説明

Cdc42タンパク質の核内移行促進剤及びそのスクリーニング方法

本発明は、HMG−CoA合成酵素阻害剤、HMG−CoA還元酵素阻害剤、AMPK活性化剤、ファルネシルピロリン酸合成酵素剤等のイソプレノイド合成阻害剤及び/又はゲラニルゲラニル転移酵素阻害剤からなるCdc42タンパク質の核内移行促進剤、その使用、その方法に関する。また、本発明は、Cdc42タンパク質の核内移行促進剤を有効成分とする血管治療剤及びCdc42タンパク質の核内移行能を測定することによる、血管治療剤のスクリーニング方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソプレノイド合成阻害剤及び/又はゲラニルゲラニル転移酵素阻害剤、特にイソプレノイド合成阻害剤であるHMG−CoA還元酵素阻害剤が、Cdc42タンパク質の核内への移行を促進する作用を有することを見出したことに基づくものである。即ち、本発明は、イソプレノイド合成阻害剤及び/又はゲラニルゲラニル転移酵素阻害剤、好ましくはイソプレノイド合成阻害剤、より好ましくはHMG−CoA還元酵素阻害剤からなるCdc42タンパク質の核内移行促進剤、同薬剤の核内移行促進剤としての使用、同薬剤を用いたCdc42タンパク質の核内移行を促進させる方法、同薬剤を含有してなる医薬組成物に関する。また、本発明は、当該Cdc42タンパク質の核内移行促進剤を有効成分とする血管治療剤、及びCdc42タンパク質の核内移行能を測定することによる血管治療剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GTP結合タンパク質(Gタンパク質)は内在性のGTP加水分解活性をもつタンパク質の総称であり、mRNAの翻訳に関与するGタンパク質群、7回膜貫通型レセプターに共役する三量体Gタンパク質群、低分子量Gタンパク質群などが知られている(実験医学2003;21:137-145)。この内、低分子量Gタンパク質群はサブユニット構造をもたない分子量が2万〜3万のタンパク質として、これまで100種類以上報告されており、イソプレニル化を受けた後に細胞膜に移行することで、GTP結合型(on)/GDP結合型(off)として細胞内シグナル伝達に関与している。
【0003】
低分子量Gタンパク質群は、さらに、Ras、Rho、Rab、Arf及びRanの五つのスーパーファミリーに分けられる(Physiol. Rev., 2001;81:153-208)。この内、Rhoファミリーは、Rho、Rac、Cdc42などのサブファミリーにさらに分けられる。Rhoファミリーはアクチン細胞骨格の再編成を介して細胞機能を制御し、Rasファミリーと同様に遺伝子発現の調節に関与している。そして、Rhoはアクチンストレスファイバ−や接着斑の、Racはラメリポディアの、Cdc42は糸状突起(フィロポディア)の形成を誘導する。
【0004】
Rhoファミリーに属する低分子量Gタンパク質であるCdc42は、分子量21kDaのタンパク質で、糸状突起の形成、細胞接着、細胞運動、細胞極性、遺伝子発現の制御などの種々の細胞活動に関与するGタンパク質である。GTPと結合した活性型(GTP結合型)Cdc42の標的タンパク質としては、PAK(p21-activated kinase)、MRCK(myotonic dystrophy kinase-related Cdc42 binding kinase)、WAPS、及びIQGAP1などが知られている。すなわち、Cdc42は、PAKの活性化によるMAPキナーゼカスケードを介して種々の遺伝子の発現を制御し、WASPやMRCKと関連して接着斑(focal contact)及び糸状突起(フィロポディア)の形成に関与し、またIQGAP1と関連して細胞間接着を制御している。
【0005】
一方、HMG−CoA(3−ヒドロキシ−3−メチル−グルタリル−CoA)還元酵素阻害剤は、コレステロールの生合成における早期律速段階、すなわちHMG−CoAのメバロン酸への転換を触媒する酵素の阻害剤であり、高コレステロール血症治療剤として知られている。HMG−CoA還元酵素阻害剤は、大規模試験において動脈硬化疾患の発症を低下させることが検証されているが、オーバーラップ解析などから、この発症低下には、肝臓においてHMG−CoA還元酵素を阻害することで発揮されるコレステロール低下作用とは別に、血管壁において発揮される作用が関与していることが示されてきている。
【0006】
すなわち、HMG−CoA還元酵素阻害剤は、血管壁細胞においてHMG−CoA還元酵素を阻害しイソプレノイド生成の低下作用を介して低分子量Gタンパク質の活性を低下させ、細胞機能に様々な影響を及ぼし、血管壁において抗炎症反応を示すことで、動脈硬化を抑制すると考えられている。
【0007】
さらに、HMG−CoA還元酵素阻害剤は、内皮細胞活性化の抑制、内皮機能の改善、単球/マクロファージの接着や泡沫化の抑制または改善、平滑筋の遊走・増殖の抑制、プラークの安定化などの作用を有しているが、これらの作用には、Rhoサブファミリーの低分子量Gタンパク質であるRho、Rac、Cdc42が関与することが報告されている。特に、HMG−CoA還元酵素阻害剤の内皮機能改善効果は、服用開始後短期間で著明に発現し、諸作用の中で重要と考えられている。
【0008】
最近、血管壁におけるアンジオテンシンII、PDGF、トロンビン、エンドセリン、ロイコトリエンB4などが介在するシグナル伝達にRacが関与し、NADPHの活性を亢進して、血管病の進展に重要な役割を果たすことが明らかにされた(Am. J. Physiol. Cell Physiol., 2003;285:C723-734)が、Cdc42についても、血管内皮細胞の増殖及びバリアー機能の回復(J. Cell Sci., 2001;114:1343-55、J. Biol. Chem., 2002;277:4003-9.、Circ. Res., 2004;94:159-166)、さらにエンドセリンのシグナル伝達(J. Biol. Chem., 2003;278:29890-900)に関与していることが報告されるようになった。
【0009】
さらに本発明者らは、HMG−CoA還元酵素阻害剤であるピタバスタチンの血管内皮細胞における遺伝子発現に及ぼす影響を検討し、ピタバスタチンが炎症性サイトカインIL−8やMCP−1の発現、エンドセリンの発現、PAI−1の発現をそれぞれ抑制する一方、血管拡張・収縮に関与するNOシンターゼの発現、凝固線溶系のトロンボモジュリンの発現を促進すること(J. Atheroscler. Thromb., 2002;9:178-183)、またPTX3(TFの発現を促進、動脈硬化進展の指標になる)の発現を抑制すること(J. Atheroscler. Thromb., 2004;11:62-183)を見出してきた。
【発明の開示】
【0010】
発明者らは、鋭意研究の結果、驚くべきことに、イソプレノイド合成阻害剤及び/又はゲラニルゲラニル転移酵素阻害剤処理、特にHMG−CoA還元酵素阻害剤処理により、RacとCdc42が核内に移行することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、イソプレノイド合成阻害剤及び/又はゲラニルゲラニル転移酵素阻害剤、好ましくはイソプレノイド合成阻害剤、より好ましくはイソプレノイド合成阻害剤の1種であるHMG−CoA還元酵素阻害剤からなるCdc42タンパク質の核内移行促進剤に関する。
【0012】
また本発明は、イソプレノイド合成阻害剤及び/又はゲラニルゲラニル転移酵素阻害剤の、好ましくはイソプレノイド合成阻害剤の、より好ましくはイソプレノイド合成阻害剤の1種であるHMG−CoA還元酵素阻害剤の、Cdc42タンパク質の核内移行促進剤としての使用に関し、またイソプレノイド合成阻害剤及び/又はゲラニルゲラニル転移酵素阻害剤を細胞に投与することからなる、Cdc42タンパク質の核内への移行を促進させる方法を提供する。
【0013】
さらに本発明は、Cdc42タンパク質の核内移行促進剤を有効成分とする血管治療剤、Cdc42タンパク質の核内移行促進剤及び製薬上許容される担体を含有してなる血管治療用の医薬組成物を提供する。
【0014】
また本発明は、Cdc42タンパク質の核内移行促進剤の血管治療剤の製造のための使用、及び治療・予防に必要な有効量のCdc42タンパク質の核内移行促進剤を血管障害の予防・治療を必要とする患者に投与することからなる血管障害の治療・予防方法を提供する。
【0015】
さらに本発明は、Cdc42タンパク質の核内への移行を測定することを特徴とする血管治療剤のスクリーニング方法を提供する。より詳細には、Cdc42タンパク質を発現している細胞に被検物質を添加し、Cdc42タンパク質の核内への移行を測定することからなる、血管治療剤のスクリーニング方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】緑色蛍光タンパク質(GFP)とCdc42との融合タンパク質をコードする遺伝子を導入して、ピタバスタチンの非存在下で培養した形質転換細胞を蛍光顕微鏡で観察した写真である。
【図2】GFPとCdc42との融合タンパク質をコードする遺伝子を導入して、ピタバスタチンの存在下で培養した形質転換細胞を蛍光顕微鏡で観察したときの写真である。
【図3】GFPとCdc42との融合タンパク質をコードする遺伝子を導入して、ピタバスタチンの存在下で培養し、さらに核染色色素ヘキスト(Hoechst)を添加して核を染色(赤色)した形質転換細胞を蛍光顕微鏡で観察したときの写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らは、HMG−CoA還元酵素阻害剤、特にピタバスタチンを用いて、HUVECにおけるCdc42タンパク質の挙動を測定した。そのために、Cdc42と蛍光タンパク質であるGFPとの融合タンパク質をコードする遺伝子をHUVECに導入し、GFP-Cdc42融合タンパク質が発現する形質転換細胞を調製した。この形質転換細胞を培養し、ピタバスタチンの有無による細胞内Cdc42の分布状態を、GFPによる蛍光として観察した。これらの結果を図1〜図3に示す。
【0018】
図1は、ピタバスタチンの非存在下で培養した形質転換細胞におけるCdc42の分布状態を蛍光顕微鏡で観察した結果を示す、図面に代わる写真である。図1ではGFPによる蛍光が細胞のほぼ全域にわたって観察でき、Cdc42タンパク質が形質転換細胞全域に分布していることが分かる。
【0019】
一方、ピタバスタチンの存在下で培養した形質転換細胞におけるCdc42の分布状態を蛍光顕微鏡で観察した結果を、図2として図面に代わる写真で示す。図2では、GFPによる蛍光が細胞のある一箇所に局在していることが観察できる。このCdc42の細胞内局在位置をさらに確認するために、上記細胞をヘキスト(Hoechst)(Lydon M., et al., J. Cell Physiol., 102,175-181 (1980); Sriram M., et al., Biochemistry, 31,11823-11834 (1992))で染色した結果を、図3として図面に代わる写真で示す。図3では、ヘキストで染色された核が赤く観察されているが、これはGFPによる蛍光が局在化している部位と一致していた。
【0020】
ここで使用したヘキストは、細胞膜透過性を有する蛍光色素であり、DNAの副溝のAT配列に特異的に結合するものである。以上の実験から、血管内皮細胞をピタバスタチンで処理すると、GFP−Cdc42が核染色色素ヘキストによる染色部位と同位置に、すなわち核に移行することが示された。この様に、HMG−CoA還元酵素阻害剤は、細胞内のCdc42タンパク質を核に移行させる作用を有していることが判明した。
【0021】
本発明のCdc42タンパク質の核内移行促進剤は、Cdc42タンパク質の関わる作用:細胞運動、細胞極性、細胞内シグナル伝達、遺伝子発現などの制御、特に血管壁細胞における遺伝子発現の制御に重要な影響を及ぼし、血管治療剤、特に内皮細胞機能改善剤、細胞接着阻害剤として有用であると考えられる。
【0022】
本発明におけるCdc42タンパク質の核内移行促進剤であるイソプレノイド合成阻害剤としては、HMG−CoA合成酵素阻害剤(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 1987;84:7488-92)、HMG−CoA還元酵素阻害剤、フィブラート等のAMPK活性化剤(Biochem. Soc. Trans., 1997;25:S676)、N含有ビスホスホネート等のファルネシルピロリン酸合成酵素阻害剤(Biochem. Biophys. Res. Commun., 1999;264:108-111)などを挙げることができる。また、本発明におけるCdc42タンパク質の核内移行促進剤であるゲラニルゲラニル転移酵素阻害剤としては、公知の文献、例えばBiochemical Pharmacology 2000; 60:1061-1068等に記載されたものなどを挙げることができる。これらの酵素阻害剤は、対象となる酵素の活性を完全に又は部分的に阻害することができる活性を有するものであればよい。
【0023】
より具体的には、以下の化合物を挙げることができる。
ロバスタチン(化学名:(+)−(1S,3R,7S,8S,8aR)−1,2,3,7,8,8a−ヘキサヒドロ−3,7−ジメチル−8−[2−[(2R,4R)−テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−6−オキソ−2H−ピラン−2−イル]エチル]−1−ナフチル (S)−2−メチルブチレート(米国特許第4,231,938号参照));
シンバスタチン(化学名:(+)−(1S,3R,7S,8S,8aR)−1,2,3,7,8,8a−ヘキサヒドロ−3,7−ジメチル−8−[2−[(2R,4R)−テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−6−オキソ−2H−ピラン−2−イル]エチル]−1−ナフチル 2,2−ジメチルブタノエート(米国特許第4,444,784号参照));
プラバスタチン(化学名:(+)−(3R,5R)−3,5−ジヒドロキシ−7−[(1S,2S,6S,8S,8aR)−6−ヒドロキシ−2−メチル−8−[(S)−2−メチルブチリルオキシ]−1,2,6,7,8,8a−ヘキサヒドロ−1−ナフチル]ヘプタン酸(米国特許第4,346,227号参照));
フルバスタチン(化学名:(3RS,5SR,6E)−7−[3−(4−フルオロフェニル)−1−(1−メチルエチル)−1H−インドール−2−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸(米国特許第5,354,772号参照));
アトルバスタチン(化学名:(3R,5R)−7−[2−(4−フルオロフェニル)−5−イソプロピル−3−フェニル−4−フェニルカルバモイル−1H−ピロル−1−イル]−3,5−ジヒドロキシヘプタン酸(米国特許第5,273,995号参照));
セリバスタチン(化学名:(3R,5S)−エリスロ−(E)−7−[4−(4−フルオロフェニル)−2,6−ジイソプロピル−5−メトキシメチル−ピリジン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸(米国特許第5,177,080号参照));
メバスタチン(化学名:(+)−(1S,3R,7S,8S,8aR)−1,2,3,7,8,8a−ヘキサヒドロ−7−メチル−8−[2−[(2R,4R)−テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−6−オキソ−2H−ピラン−2−イル]エチル]−1−ナフチル (S)−2−メチルブチレート(米国特許第3,983,140号参照));
ロスバスタチン(化学名:7−[4−(4−フルオロフェニル)−6−イソプロピル−2−(N−メチル−N−メタンスルホニルアミノピリミジン)−5−イル]−(3R,5S)−ジヒドロキシ−(E)−6−ヘプテン酸(米国特許第5,260,440号、日本国特許第2,648,897号参照));
ピタバスタチン((3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)−3−キノリル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸(米国特許第5,856,336号、日本国特許第2,569,746号参照))
これらは、製剤学的に必要であれば塩や溶媒和物として使用することもできる。特に好ましい阻害剤はピタバスタチンである。
【0024】
また、もうひとつの本発明である、Cdc42タンパク質の核内移行を測定することを特徴とする血管治療剤のスクリーニング方法としては、Cdc42タンパク質を標識又は染色し、その核内移動を同定する方法などが挙げられる。Cdc42タンパク質を標識する方法としては、遺伝学工学的手法が挙げられる。具体的には、GFP(宮脇敦史:蛍光バイオイメージングで細胞内現象を可視化する.理研ニュース255:2002年9月)をはじめとする蛍光タンパク質BFP、CFP及びYFPなどを利用して、これらとCdc42タンパク質との融合タンパク質を利用する方法が挙げられる。また、Cdc42タンパク質を染色する方法としては、免疫学的手法などが挙げられる。具体的には、蛍光抗体又は酵素抗体の利用が挙げられる。特に、遺伝学工学的手法により、GFP等の蛍光タンパク質とCdc42タンパク質との融合タンパク質を用意し、該融合タンパク質の核内移行を視覚的に同定する方法が好ましい。
【0025】
本発明のCdc42タンパク質の核内移行促進剤は、医薬として血管障害の治療・予防に使用されるだけでなく、各種の細胞を用いた試験においてCdc42タンパク質を細胞の核内に局在させておきたいときの試薬として使用することもできる。即ち、医薬における有効成分として使用されるだけでなく、実験用の試薬や診断薬における試薬などとして使用することもできる。
【0026】
本発明の血管治療剤としては、前記した本発明のCdc42タンパク質の核内移行促進剤を用いるか、あるいは同核内移行促進剤と製薬学的に許容される担体とからなる血管治療用の医薬組成物が挙げられる。
【0027】
本発明の血管治療剤の投与経路としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、又は静脈内注射剤、筋肉内注射剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等による非経口投与が挙げられる。
【0028】
また、このような種々の剤型の医薬製剤を調製するには、この有効成分を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を1種又はそれ以上と適宜組み合わせて用いることができる。
【0029】
特に、HMG−CoA還元酵素阻害剤の投与経路としては経口投与が好ましい。経口投与用製剤の調製にあたっては、有効成分の安定性を考慮してpHを調整(特開平2−6406号、日本国特許第2,774,037号、WO97/23200号等。これらの文献を参照して本明細書に取り込む。)するのが好ましい。
【0030】
これらの医薬の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状等によって異なるが、通常成人の場合、有効成分をイソプレノイド合成阻害剤及び/又はゲラニルゲラニル転移酵素阻害剤として、一日0.01〜1000mg、特に0.1〜100mgを、1回又は数回に分けて経口投与するのが好ましい。
【0031】
実施例
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
GFPと所望のタンパク質との融合タンパク質を調製するための市販プラスミドpEGFP−C1の所定の位置に、Cdc42の翻訳領域の全領域をコードする遺伝子を導入して、GFP−Cdc42遺伝子を含有するプラスミドを構築した。
1×10 個のHUVECを6ウエルのプレートに播種した後、1夜EGM−2培地で培養した。この細胞に、フゲネ6(Fugene6)を用いて、前記で調製したプラスミド構築物DNAを1ウエル当たり0.8μg添加した。さらに21時間EGM−2培地で培養した後、GFPによる蛍光を蛍光顕微鏡で観察した結果を図1に示す。
一方、プラスミド構築物DNAを添加したHUVECの培養を開始してから6時間後に、ピタバスタチンを最終濃度が1μMとなるように添加し、さらに静置して15時間培養した細胞をプレパラート上に固定し、蛍光顕微鏡で観察した結果を図2に示す。さらに、この細胞を核染色色素ヘキストで染色した結果を図3に示す。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、Cdc42タンパク質の核内移行促進剤に関するものであり、Cdc42タンパク質は、血管内皮細胞の増殖及びバリアー機能の回復、又エンドセリンのシグナル伝達に関与していることが知られており、又、血管収縮・拡張、炎症、血液凝固・線溶に関わる種々の遺伝子の発現調節を介して血管病の進展に重要な役割を果しているものであることから、本発明の薬剤は、各種の血管病の治療や予防のための医薬として産業上の極めて有用なものである。
また、本発明は、Cdc42タンパク質の核内への移行を測定することを特徴とする血管治療剤のスクリーニング方法を提供するものであり、血管病の新たな治療薬や予防薬を開発するための手法として産業上有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレノイド合成阻害剤及び/又はゲラニルゲラニル転移酵素阻害剤を含有してなる、Cdc42タンパク質の核内移行促進剤。
【請求項2】
イソプレノイド合成阻害剤が、HMG−CoA合成酵素阻害剤、HMG−CoA還元酵素阻害剤、AMPK活性化剤又はファルネシルピロリン酸合成酵素剤である、請求の範囲第1項に記載のCdc42タンパク質の核内移行促進剤。
【請求項3】
HMG−CoA還元酵素阻害剤がピタバスタチンである、請求の範囲第2項に記載のCdc42タンパク質の核内移行促進剤。
【請求項4】
イソプレノイド合成阻害剤及び/又はゲラニルゲラニル転移酵素阻害剤のCdc42タンパク質の核内移行促進剤としての使用。
【請求項5】
イソプレノイド合成阻害剤が、HMG−CoA合成酵素阻害剤、HMG−CoA還元酵素阻害剤、AMPK活性化剤又はファルネシルピロリン酸合成酵素剤である、請求の範囲第4項に記載のCdc42タンパク質の核内移行促進剤としての使用。
【請求項6】
HMG−CoA還元酵素阻害剤がピタバスタチンである、請求の範囲第5項に記載のCdc42タンパク質の核内移行促進剤としての使用。
【請求項7】
イソプレノイド合成阻害剤及び/又はゲラニルゲラニル転移酵素阻害剤を細胞に投与することからなる、Cdc42タンパク質の核内移行を促進させる方法。
【請求項8】
イソプレノイド合成阻害剤が、HMG−CoA合成酵素阻害剤、HMG−CoA還元酵素阻害剤、AMPK活性化剤又はファルネシルピロリン酸合成酵素剤である、請求の範囲第7項に記載の方法。
【請求項9】
HMG−CoA還元酵素阻害剤がピタバスタチンである、請求の範囲第8項に記載の方法。
【請求項10】
請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載のCdc42タンパク質の核内移行促進剤及び製薬上許容される担体を含有してなる血管治療用の医薬組成物。
【請求項11】
請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載のCdc42タンパク質の核内移行促進剤の血管治療剤の製造のための使用。
【請求項12】
治療・予防に有効量の請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載のCdc42タンパク質の核内移行促進剤を血管障害の予防・治療を必要とする患者に投与することからなる血管障害の治療・予防方法。
【請求項13】
Cdc42タンパク質を発現している細胞に被検物質を添加し、Cdc42タンパク質の核内への移行を測定することからなる血管治療剤のスクリーニング方法。
【請求項14】
Cdc42タンパク質が蛍光蛋白質との融合タンパク質の形態である、請求の範囲第13項に記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
Cdc42タンパク質の核内への移行の測定が蛍光観察によるものである、請求の範囲第13項または第14項に記載のスクリーニング方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/079847
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510307(P2006−510307)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003008
【国際出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】