説明

CVD薄膜の形成方法及び装置

【課題】 フォトマスク上のハーフトーン領域の白欠陥部分の修正に適用した場合に、欠陥修正部分の透過率を十分に均一化すること。
【解決手段】 レーザ発振器から射出されるレーザ光を、光軸前方に静止して設けられた開口を通過させたのち、対物レンズで集光することにより、反応ガス雰囲気中に置かれた試料表面に照射すると共に、前記開口へと入射されるレーザ光の光軸を前記開口に対して揺動させることにより、試料表面上における照射光強度を時間平均作用によって均一化するとき、前記開口へ入射されるレーザ光の径を前記開口の幅よりも十分に小さく設定すると共に、前記レーザ光の光軸を前記開口の幅よりも大きな振幅で揺動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、フォトマスクのハーフトーン領域の白欠陥修正等のように、高度の膜厚均一化が要求される用途に好適なCVD薄膜の形成方法及び装置に係り、特に、光軸揺動による時間平均化作用を利用して、照射スポット内レーザ光の強度ムラを改善するようにしたCVD薄膜の形成方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトマスクのハーフトーン領域の白欠陥修正等のように、高度の膜厚均一化が要求される用途に好適なCVD薄膜の形成方法及び装置としては、光軸揺動による時間平均化作用を利用して照射スポット内レーザ光の強度ムラを改善するようにしたものが、従来より知られている。
【0003】
このようなCVD薄膜の形成装置の一例が、図6に示されている。このCVD薄膜の形成装置は、XYテーブル20に載置されたフォトマスク9の上を、公知の構造を有するCVDガス供給排気部6で覆うことにより、修正対象となるハーフトーン領域の白欠陥部分をCVD原料ガス雰囲気中に晒し、その状態において、CVD供給排気部6の上面窓を介してレーザ光を白欠陥上にスポット照射し、併せて、XYステージ20を駆動して、フォトマスクを水平面内で所定方向へと往復移動させつつ、照射スポットを走査することで、CVD原料ガスの反応により、適切な膜厚を有するCVD薄膜を堆積させて、ハーフトーン領域の白欠陥を修正するものである。
【0004】
図6において、レーザ発振器1は、CVD原料ガスに適した波長のレーザ光を生成して出射する。ビームエキスパンダ2は、レーザ発振器1から出射されるレーザ光の断面を所定の倍率で拡大する。光アッテネータ7は、レーザ光透過率を変化させることにより、ビームエキスパンダ2を通過したレーザ光の強度を調整する。ビームスキャンユニット3は、光アッテネータ7にて強度調整されたレーザ光を矩形開口4へと向けて照射すると共に、その照射光軸を矩形開口4の上で揺動させる。このとき、ビームエキスパンダ2の拡大作用により、矩形開口4に照射されるレーザ光の径は、矩形開口4の開口幅よりも十分に大きなものとなる。
【0005】
加工観察光学系5Aは、対物レンズ51とミラー52とを含み、矩形開口4を通過したのち、光学系5Bを介して到来するレーザ光を、ミラー52にて下向きに反射したのち、これを対物レンズ51で集光して、CVDガス供給排気部6の上面窓を介して、フォトマスク9の上にスポット照射する。このとき、矩形開口4とフォトマスク9とは光学的に共役な位置関係にあるため、フォトマスク9の表面には、レーザ光による微少な矩形の照射スポットが現れる。
【0006】
なお、フォトマスク9の表面で反射されたレーザ光は、対物レンズ51を通って光軸を戻り、さらに、ミラー52を透過して、観察光学系12へと導かれる。そのため、観察光学系(例えば、受光光学系やイメージセンサ等を含む)を介して、フォトマスク9上の照射スポットを観察することができる。
【0007】
また、矩形開口4を通過したレーザ光の一部は、ミラー53で反射されたのち、レーザ光強度検出器10へと導かれる。そのため、光強度検出器10を介して、矩形開口4を通過するレーザ光の強度を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−8197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の従来装置によれば、レーザ光の断面径をビームエキスパンダ2で矩形開口4の開口幅よりも十分大きく拡大し、矩形開口4内のレーザ光強度の差を小さくした上で(図7(a)参照)、矩形開口4上でレーザ光をさらに遥動させているため(図7(b)参照)、矩形開口4内各部の光強度は、時間平均化作用により理論的には均一となる筈である。
【0010】
しかし、そもそも、レーザ光の強度プロファイル(特に干渉などによるリップル成分)それ自体が、必ずしも光軸に対して対称ではないことに加え、ビーム遥動の振幅も加工観察光学系5Aのケラレや収差による強度分布の劣化を原因として、比較的小振幅に制限されるため、矩形開口4内全域の光強度の時間的均一化は必ずしも十分ではなかった(図7(c)参照)。
【0011】
一方、仮に、矩形開口4内全域のレーザ光の強度を時間的に均一化できたとしても、矩形開口4から照射面までの間に存在する光学素子(ミラー、レンズ、窓板など)で生ずる強度ムラや矩形開口像内に生ずる回折現象など光学系に起因する強度分布の不均一には、レーザ光の揺動は効果がない(図7(d)参照)。そのため、XYステージ20を利用した照射スポット(矩形開口像)の走査を併用することにより、照射面上の照射レーザ光強度の時間平均値の均一化が図られている(図7(e)参照)。
【0012】
しかし、このような照射スポットの走査併用にあっては、走査方向に関しては照射部の中央部分の照射レーザ光強度の時間平均値を均一化には有効であるものの(図7(e)のA部参照)、走査方向と垂直方向の照射強度の分布ムラに対しては十分な効果が得られなかった。
【0013】
このような理由から、上述の従来装置にあっては、フォトマスク上のハーフトーン領域の白欠陥部分の修正に適用した場合には、欠陥修正部分の透過率を十分に均一化することができないことに加え、照射スポットの走査により生ずる欠陥修正部周辺のレーザ光強度不均一部分(図7(e)のB部参照)が正規の部分透過膜と重なり合ってしまうと言ったハーフトーンパターン内部の欠陥については修正することができなかった。
【0014】
なお、走査の端部で生ずる膜厚低減部の改善策については、走査終了時にレーザ光軸をシフトさせて加工先端部のレーザ光強度を増加させた状態でレーザ照射を継続して走査端部の膜厚を増加させると言った提案もなされている(特許文献1参照)。
【0015】
しかし、上述の提案は、修正部の透過率が1%程度未満となれば十分(膜厚がある程度以上であれば十分)であるバイナリマスクの修正を目的としたものであるため、本発明が問題とするハーフトーン領域の修正に要求される透過率許容範囲(目標透過率±2%前後)を実現するためには、走査終了時の照射スポットの強度分布を厳密に制御する必要があり、レーザ光の光軸シフトだけでは実現が困難であった。
【0016】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされてものであり、その目的とするところは、フォトマスク上のハーフトーン領域の白欠陥部分の修正に適用した場合に、欠陥修正部分の透過率を十分に均一化することが可能なCVD薄膜の形成方法及び装置を提供することにある。
【0017】
本発明のさらに他の目的並びに作用効果については、明細書の以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述の発明が解決しようとする課題は、以下の構成を有するCVD薄膜の形成方法により解決することができる。
【0019】
すなわち、このCVD薄膜の形成方法は、レーザ発振器から射出されるレーザ光を、光軸前方に静止して設けられた開口を通過させたのち、対物レンズで集光することにより、反応ガス雰囲気中に置かれた試料表面に照射すると共に、前記開口へと入射されるレーザ光の光軸を前記開口に対して揺動させることにより、試料表面上における照射光強度を時間平均作用によって均一化するようにしたCVD薄膜の形成方法であって、前記開口へ入射されるレーザ光の径を前記開口の幅よりも十分に小さく設定すると共に、前記レーザ光の光軸を前記開口の幅よりも大きな振幅で揺動させる、ことを特徴とする。
【0020】
このような構成によれば、開口上では光スポット径よりも遥動の振幅が大きいため、レーザ光の強度分布が光軸に対して対称でなくとも照射レーザ光強度の時間平均を均一にすることができる。しかも、光軸の揺動振幅それ自体は従前のものとあまり変わらないため、加工観察光学系ケラレや収差による強度分布の劣化を原因として、揺動振幅が小振幅に制限されても問題はない。
【0021】
上述の方法の好ましい実施の形態としては、前記開口へ入射されるレーザ光の強度を前記レーザ光の揺動中の光軸位置に応じて変化させようにしてもよい。
【0022】
このような構成によれば、上述の微少スポットの大振幅揺動による効果に加えて、光学系に起因する照射面上の照射レーザ光強度の時間平均のムラについても、解消することができる。
【0023】
このとき、前記光軸位置が前記開口のエッジ近辺にあるとき、前記レーザ光の強度を所定の態様で変化させるようにすれば、加工観察光学系の回折や収差による結像エッジ部分の光強度分布の補正と、光スポットが矩形開口4の光像のエッジを横切って像内に入り込む場合に、薄膜成長の種形成が不十分な場合にそれを補うことができる。
【0024】
同様に、このとき、前記光軸位置が前記開口の内部領域にあるとき、各位置に応じて予め定められた態様にしたがって、前記レーザ光の強度を変化させるようにすれば、各ビーム位置毎にアッテネータの透過率を自動的に変化させ、これにより光学系に起因するレーザ照射強度のムラを補正することができる。
【0025】
上述の各方法において、前記レーザ光の径は前記開口の幅の1/3よりも小さいものであってもよい。
【0026】
上述の各方法は、前記試料がフォトマスクであって、そのハーフトーン領域の白欠陥部分の修正のために用いられるものであってもよい。
【0027】
別の一面からすると、上述の発明が解決しようとする課題は、以下の構成を有するCVD薄膜の形成装置により解決することができる。
【0028】
すなわち、このCVD薄膜の形成装置は、レーザ発振器と、レーザ発振器から出射されたレーザ光を、静止位置に置かれた所定形状の開口へと照射しつつ、その光軸を揺動させることが可能な照射揺動手段と、前記開口を通過したのちのレーザ光を集光して、反応ガス雰囲気中に置かれた試料の表面に照射する対物レンズとを有し、前記照射揺動手段は、前記開口上における光スポットの径を、前記開口の開口幅よりも十分に小さく設定すると共に、前記開口上における光スポット揺動の振幅は、前記開口の幅よりも大きく設定する機能が組み込まれている、ことを特徴とする。ここで、照射揺動手段は、一実施形態においては、ビームエキスパンダ2とビームスキャニングユニット3とを含んで構成されている。
【0029】
このような構成であっても、開口上では光スポット径よりも遥動の振幅が大きいため、レーザ光の強度分布が光軸に対して対称でなくとも照射レーザ光強度の時間平均を均一にすることができる。しかも、光軸の揺動振幅それ自体は従前のものとあまり変わらないため、加工観察光学系ケラレや収差による強度分布の劣化を原因として、揺動振幅が小振幅に制限されても問題はない。
【0030】
上述の装置の好ましい実施形態としては、前記前記照射揺動手段の前段にあって、前記照射揺動手段へと入射されるべきレーザ光を透過すると共に、その光透過率が外部からの制御で変更可能とされた可変透光手段と、前記開口の位置を示す開口位置信号を生成出力する開口位置検出手段と、前記開口位置における前記レーザ光の光軸位置を示す光軸位置信号を生成出力する光軸位置検出手段と、前記開口位置検出手段から出力される開口位置信号と前記光軸位置検出手段から出力される光軸位置信号とに基づいて、前記開口に対する前記光軸の位置を判定し、その判定結果に基づいて、前記可変透光手段の光透過率を制御する制御手段とをさらに含む、ものであってもよい。
【0031】
このような構成であっても、上述の微少スポットの大振幅揺動による効果に加えて、光学系に起因する照射面上の照射レーザ光強度の時間平均のムラについても、解消することができる。
【0032】
このとき、前記制御手段が、前記光軸が前記開口のエッジ近辺にあると判定されるとき、前記可変透光手段の光透過率を所定の態様で変化させるようにすれば、加工観察光学系の回折や収差による結像エッジ部分の光強度分布の補正と、光スポットが矩形開口4の光像のエッジを横切って像内に入り込む場合に、薄膜成長の種形成が不十分な場合にそれを補うことができる。
【0033】
このとき、前記制御手段が、前記光軸が前記開口の内部領域にあると判定されるとき、各位置に応じて予め定められた態様にしたがって、前記可変透光手段の光透過率を変化させるようにすれば、各ビーム位置毎にアッテネータの透過率を自動的に変化させ、これにより光学系に起因するレーザ照射強度のムラを補正することができる。
【0034】
上述の各装置においては、前記レーザ光の径は前記開口の幅の1/3よりも小さい、ものであってもよい。
【0035】
上述の各装置においては、前記試料がフォトマスクであって、そのハーフトーン領域の白欠陥部分の修正のために用いられる、ものであってもよい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、開口上では光スポット径よりも遥動の振幅が大きいため、レーザ光の強度分布が光軸に対して対称でなくとも照射レーザ光強度の時間平均を均一にすることができる。しかも、光軸の揺動振幅それ自体は従前のものとあまり変わらないため、加工観察光学系ケラレや収差による強度分布の劣化を原因として、揺動振幅が小振幅に制限されても問題はない。そのため、本発明によれば、フォトマスク上のハーフトーン領域の白欠陥部分の修正に適用した場合に、欠陥修正部分の透過率を十分に均一化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明装置の一実施形態を示す構成図である。
【図2】ビームスキャンユニットの一例を示す構成図である。
【図3】制御部によるアッテネータの透過率制御内容の一例を示すグラフである。
【図4】アッテネータ透過率とレーザ光強度との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の作用を説明するためのグラフである。
【図6】従来装置の一例を示す構成図である。
【図7】従来装置の作用を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に、本発明に係るCVD薄膜の形成方法及び装置の好適な実施の一形態を添付図面にしたがって詳細に説明する。
【0039】
本発明装置の一実施形態を示す構成図が図1に示されている。この装置は、図示しないテーブルに載置されたフォトマスクの上を、公知の構造を有するCVDガス供給排気部6で覆うことにより、修正対象となるハーフトーン領域の白欠陥部分をCVD原料ガス雰囲気中に晒し、その状態において、CVD供給排気部6の上面窓を介してレーザ光を白欠陥上に照射することで、CVD原料ガスの反応により、適切な膜厚を有するCVD薄膜を堆積させて、白欠陥を修正しようとするものである。
【0040】
図1において、レーザ発振器1は、CVD原料ガスに適した波長(例えば、266nm)のレーザ光を生成して出射する。ビームエキスパンダ2は、レーザ発振器1から出射されるレーザ光の断面を所定の倍率(例えば、7倍)で拡大する。
【0041】
光アッテネータ7は、そのレーザ光透過率を変化させることにより、ビームエキスパンダ2を通過したレーザ光の強度を調整する。後に詳細に説明するように、この光アッテネータのレーザ光透過率の値は、制御部8からの信号により適宜に変更制御される。
【0042】
ビームスキャンユニット3は、光アッテネータ7にて強度調整されたレーザ光を矩形開口4へと向けて照射すると共に、その照射光軸を矩形開口4の上で揺動させる。後に詳細に説明するように、ビームスキャンユニット3は、矩形開口4上で開口幅の1/3以下の光スポットを形成し、開口幅よりも大きい振幅で光スポットを遥動させる。当業者により良く知られているように、矩形開口4は、複数のナイフエッジの組合せ等により開口形状乃至サイズを変更可能に構成されるのが一般的であり、この矩形開口4からは、光スポットの揺動方向の両端エッジ位置のそれぞれを示す開口エッジ信号S2が出力される。
【0043】
加工観察光学系5Aは、対物レンズ51とミラー52とを含み、矩形開口4を通過したのち、光学系5Bを介して到来するレーザ光を、ミラー52にて下向きに反射したのち、これを対物レンズ51で集光して、CVDガス供給排気部6の上面窓を介して、フォトマスク9の上にスポット照射する。このとき、矩形開口4とフォトマスク9の表面とは光学的に共役な位置関係にあるため、フォトマスク9の表面には、レーザ光による微少な矩形の照射スポットが現れる。
【0044】
フォトマスク9の欠陥修正部はCVDガス供給・排気部9によりCVD原料ガス雰囲気中に置かれているため、光スポットの照射部分でCVD原料ガスが分解し、矩形開口4の縮小投影像内部に薄膜が形成される。
【0045】
なお、フォトマスク9の表面で反射されたレーザ光は、対物レンズ51を通って光軸を戻り、さらに、ミラー52を透過して、観察光学系12へと導かれる。そのため、観察光学系(例えば、受光光学系やイメージセンサ等を含む)を介して、フォトマスク9上の照射スポットを観察することができる。
【0046】
矩形開口4を通過したレーザ光の一部は、ミラー53で反射されたのち、レーザ光強度検出器10へと導かれる。そのため、光強度検出器10を介して、矩形開口4を通過したレーザ光の強度を検出することができる。
【0047】
フォトマスク9を透過したレーザ光は、フォトマスク9の下に配置されたレーザ光検出器11へと導かれる。そのため、レーザ強度検出器11を介して、フォトマスク9を透過するレーザ光の強度を検出することができる。
【0048】
ビームスキャンユニットの一例(1軸の場合)を示す構成図が図2に示されている。同図に示されるように、ビームスキャンユニット3は、アッテネータ7で強度調整されたレーザ光が照射されるアパーチャ31と、このアパーチャ31の透過光の光軸前方にあって、ガルバノメータに傾動可能に装着されたスキャンミラー30と、スキャンミラー30で反射されたレーザ光を、矩形開口4上に開口幅の1/3以下の光スポットが形成されるように、縮小投影させるレンズとを含んで構成される。そして、ビームスキャンユニット3からは、スキャンミラー30の傾動角度を基礎として生成され、矩形開口4に対する現在のレーザ光の光軸位置を示すビーム位置信号S1が出力される。
【0049】
スキャンミラー30の往復傾動と共に、矩形開口4に対して、開口幅の1/3以下の光スポット(例えば、円形の光スポット)が、矩形開口4の開口幅よりも大きい振幅で揺動し、これにより矩形開口4内のレーザ光の時間平均強度は均一化されることとなる。ここで、光スポットの揺動の軌跡は、水平方向へと揺動するような一次元的な揺動態様、或いは、水平方向揺動と垂直方向揺動とが組み合わされた二次元的な揺動態様を採るものであってもよいであろう。
【0050】
スキャンミラー30とレンズ31との距離は、スキャナミラー30の光軸上の点Pが、加工観察光学系5の対物レンズの入射瞳50上に結像するように調節されている。レンズ31の焦点距離は、対物レンズの入射瞳50で光スポットの周辺が遮られることがないように、また光スポットが矩形開口4の最大サイズ時のエッジ位置にあるときに加工観察光学系5の収差の影響が生じないように選定される。
【0051】
一方、光アッテネータ3のレーザ光透過率は、薄膜形成時の設定透過率にレーザ光の遥動角度に対してあらかじめ定められた変化率を乗じた透過率に設定される。また、形成する薄膜の目標透過率によっても、異なる変化率を設定することができる。
【0052】
ここで、レーザ光強度検出器10、11はレーザ光強度の設定と、光アッテネータ7の変化率の粗調整に使用される。光アッテネータ7の変化率の粗調整値Qは、レーザ光強度検出器10の出力をL1、レーザ光強度検出器11の出力をL2、加工観察光学系5の損失を補正するための補正係数をαとすると、

Q = (L2/L1) × α

として算出され、実際に部分透過膜(ハーフトーン膜)を形成して、その透過率ムラを低減するように微調整される。
【0053】
制御部8では、ビームスキャンユニット3から得られるビーム位置信号S1と、矩形開口4から得られる開口エッジ信号S2とに基づいて、現在の光スポットの矩形開口4に対する位置を認識し、それに対応する値を有する透過率制御信号S3を出力することにより、光アッテネータ7のレーザ光透過率を変化させる。
【0054】
制御部8によるアッテネータ7の透過率制御内容の一例を示すグラフが、図3及び図4に示されている。
【0055】
図3の例にあっては、ビーム位置信号S1の値に基づいて、ビーム位置が矩形開口4の第1エッジを越えて開口内(図中C部参照)へと進入したことが判定されると、図示しない透過率制御信号S3の値が変化することにより、アッテネータ7透過率の値はそれ以降徐々に低下し、その後、一定の下限値に安定する。一方、同様にして、ビーム位置が矩形開口4の第2エッジを越えて開口外へと脱出したことが判定されると、図示しない透過率制御信号S3の値が変化することにより、アッテネータ7透過率の値はそれ以降急激に上昇し、その後、一定の上限値に安定する。
【0056】
このように、矩形開口4のエッジ位置付近で光アッテネータ7の透過率を変化させる目的は、おもに加工観察光学系5の回折や収差による結像エッジ部分の光強度分布の補正と、光スポットが矩形開口4の光像のエッジを横切って像内に入り込む場合に、薄膜成長の種形成が不十分な場合にそれを補うためである。
【0057】
図4の例は、主として、矩形開口4の内部におけるアッテネータ7の透過率制御を説明するものであって、この例にあっては、予め用意された、ビーム位置信号(S1)と透過率の変化率データ(Q)との関係に基づいて、各ビーム位置毎にアッテネータの透過率を自動的に変化させ、これにより光学系に起因するレーザ照射強度のムラを補正するものである。
【0058】
最後に、本発明の作用を説明するためのグラフが図5に示されている。本発明によれば、矩形開口4上では光スポット径(同図(a)参照)よりも遥動の振幅が大きいため(同図(b)参照)、レーザ光の強度分布が光軸に対して対称でなくとも照射レーザ光強度の時間平均を均一にすることができる(同図(c)参照)。
【0059】
一方、光学系に起因する照射面上の照射レーザ光強度の時間平均のムラ(同図(d)参照)は、光アッテネータ7の透過率を図3及び図4に示されるように、光スポットの光軸位置と矩形開口サイズに応じて変化させることによって、ほぼ均一化することができる(同図(e)参照)。但し、図5(d)では、図3に示す矩形開口サイズによるエッジ部分の透過率調節は示していない。
【0060】
なお、以上の実施形態においては、小径ビームを開口内で大振幅揺動させる技術とアッテネータによるビーム位置対応の透過率制御の技術との双方を組み合わせたが、光学系に起因する照射面上の照射レーザ光強度の時間平均ムラがさほど問題がないのであれば、小径ビームを開口内で大振幅揺動させる技術単独でも十分である。
【0061】
本発明は、フォトマスクのハーフトーン領域の白欠陥修正のみならず、高度な膜厚均一化を要求される他の用途にも広く適用ができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、例えば、フォトマスクのハーフトーン領域の白欠陥修正等のように、高度の膜厚均一化が要求される用途に好適なCVD薄膜形成装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 レーザ発振器
2 ビームエキスパンダ
3 ビームスキャンユニット
4 矩形開口
5A 加工観察光学系
5B 光学系
6 CVDガス供給排気部
7 光アッテネータ
8 制御部
9 フォトマスク
10 レーザ光強度検出器
11 レーザ光強度検出器
12 観察光学系
30 スキャンミラー
31 アパーチャ
32 レンズ
50 入射瞳
51 対物レンズ
52 ミラー
53 ミラー
P 結像点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器から射出されるレーザ光を、光軸前方に静止して設けられた開口を通過させたのち、対物レンズで集光することにより、反応ガス雰囲気中に置かれた試料表面に照射すると共に、前記開口へと入射されるレーザ光の光軸を前記開口に対して揺動させることにより、試料表面上における照射光強度を時間平均作用によって均一化するようにしたCVD薄膜の形成方法であって、
前記開口へ入射されるレーザ光の径を前記開口の幅よりも十分に小さく設定すると共に、前記レーザ光の光軸を前記開口の幅よりも大きな振幅で揺動させる、ことを特徴とするCVD薄膜の形成方法。
【請求項2】
前記開口へ入射されるレーザ光の強度を前記レーザ光の揺動中の光軸位置に応じて変化させる、ことを特徴とする請求項1に記載のCVD薄膜の形成方法。
【請求項3】
前記光軸位置が前記開口のエッジ近辺にあるとき、前記レーザ光の強度を所定の態様で変化させる、ことを特徴とする請求項2に記載のCVD薄膜の形成方法。
【請求項4】
前記光軸位置が前記開口の内部領域にあるとき、各位置に応じて予め定められた態様にしたがって、前記レーザ光の強度を変化させる、ことを特徴とする請求項2に記載のCVD薄膜の形成方法。
【請求項5】
前記レーザ光の径は前記開口の幅の1/3よりも小さい、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のCVD薄膜の形成方法。
【請求項6】
前記試料がフォトマスクであって、そのハーフトーン領域の白欠陥部分の修正のために用いられる、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のCVD薄膜の形成方法。
【請求項7】
レーザ発振器と、
レーザ発振器から出射されたレーザ光を、静止位置に置かれた所定形状の開口へと照射しつつ、その光軸を揺動させることが可能な照射揺動手段と、
前記開口を通過したのちのレーザ光を集光して、反応ガス雰囲気中に置かれた試料の表面に照射する対物レンズとを有し、
前記照射揺動手段は、
前記開口上における光スポットの径を、前記開口の開口幅よりも十分に小さく設定すると共に、前記開口上における光スポット揺動の振幅は、前記開口の幅よりも大きく設定する機能が組み込まれている、ことを特徴とするCVD薄膜の形成装置。
【請求項8】
前記照射揺動手段の前段にあって、前記照射揺動手段へと入射されるべきレーザ光を透過すると共に、その光透過率が外部からの制御で変更可能とされた可変透光手段と、
前記開口の位置を示す開口位置信号を生成出力する開口位置検出手段と、
前記開口位置における前記レーザ光の光軸位置を示す光軸位置信号を生成出力する光軸位置検出手段と、
前記開口位置検出手段から出力される開口位置信号と前記光軸位置検出手段から出力される光軸位置信号とに基づいて、前記開口に対する前記光軸の位置を判定し、その判定結果に基づいて、前記可変透光手段の光透過率を制御する制御手段とをさらに含む、ことを特徴とする請求項7に記載のCVD薄膜の形成装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記光軸が前記開口のエッジ近辺にあると判定されるとき、前記可変透光手段の光透過率を所定の態様で変化させる、ことを特徴とする請求項8に記載のCVD薄膜の形成装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記光軸が前記開口の内部領域にあると判定されるとき、各位置に応じて予め定められた態様にしたがって、前記可変透光手段の光透過率を変化させる、ことを特徴とする請求項8に記載のCVD薄膜の形成装置。
【請求項11】
前記レーザ光の径は前記開口の幅の1/3よりも小さい、ことを特徴とする請求項1又は7〜10のいずれか1つに記載のCVD薄膜の形成装置。
【請求項12】
前記試料がフォトマスクであって、そのハーフトーン領域の白欠陥部分の修正のために用いられる、ことを特徴とする請求項7〜11のいずれか1つに記載のCVD薄膜の形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−210919(P2010−210919A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56684(P2009−56684)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】