説明

DNA/キトサン複合体の成形方法

【課題】DNAの特性を安定して維持させつつ各種の用途にDNAを利用可能とするDNA/キトサン複合体を容易に成形できる方法を提供する。
【解決手段】DNA/キトサン複合体に成形用緩衝液を作用させて成形性を付与して所望の形状に成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はDNA/キトサン複合体の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DNAは新規機能材料として注目されている。それはDNAが構造上安定な規則正しい二重らせん(二本鎖)構造をとることに起因している。二重らせん構造を保持したDNAは天然由来の素材であるとともに、電気を通しやすく、また、二重らせん構造中に、色素などの各種化合物を取り込む性質が知られている。このようなことから、DNAは医療用素材、導電性素材、記録素子(CD−RやDVDなど)、有機EL素子など様々な用途での利用が期待されている。
【0003】
その反面、サケ白子等の原材料から二重らせん構造を破壊せずに分離精製したDNAは水溶性であり、そのままの形態で上記用途への適用を考えた場合に安定性を欠くという大きな問題を有している。そのため、ポリアニオンとしてのDNAと、ポリアニオンに静電的に結合するポリカチオンである合成脂質等との複合化による安定化が図られている(特開2001−327591号公報)。
【0004】
このようなDNAの安定化ための方法の一つとして、特開平10−77235号公報にはDNAをキトサンとの複合体として安定化させる方法が開示されている。また、特開2001−199903号公報には遺伝子分野の治療に好適と考えられる核酸とキトサンとの複合体の記載がある。また、特開2001−500109号公報には、上皮細胞への遺伝子の送達に適当な組成物として、キトサンと核酸の粒状複合体を含んでなる組成物が開示されている。
【特許文献1】特開2001−327591号公報
【特許文献2】特開平10−77235号公報
【特許文献3】特開2001−199903号公報
【特許文献4】特開2001−500109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DNAをキトサン複合体とすることにより、DNAの機能を損なうことなく安定性良く目的とする用途に利用可能となるという利点が得られる。更に、DNAもキトサンも生物由来の素材であることから、DNA/キトサン複合体はDNA/合成脂質複合体より安全性・代謝面でのリスクが小さいと考えられ、またキトサンが合成脂質より大量且つ安価に調達できることから商業的にも有利と見なされる。しかしながら、DNA/合成脂質複合体と異なり、DNA/キトサン複合体は有機溶媒に不溶であることから、成型加工が極めて困難であるという欠点を有していた。
【0006】
本発明の目的は、DNAの二重らせん構造が維持されてその特性を安定して得ることのできるDNA/キトサン複合体を、医療用あるいは歯科用材料などの所望とする目的に適した形状に容易に成形可能とする成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、DNA/キトサン複合体の製造方法及びその特性について種々の検討を行った結果、DNAとキトサンを脱イオン水で反応させて得られる沈殿物を緩衝液で洗浄してから凍結乾燥することで、医療用あるいは歯科用材料として適用可能なDNA/キトサン複合体が得られ、更に、DNAとキトサンの配合比、洗浄用緩衝液の種類や濃度などの製造条件を適宜変更することで、DNA/キトサン複合体におけるDNAの含有割合、性状、気孔率などを調整可能であるとの知見を得た。更に、このDNA/キトサン複合体を緩衝液と接触させた状態とすることで成形可能な状態が得られるとの新規な知見を得た。本発明は、かかる本発明者らの新規な知見に基づいてなされたものである。
【0008】
本発明のDNA/キトサン複合体の成形方法の第一の態様は、
DNA/キトサン複合体を成型用の型内に充填する工程と、
前記型内に充填されたDNA/キトサン複合体に緩衝液を供給する工程と、
前記型内の前記緩衝液を含むDNA/キトサン複合体を該型内に充填した状態で凍結乾燥し、該型の形状に成型されたDNA/キトサン複合体成型物を得る工程と
を有することを特徴とするDNA/キトサン複合体の成形方法である。
【0009】
本発明のDNA/キトサン複合体の成形方法の第二の態様は、
DNA/キトサン複合体を緩衝液中に投与し、該DNA/キトサン複合体の塊を得る工程と、
前記該DNA/キトサン複合体の塊を成型用の型内に充填する工程と、
前記型内のDNA/キトサン複合体を該型内に充填した状態で凍結乾燥し、該型の形状に成型されたDNA/キトサン複合体成型物を得る工程と
を有することを特徴とするDNA/キトサン複合体の成形方法である。
【0010】
本発明のDNA/キトサン複合体の成形方法の第三の態様は、
DNA/キトサン複合体の成形方法において、
DNA/キトサン複合体の水性スラリーを緩衝液中に投与し、投入状態に応じた形状の固まりを得る工程と、
前記該DNA/キトサン複合体の塊を凍結乾燥し、前記投入状態に応じた形状のDNA/キトサン複合体成形物を得る工程と
を有することを特徴とするDNA/キトサン複合体の成形方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、DNAの特性を安定して得ることが可能であり、各種用途に有用であるDNA/キトサン複合体を所望の目的に応じた形状に容易に成形可能な方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のDNA/キトサン複合体の成形方法は、DNA/キトサン複合体に成形用緩衝液を作用させることで成形性を持たせる点に特徴を有する。以下、本発明の各態様について説明する。
【0013】
本発明のDNA/キトサン複合体の成形方法の第一の態様は、
DNA/キトサン複合体を成型用の型内に充填する工程と、
前記型内に充填されたDNA/キトサン複合体に緩衝液を供給する工程と、
前記型内の前記緩衝液を含むDNA/キトサン複合体を該型内に充填した状態で凍結乾燥し、該型の形状に成型されたDNA/キトサン複合体成型物を得る工程と
を有する。
【0014】
この方法では、まず、DNA/キトサン複合体を適当な大きさの塊とし、必要に応じて緩衝液で洗浄し、型内に充填する。ここで用いる型は、所望の形状へのDNA/キトサン複合体の成形を可能する構造を有する。更に、この型は、後述する凍結乾燥が可能となるように開閉可能な部分を有することが好ましい。型内に充填するDNA/キトサン複合体の塊のサイズや量は、成形後に得られる成形物において所望とする密度や空孔率などに応じて適宜選択することができる。大きな塊のDNA/キトサン複合体を用いる場合はこれを粉砕して粉体状とし、これを型内に充填するとよい。型に充填するまえにDNA/キトサン複合体を緩衝液で洗浄してもよく、この場合に用いる洗浄用緩衝液は、成形用の緩衝液と同じものが好適に利用できる。DNA/キトサン複合体を型に充填したところで、これに成形用の緩衝液を供給する。供給方法としては、型の一部を開放状態として、型内のDNA/キトサン複合体の充填状態を維持しつつ、成形用の緩衝液に浸漬する方法が好適である。また、型内に成形用緩衝液を注入する方法を用いることもできる。
【0015】
型内のDNA/キトサン複合体に成形用緩衝液を供給した後、必要に応じて型内のDNA/キトサン複合体を加圧して成形性を高めてもよい。また、必要に応じて型内の余分な液体を除去してもよい。このようにして、成型用緩衝液を供給した型内のDNA/キトサン複合体を、型内での充填状態を維持したまま凍結乾燥にかける。所定の乾燥状態が得られた段階で、型から成形物を取り出す。こうして得た成形物は、型の構造に応じて付与された形状を有する。
【0016】
本発明のDNA/キトサン複合体の成形方法の第二の態様は、
DNA/キトサン複合体を緩衝液中に投与し、該DNA/キトサン複合体の塊を得る工程と、
前記該DNA/キトサン複合体の塊を成型用の型内に充填する工程と、
前記型内のDNA/キトサン複合体を該型内に充填した状態で凍結乾燥し、該型の形状に成型されたDNA/キトサン複合体成型物を得る工程と
を有する。
【0017】
この方法では、まず、DNA/キトサン複合体を成形用緩衝液に投入して、緩衝液中で成形可能な塊とする。成形用緩衝液へのDNA/キトサン複合体の投入には、DNA/キトサン複合体の水性スラリーを調製して、これを成形用緩衝液に投入する方法が好適である。例えば、DNA/キトサン複合体の水性スラリーをシリンジなどの適当な供給手段を用いて成形用緩衝液中に押し出して適当な大きさ及び形状の塊とする。水性スラリーの調製は、DNA/キトサン複合体を適当な粒径の粉体として、これを水と混合することにより得ることができる。DNA/キトサン複合体の水性スラリーを成形用緩衝液中に投与すると、スラリー状から成形可能な塊が形成される。次に、この塊を、成形用の型内に充填する。この状態で、必要に応じて型内のDNA/キトサン複合体を加圧して成形性を高めてもよく、また、必要に応じて型内の余分な液体を除去してもよい。
【0018】
こうして型内に充填されたDNA/キトサン複合体を、型内での充填状態を維持したまま凍結乾燥にかける。所定の乾燥状態が得られた段階で、型から成形物を取り出す。こうして得た成形物は、型の構造に応じて付与された形状を有する。なお、型内に充填する塊は、1つでもよいし、2以上のでもよい。
【0019】
本発明のDNA/キトサン複合体の成形方法の第三の態様は、
DNA/キトサン複合体の成形方法において、
DNA/キトサン複合体の水性スラリーを緩衝液中に投与し、投入状態に応じた形状の固まりを得る工程と、
前記該DNA/キトサン複合体の塊を凍結乾燥し、前記投入状態に応じた形状のDNA/キトサン複合体成形物を得る工程と
を有する。
【0020】
この方法では、DNA/キトサン複合体の水性スラリーを所望の形状で成形用緩衝液中に投与し、その形状を有する塊を得る。この塊をその形状を維持しつつ凍結乾燥することで、所望の形状を有する成形物を得ることができる。例えば、シリンジにDNA/キトサン複合体の水性スラリーを充填し、液滴状として成形用緩衝液中に投与することで、液滴状の塊を得ることができる。あるいは、シリンジの押し出し口の形状を適宜選択して水性スラリーを押し出すことで、糸状や帯状の塊を成形用緩衝液中に得ることができる。また、成形用の緩衝液中に得た液滴状の塊の頭部をへらなどを用いて平らにして、ディスク状とすることも可能である。更に、成形用緩衝液中に型を用意しておくことで、型の形状に応じた塊を得ることもできる。
【0021】
本発明の成形方法に用いるDNA/キトサン複合体は、成形用緩衝液によって成形性が付与できるものであればよい。なかでも、複合体製造用の水性媒体中でDNAとキトサンを反応させて得られる沈殿物を緩衝液で洗浄して得られたものが好ましい。このDNA/キトサン複合体では、DNAとキトサンの配合比、洗浄用緩衝液の種類や濃度などの製造条件を適宜変更することで、DNA/キトサン複合体におけるDNAの含有割合、性状、気孔率などを調整可能である。
【0022】
前記DNA/キトサン複合体を形成するDNAとしては、天然DNAおよび合成DNAを利用することができ、医療用または歯科用など成形物の目的用途に応じて選択することができる。天然DNAとしては、細菌ウイルスのλファージDNA、大腸菌染色体DNA、仔牛胸腺DNA、サケ精子DNAを挙げることができる。また、合成DNAは、ポリ(dA)、ポリ(dT)、ポリ(dG)、ポリ(dC)、ポリ(dA−dT)、ポリ(dG−dC)などを用いて合成装置によって合成可能な、塩基配列の異なる種々の合成DNA;ポリ(A)、ポリ(T)、ポリ(G)、ポリ(U)、ポリ(A−T)、ポリ(G−U)などを用いて合成装置により合成可能な、塩基配列の異なる種々の合成RNA;ポリ(dG)、ポリ(U)、ポリ(G)、ポリ(dC)ポリ(dA−dT)、ポリ(A−T)などのDNA/RNAハイブリッドを用いて合成装置によって合成可能な、相補的塩基対を有するDNA/RNAハイブリッドを挙げることができる。これらは必要に応じて単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0023】
このようなDNAは、二重らせんを形成している四種類の塩基[シトシン(C)、グアニン(G)、アデニン(A)、チミン(T)]に種々の基(例えばリン酸含有基を末端に有する基)などが結合した構造を有しており、このDNA全体としては、例えば上記の末端に結合したリン酸基などに起因してアニオン性を示す。
【0024】
このようなDNA自体は、二重らせん構造を有する紐状物であり、また、このDNAは水に溶解することから、このDNA自体に成形性はない。DNAがアニオン性を有していることを利用して、アニオン性のDNAと、カチオン性のキトサンとを静電的に反応させることでDNA/キトサン複合体を得ることができる。このようにして複合体となることで、DNAは実質的に水に溶解しなくなる。また、有機溶剤に対する溶解性も低くなる。
【0025】
DNAに複合化させるキトサンとしては、本発明の方法に従って成形可能な複合体を形成できるものであればよい。中でも、医療用材料および歯科用材料等とする場合には、分子量320(グルコサミン残基数2)以上であるキトサンが好ましい。
【0026】
キトサンは、カニやエビの殻、昆虫類、植物、微生物などを原料として調製することができる。分子量320(グルコサミン残基数2)以上のもの、好ましくは分子量1600(グルコサミン残基数10)以上のキトサンを使用することができる。このことは、DNAの水に対する不溶性を発現させるために、分子量1万以上のキトサンであることが望ましい。さらに分子量が小さく塩酸等と塩を形成しているキトサンを使用した場合には、DNAとの反応物が水溶性であり、この反応物をDNAの溶媒である水性媒体から分離することが困難なために複合体を形成する目的の場合には適しないからである。
【0027】
DNAとキトサンの反応は、水性媒体中で行うことができる。例えば、DNAの水溶液を攪拌しているキトサン水溶液に添加して混合することによりこれらを反応させることができる。なお、キトサンの水溶液はその溶解状態を確保するために酸やアルカリを用いてpHを調整したものでもよい。例えば、pH5などの酸性条件の水溶液が好適に利用できる。
【0028】
DNAとキトサンの配合比は、DNA/キトサン複合体成形物の用途に応じて選択することができる。例えば、1/9〜9/1、好ましくは1/1〜1/1.5(モル比)の範囲から選択することができる。
【0029】
DNAをキトサンを水性媒体中で反応させることによりDNA/キトサン複合体の沈殿を生じる。この沈殿を水あるいは各種の緩衝液で洗浄し、必要に応じて、更に水洗し、余分な水分を遠心分離などで除去してから、乾燥することでDNA/キトサン複合体の乾燥物を得ることができる。
【0030】
沈殿の洗浄用の緩衝液としては、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、HEPES緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、グリシン緩衝液、バルビツール酸緩衝液、フタル酸緩衝液、カコジル酸緩衝液、炭酸緩衝液、Bis−トリス緩衝液、Bis−トリスープロパン緩衝液、MES緩衝液、ADA緩衝液、PIPES緩衝液、ACES緩衝液、コラミンクロリド緩衝液、BES緩衝液、MOPS緩衝液、TES緩衝液、HEPPS緩衝液、Tricine緩衝液、グリシンアミド緩衝液、Bicine緩衝液、TAPS緩衝液、CHES緩衝液、CAPS緩衝液、リン酸緩衝液などの中から選択することができる。緩衝液の濃度やpHも目的とするDNA/キトサン複合体の性状や物性が得られるように自由に選択することができる。
【0031】
このようにして得られたDNA/キトサン複合体乾燥物を必要に応じて粉砕して本発明にかかる成形方法に用いることができる。このDNA/キトサン複合体では、DNAの二重らせん構造が破壊されずにほぼ完全に残されているので、このDNA/キトサン複合体を用いることでDNAの機能を安定して効率良く利用することが可能となる。
【0032】
一方、本発明の成形方法で用いる成形用緩衝液としては、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液などを用いることができる。緩衝液の濃度は、DNAの機能が損なわれない濃度を用いればよく、pHは、好ましくはpH7から8の範囲から選択することができる。
【0033】
以上説明した本発明の成形方法により成形したDNA/キトサン複合体成形物に、その用途に応じて、医科用あるいは歯科用の薬理活性成分などを付着させて利用することもできる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0035】
実施例1(DNA/キトサン複合体の製造;その1)
(a)用いた溶液
・DNA溶液;サケ精子由来DNA(300塩基対、ニチロ社製)を蒸留水に溶解する。(5mg/1ml)
・キトサン溶液;キトサン(分子量13万、ニチロ社製)を0.2N HCl 50mlに溶解した。この溶液に0.2N NaOHと蒸留水を徐々に加え、pH5の溶液100mlとした。(5mg/1ml)
(b)キトサン水溶液とDNA水溶液からの合成
撹拌しているキトサン水溶液100mlにDNA水溶液を加え、1時間反応させた。反応後生じた沈殿物を遠心分離した。得られた沈殿物をトリス塩酸緩衝液(10mM、pH7.2)(以下Tris−HCl緩衝液という)60mlで洗浄し、再度遠心分離した。Tris−HCl緩衝液洗浄は2回行った。次に、蒸留水60mlで洗浄した後、遠心分離を行った。蒸留水洗浄は3回行った。得られた白色沈殿物を凍結乾燥した。収量は600mgで、リンの定量よりDNA/キトサン複合体(サンプルA)の分子量比率(モル比)は0.95/1であった。
【0036】
上記の製造方法の中で反応物の濃度を変えた場合、すなわちDNA水溶液(7.5mg/1ml)とキトサン水溶液(2.5mg/1ml)あるいはDNA水溶液(2.5mg/1ml)とキトサン水溶液(7.5mg/1ml)を用いるとDNA/キトサン複合体の分子量比率(モル比)は1.28/1と0.88/1で、収量は700mgと300mgであつた。
【0037】
上記の製造方法の中で緩衝液の種類を変えた場合はDNA/キトサン複合体中の気孔率と気孔径が異なる。
【0038】
例えば、リン酸緩衝液(10 mM、pH7.2、0.9%NaCl)(以下PBS緩衝液という)、HEPES緩衝液(10mM、pH7.2)よりTris−HCl緩衝液やホウ酸緩衝液(10mM,pH7.2)で洗浄したDNA/キトサン複合体中の気孔の数は多く、形態も大きい。
【0039】
上記の製造方法の中でDNA/キトサンの分子量比率(モル比)が異なれば、同じ緩衝液で処理してもDNA/キトサン反応物中の気孔率と気孔径が異なる。例えば、Tris−HCl緩衝液で洗浄したDNA/キトサン複合体中のDNA含有量の少ない物の方が気孔率は大きい。
【0040】
実施例2(DNA/キトサン複合体のディスクの作製)
実施例1で得たDNA/キトサン複合体(サンプルA)を粉砕機等で粉砕し、実施例1で用いたのと同様のリン酸緩衝液で洗浄後、図1で示すように中心部が円形にくり貫かれた孔になっているシリコーンパッキンからなる型(外径20、内径8、厚さ2mm)の孔に入れた。なお、型の底部は、ステンレス板(20×20×1mm)に接着剤で固定されている。ろ紙などでDNA/キトサン複合体の水分を吸い取りながら平らにした後、ナイロンメッシュ(PE24、526μm)で数回押し付けて更に平らにし、同じメッシュで蓋をした。これを同様のリン酸緩衝液に10分間浸した後、メッシュを取り除き、DNA/キトサン複合体複合体の水分をろ紙などで除いた。そしてポリエチレンフィルムとステンレス板で蓋をし、液体窒素に漬けた。引上げてポリエチレンフィルムとステンレス板を除いた後、前述のナイロンメッシュで蓋をして再度液体窒素に漬けた。引上げてナイロンメッシュを除いて得られたディスク状型内のDNA/キトサン複合体を凍結乾燥して、図2の写真に示す歯科医療用などに好適な性状を有するディスク状のDNA/キトサン複合体を得た。
【0041】
実施例3(糸状、ボール状、あるいは自由に成型加工されたDNA/キトサン複合体の作製方法)
実施例1で得たDNA/キトサン複合体(サンプルA)に水を加えてクリーム状のスラリーとし、シリンジに入れた。実施例2で用いたのと同様のリン酸緩衝液にこのシリンジ先端の針からスラリーを注入すると、即座に注入された形状で形態が維持されたDNA/キトサン複合体が得られた。この場合、ニードルの先端から連続してリン酸緩衝液に注入すると糸状に、また涙滴状にしてリン酸バッファー中に落とし込むとボール状までの形態にすることができた。さらに上記の糸状複合体を数個を積層する要領でモールドに入れ、余剰の水分をろ紙等で吸い取って凍結乾燥すると、モールドに応じた形態に自由に成型することができた。
【0042】
実施例4(DNA/キトサン複合体の製造;その2)
メインのピークを300bp付近に持つ低分子二本鎖DNA(LdsDNA)1gを脱イオン水で溶解後、最終的に200ml(5mg/ml)となるようにした。一方、モル比でデオキシヌクレオチド(dNMP)に対して1.5倍量となるようにキトサン(分子量13万、ニチロ社製)を測り取り、0.2NHClを用いて溶解後、0.2NNaOHを用いて最終的にpH5.0、5mg/ml溶液となるようにした。その後、LdsDNA溶液とキトサン溶液を混合し、1時間室温で撹拌した後、遠心分離(10000rpm、5分)により沈殿物を回収した。この沈殿物に脱イオン水100mlを添加し、遠心分離(8000rpm、5分)した。この洗浄工程を2回行った。得られた沈殿物を凍結乾燥し、DNA/キトサン複合体として回収した。
【0043】
実施例5(DNA/キトサン複合体ペレット成型法)
実施例4の方法にて回収したDNA/キトサン複合体200mgに脱イオン水1mlを加え均一化させるために乳鉢ですり潰してクリーム状のスラリーを得た。このスラリーを、10mMリン酸緩衝液(10mM Na2HPO4・12H2O、10mM KH2PO4;pH7.4、100mM NaCl及び3mM KClを含む)50ml中に添加し、10分間静置し、緩衝液中に塊を得た。得られた塊を、底面を有する円形の枠内に充填し、余分な水分をキムワイプで除去しながら成型化し、枠内に充填した状態で凍結乾燥してペレットを得た。
【0044】
更に、リン酸緩衝液の濃度を10mMから100mMに上げたところ、ペレット強度が構向上した。
【0045】
実施例6
実施例5で得たスラリーをシリンジに充填し、実施例5で用いたもとと同様のリン酸バッファー中に糸状に押し出した。得られた糸状の塊をその形状を維持して凍結乾燥することで、糸状の成形物を得た。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】DNA/キトサン複合体のペレットを成型する型の図である。
【図2】成型したDNA/キトサン複合体のペレットを示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 ステンレス板
2 シリコーン型
3 ナイロンメッシュ
4 型内に充填されたDNA/キトサン複合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA/キトサン複合体の成形方法において、
DNA/キトサン複合体を成型用の型内に充填する工程と、
前記型内に充填されたDNA/キトサン複合体に緩衝液を供給する工程と、
前記型内の前記緩衝液を含むDNA/キトサン複合体を該型内に充填した状態で凍結乾燥し、該型の形状に成型されたDNA/キトサン複合体成型物を得る工程と
を有することを特徴とするDNA/キトサン複合体の成形方法。
【請求項2】
前記DNA/キトサン複合体が、水性媒体中でDNAとキトサンを反応させて沈殿物として得られたものである請求項1に記載の成形方法。
【請求項3】
DNA/キトサン複合体の成形方法において、
DNA/キトサン複合体を緩衝液中に投与し、該DNA/キトサン複合体の塊を得る工程と、
前記該DNA/キトサン複合体の塊を成型用の型内に充填する工程と、
前記型内のDNA/キトサン複合体を該型内に充填した状態で凍結乾燥し、該型の形状に成型されたDNA/キトサン複合体成型物を得る工程と
を有することを特徴とするDNA/キトサン複合体の成形方法。
【請求項4】
前記DNA/キトサン複合体が、水性媒体中でDNAとキトサンを反応させて沈殿物として得られたものである請求項3に記載の成形方法。
【請求項5】
DNA/キトサン複合体の成形方法において、
DNA/キトサン複合体の水性スラリーを緩衝液中に投与し、投入状態に応じた形状の固まりを得る工程と、
前記該DNA/キトサン複合体の塊を凍結乾燥し、前記投入状態に応じた形状のDNA/キトサン複合体成形物を得る工程と
を有することを特徴とするDNA/キトサン複合体の成形方法。
【請求項6】
前記DNA/キトサン複合体が、水性媒体中でDNAとキトサンを反応させて沈殿物として得られたものである請求項5に記載の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−97884(P2007−97884A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292630(P2005−292630)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(500117624)
【出願人】(504131378)
【出願人】(000233620)株式会社ニチロ (34)
【Fターム(参考)】