説明

CO2のゼオライト膜分離回収システム

【課題】水素製造プロセス等におけるCOの回収において、CO透過度およびCO分離選択性に優れたCO膜分離回収システムを提供する。
【解決手段】本発明のCOの膜分離回収システムは、CO膜分離モジュール(1)の前段に脱水処理モジュール(2)を具備し、かつ、CO膜分離モジュール(1)は、CO選択的透過性を示す多孔質基体上に製膜した親水性ゼオライト膜(3)を具備し、親水性ゼオライト膜(3)は、100〜800℃の加熱処理により脱水処理されたものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造プロセス等におけるCOの分離回収において、COを高効率で回収する膜分離システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在工業的に利用される水素製造プロセスでは、まず水蒸気改質や部分酸化により炭化水素等を水素と一酸化炭素を主成分とするガスに改質し、次いで、下記化学反応式に従って一酸化炭素を水蒸気と反応させることにより水素を製造している。
【0003】
CO + HO → H + CO
こうして製造されるガス中には、水素と共に多量のCOも含まれているため、水素の工業的利用にはCOの除去・回収が必要である。
【0004】
COの除去・回収技術として、現在アミン吸収法などの化学吸収法や、PSAなどの物理吸着法などが利用されている。しかしながら、これらのCO除去・回収技術では、吸収剤や吸着剤の再生処理に多くのエネルギーが消費されており、それらコストはCO分離コストの半分以上を占める。
【0005】
これに対して、膜分離は連続的操作が可能であり、吸収剤や吸着剤の再生処理の必要がないため、省エネルギーなプロセスとして期待されている。
【0006】
特許文献1、2では、CO促進輸送膜として、湿潤条件で機能する有機高分子膜が使用されている。
【0007】
図5は、特許文献1および2に記載されるような有機高分子膜の膜分離を利用してCOを分離回収する水素製造プロセスを示すフローシートである。
【0008】
原料である炭化水素またはアルコールは、水蒸気改質リフォーマー(10)において改質されて、H、CO、CO、CH(少量)およびHOが生じ、これらは、次いで、水性ガスシフトリアクタ(11)に導入されて、ここで、ガス中のCOをCOにシフトさせ、ガス中のCOは少量に低減させられる。生じたガスは、分離モジュール(12)に送られ、有機高分子膜(13)によりCOが分離回収されることにより、H濃縮ガスが得られる。
【0009】
このように、有機高分子膜の分離膜を用いることによりCO/H分離選択性10以上と、高選択的にCOを回収することができる。
【0010】
一方で、これら分離膜のCO透過度は最大で2×10-7[mol/(m・s・Pa)]程度と小さく、大規模水素製造プラントへの応用を考えると、CO透過度5×10-7[mol/(m・s・Pa)]以上であり、かつCO/H分離選択性が10以上であることが望ましい。
【0011】
また非特許文献1では疎水性ゼオライト膜を用いたCO/H分離結果が報告されているが、乾燥条件では分子径の小さな水素が優先的に透過し、湿潤下において若干COが優先的に透過するものの、CO/H分離選択性は2.9〜6.2程度と小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−36463号公報
【特許文献2】特許4264194号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ジャーナル・オフ・メンブレン・サイエンス(Journal of Membrane Science)、2010年、第360巻、p.284-291.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、水素製造プロセス等におけるCOの回収において、CO透過度およびCO分離選択性に優れたCO膜分離回収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明のCOの膜分離回収システムは、CO膜分離手段の前段に脱水手段を具備し、かつ、CO膜分離手段は、CO選択的透過性を示す多孔質基体上に製膜した親水性ゼオライト膜を具備し、該親水性ゼオライト膜は、100〜800℃、好ましくは150〜400℃の加熱処理により脱水処理されたものであることを特徴とする。
【0016】
分子の大きさがゼオライトの細孔径よりも小さい場合であっても、ゼオライトと分子の親和力を制御することによって、COを選択的に透過分離させることが可能である。COは水素、メタン(CH)などのガスと比較して強い極性を持っているため、ゼオライト中のカチオンと静電的な相互作用に基づく、強い親和力を持つ。
【0017】
したがって、前記親水性ゼオライト膜は、COの選択的吸着サイトとなるLi、Na、K、Ag、H、NH、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Cu2+、Zn2+などのカチオンサイトを多く含むようなものであれば、特に限定されるものではないが、このような親水性ゼオライトとして、COの透過性、分離選択性、および膜の耐久性の観点から、好ましくは、FAUまたはCHA型のものが挙げられる。
【0018】
好ましくは、脱水手段の後段に水素を選択的に透過させる貴金属膜、あるいはシリカやゼオライトによって構成された有効細孔径0.28〜0.33nmの多孔質分子篩膜が備えられる。
【0019】
ここで、多孔質分子篩膜の「有効細孔径」は、一般的に、水素(0.28−0.29nm)、水(0.30nm)、CO(0.33nm)、メタン(0.38nm)などの単成分膜透過試験により評価される。例えば、水素、水は透過するがCO、メタンが透過しない膜であると、その有効細孔径は水素よりも大きく0.28nm以上であり、COより小さく0.33nm未満であると評価される。
【0020】
水素を選択的に透過させる金属膜としては、例えば、Pd膜が挙げられる。
【0021】
また、本発明は、上記のCOの膜分離回収システムを用いたCOの膜分離回収方法であって、CO膜分離工程の前段に脱水工程を具備し、かつ、CO膜分離工程は、供給ガス露点が−80〜0℃の乾燥状態に保たれる、方法である。
【0022】
上記本発明の方法により、好ましくは、炭化水素またはアルコールから水素を製造するプロセスにおいてCOが分離回収される。
【0023】
上記方法は、好ましくは、脱水手段の後段に設けられた、水素を選択的に透過させる貴金属膜、あるいはシリカやゼオライトによって構成された有効細孔径0.28〜0.33nmの多孔質分子篩膜により水素精製を行う工程を含む。
【0024】
また、上記本発明の方法により、COを含有する混合ガスからCOが分離回収される。
【0025】
好ましくは、前記混合ガスは、水蒸気を含むメタンガスを主成分とする天然ガスあるいはバイオガスである。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、CO膜分離手段の前段に脱水手段を具備し、かつ、CO膜分離手段は、CO選択的透過性を示す多孔質基体上に製膜した親水性ゼオライト膜を具備し、該親水性ゼオライト膜は、100〜800℃、好ましくは150〜400℃の加熱処理により脱水処理されたものであるので、水素製造プロセス等におけるCOの回収において、CO透過度およびCO分離選択性に優れたCO膜分離回収システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のCOの膜分離回収システムを示すフローシートである。
【図2】CO/水素の分離回収について得られた結果を示すグラフであり、温度に対するCOおよびHの透過度を表している。
【図3】CO/水素の分離回収について得られた結果を示すグラフであり、温度に対するCO透過度/H透過度を表している。
【図4】CO/水素の分離回収について得られた結果を示すグラフであり、温度に対する透過ガスCO濃度を表している。
【図5】従来のCOの膜分離回収システムを示すフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明のCOの膜分離回収システムについて詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明のCOの膜分離回収システムを示すフローシートである。
【0030】
本発明のCOの膜分離システムは、CO膜分離モジュール(1)の前段に脱水処理モジュール(2)を具備している。
【0031】
CO膜モジュール(1)は、CO選択的透過性を示す多孔質基体上に製膜した親水性ゼオライト膜(3)を具備している。多孔質基体としては、例えばアルミナ、シリカ、コージェライト、ジルコニア、チタニア、バイコールガラス、焼結金属などの多孔質体が挙げられるが、これらに限らず、種々の多孔質体を用いることができる。
【0032】
CO膜モジュール(1)でのCO膜分離工程は、露点が−80〜0℃になるような条件、好ましくは−20℃以下に保たれるようにしてなされる。
【0033】
CO透過分離膜として、上記のように、有機高分子材料ではなく、多孔質基体上に製膜した親水性ゼオライト膜(3)が用いられる。この親水性ゼオライト膜は100〜800℃、好ましくは150〜400℃の加熱等によりゼオライト細孔内の吸着水を除去した状態に保たれている必要がある。親水性ゼオライト膜を構成するゼオライト種についてはCO−H混合ガス系においてCO選択的吸着性を示すFAU型、CHA型のゼオライトなどが好ましい。
【0034】
脱水処理モジュール(2)は、導入されたガス中の露点が−80〜0℃、好ましくは−20℃以下になるまで水が除去されればいかなる方法により脱水処理がなされるものであってよいが、例えば、高分子中空糸膜あるいは市販のLTA型ゼオライト膜(日立造船製、NaA型ゼオライト膜)を用いた膜式エアドライヤーにて除湿を行うことができる。これらの膜では水を選択的透過除去させることにより、後段のCO膜分離工程を乾燥状態にすることができる。脱水膜の透過側は、後段の乾燥ガスを一部循環利用しスウィープさせる、あるいは真空引きすることによって、連続的に水分を除去させることができる。
【0035】
また高純度水素を製造する必要がある場合には、水素を選択的に透過させる貴金属膜、あるいはシリカやゼオライトによって構成された有効細孔径0.28nm〜0.33nmの多孔質分子篩膜を脱水工程の後段に具備させる(図示省略)。このことで、水蒸気等による膜の劣化の影響を受けることなく水素精製を行うことが可能になる。
【0036】
水素精製をCO膜分離の前段または後段のいずれで行うかは、回収する水素およびCOの要求濃度に応じて決められる。例えば、CO膜分離工程で回収する透過CO濃度増加を優先させたい場合、CO膜分離工程に供給されるガスのCO濃度を増加させるよう、水素精製工程は、CO膜分離工程の前段に行うことの方が有利である。逆に、回収する透過水素濃度増加を優先させたい場合には、水素精製工程は、CO膜分離工程の後段に行うことの方が有利である。
【0037】
本発明のゼオライト膜を用いたCO分離回収プロセスは、メタンを主成分とする天然ガスやバイオガス中からのCOの分離回収にも適用可能である。
【0038】
本発明がこのような効果を得ることができるものであることを、以下の実施例により説明する。
【0039】
(実施例)
(CO/水素分離)
本発明のシステムを用いて、水素からCO分離回収を行った。
【0040】
本発明によるCO分離回収用の親水性ゼオライト膜を用いた実施例1として、市販の管状のFAU型ゼオライト膜(日立造船製、NaY型ゼオライト膜)を用いた。膜の透過分離能の評価は、管状の膜エレメントを3cmに切断分割し、ステンレス製の膜モジュールに取付けを行い、膜の脱水処理として300℃の温度で加熱乾燥を行った。
【0041】
管状のゼオライト膜の外側からCO−水素の混合ガスを供給し、膜透過ガスの流量および組成を測定することによって、COおよび水素の膜透過度を算出した。CO/水素分離を行った際の詳細条件を以下に示す。
【0042】
・供給ガス組成:CO(50%)/水素(50%)
・供給ガス全圧(絶対圧):4atm
・供給ガス露点:−20C以下
・供給ガス流速:600mL(STP)/min
・透過側全圧:大気圧
・有効膜面積:10cm
なお、本実施例では、脱水工程後を想定した模擬ガスを用いることとした。
【0043】
比較例1では、従来の有機高分子膜をCO分離回収用の膜として用いてCOの分離回収を行った。
【0044】
比較例2では、実施例1と同じFAU型ゼオライト膜であるが、加熱乾燥を行わなかったものをCO分離回収用の膜として用いて、湿潤した作動雰囲気下にCOの分離回収を行った。
【0045】
比較例3では、実施例1と同じFAU型ゼオライト膜であるが、加熱乾燥を行わなかったものをCO分離回収用の膜として用いて、乾燥した作動雰囲気下にCOの分離回収を行った。
【0046】
CO/水素の分離回収について得られた結果を、図2〜4のグラフに示す。
【0047】
図2に示されるように、COの透過度は60℃付近で極大となり10-6[mol/m・s・Pa]以上の非常に高い透過度を示した。
【0048】
一方で水素透過度は低温条件ほど小さくなり、COと水素の透過度の比は図3に示すように低温ほど高くなり、60℃の作動条件ではCO分離選択性は10を超え、図4に示されるように、濃度90%以上のCOを分離回収することができた。
【0049】
下記の表1に、本発明のCO膜分離回収システムと従来の膜分離システムの性能を比較した。
【0050】
【表1】

【0051】
比較例1の従来の有機高分子膜では、CO/H分離選択性が10を超える条件においては、CO透過度が10-9[mol/m・s・Pa]オーダーから最大でも2×10−7[mol/m・s・Pa]程度と小さいのに対し、本発明の膜分離システムを用いることにより、CO/H分離選択性10以上を維持した条件においてもCO透過度10-6[mol/m・s・Pa]以上の非常に高いCO透過度を得ることができた。
【0052】
また比較例2および3の結果から、CO分離膜に脱水処理を行った親水性ゼオライト膜を用いることと、CO膜分離工程を乾燥状態に保つという本発明の特徴が、高いCO透過度とCO2分離選択性を得ることに寄与していると推察された。
【0053】
(CO/CHの分離)
供給ガス全圧:絶対圧0.4MPa、供給ガス全流量600mL(STP)/minとして、上記と同様にしてCOの分離回収を行った。
【0054】
(CO/H/CH/COの分離)
供給ガス全圧:絶対圧0.4MPa、供給ガス全流量300mL(STP)/minとして上記と同様にしてCOの分離回収を行った。
【0055】
なお、各種供給ガス組成は、COに対してそれぞれ1:1、膜透過側は大気圧(絶対圧0.1MP)とした。
【0056】
上記分離試験の結果、CO/水素の分離の場合と同様に、60℃以下の作動条件において、湿潤条件および未乾燥FAU型ゼオライト膜では、CO透過度は10−8mol/(m・s・Pa)未満と非常に小さく、分離能はほとんど発現しなかった。
【0057】
一方で、供給ガス露点を大気圧条件下で−20℃以下とし、膜に150℃以上の加熱処理を行い脱水状態に保つことによって、CO透過度は2×10−7mol/(m・s・Pa)以上に向上し、CH、COなどのそれぞれのガスに対しても、透過度比10〜100倍以上の高い分離能を発揮した。
【符号の説明】
【0058】
1 CO膜分離モジュール
2 脱水処理モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CO膜分離手段の前段に脱水手段を具備し、かつ、CO膜分離手段は、CO選択的透過性を示す多孔質基体上に製膜した親水性ゼオライト膜を具備し、該親水性ゼオライト膜は、100〜800℃の加熱処理により脱水処理されたものであることを特徴とするCOの膜分離回収システム。
【請求項2】
前記親水性ゼオライトは、FAUまたはCHA型である、請求項1に記載のCOの膜分離システム。
【請求項3】
脱水手段の後段に水素を選択的に透過させる貴金属膜、あるいはシリカやゼオライトによって構成された有効細孔径0.28〜0.33nmの多孔質分子篩膜が備えられている、請求項1に記載のCOの膜分離回収システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のCOの膜分離回収システムを用いたCOの膜分離回収方法であって、
CO膜分離工程の前段に脱水工程を具備し、かつ、CO膜分離工程は、供給ガス露点が−80〜0℃の乾燥状態に保たれる、方法。
【請求項5】
炭化水素またはアルコールから水素を製造するプロセスにおいてCOを分離回収する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
水素精製を行う工程を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
COを含有する混合ガスからCOを分離回収する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記混合ガスは、水蒸気を含むメタンガスを主成分とする天然ガスあるいはバイオガスである、請求項7に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−232274(P2012−232274A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104382(P2011−104382)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】