説明

DNA合成酵素阻害剤

【課題】DNA合成酵素阻害活性を有する化合物の提供。
【解決手段】一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有するDNA合成酵素阻害剤、抗癌剤及び抗炎症剤。


(式中、Rは炭化水素基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA合成酵素阻害作用を有する化合物とその利用に関する。この化合物は、DNA合成酵素阻害剤として、例えば、抗癌剤、抗炎症剤等として利用し得る。
【背景技術】
【0002】
真核生物のDNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)は、これまでα、β、γ、δ、ε、ζ、η、θ、ι、κ、λ、μ、σ及びTdT(ターミナル・デオキシヌクレオチジル・トランスフェラーゼ)、Rev1の15種類の分子種が知られている。これらのDNA合成酵素群は、細胞の増殖、分裂、分化などに関与しているが、α型はDNA複製、β型、λ型及びTdTは修復と組換え、δ型及びε型は複製と修復の双方、ζ〜κ型は修復を担うといった具合にタイプによって異なる機能を有することが知られている。
【0003】
このようにDNA合成酵素は細胞の増殖等に関与することから、その酵素活性を阻害するDNA合成酵素阻害剤は、例えば、癌に対して癌細胞の増殖抑制作用を示し、エイズに対してHIV由来逆転写酵素に対する阻害作用を示し、また、免疫疾患に対して抗原に対する特異的抗体産生を抑制する免疫抑制作用を示すことが考えられる。このため、DNA合成酵素阻害剤を用いた癌、エイズ等のウイルス疾患、免疫疾患の予防・治療に効果のある医薬品の開発が期待されている。
【0004】
近年、ビタミンKにDNA合成酵素γに対する選択的阻害活性があることが見出されている(非特許文献1)。また、ビタミンKの誘導体であるジュグロン(Juglone;5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン)が強いDNA合成酵素阻害活性及びヒト大腸癌細胞(HCT116)増殖抑制活性があることが見出されている(非特許文献2)。
【0005】
また、ジュグロンの酢酸エステル及びジュグロンのプロピオン酸エステルは公知の化合物であるが、これらの化合物がDNA合成酵素阻害活性を有することは知られていない。
【0006】
また、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)等の長鎖不飽和脂肪酸がDNA合成酵素を阻害することが報告されている(特許文献1、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−20657号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Mizushina et al, Cancer Sci., (2008) 99, p1040-1048
【非特許文献2】日本栄養・食糧学会 第49回近畿支部大会講演要旨集 2010年10月1日発行 p28、講演番号Aa3
【非特許文献3】Mizushina et al, Biochim. Biophys. Acta., (1996) 1308, p256-262
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、DNA合成酵素阻害活性を有する化合物、該化合物を有効成分として含有する医薬組成物(DNA合成酵素阻害剤、抗癌剤及び抗炎症剤)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ジュグロンの5位の水酸基がアシル化された化合物(以下、「アシルジュグロン」と表記する場合もある)が、優れたDNA合成酵素阻害活性を有することを見出した。さらに、このアシルジュグロンのDNA合成酵素阻害活性は、ジュグロン単独又は該アシル基の原料となるカルボン酸化合物単独の阻害活性と比べて顕著に優れていることを確認した。また、このアシルジュグロンは抗炎症活性を有することをも見出した。かかる知見に基づきさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は下記化合物を有効成分として含むDNA合成酵素阻害剤、抗癌剤及び抗炎症剤を提供する。
【0012】
項1 一般式(1):
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Rは炭化水素基を示す。)
で表される化合物を有効成分として含有するDNA合成酵素阻害剤。
【0015】
項2 一般式(1)において、RがC1〜40の飽和又は不飽和の炭化水素基である項1に記載のDNA合成酵素阻害剤。
【0016】
項3 項1に記載の一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有する抗癌剤。
【0017】
項4 項1に記載の一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有す抗炎症剤。
【0018】
項5 項1に記載の一般式(1)で表される化合物を食品に配合してなる食用組成物。
【0019】
項6 一般式(2):
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、R’はC3以上の炭化水素基を示す。)
で表される化合物。
【0022】
項7 項6に記載の一般式(2)で表される化合物を有効成分として含有する医薬組成物
項8 項6に記載の一般式(2)で表される化合物の製造方法であって、ジュグロンと一般式(3’):
R’−COOH (3’)
(式中、R’は前記に同じ。)
で表される化合物又はその誘導体を反応させることを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のDNA合成酵素阻害剤は、一般式(1)で表されるように、ジュグロンとカルボン酸化合物(RCOOH)を脱水縮合したエステル化合物を有効成分として含有する。一般式(1)で表される化合物は、優れたDNA合成酵素阻害活性(特に、DNA合成酵素α等の阻害活性)を有しており、ジュグロン単独又はカルボン酸化合物(RCOOH)単独の阻害活性と比べて顕著に優れている。また、この化合物は、発癌プロモーターTPAによって誘発される炎症を抑制することから、発癌プロモーターTPAの働きを抑制する抗発癌プロモーター活性を有する。そのため、DNA合成酵素阻害剤、抗癌剤、抗炎症剤等として有用である。
【0024】
一般式(1)で表される化合物は、ヒト正常細胞(例えば、正常ヒト皮膚線維芽細胞、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞等)の増殖には影響を与えず、ヒト大腸がん細胞の増殖を顕著に抑制するという、ヒトがん細胞選択的な増殖抑制活性を有する。そのため、副作用の少ない抗癌剤として期待できる。
【0025】
一般式(1)で表される化合物は、上記の薬剤を探索するためのリード化合物として有用である。また、上記の活性を有することを利用して生化学試薬として用いることもできる。また、食品に配合して食用組成物として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】試験例1のDNA合成酵素αに対する各試験化合物の阻害活性を示す。
【図2】試験例2のヒト大腸がん細胞に対する各試験化合物の増殖抑制活性を示す。
【図3】試験例3のヒト正常細胞に対する各試験化合物の影響評価を示す。
【図4】試験例4のマウス耳を用いた各試験化合物の抗炎症活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明のDNA合成酵素阻害剤は、一般式(1):
【0029】
【化3】

【0030】
(式中、Rは炭化水素基を示す。)
で表される化合物を有効成分として含有する。
【0031】
一般式(1)で表される化合物において、Rで示される炭化水素基としては、炭素数(以下「C」と表記する)1〜50、好ましくはC1〜40、より好ましくはC1〜30、特に好ましくはC1〜25の炭化水素基である。また、炭化水素基は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれでもよい。
【0032】
直鎖状又は分岐状の飽和炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、tert−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、n−オクタデシル、n−ノナデシル、n−イコシル、n−ヘンイコシル、n−ドコシル、n−トリコシル、n−テトラコシル等のC1〜30(好ましくはC1〜25)の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。
【0033】
直鎖状又は分岐状の不飽和炭化水素基としては、分子内に不飽和結合(二重結合及び/又は三重結合)を有する炭化水素基であり、例えば、上記の直鎖状又は分岐状の飽和炭化水素基のうち、C2以上の直鎖状又は分岐状の飽和炭化水素基において不飽和結合を1個以上(好ましくは、1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜8個、特に好ましくは1〜6個)有する基が挙げられる。不飽和結合としては、二重結合が好ましい。
【0034】
環状の飽和炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等のC3〜10のシクロアルキル基が挙げられる。
【0035】
環状の不飽和炭化水素基としては、例えば、上記の環状の飽和炭化水素基において不飽和結合を1個以上(好ましくは、1〜3個、より好ましくは1〜2個)有する基が挙げられる。不飽和結合としては、二重結合が好ましい。例えば、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサンジエニル、シクロヘプテニル、フェニル基、ナフチル等が挙げられる。
【0036】
Rで示される炭化水素基のうち、C1〜40の直鎖の飽和又は不飽和の炭化水素が好ましく、具体的には、C1〜30(好ましくはC1〜25)の直鎖アルキル基、又は二重結合を1〜8個以上(好ましくは、1〜6個、より好ましくは1〜3個)有するC8〜30(好ましくはC10〜25)の直鎖アルケニル基が挙げられる。特に、Rで示される炭化水素基は二重結合の有無に関係なくC5〜25、さらにC11〜21、よりさらにC11が好ましい。
【0037】
Rで示される炭化水素基のうち、特に好ましい具体例は下記式の通りである。式中、二重結合の立体はシス体及び/又はトランス体のいずれも包含するが、全てシス体が好ましい。
【0038】
−CH (酢酸エステル)
−CHCH (プロピオン酸エステル)
−(CHCH (カプロン酸エステル)
−(CH10CH (ラウリン酸エステル)
−(CH12CH (ミリスチン酸エステル)
−(CH14CH (パルミチン酸エステル)
−(CH16CH (ステアリン酸エステル)
−(CH18CH (アラキジン酸エステル)
−(CHCH=CH(CHCH (オレイン酸エステル)
−(CH(CH=CHCH(CHCH (リノール酸エステル)
−(CH(CH=CHCHCH (リノレン酸エステル)
−(CH(CH=CHCHCH (EPAエステル)
−(CH(CH=CHCHCH (DHAエステル)。
【0039】
そのうち、
−(CH10CH (ラウリン酸エステル)
−(CHCH=CH(CHCH (オレイン酸エステル)
が特に好ましい。
【0040】
さらに、本発明のDNA合成酵素阻害剤のうち、他の好ましい態様として、一般式(2):
【0041】
【化4】

【0042】
(式中、R’はC3以上の炭化水素基を示す。)
で表される化合物を有効成分として含有するDNA合成酵素阻害剤が挙げられる。この一般式(2)で表される化合物は、上記一般式(1)で表される化合物に包含される。
【0043】
R’で示されるC3以上の炭化水素基としては、上記一般式(1)で表される化合物のRで示される炭化水素基からC1及びC2の炭化水素基を除いたものが挙げられる。好ましくはC4〜50、より好ましくはC5〜40の炭化水素基である。
【0044】
一般式(1)で表される化合物は、例えば、次のようにジュグロンと一般式(3)で表される化合物又はその誘導体を反応させて製造することができる。
【0045】
【化5】

【0046】
(式中、Rは前記に同じ。)
ジュグロンと一般式(3)で表される化合物又はその誘導体との反応は以下の反応方法を用いることができる。
【0047】
なお、一般式(3)で表される化合物の誘導体とは、後述のエステル化反応において、一般式(3)で表される化合物から誘導される反応性中間体を意味する。例えば一般式(3)で表される化合物の酸ハロゲン化物、混合酸無水物、活性エステル化合物、一般式(3)で表される化合物の2分子が脱水縮合した酸無水物等が挙げられる。
【0048】
典型的には、一般式(3)で表される化合物を、活性化剤の存在下で、ジュグロンと縮合反応させて一般式(1)で表される化合物を得ることができる。活性化剤としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド(WSC)、カルボニルジイミダゾール(CDI)、2−メチル−6−ニトロ安息香酸無水物(MNBA)、4−(ジメチルアミノ)ピリジンN−オキシド(DMAPO)等が挙げられる。必要に応じ、塩基性化合物、例えば、ピリジン、トリエチルアミン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)等を加えてもよい、なお、WSCを活性化剤として使用する場合、反応系への1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)の添加により、反応が有利に進行する。
【0049】
また、一般式(3)で表される化合物をハロゲン化剤(例えば、塩化オキザリル等)により酸ハロゲン化物に変換した後、塩基性化合物(例えば、ピリジン、DMAP等)の存在下にジュグロンと反応させて一般式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0050】
また、一般式(3)で表される化合物をハロゲン化剤(例えば、塩化チオニル等)により一般式(3)で表される化合物が脱水縮合した酸無水物に変換した後、塩基性化合物(例えば、ピリジン、DMAP等)の存在下にジュグロンと反応させて一般式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0051】
一般式(3)で表される化合物を、塩基性化合物(例えば、ピリジン、トリエチルアミン、DMAP等)の存在下にアルキルハロ炭酸エステル(例えば、ブロモギ酸エチル及びクロロギ酸イソブチル等)と反応させて混合酸無水物を生成し、それをジュグロンと反応させて一般式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0052】
上記の反応は、いずれも適当な溶媒中で実施できる。溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン及び四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン及びジメトキシエタン等のエーテル;並びにそれらの混合物が挙げられる。
【0053】
反応温度、反応時間はいずれも公知の条件を採用することが出来る。また、反応終了後の反応液から一般式(1)で表される化合物を単離及び精製する手段も公知の方法(分液、蒸留、クロマトグラフィー、再結晶等)を採用できる。
【0054】
なお、上記の一般式(2)で表される化合物は、ジュグロンと一般式(3’):
R’−COOH (3’)
(式中、R’は前記に同じ。)
で表される化合物又はその誘導体を反応させることにより製造することができる。一般式(3’)で表される化合物又はその誘導体は、上記の一般式(3)で表される化合物又はその誘導体に包含される。ゆえに、この製造方法は、上記のジュグロンと一般式(3)で表される化合物又はその誘導体から一般式(1)で表される化合物を製造する方法に包含される。
【0055】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、DNA合成酵素選択的阻害作用を有することから、医薬品への利用が可能である。例えば、DNA合成酵素阻害剤、抗癌剤、抗炎症剤等として有用である。即ち、癌、腫瘍、炎症等の予防又は治療剤として有用である。DNA合成酵素阻害活性と抗炎症活性には同じ傾向の構造活性相関が見られる。さらに、この化合物は、ヒト正常細胞(例えば、正常ヒト皮膚線維芽細胞、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞等)の増殖には影響を与えず、ヒト大腸がん細胞の増殖を選択的に抑制するという特徴を有している。
【0056】
本発明の化合物を体内投与する際は経口投与よりも非経口投与が好ましく、またリポソームなどの運搬体に封入して投与することが好ましい。このとき癌細胞を特異的に認識する運搬体などを利用すれば、標的部位(病変部位)に本発明の化合物を効率よく運ぶことができ効果的である。
【0057】
本発明の化合物を有効成分とする抗癌剤および抗炎症剤は、これをそのまま、あるいは慣用の医薬製剤担体とともに医薬組成物となし、動物およびヒトに投与することができる。医薬組成物の剤形としては特に制限されるものではなく必要に応じて適宜選択すればよいが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられ、好適には非経口剤を挙げることができる。
【0058】
本発明において錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤としての経口剤は、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。これらの製剤中の本発明の化合物の配合量は特に限定されるものではなく適宜設計できる。この種の製剤には本発明の化合物の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜に使用することができる。
【0059】
ここに、結合剤としてデンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等を例示できる。崩壊剤としてはデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等を例として挙げることができる。界面活性剤の例としてラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等を挙げることができる。滑沢剤では、タルク、ロウ類、水素添加植物油、蔗糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等を例示できる。流動性促進剤では、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等を例として挙げることができる。また、本発明の化合物は懸濁液、エマルション剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有させてもよい。
【0060】
非経口剤として本発明の所望の効果を発現せしめるには、患者の年齢、体重、疾患の程度により異なるが、通常、成人で本発明の化合物の重量として1日あたり1〜60mgの静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射が適当である。この非経口投与剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、大豆油、トウモロコシ油、プロピレングリコール等を用いることができる。さらに必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤を加えてもよい。また、この非経口剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥処理により水分を除き、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。さらに必要に応じて、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤を加えてもよい。これら製剤中の本発明の化合物の配合量は特に限定されるものではなく任意に設定できる。その他の非経口剤の例として、外用液剤、軟膏等の塗布剤、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、これらも常法に従って製造される。
【0061】
また、本発明の化合物は、医薬品への利用以外に、食品への利用が可能である。例えば、飲食品へ添加・配合することにより抗癌効果、抗発癌効果、あるいは抗炎症効果をもった食用組成物(例えば、健康食品等)として利用することも可能である。
【0062】
即ち、本発明の化合物は、これをそのまま液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキー等に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦形剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や栄養補助食品等として利用できる。
【0063】
なお、ヒトと他の哺乳類のDNA合成酵素の構造は殆ど同じであるため、本発明のDNA合成酵素阻害剤は、ヒト以外の哺乳類由来のDNA合成酵素阻害剤としても利用可能である。
【0064】
また、本発明の化合物は、さらに上記の薬剤の開発過程におけるリード化合物として利用することもできる。本発明の化合物をリードとして、DNA合成酵素に対する阻害活性を調べることにより、抗癌剤または抗炎症剤の候補化合物の効率的なスクリーニングが期待できる。本発明には、このようなスクリーニング方法も含まれる。なお、本スクリーニング方法において、DNA合成酵素に対する阻害活性を調べる方法は実施例記載の方法に限定されるものではなく、公知の試験方法の中から適した方法を選択すればよい。
【実施例】
【0065】
次に、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0066】
融点(mp.) は(株)ヤナコ機器開発研究所 微量融点測定装置 MP-J3 型を用いた。核磁気共鳴 (NMR) スペクトルは EX-270W spectrometer (1H, 270 MHz; 13C, 67.8 MHz) を用いた。赤外吸収 (IR) スペクトルは Horiba FT-210 spectrometerを用いた。高分解能質量分析(HRMS) には Applied Biosystems API QSTAR pulsar i 高分解能質量分析計を用いた。
【0067】
合成例1:5−アセトキシ−1,4−ナフトキノン(ジュグロン 酢酸エステル)の合成
【0068】
【化6】

【0069】
ジュグロン (101 mg, 0.58 mmol) にピリジン (1.00 ml) と無水酢酸 (0.50 ml) を混合し、室温で一時間半撹拌した。溶媒を減圧留去した後、残渣をカラムクロマトグラフィー (n-ヘキサン:酢酸エチル = 3:1) にて精製し、ジュグロン 酢酸エステル (98.6 mg, 79%) を黄色固体として得た。
1H-NMR (270 MHz, CDCl3) δ 8.05 (dd, J = 7.7 Hz, 1.4 Hz, 1H), 7.77 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.40 (dd, J = 7.7 Hz, 1.4 Hz, 1H), 6.95 (d, J = 10.5 Hz, 1H), 6.85 (d, J = 10.5 Hz, 1H), 2.45 (s, 3H).
合成例2:5−ドデカノイルオキシ−1,4−ナフトキノン(ジュグロン ラウリン酸エステル)の合成
【0070】
【化7】

【0071】
ジュグロン (50.5 mg, 0.29 mmol) とラウリン酸 (70.6 mg, 0.35 mmol) をジクロロメタン (4.0 ml) に溶解し、トリエチルアミン (88.0 μl, 0.63 mmol) と 2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物(MNBA) (122 mg, 0.35 mmol) と 4-(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP) (3.8 mg, 0.03 mmol) を加えて室温で24時間撹拌した。水を加えて反応を終了させ、クロロホルムにより抽出した。分離した有機層は飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、残渣をカラムクロマトグラフィー (n-ヘキサン : 酢酸エチル = 9:1) にて精製し、ジュグロン ラウリン酸エステル (63.0 mg, 62%) を黄色結晶として得た。
mp. 63-65 ℃; IR (KBr) 3076, 2922, 2856, 1766, 1666, 1599, 1375, 1333, 1296, 1232, 1134, 1111, 993, 939, 895, 783 cm-1; 1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 8.04 (dd, J = 7.6 Hz, 1.4 Hz, 1H), 7.75 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.37 (dd, J = 7.6 Hz, 1.4 Hz, 1H), 6.93 (d, J = 10.5, 1H), 6.84 (d, J = 10.5, 1H), 2.74 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 1.82 (quin, J = 7.6 Hz, 2H), 1.47-1.28 (brm, 16H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H); 13C NMR (68 MHz, CDCl3) δ 184.0, 183.4, 171.9, 149.4, 139.7, 137.1, 134.6, 133.3, 129.7, 124.7, 123.2, 34.2, 31.9, 29.6 (2C), 29.5, 29.4, 29.3, 29.2, 24.5, 22.7, 14.2; HRMS, calcd for C22H28O4Na ([M+Na]+) 379.1879, found 379.1914.
合成例3:5−プロピオニルオキシ−1,4−ナフトキノン(ジュグロン プロピオン酸エステル)の合成
【0072】
【化8】

【0073】
ジュグロン プロピオン酸エステルは、適当な出発物質を用いて合成例2と同様にして合成した(収率64%)。
黄色固体; mp. 113-114 ℃; IR (KBr) 2972, 1757, 1662, 1601, 1452, 1367, 1329, 1290, 1234, 1142, 1038, 1009, 926, 872, 781 cm-1; 1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 8.05 (dd, J = 7.6 Hz, 1.4 Hz, 1H), 7.76 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.39 (dd, J = 7.6 Hz, 1.4 Hz, 1H), 6.94 (d, J = 10.3 Hz, 1H), 6.84 (d, J = 10.3 Hz, 1H), 2.78 (q, J = 7.6 Hz, 2H), 1.33 (t, J = 7.6 Hz, 3H); 13C NMR (68 MHz, CDCl3) δ 184.0, 183.4, 172.6, 149.4, 139.7, 137.1, 134.7, 133.4, 129.6, 124.8, 123.2, 27.7, 8.8; HRMS, calcd for C13H10O4Na ([M+Na]+) 253.0471, found 253.0455.
合成例4:5−ヘキサのイルオキシ−1,4−ナフトキノン(ジュグロン カプロン酸エステル)の合成
【0074】
【化9】

【0075】
ジュグロン カプロン酸エステルは、適当な出発物質を用いて合成例2と同様にして合成した(収率76%)。
黄土色固体; mp. 44-46 ℃; IR (KBr) 2951, 2866, 1768, 1662, 1597, 1456, 1375, 1331, 1286, 1230, 1120, 1099, 1043, 939, 889, 849, 791 cm-1; 1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 8.04 (dd, J = 7.8 Hz, 1.4 Hz, 1H), 7.76 (t, J = 7.8 Hz, 1H), 7.38 (dd, J = 7.8 Hz, 1.4 Hz, 1H), 6.94 (d, J = 10.5 Hz, 1H), 6.84 (d, J = 10.5 Hz, 1H), 2.74 (t, J = 7.3 Hz, 2H), 1.83 (quin, J = 7.3 Hz, 2H), 1.51-1.34 (brm, 4H), 0.95 (t, J= 7.3 Hz, 3H); 13C NMR (68 MHz, CDCl3) δ 183.9, 183.4, 171.9, 149.4, 139.7, 137.1, 134.6, 133.3, 129.7, 124.7, 123.2, 34.2, 31.3, 24.1, 22.4, 14.0; HRMS, calcd for C16H16O4Na ([M+Na]+) 295.0940, found 295.0937.
合成例5:5−エイコサペンタエノイルオキシ−1,4−ナフトキノン(ジュグロン EPA エステル)の合成
(1)エイコサペンタエノイルクロリドの合成
【0076】
【化10】

【0077】
EPA (345 mg, 1.14 mmol) をクロロホルム (10.0 ml) に溶解し、氷冷下でオキザリルクロリド (0.30 ml, 3.55 mmol) を加えた後、室温、窒素雰囲気下で撹拌した。反応の追跡は、反応液をピリジン:メタノール = 1:1 溶液で少量クエンチし、EPA のメチルエステルを TLC 上で確認することにより追跡した。6時間後、溶媒を減圧留去して 370 mg の油状残渣を得た。残渣の精製は行わず、そのまま次の反応に用いた。
(2)ジュグロン EPA エステルの合成
【0078】
【化11】

【0079】
エイコサペンタエノイルクロリド (370 mg, 1.15 mmol) とジュグロン (605 mg, 3.47 mmol) とピリジン (6.0 ml) を混合し、DMAP (3.9 mg, 0.03 mmol) を加えて室温、窒素雰囲気下で3時間半撹拌した。1N HCl を加えて反応を停止し、酢酸エチルにより抽出した。分離した有機層は飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、残渣をプレパラティブ TLC (トルエン : 酢酸エチル = 10:1) にて精製し、ジュグロン EPA エステル(54%) を褐色油状物として得た。収率は内部標準物質として 2,5-ジメチルフランを加えたサンプルの 1H-NMR (270 MHz, CDCl3) を測定して算出した。
IR (neat) 3012, 2962, 1768, 1668, 1599, 1450, 1327, 1284, 1203, 1117, 1038, 937, 891, 781, 715 cm-1; 1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 8.05 (dd, J = 8.0 Hz, 1.1 Hz, 1H), 7.76 (t, J = 8.0 Hz, 1H), 7.38 (dd, J = 8.0 Hz, 1.1 Hz, 1H), 6.94 (d, J = 10.3 Hz, 1H), 6.84 (d, J = 10.3 Hz, 1H), 5.50-5.26 (brm, 10H), 2.86-2.73 (brm, 10H), 2.26 (q, J= 7.0 Hz, 2H), 2.07 (quin, J = 7.0 Hz, 2H), 1.91 (quin, J = 7.6 Hz, 2H), 0.97 (t, J = 7.6 Hz, 3H); 13C NMR (68 MHz, CDCl3) δ 184.0, 183.4, 171.7, 149.4, 139.8, 137.2, 134.7, 133.4, 131.9, 129.7, 128.9, 128.8, 128.4, 128.1 (2C), 128.0, 127.9, 127.7, 126.9, 124.8, 33.6, 26.6, 25.7 (3C), 25.7, 25.6, 24.4, 20.6, 14.4; HRMS, calcd for C30H34O4Na ([M+Na]+) 481.2349, found 481.2366.
合成例6:5−オクタノイルオキシ−1,4−ナフトキノン(ジュグロン ステアリン酸エステル)の合成
【0080】
【化12】

【0081】
ジュグロン ステアリン酸エステルは、適当な出発物質を用いて合成例5と同様にして合成した(収率24%)。
黄色固体; mp. 72-75℃; IR (KBr) 3074, 2924, 2852, 1763, 1666, 1597, 1460, 1371, 1331, 1292, 1144, 1107, 1036, 939, 897 cm-1; 1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 8.04 (dd, J = 7.8 Hz, 1.4 Hz, 1H), 7.76 (t, J = 7.8 Hz, 1H), 7.38 (dd, J = 7.8 Hz, 1.4 Hz, 1H), 6.94 (d, J = 10.3 Hz, 1H), 6.84 (d, J = 10.3 Hz, 1H), 2.74 (t, J = 7.8 Hz, 2H), 1.82 (quin, J = 7.8 Hz, 2H), 1.33-1.25 (brm, 28H), 0.88 (t, J = 7.0 Hz, 3H); 13C NMR (68 MHz, CDCl3) δ 184.1, 183,5, 172.0, 149.5, 139.8, 137.2, 134.7, 133.4, 129.7, 124.8, 123.3, 34.3, 32.0, 29.8 (5C), 29.7 (2C), 29.7, 29.6, 29.4, 29.4, 29.2, 24.5, 22.8, 14.2.
合成例7:5−{(Z)−オクタデセノイルオキシ}−1,4−ナフトキノン(ジュグロン オレイン酸エステル)の合成
【0082】
【化13】

【0083】
ジュグロン オレイン酸エステルは、適当な出発物質を用いて合成例5と同様にして合成した(収率29%)。
茶色油状物; IR (neat) 3005, 2924, 2856, 1766, 1668, 1599, 1456, 1327, 1284, 1113, 1036, 941, 850 cm-1; 1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 8.05 (dd, J= 8.1 Hz, 1.4 Hz, 1H), 7.76 (t, J= 8.1 Hz, 1H), 7.38 (dd, J = 8.1 Hz, 1.4 Hz, 1H), 6.94 (d, J= 10.3 Hz, 1H), 6.84 (d, J = 10.3 Hz, 1H), 5.39-5.34 (m, 2H), 2.74 (t, J = 7.8 Hz, 2H), 2.03 (brm, 4H), 1.82 (quin, J = 7.8 Hz, 2H), 1.45-1.26 (brm, 20H), 0.88 (t, J = 7.0 Hz, 3H); 13C NMR (68 MHz, CDCl3) δ 184.1, 183.5, 172.0, 149.5, 139.8, 137.2, 134.7, 133.4, 129.9, 129.7, 129.7, 124.8, 123.2, 34.3, 32.0, 29.8, 29.8, 29.6, 29.4 (2C), 29.3, 29.2 (2C), 27.3, 27.3, 24.5, 22.8, 14.2.
合成例8:5−リノレオイルオキシ−1,4−ナフトキノン(ジュグロン リノール酸エステル)の合成
【0084】
【化14】

【0085】
ジュグロン リノール酸エステルは、適当な出発物質を用いて合成例5と同様にして合成した(収率31%)。
茶色油状物; IR (neat) 3008, 2925, 2858, 1768, 1670, 1599, 1456, 1329, 1286, 1113, 1038, 941, 852 cm-1; 1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 8.04 (dd, J= 7.8 Hz, 1.4 Hz, 1H), 7.76 (t, J= 7.8 Hz, 1H), 7.38 (dd, J = 7.8 Hz, 1.4 Hz, 1H), 6.94 (d, J= 10.3 Hz, 1H), 6.84 (d, J = 10.3 Hz, 1H), 5.39 (m, 4H), 2.80-2.71 (m, 2H), 2.74 (t, J = 8.1 Hz, 2H), 2.06-2.04 (m, 4H), 1.82 (quin, J = 7.3 Hz, 2H), 1.48-1.26 (brm, 14H), 0.89 (t, J = 7.0 Hz, 3H); 13C NMR (68 MHz, CDCl3) δ 184.1, 183.5, 171.9, 149.5, 139.8, 137.2, 134.7, 133.4, 130.1, 130.0, 129.7, 127.9, 127.8, 124.8, 123.2, 34.2, 31.6, 29.7, 29.4, 29.3, 29.2 (3C), 27.3, 25.7, 24.5, 22.7, 14.2.
合成例9:5−リノレノイルオキシ−1,4−ナフトキノン(ジュグロン リノレン酸エステル)の合成
【0086】
【化15】

【0087】
ジュグロン リノレン酸エステルは、適当な出発物質を用いて合成例5と同様にして合成した(収率34%)。
茶色油状物; IR (neat) 3012, 2927, 2858, 1766, 1670, 1601, 1454, 1327, 1284, 1114, 1037, 939, 852 cm-1; 1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 8.04 (dd, J= 7.8 Hz, 1.4 Hz, 1H), 7.76 (t, J= 7.8 Hz, 1H), 7.38 (dd, J = 7.8 Hz, 1.4 Hz, 1H), 6.94 (d, J= 10.3 Hz, 1H), 6.84 (d, J = 10.3 Hz, 1H), 5.37 (m, 6H), 2.84-2.71 (brm, 4H), 2.74 (t, J = 7.8 Hz, 2H), 2.08 (brm, 4H), 1.82 (quin, J = 7.8 Hz, 2H), 1.36 (brm, 8H), 0.98 (t, J = 7.6 Hz, 3H); 13C NMR (68 MHz, CDCl3) δ184.0, 183.4, 171.9, 149.4, 139.8, 137.2, 134.7, 133.4, 131.8, 130.2, 129.7, 128.2, 128.1, 127.6, 127.0, 124.8, 123.2, 34.2, 29.7, 29.3, 29.2 (2C), 27.3, 25.7, 25.6, 24.6, 20.6, 14.4.
合成例10:5−ドコサヘキサエノイルオキシ−1,4−ナフトキノン(ジュグロン DHAエステル)の合成
【0088】
【化16】

【0089】
ジュグロン DHAエステルは、適当な出発物質を用いて合成例5と同様にして合成した(収率62%)。
茶色油状物; IR (neat) 3012, 2964, 2924, 1768, 1670, 1601, 1450, 1363, 1327, 1284, 1225, 1119, 1038, 935, 850 cm-1; 1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 8.05 (dd, J = 8.0 Hz, 1.4 Hz, 1H), 7.76 (t, J = 8.0 Hz, 1H), 7.38 (dd, J = 8.0 Hz, 1.4 Hz, 1H), 6.94 (d, J = 10.3 Hz, 1H), 6.84 (d, J = 10.3 Hz, 1H), 5.41 (m, 12H), 2.92-2.76 (m, 12H), 2.59 (q, J = 7.0 Hz, 2H), 2.07 (quin, J = 7.6 Hz, 2H), 0.97 (t, J = 7.8 Hz, 3H); 13C NMR (68 MHz, CDCl3) δ 184.0, 183.4, 171.3, 149.4, 139.8, 137.2, 131.2, 134.7, 133.4, 131.9, 129.7, 129.4, 128.4, 128.2, 128.1, 128.1, 128.0, 127.9 (3C), 127.7, 127.7, 126.9, 34.2, 30.4, 25.7, 25.7, 25.7, 25.6, 22.4, 20.6, 14.4.
試験例1(DNA合成酵素αに対する阻害活性の評価;in vitro)
DNA合成酵素は鋳型となるDNAが存在している場合のみ、4種の前駆体すなわち4種のデオキシヌクレオシド3リン酸〔デオキシアデノシン3リン酸(以下dATPと略)、デオキシグアノシン3リン酸(以下dGTPと略)、デオキシシチジン3リン酸(以下dCTPと略)、デオキシチミジン3リン酸(以下dTTPと略)〕を基質としてDNAを合成する。このことを利用してDNA合成酵素活性は合成DNA(poly(dA)/oligo(dT)18)を鋳型プライマーとし、基質中のdTTPを3Hラベルしておくとポリメラーゼの重合反応により3H−dTTPがDNA鎖のチミン残基として取り込まれる。このDNA鎖をDEAE−セルロース(ジエチルアミノエチル−セルロース)濾紙に吸着させる。この吸着されたDNA鎖の放射比活性がDNA合成酵素活性となる。このとき、阻害の有無は試験物質によりDNA合成酵素の重合反応が阻害された時、DNA鎖への基質の取り込みが少なくなったり全くなくなるため、放射能活性が低下することから判断される。
<DNA合成酵素αの調製>
子牛胸腺を緩衝液(50mMトリス−塩酸pH7.5、0.3M塩化カリウム、0.1%トリトンX−100、1mMPMSF、2mMβ−メルカプトエタノール、2mMベンズアミジン、10mM重亜硫酸ナトリウム)中でホモジネートする。これをホスホセルロースカラムにのせて、0.25Mから0.4M塩化カリウムで溶出してくるフラクションを集める。UF−100psウルトラフィルター(東洋ソーダ)を用いて、約10mg/mlの蛋白濃度になるように濃縮する。遠心により不溶物を除く。免疫アフィニテカラムにのせ、流速40ml/hrで12時間循環させる。(免疫アフィニテカラムは、プレカラムに人血清蛋白750mgを50mlセファロースに結合させたカラムと50mgの兎IgGを10mlセファロースに結合させたカラムを直列につないだものを用い、プロテインA純化モノクロナール抗体MT−17IgG10mgを5mlセファロースに結合させたカラムである。)モノクロナール抗体カラムをはずし、50mMトリス−塩酸pH7.5/β−メルカプトエタノール(緩衝液A)に0.3M塩化カリウム、0.1%トリトンX−100を含む液でカラムの20倍相当量で洗浄する。次に、(1)3M塩化ナトリウムを含む緩衝液Aによりカラムの5倍相当量で溶出、続いて(2)50%エチレングリコールを含む緩衝液Aによりカラムの5倍相当量で溶出、(3)3.2M塩化マグネシウムを含む緩衝液Aによりカラムの5倍相当量で溶出を行う。(1)〜(3)の画分を10%グリセロールを含む緩衝液A2lで透析する。50%グリセロールになるように調整して、−25℃で保存する。
(参考文献)
Biochimica et Biophysica Acta,950(1988)263〜273
<酵素阻害活性の測定法>
試験用の反応液として以下の通り調整した。
【0090】
トリス塩酸緩衝液(pH7.5):50mM
ジチオスレイトール(DTT):1mM
塩化マグネシウム:5mM
グリセリン:15%(v/v)
poly(dA):10μg/ml
oligo(dT)18:5μg/ml
トリチウムでラベルしたデオキシチミジン3リン酸(3H−dTTP)を含むdTTP:10μM(100cpm/pmol)
16μlの酵素溶液と試験化合物をメタノールに溶解した液4μl(1500μM)を混合したもの8μlを、上記の反応液16μlに加えた。37℃で60分間インキュベートした対照試験液は阻害物質の入っていないメタノール液を使用した。インキュベート後各試験液18μlをDEAE−セルロースろ紙に吸着させ、このろ紙を5%(w/v)Na2HPO4、水、エタノールで洗浄した。この洗浄条件では10ヌクレオチド以上のポリマーはろ紙に吸着される。次いで、風乾してトルエンシンチレータを入れたバイアルに沈め、液体シンチレーションカウンタで放射線量を測定した。その測定結果により酵素反応の阻害率を以下の式で求めた。
【0091】
阻害率(%)=(1−試験溶液の比活性(cpm)/対照溶液の比活性(cpm))×100
上記方法で試験化合物の濃度1μM及び10μMで測定したDNA合成酵素αの阻害活性を図1に示す。図1中、グラフの棒が短いほど阻害作用が強いことを表している。
【0092】
図1より、脂肪酸は濃度1μM及び10μMではDNA合成酵素αをほとんど阻害しなかった。アシルジュグロン(ジュグロンのエステル)は、濃度1μM及び10μMでジュグロン単独より強いDNA合成酵素阻害活性を示した。中でも、ジュグロン ラウリン酸エステルの50%阻害活性(IC50)は1μM未満であり、最も強い阻害活性を示した。
【0093】
試験例2(ヒト大腸がん細胞(HCT116 cells)の増殖抑制活性の評価;in vitro)
本試験に用いたヒト大腸がん由来細胞HCT116は、ATCC(American Type Culture Collection)から購入した。培地は、McCoy’s5A-DMEM培地に牛胎児血清10%(v/v)を添加したものを用いた。培養は5% CO2インキュベーターにて37℃で行った。上記に示した培地に試験物質を溶解した。ただし、これらは一度ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、上記の培地中に1% DMSO濃度になるように溶かした。本試験のための培養は、96穴マイクロプレートで実施した。各ウェルに1.0×104個の細胞を播種し、1つの試験濃度に対し5ウェルずつ与えた。またポジティブコントロールとして、培地に1%のDMSO(試験物質が存在しない)を含むものを用いた。試験物質を添加後は、5% CO2インキュベーター内、37℃で24時間培養した。そして、各試験区の細胞生存率をWST−1法で判定した。すなわち、上記24時間後テトラゾリウム塩WST−1を添加し、さらに4時間培養した。生細胞による還元を経て生産するホルマザン量が生細胞数に比例するとみなし、450 nmの光学密度(O.D.)で定量した。細胞生存率は次の式により算出した。
【0094】
細胞生存率(%) = 試験区のO.D. [450 nm] / 対照区のO.D. [450 nm]
(参考文献)
Ishiyama et al.Biol. Pharm. Bull.(1996)19,p1518−1520
上記方法で試験化合物の濃度10μM及び100μMで測定したヒト大腸がん細胞(HCT116 cells)の阻害活性を図2に示す。図2中、グラフの棒が短いほど阻害作用が強いことを表している。
【0095】
図2より、脂肪酸はヒト大腸がん細胞の増殖に影響しないことが分かった。アシルジュグロンは、ジュグロン単独より強いがん細胞増殖抑制活性を示した。最も強いがん細胞増殖抑制活性を示したものは、ジュグロン オレイン酸エステルであった。試験例1のDNA合成酵素阻害活性とヒト大腸がん増殖抑制活性には類似の傾向が見られた。アシルジュグロンは、抗癌剤として有効である。
【0096】
試験例3(ヒト正常細胞への影響評価)
次の手順で、正常ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)及び正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の評価を行った。
【0097】
皮膚線維芽細胞(human dermal fibroblast:HDF)と臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cell:HUVEC)の2種類を住商ファーマインターナショナル(株)から購入した。培地は、RPMI1640培地に牛胎児血清10%(v/v)を添加したものを用いた。培養は5% CO2インキュベーターにて37℃で行った。上記に示した培地に試験物質を溶解した。ただし、これらは一度DMSOに溶解し、上記の培地中に1% DMSO濃度になるように溶かした。本試験のための培養は、96穴マイクロプレートで実施した。各ウェルに3.0×105個の細胞を播種し、1つの試験濃度に対し5ウェルずつ与えた。またポジティブコントロールとして、培地に1%のDMSO(試験物質が存在しない)を含むものを用いた。試験物質を添加後は、5% CO2インキュベーター内、37℃で72時間培養した。これらヒト由来正常細胞への毒性は、72時間培養後の各試験区の細胞生存率をトリパンブルー法で測定した。本法では、生細胞は無色、死細胞は青色に分染されるため、全細胞数に対する生細胞数の割合が細胞生存率(%)となる。
(参考文献)
Tuttle et al.Cancer Res.(1961)21,p735−742
試験化合物の評価結果を図3に示す。図3より、アシルジュグロンは、正常ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)及び正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に影響を与えないことが分かった。
【0098】
上記試験例2及び3の結果より、アシルジュグロンは正常ヒト細胞には影響を与えずヒトがん細胞の増殖を選択的に抑制できることを確認した。
【0099】
試験例4(マウス耳を用いた抗炎症活性の評価;in vivo)
次の手順で、TPA(12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate)誘発マウス耳介浮腫抑制試験の測定を行った。マウスの片方の耳に試験物質 (500 μg) を塗布し、30分後に両耳にTPA (0.5 μg) を塗布した。7時間後に試験物質処理の耳介重量と試験物質未処理の耳介重量を測定した。マウスの匹数は6匹とした。試験物質未処理のコントロール群の耳介肥厚率を100% とし、試験物質未処理の耳介肥厚率、すなわち抗炎症活性を次のように算出した。
【0100】
抗炎症活性 (%) = ([TPA 塗布耳介重量] − [試験物質 + TPA 塗布耳介重量])/([TPA 塗布耳介重量] − [試験物質未処理の耳介重量]) × 100
(参考文献)
Gschwendt et al.Cancer Lett.(1984)25,p177−185
試験化合物の抗炎症活性を図4に示す。図4中、グラフの棒が長いほど強い抗炎症活性を示す。
【0101】
図4より、アシルジュグロンは、脂肪酸単独やジュグロン単独よりも強い抗炎症活性を示した。最も強い抗炎症活性を示したものは、ジュグロン ラウリン酸エステルであった。アシルジュグロンは抗炎症剤として有効である。
【0102】
アシルジュグロンにおいて、DNA合成酵素阻害活性と抗炎症活性には、正の相関が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、Rは炭化水素基を示す。)
で表される化合物を有効成分として含有するDNA合成酵素阻害剤。
【請求項2】
一般式(1)において、RがC1〜40の飽和又は不飽和の炭化水素基である請求項1に記載のDNA合成酵素阻害剤。
【請求項3】
請求項1に記載の一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有する抗癌剤。
【請求項4】
請求項1に記載の一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有す抗炎症剤。
【請求項5】
請求項1に記載の一般式(1)で表される化合物を食品に配合してなる食用組成物。
【請求項6】
一般式(2):
【化2】

(式中、R’はC3以上の炭化水素基を示す。)
で表される化合物。
【請求項7】
請求項6に記載の一般式(2)で表される化合物を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項8】
請求項6に記載の一般式(2)で表される化合物の製造方法であって、ジュグロンと一般式(3’):
R’−COOH (3’)
(式中、R’は前記に同じ。)
で表される化合物又はその誘導体を反応させることを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−201600(P2012−201600A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65045(P2011−65045)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(507307374)学校法人神戸学院 (9)
【出願人】(509349141)京都府公立大学法人 (19)
【Fターム(参考)】