説明

FMCWレーダ装置

【課題】広い距離範囲に渡って複数のターゲットを検出し、検出した各ターゲットまでの距離および相対速度の測定が可能であるFMCWレーダ装置を提供する。
【解決手段】複数の距離範囲観測期間を設定する手段(101)と、距離範囲観測期間ごとで異なる複数の変調周波数幅を設定する手段(101)と、送信信号と受信信号から距離範囲観測期間ごとにビート信号を生成する手段(107)と、生成されたビート信号の通過帯域幅を設定する手段(109、111)と、通過帯域幅設定手段を通過するビート信号を増幅する手段(110、112)と、増幅されたビート信号をデジタルデータに変換する手段(113)と、距離範囲観測期間ごとに通過帯域幅設定手段および増幅手段を切り替える手段(108a、108b)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標となる物体(以下ターゲットと記す)を検出し、その距離や相対速度を測定する装置であって、さらに詳しくは、広い距離範囲で複数ターゲットの検出を行い、検出したターゲットまでの距離やターゲットとの相対速度の測定が可能なFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パルスレーダなどに比べて安価かつ単純な構成で、数百m以下の近距離ターゲットに対応できるFMCWレーダ装置(以下、単に、FMCWレーダとも記す)は、特定の送信信号を電磁波として放射(送波)し、ターゲットで反射した電磁波を受波し、受波した電磁波を受信信号にして、送信信号と受信信号からビート信号を生成する。
近年では、ビート信号は、A/D変換器によりデジタルデータに変換された後、CPU(Central Processing Unit)に入力され、CPUにて信号処理することにより、「ター
ゲットの検出」および「ターゲットまでの距離とターゲットとの相対速度の測定」が行なわれる。
【0003】
FMCWレーダが受波する電磁波の強度(電力)は、ターゲットまでの距離などによって大きく変動し、これに伴いビート信号の電圧値も大きく変動する。このため、受信回路のダイナミックレンジが不足すると、様々な問題が発生する。
例えば、ターゲットからの受波電磁波の強度が小さく、生成されたターゲットのビート信号電圧の絶対的な大きさ、あるいは相対的な変化の大きさが、A/D変換器の1ビット(最小)電圧値より小さければ、デジタルデータとして取扱うことができなかったり、もとの正しい信号情報が失われたりしてしまう。
また、ターゲットから受波する電磁波の強度が大きく、生成されたターゲットのビート信号電圧の絶対的な大きさがA/D変換器が変換できる最大電圧値より大きければ、もとの正しい信号情報が失われてしまう。
さらに、ターゲットからの受波電磁波の強度が大きく、生成されたターゲットのビート信号電圧の絶対的な大きさがA/D変換器が変換できる最大電圧値より小さくても、受信回路で信号の飽和が起これば、生成されたターゲットのビート信号は、実際とは異なる「歪んだ波形」になり、もとの正しい信号情報を得られなかったり、高調波のような不要な情報が現れたりする。
【0004】
このようなFMCWレーダで強度が大きく変動する受波電磁波の受信回路に関する従来技術として、特開2001−228240号公報(特許文献1)がある。
特開2001−228240号公報には、「1つの目標物(ターゲット)に対して電波を送信し、目標物からの反射波を受信して目標物までの距離または目標物との相対速度を求めるFMCWレーダの受信信号増幅装置において、受信信号を増幅するために縦続接続した複数の増幅器と、この増幅器の中から、その出力電圧がA/D変換手段の入力電圧範囲に適合し、且つ、そのレベルが最も高い増幅器を選択して、その出力をA/D変換手段に導く出力選択手段とを設ける」ことが記載されている。
すなわち、特開2001−228240号公報では、1つのターゲットに対して電波を送信するFMCWレーダの受信信号増幅装置であって、受信信号を増幅するために縦続接続した複数の増幅器を備え、各増幅器の出力電圧の大きさを参照して、最適な増幅器を選択している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−228240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
FMCWレーダが運用される環境下では、ターゲットが一つだけとは限らない。
例えば、ACC(Adaptive Cruise Control)や衝突軽減(あるいは防止)に用いられ
る車載用FMCWレーダにおいては、図5に示すように、FMCWレーダ511を搭載している車両510の前方を走行しているターゲット520が最も注目すべきターゲット(車両)であるが、電磁波を反射するターゲットは他にも複数存在しうる。
車両510が走行している車線の隣車線において、車両510の走行方向前方のターゲット520よりも近距離のターゲット530が存在し、車両510に搭載されたFMCWレーダ511にてターゲット530のビート信号に関して最良な出力(すなわち、最適な増幅器の出力)が選択されたとする。
このとき、最も注目すべきターゲット520のビート信号は、ターゲット530のビート信号よりも電圧が小さいため、受信回路のダイナミックレンジが狭いと、選択された増幅器出力ではターゲット520のビート信号は十分に増幅されず、デジタルデータとして扱えない、あるいは信号情報の一部が失われる状況が起こりうる。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点を解決するためになされたものであって、複数のターゲットが存在している状況下で、かつ、受信回路のダイナミックレンジが狭い場合であっても、広い距離範囲に渡って複数のターゲットを検出し、検出した各ターゲットまでの距離および検出したターゲットとの相対速度の測定が可能であるFMCWレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るFMCWレーダ装置は、広い距離範囲に渡って複数のターゲットを検出し、検出したターゲットとの距離および相対速度を測定するFMCWレーダ装置であって、
計測可能な距離範囲を変えて、アップチャープ期間とダウンチャープ期間からなる複数の距離範囲観測期間を設定する距離範囲観測期間設定手段と、前記距離範囲観測期間ごとで異なる複数の変調周波数幅を設定する変調周波数幅設定手段と、送信信号と受信信号から前記距離範囲観測期間ごとにビート信号を生成するビート信号生成手段と、前記ビート信号生成手段で生成された前記距離範囲観測期間ごとのビート信号の通過帯域幅を設定する通過帯域幅設定手段と、前記通過帯域幅設定手段を通過する前記ビート信号を増幅する増幅手段と、前記増幅手段で増幅されたビート信号をデジタルデータに変換する変換手段と、前記距離範囲観測期間ごとに前記通過帯域幅設定手段および前記増幅手段を切り替える切り替え手段を備えているものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数のターゲットが存在している状況下で、かつ、受信回路のダイナミックレンジが狭い場合であっても、広い距離範囲に渡って存在する複数のターゲットのそれぞれを検出し、検出した各ターゲットまでの距離および検出したターゲットとの相対速度の測定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態1に係るFMCWレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1に係るFMCWレーダ装置おいて、2つの距離範囲観測期間がある場合の送信信号を示す図である。
【図3】実施の形態1に係るFMCWレーダ装置における第1および第2の帯域通過フィルタの特性を示す図である。
【図4】実施の形態1に係るFMCWレーダ装置おいて、受信回路のダイナミックレンジが狭い場合でも、所望する距離範囲においてビート信号を得ることができることを説明するための図である。
【図5】FMCWレーダ装置搭載車両と複数ターゲットの走行状態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて、本発明の一実施の形態例について説明する。
実施の形態1.
図1は、の実施の形態1によるFMCWレーダ装置の構成を示すブロック図である。
図1において、101は制御および信号処理部、102は電圧制御発振器(以下、VCO:Voltage Controlled Oscillator と記す)、103は分配回路、104は高周波アンプ、105は送波アンテナ、106は受波アンテナ、107はミキサ、108a、108bは連動スイッチ、109は第1の帯域通過フィルタ(以下、BPF:Band-Pass Filterと記す)、110は第1のアンプ、111は第2のBPF、112は第2のアンプ、113はA/D変換器(以下、ADC:Analog-Digital Converter と記す)である。
【0012】
制御および信号処理部101は、例えば、専用のロジック回路、汎用のCPU、DSP(Digital Signal Processor)内のプログラム、あるいはこれらの組み合わせとデータ記憶回路(メモリ)で構成されており、FMCWレーダ装置の各構成要素(例えば、VCO102、連動スイッチ108a、108b、ADC113など)の動作タイミングを制御する。
また、制御および信号処理部101は、後述するデジタルデータに変換されたビート信号に対して信号処理を実施して、ターゲットついて、その存在の有無を判定し、ターゲットまでの距離の測定やターゲットとの相対速度を測定する。
【0013】
VCO102は、制御および信号処理部101の制御によって、印加される電圧に応じて時間的に周波数が変化する送信信号を生成する。
送信信号としては、第1の距離範囲から第M(>1)の距離範囲までのM種類の距離範囲ごとに、時間的に周波数が高くなるアップチャープ(up-chirp)期間と時間的に周波数が低くなるダウンチャープ(down-chirp)期間からなる距離範囲観測期間を設ける。
【0014】
ここで、FMCWレーダの原理に基づき、距離範囲の変え方について説明する。
各チャープ期間の長さをT[s]、変調周波数幅をB[Hz]、変調幅の中心周波数をF[Hz]、電磁波の速度をC[m/s]とすると、距離がR[m]、相対速度がV[m/s](接近時にマイナス値と定義)のターゲットについて、
アップチャープ期間で観測されるビート周波数(U[Hz])は、
U[Hz]=−{(2×B)/(C×T)}×R−{(2×F)/C}×V (1)
ダウンチャープ期間で観測されるビート周波数(D[Hz])は、
D[Hz]={(2×B)/(C×T)}×R−{(2×F)/C}×V (2)
で表される。
近年では、A/D変換器によってデジタルデータに変換されたビート信号を、CPUやDSPなどにおいてFFT(Fast Fourier Transform)により周波数パワースペクトラムに変換し、パワーが極大で、かつ予め設定されたしきい値より大きな周波数を抽出するなどして、これらのビート周波数Uやビート周波数Dを得ている。
【0015】
FFTでは、その離散周波数幅(刻み)は、チャープ期間がT[s]であるので、1/T[Hz]である。
従って、チャープ期間TのサンプルデータN個(ただし、Nは2のべき乗)をFFTした場合、得られる周波数の範囲は、
−(N/2)×(1/T)[Hz]〜(N/2−1)×(1/T)[Hz] (3)
である。
【0016】
ここで、アップチャープ期間のビート周波数が、マイナス値側の限界周波数になる最大距離Ruは、
−(N/2)×(1/T)=−{(2×B)/(C×T)}×Ru−
{(2×F)/C}×V (4)
の式変形により、
Ru[m]={(C×N)/(4×B)}−{(T×F)/B}×V (5)
であり、
第1項、第2項の両方に含まれる変調周波数幅Bを変えることで、FFTで得られる周波数範囲内における最大距離Ruを変えることができる。
なお、チャープ期間Tを変えることで、最大距離Ruを変えることもできる。
【0017】
同様に、ダウンチャープ期間のビート周波数が、プラス値側の限界周波数になる最大距離Rdは、
(N/2−1)×(1/T)={(2×B)/(C×T)}×Rd−
{(2×F)/C}×V (6)
の式変形により、
Rd[m]={C/(2×B)}×(N/2−1)+{(T×F)/B}×V (7)であり、第1項、第2項の両方に含まれる変調周波数幅Bを変えることで、FFTで得られる周波数範囲内における最大距離Rdを変えることができる。
なお、チャープ期間Tを変えることで、最大距離Rdを変えることもできる。
【0018】
ただし、一般的に、測定すべきターゲットとの相対速度Vは、マイナス値からプラス値に渡って幅を有するので、その相対速度範囲内で得られる上記式(5)のRu、上記式(7)のRdのうち、最小値を運用上の最大距離とする。
【0019】
上記を踏まえ、アップチャープ期間とダウンチャープ期間からなる各距離範囲観測期間ごとで異なる変調周波数幅Bを設けることにより、FFTにより周波数が得られる距離範囲を各距離範囲観測期間ごとに複数設定できる。
以下では、説明を簡単にするために、距離範囲観測期間が2つある場合(すなわち、M=2の場合)を例として、説明する。
距離範囲観測期間が2つある場合、チャープ期間として、図2に示すように、第1の距離範囲観測期間のアップチャープ期間、第1の距離範囲観測期間のダウンチャープ期間、第2の距離範囲観測期間のアップチャープ期間、第2の距離範囲観測期間のダウンチャープ期間を設ける。
ただし、
第1の距離範囲における最大距離R1 < 第2の距離範囲における最大距離R2の関係が成立するように、第1の距離範囲用の変調周波数幅B1と、第2の距離範囲用の変調周波数幅B2が設定されているものとする。
【0020】
例えば、測定すべきターゲットの相対速度Vが“−Vx〜+Vx”の場合、
式(5)と式(7)の最小値が、
{C/(2×B)}×(N/2−1) − {(T×F)/B}×Vx (8)
であるとして、
{C/(2×B1)}×(N/2−1) − {(T×F)/B1}×Vx <
{C/(2×B2)}×(N/2−1) − {(T×F)/B2}×Vx (9)
の条件を満足するB1とB2が設定される。
また、第1の距離範囲は“Rmin[m]〜R1[m]”、第2の距離範囲は“R1[m]〜R2[m]”であるとする。
【0021】
VCO102は、制御および信号処理部101の制御によって、変調周波数幅がB1である第1の距離範囲観測期間のアップチャープ期間送信信号を生成する。
VCO102で生成された送信信号は、分配回路103を介して、一部は高周波アンプ104へ、残りはミキサ107へ入力される。
高周波アンプ104は、送信信号を既定の大きさに増幅して、送波アンテナ105へ入力する。
送波アンテナ105は、高周波アンプ104で増幅された送信信号を電磁波として空間へ送波する。
送波された電磁波は、ターゲット(図示せず)に照射され、ターゲットで反射した電磁波が受波アンテナ106で受波される。
受波アンテナ106で受波された電磁波は、受信信号としてミキサ107へ入力される。
ミキサ107は、受信信号と分配回路103を介して入力される送信信号から、ビート信号を生成する。
制御および信号処理部101の制御によって端子P1側に切り替えられた連動スイッチ108aを介して、生成されたビート信号は、第1のBPF109に入力される。
【0022】
第1のBPF109は、図3(a)に示す特性を有しており、不要な低い周波数成分と、第1の距離範囲における最大距離R1に相当する周波数F1より高い成分を抑圧したビート信号を第1のアンプ110へ入力する。
ここで、第1の距離範囲における最大距離R1に相当する周波数F1は、例えば、測定すべきターゲットの相対速度Vが“−Vx〜+Vx”の場合、式(1)のVに“−Vx”を代入して右辺の絶対値を求めた値、あるいは式(2)のVに“+Vx”を代入して右辺の絶対値を求めた値として、次式により設定される。
F1={(2×B1)/(C×T)}×R1−{(2×F)/C}×Vx (10)
このとき、第1の距離範囲における最大距離R1に相当する周波数F1より高い成分のビート信号は抑圧される。
すなわち、第1の距離範囲外である距離R1より遠い距離のターゲットのビート信号電圧は抑圧される。
【0023】
第1のアンプ110は、第1の距離範囲用に予め設定された大きさにビート信号電圧を増幅し、増幅されたビート信号は、制御および信号処理部101の制御により端子P1側に切り替えられた連動スイッチ108bを介して、ADC113に入力する。
ADC113は、入力されたビート信号の電圧値をデジタルデータに変換し、制御および信号処理部101に入力する。
制御および信号処理部101では、入力されたビート信号のデジタルデータに対して、FFTによりアップチャープ期間のビート周波数U1を抽出し、記憶する。
このとき、F1よりも高い周波数成分は抑圧されているため、不要な高い周波数成分が折り返されて低い周波数に現れる「いわゆるエリアシング」が防げる。
なお、ターゲットが複数の場合は、アップチャープ期間で複数のビート周波数を抽出し、全て記憶する。
【0024】
続いて、VCO102は、制御および信号処理部101の制御によって、変調周波数幅がB1である第1の距離範囲観測期間のダウンチャープ期間送信信号を生成する。
生成された送信信号に対して、分配回路103、高周波アンプ104、送波アンテナ105、受波アンテナ106およびミキサ107は、前記と同じように動作してビート信号を生成する。
生成されたビート信号は、制御および信号処理部101の制御により端子P1側に切り替えられた連動スイッチ108aを介して、第1のBPF109に入力される。
第1のBPF109、第1のアンプ110、連動スイッチ108bおよびADC113は、前記と同じように動作して、ビート信号電圧値のデジタルデータが、制御および信号処理部101に入力される。
【0025】
制御および信号処理部101では、入力されたビート信号のデジタルデータに対し、FFTによりダウンチャープ期間のビート周波数D1を抽出し、記憶されているアップチャープ期間のビート周波数U1とで、公知であるFMCWレーダの原理に基づきターゲットの距離と相対速度を算出する。
なお、ターゲットが複数の場合は、ダウンチャープ期間で抽出された複数のビート周波数と、記憶されているアップチャープ期間で抽出された複数のビート周波数で、予め定められた制約条件など(例えば、公知であるピークパワーの大きさが近いものをペアリングして)に基づいて、複数のターゲットについて、それぞれ、距離と相対速度を算出する。
【0026】
さらに続いて、VCO102は、制御および信号処理部101の制御によって、変調周波数幅がB2である第2の距離範囲観測期間のアップチャープ期間送信信号を生成する。
生成された送信信号に対して、分配回路103、高周波アンプ104、送波アンテナ105、受波アンテナ106およびミキサ107は、前記と同じように動作してビート信号を生成する。
生成されたビート信号は、制御および信号処理部101の制御により端子P2側に切り替えられた連動スイッチ108aを介して、第2のBPF111に入力される。
第2のBPF111は、図3(b)に示す特性を有しており、第1の距離範囲における最大距離R1に相当する周波数F2Lより低い成分と第2の距離範囲における最大距離R2に相当する周波数F2Hより高い成分を抑圧したビート信号を、第2のアンプ112へ入力する。
【0027】
ここで、第1の距離範囲における最大距離R1に相当する周波数F2Lと、第2の距離範囲における最大距離R2に相当する周波数F2Hは、例えば、測定すべきターゲットの相対速度Vが“−Vx〜+Vx”の場合、式(1)、(2)で右辺絶対値のうちの最小値として以下の式で設定される。
F2L={(2×B2)/(C×T)}×R1 − {(2×F)/C}×Vx (11)
F2H={(2×B2)/(C×T)}×R2 − {(2×F)/C}×Vx (12)
このとき、第1の距離範囲における最大距離R1に相当する周波数F2Lより低い成分のビート信号は抑圧される。すなわち、第2の距離範囲外である距離R1より近い距離のターゲットのビート信号電圧は抑圧されるため、連動スイッチ、BPF、アンプ等で構成された受信回路で飽和は起こらず、高調波のような不要な情報が現れることはない。
また、第2の距離範囲における最大距離R2に相当する周波数F2Hより高い成分のビート信号は抑圧される。すなわち、第2の距離範囲外である距離R2より遠い距離のターゲットのビート信号電圧は抑圧される。
【0028】
第2のアンプ112は、第2の距離範囲用に予め設定され、第1のアンプ110よりも大きい増幅度合いでビート信号を増幅し、制御および信号処理部101の制御により端子P2側に切り替えられた連動スイッチ108bを介してADC113に入力する。
ADC113は、ビート信号の電圧値をデジタルデータに変換し、制御および信号処理部101に入力する。
制御および信号処理部101では、入力されたビート信号のデジタルデータに対し、FFTによりアップチャープ期間のビート周波数U2を抽出する。
このとき、F2Hよりも高い周波数成分は抑圧されているため、不要な高い周波数成分が折り返されて低い周波数に現れるエリアシングが防げる。
なお、ターゲットが複数の場合は、アップチャープ期間で複数のビート周波数を抽出し、全て記憶する。
【0029】
最後に、VCO102は、制御および信号処理部101の制御によって、変調周波数幅がB2である第2の距離範囲観測期間のダウンチャープ期間送信信号を生成する。
生成された送信信号に対して、分配回路103、高周波アンプ104、送波アンテナ105、受波アンテナ106およびミキサ107は、前記と同じように動作してビート信号を生成する。
生成されたビート信号は、制御および信号処理部101の制御により端子P2側に切り替えられた連動スイッチ108aを介して、第2のBPF111に入力される。
第2のBPF111、第2のアンプ112、連動スイッチ108bおよびADC113は、が前記と同じように動作して、ビート信号電圧値のデジタルデータが、制御および信号処理部101に入力される。
【0030】
制御および信号処理部101では、入力されたビート信号のデジタルデータに対し、FFTによりダウンチャープ期間のビート周波数D2を抽出し、記憶されているアップチャープ期間のビート周波数U2とで、公知であるFMCWレーダの原理に基づきターゲットの距離と相対速度を算出する。
なお、ターゲットが複数の場合は、ダウンチャープ期間で抽出された複数のビート周波数と記憶されているアップチャープ期間で抽出された複数のビート周波数で、予め定められた制約条件などに基づいて、複数のターゲットについて、それぞれ、距離と相対速度を算出する。
【0031】
上記のように設定した距離範囲ごとにアンプによる増幅度合いを変えることで、図4(a)のように距離によって変動するターゲットの電力、すなわちビート信号の電圧に対して、コストなどの制限により、受信回路が対応可能なダイナミックレンジを狭くしても、図4(b)のようにハッチングした部分の遠距離で信号が得られなくなることなく、また、図4(c)のようにハッチングした部分の至近距離で、正しい信号情報が得られなくなることなく、図4(d)のように、所望する全ての距離範囲において信号を得ることができる。
【0032】
以上説明したように、本実施の形態によるFMCWレーダ装置は、広い距離範囲に渡って複数のターゲットを検出し、検出したターゲットとの距離および相対速度を測定するFMCWレーダ装置であって、計測可能な距離範囲を変えて、アップチャープ期間とダウンチャープ期間からなる複数の距離範囲観測期間(例えば、第1の距離範囲観測期間、第2の距離範囲観測期間)を設定する距離範囲観測期間設定手段(制御および信号処理部101)と、距離範囲観測期間ごとで異なる複数の変調周波数幅(例えば、B1、B2)を設定する変調周波数幅設定手段(制御および信号処理部101)と、送信信号と受信信号から距離範囲観測期間ごとにビート信号を生成するビート信号生成手段(ミキサ107)と、ビート信号生成手段で生成された距離範囲観測期間ごとのビート信号の通過帯域幅を設定する通過帯域幅設定手段(例えば、第1のBPF109、第2のBPF111)と、通過帯域幅設定手段を通過するビート信号を増幅する増幅手段(例えば、第1のアンプ110、第2のアンプ112)と、記増幅手段で増幅されたビート信号をデジタルデータに変換する変換手段(ADC113)と、距離範囲観測期間ごとに通過帯域幅設定手段および前記増幅手段を切り替える切り替え手段(連動スイッチ108a、108b)を備えている。
【0033】
また、本実施の形態によるFMCWレーダ装置は、ある距離範囲観測期間(例えば、第1の距離範囲観測期間)で計測可能な最大距離によって、別な距離範囲観測期間(例えば、第2の距離範囲観測期間)用の帯域通過フィルタの低域側抑圧周波数を決定する。
【0034】
上記した実施の形態1の説明においては、フィルタゲイン=1.0である第1のBPFと第1のアンプおよびフィルタゲイン=1.0である第2のBPFと第2のアンプを用いた構成としたが、第1のBPF、第2のBPFそれぞれが、通過帯域で各距離範囲用に予め設定された大きさの増幅機能を有するようにして、第1のアンプ、第2のアンプがなくてもよい。
なお、本発明は、その発明の範囲内において、実施の形態を適宜、変形あるいは省略することは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、車両に搭載するのに好適なFMCWレーダ装置の実現のみならず、車両以外の船舶や航空機などへの搭載にも適したFMCWレーダ装置の実現にも有用である。
【符号の説明】
【0036】
101 制御および信号処理部
102 電圧制御発振器(VCO)
103 分配回路、
104 高周波アンプ
105 送波アンテナ
106 受波アンテナ
107 ミキサ
108a、108b 連動スイッチ
109 第1の帯域通過フィルタ(第1のBPF)
110 第1のアンプ
111 第2の帯域通過フィルタ(第2のBPF)
112 第2のアンプ
113 A/D変換器(ADC)
510 FMCMレーダを搭載した車両
520、530 ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
広い距離範囲に渡って複数のターゲットを検出し、検出したターゲットとの距離および相対速度を測定するFMCWレーダ装置であって、
計測可能な距離範囲を変えて、アップチャープ期間とダウンチャープ期間からなる複数の距離範囲観測期間を設定する距離範囲観測期間設定手段と、
前記距離範囲観測期間ごとで異なる複数の変調周波数幅を設定する変調周波数幅設定手段と、
送信信号と受信信号から前記距離範囲観測期間ごとにビート信号を生成するビート信号生成手段と、
前記ビート信号生成手段で生成された前記距離範囲観測期間ごとのビート信号の通過帯域幅を設定する通過帯域幅設定手段と、
前記通過帯域幅設定手段を通過する前記ビート信号を増幅する増幅手段と、
前記増幅手段で増幅されたビート信号をデジタルデータに変換する変換手段と、
前記距離範囲観測期間ごとに前記通過帯域幅設定手段および前記増幅手段を切り替える切り替え手段を備えたことを特徴とするFMCWレーダ装置。
【請求項2】
ある距離範囲観測期間で計測可能な最大距離によって、別な距離範囲観測期間用の帯域通過フィルタの低域側抑圧周波数を決定することを特徴とする請求項1に記載のFMCWレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−88273(P2013−88273A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228611(P2011−228611)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】