説明

DAST双晶、その製造方法、および用途

電気光学素子として有用な新規な4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)の結晶を提供する。
本発明では、DASTの双晶によって、電気光学素子として用いるに有効な大きさのDASTを提供できた。
DAST双晶は、種結晶法あるいは斜面結晶育成法によって得ることができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)双晶、その製造方法、およびその用途に関する。

【背景技術】
【0002】
DAST結晶は、非線形光学材料として優れた特性を有するので、波長変換デバイス、電界センサーなどの電気光学素子として用いられている(特許文献1など)。しかし、従来から電気光学素子として用いられているDAST結晶は、単結晶であって、双晶は知られていなかった。本発明者らは、単結晶で電気光学素子として用いるに有効な大きさのDAST結晶を得ることは困難であるのに対して、双晶は比較的簡単に作成できることを見出した。
【0003】
【特許文献1】特許第3007972号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規なDAST双晶を提供すること、該DAST双晶の製造方法、及び該DAST双晶の用途を提供することを課題とする。

【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、従来から、DAST単結晶を作成し、それを用いた電気光学素子の研究をしてきた(特願2002−247332など)。本発明者らは、そのようなDAST単結晶の作成工程において、今まで、不良品として注目しなかった結晶(Feng Pan, Man Shing Wong, Christian Bosshard, and Peter Guenter, Adv. Matter. 1996, 8, No.7,592-595)の結晶学的特性を調査した結果、それが、双晶であることを今回発見し、その特性を調べた結果、種々な利点を見出した。
【0006】
1)DAST双晶は、単結晶に比べて比較的簡単に作成できる。
2)DAST単結晶と同様に、良好な電気光学特性が発揮される。
3)DAST双晶は、2枚の平板状の結晶が接合しているような外観であり、平行な面が広く有効面積が大きい結晶が得られる。
4)2枚重なっているため、単結晶より成長が速く、厚い結晶ができやすい。結晶が厚いほど電気光学素子としての感度が良い。
【0007】
以上の知見を得て、本発明は、DAST双晶によって、作成が比較的容易でかつ電気光学素子として有用なDAST結晶を提供することができた。
すなわち、本発明は、次に関するものである。
(1)4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)の双晶。
(2)2枚の平板状結晶が相互に接合している形態の上記(1)記載の双晶。
(3)2枚の平板状結晶がa軸を中心に180°反転して相互に接していることを特徴とする上記(2)記載の双晶。
(4)厚み0.05〜20mmの上記(1)〜(3)のいずれかに記載の双晶。
(5)長径0.1〜100mm、アスペクト比1〜20の上記(1)〜(4)のいずれかに記載の双晶。
(6)双晶を種結晶として用いて4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)溶液から双晶を育成する工程を含む上記(1)〜(5)のいずれかに記載の4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)双晶の製造方法。
(7)加熱した4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)溶液を冷却して多孔質シート上に結晶を析出させ、多孔質シートに析出して癒着したままの双晶を種結晶として用いる上記(6)記載の4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)双晶の製造方法。
(8)多孔質シートとして多孔質ポリフッ化エチレン膜を用いる上記(7)記載の4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)双晶の製造方法。
(9)斜面結晶育成法によって育成した結晶から、外観によって双晶を選択することからなる上記(1)〜(5)のいずれかに記載の4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)双晶の製造方法。
(10)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)双晶を用いる電気光学素子。
(11)4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)双晶の片面を削り落とす、または切り離すことにより得られた4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)単結晶を用いる電気光学素子。
(12)電気光学素子がアンテナ用あるいは電界検出用である上記(10)または(11)記載の電気光学素子。

【発明の効果】
【0008】
本発明の双晶によると、厚みのある結晶を早く作成できるので、電気光学素子として用いたとき感度の良いという優れた効果が得られる。

【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】DAST双晶(a)と単結晶(b)の外観
【図2】DAST結晶の厚みが大きいほどEO感度が上がることを説明するための図
【図3】EO感度の測定装置の一例
【図4】DAST結晶の厚みとEO感度の関係を示す図
【図5】DAST双晶を利用してミリ波などの電磁波を測定する装置
【図6】示差走査熱量計によるDAST双晶融点の測定チャート
【符号の説明】
【0010】
1:DAST結晶
2:電波
3:入力光
4:透過光
5:DAST結晶
6:ガラスクラウン
7:設置台
8:電極
9:アンテナ
10:連続発振(CW)レーザー発生装置
11:偏光子
12:DAST双晶
13:位相補償板
14:検光子
15:光検出器
16:電気計測器
17:局部発振器

【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、更に本発明を詳細に説明するが、本発明はそれに限られるわけではない。
<DAST双晶の製造方法>
DAST双晶を製造するために好ましい方法には、種結晶を用いる方法と斜面結晶育成法とが挙げられる。
【0012】
種晶法
第1の種晶法は、双晶を種結晶として用いてDAST溶液から双晶を育成する方法である。本発明者らは、種晶法によってDAST結晶を製造する方法を検討していたところ、加熱したDAST溶液を冷却して多孔質シート上に結晶を析出させ、多孔質シートに析出した結晶を、多孔質シートに癒着したままの状態で種結晶として用いることによって、効率よく結晶を製造できることを見出した。多孔質シート上に析出したDAST結晶は、その外観によって単結晶と双晶とを選択し、単結晶を種晶として選びDAST溶液から結晶を育成すれば単結晶が、双晶を種晶として選び結晶を育成すれば双晶が育成できる。本発明者らはさらに、このとき用いる多孔質シートの材質として、ポリフッ化エチレンが好ましいことを見出した。
【0013】
具体的には、多孔質シートを底に敷いたボトルに1〜10%(w/w)、好ましくは2〜3%(w/w)のDAST溶液をフィルターで熱時濾過して加え、飽和温度よりも1〜20℃低い温度まで冷却する。DASTは、特開平9−512032号公報、特開2001-247400号公報等に記載される公知の製造方法に従って合成したものを用いることができる。DASTの溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが用いられるが、メタノールが好ましい。多孔質シートの材質としては、ポリフッ化エチレン(テフロン:デュポン社登録商標)、セルロース、ナイロン等が好ましく、ポリフッ化エチレンが特に好ましい。ポアサイズは、0.1μm〜100μm程度、好ましくは0.1〜1μmが望ましい。
【0014】
例えばボトルのキャップを開閉するなど、ボトル内のDAST溶液に適当な刺激を与え核を発生させた後、30分以上静置した後、多孔質シートを取り出した。多孔質シートは、取り出し時に、DASTの溶解度の低い溶媒(例えばアセトン)で洗浄し、乾燥した。多孔質シート上の結晶のうち、結晶が2枚重なっていないものを選んで育成すれば、単結晶が得られ、2枚重なったものを選んで育成すれば、双晶が得られる。多孔質シート上に残った結晶を注意深く観察し、結晶が2枚重なった状態のものを選び、多孔質シートの種結晶が癒着した部分を種結晶ごと注意深く適当な形状に切り取り、DAST溶液中で育成した。
【0015】
育成は次のような条件で行った。種晶が癒着した多孔質シートの一端をボトル内に適当な方法で固定し、1〜10%(w/w)の濃度、好ましくは4〜6%(w/w)のDAST溶液中に吊るした。溶媒は前記と同じメタノール、エタノール、プロパノールなどが用いられるが、メタノールが好ましい。その後、飽和温度より僅かに高い温度(0.1℃〜5℃高い温度)で30秒〜24時間、例えば45℃で30分程度種晶表面を僅かに溶かす。育成は、飽和温度より0.1℃〜10℃低い温度で5日〜60日、例えば、2週間42〜43℃で攪拌なしで静置もしくは、ゆっくり攪拌しながら育成を行い、結晶を取り出すことによって、双晶が得られる。
【0016】
斜面結晶育成法
第2の方法は、公知の斜面結晶育成法(特許文献1参照)によって育成した結晶から、外観によって双晶を選択することからなる製造方法である。特許文献1に記載されるような斜面結晶育成法は、単結晶より双晶のほうが得られやすいので、DAST双晶の製造にも好適である。
【0017】
具体的には、特許文献1の実施例に記載の方法に準じてDAST結晶を育成し、以下に説明する方法で、双晶を選定した。
即ち、再結晶法により得た少なくとも1回再結晶精製したDAST粉末、好ましくは2回以上再結晶精製したDAST粉末に溶媒を加え1〜10%(w/w)の濃度のDAST溶液を調製した。溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが用いられるが、メタノールが特に好ましい。次いで、この溶液中に傾斜角度10〜60°好ましくは30°で主面に少なくとも1つの溝部を有するポリフッ化エチレン製の基板(以下「斜面」という)を浸漬させた後、溶液を昇温してDAST粉末を完全に溶解させた。溝部の幅と深さはともに0.1から1mm程度が好ましく、特に0.5mm程度が好ましい。その後、過飽和温度より0.1〜10℃、好ましくは42〜43℃まで溶液温度を降下させ、6時間以上好ましくは24時間その温度を維持し、溝部にDAST結晶を析出させた。結晶が析出しない場合は必要に応じてさらに溶液温度を降下(例えば0.1℃/日)させDAST結晶を析出させた。結晶析出後、必要に応じて溶液温度を維持または降下(例えば0.1℃/日)させ結晶を目的とする大きさまで育成した。この方法でDAST結晶の育成を行うことによりDAST結晶を双晶:単結晶=8:2〜5:5の比率で得る事ができる。
【0018】
双晶の選定方法を以下に示す。一般にDAST単結晶は、[001]面が結晶の大きさほぼいっぱいまで広がったひとつの平坦な平面であり、[00−1]面側は一部[001]面に平行な面が現れるが、その他の面は、傾斜を持つ(平成10年度地域コンソーシアム研究開発事業「ベンチャー企業育成型地域コンソーシアム研究開発」(中核的産業創造型)「フォトニクスセンシングに関するコンソーシアム研究」成果報告書、平成12年3月、新エネルギー・産業技術総合開発機構、管理法人「(株)インテリジェント・コスモス研究機構」、関連機関 工業技術院 物質工学研究所、東北工業技術研究所)。それに対して双晶は、[001]面も[00−1]面もともに、結晶の大きさほぼいっぱいまで広がった平行なひとつの面で成り立っている。この形状の違いを基に双晶を選定することが可能である。この方法で選んだ双晶をX線解析したところ、全て、双晶であることが確認できた。
【0019】
種晶法による成長速度の比較データ(表1)から分かるとおり、単結晶に比較して、双晶の方が成長速度が速く、しかも厚く作成できる。
【0020】
【表1】

<作成した双晶の特性(結晶特性)>
上記のような方法で作成した双晶は、図1で示すような外観を有する。図1には、双晶の外観(a)と単結晶の外観(b)とを対比して示した。[0015]に記載したように、DAST単結晶は、[001]面が広がった平坦な平面と、その他の傾斜面を持つのに対して、双晶は、結晶の大きさほぼいっぱいまで広がった平行なひとつの面で成り立っている。
結晶径は、長径0.1〜100mm、短径0.1〜20mm、アスペクト比1〜20であった。
【0021】
DASTが双晶であることを想定し、以下の手法でX線構造解析を行った。回折ピークがなるべく重ならないような高角(2θ=40°以上)のピークを集め、それらを2種類のグループに分け、それぞれにつき基本的な手法でセッティングパラメータおよび格子定数を計算した結果、同一の格子定数をもち、方位の異なる単位格子が、結晶2つ分組み立てられた。このことが測定した結晶が双晶であることを決定付けた。
また、それぞれのセッティングパラメータと格子定数をもとに、2つの結晶の相対位置関係を求めた結果、a軸を中心に180°回転したものであることが判明した。
格子定数はそれぞれa 10.33Å、b 11.30Å、c 17.82Åであった。これらは、単結晶のデータと一致した。(それぞれa 10.365Å、b 11.322Å、c 17.893Å、Feng Pan, Man Shing Wong, Christian Bosshard, and Peter Guenter, Adv. Matter. 1996, 8, No.7,592-595)
【0022】
<作成した双晶の特性(電気光学的特性)>
DAST双晶の電気光学的特性を図2の電界検出素子(EO)を用いて説明する。
DAST結晶の複屈折率は、結晶が置かれている空間の電界の作用を受けて変化する。複屈折率の変化は、結晶を透過させるレーザーの偏光面の変化に反映される。
図2において、(1)は、電界空間に置かれたDAST結晶(電気光学結晶)、(2)は、この電界空間に電波が入射することを示す。
図2に示すx軸方向とy軸方向の偏光成分の位相のズレは、複屈折により入射光(3)と透過光(4)で変化する。そのズレのシフト量Δθは、電界強度Eと結晶の厚み(結晶長)Lに比例する。
【0023】
Δθ ∝ (nxr11−nr21)EL
ここで、
nx: x軸方向に関わる屈折率
r11: x軸方向に関わる電気光学係数
n: y軸方向に関わる屈折率
r21: y軸方向に関わる電気光学係数
(例えば、F. Pan, G. Knoepfle, Ch. Bosshard, S. Folloniner, R. Spreiter, M.S. Wong, P. Guenter, Appl. phys. Lett. 1996, 69(1), 13-15参照)
位相シフト量を偏光子によって、強度変化として記録することにより、電界の強度を知ることが可能であり、結晶の厚み(結晶長)Lが大きくなるほどその感度は高くなる。よって、厚みの大きなDAST双晶を用いるほうが、単結晶を用いるよりも、高感度に電界を検出可能である。
【0024】
次のようにして、EO感度とDAST厚みの関係を測定した。図3において、(5)はDAST結晶、(6)は結晶を載置するクラウンガラス、(7)は設置台、(8)は電極である。(5)のDAST結晶における矢印はa軸方向を示す。
2枚の平行な5mmの間隔の電極(8)に1ボルト99KHzの交流電圧をかけ、電界中に図3のようにDAST結晶(5)を設置する。電界によりDAST結晶の複屈折率は変化する。波長1.5μmのレーザー光を透過させ、その偏光の変化を偏光子とフォトダイオードにより強度変化として記録した。
結晶によって、レーザーの透過率が違うため、透過レーザー強度を同じとして、感度を補正し、図4に結晶の厚みに対してプロットした。結晶の厚みが増すに従い、感度が強くなる傾向が明確に見られた。また、得られた単結晶に比べ、双晶のほうが厚みが大きく、より高い感度が得られた。
【0025】
DAST双晶融点は、示差走査熱量計の測定により、259.6℃であった(図6)。
【0026】
以下には、DAST双晶を用いる応用例を示す。
レーザーと電気光学結晶を用いた電気光学サンプリング(Electro−0pticSampling:以下、EOS)と呼ばれる手法を用いて、ミリ波帯域の電気信号または、放射電磁波の検出が可能である。ここで、「ミリ波」とは、マイクロ波からサブミリ波までを含めた広い周波数帯にわたる高周波電磁波のことを表す。文献(Q.Wu et al.:“Free electro-optic sampling of terahertz beams”, Applied Physics Letters, Vol.67, 1995, p.3523-3525、特開2002−31658)にも示されているとおり、受信したミリ波などの高周波電気信号を電気光学結晶を利用することにより、光信号に変換して、検出することが可能である。より厚い結晶長の結晶が得られるDAST双晶を用いるほうが、DAST単結晶を用いる場合より、装置の感度をより高くすることが可能である。
【0027】
例として、図5の装置で説明する。
図5は、ミリ波など電磁波をDAST双晶を利用して光信号に変換し、検出するシステムの実施の形態を示すブロック図である。本システムは、空間を伝播するミリ波など電磁波を受信するためのアンテナ(9)と連続発振(CW)レーザー発生装置(10)とそのレーザーを偏光に変換するための偏光子(11)電気光学結晶(DAST双晶:12)、位相補償板(13)、検光子(14)、光検出器(15)、電気計測器(ロッキングアンプまたはスペクトラムアナライザ:16)、局部発振器(17)からなる。
アンテナから受信したミリ波などの時間波形を検出するため、図5のように電気光学結晶(12)を配置し、光信号に変換する方法がある。連続発振(CW)レーザー発生装置(10)から発した光波を偏光子(11)で偏光させるか、偏光したレーザーを用い、図のような方向に配置した電気光学結晶(12)を透過させ、位相補償板(13)、検光子(14)を経て、光検出器(15)に入るようにする。一方、局部発振器(17)(周波数ωmod)を用い、受信した上記電波(周波数ω)の振幅変調を行うと電気光学結晶(12)に印加される電圧は
【0028】
【数1】

となる。局部発振器(17)からの変調信号は同時に電気計測器の参照信号とする。
【0029】
電気光学結晶(12)の複屈折Γ0を位相補償板(13)の位相Γcで補償し、
Γ0+Γc=0とすると、光検出器(15)での受光パワーPは
【数2】

ここで、Lは結晶長、Aは電波の振幅である。この式から、ロックインアンプによって、ωmodまたは2ωmod成分を計測すれば電波の振幅Aを検出できることがわかる。検出性能を決めるのはR2L2である。
Rは電気光学係数に関係する定数で、電気光学結晶に特有の値である。
【0030】
R=nx3r11‐ny3r21
nx: x軸方向に関わる屈折率
r11: x軸方向に関わる電気光学係数
n: y軸方向に関わる屈折率
r21: y軸方向に関わる電気光学係数
(例えば、文献(F. Pan, G. Knoepfle, Ch. Bosshard, S. Folloniner, R. Spreiter, M.S. Wong, P. Guenter, Appl. phys. Lett. 1996, 69(1), 13-15)参照)
DASTでは、以下のように表わされる。
R=nx3r11‐ny3r21:1160pm/V(700nm)
したがって、厚さLの2乗に比例した性能が得られることがわかる。
【0031】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。

【実施例1】
【0032】
双晶の作成例1(種晶法)
多孔質ポリフッ化エチレンシート(ポアサイズ0.5μmのフィルター材、ADVANTEC社 PTFE)を底に敷いたボトルに2.6%(w/w)のDASTメタノール溶液をフィルターで熱時濾過して加え、23℃まで冷却した。キャップを開閉することで、刺激を与え、核を発生させた後、24時間で、シートを取り出した。シートは、取り出し時に、アセトンおよび酢酸エチルで洗浄し、乾燥した。多孔質シート上に残った結晶を注意深く観察し、結晶が2枚重なった状態のものを選び、シートの種結晶が癒着した部分を種結晶ごと注意深く短冊状に切り取り、DAST溶液中で育成した。
育成は次のような条件で行った。
2枚の結晶が重なった形状の種晶が癒着したシートを選別した。その一端をポリフッ化エチレン製メッシュにテグスで固定し、濃度4.6%(w/w)のDASTメタノール溶液中に吊るした。その後、飽和温度より僅かに高い温度46℃で20分間、つぎに45℃で30分間、さらに44℃で10分間種晶表面を僅かに溶かした。育成は温度降下法により、スターラーでゆっくり攪拌しながら行った。43.4℃から42.5℃まで0.1℃/12時間、それ以降は、0.1℃/24時間で温度を降下させ、15日後結晶を取り出した。
得られた結晶は、長径4.8mm、短径4.0〜4.3mm、厚さ0.76〜0.84mmであった。

【実施例2】
【0033】
双晶の作成例2(斜面結晶育成法)
特許第3007972号(特許文献1)の実施例に記載の方法に準じてDAST結晶を育成し、以下に説明する方法で、双晶を選定した。
即ち、2回再結晶精製したDAST粉末7.0gにメタノール200mLを加えDAST溶液を調製した。次いで、この溶液中に主面に幅と深さがともに0.5mmである溝を10本有するポリフッ化エチレン製の基板を傾斜角度30°で浸漬させた後、溶液を昇温してDAST粉末を完全に溶解させた。その後、42.5℃まで溶液温度を降下させ、24時間その温度を維持し、溝部にDAST結晶を析出させた。結晶析出後、溶液温度を降下(例えば0.1℃/日)させ結晶を育成した。この方法でDAST結晶の育成を行うことによりDAST結晶を双晶:単結晶=6:4の比率で得る事ができた。
平行平板状の結晶を選定してX線解析したところ、全て、双晶であることが確認できた。得られた結晶は、長径2.8〜6.2mm、短径2.0〜5.8mm、厚さ0.44〜0.76、アスペクト比5.4〜8.6であった。

【実施例3】
【0034】
DAST双晶を利用してミリ波などの受信を実施するための実施例を示す。
図5に沿って、ミリ波など電磁波をDAST双晶を利用して光信号に変換し、検出するシステムを組み立てた。システムは、空間を伝播するミリ波など電磁波を受信するためのアンテナ(9)と連続発振(CW)レーザー発生装置(10)とそのレーザーを偏光に変換するための偏光子(11)、DAST双晶(12)、位相補償板(13)、検光子(14)、光検出器(15)、電気計測器(ロッキングアンプまたはスペクトラムアナライザ:16)、局部発振器(17)からなる。
連続発振(CW)レーザー発生装置(10)から発した光波を偏光子(11)で偏光させ、図のような方向に配置したDAST双晶(12)を透過させ、位相補償板(13)、検光子(14)を経て、光検出器(15)に入るようにする。一方、局部発振器(17)(周波数ωmod)を用い、受信した上記電波(周波数ω)の振幅変調を行うとDAST双晶(12)に印加される電圧は
【数3】

となる。局部発振器(17)からの変調信号は同時に電気計測器の参照信号とする。
【0035】
DAST双晶(12)の複屈折Γ0を位相補償板(13)の位相Γcで補償し、
Γ0+Γc=0とすると、光検出器(15)での受光パワーPは
【数4】

ここで、Lは結晶長、Aは電波の振幅である。この式から、ロックインアンプによって、ωmodまたは2ωmod成分を計測すれば電波の振幅Aを検出できる。

【実施例4】
【0036】
X線構造解析の実施例を示す。
双晶の同定と解析は、以下のように実施した。
(1)ピークサーチ:ある角度範囲(2θ=40°〜50°)を走査して50個の回折強度のピークを探した。
(2)回折ピークの帰属:50個の回折強度のピークからセッティングパラメータを求め、このセッティングパラメータと(1)の座標から反射指数を計算した結果、h,k,lがすべて整数になったものとhのみ整数にならなかったものの2つのグループに分けた。
(3)単純格子の組立て:2つのグループそれぞれについてセッティングパラメータと格子定数を求めた結果、同一の格子をもち、方位の異なる単位格子が結晶2つ分組み立てられた。このことより、測定した結晶が双晶であることが明らかとなった。
(4)2つの結晶の相対的な位置関係の解析:(1)〜(3)までの作業は、本結晶を三斜晶系の単純格子として取扱ってきたが、相対的な位置関係の解析を実施するために、より対称性の高い単斜晶系のC底心格子に変換した。それぞれの格子定数とセッティングパラメータから反射指数が1,0,0、0,1,0、0,0,1のときの逆格子ベクトルをプロットし、2つの単位格子について、逆空間での相対的な位置関係を求めた。この関係を逆格子から実格子へと変換した結果、それぞれの結晶はa軸を中心に180°回転したものであることが明らかとなった。

【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のとおり、本発明のDAST双晶とその製造方法によると、感度のよい良好な電気光学素子への適用ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)の双晶。
【請求項2】
2枚の平板状結晶が相互に接合している形態の請求項1記載の双晶。
【請求項3】
2枚の平板状結晶がa軸を中心に180°反転して相互に接していることを特徴とする請求項2記載の双晶。
【請求項4】
厚み0.05〜20mmの請求項1〜3のいずれかに記載の双晶。
【請求項5】
長径0.1〜100mm、アスペクト比1〜20の請求項1〜4のいずれかに記載の双晶。
【請求項6】
双晶を種結晶として用いて4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)溶液から双晶を育成する工程を含む請求項1〜5のいずれかに記載の4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)双晶の製造方法。
【請求項7】
加熱した4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)溶液を冷却して多孔質シート上に結晶を析出させ、多孔質シートに析出して癒着したままの双晶を種結晶として用いる請求項6記載の4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)双晶の製造方法。
【請求項8】
多孔質シートとして多孔質ポリフッ化エチレン膜を用いる請求項7記載の4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)双晶の製造方法。
【請求項9】
斜面結晶育成法によって育成した結晶から、外観によって双晶を選択することからなる請求項1〜5のいずれかに記載の4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)双晶の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載の4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)双晶を用いる電気光学素子。
【請求項11】
4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)双晶の片面を削り落とす、または切り離すことにより得られた4−ジメチルアミノ−4−スチルバゾリウムトシレート(DAST)単結晶を用いる電気光学素子。
【請求項12】
電気光学素子がアンテナ用あるいは電界検出用である請求項10または11記載の電気光学素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【国際公開番号】WO2005/071145
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【発行日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517235(P2005−517235)
【国際出願番号】PCT/JP2005/000511
【国際出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(390037327)第一化学薬品株式会社 (111)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】