EBG構造体の製造方法、EBG構造体、EBG構造シート及びアンテナ装置
【課題】低損失なEBG構造体とそれを用いたアンテナ装置、無線タグを提供すること。
【解決手段】EBG構造体の単位セル毎に、トップ電極1とグランド電極2とを接続するビア3の本数を複数本として高周波電流の流れる経路を分散したり、ビア3の総表面積を大きくして高周波電流がビア3を流れる際に生じる損失を低減したりすることのより、ビア3に起因したEBGの損失を低減し、アンテナ特性への悪影響を抑制する。ビアの本数を単一とする一方でその外形を大きくしてビアの表面積を大きくすることとしても良い。
【解決手段】EBG構造体の単位セル毎に、トップ電極1とグランド電極2とを接続するビア3の本数を複数本として高周波電流の流れる経路を分散したり、ビア3の総表面積を大きくして高周波電流がビア3を流れる際に生じる損失を低減したりすることのより、ビア3に起因したEBGの損失を低減し、アンテナ特性への悪影響を抑制する。ビアの本数を単一とする一方でその外形を大きくしてビアの表面積を大きくすることとしても良い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EBG(Electromagnetic Band Gap)構造体に関し、特に無線タグ又はRFID(Radio Frequency Identification)タグのようなアンテナ装置の構成要素に適するEBG構造体及びその製造方法又は設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の機器の小型化により、例えば、グランド電極プレーン等の金属面とアンテナとの距離が短くなってきており、それによるアンテナ特性の劣化が懸念されている。また、無線タグ又はRFIDタグを金属面に貼付すると、無線タグに含まれるアンテナの特性が著しく劣化し、無線タグが適切に機能しなくなることも知られている。これらの問題は、いずれも金属面の表面インピーダンスが低いことに起因している。
【0003】
金属面の低い表面インピーダンスが、入射電界と180度位相の異なる反射電界を生成し、逆相の反射波を生じさせることにより、金属近傍では合成電界が小さくなり、金属近傍に配置されたアンテナや無線タグの性能が著しく劣化することとなっている。
【0004】
逆に、表面インピーダンスの高いものをアンテナ近傍に配置することができれば、その高い表面インピーダンスによりインピーダンス面に入射した電磁波が同相反射され、アンテナ性能を向上させることが知られている。すなわち、金属とアンテナの間に、高い表面インピーダンスを持つものを挿入することにより、金属によるアンテナ特性の劣化を防止できる。
【0005】
高いインピーダンスを有するシート状構造体としては、EBG(Electromagnetic BandGap)構造体があり、その代表例として、従来、ビアを有する所謂マッシュルーム状導体の周期構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,538,621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば無線タグなどにEBG構造体を使用し、金属対応無線タグとする場合、EBG構造体の単位セルを小さく、薄くする必要がある。
【0008】
しかし、EBG構造体の単位セルを薄く、小形にするほど、単位セル内部の電流密度、電界強度が高くなり、EBG構造体内部における高周波損失が大きくなるため、EBG構造体の同相反射性能が劣化するという問題がある。また、EBG構造体に無線タグを実装した場合、無線タグとEBG構造体が近接すればするほど、無線タグのアンテナとEBG構造体が相関し、EBG構造体の損失がアンテナの損失になり、アンテナ特性が劣化するという問題がある。特に、無線タグをEBG構造体上に実装してなるアンテナ装置を金属上に置いた場合、金属の影響により、EBGの損失が増大し、アンテナ性能を劣化させる。そのため、金属上で期待されるほどの耐金属効果が実現できないという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、金属上に配置されたアンテナ装置の一部として用いられた場合にアンテナ特性の劣化を抑えることのできるEBG構造体及びそれを用いたアンテナ装置を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、かかるEBG構造体の製造方法又は設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
アンテナによる送受信を行う際にはEBG構造体が励振される。これにより、特にビア付きのEBG構造体の場合、EBG構造体の単位セル中を流れる高周波電流はビアに集中する。従って、例えば、ビアの本数を複数本とすれば、高周波電流の流れる経路を分散することができる。
【0012】
加えて、高周波電流は導体表面の表皮深さ以内にしか流れないため、ビアの表面積を大きくすることによって、電流密度を低減できる。ビアは通常、スルーホールを開けて、内面を導体にてめっきして作るため、中央に穴のあいた円筒形になる。EBG構造体の内部電流はビアの外径部の表面を流れるため、EBG構造体の単位セル内部を流れる高周波電流はビアの外径部の表面に集中する。そこで、導電損失は電流密度の2乗に比例することから、ビアの外径を大きくする及び/又はビアを複数本とすることとして、高周波電流の流れる表面積を大きくして単位セル内部の表面電流密度を下げれば、高周波電流に起因した損失が減り、EBG構造体の性能劣化が軽減する。
【0013】
このように、ビアを複数本としたりビアを太くしたりすることにより、高周波電流のビアにおける損失を低減することができ、その結果、EBG構造体に近接して配置された無線タグなどのアンテナの損失の低減も図り、タグ性能の向上を図ることができる。
【0014】
本発明は、上記のような知見に基づいてなされたものであり、具体的には、以下に掲げる解決手段を提供する。
【0015】
即ち、本発明によれば、トップ電極、グランド電極、前記トップ電極と前記グランド電極とを電気的につなげるビアを備える単位セルを繰り返し並べるようにして構成されるEBG(Electromagnetic Band Gap)構造体を製造する際に、前記単位セル毎に前記ビアを複数本とし及び/又は前記ビアの外径を太くすることにより、高周波電流の前記ビアにおける損失を低減するEBG構造体の製造方法又は設計方法が得られる。
【0016】
また、本発明によれば、所定周波数において使用されるアンテナ装置の一部を構成し得るEBG
(Electromagnetic Band Gap)構造体であって、トップ電極、グランド電極、前記トップ電極と前記グランド電極とを電気的につなげるビアを備える単位セルを繰り返し並べるようにして構成されるEBG構造体において、前記ビアは前記単位セル毎に複数本設けられている、EBG構造体が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、前記EBG構造体において、
前記単位セル毎の前記ビアは互いに同一の形状を有しており、
前記単位セルのそれぞれに含まれる前記ビアのそれぞれの外径は、前記所定周波数に対応する自由空間波長をλ、前記ビアの本数をnとした場合に、λ/(400n)以上である、
EBG構造体が得られる。
【0018】
また、本発明によれば、トップ電極、グランド電極、前記トップ電極と前記グランド電極とを電気的につなげるビアを備える単位セルを繰り返し並べるようにして構成されるEBG(Electromagnetic Band Gap)構造体であって、所定周波数において使用されるアンテナ装置の一部を構成し得るEBG構造体において、前記ビアは前記単位セル毎に一本のみ設けられており、該単位セルのそれぞれに含まれる前記ビアの外径は前記所定周波数に対応する自由空間波長をλとした場合にλ/400以上である、EBG構造体が得られる。
【0019】
また、本発明によれば、前記EBG構造体において、
前記トップ電極と前記グランド電極の間に設けられた誘電体を更に備える、EBG構造体が得られる。
【0020】
また、本発明によれば、前記誘電体は、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)などのセラミックス、FR−4(Flame retardant-4)などのガラスエポキシ系基板材、テフロン(登録商標)系基板材、BT(Bismaleimide Triazine)レジン系基板材、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系熱可塑性樹脂フィルム、若しくは、PET(Polyethylene terephthalate)若しくはPET−G(Polyethylene
terephthalate Glycol)などの樹脂、リネンなどの繊維又はそれらの複合体からなる、EBG構造体が得られる。
【0021】
更に、本発明によれば、前記EBG構造体において、
前記トップ電極と前記グランド電極に直接接触しないように、前記誘電体に保持された浮遊容量電極を更に備える、EBG構造体が得られる。
【0022】
また、本発明によれば、
前記EBG構造体と、
該EBG構造体上に設けられた絶縁体からなるアンテナ支持層
を備えるEBG構造シートが得られる。
【0023】
また、本発明によれば、前記EBG構造シートにおいて、
前記アンテナ支持層は、発泡ポリエチレン、アクリルフォーム若しくはウレタンなどの発泡材、テフロン(登録商標)やPET(Polyethylene terephthalate)若しくはPET−G(Polyethylene
terephthalate Glycol)など前記所定周波数において誘電率が4以下且つtanδが0.01以下の低誘電率且つ低損失の樹脂、ガラスエポキシ系基板材、テフロン(登録商標)系基板材若しくはBT(Bismaleimide Triazine)レジン系基板材などの低損失基板材、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系熱可塑性樹脂フィルム、リネンなどの繊維、ハニカム構造など空気層を含む樹脂構造体、又はそれらの組み合わせのいずれかからなる
EBG構造シートが得られる。
【0024】
また、本発明によれば、
前記誘電体を有する前記EBG構造体と、
該EBG構造体上に設けられたアンテナ支持層であって前記EBG構造体の前記誘電体と同じ材料からなるアンテナ支持層と
を備えるEBG構造シートが得られる。
【0025】
更に、本発明によれば、
前記EBG構造シートと、
前記アンテナ支持層上に設けられたアンテナ又は無線タグと
を備えるアンテナ装置が得られる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ビアを複数本として高周波電流の電流経路の分散を図ったり、ビアの表面積を総合的に多くして高周波電流の損失を低減したりすることとしたため、EBG構造体の性能劣化を軽減することができる。従って、かかるEBG構造体を無線タグのようなアンテナ装置の一部として用いると、当該アンテナ装置が金属上に配置された場合であっても、アンテナの損失を低く抑えることができ、アンテナ装置の性能向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態によるアンテナ装置は、金属対応無線タグであり、950MHz対において使用されるものである。
【0028】
図1に示されるように、本実施の形態によるアンテナ装置100は、EBG構造体10、EBG構造体10上に設けられたアンテナ支持層20、アンテナ支持層20によって支持されたアンテナ30、及びアンテナ30と接続されるようにしてアンテナ支持層20上に搭載されたIC40を備えている。本実施の形態によるアンテナ装置100では、EBG構造体10の上にアンテナ30が設けられていることから、アンテナの利得向上が図られると共に、後に詳述するEBG構造体10の構造によりアンテナ装置100が金属面上に搭載されたとしても当該金属とアンテナ30との相関が低減されている。なお、本実施の形態によるアンテナ装置のZ方向におけるトータル厚みは1.9mmである。
【0029】
EBG構造体10は、図2に示されるように、概略、図3に示されるような単位セルを繰り返し並べてなるようなシート状の構造体である。本実施の形態における単位セルは、Z方向から見た場合に25mm角の正方形形状を有しており、Z方向において0.7mmの厚みを有するものである。即ち、本実施の形態における単位セルは、25x25x0.7mmである。また、EBG構造体10は、5x5の単位セルで構成されており、125x125x0.7mmである。
【0030】
詳しくは、図1乃至図3から理解されるように、EBG構造体10の単位セルは、トップ電極1と、グランド電極2と、トップ電極1とグランド電極2とを接続するビア3と、トップ電極1とグランド電極との間に充填された誘電体4と、誘電体4に保持された浮遊キャパシタ電極5を備えている。このうち、トップ電極1、グランド電極2、ビア3及び浮遊キャパシタ電極5は、導体からなる。なお、図1と図2及び図3を比較すれば理解されるように、図2及び図3においては、理解を助けるべく、誘電体4が省略されている。
【0031】
図1及び図2から理解されるように、トップ電極1は単位セル毎に独立するようにして設けられているが、グランド電極は複数の単位セルに共通するようにして設けられたベタ電極である。
【0032】
図3に示されるように、本実施の形態によるEBG構造体10の単位セルは、複数のビア3を備えている。具体的には、本実施の形態によるビア3は、単位セル毎に、2本設けられている。2本のビア3は、互いに同一形状であり、それぞれの外径Φは0.4mmである。即ち、本実施の形態によるビア3の外径Φは、λ/(400n)以上という条件を満たしている。ここで、λは、アンテナ装置100の使用周波数に対応する自由空間波長であり、nはビア3の本数である。
【0033】
本実施の形態による誘電体4の材料は、誘電損失(tanδ)の小さいものが望ましく、その例としては、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)などのセラミックス、FR−4(Flame retardant-4)などのガラスエポキシ系基板材、テフロン(登録商標)系基板材、BT(Bismaleimide Triazine)レジン系基板材、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系熱可塑性樹脂フィルム、若しくは、PET(Polyethylene terephthalate)若しくはPET−G(Polyethylene
terephthalate Glycol)などの樹脂やプラスチック、リネンなどの繊維又はそれらの複合体などが挙げられる。このうち、プラスチックについて更に詳しくは、塩化ビニール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネイト、ポリスチレン、ABS樹脂などの熱可塑性プラスチックでも、メラミン樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性プラスチックでも良い。
【0034】
本実施の形態による浮遊キャパシタ電極5は、トップ電極1、グランド電極2及びビア3と絶縁された状態で且つ誘電体4内においてフローティング状態となるように、誘電体4に保持されている。詳しくは、浮遊キャパシタ電極4は、トップ電極1にごく近い位置にフローティング状態で設けられている。
【0035】
図1に戻り、本実施の形態によるアンテナ支持層20は、絶縁体からなるものである。具体的には、本実施の形態におけるアンテナ支持層20は、厚み1.1mmの発泡ポリエチレンからなる。アンテナ支持層20は、EBG構造体10とアンテナ30との相関を低減するために、できるだけ低誘電率の材料を用いる方が好ましい。また誘電損失を低減するために、低tanδの材料(低誘電損失材料)を用いることが望ましい。具体的には、発泡ポリエチレン、アクリルフォーム若しくはウレタンなどの発泡材、テフロン(登録商標)、PET(Polyethylene terephthalate)若しくはPET−G(Polyethylene
terephthalate Glycol)などの樹脂やプラスチック、又はリネンなどの繊維が望ましい。プラスチックについて更に詳しくは、塩化ビニール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネイト、ポリスチレン、ABS樹脂などの熱可塑性プラスチックでも、メラミン樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性プラスチックでも良い。また、ガラスエポキシ系基板材、テフロン(登録商標)系基板材、BT(Bismaleimide Triazine)レジン系基板材や、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系熱可塑性樹脂フィルムでも良い。また、アンテナ支持層20を樹脂で形成し且つそこに空気層を含むようにして構成された樹脂構造体としてもよい。樹脂構造体の例としては、ハニカム構造などが挙げられる。更にはそれらの組み合わせであっても良い。加えて、PETや低損失基板を用いて、EBG構造体10の誘電体4とアンテナ支持層20を同じ材料からなるものとし、EBG構造体10とアンテナ支持層20を一体で作っても良い。この場合、コストダウンを図ることができる。
【0036】
本実施の形態によるアンテナ30は、ダイポールアンテナであり、例えば、薄いPETなどにアルミ箔や銅箔などの導体箔を貼付して構成されたものである。前述したように、導体箔にはIC40が接続されている。ダイポールアンテナは、例えば、整合用の小ループ構造の付いたものでも良い。
【0037】
アンテナ30による送受信を行う際、EBG構造体10が励振されビア3に電流が流れる。特に、同相反射周波数付近では、単位セルが共振状態に近いため、大きな電流が流れる。アンテナ30とEBG構造体10の距離が近いと、相関により、ビア3の導体損失等、EBG構造体10における損失は、アンテナ30の損失となり、アンテナ30の特性に影響を与える。
【0038】
しかしながら、本実施の形態のように、単位セル毎のビア3が複数本ある場合、電流経路が分散されるため、電流密度が部分的に集中してしまうことを避けることができる。
【0039】
加えて、単位セル毎のビア3のトータルの表面積を大きくすることにより、ビア3における導体損失を低減することができる。
【0040】
詳しくは、導体損失は、EBG構造体10を金属板等の上に置いた場合、金属板とEBG構造体10との間の相関により、より大きくなる傾向にある。一方で、UHF帯タグの国内周波数953MHzのような高周波では、表皮深さ程度の厚み内にしか高周波電流は流れない。表皮深さは、例えば、周波数が1GHzの場合、アルミであれば2.52μm、銅であれば2.09μmであり、高周波電流はそれより深いところにはほとんど流れない。そのため、例えば、従来1本であったビアのサイズを変更せずにビアの本数のみを2本にした場合、高周波電流の流れる面積は2倍になるため、電流密度は半分になる。更には、導体損失は、電流密度の2乗に比例するため、1/4になる。即ち、ビアの本数を増やしたことにより、ビアの表面積をトータルで増やすことができ、それにより、ビアにおける導体損失を低減することができる。そのため、EBG構造体10を金属板等の上に置いたとしても、アンテナ特性に与える悪影響を低減することができる。従って、本実施の形態によるEBG構造体10を一部に含むアンテナ装置100の近傍に金属があったとしても、本実施の形態によるアンテナ装置100によれば、良好な通信距離を得ることができる。
【0041】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態によるアンテナ装置は、上述した第1の実施の形態によるアンテナ装置の変形例であり、単位セルのサイズ、EBG構造体のサイズ、アンテナ支持体の材質及びサイズ、アンテナ及びICの構成、アンテナ装置のサイズなどは第1の実施の形態と同様である。従って、以下においては、本実施の形態によるアンテナ装置のうち第1の実施の形態と同様な事項についての詳細な説明は省略することとし、第1の実施の形態との差異となる部分を中心に説明する。
【0042】
本実施の形態によるアンテナ装置のEBG構造体は、図4に示されるような単位セルを繰り返し配置してなるシート状の構造体である。詳しくは、本実施の形態による単位セルは、第1の実施の形態と同様に、トップ電極1、グランド電極2、誘電体(図4においては図示せず)及び浮遊キャパシタ電極5を備えると共に、第1の実施の形態とは異なるビア3aを備えている。
【0043】
図4に示されるように、本実施の形態によるビア3aは、第1の実施の形態と同様に、トップ電極1とグランド電極2とを接続するものであるが、第1の実施の形態とは異なり、単位セル毎に一本のみ設けられたものである。但し、ビア3aは、第1の実施の形態のビアよりも太い。即ち、ビア3aの外径は、第1の実施の形態のビアよりも大きい。具体的には、本実施の形態におけるビア3aの外径Φは、0.8mmである。即ち、本実施の形態によるビア3aの外径Φは、λ/400以上(即ち、λの0.25%以上)という条件を満たしている。なお、λは、アンテナ装置の使用周波数に対応する自由空間波長であり、例えば、950MHzの電磁波の場合、自由空間波長は315.8mmである。
【0044】
上述した構造を有する本実施の形態によるアンテナ装置(具体的には、950MHz帯金属対応無線タグ)を200x300x2mmのアルミ板上に載置し、アンテナ装置の通信距離を電波暗室内において測定した。同様に、比較例として、外径Φが0.4mmであるビアを単位セル毎に一本のみ有するようなEBG構造体を用いてアンテナ装置を作成し、そのアンテナ装置の通信距離についても同様にして測定した。その結果、比較例のアンテナ装置の通信距離が2.8mmであったのに対して、本実施の形態によるアンテナ装置の通信距離は4mmであった。即ち、自由空間用タグの自由空間における通信距離は4m程度のため、金属板上に置いても、自由空間用タグを自由空間で使用している場合と同等の通信距離が得られた。これは、第1の実施の形態においてビアの総表面積の増加によりビアを流れる電流密度を低下させそれによってビアにおける導体損失を低減させたのと同様の理由によるものである。即ち、本実施の形態によるビアの場合、比較例のビアの2倍の表面積を有している。そのため、ビア表面の電流密度は1/2となり、ビア表面における導体損失は1/4となる。そのため、EBG構造体の損失を抑えることができ、金属があっても良好なアンテナ特性を得ることができる。
【0045】
具体的な実施の形態を提示して上述した本発明の概念は、様々なEBG構造体に適用可能であり、単位セル毎のビアの本数を複数にしたりビアの径を太くしたりすることにより、単位セル毎のビアの総表面積を増やすことによりビアにおける導体損失を低減している限り、上述した実施の形態に対して様々な変形を加えても良い。
【0046】
具体的には、単位セルの構造が当該単位セルの対角線に対して非対称であるような場合にも、本発明の概念は適用可能である。即ち、少数の単位セルを並べて構成されたEBG構造体においては、単位セルの数が直交する2方向で異なる場合、それぞれの方向で同相反射周波数が異なる。方向によらず同相反射周波数を同じにするためには、単位セルの構造(単位セル自体の外形、隣接する単位セルのトップ電極間の距離、浮遊キャパシタ電極の形状など)を単位セルの対角線に対して、非対称にする必要がある。例えば、図5に示されるEBG構造体では、浮遊キャパシタ電極5a,5bの構造を異ならせて非対称構造の単位セルが構成されているが、かかる単位セルにおいても、第1の実施の形態と同様に、ビア3の本数を複数本(図5では2本)としてあることにより、第1の実施の形態と同様の損失低減効果を得ることができる。
【0047】
また、例えば、図6乃至図8に示されるように、一方向性電界にしか対応していないようなEBG構造体を有するアンテナ装置200の場合にも、本発明の概念は適用可能である。即ち、図示されたアンテナ装置200は、浮遊キャパシタ電極5c,5dの形状をそれぞれ長方形とし、アンテナ30の長手方向(即ち、X方向)のみにおいて同相反射特性を有するように浮遊キャパシタ電極5c,5dを配置したものであるが、かかる場合にも、単位セル毎のビア3の本数を複数本(図7及び図8に示される例では2本)としてあることにより、第1の実施の形態と同様の損失低減効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるアンテナ装置を概略的に示す断面図である。
【図2】図1に示されるアンテナ装置に含まれるEBG構造体を概略的に示す斜視図である。
【図3】図2のEBG構造体に含まれる単位セルを概略的に示す斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態によるアンテナ装置に含まれるEBG構造体の単位セルを概略的に示す斜視図である。
【図5】EBG構造体の変形例を概略的に示す図であって浮遊キャパシタ以下の構造を示す上面図である。
【図6】アンテナ装置の他の変形例を概略的に示す上面図である。図においては、アンテナ支持層が省略されている。
【図7】図6のアンテナ装置におけるEBG構造体を概略的に示す図であって、浮遊キャパシタ以下の構造を示す上面図である。
【図8】図6のアンテナ装置におけるEBG構造体の単位セルを概略的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0049】
1 トップ電極
2 グランド電極
3,3a ビア
4 誘電体
5,5a〜5d 浮遊キャパシタ電極
10 EBG構造体
20 アンテナ支持層
30 アンテナ
40 IC
【技術分野】
【0001】
本発明は、EBG(Electromagnetic Band Gap)構造体に関し、特に無線タグ又はRFID(Radio Frequency Identification)タグのようなアンテナ装置の構成要素に適するEBG構造体及びその製造方法又は設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の機器の小型化により、例えば、グランド電極プレーン等の金属面とアンテナとの距離が短くなってきており、それによるアンテナ特性の劣化が懸念されている。また、無線タグ又はRFIDタグを金属面に貼付すると、無線タグに含まれるアンテナの特性が著しく劣化し、無線タグが適切に機能しなくなることも知られている。これらの問題は、いずれも金属面の表面インピーダンスが低いことに起因している。
【0003】
金属面の低い表面インピーダンスが、入射電界と180度位相の異なる反射電界を生成し、逆相の反射波を生じさせることにより、金属近傍では合成電界が小さくなり、金属近傍に配置されたアンテナや無線タグの性能が著しく劣化することとなっている。
【0004】
逆に、表面インピーダンスの高いものをアンテナ近傍に配置することができれば、その高い表面インピーダンスによりインピーダンス面に入射した電磁波が同相反射され、アンテナ性能を向上させることが知られている。すなわち、金属とアンテナの間に、高い表面インピーダンスを持つものを挿入することにより、金属によるアンテナ特性の劣化を防止できる。
【0005】
高いインピーダンスを有するシート状構造体としては、EBG(Electromagnetic BandGap)構造体があり、その代表例として、従来、ビアを有する所謂マッシュルーム状導体の周期構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,538,621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば無線タグなどにEBG構造体を使用し、金属対応無線タグとする場合、EBG構造体の単位セルを小さく、薄くする必要がある。
【0008】
しかし、EBG構造体の単位セルを薄く、小形にするほど、単位セル内部の電流密度、電界強度が高くなり、EBG構造体内部における高周波損失が大きくなるため、EBG構造体の同相反射性能が劣化するという問題がある。また、EBG構造体に無線タグを実装した場合、無線タグとEBG構造体が近接すればするほど、無線タグのアンテナとEBG構造体が相関し、EBG構造体の損失がアンテナの損失になり、アンテナ特性が劣化するという問題がある。特に、無線タグをEBG構造体上に実装してなるアンテナ装置を金属上に置いた場合、金属の影響により、EBGの損失が増大し、アンテナ性能を劣化させる。そのため、金属上で期待されるほどの耐金属効果が実現できないという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、金属上に配置されたアンテナ装置の一部として用いられた場合にアンテナ特性の劣化を抑えることのできるEBG構造体及びそれを用いたアンテナ装置を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、かかるEBG構造体の製造方法又は設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
アンテナによる送受信を行う際にはEBG構造体が励振される。これにより、特にビア付きのEBG構造体の場合、EBG構造体の単位セル中を流れる高周波電流はビアに集中する。従って、例えば、ビアの本数を複数本とすれば、高周波電流の流れる経路を分散することができる。
【0012】
加えて、高周波電流は導体表面の表皮深さ以内にしか流れないため、ビアの表面積を大きくすることによって、電流密度を低減できる。ビアは通常、スルーホールを開けて、内面を導体にてめっきして作るため、中央に穴のあいた円筒形になる。EBG構造体の内部電流はビアの外径部の表面を流れるため、EBG構造体の単位セル内部を流れる高周波電流はビアの外径部の表面に集中する。そこで、導電損失は電流密度の2乗に比例することから、ビアの外径を大きくする及び/又はビアを複数本とすることとして、高周波電流の流れる表面積を大きくして単位セル内部の表面電流密度を下げれば、高周波電流に起因した損失が減り、EBG構造体の性能劣化が軽減する。
【0013】
このように、ビアを複数本としたりビアを太くしたりすることにより、高周波電流のビアにおける損失を低減することができ、その結果、EBG構造体に近接して配置された無線タグなどのアンテナの損失の低減も図り、タグ性能の向上を図ることができる。
【0014】
本発明は、上記のような知見に基づいてなされたものであり、具体的には、以下に掲げる解決手段を提供する。
【0015】
即ち、本発明によれば、トップ電極、グランド電極、前記トップ電極と前記グランド電極とを電気的につなげるビアを備える単位セルを繰り返し並べるようにして構成されるEBG(Electromagnetic Band Gap)構造体を製造する際に、前記単位セル毎に前記ビアを複数本とし及び/又は前記ビアの外径を太くすることにより、高周波電流の前記ビアにおける損失を低減するEBG構造体の製造方法又は設計方法が得られる。
【0016】
また、本発明によれば、所定周波数において使用されるアンテナ装置の一部を構成し得るEBG
(Electromagnetic Band Gap)構造体であって、トップ電極、グランド電極、前記トップ電極と前記グランド電極とを電気的につなげるビアを備える単位セルを繰り返し並べるようにして構成されるEBG構造体において、前記ビアは前記単位セル毎に複数本設けられている、EBG構造体が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、前記EBG構造体において、
前記単位セル毎の前記ビアは互いに同一の形状を有しており、
前記単位セルのそれぞれに含まれる前記ビアのそれぞれの外径は、前記所定周波数に対応する自由空間波長をλ、前記ビアの本数をnとした場合に、λ/(400n)以上である、
EBG構造体が得られる。
【0018】
また、本発明によれば、トップ電極、グランド電極、前記トップ電極と前記グランド電極とを電気的につなげるビアを備える単位セルを繰り返し並べるようにして構成されるEBG(Electromagnetic Band Gap)構造体であって、所定周波数において使用されるアンテナ装置の一部を構成し得るEBG構造体において、前記ビアは前記単位セル毎に一本のみ設けられており、該単位セルのそれぞれに含まれる前記ビアの外径は前記所定周波数に対応する自由空間波長をλとした場合にλ/400以上である、EBG構造体が得られる。
【0019】
また、本発明によれば、前記EBG構造体において、
前記トップ電極と前記グランド電極の間に設けられた誘電体を更に備える、EBG構造体が得られる。
【0020】
また、本発明によれば、前記誘電体は、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)などのセラミックス、FR−4(Flame retardant-4)などのガラスエポキシ系基板材、テフロン(登録商標)系基板材、BT(Bismaleimide Triazine)レジン系基板材、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系熱可塑性樹脂フィルム、若しくは、PET(Polyethylene terephthalate)若しくはPET−G(Polyethylene
terephthalate Glycol)などの樹脂、リネンなどの繊維又はそれらの複合体からなる、EBG構造体が得られる。
【0021】
更に、本発明によれば、前記EBG構造体において、
前記トップ電極と前記グランド電極に直接接触しないように、前記誘電体に保持された浮遊容量電極を更に備える、EBG構造体が得られる。
【0022】
また、本発明によれば、
前記EBG構造体と、
該EBG構造体上に設けられた絶縁体からなるアンテナ支持層
を備えるEBG構造シートが得られる。
【0023】
また、本発明によれば、前記EBG構造シートにおいて、
前記アンテナ支持層は、発泡ポリエチレン、アクリルフォーム若しくはウレタンなどの発泡材、テフロン(登録商標)やPET(Polyethylene terephthalate)若しくはPET−G(Polyethylene
terephthalate Glycol)など前記所定周波数において誘電率が4以下且つtanδが0.01以下の低誘電率且つ低損失の樹脂、ガラスエポキシ系基板材、テフロン(登録商標)系基板材若しくはBT(Bismaleimide Triazine)レジン系基板材などの低損失基板材、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系熱可塑性樹脂フィルム、リネンなどの繊維、ハニカム構造など空気層を含む樹脂構造体、又はそれらの組み合わせのいずれかからなる
EBG構造シートが得られる。
【0024】
また、本発明によれば、
前記誘電体を有する前記EBG構造体と、
該EBG構造体上に設けられたアンテナ支持層であって前記EBG構造体の前記誘電体と同じ材料からなるアンテナ支持層と
を備えるEBG構造シートが得られる。
【0025】
更に、本発明によれば、
前記EBG構造シートと、
前記アンテナ支持層上に設けられたアンテナ又は無線タグと
を備えるアンテナ装置が得られる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ビアを複数本として高周波電流の電流経路の分散を図ったり、ビアの表面積を総合的に多くして高周波電流の損失を低減したりすることとしたため、EBG構造体の性能劣化を軽減することができる。従って、かかるEBG構造体を無線タグのようなアンテナ装置の一部として用いると、当該アンテナ装置が金属上に配置された場合であっても、アンテナの損失を低く抑えることができ、アンテナ装置の性能向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態によるアンテナ装置は、金属対応無線タグであり、950MHz対において使用されるものである。
【0028】
図1に示されるように、本実施の形態によるアンテナ装置100は、EBG構造体10、EBG構造体10上に設けられたアンテナ支持層20、アンテナ支持層20によって支持されたアンテナ30、及びアンテナ30と接続されるようにしてアンテナ支持層20上に搭載されたIC40を備えている。本実施の形態によるアンテナ装置100では、EBG構造体10の上にアンテナ30が設けられていることから、アンテナの利得向上が図られると共に、後に詳述するEBG構造体10の構造によりアンテナ装置100が金属面上に搭載されたとしても当該金属とアンテナ30との相関が低減されている。なお、本実施の形態によるアンテナ装置のZ方向におけるトータル厚みは1.9mmである。
【0029】
EBG構造体10は、図2に示されるように、概略、図3に示されるような単位セルを繰り返し並べてなるようなシート状の構造体である。本実施の形態における単位セルは、Z方向から見た場合に25mm角の正方形形状を有しており、Z方向において0.7mmの厚みを有するものである。即ち、本実施の形態における単位セルは、25x25x0.7mmである。また、EBG構造体10は、5x5の単位セルで構成されており、125x125x0.7mmである。
【0030】
詳しくは、図1乃至図3から理解されるように、EBG構造体10の単位セルは、トップ電極1と、グランド電極2と、トップ電極1とグランド電極2とを接続するビア3と、トップ電極1とグランド電極との間に充填された誘電体4と、誘電体4に保持された浮遊キャパシタ電極5を備えている。このうち、トップ電極1、グランド電極2、ビア3及び浮遊キャパシタ電極5は、導体からなる。なお、図1と図2及び図3を比較すれば理解されるように、図2及び図3においては、理解を助けるべく、誘電体4が省略されている。
【0031】
図1及び図2から理解されるように、トップ電極1は単位セル毎に独立するようにして設けられているが、グランド電極は複数の単位セルに共通するようにして設けられたベタ電極である。
【0032】
図3に示されるように、本実施の形態によるEBG構造体10の単位セルは、複数のビア3を備えている。具体的には、本実施の形態によるビア3は、単位セル毎に、2本設けられている。2本のビア3は、互いに同一形状であり、それぞれの外径Φは0.4mmである。即ち、本実施の形態によるビア3の外径Φは、λ/(400n)以上という条件を満たしている。ここで、λは、アンテナ装置100の使用周波数に対応する自由空間波長であり、nはビア3の本数である。
【0033】
本実施の形態による誘電体4の材料は、誘電損失(tanδ)の小さいものが望ましく、その例としては、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)などのセラミックス、FR−4(Flame retardant-4)などのガラスエポキシ系基板材、テフロン(登録商標)系基板材、BT(Bismaleimide Triazine)レジン系基板材、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系熱可塑性樹脂フィルム、若しくは、PET(Polyethylene terephthalate)若しくはPET−G(Polyethylene
terephthalate Glycol)などの樹脂やプラスチック、リネンなどの繊維又はそれらの複合体などが挙げられる。このうち、プラスチックについて更に詳しくは、塩化ビニール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネイト、ポリスチレン、ABS樹脂などの熱可塑性プラスチックでも、メラミン樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性プラスチックでも良い。
【0034】
本実施の形態による浮遊キャパシタ電極5は、トップ電極1、グランド電極2及びビア3と絶縁された状態で且つ誘電体4内においてフローティング状態となるように、誘電体4に保持されている。詳しくは、浮遊キャパシタ電極4は、トップ電極1にごく近い位置にフローティング状態で設けられている。
【0035】
図1に戻り、本実施の形態によるアンテナ支持層20は、絶縁体からなるものである。具体的には、本実施の形態におけるアンテナ支持層20は、厚み1.1mmの発泡ポリエチレンからなる。アンテナ支持層20は、EBG構造体10とアンテナ30との相関を低減するために、できるだけ低誘電率の材料を用いる方が好ましい。また誘電損失を低減するために、低tanδの材料(低誘電損失材料)を用いることが望ましい。具体的には、発泡ポリエチレン、アクリルフォーム若しくはウレタンなどの発泡材、テフロン(登録商標)、PET(Polyethylene terephthalate)若しくはPET−G(Polyethylene
terephthalate Glycol)などの樹脂やプラスチック、又はリネンなどの繊維が望ましい。プラスチックについて更に詳しくは、塩化ビニール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネイト、ポリスチレン、ABS樹脂などの熱可塑性プラスチックでも、メラミン樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性プラスチックでも良い。また、ガラスエポキシ系基板材、テフロン(登録商標)系基板材、BT(Bismaleimide Triazine)レジン系基板材や、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系熱可塑性樹脂フィルムでも良い。また、アンテナ支持層20を樹脂で形成し且つそこに空気層を含むようにして構成された樹脂構造体としてもよい。樹脂構造体の例としては、ハニカム構造などが挙げられる。更にはそれらの組み合わせであっても良い。加えて、PETや低損失基板を用いて、EBG構造体10の誘電体4とアンテナ支持層20を同じ材料からなるものとし、EBG構造体10とアンテナ支持層20を一体で作っても良い。この場合、コストダウンを図ることができる。
【0036】
本実施の形態によるアンテナ30は、ダイポールアンテナであり、例えば、薄いPETなどにアルミ箔や銅箔などの導体箔を貼付して構成されたものである。前述したように、導体箔にはIC40が接続されている。ダイポールアンテナは、例えば、整合用の小ループ構造の付いたものでも良い。
【0037】
アンテナ30による送受信を行う際、EBG構造体10が励振されビア3に電流が流れる。特に、同相反射周波数付近では、単位セルが共振状態に近いため、大きな電流が流れる。アンテナ30とEBG構造体10の距離が近いと、相関により、ビア3の導体損失等、EBG構造体10における損失は、アンテナ30の損失となり、アンテナ30の特性に影響を与える。
【0038】
しかしながら、本実施の形態のように、単位セル毎のビア3が複数本ある場合、電流経路が分散されるため、電流密度が部分的に集中してしまうことを避けることができる。
【0039】
加えて、単位セル毎のビア3のトータルの表面積を大きくすることにより、ビア3における導体損失を低減することができる。
【0040】
詳しくは、導体損失は、EBG構造体10を金属板等の上に置いた場合、金属板とEBG構造体10との間の相関により、より大きくなる傾向にある。一方で、UHF帯タグの国内周波数953MHzのような高周波では、表皮深さ程度の厚み内にしか高周波電流は流れない。表皮深さは、例えば、周波数が1GHzの場合、アルミであれば2.52μm、銅であれば2.09μmであり、高周波電流はそれより深いところにはほとんど流れない。そのため、例えば、従来1本であったビアのサイズを変更せずにビアの本数のみを2本にした場合、高周波電流の流れる面積は2倍になるため、電流密度は半分になる。更には、導体損失は、電流密度の2乗に比例するため、1/4になる。即ち、ビアの本数を増やしたことにより、ビアの表面積をトータルで増やすことができ、それにより、ビアにおける導体損失を低減することができる。そのため、EBG構造体10を金属板等の上に置いたとしても、アンテナ特性に与える悪影響を低減することができる。従って、本実施の形態によるEBG構造体10を一部に含むアンテナ装置100の近傍に金属があったとしても、本実施の形態によるアンテナ装置100によれば、良好な通信距離を得ることができる。
【0041】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態によるアンテナ装置は、上述した第1の実施の形態によるアンテナ装置の変形例であり、単位セルのサイズ、EBG構造体のサイズ、アンテナ支持体の材質及びサイズ、アンテナ及びICの構成、アンテナ装置のサイズなどは第1の実施の形態と同様である。従って、以下においては、本実施の形態によるアンテナ装置のうち第1の実施の形態と同様な事項についての詳細な説明は省略することとし、第1の実施の形態との差異となる部分を中心に説明する。
【0042】
本実施の形態によるアンテナ装置のEBG構造体は、図4に示されるような単位セルを繰り返し配置してなるシート状の構造体である。詳しくは、本実施の形態による単位セルは、第1の実施の形態と同様に、トップ電極1、グランド電極2、誘電体(図4においては図示せず)及び浮遊キャパシタ電極5を備えると共に、第1の実施の形態とは異なるビア3aを備えている。
【0043】
図4に示されるように、本実施の形態によるビア3aは、第1の実施の形態と同様に、トップ電極1とグランド電極2とを接続するものであるが、第1の実施の形態とは異なり、単位セル毎に一本のみ設けられたものである。但し、ビア3aは、第1の実施の形態のビアよりも太い。即ち、ビア3aの外径は、第1の実施の形態のビアよりも大きい。具体的には、本実施の形態におけるビア3aの外径Φは、0.8mmである。即ち、本実施の形態によるビア3aの外径Φは、λ/400以上(即ち、λの0.25%以上)という条件を満たしている。なお、λは、アンテナ装置の使用周波数に対応する自由空間波長であり、例えば、950MHzの電磁波の場合、自由空間波長は315.8mmである。
【0044】
上述した構造を有する本実施の形態によるアンテナ装置(具体的には、950MHz帯金属対応無線タグ)を200x300x2mmのアルミ板上に載置し、アンテナ装置の通信距離を電波暗室内において測定した。同様に、比較例として、外径Φが0.4mmであるビアを単位セル毎に一本のみ有するようなEBG構造体を用いてアンテナ装置を作成し、そのアンテナ装置の通信距離についても同様にして測定した。その結果、比較例のアンテナ装置の通信距離が2.8mmであったのに対して、本実施の形態によるアンテナ装置の通信距離は4mmであった。即ち、自由空間用タグの自由空間における通信距離は4m程度のため、金属板上に置いても、自由空間用タグを自由空間で使用している場合と同等の通信距離が得られた。これは、第1の実施の形態においてビアの総表面積の増加によりビアを流れる電流密度を低下させそれによってビアにおける導体損失を低減させたのと同様の理由によるものである。即ち、本実施の形態によるビアの場合、比較例のビアの2倍の表面積を有している。そのため、ビア表面の電流密度は1/2となり、ビア表面における導体損失は1/4となる。そのため、EBG構造体の損失を抑えることができ、金属があっても良好なアンテナ特性を得ることができる。
【0045】
具体的な実施の形態を提示して上述した本発明の概念は、様々なEBG構造体に適用可能であり、単位セル毎のビアの本数を複数にしたりビアの径を太くしたりすることにより、単位セル毎のビアの総表面積を増やすことによりビアにおける導体損失を低減している限り、上述した実施の形態に対して様々な変形を加えても良い。
【0046】
具体的には、単位セルの構造が当該単位セルの対角線に対して非対称であるような場合にも、本発明の概念は適用可能である。即ち、少数の単位セルを並べて構成されたEBG構造体においては、単位セルの数が直交する2方向で異なる場合、それぞれの方向で同相反射周波数が異なる。方向によらず同相反射周波数を同じにするためには、単位セルの構造(単位セル自体の外形、隣接する単位セルのトップ電極間の距離、浮遊キャパシタ電極の形状など)を単位セルの対角線に対して、非対称にする必要がある。例えば、図5に示されるEBG構造体では、浮遊キャパシタ電極5a,5bの構造を異ならせて非対称構造の単位セルが構成されているが、かかる単位セルにおいても、第1の実施の形態と同様に、ビア3の本数を複数本(図5では2本)としてあることにより、第1の実施の形態と同様の損失低減効果を得ることができる。
【0047】
また、例えば、図6乃至図8に示されるように、一方向性電界にしか対応していないようなEBG構造体を有するアンテナ装置200の場合にも、本発明の概念は適用可能である。即ち、図示されたアンテナ装置200は、浮遊キャパシタ電極5c,5dの形状をそれぞれ長方形とし、アンテナ30の長手方向(即ち、X方向)のみにおいて同相反射特性を有するように浮遊キャパシタ電極5c,5dを配置したものであるが、かかる場合にも、単位セル毎のビア3の本数を複数本(図7及び図8に示される例では2本)としてあることにより、第1の実施の形態と同様の損失低減効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるアンテナ装置を概略的に示す断面図である。
【図2】図1に示されるアンテナ装置に含まれるEBG構造体を概略的に示す斜視図である。
【図3】図2のEBG構造体に含まれる単位セルを概略的に示す斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態によるアンテナ装置に含まれるEBG構造体の単位セルを概略的に示す斜視図である。
【図5】EBG構造体の変形例を概略的に示す図であって浮遊キャパシタ以下の構造を示す上面図である。
【図6】アンテナ装置の他の変形例を概略的に示す上面図である。図においては、アンテナ支持層が省略されている。
【図7】図6のアンテナ装置におけるEBG構造体を概略的に示す図であって、浮遊キャパシタ以下の構造を示す上面図である。
【図8】図6のアンテナ装置におけるEBG構造体の単位セルを概略的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0049】
1 トップ電極
2 グランド電極
3,3a ビア
4 誘電体
5,5a〜5d 浮遊キャパシタ電極
10 EBG構造体
20 アンテナ支持層
30 アンテナ
40 IC
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トップ電極、グランド電極、前記トップ電極と前記グランド電極とを電気的につなげるビアを備える単位セルを繰り返し並べるようにして構成されるEBG(Electromagnetic Band Gap)構造体を製造する際に、前記単位セル毎に前記ビアを複数本とし及び/又は前記ビアの外径を太くすることにより、高周波電流の前記ビアにおける損失を低減するEBG構造体の製造方法。
【請求項2】
所定周波数において使用されるアンテナ装置の一部を構成し得るEBG
(Electromagnetic Band Gap)構造体であって、トップ電極、グランド電極、前記トップ電極と前記グランド電極とを電気的につなげるビアを備える単位セルを繰り返し並べるようにして構成されるEBG構造体において、前記ビアは前記単位セル毎に複数本設けられている、EBG構造体。
【請求項3】
前記単位セル毎の前記ビアは互いに同一の形状を有しており、
前記単位セルのそれぞれに含まれる前記ビアのそれぞれの外径は、前記所定周波数に対応する自由空間波長をλ、前記ビアの本数をnとした場合に、λ/(400n)以上である、
請求項2記載のEBG構造体。
【請求項4】
トップ電極、グランド電極、前記トップ電極と前記グランド電極とを電気的につなげるビアを備える単位セルを繰り返し並べるようにして構成されるEBG(Electromagnetic Band Gap)構造体であって、所定周波数において使用されるアンテナ装置の一部を構成し得るEBG構造体において、前記ビアは前記単位セル毎に一本のみ設けられており、該単位セルのそれぞれに含まれる前記ビアの外径は前記所定周波数に対応する自由空間波長をλとした場合にλ/400以上である、EBG構造体。
【請求項5】
前記トップ電極と前記グランド電極の間に設けられた誘電体を更に備える、請求項2乃至請求項4のいずれかに記載のEBG構造体。
【請求項6】
前記誘電体は、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)などのセラミックス、FR−4(Flame retardant-4)などのガラスエポキシ系基板材、テフロン(登録商標)系基板材、BT(Bismaleimide Triazine)レジン系基板材、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系熱可塑性樹脂フィルム、若しくは、PET(Polyethylene terephthalate)若しくはPET−G(Polyethylene
terephthalate Glycol)などの樹脂、リネンなどの繊維又はそれらの複合体からなる、請求項5記載のEBG構造体。
【請求項7】
前記トップ電極と前記グランド電極に直接接触しないように、前記誘電体に保持された浮遊容量電極を更に備える、請求項5又は請求項6記載のEBG構造体。
【請求項8】
請求項2乃至請求項7のいずれかに記載のEBG構造体と、該EBG構造体上に設けられた絶縁体からなるアンテナ支持層を備えるEBG構造シート。
【請求項9】
前記アンテナ支持層は、発泡ポリエチレン、アクリルフォーム若しくはウレタンなどの発泡材、テフロン(登録商標)やPET(Polyethylene terephthalate)若しくはPET−G(Polyethylene
terephthalate Glycol)など前記所定周波数において誘電率が4以下且つtanδが0.01以下の低誘電率且つ低損失の樹脂、ガラスエポキシ系基板材、テフロン(登録商標)系基板材若しくはBT(Bismaleimide Triazine)レジン系基板材などの低損失基板材、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系熱可塑性樹脂フィルム、リネンなどの繊維、ハニカム構造など空気層を含む樹脂構造体、又はそれらの組み合わせのいずれかからなる
請求項8記載のEBG構造シート。
【請求項10】
請求項5乃至請求項7のいずれかに記載のEBG構造体と、該EBG構造体上に設けられたアンテナ支持層であって前記EBG構造体の前記誘電体と同じ材料からなるアンテナ支持層と
を備えるEBG構造シート。
【請求項11】
請求項8乃至請求項10のいずれかに記載のEBG構造シートと、
前記アンテナ支持層上に設けられたアンテナ又は無線タグと
を備えるアンテナ装置。
【請求項1】
トップ電極、グランド電極、前記トップ電極と前記グランド電極とを電気的につなげるビアを備える単位セルを繰り返し並べるようにして構成されるEBG(Electromagnetic Band Gap)構造体を製造する際に、前記単位セル毎に前記ビアを複数本とし及び/又は前記ビアの外径を太くすることにより、高周波電流の前記ビアにおける損失を低減するEBG構造体の製造方法。
【請求項2】
所定周波数において使用されるアンテナ装置の一部を構成し得るEBG
(Electromagnetic Band Gap)構造体であって、トップ電極、グランド電極、前記トップ電極と前記グランド電極とを電気的につなげるビアを備える単位セルを繰り返し並べるようにして構成されるEBG構造体において、前記ビアは前記単位セル毎に複数本設けられている、EBG構造体。
【請求項3】
前記単位セル毎の前記ビアは互いに同一の形状を有しており、
前記単位セルのそれぞれに含まれる前記ビアのそれぞれの外径は、前記所定周波数に対応する自由空間波長をλ、前記ビアの本数をnとした場合に、λ/(400n)以上である、
請求項2記載のEBG構造体。
【請求項4】
トップ電極、グランド電極、前記トップ電極と前記グランド電極とを電気的につなげるビアを備える単位セルを繰り返し並べるようにして構成されるEBG(Electromagnetic Band Gap)構造体であって、所定周波数において使用されるアンテナ装置の一部を構成し得るEBG構造体において、前記ビアは前記単位セル毎に一本のみ設けられており、該単位セルのそれぞれに含まれる前記ビアの外径は前記所定周波数に対応する自由空間波長をλとした場合にλ/400以上である、EBG構造体。
【請求項5】
前記トップ電極と前記グランド電極の間に設けられた誘電体を更に備える、請求項2乃至請求項4のいずれかに記載のEBG構造体。
【請求項6】
前記誘電体は、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)などのセラミックス、FR−4(Flame retardant-4)などのガラスエポキシ系基板材、テフロン(登録商標)系基板材、BT(Bismaleimide Triazine)レジン系基板材、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系熱可塑性樹脂フィルム、若しくは、PET(Polyethylene terephthalate)若しくはPET−G(Polyethylene
terephthalate Glycol)などの樹脂、リネンなどの繊維又はそれらの複合体からなる、請求項5記載のEBG構造体。
【請求項7】
前記トップ電極と前記グランド電極に直接接触しないように、前記誘電体に保持された浮遊容量電極を更に備える、請求項5又は請求項6記載のEBG構造体。
【請求項8】
請求項2乃至請求項7のいずれかに記載のEBG構造体と、該EBG構造体上に設けられた絶縁体からなるアンテナ支持層を備えるEBG構造シート。
【請求項9】
前記アンテナ支持層は、発泡ポリエチレン、アクリルフォーム若しくはウレタンなどの発泡材、テフロン(登録商標)やPET(Polyethylene terephthalate)若しくはPET−G(Polyethylene
terephthalate Glycol)など前記所定周波数において誘電率が4以下且つtanδが0.01以下の低誘電率且つ低損失の樹脂、ガラスエポキシ系基板材、テフロン(登録商標)系基板材若しくはBT(Bismaleimide Triazine)レジン系基板材などの低損失基板材、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系熱可塑性樹脂フィルム、リネンなどの繊維、ハニカム構造など空気層を含む樹脂構造体、又はそれらの組み合わせのいずれかからなる
請求項8記載のEBG構造シート。
【請求項10】
請求項5乃至請求項7のいずれかに記載のEBG構造体と、該EBG構造体上に設けられたアンテナ支持層であって前記EBG構造体の前記誘電体と同じ材料からなるアンテナ支持層と
を備えるEBG構造シート。
【請求項11】
請求項8乃至請求項10のいずれかに記載のEBG構造シートと、
前記アンテナ支持層上に設けられたアンテナ又は無線タグと
を備えるアンテナ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2009−218966(P2009−218966A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61919(P2008−61919)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】
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