説明

Co基金属ガラス合金、磁心、電磁変換機および時計

【課題】過冷却液体温度域△Txが広く、換算ガラス化温度Tg/Tlが大きい金属ガラスとして安定的に存在するCo基金属ガラス合金を提供する。
【解決手段】 Fe、Ni、B、Si、Nb、MoおよびCrを含む高透磁率のCo基金属ガラス合金であって、Feの含有率が2原子%以上かつ6原子%以下、Niの含有率が4原子%以下、Bの含有率が15原子%以上かつ20原子%以下、Siの含有率が8原子%以上かつ13原子%以下、Nbの含有率が3原子%以下、Moの含有率が0.1原子%以上かつ1原子%以下、Crの含有率が2原子%以下、残部がCoで構成され、かつ、CoとFeの含有比率がCo:Fe=95.2:4.8であり、前記含有比率を示すCoとFeの各値の許容範囲がそれぞれ±0.3以内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Co基金属ガラス合金、磁心、電磁変換機および時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特定の金属材料を主成分とし、所定の条件を満たす元素を含む材料とを混合した混合物を、溶融状態から極めて急速に冷却すると、結晶が形成される前のランダムな非晶質状態の合金が形成される場合がある。このような合金のなかで、所定の温度領域において、ガラス様に振る舞う非晶質合金は、「金属ガラス」と呼ばれる。
このような金属ガラスは、その特性を示す指標として、昇温に伴って結晶化し始める温度である結晶化開始温度Txと、ガラス転移を生じる温度であるガラス転移温度Tgという相転移温度と、合金全体が完全な液体状態になる温度である液相線温度Tlを有している。そして、これらの温度の差Tx−Tgは、一般に、過冷却液体温度域△Txとして定義され、Tg/Tlは、換算ガラス化温度として定義されている。これら△Tx,Tg/Tlは、金属ガラスのなり易さ(ガラス形成能)を示す指標であり、過冷却液体温度域△Txが広く、換算ガラス化温度Tg/Tlが大きい金属ガラスほど安定的に存在することができる。
【0003】
また、近年、金属ガラスが有する高強度かつ低ヤング率という優れた機械的特性と、高透磁率の軟磁気特性という優れた磁気的特性等が注目され、例えば、モータ、発電機、アンテナ、電圧変換トランスのような電磁変換機の磁心等として、種々の分野に応用されている。
例えば、特許文献1には、Feを主成分とした金属ガラス合金で構成された磁心、特許文献2には、Coを主成分とした金属ガラス合金が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1のFeを主成分とした金属ガラス合金は、過冷却液体温度域△Txが20K以上と高いものの、比透磁率が10,000程度と高い値を示す周波数領域が100KHzであり、10Hz程度で使用される電子制御式機械時計の磁心などは、十分な磁気特性を発揮することができない。
また、特許文献2のCoを主成分とした金属ガラス合金は、過冷却液体温度域△Txが20K以上と高く、軟磁気特性を示すものの、比透磁率が20,000以上と高い値を示す周波数領域が1KHzであり、特許文献1と同様に、電子制御式機械時計の磁心などは、十分な磁気特性を発揮することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3532390号
【特許文献2】特許第3877893号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、過冷却液体温度域△Txが広く、換算ガラス化温度Tg/Tlが大きい金属ガラスとして安定的に存在することができ、低い周波数において優れた磁気特性を示すことができるCo基金属ガラス合金、かかるCo基金属ガラス合金で構成された高性能の磁心、および、この磁心を備えた高性能の電磁変換機および時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のCo基金属ガラス合金は、Fe、Ni、B、Si、Nb、MoおよびCrを含む高透磁率のCo基金属ガラス合金であって、Feの含有率が2原子%以上かつ6原子%以下、Niの含有率が4原子%以下、Bの含有率が15原子%以上かつ20原子%以下、Siの含有率が8原子%以上かつ13原子%以下、Nbの含有率が3原子%以下、Moの含有率が0.1原子%以上かつ1原子%以下、Crの含有率が2原子%以下、残部がCoであり、かつ、CoとFeの含有比率がCo:Fe=95.2:4.8であり、前記含有比率を示すCoとFeの各値の許容範囲がそれぞれ±0.3以内である。
この発明によると、過冷却液体温度域△Txが広く、換算ガラス化温度Tg/Tlが大きい金属ガラスとして安定的に存在することができ、低い周波数において優れた磁気特性を示すことができ、例えば応力の影響を受けない磁気特性に優れた磁心を得ることができる。
【0008】
また、本発明のCo基金属ガラス合金は、CoおよびFeを合わせた含有率が68原子%以上かつ71原子%以下であることが好ましい。
この発明によると、Co基金属ガラス合金の比透磁率を高め、例えば磁気特性に優れた磁心を得ることができる。
また、本発明のCo基金属ガラス合金は、Siの含有率が10原子%以上かつ11原子%以下であることが好ましい。
この発明によると、過冷却液体温度域△Txを広く、換算ガラス化温度Tg/Tlを大きくしてCo基金属ガラス合金のガラス形成能を高めることができる。
【0009】
また、本発明のCo基金属ガラス合金は、Moの含有率が0.2原子%以上かつ0.35原子%以下であることが好ましい。
この発明によると、過冷却液体温度域△Txを広く、換算ガラス化温度Tg/Tlを大きくしてCo基金属ガラス合金のガラス形成能を高めることができるとともに、比透磁率をさらに高めることができる。
【0010】
また、本発明のCo基金属ガラス合金は、当該Co基金属ガラス合金の結晶化開始温度をTx[K]とし、ガラス転移温度をTg[K]とし、合金の液相線温度をTl[K]としたとき、Tx−Tgで定義される過冷却液体温度域△Txが30K以上であり、換算ガラス化温度Tg/Tlが0.58以上であることが好ましい。
この発明によると、Co基金属ガラス合金は、十分なガラス形成能を示すものとなる。したがって、特殊な冷却手段を用いて、大きな冷却速度で冷却することなく、容易に金属ガラスを得ることができる。
【0011】
また、本発明のCo基金属ガラス合金は、測定周波数10Hzにおける最大透磁率が80,000以上であることが好ましい。
この発明によると、例えば、低周波数帯で使用されるモータや発電機の磁心材料として、本発明のCo基金属ガラス合金が特に好適に用いられる。すなわち、このような磁心においては、比透磁率が大きいほど磁心の内部を通過する磁束密度が大きくなり、モータや発電機の性能を高めることができる。したがって、低周波数帯において高い性能を示す磁心を得ることができる。
【0012】
また、本発明の磁心は、上記のCo基金属ガラス合金で構成されていることが好ましい。
この発明によると、低い周波数帯において内部を透過する磁束密度が大きくなり、高性能の磁心を得ることができる。
また、本発明の磁心は、前記Co基金属ガラス合金で構成された粉末を成形してなる成形体、または、該成形体を焼結してなる焼結体で構成されることが好ましい。
この発明によると、Co基金属ガラス合金の粒子が、樹脂材料によって絶縁されること
になるため、渦電流損失の低減を図ることができる。このため、より低損失の磁心を得ることができる。
【0013】
また、本発明の磁心は、前記焼結が、放電プラズマ焼結により行われることが好ましい。
この発明によると、放電プラズマ焼結では、Co基金属ガラス合金の粒子同士の間隙にパルス状の電気エネルギーを投入し、火花放電で発生する高温プラズマによる高いエネルギーを粒子同士の焼結に用いることができる。このため、特に粒子の表面付近を選択的に焼結させ、各粒子は、金属ガラス合金の特性を確実に維持することができる。
【0014】
また、本発明の磁心は、当該磁心が、前記Co基金属ガラス合金の溶融物を鋳造成形してなるものであることが好ましい。
この発明によると、目的とする形状の磁心を高い寸法精度で得ることができる。
また、本発明の電磁変換機は、本発明の磁心と、該磁心の外周に巻き回されるコイルとを有することを特徴とする。
この発明によると、低い周波数帯において内部を透過する磁束密度が大きくなり、電磁変換機として高い性能を示すものとなる。
【0015】
また、本発明の電磁変換機は、前記コイルと接触する前記磁心の巻線部の断面形状を円形状とすることが好ましい。
この発明によると、巻線部の外周と、この巻線部に巻き付けられたコイルとの間に、隙間が生じ難くなり、コイルに電圧を印加した場合、磁心に対してより大きな磁束密度をもたらすことができる。
【0016】
また、本発明の電磁変換機は、前記磁心の前記コイルと接触する表面に、前記Co基金属ガラス合金中の元素を含む不働態被膜を有することが好ましい。
この発明によると、磁心とコイルとの絶縁を図る絶縁層を、容易に形成することができる。
さらに、本発明の時計は、本発明の電磁変換機を備えることが好ましい。この発明によると、高性能の時計を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】CoおよびFeを合わせた含有率と最大透磁率との関係を示す図である。
【図2】CoおよびFeを合わせた含有率と磁束密度との関係を示す図である。
【図3】Siの含有率と換算ガラス化温度との関係を示す図である。
【図4】Siの含有率と液相線温度との関係を示す図である。
【図5】Siの含有率と最大透磁率との関係を示す図である。
【図6】Siの含有率と磁束密度との関係を示す図である。
【図7】Moの含有率と換算ガラス化温度との関係を示す図である。
【図8】Moの含有率と液相線温度との関係を示す図である。
【図9】Moの含有率と磁束密度および保持力の関係を示す図である。
【図10】磁気特性の評価を行なうために作成した複数のサンプルの組成などを示す図である。
【図11】そのサンプルの形状および評価方法を説明する図である。
【図12】サンプルに加える重りの重量と、その重量に対するたわみ量の関係を示す図である。
【図13】評価によって得られた、各サンプルの重りの重量の変化と、これに対する磁束密度の変化率との関係を示す一例である。
【図14】図13の重りの重量が50gのときの、Feの含有比率と、この比率に対応する磁束密度の変化率との関係を示す図である。
【図15】本発明の磁心の第1実施形態を示す模式図(斜視図)である。
【図16】本発明の電磁変換機の第1実施形態を示す模式図(縦断面図)である。
【図17】図15に示す磁心の製造に用いられる射出成形装置の構成を示す模式図(縦断面図)である。
【図18】本発明の磁心の第2実施形態を示す模式図(斜視図)である。
【図19】図18に示す磁心の製造に用いられる射出成形装置の構成を示す模式図(縦断面図)である。
【図20】本発明の磁心の第3実施形態を示し、(A)はその平面図、(B)はその断面図である。
【図21】第3実施形態に係る磁心について、接着と未接着の場合の鉄損のそれぞれの測定結果を示す図である。
【図22】その比較例について、接着と未接着の場合の鉄損のそれぞれの測定結果を示す図である。
【図23】本発明の磁心の第4実施形態を示す模式図(斜視図)である。
【図24】本発明の磁心の第5実施形態を示す模式図(斜視図)である。
【図25】本発明の時計の第1実施形態を模式的に示す平面図である。
【図26】本発明の時計の第2実施形態を模式的に示す平面図である。
【図27】ローターの回転に必要なトルクの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のCo基金属ガラス合金、磁心、電磁変換機および時計について、図面を参照して説明する。
[Co基金属ガラス合金]
まず、本発明のCo基金属ガラス合金について説明する。
本発明のCo基金属ガラス合金は、Co(コバルト)を主成分とし、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、B(ホウ素)、Si(ケイ素)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)およびCr(クロム)を含むものである。
【0019】
そして、Feの含有率が2原子%以上かつ6原子%以下、Niの含有率が0原子%以上かつ4原子%以下、Bの含有率が15原子%以上かつ20原子%以下、Siの含有率が8原子%以上かつ13原子%以下、Nbの含有率が0原子%以上かつ3原子%以下、Moの含有率が0.1原子%以上かつ1原子%以下、Crの含有率が2原子%以下、残部がCoとされている。
【0020】
また、本発明のCo基金属ガラス合金では、上記のCoとFeの含有率の範囲内において、CoとFeの含有比率(含有の割合)を変化させる評価を行い、磁気特性が良好である最適値を見出した。
そして、これに基づいて本発明のCo基金属ガラス合金では、CoとFeの含有比率が、Co:Fe=95.2:4.8であり、その含有比率を示すCoとFeの各値の許容範囲がそれぞれ±0.3以内になるようにした。
【0021】
このため、本発明のCo基金属ガラス合金は、上記の含有比率でCoおよびFeを含有している。
このようなCo基金属ガラス合金は、過冷却液体温度域△Txが広く、換算ガラス化温度Tg/Tlが大きく、安定したものとなる。また、このCo基金属ガラス合金は、磁気特性に優れ、低い周波数において高い透磁率を示す。このため、例えば、かかるCo基金属ガラス合金で構成された磁心は、高性能で、かつ信頼性の高いものとなる。
【0022】
ここで、過冷却液体温度域△Txは、加熱に伴って金属ガラス合金が結晶化し始める温度である結晶化開始温度Txとガラス転移を生じる温度であるガラス転移温度Tgとの差Tx−Tgで定義される指標である。この指標は、金属ガラスのなり易さ(ガラス形成能)を示す指標であり、過冷却液体温度域△Txが広い金属ガラスほど安定的に存在することができる。
また、換算ガラス化温度Tg/Tlは、ガラス転移温度Tgを、加熱したときに合金全体が完全な液体状態になる温度である液相線温度Tlで除した値で定義され、金属ガラスのなり易さ(ガラス形成能)を示す指標であり、換算ガラス化温度Tg/Tlが大きい金属ガラスほど安定的に存在することができる。
【0023】
以下、本発明のCo基金属ガラス合金を構成する各構成元素の含有率などについて、図1から図14を参照して順次説明する。
Coは、本発明のCo基金属ガラス合金の主成分をなし、主に、Co基金属ガラス合金の優れた軟磁気特性(軟磁性)とともに、優れた機械的特性を発現する等の性質を有する成分である。なお、本発明において、主成分とは、Co基金属ガラス合金を構成する各成分の中で、最も含有率が高いもののことを言う。
【0024】
Feは、主に、Co基金属ガラス合金の飽和磁束密度に大きく影響し、比透磁率を高める等の性質を有する成分である。
Feの含有率は、前述した2原子%以上かつ6原子%以下とすることにより、Co基金属ガラス合金の飽和磁束密度を高めつつ、十分な過冷却液体温度域ΔTxを確保することができる。Feの含有率が下限値(2原子%以上)を下回ると、Co基金属ガラス合金の飽和磁束密度が大きく低下し、例えば、Co基金属ガラス合金で構成された磁心の磁気特性が低下する。一方、Feの含有率が上限値(6原子%以下)を上回ると、Co基金属ガラス合金の飽和磁束密度が向上するものの、保磁力が高くなり、結果として比透磁率が低下することとなる。このため、前述と同様に磁心の磁気特性が低下するおそれがある。
【0025】
ここで、本発明は、後述のように、CoとFeの含有比率をCo:Fe=95.2:4.8に選択すると、磁歪零を示して磁気特性が良好になるということを初めて見出したものであり、この点については後述する。
したがって、本発明の実施形態に係るCo基金属ガラス合金は、例えば、その含有比率でCoおよびFeを含有している。
【0026】
図1及び図2は、その含有比率としたCoおよびFeを合わせた含有率の変化に対する、最大透磁率μm及び磁束密度Bmの特性を示したものである。これら図1、2から明らかなように、CoおよびFeの含有率を68原子%以上かつ71原子%にすると、最大透磁率μm、磁束密度Bmが最大値を示す。これにより、Co基金属ガラス合金の比透磁率を高め、例えば、磁気特性に優れた磁心を得ることができる。
Niの含有率は、前述した4原子%以下で含むのが好ましい。Niは、主に、Co基金属ガラス合金の磁歪に影響する等の性質を有する成分であるため、Niを前記範囲内の含有率で含むことにより、Co基金属ガラス合金の比透磁率を高めることができる。これにより、例えば、磁気特性に優れた磁心を得ることができる。
【0027】
Bは、主成分のCoに対して原子サイズが異なる元素であるため、主に、ガラス形成能、すなわち過冷却液体温度域ΔTxに影響を及ぼす等の性質を有する成分である。Bの含有率は、前述した15原子%以上かつ20原子%以下とすることにより、十分な過冷却液体温度域ΔTxを確保することができる。Bの含有率が下限値(15原子%)を下回ると、過冷却液体温度域ΔTxが著しく狭くなり、Co基金属ガラス合金のガラス形成能が著しく低下する。一方、Bの含有率が上限値(20原子%)を上回ると、比透磁率が著しく低下する。
【0028】
Siは、本発明のCo基金属ガラス合金が過冷却液体状態にあるとき、主に、その過冷却液体の粘度とその温度依存性に影響を及ぼす等の性質を有する成分である。
図3、図4は、Siの含有率の変化に対する液相線温度Tl、換算ガラス化温度Tg/Tlの特性を示したものである。これら図3、4から、Siの含有率が8〜13原子%の範囲で変化すると、液相線温度Tlが低くなり、換算ガラス化温度Tg/Tlが大きくなることがわかる。
【0029】
これにより、Siの含有率は、前述した8原子%以上かつ13原子%以下とすることにより、Co基金属ガラス合金の過冷却液体の粘度を最適化して、過冷却液体の成形性を高めるとともに、十分な過冷却液体温度域ΔTx、換算ガラス化温度Tg/Tlを大きくすることができる。Siの含有率が下限値(8原子%)を下回ると、Co基金属ガラス合金のガラス形成能が低下する(過冷却液体温度域ΔTxが狭くなり、換算ガラス化温度Tg/Tlが小さくなる)。一方、Siの含有率が上限値(13原子%)を上回った場合も、過冷却液体温度域ΔTxが著しく狭くなり、換算ガラス化温度Tg/Tlも小さくなって、Co基金属ガラス合金のガラス形成能が著しく低下する。
【0030】
ここで、図5、図6で示すように、Siの含有率が8原子%〜13原子%の範囲の磁気特性を示すと、Siの含有率が8原子%以上かつ11原子%以下で、最大透磁率μm、磁束密度Bmが最大値を示す。これにより、Siの含有率を8原子%以上かつ11原子%以下にすると、Co基金属ガラス合金のガラス形成能を高めながら比透磁率を高めることができ、例えば、磁気特性に優れた磁心を得ることができる。
【0031】
Nbは、主に、Co基金属ガラス合金の磁歪に影響し、Co基金属ガラス合金の磁気特性に影響を及ぼす等の性質を有する成分である。Nbの含有率は、前述した3原子%以下とすることにより、Co基金属ガラス合金の比透磁率を高めつつ、十分な過冷却液体温度域ΔTxを確保することができる。Nbの含有率が上限値(3原子%)を上回る場合は、Co基金属ガラス合金の比透磁率が低下し、例えば、Co基金属ガラス合金で構成された磁心の磁気特性が低下する。
【0032】
Crは、主に、Co基金属ガラス合金の比抵抗を高めるとともに、Co基金属ガラス合金に不働態被膜を形成し得る等の性質を有する成分である。Crの含有率は、前述した2原子%以下とすることにより、Co基金属ガラス合金の比透磁率を高めるとともに、耐候性および耐薬品性に優れたCo基金属ガラス合金を得ることができる。その結果、例えば、高性能で信頼性の高い磁心を得ることができる。
Moの含有率は、前述した0.1原子%以上かつ1原子%以下とすることにより、十分な過冷却液体温度域ΔTxを確保することができる。Moの含有率が下限値(0.1原子%)を下回ると、過冷却液体温度域ΔTxが著しく狭くなり、Co基金属ガラス合金のガラス形成能が著しく低下する。
図7から図9は、Moの含有率変化に対応した換算ガラス化温度Tg/Tl、液相線温度Tl、磁束密度Bm及び保磁力の変化を示すものである。
【0033】
ここで、図8に示すように、Moの含有率が0.3原子%のときに液相線温度Tlが最も低下しているが、0.3原子%含有のMoが、B,Siの含有により共晶点からずれた合金組成を元の共晶点に戻す役割を果たしている。
【0034】
そして、図7、図8からMoの含有率が0.2〜0.35原子%の範囲で変化すると、液相線温度Tlが低くなり、換算ガラス化温度Tg/Tlが大きくなることがわかる。また、図9からMoの含有率が0.2〜0.35原子%の範囲で変化すると、磁束密度Bmが500mTを確保され、保持力が1.7A/mと極小値を示すことがわかる。
これにより、Moの含有率が0.2原子%以上かつ0.35原子%以下とすることにより、十分な過冷却液体温度域ΔTxを確保しつつ、換算ガラス化温度Tg/Tlが大きくなってガラス形成能を高くすることができるとともに、保磁力が低くなることで比透磁率を高めることができ、例えば、磁気特性に優れた磁心を得ることができる。
【0035】
ここで、金属ガラス合金は、溶融状態の原材料を冷却することにより得ることができる。冷却することにより、溶融状態にある原材料の原子配列を固定し、ランダムな原子配列の合金を得ることができる。過冷却液体温度域ΔTxが広く、換算ガラス化温度Tg/Tlが大きいと、十分な冷却速度を確保できない場合にも、金属ガラス合金を確実に得ることができるようになる。
【0036】
かかる観点から、本発明のCo基金属ガラス合金は、その過冷却液体温度域ΔTxが30K以上であり、換算ガラス化温度Tg/Tlが0.58以上であるのがより好ましい。過冷却液体温度域ΔTx及び換算ガラス化温度Tg/Tlがこのような範囲内であれば、Co基金属ガラス合金は、十分なガラス形成能を示すものとなる。したがって、特殊な冷却手段を用いて、大きな冷却速度で冷却することなく、容易に金属ガラスを得ることができる。
【0037】
また、熱容量の大きなバルク状の金属ガラス合金を得る場合、内部の冷却速度が十分に大きくなくても、確実にガラス化することができる。このため、形状にとらわれることなく、所望の形状の金属ガラス合金を得ることができる。
また、本発明のCo基金属ガラス合金は、前述したように、軟磁気特性を示すとともに、高い比透磁率を示す。
【0038】
さらに、本発明は、上記のように、CoとFeの含有比率をCo:Fe=95.2:4.8に選択すると、磁歪零を示して磁気特性が良好になるということを初めて見出したものであるので、この点について以下に説明する。
このために、図10に示すような複数のサンプルを作成し、これらについて外力を加えて磁気特性の評価を行なった。
【0039】
複数のサンプルは、図10に示すような組成からなるとともに、上記のCoとFeの含有率の範囲内において、CoとFeの含有比率をそれぞれ異なるようにした。また、その各サンプルの形状は、図11に示すようなリング(中空円板)50からなる。サンプルのサイズは、外径が10mm、内径が6mm、および厚みが0.5mmとした。リング50には、磁束を発生させるために励起電圧を印加するコイル51を巻くとともに、その発生磁束を検出するためのコイル52を巻いた。
このような複数のサンプルの磁気特性の評価は、リング50の一端部を図11に示すようにバイス53で固定させ、この状態でその一端部と対向するリング50の他端部に重り54を加え、リング50に対して曲げ応力を加えるようにする。このときの重り54の重量と、サンプルのたわみ量との関係は、例えば図12に示すようになる。
【0040】
そして、各サンプルについて、コイル51に所定の誘起電圧を印加させ、この状態で重り54の重量を変化させて、この変化に対応するコイル52の誘起電圧を測定し、これに基づいて磁束密度を求めるようにした。また、この求めた磁束密度に基づき、各サンプルについて、重り54の重量に対する磁束密度の変化率ΔBを次の(1)式で求めるようにした。
ΔB={1−(B2/B1)}×100・・・(1)
ここで、B1はサンプルに重り54が加えられないときの磁束密度であり、B2はサンプルに重り54が加わったときの磁束密度である。
【0041】
図13は、このようにして得られた各サンプルの重り54の重量の変化と、これに対する磁束密度の変化率との関係を示す一例である。図14は、図13の重りの重量が50gのときの、Feの含有率の割合と、この割合に対応する磁束密度の変化率との関係を示す。
図14によれば、CoとFeの含有比率がCo:Fe=95.2:4.8のときが、磁束密度の変化率が零であり、磁気特性が最適であることがわかる。
ここで、CoとFeの含有比率がこのような関係を満たすのは、図10の「サンプル10」のときである。
【0042】
また、図10、図13、および図14を参照すると、CoとFeの含有比率が好ましい範囲は、Co:Fe=95.2:4.8であって、含有比率を示すCoとFeの各値の許容範囲がそれぞれ±0.1以内のときである。
さらに、Feの含有比率が実用的な範囲は、Co:Fe=95.2:4.8であって、含有比率を示すCoとFeの各値の許容範囲がそれぞれ±0.3以内のときである。
このため、本発明のCo基金属ガラス合金で後述のように各種の磁心を構成する場合には、応力の影響を受けない磁気特性に優れた磁心を得ることができる。
【0043】
ところで、磁性材料の比透磁率は、測定周波数に依存して変化することが知られている。
本発明のCo基金属ガラス合金は、測定周波数10Hzにおける最大比透磁率が80,000以上であるのが好ましい。10Hz程度の比較的低周波数における最大比透磁率が前記範囲内にあると、例えば、低周波数帯で使用されるモータや発電機の磁心材料として、本発明のCo基金属ガラス合金が特に好適に用いられる。すなわち、このような磁心においては、比透磁率が大きいほど磁心の内部を通過する磁束密度が大きくなり、モータや発電機の性能を高めることができる。したがって、低周波数帯において高い性能を示す磁心を得ることができる。
【0044】
ところで、一般的に用いられる金属材料は、結晶金属で構成されている。この結晶金属は、その内部に結晶粒界が存在するとともに、結晶粒内の転位(原子レベルでの位置ズレ)が生じる。このような結晶粒界や結晶粒内転位は、結晶金属中に生じた亀裂の進展を促進するため、金属材料の機械的強度の低下を招く。また、表面付近の結晶粒界や結晶粒内転位が外気と接触すると、その接触部を起点として金属材料の腐食を招くおそれがある。
また、結晶金属の溶融物を成形型に充填して成形体を得る場合、溶融物の温度が低下するとともに結晶化する。この結晶化の際に、溶融物中の原子が規則的に配列し余剰な体積が消滅するために大きな体積収縮を伴うため、得られる成形体には、成形型に対するズレが生じる。すなわち、成形時の転写性に劣るという問題がある。
【0045】
これに対し、金属ガラス合金は、前述したように、内部の原子配列が溶融液体構造と同様にランダムであるため余剰な体積を凍結し、結晶粒界や粒内転位が存在しない。このため、金属ガラス合金では、結晶金属で問題となっている機械的強度の低下や腐食の進行を、確実に防止することができる。したがって、金属ガラス合金は、優れた機械的特性と、優れた耐候性および耐薬品性を発揮することができる。
また、成形時に、結晶化に伴う原子の移動が起こらないため、成形型を忠実に再現した成形体を得ることができる。すなわち、金属ガラス合金は、転写性に優れている。このような利点を活かすことにより、金属ガラス合金では、より複雑で微細な成形体を得ることや、微細な文字や模様を転写した成形体を得ることもできる。
【0046】
[磁心および電磁変換機]
<第1実施形態>
次に、本発明の磁心および電磁変換機の第1実施形態について説明する。
図15は、本発明の磁心の第1実施形態を示す模式図(斜視図)である。
図15に示す磁心1は、円柱状(横断面形状が円形状)の巻線部40と、巻線部40の両端部に設けられた2つのコイル枠41,41と、各コイル枠41,41の巻線部40と反対側に、それぞれ各接続部42,42が設けられている。2つのコイル枠41,41の巻線部40を向く面は、外周側から内周側に向かうに従い互いに近接するテーパ面41a,41aが形成されている。このように、2つのコイル枠41,41の巻線部40を向く面をテーパ面41a,41aとした磁心1は、射出成形による成形性が良好となる。
【0047】
また、図15に示す巻線部40、各コイル枠41、41および各接続部42、42は、一体に形成されている。
この磁心1は、前述した本発明のCo基金属ガラス合金(例えば図10の「サンプル10」の合金)で構成されている。前述したように、本発明のCo基金属ガラス合金は、過冷却液体温度域ΔTxが広く、かつ換算ガラス化温度Tg/Tlが大きく、安定して存在し得るものであり、さらに、低い周波数で高い透磁率を示すものである。したがって、このようなCo基金属ガラス合金で構成された磁心1は、低い周波数帯において内部を透過する磁束密度が大きくなり、磁心および後述する電磁変換機として高い性能を示すものとなる。
【0048】
このような磁心1は、巻線部40の周囲に導線(コイル)を巻き付けるようにして用いられ、例えば、モータ、発電機、アンテナ、電圧変換トランスのような各種電磁変換機の磁心に適用される。
このうち、例えば、磁心1をモータの磁心に適用した場合、磁心の磁気特性が向上したことにより、モータの消費電力を低減することができる。その結果、このモータを備えた時計の電池寿命を延長することができる。
また、例えば、磁心1をアンテナの磁心に適用した場合、磁心の磁気特性が向上したことにより、アンテナの受信感度が向上して消費電力が低減し、受信感度を維持しつつアンテナの小型化を図ることができるようになる。その結果、例えば、このアンテナを備えた時計の電池寿命が延長し、時計の小型化を図ることができる。
【0049】
図16は、本発明の電磁変換機の第1実施形態を示す模式図(縦断面図)である。
図16に示す電磁変換機2は、磁心1と、磁心1の巻線部40の周囲に複数層にわたって巻き付けられた導線(コイル)43とを有している。そして、巻き付けられた導線43の外径は、各コイル枠41の外径とほぼ等しくなっている。
前述したように、巻線部40は円柱状(横断面形状が円形状)をなしているため、導線43は、円弧を描くように巻線部40の周囲に巻き付けられている。このような構成では、導線43と接触する巻線部40の外周が曲面になっているため、角柱状の巻線部を備えた従来の磁心と比較して、導線43が屈曲するのを防止することができる。
【0050】
また、2つのコイル枠41,41の巻線部40を向く面が、外周側から内周側に向かうに従い互いに近接するテーパ面41a,41aとして形成されているので、導線43は複数層に重なりやすくなる。このため、導線43と巻線部40との接触による導線43の断線を確実に防止することができる。
また、導線43は、表面に絶縁被膜を備えている。本実施形態の巻線部40は、前述のように円柱状をなしているため、絶縁被膜の損傷を確実に防止することができる。これにより、導線43同士の絶縁をより確実に確保することができる。
【0051】
なお、本実施形態では、導線43が備える絶縁被膜により、導線43と磁心1とが絶縁されているが、この絶縁方法は特に限定されず、例えば、巻線部40の外周に絶縁層を形成するようにしてもよい。この絶縁層は、例えば、絶縁テープや、有機絶縁材料、無機絶縁材料で構成された各種絶縁層の他、Co基金属ガラス合金中の元素を含む絶縁層(不働態被膜)等で構成することができる。
【0052】
このうち、絶縁層は、不働態被膜で構成されるのが好ましい。この不働態被膜は、磁心1を空気中に放置したり、酸化処理により形成することができる。したがって、絶縁テープの巻き付けや、別途絶縁層を成膜することなく、絶縁層を容易に形成することができる。
さらに、巻線部40が円柱状をなしているため、その周囲に巻き付けられた導線43と巻線部40の外周面との間に、隙間が生じ難いという利点がある。これにより、例えば、導線43に電圧を印加した場合、磁心1に対して、より大きな磁束密度をもたらすことができる。
【0053】
ところで、例えば、導線43の両端に電圧を印加すると、導線43を流れる電流に伴って、磁心1の巻線部40中に磁界が発生する。この磁界は、巻線部40からコイル枠41を通過して、接続部42に到達する。
図15に示す磁心1は、前述したように、巻線部40、各コイル枠41、41、および各接続部42、42が一体に形成されているため、これらの各部の間において磁界が通過し易くなる。このため、接続部42における磁束密度が高くなり、磁心1の性能をより高めることができる。
【0054】
また、各接続部42、42の巻線部40と反対側の端部は、図15に示すように、それぞれ櫛歯状をなしている。これにより、例えば、各櫛歯部分に、図示しない他の部材の櫛歯部分を嵌め合わせるようにして接続することにより、各接続部42、42と、他の部材との間に隙間が生じ難くなる。これにより、隙間に反磁界が生じるのを防止し、磁心1の磁気特性の低下を防止することができる。その結果、磁心1を、例えば、より高性能のモータ用磁心として用いることができる。
このような磁心1は、例えば、図17に示すような射出成形装置(鋳造成形装置)100を用いて製造することができる。なお、以下の説明では、図17中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0055】
図17に示す射出成形装置100は、装置本体101と、装置本体101内に設けられた円筒状のスリーブ102と、スリーブ102の外周に巻き付けられた誘導コイル103と、スリーブ102内を上下方向に移動可能なピストン104と、装置本体101の上部に配置した成形型110とを備えている。成形型110内には、キャビティ111が設けられており、前述のスリーブ102の内部とキャビティ111とが流路(ゲート)112を介して連通している。また、射出成形装置100は、図示しない減圧手段を有しており、スリーブ102の内部、キャビティ111および流路112を減圧することができる。
【0056】
射出成形装置100のスリーブ102は、原材料および原材料を溶解した溶湯(溶融物)を貯留する機能を有するものである。このようなスリーブ102は、例えば、石英ガラスやセラミックス等の高耐熱材料で構成されている。誘導コイル103は、高周波電圧を印加することにより、原材料内に渦電流を発生させ、原材料を自己発熱させる加熱手段として機能する。このような加熱手段は、アーク加熱、ガス加熱等のその他の加熱手段で代替することもできる。
【0057】
成形型110は、キャビティ111内に充填された溶湯を、キャビティ111内で固化させることにより、キャビティ111の形状に応じた成形体を得るものである。前述したように、金属ガラス合金を得る場合、溶湯を急速に冷却する必要があるため、成形型110は、キャビティ111内に射出された溶湯を冷却するための冷却手段(図示せず)を有している。このような冷却手段としては、例えば、冷媒を用いた熱交換器等が挙げられる。かかる観点から、成形型110は、耐熱性に優れるとともに、熱伝導性に優れた材料で構成されるのが好ましい。これにより、キャビティ111内に射出された溶湯を急速に冷却することができる。
【0058】
次に、図17に示す射出成形装置100を用いて、磁心を製造する方法について説明する。
[1]まず、本発明のCo基金属ガラス合金を得るための構成元素材料を、前述の各構成元素の含有率にしたがって秤量し、原材料を得る。
[2]次に、この原材料を、射出成形装置100のスリーブ102内のピストン104上に載置する。そして、減圧手段により、スリーブ102の内部、キャビティ111および流路112を減圧する。続いて、誘導コイル103に高周波電圧を印加して、スリーブ102内の原材料を所定の温度に加熱する。これにより、原材料を溶解し、溶湯(溶融物)を得る。
【0059】
[3]次に、成形型110を冷却する。続いて、ピストン104を上方に移動させる。これにより、ピストン104上の溶湯を、流路112を介してキャビティ111内に射出する。キャビティ111内に射出された溶湯は、キャビティ111の内壁に接触することにより急速に冷却される。これにより、溶湯中にランダムに存在していた各原子は、そのランダムな配置を保存した状態で固化に至る。その結果、溶湯は、原子がランダムに配置した金属ガラス合金となる。そして、キャビティ111の形状を忠実に再現して、目的とする形状の磁心を高い寸法精度で得ることができる。
[4]次に、成形型110を開いて、磁心を取り出す。
【0060】
以上のようにして、図15に示す磁心1を製造することができる。
このような方法で得られた磁心1は、実質的に、その全体が金属ガラス合金で構成されたものとなる。このため、磁心1中において金属ガラス合金が占める割合(占積率)が極めて高くなり、それに伴って、磁心1の磁束密度が向上する。その結果、より高性能な磁心1が得られる。
なお、この後、得られた磁心1の巻線部40に酸化処理を施すのが好ましい。これにより、巻線部40の表面に、Co基金属ガラス合金の酸化物で構成された前述の絶縁層が形成される。このような方法で絶縁層を形成すれば、従来のように、巻線部の表面を絶縁テープ等の絶縁材料で被覆する手間を省略することができ、製造工程の簡略化および低コスト化を図ることができる。
【0061】
<第2実施形態>
次に、本発明の磁心および電磁変換機の第2実施形態について説明する。
図18は、本発明の磁心の第2実施形態を示す模式図(斜視図)である。
以下、第2実施形態について説明するが、図15で示した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態の磁心および電磁変換機は、磁心の構成材料および製造方法が異なる以外は、前記第1実施形態と同様である。
図18に示す磁心1aは、前述した本発明のCo基金属ガラス合金の粉末と、この粉末中の粒子同士を絶縁する樹脂材料とで構成されている。
【0062】
このような磁心1aでは、Co基金属ガラス合金の粒子が、樹脂材料によって絶縁されることになるため、渦電流損失の低減を図ることができる。このため、より低損失の磁心を得ることができる。また、本発明のCo基金属ガラス合金は、前述したように、低い周波数において優れた磁気特性を示すことができるので、低い周波数域において高い性能を示す磁心が得られる。
磁心1aは、例えば、図19に示すような射出成形装置200を用いて製造することができる。なお、以下の説明では、図19中の上側を「上」、下側を「下」という。
図19に示す射出成形装置200は、成形型201と、成形型201内に設けられたキャビティ202と、キャビティ202内に溶湯を射出するノズル203と、このノズル203とキャビティ202とを接続する流路(ゲート)204とを有している。
【0063】
次に、図19に示す射出成形装置200を用いて、磁心1aを製造する方法について説明する。
[1]まず、本発明のCo基金属ガラス合金を得るための構成元素材料を、前述の各構成元素の含有率にしたがって秤量し、原材料を得る。
[2]次に、この原材料を加熱して溶解し、溶湯(溶融物)を得る。
[3]次に、得られた溶湯を、粉末化するとともに急速に冷却して固化し、Co基金属ガラス合金で構成された粉末を得る。粉末化するとともに冷却する方法としては、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、高速回転水流アトマイズ法のような各種アトマイズ法を用いることができる。アトマイズ法によれば、極めて微小な粉末を効率よく製造することができる。また、アトマイズ法で製造された粉末中の粒子は、真球に近い球形状をなしているため、分散性や流動性に優れており、例えば、このような粉末を含む組成物を成形型に充填する際には、その充填性が高まるという利点がある。
【0064】
[4]本発明の材料はφ2mmの棒材を成形できる程度のガラス形成能があり、例えば各種アトマイズ法で粉末を作成した場合、同程度の磁気特性を持つアモルファス材料での収率が10%程度であることに比較して、本発明では100%の収率となる。また、作成可能な粒径分布が広がることにより、製品の特性に最適な粒径の粉末作成が可能となり、これにより粉末で成形した製品の特性が向上するという利点がある。
【0065】
[5]次に、得られた粉末と樹脂材料とを混練し、混練物を得る。この混練により、混練物中では、粉末と樹脂材料が均一に分散している。樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、またはこれらの共重合体等の各種樹脂や、各種ワックス、パラフィン、高級脂肪酸(例:ステアリン酸)、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等が
挙げられ、これらのうち1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0066】
また、混練物中に、可塑剤が添加されていてもよい。この可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル(例:DOP、DEP、DBP)、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、セバシン酸エステル等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
さらに、混練物中には、粉末、樹脂材料、可塑剤の他に、例えば、酸化防止剤、脱脂促進剤、界面活性剤等の各種添加物を必要に応じ添加することができる。なお、混練物は、必要に応じて、ペレット(小塊)化してもよい。
【0067】
[6]次に、得られた混練物またはそのペレットを、図19に示す射出成形装置200のノズル203から流路204を介してキャビティ202内に射出する。これにより、混練物は、キャビティ202内に充填され、磁心の形状をなす成形体が得られる。
[7]次に、得られた成形体に熱処理を施す。これにより、成形体が硬化し、Co基金属ガラス合金の粉末および樹脂材料で構成された磁心1aが得られる。
かかる熱処理としては、放電プラズマ焼結、焼成炉による焼結、マイクロ波またはミリ波の照射による焼結等の方法が挙げられるが、この中でも放電プラズマ焼結による熱処理が好ましい。放電プラズマ焼結では、Co基金属ガラス合金の粒子同士の間隙にパルス状の電気エネルギーを投入し、火花放電で発生する高温プラズマによる高いエネルギーを粒子同士の焼結に用いることができる。このため、特に粒子の表面付近を選択的に焼結させるとともに、各粒子は、金属ガラス合金の特性を確実に維持することができる。
【0068】
<第3実施形態>
次に、本発明の磁心および電磁変換機の第3実施形態について説明する。
図20は、本発明の磁心の第3実施形態を示す一例であり、(A)はその平面図、(B)はその断面図である。
図20に示す磁心1bは、薄板からなる複数(この例では4枚)の中空円板(ドーナツ型の円板)45を、接着剤46で接着させて積み重ねたものである。
【0069】
また、本発明の電磁変換機の第3実施形態は、図20に示す磁心1bの湾曲部の一部または全部に、図示しない導線(コイル)を巻き付けたものである。
図20に示す磁心1bは、前述した本発明のCo基金属ガラス合金(例えば図10の「サンプル10」の合金)で構成されている。前述したように、本発明のCo基金属ガラス合金は、過冷却液体温度域ΔTxが広く、かつ換算ガラス化温度Tg/Tlが大きく、安定して存在し得るものであり、さらに、低い周波数で高い透磁率を示すものである。
したがって、このようなCo基金属ガラス合金で構成された磁心1bは、低い周波数帯において内部を透過する磁束密度が大きくなり、磁心および電磁変換機として高い性能を示すものとなる。
【0070】
ところで、磁性材料からなる薄板を接着剤を用いて積み重ねて図20のような磁心1bを作成する場合には、接着剤の固化時に応力が残って変形し、磁気特性が悪化するおそれがある。
しかし、第3実施形態に係る磁心1bは、中空円板45を接着剤46で積層しているが、前記のように本発明のCo基金属ガラス合金は応力の影響を殆ど受けないので、磁気特性の劣化がない。そこで、これを確認するために、第3実施形態に係る磁心1bについて、接着の場合と未接着の場合とでそれぞれ鉄損の測定を行い、図21に示すような結果を得た。
【0071】
一方、これと比較するために、磁心1bの中空円板45の材料として、例えば磁歪のあるアモルファス材料を使用して同一形状の磁心を作成し、接着の場合と未接着の場合とでそれぞれ鉄損の測定を行い、図22に示すような結果を得た。
図21によれば、接着による応力(歪み)が加わっても鉄損が変化せず、磁気特性が変化がないことがわかる。一方、図22によれば、磁性材料を接着することにより鉄損が20%程度増加し、この増加によって磁気特性が悪化することがわかる。
このような磁心1bは、その湾曲部の一部または全部に、図示しない導線(コイル)を巻き付けることにより、インダクタ、インピーダス変換器、電圧変換トランス、電流センサのような各種の電磁変換機の磁心に適用される。
【0072】
<第4実施形態>
次に、本発明の磁心および電磁変換機の第4実施形態について説明する。
図23は、本発明の磁心の第4実施形態を示す模式図(斜視図)である。
図23に示す磁心1cは、時計の発電機のステーターの磁心に適用できるものであり、ローター63との組み合わせにより、発電機を構成する。そして、この磁心1cは、図23に示すように、第1の磁心61と第2の磁心62とに分割されている
【0073】
第1の磁心61は、薄板からなる積層板を接着剤で貼り合わせて形成され、巻線を巻くための巻線部61aと、ネジにより第1の磁心61を締め付けて固定するための貫通孔61b、61cとを備えている。
同様に、第2の磁心62は、薄板からなる積層板を接着剤で貼り合わせて形成され、巻線を巻くための巻線部62aと、ネジにより第2の磁心62を締め付けて固定するための貫通孔62b、62cとを備えている。
【0074】
また、本発明の電磁変換機の第4実施形態は、図23に示す第1および第2の磁心61、62の巻線部61a、62aに、図示しない導線(コイル)をそれぞれ巻き付けて構成される。
この磁心1cは、前述した本発明のCo基金属ガラス合金(例えば図10の「サンプル10」の合金)で構成されている。このため、第4実施形態に係る磁心1cは、第3実施形態に係る磁心1bと同様の作用効果を実現できる。
【0075】
また、図23に示す磁心1cでは、薄板をプレス加工などによって所定形状に加工して積層板を作成するが、その加工の際に積層板に生じる加工歪みにより磁気特性が劣化することがない。
さらに、図23に示す磁心1cは、第1および第2の磁心61、62の巻線部61a、62aに、図示しない導線(コイル)をそれぞれ巻き付けて、後述の時計のステーターに適用すれば、発電機のトルク特性が良好になる。
【0076】
<第5実施形態>
次に、本発明の磁心および電磁変換機の第5実施形態について説明する。
図24は、本発明の磁心の第5実施形態を示す模式図(斜視図)である。
図24に示す磁心1dは、薄板状の複数の積層板65を、接着剤(図示せず)で接着させて積み重ねたものである。積層板65は、図24に示すように、長方形の薄板からなり、2つの中空部66、67を備えている。また、各積層板65は、巻線を巻くための巻線部65a〜65cを備えている。
【0077】
また、本発明の電磁変換機の第5実施形態は、図24に示す磁心1dの巻線部65a〜65cのうちの少なくとも1つに、用途に応じて、図示しない導線(コイル)を巻き付けたものである。
この磁心1dは、前述した本発明のCo基金属ガラス合金(例えば図10の「サンプル10」の合金)で構成されている。前述したように、本発明のCo基金属ガラス合金は、過冷却液体温度域ΔTxが広く、かつ換算ガラス化温度Tg/Tlが大きく、安定して存在し得るものであり、さらに、低い周波数で高い透磁率を示すものである。
したがって、このようなCo基金属ガラス合金で構成された磁心1dは、低い周波数帯において内部を透過する磁束密度が大きくなり、磁心および後述する電磁変換機として高い性能を示すものとなる。
【0078】
ところで、図24に示すと同じような磁心の積層板は、薄板をプレスで打ち抜いて作成するので、加工時の応力によって歪みが生じ、磁気特性を劣化させていた。さらに、接着剤の使用によっても、磁気特性を低下させる。
このため、従来の磁性材料を用いて図24と同じような磁心を作成し、この磁心にコイルを巻いて電力用のトランス(変圧器)として使用する場合には、使用される磁気材料の磁歪が大きく、磁気を印加した際に材料が伸縮するため、交流周波数(50Hzまたは60Hz)の騒音が発生するという不具合がある。
しかし、第5実施形態に係る磁心1dは、プレス加工した積層板65を接着剤で積層するが、前記のように本発明のCo基金属ガラス合金は応力の影響を殆ど受けないので、磁気特性の劣化がなく、磁歪が零であるため伸縮が生じず、上記の騒音を抑制することができる。
【0079】
[時計]
上記の第1および第2実施形態に係る電磁変換機は、例えば、時計に組み込むことができる。以下、本発明の電磁変換機を備える本発明の時計について説明する。
≪第1実施形態≫
図25は、本発明の時計の第1実施形態を模式的に示す平面図であり、電子制御式機械時計を一例とした時計500を示している。
この時計500は、香箱車501、二番車506、三番車507、秒針車508、四十四番車(中間車)509、四番車510、五番車511、六番車512、およびローター513の各歯車等の機械部品を有している。
【0080】
香箱車501は、ゼンマイ、香箱歯車、香箱真および香箱蓋(いずれも図示せず)を有している。そして、ゼンマイの回転エネルギーは、香箱車501から二番車506に伝達された後、増速されて三番車507に伝達される。続いて、三番車507から、時計500の秒針(図示せず)を駆動する秒針車508を介して、四十四番車509に伝達される。その後、四十四番車509から、さらに増速しつつ、四番車510、五番車511、六番車512、およびローター513へと順次伝達される。
【0081】
また、時計500は、ローター513、ステーター521、第1コイルブロック522、第2コイルブロック523、および継手524から構成される発電機520を備えている。ステーター521は、発電機520の磁気回路の一部を形成するものであり、ローター磁石が配置される配置穴521aを有することで、ローター513の磁束を鎖交させるようになっている。
【0082】
第1コイルブロック522および第2コイルブロック523は、それぞれ、磁心522a、523aにコイル(導線)を巻き付けてなるものである。このような磁心522a、523aとして、本発明の第1および第2実施形態に係る磁心が用いられており、第1コイルブロック522および第2コイルブロック523として、本発明の第1および第2実施形態に係る電磁変換機が用いられている。これにより、第1コイルブロック522および第2コイルブロック523の磁気特性が向上し、発電機520の発電性能を大幅に高めることができる。
【0083】
また、ステーター521および継手524を、本発明のCo基金属ガラス合金で構成することもできる。これにより、発電機520の発電性能がさらに向上する。その結果、ゼンマイの回転エネルギーを効率よく利用することができるようになり、1回のゼンマイ巻き上げに伴う時計の駆動時間を延長することができて、より高性能の時計500を得ることができる。
このような発電機520では、香箱車501中のゼンマイを巻き上げると、ゼンマイが解ける際に出力されるトルクが香箱車501から六番車512の輪列を介してローター513に伝達され、ローター513の回転によって各コイルブロック522、523に交流電圧が誘起される。
【0084】
発電機520からの交流出力は、昇圧整流、全波整流、半波整流、トランジスタ整流等で構成された整流回路を介して昇圧、整流されて平滑用コンデンサに充電される。そして、このコンデンサからの電力で発電機20の回転を制御する図示しない制御回路を作動させている。なお、制御回路は、発振回路、分周回路、回転検出回路、回転数比較回路、電磁ブレーキ制御手段等を含む集積回路(IC)を有している。また、発振回路は、水晶振動子を有している。
【0085】
香箱車501中のゼンマイは、図25に示す角穴車504を回転させることにより巻き上げられる。
この角穴車504を回転させる方法は、図示しない竜頭に接続された巻真530を操作することにより、キチ車531、丸穴車532、角穴中間車533を介して行われるが、この際、角穴車504の回転方向は、コハゼ504aによって規制されている。また、分針および時針を合わせる方法は、同様に、巻真530を操作し、つづみ車534、小鉄車535、日の裏中間車536、日の裏車537を介して行われるが、この際、駆動系は、制御レバー538を五番車511に当接させることにより停止するようになっている。なお、これらの機構は、一般的な機械時計の自動巻または手巻機構と同様であるため、さらなる詳細な説明を省略する。
【0086】
≪第2実施形態≫
次に、図26は、本発明の時計の第2実施形態を模式的に示す平面図であり、時刻情報が重畳された標準電波を受信して表示時刻を修正する機能を有する電波修正時計の一例とした時計600である。なお、以下の説明では、図26中の紙面手前側を「上」、紙面奥側を「下」という。また、図26は、時計のムーブメントを収納するケースを省略して描いている。
【0087】
この時計600のムーブメントは、地板681と、秒針、分針および時針で構成される指針(図示せず)を駆動する2つのステッピングモータ682と、これらのステッピングモータ682の回転運動を指針に伝達する図示しない輪列と、電池(駆動源)683と、時計600の動作を制御するCPU(制御手段)684等を備える回路ブロック685と、標準電波を受信する電波受信用アンテナ(本発明の電磁変換機)690を有している。また、時計600の3時方向には、指針位置を手動調整するため巻真686が設けられている。
【0088】
ステッピングモータ682は、秒針用のステッピングモータ682Aと、分針および時針用のステッピングモータ682Bとを備えている。ステッピングモータ682Aは、時計600の略8時方向に、ステッピングモータ682Bは、時計600の略5時方向にそれぞれ配設されている。これらのステッピングモータ682A、682Bは、それぞれ独立した輪列を介してムーブメント中央の指針に接続されており、これにより、秒針と、分針および時針とは、それぞれ独立して駆動可能となっている。
【0089】
電池683は、一次電池または二次電池で構成される。このような電池683は、時計600の略1時から略2時方向に配設されており、ばね性を有する電池押さえ6831によって導通が図られるとともに地板681に保持されている。
回路ブロック685は、基準クロックを発振する計時用の水晶振動子6851と、前述のCPU684と、標準電波の信号を選択的に通過させるバンドパスフィルタ用水晶振動子(図示せず)と、電波受信用アンテナ690で受信した標準電波を処理する受信用IC(受信用回路)687等とを備えている。このような回路ブロック685は、回路押さえと地板681との間に挟持され、ねじ等の固定手段を用いて地板681に固定されている。
【0090】
計時用の水晶振動子6851は、時計600の略3時方向に配設されている。また、バンドパスフィルタ用水晶振動子は、例えば、日本国内では、60kHzの標準電波をフィルタするための水晶振動子と、40kHzの標準電波をフィルタするための水晶振動子との2つが設けられる。また、例えば、欧米では、60kHz用の水晶振動子および77.5kHz用の水晶振動子を用いればよい。
【0091】
CPU684は、時計600の略9時から略11時方向に配設されており、水晶振動子6851からの周波数を分周して基準クロックを生成する分周回路、基準クロックをカウントして時刻を計時する計時回路、計時回路からの信号に基づいてステッピングモータ682A、682Bの動作を制御する制御回路などを備えている。
受信用IC687は、電波受信用アンテナ690で受信した標準電波を復調する復調回路や、受信信号を増幅する増幅回路などを備えて構成されている。
【0092】
電波受信用アンテナ690は、ムーブメント内に配置され、時計600の略9時方向に配設されており、略7時方向から略12時方向のスペースを占めている。ここで、電波受信用アンテナ690は、ムーブメント内で電池683とは離れた位置に配置されている。これにより、電波受信用アンテナ690が標準電波を受信する際に、電池683の金属外缶が標準電波の受信に及ぼす影響を最小限に抑制することができる。また、ムーブメント内において電波受信用アンテナ690と受信用IC687とが近接して配置されているので、電波受信用アンテナ690から受信用IC687へ受信信号が流れる際に、信号の劣化およびノイズの混入が少なくなり、受信用IC687での信号受信を良好に行うことができる。なお、CPU684およびステッピングモータ682Aは、電波受信用アンテナ690に干渉しない範囲で、電波受信用アンテナ690よりも内側(中央側)に配置するのが好ましい。
【0093】
本実施形態では、この電波受信用アンテナ690として、本発明の第1または第2実施形態に係る電磁交換機が用いられている。これにより、電波受信用アンテナ690の標準電波受信における受信感度を大幅に高めることができる。その結果、電波受信用アンテナ690の電波受信に要する消費電力を低減して、電池683の寿命を延長することができる。
【0094】
以上、本発明のCo基金属ガラス合金、磁心、電磁交換機、および時計について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、前記実施形態では、本発明の磁心および電磁交換機を時計に用いた場合を代表に説明したが、このような場合に限定されない。
また、本発明の磁心、電磁交換機および時計の各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。
また、本発明の磁心、電磁交換機および時計の各部は、前記各実施形態で説明した複数の構成を組み合わせたものでもよい。
【実施例】
【0095】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.Co基金属ガラス合金の磁心の製造および評価
Feの含有率が2原子%以上かつ6原子%以下、Niの含有率が4原子%以下、Bの含有率が15原子%以上かつ20原子%以下、Siの含有率が8原子%以上かつ13原子%以下、Nbの含有率が3原子%以下、Moの含有率が0.1原子%以上かつ1原子%以下、Crの含有率が2原子%以下、残部がCoの組成範囲となるように、(Co0.664 Fe0.0336Si0.11B0.17Nb0.02)99.7Mo0.3 の組成からなるCo基金属ガラス合金製の図15で示す磁心1(以下、本実施形態の磁心1と称する)を、図17の射出成形装置100を用いて成形した。
【0096】
本実施形態の磁心1に対して、示差走査熱量計(DSC法)により示差走査熱量測定を行った。そして、測定結果から、結晶化開始温度Txと、ガラス転移温度Tgとを見積もり、これらの温度の差ΔTx(=Tx−Tg)を算出した。また、液相線温度Tlとガラス転移温度Tgとから換算ガラス化温度Tg/Tlを算出した。
【0097】
次に、本実施形態の磁心1に対して、測定周波数10Hzにおける最大比透磁率を測定した。
本実施形態の磁心1は、過冷却液体温度域ΔTxが42Kと広い範囲であり、換算ガラス化温度Tg/Tlが0.602と大きい値を示し、ガラス形成能が高いものとなった。また、本実施形態の磁心1は、10Hzの低周波数において高い比透磁率を有し、バルク一体成形品であるため占積率は100%となる。
【0098】
2.時計の製造および評価(1)
本実施形態の磁心1を用いて、図16で示す電磁変換機2を製造した。この際、磁心1の巻線部40の外周には、Co基金属ガラス合金中の元素を含む絶縁層(不働態被膜)を形成した。また、電磁変換機2を、図25の発電機520の第1コイルブロック522及び第2コイルブロック523として図25の電子制御式機械時計500(以下、本実施形態の時計500と称する)を製作した。
【0099】
そして、本実施形態の時計500のゼンマイを最後まで巻き上げ、次いで、時計500の指針が停止するまでの時間を測定した。その結果、従来の時計(本実施形態の磁心1を使用していない時計)の駆動時間は48時間程度であったが、本実施形態の時計500は、84時間の駆動時間を実現した。本実施形態の電磁変換機2を構成する磁心1の巻線部40は円柱状(横断面形状が円形状)であり、巻線部40の外周には絶縁テープではなく絶縁層(不働態被膜)が形成されているので、導線43の巻線効率が向上する。これにより、電磁変換機2(第1コイルブロック522及び第2コイルブロック523)を構成部材とする発電機520の発電効率が向上するので、本実施形態の時計500の駆動時間の性能を高め得ることが明らかとなった。
【0100】
3.時計の製造および評価(2)
本実施形態の磁心1dを用いて、実施例に係る電磁変換機を製造した。すなわち、図23に示す第1および第2の磁心61、62の巻線部61a、62aに、所定の導線(コイル)をそれぞれ巻き付けて実施例に係る電磁変換機を作成した。この実施例に係る電磁変化機の比較評価を行なうために、従来の磁歪のあるアモルファス材料を使用して同じ形状からなる比較用の電磁変換機を作成した。
【0101】
その作成した2つの電磁変換機を、図25の発電機520のステーター521および継手524等としてそれぞれ組み込み、実施例に係る時計と比較例に係る時計をそれぞれ制作した。
そして、これらの2つの時計について、ローターが回転するのに必要なトルクの測定を行なって、図27に示すような結果を得た。
この例では、最初に実施例に係る時計のトルク測定を行い、図27の破線aおよび実線bで示すような結果を得た。破線aは、図23に示す第1および第2の磁心61、62を貫通孔61b、61c、62b、62cを用いてネジで締めつけるときのネジ締めトルクが10gcmのときであり、破線bはそのトルクが200gcmのときである。
【0102】
次に、比較例に係る時計のトルク測定を行い、図27の破線cおよび実線dで示すような結果を得た。破線cは、そのネジ締めトルクが10gcmのときであり、破線dはそのネジ締めトルクが200gcmのときである。
なお、このトルク測定時には、発電機520の周波数は8Hzで駆動されている。
図27の結果によれば、比較例の時計では、ネジ締めトルクが増加することにより、ローターの回転に必要なトルクが著しく増加し、トルク特性が大幅に低下することがわかる。これに対して、実施例の時計では、比較例の時計に比べて回転に必要なトルクを小さくできる上に、ネジ締めトルクが増加しても、ローターの回転に必要なトルクが殆ど変化せずに、良好なトルク特性が得られる。
このように、実施例に係る時計によれば、ローターの磁心として本発明のCo基金属ガラス合金を使用しているので、ローターの固定に必要なトルクでネジ締めしてローターを固定しても、ローターの応力によって磁気特性が低下せず良好である。
【符号の説明】
【0103】
1、1a〜1d…磁心、2…電磁変換機、40…巻線部、41…コイル枠、42……接続部、43…導線(コイル)、45…中空円板、46…接着剤、50…リング、54…重り、61、62…磁心、65…積層板、100…射出成形装置、101…装置本体、102…スリーブ、103…誘導コイル、104…ピストン、110…成形型、111…キャビティ、112…流路(ゲート)、200…射出成形装置、201…成形型、202…キャビティ、203…ノズル、204…流路(ゲート)、500……時計、501…香箱車、504…角穴車、504a…コハゼ、506…二番車、507…三番車、508…秒針車、509…四十四番車(中間車)、510…四番車、511…五番車、512…六番車、513…ローター、520…発電機、521…ステーター、521a…配置穴、522…第1コイルブロック、522a,523a…磁心、523…第2コイルブロック、524…継手、530…巻真、531…キチ車、532…丸穴車、533…角穴中間車、534…つづみ車、535…小鉄車、536…日の裏中間車、537…日の裏車、538…制御レバー、600…時計、681…地板、682,682A,682B…ステッピングモータ、683…電池(駆動源)、683…電池押さえ、684…CPU(制御手段)、685…回路ブロック、685…水晶振動子、686…巻真、687…受信用IC、690…電波受信用アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Ni、B、Si、Nb、MoおよびCrを含む高透磁率のCo基金属ガラス合金であって、
Feの含有率が2原子%以上かつ6原子%以下、
Niの含有率が4原子%以下、
Bの含有率が15原子%以上かつ20原子%以下、
Siの含有率が8原子%以上かつ13原子%以下、
Nbの含有率が3原子%以下、
Moの含有率が0.1原子%以上かつ1原子%以下、
Crの含有率が2原子%以下、
残部がCoであり、
かつ、CoとFeの含有比率がCo:Fe=95.2:4.8であり、前記含有比率を示すCoとFeの各値の許容範囲がそれぞれ±0.3以内であることを特徴とするCo基金属ガラス合金。
【請求項2】
CoおよびFeを合わせた含有率が68原子%以上かつ71原子%以下であることを特徴とする請求項1記載のCo基金属ガラス合金。
【請求項3】
Siの含有率が10原子%以上かつ11原子%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のCo基金属ガラス合金。
【請求項4】
Moの含有率が0.2原子%以上かつ0.35原子%以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のCo基金属ガラス合金。
【請求項5】
当該Co基金属ガラス合金の結晶化開始温度をTx[K]とし、ガラス転移温度をTg[K]とし、合金の液相線温度をTl[K]としたとき、Tx−Tgで定義される過冷却液体温度域△Txが30K以上であり、換算ガラス化温度Tg/Tlが0.58以上であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のCo基金属ガラス合金。
【請求項6】
測定周波数10Hzにおける最大透磁率が80,000以上であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のCo基金属ガラス合金。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載のCo基金属ガラス合金で構成されていることを特徴とする磁心。
【請求項8】
前記Co基金属ガラス合金で構成された粉末を成形してなる成形体、または、該成形体を焼結してなる焼結体で構成されることを特徴とする請求項7に記載の磁心。
【請求項9】
前記焼結は、放電プラズマ焼結により行われることを特徴とする請求項8に記載の磁心。
【請求項10】
前記Co基金属ガラス合金の溶融物を鋳造成形してなることを特徴とする請求項7に記載の磁心。
【請求項11】
請求項7乃至10の何れか1項に記載の磁心と、当該磁心の外周に巻き回されるコイルとを有することを特徴とする電磁変換機。
【請求項12】
前記コイルと接触する前記磁心の巻線部の断面形状を円形状とすることを特徴とする請求項11記載の電磁変換機。
【請求項13】
前記磁心の前記コイルと接触する表面に、不働態被膜を形成することを特徴とする請求項11又は12に記載の電磁変換機。
【請求項14】
請求項11乃至13の何れか1項に記載の電磁変換機を備えたことを特徴とする時計。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate


【公開番号】特開2011−231351(P2011−231351A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100625(P2010−100625)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】