説明

ATP産生促進剤、およびその利用

【課題】より高いATP産生促進効果を有する物質を提供すること。
【解決手段】ハンニチバナ科(Cistaceae)ゴジアオイ属モンスペリエンシス(学名:Cistus monspeliensis)より抽出されたモンスペリエンシス抽出物を有効成分とするATP産生促進剤を提供する。本発明に係るATP産生促進剤は、高いATP産生促進効果を有することにより、細胞の機能や細胞分裂に必要なエネルギー源としてATPを用いることができ、その結果、細胞の増殖、代謝、修復などの機能の活性化およびアンチエイジングの効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ATP産生促進剤に関する。より詳しくは、天然由来の抗酸化物質を用いたATP産生促進剤、および該ATP産生促進剤を含有する細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤、並びにこれらを含有する医薬品組成物、化粧料組成物および飲食物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の組織、臓器などの全ては、細胞を構成単位として形成されている。この構成単位となる細胞の増殖、代謝、修復、などの細胞本来の機能が低下すると、老化や各種疾病を引き起こす原因となる。例えば、高齢者の脳、皮膚、内臓、骨、など多くの組織では、退行性萎縮が起こり、組織内の細胞数も減少し、生理機能も低下する。
【0003】
細胞内の全ての活動に必要なエネルギー源として、ATP(アデノシン3リン酸:Adenosine triphosphate)が重要な役割を担っている。ATPは、全ての生体の細胞中に存在し、全ての生命活動をつかさどる化学物質である。ATPは、エネルギーを電気的に蓄え、多くのエネルギー代謝に関与する。
【0004】
ATPは、エネルギーを必要とする生体内反応においては、必ず使用される。例えば、糖代謝、生合成、能動輸送、筋収縮、など様々な生体内反応において、重要なエネルギー源として、ATPが機能している。
【0005】
このように、生体のエネルギー代謝に重要な役割を担うATPは、その産生能が低下することにより、細胞の増殖、代謝、修復などの機能が低下し、老化、ひいては細胞死が誘導される場合がある。老化等により低下した細胞の機能を上昇させ、細胞分裂を促進させるためには、分裂に必要なエネルギーを細胞に補給することが大変重要である。
【0006】
そこで、ATP産生を促進し、細胞の機能や細胞分裂に必要なエネルギー源として、ATPを細胞に補給することができ、その結果、細胞の増殖、代謝、修復などの機能の活性化および抗老化(アンチエイジング)の効果が期待できる。
【0007】
ATP産生を促進させる技術として、特許文献1には、ウコン、ヒバマタ、カンゾウ、キナ、アンズ、マルメロ、クララ、クチナシ、サンシシ、クマザサ、グレープフルーツ、ゲンノショウコ、紅茶、緑茶、冬虫夏草、ゴボウ、コメヌカ、シイタケ、アカヤジオウ、シソ、ボダイジュ、ショウガ、ワレモコウ、ドクダミ、シラカバ、スギナ、セキセツソウ、タマサキツヅラフジ、クワ、トウキンセンカ、ダイダイ、マツホド、ブッチャーズブルーム、プルーン及びマロニエからなる群から選ばれる1種又は2種以上の抽出物を有効成分として含有することを特徴とするATP産生促進剤が開示されている。特許文献2には、ナンヨウスギ属植物より選ばれる1種又は2種以上の植物の抽出物を有効成分とするATP産生促進剤が開示されている。特許文献3には、エルゴチオネインを有効成分とすることを特徴とするATP産生促進剤が開示されている。
【0008】
また、細胞増殖を促進させる技術として、特許文献4には、チョウジ(フトモモ科、チョウジノキの花蕾)を低級アルコール及び/または水で抽出した抽出物から精油成分を除去した抽出物、あるいは予め精油成分を除去したチョウジを低級アルコール及び/または水で抽出した抽出物を含有することを特徴とする細胞増殖促進剤が開示されている。
【0009】
また、老化を防止する技術として、特許文献5には、バージンオリーブオイルと、ビタミンと、ビンカミン又はビンポセチン又はビンバーニンのような物質又はビンカマイナー又はクリオセラスロンギフロラスからの薬草抽出物とからなる老化防止用の経口投与組成物が開示されている。
【0010】
ここで、本発明に関わりのあるモンスペリエンシスについて説明する。モンスペリエンシスは、ハンニチバナ科(Cistaceae)ゴジアオイ属に属し、その学名はCistus monspeliensisである。南ヨーロッパから北アフリカの地中海沿岸の斜面や丘などに分布する多年生植物で、白い花と枝分かれした葉を有し、強い芳香性を有する事を特徴とする。
【0011】
その薬効的作用としては、抗酸化機能のほか、抗菌作用や抗炎症作用を有することが報告されている(非特許文献1および非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−256272号公報
【特許文献2】特開2007−106741号公報
【特許文献3】特開2003−231626号公報
【特許文献4】特開2008−013522号公報
【特許文献5】特開2008−017734号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Attaguile et al., (2000) Cell biology and toxicology 16(2) 83-90.
【非特許文献2】Bouamama et al., (2006) Journal of Ethnopharmacology 104, 104-107.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述の通り、ATP産生を促進できれば、細胞の機能や細胞分裂に必要なエネルギー源としてATPを用いることができ、その結果、細胞の増殖、代謝、修復などの機能の活性化および抗老化(アンチエイジング)の効果が期待できる。前記のように、細胞増殖促進効果やATP産生促進効果を有する種々の物質が提案されているが、より効果の高い物質が期待されているのが現状である。
【0015】
そこで、本発明は、安全性が高くより高いATP産生促進効果を有する物質を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、ATP産生促進効果を有する種々の物質を探索した結果、北アフリカ植物資源の抗酸化物質に着目することにより、特定の食資源が高いATP産生促進効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
即ち、本発明では、まず、ハンニチバナ科(Cistaceae)ゴジアオイ属モンスペリエンシス(学名:Cistus monspeliensis)より抽出されたモンスペリエンシス抽出物を有効成分とするATP産生促進剤を提供する。
本発明に係るATP産生促進剤は、トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)、ホスホグルコムターゼ(PGM)、ATP合成酵素(ATP synthase)から選ばれる1種または2種以上の酵素の産生を促進することによりATP産生を促進することができる。
本発明に係るATP産生促進剤は、これを有効成分として含有させることにより、細胞増殖促進剤として用いることができる。
また、本発明に係るATP産生促進剤は、これを有効成分として用いることにより、アンチエイジングに有用である。
また、本発明に係るATP産生促進剤は、薬理学的に許容され得る添加剤を加え、医薬品組成物または化粧料組成物、あるいはアンチエイジング用飲食物として適用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るATP産生促進剤は、高いATP産生促進効果を有するため、細胞機能の活性化およびアンチエイジングを実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1におけるMTTアッセイの結果を示す図面代用グラフである。
【図2】実施例2における細胞内ATP量の測定結果を示す図面代用グラフである。
【図3】実施例3におけるトリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)およびホスホグルコムターゼ(PGM)のmRNA発現量の測定結果を示す図面代用グラフである。
【図4】実施例4におけるATP合成酵素(ATP synthase)のmRNA発現量の測定結果を示す図面代用グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0021】
<ATP産生促進剤・細胞増殖促進剤・アンチエイジング剤>
本発明に係るATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤は、モンスペリエンシス抽出物を有効成分とする。本発明に係るATP産生促進剤は、ATPの産生を促進することにより細胞増殖を促進することができる。即ち、高いATP産生促進効果を有することにより、細胞の機能や細胞分裂に必要なエネルギー源としてATPを用いることができ、その結果、細胞の増殖、代謝、修復などの機能の活性化およびアンチエイジングの効果を発揮する。
【0022】
本発明に係るATP産生促進剤は、後述する実施例に示すとおり、解糖系の酵素であるトリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)および/またはホスホグルコムターゼ(PGM)や、電子伝達系の酵素であるATP合成酵素(ATP synthase)の産生を促進することにより、ATP産生を促進することができる。即ち、解糖系および/または電子伝達系の働きを活性化させることができ、その結果、ATP産生を促進し、細胞の増殖、代謝、修復などの機能の活性化およびアンチエイジングの効果を発揮する。
【0023】
本発明において、モンスペリエンシス抽出物とは、ハンニチバナ科(Cistaceae)ゴジアオイ属モンスペリエンシス(学名:Cistus monspeliensis)の種子、根茎、茎、葉、花など適当な部位を、適当な溶媒で抽出して得られる抽出物を言い、通常、抽出した溶媒の濃厚溶液として使用する。また、該濃厚溶液を凍結乾燥させたものも、本発明に係るATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤に用いることが可能である。
【0024】
抽出に用いるハンニチバナ科(Cistaceae)ゴジアオイ属モンスペリエンシス(学名:Cistus monspeliensis)の具体的部位は、本発明の目的を損なわなければ特に限定されず、目的に応じて、種子、根茎、茎、葉、花などあらゆる部位を自由に選択して用いることができる。また、それぞれの部位を湯通しして乾燥させた乾燥物などを用いて抽出を行うことも可能である。本発明においては特に、葉を乾燥させた乾燥物を適当な大きさに粉砕して用いることが好ましい。
【0025】
抽出に用いる溶媒も特に限定されず、通常、植物抽出に用いることができる溶媒を1種または2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、水、アルコール類、グリコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭素類などを挙げることができる。アルコール類としては、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられる。グリコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール及びプロピレングリコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸エチルなどが挙げられる。これらの溶媒は単独或いは水溶液として用いても良く、任意の2種または3種以上の混合溶媒として用いても良い。この中でも本発明においては、特に、水、エタノールをそれぞれ単独、もしくはこれらを組み合わせて用いることが好ましい。
【0026】
抽出方法も特に限定されず、通常の抽出方法を自由に選択して用いることができる。例えば、前記溶媒にハンニチバナ科(Cistaceae)ゴジアオイ属モンスペリエンシス(学名:Cistus monspeliensis)の任意の部位を所定時間浸漬した後に濾過する方法、溶媒の沸点以下の温度で加温、攪拌等しながら抽出した後に濾過する方法、などが挙げられる。
【0027】
抽出したモンスペリエンシス抽出物は、そのままでも本発明に係るATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤の有効成分として用いることができるが、当該抽出物を更に、適当な分離手段(例えば、分配抽出、ゲル濾過法、シリカゲルクロマト法、逆相若しくは順相の高速液体クロマト法など)により活性の高い画分を分画して用いることも可能である。
【0028】
<医薬品組成物>
本発明に係るATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤は、その優れたATP産生促進効果、細胞増殖促進効果およびアンチエイジング効果を利用して、医薬品組成物に好適に用いることができる。該医薬品組成物は、あらゆる剤型の医薬品に適用することができる。例えば、外用液剤、外用ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、スプレー剤、点鼻液剤、リニメント剤、ローション剤、ハップ剤、硬膏剤、噴霧剤、エアゾール剤、などの外用剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、丸剤、などの経口剤、または注射剤に適用することができる。
【0029】
本発明に係る医薬品組成物には、薬理学的に許容される添加剤を1種または2種以上自由に選択して含有させることができる。例えば、本発明に係る医薬品組成物を外用剤に適用させる場合、基剤、界面活性剤、保存剤、乳化剤、着色剤、矯臭剤、香料、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤、潤沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0030】
また、本発明に係る医薬品組成物を経口剤に適用させる場合、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、保存剤、着色剤、矯味剤、香料、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。また、ドラックデリバリーシステム(DDS)を利用して、徐放性製剤等にすることもできる。
【0031】
また、本発明に係る医薬品組成物を注射剤に適用させる場合、例えば、溶剤、安定剤、溶解補助剤、懸濁化剤、保存剤、等張化剤、防腐剤、酸化防止剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0032】
本発明に係るATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤は、その有効成分が天然植物由来の抽出物であるため、多剤との併用を注意する必要性が低い。そのため、既存のあらゆる薬剤を1種または2種以上自由に選択して、合剤とすることもできる。例えば、抗菌剤、消炎鎮痛剤、ステロイド剤、麻酔剤、抗真菌剤、気管支拡張剤、鎮咳剤、冠血管拡張剤、抗高血圧剤、降圧利尿剤、抗ヒスタミン剤、催眠鎮静剤、精神安定剤、ビタミン剤、性ホルモン剤、抗うつ剤、脳循環改善剤、制吐剤、抗腫瘍剤など、あらゆる薬剤を配合することができる。
【0033】
本発明に係るATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤は、経皮投与、経口投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、などにより全身又は局所においてその効果を発揮したり、あるいは投与部位において、局所的に効果を発揮したりする。
【0034】
本発明に係る医薬品組成物において、ATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤の含有量は特に限定されず、目的に応じて自由に設定することが可能である。
【0035】
以上説明した本発明に係る医薬品組成物を用いた医薬品は、その有効成分が天然植物由来の抽出物であるため、種々の疾患を罹患した患者に対しても安心して投与できる可能性も高い。また、長期間、連続的に投与しても副作用を心配する必要性も少ない。
【0036】
<化粧料組成物>
本発明に係るATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤は、その優れたATP産生促進効果、細胞増殖促進効果およびアンチエイジング効果を利用して、化粧料組成物に好適に用いることができる。該化粧料組成物は、あらゆる形態の化粧料に適用することができる。例えば、ローション、乳液、クリーム、美容液などのスキンケア化粧料、ファンデーション、コンシーラー、化粧下地、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナーなどのメイクアップ化粧料、日焼け止め化粧料などに適用することができる。
【0037】
本発明に係る化粧料組成物には、本発明に係るATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤に加え、通常化粧料に用いることができる成分を、1種または2種以上自由に選択して配合することが可能である。例えば、基材、保存剤、乳化剤、着色剤、防腐剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、紫外線吸収剤、香料、防腐防黴剤、体質顔料、着色顔料、アルコール、水などの、化粧品分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0038】
また、本発明に係るATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤は、その有効成分が天然植物由来の抽出物であるため、他の有効成分との併用を注意する必要性が低い。そのため、本発明に係る化粧料組成物には、本発明に係るATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤に加え、他の有効成分を必要に応じて自由に配合することができる。
【0039】
本発明に係る化粧料組成物において、ATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤の含有量は特に限定されず、目的に応じて自由に設定することが可能である。
【0040】
以上説明した本発明に係る化粧料組成物を用いた化粧料は、その有効成分が天然植物由来の抽出物であるため、安全性が高く、長期間、連続的な使用が可能である。
【0041】
<飲食物>
本発明に係るATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤は、その優れたATP産生促進効果、細胞増殖促進効果およびアンチエイジング効果を利用して、飲食物に好適に含有させることができる。例えば、牛乳、ジュース、スポーツ飲料、お茶、コーヒー、紅茶などの飲料、醤油などの調味料、スープ類、クリーム類、各種乳製品類、アイスクリームなどの冷菓、各種粉末食品(飲料を含む)、保存用食品、冷凍食品、パン類、菓子類などの加工食品など、あらゆる飲食物に用いることができる。また、保健機能食品(特定保健機能食品、栄養機能食品、飲料を含む)や、いわゆる健康食品(飲料を含む)、濃厚栄養剤、流動食、乳児・幼児食にも用いることができる。あるいは、口中に一時的に含むもの、例えば、歯磨剤、染口剤、チューインガム等に含有させることもできる。更に、牛、馬、豚などの家畜用哺乳類、鶏、ウズラなどの家禽類、爬虫類、鳥類あるいは小型哺乳類などのペット類、養殖魚類などの飼料にも使用することが可能である。
【0042】
本発明に係る飲食物には、本発明に係るATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤に加え、通常飲食物に用いることができる成分を、1種または2種以上自由に選択して配合することが可能である。例えば、各種調味料、保存剤、乳化剤、安定剤、香料、着色剤、防腐剤、pH調整剤などの、食品分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0043】
また、本発明に係るATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤は、その有効成分が天然植物由来の抽出物であるため、他の有効成分との併用を注意する必要性が低い。そのため、飲食物には、本発明に係る細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤に加え、他の有効成分を必要に応じて自由に配合することができる。
【0044】
飲食物におけるATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤の含有量は特に限定されず、目的に応じて自由に設定することが可能である。
【0045】
以上説明した本発明に係るATP産生促進剤、細胞増殖促進剤およびアンチエイジング剤を含む飲食物は、その有効成分が天然植物由来の抽出物であるため、安全性が高く、長期間、連続的な摂取が可能である。
【実施例1】
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0047】
実施例1では、伝承薬草として利用され、強い抗酸化作用を有することが分かっている北アフリカ植物資源の中から細胞増殖促進作用を有する植物のスクリーニングを行った。スクリーニングに用いた植物を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
より具体的には、各種植物からのエタノール抽出物の細胞増殖促進効果を、MTTアッセイにより検討した。MTTアッセイとは、相対的な生存細胞数を測定する方法である。MTT(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetra zolium bromide)は、生細胞中のミトコンドリア内脱水素酵素(フタル酸脱水素酵素)により、MTTホルマザンに還元される。産生されたMTTホルマザン量と生存細胞数は比例する。そこで、培養細胞中にMTT試薬を添加した後、550〜600nmにおける吸光度を測定してMTTホルマザン産生量(相対値)を取得することにより、相対的な生存細胞数を測定できる。
【0050】
本実施例では、生細胞として、ヒト腸管上皮細胞(Caco-2)を用いた。このCaco-2細胞は、食品中に含まれる各種栄養素の吸収に関与する評価細胞モデルである。
【0051】
(1)各種植物抽出物(サンプル)の調製
Rosmarinus officinalisの葉、Rhus tripartitaの葉、Juniperus oxycedrusの葉、Teucrium polliumの葉、Arbutus unedoの葉、Juniperus phoeniceaの葉、Cistus monspeliensisの葉、Myrtis communisの葉、Ceratonia siliquaの葉それぞれ1gを、10mlのエタノールを用いて常温で7日間抽出し、濾過を行い、各種植物抽出物(サンプル)を得た。
【0052】
(2)サンプル処理、細胞培養および細胞増殖率の測定
96穴のマイクロプレートに、Caco-2細胞を1×106cell/ml濃度で100μL/well播種し、各ウエルに、前記で得た各種植物抽出物を100μL/well添加し、24時間、37℃で静置培養した。
【0053】
次に、各ウエルにMTT試薬(DOJINDO製;5mg/ml)を10μL/well添加し、一晩(12時間)放置した後、10%SDS溶液を各ウエルに150μL/well添加し、48時間インキュベートした後に、570nmにおける吸光度を測定しMTTホルマザン産生量(相対値)の値を得た。
【0054】
結果を図1に示す。図1に示す通り、細胞増殖量は、Juniperus phoenicea抽出物、Cistus monspeliensis抽出物、Ceratonia siliqua抽出物で処理した場合に、増加していることが分かった。特に、Cistus monspeliensis抽出物で処理した場合に、著しく増加することが分かった。
【0055】
実施例1では、モンスペリエンシス抽出物が、高い細胞増殖促進作用を有することが分かった。
【実施例2】
【0056】
実施例2では、モンスペリエンシス抽出物のATP産生促進効果を調べた。本実施例では、モンスペリエンシス抽出物の一例として、実施例1と同様に、Cistus monspeliensisの葉からエタノール抽出した抽出物を用いた。
【0057】
また、本実施例では、細胞内ATP量を測定するための細胞として、実施例1と同様に、ヒト腸管上皮細胞(Caco-2)を用いた。
【0058】
Caco-2細胞を96ウエルプレートに1×106cell/ml濃度で100μL/well播種し、24時間インキュベートを行った後、実施例1と同様の方法で調整したモンスペリエンシス抽出物100μL/wellで処理した。3、6、12時間インキュベートした後、ATP測定試薬100 μL/well添加し、マイクロプレートシェーカーで3分間撹拌、プレートリーダー内で10分間静置した後、ルシフェラーゼ発光法を用いて細胞内ATP量の測定を行った。
【0059】
結果を図2に示す。図2に示す通り、細胞内ATP量は、モンスペリエンシス抽出物で処理した場合に、著しく増加していることが分かった。
【0060】
実施例2では、モンスペリエンシス抽出物が、ATP産生促進作用を有することが分かった。
【実施例3】
【0061】
実施例3では、本発明に係るモンスペリエンシス抽出物が、解糖系酵素タンパク質のmRNA発現にどのような影響を及ぼすかについて検討した。なお、本実施例では、モンスペリエンシス抽出物の一例として、実施例1と同様に、Cistus monspeliensisの葉からエタノール抽出した抽出物を用いた。
【0062】
実施例1と同様の方法で調整したモンスペリエンシス抽出物100μL/wellで、1、3、6時間処理したCaco-2細胞から、Total RNAの抽出を行った。逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、解糖系の酵素であるトリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)およびホスホグルコムターゼ(PGM)のプライマー(表2、配列番号1〜4)を用いてリアルタイムPCRを行った。
【0063】
【表2】

【0064】
トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)およびホスホグルコムターゼ(PGM)のmRNA発現量の測定結果を図3に示す。
【0065】
図3に示す通り、モンスペリエンシス抽出物を添加することにより、解糖系酵素タンパク質であるトリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)およびホスホグルコムターゼ(PGM)のmRNA発現を増加させることが分かった(特に、6時間後)。
【0066】
実施例3より、モンスペリエンシス抽出物は、解糖系の酵素であるトリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)および/またはホスホグルコムターゼ(PGM)の産生を促進して解糖系の働きを活性化させることにより、ATP産生を促進する効果があることが示唆された。
【実施例4】
【0067】
実施例4では、本発明に係るモンスペリエンシス抽出物が、電子伝達系酵素タンパク質のmRNA発現にどのような影響を及ぼすかについて検討した。なお、本実施例では、モンスペリエンシス抽出物の一例として、実施例1と同様に、Cistus monspeliensisの葉からエタノール抽出した抽出物を用いた。
【0068】
実施例1と同様の方法で調整したモンスペリエンシス抽出物100μL/wellで、1、3、6時間処理したCaco-2細胞から、Total RNAの抽出を行った。逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、電子伝達系の酵素であるATP合成酵素(ATP synthase)のプライマー(表3、配列番号5、6)を用いてリアルタイムPCRを行った。
【0069】
【表3】

【0070】
ATP合成酵素(ATP synthase)のmRNA発現量の測定結果を図4に示す。
【0071】
図4に示す通り、モンスペリエンシス抽出物を添加することにより、電子伝達系の酵素であるATP合成酵素(ATP synthase)のmRNA発現を増加させることが分かった(特に、6時間後)。
【0072】
実施例4より、モンスペリエンシス抽出物は、電子伝達系の酵素であるATP合成酵素(ATP synthase)の産生を促進して電子伝達系の働きを活性化させることにより、ATP産生を促進する効果があることが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンニチバナ科(Cistaceae)ゴジアオイ属モンスペリエンシス(学名:Cistus monspeliensis)より抽出されたモンスペリエンシス抽出物を有効成分とするATP産生促進剤。
【請求項2】
トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)、ホスホグルコムターゼ(PGM)、ATP合成酵素(ATP synthase)から選ばれる1種または2種以上の酵素の産生を促進する請求項1記載のATP産生促進剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のATP産生促進剤を少なくとも含有する細胞増殖促進剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載のATP産生促進剤を少なくとも含有するアンチエイジング剤。
【請求項5】
請求項1または2に記載のATP産生促進剤と、薬理学的に許容され得る添加剤と、を含有する医薬品組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載のATP産生促進剤と、薬理学的に許容され得る添加剤と、を含有する化粧料組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載のATP産生促進剤を少なくとも含有するアンチエイギング用飲食物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−162504(P2011−162504A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28795(P2010−28795)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(506123092)センター オブ バイオテクノロジー オブ ボルジュセドリア ザ ミニストリー オブ ハイヤー エデュケーション,サイエンティフィック リサーチ アンド テクノロジー (3)
【Fターム(参考)】