.3%存在し、これは1日目(6.7%)及び3日目(7.5%)に比べてむしろ増加している。このことは、ATM欠損細胞では、分化刺激後も細胞周期が停止せずクローン増殖が繰り返され、脂肪細胞の成熟過程への移行が起こらないことを示している。
【0122】
これらの結果から、ATM欠損細胞では、分化刺激による脂肪細胞への分化が顕著に阻害されることが明らかとなった。このことは、ATMが脂肪細胞の分化誘導作用を有し、脂肪細胞分化に重要な役割を有していることを強く示唆している。
【0123】
次に、ATMの脂肪細胞分化への関与を確認するため、ATM阻害剤であるCaffeine 又はKU55933の存在下において、同様の脂肪細胞分化誘導実験を行った。ここでは、上記の分化誘導障害がMEF細胞特異的な結果でないことを確認するため、分化誘導実験で一般的に用いられる線維芽細胞3T3L1細胞を用い実験を行った。なお、この3T3L1細胞はATMを正常に発現する細胞である。
【0124】
3T3 L1細胞の培養は10% FBS, 1% penicillin / streptomycineを含むDMEM (Sigma-Aldrich)を使用し、MEF細胞と同様の条件下にて行った。
【0125】
コラーゲンコート済みの細胞培養皿に3T3L1細胞を播種し、細胞接着阻止がかかるまで培養した。細胞接着阻止がかかったことを確認し、3mM Caffeine (PBSに溶解)またはPBSで処理した。翌日より3mM Caffeine及びPBS含有の上記分化誘導培地と交換し、2日毎にCaffeine含有分化誘導培地を交換した。KU55933 (KuDOS, Cambridge, UK, Dr GreameSmithより供与) 処理は、10μM(DMSOに溶解)もしくはDMSOにより同様の手順にて行った。
【0126】
分化誘導8日目にOil-Red O 染色を行った結果を「図11」に示す。
【0127】
結果、ATM阻害剤であるCaffeine及びKU55933存在下では、3T3L1細胞の脂肪細胞への分化が顕著に阻害された。これにより、ATMが脂肪細胞の分化促進作用を有し、脂肪細胞脂肪細胞分化に必須の機能を果たしていることが確認された。
【0128】
(実施例7)ATM欠損細胞における脂肪細胞分化関連転写因子の発現検索
脂肪細胞は、分化刺激後活性化される様々な転写因子により、脂肪前駆細胞から成熟脂肪細胞へ誘導される。そこで、脂肪細胞誘導に必要とされる既知の転写因子について、その発現誘導状態を分化刺激後、野生型及びATM欠損MEFで比較した。
【0129】
定法に従いウェスタンブロットを行った。1x106個の細胞をPBSで洗浄し、RIPA緩衝液(150mM NaCl, 1.0% SDS, 0.1% sodium deoxycholate, 5mM EDTA, 10mM Tris-HCl, pH7.4,プロテアーゼ阻害剤)で溶解した。タンパク濃度はDC protein assay (Bio-Rad, Richmod, CA)を用いて測定した。細胞溶解液は加熱によるSDS化の後、30mgを4%-20%のグラジエントSDSポリアクリルアミドゲル(MultiGel 4/20, Daiichi, Tokyo, Japan)を用いSDS-PAGEを行った。SDS-PAGE の後、PVDFメンブレン (Millipore, Bedford, MA) に転写し、5%スキムミルク・TBS-Tweenでブロッキングの後、目的タンパクを一次抗体でそれぞれ反応し、HRP標識抗ラビット抗体または抗マウス抗体およびECL kit(Amersham Life Science, Bucking- Hamshire,UK)を用いて検出した。一次抗体には、ATM (5C2), C/EBPα(14AA), C/EBPβ(C-19), C/EBPδ(C-22), PPARγ(E-8), IRα (N-20), IGF-1Rβ(C-20) (Santa Cruz Biotechnology,INC)、β-actin(AC-15) ( Sigma-Aldrich)を用いた。
【0130】
ウェスタンブロットの結果を「図12」に示す。図は、分化刺激後0,1,3,6日後のタンパクの発現量を経時的に示している。
【0131】
結果、ATM欠損MEFでは、脂肪細胞分化刺激によって、脂肪細胞の終末分化に必要とされるC/EBPα及びPPARγの発現が全く誘導されていないことが明らかになった。
【0132】
さらに、C/EBPα及びPPARγのmRNAレベルでの発現誘導状態を確認した。
【0133】
定法に従いノーザンブロットを行った。具体的には、1x106個の細胞をPBSで洗浄し、ISOGEN(ニッポンジーン製)を用いて溶解した。添付のプロトコールに従いtotal RNAを抽出し、ホルムアルデヒドにより変性し、電気泳動を行った。メンブレンに転写し、UVクロスリンク後C/EBPαのプローブとハイブリダイズさせた。オートラジオグラフィーを行い、フィルムに検出した。
【0134】
ノーザンブロットの結果を「図13」に示す。また、Power SYBR Green PCR master mix(Applied Biosystems)の蛍光強度を利用し、Real-Time PCR Detector Chromo4(BIO-RAD)により検出するリアルタイムPCRによる定量を行い、β-actin mRNAの発現量で補正を行って得たC/EBPα 及びPPARγ mRNA発現量(相対値)の経時変化を「図14」に示す。図13中、mRNA発現量(縦軸)は、分化誘導0日目の野生型MEFにおけるC/EBPα又はPPARγの発現量を1とした相対値により示す。結果は、4回の独立した試験の平均値により示す。なお、ノーザンブロットの結果は、C/EBPαについてのみを示す。
【0135】
結果、ATM欠損MEFでは、mRNAレベルにおいても、C/EBPα及びPPARγの発現が全く誘導されていないことが明らかとなった。
【0136】
(実施例8)ATM欠損細胞へのC/EBPα導入による分化能の回復実験
ATM欠損細胞に対しC/EBPαを強制発現させ、分化刺激による脂肪細胞への分化能の回復実験を行った。
【0137】
MSCV 2×HA C/EBPαIRES GFPレトロウイルスベクタープラスミドを用いて、リン酸カルシウム法により293T細胞にトランスフェクションを行った。その上清をウイルス液として回収し、ATM欠損MEFに感染させた。GFP陽性を示すC/EBPα導入ATM欠損MEFをソーティングし、脂肪細胞への分化刺激を行った。C/EBPα遺伝子は、パブリックデータベースから得た塩基配列(配列番号3参照)に基づき、公知の手法により上記ウイルスベクターに搭載した。
【0138】
C/EBPαを強制発現させたATM欠損MEFに分化刺激を行った後8日目のOil-Red O 染色の結果を「図15」に、細胞周期の測定結果を「図16」に示す。また、「図14」には、トランスフェクション後、分化刺激を行ったATM欠損MEFにおいてC/EBPαが発現していることをウェスタンブロットにより確認した結果を示す。
【0139】
結果、C/EBPαを強制発現させていないATM欠損MEF(Mock infected)では、分化刺激後Oil-Red O染色陽性像が認められなかったのに対して、C/EBPαを強制発現させたATM欠損MEF(HA-C/EBPα infected)では、赤く染まる脂肪滴を有する成熟脂肪細胞が多数認められた(図15参照)。
【0140】
また、C/EBPαを強制発現させていないATM欠損MEFでは、分化刺激後8日目においても、22.77%の細胞がS期にありクローン増殖過程にあったのに対して、C/EBPαを強制発現させたATM欠損MEFでは、S期の細胞は6.54%と顕著に減少し、多くの細胞が細胞周期を停止して、脂肪細胞への成熟過程に進行していることが確認された。
【0141】
ATM欠損細胞においても、C/EBPαの強制発現によるレスキューを行うことで脂肪細胞への分化能を回復させることができた。この結果は、ATMの脂肪細胞分化誘導作用がC/EBPαの発現誘導を介して機能していることを示している。
【0142】
脂肪細胞への分化初期には、C/EBPβ及びC/EBPδが一過性に誘導され、このC/EBPβ、C/EBPδ依存的に誘導されるC/EBPαやPPARγにより、成熟脂肪細胞への分化過程が開始されることが知られている。C/EBPαは脂肪細胞がインスリン感受性を獲得するのに必要な転写因子であり、PPARγは脂肪蓄積に関与していると考えられている。
【0143】
実施例6〜8の結果から、ATM欠損MEFでは、ATMの欠損により成熟過程に必要なC/EBPα及びPPARγの発現が誘導されないことで、脂肪細胞への分化が阻害されていることが明らかとなった。
【0144】
以上、本実施例により、ATMが脂肪細胞の分化誘導作用を有すること、またATMが脂肪細胞分化の分子メカニズムにおいてC/EBPα及びPPARγの上流で機能し、正常な成熟脂肪細胞の分化に必須の役割を担っていることが初めて明らかにされた。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】ATM欠損マウスにおけるグルコース負荷による血中グルコース濃度の経時変化を示す図である。
【図2】ATM欠損マウスにおけるグルコース負荷後のインスリン分泌量を示す図である。
【図3】ATM欠損マウスにおけるインスリン投与による血中グルコース濃度の経時変化を示す図である。
【図4】ATM欠損マウスのアディポカインの血中濃度を示す図である。(A)血中アディポネクチン濃度。(B)血中レプチン濃度。
【図5】ATM欠損マウスの皮下脂肪貯蔵率比を示す図である。
【図6】ATM欠損マウスの皮下脂肪組織の組織像を示す図である。(A)野生型マウス。(B)ATM欠損マウス。
【図7】正常脂肪組織の移植を行ったATM欠損マウスにおけるグルコース負荷による血中グルコース濃度の経時変化を示す図である。
【図8】ATM欠損細胞を用いた脂肪細胞分化誘導実験の結果を示す図(Oil-Red O 染色)である。
【図9】分化刺激後のATM欠損細胞における中性脂肪量蓄積量を示す図である。
【図10】分化刺激後のATM欠損細胞の細胞周期を示す図である。
【図11】ATM阻害剤存在下における線維芽細胞の脂肪細胞分化誘導実験の結果を示す図である。
【図12】分化刺激を行ったATM欠損細胞内における脂肪細胞分化関連転写因子のタンパク発現量の経時変化を示す図である。
【図13】分化刺激を行ったATM欠損細胞内におけるC/EBPα及びPPARγのmRNA発現量の経時変化を示す図である。
【図14】C/EBPα遺伝子を導入したATM欠損細胞におけるC/EBPαタンパクの発現を示す図である。
【図15】C/EBPα遺伝子を導入したATM欠損細胞を用いた脂肪細胞分化誘導実験の結果を示す図(Oil-Red O 染色)である。
【図16】C/EBPα遺伝子を導入したATM欠損細胞の分化刺激後の細胞周期を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ATMタンパク、又は脂肪細胞分化促進作用を有するATMタンパク誘導体を含有する脂肪細胞分化促進剤、及びこれらを発現可能な発現ベクターを含有する脂肪細胞分化促進剤に関する。さらには、この脂肪細胞分化促進剤を含有する医薬組成物等、及びATMタンパク等を用いた脂肪細胞分化促進剤又は阻害剤のスクリーニング方法、並びにATMタンパク又はATM遺伝子に基づく疾患発症リスクの評価方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、糖尿病や高脂血症、動脈硬化症などの生活習慣病が先進国を中心に大きな問題となっている。その背景には過剰のエネルギー摂取による肥満がある。
【0003】
肥満は過剰なエネルギーが脂肪細胞に蓄積され、脂肪細胞が肥大化し、脂肪組織が過度に増えた状態ということができる。肥満は、上記の三大生活習慣病の他、心臓病(狭心症、心筋梗塞、心肥大、心不全等)や血管障害(高血圧症、脳血栓、脳梗塞等)、痛風、脂肪肝、胆石、膵臓炎、変形性関節症、ヘルニア等の重大なリスクファクターとなっている。
【0004】
これら肥満が関連する疾患の発症メカニズムにおいて、近年、脂肪組織の役割が注目されてきている。成熟した脂肪細胞は様々なアディポカインを分泌し、生体の恒常性の維持に重要な役割を果たしていることが明らかにされた。脂肪細胞が分泌するアディポカインのうち、特にアディポネクチンやレプチンは、個体のインスリン感受性を規定する上で非常に重要である。
【0005】
脂肪細胞は適切な分化状態にあることがその機能を発揮する上で重要であり、個体の過栄養などの要因により肥大化した大型脂肪細胞は、TNFαやレジスチンなどのインスリン抵抗性分子を分泌し、インスリン抵抗性を惹起することが知られている。また、脂肪細胞の発達に障害がある脂肪萎縮性糖尿病が知られ、脂肪細胞への適切な分化がないと、インスリン抵抗性に対し抑制的に働くアディポネクチンなどが分泌されず、2型糖尿病を発症することが知られている。
【0006】
さらに、脂肪細胞はその分化状態のみならず、脂肪組織の局在部位によっても異なった機能を有している。近年、社会的に認知されてきているメタボリック症候群に知られるように、皮下脂肪組織に比べ内臓脂肪組織が増加することが、インスリン抵抗性の発現や肥満に関連した疾患の発症に深く関与していることが明らかにされている。
【0007】
従って、脂肪細胞の分化状態や脂肪組織の局在を制御し、これらを正常な状態に維持することは、肥満及肥満が関連する疾患の予防、改善、治療のため重要な課題となっている。
【0008】
現在まで、脂肪細胞分化のメカニズムを明らかにするため、分子レベルでの検討が数多くなされてきている。PPARγ(peroxisome proliferators-activated receptor γ)遺伝子は、脂肪細胞前駆細胞に発現する遺伝子として同定され(非特許文献1参照)、分化制御におけるマスターレギュレーターとして機能し、脂肪細胞内への脂肪蓄積にも関与していることが明らかにされた。
【0009】
また、ノックアウトマウスの解析により、C/EBP(CCAAT/enhancer binding protein)遺伝子ファミリーが、脂肪細胞の発生分化に関与する遺伝子として報告された。C/EBPα遺伝子のノックアウトマウス由来の脂肪細胞はインスリン抵抗性を示すことから、C/EBPαは脂肪細胞の最終分化段階におけるインスリン感受性の獲得に重要な役割を果たすものと考えられている。
【0010】
ここで、本発明に関連する「毛細血管拡張性運動失調症(Ataxia Telangiectasia: A-T)」について説明する。毛細血管拡張性運動失調症(以下「A-T」という)は、免疫不全、毛細血管拡張、小脳失調を主徴とする多形質発現性の遺伝的疾患である。
【0011】
A-Tの原因遺伝子である「ATM遺伝子」は、1995年にポジショナルクローニングによってヒト11番染色体に存在することが明らかとなった。ATM遺伝子は4つの相同的な遺伝子群からなり、A-T患者ではこれらの遺伝子に少なくとも1つの変異がみられている(非特許文献2参照)。
【0012】
ATM遺伝子は、3,056アミノ酸から構成される370kDのタンパク質であり、進化的に下等な動物から哺乳類に至るまで高度に保存されている。上記4つの遺伝子群は、各々PI-3キナーゼドメインに類似の構造を持ち、このドメイン同士の相同性が非常に高いことが知られている(非特許文献3参照)。ATM遺伝子は、PI3キナーゼドメインを有することから、シグナル伝達及び細胞周期の調節に重要な役割を果たすことが予想された。
【0013】
事実、A-T患者は発ガンのリスクが高いことが知られており、ATM遺伝子の変異に伴うA-T患者の細胞は、細胞周期のチェックポイントでの制御があまく、損傷を受けた細胞の増殖を容易に許容してしまうことが明らかにされている。
【0014】
特許文献1〜3には、A-T の原因遺伝子としてのATM遺伝子及びそのゲノム構成、その欠損遺伝子の検出方法、その欠損遺伝子によりコードされた精製ポリペプチド、及びその欠損タンパク質を認識する抗体等が開示されている。
【0015】
また、特許文献4には、ATM遺伝子における遺伝子変異を検出することにより、被験者が乳癌を発症する素因を有するかを決定するための検査方法が開示されている。
【0016】
なお、以上に挙げた文献において、ATM遺伝子と脂肪細胞分化に関する言及は一切なされていない。
【0017】
【特許文献1】特表平11−505125公報
【特許文献2】特表平11−506909公報
【特許文献3】特開2000−256400公報
【特許文献4】特表2004−521601公報
【非特許文献1】“Transcriptional control of adipocyteformation.” Cell Metabolism, 2006, Vol.4, No.4, p.2644-2273
【非特許文献2】“A single ataxia telagiectasia gene with a product similar to PI-3 kinase.” Science, 1995, Vol.268, No.5218, p.1749-1753
【非特許文献3】“The complete sequence of the coding region of the ATM gene reveals similarity to cell cycle regulators in different species.” Human Molecular Genetics, 1995, Vol.4, No.11, p.2025-2032
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
肥満及肥満が関連する疾患の予防、改善、治療のためには、脂肪細胞分化のメカニズムを明らかにし、脂肪細胞の分化状態や脂肪組織の局在を正常な状態に制御することが有効と考えられる。
【0019】
脂肪細胞は、中胚葉系間細胞に由来し、脂肪前駆細胞を経て分化する。この分化過程を制御し、さらには正常脂肪細胞から大型脂肪細胞への分化を制御することができれば、過度な脂肪細胞の増殖や脂肪組織の蓄積を抑制し、肥満を治療することが可能と考えられる。
【0020】
また、皮下脂肪組織又は内臓脂肪組織のみの分化を選択的に抑制したり、逆に促進したりすることができれば、内臓脂肪の増加に起因するインスリン抵抗性の発現を抑制し、肥満が関連する疾患の発症を予防することが可能と考えられる。
【0021】
そこで、本発明は、脂肪細胞の分化状態や脂肪組織の局在の制御を実現するため、脂肪細胞の分化に関与する新規な分化制御因子を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題解決のため、本発明は、配列番号1に示すATMタンパク又は脂肪細胞分化誘導活性を有するATMタンパク誘導体を含有する脂肪細胞分化促進剤、及び前記ATMタンパク又は前記ATMタンパク誘導体を発現可能な発現ベクターを含有する脂肪細胞分化促進剤を提供する。
この脂肪細胞分化促進剤は、肥満あるいは、糖尿病、動脈硬化症、高脂血症、心臓病、血管障害、痛風、脂肪肝、胆石、膵臓炎、変形性関節症、ヘルニアなどの肥満が関連する疾患を予防、改善又は治療するための医薬組成物、化粧料組成物及び食品組成物に有効成分として含有され得る。
【0023】
また、本発明は、前記ATMタンパク、又は前記ATMタンパク誘導体を用いることを特徴とする、脂肪細胞分化促進剤又は脂肪細胞分化阻害剤のスクリーニング方法を提供する。
【0024】
さらに、下記(1)又は(2)の工程を含む、肥満あるいは肥満が関連する疾患の発症リスク評価方法又は太りやすさの評価方法をも提供する。
(1)被験個体から採取した検体中の前記ATMタンパクの存在量又は配列番号2に示すATM遺伝子の発現量を測定する工程。
(2)被験個体について、前記ATM遺伝子の遺伝子多型又は変異を検出する工程。
【0025】
ここで、本発明において「太りやすさ」とは、脂肪細胞が過剰に蓄積した状態と定義される「肥満」への移行の起こり易さを意味するものとし、個体が過剰なエネルギーを摂取した際に、他の個体に比べて肥満になり易いかを示す指標と位置づけられるものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、新規な脂肪細胞の分化制御因子及びこれを含有する脂肪細胞分化促進剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明者らは、脂肪細胞の分化に関与する新規な分化制御因子を探索するにあたって、まず、上述の毛細血管拡張性運動失調症(A-T)に注目した。A-T患者は、免疫不全や毛細血管拡張、小脳失調の主徴に加えて、るい痩傾向が強く、脂肪組織貯蔵率が低いという特徴を呈することが知られている。本発明者らは、A-T患者におけるこれらの所見が、脂質/糖エネルギー代謝機構の障害に起因するものであると考えた。そして、ATM欠損マウス及びATM欠損細胞を用いたエネルギー代謝機構の解析を進める中で、ATMが脂肪細胞の分化誘導作用を有することを初めて見出すに至った。
【0028】
すなわち、ATM欠損マウスでは、ATMの欠損によって脂肪細胞の適切な分化が障害され、皮下脂肪組織と内臓脂肪組織のバランス不均衡となることで、アディポネクチン及びレプチン等のアディポカインの分泌が障害され、耐糖能異常とインスリン抵抗性が発現していることが明らかになった。また、ATM欠損細胞では、ATMの欠損によって成熟過程に必要なC/EBPα及びPPARγの発現が誘導されないことで、脂肪細胞への分化が阻害されていることが明らかになった。これらの結果は、ATMが脂肪細胞の分化誘導作用を有すること、またATMが脂肪細胞分化の分子メカニズムにおいてC/EBPα及びPPARγの上流で機能し、正常な成熟脂肪細胞の分化に必須の役割を担っていることを示すものである。
【0029】
(A)脂肪細胞分化促進剤
従って、本発明は、新規な脂肪細胞の分化制御因子として、配列番号1に示されるATMタンパクを提供し、これによりATMタンパク又は脂肪細胞分化誘導活性を有するATMタンパク誘導体を含有する脂肪細胞分化促進剤、及び前記ATMタンパク又は前記ATMタンパク誘導体を発現可能な発現ベクターを含有する脂肪細胞分化促進剤を提供するものである。
【0030】
(ATMタンパク誘導体)
ここで、本発明において「ATMタンパク誘導体」とは、配列番号1に示すATMタンパクと実質的に同一のアミノ酸配列を有し、脂肪細胞分化誘導活性を有するタンパク又はその塩を広く包含するものとする。
【0031】
配列番号1に示すATMタンパクと「実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク」としては、配列番号1で表わされるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパクが挙げられる。また、「脂肪細胞分化誘導活性を有するタンパク」とは、実質的にATMタンパクと同質の脂肪細胞分化誘導作用を有するタンパクであればよく、該作用についての活性が同等(例、約0.5〜2倍)であることが好ましいが、活性程度及びタンパクの分子量などの量的要素は異なっていてもよい。脂肪細胞分化誘導作用の活性の測定は、自体公知の方法に準じて行なうことができるが、例えば、本発明に係るスクリーニング方法の説明において後述する脂肪細胞分化促進活性の測定方法に従って測定することができる。
【0032】
また、配列番号1に示すATMタンパクと「実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク」には、配列番号1で表わされるアミノ酸配列中の1または2以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個)のアミノ酸を人為的に欠失、付加、置換、挿入したアミノ酸配列を有する改変タンパク質も含まれる。改変タンパクの一例として、強制的に脂肪細胞に取り込ませることを目的として、TAT配列を付加したATMタンパクが考えられる。
【0033】
ATMタンパク及びATMタンパク誘導体(以下「ATMタンパク等」ともいう)の塩としては、特に生理学的に許容される酸付加塩が含まれる。このような塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩がある。
【0034】
ATMタンパク等のC末端は、通常カルボキシル基(-COOH)またはカルボキシレート(-COO-)であるが、C末端がアミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)であってもよい。エステルにおけるRは、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルもしくはn−ブチルなどのC1-6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α−ナフチルなどのC6-12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル−C1-2アルキル基もしくはα−ナフチルメチルなどのα−ナフチル−C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基のほか、経口用エステルとして汎用されるピバロイルオキシメチルエステルなどであってよい。
【0035】
ATMタンパク等が、C末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明の範囲に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したエステルなどが用いられる。さらに、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成するN末端のグルタミン酸残基がピログルタミン化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上にある、例えばOH、COOH、NH2、SHなどが適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖タンパク質などの複合タンパク質なども本発明に含まれる。
【0036】
(ATMタンパクの取得方法及びATMタンパク発現ベクター)
ATMタンパクは、ヒトや動物の組織や細胞もしくは培養細胞から抽出・精製することにより得ることができる。ヒトや動物の組織又は細胞をホモジナイズした後、酸などで抽出を行ない、抽出液を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーで処理し、ATMタンパクを単離精製する。
【0037】
また、ATMタンパク及びATMタンパク誘導体は、公知の遺伝子工学的手法を用いて、組み換えタンパク質として精製することもできる。組換えタンパク質発現系は、目的タンパク質を大量に生産し、簡便かつ高純度に精製することができる手法として多用されている。
【0038】
具体的には、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、細胞や組織由来のcDNA、cDNAライブラリーなどからATM遺伝子に特異的なプライマーを用いてATM遺伝子cDNAを増幅する。あるいは、細胞や組織からtotalRNAまたはmRNAを抽出し、Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction(RT-PCR)によってATM遺伝子cDNAを増幅してもよい。増幅されたcDNAをベクターにクローニングし、ATM遺伝子を発現する発現ベクターを構築し、これを宿主細胞に導入してATMタンパク等を発現させる。
【0039】
この際、発現ベクターには、大腸菌由来や枯草菌由来、酵母由来のプラスミドや、バクテリオファージ、レトロウイルス,ワクシニアウイルス,バキュロウイルスなどの動物ウイルスなどが用いられる。プロモーターは、遺伝子発現に用いる宿主細胞に応じて適切なプロモーターを選択して使用する。宿主細胞としては、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などが用いられる。宿主細胞への発現ベクターの導入(形質転換体の作製)は、宿主細胞に応じて公知の手法によって行うことができ、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法等を採用できる。形質転換体の細胞培養についても、宿主細胞に応じて公知の培地及び培養条件で行えばよい。
【0040】
培養物からATMタンパク等を分離精製するには、例えば、下記の方法により行なうことができる。培養後の宿主細胞を集め、これを適宜蛋白質変性剤や界面活性剤を加えた緩衝液に懸濁し、超音波処理やリゾチーム添加、凍結融解などによって細胞を破壊したのち、遠心分離やろ過によってタンパクの粗抽出液を得る。抽出液中に含まれるタンパクの精製は、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的新和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などを用いて行うことができる。
【0041】
さらに、ATMタンパク等は、合成タンパクとして得ることもできる。タンパク合成は、クロロメチル樹脂やヒドロキシメチル樹脂、ベンズヒドリルアミン樹脂、アミノメチル樹脂、4−ベンジルオキシベンジルアルコール樹脂等の通常用いられるタンパク質合成用樹脂を使用して行うことができる。このような樹脂を用い、α−アミノ基と側鎖官能基を適当に保護したアミノ酸を、目的とするタンパク質の配列通りに、各種縮合方法に従い樹脂上で縮合させる。反応の最後に樹脂からタンパク質を切り出すと同時に各種保護基を除去し、さらに高希釈溶液中で分子内ジスルフィド結合形成反応を実施し、目的のタンパク質を取得する。
【0042】
(B)医薬品組成物・化粧料組成物・食品組成物
本発明に係る脂肪細胞分化促進剤は、直接的には、例えば、脂肪細胞の発達に障害がある脂肪萎縮性糖尿病などの疾患や、痩せ過ぎの患者に対し適用して、脂肪細胞の分化を促進し、脂質/糖エネルギー代謝の改善を図るために用いられる。また、脂肪細胞の分化メカニズムを解析するための基礎研究において、脂肪細胞の分化を誘導するための試薬として使用することができる。
【0043】
さらに、本発明に係る脂肪細胞分化促進剤によれば、例えば、皮下脂肪組織に投与することで、皮下脂肪細胞を選択的に分化増殖させることが可能と考えられる。これにより、皮下脂肪に対し内臓脂肪が増加した状態を改善し、内臓脂肪貯蓄率の増加に起因するインスリン抵抗性の発現を抑制し、エネルギー代謝を改善できる可能性がある。
【0044】
また、例えば、脂肪組織に投与して、脂肪前駆細胞からの正常な脂肪細胞の分化を促進することで、アディポカインの分泌を亢進させることが可能と考えられる。これにより、分泌されたアディポカインを、肥大化した大型脂肪細胞から分泌されるTNFαやレジスチンなどのインスリン抵抗性分子と拮抗させ、インスリン抵抗性の発現を防止して、エネルギー代謝を改善できる可能性がある。
【0045】
従って、本発明に係る脂肪細胞分化促進を有効成分として含有する医薬組成物は、特に肥満及び肥満に関連する疾患の予防、改善又は治療するために有効と考えられる。
【0046】
「肥満に関連する疾患」としては、糖尿病、動脈硬化症、高脂血症、心臓病、血管障害、痛風、脂肪肝、胆石、膵臓炎、変形性関節症、ヘルニア等が知られており、本発明に係る医薬組成物の適用疾患にはこれらの疾患が含まれるが、他の疾患への適用を除外するものではない。
【0047】
また、本発明において「予防」には、上記の疾患を罹患する前段階の予防だけではなく、疾患治療後の再発に対する予防も含まれる。
【0048】
本発明に係るATMタンパク等を含有する脂肪細胞促進剤を有効成分とする医薬組成物(以下「医薬組成物(タンパク)という」)は、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液又は懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。医薬組成物(タンパク)は、本発明に係るATMタンパク等を含有する脂肪細胞分化誘導促進剤を、生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造される。錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。
【0049】
本発明に係る医薬組成物(タンパク)の投与量は、剤型の種類、投与方法、投与対象者(動物を含む)の年齢や体重、症状等を考慮して決定されるものである。
【0050】
また、本発明に係るATMタンパク等を発現可能な発現ベクター含有する脂肪細胞促進剤を有効成分とする医薬組成物(以下「医薬組成物(ベクター)」という)は、上述のATMタンパクの取得方法において説明した発現ベクターを含んでなる。
【0051】
発現ベクターは、ウイルスベクターやが好適であり、例えば、アデノウイルス、センダイウイルス、又はこれらをリポソームと融合させたものを使用できる。発現ベクターの核酸は一本鎖または二本鎖であってもよく、RNA又はDNAであってよい。発現ベクターに含まれるATMタンパク等のコード領域は、通常1つであるが、2以上の配列を含んでいてもよい。
【0052】
本発明に係る医薬組成物(ベクター)の投与は、上述の宿主細胞への発現ベクターの導入方法と同様のトランスフェクション法によって、例えば、投与対象者の脂肪組織内に直接局所投与し得る。また、経口経路、直腸経路、鼻腔経路、血管経路等によって行うことも可能である。
【0053】
本発明に係るATMタンパク等を含有する脂肪細胞分化促進剤は、これを有効成分として含有し、肥満及び肥満に関連する疾患の予防、改善又は治療を目的とする化粧料組成物及び食品組成物としても供給され得る。
【0054】
本発明に係る化粧料組成物は、例えば、化粧水、ローション、クリーム、パック等として、公知の化粧品成分を用いて、常法により調製することができる。
【0055】
具体的には、本発明に係るATMタンパク等を含有する脂肪細胞分化誘導促進剤と、流動パラフィン、イソパラフィン、ワセリン、スクワラン、ミツロウ、カルナウバロウ、ラノリン、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソパルミチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソオクチル酸セチル、トリイソオクチル酸グリセリル、トリカプリル酸グリセリル、カプリル酸及びカプリン酸の混合脂肪酸のトリグリセリド、ジイソオクチル酸ネオペンチルグリコールエステル、リンゴ酸ジイソステアリル、イソノナン酸イソノニル、12−ヒドロキシステアリン酸コレステリル、イソステアリン酸ジペンタエリスリトールエステル、オリーブ油、ホホバ油、月見草油、ユーカリ油、大豆油、菜種油、サフラワー油、パーム油、ゴマ油、米胚芽油、タートル油、ミンク油、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、ステアリルアルコール、セタノール、ベヘニルアルコール等の油性成分、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリステアレート、グリセリルモノオレエート、グリセリルモノステアレート、レシチン、リゾレシチン、ポリグリセリンやショ糖と前記脂肪酸とのモノ、ジ、トリまたはテトラエステル等の界面活性剤、多価アルコール類、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、天然保湿因子(NMF)、ピロリドンカルボン酸ソーダ、スフィンゴ脂質、リン脂質、コレステロール等の保湿剤、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カラギーナン等の増粘剤、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、安息香酸ナトリウム等の防腐剤、タルク、カオリン、マイカ、ベントナイト、雲母、雲母チタン、酸化チタン、ベンガラ、酸化鉄等の顔料、クエン酸−クエン酸ナトリウム等のpH調節剤、BHT、BHA、ビタミンA類およびそれらの誘導体並びにそれらの塩、ビタミンC類およびそれらの誘導体並びにそれらの塩、ビタミンE類およびそれらの誘導体並びにそれらの塩等の抗酸化剤、ベンゾフェノン誘導体、パラアミノ安息香酸誘導体、メトキシケイ皮酸誘導体、ウロカニン酸等の紫外線吸収剤の適量を適宜組み合わせ、加温もしくは非加温状態で、混合、分散、乳化あるいは溶解させ、液状、ペースト状、ゲル状、クリーム状(半固形状を含む)または固形状となし、本発明の化粧料組成物を得る。
【0056】
また、食品組成物は、本発明に係るATMタンパク等を含有する脂肪細胞分化誘導促進剤に、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤等の通常食品原料として使用されているもを適宜配合することにより製造することができる。
【0057】
本発明に係る食品組成物としては、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品等を挙げることができる。
【0058】
(C)スクリーニング方法
ATMタンパク及びATMタンパク誘導体は、脂肪細胞分化促進剤及び阻害剤のスクリーニングのために用いることが可能である。ここで、「脂肪細胞分化促進(又は阻害)剤」とは、ATMタンパク等の脂肪細胞分化誘導作用を促進(又は阻害)し得る物質を指す。ATMタンパク等は脂肪細胞分化誘導作用を有するため、これらの活性を阻害又はさらに促進し得る物質は、ATMタンパク等と同様に、肥満及び肥満に関連する疾患の予防、改善又は治療のための有効な薬剤となると考えられる。
【0059】
脂肪細胞分化促進(又は阻害)剤の候補物質としては、例えば、精製タンパク質、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成ペプチドのライブラリー、抗体、細胞抽出液、細胞培養上清、合成低分子化合物のライブラリー、リボザイム、アンチセンス核酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
(スクリーニング方法の第一段階)
本発明に係る脂肪細胞分化促進(又は阻害)剤のスクリーニング方法の第一の段階は、(a)ATMタンパク等と候補物質とを接触させる工程と、(b)ATMタンパク等と候補物質との結合を検出する工程と、(c)結合した候補物質を選択する工程を含む。
【0061】
具体的には、例えばタンパクを候補物質とする場合、以下の方法により行うことができる。ATMタンパク等と結合するタンパクを発現していることが予想される組織もしくは細胞からcDNAライブラリーを作製し、これを発現させて得たタンパクをフィルター上に固定し、ビオチン標識あるいはGSTタグ標識を行ったATMタンパク等をハイブリダイズさせ、ストレプトアビジンあるいは抗GST抗体により検出する。これにより、ATMタンパク等と結合するタンパクを得ることが可能である。
【0062】
別法として、従来公知のツーハイブリッドシステムに従い、実施することもできる。ツーハイブリッドシステムにおいては、ATMタンパク等をSRF結合領域またはGAL4結合領域と融合させて酵母細胞の中で発現させ、ATMタンパク等と結合するタンパク質を発現していることが予想される細胞から、VP16又はGAL4転写活性化領域と融合する形で発現するようなcDNAライブラリーを作製する。これを上記酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンからライブラリー由来cDNAを単離する。さらに、単離されたcDNAを大腸菌に導入、発現させれば、目的とするタンパクを得ることができる。
【0063】
さらに、例えば、ATMタンパク等を固定化したアフィニティーカラムに、ATMタンパク等と結合するタンパク質を発現していることが予想される細胞の培養上清もしくは細胞抽出物を通過させ、カラムに特異的に結合するタンパクを精製することにより、ATMタンパク等と結合するタンパクを得ることもできる。
【0064】
合成低分子化合物や合成ペプチドを候補物質とする場合には、固定化したATMタンパク等に、合成低分子化合物等を作用させ、結合する物質をスクリーニングする方法や、コンビナトリアルケミストリー技術によるハイスループットを用いたスクリーニングによりATMタンパク等に結合する低分子化合物やペプチドなどを得る。
【0065】
また、表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを使用して、ATMタンパク等に結合した低分子化合物やペプチドなどの検出を行うこともできる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサー(Biacore,GEHealthcare)は、ATMタンパク等と候補物質との間の相互作用を微量のタンパク質を用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である
【0066】
(スクリーニング方法の第二段階)
このスクリーニングの第一段階によって得られた候補化合物は、ATMタンパク等に結合して、そのシグナル伝達を制御することにより、ATMタンパク等の有する脂肪細胞分化誘導作用を促進(又は阻害)する物質の候補となる。
【0067】
本発明に係るスクリーニング方法の第二の段階は、得られた候補物質がATMタンパク等の分化誘導作用に及ぼす影響を評価することによって、候補物質の中から脂肪細胞分化促進作用又は阻害作用を有する物質の選別を行う。
【0068】
第二段階は、具体的には、(a)ATMタンパク等を発現し得る細胞を候補物質存在下にて培養する工程、(b)脂肪細胞分化促進活性を測定する工程、(c)候補物質非存在下で培養した対照細胞との比較により、脂肪細胞分化促進活性を増強(又は阻害)する候補物質を選択する工程、を含む。
【0069】
この第二段階において、脂肪細胞への分化誘導は、公知の分化刺激カクテルを培養液に添加して行うことができ、例えば、デキサメサゾン、1-メチル3-イソブチルキサンチン、インシュリンからなるカクテルを好適に採用できる。また、候補物質としてタンパクやRNAを用いる場合には、これらをコードするcDNAを上述したベクターを用いて細胞内へ導入し、発現させる。あるいは、タンパクやRNAをマイクロインジェクション等により直接細胞内へ導入する。
【0070】
脂肪細胞分化促進活性の測定は、例えば、実施例において用いた胎児線維芽細胞(MEF)や線維芽細胞3T3L1細胞などの脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程において、細胞質内に形成される脂肪滴を指標として脂肪細胞を検出することにより行うことができる。この方法では、脂肪滴を有する細胞が多く検出される程、脂肪細胞分化促進活性が強いこととなる。脂肪滴の検出は顕微鏡下における観察により行うことができ、この際細胞をフォルムアルデヒド等で固定しOid-Red O染色を行うことで、赤色に染まる脂肪滴をより明瞭に検出することが可能となる。
【0071】
また、脂肪細胞分化促進活性の測定は、例えば、脂肪前駆細胞から分化した脂肪細胞に蓄積される脂肪酸や中性脂肪、コレステロールエステルの量を生化学的手法により定量することにより行うことが可能である。この方法では、脂肪酸の量が多いほど、脂肪細胞分化促進活性が強いこととなる。
【0072】
さらに、脂肪細胞分化促進活性の測定は、例えば、脂肪細胞に特異的に発現するマーカー遺伝子や、脂肪細胞の分化過程で多量に発現する遺伝子の発現を、ノーザンブロットやリアルタイムPCR、ウェスタンブロット等の分子生物学的手法を用いて検出することにより行うことができる。検出対象とする遺伝子は、例えば、PPARγ遺伝子やC/EBPファミリー遺伝子が好適である。脂肪細胞分化促進活性が強い程、これら遺伝子の発現が増強されることとなる。
【0073】
脂肪細胞分化促進活性の測定の結果、候補物質の添加又は細胞内への導入により有意な活性増強が検出されれば、候補物質は脂肪細胞分化促進剤となり得ると判定される。一方、活性の抑制が検出された場合には、候補物質は脂肪細胞分化阻害剤となり得ると判定される。
【0074】
本発明に係るスクリーニング方法により同定された脂肪細胞分化促進(又は阻害)剤は、本発明に係るATMタンパク等を含有する脂肪細胞分化促進剤と同様の利用が可能であり、医薬組成物や化粧料組成物、食品組成物として提供され得る。
【0075】
(D)疾患の発症リスク評価方法及び太りやすさの評価方法
次に、本発明に係る疾患の発症リスク評価方法及び太りやすさの評価方法について説明する。
【0076】
本発明者らによって、ATMが脂肪細胞の分化誘導に重要な役割を有していることが明らかにされたことから、被験個体から採取した検体中のATMタンパクの存在量やATM遺伝子の発現量を調べることによって、該被験個体の肥満に関連する疾患の発症リスクや太りやすさを評価することが可能となった。
【0077】
また、ATM遺伝子の遺伝子多型/変異は、脂肪組織におけるATM遺伝子又はタンパクの発現量に影響を与え、さらにアミノ酸配列の変化を介してATMタンパクの脂肪細胞分化誘導活性そのものにも影響を与え得る。従って、被験個体のATM遺伝子の遺伝子多型/変異を検出することによっても、該被験個体の肥満に関連する疾患の発症リスクや太りやすさの評価を行うことが可能である。
【0078】
ここで、肥満に関連する疾患には、上述の通り、糖尿病、動脈硬化症、高脂血症、心臓病、血管障害、痛風、脂肪肝、胆石、膵臓炎、変形性関節症、ヘルニア等が含まれるが、これら以外の疾患への適用を除外するものではない。
【0079】
(ATMタンパクの存在量の測定)
ATMタンパク(配列番号1参照)の存在量を測定する方法としては、被検個体から採取した検体中に含まれるATMタンパクを抽出し、例えば、プロテインチップ(Ciphergen)や免疫学的方法(ELISA、EIA法、ウェスタンブロッティング)を行う方法が挙げられる。被験個体から採取する検体は、各種細胞や組織であってよいが、特に脂肪組織を採取することが望ましい。検体として細胞や組織を採取した場合には、定法により細胞等からタンパクを抽出し、上記に例示した方法によりATMタンパクの発現量を測定する。また、検体として血液や尿を採取し、血液や尿中に現れるATMタンパクの存在量を測定してもよい。
【0080】
(ATM遺伝子の発現量の測定)
ATM遺伝子(配列番号2参照)の発現量は、被検個体から採取した検体からRNAを抽出し、ATM遺伝子に特異的な塩基配列を有するプライマーやプローブを用いてRT−PCRやDNAアレイ、ノーザンハイブリダイゼーション等を行うことにより測定することができる。
【0081】
(ATM遺伝子の遺伝子多型/変異の検出)
ATM遺伝子の遺伝子多型/変異には、SNPs(single nucleotide polymorphism:一塩基多型)のような塩基置換に加え、ミニサテライト、マイクロサテライト等の非コード領域の多型も含まれる。現在までに、ATM遺伝子に関し、コード領域における多数の遺伝子多型/変異が報告されている(上記特許文献4参照)。従って、本発明においては、これら公知の多型/変異を検出することが好適となる。
【0082】
ATM遺伝子の遺伝子多型/変異の検出は、公知の方法によって行うことができる。例えば、多型部位を含むゲノムDNAの塩基配列を直接決定することによって行うことができる。この方法においては、まず、被検個体から検体を採取しゲノムDNAを抽出する。検体には、被検個体の毛髪、爪、血液、皮膚、口腔粘膜、手術により採取あるいは切除した組織又は細胞、検査等の目的で採取された体液等を用いることができる。また、ゲノムDNAに替えて、これらの組織又は細胞から抽出されたmRNAから逆転写により調整したDNAを用いることもできる。
【0083】
次いで、得られたDNAに関し、多型部位を含む領域を特異的に増幅し得るプライマーを用いて、PCR増幅及びシークエンスリアクションを行い、DNAシークエンサーを用いて多型部位の塩基配列を決定する。
【0084】
予め多型部位の塩基配列のバリエーションが明らかにされている場合には、そのバリエーションを同定するための公知の方法が採用される。例えば、TaqMan PCR法、Intercalator mediated FRET probe (IFP)法、AcycloPrime法、およびMALDI-TOF/MS法等が実用化されている。この他、Invader法やRCA法、アレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法、多型検出用のDNAアレイによって、多型の検出を行うことができる。また、従来方法として、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR-RFLP法、PCR-SSCP法、変性剤濃度勾配ゲル(denaturant gradient gel electrophoresis: DGGE)法等を採用することもできる。
【0085】
このうち、TaqMan PCR法は、多型部位を含む領域を増幅することができるプライマーセットと、TaqManプローブを利用した解析方法である。TaqMan PCR法は、プローブの解離温度(Tm)に近い条件でハイブリダイズ反応を行ない、1塩基の相違によってTaqManプローブのハイブリダイズ効率が著しく低下することを利用している。
【0086】
TaqManプローブの存在下でPCR法を行うと、プライマーからの伸長反応は、ハイブリダイズしたTaqManプローブに到達する。このときDNAポリメラーゼの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性によって、TaqManプローブは5'末端から分解される。TaqManプローブをレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、TaqManプローブの分解によって、クエンチャーから遊離したレポーター色素からの蛍光シグナルが検出されるようになる。このとき、プローブと標的塩基配列に1塩基以上の相違が存在すると、TaqManプローブのハイブリダイズが低下することとなるため、プローブの分解が進まず蛍光シグナル強度が低下する。従って、この蛍光シグナル強度の低下を検知することによって、多型の存在を検出することが可能となる。
【0087】
さらに、各多型に対応するTaqManプローブをデザインし、各プローブに異なるレポーター色素を標識すれば、同時に塩基種の判定を行うこともできる。例えば、レポーター色素として、ある多型1のTaqManプローブに6-carboxy-fluorescein(FAM)を、多型2のプローブにVICを標識する。プローブが分解されない状態では、クエンチャーによってレポーター色素の蛍光シグナル生成は抑制されている。各プローブが対応する多型にハイブリダイズすれば、ハイブリダイズに応じたレポーター色素からの蛍光シグナルが観察される。これにより、FAMまたはVICのいずれかのシグナルが得られた場合には、多型1又は多型2のホモの多型を検出できる。また、FAM及びVICのシグナルがほぼ同じレベルで得られた場合には、多型1又は多型2のヘテロの多型を検出できる。
【0088】
Intercalatormediated FRET probe (IFP)法は、多型部位を含む領域を増幅することができるプライマーセットと、FRETプローブを利用した解析方法である。
【0089】
IFP法においては、まず、多型部位を含む領域を増幅することができるプライマーセットにより該領域を増幅し、増幅産物を得る。次に、増幅産物を蛍光標識する。蛍光試薬としては、二重鎖DNAに結合することによってのみ蛍光を発し、二重鎖DNAに結合してない遊離状態ではほとんど蛍光しないようなインターカレータ性蛍光試薬(SYBR Green等)が用いられる。次に、蛍光標識された増幅産物と、該蛍光と蛍光エネルギー共鳴反応(FRET)を起し得るような対応する蛍光により標識されたFRETプローブを会合させ、蛍光エネルギー共鳴反応を促す。次に、徐々にこの産物を加熱することにより、増幅産物とFRETプローブとを解離させ、蛍光エネルギー共鳴反応を消失させる。このとき、蛍光エネルギー共鳴反応が消失する温度を測定することにより、FRETプローブと増幅産物の配列が一致すれば、前記温度は比較的高くなり、不一致であれば、前記温度は比較的低くなる。これにより、FRETプローブと増幅産物の配列の一致・非一致を判定し、多型を検出することが可能である。
【0090】
以上のようにして、ATMタンパクの存在量やATM遺伝子の発現量の測定、ATM遺伝子の遺伝子多型/変異の検出を行い、その結果を解析することにより、被験個体の疾患発症リスク又は太りやすさを判定することが可能となる。
【実施例】
【0091】
(実施例1)ATM欠損マウスにおける耐糖能異常の検討
ヒトA-T患者で推定された脂質/糖エネルギー代謝機構の障害がATM欠損マウスにおいて確認できるかを検証する目的でブドウ糖負荷試験を行った。
【0092】
実験前夜より16時間絶食させ、試験前血糖値が50-90mg/dlにあるマウス(8〜10週齢)の腹腔内に10% D-glucose (Sigma-Aldrich)を 1g/kgで投与し、投与後0, 30, 60, 120分の時点で採血を行い、トーエコースーパー2(京都第一科学)を用いて血糖値の測定を行った。
【0093】
血糖値の測定結果を「図1」に示す。横軸は時間、縦軸は血糖値(mg/dl)を示す。結果は、4回の独立した試験の平均値により示す。
【0094】
結果、ATMホモ欠損マウス(ATM−/−)は、野生型マウス(ATM+/+)に比していずれの測定時間でも有意に高い血糖値を示し、耐糖能異常を呈することが明らかとなった。なお、野生型マウスとATMヘテロ欠損マウス(ATM+/−)の間には有意差はみられなかった。
【0095】
(実施例2)ATM欠損マウスにおけるインスリン分泌能及びインスリン感受性の検討
実施例1でATM欠損マウスにみられた耐糖能異常が、インスリン抵抗性に基づくものであるかを明らかにするため、糖負荷後のインスリン分泌量の測定と、インスリン投与後の血糖値の測定を行った。
【0096】
インスリン分泌量は、上記ブドウ糖負荷試験において投与0、20分後の時点で採血を行い、Insulin (Mouse) Ultrasensitive EIA (ALPCO DIAGNOSTICS)を用いて血中濃度を測定した。インスリン投与後の血糖値の測定は、マウス(8〜10週齢)の腹腔内にインスリン(Sigma-Aldrich)を 0.75IU/kgで投与し、投与後0,30,60,120分の時点で採血を行い、プレシジョンエクシード(アボットジャパン株式会社)を用いて測定を行った。
【0097】
インスリン分泌量の測定結果を「図2」に示す。また、インスリン投与後の血糖値の測定結果を「図3」に示す。図3中、横軸は時間、縦軸は血糖値(mg/dl)を示す。結果は、4回の独立した試験の平均値により示す。
【0098】
結果、ATMホモ欠損マウスにおけるブドウ糖負荷後のインスリン分泌量は、野生型マウスに比してむしろ高く、インスリン分泌能に異常は見られなかった(図2参照)。一方、インスリン投与後のATMホモ欠損マウスの血糖値は、野生型マウスに比して有意に高く、ATMホモ欠損マウスではインスリン感受性が低下していることが明らかになった(図3参照)。これらの結果は、ATMホモ欠損マウスにおける耐糖能異常がインスリン抵抗性に基づくものであることを示している。
【0099】
(実施例3)ATM欠損マウスにおける血中アディポネクチン濃度及びレプチン濃度の測定
インスリン感受性は、脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンやレプチンなどのアディポカインによって規定される。ATM欠損マウスにおけるインスリン感受性低下の要因を明らかにするため、これらアディポカインの血中濃度の測定を行った。
【0100】
アディポネクチン及びレプチン濃度の測定は、マウスの心臓から全血を採取し、Mouse Adiponectin(SPI BIO)、マウスレプチン測定キット(森永生科学研究所)を用い、添付のプロトコールに従って測定を行った。
【0101】
アディポネクチン及びレプチン濃度の測定結果を「図4」に示す。(A)は血中アディポネクチン濃度、(B)は血中レプチン濃度を示す。図中、縦軸は血糖値(ng/ml)を示す。結果は、4回の独立した試験の平均値により示す。
【0102】
結果、ATMホモ欠損マウスの血中アディポネクチン濃度(A)及び血中レプチン濃度(B)は、野生型マウス(ATM+/+)に比して有意に低かった。また、血中アディポネクチン及びレプチン量の低下は、ATMヘテロ欠損マウスにおいても認められた。これらの結果は、ATM欠損マウスにおけるインスリン感受性の低下に、アディポネクチン及びレプチンの分泌障害が関与していることを示している。
【0103】
(実施例4)ATM欠損マウスの脂肪貯蔵比率の検討
アディポカインによるインスリン感受性の規定には、皮下脂肪組織と内臓脂肪組織のバランスが大きく影響していることが知られている。ATM欠損マウスにおけるアディポネクチン及びレプチンの分泌障害の要因を明らかにするため、皮下脂肪組織と内臓脂肪組織の脂肪貯蔵比率の検討を行った。
【0104】
10週齢のマウスの内臓脂肪(大網、腸間膜、腎臓周囲、性腺周囲脂肪)に対する皮下脂肪貯蔵率比を測定した。野生型マウス及びATMホモ欠損マウス背面より皮下脂肪組織を採取した。また内臓脂肪組織として大網、腸間膜、腎臓周囲、性腺周囲脂肪を採取した。それぞれの重量を測定し、その比を検討した。 また、皮下脂肪組織のパラフィン切片を作成し、組織学的検討を行った。
【0105】
皮下脂肪貯蔵率比の測定結果を「図5」に示す。図中、縦軸は内臓脂肪量に対する皮下脂肪量の比率を示す。また、「図6」には、皮下脂肪組織の組織像を示す。(A)は野生型マウス、(B)はATMホモ欠損マウスの組織像を示す。
【0106】
結果、ATMホモ欠損マウスは、野生型マウスに比べ、内臓脂肪に対する皮下脂肪貯蔵率比が低いことが明らかとなった(図5参照)。また、図6に示す組織像において、ATMホモ欠損マウスは、皮下脂肪組織がほとんど認められなかった。これらの結果から、ATMホモ欠損マウスでは、皮下脂肪組織の発達が顕著に阻害されており、脂肪細胞の分化や局在に異常が生じていることが示された。
【0107】
(実施例5)ATM欠損マウスへの皮下脂肪組織移植による検討
ATM欠損マウスに正常な皮下脂肪組織を移植することにより、インスリン抵抗性の改善を試みた。
【0108】
野生型マウス背面より皮下脂肪組織0.8gを採取し、ATMホモ欠損マウスの背面に3箇所に分けて移植した。術後の回復期を設け、その後ATMホモ欠損マウス(ATM-/-脂肪移植)について、上記と同様の方法でブドウ糖負荷試験を行った。
【0109】
血糖値の測定結果を「図7」に示す。横軸は時間、縦軸は血糖値(mg/dl)を示す。結果は、4回の独立した試験の平均値により示す。
【0110】
結果、皮下脂肪組織を移植したATMヘテロ欠損マウスでは、耐糖能異常が改善し、野生型マウスとほぼ同様のレベルにまで血糖値が低下した。
【0111】
以上、実施例1〜5の結果から、ATM欠損マウスでは、ATMの欠損によって脂肪細胞の適切な分化が障害され、皮下脂肪組織と内臓脂肪組織のバランスが不均衡となることで、アディポネクチン及びレプチン等のアディポカインの分泌が障害され、インスリン抵抗性が発現していることが強く示唆された。
【0112】
(実施例6)ATM欠損細胞を用いた脂肪細胞への分化誘導実験
ATM欠損マウスで得られた実験結果から、ATM欠損細胞では脂肪細胞分化に障害があることが予想された。そこで、野生型マウス及びATM欠損マウスの胎児線維芽細胞(MEF)に脂肪細胞分化刺激を与え、脂肪細胞の分化状態をin vitroで観察した。
【0113】
MEFの培養は、10% Fetal Bovine Serum (FBS), 2mML-glutamine, 0.1mM non essential amino acid, 55μMβ-Mercaptoethanol, 1% penicillin / streptomycine (GibcoInvitrogen, Carlsbad, CA)を含むDMEM (Sigma-Aldrich, St.Louis, Mo) で37 ℃、5% CO2条件下にて行った。
【0114】
コラーゲンコート済みの細胞培養皿にMEFを播種し、細胞接着阻止がかかるまで培養した。細胞接着阻止が起こったことを確認した後、MEFの脂肪細胞への分化刺激カクテルとして公知の0.5mM 3-Isobutyl-Metyhl-Xanthine(3-IMX)、1μM dexamethason、5μg/ml insulin (Sigma-Aldrich)を含む分化誘導培地に交換し、2日毎に分化誘導培地を交換した。
【0115】
分化刺激後、細胞をPBSで洗い、10% formaldehydeで室温10分固定、60% isopropanolに置換した後、Oil-Red O 染色液(3% Oil-Red O (Sigma-Aldrich)、60% isopropanol)で室温10分間染色した。染色後60% isopropanolで洗浄し、PBSで洗浄の後、顕微鏡で観察した。また、酵素法(GK-GPO・遊離グリセロール消去)により中性脂肪量の測定を行った。
【0116】
分化刺激後の細胞をトリプシン処理、回収し、BrdU Flow Kit(BD Biosciences Pharmingen)を用いて固定・染色等を行い、さらに、分化刺激後の細胞の細胞周期をBrdUの取り込みをもとにフローサイトメトリーにより解析した。
【0117】
分化刺激後8日目にOil-Red O 染色を行った結果を「図8」に、中性脂肪量の測定結果を「図9」に示す。図9中、縦軸は細胞抽出タンパク量当たりの中性脂肪量(mg/mg protein)を示す。また、細胞周期の測定結果を「図10」に示す。
【0118】
結果、野生型MEFでは、分化刺激後Oil-Red O染色により赤く染まる脂肪滴を有する成熟脂肪細胞が多数認められた(図8(A)及び(B)参照)。また、細胞中には多量の中性脂肪の蓄積が認められた(図9参照)。これに対して、ATM欠損MEFでは、Oil-Red O染色陽性像が顕著に少なく、細胞内への中性脂肪の蓄積もみられなかった。
【0119】
細胞周期G0/G1期に停止した前駆脂肪細胞は、脂肪細胞への分化刺激により、成熟脂肪細胞へと分化する前に1〜2回細胞分裂を生じるクローン増殖を起こし、このクローン増殖の完了後、細胞は再び細胞周期を停止して、成熟脂肪細胞へと分化することが知られている。
【0120】
図10上段に示す野生型細胞では、分化刺激後1日目及び3日目においてはクローン増殖過程にある細胞がそれぞれ全体の7.0%,8.7%存在している(図中ゲートしたポピュレーション参照)が、成熟脂肪細胞への分化が完了する8日目においてはクローン増殖過程にある細胞は1.1%にまで減少している。このことは、分化刺激後8日目では、多くの細胞が細胞周期を停止し、脂肪細胞への成熟過程に進行していることを示している。
【0121】
これに対して、ATM欠損細胞では、分化刺激後8日目においても、クローン増殖過程にある細胞が全体の8.3%存在し、これは1日目(6.7%)及び3日目(7.5%)に比べてむしろ増加している。このことは、ATM欠損細胞では、分化刺激後も細胞周期が停止せずクローン増殖が繰り返され、脂肪細胞の成熟過程への移行が起こらないことを示している。
【0122】
これらの結果から、ATM欠損細胞では、分化刺激による脂肪細胞への分化が顕著に阻害されることが明らかとなった。このことは、ATMが脂肪細胞の分化誘導作用を有し、脂肪細胞分化に重要な役割を有していることを強く示唆している。
【0123】
次に、ATMの脂肪細胞分化への関与を確認するため、ATM阻害剤であるCaffeine 又はKU55933の存在下において、同様の脂肪細胞分化誘導実験を行った。ここでは、上記の分化誘導障害がMEF細胞特異的な結果でないことを確認するため、分化誘導実験で一般的に用いられる線維芽細胞3T3L1細胞を用い実験を行った。なお、この3T3L1細胞はATMを正常に発現する細胞である。
【0124】
3T3 L1細胞の培養は10% FBS, 1% penicillin / streptomycineを含むDMEM (Sigma-Aldrich)を使用し、MEF細胞と同様の条件下にて行った。
【0125】
コラーゲンコート済みの細胞培養皿に3T3L1細胞を播種し、細胞接着阻止がかかるまで培養した。細胞接着阻止がかかったことを確認し、3mM Caffeine (PBSに溶解)またはPBSで処理した。翌日より3mM Caffeine及びPBS含有の上記分化誘導培地と交換し、2日毎にCaffeine含有分化誘導培地を交換した。KU55933 (KuDOS, Cambridge, UK, Dr GreameSmithより供与) 処理は、10μM(DMSOに溶解)もしくはDMSOにより同様の手順にて行った。
【0126】
分化誘導8日目にOil-Red O 染色を行った結果を「図11」に示す。
【0127】
結果、ATM阻害剤であるCaffeine及びKU55933存在下では、3T3L1細胞の脂肪細胞への分化が顕著に阻害された。これにより、ATMが脂肪細胞の分化促進作用を有し、脂肪細胞脂肪細胞分化に必須の機能を果たしていることが確認された。
【0128】
(実施例7)ATM欠損細胞における脂肪細胞分化関連転写因子の発現検索
脂肪細胞は、分化刺激後活性化される様々な転写因子により、脂肪前駆細胞から成熟脂肪細胞へ誘導される。そこで、脂肪細胞誘導に必要とされる既知の転写因子について、その発現誘導状態を分化刺激後、野生型及びATM欠損MEFで比較した。
【0129】
定法に従いウェスタンブロットを行った。1x106個の細胞をPBSで洗浄し、RIPA緩衝液(150mM NaCl, 1.0% SDS, 0.1% sodium deoxycholate, 5mM EDTA, 10mM Tris-HCl, pH7.4,プロテアーゼ阻害剤)で溶解した。タンパク濃度はDC protein assay (Bio-Rad, Richmod, CA)を用いて測定した。細胞溶解液は加熱によるSDS化の後、30mgを4%-20%のグラジエントSDSポリアクリルアミドゲル(MultiGel 4/20, Daiichi, Tokyo, Japan)を用いSDS-PAGEを行った。SDS-PAGE の後、PVDFメンブレン (Millipore, Bedford, MA) に転写し、5%スキムミルク・TBS-Tweenでブロッキングの後、目的タンパクを一次抗体でそれぞれ反応し、HRP標識抗ラビット抗体または抗マウス抗体およびECL kit(Amersham Life Science, Bucking- Hamshire,UK)を用いて検出した。一次抗体には、ATM (5C2), C/EBPα(14AA), C/EBPβ(C-19), C/EBPδ(C-22), PPARγ(E-8), IRα (N-20), IGF-1Rβ(C-20) (Santa Cruz Biotechnology,INC)、β-actin(AC-15) ( Sigma-Aldrich)を用いた。
【0130】
ウェスタンブロットの結果を「図12」に示す。図は、分化刺激後0,1,3,6日後のタンパクの発現量を経時的に示している。
【0131】
結果、ATM欠損MEFでは、脂肪細胞分化刺激によって、脂肪細胞の終末分化に必要とされるC/EBPα及びPPARγの発現が全く誘導されていないことが明らかになった。
【0132】
さらに、C/EBPα及びPPARγのmRNAレベルでの発現誘導状態を確認した。
【0133】
定法に従いノーザンブロットを行った。具体的には、1x106個の細胞をPBSで洗浄し、ISOGEN(ニッポンジーン製)を用いて溶解した。添付のプロトコールに従いtotal RNAを抽出し、ホルムアルデヒドにより変性し、電気泳動を行った。メンブレンに転写し、UVクロスリンク後C/EBPαのプローブとハイブリダイズさせた。オートラジオグラフィーを行い、フィルムに検出した。
【0134】
ノーザンブロットの結果を「図13」に示す。また、Power SYBR Green PCR master mix(Applied Biosystems)の蛍光強度を利用し、Real-Time PCR Detector Chromo4(BIO-RAD)により検出するリアルタイムPCRによる定量を行い、β-actin mRNAの発現量で補正を行って得たC/EBPα 及びPPARγ mRNA発現量(相対値)の経時変化を「図14」に示す。図13中、mRNA発現量(縦軸)は、分化誘導0日目の野生型MEFにおけるC/EBPα又はPPARγの発現量を1とした相対値により示す。結果は、4回の独立した試験の平均値により示す。なお、ノーザンブロットの結果は、C/EBPαについてのみを示す。
【0135】
結果、ATM欠損MEFでは、mRNAレベルにおいても、C/EBPα及びPPARγの発現が全く誘導されていないことが明らかとなった。
【0136】
(実施例8)ATM欠損細胞へのC/EBPα導入による分化能の回復実験
ATM欠損細胞に対しC/EBPαを強制発現させ、分化刺激による脂肪細胞への分化能の回復実験を行った。
【0137】
MSCV 2×HA C/EBPαIRES GFPレトロウイルスベクタープラスミドを用いて、リン酸カルシウム法により293T細胞にトランスフェクションを行った。その上清をウイルス液として回収し、ATM欠損MEFに感染させた。GFP陽性を示すC/EBPα導入ATM欠損MEFをソーティングし、脂肪細胞への分化刺激を行った。C/EBPα遺伝子は、パブリックデータベースから得た塩基配列(配列番号3参照)に基づき、公知の手法により上記ウイルスベクターに搭載した。
【0138】
C/EBPαを強制発現させたATM欠損MEFに分化刺激を行った後8日目のOil-Red O 染色の結果を「図15」に、細胞周期の測定結果を「図16」に示す。また、「図14」には、トランスフェクション後、分化刺激を行ったATM欠損MEFにおいてC/EBPαが発現していることをウェスタンブロットにより確認した結果を示す。
【0139】
結果、C/EBPαを強制発現させていないATM欠損MEF(Mock infected)では、分化刺激後Oil-Red O染色陽性像が認められなかったのに対して、C/EBPαを強制発現させたATM欠損MEF(HA-C/EBPα infected)では、赤く染まる脂肪滴を有する成熟脂肪細胞が多数認められた(図15参照)。
【0140】
また、C/EBPαを強制発現させていないATM欠損MEFでは、分化刺激後8日目においても、22.77%の細胞がS期にありクローン増殖過程にあったのに対して、C/EBPαを強制発現させたATM欠損MEFでは、S期の細胞は6.54%と顕著に減少し、多くの細胞が細胞周期を停止して、脂肪細胞への成熟過程に進行していることが確認された。
【0141】
ATM欠損細胞においても、C/EBPαの強制発現によるレスキューを行うことで脂肪細胞への分化能を回復させることができた。この結果は、ATMの脂肪細胞分化誘導作用がC/EBPαの発現誘導を介して機能していることを示している。
【0142】
脂肪細胞への分化初期には、C/EBPβ及びC/EBPδが一過性に誘導され、このC/EBPβ、C/EBPδ依存的に誘導されるC/EBPαやPPARγにより、成熟脂肪細胞への分化過程が開始されることが知られている。C/EBPαは脂肪細胞がインスリン感受性を獲得するのに必要な転写因子であり、PPARγは脂肪蓄積に関与していると考えられている。
【0143】
実施例6〜8の結果から、ATM欠損MEFでは、ATMの欠損により成熟過程に必要なC/EBPα及びPPARγの発現が誘導されないことで、脂肪細胞への分化が阻害されていることが明らかとなった。
【0144】
以上、本実施例により、ATMが脂肪細胞の分化誘導作用を有すること、またATMが脂肪細胞分化の分子メカニズムにおいてC/EBPα及びPPARγの上流で機能し、正常な成熟脂肪細胞の分化に必須の役割を担っていることが初めて明らかにされた。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】ATM欠損マウスにおけるグルコース負荷による血中グルコース濃度の経時変化を示す図である。
【図2】ATM欠損マウスにおけるグルコース負荷後のインスリン分泌量を示す図である。
【図3】ATM欠損マウスにおけるインスリン投与による血中グルコース濃度の経時変化を示す図である。
【図4】ATM欠損マウスのアディポカインの血中濃度を示す図である。(A)血中アディポネクチン濃度。(B)血中レプチン濃度。
【図5】ATM欠損マウスの皮下脂肪貯蔵率比を示す図である。
【図6】ATM欠損マウスの皮下脂肪組織の組織像を示す図である。(A)野生型マウス。(B)ATM欠損マウス。
【図7】正常脂肪組織の移植を行ったATM欠損マウスにおけるグルコース負荷による血中グルコース濃度の経時変化を示す図である。
【図8】ATM欠損細胞を用いた脂肪細胞分化誘導実験の結果を示す図(Oil-Red O 染色)である。
【図9】分化刺激後のATM欠損細胞における中性脂肪量蓄積量を示す図である。
【図10】分化刺激後のATM欠損細胞の細胞周期を示す図である。
【図11】ATM阻害剤存在下における線維芽細胞の脂肪細胞分化誘導実験の結果を示す図である。
【図12】分化刺激を行ったATM欠損細胞内における脂肪細胞分化関連転写因子のタンパク発現量の経時変化を示す図である。
【図13】分化刺激を行ったATM欠損細胞内におけるC/EBPα及びPPARγのmRNA発現量の経時変化を示す図である。
【図14】C/EBPα遺伝子を導入したATM欠損細胞におけるC/EBPαタンパクの発現を示す図である。
【図15】C/EBPα遺伝子を導入したATM欠損細胞を用いた脂肪細胞分化誘導実験の結果を示す図(Oil-Red O 染色)である。
【図16】C/EBPα遺伝子を導入したATM欠損細胞の分化刺激後の細胞周期を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示すATMタンパク、又は脂肪細胞分化誘導活性を有するATMタンパク誘導体、を含有する脂肪細胞分化促進剤。
【請求項2】
前記ATMタンパク、又は前記ATMタンパク誘導体を発現可能な発現ベクターを含有する脂肪細胞分化促進剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の脂肪細胞分化促進剤を有効成分として含有する、肥満あるいは肥満が関連する疾患を予防、改善又は治療するための医薬組成物。
【請求項4】
前記疾患が、糖尿病、動脈硬化症、高脂血症、心臓病、血管障害、痛風、脂肪肝、胆石、膵臓炎、変形性関節症、ヘルニアからなる群より選択される一以上の疾患であることを特徴とする請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1記載の脂肪細胞分化促進剤を有効成分として含有する、肥満あるいは肥満が関連する疾患を予防、改善又は治療するための化粧料組成物。
【請求項6】
請求項1記載の脂肪細胞分化促進剤を有効成分として含有する、肥満あるいは肥満が関連する疾患を予防、改善又は治療するための食品組成物。
【請求項7】
前記ATMタンパク、又は前記ATMタンパク誘導体を用いることを特徴とする、脂肪細胞分化促進剤又は脂肪細胞分化阻害剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
下記(1)又は(2)の工程を含む、肥満あるいは肥満が関連する疾患の発症リスク評価方法。
(1)被験個体から採取した検体中の前記ATMタンパクの存在量又は配列番号2に示すATM遺伝子の発現量を測定する工程。
(2)被験個体について、前記ATM遺伝子の遺伝子多型又は変異を検出する工程。
【請求項9】
下記(1)又は(2)の工程を含む、太りやすさの評価方法。
(1)被験個体から採取した検体中の前記ATMタンパクの存在量又は配列番号2に示すATM遺伝子の発現量を測定する工程。
(2)被験個体について、前記ATM遺伝子の遺伝子多型又は変異を検出する工程。
【請求項1】
配列番号1に示すATMタンパク、又は脂肪細胞分化誘導活性を有するATMタンパク誘導体、を含有する脂肪細胞分化促進剤。
【請求項2】
前記ATMタンパク、又は前記ATMタンパク誘導体を発現可能な発現ベクターを含有する脂肪細胞分化促進剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の脂肪細胞分化促進剤を有効成分として含有する、肥満あるいは肥満が関連する疾患を予防、改善又は治療するための医薬組成物。
【請求項4】
前記疾患が、糖尿病、動脈硬化症、高脂血症、心臓病、血管障害、痛風、脂肪肝、胆石、膵臓炎、変形性関節症、ヘルニアからなる群より選択される一以上の疾患であることを特徴とする請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1記載の脂肪細胞分化促進剤を有効成分として含有する、肥満あるいは肥満が関連する疾患を予防、改善又は治療するための化粧料組成物。
【請求項6】
請求項1記載の脂肪細胞分化促進剤を有効成分として含有する、肥満あるいは肥満が関連する疾患を予防、改善又は治療するための食品組成物。
【請求項7】
前記ATMタンパク、又は前記ATMタンパク誘導体を用いることを特徴とする、脂肪細胞分化促進剤又は脂肪細胞分化阻害剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
下記(1)又は(2)の工程を含む、肥満あるいは肥満が関連する疾患の発症リスク評価方法。
(1)被験個体から採取した検体中の前記ATMタンパクの存在量又は配列番号2に示すATM遺伝子の発現量を測定する工程。
(2)被験個体について、前記ATM遺伝子の遺伝子多型又は変異を検出する工程。
【請求項9】
下記(1)又は(2)の工程を含む、太りやすさの評価方法。
(1)被験個体から採取した検体中の前記ATMタンパクの存在量又は配列番号2に示すATM遺伝子の発現量を測定する工程。
(2)被験個体について、前記ATM遺伝子の遺伝子多型又は変異を検出する工程。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−126823(P2009−126823A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303562(P2007−303562)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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