ERBB3に対する抗体およびその使用
本発明は、ErbB3受容体に結合し、種々のErbB3機能を阻害する新しいクラスのモノクローナル抗体を提供する。例えば、本明細書に記載されている抗体は、ErbB3に結合し、EGF様リガンドを介した受容体のリン酸化を阻害することができる。EGF様リガンドには、EGF、TGF−α、ベータセルリン、ヘパリン結合上皮細胞増殖因子、ビレグリン(biregulin)およびアンフィレグリンが含まれ、それらは、EGFRに結合し、EGFRとErbB3との二量化を誘導する。この二量化は、ErbB3のリン酸化を引き起し、その受容体を介してシグナル伝達を活性化する。このようにして、本発明のモノクローナル抗体は、ErbB3を介した細胞のシグナル伝達と関連した様々な癌の処置および診断に有用である。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ポリペプチド増殖因子受容体のErbB/HERサブファミリーには、上皮細胞増殖因子(EGF)受容体(EGFR、ErbB1/HER1)、neu癌遺伝子産物(ErbB2/HER2)、ごく最近に同定されたErbB3/HER3およびErbB4/HER4が挙げられる(例えば、非特許文献1を参照されたい)。これらの受容体の各々は、細胞外のリガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞質のタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)ドメインおよびC末端リン酸化ドメインからなることが予測されている(例えば、非特許文献2を参照されたい)。
【0002】
インビトロでの実験によって、ErbB3タンパク質のタンパク質チロシンキナーゼ活性は、他のErbB/HERファミリーメンバーのものと比較して顕著に減衰しており、この減衰は、部分的には、ErbB3の予測される触媒ドメインにおける非保存的なアミノ酸置換の発生によることが示された(例えば、非特許文献3;非特許文献4を参照されたい)。しかしながら、ErbB3タンパク質は、様々な細胞状況においてリン酸化されることが示されている。例えば、ErbB3は、このタンパク質を過剰発現するヒト乳癌細胞系統のサブセットにおいて、チロシン残基に構造的にリン酸化される(例えば、非特許文献5;Kimら、上掲を参照されたい;また、非特許文献6、並びに、非特許文献7を参照されたい)。
【0003】
癌におけるErbB3の役割が研究されてはいるが(例えば、Horstら(2005)115,519−527;非特許文献8)、ErbB3は、臨床的介入の標的として、依然としてそれほど評価されていない。現在の免疫治療は、主に、ErbB2の作用、特に、ErbB2/ErbB3複合体のヘテロ二量化の阻害に焦点が当てられている(例えば、非特許文献9を参照されたい)。したがって、本発明の目的は、ErbB3シグナル伝達を効果的に阻害し、様々な癌を処置および診断するために用いることができる改善された免疫治療を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hynesら(1994)Biochim.Biophys.Acta Rev.Cancer 1198,165−184
【非特許文献2】Kimら(1998)Biochem.J.334,189−195
【非特許文献3】Guyら(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA.91,8132−8136
【非特許文献4】Sierkeら(1997)Biochem.J.322,757−763
【非特許文献5】Krausら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA.90,2900−2904
【非特許文献6】Schaeferら(2006)Neoplasia 8(7):613−22
【非特許文献7】Schaeferら、Cancer Res(2004)64(10):3395−405
【非特許文献8】Xueら(2006)Cancer Res.66,1418−1426
【非特許文献9】Sliwkowskiら(1994)J.Biol.Chem.269(20):14661−14665(1994)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ErbB3受容体に結合し、種々のErbB3機能を阻害する新しい種類のモノクローナル抗体を提供する。例えば、本明細書に記載されている抗体は、ErbB3に結合し、EGF様リガンドを介した受容体のリン酸化を阻害することができる。本明細書に記載されるように、EGF様リガンドには、EGF、TGF−α、ベータセルリン、ヘパリン結合上皮細胞増殖因子、ビレグリン(biregulin)およびアンフィレグリンが含まれ、それらは、EGFRに結合し、EGFRとErbB3との二量化を誘導する。次に、この二量化は、ErbB3のリン酸化を引き起し、その受容体を介してシグナル伝達を活性化する。このようにして、本発明のモノクローナル抗体は、ErbB3を介した細胞のシグナル伝達と関連した様々な癌の処置および診断に有用である。したがって、一態様では、本発明は、ErbB3に結合し、EGF様リガンドを介したErbB3のリン酸化を阻害するモノクローナル抗体(およびその抗原結合部分)を提供する。
【0006】
別の態様では、抗体は、さらに、1以上の下記の特徴:(i)ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンおよびBIRなどのErbB3リガンドのErbB3への結合によって媒介されるシグナル伝達を含む、ErbB3リガンドを介したシグナル伝達の阻害;(ii)ErbB3を発現している細胞の増殖阻害;(iii)細胞表面上のErbB3のレベルを減少させる能力(例えば、ErbB3の内在化を誘導することによる);(iv)ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌の阻害;(v)ErbB3を発現している細胞の移動の阻害;(vi)ErbB3を発現している細胞のスフェロイド(spheroid)増殖の阻害;および/または(vii)ErbB3のドメインI(残基20−209)に位置したエピトープ、例えば、ErbB3のアミノ酸配列の残基20−202を含むかまたはそれにかかっているエピトープへの結合によって特徴付けられる。
【0007】
本発明の特定のモノクローナル抗体およびその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴アッセイまたは細胞結合アッセイによって測定すると、KDが50nM以下を示す
さらなる態様では、本発明の特定のモノクローナル抗体およびその抗原結合部分は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号35、または配列番号37に記載される重鎖可変領域アミノ酸配列と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。本発明の他の特定のモノクローナル抗体およびその抗原結合部分は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号36、または配列番号38に記載される軽鎖可変領域アミノ酸配列と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。また、抗体は、前記の重鎖および軽鎖可変領域の両方を含んでもよい。
【0008】
抗体またはその抗原結合部分の可変重鎖および軽鎖領域は、典型的には、1以上の相補性決定領域(CDR)を含む。これらには、1以上のCDR1、CDR2、およびCDR3領域が含まれる。したがって、本発明の他の特定の抗体およびその抗原結合部分には、配列番号7を含む重鎖可変領域CDR1;配列番号8を含む重鎖可変領域CDR2;配列番号9を含む重鎖可変領域CDR3;配列番号10を含む軽鎖可変領域CDR1;配列番号11を含む軽鎖可変領域CDR2;配列番号12を含む軽鎖可変領域CDR3;およびそれらの組み合わせから選択される1以上のCDR配列が含まれる。
【0009】
本発明のさらに他の特定の抗体およびその抗原結合部分には、配列番号13を含む重鎖可変領域CDR1;配列番号14を含む重鎖可変領域CDR2;配列番号15を含む重鎖可変領域CDR3;配列番号16を含む軽鎖可変領域CDR1;配列番号17を含む軽鎖可変領域CDR2;配列番号18を含む軽鎖可変領域CDR3;およびそれらの組み合わせから選択される1以上のCDR配列が含まれる。
【0010】
本発明のさらに他の特定の抗体およびその抗原結合部分には、配列番号19を含む重鎖可変領域CDR1;配列番号20を含む重鎖可変領域CDR2;配列番号21を含む重鎖可変領域CDR3;配列番号22を含む軽鎖可変領域CDR1;配列番号23を含む軽鎖可変領域CDR2;配列番号24を含む軽鎖可変領域CDR3;およびそれらの組み合わせから選択される1以上のCDR配列が含まれる。
【0011】
本発明のさらに他の特定の抗体およびその抗原結合部分には、配列番号39を含む重鎖可変領域CDR1;配列番号40を含む重鎖可変領域CDR2;配列番号41を含む重鎖可変領域CDR3;配列番号42を含む軽鎖可変領域CDR1;配列番号43を含む軽鎖可変領域CDR2;配列番号44を含む軽鎖可変領域CDR3;およびそれらの組み合わせから選択される1以上のCDR配列が含まれる。
【0012】
本発明のさらに他の特定の抗体およびその抗原結合部分には、および配列番号45を含む重鎖可変領域CDR1;配列番号46を含む重鎖可変領域CDR2;配列番号47を含む重鎖可変領域CDR3;配列番号48を含む軽鎖可変領域CDR1;配列番号49を含む軽鎖可変領域CDR2;配列番号50を含む軽鎖可変領域CDR3;それらの組み合わせから選択される1以上のCDR配列が含まれる。
【0013】
また、抗体およびその抗原結合部分は、前記のCDRのいずれかまたはCDRの組み合わせと少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一である1以上のCDRを含んでもよい。
【0014】
一態様では、抗体およびその抗体部分は、完全にヒトである(即ち、ヒトCDRおよびフレームワーク配列を含む)。本発明の特定のヒト抗体は、ヒトVH3生殖細胞系列遺伝子由来である重鎖可変領域、および/またはヒトVL2生殖細胞系列遺伝子由来である軽鎖可変領域を有するものが含まれる。
【0015】
また、本明細書に記載されている抗体またはその部分のいずれかによって結合される、同じであるかまたは重複しているエピトープ(即ち、ErbB3のドメインIに位置したエピトープ、例えば、ErbB3のアミノ酸配列の残基20−202を含むかまたはそれにかかっているエピトープ)に結合するモノクローナル抗体およびその部分が、本発明に包含される。また、本明細書に記載されている抗体と同じ活性を有する抗体、例えば、Ab#6と同じ配列を有する抗体が本発明に包含される。
【0016】
本発明の抗体には、全ての知られている形態の抗体、並びに抗体様の特性を有する他のタンパク質骨格が含まれる。例えば、抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体、キメラ抗体または抗体様の特性を有するタンパク質骨格、例えば、フィブロネクチンまたはアンキリン(ankyrin)リピートであり得る。また、抗体は、Fab、Fab’2、ScFv、SMIP、アフィボディ(affibody)、ナノボディ(nanobody)またはドメイン抗体であってもよい。また、抗体は、次のアイソタイプ:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgD、およびIgEのいずれかを有することができる。
【0017】
なお別の態様では、本発明は、さらに、許容される担体および/またはアジュバントとともに調合される、本明細書に記載されている抗体または抗原結合部分の組み合わせを含む組成物を提供する。特定の態様では、組成物は、ErbB3に結合しない抗癌抗体と組み合わせた、本明細書に記載されているErbB3または抗体の異なるエピトープに結合する2以上の抗体を含む。
【0018】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書に記載されている抗体およびその抗原結合部分をコードする単離された核酸を提供する。特定の態様では、核酸は、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号35、もしくは配列番号37と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一であるヌクレオチド配列、または高ストリンジェントな条件下で配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号35、もしくは配列番号37にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む重鎖可変領域;または、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号36、もしくは配列番号38と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一であるヌクレオチド配列、または高ストリンジェントな条件下で配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号36、もしくは配列番号38にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む軽鎖可変領域;あるいは、このような重可変領域および軽可変領域の組み合わせをコードする。
【0019】
本発明は、さらに、本明細書に記載されている抗体または抗原結合部分を発現および/または産生するトランスジェニック非ヒト哺乳動物、ハイブリドーマ、およびトランスジェニック植物を提供する。
【0020】
また、本発明は、本明細書に記載されている1以上の単離されたモノクローナル抗体または抗原結合部分、場合により、ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患、例えば癌の処置または診断に用いるための取扱説明書を含むキットを提供する。
【0021】
本発明の抗体および抗原結合部分は、多様な治療および診断用途、特に腫瘍用途に用いることができる。したがって、別の局面では、本発明は、EGF様の媒介したErbB3のリン酸化を阻害するのに十分な量で、本明細書に記載されている1以上の抗体または抗原結合部分を投与することによって、被験体におけるEGF様リガンド媒介のErbB3のリン酸化を阻害する方法を提供する。本発明は、さらに、癌を処置するのに十分な量で、本明細書に記載されている1以上の抗体または抗原結合部分を投与することによって、被験体における種々の癌、例えば、限定されないが、メラノーマ、乳癌、卵巣癌、腎臓癌腫、消化管/結腸癌、肺癌、明細胞肉腫、および前立腺癌を処置する方法を提供する。抗体または抗原結合部分は、単独で、または他の治療薬物、例えば、抗癌剤、例えば他の抗体、化学療法薬および/または放射線と併用して投与され得る。
【0022】
なお他の態様では、本発明は、ErbB3と関連した疾患(例えば、癌)を診断および予測する方法を提供する。一態様では、これは、本発明の抗体または抗原結合部分(例えば、エクスビボまたはインビボ)と被験体から得られる細胞とを接触させ、細胞上のErbB3への結合レベルを測定することによって達成され、この場合、異常に高いレベルのErbB3への結合は、被験体がErbB3と関連した癌を有することを示す。
【0023】
本発明の他の特徴および利点は、下記の詳細な説明、特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】図1Aおよび1Bは、ヤギ抗ヒトAlexa 647二次抗体を用いて、MALME−3Mメラノーマ細胞に発現したErbB3に対する、種々の抗ErbB3抗体候補(Fab、本明細書ではAbとも称する)の結合を示す棒グラフである。
【図1B】図1Aおよび1Bは、ヤギ抗ヒトAlexa 647二次抗体を用いて、MALME−3Mメラノーマ細胞に発現したErbB3に対する、種々の抗ErbB3抗体候補(Fab、本明細書ではAbとも称する)の結合を示す棒グラフである。
【図2−1】図2A〜2Dは、種々の抗ErbB3抗体の候補のKD値を示すグラフである。図2Aおよび2Bは、表面プラズモン共鳴(SPR)技術を用いて測定した、それぞれ抗体#6(Ab#6と称する)および抗体#3(Ab#3と称する)のKD値を示すグラフである。図2Cおよび2Dは、MALME−3Mメラノーマ細胞を用いた細胞結合アッセイを用いて測定した、それぞれAb#6およびAb#3のKD値を示すグラフである。
【図2−2】図2A〜2Dは、種々の抗ErbB3抗体の候補のKD値を示すグラフである。図2Aおよび2Bは、表面プラズモン共鳴(SPR)技術を用いて測定した、それぞれ抗体#6(Ab#6と称する)および抗体#3(Ab#3と称する)のKD値を示すグラフである。図2Cおよび2Dは、MALME−3Mメラノーマ細胞を用いた細胞結合アッセイを用いて測定した、それぞれAb#6およびAb#3のKD値を示すグラフである。
【図3】ELISAを用いた、ErbB3に対する抗ErbB3抗体(Ab#6)の結合特異性を示すグラフである。EGFR、BSAおよびTGF−αを対照として用いた。
【図4】ELISAを用いて測定した、インビトロでのMALME−3Mメラノーマ細胞における全ErbB3レベルを低下させる抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図5】図5Aおよび図5Bは、FACS分析を用いて測定した、MALME−3M細胞のErbB3受容体をダウンレギュレートする抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。図5Aは、抗体のIgG1アイソタイプを用いた結果を示す。図5Bは、抗体のIgG2アイソタイプを用いた結果を示す。
【図6−1】図6A−6Dは、FACS分析を用いて測定した、抗体を介したErbB3ダウンレギュレーション(Ab#6)の時間経過を示すグラフである。
【図6−2】図6A−6Dは、FACS分析を用いて測定した、抗体を介したErbB3ダウンレギュレーション(Ab#6)の時間経過を示すグラフである。
【図7】インビボでのメラノーマ細胞におけるErbB3をダウンレギュレートする種々の抗ErbB3抗体の能力を示す棒グラフである。
【図8】インビボでのADRr異種移植におけるErbB3をダウンレギュレートする抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示す棒グラフである。
【図9】Cell Titer GlowアッセイにおけるMALME−3M細胞の増殖を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図10】卵巣細胞系統であるADRrにおける細胞増殖を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図11】ACHN細胞の増殖を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図12】インビボでのADRr異種移植におけるErbB3リン酸化を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示す棒グラフである。
【図13A】図13A−13Cは、ADRr細胞におけるベータセルリンおよびヘレグリンが媒介したErbB3のリン酸化を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図13B】図13A−13Cは、ADRr細胞におけるベータセルリンおよびヘレグリンが媒介したErbB3のリン酸化を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図13C】図13A−13Cは、ADRr細胞におけるベータセルリンおよびヘレグリンが媒介したErbB3のリン酸化を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図14】図14A−14Bは、卵巣腫瘍細胞系統であるOVCAR5およびOVCAR8におけるErbB3リン酸化を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6 IgG2アイソタイプ)の能力を示すグラフである。
【図15A】図15A−15Cは、ErbB1陰性MALME−3M細胞への結合の欠失(図17A);それぞれ10nM(図17B)および200nM(図17B)の濃度でのErbB1陽性ADRr細胞への結合によって示される、ErbB1に結合するベータセルリン(BTC)の能力、並びにErbituxによるこのような結合の阻害を示すグラフである。
【図15B】図15A−15Cは、ErbB1陰性MALME−3M細胞への結合の欠失(図17A);それぞれ10nM(図17B)および200nM(図17B)の濃度でのErbB1陽性ADRr細胞への結合によって示される、ErbB1に結合するベータセルリン(BTC)の能力、並びにErbituxによるこのような結合の阻害を示すグラフである。
【図15C】図15A−15Cは、ErbB1陰性MALME−3M細胞への結合の欠失(図17A);それぞれ10nM(図17B)および200nM(図17B)の濃度でのErbB1陽性ADRr細胞への結合によって示される、ErbB1に結合するベータセルリン(BTC)の能力、並びにErbituxによるこのような結合の阻害を示すグラフである。
【図16】図16A−16Bは、MALME−3M細胞におけるヘレグリンが媒介したシグナル伝達を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6 IgG2アイソタイプ)の能力を示すグラフである。図16Aは、MALME−3M細胞におけるヘレグリンが媒介したErbB3のリン酸化を阻害するAb#6の能力を示し、16Bは、MALME−3M細胞におけるAKTのリン酸化を阻害するAb#6の能力を示す。
【図17A】図17A−Dは、異種移植研究を介した、(A)卵巣(ADRr細胞)、(B)前立腺Du145細胞)、(C)卵巣(OvCAR8細胞)、および(D)膵臓(Colo357細胞)腫瘍成長を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図17B】図17A−Dは、異種移植研究を介した、(A)卵巣(ADRr細胞)、(B)前立腺Du145細胞)、(C)卵巣(OvCAR8細胞)、および(D)膵臓(Colo357細胞)腫瘍成長を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図17C】図17A−Dは、異種移植研究を介した、(A)卵巣(ADRr細胞)、(B)前立腺Du145細胞)、(C)卵巣(OvCAR8細胞)、および(D)膵臓(Colo357細胞)腫瘍成長を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図17D】図17A−Dは、異種移植研究を介した、(A)卵巣(ADRr細胞)、(B)前立腺Du145細胞)、(C)卵巣(OvCAR8細胞)、および(D)膵臓(Colo357細胞)腫瘍成長を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図18】図18Aおよび18Bは、FACS分析を用いて測定した、MALME−3M細胞のErbB3へのヘレグリン結合を阻害するAb#6(図18A)およびAb#3のFab(図18B)の能力を示すグラフである。
【図19】図19Aおよび19Bは、ADRr細胞のErbB3へのエピレグリンの結合を阻害するAb#6の能力を示すグラフである。図19Aは、ADRr細胞へのエピレグリンの結合を示し、図19Bは、ADRr細胞へのエピレグリン結合を阻害するErbituxおよびAb#6の両者の能力を示す。
【図20】図20Aおよび図20Bは、ADRr細胞のErbBに結合するヘパリン結合上皮細胞増殖因子(HB−EGF)の能力(図20A)、並びにこのような結合を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の不能力(図20B)を示すグラフである。
【図21A】図21A−21Cは、抗体:Ab#6、Ab#3、Ab#14、Ab#17、およびAb#19の可変重鎖および軽鎖領域のアミノ酸配列を示す。
【図21B】図21A−21Cは、抗体:Ab#6、Ab#3、Ab#14、Ab#17、およびAb#19の可変重鎖および軽鎖領域のアミノ酸配列を示す。
【図21C】図21A−21Cは、抗体:Ab#6、Ab#3、Ab#14、Ab#17、およびAb#19の可変重鎖および軽鎖領域のアミノ酸配列を示す。
【図22A】図22A−22Bは、抗体:Ab#6、Ab#3、およびAb#14の可変重鎖および軽鎖領域のヌクレオチド配列を示す。
【図22B】図22A−22Bは、抗体:Ab#6、Ab#3、およびAb#14の可変重鎖および軽鎖領域のヌクレオチド配列を示す。
【図23】図23は、対応する生殖細胞系列のアミノ酸配列に戻された、抗体:Ab#6、Ab#17、およびAb#19の可変軽鎖領域のアミノ酸配列を示す。アミノ酸残基の変化に下線が付される。
【図24A】図24A−24Cは、腫瘍細胞のVEGF分泌を阻害するAb#6の能力を示すグラフである。
【図24B】図24A−24Cは、腫瘍細胞のVEGF分泌を阻害するAb#6の能力を示すグラフである。
【図24C】図24A−24Cは、腫瘍細胞のVEGF分泌を阻害するAb#6の能力を示すグラフである。
【図25】細胞移動におけるAb#6の効果を示すグラフである。
【図26】図26A−Cは、(A)AdrR細胞におけるスフェロイド増殖の阻害、(B)AdrRにおけるHRG誘導のスフェロイド増殖の阻害、および(C)Du145細胞におけるHRG誘導のスフェロイド増殖の阻害を示すグラフである。
【図27】図27AおよびBは、AdrR細胞への(A)HRGおよび(B)BTCの結合に対するAb#6の効果を示すグラフである。
【図28】HGF誘導のErbB3リン酸化におけるAb#6の効果を示すグラフである。
【図29】図29AおよびBは、(A)pErbB1とpErbB3、並びに(B)HRG誘導のErbB2/3複合体形成のリン酸化におけるAb#6の効果を示す。
【図30】Ab#6がErbB3のアミノ酸残基20−202に結合することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明がより容易に理解され得るために、ある種の用語を最初に定義する。追加の定義は、詳細な記載を通じて示されている。
【0026】
I.定義
用語「ErbB3」、「HER3」、「ErbB3受容体」、および「HER3受容体」とは、本明細書中で互換可能に使用されるとき、ヒトErbB3タンパク質を指し、米国特許第5,480,968号、並びにPlowmanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:4905−4909(1990)に記載されている;また、Kaniら、Biochemistry 44:15842−857(2005),ChoおよびLeahy,Science 297:1330−1333(2002))を参照されたい。
【0027】
用語「EGF様リガンド」とは、本明細書中で使用するとき、上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)のリガンドを指し、それには、上皮細胞増殖因子(EGF)および密接に関連したタンパク質、例えば形質転換増殖因子−α(TGF−α)、ベータセルリン(BTC)、ヘパリン結合上皮細胞増殖因子(HB−EGF)、ビレグリン(BIR)およびアンフィレグリン(AR)が含まれ、それらは、細胞表面のEGFRに結合し、受容体の内在性のタンパク質−チロシンキナーゼ活性を刺激する。具体的には、EGF様リガンドは、EGFR(ErbB1とも称する)とErbB3タンパク質との複合体の形成を誘導し(例えば、Kimら(1998)Biochem J.,334:189−195を参照されたい)、複合体に含まれるチロシン残基のリン酸化をもたらす。
【0028】
本発明の抗体およびその抗原結合部分は、EGF様リガンドを介したErbB3のリン酸化を阻害し、ある種の態様では、1以上の下記の追加の特徴を示す:(i)ErbB3を介した1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンおよびビレグリン(BIR)に媒介されるシグナル伝達の阻害;(ii)ErbB3を発現している細胞の増殖阻害;(iii)細胞表面上のErbB3のレベルを減少させる能力;(iv)ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌の阻害;(v)ErbB3を発現している細胞の移動の阻害;(vi)ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖の阻害;および/または(vii)ErbB3のドメインIに位置したエピトープ、例えば、ErbB3のアミノ酸配列の残基20−202を含むかまたはそれにかかっているエピトープへの結合。
【0029】
用語「阻害」とは、本明細書中で使用するとき、活性の完全なブロックを含む生物学的活性のいずれかの統計的に有意な減少を指す。例えば、「阻害」は、生物学的活性における約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%の減少を指すことができる。
【0030】
したがって、句「EGF様リガンドを介したErbB3のリン酸化の阻害」とは、本明細書中で使用するとき、未処理(対照)細胞におけるリン酸化と比較して、EGF様リガンドによって誘導されたErbB3のリン酸化を統計的に有意に減少させる、抗体または抗原結合部分の能力を指す。ErbB3を発現している細胞は、自然に存在している細胞または細胞系統であってもよく、あるいは、宿主細胞へのErbB3をコードする核酸を導入することによって組換え的に生産されてもよい。一態様では、抗体またはその抗原結合部分は、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%までEGF様リガンドによって媒介されるErbB3のリン酸化を阻害し、それは、例えば、Kimら(1998)Biochem J.,334:189−195、並びに以下の実施例に記載されるウェスタンブロッティング、続く、抗ホスホチロシン抗体を用いた探査によって測定される。
【0031】
句「ErbB3を介したヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンに媒介されるシグナル伝達の阻害」とは、本明細書中で使用するとき、抗体が存在しない場合(対照)のシグナル伝達と比較して、ErbB3を通したErbB3リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンおよびビレグリン)によって媒介されたシグナル伝達を統計的に有意に減少させる、抗体またはその抗原結合部分の能力を指す。また、ErbB3リガンドは、本明細書において「ヘレグリン様リガンド」とも称される。これは、抗体またはその抗原結合部分の存在下において、対照(抗体なし)と比較して、ErbB3を発現細胞における、1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンおよびビレグリンによって媒介されるシグナルが統計的に有意に減少されることを意味する。ErbB3リガンド媒介のシグナルは、ErbB3基質、および/またはErbB3と関係する細胞カスケードに存在するタンパク質のレベルまたは活性を評価することによって測定することができる。一態様では、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3基質のレベルもしくは活性、および/またはErbB3と関係する細胞カスケードに存在するタンパク質のレベルもしくは活性を、そのような抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合(対照)のレベルまたは活性と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少させる。このようなErbB3リガンド媒介のシグナル伝達は、ErbB3の基質(例えば、SHCもしくはPI3K)、またはErbB3と関係する細胞カスケードのタンパク質(例えば、AKT)を、このようなタンパク質のためのキナーゼアッセイを用いて測定する従来認識されている技術を用いて測定することができる(例えば、Horstら.上掲,Sudoら(2000)Methods Enzymol,322:388−92;並びに、Morganら(1990)Eur.J.Biochem.,191:761−767を参照されたい)。
【0032】
特定の態様では、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3へのErbB3リガンド(例えば、1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)の結合を阻害することによって、ErbB3を介したErbB3リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)媒介のシグナル伝達を阻害する。いくつかのリガンド(例えば、ビレグリンまたはBIR)は、EGF様リガンド(即ち、EGFR/ErbB1に結合する)として、並びにErbB3様リガンド(即ち、ErbB3に結合する)として両方に機能する。
【0033】
句「ErbB3へのヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンの結合の阻害」とは、本明細書中で使用するとき、抗体が存在しない場合における結合(対照)と比較して、ErbB3へのErbB3リガンド(例えば、1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)の結合を統計的に有意に減少させる抗体またはその抗原結合部分の能力を指す。これは、抗体またはその抗原結合部分の存在下において、対照(抗体なし)と比較して、ErbB3に結合するErbB3リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)の量が統計的に有意に減少されることを意味する。ErbB3を結合するErbB3リガンドの量は、本発明の抗体またはその抗原結合部分の存在下において、抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合(対照)の量と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少させることができる。ErbB3リガンドの結合の減少は、抗体またはその抗原結合部分の存在または欠如(対照)において、ErbB3を発現している細胞への標識されたErbB3リガンド(例えば、放射線同元素標識(radiolabelled)ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)の結合レベルを測定する従来認識される技術を用いて測定することができる。
【0034】
句「ErbB3を発現している細胞の増殖の阻害」とは、本明細書中で使用するとき、抗体が存在しない場合における増殖と比較して、ErbB3を発現している細胞の増殖を統計的に有意に減少させる抗体またはその抗原結合部分の能力を指す。一態様では、ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)の増殖は、細胞が本発明の抗体またはその抗原結合部分と接触されると、抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合(対照)において測定された増殖と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少され得る。細胞増殖は、(例えば、細胞力価増殖アッセイまたはチミジン取り込みを用いて)細胞分裂の速度、細胞分裂を行っている細胞集団内の細胞の分画、および/または最終分化もしくは細胞死による細胞集団からの細胞損失の率を測定する従来認識されている技術を用いて評価することができる。
【0035】
句「細胞表面のErbB3レベルを減少させる能力」とは、本明細書中で使用するとき、未処理(対照)細胞と比較して、抗体に晒された細胞の表面に見いだされるErbB3の量を統計的に有意に低下させる抗体またはその抗原結合部分の能力を指す。例えば、細胞表面のErbB3のレベルの減少は、ErbB3の内在化の増加(またはErbB3のエンドサイトーシスの増加)に起因する場合がある。一態様では、抗体またはその抗原結合部分は、抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合(対照)の細胞表面発現または内在化と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%までErbB3の細胞表面発現を減少させ、および/または少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%までErbB3受容体の内在化を増加させる。抗体またはその抗原結合部分の欠如および存在における細胞表面のErbB3のレベルおよび/またはErbB3受容体の内在化は、従来認識されている技術、例えば、Horstら、上掲、並びに本明細書中の実施例に記載される技術を用いて容易に測定することができる。
【0036】
句「ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌の阻害」とは、本明細書中で使用するとき、抗体が存在しない場合のVEGF分泌と比較して、ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌を統計的に有意に減少させる抗体またはその抗原結合部分の能力を指す。一態様では、ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)のVEGF分泌は、細胞が本発明の抗体またはその抗原結合部分と接触されると、抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合(対照)において測定されたVEGF分泌と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少されてもよい。VEGF分泌は、本明細書に記載される技術などの従来認識されている技術を用いて評価することができる。
【0037】
句「ErbB3を発現している細胞の移動の阻害」とは、本明細書中で使用するとき、抗体が存在しない場合における細胞の移動と比較して、ErbB3を発現している細胞の移動を統計的に有意に減少させる抗体またはその抗原結合部分の能力を指す。一態様では、ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)の移動は、細胞が本発明の抗体またはその抗原結合部分と接触されると、抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合(対照)において測定された細胞移動と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少されてもよい。細胞移動は、本明細書に記載される技術などの従来認識されている技術を用いて評価することができる。
【0038】
句「ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖の阻害」とは、本明細書中で使用するとき、抗体が存在しない場合における細胞の移動と比較して、ErbB3を発現している細胞の移動を統計的に有意に減少させる抗体またはその抗原結合部分の能力を指す。一態様では、ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)の移動は、細胞が本発明の抗体またはその抗原結合部分と接触されると、抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合(対照)に測定される細胞移動と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少されてもよい。細胞移動は、本明細書に記載される技術などの従来認識されている技術を用いて評価することができる。用語「抗体」または「免疫グロブリン」は、本明細書中において互換可能に使用するとき、全抗体、その任意の抗原結合断片(即ち、「抗原結合部分」)またはその一本鎖を含む。「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互に接続された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと省略される)と重鎖定常領域とから構成されている。重鎖定常領域は、3つのドメインであるCH1、CH2およびCH3から構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと省略される)と軽鎖定常領域とから構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインであるCLから構成されている。VHおよびVL領域は、さらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が散在した、相補性決定領域(complementarity determining region)(CDR)と呼ばれる超可変性の領域に細分することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRと4つのFRから構成され、それらは、下記:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順番で、アミノ末端からカルボキシ末端に整列されている。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系の種々の細胞(例えば、エフェクター細胞)、および古典的な補体系の第1成分(C1q)などの宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。本発明の典型的な抗体には、抗体#1、3および14、並びにその抗原結合部分が含まれる。
【0039】
抗体の「抗原結合部分」(または、単に「抗体部分」)なる用語は、本明細書中で使用するとき、抗原(例えば、ErbB3)に特異的に結合する能力を保持している抗体の1以上の断片を指す。抗体の抗原結合機能は、全長の抗体の断片によって行われ得ることが示された。抗体の「抗原結合部分」なる用語に包含される結合断片の例には、(i)Fab断片、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価の断片;(ii)F(ab’)2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価の断片;(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片、(v)VHおよびVLドメインを含むdAb;(vi)VHドメインからなるdAb断片(Wardら(1989)Nature 341,544−546);(vii)VHまたはVLドメインからなるdAb;(viii)単離された相補性決定領域(CDR)、または(ix)場合により合成リンカーによって接続されてもよい2以上の単離されたCDRの組み合わせが挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメインであるVLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされているが、それらは、組換え法を用いて、一価の分子を形成させるためにVLおよびVH領域が対となる単一のタンパク質鎖(一本鎖Fv(scFv)として知られている;例えば、Birdら(1988)Science 242,423−426;並びに、Hustonら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci USA 85,5879−5883、を参照されたい)としてそれらを作製することができる合成リンカーによって接続され得る。また、このような一本鎖抗体は、抗体の「抗原結合部分」なる用語に包含されることが意図される。これらの抗体断片は、当業者に知られている従来技術を用いて得られ、断片は、完全な抗体と同じような有用性についてスクリーニングされる。抗原結合部分は、組換えDNA技術によって、または完全な免疫グロブリンの酵素的もしくは化学的切断によって生成することができる。
【0040】
用語「モノクローナル抗体」とは、本明細書中で使用するとき、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し、即ち、この集団を含む個々の抗体は、少量で存在し得る自然に存在する可能性のある変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、非常に特異的であって、単一の抗原部位に対して指向される。さらに、典型的には、異なる決定基(エピトープ)に対して指向される様々な抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原の単一の決定基に対して指向される。モノクローナル抗体は、任意の従来認識されている技術、および本明細書に記載されている技術、例えば、Kohlerら(1975)Nature,256:495に記載されるハイブリドーマ法、例えば、(例えば、Lonbergら(1994)Nature 368(6474):856−859を参照)によって記載されるトランスジェニック動物、組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号)を用いて、または、例えば、Clacksonら、Nature,352:624−628(1991)、並びに、Marksら、J.Mol.Biol,222:581−597(1991)に記載される技術を用いるファージ抗体ライブラリーを用いて調製することができる。モノクローナル抗体には、キメラ抗体、ヒト抗体およびヒト化抗体が含まれ、自然に存在するかまたは組換え的に生成されてもよい。
【0041】
用語「組換え抗体」は、組換え手法によって調製、発現、作製または単離された抗体を指し、例えば、(a)免疫グロブリン遺伝子(例えば、ヒト免疫グロブリン遺伝子)に対してトランスジェニックであるかもしくは導入染色体(transchromosomal)である動物(例えば、マウス)、またはそれらから調製されたハイブリドーマから単離された抗体、(b)抗体を発現するために形質転換された宿主細胞、例えばトランスフェクトーマ(transfectoma)から単離された抗体、(c)ファージディスプレイを用いた組換え、コンビナトリアル抗体ライブラリー(例えば、ヒト抗体配列を含む)から単離された抗体、(d)他のDNA配列への免疫グロブリン遺伝子配列(例えば、ヒト免疫グロブリン遺伝子)のスプライシグを伴う任意の他の手段によって調製、発現、作製または単離された抗体が挙げられる。このような組換え抗体は、ヒトの生殖細胞系列の免疫グロブリン配列から得られる可変領域および定常領域を含んでもよい。しかしながら、ある種の態様では、このような組換えヒト抗体は、インビトロの変異誘発に供することができ、したがって、組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒトの生殖細胞系列のVHおよびVL配列に由来し、およびそれらと関連するが、インビボでのヒト抗体の生殖細胞系列レパートリーには、自然に存在しない場合がある。
【0042】
用語「キメラ免疫グロブリン」またはキメラ抗体とは、可変領域が第1の種由来であり、定常領域が第2の種由来である免疫グロブリンまたは抗体を指す。キメラ免疫グロブリンまたはキメラ抗体は、例えば、遺伝子操作によって、異種に属する免疫グロブリン遺伝子のセグメントから構築することができる。
【0043】
用語「ヒト抗体」とは、本明細書中で使用するとき、フレームワーク領域とCDR領域との両方が、例えば、Kabatら(Kabatら(1991)Sequences of proteins of Immunological Interest,第5版,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91−3242を参照されたい)によって記載されるヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列由来である可変領域を有する抗体を含むことが意図される。さらに、抗体が定常領域を含む場合、定常領域もヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列由来である。ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異誘発またはインビボでの体細胞変異によって導入された変異)を含んでいてもよい。しかしながら、用語「ヒト抗体」とは、本明細書中で使用するとき、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系列から得られるCDR配列がヒトのフレームワーク配列に移入された抗体を含むことは意図されない。
【0044】
ヒト抗体は、アミノ酸残基、例えば、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列によってコードされていない、活性を高めるアミノ酸残基で置換された少なくとも1以上のアミノ酸を有することができる。典型的には、ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列の部分ではないアミノ酸残基で置換された最大20箇所を有することができる。特定の態様では、これらの置換は、下記に詳述されるように、CDR領域内にある。
【0045】
用語「ヒト化免疫グロブリン」または「ヒト化抗体」は、少なくとも1つのヒト化免疫グロブリンまたは抗体鎖(即ち、少なくとも1つのヒト化軽鎖または重鎖)を含む免疫グロブリンまたは抗体を指す。用語「ヒト化免疫グロブリン鎖」または「ヒト化抗体鎖」(即ち、「ヒト化免疫グロブリン軽鎖」または「ヒト化免疫グロブリン重鎖」)とは、実質的にヒト免疫グロブリンまたは抗体から得られる可変フレームワーク領域、および実質的にはヒトでない免疫グロブリンまたは抗体から得られる複数の相補性決定領域(CDR)(例えば、少なくとも1つのCDR、好ましくは2つのCDR、より好ましくは3つのCDR)を含み、さらに、定常領域(例えば、軽鎖の場合には少なくとも1つの定常領域またはその部分、好ましくは重鎖の場合には3つの定常領域)を含む可変領域を有する免疫グロブリンまたは抗体鎖(即ち、それぞれ軽鎖または重鎖)を指す。用語「ヒト化可変領域」(例えば、「ヒト化軽鎖可変領域」または「ヒト化重鎖可変領域」)とは、実質的にヒト免疫グロブリンまたは抗体から得られる可変フレームワーク領域、および実質的にヒトでない免疫グロブリンまたは抗体から得られる複数の相補性決定領域(CDR)を含む可変領域を指す。
【0046】
「二重特異性」または「二機能性抗体」は、2つの異なる重鎖/軽鎖対および2つの異なる結合部位を有する人工的なハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab’断片の連結を含む種々の方法によって生成することができる。例えば、Songsivilai & Lachmann,(1990)Clin.Exp.Immunol.79,315−321;Kostelnyら(1992)J.Immunol.148,1547−1553を参照されたい。特定の態様では、本発明に係る二重特異性抗体は、ErbB3とIGF1−R(即ち、インスリン様増殖因子1−受容体)との両方に対する結合部位を含む。別の態様では、本発明に係る二重特異性抗体は、ErbB3とC−METとの両方に対する結合部位を含む。他の態様では、二重特異性抗体は、ErbB3に対する結合部位、ErbB2、ErbB3、ErbB4、EGFR、ルイスY、MUC−1、EpCAM、CA125、前立腺特異的膜抗原、PDGFR−α、PDGFR−β、C−KIT、または任意のFGF受容体に対する結合部位を含む。
【0047】
本明細書中で使用するとき、「異種抗体」は、このような抗体を生成するトランスジェニック非ヒト生物または植物に関して定義される。
【0048】
「単離された抗体」とは、本明細書中で使用するとき、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体(例えば、ErbB3に特異的に結合する単離された抗体は、ErbB3以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)を指すことが意図される。さらに、単離された抗体は、典型的には、他の細胞の材料および/または化学物質を実質的に含まない。本発明の一態様では、異なるErbB3結合特異性を有する「単離された」モノクローナル抗体の組み合わせは、明確な組成物に組み合わせられる。
【0049】
本明細書中で使用するとき、「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えば、IgMまたはIgG1)を指す。一態様では、抗体またはその抗原結合部分は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgD、またはIgE抗体アイソタイプから選択されるアイソタイプの抗体またはその抗原結合部分である。ある態様では、本発明のモノクローナル抗体は、IgG1アイソタイプの抗体またはその抗原結合部分である。他の態様では、本発明のモノクローナル抗体は、IgG2アイソタイプの抗体またはその抗原結合部分である。
【0050】
本明細書中で使用するとき、「アイソタイプスイッチング(isotype switching)」とは、抗体のクラス、またはアイソタイプが、1つのIgクラスから他のIgクラスのうちの1つに変化する現象を指す。
【0051】
本明細書中で使用するとき、「スイッチされないアイソタイプ(nonswitched isotype)」とは、アイソタイプスイッチングが起こらない場合に生成される重鎖のアイソタイプクラスを指す;スイッチされないアイソタイプをコードするCH遺伝子は、典型的には、機能的に再配列されたVDJ遺伝子からすぐ下流にある第1のCH遺伝子である。アイソタイプスイッチングは、古典的または非古典的なアイソタイプスイッチングとして分類されている。古典的なアイソタイプスイッチングは、抗体をコードする遺伝子の少なくとも1つのスイッチ配列領域を含む組換え事象によって発生する。非古典的なアイソタイプスイッチングは、例えば、ヒトσμとヒトΣμ(δ−関連欠失)との間の相同組換えによって発生する場合がある。とりわけ、トランスジーン間(intertransgene)および/または染色体間(interchromosomal)の組換えなどの代替の非古典的なスイッチングメカニズムが発生し、アイソタイプスイッチングを生じさせる場合がある。
【0052】
本明細書中で使用するとき、用語「スイッチ配列」とは、スイッチ組換えに関与するそれらのDNA配列を指す。「スイッチドナー」配列、典型的にはμスイッチ領域は、スイッチ組換え中に欠失されるコンストラクト領域の5’(即ち、上流)である。「スイッチアクセプター」領域は、欠失されるコンストラクト領域と置換定常領域(例えば、γ、εなど)との間にある。組換えがいつも起こる特定の部位は存在しないため、最終の遺伝子配列は、典型的には、コンストラクトから予測され得ない。
【0053】
「抗原」は、抗体またはその抗原結合部分が結合する実体(例えば、タンパク性実体またはペプチド)である。本発明の種々の態様では、抗原は、ErbB3またはErbB3様分子である。本発明に係る特定の態様では、抗原はヒトErbB3である。
【0054】
用語「エピトープ」または「抗原決定基」とは、免疫グロブリンまたは抗体が特異的に結合する抗原上の部位を指す。エピトープは、タンパク質の三次折り畳みによって並置された隣接アミノ酸または非隣接アミノ酸の両者から形成され得る。隣接アミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒への曝露に対して保持され、そこでは三次折り畳みによって形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒による処理に対して消失する。エピトープは、典型的には、独自の1つの空間構造にある少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個のアミノ酸を含む。エピトープの空間構造を測定する方法には、当該技術分野における技術、および本明細書に記載される技術、例えば、x線結晶学および2次元核磁気共鳴が挙げられる。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology,Vol.66,G.E.Morris,Ed.(1996)を参照されたい。
【0055】
また、本発明の抗体と同じであるかまたは重複しているエピトープに結合する抗体、即ち、ErbB3への結合に競合するか、または本明細書に記載される抗体によって結合されるエピトープ、即ち、ErbB3のドメインIに位置したエピトープと重複するエピトープに結合する抗体が本発明に包含される。同じエピトープを認識する抗体は、例えば標的抗原への別の抗体の結合をブロックする1つの抗体の能力を示すことによる免疫アッセイ、即ち、競合結合アッセイなどの日常的な技術を用いて同定することができる。競合結合は、試験用の免疫グロブリンがErbB3などの共通の抗原への参照抗体の特異的結合を阻害するアッセイにおいて測定される。多数のタイプの競合結合アッセイが知られている。例えば、固相直接または間接放射免疫アッセイ(RIA)、固相直接または間接酵素免疫アッセイ(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ(Stahliら(1983)Methods in Enzymology 9:242を参照されたい);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Kirklandら(1986)J.Immunol.137:3614を参照されたい);固相直接標識アッセイ、固相直接標識サンドイッチアッセイ(Harlow and Lane,(1988)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Pressを参照されたい);I−125標識を用いた固相直接標識RIA(Morelら(1988)Mol.Immunol.25(1):7を参照されたい);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Cheungら(1990)Virology 176:546);および直接標識RIA(Moldenhauerら(1990)Scand J.Immunol.32:77)が挙げられる。典型的には、このようなアッセイは、これらの未標識試験免疫グロブリンおよび標識参照免疫グロブリンのいずれかを持つ固体表面または細胞に結合された精製された抗原(例えば、ErbB3)の使用を伴う。競合阻害は、試験免疫グロブリンの存在下で、固体表面または細胞に結合された標識量を測定することによって測定される。通常、試験免疫グロブリンは、過剰に存在している。通常、競合抗体が過剰に存在する場合、少なくとも50〜55%、55〜60%、60〜65%、65〜70%70〜75%以上まで、参照抗体による共通抗原への特異的結合を阻害する。
【0056】
本明細書中で使用するとき、用語「特異的結合」、「特異的に結合する」、「選択的結合」、および「選択的に結合する」とは、抗体またはその抗原結合部分が特定の抗原またはエピトープに感知できる(appreciable)親和性を示し、一般に、他の抗原およびエピトープとは有意な交差反応を示さないことを意味する。「感知できる」または好ましい結合には、少なくとも106、107、108、109M−1、または1010M−1の親和性を有する結合が含まれる。107M−1を超える親和性、好ましくは108M−1を超える親和性がより好ましい。また、本明細書に記載されている値の中間の値も本発明の範囲内にあることが意図され、好ましい結合親和性は、親和性の範囲、例えば、106〜1010M−1、好ましくは107〜1010M−1、より好ましくは108〜1010M−1として指示され得る。「有意な交差反応を示さない」抗体は、望ましくない実体(例えば、望ましくないタンパク性実体)に感知可能に結合されないものである。例えば、一態様では、ErbB3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合部分は、そのErbB3分子に感知可能に結合するが、他のErbB分子および非ErbBタンパク質またはペプチドとは有意に反応しない。特異的または選択的結合は、このような結合を測定するための任意の従来認識されている手段にしたがって、例えば、スキャッチャード分析および/または競合結合アッセイにしたがって測定することができる。
【0057】
用語「KD」とは、本明細書中で使用するとき、特定の抗体−抗原相互作用の解離平衡定数、または抗原に対する抗体の親和性を指すことが意図される。一態様では、本発明に係る抗体またはその抗原結合部分は、抗原(例えば、ErbB3)に結合し、表面プラズモン共鳴アッセイまたは細胞結合アッセイによって測定すると、親和性(KD)は50nMまたはそれよりも良好(即ち、小さい)(例えば、40nMまたは30nMまたは20nMまたは10nMまたはそれよりも小さい)である。特定の態様では、本発明に係る抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3に結合し、表面プラズモン共鳴アッセイまたは細胞結合アッセイを用いて測定すると、親和性(KD)は8nMまたはそれよりも良好(例えば、7nM、6nM、5nM、4nM、2nM、1.5nM、1.4nM、1.3nM、1nMまたはそれよりも小さい)である。他の態様では、抗体またはその抗原結合部分は、抗原(例えば、ErbB3)に結合し、親和性(KD)は、分析物として組換えErbB3とリガンドとして抗体を用いたBIACORE3000機器における表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって測定すると、約10−7M未満、例えば、約10−8M、10−9Mもしくは10−10M未満またはそれよりもさらに低く、この抗体またはその抗原結合部分は、所定の抗原に結合し、親和性は、所定の抗原または密接に関連した抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)への結合に対する親和性よりも少なくとも2倍大きい。
【0058】
用語「Koff」とは、本明細書中で使用するとき、抗体/抗原複合体からの抗体の解離に関するoff速度定数を指すことが意図される。
【0059】
用語「EC50」とは、本明細書中で使用するとき、インビトロアッセイまたはインビボアッセイのいずれかにおいて、最大応答の50%、即ち、最大応答とベースラインとの間の中間である、応答を誘導する抗体またはその抗原結合部分の濃度を指す。
【0060】
本明細書中で使用するとき、「グリコシル化パターン」は、タンパク質、より具体的には免疫グロブリンタンパク質に共有結合で結合される炭水化物単位のパターンとして定義される。
【0061】
用語「自然に存在する」とは、本明細書中で使用するとき、被験体に適用される場合、被験体が自然に見出され得る事実を指す。例えば、有機体(ウイルスを含む)に存在し、自然の供給源から単離することができ、実験室にいる者によって意図的に改変されていないポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は自然に存在する。
【0062】
用語「再配列された」とは、本明細書中で使用するとき、重鎖または軽鎖免疫グロブリンの座(locus)の立体配置を指し、ここで、Vセグメントは、それぞれ完全なVHまたはVLドメインを本質的にコードする立体配座におけるD−JまたはJセグメントに直接隣接して位置される。再配列された免疫グロブリン遺伝子座は、生殖細胞系列DNAと比較することによって同定することができる;再配列された座は、少なくとも1つの組み換えられた7量体/9量体の相同エレメントを有する。
【0063】
用語「再配列されていない」または「生殖細胞系列の立体配置」とは、Vセグメントと関連して本明細書中で使用するとき、VセグメントがDまたはJセグメントと直接隣接するようには組み換えられていない立体配置を指す。
【0064】
用語「核酸分子」とは、本明細書中で使用するとき、DNA分子およびRNA分子を含むことが意図される。核酸分子は、一本鎖または二本鎖であってもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0065】
用語「単離された核酸分子」とは、ErbB3に結合する抗体または抗体部分(例えば、VH、VL、CDR3)をコードする核酸に関連して本明細書中で使用するとき、抗体または抗体部分をコードするヌクレオチド配列が、ErbB3以外の抗原に結合する抗体をコードする他のヌクレオチド配列を含まない核酸分子を指すことが意図され、その場合、他の配列は、ヒトゲノムDNAの核酸の側面に自然に位置してもよい。
【0066】
用語「改変すること」または「改変」とは、本明細書中で使用するとき、抗体またはその抗原結合部分において1以上のアミノ酸を変化させることを指すことが意図される。この変化は、1以上の位置でアミノ酸を付加、置換または欠失させることによって生じさせることができる。この変化は、PCR変異誘発などの知られている技術を用いて生じさせることができる。例えば、ある態様では、本発明の方法を用いて同定された抗体またはその抗原結合部分は改変され、それによって、ErbB3に対する抗体またはその抗原結合部分の結合親和性を改変することができる。
【0067】
また、本発明は、本発明の抗体の配列において「保存アミノ酸置換」、即ち、抗原、即ちErbB3に対する、ヌクレオチド配列によってコードされる抗体、またはErbB3に対するアミノ酸配列を含む抗体の結合を無効にしないヌクレオチドおよびアミノ酸配列改変を含む。保存アミノ酸置換には、同じクラスのアミノ酸による、あるクラスのアミノ酸の置換が含まれ、この場合、クラスは、例えば、標準的なDayhoff頻度交換マトリックスまたはBLOSUMマトリックスによって測定すると、自然に見いだされる相同なタンパク質における共通の物理化学的なアミノ酸配列特性および高い置換頻度によって規定される。アミノ酸側鎖の6個の一般的なクラスが分類され、クラスI(Cys);クラスII(Ser、Thr、Pro、Ala、Gly);クラスIII(Asn、Asp、Gln、Glu);クラスIV(His、Arg、Lys);クラスV(Ile、Leu、Val、Met);クラスVI(Phe、Tyr、Trp)を含む。例えば、Asn、Gln、またはGluなどの別のクラスIII残基によるAspの置換は、保存置換である。このようにして、抗ErbB3抗体における予測された非必須アミノ酸残基は、好ましくは、同じクラスから得られる別のアミノ酸残基により置換される。抗原結合をなくさないヌクレオチドおよびアミノ酸保存置換を同定する方法は、当該技術分野において周知である(例えば、Brummellら、Biochem.32:1180−1187(1993);Kobayashiら.Protein Eng.12(10):879−884(1999);並びに、Burksら.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:412−417(1997)を参照されたい)。
【0068】
用語「非保存アミノ酸置換」とは、別のクラスから得られるアミノ酸を用いた1つのクラスのアミノ酸の置換を指す:例えば、Asp、Asn、Glu、またはGlnなどのクラスIII残基を用いて、クラスII残基であるAlaの置換が挙げられる。
【0069】
あるいは、別の態様では、変異(保存または非保存)は、飽和変異誘発によるなどの抗ErbB3抗体をコードする配列の全部または一部に沿って、無作為に導入することができ、得られた改変された抗ErbB3抗体は、結合活性についてスクリーニングされ得る。
【0070】
「コンセンサス配列」は、関連する配列のファミリーにおける最も頻繁に発生するアミノ酸(またはヌクレオチド)から形成される配列である(例えば、Winnaker,From Genes to Clones(Verlagsgesellschaft,Weinheim,Germany 1987)を参照されたい。タンパク質のファミリーでは、コンセンサス配列の各位置は、ファミリーのその位置で最も頻繁に発生するアミノ酸によって占有される。2つのアミノ酸は等しく頻繁に発生する場合、いずれかがコンセンサス配列に含まれ得る。免疫グロブリンの「コンセンサスフレームワーク」とは、コンセンサス免疫グロブリン配列のフレームワーク領域を指す。
【0071】
同様に、CDRに対するコンセンサス配列は、本発明のErbB3抗体のCDRアミノ酸配列の最適アラインメントによって誘導することができる。
【0072】
核酸に関して、用語「実質的に相同な」は、2つの核酸、またはその指定された配列が、最適に整列および比較された場合、適切なヌクレオチド挿入または欠失を含み、ヌクレオチドの少なくとも約80%、通常、ヌクレオチドの少なくとも約90%〜95%、およびより好ましくは少なくとも約98%〜99.5%で同一であることを示す。あるいは、実質的な相同性は、鎖(strand)の相補体に対して、セグメントが選択的なハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする場合に存在する。
【0073】
2つの配列間の同一性パーセントは、それらの配列によって共有される同一の位置の数の関数(即ち、相同性%=同一の位置の数/位置の全体の数×100)であり、ギャップの数、および各ギャップの長さを考慮して、2つの配列の最適アラインメントに対して導入される必要がある。配列の比較、および2つの配列間の同一性パーセントの決定は、下記の非制限的な実施例に記載されるように、数学的アルゴリズムを用いて達成することができる。
【0074】
2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、NWSgapdna CMPマトリックス、および40、50、60、70、または80のギャップ重量(gap weight)、および1、2、3、4、5、または6の長さ重量(length weight)を用いて、GCGソフトウェアのGAPプログラムを使用して測定することができる。また、2つのヌクレオチド配列間またはアミノ酸配列間の同一性パーセントは、PAM120加重残基表(weight residue table)、12のギャップ長ペナルティ(gap length penalty)、4のギャップペナルティを用いて、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に導入された、E.MeyersおよびW.Miller(CABIOS,4:11−17(1989))のアルゴリズムを用いて決定することもできる。さらに、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、Blossum 62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、並びに16、14、12、10、8、6、または4のギャップ重量、および1、2、3、4、5、または6の長さ重量を用いて、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラム内に組み込まれた、NeedlemanおよびWunsch(J.Mol.Biol.(48):444−453(1970))アルゴリズムを用いて決定できる。
【0075】
さらに、本発明の核酸およびタンパク質の配列は、例えば、関連した配列を同定するために、公的なデータベースに対する検索を実施するための、「クエリー配列(query sequence)」として用いることができる。このような検索は、Altschulら(1990)J.Mol.Biol.215:403−10のNBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)を用いて実行可能である。BLASTヌクレオチド検索は、本発明の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得るために、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12で実行可能である。BLASTタンパク質検索は、本発明のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得るために、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3で実行可能である。比較を目的としたギャップアライメントを得るために、Gapped BLASTを、Altschulら(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389−3402に記載されているように利用可能である。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、各プログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメーターを用いることができる。
【0076】
核酸は、全細胞、細胞溶解物、または部分的に精製されたかもしくは実質的に純粋な形態で存在してもよい。核酸は、標準的な技術、例えば、アルカリ/SDS処理、CsClバンディング、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、当該技術分野において周知である他の技術によって、他の細胞成分または他の汚染物、例えば他の細胞の核酸またはタンパク質から切り離して精製された場合、「単離されている」または「実質的に純粋の状態にある」。F.Ausubelら、編集,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing and Wiley Interscience,New York(1987)を参照されたい。
【0077】
本発明の核酸組成物は、多くの場合、cDNA、ゲノムまたはそれらの混合物のいずれかから天然の配列(改変された制限部位などを除く)にあるが、遺伝子配列を与えるために標準的な技術に従って変異させることができる。コーディング配列については、これらの変異は、目的どおりにアミノ酸配列に影響を与えることができる。特に、天然のV、D、J、定常、スイッチ、および本明細書に記載される他のこのような配列に実質的に相同であるかまたはそれらから得られるDNA配列が意図される(この場合、「由来する」は、配列が別の配列と同一であるかまたは改変されることを示す)。
【0078】
用語「操作可能に連結されている」とは、別の核酸配列と機能的な関連性があるように配置されている核酸配列を指す。例えば、プレ配列または分泌リーダーのDNAが、ポリペプチドの分泌に関与する前タンパク質(preprotein)として発現される場合、このDNAは該ポリペプチドのDNAに操作可能に連結されている;プロモーターまたはエンハンサーが、コーディング配列の転写に影響を与える場合、それらは該コーディング配列に操作可能に連結されている;またはリボソーム結合部位が、翻訳を促進するように位置されている場合、それはコーディング配列に操作可能に連結されている。一般的に、「操作可能に連結されている」とは、連結されるDNA配列が隣接し、分泌リーダーの場合には、隣接し、読み取られる状態にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは隣接している必要はない。連結は、都合のよい制限部位での連結により達成される。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーは、慣用の実施に従って用いられる。核酸は、別の核酸配列と機能的な関連性があるように置かれている場合に「操作可能に連結されている」。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響を与える場合、コーディング配列に操作可能に連結されている。転写制御配列に関して、操作可能に連結されているとは、連結されているDNA配列が隣接し、2つのタンパク質のコーディング領域を連結することが必要なところでは、隣接し、読み取りフレームにあることを意味する。スイッチ配列に関して、操作可能に連結されているとは、配列がスイッチ組換えをもたらすことができることを示す。
【0079】
用語「ベクター」とは、本明細書中で使用するとき、それが連結されている別の核酸の輸送を可能にする核酸分子を指すことが意図される。1つのタイプのベクターは「プラスミド」であり、付加的なDNAセグメントが連結されてもよい環状二本鎖DNAループを指す。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、付加的なDNAセグメントはウイルスゲノムに連結され得る。ある種のベクターは、それらが導入される宿主細胞中での自律複製が可能である(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入に際して宿主細胞のゲノムに組み込まれてもよく、それにより宿主ゲノムと一緒に複製される。さらに、ある種のベクターは、それらが操作可能に連結されている遺伝子の発現を指向することが可能である。このようなベクターは、本明細書において、「組換え発現ベクター」(または、単に「発現ベクター」)と称される。一般に、組換えDNA技術における有用性のある発現ベクターは、多くの場合、プラスミドの形態である。用語「プラスミド」および「ベクター」は、互換可能に用いられてもよい。しかしながら、本発明は、同等の機能を供給するウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)などのこのような他の形態の発現ベクターを含むことが意図される。
【0080】
用語「組換え宿主細胞」(または、単に「宿主細胞」)とは、本明細書中で使用するとき、組換え発現ベクターが導入される細胞を指すことが意図される。このような用語は、特定の被験体細胞だけでなく、このような細胞の子孫を指すことが意図される。ある種の改変は、変異または環境の影響のいずれかにより、続く世代において発生する場合があるため、このような子孫は、実際に、親細胞と同一でなくてもよいが、なおも、本明細書中で使用する用語「宿主細胞」の範囲内に含まれる。
【0081】
用語「処置する」、「処置すること」、および「処置」とは、本明細書で使用するとき、本明細書に記載される治療的または予防的手段を指す。「処置」の方法は、疾患もしくは障害または再発性の疾患もしくは障害の1以上の症状を予防、治癒、遅延、重症度の減少、または改善するために、あるいは、このような処置がない場合に期待されるものを超えて被験体の生存を延長するために、被験体に、例えば、ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患または障害を患っている被験体、またはこのような疾患または障害を患い易い被験体への本発明の抗体または抗原結合部分の投与に使用する。
【0082】
用語「ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患」、または「ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した障害」には、本明細書中で使用するとき、ErbB3のレベル上昇および/またはErbB3が関与した細胞カスケードの活性化が見られる疾患状態および/または疾患状態と関連した症状が含まれる。ErbB3は、ErbB3のレベル上昇が見られる場合に、EGFRおよびErbB2などの他のErbBタンパク質と異種二量化するものと理解されている。したがって、用語「ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患」にも、EGFR/ErbB3および/またはErbB2/ErbB3異種二量体のレベル上昇が見られる疾患状態および/または疾患状態と関連した症状が含まれる。一般に、用語「ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患」とは、ErbB3の関与を必要とする任意の障害、症状の開始、進行または持続を指す。例示的なErbB3媒介の障害には、限定されないが、例えば、癌が含まれる。
【0083】
用語「癌」および「癌性」とは、典型的には、制御されない細胞増殖によって特徴付けられる、哺乳動物における生理学的状態を指すかまたはそれを記載するものである。癌の例には、限定されないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、および白血病が挙げられる。このような癌のより具体的な例には、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、胃癌、膵臓癌、グリア芽腫および神経線維腫症などのグリア細胞腫瘍、子宮頸癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、肝細胞癌(hepatoma)、乳癌、結腸癌、メラノーマ、結腸直腸癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、腎臓癌(kidney cancer)、腎臓癌(renal cancer)、前立腺癌、外陰部癌、甲状腺癌、肝性の癌腫、および種々のタイプの頭頸部癌が挙げられる。特定の態様では、本発明の方法を用いて処置または診断される癌は、メラノーマ、乳癌、卵巣癌、腎臓癌腫、胃腸/結腸癌、肺癌、および前立腺癌から選択される。
【0084】
用語「有効な量」とは、本明細書中で使用するとき、被験体に投与された場合、本明細書に記載されるように、ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患の処置、予測または診断を達成させるのに十分である、ErbB3に結合する抗体またはその抗原結合部分の量を指す。治療的に有効な量は、当業者によって容易に測定され得る、処置される被験体および疾患状態、被験体の体重および年齢、疾患状態の重症度、投与様式などに依存して変化する。投与のための投薬量は、例えば、本発明に係る抗体またはその抗原結合部分の約1ng〜約10,000mg、約5ng〜約9,500mg、約10ng〜約9,000mg、約20ng〜約8,500mg、約30ng〜約7,500mg、約40ng〜約7,000mg、約50ng〜約6,500mg、約100ng〜約6,000mg、約200ng〜約5,500mg、約300ng〜約5,000mg、約400ng〜約4,500mg、約500ng〜約4,000mg、約1μg〜約3,500mg、約5μg〜約3,000mg、約10μg〜約2,600mg、約20μg〜約2,575mg、約30μg〜約2,550mg、約40μg〜約2,500mg、約50μg〜約2,475mg、約100μg〜約2,450mg、約200μg〜約2,425mg、約300μg〜約2,000、約400μg〜約1,175mg、約500μg〜約1,150mg、約0.5mg〜約1,125mg、約1mg〜約1,100mg、約1.25mg〜約1,075mg、約1.5mg〜約1,050mg、約2.0mg〜約1,025mg、約2.5mg〜約1,000mg、約3.0mg〜約975mg、約3.5mg〜約950mg、約4.0mg〜約925mg、約4.5mg〜約900mg、約5mg〜約875mg、約10mg〜約850mg、約20mg〜約825mg、約30mg〜約800mg、約40mg〜約775mg、約50mg〜約750mg、約100mg〜約725mg、約200mg〜約700mg、約300mg〜約675mg、約400mg〜約650mg、約500mg、または約525mg〜約625mgの範囲であり得る。投薬計画は、最適な治療応答を与えるように調整されてもよい。また、有効な量は、抗体またはその抗原結合部の任意の毒性または有害な影響(即ち、副作用)が最小化され、および/または有益な効果が上回るものである。
【0085】
用語「患者」とは、予防的または治療的処置のいずれかを受けているヒトおよび他の哺乳動物被験体が含まれる。
【0086】
本明細書中で使用するとき、用語「被験体」には、いずれかのヒトまたはヒト以外の動物が含まれる。例えば、本発明の方法および組成物は、癌を患っている被験体を処置するために用いることができる。特定の態様では、被験体はヒトである。用語「ヒト以外の動物」には、全ての脊椎動物が含まれ、例えば哺乳動物および非哺乳動物、例えば、ヒト以外の霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類などが挙げられる。
【0087】
用語「試料」とは、患者または被験体からの組織、体液、または細胞を指す。通常、組織または細胞は、患者から取り出されるが、インビボでの診断も意図される。固形腫瘍の場合には、組織試料は、外科的に取り出された腫瘍から採取することができ、従来技術によって試験のために調製することができる。リンパ腫および白血病の場合には、リンパ球、白血病細胞、またはリンパ組織が得られ、適切に調製することができる。また、尿、涙、血清、脳脊髄液、糞便、痰、細胞抽出物などを含む他の患者試料も特定の腫瘍については有用であり得る。
【0088】
用語「抗癌剤」および「抗腫瘍剤」とは、癌性増殖などの悪性腫瘍を処置するために用いられる薬物を指す。薬物治療は、単独で、または外科的処置もしくは放射線治療などの他の処置と併用して用いられてもよい。いくつかのクラスの薬物は、関与する臓器の性質に依存して、癌処置に用いることができる。例えば、乳癌は、通常、エストロゲンによって刺激され、性ホルモンを不活性化する薬物で処置されてもよい。同様に、前立腺癌は、男性ホルモンであるアンドロゲンを不活性化する薬物で処置されてもよい。本発明の抗癌剤には、とりわけ、下記の薬物が含まれる。
【0089】
【化1】
【0090】
【化2】
【0091】
【化3】
【0092】
【化4】
【0093】
【化5】
1以上の抗癌剤は、本発明の抗体またはその抗原結合部の投与と同時またはその前またはその後に投与されてもよい。
【0094】
本発明の種々の局面が、下記の小節においてさらに詳細に記載されている。
【0095】
II.本発明の抗体を生成する方法
(i)モノクローナル抗体
本発明のモノクローナル抗体は、種々の知られている技術、例えば、KohlerおよびMilstein(1975)Nature 256:495に記載される標準的な体細胞のハイブリダイゼーション技術、Bリンパ球のウイルス性または発癌性形質転換またはヒト抗体遺伝子のライブラリーを用いたファージディスプレイ技術を用いて生成することができる。特定の態様では、抗体は、完全なヒトモノクローナル抗体である。
【0096】
したがって、一態様では、ハイブリドーマ法は、ErbB3に結合する抗体を生成するために用いられる。この方法では、免疫付与のために用いられる抗原に特異的に結合する抗体を生成するかまたはそれを生成することができるリンパ球を誘発するために、適切な抗原を用いて、マウスまたは他の適した宿主動物を免疫することができる。あるいは、リンパ球は、インビトロで免疫されてもよい。次に、リンパ球は、ハイブリドーマ細胞を形成させるために、ポリエチレングリコールなどの適した融合剤を用いて、ミエローマ細胞と融合することができる(Goding,Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,pp.59−103(Academic Press,1986))。ハイブリドーマ細胞が増殖している培地は、抗原に指向されたモノクローナル抗体の生産について評価される。所望の特異性、親和性、および/または活性のある抗体を生産するハイブリドーマ細胞が同定された後、限界希釈法によってクローンをサブクローニングし得、標準的な方法によって増殖させてもよい(Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,pp.59−103(Academic Press,1986))。この目的に適した培地には、例えば、D−MEMまたはRPMI−1640培池が含まれる。さらに、ハイブリドーマ細胞は、動物の腹水腫瘍としてインビボで増殖させてもよい。サブクローンから分泌されたモノクローナル抗体は、例えば、プロテインA−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順によって、培地、腹水、または血清から分離することができる。
【0097】
別の態様では、ErbB3に結合する抗体および抗体部分は、例えば、McCaffertyら、Nature,348:552−554(1990).Clacksonら、Nature,352:624−628(1991),Marksら、J.Mol.Biol.,222:581−597(1991)、並びにHoetら(2005)Nature Biotechnology 23,344−348;Ladnerらに関する米国特許第5,223,409号;同第5,403,484号;および同第5,571,698;Dowerらに関する米国特許第5,427,908号および同第5,580,717号;McCaffertyらに関する米国特許第5,969,108号および同第6,172,197号;並びに、Griffithsらに関する米国特許第5,885,793号;同第6,521,404号;同第6,544,731号;同第6,555,313号;同第6,582,915号および同第6,593,081号に記載される技術を用いて生じさせた抗体ファージライブラリーから単離することができる。さらに、チェインシャッフリング(chain shuffling)(Marksら、Bio/Technology,10:779−783(1992))、並びに非常に巨大なファージライブラリー(Waterhousら、Nuc.Acids.Res.,21:2265−2266(1993))を構築するための戦略としてのコンビナトリアルインフェクションおよびインビボでの組換えによる高親和性(nMレンジ)のヒト抗体の生成も用いてもよい。
【0098】
特定の態様では、ErbB3に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合部は、Hoetら、上掲、によって記載されるファージディスプレイ技術を用いて生産される。この技術は、ヒトドナーから単離された免疫グロブリン配列の独特の組み合わせを有し、重鎖CDRにおける合成多様性を有するヒトFabライブラリーの産生を含む。次に、このライブラリーは、ErbB3に結合するFabについてスクリーニングされる。
【0099】
さらに別の態様では、ErbB3に指向されるヒトモノクローナル抗体は、マウス系よりもむしろヒト免疫系の部分を担持するトランスジェニックまたはトランス染色体マウスを用いて産生することができる(例えば、Lonbergら(1994)Nature 368(6474):856−859;Lonberg,N.ら(1994),上掲;Lonberg,N.(1994)Handbook of Experimental Pharmacology 113:49−101に概説される;Lonberg,N.およびHuszar,D.(1995)Intern.Rev.Immunol 13:65−93、並びに、Harding,F.およびLonberg,N.(1995)Ann.NY.Acad Sci.764:536−546を参照されたい。さらに、全てがLonbergおよびKayに関する米国特許第5,545,806号;同第5,569,825号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;同第5,789,650号;同第5,877,397号;同第5,661,016号;同第5,814,318号;同第5,874,299号;および同第5,770,429号;Suraniらに関する米国特許第5,545,807号;全てがLonbergおよびKayに関するPCT国際公開第92/03918号、同第93/12227号、同第94/25585号、同第97/13852号、同第98/24884号および同第99/45962号;並びに、Kormanらに関するPCT国際公開第01/14424号を参照されたい)。
【0100】
別の態様では、本発明のヒト抗体は、トランス遺伝子およびトランス染色体にヒト免疫グロブリン配列を担持するマウス、例えば、ヒト重鎖トランス遺伝子およびヒト軽鎖トランス染色体を担持するマウスを用いて生じさせることができる(例えば、Ishidaらに関するPCT国際公開第02/43478号を参照されたい)。
【0101】
なおさらに、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現する代替のトランスジェニック動物系は、当該技術分野において利用可能であり、本発明の抗ErbB3抗体を生じさせるために用いることができる。例えば、Xenomouse(Abgenix,Inc.)として言われているトランスジェニック系を用いることができる;このようなマウスは、例えば、Kucherlapatiらに関する米国特許第5,939,598号;同第6,075,181号;同第6,114,598号;同第6,150,584号、および同第6,162,963号に記載されている。
【0102】
さらに、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現する代替のトランス染色体の動物系は、当該技術分野において利用可能であり、本発明の抗ErbB3抗体を生じさせるために用いることができる。例えば、ヒト重鎖トランス染色体とヒト軽鎖トランス染色体の両方を担持するマウスは、Tomizukaら(2000)Proc.Natl.Acad Sci.USA 97:722−727に記載されるように用いることができる。さらに、ヒト重鎖および軽鎖トランス染色体を担持するウシは、当該技術分野(Kuroiwaら(2002)Nature Biotechnology 20:889−894)において記載されており、本発明の抗ErbB3抗体を生じさせるために用いることができる。
【0103】
なお別の態様では、本発明の抗体は、このような抗体を生成するトランスジェニック植物および/または培養された植物細胞(例えば、タバコ、トウモロコシおよびアオウキクサ)を用いて調製することができる。例えば、抗体またはその抗原結合部分を発現するトランスジェニックタバコの葉は、例えば、誘導プロモーターを用いることによって、このような抗体を生成するために用いることができる(例えば、Cramerら、Curr.Top.Microbol.Immunol.240:95 118(1999)を参照されたい)。また、トランスジェニックトウモロコシを用いて、このような抗体およびその抗原結合部分を発現させることができる(例えば、Hoodら、Adv.Exp.Med Biol.464:127 147(1999)を参照されたい)。また、抗体は、例えば、タバコの種子およびジャガイモ塊茎を用いて、1本鎖抗体(scFv)などの抗体部分を含むトランスジェニック植物種子から大量に生成することができる(例えば、Conradら、Plant Mol.Biol.38:101 109(1998)を参照されたい)。また、植物における抗体または抗原結合部分を生成する方法は、例えば、Fischerら、Biotechnol.Appl.Biochem.30:99 108(1999)Maら、Trends Biotechnol.13:522 7(1995);Maら、Plant Physiol.109:341 6(1995);Whitelamら、Biochem.Soc.Trans.22:940 944(1994)、並びに米国特許第6,040,498号および同第6,815,184号に見出すことができる。
【0104】
本明細書に開示された技術を含むいずれかの技術を用いて調製されたErbB3に結合するモノクローナル抗体またはその部分の結合特異性は、免疫沈降によるか、または放射免疫アッセイ(RIA)または酵素免疫吸着アッセイ(ELISA)などインビトロの結合アッセイによって測定することができる。また、モノクローナル抗体またはその部分の結合親和性は、Munsonら、Anal.Biochem.,107:220(1980)のScatchard分析によって決定することができる。
【0105】
ある種の態様では、上記で検討された方法のいずれかを用いることによって生成されたErbB3抗体またはその部分は、本明細書に記載される技術などの従来認識されている技術を用いて、所望の結合特異性および/または親和性を達成するためにさらに変更または最適化されてもよい。
【0106】
一態様では、ErbB3抗体から得られる部分的な抗体配列は、構造的および機能的に関連した抗体を生成するために用いられてもよい。例えば、抗体は、6個の重鎖および軽鎖の相補性決定領域(CDR)に位置されるアミノ酸残基を主に介して標的抗原と相互作用する。このため、CDR内のアミノ酸配列は、CDRを除く配列よりも各抗体間でより様的である。CDR配列は、大部分の抗体−抗原相互作用に関与するため、異なる特性を有する異なる抗体からフレームワーク配列に移入された特定の自然に存在する抗体からのCDR配列を含む発現ベクターを構築することによって、特定の自然に存在している抗体の特性を模倣する組換え抗体を発現することができる(例えば、Riechmann,L.ら、1998,Nature 332:323−327;Jones,P.ら、1986,Nature 321:522−525;および、Queen,C.ら、1989,Proc.Natl.Acad See.U.S.A.86:10029−10033を参照されたい)。このようなフレームワーク配列は、生殖細胞系列の抗体遺伝子配列を含む公的なDNAデータベースから得ることができる。
【0107】
このようにして、本発明の抗ErbB3抗体の1以上の構造的特徴、例えばCDRは、本発明の抗体の少なくとも1つの機能的特徴、例えば、EGF様リガンド媒介のErbB3のリン酸化を阻害すること;ErbB3を介したヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン媒介のシグナル伝達の1以上を阻害すること;増殖またはErbB3を発現している細胞を阻害すること;および/または細胞表面のErbB3レベルを減少させることを保持している、構造的に関連した抗ErbB3抗体を作製するために用いることができる。
【0108】
特定の態様では、配列番号7〜12、配列番号13〜18、配列番号19〜24、配列番号39〜44、および配列番号45〜50から選択される1以上のCDR領域は、知られているヒトのフレームワーク領域およびCDRを用いて組換え的に組み合わさって、追加的な組換え操作されて本発明の抗ErbB3抗体を作製する。重鎖および軽鎖可変フレームワーク領域は、同一であるかまたは異なった抗体配列から得ることができる。
【0109】
抗体の重鎖および軽鎖CDR3ドメインが、抗原に対する抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を果たすことは、当該技術分野において周知である(例えば、Hallら、J.Imunol,149:1605−1612(1992);Polymenisら、J.Immunol,152:5318−5329(1994);Jahnら、Immunobiol,193:400−419(1995);Klimkaら、Brit.J.Cancer,83:252−260(2000);Beiboerら、J.Mol Biol,296:833−849(2000);Raderら、Proc.Natl.Acad ScL USA,95:8910−8915(1998);Barbasら、J.Am.Chem.Soc,116:2161−2162(1994);Ditzelら、J.Immunol,157:739−749(1996)を参照されたい)。したがって、ある種の態様では、本明細書に記載される特定の抗体の重鎖および/または軽鎖CDR(例えば、配列番号9、15、21、41、47および/または配列番号12、18、24、44、50)を含む抗体が産生される。抗体は、さらに、本発明の抗体の重鎖および/または軽鎖CDR1および/またはCDR2(例えば、配列番号7〜8および/または配列番号10〜11;配列番号13〜14および/または配列番号16〜17;配列番号20〜21および/または配列番号22〜23;配列番号39〜40および/または配列番号42〜43;配列番号45〜46および/または配列番号48〜49)を含むことができる。
【0110】
上記される操作された抗体のCDR1、2、および/または3領域は、本明細書中に開示されるものとして正確なアミノ酸配列(単数または複数)(例えば、配列番号7〜12、13〜18、19〜24、39〜44、および45〜50に記載される、それぞれAb#6、Ab#3、Ab#14、Ab#17、またはAb#19のCDR)を含むことができる。しかしながら、当業者は、効果的にErbB3に結合する抗体の能力をなおも保持しながら、正確なCDR配列からのいくつかの逸脱は可能であり得ることを承認する(例えば、保存的アミノ酸置換)。したがって、別の態様では、操作された抗体は、例えば、Ab#6、Ab#3またはAb#14の1以上の1以上のCDRに対して、90%、95%、98%、99%または99.5%同一である1以上のCDRから構成されてもよい。
【0111】
別の態様では、CDRの1以上の残基は、より特別な結合のオンレート(on−rate)を達成するために、結合を改変するように変更されてもよい。この戦略を用いて、例えば1010M−1以上である極めて高い結合親和性を有する抗体が達成され得る。当該技術分野において周知である親和性成熟技術、並びに本明細書に記載されている技術を用いて、CDR領域(単数または複数)を変更することができ、その後、結合における所望の変化について、得られた結合分子をスクリーニングする。あるいは、CDR(単数または複数)が変更されるため、結合親和性並びに免疫原性の変化は、抗体が最良の組み合わせ結合に対して最適化された抗体、および低い免疫原性が達成されるようにモニターされ、スコア化できる。
【0112】
CDR内の改変に加えて、またはそれに代えて、これらの改変が抗体の結合親和性を排除する限り、改変も、抗体の重鎖および/または軽鎖可変領域の1以上のフレームワーク領域、FR1、FR2、FR3およびFR4内で行われ得る。
【0113】
別の態様では、抗体は、例えば、癌の処置における抗体の有効性を高めるように、エフェクター機能に関して、さらに改変される。たとえば、システイン残基(単数または複数)は、Fc領域に導入されてもよく、それにより、この領域における鎖間のジスルフィド結合形成を可能にする。このようにして産生されたホモ二量化抗体は、内在化能力改善し、および/または補体媒介の細胞死および抗体に依存した細胞の細胞傷害性(ADCC)を増加させる場合がある。Caronら、J.Exp Med.176:1191−1195(1992)、並びにShopes、B.J.Immunol.148:2918−2922(1992)を参照されたい。また、抗腫瘍活性が高まったホモ二量化抗体は、Wolffら、Cancer Research 53:2560−2565(1993)に記載されるヘテロ二機能性架橋剤を用いて調製することができる。あるいは、二重のFc領域を有し、それにより、補体溶解およびADCC能力を高めた可能性がある抗体が操作され得る。Stevensonら、Anti−Cancer Drug Design 3:219−230(1989)を参照されたい。
【0114】
また、下記に記載される二重特異性抗体および免疫結合体も本発明に包含される。
【0115】
(ii)二重特異性抗体
本発明の二重特異性抗体は、ErbB3に対する少なくとも1つの結合特異性、および癌遺伝子の生成物などの別の抗原に対する少なくとも1つの結合特異性を含む。二重特異性抗体は、全長の抗体または抗体断片(例えば、F(ab’)2二重特異性抗体)として調製することができる。
【0116】
二重特異性抗体を作製する方法は、当該技術分野において周知である(例えば、国際公開第05117973号および同第06091209号を参照されたい)。例えば、全長の二重特異性抗体の生成は、2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖対の同時発現に基づくことができ、この場合、2つの鎖は、異なる特異性を有する(例えば、Millsteinら、Nature,305:537−539(1983)を参照されたい)。二重特異性抗体を生じさせるための更なる詳細は、例えば、Sureshら、Methods in Enzymology,121:210(1986)、並びに、二重特異性抗体を作製するための化学的連結法を記載するBrennanら、Science,229:81(1985)に見いだすことができる。また、組換え細胞培養から直接的に二重特異性抗体断片を作製および単離するための種々の技術が記載されている。例えば、二重特異性抗体は、ロイシンジッパーを用いて生成されている(例えば、Kostelnyら、J.Immunol,148(5):1547−1553(1992)を参照されたい)。また、一本鎖Fv(sFv)二量体の使用による二重特異性抗体断片を作製するための別の戦略が報告されている(例えば、Gruberら、J.Immunol,152:5368(1994)を参照されたい)。
【0117】
特定の態様では、二重特異性抗体は、ErbB3に結合する第1抗体またはその結合部分、およびErbB2、ERbB3、ErbB4、EGFR、IGF1−R、C−MET、ルイスY、MUC−1、EpCAM、CA125、前立腺特異的膜抗原、PDGFR−α、PDGFR−β、C−KIT、またはFGF受容体のいずれかに結合する第2抗体またはその結合部分を含む。
【0118】
(iii)免疫結合体
本発明の免疫結合体(immunoconjugate)は、本明細書に記載される抗体またはその抗原結合部分を別の治療薬に結合させることによって形成することができる。適切な薬剤には、例えば、細胞傷害性剤(例えば、化学療法剤)、毒素(例えば、細菌、真菌、植物もしくは動物起源の酵素的に活性な毒素、またはそれらの断片)、および/または放射性同位体(即ち、放射線結合体)が挙げられる。このような免疫結合体の生成に有用な化学療法剤は、上記されている。用いることができる酵素的に活性な毒素およびそれらの断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性の活性な断片、外毒素A鎖(Pseudomonas aeruginosa)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシンA鎖、アルファ−サルシン、Aleurites fordiiタンパク質、ジアンシンタンパク質、Phytolaca americanaタンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP−S)、ニガウリ(momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、sapaonaria officinalis阻害剤、ゲロニン、マイトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシンおよびトリコテセン(tricothecene)が含まれる。種々の放射性核種が、放射線結合された抗ErbB3郊外の生成に利用可能である。例としては、212Bi、131I、131In、90Yおよび186Reが挙げられる。
【0119】
本発明の免疫結合体は、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオール)プロピオネート(SPDP)、イミノチオレン(IT)、イミドエステルの二機能性誘導体(アジプイミド酸ジメチルHClなど)、活性なエステル類(スベリン酸ジスクシンイミジルなど)、アルデヒド類(グルタルアルデヒドなど)、ビス−アジド化合物(ビス−(p−アジドベンゾイル)−ヘキサンジアミンなど)、ビス−ジアゾニウム誘導体(ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミンなど)、ジイソシアネート類(トリレン−2,6−ジイソシアネートなど)、およびビス−活性フッ素化合物(1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼンなど)などの種々の二機能性タンパク質カップリング剤を用いて作製することができる。例えば、リシン免疫毒素は、Vitettaら、Science 238:1098(1987)に記載されるように調製することができる。
炭素14−標識された1−イソチオシアナトベンジル−3−メチルジエチレン トリアミンペンタ酢酸(MX−DTPA)は、抗体に放射性ヌクレオチドを結合させるための典型的なキレート剤である(例えば、国際公開第94/11026号を参照されたい)。
【0120】
III.本発明の抗体をスクリーニングするための方法
ErbB3に結合する抗体または抗原結合部分を生成後、このような抗体、またはその部分は、当該技術分野において周知である種々のアッセイを用いて、種々の特性、例えば本明細書に記載される特性についてスクリーニングすることができる。
【0121】
一態様では、抗体またはその抗原結合部分は、EGF様リガンド媒介のErbB3のリン酸化を阻害する能力についてスクリーニングされる。これは、抗体またはその抗原結合部分の存在および欠如において、EGF様リガンドを用いて、ErbB3を発現している細胞を処理することによって行うことができる。次に細胞を溶解し、粗製溶解物を遠心分離して、不溶性物質を除去することができる。ErbB3リン酸化は、例えば、ウェスタンブロッティング、その後の抗ホスホチロシン抗体を用いた探査(probing)により測定可能であり、Kimら、上掲、並びに下記の実施例に記載されている。
【0122】
他の態様では、抗体および抗原結合部分は、さらに、下記の特性:(1)ErbB3を介したErbB3リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)媒介のシグナル伝達の阻害;(2)ErbB3を発現している細胞の増殖阻害;(3)細胞表面上のErbB3のレベルを減少させる能力(例えば、ErbB3の内在化を誘導することによる);(4)ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌の阻害;(5)ErbB3を発現している細胞の移動の阻害;(6)ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖の阻害;および/または(7)ErbB3のドメインIに位置したエピトープへの結合、の1以上についてスクリーニングされ、各々は、従来認識されている技術、並びに本明細書において検討された技術を用いて容易に測定することができる。
【0123】
ErbB3を介したヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンによって媒介されるシグナル伝達の1以上の阻害は、日常的なアッセイ、例えば、Horstら、上掲、に記載されるアッセイを用いて容易に測定することができる。例えば、ErbB3を介したヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンによって媒介されるシグナル伝達を阻害する、抗体またはその抗原結合部分の能力は、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンの1以上によって刺激後、例えば、Horstら、上掲,Sudoら、(2000)Methods Enzymol,322:388−92;並びに、Morganら(1990)Eur.J.Biochem.,191:761−767に記載される、例えば、SHCおよびPI3Kなどの既知のErbB3の基質についてのキナーゼアッセイによって測定することができる。したがって、ErbB3を発現している細胞は、1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンを用いて刺激され、候補抗体またはその抗原結合部分とともにインキュベートすることができる。その後にこのような細胞から調製された細胞溶解物は、ErbB3の基質(またはErbB3に関与する細胞経路にあるタンパク質)に対する抗体、例えば、抗JNK−1抗体を用いて免疫沈降され、従来認識されている技術を用いて、キナーゼ活性(例えば、JNKキナーゼ活性またはPI3−キナーゼ活性)についてアッセイすることができる。抗体またはその抗原結合部分が存在する場合のErbB3基質またはErbB3に関与する経路にあるタンパク質のレベルまたは活性(例えば、キナーゼ活性)の減少または完全な消失は、
抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合のレベルまたは活性と比較して、1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン媒介のシグナル伝達を阻害する抗体または抗原結合部分を示す。
【0124】
ある種の態様では、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3への1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンの結合を減少させることによって、ErbB3−リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)媒介のシグナル伝達を阻害する。
【0125】
ErbB3への1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンの結合を阻害するそれらの抗体またはその抗原結合部分について選択するために、ErbB3を発現する細胞(例えば、MALME−3M細胞、下記の実施例において記載される)は、抗ErbB3抗体またはその抗原結合部分の欠如(対照)または存在下で、標識されたErbB3−リガンド(例えば、放射線同位元素標識されたヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)と接触させることができる。抗体またはその抗原結合部分がErbB3へのヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンの結合を阻害すれば、抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合の量と比較して、回収された標識量(例えば、放射線同位元素標識されたヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)における統計的に有意な減少が観察される。
【0126】
抗体またはその抗原結合部分は、任意のメカニズムによって、ErbB3−リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)の結合を阻害することができる。例えば、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3リガンドと同じErbB3の部位または重複している部位に結合することによって、ErbB3へのErbB3リガンド(例えば1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)の結合を阻害してもよい。あるいは、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3の構造を変更させるかまたは歪めることによって、ErbB3リガンドの結合を阻害してもよく、その結果、ErbB3リガンドに結合できなくなる。
【0127】
細胞表面のErbB3のレベルを減少させる抗体およびその抗原結合部分は、腫瘍細胞のErbB3をダウンレギュレートするそれらの能力によって同定することができる。ある種の態様では、抗体またはその抗原結合部分は、Erbb3の内在化を誘導する(またはエンドサイトーシスを増加する)ことによって、ErbB3の細胞表面の発現を減少させる。これを試験するために、ErbB3は、ビオチニル化することができ、細胞表面のErbB3分子の数は、例えば、Watermanら、J.Biol.Chem.(1998),273:13819−27に記載されるように、抗体またはその抗原結合部分の存在または欠如下で、培養中の細胞の単層上のビオチン量を測定し、その後、ErbB3を免疫沈降し、ストレプトアビジンを用いて探査することによって、容易に測定することができる。抗体または抗原結合部分の存在下で、ビオチニル化されたErbB3の経時的な検出における減少は、細胞表面のErbB3レベルを減少する抗体を示す。
【0128】
また、本発明の抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3を発現している細胞、例えば、腫瘍細胞の増殖を阻害するそれらの能力について、従来認識されている技術、例えば、下記の実施例に記載されるセル・タイター・グローアッセイ(Cell Titer Glow Assay)を用いて試験することができる(さらに、例えば、Macallanら、Proc.Natl.Acad Sci.(1998)20;95(2):708−13;Perezら(1995)Cancer Research 55,392−398を参照されたい)。
【0129】
別の態様では、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌を阻害する能力についてスクリーニングされる。これは、R&D Systems(Minneapolis,MN,Cat.#DY293B)から利用可能なVEGF ELISAキットなどの周知なアッセイを用いることによってなされ得る。同様に、この抗体または部分は、本明細書に記載されるように、トランスウェルアッセイ(trans−well assay)(Millipore Corp.,Billerica,MA,Cat #ECM552)を用いて、ErbB3を発現している細胞(例えば、MCF−7細胞)の移動を阻害する能力についてスクリーニングすることができる。
【0130】
別の態様では、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖を阻害する能力についてスクリーニングされる。これは、本明細書に記載されるように、発達している腫瘍増殖の状態を近似するアッセイ(例えば、Hermanら(2007)Journal of Biomolecular Screening Electronic publicationを参照されたい)を用いることによって行うことができる。
【0131】
また、本発明の1以上の抗体と同じであるかまたは重複しているエピトープに結合する抗体またはその抗原結合部分は、当該技術分野において知られている標準的な技術、並びに本明細書に記載される技術を用いることによって同定することができる。例えば、興味のある抗体によって結合されるErbB3の同じであるかまたは重複しているエピトープに結合する抗体についてスクリーニングするために、交差ブロッキングアッセイ、例えば、Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Ed HarlowおよびDavid Lane(1988)に記載されるアッセイを行うことができる。
【0132】
IV.医薬組成物
別の局面では、本発明は、薬学的に許容される担体とともに調合される、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合部分(単数または複数)の1つまたは組み合わせを含む組成物、例えば、医薬組成物を提供する。一態様では、組成物は、ErbB3の異なるエピトープに結合する、本発明の複数(例えば、2以上)の単離された抗体の組み合わせを含む。
【0133】
本明細書中で使用するとき、「薬学的に許容される担体」には、任意のおよび全ての生理学的に適合する溶媒、分散媒体、被覆剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤などが含まれる。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄または表皮投与(例えば、注射または注入による)に適している。投与経路に依存して、活性化合物、即ち、抗体、二重特異性および多重特異性分子は、酸の作用、並びに化合物を不活性化し得る他の天然の状態から化合物を保護するために物質で被覆されてもよい。
【0134】
「薬学的に許容される塩」とは、親化合物の所望の生物学的活性を保持し、いずれの望ましくない毒性学的影響も与えない塩を指す(例えば、Berge,S.M.ら(1977)J.Pharm.Sci.66:1−19を参照されたい)。このような塩の例には、酸付加塩および塩基付加塩が含まれる。酸付加塩には、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸などの無毒な無機酸から得られるもの、並びに脂肪族モノおよびジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸などの無毒な有機酸から誘導さるものが含まれる。塩基付加塩には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属から得られるもの、並びにN,N’−ジベンジルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカインなどの無毒な有機アミンから得られるものが含まれる。
【0135】
本発明の医薬組成物は、単独で、または併用治療、即ち、他の薬剤と組み合わせて投与することができる。例えば、併用治療は、本発明の組成物を少なくとも1以上の追加の治療薬、例えば、下記に記載される抗癌剤とともに含むことができる。また、本発明の医薬組成物は、放射線治療および/または外科的処置と併用して投与することができる。
【0136】
本発明の組成物は、当該技術分野において知られている種々の方法によって投与することができる。当業者に承認されるように、投与経路および/または様式は、所望の結果に依存して変更される。活性化合物は、急速な放出に対して化合物を保護する担体とともに調製可能であり、例えば、インプラント、経皮パッチ、およびマイクロカプセル化された送達システムなど放出制御処方物が挙げられる。生分解性、生体適合性ポリマーを用いることができ、例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルソエステル類、およびポリ乳酸を用いることができる。このような処方物の調製のための多くの方法は、特許にされているか、または、一般に、当業者に知られている。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,J.R. Robinson,ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,1978を参照されたい。
【0137】
ある種の投与経路による本発明の化合物を投与するためには、化合物の失活を防ぐ物質を用いて化合物を被覆するか、または化合物と同時に投与することが必要な場合がある。例えば、化合物は、適切な担体、例えばリポソーム、または希釈剤に入れて被験体に投与されてもよい。薬学的に許容される希釈剤には、生理食塩水および水性緩衝溶液が挙げられる。リポソームには、水中油中水CGFエマルジョン、並びに従来のリポソームが含まれる(Strejanら(1984)J.Neuroimmunol.7:27)。
【0138】
薬学的に許容される担体には、無菌水性溶液または分散液、並びに無菌の注射可能な溶液または分散液の即時調製用の無菌粉末が含まれる。このような媒体および薬学的に活性な作用物質(agent)の使用は、当該技術分野において知られている。任意の従来の媒体または作用物質が活性化合物と不適合でない限り、本発明の医薬組成物におけるその使用が意図される。補助的な活性化合物も組成物に取り入れることができる。
【0139】
治療用組成物は、典型的には、無菌でなければならず、製造および保存の条件下で安定でなければならない。組成物は、高い薬物濃度に適した溶液、ミクロエマルジョン、リポソーム、または他の秩序ある構造として調合することができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、並びにこれらの適した混合物を含む溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散の場合には必要な粒子サイズの維持によって、界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖類、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール類、または塩化ナトリウムを組成物に含めることが好ましい。注射可能な組成物の長期化された吸収は、吸収を遅らせる作用物質、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物に含めることによりもたらすことができる。
【0140】
無菌の注射可能な溶液は、必要量の活性化合物を適した溶媒に、必要に応じて上記で列挙された成分の1つまたは組み合わせとともに組み込んだ後、滅菌微細ろ過により、調製することができる。一般に、分散液は、塩基性の分散媒体と、上記で列挙されたものから必要とされる他の成分とを含む無菌のビヒクルに活性化合物を組み込むことによって調製される。無菌の注射可能な溶液の調製用の無菌粉末の場合、好適な調製法は、減圧乾燥および凍結乾燥(freeze−drying)(凍結乾燥(lyophilization))であり、その結果、有効成分および任意の付加的な所望の成分の粉末が、予め滅菌ろ過されたその溶液から生じる。
【0141】
投薬計画は、最適な所望の応答(例えば治療的応答)が得られるように調節される。例えば、一個のボーラスを投与してもよく、いくつかに分割された用量を経時的に投与してもよく、または用量は治療状況の緊急性によって示されるように、比例的に減少もしく増加させてもよい。例えば、本発明のヒト抗体は、皮下注射により週に1回または2回、あるいは皮下注射により月に1回または2回投与されてもよい。
【0142】
投与の容易さおよび投薬量の均一性のために、非経口用組成物を単位剤形に調合することが特に有利である。単位剤形とは、本明細書中で使用するとき、処置される被験体にとって単一の投薬量として調整された物理的に別個の単位を指す;各単位は、必要な薬学的担体と関連して所望の治療効果を生ずるよう計算された所定量の活性化合物を含む。本発明の単位剤形の仕様は、(a)活性化合物の固有の特徴、および達成されるべき特定の治療効果、並びに(b)このような活性化合物を、個体の感受性の処置に対して配合する当該技術分野に備わる限界によって決定され、それらに直接的に依存する。
【0143】
薬学的に許容される抗酸化剤の例には:(1)水溶性抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど;(2)油溶性抗酸化剤、例えば、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ−トコフェロールなど;および(3)金属キレート剤、例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などが挙げられる。
【0144】
治療用組成物に関して、本発明の処方物には、経口、鼻腔、局所(口腔内および舌下を含む)、直腸、膣および/または非経口投与に適したものが含まれる。処方物は、都合良くは、単位剤形で提供されてもよく、薬学の分野において知られている任意の方法によって調製されてもよい。単一の剤形を生成するために担体物質と組み合わせることができる有効成分の量は、処置される被験体、および特定の投与様式に応じて変更する。単一剤形を生成するために担体物質と組み合わせることができる有効成分の量は、一般に、治療効果を生む組成物の量である。一般に、100パーセントのうち、この量は、約0.001パーセント〜約99パーセントの有効成分、好ましくは約0.005パーセント〜約70パーセント、最も好ましくは約0.01パーセント〜約30パーセントの範囲である。
【0145】
また、膣投与に適した本発明の処方物には、当該技術分野において適していることが知られているこのような担体を含むペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォームまたはスプレー処方物もまた含まれる。本発明の組成物の局所または経皮投与用の剤形には、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチおよび吸入剤が挙げられる。活性化合物は、薬学的に許容される担体、および必要とされ得るいずれかの保存剤、緩衝剤、または抛射薬と無菌条件下で混合されてよい。
【0146】
句「非経口投与」および「非経口的に投与される」とは、本明細書中で使用するとき、通常、注射による経腸的および局所投与以外の投与様式を意味し、限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、髄腔内、硬膜外および胸骨内注射および注入が挙げられる。
【0147】
本発明の医薬組成物中に用いられてもよい、適した水性および非水性の担体の例には、水、エタノール、多価アルコール類(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適した混合物、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステル類が含まれる。適した流動性は、例えば、レシチンなどの被覆材料の使用によって、分散液の場合には必要な粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。
【0148】
また、これらの組成物には、保存剤、湿潤剤、乳濁剤および分散剤などのアジュバントを含んでもよい。当該技術分野において周知であるアジュバントの具体例としては、例えば無機アジュバント(アルミニウム塩、例えば、リン酸アルミニウムおよびアルミニウム水酸化物など)、有機アジュバント(例えば、スクアレン)、油性アジュバント、ビロソーム(virosome)(例えば、インフルエンザから得られる膜結合ヘマグルチニン(heagglutinin)およびノイラミニダーゼを含むビロソーム)が挙げられる。
【0149】
微生物の存在の予防は、上掲の滅菌手順によって、並びに、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などの種々の抗菌剤および抗真菌剤の含有の両者によって確保され得る。また、糖類、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物に含めることも望まれる場合がある。さらに、注射可能な医薬形態の長期化された吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの、吸収を遅らせる作用物質の含有によってもたらすことができる。
【0150】
本発明の化合物が医薬品としてヒトおよび動物に投与される場合、それらは、単独で、または、例えば0.001〜90%(より好ましくは、0.005〜70%、例えば0.01〜30%)の有効成分を、薬学的に許容される担体と組み合わせて含む医薬組成物としても与えることができる。
【0151】
選択した投与経路に関係なく、適した水和型で用いられてもよい本発明の化合物、および/または本発明の医薬組成物は、当業者に知られている従来の方法によって薬学的に許容される剤形に調合される。
【0152】
本発明の医薬組成物中の有効成分の実際の投薬量レベルは、患者に毒性ではなく、特定の患者、組成物、および投与様式にとって所望の治療応答を達成するために有効な量の有効成分を得るように変更されてもよい。選択される投薬量レベルは、用いられる本発明の特定の組成物、または、そのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与経路、投与の時期、用いられる特定の化合物の排出速度、処置期間、用いられる特定の組成物と組み合わせて用いられる他の薬物、化合物および/または物質、処置される患者の年齢、性別、体重、状態、全体的な健康および以前の医療歴など、医療の分野において周知である因子を含め、様々な薬物動態学的因子に依存する。当該技術分野における通常の技術を有する医師または獣医師は、必要とされる医薬組成物の有効な量を容易に決定および処方することができる。例えば、この医師または獣医師は、医薬組成物に用いられる本発明の化合物の投薬量を、所望の治療効果を得るために必要な量より少ないレベルで開始し、この投薬量を所望の効果が得られるまで次第に増加させることができる。一般に、本発明の組成物の適した1日あたりの投薬量は、治療効果を生むために有効な最も少ない投薬量である化合物の量である。このような有効な投薬量は、一般に、上記された因子に依存する。投与は、静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下であることが好ましく、好ましくは標的部位の近位に投与される。必要に応じて、治療用組成物の有効な1日あたりの投薬量は、2回、3回、4回、5回、6回またはそれ以上の小分けした投薬量に分けて別々に、全日にわたって適切な間隔を置きながら、場合により単位剤形で投与されてもよい。本発明の化合物を単独で投与することも可能であるが、該化合物を医薬処方物(組成物)として投与することが好ましい。
【0153】
治療用組成物は、当該技術分野において知られている医療用デバイスを用いて投与することができる。例えば、好ましい態様では、本発明の治療用組成物は、米国特許第5,399,163号、同第5,383,851号、同第5,312,335号、同第5,064,413号、同第4,941,880号、同第4,790,824号、または第4,596,556号に開示されたデバイスなどの無針皮下注射デバイスを用いて投与することができる。本発明に有用な周知のインプラントおよびモジュールの例には、制御された速度で薬物を調剤するインプラント可能なマイクロ注入ポンプを開示する米国特許第4,487,603号;皮膚を通じて薬物を投与する治療用デバイスを開示する米国特許第4,486,194号;正確な注入速度で薬物を送達する薬物注入ポンプを開示する米国特許第4,447,233号;連続的な薬物送達のための可変流量式のインプラント可能な注入装置を開示する米国特許第4,447,224号;マルチチャンバー・コンパートメントを有する浸透圧薬物送達システムを開示する米国特許第4,439,196号;浸透圧薬物送達システムを開示する米国特許第4,475,196号が挙げられる。多くの他のこのようなインプラント、送達システム、及びモジュールは当業者に知られている。
【0154】
ある種の態様では、本発明のヒトモノクローナル抗体は、in vivoにおいて適切な分布を確保するように調合され得る。例えば、血液脳関門(BBB)は、多くの高度に親水性の化合物を排除する。本発明の治療用化合物がBBBを通過することを確実にするために(もし希望するなら)、例えばリポソームにそれらを調合することができる。リポソームの製造方法については、例えば、米国特許第4,522,811号;同第5,374,548号;および同第5,399,331号を参照されたい。リポソームは、特定の細胞又は臓器に選択的に輸送されて、標的化の薬物送達を高める1以上の成分を含んでいてもよい(例えば、V.V.Ranade(1989)J.Clin.Pharmacol.29:685を参照されたい)。典型的な標的成分には、葉酸またはビオチン(例えば、Lowらによる米国特許第5,416,016号を参照されたい);マンノシド(Umezawaら(1988)Biochem.Biophys.Res.Commun.153:1038);抗体(P.G.Bloemanら(1995)FEBS Lett.357:140;M.Owaisら(1995)Antimicrob.Agents Chemother.39:180);その様々な種が本発明の処方物、並びに本発明の分子の成分を含んでもよいサーファクタントプロテインA受容体(Briscoeら(1995)Am.J.Physiol.1233:134);p120(Schreierら(1994)J.Biol.Chem.269:9090)が挙げられる;さらに、K.Keinanen;M.L.Laukkanen(1994)FEBS Lett.346:123;J.J.Killion;I.J.Fidler(1994)Immunomethods 4:273を参照されたい。
【0155】
V.本発明の抗体を用いる方法
また、本発明は、様々なエクスビボおよびインビボにおける診断用途および治療用途において、ErbB3に結合する抗体およびその抗原結合部分を用いる方法を提供する。例えば、本発明の抗体は、種々の癌を含む、ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患を処置するために用いることができる。
【0156】
一態様では、本発明は、疾患を処置するために有効な量で、本発明の抗体またはその抗原結合部分を被験体に投与することによって、ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患を処置するための方法を提供する。適した疾患には、例えば、限定されないが、メラノーマ、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、消化管癌、結腸癌、肺癌、および前立腺癌が含まれる。
【0157】
抗体は、ErbB3が媒介したシグナル伝達と関連した疾患を処置するために、単独で、または抗体と共同してまたはそれと相乗的に作用する別の治療薬とともに投与されてもよい。このような治療薬には、例えば、下記に記載される抗癌剤(例えば、細胞毒素、化学療法剤、小分子および放射線)が含まれる。
【0158】
別の態様では、本発明は、本発明の抗体または抗原結合部分を(例えば、エクスビボまたはインビボにおいて)被験体から得られる細胞と接触させ、細胞のErbB3への結合レベルを測定することによって、被験体におけるErbB3アップレギュレーションと関連した疾患(例えば、癌)を診断する方法を提供する。ErbB3への結合の異常に高いレベルは、被験体がErbB3アップレギュレーションと関連した疾患を有することを示す。
【0159】
また、ErbB3アップレギュレーションおよび/またはErbB3依存性のシグナル伝達と関連した疾患の処置または診断において用いるための指図書を場合により含む、本発明の抗体およびその抗原結合部分を含むキットは、本発明の範囲内である。このキットは、キットの成分の意図された使用を指示するラベルを含んでもよい。用語のラベルには、いずれかの書類、キットにまたはキットとともに供給されるマーケッティング資料または記録資料、あるいは他にキットに添付されるものが含まれる。
【0160】
本発明の他の態様は、下記の実施例に記載されている。
【0161】
本発明は、下記の実施例によってさらに例証されるが、それを更なる限定として解釈すべきでない。配列表、図面、並びに本出願の全体にわたって引用されている全ての参考文献、特許および公開された特許出願の内容は、参照により本明細書中に明確に援用される。
【実施例】
【0162】
材料および方法
実施例の全体を通して、下記の材料および方法は、特に記述がない限り用いられる。
【0163】
一般に、本発明の実施は、他に指示がなければ、化学、分子生物学、組換えDNA技術、免疫学(特に、例えば、抗体技術)、並びにポリペプチド調製における標準的な技術を用いる。例えば、Sambrook、Fritsch and Maniatis,Molecular Cloning:Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);Antibody Engineering Protocols(Methods in Molecular Biology),510,Paul,S.,Humana Pr(1996);Antibody Engineering:A Practical Approach(Practical Approach Series,169),McCafferty,Ed.,IrI Pr(1996);Antibodies:A Laboratory Manual,Harlowら、C.S.H.L.Press,Pub.(1999);Current Protocols in Molecular Biology,eds.Ausubelら、John Wiley & Sons(1992)。HCV生物学のアッセイのためのインビトロおよびインビボのモデル系が記載されている、例えば、in Cell culture models and animal models of viral hepatitis.Part II:hepatitis C,Lab.Anim.(NY).;34(2):39−47(2005)およびin The chimpanzee model of hepatitis C virus infections,ILAR J.;42(2):117−26(2001)を参照されたい。
【0164】
細胞系統
下記に記載される実験に用いられる全ての細胞系統は、National Cancer Instituteから得られ、または指示されるように研究者によって提供された。
細胞系統:
MCF7−ATCC cat.No.HTB−22
T47D−ATCC cat.No.HTB−133
Colo357−これらの細胞は、アカデミックな研究者から得られ、Kolbら(2006)Int.J.Cancer,120:514−523によって記載されている。
【0165】
Du145−ATCC cat.No.HTB−81
OVCAR8−仮出願に既に記載されている供給源
H1975 ATCC cat.No.CRL−5908
腫瘍細胞の粉砕
腫瘍の粉砕のために凍結粉砕機(cryopulverizer)(Covaris Inc)を用いた。特別のバック(腫瘍を添加する前に予め計量される)に腫瘍を保存し、それらを操作しながら液体窒素に入れた。小さな腫瘍については、200μLのLysisバッファー(Lysis buffer)が、腫瘍を含むバックに初めに添加され、液体窒素中で凍結され、次に、バックからの腫瘍の回収を改善するために粉砕された。粉砕された腫瘍を2mLのエッペンドルフチューブに移し、更なる処理の直前まで液体窒素に置いた
腫瘍細胞の溶解
プロテアーゼおよびホスファターゼで補充されたLysisバッファー中で腫瘍を溶解させた。約62.5mg/mLの最終濃度の腫瘍アリコートにLysisバッファーを添加した。腫瘍試料は、30秒間ボルテックスしてホモジナイズし、氷上で約30分間インキュベートした。溶解物は、試料の更なる均質化のために、Qiagen Qiashredderカラム中で約10分間回転させた。澄明になった溶解物は、さらに処理するために新しいチューブに分注された。
【0166】
BCAアッセイ
BCAアッセイ(Pierce)は、全ての腫瘍試料について、製造業者のプロトコールに従って行われた。各腫瘍試料の全タンパク質濃度(mg/mLで)は、後に、ELISA結果の標準化において用いられた。
【0167】
ELISAアッセイ
全体およびホスホ−ErbB3 ELISAのための全てのELISA試薬は、DuosetキットとしてR&D Systemsから購入した。96ウェルのNunc Maxisorbプレートは、50μLの抗体を用いて被覆され、室温で一晩インキュベートされた。翌朝、プレートは、PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いて3回洗浄した。その後、PBSに含まれる2%BSAを用いて、約1時間、室温でプレートをブロックした。PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いてプレートを3回洗浄した。50%Lysisバッファーおよび1%BSAで希釈された50μLの細胞溶解物と標準物は、更なる処理のために2点測定に用いられた。プレートシェーカー上で2時間、4℃で試料をインキュベートし、PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いて3回洗浄した。2%BSA、PBSTで希釈された約50μLの検出抗体を添加し、約1時間、室温でインキュベートした。リン(phosphor)−ErbB3について、検出抗体は、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)に直接結合させ、2時間、室温でインキュベートした。PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いてプレートを3回洗浄した。約50μlのストレプトアビジン−HRPを添加し、30分間、室温でインキュベートした(pErbB3を除く)。PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いてプレートを3回洗浄した。約50μLのSupersignal Pico ELISA基質を添加し、プレートをFusionプレートリーダーで読んだ。データはEXCELを用いて分析された。2点測定の試料は、平均され、エラーバーは、2つの複製物間での標準偏差を表すために用いられた。
【0168】
(実施例1)
ファージディスプレイを用いた抗体の生成
本明細書においてAb#6、Ab#3、Ab#14、Ab#17、およびAb#19と称されるヒト抗ErbB3抗体を得るために、ヒトドナーから得られた免疫グロブリン配列の独自の組み合わせを含むヒトFab−ファージライブラリー(Hoet et al. 上掲、その全てが本明細書中に参照として援用される)が、ErbB3結合物について最初にスクリーニングされた。
【0169】
精製されたErbB3、細胞表面ErbB3を発現しているチャイニーズハムスター卵巣細胞系統を用いて、ライブラリーから得られる73個の独自のFab配列を同定した。次に、これらの73個のクローンは、ファージを含まないFabのみとして再フォーマットされた。ハイスループット法を用いて、これらのFabは、小スケールで発現させ、ELISA、並びにハイスループット表面プラズモン共鳴(SPR)技術であるFlexchipを用いて結合について試験された。ファージを含まない73個のFabは、チップ表面にスポットされ、ErbB3−his融合標的タンパク質またはErbB3−Fcタンパク質(R&D Systems)に対する結合反応速度およびエピトープブロックを測定した。Fabについての平衡結合定数およびオン/オフレートは、得られたデータから計算された。
【0170】
次に、MALME−3M細胞への種々のFabの結合は、約500nMのFab、および1:750に希釈したヤギ抗ヒトAlexa647二次抗体を用いて調べられた。図1Aおよび1Bに示されるように、いくつかの候補Fabは、MALME−3M細胞の感知できる染色を示した。
【0171】
(実施例2)
抗ErbB3 Fabの最適化
ErbB3リガンドであるヘレグリンによるErbB3への結合をブロックしたFabの同定に続いて、FabのVHおよびVL配列を下記のようにコドン最適化した。
【0172】
具体的には、VHおよびVL領域は、IgG1またはIgG2アイソタイプとして発現するための発現構築物を用いて再フォーマットされた。構築物は、適切な重鎖および軽鎖配列の置換のために設計されたカセットを有するSelexis骨格を含んでいた。Selexisベクターは、CMVプロモーターおよびマッチングポリAシグナルを含んでいた。
【0173】
Ab#6のコドン最適化されたVHおよびVLについての核酸配列は、それぞれ配列番号25および26に記載され、Ab#3についての核酸配列は、それぞれ配列番号27および28に記載され、図22に示される。
【0174】
(実施例3)
ErbB3に対する結合親和性
抗ErbB3抗体の解離定数は、2つの独立した技術、即ち、表面プラズモン共鳴アッセイおよびMALME−3M細胞を用いた細胞結合アッセイを用いて測定された。
【0175】
表面プラズモン共鳴アッセイ
表面プラズモン共鳴アッセイ(またはFlexchipアッセイとも称される)は、Wassafら(2006)Analytical Biochem.,351:241−253に記載されるように行った。KD値は、式KD=Kd/Kaに基づいて計算された。
【0176】
Ab#6およびAb#3のKD値は、それぞれ、表面プラズモン共鳴アッセイを用いて測定すると、図2Aおよび2Bに示される。Ab#6は、KD値が約4nMであり、Ab#3は、KD値が約8nMであり、それぞれ図2Aおよび2Bに示される。
【0177】
細胞結合アッセイ
Ab#6およびAb#3のKD値を決定するための細胞結合アッセイは、下記のように行った。
【0178】
MALME−3M細胞は、室温で5分間、2mlのトリプシン−EDTA+2mlのRMPI+5mMのEDTAを用いて脱着された。完全なRPMI(10ml)をトリプシン処理された細胞に即座に加えられ、穏やかに再懸濁し、Beckman机上遠心分離機で1100rpm、5分で遠沈した。細胞を2×106細胞/mlの濃度で、BD染色バッファー(PBS+2%ウシ胎児血清+0.1%アジ化ナトリウム、Becton Dickinson)に再懸濁させ、50ul(1×105細胞)アリコートを96ウェルタイタープレートに置いた。
【0179】
BD染色バッファーに含まれる200nM抗ErbB3抗体(Ab#6またはAb#3)の150μl溶液は、エッペンドルフチューブに調製され、75μlのBD染色バッファーに連続的に2倍に希釈された。希釈された抗体の濃度は、200nM〜0.4nMの範囲であった。次に、異なるタンパク質希釈物の50μlのアリコートは、抗体の最終濃度が100nM、50nM、25nM、12nM、6nM、3nM、1.5nM、0.8nM、0.4nMおよび0.2nMである50μlの細胞懸濁液に直接添加された。
【0180】
96ウェルプレートに分注された細胞は、プラットフォームシェーカー上で30分間、室温でタンパク質希釈物とともにインキュベートされ、300μlのBD染色バッファーを用いて3回洗浄された。次に、細胞は、低温室のプラットフォームシェーカー上で、45分間、BD染色バッファーで1:750希釈したAlexa647標識されたヤギ抗ヒトIgGの100μlとともにインキュベートされた。最後に、細胞を2回洗浄し、ペレットにし、250μlのBD染色バッファー+0.5μg/mlのヨウ化プロピジウムに再懸濁した。10,000個の細胞の分析は、FL4チャネルを用いたFACScaliburフローサイトメーターで行った。抗ErbB3抗体のMFI値および対応する濃度をそれぞれy軸およびx軸にプロットした。分子のKD値は、非線形回帰曲線についての1部位結合モデルを用いたGraphPad Prismによって決定された。
【0181】
KD値は、式Y=Bmax* X/KD+X(Bmax=飽和の蛍光。X=抗体濃度。Y=結合程度。)に基づいて計算された。図2Cおよび2Dに示されるように、Ab#6およびAb#3は、MALME−3M細胞を用いた細胞結合アッセイでは、KD値は、それぞれ約4nMおよび1.3nMであった。
【0182】
(実施例4)
ErbB3についての結合特異性/エピトープ結合
ErbB3に対するAb#6のIgG2アイソタイプの結合特異性は、下記のようのELISAを用いてアッセイされた。Ab#6によって結合されたエピトープの同定も分析した。
【0183】
具体的には、96ウェルのNunc Maxisorbプレートは、50μlの5μg/mlタンパク質(組換えヒトErbB3、組換えヒトEGFRまたは無関係なタンパク質(BSA))を用いて被覆し、一晩、室温でインキュベートされた。翌朝、プレートは、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルのPBST(0.05% Tween−20)を用いて3回洗浄された。PBSに含まれる2%BSAを用いて1時間、室温でウェルをブロックした。プレートは、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルのPBST(0.05% Tween−20)を用いて3回洗浄された。約50μLのAb#6は、2%BSA、PBSTによるいくつかの希釈(1μM、および連続的な2倍希釈)で添加された。全ての試料は、2点測定で行い、プレートシェーカー上で2時間、4℃でインキュベートされた。プレートは、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルのPBST(0.05% Tween−20)を用いて3回洗浄された。50μlのヒトIgG検出抗体(HRP結合(Bethyl Inc;2%BSA、PBSTによる1:75000希釈)を添加し、プレートを1時間、室温でインキュベートした。プレートは、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルのPBST(0.05% Tween−20)を用いて3回洗浄された。50μLのSupersignal Pico ELISA基質を添加し、プレートをFusionプレートリーダー上で読んだ。データはEXCELプログラムを用いて分析された。2点測定の試料は平均された、およびエラーバーは、2つの複製物間での標準偏差を表す。
【0184】
図3に示されるように、Ab#6はELISAでは組換えErbB3に結合したが、EGFR、BSAまたはTGF−αにはいずれの感知できる結合を示さなかった。
【0185】
ErbB3のアミノ酸残基20−202に対応する断片(切断変異体(truncation mutant))は、NheとBsiWI制限部位との間で酵母ディスプレイベクターpYD2(Hisタグの前で操作された終始コドンを有するpYD1(Invitrogen)の改変バージョン)にクローニングされた。酵母菌株EBY100(Invitrogen)にプラスミドを形質転換し、このプラスミドを含むクローンをTrp−選択培地で選択した。グルコースを含む培地で一晩、30℃でクローンを増殖させ、ErbB3切断変異体の発現は、2日間、18℃でガラクトースを含む培地に移すことによって誘導された。ErbB3切断変異体を示す酵母は、50nMのAb#6を用い、その後、Alexa色素−647で標識されたヤギ抗ヒト抗体を用いて染色された。別の試料は、二次抗体の酵母に対する非特異的な結合がないことを示すためにヤギ抗ヒト抗体のみで染色された。分析は、FACS Caliburセルソーター(BD Biosciences)によるフローサイトメトリーにて行った。
【0186】
図30に示されるように、Ab#6は切断変異体、即ち、ErbB3のアミノ酸残基20〜202に結合した。
(実施例5)
腫瘍細胞の全ErbB3のダウンレギュレーション
腫瘍細胞におけるインビトロおよびインビボの両方でのErbB3発現をダウンレギュレートするAb#6の能力を下記のように試験した。
【0187】
MALME−3M細胞を96ウェル組織培養プレートに播種し、抗生物質、2mM L−グルタミンおよび10%ウシ胎児血清(FBS)で補充されたRPMI−1640培地中で24時間、37℃、5%二酸化炭素で増殖した。次に、1uM、250nM、63nM、16nM、4.0nM、1.0nM、240pM、61pMおよび15pMの濃度の抗体を含む場合と含まない場合の抗生物質、2mM L−グルタミンを含むRPMI−1640培地にスイッチした。細胞は、24時間、37℃、5%二酸化炭素で増殖され、冷却PBSで洗浄し、次に、150mM NaCl、5mMピロリン酸ナトリウム、10uM bpV(phen)、50uMフェナラルシン(phenalarsine)、1mMオルトバナジウム酸ナトリウム、およびプロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma、P714)を含む哺乳動物タンパク質抽出(MPER)溶解(Pierce、78505)バッファーを用いて回収された。0.1%tween−20を含むリン酸緩衝化生理食塩水に含まれる4%ウシ血清アルブミンを用いて細胞溶解物を2倍に希釈し、次に、マウス抗ヒトErbB3捕捉抗体およびビオチニル化されたマウス抗ヒトErbB3二次検出抗体を用いたELISAによって分析した。シグナルは、化学発光基質(Pierce、37070)と反応される西洋ワサビペルオキシダーゼに結合したストレプトアビジンより生じた。ELISAは、ルミノメーターを用いて視覚化された。
【0188】
図4に示されるように、Ab#6は、ELISAによって測定すると、インビトロでMALME−3M細胞において約46.9%まで全ErbB3レベルを減少させた。血清および抗体を含まない培地を対照として用いた。
【0189】
更なる実験では、Ab#6のIgG1およびIgG2アイソタイプを用いたMALME−3M細胞のErbB3受容体のダウンレギュレーションは、FACS分析を用いて試験された。MALME−3M細胞は、15cmディッシュからトリプシン処理され、RPMI+10%ウシ胎児血清を用いて1回洗浄された。細胞ペレットは、1×106細胞/mlの密度で再懸濁させた。2×105細胞の2つのアリコートを12ウェル組織培養プレートに添加し、800ul RPMI+10%ウシ胎児血清の最終体積で再懸濁した。1つのウェルに対しては、Ab#6IgG1またはAb#6IgG2アイソタイプが、最終濃度100nM(処理試料)に添加され、他のウェルに対しては、等量のPBS(未処理試料)を添加した。
【0190】
翌日、処理および未処理細胞をトリプシン処理し、洗浄し、30分間、氷上で、BD染色バッファーに含まれる100nMのAb#6とともにインキュベートした。1mlのBD染色バッファーを用いて細胞を2回洗浄し、45分間、氷上で、100ulの1:500希釈したAlexa647標識されたヤギ抗ヒトAlexa647とともにインキュベートした。次に、細胞を洗浄し、300ulのBD染色バッファー+0.5ug/mlヨウ化プロピジウムに再懸濁した。10,000個の細胞の分析は、FL4チャネルを用いたFACScaliburフローサイトメーターで行った。
【0191】
図5Aおよび5Bに示されるように、Ab#6のIgG1およびIgG2アイソタイプの両方は、それぞれ約62%及び約66%までMALME−3M細胞のErbB3をダウンレギュレートした。
【0192】
この減少がMALME−3M細胞の表面のErbB3受容体の内在化に起因するかどうかを決定するために、抗体の存在下でErbB3の発現を経時的に測定した。具体的には、MALME−3M細胞は、15cmディッシュからトリプシン処理され、RPMI+10%ウシ胎児血清を用いて1回洗浄された。細胞ペレットは、1×106細胞/mlの密度で再懸濁させた。2×105細胞の2つのアリコートを12ウェル組織培養プレートに添加し、800μl RPMI+10%ウシ胎児血清の最終体積で再懸濁した。1つのウェルに対しては、抗ErbB3抗体が、最終濃度100nM(処理試料)に添加され、他のウェルに対しては、等量のPBS(未処理試料)を添加した。翌日、処理および未処理細胞をトリプシン処理し、洗浄し、30分間、氷上で、BD染色バッファーに含まれる100nMの抗ErbB3抗体とともにインキュベートした。1mlのBD染色バッファーを用いて細胞を2回洗浄し、45分間、氷上で、100μlの1:500希釈したAlexa647標識されたヤギ抗ヒトAlexa647とともにインキュベートした。次に、細胞を洗浄し、300μlのBD染色バッファー+0.5μg/mlヨウ化プロピジウムに再懸濁した。10,000個の細胞の分析は、FL4チャネルを用いたFACScaliburフローサイトメーターで行った。
【0193】
図6に示されるように、Ab#6の存在下におけるErbB3のダウンレギュレーションを0時間(図6A)、0.5時間(図6B)、2時間(図6C)および24時間(図6D)で測定した。図6A〜6Dに示されるように、約50%の細胞表面ErbB3受容体が、約30分後にダウンレギュレートし、約24時間で、約93%の細胞表面受容体がダウンレギュレートした。
【0194】
また、メラノーマ細胞におけるインビボでのErbB3ダウンレギュレーションを引き起こすAb#6の能力は、下記のとおり調べた。
【0195】
要約すると、T細胞欠損nu/nuマウス(NIH起源の3〜4週齢の雌性マウス;異系交配;アルビノバックグラウンド)をCharles River Labs(Wilmington,MA)から購入した。移植のためのMALME−3M細胞は、回収前に約80%のコンフルエントまで培養(RPMI培地、10%FBS、L−グルタミンおよび抗生物質、37℃、5%、CO2)して増殖された。移植するまで細胞を氷上で保持した。マウスは、右脇腹に100μlのMALME−3M細胞を用いて皮下注射を介して移植され、初期の腫瘍増殖についてモニターされながら回復された。
【0196】
デジタルカリパーによって腫瘍(長さ×幅)を測定し、静脈注射によってIgG2a(Sigma、M7769−5MG)をマウスに投薬した。マウスは、抗体ナンバー6の15μgまたは100μgのいずれかを用いて1日おきに腹腔内に投薬され、1週ごとに3回、腫瘍を測定し、マイクロソフトEXCELスプレッドシートに記録した。
【0197】
最終の腫瘍測定(L×W)を行い、CO2窒息によってマウスを安楽死させ、腫瘍を摘出し、液体窒素中で瞬時に凍結し、−80℃で保存した(生化学分析用)。最終の腫瘍測定を分析し、例えば、Burtrumら(2003)Cancer Res.,63:8912−8921に記載されるように、腫瘍面積と腫瘍体積によってグラフにした。また、データは、腫瘍体積と腫瘍面積の両方について「標準化」および「非標準化」された手法によって分析された。データの「標準化」については、測定の各時間点で、各群の各腫瘍は、カリパー測定によって測定された初期の腫瘍サイズによって割られた。
【0198】
図7に示されるように、このアッセイで試験された種々の抗体のうち、Ab#6は、Ab#6のIgG1またはIgG2アイソタイプのいずれかを用いて処理された腫瘍において注射して24時間後すぐに全ErbB3のダウンレギュレーションを引き起こした)。PBSを対照として用いた
更なる実験では、インビボでのADRr異種移植におけるErbB3をダウンレギュレートするAb#6の能力を調べた。
【0199】
要約すると、凍結粉砕機(Covaris Inc)において試料を粉砕した。特別のバック(腫瘍を添加する前に予め計量される)に腫瘍を保存し、それらを操作しながら液体窒素に入れた。小さな腫瘍については、200μLのLysisバッファーが、腫瘍を含むバックに初めに添加され、液体窒素中で凍結され、次に、バックからの腫瘍の回収を改善するために粉砕された。粉砕された腫瘍を2mLのエッペンドルフチューブに移し、溶解されるまで液体窒素に置いた。プロテアーゼおよびホスファターゼインヒビターで補充されたLysisバッファー中で腫瘍を溶解させた。62.5mg/mLの最終濃度の腫瘍アリコートにLysisバッファーを添加した。腫瘍試料は、30秒間ボルテックスしてホモジナイズし、氷上で30分間置いた。溶解物は、試料の更なる均質化のために、Qiagen Qiashredderカラム中で約10分間回転させた。澄明になった溶解物は新しいチューブに分注された。
【0200】
BCAアッセイは、上掲の材料および方法のセクションに記載されるように行った。
【0201】
ErbB3の全レベルをELISAによって測定した。ELISA試薬は、DuosetキットとしてR&D Systemsから購入した。96ウェルのNunc Maxisorbプレートは、50μLの各捕捉抗体を用いて被覆され、室温で一晩インキュベートされた。翌朝、プレートは、PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いて3回洗浄し、その後、PBSに含まれる2%BSAを用いて、約1時間、室温でブロックした。次に、PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いてプレートを3回洗浄した。溶解物(50μL)と標準物は、50%Lysisバッファーおよび1%BSAで希釈された;全ての試料は2点測定で行われた。プレートは、プレートシェーカー上で2時間、4℃でインキュベートされ、次に、PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いて3回洗浄した。2%BSA、PBSTで希釈された50マイクロリットルの検出抗体を添加し、1時間、室温でプレートをインキュベートした。PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いてプレートを3回洗浄した。50マイクロリットルのストレプトアビジン−HRPを添加し、30分間、室温でプレートをインキュベートした。PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いてプレートを再び3回洗浄した。50マイクロリットルのSupersignal Pico ELISA基質を添加し、プレートをFusionプレートリーダーで読んだ。データはEXCELを用いて分析された。2点測定の試料は、平均された、およびエラーバーは、2つの複製物間での標準偏差を表す。
【0202】
この実験の結果を図8に示す。図8に示されるように、Ab#6は、インビボでのADRr異種移植においてErbB3をダウンレギュレートした。
【0203】
(実施例6)
腫瘍細胞増殖の阻害
ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)の細胞増殖を阻害するAb#6の能力は、下記のとおり調べられた。
【0204】
MALME3M、ACHNおよびNCI/ADRr細胞は96ウェル組織培養プレートに播種され、抗生物質、2mMのL−グルタミンおよび10%ウシ胎児血清(FBS)で補充されたRPMI−1640培地中で24時間、37℃、および5%二酸化炭素で増殖された。次に、培地は、抗生物質、2mMのL−グルタミンを含み、および1uM、250nM、63nM、16nM、4.0nM、1.0nM、240pM、61pMおよび15pM濃度で抗体を含む場合および含まない場合のRPMI−1640培地にスイッチされた。細胞は、96時間、37℃、および5%二酸化炭素で増殖され、次に、CellTiter−Glo(登録商標)ルミネッセント細胞生存アッセイ(Luminescent Cell Viability Assay)(Promega、G7573)を用いて回収され、ルミノメーターで分析された。血清および抗体を含まない培地を対照として用いた。
【0205】
図9、10および11に示されるように、Ab#6は、ErbB3を発現するMALME−3M細胞(図9)、ADRr卵巣癌細胞(図10)、およびACHN細胞(図11)の増殖を阻害した。具体的には、Ab#6は、Cell Titer Glowアッセイを用いて測定すると、MALME−3M細胞の増殖を約19.6%まで阻害し、ADRr卵巣癌細胞の増殖を約30.5%まで阻害した。また、図11に示されるように、Ab#6は、ACHN細胞の増殖を約25.4%まで阻害した。
【0206】
(実施例7)
腫瘍細胞におけるErbB3リン酸化の阻害
インビボにおけるErbB3リン酸化を阻害するAb#6の能力を下記のとおり調べた。
【0207】
図8に関して、上掲の実施例5に記載された技術を用いて試料を粉砕した。BCAアッセイは、上掲の材料および方法のセクションに記載されるように行い、ELISAアッセイは、図8に関して、上掲の実施例5に記載されるように行った。
【0208】
この実験の結果を図12に示す。図12に示されるように、Ab#6は、ng/mg全タンパク質でリン酸化されたErbB3(pErbB3)の量によって測定すると、インビボでADRr卵巣異種移植においてErbB3リン酸化を有意に阻害した。
【0209】
また、ベータセルリン(BTC)またはヘレグリン(HRG)誘導のErbB3リン酸化を阻害するAb#6の能力を下記のとおり調べた。
【0210】
50mMのBTC、10mMのHRGまたは333nMのTGF−αで刺激する前に、卵巣ADRr細胞をAb#6とともに30分間プレインキュベートした。プレインキュベーション後、培地を取り除き、50nMのBTCまたは333nMのTGF−α(PE498に対して)を用いて、細胞を5分、37℃、5%CO2で刺激した。HRG対照(5分、5nM)、10%血清および0%血清対照も用いた。細胞は、1×冷PBSで洗浄され、30μlの冷溶解バッファー(M−PERバッファー+バナジウム酸ナトリウム(NaVO4、Sigma)、2−グリセロリン酸エステル、フェニルアルシンオキシド、BpVおよびプロテアーゼインヒビター)において、氷上で30分間インキュベートすることによって溶解させた。溶解物を−80で一晩保存した。
【0211】
図13A〜13Cに示されるように、Ab#6は、ベータセルリンおよびヘレグリン媒介のErbB3のリン酸化を有意に阻害した。
【0212】
更なる実験では、卵巣腫瘍細胞系統OVCAR5およびOVCAR8におけるErbB3リン酸化を阻害するAb#6の能力を下記のとおりに調べた。
【0213】
OVCAR5およびOVCAR8細胞系統は、National Cancer Institute,Division of Cancer Treatment and Diagnostics(「DCTD」)から得た。ELISAは、上掲の材料および方法のセクションにおいて記載されるように行った。
【0214】
この実験の結果を図14Aおよび14Bに示す。図14Aおよび14Bに示されるように、Ab#6は、OVCAR5およびOVCAR8卵巣癌細胞系統の両方におけるErbB3リン酸化を阻害した。
【0215】
上記で検討したように、Ab#6は、ベータセルリン媒介のErbB3のリン酸化を阻害する。ベータセルリン媒介のErbB3のリン酸化がErbB1またはErbB3を介して起こるのかを調べるために、下記の実験を行った。
【0216】
ADRr細胞またはMALME−3M細胞(1×105)は、50μlのBD染色バッファーに含まれる25μMの抗ErbB3 Ab#6または25μMのErbitux(対照として)を用いて、30分間、氷上でプレインキュベートされた。30分後、50μlの400nMビオチニル化BTCを細胞に添加し、さらに30分間、氷上でインキュベートした。これは、12.5μM抗体および200nMのBTCの最終濃度を与えた。次に、細胞を500μlのBD染色バッファーを用いて2回洗浄し、BD染色バッファーに含まれる1:200に希釈したストレプトアビジン−PE(PE=フィコエリトリン)(Invitrogen)の100μlとともに45分間、インキュベートした。最後に、細胞を2回洗浄し、300μlのBD染色バッファーに再懸濁し、FACScaliburフローサイトメーターで分析した。陽性対照として、1×105のADRrまたはMALME−3M細胞は、200nMのBTCとともに、30分間、氷上でインキュベートされ、2回洗浄され、1:200に希釈されたストレプトアビジン−PEとともに45分間、インキュベートされた。ストレプトアビジン−PE結合体からのバックグラウンド染色を評価するために、細胞は、1:200に希釈されたストレプトアビジン−PEの100μlだけとともに45分間インキュベートされた。
【0217】
この実験の結果を図15A〜15Cに示す。図15Aに示されるように、ベータセルリン(BTC)は、ErbB1陰性MALME−3M細胞へのいかなる感知できる結合も示さない。しかしながら、図15Bおよび15Cに示されるように、BTCは、ErbB1陽性ADRr細胞への結合を示す。
【0218】
また、図15Bおよび15Cに示されるように、この結合は、EGFRに特異的に結合する抗EGFR抗体であるErbituxによってブロックされ、EGF様リガンドがEGFRに結合することを示すための対照として含められた。これは、例えば、Adamsら(2005),Nature Biotechnology 23,1147−1157に記載されている。
【0219】
(実施例8)
腫瘍細胞におけるヘレグリン媒介のシグナル伝達の阻害
ヘレグリン媒介の腫瘍細胞のシグナル伝達を阻害するAb#6の能力を下記のとおり調べた。
【0220】
MALME−3M細胞を96ウェル組織培養プレートに播種し、抗生物質、2mM L−グルタミンおよび10%ウシ胎児血清(FBS)で補充されたRPMI−1640培地中で24時間、37℃、および5%二酸化炭素で増殖した。細胞は、抗生物質および2mM L−グルタミンを含むRPMI−1640培地で24時間、37℃、および5%二酸化炭素で血清を枯渇させた。細胞は、1μM、250nM、63nM、16nM、4.0nM、1.0nM、240pMおよび61pMの濃度の抗ErbB3抗体(Ab#6のIgG2アイソタイプ)を含む場合と含まない場合で30分間前処理され、次に、HRG1−ベータ1−ECDを用いて、10分間、37℃、および5%二酸化炭素で刺激された。細胞は、冷PBSで洗浄され、次に、150mM NaCl、5mMピロリン酸ナトリウム、10uM bpV(phen)、50μMフェナラルシン、1mMオルトバナジウム酸ナトリウム、およびプロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma、P714)を含む哺乳動物タンパク質抽出(MPER)溶解(Pierce、78505)バッファーを用いて回収された。0.1%tween−20を含むリン酸緩衝化生理食塩水に含まれる4%ウシ血清アルブミンを用いて細胞溶解物を2倍に希釈し、次に、AKT(ErbB3の下流エフェクター)およびErbB3リン酸化についてELISAによって分析された。
【0221】
AKTリン酸化について試験するために、溶解物は、AKTに特異的な捕捉抗体およびAKTのセリン473のリン酸化部位に特異的なビオチニル化された検出抗体を用いてELISAプレートで行われた。シグナルは、化学発光基質(Pierce、37070)と反応される西洋ワサビペルオキシダーゼに結合したストレプトアビジンより生じた。ErbB3リン酸化を評価するために、溶解物は、ErbB3に特異的な捕捉抗体および西洋ワサビペルオキシダーゼに結合した抗ホスホチロシン検出抗体を用いてELISAプレートで行われた。次に、これは、化学発光基質(Pierce、37070)と反応させた。ELISAは、ルミノメーターを用いて視覚化された。
【0222】
図16Aおよび16Bに示されるように、Ab#6は、ErbB3(図16A)およびAKT(図16B)のリン酸化の減少によって測定すると、MALME−3M細胞においてヘレグリン媒介のシグナル伝達の強力な阻害剤であった。顕著には、Ab#6は、AKTのリン酸化をほぼ100%阻害した。
【0223】
(実施例9)
卵巣、前立腺、および膵臓の腫瘍増殖の阻害
インビボでのAb#6の有効性を評価するために、ヒト癌のいくつかの異種移植モデルをヌードマウスで構築し、腫瘍増殖の阻害を複数回投薬で評価した。例えば、T細胞欠損nu/nuマウス(NIH起源の3〜4週齢の雌性マウス;異系交配;アルビノバックグラウンド)は、異種移植研究のために、Charles River Labs(Wilmington,MA)から購入された。移植のためのADRr細胞は、回収前に約85%のコンフルエントに培養(RPMI培地、10%FBS、L−グルタミンおよび抗生物質、37℃、5%CO2)して増殖された。移植するまで細胞を氷上で保持した。マウスは、右脇腹に100μlのADRr細胞を用いて皮下注射を介して移植され、初期の腫瘍増殖についてモニターされながら回復された。
【0224】
デジタルカリパーによって腫瘍(長さ×幅)を測定し、静脈注射によってIgG2a(Sigma、M7769−5MG)をマウスに投薬した。マウスは、Ab#6の30μgまたは300μgのいずれかを用いて3日ごとに腹腔内に投薬され、1週ごとに3回、腫瘍を測定し、マイクロソフトEXCELスプレッドシートに記録した。
【0225】
最終の腫瘍測定(L×W)を行い、CO2窒息によってマウスを安楽死させ、腫瘍を摘出し、液体窒素中で瞬時に凍結し、−80℃で保存した(生化学分析用)。最終の腫瘍測定を分析し、Burtrumら、上掲、に記載されるように、腫瘍面積と腫瘍体積によってグラフにした。また、データは、腫瘍体積と腫瘍面積の両方について「標準化」および「非標準化」された手法によって分析された。データの「標準化」については、測定の各時間点で、各群の各腫瘍は、カリパー測定によって測定された初期の腫瘍サイズによって割られた。
【0226】
ヒト腫瘍細胞系統であるADRr(卵巣)、Du145(前立腺)およびOvCAR8(卵巣)から得られる3種の異なるモデルからのデータを図17A〜Cに示し、Colo357異種移植研究を図17Dに示す。これらの試験からデータは、3日ごとに(Q3d)の300ug用量のAb#6が腫瘍増殖の有意な阻害をもたらすことを示した(研究中の複数の時間点についてp<0.05)。加えて、Ab#6の阻害効果は、投薬量が、Du145前立腺癌モデル、並びに腎臓および膵臓癌腫異種移植モデル(ACHNおよびCOLO357)において、Q3dで600ugまで増加した場合にさらに上昇した。しかしながら、Q3dで1500ugまで用量をさらに増加させることは、有効性の増加をもたらさなかった(OvCAR8−図17;COLO357)。これは、600ugが、腫瘍増殖阻害に関して飽和していることを示唆する。これらの研究から動物の血清の薬物動態(PK)解析は、Ab#6の血清保持における投薬量に依存した増加を示す。同様に、これらの異なる研究からのAb#6の腫瘍内レベルの生化学的分析は、0〜約6pg MM121/ug全腫瘍溶解物の投薬量に依存した範囲を示した(データ示さず)。
【0227】
(実施例10)
腫瘍細胞のErbB3へのErbB3リガンドの結合の阻害
更なる実験では、EGFRに対するEGF様リガンドではなく、ErbB3に対するErbB3リガンドの結合を阻害する本発明の抗体の特異性を下記のとおり調べた。
【0228】
一態様では、ErbB3に対するErbB3リガンド(例えば、ヘレグリンおよびエピレグリン)の結合を阻害するAb#6およびAb#3のFabバージョン(Ab/Fab#3)の特異性を調べた。
【0229】
ErbB3に対するヘレグリンの結合を阻害するAb#6およびAb/Fab#3の能力を調べるために、下記の実験を行った。
【0230】
ADRr細胞(1×105)は、50μlのBD染色バッファーに含まれる10μMの抗ErbB3抗体(例えば、Ab#6またはAb/Fab#3)とともに30分間、氷上でインキュベートされた。30分後、50μlの40nMビオチニル化されたヘレグリンEGFを細胞に添加し、さらに10分間、氷上でインキュベートした。これは、5μM抗体および20nMのヘレグリンEGFの最終濃度を与えた。次に、細胞を500μlのBD染色バッファーを用いて2回洗浄し、BD染色バッファーに含まれる1:200に希釈したストレプトアビジン−PE(PE=フィコエリトリン)(Invitrogen)の100μlとともに45分間、インキュベートした。最後に、細胞を2回洗浄し、300μlのBD染色バッファーに再懸濁し、FACScaliburフローサイトメーターで分析した。陽性対照として、1×105のADRr細胞は、20nMのヘレグリンEGFとともに、10分間、氷上でインキュベートされ、2回洗浄され、1:200に希釈されたストレプトアビジン−PEとともに45分間、インキュベートされた。ストレプトアビジン−PE結合体からのバックグラウンド染色を評価するために、1×105個のADRr細胞は、1:200に希釈されたストレプトアビジン−PEの100μlだけとともに45分間インキュベートされた。
【0231】
この実験の結果を図18Aおよび18Bに示す。図18Aおよび18Bに示されるように、Ab#6およびAb/Fab#3の両方は、ErbB3に対するヘレグリン結合を阻害することができた。
【0232】
同様に、ErbB3に対する別のErbB3リガンドであるエピレグリンの結合を阻害するAb#6の能力を下記のとおり調べた。
【0233】
ADRr細胞(1×105)は、50μlのBD染色バッファーに含まれる25μMのAb#6または25μMのErbitux(対照として)を用いて、30分間、氷上でプレインキュベートされた。30分後、50μlの2μMビオチニル化Epiを細胞に添加し、さらに30分間、氷上でインキュベートした。これは、12.5μM抗体および1μMのEpiの最終濃度を与えた。次に、細胞を500μlのBD染色バッファーを用いて2回洗浄し、BD染色バッファーに含まれる1:200に希釈したストレプトアビジン−PE(PE=フィコエリトリン)(Invitrogen)の100μlとともに45分間、インキュベートした。最後に、細胞を2回洗浄し、300μlのBD染色バッファーに再懸濁し、FACScaliburフローサイトメーターで分析した。陽性対照として、1×105のADRr細胞は、1μMのEpiとともに、30分間、氷上でインキュベートされ、2回洗浄され、1:200に希釈されたストレプトアビジン−PEとともに45分間、インキュベートされた。ストレプトアビジン−PE結合体からのバックグラウンド染色を評価するために、細胞は、1:200に希釈されたストレプトアビジン−PEの100μlだけとともに45分間インキュベートされた。
【0234】
この実験の結果を図19Aおよび19Bに示す。図19Aに示されるように、エピレグリンは、ErbB3陽性ADRr細胞に結合する。さらに、図19Bに示されるように、この結合は、ErbituxとAb#6の両方によって阻害され、これは、エピレグリンがEGFRとErbB3の両方に結合し得ることを示唆している。
【0235】
更なる実験は、Ab#6が、腫瘍細胞に対するEGF様リガンド(例えば、HB−EGF)の結合を阻害することができるかを調べるために行った。
【0236】
ADRr細胞(1×105)は、50μlのBD染色バッファーに含まれる25μMのAb#6または25μMのErbitux(対照として)を用いて、30分間、氷上でプレインキュベートされた。30分後、50μlの400nMビオチニル化HB−EGFを細胞に添加し、さらに30分間、氷上でインキュベートした。これは、12.5μM抗体および200nMのHB−EGFの最終濃度を与えた。次に、細胞を500μlのBD染色バッファーを用いて2回洗浄し、BD染色バッファーに含まれる1:200に希釈したストレプトアビジン−PE(PE=フィコエリトリン)(Invitrogen)の100μlとともに45分間、インキュベートした。最後に、細胞を2回洗浄し、300μlのBD染色バッファーに再懸濁し、FACScaliburフローサイトメーターで分析した。陽性対照として、1×105のADRr細胞は、200nMのHB−EGFとともに、30分間、氷上でインキュベートされ、2回洗浄され、1:200に希釈されたストレプトアビジン−PEとともに45分間、インキュベートされた。ストレプトアビジン−PE結合体からのバックグラウンド染色を評価するために、細胞は、1:200に希釈されたストレプトアビジン−PEの100μlだけとともに45分間インキュベートされた。
【0237】
図20Aおよび20Bに示されるように、HB−EGFは、ADRr細胞のErbBに結合し、Ab#6は、この結合を阻害しない。これは、Ab#6が、ErbB3に対するErbB3リガンド(例えば、ヘレグリンおよびエピレグリン)の結合の阻害に特異的であることを証明している。
【0238】
(実施例11)
腫瘍細胞におけるVEGF分泌の阻害
ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)のVEGF分泌を阻害するAb#6の能力は、VEGF分泌アッセイ(VEGF ELISAキット、R&D Systems,Minneapolis,MN,Cat.#DY293Bから利用可能である)を用いて試験された。最初に、未処理、並びにHRG−ベータ1処理されたMCF−7、T47D、およびCOLO−357細胞におけるVEGF分泌を阻害するAb#6の能力を分析した。これらの研究は、COLO−357が培地中に最大量のVEGFを分泌したことを示した。また、これらの細胞は非常に高いHRGレベルを有するので(データ示さず)、培地へのHRGの添加は、VEGF分泌をさらに誘導することができなかった(図24A)。対照的に、HRGは、MCF−7およびT47D細胞におけるVEGF分泌を誘導することができた。
【0239】
Ab#6は、3つの全ての細胞系統において高いレベルで強力な阻害効果を示し、最大はCOLO−357においてであった(図24A)。また、Ab#6は、3種の異なる異種移植においてVEGF分泌を阻害することによって、インビボで同様の効果を示し、最大はCOLO−357異種移植においてであった(図24B)。VEGFの阻害は、ErbB3のリン酸化の阻害と相関している(図24C)。また、VEGF分泌の阻害は、腫瘍細胞の新脈管形成の阻害と相関している。特に、骨髄腫細胞分泌因子、例えばVEGFおよびbFGFは、新脈管形成を誘発することは特定されている(例えば、Leungら(1989)Science 246(4935):1306−9;Yenら(2000)Oncogene 19(31):3460−9を参照されたい)。
【0240】
(実施例12)
細胞移動の阻害
ErbB3を発現している細胞(例えば、MCF−7細胞)の移動を阻害するAb#6の能力は、トランスウェルアッセイ(Millipore Corp.,Billerica,MA,Cat #ECM552)を用いて試験された。最初に、MCF−7細胞は、一晩、血清を枯渇され、次に、Ab#6(最終濃度8uM)の存在および欠如下、15分間、室温でインキュベートされた。その後、細胞が移動できるI型コラーゲンを被覆したメンブレンによって下段チャンバーと分離されている上段チャンバーに細胞を移した。10%FBSは、Ab#6の存在および欠如下で、化学誘引物質として作用するように下段チャンバーの培地に添加された。チャンバーを37℃で16時間インキュベートし、次に、メンブレンを通過して移動した細胞は、脱着バッファーを用いて取り除かれ、細胞結合蛍光色素とともにインキュベートされた。蛍光プレートリーダーを用いて蛍光を定量した。平均の蛍光±SEM(n=2)を図25に示す。
【0241】
図25に示されるように、10%FBSは、未処置の対照(レーン1)と比較して、細胞移動(レーン3)を刺激し、8uMのAb#6は、FBS誘導の細胞移動を阻害する(レーン4)。
【0242】
(実施例13)
スフェロイド増殖の阻害
ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖を阻害するAb#6の能力は、発達している腫瘍増殖の状態を近似するアッセイ(Hermanら(2007)Journal of Biomolecular Screening Electronic publication)を用いて調べた。AdrRおよびDU145スフェロイドは、ハンギングドロップ法(Herrmanら、2008)を用いて、96ウェルプレートのウェルあたり1個のスフェロイドの頻度で開始された。次に、個々のスフェロイドは、指示されるようなAb#6(最終濃度8uM)、ヘレグリン−β1EGFドメイン(R&D Systems,Minneapolis,MN,Cat #396−HB、最終濃度3.4nM)、または両方の組み合わせのいずれかで処理された。スフェロイドの直径は、第1日から第13日で光学顕微鏡(10×対物)を用いて測定された。
【0243】
Ab#6は、AdrR細胞におけるスフェロイド増殖を阻害する(図26A)。さらに、3.4nMのHRGは、スフェロイド増殖を刺激し、Ab#6は、HRG効果を阻害する(図26B)。DU145から得られるスフェロイドは、実験の13日間、大きさが増加しなかった;しかしながら、増殖は、HRG1−ベータ1によって有意に刺激された。これらの細胞において、8uMのAb#6はHRG誘導のスフェロイド増殖を阻害する(図26C)。
【0244】
(実施例14)
シグナル伝達の阻害
異なるリガンドによって誘導されるシグナル伝達を阻害するAb#6の能力を調べた。例えば、ErbB3受容体を発現しているAdrR細胞に対するHRGおよびBTC結合におけるAb#6の効果を試験した。図27AおよびBに示されるように、FACS分析を用いて、Ab#6は、AdrR細胞への結合に対してBTCではなくHRGと競合する。したがって、ErbB3に対するHRG結合のAb#6のブロックは、HRGによって誘導されるシグナル伝達を妨げることになる。
【0245】
さらに、ErbB3リン酸化の誘導について種々のリガンドを試験した。3つのリガンドであるHRG、BTC、およびHGFは、AdrR細胞におけるErbB3誘導のリン酸化を刺激することができ、EGFはできなかった。図28に示されるように、Ab#6は、AdrR細胞におけるHGF誘導のpErbB3リン酸化を阻害する(図28)。さらに、当該技術分野において知られているように(例えば、Walleniusら(2000)Am J Pathol.156(3):821−9 10702398を参照されたい)、増大したHGFシグナル伝達は、種々の上皮および非上皮腫瘍に見いだされた。
【0246】
ErbB3/cMET相互作用、並びにこの相互作用の調節におけるAb#6の役割
上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)における活性化変異を担持する非小細胞肺癌は、METおよびHER3を補充することによって、即ち、PI3K−AKT細胞生存経路を活性化することによってチロシンキナーゼインヒビターに耐性を発現することが知られている(Engelmannら(2007)Science 316:1039−1043;Gou(2007)PNAS:105(2):692−697)。活性化EGFR変異を担持する細胞系統におけるEGFRとc−METとの間の関連性は、同時免疫沈降によって十分に確かめられている(Engelmannら、2007;Gou,2007)。Guoらは、最近、c−METおよびErbB3も、同時免疫沈降を用いて、増幅したc−METに依存することが知られている胃の細胞系統MKN45において複合体で存在することを示した。
【0247】
また、このc−MET−erbB3相互作用は、野生型EGFRを担持しているAdrR細胞に起こり、増幅したc−METに依存しない。HGF(肝細胞増殖因子)は、図28に示されるように、投薬量に依存した様式でAdrR細胞においてErbB3リン酸化を誘導する。さらに、Ab#6は、HGF誘導のerbB3のリン酸化を阻害する。
【0248】
また、ErbB1およびErbB3の両者のリン酸化に対するHRGおよびBTCの効果が調べられ、HRGおよびBTCは、ErbB1およびErbB3の両方のリン酸化を誘導することが見いだされた。HRGは、ErbB3のリン酸化のより強力な誘導物質であることが見いだされ、BTCは、ErbB1のリン酸化の強力な誘導物質であった(図29)。このリン酸化は、ErbB1とErbB3との間の複合体によって駆動される可能性がある。要約すると、ErbB3へのHRG結合は、ErbB1とErbB3との間の複合体形成を誘導し、両方の受容体の活性化をもたらす。同じ現象は、BTCについてもありそうであり、この場合、ErbB1に対するBTC結合は、ErbB1とErbB3との間の複合体形成を刺激し、ErbB1およびErbB3の両方のリン酸化をもたらす。
【0249】
リガンド(HRG、BTC、EGF、およびHGF)刺激ErbB3リン酸化の抗体阻害
リガンド(HRG、BTC、EGF、およびHGF)誘導のErbB3のリン酸化を阻害するAb#6の能力は、下記の方法に基づいて調べられた:
1.10%FBSを含むRPMI培地に30,000細胞/ウェル/100μLの密度で96ウェルプレートにAdrR細胞を播種し、一晩増殖させた;
2.翌日、培地をFBSを含まない培地に変えることによって細胞を血清枯渇にし、一晩増殖させた;
3.異なる濃度のAb#6(0.01nM〜100nM)、またはバッファー(対照)を用いて2時間、細胞を前処理した;
4.次に、細胞を10nM HRGおよびHGFで10分間、または10nM BTCおよびEGFで5分間刺激した;
5.培地を除去することによって反応を停止させ、細胞を氷冷PBSで1回洗浄した;
6.その後、1×プロテアーゼインヒビターおよび1×ホスファターゼインヒビターを含む、25mM Tris、pH+7.5、150mM NaCl、1mM EDTA、1.0% Triton X−100、1.0% CHAPS、10%v/vグリセロールに細胞を溶解させ;そして、
7.ErbB3リン酸化は、Human Phospho−ErbB3 ELISAキット(R&D Systems,Minneapolis,MN,Cat.DYC1769)を用いて、製造業者の指図書に従って、細胞溶解物において測定された。
【0250】
ErbB2−ErbB3タンパク質複合体形成の抗体阻害
AdrR細胞は、バッファー(対照)、または250nM Ab#6とともに60分間、室温でプレインキュベートされ、次に10nM HRGもしくは10nM BTCまたは対照バッファーを用いて10分間処理された。0.2mM PMSF、50mTU/mLアプロチニン、および100uMロイペプチンを含む、25mM Tris、pH+7.5、150mM NaCl、1mM EDTA、1.0% Triton X−100、1.0% CHAPS、10%v/vグリセロールに細胞を溶解し、粗製溶解物を簡単に遠心して、不溶性物質を除去した。上清は、新しいエッペンドルフチューブに移され、そして抗ErbB3抗体(Santa Cruz sc−285)を1:500希釈で添加した。上清は、穏やかに振とうしながら、4Cで一晩インキュベートされた。60ulのImmobilized Protein A/Gアガロースビーズ(Pierce,Rockford,IL,Cat#20421)は、初めに1×PBSで洗浄された。細胞溶解物−抗体混合物をPBS洗浄したビーズに添加し、穏やかに振とうしながら4℃で2時間インキュベートした。次に、免疫沈降物を氷冷した溶解バッファーを用いて3回洗浄し、30ulの2×SDS試料バッファーに再懸濁させ、95℃で7分間熱変性し、4〜12%のBis−Trisゲル上で移動させた。SDS−PAGEを行い、10%MeOHを含むTri−グリシンバッファー中でPVDFメンブレンに電気的に移した。10mlのブロッキングバッファー(Li−Cor Biosciences,Lincoln,NE,Cat#927−40000)中でメンブレンを1時間ブロッキングし、次に、10mlのブロッキングバッファー(Li−Cor Biosciences,Cat#927−40000)に含まれる1:1000での抗ErbB2抗体(Cell Signaling Technology,Danvers,MA,Cat#29D8)とともにインキュベートした。シグナルは、10mlのブロッキングバッファー(Li−Cor Biosciences,Cat#927−40000)に含まれる1:5000(2μl)でのヤギ抗ウサギIRDye800を用いて検出された。
【0251】
また、Ab#6は、HRGによって刺激されたErbB2/3複合体形成を完全に阻害することが示された(図29B)。
【0252】
均等物
当業者は、ほんの日常的な実験を用いて、本明細書に記載されている本発明の特定の態様の多くの均等物を認識し、または確認することができる。このような均等物は、下記の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。従属クレームに開示されている態様のいずれかの組み合わせは、本発明の範囲内にあることが意図される。
【0253】
参照による援用
本明細書に言及されている全ての刊行物、特許、係属している特許出願は、全体として参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0001】
ポリペプチド増殖因子受容体のErbB/HERサブファミリーには、上皮細胞増殖因子(EGF)受容体(EGFR、ErbB1/HER1)、neu癌遺伝子産物(ErbB2/HER2)、ごく最近に同定されたErbB3/HER3およびErbB4/HER4が挙げられる(例えば、非特許文献1を参照されたい)。これらの受容体の各々は、細胞外のリガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞質のタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)ドメインおよびC末端リン酸化ドメインからなることが予測されている(例えば、非特許文献2を参照されたい)。
【0002】
インビトロでの実験によって、ErbB3タンパク質のタンパク質チロシンキナーゼ活性は、他のErbB/HERファミリーメンバーのものと比較して顕著に減衰しており、この減衰は、部分的には、ErbB3の予測される触媒ドメインにおける非保存的なアミノ酸置換の発生によることが示された(例えば、非特許文献3;非特許文献4を参照されたい)。しかしながら、ErbB3タンパク質は、様々な細胞状況においてリン酸化されることが示されている。例えば、ErbB3は、このタンパク質を過剰発現するヒト乳癌細胞系統のサブセットにおいて、チロシン残基に構造的にリン酸化される(例えば、非特許文献5;Kimら、上掲を参照されたい;また、非特許文献6、並びに、非特許文献7を参照されたい)。
【0003】
癌におけるErbB3の役割が研究されてはいるが(例えば、Horstら(2005)115,519−527;非特許文献8)、ErbB3は、臨床的介入の標的として、依然としてそれほど評価されていない。現在の免疫治療は、主に、ErbB2の作用、特に、ErbB2/ErbB3複合体のヘテロ二量化の阻害に焦点が当てられている(例えば、非特許文献9を参照されたい)。したがって、本発明の目的は、ErbB3シグナル伝達を効果的に阻害し、様々な癌を処置および診断するために用いることができる改善された免疫治療を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hynesら(1994)Biochim.Biophys.Acta Rev.Cancer 1198,165−184
【非特許文献2】Kimら(1998)Biochem.J.334,189−195
【非特許文献3】Guyら(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA.91,8132−8136
【非特許文献4】Sierkeら(1997)Biochem.J.322,757−763
【非特許文献5】Krausら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA.90,2900−2904
【非特許文献6】Schaeferら(2006)Neoplasia 8(7):613−22
【非特許文献7】Schaeferら、Cancer Res(2004)64(10):3395−405
【非特許文献8】Xueら(2006)Cancer Res.66,1418−1426
【非特許文献9】Sliwkowskiら(1994)J.Biol.Chem.269(20):14661−14665(1994)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ErbB3受容体に結合し、種々のErbB3機能を阻害する新しい種類のモノクローナル抗体を提供する。例えば、本明細書に記載されている抗体は、ErbB3に結合し、EGF様リガンドを介した受容体のリン酸化を阻害することができる。本明細書に記載されるように、EGF様リガンドには、EGF、TGF−α、ベータセルリン、ヘパリン結合上皮細胞増殖因子、ビレグリン(biregulin)およびアンフィレグリンが含まれ、それらは、EGFRに結合し、EGFRとErbB3との二量化を誘導する。次に、この二量化は、ErbB3のリン酸化を引き起し、その受容体を介してシグナル伝達を活性化する。このようにして、本発明のモノクローナル抗体は、ErbB3を介した細胞のシグナル伝達と関連した様々な癌の処置および診断に有用である。したがって、一態様では、本発明は、ErbB3に結合し、EGF様リガンドを介したErbB3のリン酸化を阻害するモノクローナル抗体(およびその抗原結合部分)を提供する。
【0006】
別の態様では、抗体は、さらに、1以上の下記の特徴:(i)ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンおよびBIRなどのErbB3リガンドのErbB3への結合によって媒介されるシグナル伝達を含む、ErbB3リガンドを介したシグナル伝達の阻害;(ii)ErbB3を発現している細胞の増殖阻害;(iii)細胞表面上のErbB3のレベルを減少させる能力(例えば、ErbB3の内在化を誘導することによる);(iv)ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌の阻害;(v)ErbB3を発現している細胞の移動の阻害;(vi)ErbB3を発現している細胞のスフェロイド(spheroid)増殖の阻害;および/または(vii)ErbB3のドメインI(残基20−209)に位置したエピトープ、例えば、ErbB3のアミノ酸配列の残基20−202を含むかまたはそれにかかっているエピトープへの結合によって特徴付けられる。
【0007】
本発明の特定のモノクローナル抗体およびその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴アッセイまたは細胞結合アッセイによって測定すると、KDが50nM以下を示す
さらなる態様では、本発明の特定のモノクローナル抗体およびその抗原結合部分は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号35、または配列番号37に記載される重鎖可変領域アミノ酸配列と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。本発明の他の特定のモノクローナル抗体およびその抗原結合部分は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号36、または配列番号38に記載される軽鎖可変領域アミノ酸配列と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。また、抗体は、前記の重鎖および軽鎖可変領域の両方を含んでもよい。
【0008】
抗体またはその抗原結合部分の可変重鎖および軽鎖領域は、典型的には、1以上の相補性決定領域(CDR)を含む。これらには、1以上のCDR1、CDR2、およびCDR3領域が含まれる。したがって、本発明の他の特定の抗体およびその抗原結合部分には、配列番号7を含む重鎖可変領域CDR1;配列番号8を含む重鎖可変領域CDR2;配列番号9を含む重鎖可変領域CDR3;配列番号10を含む軽鎖可変領域CDR1;配列番号11を含む軽鎖可変領域CDR2;配列番号12を含む軽鎖可変領域CDR3;およびそれらの組み合わせから選択される1以上のCDR配列が含まれる。
【0009】
本発明のさらに他の特定の抗体およびその抗原結合部分には、配列番号13を含む重鎖可変領域CDR1;配列番号14を含む重鎖可変領域CDR2;配列番号15を含む重鎖可変領域CDR3;配列番号16を含む軽鎖可変領域CDR1;配列番号17を含む軽鎖可変領域CDR2;配列番号18を含む軽鎖可変領域CDR3;およびそれらの組み合わせから選択される1以上のCDR配列が含まれる。
【0010】
本発明のさらに他の特定の抗体およびその抗原結合部分には、配列番号19を含む重鎖可変領域CDR1;配列番号20を含む重鎖可変領域CDR2;配列番号21を含む重鎖可変領域CDR3;配列番号22を含む軽鎖可変領域CDR1;配列番号23を含む軽鎖可変領域CDR2;配列番号24を含む軽鎖可変領域CDR3;およびそれらの組み合わせから選択される1以上のCDR配列が含まれる。
【0011】
本発明のさらに他の特定の抗体およびその抗原結合部分には、配列番号39を含む重鎖可変領域CDR1;配列番号40を含む重鎖可変領域CDR2;配列番号41を含む重鎖可変領域CDR3;配列番号42を含む軽鎖可変領域CDR1;配列番号43を含む軽鎖可変領域CDR2;配列番号44を含む軽鎖可変領域CDR3;およびそれらの組み合わせから選択される1以上のCDR配列が含まれる。
【0012】
本発明のさらに他の特定の抗体およびその抗原結合部分には、および配列番号45を含む重鎖可変領域CDR1;配列番号46を含む重鎖可変領域CDR2;配列番号47を含む重鎖可変領域CDR3;配列番号48を含む軽鎖可変領域CDR1;配列番号49を含む軽鎖可変領域CDR2;配列番号50を含む軽鎖可変領域CDR3;それらの組み合わせから選択される1以上のCDR配列が含まれる。
【0013】
また、抗体およびその抗原結合部分は、前記のCDRのいずれかまたはCDRの組み合わせと少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一である1以上のCDRを含んでもよい。
【0014】
一態様では、抗体およびその抗体部分は、完全にヒトである(即ち、ヒトCDRおよびフレームワーク配列を含む)。本発明の特定のヒト抗体は、ヒトVH3生殖細胞系列遺伝子由来である重鎖可変領域、および/またはヒトVL2生殖細胞系列遺伝子由来である軽鎖可変領域を有するものが含まれる。
【0015】
また、本明細書に記載されている抗体またはその部分のいずれかによって結合される、同じであるかまたは重複しているエピトープ(即ち、ErbB3のドメインIに位置したエピトープ、例えば、ErbB3のアミノ酸配列の残基20−202を含むかまたはそれにかかっているエピトープ)に結合するモノクローナル抗体およびその部分が、本発明に包含される。また、本明細書に記載されている抗体と同じ活性を有する抗体、例えば、Ab#6と同じ配列を有する抗体が本発明に包含される。
【0016】
本発明の抗体には、全ての知られている形態の抗体、並びに抗体様の特性を有する他のタンパク質骨格が含まれる。例えば、抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体、キメラ抗体または抗体様の特性を有するタンパク質骨格、例えば、フィブロネクチンまたはアンキリン(ankyrin)リピートであり得る。また、抗体は、Fab、Fab’2、ScFv、SMIP、アフィボディ(affibody)、ナノボディ(nanobody)またはドメイン抗体であってもよい。また、抗体は、次のアイソタイプ:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgD、およびIgEのいずれかを有することができる。
【0017】
なお別の態様では、本発明は、さらに、許容される担体および/またはアジュバントとともに調合される、本明細書に記載されている抗体または抗原結合部分の組み合わせを含む組成物を提供する。特定の態様では、組成物は、ErbB3に結合しない抗癌抗体と組み合わせた、本明細書に記載されているErbB3または抗体の異なるエピトープに結合する2以上の抗体を含む。
【0018】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書に記載されている抗体およびその抗原結合部分をコードする単離された核酸を提供する。特定の態様では、核酸は、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号35、もしくは配列番号37と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一であるヌクレオチド配列、または高ストリンジェントな条件下で配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号35、もしくは配列番号37にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む重鎖可変領域;または、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号36、もしくは配列番号38と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一であるヌクレオチド配列、または高ストリンジェントな条件下で配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号36、もしくは配列番号38にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む軽鎖可変領域;あるいは、このような重可変領域および軽可変領域の組み合わせをコードする。
【0019】
本発明は、さらに、本明細書に記載されている抗体または抗原結合部分を発現および/または産生するトランスジェニック非ヒト哺乳動物、ハイブリドーマ、およびトランスジェニック植物を提供する。
【0020】
また、本発明は、本明細書に記載されている1以上の単離されたモノクローナル抗体または抗原結合部分、場合により、ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患、例えば癌の処置または診断に用いるための取扱説明書を含むキットを提供する。
【0021】
本発明の抗体および抗原結合部分は、多様な治療および診断用途、特に腫瘍用途に用いることができる。したがって、別の局面では、本発明は、EGF様の媒介したErbB3のリン酸化を阻害するのに十分な量で、本明細書に記載されている1以上の抗体または抗原結合部分を投与することによって、被験体におけるEGF様リガンド媒介のErbB3のリン酸化を阻害する方法を提供する。本発明は、さらに、癌を処置するのに十分な量で、本明細書に記載されている1以上の抗体または抗原結合部分を投与することによって、被験体における種々の癌、例えば、限定されないが、メラノーマ、乳癌、卵巣癌、腎臓癌腫、消化管/結腸癌、肺癌、明細胞肉腫、および前立腺癌を処置する方法を提供する。抗体または抗原結合部分は、単独で、または他の治療薬物、例えば、抗癌剤、例えば他の抗体、化学療法薬および/または放射線と併用して投与され得る。
【0022】
なお他の態様では、本発明は、ErbB3と関連した疾患(例えば、癌)を診断および予測する方法を提供する。一態様では、これは、本発明の抗体または抗原結合部分(例えば、エクスビボまたはインビボ)と被験体から得られる細胞とを接触させ、細胞上のErbB3への結合レベルを測定することによって達成され、この場合、異常に高いレベルのErbB3への結合は、被験体がErbB3と関連した癌を有することを示す。
【0023】
本発明の他の特徴および利点は、下記の詳細な説明、特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】図1Aおよび1Bは、ヤギ抗ヒトAlexa 647二次抗体を用いて、MALME−3Mメラノーマ細胞に発現したErbB3に対する、種々の抗ErbB3抗体候補(Fab、本明細書ではAbとも称する)の結合を示す棒グラフである。
【図1B】図1Aおよび1Bは、ヤギ抗ヒトAlexa 647二次抗体を用いて、MALME−3Mメラノーマ細胞に発現したErbB3に対する、種々の抗ErbB3抗体候補(Fab、本明細書ではAbとも称する)の結合を示す棒グラフである。
【図2−1】図2A〜2Dは、種々の抗ErbB3抗体の候補のKD値を示すグラフである。図2Aおよび2Bは、表面プラズモン共鳴(SPR)技術を用いて測定した、それぞれ抗体#6(Ab#6と称する)および抗体#3(Ab#3と称する)のKD値を示すグラフである。図2Cおよび2Dは、MALME−3Mメラノーマ細胞を用いた細胞結合アッセイを用いて測定した、それぞれAb#6およびAb#3のKD値を示すグラフである。
【図2−2】図2A〜2Dは、種々の抗ErbB3抗体の候補のKD値を示すグラフである。図2Aおよび2Bは、表面プラズモン共鳴(SPR)技術を用いて測定した、それぞれ抗体#6(Ab#6と称する)および抗体#3(Ab#3と称する)のKD値を示すグラフである。図2Cおよび2Dは、MALME−3Mメラノーマ細胞を用いた細胞結合アッセイを用いて測定した、それぞれAb#6およびAb#3のKD値を示すグラフである。
【図3】ELISAを用いた、ErbB3に対する抗ErbB3抗体(Ab#6)の結合特異性を示すグラフである。EGFR、BSAおよびTGF−αを対照として用いた。
【図4】ELISAを用いて測定した、インビトロでのMALME−3Mメラノーマ細胞における全ErbB3レベルを低下させる抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図5】図5Aおよび図5Bは、FACS分析を用いて測定した、MALME−3M細胞のErbB3受容体をダウンレギュレートする抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。図5Aは、抗体のIgG1アイソタイプを用いた結果を示す。図5Bは、抗体のIgG2アイソタイプを用いた結果を示す。
【図6−1】図6A−6Dは、FACS分析を用いて測定した、抗体を介したErbB3ダウンレギュレーション(Ab#6)の時間経過を示すグラフである。
【図6−2】図6A−6Dは、FACS分析を用いて測定した、抗体を介したErbB3ダウンレギュレーション(Ab#6)の時間経過を示すグラフである。
【図7】インビボでのメラノーマ細胞におけるErbB3をダウンレギュレートする種々の抗ErbB3抗体の能力を示す棒グラフである。
【図8】インビボでのADRr異種移植におけるErbB3をダウンレギュレートする抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示す棒グラフである。
【図9】Cell Titer GlowアッセイにおけるMALME−3M細胞の増殖を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図10】卵巣細胞系統であるADRrにおける細胞増殖を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図11】ACHN細胞の増殖を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図12】インビボでのADRr異種移植におけるErbB3リン酸化を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示す棒グラフである。
【図13A】図13A−13Cは、ADRr細胞におけるベータセルリンおよびヘレグリンが媒介したErbB3のリン酸化を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図13B】図13A−13Cは、ADRr細胞におけるベータセルリンおよびヘレグリンが媒介したErbB3のリン酸化を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図13C】図13A−13Cは、ADRr細胞におけるベータセルリンおよびヘレグリンが媒介したErbB3のリン酸化を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図14】図14A−14Bは、卵巣腫瘍細胞系統であるOVCAR5およびOVCAR8におけるErbB3リン酸化を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6 IgG2アイソタイプ)の能力を示すグラフである。
【図15A】図15A−15Cは、ErbB1陰性MALME−3M細胞への結合の欠失(図17A);それぞれ10nM(図17B)および200nM(図17B)の濃度でのErbB1陽性ADRr細胞への結合によって示される、ErbB1に結合するベータセルリン(BTC)の能力、並びにErbituxによるこのような結合の阻害を示すグラフである。
【図15B】図15A−15Cは、ErbB1陰性MALME−3M細胞への結合の欠失(図17A);それぞれ10nM(図17B)および200nM(図17B)の濃度でのErbB1陽性ADRr細胞への結合によって示される、ErbB1に結合するベータセルリン(BTC)の能力、並びにErbituxによるこのような結合の阻害を示すグラフである。
【図15C】図15A−15Cは、ErbB1陰性MALME−3M細胞への結合の欠失(図17A);それぞれ10nM(図17B)および200nM(図17B)の濃度でのErbB1陽性ADRr細胞への結合によって示される、ErbB1に結合するベータセルリン(BTC)の能力、並びにErbituxによるこのような結合の阻害を示すグラフである。
【図16】図16A−16Bは、MALME−3M細胞におけるヘレグリンが媒介したシグナル伝達を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6 IgG2アイソタイプ)の能力を示すグラフである。図16Aは、MALME−3M細胞におけるヘレグリンが媒介したErbB3のリン酸化を阻害するAb#6の能力を示し、16Bは、MALME−3M細胞におけるAKTのリン酸化を阻害するAb#6の能力を示す。
【図17A】図17A−Dは、異種移植研究を介した、(A)卵巣(ADRr細胞)、(B)前立腺Du145細胞)、(C)卵巣(OvCAR8細胞)、および(D)膵臓(Colo357細胞)腫瘍成長を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図17B】図17A−Dは、異種移植研究を介した、(A)卵巣(ADRr細胞)、(B)前立腺Du145細胞)、(C)卵巣(OvCAR8細胞)、および(D)膵臓(Colo357細胞)腫瘍成長を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図17C】図17A−Dは、異種移植研究を介した、(A)卵巣(ADRr細胞)、(B)前立腺Du145細胞)、(C)卵巣(OvCAR8細胞)、および(D)膵臓(Colo357細胞)腫瘍成長を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図17D】図17A−Dは、異種移植研究を介した、(A)卵巣(ADRr細胞)、(B)前立腺Du145細胞)、(C)卵巣(OvCAR8細胞)、および(D)膵臓(Colo357細胞)腫瘍成長を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の能力を示すグラフである。
【図18】図18Aおよび18Bは、FACS分析を用いて測定した、MALME−3M細胞のErbB3へのヘレグリン結合を阻害するAb#6(図18A)およびAb#3のFab(図18B)の能力を示すグラフである。
【図19】図19Aおよび19Bは、ADRr細胞のErbB3へのエピレグリンの結合を阻害するAb#6の能力を示すグラフである。図19Aは、ADRr細胞へのエピレグリンの結合を示し、図19Bは、ADRr細胞へのエピレグリン結合を阻害するErbituxおよびAb#6の両者の能力を示す。
【図20】図20Aおよび図20Bは、ADRr細胞のErbBに結合するヘパリン結合上皮細胞増殖因子(HB−EGF)の能力(図20A)、並びにこのような結合を阻害する抗ErbB3抗体(Ab#6)の不能力(図20B)を示すグラフである。
【図21A】図21A−21Cは、抗体:Ab#6、Ab#3、Ab#14、Ab#17、およびAb#19の可変重鎖および軽鎖領域のアミノ酸配列を示す。
【図21B】図21A−21Cは、抗体:Ab#6、Ab#3、Ab#14、Ab#17、およびAb#19の可変重鎖および軽鎖領域のアミノ酸配列を示す。
【図21C】図21A−21Cは、抗体:Ab#6、Ab#3、Ab#14、Ab#17、およびAb#19の可変重鎖および軽鎖領域のアミノ酸配列を示す。
【図22A】図22A−22Bは、抗体:Ab#6、Ab#3、およびAb#14の可変重鎖および軽鎖領域のヌクレオチド配列を示す。
【図22B】図22A−22Bは、抗体:Ab#6、Ab#3、およびAb#14の可変重鎖および軽鎖領域のヌクレオチド配列を示す。
【図23】図23は、対応する生殖細胞系列のアミノ酸配列に戻された、抗体:Ab#6、Ab#17、およびAb#19の可変軽鎖領域のアミノ酸配列を示す。アミノ酸残基の変化に下線が付される。
【図24A】図24A−24Cは、腫瘍細胞のVEGF分泌を阻害するAb#6の能力を示すグラフである。
【図24B】図24A−24Cは、腫瘍細胞のVEGF分泌を阻害するAb#6の能力を示すグラフである。
【図24C】図24A−24Cは、腫瘍細胞のVEGF分泌を阻害するAb#6の能力を示すグラフである。
【図25】細胞移動におけるAb#6の効果を示すグラフである。
【図26】図26A−Cは、(A)AdrR細胞におけるスフェロイド増殖の阻害、(B)AdrRにおけるHRG誘導のスフェロイド増殖の阻害、および(C)Du145細胞におけるHRG誘導のスフェロイド増殖の阻害を示すグラフである。
【図27】図27AおよびBは、AdrR細胞への(A)HRGおよび(B)BTCの結合に対するAb#6の効果を示すグラフである。
【図28】HGF誘導のErbB3リン酸化におけるAb#6の効果を示すグラフである。
【図29】図29AおよびBは、(A)pErbB1とpErbB3、並びに(B)HRG誘導のErbB2/3複合体形成のリン酸化におけるAb#6の効果を示す。
【図30】Ab#6がErbB3のアミノ酸残基20−202に結合することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明がより容易に理解され得るために、ある種の用語を最初に定義する。追加の定義は、詳細な記載を通じて示されている。
【0026】
I.定義
用語「ErbB3」、「HER3」、「ErbB3受容体」、および「HER3受容体」とは、本明細書中で互換可能に使用されるとき、ヒトErbB3タンパク質を指し、米国特許第5,480,968号、並びにPlowmanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:4905−4909(1990)に記載されている;また、Kaniら、Biochemistry 44:15842−857(2005),ChoおよびLeahy,Science 297:1330−1333(2002))を参照されたい。
【0027】
用語「EGF様リガンド」とは、本明細書中で使用するとき、上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)のリガンドを指し、それには、上皮細胞増殖因子(EGF)および密接に関連したタンパク質、例えば形質転換増殖因子−α(TGF−α)、ベータセルリン(BTC)、ヘパリン結合上皮細胞増殖因子(HB−EGF)、ビレグリン(BIR)およびアンフィレグリン(AR)が含まれ、それらは、細胞表面のEGFRに結合し、受容体の内在性のタンパク質−チロシンキナーゼ活性を刺激する。具体的には、EGF様リガンドは、EGFR(ErbB1とも称する)とErbB3タンパク質との複合体の形成を誘導し(例えば、Kimら(1998)Biochem J.,334:189−195を参照されたい)、複合体に含まれるチロシン残基のリン酸化をもたらす。
【0028】
本発明の抗体およびその抗原結合部分は、EGF様リガンドを介したErbB3のリン酸化を阻害し、ある種の態様では、1以上の下記の追加の特徴を示す:(i)ErbB3を介した1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンおよびビレグリン(BIR)に媒介されるシグナル伝達の阻害;(ii)ErbB3を発現している細胞の増殖阻害;(iii)細胞表面上のErbB3のレベルを減少させる能力;(iv)ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌の阻害;(v)ErbB3を発現している細胞の移動の阻害;(vi)ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖の阻害;および/または(vii)ErbB3のドメインIに位置したエピトープ、例えば、ErbB3のアミノ酸配列の残基20−202を含むかまたはそれにかかっているエピトープへの結合。
【0029】
用語「阻害」とは、本明細書中で使用するとき、活性の完全なブロックを含む生物学的活性のいずれかの統計的に有意な減少を指す。例えば、「阻害」は、生物学的活性における約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%の減少を指すことができる。
【0030】
したがって、句「EGF様リガンドを介したErbB3のリン酸化の阻害」とは、本明細書中で使用するとき、未処理(対照)細胞におけるリン酸化と比較して、EGF様リガンドによって誘導されたErbB3のリン酸化を統計的に有意に減少させる、抗体または抗原結合部分の能力を指す。ErbB3を発現している細胞は、自然に存在している細胞または細胞系統であってもよく、あるいは、宿主細胞へのErbB3をコードする核酸を導入することによって組換え的に生産されてもよい。一態様では、抗体またはその抗原結合部分は、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%までEGF様リガンドによって媒介されるErbB3のリン酸化を阻害し、それは、例えば、Kimら(1998)Biochem J.,334:189−195、並びに以下の実施例に記載されるウェスタンブロッティング、続く、抗ホスホチロシン抗体を用いた探査によって測定される。
【0031】
句「ErbB3を介したヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンに媒介されるシグナル伝達の阻害」とは、本明細書中で使用するとき、抗体が存在しない場合(対照)のシグナル伝達と比較して、ErbB3を通したErbB3リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンおよびビレグリン)によって媒介されたシグナル伝達を統計的に有意に減少させる、抗体またはその抗原結合部分の能力を指す。また、ErbB3リガンドは、本明細書において「ヘレグリン様リガンド」とも称される。これは、抗体またはその抗原結合部分の存在下において、対照(抗体なし)と比較して、ErbB3を発現細胞における、1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンおよびビレグリンによって媒介されるシグナルが統計的に有意に減少されることを意味する。ErbB3リガンド媒介のシグナルは、ErbB3基質、および/またはErbB3と関係する細胞カスケードに存在するタンパク質のレベルまたは活性を評価することによって測定することができる。一態様では、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3基質のレベルもしくは活性、および/またはErbB3と関係する細胞カスケードに存在するタンパク質のレベルもしくは活性を、そのような抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合(対照)のレベルまたは活性と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少させる。このようなErbB3リガンド媒介のシグナル伝達は、ErbB3の基質(例えば、SHCもしくはPI3K)、またはErbB3と関係する細胞カスケードのタンパク質(例えば、AKT)を、このようなタンパク質のためのキナーゼアッセイを用いて測定する従来認識されている技術を用いて測定することができる(例えば、Horstら.上掲,Sudoら(2000)Methods Enzymol,322:388−92;並びに、Morganら(1990)Eur.J.Biochem.,191:761−767を参照されたい)。
【0032】
特定の態様では、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3へのErbB3リガンド(例えば、1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)の結合を阻害することによって、ErbB3を介したErbB3リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)媒介のシグナル伝達を阻害する。いくつかのリガンド(例えば、ビレグリンまたはBIR)は、EGF様リガンド(即ち、EGFR/ErbB1に結合する)として、並びにErbB3様リガンド(即ち、ErbB3に結合する)として両方に機能する。
【0033】
句「ErbB3へのヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンの結合の阻害」とは、本明細書中で使用するとき、抗体が存在しない場合における結合(対照)と比較して、ErbB3へのErbB3リガンド(例えば、1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)の結合を統計的に有意に減少させる抗体またはその抗原結合部分の能力を指す。これは、抗体またはその抗原結合部分の存在下において、対照(抗体なし)と比較して、ErbB3に結合するErbB3リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)の量が統計的に有意に減少されることを意味する。ErbB3を結合するErbB3リガンドの量は、本発明の抗体またはその抗原結合部分の存在下において、抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合(対照)の量と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少させることができる。ErbB3リガンドの結合の減少は、抗体またはその抗原結合部分の存在または欠如(対照)において、ErbB3を発現している細胞への標識されたErbB3リガンド(例えば、放射線同元素標識(radiolabelled)ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)の結合レベルを測定する従来認識される技術を用いて測定することができる。
【0034】
句「ErbB3を発現している細胞の増殖の阻害」とは、本明細書中で使用するとき、抗体が存在しない場合における増殖と比較して、ErbB3を発現している細胞の増殖を統計的に有意に減少させる抗体またはその抗原結合部分の能力を指す。一態様では、ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)の増殖は、細胞が本発明の抗体またはその抗原結合部分と接触されると、抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合(対照)において測定された増殖と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少され得る。細胞増殖は、(例えば、細胞力価増殖アッセイまたはチミジン取り込みを用いて)細胞分裂の速度、細胞分裂を行っている細胞集団内の細胞の分画、および/または最終分化もしくは細胞死による細胞集団からの細胞損失の率を測定する従来認識されている技術を用いて評価することができる。
【0035】
句「細胞表面のErbB3レベルを減少させる能力」とは、本明細書中で使用するとき、未処理(対照)細胞と比較して、抗体に晒された細胞の表面に見いだされるErbB3の量を統計的に有意に低下させる抗体またはその抗原結合部分の能力を指す。例えば、細胞表面のErbB3のレベルの減少は、ErbB3の内在化の増加(またはErbB3のエンドサイトーシスの増加)に起因する場合がある。一態様では、抗体またはその抗原結合部分は、抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合(対照)の細胞表面発現または内在化と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%までErbB3の細胞表面発現を減少させ、および/または少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%までErbB3受容体の内在化を増加させる。抗体またはその抗原結合部分の欠如および存在における細胞表面のErbB3のレベルおよび/またはErbB3受容体の内在化は、従来認識されている技術、例えば、Horstら、上掲、並びに本明細書中の実施例に記載される技術を用いて容易に測定することができる。
【0036】
句「ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌の阻害」とは、本明細書中で使用するとき、抗体が存在しない場合のVEGF分泌と比較して、ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌を統計的に有意に減少させる抗体またはその抗原結合部分の能力を指す。一態様では、ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)のVEGF分泌は、細胞が本発明の抗体またはその抗原結合部分と接触されると、抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合(対照)において測定されたVEGF分泌と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少されてもよい。VEGF分泌は、本明細書に記載される技術などの従来認識されている技術を用いて評価することができる。
【0037】
句「ErbB3を発現している細胞の移動の阻害」とは、本明細書中で使用するとき、抗体が存在しない場合における細胞の移動と比較して、ErbB3を発現している細胞の移動を統計的に有意に減少させる抗体またはその抗原結合部分の能力を指す。一態様では、ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)の移動は、細胞が本発明の抗体またはその抗原結合部分と接触されると、抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合(対照)において測定された細胞移動と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少されてもよい。細胞移動は、本明細書に記載される技術などの従来認識されている技術を用いて評価することができる。
【0038】
句「ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖の阻害」とは、本明細書中で使用するとき、抗体が存在しない場合における細胞の移動と比較して、ErbB3を発現している細胞の移動を統計的に有意に減少させる抗体またはその抗原結合部分の能力を指す。一態様では、ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)の移動は、細胞が本発明の抗体またはその抗原結合部分と接触されると、抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合(対照)に測定される細胞移動と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少されてもよい。細胞移動は、本明細書に記載される技術などの従来認識されている技術を用いて評価することができる。用語「抗体」または「免疫グロブリン」は、本明細書中において互換可能に使用するとき、全抗体、その任意の抗原結合断片(即ち、「抗原結合部分」)またはその一本鎖を含む。「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互に接続された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと省略される)と重鎖定常領域とから構成されている。重鎖定常領域は、3つのドメインであるCH1、CH2およびCH3から構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと省略される)と軽鎖定常領域とから構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインであるCLから構成されている。VHおよびVL領域は、さらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が散在した、相補性決定領域(complementarity determining region)(CDR)と呼ばれる超可変性の領域に細分することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRと4つのFRから構成され、それらは、下記:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順番で、アミノ末端からカルボキシ末端に整列されている。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系の種々の細胞(例えば、エフェクター細胞)、および古典的な補体系の第1成分(C1q)などの宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。本発明の典型的な抗体には、抗体#1、3および14、並びにその抗原結合部分が含まれる。
【0039】
抗体の「抗原結合部分」(または、単に「抗体部分」)なる用語は、本明細書中で使用するとき、抗原(例えば、ErbB3)に特異的に結合する能力を保持している抗体の1以上の断片を指す。抗体の抗原結合機能は、全長の抗体の断片によって行われ得ることが示された。抗体の「抗原結合部分」なる用語に包含される結合断片の例には、(i)Fab断片、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価の断片;(ii)F(ab’)2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価の断片;(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片、(v)VHおよびVLドメインを含むdAb;(vi)VHドメインからなるdAb断片(Wardら(1989)Nature 341,544−546);(vii)VHまたはVLドメインからなるdAb;(viii)単離された相補性決定領域(CDR)、または(ix)場合により合成リンカーによって接続されてもよい2以上の単離されたCDRの組み合わせが挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメインであるVLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされているが、それらは、組換え法を用いて、一価の分子を形成させるためにVLおよびVH領域が対となる単一のタンパク質鎖(一本鎖Fv(scFv)として知られている;例えば、Birdら(1988)Science 242,423−426;並びに、Hustonら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci USA 85,5879−5883、を参照されたい)としてそれらを作製することができる合成リンカーによって接続され得る。また、このような一本鎖抗体は、抗体の「抗原結合部分」なる用語に包含されることが意図される。これらの抗体断片は、当業者に知られている従来技術を用いて得られ、断片は、完全な抗体と同じような有用性についてスクリーニングされる。抗原結合部分は、組換えDNA技術によって、または完全な免疫グロブリンの酵素的もしくは化学的切断によって生成することができる。
【0040】
用語「モノクローナル抗体」とは、本明細書中で使用するとき、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し、即ち、この集団を含む個々の抗体は、少量で存在し得る自然に存在する可能性のある変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、非常に特異的であって、単一の抗原部位に対して指向される。さらに、典型的には、異なる決定基(エピトープ)に対して指向される様々な抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原の単一の決定基に対して指向される。モノクローナル抗体は、任意の従来認識されている技術、および本明細書に記載されている技術、例えば、Kohlerら(1975)Nature,256:495に記載されるハイブリドーマ法、例えば、(例えば、Lonbergら(1994)Nature 368(6474):856−859を参照)によって記載されるトランスジェニック動物、組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号)を用いて、または、例えば、Clacksonら、Nature,352:624−628(1991)、並びに、Marksら、J.Mol.Biol,222:581−597(1991)に記載される技術を用いるファージ抗体ライブラリーを用いて調製することができる。モノクローナル抗体には、キメラ抗体、ヒト抗体およびヒト化抗体が含まれ、自然に存在するかまたは組換え的に生成されてもよい。
【0041】
用語「組換え抗体」は、組換え手法によって調製、発現、作製または単離された抗体を指し、例えば、(a)免疫グロブリン遺伝子(例えば、ヒト免疫グロブリン遺伝子)に対してトランスジェニックであるかもしくは導入染色体(transchromosomal)である動物(例えば、マウス)、またはそれらから調製されたハイブリドーマから単離された抗体、(b)抗体を発現するために形質転換された宿主細胞、例えばトランスフェクトーマ(transfectoma)から単離された抗体、(c)ファージディスプレイを用いた組換え、コンビナトリアル抗体ライブラリー(例えば、ヒト抗体配列を含む)から単離された抗体、(d)他のDNA配列への免疫グロブリン遺伝子配列(例えば、ヒト免疫グロブリン遺伝子)のスプライシグを伴う任意の他の手段によって調製、発現、作製または単離された抗体が挙げられる。このような組換え抗体は、ヒトの生殖細胞系列の免疫グロブリン配列から得られる可変領域および定常領域を含んでもよい。しかしながら、ある種の態様では、このような組換えヒト抗体は、インビトロの変異誘発に供することができ、したがって、組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒトの生殖細胞系列のVHおよびVL配列に由来し、およびそれらと関連するが、インビボでのヒト抗体の生殖細胞系列レパートリーには、自然に存在しない場合がある。
【0042】
用語「キメラ免疫グロブリン」またはキメラ抗体とは、可変領域が第1の種由来であり、定常領域が第2の種由来である免疫グロブリンまたは抗体を指す。キメラ免疫グロブリンまたはキメラ抗体は、例えば、遺伝子操作によって、異種に属する免疫グロブリン遺伝子のセグメントから構築することができる。
【0043】
用語「ヒト抗体」とは、本明細書中で使用するとき、フレームワーク領域とCDR領域との両方が、例えば、Kabatら(Kabatら(1991)Sequences of proteins of Immunological Interest,第5版,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91−3242を参照されたい)によって記載されるヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列由来である可変領域を有する抗体を含むことが意図される。さらに、抗体が定常領域を含む場合、定常領域もヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列由来である。ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異誘発またはインビボでの体細胞変異によって導入された変異)を含んでいてもよい。しかしながら、用語「ヒト抗体」とは、本明細書中で使用するとき、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系列から得られるCDR配列がヒトのフレームワーク配列に移入された抗体を含むことは意図されない。
【0044】
ヒト抗体は、アミノ酸残基、例えば、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列によってコードされていない、活性を高めるアミノ酸残基で置換された少なくとも1以上のアミノ酸を有することができる。典型的には、ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列の部分ではないアミノ酸残基で置換された最大20箇所を有することができる。特定の態様では、これらの置換は、下記に詳述されるように、CDR領域内にある。
【0045】
用語「ヒト化免疫グロブリン」または「ヒト化抗体」は、少なくとも1つのヒト化免疫グロブリンまたは抗体鎖(即ち、少なくとも1つのヒト化軽鎖または重鎖)を含む免疫グロブリンまたは抗体を指す。用語「ヒト化免疫グロブリン鎖」または「ヒト化抗体鎖」(即ち、「ヒト化免疫グロブリン軽鎖」または「ヒト化免疫グロブリン重鎖」)とは、実質的にヒト免疫グロブリンまたは抗体から得られる可変フレームワーク領域、および実質的にはヒトでない免疫グロブリンまたは抗体から得られる複数の相補性決定領域(CDR)(例えば、少なくとも1つのCDR、好ましくは2つのCDR、より好ましくは3つのCDR)を含み、さらに、定常領域(例えば、軽鎖の場合には少なくとも1つの定常領域またはその部分、好ましくは重鎖の場合には3つの定常領域)を含む可変領域を有する免疫グロブリンまたは抗体鎖(即ち、それぞれ軽鎖または重鎖)を指す。用語「ヒト化可変領域」(例えば、「ヒト化軽鎖可変領域」または「ヒト化重鎖可変領域」)とは、実質的にヒト免疫グロブリンまたは抗体から得られる可変フレームワーク領域、および実質的にヒトでない免疫グロブリンまたは抗体から得られる複数の相補性決定領域(CDR)を含む可変領域を指す。
【0046】
「二重特異性」または「二機能性抗体」は、2つの異なる重鎖/軽鎖対および2つの異なる結合部位を有する人工的なハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab’断片の連結を含む種々の方法によって生成することができる。例えば、Songsivilai & Lachmann,(1990)Clin.Exp.Immunol.79,315−321;Kostelnyら(1992)J.Immunol.148,1547−1553を参照されたい。特定の態様では、本発明に係る二重特異性抗体は、ErbB3とIGF1−R(即ち、インスリン様増殖因子1−受容体)との両方に対する結合部位を含む。別の態様では、本発明に係る二重特異性抗体は、ErbB3とC−METとの両方に対する結合部位を含む。他の態様では、二重特異性抗体は、ErbB3に対する結合部位、ErbB2、ErbB3、ErbB4、EGFR、ルイスY、MUC−1、EpCAM、CA125、前立腺特異的膜抗原、PDGFR−α、PDGFR−β、C−KIT、または任意のFGF受容体に対する結合部位を含む。
【0047】
本明細書中で使用するとき、「異種抗体」は、このような抗体を生成するトランスジェニック非ヒト生物または植物に関して定義される。
【0048】
「単離された抗体」とは、本明細書中で使用するとき、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体(例えば、ErbB3に特異的に結合する単離された抗体は、ErbB3以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)を指すことが意図される。さらに、単離された抗体は、典型的には、他の細胞の材料および/または化学物質を実質的に含まない。本発明の一態様では、異なるErbB3結合特異性を有する「単離された」モノクローナル抗体の組み合わせは、明確な組成物に組み合わせられる。
【0049】
本明細書中で使用するとき、「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えば、IgMまたはIgG1)を指す。一態様では、抗体またはその抗原結合部分は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgD、またはIgE抗体アイソタイプから選択されるアイソタイプの抗体またはその抗原結合部分である。ある態様では、本発明のモノクローナル抗体は、IgG1アイソタイプの抗体またはその抗原結合部分である。他の態様では、本発明のモノクローナル抗体は、IgG2アイソタイプの抗体またはその抗原結合部分である。
【0050】
本明細書中で使用するとき、「アイソタイプスイッチング(isotype switching)」とは、抗体のクラス、またはアイソタイプが、1つのIgクラスから他のIgクラスのうちの1つに変化する現象を指す。
【0051】
本明細書中で使用するとき、「スイッチされないアイソタイプ(nonswitched isotype)」とは、アイソタイプスイッチングが起こらない場合に生成される重鎖のアイソタイプクラスを指す;スイッチされないアイソタイプをコードするCH遺伝子は、典型的には、機能的に再配列されたVDJ遺伝子からすぐ下流にある第1のCH遺伝子である。アイソタイプスイッチングは、古典的または非古典的なアイソタイプスイッチングとして分類されている。古典的なアイソタイプスイッチングは、抗体をコードする遺伝子の少なくとも1つのスイッチ配列領域を含む組換え事象によって発生する。非古典的なアイソタイプスイッチングは、例えば、ヒトσμとヒトΣμ(δ−関連欠失)との間の相同組換えによって発生する場合がある。とりわけ、トランスジーン間(intertransgene)および/または染色体間(interchromosomal)の組換えなどの代替の非古典的なスイッチングメカニズムが発生し、アイソタイプスイッチングを生じさせる場合がある。
【0052】
本明細書中で使用するとき、用語「スイッチ配列」とは、スイッチ組換えに関与するそれらのDNA配列を指す。「スイッチドナー」配列、典型的にはμスイッチ領域は、スイッチ組換え中に欠失されるコンストラクト領域の5’(即ち、上流)である。「スイッチアクセプター」領域は、欠失されるコンストラクト領域と置換定常領域(例えば、γ、εなど)との間にある。組換えがいつも起こる特定の部位は存在しないため、最終の遺伝子配列は、典型的には、コンストラクトから予測され得ない。
【0053】
「抗原」は、抗体またはその抗原結合部分が結合する実体(例えば、タンパク性実体またはペプチド)である。本発明の種々の態様では、抗原は、ErbB3またはErbB3様分子である。本発明に係る特定の態様では、抗原はヒトErbB3である。
【0054】
用語「エピトープ」または「抗原決定基」とは、免疫グロブリンまたは抗体が特異的に結合する抗原上の部位を指す。エピトープは、タンパク質の三次折り畳みによって並置された隣接アミノ酸または非隣接アミノ酸の両者から形成され得る。隣接アミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒への曝露に対して保持され、そこでは三次折り畳みによって形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒による処理に対して消失する。エピトープは、典型的には、独自の1つの空間構造にある少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個のアミノ酸を含む。エピトープの空間構造を測定する方法には、当該技術分野における技術、および本明細書に記載される技術、例えば、x線結晶学および2次元核磁気共鳴が挙げられる。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology,Vol.66,G.E.Morris,Ed.(1996)を参照されたい。
【0055】
また、本発明の抗体と同じであるかまたは重複しているエピトープに結合する抗体、即ち、ErbB3への結合に競合するか、または本明細書に記載される抗体によって結合されるエピトープ、即ち、ErbB3のドメインIに位置したエピトープと重複するエピトープに結合する抗体が本発明に包含される。同じエピトープを認識する抗体は、例えば標的抗原への別の抗体の結合をブロックする1つの抗体の能力を示すことによる免疫アッセイ、即ち、競合結合アッセイなどの日常的な技術を用いて同定することができる。競合結合は、試験用の免疫グロブリンがErbB3などの共通の抗原への参照抗体の特異的結合を阻害するアッセイにおいて測定される。多数のタイプの競合結合アッセイが知られている。例えば、固相直接または間接放射免疫アッセイ(RIA)、固相直接または間接酵素免疫アッセイ(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ(Stahliら(1983)Methods in Enzymology 9:242を参照されたい);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Kirklandら(1986)J.Immunol.137:3614を参照されたい);固相直接標識アッセイ、固相直接標識サンドイッチアッセイ(Harlow and Lane,(1988)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Pressを参照されたい);I−125標識を用いた固相直接標識RIA(Morelら(1988)Mol.Immunol.25(1):7を参照されたい);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Cheungら(1990)Virology 176:546);および直接標識RIA(Moldenhauerら(1990)Scand J.Immunol.32:77)が挙げられる。典型的には、このようなアッセイは、これらの未標識試験免疫グロブリンおよび標識参照免疫グロブリンのいずれかを持つ固体表面または細胞に結合された精製された抗原(例えば、ErbB3)の使用を伴う。競合阻害は、試験免疫グロブリンの存在下で、固体表面または細胞に結合された標識量を測定することによって測定される。通常、試験免疫グロブリンは、過剰に存在している。通常、競合抗体が過剰に存在する場合、少なくとも50〜55%、55〜60%、60〜65%、65〜70%70〜75%以上まで、参照抗体による共通抗原への特異的結合を阻害する。
【0056】
本明細書中で使用するとき、用語「特異的結合」、「特異的に結合する」、「選択的結合」、および「選択的に結合する」とは、抗体またはその抗原結合部分が特定の抗原またはエピトープに感知できる(appreciable)親和性を示し、一般に、他の抗原およびエピトープとは有意な交差反応を示さないことを意味する。「感知できる」または好ましい結合には、少なくとも106、107、108、109M−1、または1010M−1の親和性を有する結合が含まれる。107M−1を超える親和性、好ましくは108M−1を超える親和性がより好ましい。また、本明細書に記載されている値の中間の値も本発明の範囲内にあることが意図され、好ましい結合親和性は、親和性の範囲、例えば、106〜1010M−1、好ましくは107〜1010M−1、より好ましくは108〜1010M−1として指示され得る。「有意な交差反応を示さない」抗体は、望ましくない実体(例えば、望ましくないタンパク性実体)に感知可能に結合されないものである。例えば、一態様では、ErbB3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合部分は、そのErbB3分子に感知可能に結合するが、他のErbB分子および非ErbBタンパク質またはペプチドとは有意に反応しない。特異的または選択的結合は、このような結合を測定するための任意の従来認識されている手段にしたがって、例えば、スキャッチャード分析および/または競合結合アッセイにしたがって測定することができる。
【0057】
用語「KD」とは、本明細書中で使用するとき、特定の抗体−抗原相互作用の解離平衡定数、または抗原に対する抗体の親和性を指すことが意図される。一態様では、本発明に係る抗体またはその抗原結合部分は、抗原(例えば、ErbB3)に結合し、表面プラズモン共鳴アッセイまたは細胞結合アッセイによって測定すると、親和性(KD)は50nMまたはそれよりも良好(即ち、小さい)(例えば、40nMまたは30nMまたは20nMまたは10nMまたはそれよりも小さい)である。特定の態様では、本発明に係る抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3に結合し、表面プラズモン共鳴アッセイまたは細胞結合アッセイを用いて測定すると、親和性(KD)は8nMまたはそれよりも良好(例えば、7nM、6nM、5nM、4nM、2nM、1.5nM、1.4nM、1.3nM、1nMまたはそれよりも小さい)である。他の態様では、抗体またはその抗原結合部分は、抗原(例えば、ErbB3)に結合し、親和性(KD)は、分析物として組換えErbB3とリガンドとして抗体を用いたBIACORE3000機器における表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって測定すると、約10−7M未満、例えば、約10−8M、10−9Mもしくは10−10M未満またはそれよりもさらに低く、この抗体またはその抗原結合部分は、所定の抗原に結合し、親和性は、所定の抗原または密接に関連した抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)への結合に対する親和性よりも少なくとも2倍大きい。
【0058】
用語「Koff」とは、本明細書中で使用するとき、抗体/抗原複合体からの抗体の解離に関するoff速度定数を指すことが意図される。
【0059】
用語「EC50」とは、本明細書中で使用するとき、インビトロアッセイまたはインビボアッセイのいずれかにおいて、最大応答の50%、即ち、最大応答とベースラインとの間の中間である、応答を誘導する抗体またはその抗原結合部分の濃度を指す。
【0060】
本明細書中で使用するとき、「グリコシル化パターン」は、タンパク質、より具体的には免疫グロブリンタンパク質に共有結合で結合される炭水化物単位のパターンとして定義される。
【0061】
用語「自然に存在する」とは、本明細書中で使用するとき、被験体に適用される場合、被験体が自然に見出され得る事実を指す。例えば、有機体(ウイルスを含む)に存在し、自然の供給源から単離することができ、実験室にいる者によって意図的に改変されていないポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は自然に存在する。
【0062】
用語「再配列された」とは、本明細書中で使用するとき、重鎖または軽鎖免疫グロブリンの座(locus)の立体配置を指し、ここで、Vセグメントは、それぞれ完全なVHまたはVLドメインを本質的にコードする立体配座におけるD−JまたはJセグメントに直接隣接して位置される。再配列された免疫グロブリン遺伝子座は、生殖細胞系列DNAと比較することによって同定することができる;再配列された座は、少なくとも1つの組み換えられた7量体/9量体の相同エレメントを有する。
【0063】
用語「再配列されていない」または「生殖細胞系列の立体配置」とは、Vセグメントと関連して本明細書中で使用するとき、VセグメントがDまたはJセグメントと直接隣接するようには組み換えられていない立体配置を指す。
【0064】
用語「核酸分子」とは、本明細書中で使用するとき、DNA分子およびRNA分子を含むことが意図される。核酸分子は、一本鎖または二本鎖であってもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0065】
用語「単離された核酸分子」とは、ErbB3に結合する抗体または抗体部分(例えば、VH、VL、CDR3)をコードする核酸に関連して本明細書中で使用するとき、抗体または抗体部分をコードするヌクレオチド配列が、ErbB3以外の抗原に結合する抗体をコードする他のヌクレオチド配列を含まない核酸分子を指すことが意図され、その場合、他の配列は、ヒトゲノムDNAの核酸の側面に自然に位置してもよい。
【0066】
用語「改変すること」または「改変」とは、本明細書中で使用するとき、抗体またはその抗原結合部分において1以上のアミノ酸を変化させることを指すことが意図される。この変化は、1以上の位置でアミノ酸を付加、置換または欠失させることによって生じさせることができる。この変化は、PCR変異誘発などの知られている技術を用いて生じさせることができる。例えば、ある態様では、本発明の方法を用いて同定された抗体またはその抗原結合部分は改変され、それによって、ErbB3に対する抗体またはその抗原結合部分の結合親和性を改変することができる。
【0067】
また、本発明は、本発明の抗体の配列において「保存アミノ酸置換」、即ち、抗原、即ちErbB3に対する、ヌクレオチド配列によってコードされる抗体、またはErbB3に対するアミノ酸配列を含む抗体の結合を無効にしないヌクレオチドおよびアミノ酸配列改変を含む。保存アミノ酸置換には、同じクラスのアミノ酸による、あるクラスのアミノ酸の置換が含まれ、この場合、クラスは、例えば、標準的なDayhoff頻度交換マトリックスまたはBLOSUMマトリックスによって測定すると、自然に見いだされる相同なタンパク質における共通の物理化学的なアミノ酸配列特性および高い置換頻度によって規定される。アミノ酸側鎖の6個の一般的なクラスが分類され、クラスI(Cys);クラスII(Ser、Thr、Pro、Ala、Gly);クラスIII(Asn、Asp、Gln、Glu);クラスIV(His、Arg、Lys);クラスV(Ile、Leu、Val、Met);クラスVI(Phe、Tyr、Trp)を含む。例えば、Asn、Gln、またはGluなどの別のクラスIII残基によるAspの置換は、保存置換である。このようにして、抗ErbB3抗体における予測された非必須アミノ酸残基は、好ましくは、同じクラスから得られる別のアミノ酸残基により置換される。抗原結合をなくさないヌクレオチドおよびアミノ酸保存置換を同定する方法は、当該技術分野において周知である(例えば、Brummellら、Biochem.32:1180−1187(1993);Kobayashiら.Protein Eng.12(10):879−884(1999);並びに、Burksら.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:412−417(1997)を参照されたい)。
【0068】
用語「非保存アミノ酸置換」とは、別のクラスから得られるアミノ酸を用いた1つのクラスのアミノ酸の置換を指す:例えば、Asp、Asn、Glu、またはGlnなどのクラスIII残基を用いて、クラスII残基であるAlaの置換が挙げられる。
【0069】
あるいは、別の態様では、変異(保存または非保存)は、飽和変異誘発によるなどの抗ErbB3抗体をコードする配列の全部または一部に沿って、無作為に導入することができ、得られた改変された抗ErbB3抗体は、結合活性についてスクリーニングされ得る。
【0070】
「コンセンサス配列」は、関連する配列のファミリーにおける最も頻繁に発生するアミノ酸(またはヌクレオチド)から形成される配列である(例えば、Winnaker,From Genes to Clones(Verlagsgesellschaft,Weinheim,Germany 1987)を参照されたい。タンパク質のファミリーでは、コンセンサス配列の各位置は、ファミリーのその位置で最も頻繁に発生するアミノ酸によって占有される。2つのアミノ酸は等しく頻繁に発生する場合、いずれかがコンセンサス配列に含まれ得る。免疫グロブリンの「コンセンサスフレームワーク」とは、コンセンサス免疫グロブリン配列のフレームワーク領域を指す。
【0071】
同様に、CDRに対するコンセンサス配列は、本発明のErbB3抗体のCDRアミノ酸配列の最適アラインメントによって誘導することができる。
【0072】
核酸に関して、用語「実質的に相同な」は、2つの核酸、またはその指定された配列が、最適に整列および比較された場合、適切なヌクレオチド挿入または欠失を含み、ヌクレオチドの少なくとも約80%、通常、ヌクレオチドの少なくとも約90%〜95%、およびより好ましくは少なくとも約98%〜99.5%で同一であることを示す。あるいは、実質的な相同性は、鎖(strand)の相補体に対して、セグメントが選択的なハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする場合に存在する。
【0073】
2つの配列間の同一性パーセントは、それらの配列によって共有される同一の位置の数の関数(即ち、相同性%=同一の位置の数/位置の全体の数×100)であり、ギャップの数、および各ギャップの長さを考慮して、2つの配列の最適アラインメントに対して導入される必要がある。配列の比較、および2つの配列間の同一性パーセントの決定は、下記の非制限的な実施例に記載されるように、数学的アルゴリズムを用いて達成することができる。
【0074】
2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、NWSgapdna CMPマトリックス、および40、50、60、70、または80のギャップ重量(gap weight)、および1、2、3、4、5、または6の長さ重量(length weight)を用いて、GCGソフトウェアのGAPプログラムを使用して測定することができる。また、2つのヌクレオチド配列間またはアミノ酸配列間の同一性パーセントは、PAM120加重残基表(weight residue table)、12のギャップ長ペナルティ(gap length penalty)、4のギャップペナルティを用いて、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に導入された、E.MeyersおよびW.Miller(CABIOS,4:11−17(1989))のアルゴリズムを用いて決定することもできる。さらに、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、Blossum 62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、並びに16、14、12、10、8、6、または4のギャップ重量、および1、2、3、4、5、または6の長さ重量を用いて、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラム内に組み込まれた、NeedlemanおよびWunsch(J.Mol.Biol.(48):444−453(1970))アルゴリズムを用いて決定できる。
【0075】
さらに、本発明の核酸およびタンパク質の配列は、例えば、関連した配列を同定するために、公的なデータベースに対する検索を実施するための、「クエリー配列(query sequence)」として用いることができる。このような検索は、Altschulら(1990)J.Mol.Biol.215:403−10のNBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)を用いて実行可能である。BLASTヌクレオチド検索は、本発明の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得るために、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12で実行可能である。BLASTタンパク質検索は、本発明のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得るために、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3で実行可能である。比較を目的としたギャップアライメントを得るために、Gapped BLASTを、Altschulら(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389−3402に記載されているように利用可能である。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、各プログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメーターを用いることができる。
【0076】
核酸は、全細胞、細胞溶解物、または部分的に精製されたかもしくは実質的に純粋な形態で存在してもよい。核酸は、標準的な技術、例えば、アルカリ/SDS処理、CsClバンディング、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、当該技術分野において周知である他の技術によって、他の細胞成分または他の汚染物、例えば他の細胞の核酸またはタンパク質から切り離して精製された場合、「単離されている」または「実質的に純粋の状態にある」。F.Ausubelら、編集,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing and Wiley Interscience,New York(1987)を参照されたい。
【0077】
本発明の核酸組成物は、多くの場合、cDNA、ゲノムまたはそれらの混合物のいずれかから天然の配列(改変された制限部位などを除く)にあるが、遺伝子配列を与えるために標準的な技術に従って変異させることができる。コーディング配列については、これらの変異は、目的どおりにアミノ酸配列に影響を与えることができる。特に、天然のV、D、J、定常、スイッチ、および本明細書に記載される他のこのような配列に実質的に相同であるかまたはそれらから得られるDNA配列が意図される(この場合、「由来する」は、配列が別の配列と同一であるかまたは改変されることを示す)。
【0078】
用語「操作可能に連結されている」とは、別の核酸配列と機能的な関連性があるように配置されている核酸配列を指す。例えば、プレ配列または分泌リーダーのDNAが、ポリペプチドの分泌に関与する前タンパク質(preprotein)として発現される場合、このDNAは該ポリペプチドのDNAに操作可能に連結されている;プロモーターまたはエンハンサーが、コーディング配列の転写に影響を与える場合、それらは該コーディング配列に操作可能に連結されている;またはリボソーム結合部位が、翻訳を促進するように位置されている場合、それはコーディング配列に操作可能に連結されている。一般的に、「操作可能に連結されている」とは、連結されるDNA配列が隣接し、分泌リーダーの場合には、隣接し、読み取られる状態にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは隣接している必要はない。連結は、都合のよい制限部位での連結により達成される。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーは、慣用の実施に従って用いられる。核酸は、別の核酸配列と機能的な関連性があるように置かれている場合に「操作可能に連結されている」。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響を与える場合、コーディング配列に操作可能に連結されている。転写制御配列に関して、操作可能に連結されているとは、連結されているDNA配列が隣接し、2つのタンパク質のコーディング領域を連結することが必要なところでは、隣接し、読み取りフレームにあることを意味する。スイッチ配列に関して、操作可能に連結されているとは、配列がスイッチ組換えをもたらすことができることを示す。
【0079】
用語「ベクター」とは、本明細書中で使用するとき、それが連結されている別の核酸の輸送を可能にする核酸分子を指すことが意図される。1つのタイプのベクターは「プラスミド」であり、付加的なDNAセグメントが連結されてもよい環状二本鎖DNAループを指す。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、付加的なDNAセグメントはウイルスゲノムに連結され得る。ある種のベクターは、それらが導入される宿主細胞中での自律複製が可能である(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入に際して宿主細胞のゲノムに組み込まれてもよく、それにより宿主ゲノムと一緒に複製される。さらに、ある種のベクターは、それらが操作可能に連結されている遺伝子の発現を指向することが可能である。このようなベクターは、本明細書において、「組換え発現ベクター」(または、単に「発現ベクター」)と称される。一般に、組換えDNA技術における有用性のある発現ベクターは、多くの場合、プラスミドの形態である。用語「プラスミド」および「ベクター」は、互換可能に用いられてもよい。しかしながら、本発明は、同等の機能を供給するウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)などのこのような他の形態の発現ベクターを含むことが意図される。
【0080】
用語「組換え宿主細胞」(または、単に「宿主細胞」)とは、本明細書中で使用するとき、組換え発現ベクターが導入される細胞を指すことが意図される。このような用語は、特定の被験体細胞だけでなく、このような細胞の子孫を指すことが意図される。ある種の改変は、変異または環境の影響のいずれかにより、続く世代において発生する場合があるため、このような子孫は、実際に、親細胞と同一でなくてもよいが、なおも、本明細書中で使用する用語「宿主細胞」の範囲内に含まれる。
【0081】
用語「処置する」、「処置すること」、および「処置」とは、本明細書で使用するとき、本明細書に記載される治療的または予防的手段を指す。「処置」の方法は、疾患もしくは障害または再発性の疾患もしくは障害の1以上の症状を予防、治癒、遅延、重症度の減少、または改善するために、あるいは、このような処置がない場合に期待されるものを超えて被験体の生存を延長するために、被験体に、例えば、ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患または障害を患っている被験体、またはこのような疾患または障害を患い易い被験体への本発明の抗体または抗原結合部分の投与に使用する。
【0082】
用語「ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患」、または「ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した障害」には、本明細書中で使用するとき、ErbB3のレベル上昇および/またはErbB3が関与した細胞カスケードの活性化が見られる疾患状態および/または疾患状態と関連した症状が含まれる。ErbB3は、ErbB3のレベル上昇が見られる場合に、EGFRおよびErbB2などの他のErbBタンパク質と異種二量化するものと理解されている。したがって、用語「ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患」にも、EGFR/ErbB3および/またはErbB2/ErbB3異種二量体のレベル上昇が見られる疾患状態および/または疾患状態と関連した症状が含まれる。一般に、用語「ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患」とは、ErbB3の関与を必要とする任意の障害、症状の開始、進行または持続を指す。例示的なErbB3媒介の障害には、限定されないが、例えば、癌が含まれる。
【0083】
用語「癌」および「癌性」とは、典型的には、制御されない細胞増殖によって特徴付けられる、哺乳動物における生理学的状態を指すかまたはそれを記載するものである。癌の例には、限定されないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、および白血病が挙げられる。このような癌のより具体的な例には、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、胃癌、膵臓癌、グリア芽腫および神経線維腫症などのグリア細胞腫瘍、子宮頸癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、肝細胞癌(hepatoma)、乳癌、結腸癌、メラノーマ、結腸直腸癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、腎臓癌(kidney cancer)、腎臓癌(renal cancer)、前立腺癌、外陰部癌、甲状腺癌、肝性の癌腫、および種々のタイプの頭頸部癌が挙げられる。特定の態様では、本発明の方法を用いて処置または診断される癌は、メラノーマ、乳癌、卵巣癌、腎臓癌腫、胃腸/結腸癌、肺癌、および前立腺癌から選択される。
【0084】
用語「有効な量」とは、本明細書中で使用するとき、被験体に投与された場合、本明細書に記載されるように、ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患の処置、予測または診断を達成させるのに十分である、ErbB3に結合する抗体またはその抗原結合部分の量を指す。治療的に有効な量は、当業者によって容易に測定され得る、処置される被験体および疾患状態、被験体の体重および年齢、疾患状態の重症度、投与様式などに依存して変化する。投与のための投薬量は、例えば、本発明に係る抗体またはその抗原結合部分の約1ng〜約10,000mg、約5ng〜約9,500mg、約10ng〜約9,000mg、約20ng〜約8,500mg、約30ng〜約7,500mg、約40ng〜約7,000mg、約50ng〜約6,500mg、約100ng〜約6,000mg、約200ng〜約5,500mg、約300ng〜約5,000mg、約400ng〜約4,500mg、約500ng〜約4,000mg、約1μg〜約3,500mg、約5μg〜約3,000mg、約10μg〜約2,600mg、約20μg〜約2,575mg、約30μg〜約2,550mg、約40μg〜約2,500mg、約50μg〜約2,475mg、約100μg〜約2,450mg、約200μg〜約2,425mg、約300μg〜約2,000、約400μg〜約1,175mg、約500μg〜約1,150mg、約0.5mg〜約1,125mg、約1mg〜約1,100mg、約1.25mg〜約1,075mg、約1.5mg〜約1,050mg、約2.0mg〜約1,025mg、約2.5mg〜約1,000mg、約3.0mg〜約975mg、約3.5mg〜約950mg、約4.0mg〜約925mg、約4.5mg〜約900mg、約5mg〜約875mg、約10mg〜約850mg、約20mg〜約825mg、約30mg〜約800mg、約40mg〜約775mg、約50mg〜約750mg、約100mg〜約725mg、約200mg〜約700mg、約300mg〜約675mg、約400mg〜約650mg、約500mg、または約525mg〜約625mgの範囲であり得る。投薬計画は、最適な治療応答を与えるように調整されてもよい。また、有効な量は、抗体またはその抗原結合部の任意の毒性または有害な影響(即ち、副作用)が最小化され、および/または有益な効果が上回るものである。
【0085】
用語「患者」とは、予防的または治療的処置のいずれかを受けているヒトおよび他の哺乳動物被験体が含まれる。
【0086】
本明細書中で使用するとき、用語「被験体」には、いずれかのヒトまたはヒト以外の動物が含まれる。例えば、本発明の方法および組成物は、癌を患っている被験体を処置するために用いることができる。特定の態様では、被験体はヒトである。用語「ヒト以外の動物」には、全ての脊椎動物が含まれ、例えば哺乳動物および非哺乳動物、例えば、ヒト以外の霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類などが挙げられる。
【0087】
用語「試料」とは、患者または被験体からの組織、体液、または細胞を指す。通常、組織または細胞は、患者から取り出されるが、インビボでの診断も意図される。固形腫瘍の場合には、組織試料は、外科的に取り出された腫瘍から採取することができ、従来技術によって試験のために調製することができる。リンパ腫および白血病の場合には、リンパ球、白血病細胞、またはリンパ組織が得られ、適切に調製することができる。また、尿、涙、血清、脳脊髄液、糞便、痰、細胞抽出物などを含む他の患者試料も特定の腫瘍については有用であり得る。
【0088】
用語「抗癌剤」および「抗腫瘍剤」とは、癌性増殖などの悪性腫瘍を処置するために用いられる薬物を指す。薬物治療は、単独で、または外科的処置もしくは放射線治療などの他の処置と併用して用いられてもよい。いくつかのクラスの薬物は、関与する臓器の性質に依存して、癌処置に用いることができる。例えば、乳癌は、通常、エストロゲンによって刺激され、性ホルモンを不活性化する薬物で処置されてもよい。同様に、前立腺癌は、男性ホルモンであるアンドロゲンを不活性化する薬物で処置されてもよい。本発明の抗癌剤には、とりわけ、下記の薬物が含まれる。
【0089】
【化1】
【0090】
【化2】
【0091】
【化3】
【0092】
【化4】
【0093】
【化5】
1以上の抗癌剤は、本発明の抗体またはその抗原結合部の投与と同時またはその前またはその後に投与されてもよい。
【0094】
本発明の種々の局面が、下記の小節においてさらに詳細に記載されている。
【0095】
II.本発明の抗体を生成する方法
(i)モノクローナル抗体
本発明のモノクローナル抗体は、種々の知られている技術、例えば、KohlerおよびMilstein(1975)Nature 256:495に記載される標準的な体細胞のハイブリダイゼーション技術、Bリンパ球のウイルス性または発癌性形質転換またはヒト抗体遺伝子のライブラリーを用いたファージディスプレイ技術を用いて生成することができる。特定の態様では、抗体は、完全なヒトモノクローナル抗体である。
【0096】
したがって、一態様では、ハイブリドーマ法は、ErbB3に結合する抗体を生成するために用いられる。この方法では、免疫付与のために用いられる抗原に特異的に結合する抗体を生成するかまたはそれを生成することができるリンパ球を誘発するために、適切な抗原を用いて、マウスまたは他の適した宿主動物を免疫することができる。あるいは、リンパ球は、インビトロで免疫されてもよい。次に、リンパ球は、ハイブリドーマ細胞を形成させるために、ポリエチレングリコールなどの適した融合剤を用いて、ミエローマ細胞と融合することができる(Goding,Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,pp.59−103(Academic Press,1986))。ハイブリドーマ細胞が増殖している培地は、抗原に指向されたモノクローナル抗体の生産について評価される。所望の特異性、親和性、および/または活性のある抗体を生産するハイブリドーマ細胞が同定された後、限界希釈法によってクローンをサブクローニングし得、標準的な方法によって増殖させてもよい(Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,pp.59−103(Academic Press,1986))。この目的に適した培地には、例えば、D−MEMまたはRPMI−1640培池が含まれる。さらに、ハイブリドーマ細胞は、動物の腹水腫瘍としてインビボで増殖させてもよい。サブクローンから分泌されたモノクローナル抗体は、例えば、プロテインA−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順によって、培地、腹水、または血清から分離することができる。
【0097】
別の態様では、ErbB3に結合する抗体および抗体部分は、例えば、McCaffertyら、Nature,348:552−554(1990).Clacksonら、Nature,352:624−628(1991),Marksら、J.Mol.Biol.,222:581−597(1991)、並びにHoetら(2005)Nature Biotechnology 23,344−348;Ladnerらに関する米国特許第5,223,409号;同第5,403,484号;および同第5,571,698;Dowerらに関する米国特許第5,427,908号および同第5,580,717号;McCaffertyらに関する米国特許第5,969,108号および同第6,172,197号;並びに、Griffithsらに関する米国特許第5,885,793号;同第6,521,404号;同第6,544,731号;同第6,555,313号;同第6,582,915号および同第6,593,081号に記載される技術を用いて生じさせた抗体ファージライブラリーから単離することができる。さらに、チェインシャッフリング(chain shuffling)(Marksら、Bio/Technology,10:779−783(1992))、並びに非常に巨大なファージライブラリー(Waterhousら、Nuc.Acids.Res.,21:2265−2266(1993))を構築するための戦略としてのコンビナトリアルインフェクションおよびインビボでの組換えによる高親和性(nMレンジ)のヒト抗体の生成も用いてもよい。
【0098】
特定の態様では、ErbB3に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合部は、Hoetら、上掲、によって記載されるファージディスプレイ技術を用いて生産される。この技術は、ヒトドナーから単離された免疫グロブリン配列の独特の組み合わせを有し、重鎖CDRにおける合成多様性を有するヒトFabライブラリーの産生を含む。次に、このライブラリーは、ErbB3に結合するFabについてスクリーニングされる。
【0099】
さらに別の態様では、ErbB3に指向されるヒトモノクローナル抗体は、マウス系よりもむしろヒト免疫系の部分を担持するトランスジェニックまたはトランス染色体マウスを用いて産生することができる(例えば、Lonbergら(1994)Nature 368(6474):856−859;Lonberg,N.ら(1994),上掲;Lonberg,N.(1994)Handbook of Experimental Pharmacology 113:49−101に概説される;Lonberg,N.およびHuszar,D.(1995)Intern.Rev.Immunol 13:65−93、並びに、Harding,F.およびLonberg,N.(1995)Ann.NY.Acad Sci.764:536−546を参照されたい。さらに、全てがLonbergおよびKayに関する米国特許第5,545,806号;同第5,569,825号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;同第5,789,650号;同第5,877,397号;同第5,661,016号;同第5,814,318号;同第5,874,299号;および同第5,770,429号;Suraniらに関する米国特許第5,545,807号;全てがLonbergおよびKayに関するPCT国際公開第92/03918号、同第93/12227号、同第94/25585号、同第97/13852号、同第98/24884号および同第99/45962号;並びに、Kormanらに関するPCT国際公開第01/14424号を参照されたい)。
【0100】
別の態様では、本発明のヒト抗体は、トランス遺伝子およびトランス染色体にヒト免疫グロブリン配列を担持するマウス、例えば、ヒト重鎖トランス遺伝子およびヒト軽鎖トランス染色体を担持するマウスを用いて生じさせることができる(例えば、Ishidaらに関するPCT国際公開第02/43478号を参照されたい)。
【0101】
なおさらに、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現する代替のトランスジェニック動物系は、当該技術分野において利用可能であり、本発明の抗ErbB3抗体を生じさせるために用いることができる。例えば、Xenomouse(Abgenix,Inc.)として言われているトランスジェニック系を用いることができる;このようなマウスは、例えば、Kucherlapatiらに関する米国特許第5,939,598号;同第6,075,181号;同第6,114,598号;同第6,150,584号、および同第6,162,963号に記載されている。
【0102】
さらに、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現する代替のトランス染色体の動物系は、当該技術分野において利用可能であり、本発明の抗ErbB3抗体を生じさせるために用いることができる。例えば、ヒト重鎖トランス染色体とヒト軽鎖トランス染色体の両方を担持するマウスは、Tomizukaら(2000)Proc.Natl.Acad Sci.USA 97:722−727に記載されるように用いることができる。さらに、ヒト重鎖および軽鎖トランス染色体を担持するウシは、当該技術分野(Kuroiwaら(2002)Nature Biotechnology 20:889−894)において記載されており、本発明の抗ErbB3抗体を生じさせるために用いることができる。
【0103】
なお別の態様では、本発明の抗体は、このような抗体を生成するトランスジェニック植物および/または培養された植物細胞(例えば、タバコ、トウモロコシおよびアオウキクサ)を用いて調製することができる。例えば、抗体またはその抗原結合部分を発現するトランスジェニックタバコの葉は、例えば、誘導プロモーターを用いることによって、このような抗体を生成するために用いることができる(例えば、Cramerら、Curr.Top.Microbol.Immunol.240:95 118(1999)を参照されたい)。また、トランスジェニックトウモロコシを用いて、このような抗体およびその抗原結合部分を発現させることができる(例えば、Hoodら、Adv.Exp.Med Biol.464:127 147(1999)を参照されたい)。また、抗体は、例えば、タバコの種子およびジャガイモ塊茎を用いて、1本鎖抗体(scFv)などの抗体部分を含むトランスジェニック植物種子から大量に生成することができる(例えば、Conradら、Plant Mol.Biol.38:101 109(1998)を参照されたい)。また、植物における抗体または抗原結合部分を生成する方法は、例えば、Fischerら、Biotechnol.Appl.Biochem.30:99 108(1999)Maら、Trends Biotechnol.13:522 7(1995);Maら、Plant Physiol.109:341 6(1995);Whitelamら、Biochem.Soc.Trans.22:940 944(1994)、並びに米国特許第6,040,498号および同第6,815,184号に見出すことができる。
【0104】
本明細書に開示された技術を含むいずれかの技術を用いて調製されたErbB3に結合するモノクローナル抗体またはその部分の結合特異性は、免疫沈降によるか、または放射免疫アッセイ(RIA)または酵素免疫吸着アッセイ(ELISA)などインビトロの結合アッセイによって測定することができる。また、モノクローナル抗体またはその部分の結合親和性は、Munsonら、Anal.Biochem.,107:220(1980)のScatchard分析によって決定することができる。
【0105】
ある種の態様では、上記で検討された方法のいずれかを用いることによって生成されたErbB3抗体またはその部分は、本明細書に記載される技術などの従来認識されている技術を用いて、所望の結合特異性および/または親和性を達成するためにさらに変更または最適化されてもよい。
【0106】
一態様では、ErbB3抗体から得られる部分的な抗体配列は、構造的および機能的に関連した抗体を生成するために用いられてもよい。例えば、抗体は、6個の重鎖および軽鎖の相補性決定領域(CDR)に位置されるアミノ酸残基を主に介して標的抗原と相互作用する。このため、CDR内のアミノ酸配列は、CDRを除く配列よりも各抗体間でより様的である。CDR配列は、大部分の抗体−抗原相互作用に関与するため、異なる特性を有する異なる抗体からフレームワーク配列に移入された特定の自然に存在する抗体からのCDR配列を含む発現ベクターを構築することによって、特定の自然に存在している抗体の特性を模倣する組換え抗体を発現することができる(例えば、Riechmann,L.ら、1998,Nature 332:323−327;Jones,P.ら、1986,Nature 321:522−525;および、Queen,C.ら、1989,Proc.Natl.Acad See.U.S.A.86:10029−10033を参照されたい)。このようなフレームワーク配列は、生殖細胞系列の抗体遺伝子配列を含む公的なDNAデータベースから得ることができる。
【0107】
このようにして、本発明の抗ErbB3抗体の1以上の構造的特徴、例えばCDRは、本発明の抗体の少なくとも1つの機能的特徴、例えば、EGF様リガンド媒介のErbB3のリン酸化を阻害すること;ErbB3を介したヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン媒介のシグナル伝達の1以上を阻害すること;増殖またはErbB3を発現している細胞を阻害すること;および/または細胞表面のErbB3レベルを減少させることを保持している、構造的に関連した抗ErbB3抗体を作製するために用いることができる。
【0108】
特定の態様では、配列番号7〜12、配列番号13〜18、配列番号19〜24、配列番号39〜44、および配列番号45〜50から選択される1以上のCDR領域は、知られているヒトのフレームワーク領域およびCDRを用いて組換え的に組み合わさって、追加的な組換え操作されて本発明の抗ErbB3抗体を作製する。重鎖および軽鎖可変フレームワーク領域は、同一であるかまたは異なった抗体配列から得ることができる。
【0109】
抗体の重鎖および軽鎖CDR3ドメインが、抗原に対する抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を果たすことは、当該技術分野において周知である(例えば、Hallら、J.Imunol,149:1605−1612(1992);Polymenisら、J.Immunol,152:5318−5329(1994);Jahnら、Immunobiol,193:400−419(1995);Klimkaら、Brit.J.Cancer,83:252−260(2000);Beiboerら、J.Mol Biol,296:833−849(2000);Raderら、Proc.Natl.Acad ScL USA,95:8910−8915(1998);Barbasら、J.Am.Chem.Soc,116:2161−2162(1994);Ditzelら、J.Immunol,157:739−749(1996)を参照されたい)。したがって、ある種の態様では、本明細書に記載される特定の抗体の重鎖および/または軽鎖CDR(例えば、配列番号9、15、21、41、47および/または配列番号12、18、24、44、50)を含む抗体が産生される。抗体は、さらに、本発明の抗体の重鎖および/または軽鎖CDR1および/またはCDR2(例えば、配列番号7〜8および/または配列番号10〜11;配列番号13〜14および/または配列番号16〜17;配列番号20〜21および/または配列番号22〜23;配列番号39〜40および/または配列番号42〜43;配列番号45〜46および/または配列番号48〜49)を含むことができる。
【0110】
上記される操作された抗体のCDR1、2、および/または3領域は、本明細書中に開示されるものとして正確なアミノ酸配列(単数または複数)(例えば、配列番号7〜12、13〜18、19〜24、39〜44、および45〜50に記載される、それぞれAb#6、Ab#3、Ab#14、Ab#17、またはAb#19のCDR)を含むことができる。しかしながら、当業者は、効果的にErbB3に結合する抗体の能力をなおも保持しながら、正確なCDR配列からのいくつかの逸脱は可能であり得ることを承認する(例えば、保存的アミノ酸置換)。したがって、別の態様では、操作された抗体は、例えば、Ab#6、Ab#3またはAb#14の1以上の1以上のCDRに対して、90%、95%、98%、99%または99.5%同一である1以上のCDRから構成されてもよい。
【0111】
別の態様では、CDRの1以上の残基は、より特別な結合のオンレート(on−rate)を達成するために、結合を改変するように変更されてもよい。この戦略を用いて、例えば1010M−1以上である極めて高い結合親和性を有する抗体が達成され得る。当該技術分野において周知である親和性成熟技術、並びに本明細書に記載されている技術を用いて、CDR領域(単数または複数)を変更することができ、その後、結合における所望の変化について、得られた結合分子をスクリーニングする。あるいは、CDR(単数または複数)が変更されるため、結合親和性並びに免疫原性の変化は、抗体が最良の組み合わせ結合に対して最適化された抗体、および低い免疫原性が達成されるようにモニターされ、スコア化できる。
【0112】
CDR内の改変に加えて、またはそれに代えて、これらの改変が抗体の結合親和性を排除する限り、改変も、抗体の重鎖および/または軽鎖可変領域の1以上のフレームワーク領域、FR1、FR2、FR3およびFR4内で行われ得る。
【0113】
別の態様では、抗体は、例えば、癌の処置における抗体の有効性を高めるように、エフェクター機能に関して、さらに改変される。たとえば、システイン残基(単数または複数)は、Fc領域に導入されてもよく、それにより、この領域における鎖間のジスルフィド結合形成を可能にする。このようにして産生されたホモ二量化抗体は、内在化能力改善し、および/または補体媒介の細胞死および抗体に依存した細胞の細胞傷害性(ADCC)を増加させる場合がある。Caronら、J.Exp Med.176:1191−1195(1992)、並びにShopes、B.J.Immunol.148:2918−2922(1992)を参照されたい。また、抗腫瘍活性が高まったホモ二量化抗体は、Wolffら、Cancer Research 53:2560−2565(1993)に記載されるヘテロ二機能性架橋剤を用いて調製することができる。あるいは、二重のFc領域を有し、それにより、補体溶解およびADCC能力を高めた可能性がある抗体が操作され得る。Stevensonら、Anti−Cancer Drug Design 3:219−230(1989)を参照されたい。
【0114】
また、下記に記載される二重特異性抗体および免疫結合体も本発明に包含される。
【0115】
(ii)二重特異性抗体
本発明の二重特異性抗体は、ErbB3に対する少なくとも1つの結合特異性、および癌遺伝子の生成物などの別の抗原に対する少なくとも1つの結合特異性を含む。二重特異性抗体は、全長の抗体または抗体断片(例えば、F(ab’)2二重特異性抗体)として調製することができる。
【0116】
二重特異性抗体を作製する方法は、当該技術分野において周知である(例えば、国際公開第05117973号および同第06091209号を参照されたい)。例えば、全長の二重特異性抗体の生成は、2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖対の同時発現に基づくことができ、この場合、2つの鎖は、異なる特異性を有する(例えば、Millsteinら、Nature,305:537−539(1983)を参照されたい)。二重特異性抗体を生じさせるための更なる詳細は、例えば、Sureshら、Methods in Enzymology,121:210(1986)、並びに、二重特異性抗体を作製するための化学的連結法を記載するBrennanら、Science,229:81(1985)に見いだすことができる。また、組換え細胞培養から直接的に二重特異性抗体断片を作製および単離するための種々の技術が記載されている。例えば、二重特異性抗体は、ロイシンジッパーを用いて生成されている(例えば、Kostelnyら、J.Immunol,148(5):1547−1553(1992)を参照されたい)。また、一本鎖Fv(sFv)二量体の使用による二重特異性抗体断片を作製するための別の戦略が報告されている(例えば、Gruberら、J.Immunol,152:5368(1994)を参照されたい)。
【0117】
特定の態様では、二重特異性抗体は、ErbB3に結合する第1抗体またはその結合部分、およびErbB2、ERbB3、ErbB4、EGFR、IGF1−R、C−MET、ルイスY、MUC−1、EpCAM、CA125、前立腺特異的膜抗原、PDGFR−α、PDGFR−β、C−KIT、またはFGF受容体のいずれかに結合する第2抗体またはその結合部分を含む。
【0118】
(iii)免疫結合体
本発明の免疫結合体(immunoconjugate)は、本明細書に記載される抗体またはその抗原結合部分を別の治療薬に結合させることによって形成することができる。適切な薬剤には、例えば、細胞傷害性剤(例えば、化学療法剤)、毒素(例えば、細菌、真菌、植物もしくは動物起源の酵素的に活性な毒素、またはそれらの断片)、および/または放射性同位体(即ち、放射線結合体)が挙げられる。このような免疫結合体の生成に有用な化学療法剤は、上記されている。用いることができる酵素的に活性な毒素およびそれらの断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性の活性な断片、外毒素A鎖(Pseudomonas aeruginosa)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシンA鎖、アルファ−サルシン、Aleurites fordiiタンパク質、ジアンシンタンパク質、Phytolaca americanaタンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP−S)、ニガウリ(momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、sapaonaria officinalis阻害剤、ゲロニン、マイトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシンおよびトリコテセン(tricothecene)が含まれる。種々の放射性核種が、放射線結合された抗ErbB3郊外の生成に利用可能である。例としては、212Bi、131I、131In、90Yおよび186Reが挙げられる。
【0119】
本発明の免疫結合体は、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオール)プロピオネート(SPDP)、イミノチオレン(IT)、イミドエステルの二機能性誘導体(アジプイミド酸ジメチルHClなど)、活性なエステル類(スベリン酸ジスクシンイミジルなど)、アルデヒド類(グルタルアルデヒドなど)、ビス−アジド化合物(ビス−(p−アジドベンゾイル)−ヘキサンジアミンなど)、ビス−ジアゾニウム誘導体(ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミンなど)、ジイソシアネート類(トリレン−2,6−ジイソシアネートなど)、およびビス−活性フッ素化合物(1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼンなど)などの種々の二機能性タンパク質カップリング剤を用いて作製することができる。例えば、リシン免疫毒素は、Vitettaら、Science 238:1098(1987)に記載されるように調製することができる。
炭素14−標識された1−イソチオシアナトベンジル−3−メチルジエチレン トリアミンペンタ酢酸(MX−DTPA)は、抗体に放射性ヌクレオチドを結合させるための典型的なキレート剤である(例えば、国際公開第94/11026号を参照されたい)。
【0120】
III.本発明の抗体をスクリーニングするための方法
ErbB3に結合する抗体または抗原結合部分を生成後、このような抗体、またはその部分は、当該技術分野において周知である種々のアッセイを用いて、種々の特性、例えば本明細書に記載される特性についてスクリーニングすることができる。
【0121】
一態様では、抗体またはその抗原結合部分は、EGF様リガンド媒介のErbB3のリン酸化を阻害する能力についてスクリーニングされる。これは、抗体またはその抗原結合部分の存在および欠如において、EGF様リガンドを用いて、ErbB3を発現している細胞を処理することによって行うことができる。次に細胞を溶解し、粗製溶解物を遠心分離して、不溶性物質を除去することができる。ErbB3リン酸化は、例えば、ウェスタンブロッティング、その後の抗ホスホチロシン抗体を用いた探査(probing)により測定可能であり、Kimら、上掲、並びに下記の実施例に記載されている。
【0122】
他の態様では、抗体および抗原結合部分は、さらに、下記の特性:(1)ErbB3を介したErbB3リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)媒介のシグナル伝達の阻害;(2)ErbB3を発現している細胞の増殖阻害;(3)細胞表面上のErbB3のレベルを減少させる能力(例えば、ErbB3の内在化を誘導することによる);(4)ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌の阻害;(5)ErbB3を発現している細胞の移動の阻害;(6)ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖の阻害;および/または(7)ErbB3のドメインIに位置したエピトープへの結合、の1以上についてスクリーニングされ、各々は、従来認識されている技術、並びに本明細書において検討された技術を用いて容易に測定することができる。
【0123】
ErbB3を介したヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンによって媒介されるシグナル伝達の1以上の阻害は、日常的なアッセイ、例えば、Horstら、上掲、に記載されるアッセイを用いて容易に測定することができる。例えば、ErbB3を介したヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンによって媒介されるシグナル伝達を阻害する、抗体またはその抗原結合部分の能力は、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンの1以上によって刺激後、例えば、Horstら、上掲,Sudoら、(2000)Methods Enzymol,322:388−92;並びに、Morganら(1990)Eur.J.Biochem.,191:761−767に記載される、例えば、SHCおよびPI3Kなどの既知のErbB3の基質についてのキナーゼアッセイによって測定することができる。したがって、ErbB3を発現している細胞は、1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンを用いて刺激され、候補抗体またはその抗原結合部分とともにインキュベートすることができる。その後にこのような細胞から調製された細胞溶解物は、ErbB3の基質(またはErbB3に関与する細胞経路にあるタンパク質)に対する抗体、例えば、抗JNK−1抗体を用いて免疫沈降され、従来認識されている技術を用いて、キナーゼ活性(例えば、JNKキナーゼ活性またはPI3−キナーゼ活性)についてアッセイすることができる。抗体またはその抗原結合部分が存在する場合のErbB3基質またはErbB3に関与する経路にあるタンパク質のレベルまたは活性(例えば、キナーゼ活性)の減少または完全な消失は、
抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合のレベルまたは活性と比較して、1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン媒介のシグナル伝達を阻害する抗体または抗原結合部分を示す。
【0124】
ある種の態様では、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3への1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンの結合を減少させることによって、ErbB3−リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)媒介のシグナル伝達を阻害する。
【0125】
ErbB3への1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンの結合を阻害するそれらの抗体またはその抗原結合部分について選択するために、ErbB3を発現する細胞(例えば、MALME−3M細胞、下記の実施例において記載される)は、抗ErbB3抗体またはその抗原結合部分の欠如(対照)または存在下で、標識されたErbB3−リガンド(例えば、放射線同位元素標識されたヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)と接触させることができる。抗体またはその抗原結合部分がErbB3へのヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンの結合を阻害すれば、抗体またはその抗原結合部分が存在しない場合の量と比較して、回収された標識量(例えば、放射線同位元素標識されたヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)における統計的に有意な減少が観察される。
【0126】
抗体またはその抗原結合部分は、任意のメカニズムによって、ErbB3−リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)の結合を阻害することができる。例えば、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3リガンドと同じErbB3の部位または重複している部位に結合することによって、ErbB3へのErbB3リガンド(例えば1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)の結合を阻害してもよい。あるいは、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3の構造を変更させるかまたは歪めることによって、ErbB3リガンドの結合を阻害してもよく、その結果、ErbB3リガンドに結合できなくなる。
【0127】
細胞表面のErbB3のレベルを減少させる抗体およびその抗原結合部分は、腫瘍細胞のErbB3をダウンレギュレートするそれらの能力によって同定することができる。ある種の態様では、抗体またはその抗原結合部分は、Erbb3の内在化を誘導する(またはエンドサイトーシスを増加する)ことによって、ErbB3の細胞表面の発現を減少させる。これを試験するために、ErbB3は、ビオチニル化することができ、細胞表面のErbB3分子の数は、例えば、Watermanら、J.Biol.Chem.(1998),273:13819−27に記載されるように、抗体またはその抗原結合部分の存在または欠如下で、培養中の細胞の単層上のビオチン量を測定し、その後、ErbB3を免疫沈降し、ストレプトアビジンを用いて探査することによって、容易に測定することができる。抗体または抗原結合部分の存在下で、ビオチニル化されたErbB3の経時的な検出における減少は、細胞表面のErbB3レベルを減少する抗体を示す。
【0128】
また、本発明の抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3を発現している細胞、例えば、腫瘍細胞の増殖を阻害するそれらの能力について、従来認識されている技術、例えば、下記の実施例に記載されるセル・タイター・グローアッセイ(Cell Titer Glow Assay)を用いて試験することができる(さらに、例えば、Macallanら、Proc.Natl.Acad Sci.(1998)20;95(2):708−13;Perezら(1995)Cancer Research 55,392−398を参照されたい)。
【0129】
別の態様では、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌を阻害する能力についてスクリーニングされる。これは、R&D Systems(Minneapolis,MN,Cat.#DY293B)から利用可能なVEGF ELISAキットなどの周知なアッセイを用いることによってなされ得る。同様に、この抗体または部分は、本明細書に記載されるように、トランスウェルアッセイ(trans−well assay)(Millipore Corp.,Billerica,MA,Cat #ECM552)を用いて、ErbB3を発現している細胞(例えば、MCF−7細胞)の移動を阻害する能力についてスクリーニングすることができる。
【0130】
別の態様では、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖を阻害する能力についてスクリーニングされる。これは、本明細書に記載されるように、発達している腫瘍増殖の状態を近似するアッセイ(例えば、Hermanら(2007)Journal of Biomolecular Screening Electronic publicationを参照されたい)を用いることによって行うことができる。
【0131】
また、本発明の1以上の抗体と同じであるかまたは重複しているエピトープに結合する抗体またはその抗原結合部分は、当該技術分野において知られている標準的な技術、並びに本明細書に記載される技術を用いることによって同定することができる。例えば、興味のある抗体によって結合されるErbB3の同じであるかまたは重複しているエピトープに結合する抗体についてスクリーニングするために、交差ブロッキングアッセイ、例えば、Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Ed HarlowおよびDavid Lane(1988)に記載されるアッセイを行うことができる。
【0132】
IV.医薬組成物
別の局面では、本発明は、薬学的に許容される担体とともに調合される、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合部分(単数または複数)の1つまたは組み合わせを含む組成物、例えば、医薬組成物を提供する。一態様では、組成物は、ErbB3の異なるエピトープに結合する、本発明の複数(例えば、2以上)の単離された抗体の組み合わせを含む。
【0133】
本明細書中で使用するとき、「薬学的に許容される担体」には、任意のおよび全ての生理学的に適合する溶媒、分散媒体、被覆剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤などが含まれる。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄または表皮投与(例えば、注射または注入による)に適している。投与経路に依存して、活性化合物、即ち、抗体、二重特異性および多重特異性分子は、酸の作用、並びに化合物を不活性化し得る他の天然の状態から化合物を保護するために物質で被覆されてもよい。
【0134】
「薬学的に許容される塩」とは、親化合物の所望の生物学的活性を保持し、いずれの望ましくない毒性学的影響も与えない塩を指す(例えば、Berge,S.M.ら(1977)J.Pharm.Sci.66:1−19を参照されたい)。このような塩の例には、酸付加塩および塩基付加塩が含まれる。酸付加塩には、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸などの無毒な無機酸から得られるもの、並びに脂肪族モノおよびジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸などの無毒な有機酸から誘導さるものが含まれる。塩基付加塩には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属から得られるもの、並びにN,N’−ジベンジルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカインなどの無毒な有機アミンから得られるものが含まれる。
【0135】
本発明の医薬組成物は、単独で、または併用治療、即ち、他の薬剤と組み合わせて投与することができる。例えば、併用治療は、本発明の組成物を少なくとも1以上の追加の治療薬、例えば、下記に記載される抗癌剤とともに含むことができる。また、本発明の医薬組成物は、放射線治療および/または外科的処置と併用して投与することができる。
【0136】
本発明の組成物は、当該技術分野において知られている種々の方法によって投与することができる。当業者に承認されるように、投与経路および/または様式は、所望の結果に依存して変更される。活性化合物は、急速な放出に対して化合物を保護する担体とともに調製可能であり、例えば、インプラント、経皮パッチ、およびマイクロカプセル化された送達システムなど放出制御処方物が挙げられる。生分解性、生体適合性ポリマーを用いることができ、例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルソエステル類、およびポリ乳酸を用いることができる。このような処方物の調製のための多くの方法は、特許にされているか、または、一般に、当業者に知られている。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,J.R. Robinson,ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,1978を参照されたい。
【0137】
ある種の投与経路による本発明の化合物を投与するためには、化合物の失活を防ぐ物質を用いて化合物を被覆するか、または化合物と同時に投与することが必要な場合がある。例えば、化合物は、適切な担体、例えばリポソーム、または希釈剤に入れて被験体に投与されてもよい。薬学的に許容される希釈剤には、生理食塩水および水性緩衝溶液が挙げられる。リポソームには、水中油中水CGFエマルジョン、並びに従来のリポソームが含まれる(Strejanら(1984)J.Neuroimmunol.7:27)。
【0138】
薬学的に許容される担体には、無菌水性溶液または分散液、並びに無菌の注射可能な溶液または分散液の即時調製用の無菌粉末が含まれる。このような媒体および薬学的に活性な作用物質(agent)の使用は、当該技術分野において知られている。任意の従来の媒体または作用物質が活性化合物と不適合でない限り、本発明の医薬組成物におけるその使用が意図される。補助的な活性化合物も組成物に取り入れることができる。
【0139】
治療用組成物は、典型的には、無菌でなければならず、製造および保存の条件下で安定でなければならない。組成物は、高い薬物濃度に適した溶液、ミクロエマルジョン、リポソーム、または他の秩序ある構造として調合することができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、並びにこれらの適した混合物を含む溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散の場合には必要な粒子サイズの維持によって、界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖類、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール類、または塩化ナトリウムを組成物に含めることが好ましい。注射可能な組成物の長期化された吸収は、吸収を遅らせる作用物質、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物に含めることによりもたらすことができる。
【0140】
無菌の注射可能な溶液は、必要量の活性化合物を適した溶媒に、必要に応じて上記で列挙された成分の1つまたは組み合わせとともに組み込んだ後、滅菌微細ろ過により、調製することができる。一般に、分散液は、塩基性の分散媒体と、上記で列挙されたものから必要とされる他の成分とを含む無菌のビヒクルに活性化合物を組み込むことによって調製される。無菌の注射可能な溶液の調製用の無菌粉末の場合、好適な調製法は、減圧乾燥および凍結乾燥(freeze−drying)(凍結乾燥(lyophilization))であり、その結果、有効成分および任意の付加的な所望の成分の粉末が、予め滅菌ろ過されたその溶液から生じる。
【0141】
投薬計画は、最適な所望の応答(例えば治療的応答)が得られるように調節される。例えば、一個のボーラスを投与してもよく、いくつかに分割された用量を経時的に投与してもよく、または用量は治療状況の緊急性によって示されるように、比例的に減少もしく増加させてもよい。例えば、本発明のヒト抗体は、皮下注射により週に1回または2回、あるいは皮下注射により月に1回または2回投与されてもよい。
【0142】
投与の容易さおよび投薬量の均一性のために、非経口用組成物を単位剤形に調合することが特に有利である。単位剤形とは、本明細書中で使用するとき、処置される被験体にとって単一の投薬量として調整された物理的に別個の単位を指す;各単位は、必要な薬学的担体と関連して所望の治療効果を生ずるよう計算された所定量の活性化合物を含む。本発明の単位剤形の仕様は、(a)活性化合物の固有の特徴、および達成されるべき特定の治療効果、並びに(b)このような活性化合物を、個体の感受性の処置に対して配合する当該技術分野に備わる限界によって決定され、それらに直接的に依存する。
【0143】
薬学的に許容される抗酸化剤の例には:(1)水溶性抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど;(2)油溶性抗酸化剤、例えば、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ−トコフェロールなど;および(3)金属キレート剤、例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などが挙げられる。
【0144】
治療用組成物に関して、本発明の処方物には、経口、鼻腔、局所(口腔内および舌下を含む)、直腸、膣および/または非経口投与に適したものが含まれる。処方物は、都合良くは、単位剤形で提供されてもよく、薬学の分野において知られている任意の方法によって調製されてもよい。単一の剤形を生成するために担体物質と組み合わせることができる有効成分の量は、処置される被験体、および特定の投与様式に応じて変更する。単一剤形を生成するために担体物質と組み合わせることができる有効成分の量は、一般に、治療効果を生む組成物の量である。一般に、100パーセントのうち、この量は、約0.001パーセント〜約99パーセントの有効成分、好ましくは約0.005パーセント〜約70パーセント、最も好ましくは約0.01パーセント〜約30パーセントの範囲である。
【0145】
また、膣投与に適した本発明の処方物には、当該技術分野において適していることが知られているこのような担体を含むペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォームまたはスプレー処方物もまた含まれる。本発明の組成物の局所または経皮投与用の剤形には、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチおよび吸入剤が挙げられる。活性化合物は、薬学的に許容される担体、および必要とされ得るいずれかの保存剤、緩衝剤、または抛射薬と無菌条件下で混合されてよい。
【0146】
句「非経口投与」および「非経口的に投与される」とは、本明細書中で使用するとき、通常、注射による経腸的および局所投与以外の投与様式を意味し、限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、髄腔内、硬膜外および胸骨内注射および注入が挙げられる。
【0147】
本発明の医薬組成物中に用いられてもよい、適した水性および非水性の担体の例には、水、エタノール、多価アルコール類(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適した混合物、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステル類が含まれる。適した流動性は、例えば、レシチンなどの被覆材料の使用によって、分散液の場合には必要な粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。
【0148】
また、これらの組成物には、保存剤、湿潤剤、乳濁剤および分散剤などのアジュバントを含んでもよい。当該技術分野において周知であるアジュバントの具体例としては、例えば無機アジュバント(アルミニウム塩、例えば、リン酸アルミニウムおよびアルミニウム水酸化物など)、有機アジュバント(例えば、スクアレン)、油性アジュバント、ビロソーム(virosome)(例えば、インフルエンザから得られる膜結合ヘマグルチニン(heagglutinin)およびノイラミニダーゼを含むビロソーム)が挙げられる。
【0149】
微生物の存在の予防は、上掲の滅菌手順によって、並びに、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などの種々の抗菌剤および抗真菌剤の含有の両者によって確保され得る。また、糖類、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物に含めることも望まれる場合がある。さらに、注射可能な医薬形態の長期化された吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの、吸収を遅らせる作用物質の含有によってもたらすことができる。
【0150】
本発明の化合物が医薬品としてヒトおよび動物に投与される場合、それらは、単独で、または、例えば0.001〜90%(より好ましくは、0.005〜70%、例えば0.01〜30%)の有効成分を、薬学的に許容される担体と組み合わせて含む医薬組成物としても与えることができる。
【0151】
選択した投与経路に関係なく、適した水和型で用いられてもよい本発明の化合物、および/または本発明の医薬組成物は、当業者に知られている従来の方法によって薬学的に許容される剤形に調合される。
【0152】
本発明の医薬組成物中の有効成分の実際の投薬量レベルは、患者に毒性ではなく、特定の患者、組成物、および投与様式にとって所望の治療応答を達成するために有効な量の有効成分を得るように変更されてもよい。選択される投薬量レベルは、用いられる本発明の特定の組成物、または、そのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与経路、投与の時期、用いられる特定の化合物の排出速度、処置期間、用いられる特定の組成物と組み合わせて用いられる他の薬物、化合物および/または物質、処置される患者の年齢、性別、体重、状態、全体的な健康および以前の医療歴など、医療の分野において周知である因子を含め、様々な薬物動態学的因子に依存する。当該技術分野における通常の技術を有する医師または獣医師は、必要とされる医薬組成物の有効な量を容易に決定および処方することができる。例えば、この医師または獣医師は、医薬組成物に用いられる本発明の化合物の投薬量を、所望の治療効果を得るために必要な量より少ないレベルで開始し、この投薬量を所望の効果が得られるまで次第に増加させることができる。一般に、本発明の組成物の適した1日あたりの投薬量は、治療効果を生むために有効な最も少ない投薬量である化合物の量である。このような有効な投薬量は、一般に、上記された因子に依存する。投与は、静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下であることが好ましく、好ましくは標的部位の近位に投与される。必要に応じて、治療用組成物の有効な1日あたりの投薬量は、2回、3回、4回、5回、6回またはそれ以上の小分けした投薬量に分けて別々に、全日にわたって適切な間隔を置きながら、場合により単位剤形で投与されてもよい。本発明の化合物を単独で投与することも可能であるが、該化合物を医薬処方物(組成物)として投与することが好ましい。
【0153】
治療用組成物は、当該技術分野において知られている医療用デバイスを用いて投与することができる。例えば、好ましい態様では、本発明の治療用組成物は、米国特許第5,399,163号、同第5,383,851号、同第5,312,335号、同第5,064,413号、同第4,941,880号、同第4,790,824号、または第4,596,556号に開示されたデバイスなどの無針皮下注射デバイスを用いて投与することができる。本発明に有用な周知のインプラントおよびモジュールの例には、制御された速度で薬物を調剤するインプラント可能なマイクロ注入ポンプを開示する米国特許第4,487,603号;皮膚を通じて薬物を投与する治療用デバイスを開示する米国特許第4,486,194号;正確な注入速度で薬物を送達する薬物注入ポンプを開示する米国特許第4,447,233号;連続的な薬物送達のための可変流量式のインプラント可能な注入装置を開示する米国特許第4,447,224号;マルチチャンバー・コンパートメントを有する浸透圧薬物送達システムを開示する米国特許第4,439,196号;浸透圧薬物送達システムを開示する米国特許第4,475,196号が挙げられる。多くの他のこのようなインプラント、送達システム、及びモジュールは当業者に知られている。
【0154】
ある種の態様では、本発明のヒトモノクローナル抗体は、in vivoにおいて適切な分布を確保するように調合され得る。例えば、血液脳関門(BBB)は、多くの高度に親水性の化合物を排除する。本発明の治療用化合物がBBBを通過することを確実にするために(もし希望するなら)、例えばリポソームにそれらを調合することができる。リポソームの製造方法については、例えば、米国特許第4,522,811号;同第5,374,548号;および同第5,399,331号を参照されたい。リポソームは、特定の細胞又は臓器に選択的に輸送されて、標的化の薬物送達を高める1以上の成分を含んでいてもよい(例えば、V.V.Ranade(1989)J.Clin.Pharmacol.29:685を参照されたい)。典型的な標的成分には、葉酸またはビオチン(例えば、Lowらによる米国特許第5,416,016号を参照されたい);マンノシド(Umezawaら(1988)Biochem.Biophys.Res.Commun.153:1038);抗体(P.G.Bloemanら(1995)FEBS Lett.357:140;M.Owaisら(1995)Antimicrob.Agents Chemother.39:180);その様々な種が本発明の処方物、並びに本発明の分子の成分を含んでもよいサーファクタントプロテインA受容体(Briscoeら(1995)Am.J.Physiol.1233:134);p120(Schreierら(1994)J.Biol.Chem.269:9090)が挙げられる;さらに、K.Keinanen;M.L.Laukkanen(1994)FEBS Lett.346:123;J.J.Killion;I.J.Fidler(1994)Immunomethods 4:273を参照されたい。
【0155】
V.本発明の抗体を用いる方法
また、本発明は、様々なエクスビボおよびインビボにおける診断用途および治療用途において、ErbB3に結合する抗体およびその抗原結合部分を用いる方法を提供する。例えば、本発明の抗体は、種々の癌を含む、ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患を処置するために用いることができる。
【0156】
一態様では、本発明は、疾患を処置するために有効な量で、本発明の抗体またはその抗原結合部分を被験体に投与することによって、ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患を処置するための方法を提供する。適した疾患には、例えば、限定されないが、メラノーマ、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、消化管癌、結腸癌、肺癌、および前立腺癌が含まれる。
【0157】
抗体は、ErbB3が媒介したシグナル伝達と関連した疾患を処置するために、単独で、または抗体と共同してまたはそれと相乗的に作用する別の治療薬とともに投与されてもよい。このような治療薬には、例えば、下記に記載される抗癌剤(例えば、細胞毒素、化学療法剤、小分子および放射線)が含まれる。
【0158】
別の態様では、本発明は、本発明の抗体または抗原結合部分を(例えば、エクスビボまたはインビボにおいて)被験体から得られる細胞と接触させ、細胞のErbB3への結合レベルを測定することによって、被験体におけるErbB3アップレギュレーションと関連した疾患(例えば、癌)を診断する方法を提供する。ErbB3への結合の異常に高いレベルは、被験体がErbB3アップレギュレーションと関連した疾患を有することを示す。
【0159】
また、ErbB3アップレギュレーションおよび/またはErbB3依存性のシグナル伝達と関連した疾患の処置または診断において用いるための指図書を場合により含む、本発明の抗体およびその抗原結合部分を含むキットは、本発明の範囲内である。このキットは、キットの成分の意図された使用を指示するラベルを含んでもよい。用語のラベルには、いずれかの書類、キットにまたはキットとともに供給されるマーケッティング資料または記録資料、あるいは他にキットに添付されるものが含まれる。
【0160】
本発明の他の態様は、下記の実施例に記載されている。
【0161】
本発明は、下記の実施例によってさらに例証されるが、それを更なる限定として解釈すべきでない。配列表、図面、並びに本出願の全体にわたって引用されている全ての参考文献、特許および公開された特許出願の内容は、参照により本明細書中に明確に援用される。
【実施例】
【0162】
材料および方法
実施例の全体を通して、下記の材料および方法は、特に記述がない限り用いられる。
【0163】
一般に、本発明の実施は、他に指示がなければ、化学、分子生物学、組換えDNA技術、免疫学(特に、例えば、抗体技術)、並びにポリペプチド調製における標準的な技術を用いる。例えば、Sambrook、Fritsch and Maniatis,Molecular Cloning:Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);Antibody Engineering Protocols(Methods in Molecular Biology),510,Paul,S.,Humana Pr(1996);Antibody Engineering:A Practical Approach(Practical Approach Series,169),McCafferty,Ed.,IrI Pr(1996);Antibodies:A Laboratory Manual,Harlowら、C.S.H.L.Press,Pub.(1999);Current Protocols in Molecular Biology,eds.Ausubelら、John Wiley & Sons(1992)。HCV生物学のアッセイのためのインビトロおよびインビボのモデル系が記載されている、例えば、in Cell culture models and animal models of viral hepatitis.Part II:hepatitis C,Lab.Anim.(NY).;34(2):39−47(2005)およびin The chimpanzee model of hepatitis C virus infections,ILAR J.;42(2):117−26(2001)を参照されたい。
【0164】
細胞系統
下記に記載される実験に用いられる全ての細胞系統は、National Cancer Instituteから得られ、または指示されるように研究者によって提供された。
細胞系統:
MCF7−ATCC cat.No.HTB−22
T47D−ATCC cat.No.HTB−133
Colo357−これらの細胞は、アカデミックな研究者から得られ、Kolbら(2006)Int.J.Cancer,120:514−523によって記載されている。
【0165】
Du145−ATCC cat.No.HTB−81
OVCAR8−仮出願に既に記載されている供給源
H1975 ATCC cat.No.CRL−5908
腫瘍細胞の粉砕
腫瘍の粉砕のために凍結粉砕機(cryopulverizer)(Covaris Inc)を用いた。特別のバック(腫瘍を添加する前に予め計量される)に腫瘍を保存し、それらを操作しながら液体窒素に入れた。小さな腫瘍については、200μLのLysisバッファー(Lysis buffer)が、腫瘍を含むバックに初めに添加され、液体窒素中で凍結され、次に、バックからの腫瘍の回収を改善するために粉砕された。粉砕された腫瘍を2mLのエッペンドルフチューブに移し、更なる処理の直前まで液体窒素に置いた
腫瘍細胞の溶解
プロテアーゼおよびホスファターゼで補充されたLysisバッファー中で腫瘍を溶解させた。約62.5mg/mLの最終濃度の腫瘍アリコートにLysisバッファーを添加した。腫瘍試料は、30秒間ボルテックスしてホモジナイズし、氷上で約30分間インキュベートした。溶解物は、試料の更なる均質化のために、Qiagen Qiashredderカラム中で約10分間回転させた。澄明になった溶解物は、さらに処理するために新しいチューブに分注された。
【0166】
BCAアッセイ
BCAアッセイ(Pierce)は、全ての腫瘍試料について、製造業者のプロトコールに従って行われた。各腫瘍試料の全タンパク質濃度(mg/mLで)は、後に、ELISA結果の標準化において用いられた。
【0167】
ELISAアッセイ
全体およびホスホ−ErbB3 ELISAのための全てのELISA試薬は、DuosetキットとしてR&D Systemsから購入した。96ウェルのNunc Maxisorbプレートは、50μLの抗体を用いて被覆され、室温で一晩インキュベートされた。翌朝、プレートは、PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いて3回洗浄した。その後、PBSに含まれる2%BSAを用いて、約1時間、室温でプレートをブロックした。PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いてプレートを3回洗浄した。50%Lysisバッファーおよび1%BSAで希釈された50μLの細胞溶解物と標準物は、更なる処理のために2点測定に用いられた。プレートシェーカー上で2時間、4℃で試料をインキュベートし、PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いて3回洗浄した。2%BSA、PBSTで希釈された約50μLの検出抗体を添加し、約1時間、室温でインキュベートした。リン(phosphor)−ErbB3について、検出抗体は、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)に直接結合させ、2時間、室温でインキュベートした。PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いてプレートを3回洗浄した。約50μlのストレプトアビジン−HRPを添加し、30分間、室温でインキュベートした(pErbB3を除く)。PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いてプレートを3回洗浄した。約50μLのSupersignal Pico ELISA基質を添加し、プレートをFusionプレートリーダーで読んだ。データはEXCELを用いて分析された。2点測定の試料は、平均され、エラーバーは、2つの複製物間での標準偏差を表すために用いられた。
【0168】
(実施例1)
ファージディスプレイを用いた抗体の生成
本明細書においてAb#6、Ab#3、Ab#14、Ab#17、およびAb#19と称されるヒト抗ErbB3抗体を得るために、ヒトドナーから得られた免疫グロブリン配列の独自の組み合わせを含むヒトFab−ファージライブラリー(Hoet et al. 上掲、その全てが本明細書中に参照として援用される)が、ErbB3結合物について最初にスクリーニングされた。
【0169】
精製されたErbB3、細胞表面ErbB3を発現しているチャイニーズハムスター卵巣細胞系統を用いて、ライブラリーから得られる73個の独自のFab配列を同定した。次に、これらの73個のクローンは、ファージを含まないFabのみとして再フォーマットされた。ハイスループット法を用いて、これらのFabは、小スケールで発現させ、ELISA、並びにハイスループット表面プラズモン共鳴(SPR)技術であるFlexchipを用いて結合について試験された。ファージを含まない73個のFabは、チップ表面にスポットされ、ErbB3−his融合標的タンパク質またはErbB3−Fcタンパク質(R&D Systems)に対する結合反応速度およびエピトープブロックを測定した。Fabについての平衡結合定数およびオン/オフレートは、得られたデータから計算された。
【0170】
次に、MALME−3M細胞への種々のFabの結合は、約500nMのFab、および1:750に希釈したヤギ抗ヒトAlexa647二次抗体を用いて調べられた。図1Aおよび1Bに示されるように、いくつかの候補Fabは、MALME−3M細胞の感知できる染色を示した。
【0171】
(実施例2)
抗ErbB3 Fabの最適化
ErbB3リガンドであるヘレグリンによるErbB3への結合をブロックしたFabの同定に続いて、FabのVHおよびVL配列を下記のようにコドン最適化した。
【0172】
具体的には、VHおよびVL領域は、IgG1またはIgG2アイソタイプとして発現するための発現構築物を用いて再フォーマットされた。構築物は、適切な重鎖および軽鎖配列の置換のために設計されたカセットを有するSelexis骨格を含んでいた。Selexisベクターは、CMVプロモーターおよびマッチングポリAシグナルを含んでいた。
【0173】
Ab#6のコドン最適化されたVHおよびVLについての核酸配列は、それぞれ配列番号25および26に記載され、Ab#3についての核酸配列は、それぞれ配列番号27および28に記載され、図22に示される。
【0174】
(実施例3)
ErbB3に対する結合親和性
抗ErbB3抗体の解離定数は、2つの独立した技術、即ち、表面プラズモン共鳴アッセイおよびMALME−3M細胞を用いた細胞結合アッセイを用いて測定された。
【0175】
表面プラズモン共鳴アッセイ
表面プラズモン共鳴アッセイ(またはFlexchipアッセイとも称される)は、Wassafら(2006)Analytical Biochem.,351:241−253に記載されるように行った。KD値は、式KD=Kd/Kaに基づいて計算された。
【0176】
Ab#6およびAb#3のKD値は、それぞれ、表面プラズモン共鳴アッセイを用いて測定すると、図2Aおよび2Bに示される。Ab#6は、KD値が約4nMであり、Ab#3は、KD値が約8nMであり、それぞれ図2Aおよび2Bに示される。
【0177】
細胞結合アッセイ
Ab#6およびAb#3のKD値を決定するための細胞結合アッセイは、下記のように行った。
【0178】
MALME−3M細胞は、室温で5分間、2mlのトリプシン−EDTA+2mlのRMPI+5mMのEDTAを用いて脱着された。完全なRPMI(10ml)をトリプシン処理された細胞に即座に加えられ、穏やかに再懸濁し、Beckman机上遠心分離機で1100rpm、5分で遠沈した。細胞を2×106細胞/mlの濃度で、BD染色バッファー(PBS+2%ウシ胎児血清+0.1%アジ化ナトリウム、Becton Dickinson)に再懸濁させ、50ul(1×105細胞)アリコートを96ウェルタイタープレートに置いた。
【0179】
BD染色バッファーに含まれる200nM抗ErbB3抗体(Ab#6またはAb#3)の150μl溶液は、エッペンドルフチューブに調製され、75μlのBD染色バッファーに連続的に2倍に希釈された。希釈された抗体の濃度は、200nM〜0.4nMの範囲であった。次に、異なるタンパク質希釈物の50μlのアリコートは、抗体の最終濃度が100nM、50nM、25nM、12nM、6nM、3nM、1.5nM、0.8nM、0.4nMおよび0.2nMである50μlの細胞懸濁液に直接添加された。
【0180】
96ウェルプレートに分注された細胞は、プラットフォームシェーカー上で30分間、室温でタンパク質希釈物とともにインキュベートされ、300μlのBD染色バッファーを用いて3回洗浄された。次に、細胞は、低温室のプラットフォームシェーカー上で、45分間、BD染色バッファーで1:750希釈したAlexa647標識されたヤギ抗ヒトIgGの100μlとともにインキュベートされた。最後に、細胞を2回洗浄し、ペレットにし、250μlのBD染色バッファー+0.5μg/mlのヨウ化プロピジウムに再懸濁した。10,000個の細胞の分析は、FL4チャネルを用いたFACScaliburフローサイトメーターで行った。抗ErbB3抗体のMFI値および対応する濃度をそれぞれy軸およびx軸にプロットした。分子のKD値は、非線形回帰曲線についての1部位結合モデルを用いたGraphPad Prismによって決定された。
【0181】
KD値は、式Y=Bmax* X/KD+X(Bmax=飽和の蛍光。X=抗体濃度。Y=結合程度。)に基づいて計算された。図2Cおよび2Dに示されるように、Ab#6およびAb#3は、MALME−3M細胞を用いた細胞結合アッセイでは、KD値は、それぞれ約4nMおよび1.3nMであった。
【0182】
(実施例4)
ErbB3についての結合特異性/エピトープ結合
ErbB3に対するAb#6のIgG2アイソタイプの結合特異性は、下記のようのELISAを用いてアッセイされた。Ab#6によって結合されたエピトープの同定も分析した。
【0183】
具体的には、96ウェルのNunc Maxisorbプレートは、50μlの5μg/mlタンパク質(組換えヒトErbB3、組換えヒトEGFRまたは無関係なタンパク質(BSA))を用いて被覆し、一晩、室温でインキュベートされた。翌朝、プレートは、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルのPBST(0.05% Tween−20)を用いて3回洗浄された。PBSに含まれる2%BSAを用いて1時間、室温でウェルをブロックした。プレートは、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルのPBST(0.05% Tween−20)を用いて3回洗浄された。約50μLのAb#6は、2%BSA、PBSTによるいくつかの希釈(1μM、および連続的な2倍希釈)で添加された。全ての試料は、2点測定で行い、プレートシェーカー上で2時間、4℃でインキュベートされた。プレートは、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルのPBST(0.05% Tween−20)を用いて3回洗浄された。50μlのヒトIgG検出抗体(HRP結合(Bethyl Inc;2%BSA、PBSTによる1:75000希釈)を添加し、プレートを1時間、室温でインキュベートした。プレートは、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルのPBST(0.05% Tween−20)を用いて3回洗浄された。50μLのSupersignal Pico ELISA基質を添加し、プレートをFusionプレートリーダー上で読んだ。データはEXCELプログラムを用いて分析された。2点測定の試料は平均された、およびエラーバーは、2つの複製物間での標準偏差を表す。
【0184】
図3に示されるように、Ab#6はELISAでは組換えErbB3に結合したが、EGFR、BSAまたはTGF−αにはいずれの感知できる結合を示さなかった。
【0185】
ErbB3のアミノ酸残基20−202に対応する断片(切断変異体(truncation mutant))は、NheとBsiWI制限部位との間で酵母ディスプレイベクターpYD2(Hisタグの前で操作された終始コドンを有するpYD1(Invitrogen)の改変バージョン)にクローニングされた。酵母菌株EBY100(Invitrogen)にプラスミドを形質転換し、このプラスミドを含むクローンをTrp−選択培地で選択した。グルコースを含む培地で一晩、30℃でクローンを増殖させ、ErbB3切断変異体の発現は、2日間、18℃でガラクトースを含む培地に移すことによって誘導された。ErbB3切断変異体を示す酵母は、50nMのAb#6を用い、その後、Alexa色素−647で標識されたヤギ抗ヒト抗体を用いて染色された。別の試料は、二次抗体の酵母に対する非特異的な結合がないことを示すためにヤギ抗ヒト抗体のみで染色された。分析は、FACS Caliburセルソーター(BD Biosciences)によるフローサイトメトリーにて行った。
【0186】
図30に示されるように、Ab#6は切断変異体、即ち、ErbB3のアミノ酸残基20〜202に結合した。
(実施例5)
腫瘍細胞の全ErbB3のダウンレギュレーション
腫瘍細胞におけるインビトロおよびインビボの両方でのErbB3発現をダウンレギュレートするAb#6の能力を下記のように試験した。
【0187】
MALME−3M細胞を96ウェル組織培養プレートに播種し、抗生物質、2mM L−グルタミンおよび10%ウシ胎児血清(FBS)で補充されたRPMI−1640培地中で24時間、37℃、5%二酸化炭素で増殖した。次に、1uM、250nM、63nM、16nM、4.0nM、1.0nM、240pM、61pMおよび15pMの濃度の抗体を含む場合と含まない場合の抗生物質、2mM L−グルタミンを含むRPMI−1640培地にスイッチした。細胞は、24時間、37℃、5%二酸化炭素で増殖され、冷却PBSで洗浄し、次に、150mM NaCl、5mMピロリン酸ナトリウム、10uM bpV(phen)、50uMフェナラルシン(phenalarsine)、1mMオルトバナジウム酸ナトリウム、およびプロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma、P714)を含む哺乳動物タンパク質抽出(MPER)溶解(Pierce、78505)バッファーを用いて回収された。0.1%tween−20を含むリン酸緩衝化生理食塩水に含まれる4%ウシ血清アルブミンを用いて細胞溶解物を2倍に希釈し、次に、マウス抗ヒトErbB3捕捉抗体およびビオチニル化されたマウス抗ヒトErbB3二次検出抗体を用いたELISAによって分析した。シグナルは、化学発光基質(Pierce、37070)と反応される西洋ワサビペルオキシダーゼに結合したストレプトアビジンより生じた。ELISAは、ルミノメーターを用いて視覚化された。
【0188】
図4に示されるように、Ab#6は、ELISAによって測定すると、インビトロでMALME−3M細胞において約46.9%まで全ErbB3レベルを減少させた。血清および抗体を含まない培地を対照として用いた。
【0189】
更なる実験では、Ab#6のIgG1およびIgG2アイソタイプを用いたMALME−3M細胞のErbB3受容体のダウンレギュレーションは、FACS分析を用いて試験された。MALME−3M細胞は、15cmディッシュからトリプシン処理され、RPMI+10%ウシ胎児血清を用いて1回洗浄された。細胞ペレットは、1×106細胞/mlの密度で再懸濁させた。2×105細胞の2つのアリコートを12ウェル組織培養プレートに添加し、800ul RPMI+10%ウシ胎児血清の最終体積で再懸濁した。1つのウェルに対しては、Ab#6IgG1またはAb#6IgG2アイソタイプが、最終濃度100nM(処理試料)に添加され、他のウェルに対しては、等量のPBS(未処理試料)を添加した。
【0190】
翌日、処理および未処理細胞をトリプシン処理し、洗浄し、30分間、氷上で、BD染色バッファーに含まれる100nMのAb#6とともにインキュベートした。1mlのBD染色バッファーを用いて細胞を2回洗浄し、45分間、氷上で、100ulの1:500希釈したAlexa647標識されたヤギ抗ヒトAlexa647とともにインキュベートした。次に、細胞を洗浄し、300ulのBD染色バッファー+0.5ug/mlヨウ化プロピジウムに再懸濁した。10,000個の細胞の分析は、FL4チャネルを用いたFACScaliburフローサイトメーターで行った。
【0191】
図5Aおよび5Bに示されるように、Ab#6のIgG1およびIgG2アイソタイプの両方は、それぞれ約62%及び約66%までMALME−3M細胞のErbB3をダウンレギュレートした。
【0192】
この減少がMALME−3M細胞の表面のErbB3受容体の内在化に起因するかどうかを決定するために、抗体の存在下でErbB3の発現を経時的に測定した。具体的には、MALME−3M細胞は、15cmディッシュからトリプシン処理され、RPMI+10%ウシ胎児血清を用いて1回洗浄された。細胞ペレットは、1×106細胞/mlの密度で再懸濁させた。2×105細胞の2つのアリコートを12ウェル組織培養プレートに添加し、800μl RPMI+10%ウシ胎児血清の最終体積で再懸濁した。1つのウェルに対しては、抗ErbB3抗体が、最終濃度100nM(処理試料)に添加され、他のウェルに対しては、等量のPBS(未処理試料)を添加した。翌日、処理および未処理細胞をトリプシン処理し、洗浄し、30分間、氷上で、BD染色バッファーに含まれる100nMの抗ErbB3抗体とともにインキュベートした。1mlのBD染色バッファーを用いて細胞を2回洗浄し、45分間、氷上で、100μlの1:500希釈したAlexa647標識されたヤギ抗ヒトAlexa647とともにインキュベートした。次に、細胞を洗浄し、300μlのBD染色バッファー+0.5μg/mlヨウ化プロピジウムに再懸濁した。10,000個の細胞の分析は、FL4チャネルを用いたFACScaliburフローサイトメーターで行った。
【0193】
図6に示されるように、Ab#6の存在下におけるErbB3のダウンレギュレーションを0時間(図6A)、0.5時間(図6B)、2時間(図6C)および24時間(図6D)で測定した。図6A〜6Dに示されるように、約50%の細胞表面ErbB3受容体が、約30分後にダウンレギュレートし、約24時間で、約93%の細胞表面受容体がダウンレギュレートした。
【0194】
また、メラノーマ細胞におけるインビボでのErbB3ダウンレギュレーションを引き起こすAb#6の能力は、下記のとおり調べた。
【0195】
要約すると、T細胞欠損nu/nuマウス(NIH起源の3〜4週齢の雌性マウス;異系交配;アルビノバックグラウンド)をCharles River Labs(Wilmington,MA)から購入した。移植のためのMALME−3M細胞は、回収前に約80%のコンフルエントまで培養(RPMI培地、10%FBS、L−グルタミンおよび抗生物質、37℃、5%、CO2)して増殖された。移植するまで細胞を氷上で保持した。マウスは、右脇腹に100μlのMALME−3M細胞を用いて皮下注射を介して移植され、初期の腫瘍増殖についてモニターされながら回復された。
【0196】
デジタルカリパーによって腫瘍(長さ×幅)を測定し、静脈注射によってIgG2a(Sigma、M7769−5MG)をマウスに投薬した。マウスは、抗体ナンバー6の15μgまたは100μgのいずれかを用いて1日おきに腹腔内に投薬され、1週ごとに3回、腫瘍を測定し、マイクロソフトEXCELスプレッドシートに記録した。
【0197】
最終の腫瘍測定(L×W)を行い、CO2窒息によってマウスを安楽死させ、腫瘍を摘出し、液体窒素中で瞬時に凍結し、−80℃で保存した(生化学分析用)。最終の腫瘍測定を分析し、例えば、Burtrumら(2003)Cancer Res.,63:8912−8921に記載されるように、腫瘍面積と腫瘍体積によってグラフにした。また、データは、腫瘍体積と腫瘍面積の両方について「標準化」および「非標準化」された手法によって分析された。データの「標準化」については、測定の各時間点で、各群の各腫瘍は、カリパー測定によって測定された初期の腫瘍サイズによって割られた。
【0198】
図7に示されるように、このアッセイで試験された種々の抗体のうち、Ab#6は、Ab#6のIgG1またはIgG2アイソタイプのいずれかを用いて処理された腫瘍において注射して24時間後すぐに全ErbB3のダウンレギュレーションを引き起こした)。PBSを対照として用いた
更なる実験では、インビボでのADRr異種移植におけるErbB3をダウンレギュレートするAb#6の能力を調べた。
【0199】
要約すると、凍結粉砕機(Covaris Inc)において試料を粉砕した。特別のバック(腫瘍を添加する前に予め計量される)に腫瘍を保存し、それらを操作しながら液体窒素に入れた。小さな腫瘍については、200μLのLysisバッファーが、腫瘍を含むバックに初めに添加され、液体窒素中で凍結され、次に、バックからの腫瘍の回収を改善するために粉砕された。粉砕された腫瘍を2mLのエッペンドルフチューブに移し、溶解されるまで液体窒素に置いた。プロテアーゼおよびホスファターゼインヒビターで補充されたLysisバッファー中で腫瘍を溶解させた。62.5mg/mLの最終濃度の腫瘍アリコートにLysisバッファーを添加した。腫瘍試料は、30秒間ボルテックスしてホモジナイズし、氷上で30分間置いた。溶解物は、試料の更なる均質化のために、Qiagen Qiashredderカラム中で約10分間回転させた。澄明になった溶解物は新しいチューブに分注された。
【0200】
BCAアッセイは、上掲の材料および方法のセクションに記載されるように行った。
【0201】
ErbB3の全レベルをELISAによって測定した。ELISA試薬は、DuosetキットとしてR&D Systemsから購入した。96ウェルのNunc Maxisorbプレートは、50μLの各捕捉抗体を用いて被覆され、室温で一晩インキュベートされた。翌朝、プレートは、PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いて3回洗浄し、その後、PBSに含まれる2%BSAを用いて、約1時間、室温でブロックした。次に、PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いてプレートを3回洗浄した。溶解物(50μL)と標準物は、50%Lysisバッファーおよび1%BSAで希釈された;全ての試料は2点測定で行われた。プレートは、プレートシェーカー上で2時間、4℃でインキュベートされ、次に、PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いて3回洗浄した。2%BSA、PBSTで希釈された50マイクロリットルの検出抗体を添加し、1時間、室温でプレートをインキュベートした。PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いてプレートを3回洗浄した。50マイクロリットルのストレプトアビジン−HRPを添加し、30分間、室温でプレートをインキュベートした。PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BioTekプレートウォッシャーで1000μl/ウェルを用いてプレートを再び3回洗浄した。50マイクロリットルのSupersignal Pico ELISA基質を添加し、プレートをFusionプレートリーダーで読んだ。データはEXCELを用いて分析された。2点測定の試料は、平均された、およびエラーバーは、2つの複製物間での標準偏差を表す。
【0202】
この実験の結果を図8に示す。図8に示されるように、Ab#6は、インビボでのADRr異種移植においてErbB3をダウンレギュレートした。
【0203】
(実施例6)
腫瘍細胞増殖の阻害
ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)の細胞増殖を阻害するAb#6の能力は、下記のとおり調べられた。
【0204】
MALME3M、ACHNおよびNCI/ADRr細胞は96ウェル組織培養プレートに播種され、抗生物質、2mMのL−グルタミンおよび10%ウシ胎児血清(FBS)で補充されたRPMI−1640培地中で24時間、37℃、および5%二酸化炭素で増殖された。次に、培地は、抗生物質、2mMのL−グルタミンを含み、および1uM、250nM、63nM、16nM、4.0nM、1.0nM、240pM、61pMおよび15pM濃度で抗体を含む場合および含まない場合のRPMI−1640培地にスイッチされた。細胞は、96時間、37℃、および5%二酸化炭素で増殖され、次に、CellTiter−Glo(登録商標)ルミネッセント細胞生存アッセイ(Luminescent Cell Viability Assay)(Promega、G7573)を用いて回収され、ルミノメーターで分析された。血清および抗体を含まない培地を対照として用いた。
【0205】
図9、10および11に示されるように、Ab#6は、ErbB3を発現するMALME−3M細胞(図9)、ADRr卵巣癌細胞(図10)、およびACHN細胞(図11)の増殖を阻害した。具体的には、Ab#6は、Cell Titer Glowアッセイを用いて測定すると、MALME−3M細胞の増殖を約19.6%まで阻害し、ADRr卵巣癌細胞の増殖を約30.5%まで阻害した。また、図11に示されるように、Ab#6は、ACHN細胞の増殖を約25.4%まで阻害した。
【0206】
(実施例7)
腫瘍細胞におけるErbB3リン酸化の阻害
インビボにおけるErbB3リン酸化を阻害するAb#6の能力を下記のとおり調べた。
【0207】
図8に関して、上掲の実施例5に記載された技術を用いて試料を粉砕した。BCAアッセイは、上掲の材料および方法のセクションに記載されるように行い、ELISAアッセイは、図8に関して、上掲の実施例5に記載されるように行った。
【0208】
この実験の結果を図12に示す。図12に示されるように、Ab#6は、ng/mg全タンパク質でリン酸化されたErbB3(pErbB3)の量によって測定すると、インビボでADRr卵巣異種移植においてErbB3リン酸化を有意に阻害した。
【0209】
また、ベータセルリン(BTC)またはヘレグリン(HRG)誘導のErbB3リン酸化を阻害するAb#6の能力を下記のとおり調べた。
【0210】
50mMのBTC、10mMのHRGまたは333nMのTGF−αで刺激する前に、卵巣ADRr細胞をAb#6とともに30分間プレインキュベートした。プレインキュベーション後、培地を取り除き、50nMのBTCまたは333nMのTGF−α(PE498に対して)を用いて、細胞を5分、37℃、5%CO2で刺激した。HRG対照(5分、5nM)、10%血清および0%血清対照も用いた。細胞は、1×冷PBSで洗浄され、30μlの冷溶解バッファー(M−PERバッファー+バナジウム酸ナトリウム(NaVO4、Sigma)、2−グリセロリン酸エステル、フェニルアルシンオキシド、BpVおよびプロテアーゼインヒビター)において、氷上で30分間インキュベートすることによって溶解させた。溶解物を−80で一晩保存した。
【0211】
図13A〜13Cに示されるように、Ab#6は、ベータセルリンおよびヘレグリン媒介のErbB3のリン酸化を有意に阻害した。
【0212】
更なる実験では、卵巣腫瘍細胞系統OVCAR5およびOVCAR8におけるErbB3リン酸化を阻害するAb#6の能力を下記のとおりに調べた。
【0213】
OVCAR5およびOVCAR8細胞系統は、National Cancer Institute,Division of Cancer Treatment and Diagnostics(「DCTD」)から得た。ELISAは、上掲の材料および方法のセクションにおいて記載されるように行った。
【0214】
この実験の結果を図14Aおよび14Bに示す。図14Aおよび14Bに示されるように、Ab#6は、OVCAR5およびOVCAR8卵巣癌細胞系統の両方におけるErbB3リン酸化を阻害した。
【0215】
上記で検討したように、Ab#6は、ベータセルリン媒介のErbB3のリン酸化を阻害する。ベータセルリン媒介のErbB3のリン酸化がErbB1またはErbB3を介して起こるのかを調べるために、下記の実験を行った。
【0216】
ADRr細胞またはMALME−3M細胞(1×105)は、50μlのBD染色バッファーに含まれる25μMの抗ErbB3 Ab#6または25μMのErbitux(対照として)を用いて、30分間、氷上でプレインキュベートされた。30分後、50μlの400nMビオチニル化BTCを細胞に添加し、さらに30分間、氷上でインキュベートした。これは、12.5μM抗体および200nMのBTCの最終濃度を与えた。次に、細胞を500μlのBD染色バッファーを用いて2回洗浄し、BD染色バッファーに含まれる1:200に希釈したストレプトアビジン−PE(PE=フィコエリトリン)(Invitrogen)の100μlとともに45分間、インキュベートした。最後に、細胞を2回洗浄し、300μlのBD染色バッファーに再懸濁し、FACScaliburフローサイトメーターで分析した。陽性対照として、1×105のADRrまたはMALME−3M細胞は、200nMのBTCとともに、30分間、氷上でインキュベートされ、2回洗浄され、1:200に希釈されたストレプトアビジン−PEとともに45分間、インキュベートされた。ストレプトアビジン−PE結合体からのバックグラウンド染色を評価するために、細胞は、1:200に希釈されたストレプトアビジン−PEの100μlだけとともに45分間インキュベートされた。
【0217】
この実験の結果を図15A〜15Cに示す。図15Aに示されるように、ベータセルリン(BTC)は、ErbB1陰性MALME−3M細胞へのいかなる感知できる結合も示さない。しかしながら、図15Bおよび15Cに示されるように、BTCは、ErbB1陽性ADRr細胞への結合を示す。
【0218】
また、図15Bおよび15Cに示されるように、この結合は、EGFRに特異的に結合する抗EGFR抗体であるErbituxによってブロックされ、EGF様リガンドがEGFRに結合することを示すための対照として含められた。これは、例えば、Adamsら(2005),Nature Biotechnology 23,1147−1157に記載されている。
【0219】
(実施例8)
腫瘍細胞におけるヘレグリン媒介のシグナル伝達の阻害
ヘレグリン媒介の腫瘍細胞のシグナル伝達を阻害するAb#6の能力を下記のとおり調べた。
【0220】
MALME−3M細胞を96ウェル組織培養プレートに播種し、抗生物質、2mM L−グルタミンおよび10%ウシ胎児血清(FBS)で補充されたRPMI−1640培地中で24時間、37℃、および5%二酸化炭素で増殖した。細胞は、抗生物質および2mM L−グルタミンを含むRPMI−1640培地で24時間、37℃、および5%二酸化炭素で血清を枯渇させた。細胞は、1μM、250nM、63nM、16nM、4.0nM、1.0nM、240pMおよび61pMの濃度の抗ErbB3抗体(Ab#6のIgG2アイソタイプ)を含む場合と含まない場合で30分間前処理され、次に、HRG1−ベータ1−ECDを用いて、10分間、37℃、および5%二酸化炭素で刺激された。細胞は、冷PBSで洗浄され、次に、150mM NaCl、5mMピロリン酸ナトリウム、10uM bpV(phen)、50μMフェナラルシン、1mMオルトバナジウム酸ナトリウム、およびプロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma、P714)を含む哺乳動物タンパク質抽出(MPER)溶解(Pierce、78505)バッファーを用いて回収された。0.1%tween−20を含むリン酸緩衝化生理食塩水に含まれる4%ウシ血清アルブミンを用いて細胞溶解物を2倍に希釈し、次に、AKT(ErbB3の下流エフェクター)およびErbB3リン酸化についてELISAによって分析された。
【0221】
AKTリン酸化について試験するために、溶解物は、AKTに特異的な捕捉抗体およびAKTのセリン473のリン酸化部位に特異的なビオチニル化された検出抗体を用いてELISAプレートで行われた。シグナルは、化学発光基質(Pierce、37070)と反応される西洋ワサビペルオキシダーゼに結合したストレプトアビジンより生じた。ErbB3リン酸化を評価するために、溶解物は、ErbB3に特異的な捕捉抗体および西洋ワサビペルオキシダーゼに結合した抗ホスホチロシン検出抗体を用いてELISAプレートで行われた。次に、これは、化学発光基質(Pierce、37070)と反応させた。ELISAは、ルミノメーターを用いて視覚化された。
【0222】
図16Aおよび16Bに示されるように、Ab#6は、ErbB3(図16A)およびAKT(図16B)のリン酸化の減少によって測定すると、MALME−3M細胞においてヘレグリン媒介のシグナル伝達の強力な阻害剤であった。顕著には、Ab#6は、AKTのリン酸化をほぼ100%阻害した。
【0223】
(実施例9)
卵巣、前立腺、および膵臓の腫瘍増殖の阻害
インビボでのAb#6の有効性を評価するために、ヒト癌のいくつかの異種移植モデルをヌードマウスで構築し、腫瘍増殖の阻害を複数回投薬で評価した。例えば、T細胞欠損nu/nuマウス(NIH起源の3〜4週齢の雌性マウス;異系交配;アルビノバックグラウンド)は、異種移植研究のために、Charles River Labs(Wilmington,MA)から購入された。移植のためのADRr細胞は、回収前に約85%のコンフルエントに培養(RPMI培地、10%FBS、L−グルタミンおよび抗生物質、37℃、5%CO2)して増殖された。移植するまで細胞を氷上で保持した。マウスは、右脇腹に100μlのADRr細胞を用いて皮下注射を介して移植され、初期の腫瘍増殖についてモニターされながら回復された。
【0224】
デジタルカリパーによって腫瘍(長さ×幅)を測定し、静脈注射によってIgG2a(Sigma、M7769−5MG)をマウスに投薬した。マウスは、Ab#6の30μgまたは300μgのいずれかを用いて3日ごとに腹腔内に投薬され、1週ごとに3回、腫瘍を測定し、マイクロソフトEXCELスプレッドシートに記録した。
【0225】
最終の腫瘍測定(L×W)を行い、CO2窒息によってマウスを安楽死させ、腫瘍を摘出し、液体窒素中で瞬時に凍結し、−80℃で保存した(生化学分析用)。最終の腫瘍測定を分析し、Burtrumら、上掲、に記載されるように、腫瘍面積と腫瘍体積によってグラフにした。また、データは、腫瘍体積と腫瘍面積の両方について「標準化」および「非標準化」された手法によって分析された。データの「標準化」については、測定の各時間点で、各群の各腫瘍は、カリパー測定によって測定された初期の腫瘍サイズによって割られた。
【0226】
ヒト腫瘍細胞系統であるADRr(卵巣)、Du145(前立腺)およびOvCAR8(卵巣)から得られる3種の異なるモデルからのデータを図17A〜Cに示し、Colo357異種移植研究を図17Dに示す。これらの試験からデータは、3日ごとに(Q3d)の300ug用量のAb#6が腫瘍増殖の有意な阻害をもたらすことを示した(研究中の複数の時間点についてp<0.05)。加えて、Ab#6の阻害効果は、投薬量が、Du145前立腺癌モデル、並びに腎臓および膵臓癌腫異種移植モデル(ACHNおよびCOLO357)において、Q3dで600ugまで増加した場合にさらに上昇した。しかしながら、Q3dで1500ugまで用量をさらに増加させることは、有効性の増加をもたらさなかった(OvCAR8−図17;COLO357)。これは、600ugが、腫瘍増殖阻害に関して飽和していることを示唆する。これらの研究から動物の血清の薬物動態(PK)解析は、Ab#6の血清保持における投薬量に依存した増加を示す。同様に、これらの異なる研究からのAb#6の腫瘍内レベルの生化学的分析は、0〜約6pg MM121/ug全腫瘍溶解物の投薬量に依存した範囲を示した(データ示さず)。
【0227】
(実施例10)
腫瘍細胞のErbB3へのErbB3リガンドの結合の阻害
更なる実験では、EGFRに対するEGF様リガンドではなく、ErbB3に対するErbB3リガンドの結合を阻害する本発明の抗体の特異性を下記のとおり調べた。
【0228】
一態様では、ErbB3に対するErbB3リガンド(例えば、ヘレグリンおよびエピレグリン)の結合を阻害するAb#6およびAb#3のFabバージョン(Ab/Fab#3)の特異性を調べた。
【0229】
ErbB3に対するヘレグリンの結合を阻害するAb#6およびAb/Fab#3の能力を調べるために、下記の実験を行った。
【0230】
ADRr細胞(1×105)は、50μlのBD染色バッファーに含まれる10μMの抗ErbB3抗体(例えば、Ab#6またはAb/Fab#3)とともに30分間、氷上でインキュベートされた。30分後、50μlの40nMビオチニル化されたヘレグリンEGFを細胞に添加し、さらに10分間、氷上でインキュベートした。これは、5μM抗体および20nMのヘレグリンEGFの最終濃度を与えた。次に、細胞を500μlのBD染色バッファーを用いて2回洗浄し、BD染色バッファーに含まれる1:200に希釈したストレプトアビジン−PE(PE=フィコエリトリン)(Invitrogen)の100μlとともに45分間、インキュベートした。最後に、細胞を2回洗浄し、300μlのBD染色バッファーに再懸濁し、FACScaliburフローサイトメーターで分析した。陽性対照として、1×105のADRr細胞は、20nMのヘレグリンEGFとともに、10分間、氷上でインキュベートされ、2回洗浄され、1:200に希釈されたストレプトアビジン−PEとともに45分間、インキュベートされた。ストレプトアビジン−PE結合体からのバックグラウンド染色を評価するために、1×105個のADRr細胞は、1:200に希釈されたストレプトアビジン−PEの100μlだけとともに45分間インキュベートされた。
【0231】
この実験の結果を図18Aおよび18Bに示す。図18Aおよび18Bに示されるように、Ab#6およびAb/Fab#3の両方は、ErbB3に対するヘレグリン結合を阻害することができた。
【0232】
同様に、ErbB3に対する別のErbB3リガンドであるエピレグリンの結合を阻害するAb#6の能力を下記のとおり調べた。
【0233】
ADRr細胞(1×105)は、50μlのBD染色バッファーに含まれる25μMのAb#6または25μMのErbitux(対照として)を用いて、30分間、氷上でプレインキュベートされた。30分後、50μlの2μMビオチニル化Epiを細胞に添加し、さらに30分間、氷上でインキュベートした。これは、12.5μM抗体および1μMのEpiの最終濃度を与えた。次に、細胞を500μlのBD染色バッファーを用いて2回洗浄し、BD染色バッファーに含まれる1:200に希釈したストレプトアビジン−PE(PE=フィコエリトリン)(Invitrogen)の100μlとともに45分間、インキュベートした。最後に、細胞を2回洗浄し、300μlのBD染色バッファーに再懸濁し、FACScaliburフローサイトメーターで分析した。陽性対照として、1×105のADRr細胞は、1μMのEpiとともに、30分間、氷上でインキュベートされ、2回洗浄され、1:200に希釈されたストレプトアビジン−PEとともに45分間、インキュベートされた。ストレプトアビジン−PE結合体からのバックグラウンド染色を評価するために、細胞は、1:200に希釈されたストレプトアビジン−PEの100μlだけとともに45分間インキュベートされた。
【0234】
この実験の結果を図19Aおよび19Bに示す。図19Aに示されるように、エピレグリンは、ErbB3陽性ADRr細胞に結合する。さらに、図19Bに示されるように、この結合は、ErbituxとAb#6の両方によって阻害され、これは、エピレグリンがEGFRとErbB3の両方に結合し得ることを示唆している。
【0235】
更なる実験は、Ab#6が、腫瘍細胞に対するEGF様リガンド(例えば、HB−EGF)の結合を阻害することができるかを調べるために行った。
【0236】
ADRr細胞(1×105)は、50μlのBD染色バッファーに含まれる25μMのAb#6または25μMのErbitux(対照として)を用いて、30分間、氷上でプレインキュベートされた。30分後、50μlの400nMビオチニル化HB−EGFを細胞に添加し、さらに30分間、氷上でインキュベートした。これは、12.5μM抗体および200nMのHB−EGFの最終濃度を与えた。次に、細胞を500μlのBD染色バッファーを用いて2回洗浄し、BD染色バッファーに含まれる1:200に希釈したストレプトアビジン−PE(PE=フィコエリトリン)(Invitrogen)の100μlとともに45分間、インキュベートした。最後に、細胞を2回洗浄し、300μlのBD染色バッファーに再懸濁し、FACScaliburフローサイトメーターで分析した。陽性対照として、1×105のADRr細胞は、200nMのHB−EGFとともに、30分間、氷上でインキュベートされ、2回洗浄され、1:200に希釈されたストレプトアビジン−PEとともに45分間、インキュベートされた。ストレプトアビジン−PE結合体からのバックグラウンド染色を評価するために、細胞は、1:200に希釈されたストレプトアビジン−PEの100μlだけとともに45分間インキュベートされた。
【0237】
図20Aおよび20Bに示されるように、HB−EGFは、ADRr細胞のErbBに結合し、Ab#6は、この結合を阻害しない。これは、Ab#6が、ErbB3に対するErbB3リガンド(例えば、ヘレグリンおよびエピレグリン)の結合の阻害に特異的であることを証明している。
【0238】
(実施例11)
腫瘍細胞におけるVEGF分泌の阻害
ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)のVEGF分泌を阻害するAb#6の能力は、VEGF分泌アッセイ(VEGF ELISAキット、R&D Systems,Minneapolis,MN,Cat.#DY293Bから利用可能である)を用いて試験された。最初に、未処理、並びにHRG−ベータ1処理されたMCF−7、T47D、およびCOLO−357細胞におけるVEGF分泌を阻害するAb#6の能力を分析した。これらの研究は、COLO−357が培地中に最大量のVEGFを分泌したことを示した。また、これらの細胞は非常に高いHRGレベルを有するので(データ示さず)、培地へのHRGの添加は、VEGF分泌をさらに誘導することができなかった(図24A)。対照的に、HRGは、MCF−7およびT47D細胞におけるVEGF分泌を誘導することができた。
【0239】
Ab#6は、3つの全ての細胞系統において高いレベルで強力な阻害効果を示し、最大はCOLO−357においてであった(図24A)。また、Ab#6は、3種の異なる異種移植においてVEGF分泌を阻害することによって、インビボで同様の効果を示し、最大はCOLO−357異種移植においてであった(図24B)。VEGFの阻害は、ErbB3のリン酸化の阻害と相関している(図24C)。また、VEGF分泌の阻害は、腫瘍細胞の新脈管形成の阻害と相関している。特に、骨髄腫細胞分泌因子、例えばVEGFおよびbFGFは、新脈管形成を誘発することは特定されている(例えば、Leungら(1989)Science 246(4935):1306−9;Yenら(2000)Oncogene 19(31):3460−9を参照されたい)。
【0240】
(実施例12)
細胞移動の阻害
ErbB3を発現している細胞(例えば、MCF−7細胞)の移動を阻害するAb#6の能力は、トランスウェルアッセイ(Millipore Corp.,Billerica,MA,Cat #ECM552)を用いて試験された。最初に、MCF−7細胞は、一晩、血清を枯渇され、次に、Ab#6(最終濃度8uM)の存在および欠如下、15分間、室温でインキュベートされた。その後、細胞が移動できるI型コラーゲンを被覆したメンブレンによって下段チャンバーと分離されている上段チャンバーに細胞を移した。10%FBSは、Ab#6の存在および欠如下で、化学誘引物質として作用するように下段チャンバーの培地に添加された。チャンバーを37℃で16時間インキュベートし、次に、メンブレンを通過して移動した細胞は、脱着バッファーを用いて取り除かれ、細胞結合蛍光色素とともにインキュベートされた。蛍光プレートリーダーを用いて蛍光を定量した。平均の蛍光±SEM(n=2)を図25に示す。
【0241】
図25に示されるように、10%FBSは、未処置の対照(レーン1)と比較して、細胞移動(レーン3)を刺激し、8uMのAb#6は、FBS誘導の細胞移動を阻害する(レーン4)。
【0242】
(実施例13)
スフェロイド増殖の阻害
ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖を阻害するAb#6の能力は、発達している腫瘍増殖の状態を近似するアッセイ(Hermanら(2007)Journal of Biomolecular Screening Electronic publication)を用いて調べた。AdrRおよびDU145スフェロイドは、ハンギングドロップ法(Herrmanら、2008)を用いて、96ウェルプレートのウェルあたり1個のスフェロイドの頻度で開始された。次に、個々のスフェロイドは、指示されるようなAb#6(最終濃度8uM)、ヘレグリン−β1EGFドメイン(R&D Systems,Minneapolis,MN,Cat #396−HB、最終濃度3.4nM)、または両方の組み合わせのいずれかで処理された。スフェロイドの直径は、第1日から第13日で光学顕微鏡(10×対物)を用いて測定された。
【0243】
Ab#6は、AdrR細胞におけるスフェロイド増殖を阻害する(図26A)。さらに、3.4nMのHRGは、スフェロイド増殖を刺激し、Ab#6は、HRG効果を阻害する(図26B)。DU145から得られるスフェロイドは、実験の13日間、大きさが増加しなかった;しかしながら、増殖は、HRG1−ベータ1によって有意に刺激された。これらの細胞において、8uMのAb#6はHRG誘導のスフェロイド増殖を阻害する(図26C)。
【0244】
(実施例14)
シグナル伝達の阻害
異なるリガンドによって誘導されるシグナル伝達を阻害するAb#6の能力を調べた。例えば、ErbB3受容体を発現しているAdrR細胞に対するHRGおよびBTC結合におけるAb#6の効果を試験した。図27AおよびBに示されるように、FACS分析を用いて、Ab#6は、AdrR細胞への結合に対してBTCではなくHRGと競合する。したがって、ErbB3に対するHRG結合のAb#6のブロックは、HRGによって誘導されるシグナル伝達を妨げることになる。
【0245】
さらに、ErbB3リン酸化の誘導について種々のリガンドを試験した。3つのリガンドであるHRG、BTC、およびHGFは、AdrR細胞におけるErbB3誘導のリン酸化を刺激することができ、EGFはできなかった。図28に示されるように、Ab#6は、AdrR細胞におけるHGF誘導のpErbB3リン酸化を阻害する(図28)。さらに、当該技術分野において知られているように(例えば、Walleniusら(2000)Am J Pathol.156(3):821−9 10702398を参照されたい)、増大したHGFシグナル伝達は、種々の上皮および非上皮腫瘍に見いだされた。
【0246】
ErbB3/cMET相互作用、並びにこの相互作用の調節におけるAb#6の役割
上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)における活性化変異を担持する非小細胞肺癌は、METおよびHER3を補充することによって、即ち、PI3K−AKT細胞生存経路を活性化することによってチロシンキナーゼインヒビターに耐性を発現することが知られている(Engelmannら(2007)Science 316:1039−1043;Gou(2007)PNAS:105(2):692−697)。活性化EGFR変異を担持する細胞系統におけるEGFRとc−METとの間の関連性は、同時免疫沈降によって十分に確かめられている(Engelmannら、2007;Gou,2007)。Guoらは、最近、c−METおよびErbB3も、同時免疫沈降を用いて、増幅したc−METに依存することが知られている胃の細胞系統MKN45において複合体で存在することを示した。
【0247】
また、このc−MET−erbB3相互作用は、野生型EGFRを担持しているAdrR細胞に起こり、増幅したc−METに依存しない。HGF(肝細胞増殖因子)は、図28に示されるように、投薬量に依存した様式でAdrR細胞においてErbB3リン酸化を誘導する。さらに、Ab#6は、HGF誘導のerbB3のリン酸化を阻害する。
【0248】
また、ErbB1およびErbB3の両者のリン酸化に対するHRGおよびBTCの効果が調べられ、HRGおよびBTCは、ErbB1およびErbB3の両方のリン酸化を誘導することが見いだされた。HRGは、ErbB3のリン酸化のより強力な誘導物質であることが見いだされ、BTCは、ErbB1のリン酸化の強力な誘導物質であった(図29)。このリン酸化は、ErbB1とErbB3との間の複合体によって駆動される可能性がある。要約すると、ErbB3へのHRG結合は、ErbB1とErbB3との間の複合体形成を誘導し、両方の受容体の活性化をもたらす。同じ現象は、BTCについてもありそうであり、この場合、ErbB1に対するBTC結合は、ErbB1とErbB3との間の複合体形成を刺激し、ErbB1およびErbB3の両方のリン酸化をもたらす。
【0249】
リガンド(HRG、BTC、EGF、およびHGF)刺激ErbB3リン酸化の抗体阻害
リガンド(HRG、BTC、EGF、およびHGF)誘導のErbB3のリン酸化を阻害するAb#6の能力は、下記の方法に基づいて調べられた:
1.10%FBSを含むRPMI培地に30,000細胞/ウェル/100μLの密度で96ウェルプレートにAdrR細胞を播種し、一晩増殖させた;
2.翌日、培地をFBSを含まない培地に変えることによって細胞を血清枯渇にし、一晩増殖させた;
3.異なる濃度のAb#6(0.01nM〜100nM)、またはバッファー(対照)を用いて2時間、細胞を前処理した;
4.次に、細胞を10nM HRGおよびHGFで10分間、または10nM BTCおよびEGFで5分間刺激した;
5.培地を除去することによって反応を停止させ、細胞を氷冷PBSで1回洗浄した;
6.その後、1×プロテアーゼインヒビターおよび1×ホスファターゼインヒビターを含む、25mM Tris、pH+7.5、150mM NaCl、1mM EDTA、1.0% Triton X−100、1.0% CHAPS、10%v/vグリセロールに細胞を溶解させ;そして、
7.ErbB3リン酸化は、Human Phospho−ErbB3 ELISAキット(R&D Systems,Minneapolis,MN,Cat.DYC1769)を用いて、製造業者の指図書に従って、細胞溶解物において測定された。
【0250】
ErbB2−ErbB3タンパク質複合体形成の抗体阻害
AdrR細胞は、バッファー(対照)、または250nM Ab#6とともに60分間、室温でプレインキュベートされ、次に10nM HRGもしくは10nM BTCまたは対照バッファーを用いて10分間処理された。0.2mM PMSF、50mTU/mLアプロチニン、および100uMロイペプチンを含む、25mM Tris、pH+7.5、150mM NaCl、1mM EDTA、1.0% Triton X−100、1.0% CHAPS、10%v/vグリセロールに細胞を溶解し、粗製溶解物を簡単に遠心して、不溶性物質を除去した。上清は、新しいエッペンドルフチューブに移され、そして抗ErbB3抗体(Santa Cruz sc−285)を1:500希釈で添加した。上清は、穏やかに振とうしながら、4Cで一晩インキュベートされた。60ulのImmobilized Protein A/Gアガロースビーズ(Pierce,Rockford,IL,Cat#20421)は、初めに1×PBSで洗浄された。細胞溶解物−抗体混合物をPBS洗浄したビーズに添加し、穏やかに振とうしながら4℃で2時間インキュベートした。次に、免疫沈降物を氷冷した溶解バッファーを用いて3回洗浄し、30ulの2×SDS試料バッファーに再懸濁させ、95℃で7分間熱変性し、4〜12%のBis−Trisゲル上で移動させた。SDS−PAGEを行い、10%MeOHを含むTri−グリシンバッファー中でPVDFメンブレンに電気的に移した。10mlのブロッキングバッファー(Li−Cor Biosciences,Lincoln,NE,Cat#927−40000)中でメンブレンを1時間ブロッキングし、次に、10mlのブロッキングバッファー(Li−Cor Biosciences,Cat#927−40000)に含まれる1:1000での抗ErbB2抗体(Cell Signaling Technology,Danvers,MA,Cat#29D8)とともにインキュベートした。シグナルは、10mlのブロッキングバッファー(Li−Cor Biosciences,Cat#927−40000)に含まれる1:5000(2μl)でのヤギ抗ウサギIRDye800を用いて検出された。
【0251】
また、Ab#6は、HRGによって刺激されたErbB2/3複合体形成を完全に阻害することが示された(図29B)。
【0252】
均等物
当業者は、ほんの日常的な実験を用いて、本明細書に記載されている本発明の特定の態様の多くの均等物を認識し、または確認することができる。このような均等物は、下記の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。従属クレームに開示されている態様のいずれかの組み合わせは、本発明の範囲内にあることが意図される。
【0253】
参照による援用
本明細書に言及されている全ての刊行物、特許、係属している特許出願は、全体として参照により本明細書に援用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ErbB3に結合し、EGF様リガンド媒介のErbB3のリン酸化を阻害する、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項2】
ErbB3に結合する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分は、下記の特性:
(i)ErbB3を介したヘレグリン、エピレグリン、ベータセルリン、エピゲンもしくはビレグリン(biregulin)媒介のシグナル伝達の阻害;
(ii)ErbB3を発現している細胞の増殖の阻害;
(iii)細胞表面上のErbB3レベルを減少させる能力;
(iv)ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌の阻害:
(v)ErbB3を発現している細胞の移動の阻害;
(vi)ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖の阻害;および/または
(vii)ErbB3のドメインIに位置したエピトープへの結合
の1以上を示す単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項3】
請求項1および請求項2のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分がErbB3に結合し、表面プラズモン共鳴アッセイまたは細胞結合アッセイによって測定すると、KDが少なくとも約8nMまたはそれよりも良好である、抗体またはその抗原結合部分。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合部分であって、前記EGF様リガンドが、EGF、TGF−α、ベータセルリン、ヘパリン結合上皮細胞増殖因子、アンフィレグリンおよびビレグリンからなる群から選択される、抗体またはその抗原結合部分。
【請求項5】
ErbB3に結合する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号35、または配列番号37に記載される重鎖可変領域のアミノ酸配列に少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項6】
ErbB3に結合する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号36、または配列番号38に記載される軽鎖可変領域のアミノ酸配列に少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項7】
ErbB3に結合する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号35、または配列番号37に記載される重鎖可変領域のアミノ酸配列に少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項8】
ErbB3に結合する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号36、または配列番号38に記載される軽鎖可変領域のアミノ酸配列に少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項9】
請求項7に記載の抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号36、または配列番号38に記載される軽鎖可変領域のアミノ酸配列に少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をさらに含む、抗体またはその抗原結合部分。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体によって結合されるエピトープと同じであるかまたは該エピトープと重複しているエピトープに結合する単離された抗体またはその抗原結合部分。
【請求項11】
ErbB3のアミノ酸配列の残基20−202に結合する、請求項1〜10のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項12】
ErbB3に結合する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、
CDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む重鎖可変領域;および
CDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む軽鎖可変領域
を含み、ここで、該重鎖可変領域CDR3配列は、配列番号9、15、21、41、47、およびその保存されたアミノ酸置換体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項13】
前記軽鎖可変領域CDR3配列が、配列番号12、18、24、44、50およびその保存されたされた配列改変体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項12に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項14】
前記重鎖可変領域CDR2配列が、配列番号8、14、20、40、46およびその保存された配列改変体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項12または13に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項15】
前記軽鎖可変領域CDR2配列が、配列番号11、17、23、43、49、およびその保存された配列改変体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項12〜14に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項16】
前記重鎖可変領域CDR1配列が、配列番号7、13、19、39、45、およびその保存された配列改変体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項12〜15に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項17】
前記軽鎖可変領域CDR1配列が、配列番号10、16、22、42、48、およびその保存された配列改変体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項12〜16に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項18】
ErbB3に結合し、
(a)配列番号7を含む重鎖可変領域CDR1;
配列番号8を含む重鎖可変領域CDR2;
配列番号9を含む重鎖可変領域CDR3;
配列番号10を含む軽鎖可変領域CDR1;
配列番号11を含む軽鎖可変領域CDR2;
配列番号12を含む軽鎖可変領域CDR3;および
それらの組み合わせ;
(b)配列番号13を含む重鎖可変領域CDR1;
配列番号14を含む重鎖可変領域CDR2;
配列番号15を含む重鎖可変領域CDR3;
配列番号16を含む軽鎖可変領域CDR1;
配列番号17を含む軽鎖可変領域CDR2;
配列番号18を含む軽鎖可変領域CDR3;および
それらの組み合わせ;
(c)配列番号19を含む重鎖可変領域CDR1;
配列番号20を含む重鎖可変領域CDR2;
配列番号21を含む重鎖可変領域CDR3;
配列番号22を含む軽鎖可変領域CDR1;
配列番号23を含む軽鎖可変領域CDR2;
配列番号24を含む軽鎖可変領域CDR3;および
(d)配列番号39を含む重鎖可変領域CDR1;
配列番号40を含む重鎖可変領域CDR2;
配列番号41を含む重鎖可変領域CDR3;
配列番号42を含む軽鎖可変領域CDR1;
配列番号43を含む軽鎖可変領域CDR2;
配列番号44を含む軽鎖可変領域CDR3;および
(e)配列番号45を含む重鎖可変領域CDR1;
配列番号46を含む重鎖可変領域CDR2;
配列番号47を含む重鎖可変領域CDR3;
配列番号48を含む軽鎖可変領域CDR1;
配列番号49を含む軽鎖可変領域CDR2;
配列番号50を含む軽鎖可変領域CDR3;
からなる群から選択される重鎖および軽鎖可変領域CDR1、CDR2およびCDR3を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項19】
ErbB3に結合し、
配列番号7を含む重鎖可変領域CDR1;
配列番号8を含む重鎖可変領域CDR2;
配列番号9を含む重鎖可変領域CDR3;
配列番号10を含む軽鎖可変領域CDR1;
配列番号11を含む軽鎖可変領域CDR2;および
配列番号12を含む軽鎖可変領域CDR3
を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項20】
ErbB3に結合し、
CDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む重鎖可変領域;および
CDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む軽鎖可変領域
を含み、ここで、該重鎖可変領域CDR3配列は、配列番号9、15および21からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項21】
前記軽鎖可変領域CDR3配列が、配列番号12、18および24からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項20に記載の抗体。
【請求項22】
前記重鎖可変領域CDR2配列が、配列番号8、14および20からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項20または21に記載の抗体。
【請求項23】
前記軽鎖可変領域CDR2配列が、配列番号11、17および23からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項20〜22に記載の抗体。
【請求項24】
前記重鎖可変領域CDR1配列が、配列番号7、13および19からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項20〜23に記載の抗体。
【請求項25】
前記軽鎖可変領域CDR1配列が、配列番号10、16および22からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項20〜24に記載の抗体。
【請求項26】
ErbB3に結合する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、ヒトVH3生殖細胞系列遺伝子由来である重鎖可変領域を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項27】
請求項26に記載の抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、さらにヒトVL2生殖細胞系列遺伝子から得られる軽鎖可変領域を含む、抗体またはその抗原結合部分。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体およびキメラ抗体からなる群から選択される、抗体またはその抗原結合部分。
【請求項29】
請求項1〜28のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、Fab、Fab’2、ScFv、SMIP、アフィボディ(affibody)、アビマー(avimer)、ナノボディ(nanobody)、およびドメイン抗体からなる群から選択される、抗体またはその抗原結合部分。
【請求項30】
請求項1〜29のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体のアイソタイプが、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgD、およびIgE抗体からなる群から選択される、抗体またはその抗原結合部分。
【請求項31】
薬学的に許容される担体に含まれる、請求項1〜30のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合部分を含む組成物。
【請求項32】
請求項1〜31のいずれか1項に記載の2以上の抗体を含む組成物であって、該抗体がErbB3の異なるエピトープに結合する、組成物。
【請求項33】
配列番号25の重鎖可変領域、配列番号26の軽鎖可変領域、配列番号27の重鎖可変領域、配列番号28の軽鎖可変領域、配列番号29の重鎖可変領域、配列番号30の軽鎖可変領域、またはそれらの組み合わせと少なくとも90%同一である配列を含む、ErbB3に結合するヒト抗体の可変領域をコードする単離された核酸。
【請求項34】
高ストリンジェントな条件下で、配列番号25の重鎖可変領域、配列番号26の軽鎖可変領域、配列番号27の重鎖可変領域、配列番号28の軽鎖可変領域、配列番号29の重鎖可変領域、または配列番号30の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列とハイブリダイズする配列を含む、ErbB3に結合するヒト抗体の可変領域をコードする単離された核酸。
【請求項35】
請求項33または34に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項36】
請求項35に記載の核酸を含む宿主細胞。
【請求項37】
請求項1〜36のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合部分と同じエピトープに結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を発現するトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項38】
請求項1〜37のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合部分と同じエピトープに結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を発現するトランスジェニック植物。
【請求項39】
請求項1〜38のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合部分を産生するハイブリドーマ。
【請求項40】
ErbB3に結合するヒト抗体を産生するハイブリドーマであって、該抗体が、
(a)配列番号25に記載の重鎖可変領域ヌクレオチド配列と配列番号26に記載の軽鎖可変領域ヌクレオチド配列、およびそれらの保存された配列改変体;
(b)配列番号27に記載の重鎖可変領域ヌクレオチド配列と配列番号28に記載の軽鎖可変領域ヌクレオチド配列、およびそれらの保存された配列改変体;または
(c)配列番号29に記載の重鎖可変領域ヌクレオチド配列と配列番号30に記載の軽鎖可変領域ヌクレオチド配列、およびそれらの保存された配列改変体
によってコードされる、ハイブリドーマ。
【請求項41】
請求項1〜40のいずれか1項に記載の1以上の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を含み、場合により、ErbB3依存性シグナル伝達と関連した疾患の処置または診断における使用のための指図書を含むキット。
【請求項42】
前記疾患が癌である、請求項41に記載のキット。
【請求項43】
被験体においてEGF様リガンドが媒介するErbB3のリン酸化を阻害する方法であって、EGF様が媒介するErbB3のリン酸化を阻害するのに十分な量で、請求項1〜42のいずれか1項に記載の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項44】
請求項1〜43のいずれか1項に記載の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を治療的に有効な量で前記被験体に投与することを含む、該被験体における癌を処置する方法。
【請求項45】
前記癌が、メラノーマ、乳癌、卵巣癌、腎臓癌腫、胃腸/結腸癌、肺癌、明細胞肉腫、および前立腺癌からなる群から選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記被験体がヒトである、請求項43〜45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記抗体またはその抗原結合部分が、前記被験体に静脈内、筋肉内、または皮下に投与される、請求項43〜45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記抗体またはその抗原結合部分が第2の治療用薬物と併用して投与される、請求項44〜47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記第2の薬物が第2の抗体またはその抗原結合部分である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記第2の薬物が抗癌剤である、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
前記抗癌剤が、抗体、小分子、代謝拮抗物質、アルキル化剤、トポイソメラーゼ阻害剤、微小管標的化剤、キナーゼ阻害剤、タンパク質合成阻害剤、免疫治療剤、ホルモンまたはその類似体、ソマトスタチン類似体、グルココルチコイド(glucocortocoid)、アロマトース(aromatose)阻害剤、およびmTOR阻害剤からなる群から選択される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記抗体が、抗IGF1R抗体、抗EGFR抗体、または抗cmet抗体である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記小分子が、IGF1R、EGFR、またはcmetに結合する、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
(a)前記被験体から得られるエクスビボまたはインビボの細胞と、請求項1〜30のいずれかに記載の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分とを接触させる工程と、(b)該細胞上のErbB3への結合レベルを測定する工程とを含み、ここで、異常に高いレベルのErbB3への結合は、該被験体がErbB3と関連した癌を有することを示す、該被験体におけるErbB3と関連した癌を診断する方法。
【請求項1】
ErbB3に結合し、EGF様リガンド媒介のErbB3のリン酸化を阻害する、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項2】
ErbB3に結合する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分は、下記の特性:
(i)ErbB3を介したヘレグリン、エピレグリン、ベータセルリン、エピゲンもしくはビレグリン(biregulin)媒介のシグナル伝達の阻害;
(ii)ErbB3を発現している細胞の増殖の阻害;
(iii)細胞表面上のErbB3レベルを減少させる能力;
(iv)ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌の阻害:
(v)ErbB3を発現している細胞の移動の阻害;
(vi)ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖の阻害;および/または
(vii)ErbB3のドメインIに位置したエピトープへの結合
の1以上を示す単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項3】
請求項1および請求項2のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分がErbB3に結合し、表面プラズモン共鳴アッセイまたは細胞結合アッセイによって測定すると、KDが少なくとも約8nMまたはそれよりも良好である、抗体またはその抗原結合部分。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合部分であって、前記EGF様リガンドが、EGF、TGF−α、ベータセルリン、ヘパリン結合上皮細胞増殖因子、アンフィレグリンおよびビレグリンからなる群から選択される、抗体またはその抗原結合部分。
【請求項5】
ErbB3に結合する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号35、または配列番号37に記載される重鎖可変領域のアミノ酸配列に少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項6】
ErbB3に結合する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号36、または配列番号38に記載される軽鎖可変領域のアミノ酸配列に少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項7】
ErbB3に結合する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号35、または配列番号37に記載される重鎖可変領域のアミノ酸配列に少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項8】
ErbB3に結合する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号36、または配列番号38に記載される軽鎖可変領域のアミノ酸配列に少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項9】
請求項7に記載の抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号36、または配列番号38に記載される軽鎖可変領域のアミノ酸配列に少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をさらに含む、抗体またはその抗原結合部分。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体によって結合されるエピトープと同じであるかまたは該エピトープと重複しているエピトープに結合する単離された抗体またはその抗原結合部分。
【請求項11】
ErbB3のアミノ酸配列の残基20−202に結合する、請求項1〜10のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項12】
ErbB3に結合する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、
CDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む重鎖可変領域;および
CDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む軽鎖可変領域
を含み、ここで、該重鎖可変領域CDR3配列は、配列番号9、15、21、41、47、およびその保存されたアミノ酸置換体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項13】
前記軽鎖可変領域CDR3配列が、配列番号12、18、24、44、50およびその保存されたされた配列改変体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項12に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項14】
前記重鎖可変領域CDR2配列が、配列番号8、14、20、40、46およびその保存された配列改変体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項12または13に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項15】
前記軽鎖可変領域CDR2配列が、配列番号11、17、23、43、49、およびその保存された配列改変体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項12〜14に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項16】
前記重鎖可変領域CDR1配列が、配列番号7、13、19、39、45、およびその保存された配列改変体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項12〜15に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項17】
前記軽鎖可変領域CDR1配列が、配列番号10、16、22、42、48、およびその保存された配列改変体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項12〜16に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項18】
ErbB3に結合し、
(a)配列番号7を含む重鎖可変領域CDR1;
配列番号8を含む重鎖可変領域CDR2;
配列番号9を含む重鎖可変領域CDR3;
配列番号10を含む軽鎖可変領域CDR1;
配列番号11を含む軽鎖可変領域CDR2;
配列番号12を含む軽鎖可変領域CDR3;および
それらの組み合わせ;
(b)配列番号13を含む重鎖可変領域CDR1;
配列番号14を含む重鎖可変領域CDR2;
配列番号15を含む重鎖可変領域CDR3;
配列番号16を含む軽鎖可変領域CDR1;
配列番号17を含む軽鎖可変領域CDR2;
配列番号18を含む軽鎖可変領域CDR3;および
それらの組み合わせ;
(c)配列番号19を含む重鎖可変領域CDR1;
配列番号20を含む重鎖可変領域CDR2;
配列番号21を含む重鎖可変領域CDR3;
配列番号22を含む軽鎖可変領域CDR1;
配列番号23を含む軽鎖可変領域CDR2;
配列番号24を含む軽鎖可変領域CDR3;および
(d)配列番号39を含む重鎖可変領域CDR1;
配列番号40を含む重鎖可変領域CDR2;
配列番号41を含む重鎖可変領域CDR3;
配列番号42を含む軽鎖可変領域CDR1;
配列番号43を含む軽鎖可変領域CDR2;
配列番号44を含む軽鎖可変領域CDR3;および
(e)配列番号45を含む重鎖可変領域CDR1;
配列番号46を含む重鎖可変領域CDR2;
配列番号47を含む重鎖可変領域CDR3;
配列番号48を含む軽鎖可変領域CDR1;
配列番号49を含む軽鎖可変領域CDR2;
配列番号50を含む軽鎖可変領域CDR3;
からなる群から選択される重鎖および軽鎖可変領域CDR1、CDR2およびCDR3を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項19】
ErbB3に結合し、
配列番号7を含む重鎖可変領域CDR1;
配列番号8を含む重鎖可変領域CDR2;
配列番号9を含む重鎖可変領域CDR3;
配列番号10を含む軽鎖可変領域CDR1;
配列番号11を含む軽鎖可変領域CDR2;および
配列番号12を含む軽鎖可変領域CDR3
を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項20】
ErbB3に結合し、
CDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む重鎖可変領域;および
CDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む軽鎖可変領域
を含み、ここで、該重鎖可変領域CDR3配列は、配列番号9、15および21からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項21】
前記軽鎖可変領域CDR3配列が、配列番号12、18および24からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項20に記載の抗体。
【請求項22】
前記重鎖可変領域CDR2配列が、配列番号8、14および20からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項20または21に記載の抗体。
【請求項23】
前記軽鎖可変領域CDR2配列が、配列番号11、17および23からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項20〜22に記載の抗体。
【請求項24】
前記重鎖可変領域CDR1配列が、配列番号7、13および19からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項20〜23に記載の抗体。
【請求項25】
前記軽鎖可変領域CDR1配列が、配列番号10、16および22からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項20〜24に記載の抗体。
【請求項26】
ErbB3に結合する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、ヒトVH3生殖細胞系列遺伝子由来である重鎖可変領域を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項27】
請求項26に記載の抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、さらにヒトVL2生殖細胞系列遺伝子から得られる軽鎖可変領域を含む、抗体またはその抗原結合部分。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体およびキメラ抗体からなる群から選択される、抗体またはその抗原結合部分。
【請求項29】
請求項1〜28のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体またはその抗原結合部分が、Fab、Fab’2、ScFv、SMIP、アフィボディ(affibody)、アビマー(avimer)、ナノボディ(nanobody)、およびドメイン抗体からなる群から選択される、抗体またはその抗原結合部分。
【請求項30】
請求項1〜29のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合部分であって、該抗体のアイソタイプが、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgD、およびIgE抗体からなる群から選択される、抗体またはその抗原結合部分。
【請求項31】
薬学的に許容される担体に含まれる、請求項1〜30のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合部分を含む組成物。
【請求項32】
請求項1〜31のいずれか1項に記載の2以上の抗体を含む組成物であって、該抗体がErbB3の異なるエピトープに結合する、組成物。
【請求項33】
配列番号25の重鎖可変領域、配列番号26の軽鎖可変領域、配列番号27の重鎖可変領域、配列番号28の軽鎖可変領域、配列番号29の重鎖可変領域、配列番号30の軽鎖可変領域、またはそれらの組み合わせと少なくとも90%同一である配列を含む、ErbB3に結合するヒト抗体の可変領域をコードする単離された核酸。
【請求項34】
高ストリンジェントな条件下で、配列番号25の重鎖可変領域、配列番号26の軽鎖可変領域、配列番号27の重鎖可変領域、配列番号28の軽鎖可変領域、配列番号29の重鎖可変領域、または配列番号30の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列とハイブリダイズする配列を含む、ErbB3に結合するヒト抗体の可変領域をコードする単離された核酸。
【請求項35】
請求項33または34に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項36】
請求項35に記載の核酸を含む宿主細胞。
【請求項37】
請求項1〜36のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合部分と同じエピトープに結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を発現するトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項38】
請求項1〜37のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合部分と同じエピトープに結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を発現するトランスジェニック植物。
【請求項39】
請求項1〜38のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合部分を産生するハイブリドーマ。
【請求項40】
ErbB3に結合するヒト抗体を産生するハイブリドーマであって、該抗体が、
(a)配列番号25に記載の重鎖可変領域ヌクレオチド配列と配列番号26に記載の軽鎖可変領域ヌクレオチド配列、およびそれらの保存された配列改変体;
(b)配列番号27に記載の重鎖可変領域ヌクレオチド配列と配列番号28に記載の軽鎖可変領域ヌクレオチド配列、およびそれらの保存された配列改変体;または
(c)配列番号29に記載の重鎖可変領域ヌクレオチド配列と配列番号30に記載の軽鎖可変領域ヌクレオチド配列、およびそれらの保存された配列改変体
によってコードされる、ハイブリドーマ。
【請求項41】
請求項1〜40のいずれか1項に記載の1以上の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を含み、場合により、ErbB3依存性シグナル伝達と関連した疾患の処置または診断における使用のための指図書を含むキット。
【請求項42】
前記疾患が癌である、請求項41に記載のキット。
【請求項43】
被験体においてEGF様リガンドが媒介するErbB3のリン酸化を阻害する方法であって、EGF様が媒介するErbB3のリン酸化を阻害するのに十分な量で、請求項1〜42のいずれか1項に記載の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項44】
請求項1〜43のいずれか1項に記載の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を治療的に有効な量で前記被験体に投与することを含む、該被験体における癌を処置する方法。
【請求項45】
前記癌が、メラノーマ、乳癌、卵巣癌、腎臓癌腫、胃腸/結腸癌、肺癌、明細胞肉腫、および前立腺癌からなる群から選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記被験体がヒトである、請求項43〜45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記抗体またはその抗原結合部分が、前記被験体に静脈内、筋肉内、または皮下に投与される、請求項43〜45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記抗体またはその抗原結合部分が第2の治療用薬物と併用して投与される、請求項44〜47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記第2の薬物が第2の抗体またはその抗原結合部分である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記第2の薬物が抗癌剤である、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
前記抗癌剤が、抗体、小分子、代謝拮抗物質、アルキル化剤、トポイソメラーゼ阻害剤、微小管標的化剤、キナーゼ阻害剤、タンパク質合成阻害剤、免疫治療剤、ホルモンまたはその類似体、ソマトスタチン類似体、グルココルチコイド(glucocortocoid)、アロマトース(aromatose)阻害剤、およびmTOR阻害剤からなる群から選択される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記抗体が、抗IGF1R抗体、抗EGFR抗体、または抗cmet抗体である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記小分子が、IGF1R、EGFR、またはcmetに結合する、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
(a)前記被験体から得られるエクスビボまたはインビボの細胞と、請求項1〜30のいずれかに記載の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分とを接触させる工程と、(b)該細胞上のErbB3への結合レベルを測定する工程とを含み、ここで、異常に高いレベルのErbB3への結合は、該被験体がErbB3と関連した癌を有することを示す、該被験体におけるErbB3と関連した癌を診断する方法。
【図1A】
【図1B】
【図2−1】
【図2−2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6−1】
【図6−2】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21A】
【図21B】
【図21C】
【図22A】
【図22B】
【図23】
【図24A】
【図24B】
【図24C】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29A】
【図29B】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図30】
【図1B】
【図2−1】
【図2−2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6−1】
【図6−2】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21A】
【図21B】
【図21C】
【図22A】
【図22B】
【図23】
【図24A】
【図24B】
【図24C】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29A】
【図29B】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図30】
【公表番号】特表2010−518820(P2010−518820A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549644(P2009−549644)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/002119
【国際公開番号】WO2008/100624
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(508044829)メリマック ファーマシューティカルズ インコーポレーティッド (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/002119
【国際公開番号】WO2008/100624
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(508044829)メリマック ファーマシューティカルズ インコーポレーティッド (8)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]