説明

Cuボンディングワイヤ

【課題】ボール形成時の雰囲気ガスを100%窒素ガスとした場合でも銅ボールが酸化しにくく、アルミニウム電極と銅ボールとの接合信頼性を損なわず、銅ワイヤ表面も酸化し難くスティッチボンディング性が非常に良好な銅ボンディングワイヤを提供する。
【解決手段】Clの含有量が2質量ppm以下である、2質量%以上7.5質量%以下のAuを含み、残部Cuと不可避不純物からなることを特徴とするCuボンディングワイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子上の電極と外部電極とを接続するために用いるCuボンディングワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に半導体素子の電極と外部電極との接続に用いられるボンディングワイヤの直径は、15〜75μmと非常に細く、また、化学的な安定性や大気中での取り扱いやすさから、従来はAu線が用いられてきた。
しかし、ボンディングワイヤに使われるAu線は、高純度のAu線であるために、非常に高価であり、半導体素子の低廉化の要求に対しては、より低廉なCu製のボンディングワイヤの使用が望まれている。
【0003】
また、半導体素子の電極材料としてはAlまたはAl合金がよく用いられているが、AlやAl合金製の電極表面にAu製のボンディングワイヤやCu製のボンディングワイヤを接合して、高温環境による電極−ボンディングワイヤの接合信頼性を評価すると、Cu製のボンディングワイヤを用いる方がAu製のボンディングワイヤを用いる場合より、その信頼性の劣化が遅いことが知られており、このためボンディングワイヤと電極材料との接合の信頼性向上のためにもCu製のボンディングワイヤへの期待が高まっている。なお、この信頼性評価結果の理由としてAu中へのAl原子の拡散速度よりもCu中へのAl原子の拡散速度の方が極めて遅いこと、またCu原子のAl中への拡散速度もAu原子の拡散速度に比べて遅いことから推察されている。
【0004】
しかし、ボンディングワイヤとして使用される材料をAuからCuに替える場合、最大の弊害として、パッドダメージの発生率がAu製のボンディングワイヤを用いた場合よりCu製のボンディングワイヤを用いた方が高くなるという問題がある。これはCuの硬さがAuよりも高いことによるものである。
【0005】
この問題を回避するためには、ボールボンディング時にCu製のボンディングワイヤ先端に形成するボールの硬さを低下させることが必要である。このためには、工業的に入手しやすい純度99.99%から99.9999%のCuで、かつ酸素濃度が不活性ガス溶融法による酸素濃度分析で10ppm未満である無酸素銅(以下無酸素銅と記す)が一般的に使用されている。
特許文献1には、電解精錬を数回繰り返した後、その電解精錬により得られた高純度の電気銅を帯域融解法により精製して得られる純度99.999%以上の高純度の銅素材、即ち高純度の無酸素銅を使用して、パッドダメージの発生率を低下させる方法が提案されている。
【0006】
このように、無酸素銅の採用や銅の高純度化は、形成したボールの軟化を実現し、半導体素子上のアルミニウム電極の損傷いわゆるパッドダメージの大幅な低減に寄与し、パワーICやトランジスタ向けの銅ボンディングワイヤとしての用途へ利用されてきている。
一方、近年急激に生産量が急増しているPBGA(Plastic Ball Grid Array package)、或いはQFN(Quad Flat Non−lead package)等の半導体パッケージに対するCuボンディングワイヤの適用に向けた評価が開始されてきている。
【0007】
ところが、これらの半導体パッケージに、高温、高圧の信頼性試験であるPCT(Pressure Cooker Test)を行ったところ、ボール接合部が腐食され電気的絶縁となる不具合が露見した。
より詳細には、ボール接合部がClによって腐食され、接合界面が劣化することが原因と見られた。すなわち、PBGAやQFNといった半導体パッケージは片側のみが樹脂封止されたものであり、リードと樹脂の隙間から水分がパッケージ内に浸入しやすいため、Clの存在によってAl(電極)が腐食すると考えられた。
【0008】
このため、腐食してボールが剥がれた部分のAl電極面とボール裏面についてEPMA(電子プローブエックス線マイクロアナライザ)によって元素定性分析を行ったところ、いずれの試料からもClが検出された。このことから、Cuボンディングワイヤ中に存在するClが水分との反応によってCuボンディングワイヤ中から溶出することで、ボール接合部が腐食し、これが電気的絶縁を発生させることを見出し、グロー放電質量分析法によって検出される塩素量が1質量ppm以下の無酸素銅からなるCuボンディングワイヤを見出し、特許文献2に開示した。
【0009】
特許文献2のCuボンディングワイヤの採用により、電気的絶縁の発生は減少できたが、近年の高密度化、高集積化に対応して、線径(直径)が25μmや20μmといった極細線を用いた場合には、必ずしも十分な効果が得られないという事態が発生してきている。
【0010】
即ち、線径25μmのCuボンディングワイヤを用いてワイヤボンディングを行い、エポキシ樹脂で封止して得たパッケージに対しHTB試験(High Temperature Baking test:高温動作試験)を行うと、一般的に要求される動作時間である1000時間を待たずに導通不良となる新たな現象が観察されたことである。
【0011】
これは、Cuボンディングワイヤを用いたワイヤボンディングは、半導体素子側のAl電極へボールボンディングするためのボール形成を、5%水素+95%窒素のフォーミングガス雰囲気中でプラズマ放電によって行っているために、このボール形成は、ワイヤボンディングに要する時間がわずか60msecというボンディングヘッドの超高速動作、リードフレームや基板を固定するためのウインドウクランパ開閉動作、さらにリードフレームや基板が挿入されたマガジンの交換作業等で発生する空気の移動などの要因により、その導電不良が発生する。
【0012】
また、パワーICの組立において主流になっている対向式チューブ状ノズルでは、両ノズルの軸が一直線上で無い場合には合流後のフォーミングガス流に空気が混入しやすくなり、混入した空気により形成したボール表面が酸化し、ボールボンディングによりアルミニウム電極と形成したボールとの間に酸素が取りこまれ、HTB試験における約150℃という高温加熱によってAl電極側にCuが拡散して発生するAl−Cu合金層が、この酸素により酸化してしまうことが原因であるとされている。
【0013】
また形成したボールが酸化したり、ボール形状がボール底部へ伸びる楕円形状を呈したりする場合には、最新のLow−k材料(SiOより非誘電率が低い材料)を使用してAl電極の下へ回路を形成した半導体素子では、パッドダメージが発生しやすいことも判明した。
【0014】
ところで、ボールボンディング時に形成するボールの耐酸化性を向上させるために、Pを添加する方法がある。例えば、Pが200質量ppm以上添加された3N純度のCuボンディングワイヤがある。このCuボンディングワイヤは、一部のパワーデバイス向けに用いられている。従来のアルミニウム電極下にLow−k材料を使用した配線が施されていない半導体素子に対しては、このPが添加されたCuボンディングワイヤを用いて、パッドダメージ無しにボールボンディングが可能であったが、最新のLow−k材料を使用した電極構造を有する半導体素子にボールボンディングをすると、ボンディング時に形成されるボールの硬さが高いためにLow−k材料でできた電極構造が損傷するという、いわゆるパッドダメージが発生して使用できない事態が起こっている。
【0015】
この問題に対しては、Pの添加量を50ppm程度添加にすれば、ボールの酸化は抑えられ、最新のLow−k材料を使用した電極構造を有する半導体素子へのボールボンディングに使用しても、パッドダメージは無く使用可能であることが確認できたが、温度125℃、気圧2.3atm、湿度100%の環境で168時間放置して行うPCT試験の結果では、ボール接合界面で腐食が発生して導通不良が発生するという問題が生じている。
【0016】
さらに、半導体装置の組立においてはコストミニマムの観点から生産性を極限まで高める工夫を行っており、例えばワイヤボンディングのサイクル時間も短縮化され、その実現のためにボンディングヘッドは超高速動作し、またボール形成時の放電条件は大電流短時間放電が主流となっている。さらに最新のLow−k材料を使用した半導体素子では集積化向上のためにAl電極の下には回路が形成されており、その電極下は脆く損傷しやすくなっている。
【0017】
そして超高速動作による空気の乱流によってフォーミングガス中に空気が混入し、Cuボール表面が酸化し、Al電極とCuボールとの間に酸素が取りこまれ、HTB試験における約150℃という高温加熱によってAl電極側にCuが拡散して発生するAlとCuの合金層が、酸化して不具合に至るという問題に対しては、Cuボンディングワイヤの成分組成の調整や、製造工程中の熱処理条件などの調整による対応が提案されている。
【0018】
一方、PBGAやQFN等の片側封止パッケージにおいては、ボンディング温度が175℃以下と低かったり、ボンディング部のめっきが硬いパラジウムであったりするため、基本的に接合性が悪く、Cuボンディングワイヤの表面が少しでも酸化してしまうと、ボールボンディングに引き続いて行われるスティッチボンディングで不着となる不良が発生してボンディングマシンが停止したり、ワイヤボンディングされたとしても十分な接合強度が得られないといった問題が顕著になっている。
【0019】
このようなことから、半導体素子側のボール接合信頼性が高く、かつ外部電極側が、接合性が悪いスティッチボンディング条件であっても、ボンディングされるめっき面あるいはPdめっき面との接合信頼性を低下させることのないCuボンディングワイヤが望まれている。
このスティッチボンディングの接合性を改善する方法としては、特許文献3および4に開示される、Cuワイヤを芯としてその表面を貴金属で被覆する方法がある。
【0020】
しかし、これらの方法では通常のボンディングワイヤ製造プロセスに加え、Pd被膜を形成するプロセスが最低限必要となるが、被膜形成設備の追加や被膜厚管理等の作業の追加のため、製造コストのアップが避けられない。さらに、貴金属被膜形成の場合には、Cuボンディングワイヤ表面の酸化防止効果を高めようとして被膜厚を厚くすると、形成されるボール表面近傍に貴金属の濃縮層が形成されるため、ボールの表面硬度が裸銅線に比べて高くなり、最新のLow−k材料を使用したAl電極構造ではパッドダメージが発生するという不具合が発生してしまう。
【0021】
さらには、Cuボンディングワイヤを使用する半導体装置の組立には、従来のAu線用のワイヤボンディング装置へ、酸化防止用のガス雰囲気形成装置や、ボール形成のための放電電源装置などを追加して設置し、かつ一般的にはHを5%含むNガス、すなわちフォーミングガスを用いるために、設備投資額やランニングコストが、Auボンディングワイヤに比べて高くなってしまう。
【0022】
また、Hは可燃性ガスであるため、十分安全性に配慮した施設を準備しなければならないといった短所があり、Nガスのみでボール形成できるCuボンディングワイヤの開発が要求されているが、Cuワイヤの表面をPdで被覆するボンディングワイヤでは、被覆厚を20nm以上とすることでNガスのみでも比較的良好な形状のボールを形成することが可能であるが、形成したボール表面に高濃度のCu−Pd合金層が形成され、この合金層の硬さが高いために、パッドダメージが発生しやすいといった問題は解決されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開昭60−244054号公報
【特許文献2】特開2008−153625号公報
【特許文献3】特許第4158928号公報
【特許文献4】特許第4204359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、このような状況を鑑み、半導体装置の組立においてCuボンディングワイヤに求められる、Nガスのみの雰囲気中で球状ボールが形成でき、その形成されたボール表面硬さを、Pd被覆銅線に比べて低くすることによりパッドダメージの発生を防止し、さらにCuボンディングワイヤ表面の酸化を抑制してスティッチボンディング時のワイヤ不着の発生を防止することであり、かつ電気抵抗率はCuに匹敵する非常に導電性が高く、かつ低廉なCuボンディングワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、Clが2質量ppm以下であり、Auを2質量%以上7.5質量%以下の割合で含み残部がCuとCuの不可避不純物からなるボンディングワイヤであり、更に、Pを10質量ppm以上40質量ppm以下の割合で含むCuボンディングワイヤである。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るCuボンディングワイヤによれば、Auを1質量%から7.5質量%含有しているために電気抵抗率は約1.9μΩcm以上約3.3μΩcm以下となり、純度99%Auボンディングワイヤの電気抵抗率以下の低抵抗値である。
【0027】
またAuを含有することによりボンディングワイヤ表面の酸化速度が著しく低下して、スティッチボンディング時の不着不良を解消でき、さらに、ボール形成時の雰囲気をNガスのみとしてもボンディングワイヤ表面や形成したボール表面の酸化が極めて少なく、真球度の高い光沢のあるボールを得ることが可能となる。
【0028】
そして形成したボールの表面硬度は、Pd被覆銅線よりも軟らかく、パッドダメージの発生からも開放される。更に、Cl含有量を2質量ppm以下とすれば高温高湿下での信頼性が良好となり、更にPを10質量ppm以上40ppm以下とすれば形成したボール表面の酸素は完全に除去され、また高湿度においてもボンディングワイヤと水分との接触による水分中に滲出するP量は極めて少なく、Clを1質量ppm以下とした場合にはPBGAやQFNといった水分が浸入しやすい片側樹脂封止のパッケージにおいても、PとClの相乗効果によるボール接合部の腐食の問題が完全に解決するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】粒界酸化が認められるCuボールの例を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図2】粒界酸化が認められないCuボールの例を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図3】底部に伸張した楕円体形状となったCuボールの例を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図4】穴(巣)を生じたCuボールの例を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明に係るCuボンディングワイヤの評価に用いた半導体パッケージの平面図、および電気抵抗測定の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明で用いる銅鋳造線材の組成を、Auを2質量%以上7.5質量%以下、さらにClを2ppm以下とし、さらにPを10質量ppm以上40質量ppm以下の割合で含み、残部が銅と不可避不純物からなる銅鋳造線材としている。この理由は、以下の通りである。
【0031】
(1)Au含有量
Cu線は酸化しやすいため、短期間で使い切るように巻長さを500mと短く設定したり、吸湿防止のためプラスチック袋で封止したりして出荷しているが、使用途中で装置を止めたり開封後に未使用のまま放置すると表面が酸化し、大気中で行われるスティッチボンディングでの接合性が悪化する。
そこで、Auを1質量%以上含有すればCu線表面の酸化速度が低下し、スティッチボンディング接合性の悪化が回避できる。また、Auを2質量%以上含有すれば100%Nガス雰囲気におけるボール形成においても、溶融ボール直上のボンディングワイヤ表面の酸化膜形成が抑制されるため、溶融Cuボールのボンディングワイヤ表面の濡れ性が安定し、真円度の高いボールが形成される。
【0032】
一方、Auが2質量%未満ではボール頭頂部に尖りが発生する場合があり、ボールボンディング時のパッドダメージの発生原因となり、また酸化がわずかに認められるようになるため、Nガスのみでボール形成する場合には、2質量%以上とすることが望ましい。一方7.5質量%を超えると電気抵抗率が、純度99%Auボンディングワイヤの値約3.3μΩcmを超えるため、Cuボンディングワイヤの利点であるAuボンディングワイヤより優れて低い電気抵抗率が発揮でききない。
さらに、Auを添加する代わりにPtを添加する方法もあるが、ボールの表面硬度(Hv)が70を越えるために、パッドダメージを回避できないこと、電気抵抗率がAuを添加した場合よりも高くなることからAuを添加する方が好ましい。
【0033】
(2)Cl含有量
Cl量を2質量ppm以下に抑える理由は、ワイヤボンディングした後のCuボールとAlとの接合界面に染み出してくるClの量を抑え、同接合界面におけるClによる腐食を抑制するためである。Clが染み出すと接合界面の雰囲気が酸性側となり、Alの腐食の進行を促進するため、Clの量としては少なければ少ないほど良いが、2ppm以下とすることで目的は達成される。
【0034】
(3)P含有量
Pは、ボンディングワイヤ表面に酸素が吸着しているか、あるいは、ボンディングワイヤ内にわずかな酸素が残留している場合のCuボールの表面酸化を防止するために添加される。P含有量が10質量ppmよりも少ないと、ボール形成雰囲気に酸素が混入した場合にCuボールの表面酸化が防止できなくなる。また、P含有量が高いと高湿度下でボンディングワイヤからPが滲出し、接合界面の雰囲気が酸性側にシフトするので好ましくない。
また、本発明では、PBGAやQFNといった水分が浸入しやすい片側樹脂封止のパッケージにおいても、Cl含有量を1ppm以下と少なくすることにより、PとClの相乗効果によるボール接合部の腐食問題が解消される。
【実施例】
【0035】
以下、本発明に係るCuボンディングワイヤについて説明する。
表1に、本発明のCuボンディングワイヤを含む、評価用ボンディングワイヤの成分組成を示す。このボンディングワイヤに含まれるAu量、Cl量およびP量は、直径25μmのワイヤ試料をアルミニウム製キャップに挿入して20tプレスを用いて平板状にしたものを測定試料とし、測定前に装置内で約1時間の予備放電を行い、試料表面を数ミクロン程度除去した後、その除去面をグロー放電質量分析法にて測定して求めた。
【0036】
表1に示す評価用ボンディングワイヤの試料No.1〜14の製造方法を下記に示す。
まず、試料No.1〜12は、真空溶解連続鋳造炉において純度99.99%以上の高純度カーボンルツボ内にCu純度99.995%以上の高純度電解銅を入れ、溶解チャンバー内を真空度1×10−4Pa以下に保持して高周波溶解を行い、溶湯温度1150℃以上、保持時間10分以上で十分に脱ガスした後、所定の含有量になるように秤量したAu、またはAuおよびPを、ルツボ内に投入して溶解して撹拌し、不活性ガスで溶解チャンバー内を大気圧に戻し、連続鋳造によって直径8mmに鋳造し無酸素銅鋳造線材とした。
【0037】
次に、この無酸素銅鋳造線材を、伸線ダイスを用いて直径1mmまで縮径し、途中酸洗浄を行う場合と行わない場合に分け、引き続き直径25μmまで縮径し、5%H+95%Nのフォーミングガス雰囲気中で伸び率が11%となる温度で焼鈍して、試料No.1〜12のCuボンディングワイヤを作製した。
なお、洗浄については、試料No.5は、直径1mmでの塩酸洗浄を行ったのちに約60℃のお湯で十分に洗浄し、試料No.8と試料No.11は、直径1mmでの塩酸洗浄を行ったのちに水道水で十分に洗浄した。
【0038】
試料No.13は、Cu純度99.995%以上の高純度電解銅のみを溶解鋳造した後、直径1mmにてアルカリ脱脂、水洗、電解脱脂、水洗、酸活性、水洗、Pdストライクめっき、水洗、Pdめっき、水洗、湯洗の順に連続的に行ってPd薄膜を形成し、その後直径25μmまで縮径した後に、5%H+95%Nのフォーミングガス雰囲気中で伸び率が11%となる温度で焼鈍したPd被覆Cu銅ボンディングワイヤである。なお、Pdめっき厚は、ワイヤを直径25μmまで縮径した際に80nm厚となるように調整した。
【0039】
さらに試料No.14は、試料No.1〜12と同様に、真空溶解連続鋳造炉を用いて純度99.99%以上の高純度カーボンルツボ内にCu純度99.995%以上の高純度電解銅を入れ、溶解チャンバー内を真空度1×10−4Pa以下に保持して高周波溶解を行い、溶湯温度1150℃以上、保持時間10分以上で十分に脱ガスした後、所定の含有量になるように秤量したPを、不活性ガスで溶解チャンバー内を大気圧に戻し、連続鋳造によって直径8mmに鋳造した無酸素銅鋳造線材を、伸線ダイスを用いて直径1mmまで縮径し、途中酸洗浄を行わず、引き続き直径25μmまで縮径し、5%H+95%Nのフォーミングガス雰囲気中で伸び率が11%となる温度で焼鈍して、Cuボンディングワイヤを作製した。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示す試料を用いて特性評価をおこなった。図1から図4は、その評価時の試料の代表例を示す走査電子顕微鏡写真である。
【0042】
[ボンディングワイヤ特性]
A:ボール形成時の酸化膜の有無
固定電気トーチと放電用ガスノズルを持つ新川製ワイヤボンダUTC−1000を用いて、ボールを酸化しやすくするために通常のCuワイヤボンディングに用いられる5%H+95%Nガスではなく、100%Nガスを雰囲気ガスに用いて直径75μmのボールを50個作製し、顕微鏡観察で図1のような粒界酸化の有無を調査し、酸化が認められる場合を不良と判定し、図2のように粒界での酸化が見られない場合を正常であると判定して、その不良個数を求めた。
【0043】
B:ボール形成時のボール外形
図3のように底部に伸張した楕円体形状となったボールや、図4のように「巣」が入り穴が開いたボールが50個中1個でも発生した場合を不良とし、発生しないものを正常であると判定して、その不良個数を求めた。
【0044】
C:表面硬度
形成したCuボールの表面硬度を、ビッカース硬さにより求めた。荷重は0.5gfで行った。
【0045】
D:電気抵抗率
図5に示すように、厚み0.8μmのAl電極4と、そのAl電極4とシリコン層との間に50nm厚のTi層と50nmの酸化シリコン層とを有する半導体素子3のAl電極4とAgめっき付きリード5とを試料1〜13のCuボンディングワイヤを用いて、超音波熱圧着ボールボンディングおよびスティッチボンディングを行った後に、直径25.0μmの線を用いてホイートストーンブリッジ回路により電気抵抗を測定して電気抵抗率を算出した。
【0046】
[ボンディング性]
E:ボールボンディング時のパッドダメージ
図5に示す、厚み0.8μmのAl電極4と、そのAl電極4とシリコン層との間に50nm厚のTi層と50nmの酸化シリコン層とを有する半導体素子3のAl電極4とAgめっき付きリード5とを、試料1〜13のCuボンディングワイヤを用いて、超音波熱圧着ボールボンディングおよびスティッチボンディングを行った後に、水酸化カリウム溶液でCuボールごとAlを洗い流してAl電極下のパッドダメージを観察し、ひび割れ、欠け等の損傷が100個中1個でも発生した場合を不良と判定し、発生しないものを正常とし、その不良個数を求めた。比較例として、純度99.99%のCu表面にPdを80nm厚で被覆したPd被覆Cu線も用いた。なお、ボール形成はNガスのみで行った。
【0047】
F:スティッチボンディングの接合性
スプールに巻かれたボンディングワイヤを2週間クリーンルーム内の大気中で常温に放置した後に、2個ずつ連結されたAl電極を持つ前述の半導体素子上のAl電極と、リード先端にAgめっきされた銅合金製のリードフレームのリード先端とをボール、スティッチボンディングし、1200箇所中のスティッチボンディング不着の割合を不着率(%)として求めた。
【0048】
G:プレッシャークッカーテスト(PCT)
隣接するAl電極がAl配線で連結しているEの「ボールボンディング時のパッドダメージ」測定と同構造の半導体素子を用いて、Al電極側をボールボンディングし、銅合金製リードフレームのリード先端のAgメッキ電極をスティッチボンディングし、ワイヤ、Al電極、ワイヤ、Agメッキ、ワイヤ、Al電極、と続くいわゆるデイジーチェーンを形成し、これをBrやSbを含有しないいわゆるグリーンエポキシコンパウンドでモールドして半導体装置とし、この半導体装置を温度125℃、気圧2.3atm、湿度100%の環境で168時間放置するいわゆるプレッシャークッカーテスト(PCT)を行った後、通電テストにて50組の中で電気抵抗が高温放置前の20%以上になった組が1組でも発生した場合を不良と判断し、1組も発生しない場合を正常とし、その不良個数を求めた。
以上、特性AからGの評価結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2から明らかなように、本発明の成分組成を有するCuボンディングワイヤの実施例1〜6(試料No.3〜8)は、不活性ガスである100%Nガス中において、各実施例の50個の試料が全て光沢を持った真球形状であり、半導体素子上の50個全てのアルミニウム電極下でパッドダメージは観察されず、PCT試験では50組全てが電気抵抗の上昇は20%未満であり、電気抵抗率は実施例1(試料No.3)において2.08μΩcm、実施例5(試料No.7)でも3.25μΩcmと、Auより低い電気抵抗率を示していた。
【0051】
一方、Cl及びPの含有量共に本発明の範囲内であるが、Au含有量が1質量%(試料No.1)、1.6質量%(試料No.2)と少ない比較例1および2では、ボンディング性は良好であったが、ボール形成時に、ボール表面は酸化し、また真球状の形状も得られなかった。
【0052】
Auの含有量が0.5質量%と少ない比較例3(試料No.9)では、Au含有の効果が見られず、ボールの表面やワイヤ表面が酸化し、また形状も楕円形に変形した。パッドダメージは観察されなかったものの、クリーンルーム内で2週間放置したあとのワイヤボンディングにおけるスティッチ接合性は悪化した。PCTでの導通不良は見られなかった。
【0053】
Pは10質量ppmであるが、Auの含有量が0.5質量%と少ない比較例4(試料No.10)では、Pの効果によりボールの外観には異常は認められなかったものの、Auの含有量が少ないために、そのボール形状に、楕円形のものが見られた。また、パッドダメージは観察されなかったものの、クリーンルーム内で2週間放置したあとのワイヤボンディングにおけるスティッチ接合性は悪化した。PCTでの導通不良は見られなかった。
【0054】
Pを過剰に含み、Clの含有量も多い比較例5(試料No.11)では、ボールの外観には異常は認められなかったものの、ボールボンディングによるパッドダメージが観察され、クリーンルーム内で2週間放置したあとのワイヤボンディングにおけるスティッチ接合性が悪化した。PCTでの導通不良が多数発生していた。
【0055】
Auを9質量%と過剰に含む比較例6(試料No.12)では、ボールの外観には異常は認められなかったものの、ボールボンディングではひび割れや欠けといったパッドダメージが観察された。また電気抵抗率が3.57μΩcmと、純度99%の金ワイヤよりも高くなったしまった。
【0056】
Pd被覆され、含有するClは1.2質量ppmで本発明内であるが、Auを含まない比較例7(試料No.13)は、初期ボールの外観には異常は認められなかったものの、ボールボンディングではひび割れや欠けといったパッドダメージが観察された。またPCTでは導通不良を示すワイヤが発生した。
【0057】
Auを含まず、Pのみを30質量ppm含む比較例8(試料No.14)は、ボールの表面が酸化し、形状も楕円形に変形していた。パッドダメージは観察されなかったが、クリーンルーム内で2週間放置したあとのワイヤボンディングにおけるスティッチ接合性は悪化し、PCTにおいては導通不良を示すワイヤが発生した。
【0058】
さらに、試料No.1、2及び9の試料は、100%Nガス、即ち不活性ガス中では良好なボンディングワイヤ特性を示さなかった(比較例1、2及び3参照)が、従来のボンディング条件の還元性雰囲気である5%H+95%NガスよりもHが少ない2%H+98%Nのフォーミングガス中でボール形成したところ、ボール表面の酸化もワイヤ表面の酸化も見られず、ボールは光沢を有する真球であった。この2%H+98%Nのフォーミングガスを用いて前述同様の評価を行った結果を表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
試料No.1を用いた実施例7、および試料No.2を用いた実施例8共に、ボールボンディングによるパッドダメージは観察されず、クリーンルーム内で2週間放置してもスティッチ接合性は良好で、PCTでも導通不良は見られなかった。しかし、試料No.9を用いた比較例9では、ボールの表面が酸化し、形状も楕円形に変形して、スティッチ接合性も悪化した。PCTにおける導通不良は測定されなかった。
【符号の説明】
【0061】
1 銅ボンディングワイヤ
2 ボール
3 半導体素子
4 アルミニウム電極
5 銀めっき付きリード
6 エポキシ封止樹脂
7 抵抗測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Clの含有量が2質量ppm以下である、2質量%以上7.5質量%以下のAuを含み、残部Cuと不可避不純物からなることを特徴とするCuボンディングワイヤ。
【請求項2】
Clの含有量が2質量ppm以下である、10質量ppm以上40質量ppm以下のP、および2質量%以上、7.5質量%以下のAuを含み、残部Cuと不可避不純物からなることを特徴とするCuボンディングワイヤ。
【請求項3】
Clの含有量が2質量ppm以下である、10質量ppm以上40質量ppm以下のP、および2質量%以上、7.5質量%以下のAuを含み、残部Cuと不可避不純物からなり、かつ不活性雰囲気中でのワイヤボンディングに用いられることを特徴とするCuボンディングワイヤ。
【請求項4】
Clの含有量が2質量ppm以下である、10質量ppm以上40質量ppm以下のP、および2質量%以上、7.5質量%以下のAuを含み、残部Cuと不可避不純物からなるCuボンディングワイヤを用い、不活性雰囲気中でワイヤボンディングされることを特徴とする半導体装置。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−3745(P2011−3745A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145884(P2009−145884)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】