説明

DCブラシレスモータの駆動装置

【課題】正弦波制御と矩形波制御を選択しながらも、駆動電圧が例えば安全規格で定められる上限値を超えないように制御することのできるDCブラシレスモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】DCブラシレスモータ10に駆動電圧Voを供給するインバータ8と、インバータ8を介してモータ10に供給される駆動電圧Voの増減を制御するとともに、正弦波及び矩形波の一方を選択して駆動電圧Voの波形を制御する制御部11と、を備える。制御部11は、駆動電圧Voとノイズ電圧Vnの重畳電圧Vo+Vnが、規定の電圧Vlim未満となるように駆動電圧Voを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DCブラシレスモータの駆動装置に関し、特に歯科、外科治療に用いるハンドピース、あるいは、切削、研磨などに用いるハンドツールの駆動源としてのDCブラシレスモータに好適な駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科、外科治療に用いるハンドピースの駆動用モータや、切削、研磨などに用いるハンドツールの小型モータには、DCブラシレスモータが多く使われている。
これらハンドピース、ハンドツールのモータは、手に持って使う製品に搭載されるため、発熱の抑制や、感電防止に配慮した低い電圧で使うことが要求される。また、これらのモータは、低速から高速まで幅広い回転速度の範囲で駆動する必要がある。例えば、インプラントに用いられる歯科用ハンドピースは、インプラントネジを締め付ける場合には、数百rpmの回転速度のモータを減速し数十rpmで使用するが、歯牙を切削する場合には数万rpmの回転速度で使用する。
このDCブラシレスモータの制御として、従来から120°通電による矩形波制御が用いられてきたが、近年では低振動で精密に回転を制御できる180°通電による正弦波制御の用途が拡大している。120°通電による矩形波制御と、180°通電による正弦波制御には、それぞれ長所、短所があって、モータの回転速度などを参照しながら制御を切り替える様々な方法が提案されている。
この切り替え方法の一例が、特許文献1に提案されている。特許文献1の提案では、180°通電による正弦波制御と120°通電による矩形波制御を、インバータのPWM(パルス幅変調、Pulse Width Modulation)波形の変調率が1になったときに切り替えて、最大回転速度のアップと定格効率の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−27395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハンドピース、ハンドツールのように手で持って使用する製品は、端子を介してモータに供給される電圧(駆動電圧)を、安全規格等で定められる上限値を超えないように制御することが要求される。ところが特許文献1はエアコン、冷蔵庫をなどの電気製品を対象とする制御方法のために、上記要求に対する配慮がなされていない。
本発明は、このような課題の解決を図るためになされたものであり、正弦波制御と矩形波制御を選択しながらも、駆動電圧が例えば安全規格で定められる上限値を超えないように制御することのできるDCブラシレスモータの駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のDCブラシレスモータ(以下、単にモータということがある)の駆動装置は、インバータと、制御部と、を備える。
インバータは、モータに駆動電圧Voを供給する。
制御部は、インバータを介してモータに供給される駆動電圧Voの増減を制御するとともに、正弦波及び矩形波の一方を選択して駆動電圧Voの波形を制御する。
本発明の制御部は、インバータに供給される駆動電圧Voとモータの端子に加わるノイズ電圧Vnの重畳電圧Vo+Vnが、規定の電圧Vlim未満となるように駆動電圧Voを制御することを特徴とする。
【0006】
本発明の駆動装置において、駆動電圧Voの波形を選択するのに少なくとも2つの形態がある。
1つ目の形態は、モータの実回転速度noが規定の回転速度n1未満の場合は、制御部は正弦波を選択し、実回転速度noが規定の回転速度n1以上の場合は、制御部は矩形波を選択するというものである。
2つ目の形態は、モータに供給される駆動電圧Voが規定の電圧V1未満の場合は、制御部は正弦波を選択し、駆動電圧Voが規定の電圧V1以上の場合は、制御部は矩形波を選択するというものである。
【0007】
本発明の駆動装置において、インバータに供給される駆動電圧Voに関して少なくとも2つの形態がある。
1つ目の形態は、モータの実回転速度noの増減に応じて制御部が駆動電圧Voを増減するように制御するものである。
2つ目の形態は、モータの実回転速度noの増減にかかわらず制御部が駆動電圧Voを一定に制御するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の駆動装置は、モータに加わるノイズ電圧Vnをも考慮した重畳電圧Vo+Vnが、規定の電圧Vlim未満となるように制御することができる。したがって、正弦波制御と矩形波制御を選択可能としながらも、安全規格で定められる上限値を超えないようにモータの駆動を制御することができる。
しかも、本発明によれば、モータの実回転速度noが規定の回転速度n1未満又は駆動電圧Voが規定の電圧V1未満の場合は、正弦波制御によってモータを駆動できるので低振動で精密な回転を実現できる。加えて、モータの実回転速度noが規定の回転速度n1以上又は駆動電圧Voが規定の電圧V1以上の場合は、矩形波制御によってモータを駆動するので、発熱を伴いやすい弱め界磁制御をすることなく高回転速度まで駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態によるモータの駆動装置を示す回路図である。
【図2】インバータからモータ端子に加えられる論理的な電圧を模式的に示した波形図であり、(a)は180°通電による正弦波制御による場合を、また、(b)は120°通電による矩形波制御による場合を示している。
【図3】図2にノイズが付加された波形図であり、(a)は正弦波制御による場合を、また、(b)は矩形波制御による場合を示している。
【図4】正弦波制御におけるモータ電圧のベクトル図を示す。
【図5】第1実施形態による制御内容を示し、(a)はモータの回転速度とコンバータ出力電圧の関係を示し、(b)はモータの回転速度と通電角の関係を示す。
【図6】第1実施形態によるモータの制御手順を示すフローチャートである。
【図7】弱め界磁制御におけるモータ電圧のベクトル図を示す。
【図8】第2実施形態による制御内容を示し、(a)はモータの回転速度とコンバータ出力電圧の関係を示し、(b)はモータの回転速度と通電角の関係を示す。
【図9】第3実施形態によるモータの制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
[第1実施形態]
本実施の形態による駆動装置100は、歯科用のハンドピースに組み込まれるDCブラシレスモータ(以下、モータ)10の駆動を制御する
図1において、本実施の形態による駆動装置100は、商用電源1から交流電力の供給を受けてDCブラシレスモータ(以下、モータ)10に供給する駆動電圧Voの増減を制御するとともに、180°通電による正弦波制御(以下、単に正弦波制御)と120°通電による矩形波制御(以下、単に矩形波制御)とから選択して駆動電圧Voの波形を制御する。
【0011】
図1において、商用電源1から供給される交流電力は変圧器2を介して駆動装置100に供給される。駆動装置100は整流器3を備えており、供給された交流電力は整流器3で直流電力に変換された後に、駆動装置100内に設けられるキャパシタ4に充電される。降圧コンバータ(以下、コンバータ)5は、コイル6を介してキャパシタ4から与えられるコンバータ5の入力電圧Vinをコンバータ5の出力電圧Voに変換して出力しインバータ8との間に配置されるキャパシタ7に充電する。この出力電圧Voがモータ10に供給される駆動電圧となるので、以下では駆動電圧Voということがある。インバータ8は、キャパシタ7から与えられる直流電力を交流電力に変換し、モータ端子9を介してモータ10に駆動電圧Voを供給する。
【0012】
駆動装置100は、制御部11を備える。この制御部11は、コンバータ5の出力電圧(駆動電圧)Voを可変できるように制御信号を送る。また、インバータ8から出力するモータ10の駆動電圧Voを、正弦波制御(典型的には180°通電による)と矩形波制御(典型的には、120°通電による)から選択して出力できるように制御信号を送る。
制御部11は、演算手段11aとしてCPU(Central Processing Unit)、メモリ11bとしてROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを含むマイクロコンピュータから構成され、メモリ11bに記憶されているプログラムにしたがって演算手段11aが上述した制御信号を送る処理を行う。
制御部11を構成するメモリ11bには、プログラムの他に、正弦波制御と矩形波制御を選択するための基準となる情報が記憶されている。また、メモリ11bには、後述する切り替え回転速度n1、限界回転速度n2、限界回転速度n3、ノイズ電圧Vn、Vn'、通電モードに関する情報が記憶されている。
制御部11にて実行されるモータ10の駆動制御の内容は、後述する。
【0013】
駆動装置100は、検知部20を備えている。
インバータ8とモータ10の間に介在する検知部20は、モータ10の実回転速度noを検知する。また、検知部20は、モータ10へ供給される駆動電圧Voを検知する。検知部20で検知された実回転速度no、駆動電圧Voは検知部20から制御部11に転送される。なお、検知の具体的な手段は限定されず、公知の如何なる手段をも適用できる。
【0014】
図2は、インバータ8からモータ端子9のVu、Vv、Vwに加えられる論理的な電圧を模式的に示したものである。
正弦波制御の場合、図2(a)に示すように、正弦波12をデューティ変調したPWM波形13がモータ端子9に加わる。PWM波形13の波高値は、駆動電圧Voとなる。
ところが、実際にモータ端子9を介してモータ10に加わるPWM波形は、電力スイッチングによるサージやノイズの影響で図3(a)に示すような波形となる。つまり、インバータ8の半導体スイッチがオンする際にノイズ電圧14が発生し、オフする際にもノイズ電圧15が発生するので、PWM波形13は、これらノイズ電圧14、15が付加された電圧特性を示す。
一方、矩形波制御の場合、図2(b)に示すように、矩形波16に誘起電圧17を加えた電圧がモータ端子9に加わる。矩形波16の波高値は、コンバータ出力電圧(駆動電圧)Vo'となる。
ところが、実際にモータ端子9を介してモータ10に加わるPWM波形は、電力スイッチングによるサージやノイズの影響で図3(b)に示すような波形となる。つまり、インバータ8の半導体スイッチがオン/オフする際にノイズ電圧18、19が発生し、ノイズ電圧18、19が付加された電圧特性を示す。
【0015】
これらのサージやノイズによる電圧の尖頭値は、製品によっては安全規格等によって最大値が定められる場合がある。歯科、外科治療に用いるハンドピースや、切削、研磨などに用いるハンドツールなどの機器では、例えばInternational Electrotechnical Commission(国際電気標準会議)の安全電圧に関する規格があり、尖頭値を低くすると規格への対応が容易になる。
ここで、この規格の定める電圧の最大値をVlimとする。正弦波制御の場合、サージやノイズ電圧は、駆動電圧Voに重畳する。そこで、サージやノイズ電圧の幅をノイズ電圧Vn(図3参照)とすると、Vo+Vnが規格の最大値Vlim未満になるように、駆動電圧Voを制御部11によって制限する必要がある。なお、ノイズ電圧Vnはサージ及びノイズの両者を含めたものであり、次のノイズ電圧Vn'も同様である。矩形波制御の場合も、駆動電圧Vo'、サージやノイズ電圧の幅をノイズ電圧Vn'とすると、Vo'+Vn'が規格の最大値Vlim未満になるように、駆動電圧Vo'を制御部11によって制限する必要がある。本実施の形態による駆動装置100の制御部11は、正弦波制御及び矩形波制御の両者において、Vo+Vn、Vo'+Vn'がVlim未満になるように駆動電圧Vo、Vo'を制御する。
【0016】
この駆動電圧Voの制御について図4を参照しながら以下に述べる。図4において、Vmはモータ電圧、rは巻線抵抗、Lqはq軸インダクタンス、Iqはq軸電流、Keは誘起電圧定数、ωは回転角速度を表す。また、駆動電圧Voの制限電圧をV1とする。
駆動電圧Voは、モータ電圧Vmの波高値よりも高くする必要があるが、PWM波形13の変調率を大きくして、できるだけ駆動電圧Voとモータ電圧Vmの波高値が接近するように制御し、駆動電圧Voの増加を制限する。
この制限電圧V1を設けるところに本実施の形態の特徴の一つがある。つまり、駆動電圧Voの制限電圧V1は、正弦波制御において、Vo+Vnが規格の最大値Vlim未満の値から選ばれる。また、制限電圧V1は、正弦波制御と矩形波制御を選択する基準となる。
モータ回転速度を低速から増加させると、モータ電圧Vmの増加に比例して駆動電圧Voは増加して制限電圧V1に至る。制限電圧V1に対応するモータの回転速度を、制御部11が正弦波制御から矩形波制御に選択を切り替えるモータ回転速度(以下、切り替え回転速度)n1として設定し、制御部11のメモリ11bに記憶する。
矩形波制御に切り替えた後、駆動電圧Vo'が増加するとVo'+Vn'が規格の最大値Vlimに至るが、Vlimに至る所定のモータ回転速度を限界回転速度n3として設定し、制御部11のメモリ11bに記憶する。
本実施形態において、駆動電圧Vo、Vo'は、検知部20において検知されるものである。一方、ノイズ電圧Vn、Vn'は予め駆動装置100を動作させることで測定し、その測定結果に基づいて制御部11の記憶部11bに記憶することができるし、駆動電圧Vo、Vo'と同様に検知部20において検知して得ることもできる。
【0017】
次に図5を参照しながら、以上を考慮した制御部11の制御内容を説明する。
制御部11は、モータ10の回転速度が指令された回転速度(指令値)に達する過程で増加するのに応じて駆動電圧Voを増加させるように制御する。ここで、モータ10の実回転速度noが切り替え回転速度n1未満の領域では、制御部11は駆動電圧Voを正弦波制御とする。この領域では、正弦波12(図2)をデューティ変調したPWM波形13(図2)の変調率を、モータ回転速度とは無関係に1で制御する。
切り替え回転速度n1は、Vo+Vnが規格の最大値Vlimに至る限界回転速度n2までの範囲内で選択される(図5)。切り替え回転速度n1を限界回転速度n2に設定することにより、正弦波制御の回転速度範囲を広げることができる。
【0018】
モータ10の実回転速度noが増加して切り替え回転速度n1に至ると、制御部11は駆動電圧noを正弦波制御から矩形波制御に選択を切り替える。この矩形波制御の領域では、PWM波形13を100%デューティにしてチョッピング動作をせず、電源電圧の利用率を最大にする。そうすることで、正弦波制御においてPWM変調率が1の場合よりも電力の利用率が大きくなる。したがって、切り替え前後でモータ10の回転速度が同じであるなら、矩形波制御に切り替えることにより、駆動電圧VoをVhだけ低下させることができる。このことは、正弦波制御から矩形波制御に選択を切り替えることにより、規格の最大値Vlimに対してVo'+Vn'が達するまでの余裕ができることを意味する。
制御部11は、矩形波制御に切り替えた後、Vhの幅で低下した駆動電圧Vo'を再度増加させ、Vo'+Vn'が規格の最大値Vlimに至る限界回転速度n3までモータ回転速度を増加させることができる。制御部11は、モータ10の回転速度が限界回転速度n3に達したならば、駆動電圧Vo'が増加するのを禁ずる。
以上のように、Vo'+Vn'が規格の最大値Vlim未満になるように制御しながら、低速から高速までの回転速度の範囲でモータ10を駆動することができる。
【0019】
ところで、制御部11には、ハンドピースを使用する者が施術に必要とする回転速度が指令値として与えられる。この回転速度の指令値は、例えば、インプラントネジの締め付けに用いる場合には1000rpmといった低回転速度であり、また、歯牙の切削に用いる場合には25000rpmといった高回転速度である。切り替え回転速度n1が低回転速度と高回転速度の間の値(例えば2000rpm)とすると、指令値が低回転速度の場合には、モータ10は正弦波制御のみで駆動されることになる。一方、指令値が高回転速度の場合には、切り替え回転速度n1までの回転速度の範囲では正弦波制御され、切り替え回転速度n1以上の回転速度になると矩形波制御される。
【0020】
以下、図6を参照して、駆動装置100によるモータ10の制御手順を説明する。
始めに、制御部11は現在の通電モードを判定する(S101)。ここで、通電モードとは、正弦波制御か矩形波制御のいずれを制御部11が選択しているかを特定する情報である。この通電モードは、制御部11のメモリ11bに記憶されている。通電モードが矩形波制御ならば(S101 Yes)、制御部11はインバータ8に駆動電圧Voを矩形波として出力するように指示する(S102 矩形波制御)。インバータ8はこの指示に従い、モータ10に駆動電圧Voを矩形波として出力する。
【0021】
制御部11は、矩形波制御を行なっている間に検知部20で検知されたモータの実回転速度noを取得し、これと制御部11のメモリ11bに記憶されている第1限界回転速度n3とを比較する(S103)。実回転速度noが第1限界回転速度n3に至っていれば(S103 No)、制御部11は駆動電圧Voのそれ以上の増加を禁止する(S104)。その後、制御部11は駆動電圧Voの増加を禁止しながら、モータ10の回転速度を制御する(S110)。
【0022】
実回転速度noが第1限界回転速度n3に至っていなければ(S103 Yes)、制御部11は実回転速度noとメモリ11bに記憶されている切り替え回転速度n1とを比較する(S108)。制御部11は、実回転速度noが切り替え回転速度n1に至っていなければ(S108 No)、矩形波制御を継続するようインバータ8に指示してモータ10の回転速度を制御する(S110)。
制御部11は、実回転速度noが切り替え回転速度n1に至ったならば(S108 Yes)、インバータ8に駆動電圧Voを正弦波として出力するように指示する(S109 正弦波制御)。インバータ8はこの指示に従い、モータ10に駆動電圧Voを正弦波として出力する。この制御手順は、モータ10の実回転速度noが切り替え回転速度n1以上にあった状態から切り替え回転速度n1未満に減少する場合に対応する。
【0023】
一方、S101において通電モードが正弦波制御と制御部11が判定したならば(S101 No)、制御部11はインバータ8に駆動電圧Voを正弦波として出力するように指示する(S105 正弦波制御)。インバータ8はこの指示に従い、モータ10に正弦波を出力する。制御部11は、正弦波制御を行なっている間に検知部20で検知されたモータの実回転速度noを取得し、これと制御部11のメモリ11bに記憶されている切り替え回転速度n1とを比較する(S106)。実回転速度noが切り替え回転速度n1に至っていれば(S106 No)、制御部11は通電モードを正弦波制御から矩形波制御に選択を切り替えるようインバータ8に指示する(S107)。インバータ8はこの指示に従い、モータ10に駆動電圧Voを矩形波として出力する。
【0024】
以上の手順を踏みながら、制御部11はモータ10の回転速度制御を実行して1サイクルの処理を終了し、これを一定周期で繰り返す。
【0025】
ここで、図7に、弱め界磁制御におけるモータ電圧ベクトルを示す。図7において、Idはd軸電流、Imはモータ電流を表し、その他の記号は図4と同一である。
弱め界磁制御の場合、モータ電圧Vmを制限電圧V1の範囲内で、より高回転速度域まで正弦波制御によって駆動することができるが、d軸電流Idの増加によってモータ電流Imが増加する。弱め界磁制御をする場合としない場合のモータ電流比は、図4のr・Iqと図7のr・Imの比となり、モータ電流の二乗に比例してモータ巻線の発熱が増加する。
歯科、外科治療に用いるハンドピースや、切削、研磨などに用いるハンドツールは手に持って使うため、発熱を抑制する必要がある。そこで、第1実施形態においては、モータ電流が増加して発熱が多くなる弱め界磁制御は避けて、正弦波制御から矩形波制御に切り替えて回転速度の増加を図ることにする。
以上のようにして、モータ端子9を介してモータ10に供給される駆動電圧Voを安全規格等が定める規定の電圧Vlim未満に制御しながら、モータ10の実回転速度noが切り替え回転速度n1未満の場合は正弦波制御により、またモータ10の実回転速度noが規定の回転速度より高い場合は、矩形波制御によって、弱め界磁制御なしで発熱を抑えながら高速まで幅広い範囲でモータ10を駆動する。
【0026】
[第2実施形態]
第1実施形態は、モータ10の実回転速度noを増加させるのに駆動電圧Voを増加させているが、本発明は駆動電圧Voを一定にしてモータ10の回転速度の増加を図ることもできる。第2実施形態ではその例を図8に基づいて説明する。なお、ここでは正弦波制御のみを駆動電圧Voを一定にする例を説明するが、正弦波制御及び矩形波制御の両者において駆動電圧Voを一定にすることもできるし、矩形波制御のみを駆動電圧Voを一定にすることもできることは言うまでもない。
駆動電圧Voの制限電圧V1は、正弦波制御において、Vo+Vnが規格の最大値Vlimより低くなるように設定する。このとき、駆動電圧Voが制限電圧V1と一致するよう一定に制御する。一方、矩形波制御定においては、回転速度の増加に応じて駆動電圧Voを増加させるように制御する。
【0027】
正弦波制御の領域では、正弦波12をデューティ変調したPWM波形13の変調率を変えてモータ電圧Vmを制御する。モータ回転速度が増加して、モータ電圧Vmの指令値が制限電圧V1に至ったときのモータ回転速度を、正弦波制御から矩形波制御に選択を切り替えるモータ回転速度(切り替え回転速度)n1として設定し、メモリ11bに記憶する。
【0028】
矩形波制御に切り替えた後は、駆動電圧Vo'が増加するとVo'+Vn'が規格の最大値Vlimに至るが、Vlimに至る前のモータの限界回転速度をn3として制御部11に設定する。
モータ10の実回転速度noが増加して切り替え回転速度n1に至ると、制御部11は正弦波制御から矩形波制御に選択を切り替える。正弦波制御でのPWM変調率が1の場合よりも、矩形波制御でPWMデューティ100%の方が電力の利用率が大きくなるので、切り替え前後でモータの回転速度が同じであるなら、駆動電圧VoをVhだけ低下させることができる。
【0029】
矩形波制御に切り替えた後、Vhの幅で低下した駆動電圧Vo'を再度増加させ、Vo'+Vn'が規格の最大値Vlimに至る限界回転速度n3までモータ回転速度を増加させることができる。これにより、Vo'+Vn'が規格の最大値Vlim未満になるように制御しながら、低速から高速までの範囲でモータを駆動する。
【0030】
[第3実施形態]
第1実施形態及び第2実施形態はモータ10の回転速度を正弦波制御と矩形波制御の選択の基準にするが、本発明は選択の基準としてモータ10の回転速度ではなく電圧値(駆動電圧Vo)を用いることもできる。この例を第3実施形態として説明する。
正弦波制御と矩形波制御の選択の基準として電圧値を用いる制御手順を、図9に示すフローチャートを参照して説明する。なお、第3実施形態における基本的な制御手順は、図6に示した第1実施形態の制御手順と同様であるので、ここでは相違点を中心にして説明する。図9において、図6と同じ処理には図6と同じ符号(ステップ(S)No.)を付している。
矩形波制御を出力している間(S103)にVo+VnがVlimに至っているか否かを判定する(S203)。Vo+VnがVlimに至っていれば、制御部11はそれ以上の駆動電圧Voの増加を禁止する(S104)ことで、規格の定める電圧の最大値未満での駆動を保障する。
一方、正弦波制御を行なっている場合(S105)には、駆動電圧Voが正弦波制御の制限電圧V1に至っているか否かを判定する(S206)。VoがV1に至っていれば(S206 No)、制御部11は通電モードを矩形波制御に切り替える(S207)。
【0031】
矩形波制御から正弦波制御に選択を切り替えるとき、つまり高回転速度から低回転速度にモータ10の回転速度が減少する場合には判定条件を変える。先述したように、切り替え前後でモータの回転速度が同じであるなら、正弦波制御から矩形波制御に切り替えると駆動電圧VoがVhの幅で低下する。そこで、矩形波制御から正弦波制御への通電モードの切り替え(S109)は、VoがV1-Vh以下になった場合に実行する(S208)。
【0032】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明の駆動装置は、ハンドピース、ハンドツールに用いられるDCブラシレスモータに好適ではあるが、他の用途のDCブラシレスモータの駆動に適用することができる。また、駆動装置の構成について、上記実施形態はあくまで一例であり、具体的な構成を本発明の趣旨が損なわれない範囲で変更することができる。例えば、上記実施形態では商用電源1を用いているが、他の電源を用いることができ、その場合には変圧器2、整流器3、キャパシタ4、コンバータ5などは取捨選択することができる。
【符号の説明】
【0033】
100 駆動装置
5 降圧コンバータ
8 インバータ
10 DCブラシレスモータ(モータ)
11 制御部
20 検知部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DCブラシレスモータに駆動電圧Voを供給するインバータと、
前記インバータを介して前記モータに供給される前記駆動電圧Voの増減を制御するとともに、正弦波及び矩形波の一方を選択して前記駆動電圧Voの波形を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記駆動電圧Voとノイズ電圧Vnの重畳電圧Vo+Vnが、規定の電圧Vlim未満となるように駆動電圧Voを制御する、
ことを特徴とするDCブラシレスモータの駆動装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記モータの実回転速度noが規定の回転速度n1未満の場合は前記正弦波を選択し、
前記実回転速度noが前記規定の回転速度n1以上の場合は前記矩形波を選択する、
請求項1に記載のDCブラシレスモータの駆動装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記駆動電圧Voが規定の制限電圧V1未満の場合は前記正弦波を選択し、
前記駆動電圧Voが前記規定の制限電圧V1以上の場合は前記矩形波を選択する、
請求項1に記載のDCブラシレスモータの駆動装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記モータの実回転速度noの増減に応じて前記駆動電圧Voを増減するように制御する、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のDCブラシレスモータの駆動装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記モータの実回転速度noの増減にかかわらず前記駆動電圧Voを一定に制御する、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のDCブラシレスモータの駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−178905(P2012−178905A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39432(P2011−39432)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000150327)株式会社ナカニシ (43)
【Fターム(参考)】