説明

Cu−Ni−Si−Zn系合金すずめっき条

【課題】Cu−Ni−Si−Zn系合金を母材とするCu/Ni二層下地リフローSnめっき条の耐熱性を改善する。
【解決手段】1.0〜4.5質量%のNi、Niの質量%に対し1/6〜1/4のSi、0.1〜2.0質量%のZnを含有し、更に必要に応じ0.05〜2.0質量%のSnを含有する銅基合金を母材とし、表面から母材にかけて、Sn相、Sn−Cu合金相、Ni相の各層でめっき皮膜が構成されるすずめっき条において、Sn相の厚みを0.1〜1.5μm、Sn−Cu合金相の厚みを0.1〜1.5μm、Ni相の厚みを0.1〜2.0μm以下とし、Sn相表面のSi及びZn濃度をそれぞれ1.0質量%以下及び3.0質量%以下とする。更に必要に応じ、めっき層と母材との境界面におけるC濃度を0.1質量%以下、O濃度を1質量%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ、端子、リレ−、スイッチ等の導電性ばね材として好適な、良好な耐熱性を有するCu−Ni−Si−Zn系合金すずめっき条に関する。
【背景技術】
【0002】
端子、コネクタ等に使用される電子材料用銅合金には、合金の基本特性として高い強度、高い電気伝導性又は熱伝導性を両立させることが要求される。又、これらの特性以外にも、曲げ加工性、耐応力緩和特性、耐熱性、めっきとの密着性、半田濡れ性、エッチング加工性、プレス打ち抜き性、耐食性等が求められる。
高強度及び高導電性の観点から、近年、電子材料用銅合金としては従来のりん青銅、黄銅等に代表される固溶強化型銅合金に替わり、時効硬化型の銅合金の使用量が増加している。時効硬化型銅合金では、溶体化処理された過飽和固溶体を時効処理することにより、微細な析出物が均一に分散して、合金の強度が高くなると同時に、銅中の固溶元素量が減少し電気伝導性が向上する。このため、強度、ばね性などの機械的性質に優れ、しかも電気伝導性、熱伝導性が良好な材料が得られる。
時効硬化型銅合金のうち、Cu−Ni−Si系合金は高強度と高導電率とを併せ持つ代表的な銅合金であり、電子機器用材料として実用化されている。この銅合金では、銅マトリックス中に微細なNi−Si系金属間化合物粒子が析出することにより強度と導電率が上昇する。
Cu−Ni−Si系合金の一般的な製造プロセスでは、まず大気溶解炉を用い、木炭被覆下で、電気銅、Ni、Si等の原料を溶解し、所望の組成の溶湯を得る。そして、この溶湯をインゴットに鋳造する。その後、熱間圧延、冷間圧延及び熱処理を行い、所望の厚み及び特性を有する条や箔に仕上げる。
【0003】
Cu−Ni−Si系合金条にはSnめっきを施すことがある。この場合、Snめっきの耐熱剥離特性を改善する目的で、合金に少量のZnを添加することが多い(以下、Cu−Ni−Si−Zn系合金)。Cu−Ni−Si−Zn系合金のSnめっき条は、Snの優れた半田濡れ性、耐食性、電気接続性を生かし、自動車用及び民生用の端子、コネクター等として使われている。
Cu−Ni−Si−Zn系合金のSnめっき条は、一般的に、連続めっきラインにおいて、脱脂及び酸洗の後、電気めっき法によりCu、Ni等の下地めっき層を形成し、次に電気めっき法によりSnめっき層を形成し、最後にリフロー処理を施しSnめっき層を溶融させる工程で製造される。
近年、電子・電気部品の回路数増大により、回路に電気信号を供給するコネクタの多極化が進んでいる。Snめっき材は、その軟らかさからコネクタの接点においてオスとメスを凝着させるガスタイト(気密)構造が採られため、金めっき等で構成されるコネクタに比べ、1極当たりのコネクタの挿入力が高い。このためコネクタの多極化によるコネクタ挿入力の増大が問題となっている。
【0004】
例えば、自動車の組み立てラインでは、コネクタを嵌合させる作業は、現在ほとんど人力で行われている。コネクタの挿入力が大きくなると、組み立てラインで作業者に負担がかかり、作業効率の低下に直結する。更に、作業者の健康を損なう可能性も指摘されている。このことから、Snめっき材の挿入力の低減が強く望まれている。
一方、Snめっき材では、経時的に、母材や下地めっきの成分がSn層に拡散して合金層を形成することにより純Sn層が消失し、接触抵抗、耐熱剥離性、半田付け性といった諸特性が劣化する。Cu−Ni−Si−Zn系合金のCu下地Snめっきの場合、この合金層は主としてCu3Sn、Cu6Sn5等の金属間化合物であり、Ni下地Snめっきの場合はNi3Sn4等である。特性の経時劣化は、高温ほど促進され、自動車のエンジン回り等では特に顕著になる。
このような状況の中で、米国の3大自動車メーカーにより設立された自動車部品の規格を決定しているUSCARにおいて、コネクタ材の耐熱性の要求が高まってきており、最も厳しい使用条件では、常時の使用温度が155℃、最高使用温度が175℃での耐熱性が要求されている。又、国内においても、特に自動車関連のコネクター材でやはり耐熱性の要求が高まってきており、150℃以下での耐熱性が求められてきている。
更に、コネクタメーカーの生産拠点の海外への移転により、素材がめっきされた後、長期間放置されてから使用されるケースがある。このため、長期間保存しても、めっき材の諸特性が劣化しない材料、すなわち耐時効性が高い材料が求められてきている。なお、めっき材の特性劣化は高温下で促進される。したがって高温下での特性劣化が少ない材料は長期間保存しても特性が劣化しない材料と言い換えることができる。したがってこの分野でも耐熱性の高いめっき材が求められていることになる。
【0005】
以上のように、Snめっき材においては、挿入力の低減及び耐熱性の改善が近年の課題になっている。コネクタの挿入力を低減するための有効な方法は、特許文献1〜3等で開示されている通り、Snめっき層を薄くすることである。一方、特許文献4では、Snめっき表面のヌープ硬さを調整し挿入力を低減する技術をCu−Ni−Si系合金に適用している。しかし、特許文献4の発明においても、その実施例においてヌープ硬さとSnめっき層の厚みとの間に良い相関が認められることから、Snめっき層を薄くする技術に準ずるものと思われる。
Snめっき層を薄くすると、純Sn層消失による特性劣化が早期に進行する。すなわち、単にSnめっきを薄くするだけでは、挿入力が低減する反面、耐熱性が劣化する。したがって、Sn層を薄くする場合には、Snめっきの耐熱性を改善する技術を適用することが必要となる。
Snめっきの耐熱性を改善する技術として、下地めっきによりSn中へのCu等の拡散を防止する技術が検討されている。例えば、特許文献5〜9では、Cu/Niの二層の下地めっきを施す技術が開示されている。このめっきでは、Ni下地めっき、Cu下地めっき、Snめっきの順に電気めっきを行い、リフロー処理を施す。リフローの際にCu下地層がSnめっき層に拡散することにより、リフロー後のめっき皮膜構造は、表面側よりSn相、Cu−Sn合金相、Ni相の構成となる。Ni相により母材CuのSn相中への拡散が抑制され、又Cu−Sn合金相の存在によりNiのSn相中への拡散が抑制されるため、純Sn層の消失が遅れ耐熱性が向上する。
一般的にSnめっきの耐熱性として、高温で保持したときの接触抵抗、半田濡れ性、耐熱剥離性等が評価される。接触抵抗および半田付け性については、残留純Sn層の厚みと良い相関を示すことが知られているほか、母材表面のSi(酸化物)を制御することによりCu−Ni−Si−Zn系合金母材の半田濡れ性等を改善する技術(特許文献10〜12等)も開示されている。一方、熱剥離とは高温で長時間保持したときにめっきが剥離する現象であり、Cu−Ni−Si−Zn系合金の母材の熱処理条件や不純物に着目した改善が試みられている(特許文献13〜14等)。
【0006】
【特許文献1】特開平10−265992号公報
【特許文献2】特開平10−302864号公報
【特許文献3】特開2000−164279号公報
【特許文献4】特許第3391427号公報
【特許文献5】特開平6−196349号公報
【特許文献6】特開平11−135226号公報
【特許文献7】特開2002−226982号公報
【特許文献8】特開2003−293187号公報
【特許文献9】特開2004−068026号公報
【特許文献10】特開平09−209062号公報
【特許文献11】特開2001−329323号公報
【特許文献12】特開2001−181759号公報
【特許文献13】特開63−262448号公報
【特許文献14】特開平5−059468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献5〜9に示されているように、Cu−Ni−Si−Zn系合金にCu/Ni二層下地を施したリフローSnめっき材の耐熱性(特に接触抵抗と半田濡れ性)は、Cu下地めっき又はNi下地めっきを施したリフローSnめっき材と比較し、優れてはいる。しかし、市場からのニーズに対しまだ充分とはいえず、更なる改善が求められている。また耐熱剥離性についても、従来技術(特許文献13〜14等)だけでは、満足できる材料を工業的に安定して製造するには至っておらず、特にCu−Ni−Si−Zn系合金では105℃近傍の温度環境下での耐熱剥離性が不安定であるという課題があった。
本発明の課題は、Cu−Ni−Si−Zn系合金を母材とするCu/Ni二層下地リフローSnめっき条の耐熱性を更に改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、Cu−Ni−Si−Zn系合金にCu/Ni二層下地リフローSnめっきを施した材料について、めっき組成と耐熱性との関係を調査した。その結果、Snめっきの表面のSi濃度又はZn濃度が高いと、高温で長時間保持したときの接触抵抗の劣化が著しくなることを見出した。従来のCu−Ni−Si−Zn系合金に対する耐熱性改善技術は、母材表面のSi(酸化物)を制御し半田濡れ性を改善する(特許文献10〜12等)等、母材の表面性状に着目したものであった。Snめっきの表面性状に着目し、めっき表面のSiとZnを制御することにより高温環境下における接触抵抗の経時劣化を改善する技術は、本発明で初めて見出されたものである。
更に、本発明者は、めっき層と母材との境界面におけるC又はO濃度が高いと、高温で長時間保持したときにめっきが剥離すること(熱剥離)も見出した。
【0009】
本発明は、上記技術に基づき成されたものであり、下記めっき条を提供する。
(1)1.0〜4.5質量%のNiを含有し、Niの質量%に対し1/6〜1/4のSiを含有し、0.1〜2.0質量%のZnを含有し、残部がCu及び不可避的不純物より構成される銅基合金を母材とし、表面から母材にかけて、Sn相、Sn−Cu合金相、Ni相の各層でめっき皮膜が構成され、Sn相の厚みが0.1〜1.5μm、Sn−Cu合金相の厚みが0.1〜1.5μm、Ni相の厚みが0.1〜2.0μmであり、めっき表面であるSn相表面のSi濃度が1.0質量%以下でかつZn濃度が3.0質量%以下であることを特徴とするCu−Ni−Si−Zn系合金すずめっき条。
(2)めっき層と母材との境界面におけるC濃度が0.1質量%以下、O濃度が1質量%以下であることを特徴とする上記(1)のCu−Ni−Si−Zn系合金すずめっき条。
(3)母材が0.05〜2.0質量%のSnを含有することを特徴とする上記(1)又は(2)のCu−Ni−Si−Zn系合金すずめっき条。
(4)母材がAg、Mn、Cr、P、Co、Mg及びMoの群から選ばれた少なくとも一種を合計で0.01〜0.5質量%含有することを特徴とする上記(1)〜(3)いずれか1項記載のCu−Ni−Si−Zn系合金すずめっき条。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、Cu−Ni−Si−Zn系合金すずめっき条の耐熱性を、製造コストを増加させることなく改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(イ)母材のNi、Si、Zn濃度
Ni及びSiは、時効処理を行うことにより、Ni2Siを主とする金属間化合物の微細な粒子を形成する。その結果、合金の強度が著しく増加し、同時に電気伝導度も上昇する。
Siの添加濃度(質量%)は、Niの添加濃度(質量%)の1/6〜1/4の範囲とする。Siがこの範囲から外れると、導電率が低下する。
Niは1.0〜4.5質量%、好ましくは1.2〜4.0質量%の範囲で添加する。Niが1.0質量%未満であると充分な強度が得られない。Niが4.5質量%を超えると、熱間圧延で割れが発生する。
Znはめっきの耐熱剥離特性を改善する元素であり、0.1質量%以上の添加でその効果が発現する。一方、Znが2.0質量%を超えると、リフロー後のSnめっき表面のZn濃度が3.0質量%を超えてしまい、後述するように半田濡れ性等が低下する。
(ロ)母材のSn濃度
Snは母材の高強度化のために必要に応じ、0.05〜2.0質量%の範囲で添加する。より好ましい添加量は0.1〜2.0質量%である。Sn添加量が0.05質量%未満では高強度化の効果が発現せず、2.0質量%を超えると導電率の低下が著しくなる。
(ハ)母材のAg、Mn、Cr、P、Co、Mg、Mo濃度
これら元素は強度や応力緩和特性の改善のために必要に応じて添加する。合計量が0.01質量%未満では効果が発現せず、0.5質量%を超えると導電率の低下が著しくなる。
【0012】
(ニ)めっき表面であるSn相表面のSi及びZn濃度
Sn相表面のSi濃度が1.0質量%を超えると、又はSn相表面のZn濃度が3.0質量%を超えると、リフロー上がりにおける半田濡れ性が低下し、又高温環境下に保持したときの接触抵抗の経時劣化が著しくなる。そこで、Sn相表面のSi濃度及びZn濃度を、それぞれ1.0質量%以下及び3.0質量%以下に規制する。より好ましいSi及びZn濃度は、それぞれ0.5質量%以下及び1.0質量%以下である。
【0013】
(ホ)めっき層と母材との境界面におけるC及びO濃度
Cが0.1質量%を超えると、又はOが1質量%を超えると、耐熱剥離性が低下する。この現象は、特に105℃近傍の温度における熱剥離に対し顕著に現れる。そこで、好ましくはC濃度を0.1質量%以下に規定し、O濃度を1質量%以下に規定する。
なお、特許文献9でもC濃度に着目しているが、このC濃度はSnめっき層中の平均C濃度であり、本発明の構成要素であるめっき層と母材との境界面におけるC濃度とは異なる。Snめっき層中の平均C濃度はめっき液中の光沢剤、添加剤の量及びめっき電流密度により変化し、0.001質量%未満ではSnめっきの厚さにムラが生じ、0.1質量%を超えると接触抵抗が増加するとされている。従って、特許文献9の技術が本発明の技術と異なることは明らかである。
【0014】
(ヘ)めっきの厚み
めっき層を構成する各金属相の厚みは、
・Sn相:0.1〜1.5μm
・Sn−Cu合金相:0.1〜1.5μm
・Ni相:0.1〜2.0μm
の範囲に調整する。
Sn相が0.1μm未満になると、高温環境での接触抵抗や半田濡れの経時劣化が著しく大きくなり、1.5μmを超えると挿入力が著しく高くなる。より好ましい範囲は0.2〜1.0μmである。
Sn−Cu合金相は硬質なため、0.1μm以上の厚さで存在すると挿入力の低減に寄与する。一方、Sn−Cu合金相の厚さが1.5μmを超えると曲げ加工で割れ発生の原因となる。より好ましい厚みは0.3〜1.2μmである。
Ni相は母材成分(Cu、Si、Zn)のSn相中への拡散を抑制する。本発明のすずめっき条の場合、Niめっき相の厚みはリフロー前後でほとんど変化しない。Niの厚みが0.1μm未満であると、リフローの際にSiとZnがSn相中に拡散し、Sn表面のSi及び/又はZn濃度が上記規定範囲を超える。一方、Ni相の厚みが2.0μmを超えると曲げ加工で割れ発生の原因となる。そこでNi相の厚みを0.1〜2.0μmとする。より好ましい範囲は0.2〜1.0μmである。
上記めっき層の製造においては、Cu−Ni−Si−Zn系合金母材上に、電気めっきによりNiめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層を順次形成し、その後リフロー処理を行う。リフロー処理では、Cuめっき層をSnめっき層と反応させてSn−Cu合金相を形成するとともに、Cuめっき層を消失させる。Cuめっき層が残存すると長時間加熱された際に、この残留Cu相がSn相と反応することにより、Cu−Sn合金相が成長してめっき層表面に現出し、接触抵抗が増大し、かつ、めっき剥離時間の短縮も生じる。電気めっき上がりの厚みを、Ni:0.1〜2.0μm、Cu:0.1〜0.4μm、Sn:0.5〜2.0μmとし、230〜580℃、3〜30秒間の範囲における適当な条件でリフロー処理を行うことにより、上記めっき構造が得られる。
【実施例】
【0015】
高周波誘導炉を用い、内径60mm、深さ200mmの黒鉛るつぼ中で2kgの電気銅を溶解した。溶銅表面を木炭片で覆った後、Ni、Si、Zn、Sn等の合金成分を添加し、溶銅温度を1200℃に調整した。その後、溶湯を金型に鋳込み、幅60mm、厚み30mmのインゴットを製造し、以下の工程を標準とし、すずめっき条に加工した。
(工程1)950℃で3時間加熱した後、厚さ8mmまで熱間圧延する。
(工程2)熱間圧延板表面の酸化スケールをグラインダーで研削、除去する。
(工程3)板厚0.3mmまで冷間圧延する。
(工程4)溶体化処理として800℃で10秒間加熱し水中で急冷する。
(工程5)10質量%硫酸−1質量%過酸化水素溶液による酸洗及び#1200エメリー紙による機械研磨を順次行ない、表面酸化膜を除去する。
(工程6)板厚0.25mmまで冷間圧延する。
(工程7)時効処理として450℃で5時間加熱し空冷する。
(工程8)10質量%硫酸−1質量%過酸化水素溶液による酸洗及び#1200エメリー紙による機械研磨を順次行ない、表面酸化膜を除去する。
(工程9)アセトン中で超音波を印加することにより、脱脂を行う。
(工程10)次の条件でNi下地めっきを施す。
・めっき浴組成:硫酸ニッケル250g/L、塩化ニッケル45g/L、ホウ酸30g/L。
・めっき浴温度:50℃。
・電流密度:5A/dm2
・Niめっき厚みは、電着時間により調整する。
(工程11)次の条件でCu下地めっきを施す。
・めっき浴組成:硫酸銅200g/L、硫酸60g/L。
・めっき浴温度:25℃。
・電流密度:5A/dm2
・Cuめっき厚みは、電着時間により調整する。
(工程12)次の条件でSnめっきを施す。
・めっき浴組成:酸化第1錫41g/L、フェノールスルホン酸268g/L、界面活性剤5g/L。
・めっき浴温度:50℃。
・電流密度:9A/dm2
・Snめっき厚みは、電着時間により調整する。
(工程13)リフロー処理として、所定温度に保持した加熱炉中に、試料を所定時間挿入し水冷する。加熱炉中の雰囲気ガスは、酸素を1vol%以下に調整した窒素である。
このように作製した試料について、次の評価を行った。
【0016】
(1)母材の成分分析
機械研磨によりめっき層を完全に除去した後、母材のNi、Si、Zn及びSn等の濃度をICP−発光分光法で測定した。
(2)めっき厚測定
電解式膜厚計を用いて、Sn相およびSn−Cu合金相の厚さを求めた。また、FIB(集束イオンビーム加工観察装置)を用いてめっき層断面を観察し、Cu相およびNi相の厚みを求めた。
【0017】
(3)表面分析
リフロー後の試料をアセトン中で超音波脱脂した後、GDS(グロー放電発光分光分析装置)により、Sn、Si、Zn、C、Oの深さ方向の濃度プロファイルを求めた。測定条件は次の通りである。
・装置:JOBIN YBON社製JY5000RF-PSS型
・Current Method Program:CNBinteel-12aa-0。
・Mode:設定電力=40W。
・気圧:775Pa。
・電流値:40mA(700V)。
・フラッシュ時間:20s。
・予備加熱(Preburn)時間:2s。
・測定時間:分析時間=30s、サンプリング時間=0.020s/point。
【0018】
濃度プロファイルデータより、Sn表面のSi及びZn濃度、めっき/母材境界面のC及びO濃度を求めた。
GDSによる濃度プロファイルデータの代表的なものを図1、2に示す。図1A及び1Bは後述する発明例2及び比較例11の表面におけるSi及びZn濃度のプロファイルを示したものである。深さ0μmの位置でのSi及びZn濃度を読み取り、Sn相表面のSi、Zn濃度とした。図2A及び2Bは後述する発明例8のデータである。図2Aでは深さ1.6μmにめっき層と母材との境界面が存在することが認められ、図2Bでは深さ1.6μm(めっき層と母材との境界面)のところにC及びOのピークが認められる。このピークの高さを読み取り、めっき/母材境界面のC、O濃度とした。
【0019】
(4)半田濡れ性
幅10mmの短冊試験片を採取し、10質量%硫酸水溶液中で洗浄した。JIS−C0053に準じ、メニスコグラフ法により、半田濡れ時間を測定した。測定条件は次の通りである。
・フラックス:25%ロジン−エタノール。
・半田組成:60%Sn−40%Pb、半田温度:230℃。
・浸漬(引き出し)速さ:25mm/s、浸漬深さ:2mm。
(5)接触抵抗変化
大気中、180℃で1000時間加熱した試料に対し、山崎式接点シュミレータ(CRS−113−Au型)を使用し、四端子法により接触抵抗を測定した。測定条件は次の通りである。
・接触荷重:0.49N。
・電圧:200mV。電流:10mA
・摺動速度:1mm/min、摺動距離:1mm。
(6)耐熱剥離性
幅10mmの短冊試験片を採取し、105℃の温度で、大気中3000時間まで加熱した。その間、100時間毎に試料を加熱炉から取り出し、曲げ半径0.5mmの90°曲げと曲げ戻し(90°曲げを往復一回)を行なった。そして、曲げ内周部表面を光学顕微鏡(倍率50倍)で観察し、めっき剥離の有無を調べた。
【0020】
評価結果を表1に示す。本発明のすずめっき条である発明例1〜22については、リフロー上がりの半田濡れ時間が3秒未満と半田濡れ性は良好であり、180℃で1000時間加熱後の接触抵抗は3mΩ未満と加熱試験前のレベル(約1mΩ)に対しほとんど増加しなかった。又、105℃で3000時間加熱してもめっき剥離が発生しなかった。
【0021】
比較例1、2及び発明例10、11では、1.8Ni−0.4Si−0.1Sn−Zn合金について、Sn、Cu及びNiの電着時厚みをそれぞれ0.65、0.30及び0.25μmとし、母材のZn濃度を変化させている。Znを添加しない比較例1では、105℃でのめっき剥離時間が著しく短縮した。又、Zn濃度が2質量%を超える比較例2では、リフロー後のSnめっき表面のZn濃度が3質量%を超え、リフロー上がりでの半田濡れ時間が増大し、180℃で1000時間加熱後の接触抵抗も増大した。
【0022】
比較例3〜5及び発明例1〜3では、1.6Ni−0.35Si−0.4Zn−0.5Sn合金について、Sn及びNiの電着時厚みをそれぞれ0.8及び0.3μmとし、電着時のCu下地めっきの厚みを変化させている。Cu下地めっきを省略した(Ni下地めっきのみを施した)比較例3では、リフロー後のSnめっき表面のSi及びZn濃度が規定範囲を超え、リフロー上がりでの半田濡れ時間が増大し、180℃で1000時間加熱後の接触抵抗も増大した。同様に電着時のCu下地めっき厚が0.1μm未満であった比較例4では、リフロー後のSnめっき表面のZn濃度が規定範囲を超え、リフロー上がりでの半田濡れ時間が増大し、180℃で1000時間加熱後の接触抵抗も増大した。一方、比較例5は電着時のCu下地めっき厚が0.4μmを超えたものであり、リフロー後にCu相が残留した。180℃で1000時間加熱した際に、この残留Cu相がSn相と反応することにより、Cu−Sn合金相が成長してめっき層表面に現出し、接触抵抗が増大した。更に、比較例5ではめっき剥離時間の短縮も生じた。
【0023】
比較例6、7及び発明例1、4〜6では、1.6Ni−0.35Si−0.4Zn−0.5Sn合金について、Sn及びCuの電着時厚みをそれぞれ0.8及び0.15μmとし、Ni下地めっきの厚みを変化させている。Ni下地めっきを省略した(Cu下地めっきのみを施した)比較例6では、リフロー後のSnめっき表面のSi及びZn濃度が規定範囲を超え、リフロー上がりでの半田濡れ時間が増大し、180℃で1000時間加熱後の接触抵抗も増大した。同様に電着時のNi下地めっき厚が0.1μm未満であった比較例7では、リフロー後のSnめっき表面のZn濃度が規定範囲を超え、リフロー上がりでの半田濡れ時間が増大し、180℃で1000時間加熱後の接触抵抗も増大した。
【0024】
比較例8及び発明例2、7〜9では、1.6Ni−0.35Si−0.4Zn−0.5Sn合金について、Cu下地及びNi下地の電着時厚みをそれぞれ0.25及び0.3μmとし、Snめっきの厚みを変化させている。電着時のSn厚が0.5μm未満であった比較例8では、リフロー後のSn厚みが0.1μm未満であり、リフロー後のSnめっき表面のSi及びZn濃度が規定範囲を超え、リフロー上がりでの半田濡れ時間が増大し、180℃で1000時間加熱後の接触抵抗も増大した。
【0025】
比較例9は、発明例8に対し、Ni下地めっきの際の電流密度を5A/dm2から20A/dm2に上げた場合である。リフロー後のSnめっき表面のSi及びZn濃度が規定範囲を超え、リフロー上がりでの半田濡れ時間が増大し、180℃で1000時間加熱後の接触抵抗も増大した。電流密度を上げNiめっきがポーラスになったことが、Snめっき表面のSi及びZn濃度上昇した原因と推測された。
【0026】
比較例10、11は、発明例8に対し、時効後の酸洗及び研磨条件(工程8)を変化させた場合である。比較例10では酸洗を行わず研磨のみ行っており、比較例11では酸洗、研磨ともに行っていない。比較例10、11とも、リフロー後のSnめっき表面のSi又はZn濃度が規定範囲を超え、リフロー上がりでの半田濡れ時間が増大し、180℃で1000時間加熱後の接触抵抗も増大した。更に比較例11では、母材/めっき界面のO濃度が1質量%を超え、めっき剥離時間が著しく短縮した。母材表面に残留した酸化膜が、特性を劣化させた原因と推測された。
【0027】
比較例12は、発明例8に対し、めっき直前の脱脂(工程9)を行わなかった場合であり、母材/めっき界面のC濃度が0.1質量%を超え、めっき剥離時間が著しく短縮した。なお、比較例12は、請求項1を満たすが請求項2は満たさない例(請求項1に対しては発明例で請求項2に対しては比較例)であり、耐熱性として接触抵抗の経時劣化を問題にするならば請求項1を満たせば十分であるが、耐熱剥離性も問題にするのであれば請求項2をも満たす必要があることを示している。
比較例13は発明例12に対しリフロー炉の温度を400℃から600℃に上げた場合、比較例14は発明例12に対しリフロー炉中の酸素濃度を1vol%以下から10vol%に上げた場合である。比較例13、14ともに、リフロー後のSnめっき表面のSi又はZn濃度が規定範囲を超え、リフロー上がりでの半田濡れ時間が増大し、180℃で1000時間加熱後の接触抵抗も増大している。
【0028】
【表1】

【0029】
以上の実施例より、本発明のSnめっき条を製造するためには、
(1)母材表面の酸化膜や汚れを充分に除去すること
(2)Ni下地めっきの電着時の厚みを適正範囲(0.1〜2.0μm)に調整すること
(3)Cu下地めっきの電着時の厚みを適正範囲(0.1〜0.4μm)に調整すること
(4)Snめっきの電着時の厚みを適正範囲(0.5〜2.0μm)に調整すること
(5)適正な電流密度でめっきを行うこと
(6)リフロー炉中の酸素濃度を低く抑えること
(7)リフロー炉の温度を高くし過ぎないこと
が重要なことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1A】発明例2及び比較例11のSn相表面におけるSiのGDSによる濃度プロファイルを示す図である。
【図1B】発明例2及び比較例11のSn相表面におけるZnのGDSによる濃度プロファイルを示す図である。
【図2A】発明例8のSn相表面から母材内部に至るまでのCu、Sn及びNiのGDSによる濃度プロファイルである。
【図2B】発明例8のSn相表面から母材内部に至るまでのC及びOのGDSによる濃度プロファイルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0〜4.5質量%のNiを含有し、Niの質量%に対し1/6〜1/4のSiを含有し、0.1〜2.0質量%のZnを含有し、残部がCu及び不可避的不純物より構成される銅基合金を母材とし、表面から母材にかけて、Sn相、Sn−Cu合金相、Ni相の各層でめっき皮膜が構成され、Sn相の厚みが0.1〜1.5μm、Sn−Cu合金相の厚みが0.1〜1.5μm、Ni相の厚みが0.1〜2.0μmであり、Sn相表面のSi濃度が1.0質量%以下でかつZn濃度が3.0質量%以下であることを特徴とするCu−Ni−Si−Zn系合金すずめっき条。
【請求項2】
めっき層と母材との境界面におけるC濃度が0.1質量%以下、O濃度が1質量%以下であることを特徴とする請求項1のCu−Ni−Si−Zn系合金すずめっき条。
【請求項3】
母材が0.05〜2.0質量%のSnを含有することを特徴とする請求項1又は2のCu−Ni−Si−Zn系合金すずめっき条。
【請求項4】
母材がAg、Mn、Cr、P、Co、Mg及びMoの群から選ばれた少なくとも一種を合計で0.01〜0.5質量%含有することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のCu−Ni−Si−Zn系合金すずめっき条。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2007−92173(P2007−92173A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230588(P2006−230588)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】