説明

EUVL用光学部材、およびその平滑化方法

【課題】EUVL用光学部材の凹欠点を有する光学面を平滑化する方法の提供。
【解決手段】TiO2を含有し、SiO2を主成分とする石英ガラス材料製のEUVリソグラフィ(EUVL)用光学部材の凹欠点を有する光学面に対して、波長250nm以下のエキシマレーザをフルエンス0.5〜2.0J/cm2で照射することにより、EUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUVリソグラフィ(以下、「EUVL」と略する。)用光学部材の平滑化方法に関する。より具体的には、EUVL用光学部材のピットやスクラッチのような凹欠点を有する光学面を平滑化する方法(以下、「本発明の平滑化方法」という。)に関する。
また、本発明は、本発明の平滑化方法により得られるEUVL用光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リソグラフィ技術においては、ウェハ上に微細な回路パターンを転写して集積回路を製造するための露光装置が広く利用されている。集積回路の高集積化、高速化および高機能化に伴い、集積回路の微細化が進み、露光装置には深い焦点深度で高解像度の回路パターンをウェハ面上に結像させることが求められ、露光光源の短波長化が進められている。露光光源は、従来のg線(波長436nm)、i線(波長365nm)やKrFエキシマレーザ(波長248nm)から更に進んでArFエキシマレーザ(波長193nm)が用いられ始めている。また、回路の線幅が70nm以下となる次世代の集積回路に対応するため、ArFエキシマレーザを用いた液浸露光技術や二重露光技術が有力視されているが、これも線幅が45nm世代までしかカバーできないとみられている。
【0003】
このような技術動向にあって、次の世代の露光光源としてEUV光を使用したリソグラフィ(EUVL)技術が、32nm以降の世代にわたって適用可能と見られ注目されている。EUV光とは軟X線領域または真空紫外域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2〜100nm程度の光のことである。現時点では、リソグラフィ光源として13.5nmの使用が検討されている。このEUVリソグラフィの露光原理は、投影光学系を用いてマスクパターンを転写する点では、従来のリソグラフィと同じであるが、EUV光のエネルギー領域では光を透過する材料がないために屈折光学系を用いることができず、反射光学系を用いることとなる。
【0004】
EUVLに用いられる反射光学系としては、例えば、反射型マスク(以下、本明細書において、「EUVL用マスク」という。)や、集光光学系ミラー、照明光学系ミラー、投影光学系ミラー等のミラー(以下、本明細書において、「EUVL用ミラー」という。)が挙げられる。
EUVL用マスクの製造に用いられるEUVL用マスクブランクは、(1)EUVL用光学部材(例えば、ガラス基板)、(2)EUVL用光学部材の光学面に形成された反射多層膜、および(3)反射多層膜上に形成された吸収体層から基本的に構成される。一方、EUVL用ミラーは、(1)EUVL用光学部材(例えば、ガラス基板)、および(2)EUVL用光学部材の光学面に形成された反射多層膜から基本的に構成される。
【0005】
EUVL用光学部材としては、EUV光照射下においても歪みが生じないよう低熱膨張係数を有する材料が必要とされ、低熱膨張係数を有するガラスまたは低熱膨張係数を有する結晶化ガラスの使用が検討されている。以下、本明細書において、低熱膨張係数を有するガラスおよび低熱膨張係数を有する結晶化ガラスを総称して、「低膨張ガラス」または「超低膨張ガラス」という。
このような低膨張ガラスおよび超低膨張ガラスとしては、ガラスの熱膨張係数を下げるためにドーパントが添加された石英ガラスが最も広く使用されている。なお、ガラスの熱膨張係数を下げる目的で添加するドーパントは、代表的にはTiO2である。ドーパントとしてTiO2が添加された石英ガラスの具体例としては、例えば、ULE(登録商標)コード7972(コーニング社製)、旭硝子株式会社製品番AZ6025などが挙げられる。
【0006】
反射多層膜としては、露光光であるEUV光の波長域における屈折率の異なる複数の材料がnmオーダーで周期的に積層された構造のものが用いられ、EUV光の波長域における屈折率が高い層(高屈折率層)であるモリブデン(Mo)層とEUV光の波長域における屈折率が低い層(低屈折率層)であるケイ素(Si)層とを交互に積層することで、EUV光を層表面に照射した際の光線反射率が高められた反射多層膜が最も一般的である。吸収体層には、EUV光に対する吸収係数の高い材料、具体的には、たとえばCrやTaを主成分とする材料が用いられる。
【0007】
EUVL用光学部材の光学面に微少な凹凸が存在すると、該光学面上に形成される反射多層膜および吸収体層に悪影響を及ぼす。例えば、光学面に微小な凹凸が存在すると、該光学面上に形成される反射多層膜の周期構造が乱され、該EUVL用光学部材を用いて作製されたEUVL用マスクやEUVL用ミラーを用いてEUVLを実施した際に、所望のパターンの一部が欠損、あるいは所望のパターン以外に余分なパターンが形成される場合がある。光学面に存在する凹凸に起因する反射多層膜の周期構造の乱れは位相欠陥と呼ばれ重大な問題であり、光学面には所定のサイズ以上の凹凸が無いことが望ましい。
【0008】
非特許文献1および2には、EUVL用マスクおよびEUVL用マスクブランクの欠点に関する要求が記載されており、これら欠点に関する要求は非常に厳しいものである。非特許文献1には、基板上に50nmを超える欠点が存在すると、反射多層膜の構造に乱れを生じさせ、Siウェハ上のレジストに投影されるパターンに予期せぬ形状を生じさせることから許容できないと記載されている。また、非特許文献1には、Siウェハ上のレジストに投影されるパターンで、ラインエッジの粗さが増加するのを防止するために、基板の表面粗さはRMS(二乗平均平方根粗さ)で0.15nm未満であることが必要であると記載されている。非特許文献2には、EUVリソグラフィに使用される、反射多層膜でコートされたマスクブランクに25nmを超える欠点が存在することは許容できないと記載されている。
また、非特許文献3には、基板上のどの程度の大きさの欠点が、転写される可能性があるか記載されている。非特許文献3には、位相欠陥がプリントされたイメージのライン幅を変える可能性があると記載されている。高さ2nm、FWHM(full width at half maximum)60nmの表面バンプを有する位相欠陥が、該欠点が転写される可能性があるか否かの境目となるサイズであり、この大きさの位相欠陥は35nmのラインに対して20%という許容不可能なライン幅の変化(マスク上、140nm)を生じると記載されている。
また、特許文献1には、EUVL用マスク基板の凹凸部の表面または裏面近傍にレーザ光を集光することにより凹凸部を修正する方法が記載されている。
【0009】
【非特許文献1】SEMI、 P37-1102 (2002)、 “極端紫外リソグラフィマスクブランクに関する指定”(Specification for extreme ultraviolet lithography mask substrate)
【非特許文献2】SEMI、 P38-1102 (2002)、 “極端紫外リソグラフィマスクブランクの吸収膜スタックおよび多層膜に関する指定”(Specification for absorbing film stacks and multilayers on extreme ultraviolet lithography mask blanks)
【非特許文献3】SPIE、 vol. 4889、 Alan Stivers.、 et. al.、 p.408-417 (2002)、 “EUVマスクブランクの検査用のマルチビーム共焦点評価システムの評価能力”(Evaluation of the Capability of a Multibeam Confocal Inspection System for Inspection of EUVL Mask Blanks)
【特許文献1】特開2008−027992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
光学面に存在する微小な凹凸のうち、異物やファイバのようなパーティクルや基板自体のバンプなどの凸欠点は、フッ酸やアンモニア水を用いた従来の湿式洗浄方法や、ブラシ洗浄、または精密研磨等によって除去することができる。
しかしながら、ピットやスクラッチのような凹欠点は、これらの方法では除去することができない。しかも、凸欠点を除去するために、フッ酸やアンモニア水を用いた湿式洗浄方法を用いた場合、凸欠点をリフトオフして除去するために、光学面をわずかにエッチングすることが必要であるため、光学面に新たな凹欠点が生じるおそれがある。凸欠点を除去するために、ブラシ洗浄を用いた場合も、光学面に新たな凹欠点が生じるおそれがある。
また、特許文献1に記載の方法では、凹凸の位置を特定し、凹部であるか凸部であるかによって、レーザ光を集光される位置を基板表面近傍または基板裏面近傍に変更する必要があり、微細な凹凸欠点については対応が困難であるという問題がある。
【0011】
本発明は、上記した従来技術における問題点を解決するために、EUVL用光学部材のピットやスクラッチのような凹欠点を有する光学面を平滑化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本願発明者らは鋭意検討した結果、特定の波長域で、かつ、特定のフルエンスのエキシマレーザを光学面に照射することにより、平坦度の悪化、表面粗さの悪化といったエキシマレーザの照射による悪影響を軽微に抑えつつ、凹欠点を有する光学面を平滑化できることを見出した。
本発明は、上記した本願発明者らによる知見に基づいてなされたものであり、TiO2を含有し、SiO2を主成分とする石英ガラス材料製のEUVL用光学部材の凹欠点を有する光学面に対して、波長250nm以下のエキシマレーザをフルエンス0.5〜2.0J/cm2で照射することにより、EUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法(本発明の平滑化方法)を提供する。
本発明の平滑化方法において、前記EUVL用光学部材の凹欠点を有する光学面に対して、前記波長250nm以下のエキシマレーザをフルエンス0.7〜2.0J/cm2で照射することにより、下記式で定義されるEUVL用光学部材の光学面の凹欠点深さ修復率を50%以上とすることが好ましい。
凹欠点深さ修復率(%)=((エキシマレーザ照射前の凹欠点の深さ(PV値))−(エキシマレーザ照射後の凹欠点の深さ(PV値))/(エキシマレーザ照射前の凹欠点の深さ(PV値))×100
【0013】
本発明の平滑化方法において、深さ2nm超10nm以下の凹欠点を有するEUVL用光学部材の光学面に対して、波長250nm以下のエキシマレーザをフルエンス0.7〜2.0J/cm2で照射して、(1)〜(3)を満たす光学部材とすることが好ましい。
(1)エキシマレーザ照射後の光学面に深さ2nm超の凹欠点が存在しない。
(2)エキシマレーザ照射後の光学部材の平坦度が50nm以下。
(3)エキシマレーザ照射後の光学面の表面粗さ(RMS)が0.15nm以下。
【0014】
本発明の平滑化方法において、前記EUVL用光学部材の光学面全体に対して前記エキシマレーザを照射することが好ましい。
【0015】
本発明の平滑化方法において、前記EUVL用光学部材のTiO2濃度が3〜10質量%であることが好ましい。
【0016】
本発明の平滑化方法において、前記エキシマレーザのパルス幅が100nsec以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の平滑化方法において、各照射部位におけるショット数が10以上となるように、前記光学面に前記エキシマレーザを照射することが好ましい。
ここで、ショット数とは同一箇所に、エキシマレーザを照射する回数をいい、エキシマレーザをパルスレーザとして光学面に照射し、該エキシマレーザを該光学面上で走査させる、または、該エキシマレーザ光に対して前記光学面を走査させる場合のショット数は、パルスレーザの繰返し周波数×走査方向のビーム幅÷走査速度で定義される。
【0018】
本発明の平滑化方法において、前記エキシマレーザをラインビームとして前記光学面に照射し、該ラインビームを該光学面上で走査させる、または、該ラインビームに対して前記光学面を走査させることが好ましい。
【0019】
本発明の平滑化方法において、さらに、前記光学面に対する裏面に対して、波長250nm以下のエキシマレーザをフルエンス0.5〜2.0J/cm2で照射してもよい。
この場合、前記裏面全体に対して前記エキシマレーザを照射することが好ましい。
【0020】
本発明の平滑化方法において、前記光学面に照射するエキシマレーザのフルエンスF1と、前記裏面に照射するエキシマレーザのフルエンスF2と、が下記式の関係を満たすことが好ましい。
0.5≦ F1/F2 ≦1.5
【0021】
本発明の平滑化方法において、前記裏面に照射するエキシマレーザのパルス幅が100nsec以下であることが好ましい。
【0022】
本発明の平滑化方法において、各照射部位におけるショット数が10以上となるように、前記裏面に前記エキシマレーザを照射することが好ましい。
【0023】
本発明の平滑化方法において、前記エキシマレーザをラインビームとして前記裏面に照射し、該ラインビームを該裏面上で走査させる、または、該ラインビームに対して前記裏面を走査させることが好ましい。
【0024】
本発明の平滑化方法において、前記ガラス基板を100〜1050℃に加熱した状態で前記光学面にエキシマレーザを照射することが好ましい。
【0025】
また、本発明は、光学面のみにエキシマレーザを照射する本発明の平滑化方法により得られる、前記光学面を含む表層の仮想温度が、前記光学面に対する裏面を含む表層および前記光学部材の内部の仮想温度よりも30℃以上高いことを特徴とするEUVL用光学部材を提供する。
【0026】
また、本発明は、光学面および裏面にエキシマレーザを照射する本発明の平滑化方法により得られる、前記光学面を含む表層の仮想温度、および、前記裏面を含む表層の仮想温度が、光学部材の内部の仮想温度よりも30℃以上高いことを特徴とするEUVL用光学部材を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の平滑化方法によれば、EUVL用光学部材の凹欠点を有する光学面に、波長250nm以下のエキシマレーザをフルエンス0.5〜2.0J/cm2で照射することにより、平坦度の悪化や表面粗さの悪化といったエキシマレーザの照射による悪影響を軽微に抑えつつ該光学面を平滑化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の平滑化方法について説明する。
本発明の平滑化方法は、EUVL用光学部材の凹欠点を有する光学面に対して、波長250nm以下のエキシマレーザをフルエンス0.5〜2.0J/cm2で照射することにより該光学面を平滑化する方法である。
【0029】
本発明の平滑化方法が対象とするEUVL用光学部材は、SiO2を主成分とする石英ガラス材料製であり、熱膨張係数を下げるためのドーパントとしてTiO2が添加されている。
石英ガラス材料におけるTiO2濃度は、石英ガラス材料の熱膨張係数をEUVL用光学部材として使用するのに十分低くすることができる限り特に限定されないが、3〜10質量%であることが好ましい。TiO2濃度が上記範囲であれば、石英ガラス材料の熱膨張係数が十分低くなり、具体的には、20℃における熱膨張係数が0±30ppb/℃の低膨張ガラス、好ましくは、20℃における熱膨張係数が0±10ppb/℃の超低膨張ガラスとなる。
石英ガラス材料には、熱膨張係数を下げるためのドーパントとして、TiO2以外のドーパントが添加されていてもよい。このようなドーパントしては、例えば、SnO2が挙げられる。ドーパントとしてSnO2を添加する場合、石英ガラス材料におけるSnO2濃度は、石英ガラス材料の熱膨張係数をEUVL用光学部材として使用するのに十分低くすることができる限り特に限定されないが、0.1〜10質量%であることが好ましい。ドーパントとしてSnO2を添加する場合、SnO2濃度は、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、SnO2濃度は、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
ドーパントとしてTiO2が上記濃度で添加された低膨張ガラスおよび超低膨張ガラスの具体例としては、例えば、ULE(登録商標)コード7972(コーニング社製)などが挙げられる。
【0030】
EUVL用の光学部材は、その光学面が高い平滑性および平坦度を有していることが要求される。具体的には、光学面はRMS(二乗平均平方根粗さ)で表される表面粗さが0.15nm以下の平滑な表面と、50nm以下の平坦度を有していることが要求される。これらの要求値を満たしても、なお光学面にはピットやスクラッチと呼ばれる局在した凹欠点が存在している場合がある。
【0031】
また、EUVL用光学部材は、EUVL用マスクブランク若しくはEUVL用ミラーを製造した後の洗浄、またはEUVL用マスクブランクをパターニングした後のEUVL用マスクの洗浄等に用いる洗浄液への耐性に優れたものであることが好ましい。
また、EUVL用光学部材は、光学面上に形成される反射多層膜および吸収体層の膜応力によって変形するのを防止するために、高い剛性を有しているものが好ましい。特に、3×1072/s2以上の高い比剛性を有しているものが好ましい。
EUVL用光学部材の大きさや厚みなどは、用途によって異なるが、用途がEUVL用マスクブランクの場合、EUVL用マスクの設計値等により適宜決定されるものである。具体例を挙げると、例えば外形6インチ(152.4mm)角程度で、厚さ0.25インチ(6.3mm)程度のものがある。
【0032】
本発明の平滑化方法を実施する場合、まず始めに、予め準備したEUVL用光学部材の光学面を酸化セリウム、酸化ジルコニウム、コロイダルシリカ等の研磨砥粒を用いて研磨し、その後フッ酸、ケイフッ酸、硫酸等の酸性溶液や、アンモニア水等のアルカリ溶液、または純水を用いて光学面を洗浄し、乾燥する。光学面に異物やファイバのようなパーティクルが存在する場合や、光学部材自体にバンプなどの凸欠点が存在する場合、これらの手順によって除去される。
本発明の平滑化方法は、上記の手順で表面研磨および洗浄を実施することにより、凸欠点が除去された光学面に対して好ましく使用される。
【0033】
光学面に存在する凹欠点のサイズが非常に小さい場合、EUVL用光学部材を用いて製造されるEUVL用マスクブランクまたはEUVL用ミラーに悪影響が及ぶおそれはない。しかしながら、光学面にある大きさ以上の凹欠点が存在すると、光学面上に形成される反射多層膜表面や吸収体層表面に凹欠点が現れ、該光学部材を用いて製造されるEUVL用マスクブランクやEUVL用ミラーの欠点となる場合がある。
【0034】
光学面にどの程度の大きさの凹欠点が存在すると、EUVLマスクブランクやEUVL用ミラーの欠点となるかは、凹欠点の直径と深さおよび形状、ならびに光学部材の用途に影響されるため一概には言えないが、EUVLマスクブランクの製造に用いる光学部材の場合、光学面に深さ2nm超の凹欠点が存在すると、光学面上に形成される反射多層膜表面または吸収体層表面に凹欠点が現れてEUVLマスクブランクの欠点となる場合があり、また、反射多層膜表面や吸収体層表面に凹欠点が表されない場合であっても、それら膜中で構造が乱されることによって位相欠陥となる場合があるが、深さが2nm以下となると解像されず実用上の欠点とならなくなるため、本発明の基板平滑化方法を用いて、光学面を平滑化することが好ましい。
一方、深さ10nm以上の大きな凹欠点は、光学面に存在する異物や、バンプなどの凸欠点が除去する目的で実施される研磨によって解消するほうが、処理に要する時間、コスト等の点から適切である。
したがって、本発明の平滑化方法は、光学面に深さ2nm超10nm以下の凹欠点を有するEUVL用光学部材に対して用いることが好ましい。
【0035】
本発明の平滑化方法において、凹欠点を有する光学面に対して、波長250nm以下のエキシマレーザをフルエンス0.5〜2.0J/cm2で照射することにより、光学面が平滑化されるメカニズムとしては、エキシマレーザの照射により加熱された凹欠点の周囲の石英ガラスがリフローして凹欠点が埋まることによって光学面が平滑化されるものと推測する。
本願発明者らが、このように推測する理由として、エキシマレーザが照射された光学面を含む表層の仮想温度が上昇し、該光学部材の他の部位、すなわち、光学部材の内部(該表層との比較で)や光学面に対して裏面側(裏面を含む表層)に比べて仮想温度が高くなることが挙げられる。ここで、エキシマレーザ照射により仮想温度が上昇する表層の深さは、照射部位からの熱拡散距離と、レーザ光線の侵入長によって異なるが、波長250nm以下でパルス幅100nsec以下のエキシマレーザを用いた場合、深さ20μm以下である。
なお、凹欠点周囲の石英ガラスのリフローという点では、エキシマレーザが照射された光学面を含む表層の仮想温度が、光学部材の他の部位、すなわち、該光学部材の内部や光学面に対して裏面側(裏面を含む表層)の仮想温度よりも30℃以上高くなることが好ましく、200℃以上高くなることがより好ましく、400℃以上高くなることがさらに好ましく、600℃以上高くなることが特に好ましい。
また、凹欠点周囲の石英ガラスのリフローという点では、エキシマレーザが照射された光学面を含む表層の仮想温度が、1550℃以上となることが好ましく、1650℃以上高くなることがより好ましく、1700℃以上高くなることがさらに好ましく、1750℃以上高くなることが特に好ましい。
【0036】
本発明の平滑化方法では、EUVL用光学部材に使用する材料に対する吸収係数が高い波長域のレーザを用いる必要がある。KrFエキシマレーザ(波長248nm)、ArFエキシマレーザ(波長193nm)、F2エキシマレーザ(波長157nm)といった波長250nm以下のエキシマレーザは、ドーパントとしてTiO2が添加された石英ガラス材料(3〜10wt%)に対する吸収係数が0.017μm-1以上と高く、しかも高出力であることから、本発明の平滑化方法に用いるレーザとして好適である。また、波長250nm以下のエキシマレーザは、通常パルス幅100nsec以下のパルスレーザであるため、照射部位における熱拡散距離が短く、光学面を含む表層のみが加熱され、光学部材の内部まで加熱されないため、応力による基板の平坦度の悪化や変形、複屈折等の問題が非常に少ない点でも好ましい。
【0037】
エキシマレーザのフルエンスが0.5J/cm2未満だと、光学面を含む表層が十分加熱されず、凹欠点の周囲のガラスがリフローせず光学面を平滑化することができない。一方、エキシマレーザのフルエンスが2.0J/cm2超だと、光学面の表面粗さが顕著に悪化する、光学部材に許容不可能な平坦度の悪化が生じる等の問題が生じる。なお、以下の理由からエキシマレーザのフルエンスを0.7〜2.0J/cm2とすることがより好ましい。
凹欠点を有する光学面に対して、波長250nm以下のエキシマレーザをフルエンス0.7〜2.0J/cm2で照射すると、下記式で定義される光学面の凹欠点深さ修復率が50%以上となるので特に好ましい。
凹欠点深さ修復率(%)=((エキシマレーザ照射前の凹欠点の深さ(PV値))−(エキシマレーザ照射後の凹欠点の深さ(PV値))/(エキシマレーザ照射前の凹欠点の深さ(PV値))×100
【0038】
本発明の平滑化方法において、光学面に照射するエキシマレーザのフルエンスの好適範囲は、使用するエキシマレーザの波長域によっても異なるが、KrFエキシマレーザ(波長248nm)の場合、0.9〜1.2J/cm2であることが好ましく、0.95〜1.15J/cm2であることがより好ましく、0.95〜1.1J/cm2であることがさらに好ましい。一方、ArFエキシマレーザ(波長193nm)の場合、0.5〜1.1J/cm2であることが好ましく、0.7〜1.1J/cm2であることがより好ましく、0.75〜1.05J/cm2であることがさらに好ましく、0.8〜1.0J/cm2であることが特に好ましい。
【0039】
光学面に照射するエキシマレーザとしては、パルス幅が短いものを用いることが照射部位における熱拡散距離が短くなるので好ましい。この点において、パルス幅が100nsec以下のエキシマレーザを用いることが好ましく、パルス幅が50nsec以下のエキシマレーザを用いることがより好ましく、パルス幅が30nsec以下のエキシマレーザを用いることがさらに好ましい。
【0040】
本発明の平滑化方法において、各照射部位におけるショット数が1となるように、エキシマレーザをパルスレーザとして照射した場合であっても、光学面を平滑化することができる。但し、凹欠点周囲の石英ガラスをリフローさせて光学面を平滑化する効果を高めるためには、各照射部位におけるショット数が、10以上になるようにエキシマレーザを照射することが好ましく、より好ましくはショット数が50以上であり、さらに好ましくはショット数が100以上である。但し、各照射部位におけるショット数が増加すると、光学面にエキシマレーザを照射するのに要する時間が増加する点に留意する必要がある。エキシマレーザのパルス幅にもよるが、各照射部位におけるショット数は、1000以下であることが好ましく、より好ましくは500以下であり、さらに好ましくは300以下である。なお、各照射部位におけるショット数は、エキシマレーザの繰返し周波数および、光学面上におけるエキシマレーザの走査速度もしくはエキシマレーザに対する光学面の走査速度により調節することができる。
【0041】
エキシマレーザ照射による光学面の平滑化は、光学面のうち凹欠点が存在する部位のみにエキシマレーザを照射することでも達成できる。しかしながら、光学面に存在する凹欠点の位置を特定して、該凹欠点が存在する部位に向けてエキシマレーザを照射することは非常に時間がかかり現実的ではない。この点については、光学面に通常複数の凹欠点が存在することや、凹欠点の位置の特定と、エキシマレーザ照射と、では通常異なる装置を使用することから、特定された凹欠点にエキシマレーザを照射する際の位置ずれが生じるおそれがあることを考慮すると無視できない課題である。
これに対して、光学面全体にエキシマレーザを照射した場合、光学面に存在する凹欠点の位置を特定する必要がなく、光学面に複数の凹欠点が存在する場合であっても一度の操作で光学面を平滑化できることから、光学面の平滑化を短時間で行うことができる。
また、そのサイズが欠点検査機の検出限界未満であるため検出できなかったサイズの非常に小さい凹欠点が光学面に存在している場合に、EUVL用マスクブランクの製造上不都合を生じることがあるが、光学面全体にエキシマレーザを照射することによって、光学面の検査では検出できないサイズの小さい凹欠点も解消することができる。
上述した理由により、本発明の平滑化方法では、光学面全体にエキシマレーザを照射することが好ましい。本発明の平滑化方法では、波長250nm以下のエキシマレーザをフルエンス0.5〜2.0J/cm2で照射するため、光学面全体にエキシマレーザを照射しても、光学面の表面粗さの顕著な悪化や許容不可能な平坦度の悪化といった問題を生じることがない。
【0042】
EUVL用光学部材の光学面に凹欠点が存在する場合であっても使用上問題とならない場合がある点に留意する必要がある。例えば、EUVL用マスクブランクに使用される光学部材の場合、その光学面であっても、該EUVL用マスクブランクにおいて、パターニングのための露光領域となる部分以外に凹欠点が存在しても使用上問題とならない。例えば、光学面の外縁部等がこれに相当する。
また、EUVL用光学部材の光学面であっても、成膜装置や露光装置に固定する際に、クランプ等で把持される部分に凹欠点が存在しても使用上問題とならない。
このようなEUVL用光学部材の光学面であっても、凹欠点の存在が該光学部材の使用上問題とならない部分については、エキシマレーザを照射する必要はない。
但し、これらの部位が光学面に占める割合はわずかであること、および、上述した光学面全体にエキシマレーザを照射した場合の利点を考慮すると、少なくとも光学面の88%以上(面積比)にエキシマレーザを照射することが好ましく、92%以上(面積比)にエキシマレーザを照射することがより好ましく、95%以上(面積比)にエキシマレーザを照射することがさらに好ましい。
【0043】
上述したように、本発明の平滑化方法では、光学面全体にエキシマレーザを照射することが好ましいが、一度の照射でEUVL用光学部材の光学面全体に上述のフルエンスのエキシマレーザを照射することは現実的には不可能である。この点については、EUVL用マスクブランクの外形が6インチ(152.4mm)角程度であることからも明らかである。したがって、EUVL用光学部材の光学面全体にエキシマレーザを照射するには、光学面上でエキシマレーザを走査させるか、もしくは、エキシマレーザ光に対して光学面を走査させる必要がある。
光学面上でエキシマレーザを走査させる方法、もしくは、エキシマレーザ光に対して光学面を走査させる方法は特に限定されないが、図1に示すように、EUVL用光学部材10の光学面11にラインビーム21としてエキシマレーザを照射し、該ラインビーム21をEUVL用光学部材10の光学面11上で走査させるか、もしくは、該ラインビーム21に対して該光学面11を走査させることが、光学面11全体にエキシマレーザを均一に照射しやすく、短時間で光学面11全体にエキシマレーザを照射できることから好ましい。該ラインビーム21に対して光学面11を走査させることが、光学系を駆動することがないため、より好ましい。
図1では、EUVL用光学部材10の光学面11の長辺と同じ長さのラインビーム21を図中縦方向に走査させている。このようにすれば、ラインビーム21を図中縦方向に1回走査することにより、EUVL用光学部材10の光学面11全体にエキシマレーザを照射できるので好ましい。但し、これに限定されず、光学面11の長辺よりも長さが短いラインビームを用いてもよい。この場合、EUVL用光学部材10の光学面11をラインビームの長さに応じて複数の領域に分け、各領域ごとにラインビームを走査させることになる。なお、この場合、隣接する領域同士の境界部分では、エキシマレーザが重複して照射されることになるが、エキシマレーザが重複して照射されることによる光学面への影響は軽微であり特に問題を生じることはない。むしろ、エキシマレーザが重複して照射することにより、光学面全体に照射するのに要する時間が増加することが問題となるが、重複して照射される部分の幅を3mm程度に抑えれば特に問題にならない。なお、これらの点については、ラインビーム21に対して光学面11を走査させる場合も同様である。
【0044】
図1において、ラインビーム21を照射するための光学系としてはシリンドリカルレンズ20を用いている。但し、ラインビーム21を照射することができる限り、使用する光学系はこれに限定されず、例えば、回折光学素子(DOE)等を用いてもよい。
【0045】
本発明の平滑化方法において、EUVL用光学部材を加熱した状態で光学面にエキシマレーザを照射してもよい。上述したように、本発明の平滑化方法では、エキシマレーザ照射により加熱された凹欠点の周囲のガラスがリフローして凹欠点が埋まることによって光学面が平滑化されると考える。光学部材を加熱した状態で光学面にエキシマレーザを照射した場合、凹欠点の周囲のガラスをリフローさせるのに必要なエキシマレーザのフルエンスを低減されることが期待される。
本発明の平滑化方法では、光学面にエキシマレーザを照射するため、光学面の表面粗さが悪化したり、光学部材の平坦度が悪化する場合がある。但し、本発明の平滑化方法では、フルエンス0.5〜2.0J/cm2でエキシマレーザを照射するため、光学面の表面粗さの悪化や光学部材の平坦度が発生する場合であっても軽微なものである。
EUVL用光学部材を加熱した状態で光学面にエキシマレーザを照射した場合、凹欠点の周囲の石英ガラスをリフローさせるのに必要なエキシマレーザのフルエンスが低減されることによって、光学面の表面粗さの悪化や光学部材の平坦度の悪化をさらに軽微なものにすること、さらには光学面の表面粗さの悪化や光学部材の平坦度の悪化を防止することが期待される。
上記の効果を得る目的で、EUVL用光学部材を加熱した状態で光学面にエキシマレーザを照射する場合、光学部材を100℃以上に加熱することが好ましく、300℃以上に加熱することがより好ましく、500℃以上に加熱することがさらに好ましい。但し、光学部材の加熱温度が高すぎると、基板の変形や応力の影響、冷却による処理時間の増加等の問題が生じるので、加熱温度は1050℃以下であることが好ましく、900℃以下であることがより好ましく、800℃以下であることがさらに好ましい。
【0046】
上述したように、本発明の平滑化方法では、光学面にエキシマレーザを照射することによって光学部材に軽微な平坦度の悪化が生じる場合がある。EUVL用光学部材の場合、平坦度についての許容範囲がきわめて狭いため、光学部材に生じる平坦度は可能な限り低く抑えることが好ましい。
エキシマレーザの照射条件を調節することによって光学部材に生じる平坦度の悪化を低く抑えることもできるが、平坦度の悪化の発生原因が高エネルギーのエキシマレーザを光学面に照射することである点を考慮すると、光学面にエキシマレーザを照射した後、該光学面に対する裏面(以下、「裏面」という。)にエキシマレーザを照射して、光学面にエキシマレーザを照射した際に発生した平坦度の悪化の方向と反対方向に平坦度を悪化させることによって、本発明の平滑化方法の終了時点での光学部材の平坦度の悪化を軽減すること、さらには、光学部材の平坦度の悪化を解消することができる。
なお、上述したように、本発明の平滑化方法では光学面全体にエキシマレーザを照射することが好ましいので、裏面にエキシマレーザを照射する場合、裏面全体にエキシマレーザを照射することが好ましい。但し、光学面であっても、上述した理由により、エキシマレーザを照射しない部分については、その裏面もエキシマレーザを照射する必要はない。
また、光学面にエキシマレーザを照射した際に発生する平坦度の悪化の大きさが予測できる場合、予め裏面にエキシマレーザを照射して、光学面にエキシマレーザを照射した際に発生する平坦度の悪化の方向と反対方向に平坦度を悪化させておいてもよい。このようにしても、本発明の平滑化方法の終了時点での光学部材の平坦度の悪化を軽減すること、さらには、光学部材の平坦度の悪化を解消することができる。
光学部材の平坦度の悪化の軽減または解消を目的として、裏面にエキシマレーザを照射する場合、照射条件は光学面に同程度であることが好ましい。エキシマレーザのフルエンスについてみた場合、光学面に照射するエキシマレーザのフルエンスF1と、裏面に照射するエキシマレーザのフルエンスF2と、が下記式(1)を満たすことが好ましく、下記式(2)を満たすことがより好ましく、F1とF2とが実質的に同一であることが好ましい。
0.5≦ F1/F2 ≦1.5 (1)
0.9≦ F1/F2 ≦1.1 (2)
【0047】
裏面にエキシマレーザを照射した場合、エキシマレーザが照射された裏面を含む表層の仮想温度も上昇する。ここで、仮想温度が上昇する表層の深さ、および、仮想温度がどの程度上昇するかという点は、光学面へのエキシマレーザ照射について記載したのと同様である。したがって、裏面にもエキシマレーザを照射した場合、エキシマレーザ照射後の光学部材は、光学面を含む表層、および、裏面を含む表層が、光学部材の内部に比べて仮想温度が高くなる。
【0048】
以上述べたように、本発明の平滑化方法では、凹欠点を有する光学面に、波長250nm以下のエキシマレーザをフルエンス0.5〜2.0J/cm2で照射することにより、より好ましくはフルエンス0.7〜2.0J/cm2で光学面を平滑化することができる。具体的には、エキシマレーザ照射後の光学面に深さ2nm超の凹欠点が存在しないことが好ましい。
上述したように、EUVLマスクブランクの製造に用いる光学部材の場合、光学面に深さ2nm超の凹欠点が存在すると、光学面上に形成される反射多層膜表面または吸収体層表面に凹欠点が現れてEUVLマスクブランクの欠点となる場合があり、また、反射多層膜表面や吸収体層表面に凹欠点が表されない場合であっても、それら膜中で構造が乱されることによって位相欠陥となる場合がある。
本発明の基板平滑化方法によれば、EUVL用光学部材の光学面が、EUVL用マスクブランクやEUVL用ミラーを製造するうえで問題となる凹欠点が存在しない平滑性に優れた光学面となる。
エキシマレーザ照射後の光学面には深さ1.5nm以上の凹欠点が存在しないことがより好ましく、深さ1.0nm以上の凹欠点が存在しないことがさらに好ましい。
【0049】
本発明の平滑化方法によれば、光学面にエキシマレーザを照射することによって、EUVL用マスクブランクやEUVL用ミラーを製造するうえで問題となるような顕著な平坦度の悪化を光学部材に生じさせることがない。具体的には、エキシマレーザ照射後の光学部材の平坦度が50nm以下であることが好ましく、より好ましくは30nm以下であり、さらに好ましくは20nm以下である。
【0050】
本発明の平滑化方法によれば、光学面にエキシマレーザを照射することによって、EUVL用マスクブランクやEUVL用ミラーを製造するうえで問題となるような表面粗さの悪化を光学面に生じさせることなしに光学面を平滑化することができる。具体的には、エキシマレーザ照射後の光学面の表面粗さ(RMS)が0.15nm以下であることが好ましく、より好ましくは0.12nm以下であり、さらに好ましくは0.1nm以下である。
光学面の表面粗さ(RMS)が0.15nm以下であれば、光学面が十分平滑であるため、該光学面上に形成される反射多層膜に乱れが生じるおそれがない。反射多層膜に乱れが生じると、製造されるEUVL用マスクブランクやEUVL用ミラーの欠点となるおそれがある。また、該EUVL用マスクブランクを用いて製造されるEUVL用マスクにおいて、パターンのエッジラフネスが大きくなることがなく、パターンの寸法精度が良好である。光学面の表面粗さが大きいと、該光学面上に形成される反射多層膜の表面粗さが大きくなり、さらに、該反射多層膜に形成される吸収体層の表面粗さが大きくなる。この結果、該吸収体層に形成されるパターンのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪化する。
エキシマレーザ照射後の光学面の表面粗さ(RMS)は、好ましくは0.1nm以下である。
【0051】
本発明の平滑化方法により光学面が平滑化された光学部材は、上述したように、エキシマレーザが照射された光学面を含む表層の仮想温度が上昇し、該光学部材の他の部位、すなわち、該光学部材の内部や光学面に対する裏面側(裏面を含む表層)に比べて仮想温度が高くなっている。一方、裏面にもエキシマレーザを照射した場合には、光学面を含む表層、および、裏面を含む表層が、光学部材の内部に比べて仮想温度が高くなっている。
表層の仮想温度が上昇することにより、表層の機械的強度、例えば、ヤング率、破壊靱性値、疲労特性が向上する効果が期待される。
【0052】
本発明の平滑化方法では、波長250nm以下のエキシマレーザをフルエンス0.5〜2.0J/cm2で照射するため、光学面を含む表層、および裏面を含む表層(裏面にエキシマレーザを照射した場合)に、局所的な構造欠陥である色中心が形成される。
本発明のEUVL用光学部材は、EUVL用マスクブランクやEUVL用ミラーを製造する際には、光学面上に反射多層膜や吸収体層を形成するため、光学面に色中心が形成されても特に問題となることはない。また、裏面に色中心が形成されてもEUVL用マスクブランクやEUVL用ミラーとして使用するうえで全く問題となることはない。
【実施例】
【0053】
(実施例A)
ドーパントとしてTiO2を含む石英ガラス基板(TiO2濃度7.0質量%)(旭硝子株式会社製、品番AZ6025、150mm角)の一方の表面をベンコット等のワイパー(布)に粒径15μmのダイアモンドペースト(HYREZ製15(W)35−MA)を染込ませたものを手で擦ることでガラス基板表面にスクラッチ(キズ幅:2〜5μm程度)を形成した。
スクラッチが形成された基板表面全体に、照射フルエンスおよびショット数を変えてKrFエキシマレーザを照射した。なお、KrFエキシマレーザは、照射光学系としてシリンドリカルレンズを用いてラインビーム(42mm×0.55mm)として基板表面に照射し、該ラインビームに対して基板表面を走査させることにより、該基板表面全体にKrFエキシマレーザを照射した。照射前後の基板表面のPV値(凹欠点(スクラッチ)の深さ)および表面粗さ(Ra値)を干渉計測器を用いて測定した。結果を下記表に示す。下記表において、凹欠点深さ修復率は下記式により求めた。
凹欠点深さ修復率(%)=((エキシマレーザ照射前の凹欠点の深さ(PV値))−(エキシマレーザ照射後の凹欠点の深さ(PV値))/(エキシマレーザ照射前の凹欠点の深さ(PV値))×100
【表1】


例1〜9のいずれにおいても、基板表面の表面粗さを悪化させることなしに、該基板表面に存在する凹欠点(スクラッチ)の深さを減少させることができた。特に、エキシマレーザの照射フルエンスを0.9J/cm2または1.1J/cm2とした例1〜6は、凹欠点修復率が50%と特に優れていた。
【0054】
上記と同様の手順で一方の表面にスクラッチを形成したガラス基板のスクラッチが形成された基板表面全体に、照射フルエンスおよびショット数を変えてKrFエキシマレーザを照射した。なお、KrFエキシマレーザは、照射光学系としてシリンドリカルレンズを用いてラインビーム(42mm×0.55mm)として基板表面に照射し、該ラインビームを該基板表面上で走査させることにより、該基板表面全体にKrFエキシマレーザを照射した。エキシマレーザ照射面の仮想温度、および、該照射面に対する裏面の仮想温度を、これらの面のFTIRスペクトル測定を行うことで求めた。
石英ガラス材料のFTIRスペクトルのピーク、例えば、Si−O−Si伸縮を示すピークは、石英ガラス材料の仮想温度によって異なることが知られている。上記のガラス基板と同一の組成の石英ガラス材料を用いて、仮想温度が異なる複数のサンプルを作成し、このサンプル表面のFTIRスペクトル測定を行った。得られたSi−O−Si伸縮を示すピークの波数(cm-1)を仮想温度(℃)との関係でプロットして、両者の間に線形的な相関があることを確認した。このプロットを検量線として用いて、上記のガラス基板のエキシマレーザ照射面および裏面のFTIRスペクトル測定から得られたSi−O−Si伸縮を示すピークの波数(cm-1)から上記のガラス基板のエキシマレーザ照射面および裏面の仮想温度をそれぞれ求めた。結果を図2、3に示す。なお、エキシマレーザ照射前のガラス基板の仮想温度は1150℃である。
【0055】
(実施例B)
ドーパントとしてTiO2を含む石英ガラス基板(TiO2濃度7.0質量%、150mm角)の一方の表面(光学面)に存在する複数のピット(凹欠点)を検出し、検出されたピットの深さ(PV値)を測定した。続いて検出されたピットを含む複数の20mm角の領域に対して、実施例Aと同様に、照射光学系としてシリンドリカルレンズを用いて、KrFエキシマレーザをラインビーム(42mm×0.55mm)として基板表面に照射し、該ラインビームを該基板表面上で走査させた。なお、照射フルエンスおよびショット数は表2に示す条件とした。その後、再度同じピットの深さ(PV値)を測定した。なお、本実施例Bにおける測定手段は原子間力顕微鏡である。
ピットの深さのレーザ照射前後の変化、凹欠点(ピット)深さ修復率を表2に示す。これらの照射条件では、凹欠点(ピット)深さ修復率が50%以上の結果を得る事が出来た。特に、例12(1.1J/cm2、100ショット)の場合、凹欠点深さ修復率が100%でピットが完全に消去した。
【表2】

【0056】
(実施例C)
ドーパントとしてTiO2を含む石英ガラス基板(TiO2濃度7.0質量%、150mm角)の一方の表面(光学面)に存在する複数のピット(凹欠点)を検出し、検出されるピットの深さ(PV値)および周辺のRMSを測定する。続いて検出されたピットを含む複数の20mm角の領域に対して、実施例Aと同様に、照射光学系としてシリンドリカルレンズを用いて、KrFエキシマレーザをラインビーム(42mm×0.55mm)として基板表面に照射し、該ラインビームを該基板表面上で走査させる。なお、照射フルエンスおよびショット数は表3に示す条件とした。その後、再度同じピットの深さ(PV値)および周辺のRMSを測定する。なお、本実施例Cにおける測定手段は原子間力顕微鏡である。
ピットの深さのレーザ照射前後の変化、凹欠点(ピット)深さ修復率、照射後のピット周辺のRMSを表3に示す。これらの照射条件では、凹欠点深さ修復率が50%以上で且つ照射後のピットの深さが2nm以下であり、該ピット周辺のRMSも0.15nm以下である。
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、EUVL用光学部材の光学面にエキシマレーザをラインビームとして照射している状態を示す模式図である。
【図2】図2は、エキシマレーザ照射面の仮想温度の照射フルエンス依存性を示すグラフである。
【図3】図3は、エキシマレーザ照射面に対する裏面の仮想温度の照射フルエンス依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
10:EUVL用光学部材
11:光学面
20:シリンドリカルレンズ
21:ラインビーム(エキシマレーザ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiO2を含有し、SiO2を主成分とする石英ガラス材料製のEUVリソグラフィ(EUVL)用光学部材の凹欠点を有する光学面に対して、波長250nm以下のエキシマレーザをフルエンス0.5〜2.0J/cm2で照射することにより、EUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法。
【請求項2】
前記EUVL用光学部材の凹欠点を有する光学面に対して、前記波長250nm以下のエキシマレーザをフルエンス0.7〜2.0J/cm2で照射することにより、下記式で定義されるEUVL用光学部材の光学面の凹欠点深さ修復率を50%以上とすることを特徴とする請求項1に記載のEUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法。
凹欠点深さ修復率(%)=((エキシマレーザ照射前の凹欠点の深さ(PV値))−(エキシマレーザ照射後の凹欠点の深さ(PV値))/(エキシマレーザ照射前の凹欠点の深さ(PV値))×100
【請求項3】
深さ2nm超10nm以下の凹欠点を有するEUVL用光学部材の光学面に対して、波長250nm以下のエキシマレーザをフルエンス0.7〜2.0J/cm2で照射して、(1)〜(3)を満たす光学部材とすることを特徴とする請求項1に記載のEUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法。
(1)エキシマレーザ照射後の光学面に深さ2nm超の凹欠点が存在しない。
(2)エキシマレーザ照射後の光学部材の平坦度が50nm以下。
(3)エキシマレーザ照射後の光学面の表面粗さ(RMS)が0.15nm以下。
【請求項4】
前記EUVL用光学部材の光学面全体に対して前記エキシマレーザを照射することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のEUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法。
【請求項5】
前記EUVL用光学部材のTiO2濃度が3〜10質量%であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のEUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法。
【請求項6】
前記エキシマレーザのパルス幅が100nsec以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のEUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法。
【請求項7】
各照射部位におけるショット数が10以上となるように、前記光学面に前記エキシマレーザを照射することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のEUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法。
【請求項8】
前記エキシマレーザをラインビームとして前記光学面に照射し、該ラインビームを該光学面上で走査させる、または、該ラインビームに対して前記光学面を走査させることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のEUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法。
【請求項9】
さらに、前記光学面に対する裏面に対して、波長250nm以下のエキシマレーザをフルエンス0.5〜2.0J/cm2で照射することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載のEUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法。
【請求項10】
前記裏面全体に対して前記エキシマレーザを照射することを特徴とする請求項9に記載のEUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法。
【請求項11】
前記光学面に照射するエキシマレーザのフルエンスF1と、前記裏面に照射するエキシマレーザのフルエンスF2と、が下記式の関係を満たすことを特長とする請求項9または10に記載のEUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法。
0.5≦ F1/F2 ≦1.5
【請求項12】
前記裏面に照射するエキシマレーザのパルス幅が100nsec以下であることを特徴とする請求項9ないし11のいずれかに記載のEUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法。
【請求項13】
各照射部位におけるショット数が10以上となるように、前記裏面に前記エキシマレーザを照射することを特徴とする請求項9ないし12のいずれかに記載のEUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法。
【請求項14】
前記エキシマレーザをラインビームとして前記裏面に照射し、該ラインビームを該裏面上で走査させる、または、該ラインビームに対して前記裏面を走査させることを特徴とする請求項9ないし13のいずれかに記載のEUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法。
【請求項15】
前記光学部材を100〜1050℃に加熱した状態で前記光学面にエキシマレーザを照射することを請求項1ないし14のいずれかに記載のEUVL用光学部材の光学面を平滑化する方法。
【請求項16】
請求項1ないし8のいずれかに記載の方法により得られる、前記光学面を含む表層の仮想温度が、前記光学面に対する裏面を含む表層および前記光学部材の内部の仮想温度よりも30℃以上高いことを特徴とするEUVL用光学部材。
【請求項17】
請求項9ないし14のいずれかに記載の方法により得られる、前記光学面を含む表層の仮想温度、および、前記裏面を含む表層の仮想温度が、光学部材の内部の仮想温度よりも30℃以上高いことを特徴とするEUVL用光学部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−221095(P2009−221095A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299647(P2008−299647)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】