説明

CO2を排出しない合成ガスの製造方法

【課題】 COを排出しない合成ガスの製造方法を提供する。
【解決手段】 炭化水素ガスを改質して合成ガスを製造する方法であって、スチーム及び/又は炭酸ガスが添加された軽質炭化水素ガスをシェル&チューブ熱交換器型リフォーマーにおいて触媒が充填されているチューブ側に供給すると共に、そのシェル側に例えば太陽熱や原子力の核熱を熱源とする溶融塩などの熱媒体を循環させて改質反応を起こし、チューブ側から排出される生成ガスから炭酸ガスを抜き出してチューブ側の上流にリサイクルする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COを大気に排出することなく天然ガスなどの軽質炭化水素ガスを改質して合成ガスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素(H)と一酸化炭素(CO)とを主成分とする合成ガスは、GTL(Gas to Liquids)、DME(ジメチルエーテル)などの液体燃料油やアンモニア、メタノール、酢酸などの化学製品の原料として広く利用されている。合成ガスの原料には、天然ガスなどの軽質炭化水素ガスを使用することができ、この原料ガスに触媒の存在下でスチームや炭酸ガスを添加し、反応に必要な熱を供給することによってH/COモル比0.5〜3程度の合成ガスを効率よく製造することができる。
【0003】
例えば、原料ガスがメタンの場合、スチームの添加によって下記式1に示すスチームリフォーミング反応を経てH/COモル比3の合成ガスを製造することができる。また、二酸化炭素(CO)の添加によって下記式2に示すCOリフォーミング反応を経てH/COモル比1の合成ガスを製造することができる。
[式1]
CH + HO = CO + 3H
[式2]
CH + CO = 2CO + 2H
【0004】
これら式1及び式2のリフォーミング反応はいずれも吸熱反応であるため、従来、反応器(リフォーマー)には、ATR(Auto Thermal Reforming)やPOX(Partial Oxidation)の他、加熱炉内に触媒管を設置して燃焼ガスの輻射熱で触媒管を加熱する管式リフォーマーが用いられてきた(特許文献1)。特に管式リフォーマーは合成ガスの製造量が比較的少ない場合であっても効率よく合成ガスを製造できるので、数多くの合成ガス製造工場で使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−056766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、地球環境に配慮した設計があらゆる方面で求められており、合成ガスの製造工場においても二酸化炭素に代表される温室効果ガスを排出しない技術が求められている。しかしながら、従来の管式リフォーマーは、前述したように燃焼ガスの輻射熱を利用して反応に必要な熱を供給するものであるため、合成ガスの製造に伴って二酸化炭素を含んだ燃焼排ガスが大気に放出されることを避けることができなかった。
【0007】
また、合成ガスの生成においても、上記式1及び式2のリフォーミング反応に加えて下記式3の水性ガス反応(シフト反応)が生じるため、これにより生成したCOが、合成ガスからCOを除去する脱炭酸工程において大気中に排出されたり、下流の化学製品等の製造工程において大気中に排出されたりしていた。
[式3]
CO + HO = CO + H
【0008】
本発明はかかる状況に鑑みてなされたものであり、COを排出しない合成ガスの製造方法を提供することを目的としている。また、GTL、DMEなどの液体燃料油や、メタノール、酢酸などの化学製品の原料組成として好ましいH/COモル比=0.5〜2程度の合成ガスを、COを排出することなく製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明が提供する合成ガスの製造方法は、スチーム及び/又は炭酸ガスが添加された軽質炭化水素ガスをシェル&チューブ熱交換器型リフォーマーにおいて触媒が充填されているチューブ側に供給すると共に、そのシェル側に化石燃料を使用しないエネルギーを熱源とする熱媒体を循環させることによって軽質炭化水素ガスの改質を行う改質工程と、チューブ側から排出される生成ガスを脱炭酸して合成ガスを得ると共に、除去された炭酸ガスをチューブ側の上流にリサイクルする脱炭酸工程とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地球温暖化の主な原因と考えられているCOを大気に排出することなく軽質炭化水素ガスから合成ガスを製造することが可能となる。また、GTL、DMEなどの液体燃料油や、メタノール、酢酸などの化学製品の原料として好ましいH/COモル比=0.5〜2程度の合成ガスを、COを排出することなく軽質炭化水素ガスから製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の合成ガスの製造方法の一具体例を示すブロックフロー図である。
【図2】本発明の合成ガスの製造方法において好適に使用されるシェル&チューブ熱交換器型リフォーマーの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の合成ガスの製造方法の一具体例を、図1のブロックフロー図を参照しながら説明する。この図1に示す合成ガスの製造方法は、改質工程と脱炭酸工程とを有しており、改質工程ではスチーム及び/又は炭酸ガスが添加された軽質炭化水素ガスをシェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3において触媒が充填されているチューブ側に供給すると共に、そのシェル側に太陽熱などの代替エネルギーを熱源とする熱媒体を循環させることによって軽質炭化水素ガスの改質を行っている。
【0013】
また、脱炭酸工程では、シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のチューブ側から排出される生成ガスを脱炭酸装置7で脱炭酸して合成ガスを得ると共に、除去された炭酸ガスをシェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のチューブ側の上流にリサイクルしている。
【0014】
図1に示す合成ガスの製造方法は、更に上記シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のチューブ側から排出される生成ガスの一部を連続的に抜き取り、この抜き取った一部の生成ガスに対してシフト反応装置9、11でシフト反応を行わせるシフト工程と、このシフト工程によって得られるガスからPSAなどの水素分離装置15で水素ガスを分離する水素分離工程とを有している。そして、この水素ガスの分離後に残る二酸化炭素含有ガスを、上記した脱炭酸工程で除去された炭酸ガスと共にシェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のチューブ側の上流にリサイクルしている。
【0015】
各工程についてより具体的に説明すると、先ず原料ガスとしての軽質炭化水素ガスは、熱交換器などの第1加熱手段1に送られ、ここで低圧スチームなどの加熱媒体によって所定の温度まで加熱される。加熱された軽質炭化水素ガスには、後述する脱炭酸工程からのリサイクルガス、更に水素分離工程が設けられる場合はそこからのリサイクルガスを合流させる。なお、このリサイクルガスには外部から炭酸ガスを導入してもよく、この場合はCOの固定化や資源化を達成することにもなるので、一層の地球温暖化防止につながる。
【0016】
これら原料ガス及びリサイクルガスを合流させる際は、合流後のガスの二酸化炭素/炭素モル比(すなわち、COのモル数を炭化水素に含まれる炭素原子の総モル数で割った値)が0.6〜13.0となるように、原料ガスとリサイクルガスの流量をそれぞれ制御することが好ましい。この値が0.6未満では、合成ガス中のメタン残が増加する。一方、この値が13.0を超えるとリサイクルガスコンプレッサーである第3圧縮機16のdutyが著しく増大する。
【0017】
合流後のガスには、必要に応じて圧力0.8〜3.3MPaG程度の飽和スチームが添加される。飽和スチームを添加する場合は、上記原料ガス(軽質炭化水素ガス)、リサイクルガス(リサイクルガスには必要に応じて外部からの炭酸ガスが含まれ得る)及び飽和スチームからなる混合ガスのスチーム/炭素モル比(すなわち、HOのモル数を軽質炭化水素ガスに含まれる炭素原子の総モル数で割った値であり、S/Cモル比とも称される)が0.8〜5.5となるのが好ましい。この値が0.8未満では、触媒上にカーボンが析出しやすくなる。一方、この値が5.5を超えるとリフォーマーのdutyが著しく増大する。
【0018】
上記混合ガスは、次に熱交換器などの第2加熱手段2に送られ、ここで高圧スチームなどの加熱媒体によって500℃程度に加熱された後、改質工程に送られる。改質工程では、シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3において触媒が充填されているチューブ側に当該混合ガスを供給すると共に、そのシェル側に化石燃料を使用しないエネルギーを熱源とする熱媒体を循環させることにより、軽質炭化水素ガスの改質を行う。
【0019】
シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3では、チューブ側の出口温度が550〜900℃、出口圧力が0.15〜3.0MPaGとなるように制御されており、これにより良好に改質反応を進行させることができる。出口温度が550℃未満では、反応が平衡まで到達しなくなり、一方、900℃を超えると既存のチューブの設計温度を超えてしまう。また、出口圧力が0.15MPaG未満では、下流の機器を通過させることができなくなり、一方、3.0MPaGを超えるとメタンの転化率が低下する。
【0020】
このシェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3には、一般的なシェル&チューブ型熱交換器を使用することができる。例えば、図2に示すようなシェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3を使用することができる。具体的には、円筒部31の両端に半球若しくは半楕円形状の皿部32を備え、その内部に上下方向に離間する2枚の管板33を円筒部31の内壁にシールするように取り付ける。そして、これら2枚の管板33の間に、複数本のチューブ34を互いに一定の間隔をあけて配設する。各チューブ34の両端は、それぞれ上下の管板33を貫通させて皿部32に向けて開口させる。
【0021】
上下の皿部32にはチューブ34の内側(チューブ側とも称する)を流れる流体用の入口ノズル35aと出口ノズル35bをそれぞれ設け、円筒部31における2枚の管板33の間にはチューブ34の外側(シェル側とも称する)を流れる流体の入口ノズル36aと出口ノズル36bをそれぞれ設ける。かかる構造により、チューブ側の流体とシェル側の流体とを互いに混ぜ合わせることなく両者間で熱交換させることが可能となる。
【0022】
なお、2枚の管板33の間には、シェル側の流体が十分に熱交換することなく出口ノズル36bから排出されることのないように、1又は複数枚の邪魔板37(図2では4枚の邪魔板37が例示されている)を設けてもよい。また、下側の管板33の下面には触媒を支えるための金属製メッシュや金属製グリッドを取り付けておくのが好ましい。
【0023】
このシェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のチューブ34の内側に改質触媒Cが充填されている。改質触媒には、担体としてのマグネシウム成形体に、ルテニウム及び/又はロジウムが金属換算値で200〜2000wtppm担持された触媒を使用するのが好ましい。これは、本発明の合成ガスの製造方法では二酸化炭素を含むリサイクルガスをシェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のチューブ側の上流にリサイクルしているので、シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のチューブ側は、副反応によってカーボンが析出し易い条件になっており、従来のNi系のスチームリフォーミング触媒ではカーボンが析出して触媒が容易に失活してしまうからである。
【0024】
これに対して、上記した担体としてのマグネシウム成形体にルテニウム及び/又はロジウムを所定量担持させた改質触媒を使用することによって、軽質炭化水素ガスに対して高い合成ガス化活性を維持しつつ、炭素析出活性を著しく抑えることが可能となる。なお、担持させるルテニウム及び/又はロジウムの量が200wtppm未満では十分な触媒活性が得られにくくなる。一方、この値が2000wtppmを超えると、触媒表面にカーボンが析出しやすくなる。
【0025】
担体としてのマグネシウム成形体は、BET法に基づいて測定した比表面積が0.1〜5.0m/gであることが好ましい。また、担体としてのマグネシウム成形体の形状は、リング状、マルチホール状、又はタブレット状であることが好ましい。かかる形態の担体を使用することによって、内径15〜150mm程度のチューブ34内に充填された場合に良好に触媒反応を行わせることが可能となる。なお、この比表面積が0.1m/g未満では、十分な触媒活性が得られない。一方、この値が5.0m/gを超えると、触媒表面にカーボンが析出しやすくなる。
【0026】
上記した本発明の一具体例の触媒を調製する場合、その担体であるマグネシウム成形体は、酸化マグネシウムとグラファイト等の成型助剤とを十分に混合して打錠成型すること等により作製することができる。このマグネシウム成形体は純度98質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましい。特に、炭素析出活性を高める成分や、高温の還元ガス雰囲気下で分解する成分、例えば、鉄、ニッケル等の金属や二酸化ケイ素(SiO)等の不純物の混入は好ましくない。これらの不純物は、マグネシウム成形体中で1質量%以下にするのが好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。
【0027】
この担体としてのマグネシウム成形体に触媒を担持させる方法には、含浸法などの一般的な方法を使用することができる。例えば、含浸法の場合は、水中に分散させた担体に触媒となるルテニウム及び/又はロジウムの金属塩又はその水溶液を添加して混合した後、担体を水溶液から分離し、乾燥及び焼成すればよい。
【0028】
あるいは、担体を排気処理した後、細孔容積分程度の金属塩溶液を少量ずつ加えて担体表面を均一に濡れた状態にし、乾燥及び焼成する方法(incipient wetness法)や、霧状の金属塩溶液を担体に吹き付ける方法(Spray法)でもよい。これらの方法では、その触媒金属塩に、硝酸塩、塩化物等の無機酸塩や、酢酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩等の水溶性塩を使用することができる。また、金属のアセチルアセトナト塩等をアセトン等の有機溶媒に溶解し、これを担体に含浸させてもよい。
【0029】
上記水溶性塩を用いて含浸させた場合は、乾燥温度を100〜200℃にするのが好ましく、100〜150℃がより好ましい。一方、有機溶媒を用いて含浸させた場合は、その溶媒の沸点より50〜100℃高温で乾燥するのが好ましい。乾燥後の焼成温度及び焼成時間は、得られる担体の比表面積に応じて適宜選定するが、一般的には500〜1100℃の範囲で3〜5時間程度焼成するのが好ましい。
【0030】
上記した触媒は、シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のチューブ34内にGHSV(ガス空間速度)で例えば250〜6000hr−1となるように充填する。触媒が充填されるチューブ34は、前述したチューブ側の出口温度550〜900℃、出口圧力0.15〜3.0MPaGとなることも考慮にいれてその内径、長さ、及び本数等が定められる。
【0031】
シェル側を循環させる熱媒体には200〜600℃程度の溶融炭酸塩を使用することができる。この温度範囲の溶融炭酸塩であれば、熱源に化石燃料の燃焼エネルギーを使用することなく再生可能エネルギーなどの様々な代替エネルギーを使用することができるからである。
【0032】
例えば、レンズや鏡などを利用して太陽光を集光し、その集光した太陽光の熱エネルギーで発電を行うCSP(Concentrated Solar Power)では熱媒体に上記温度範囲の溶融炭酸塩を使用することができるため、CSPに隣接してシェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3を設置することによって熱媒体としての溶融炭酸塩をCSPと共用することが可能となる。このように、熱媒体に溶融炭酸塩を使用することにより、二酸化炭素を排出することなく改質反応の熱を得ることが可能となる。
【0033】
あるいは、溶融炭酸塩に代えて、熱媒体に200〜1000℃程度の空気、窒素、ヘリウム、二酸化炭素又はこれらの2種以上の混合ガスを使用してもよい。この温度範囲のガスであれば、熱源に原子力の核熱を利用することができる。例えば、原子力発電プラントに隣接してシェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3を設置することにより、原子炉で発生する熱の冷却に使用するガスを共用してシェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のシェル側にも循環させることが可能となる。この場合も、二酸化炭素を排出することなく改質反応の熱を得ることが可能となる。
【0034】
さらに、シェル側を循環させる熱媒体に、高炉から排出される排ガスを使用してもよい。この場合は、排ガスに二酸化炭素が含まれることがあるため、高炉の操業までを含めて厳密に考えると二酸化炭素を排出していないとはいえない。しかし、例えば既存の高炉に隣接してシェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3を新設し、その高炉で無駄に捨てられていた排ガスの排熱を有効利用するような場合は、二酸化炭素の排出源が新たに増えるわけではないので、二酸化炭素を新たに排出することなく合成ガスを製造できるという効果が得られる。
【0035】
シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のチューブ側から排出される生成ガスは、次に、熱交換器などの第1冷却手段4に送られ、ここで冷却水などの冷却媒体によって40℃程度に冷却される。冷却によって生じた凝縮水を第1気液分離槽5で除去した後、生成ガスは第1圧縮機6によって所定の圧力まで昇圧され、脱炭酸工程に送られる。
【0036】
脱炭酸工程では、化学吸収法、物理吸収法などの一般的な脱炭酸プロセスを用いた脱炭酸装置7で生成ガスに含まれる炭酸ガスの除去を行う。例えばアルカノールアミン溶液を用いる化学吸収法の場合は、棚段や充填材を備えた吸収塔の塔底部に上記生成ガスを供給し、塔頂部から流れ落ちる化学吸収液と気液接触させることにより、生成ガスから効率よく二酸化炭素を除去することができる。二酸化炭素を吸収した化学吸収液は吸収塔の塔底部から抜き出された後、再生塔に送られてストリッピングスチームによって再生される。
【0037】
上記再生塔でストリップされた二酸化炭素は、再生塔の塔頂部から回収することができる。そして、この回収した二酸化炭素ガスは、後述するPSAなどの水素分離装置15で回収されるガスと共にリサイクルガスとして第3圧縮機16に送られ、ここで所定の圧力に昇圧されてからシェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のチューブ側の上流にリサイクルされる。
【0038】
上記したような改質工程と脱炭酸工程とからなる方法で軽質炭化水素ガスを改質することにより、二酸化炭素を大気に排出することなく合成ガスを得ることができる。ところで、合成ガスは、その用途によって許容されるH/COモル比の範囲が定められており、例えばフィッシャー・トロプシュ合成やメタノール合成の原料に使用する場合は、H/COモル比が2程度、DMEの直接合成の原料に使用する場合はH/COモル比が1程度であることが望まれる。このようなH/COモル比が2以下の合成ガスを改質反応で直接製造するためには、原料ガス中にCOを相当量存在させることが必要である。また、所望のH/COモル比を有する合成ガスに加えて、高純度の水素ガスを生成することが望まれる場合がある。
【0039】
このため、本発明の合成ガスの製造方法の一具体例では、シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のチューブ側から排出される生成ガスの一部を連続的に抜き取ってシフト工程に送り、ここでCOをHにシフトさせた後、得られたガスを水素分離工程に送って水素ガスを分離すると共に、水素ガスの分離後に残るCO含有ガスを原料ガスにリサイクルしている。これにより、所望のH/COモル比を有する合成ガスと高純度のHとを製造することができる。
【0040】
具体的に説明すると、上記シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のチューブ側出口から連続的に抜き取られた一部の生成ガスは、熱交換器などの第2冷却手段8に送られ、ここで後段のシフト反応に好適な温度まで冷却される。冷却されたこの一部の生成ガスは、必要に応じてスチームが添加された後、高温シフト反応装置9と低温シフト反応装置11とからなるシフト工程に送られる。
【0041】
高温シフト反応装置9では、鉄−クロム系又は銅−クロム系触媒の存在下で高温のシフト反応が行われる。高温シフト反応装置9を出たガスは、次に第3冷却手段10で所定の温度まで冷却された後、低温シフト反応装置11に送られ、ここで銅−亜鉛系触媒の存在下で低温のシフト反応が行われる。
【0042】
低温シフト反応装置11を出たガスは次に第4冷却手段12に送られ、ここで所定の温度まで冷却される。冷却によって生じた凝縮水を第2気液分離槽13において除去した後、第2圧縮機14において所定の圧力まで昇圧されてから水素分離工程に送られる。水素分離工程では、PSA(Pressure Swing Adsorption)装置などの水素分離装置15によって、高純度の水素ガスとそれ以外のガスとの分離が行われる。
【0043】
PSA装置の場合は、多孔質材を用いた吸着、脱着によって高純度の水素ガスを得ると共に、二酸化炭素を含むガスを回収することができる。この二酸化炭素を含有するガスは、前述したように、脱炭酸工程から排出される二酸化炭素ガスと共にリサイクルガスとしてシェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のチューブ側の上流にリサイクルされる。
【0044】
このように、本発明の合成ガスの製造方法では、化石燃料の代替エネルギーで加熱された熱媒体を使用して改質反応に必要な熱の供給を行っているので、合成ガスの製造に伴ってCOが大気に排出されることはない。さらに、改質反応やシフト反応で生じるCOは分離された後、改質工程の上流にリサイクルされるので、改質反応やシフト反応に供するプロセス流体から大気にCOが排出されることもない。更に、本発明の合成ガスの製造方法では、外部からCOを受け入れて処理することもできるので、COの排出量削減に加えCOの資源化の役割を担うことも可能である。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
原料ガスとしての軽質炭化水素ガスに天然ガスを使用すると共に、熱媒体に溶融炭酸塩を使用し、図1に示すブロックフロー図に沿って天然ガスから約40000Nm/hの合成ガスと10000Nm/hの水素ガスとを製造する場合を想定してプロセス設計計算を行った。このプロセス設計計算において、シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のチューブ側の出口温度は550℃、出口圧力は0.15MPaG、原料ガスに添加するスチームは800kPaGの飽和蒸気とした。
【0046】
上記プロセス設計計算によって得られた各フローの流量及び組成を下記表1に示す。なお、表1に示すストリーム番号は図1に示されているストリーム番号に対応している。
【0047】
【表1】

【0048】
更に上記表1に示す計算結果に基づいて主要な機器の概略設計を行った。その結果、シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3の伝熱面積は4070m、Total net input dutyは380MWとなった。
【0049】
上記表1の結果及び機器の概略設計の結果から、一般的な機器を使用してCOを大気に排出することなく合成ガスを製造できることが分かった。
【0050】
次に、上記プロセス設計計算で使用した改質反応条件における触媒性能を確認する試験を行った。触媒には0.5m/gの表面積をもつ酸化マグネシウム担体にルテニウムを800wtppm担持した触媒を使用した。その結果、3000時間の運転でも炭化水素転化率は64%のまま一定であった。すなわち、上記した触媒を使用することによって、炭素析出等の問題を生じることなく長期間に亘って安定して運転できることが分かった。
【0051】
[実施例2]
シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のチューブ側の出口温度を850℃、出口圧力を2.00MPaG、原料ガスに添加するスチームを3300kPaGの飽和蒸気、熱媒体を溶融炭酸塩に代えてガスとした以外は上記実施例1と同様の設計条件でプロセス設計計算を行った。
【0052】
このプロセス設計計算によって得られた各フローの流量及び組成を下記表2に示す。なお、実施例1と同様に、表2に示すストリーム番号は図1に示されているストリーム番号に対応している。
【0053】
【表2】

【0054】
更に上記表2の計算結果の基づいて主要な機器の概略の設計を行った。その結果、シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3の伝熱面積は17811m、Total net input dutyは66MWとなった。
【0055】
上記表2の結果及び概略設計で得られた機器サイズの結果から、熱媒体にガスを使用したのでシェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のサイズは実施例1に比べて4.5倍程度大きくなったものの、特に非現実的であるという程のものではなく、一般的な機器を使用してCOを大気に排出することなく合成ガスを製造できることが分かった。
【0056】
次に、上記のプロセス設計計算と並行して、上記した改質反応の条件で触媒性能を確認する試験を行った。触媒には0.5m/gの表面積をもつ酸化マグネシウム担体にルテニウムを800wtppm担持した触媒を使用した。その結果、3000時間の運転でも炭化水素転化率は64%で一定であった。すなわち、上記した改質反応条件は、炭素析出等の問題を生じることなく安定していることが分かった。
【0057】
[実施例3]
第3圧縮機16の吸入側に外部から二酸化炭素ガスを導入し、水素ガスの製造量を1180Nm/hにした以外は実施例1と同様の設計条件でプロセス設計計算を行った。
【0058】
このプロセス設計計算によって得られた各フローの流量及び組成を下記表3に示す。なお、実施例1及び2と同様に、表3に示すストリーム番号は図1に示されているストリーム番号に対応している。
【0059】
【表3】

【0060】
更に上記表3の計算結果の基づいて主要な機器の概略の設計を行った。その結果、シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3の伝熱面積は3351m、Total net input dutyは330MWとなった。
【0061】
上記表3の結果及び概略設計で得られた機器サイズの結果から、外部から炭酸ガスを導入する場合においても、実施例1と同様に一般的な機器を使用してCOを大気に排出することなく合成ガスを製造できることが分かった。
【0062】
[実施例4]
原料ガスにスチームを添加せずに外部から導入したCOガスと脱炭酸工程からリサイクルされるCOガスとを添加してCOリフォーミングを行い、得られた合成ガスを全量脱炭酸工程で処理してH/COモル比0.5の合成ガスを製造する場合についてプロセス設計計算を行った。なお、シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3のチューブ側の出口温度は850℃、出口圧力は1.3MPaG、シェル側の熱媒体はガスとした。
【0063】
このプロセス設計計算によって得られた各フローの流量及び組成を下記表4に示す。なお、実施例1〜3と同様に、表4に示すストリーム番号は図1に示されているストリーム番号に対応している。
【0064】
【表4】

【0065】
更に上記表4の計算結果の基づいて主要な機器の概略の設計を行った。その結果、シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー3の伝熱面積は15895m、Total net input dutyは63MWとなった。
【0066】
上記表4の結果及び概略設計で得られた機器サイズの結果から、スチームを添加せずに炭酸ガスだけを添加してCOリフォーミングを行う場合においても、実施例2と同程度の機器を使用してCOを大気に排出することなく合成ガスを製造できることが分かった。
【0067】
なお、上記の実施例1〜実施例4のプロセス設計計算の結果、及びそれらに基づいて概略設計した機器の主な仕様をまとめたものを下記の表5に示す。この表内の熱基準とは、コンプレッサーに必要な電力をその発電のために必要な熱量に換算したものである。また、カーボン活性とは、下記式4で表されるものであり、このカーボン活性の値が1を超えると触媒上にカーボンが析出しやすくなる。
【0068】
[式4]
カーボン活性=K×(Pco)/(Pco
ここで、Kは2CO=C+COの反応の平衡定数であり、Pxは成分xの分圧である。
【0069】
【表5】

【0070】
[比較例1]
比較のため、実施例1及び実施例2とほぼ同じ量の合成ガス及び水素を従来の高温COリフォーミング及びスチームリフォーミング反応をそれぞれ用いて作製する場合についてプロセス設計計算を行った。その結果、実施例1及び実施例2とほぼ同じ組成の合成ガスを40000Nm/h生成するために必要な天然ガス及びCOはそれぞれ11000Nm/h及び5t/hであり、大気に排出されるCOは12t/hであった。そして、この量の合成ガスの製造におけるTotal net input dutyは49MWだった。
【0071】
また、実施例1及び実施例2と同様に10000Nm/hの水素ガスを生成するために必要な天然ガスは4000Nm/hであり、大気に排出されるCOは9t/hであった。そして、この量の水素ガスの製造におけるTotal net input dutyは16MWだった。
【0072】
この結果から分かるように、Total net input dutyは49MWと16MWを合わせて65MWとなり、実施例1の380MWに比べて著しく小さくなったが、大気に排出されるCOは、実施例1及び実施例2では共にゼロであるのに対して、比較例1では12t/hと9t/hを合わせて21t/hとなった。
【0073】
[比較例2]
従来から使用されているNi系触媒(Ni/Al、Ni:20wt%、表面積80m/g)を用いた以外は実施例1と同一の条件で触媒性能の確認試験を行った。その結果、運転を開始してから5時間でメタン転化率が64%から48%まで低下したため運転を停止した。
【0074】
[比較例3]
従来から使用されているNi系触媒(Ni/Al、Ni:20wt%、表面積80m/g)を用いた以外は実施例2と同一の条件で触媒性能の確認試験を行った。その結果、運転を開始してから10時間でメタン転化率が64%から36%まで低下したため運転を停止した。
【符号の説明】
【0075】
1 第1加熱手段
2 第2加熱手段
3 シェル&チューブ熱交換器型リフォーマー
4 第1冷却手段
5 第1気液分離槽
6 第1圧縮機
7 脱炭酸装置
8 第2冷却手段
9 高温シフト反応装置
10 第3冷却手段
11 低温シフト反応装置
12 第4冷却手段
13 第2気液分離槽
14 第2圧縮機
15 水素分離装置
16 第3圧縮機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチーム及び/又は炭酸ガスが添加された軽質炭化水素ガスをシェル&チューブ熱交換器型リフォーマーにおいて触媒が充填されているチューブ側に供給すると共に、そのシェル側に化石燃料を使用しないエネルギーを熱源とする熱媒体を循環させることによって軽質炭化水素ガスの改質を行う改質工程と、チューブ側から排出される生成ガスを脱炭酸して合成ガスを得ると共に、除去された炭酸ガスをチューブ側の上流にリサイクルする脱炭酸工程とを有することを特徴とする合成ガスの製造方法。
【請求項2】
前記化石燃料を使用しないエネルギーが、太陽熱及び原子力の核熱の内の少なくともいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項3】
前記熱媒体が溶融塩であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項4】
前記熱媒体が、空気、窒素、ヘリウム、二酸化炭素又はこれらの2種以上の混合ガスであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項5】
前記生成ガスの一部に対してシフト反応を行わせるシフト工程を更に有していることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の合成ガスの製造方法。
【請求項6】
前記シフト工程によって得られるガスから水素ガスを分離する水素分離工程を更に有していることを特徴とする、請求項5に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項7】
前記水素ガスの分離後に残る二酸化炭素含有ガスを前記チューブ側の上流にリサイクルすることを特徴とする、請求項6に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項8】
前記水素ガスの分離にPSA装置を使用することを特徴とする、請求項6又は7に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項9】
前記脱炭酸に化学吸収法を使用することを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の合成ガスの製造方法。
【請求項10】
前記シェル&チューブ型熱交換器のチューブ側の出口温度が550〜900℃、出口圧力が0.15〜3.0MPaGであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の合成ガスの製造方法。
【請求項11】
前記シェル&チューブ型熱交換器のチューブ側に供給されるガスのスチーム/炭素モル比が0.8〜5.5であり、二酸化炭素/炭素モル比が0.6〜13.0であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の合成ガスの製造方法。
【請求項12】
前記触媒が、担体としてのマグネシウム成形体にルテニウム及び/又はロジウムが金属換算値で200〜2000wtppm担持されたものであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の合成ガスの製造方法。
【請求項13】
前記担体の比表面積が0.1〜5.0m/gであることを特徴とする、請求項12に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項14】
前記担体の形状が、リング状、マルチホール状、又はタブレット状であることを特徴とする、請求項12又は13に記載の合成ガスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−218994(P2012−218994A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87937(P2011−87937)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】