説明

FTIR法を用いたガス分析装置及びこれに用いるプログラム

【課題】得られた濃度が予め設定した適当でない濃度を示した場合に自動検出し、スペクトル補正により濃度を再計算することにより、様々な試料ガスを常に高精度に測定可能にする。
【解決手段】FTIR法を用いたガス分析装置100であって、試料ガスに対して赤外光を照射して得られる吸収スペクトルにより、試料ガス中に含まれる測定成分の濃度を算出する濃度算出部21と、濃度算出部21により得られた濃度が、所定値未満であるか否かを判断する濃度判断部22と、濃度判断部において濃度が所定値未満であると判断された場合に、その時間の吸収スペクトルデータを用いてベースラインを補正し、それによって前記濃度を補正する補正部24と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試料ガスに赤外光を照射し、その際に得られる吸収スペクトル中の複数の濃度計算用の波数ポイントにおける吸光度に基づいて、試料ガス中に含まれる複数成分を定量分析するフーリエ変換赤外分光(FTIR)法を用いたガス分析装置に関するものである
【背景技術】
【0002】
このFTIR法を用いたガス分析装置は、特許文献1に示すように、測定セルに比較試料又は測定試料をそれぞれ収容して赤外光源からの赤外光を測定セルに照射し、比較試料又は測定試料のインターフェログラムを測定する。そして、これらのインターフェログラムを情報処理装置において、それぞれフーリエ変換してパワースペクトルを得た後、比較試料のパワースペクトルに対する測定試料のパワースペクトルの比を求め、これを吸光度スケールに変換することにより吸収スペクトルを得た後、この吸収スペクトル中の波数ポイントにおける吸光度に基づいて測定試料中に含まれる成分(単成分又は多成分)を定量分析するものである。
【0003】
そして、このFTIRは、測定試料の多成分分析を連続的かつ同時に行うことができるメリットがあるため、エンジン排ガス分野においては代替燃料や触媒等の研究開発に用いられており、また、燃料電池用メタノール改質システムの研究においては、メタノール、一酸化炭素、二酸化炭素等の同時分析による改質システムの評価にも用いられている。
【0004】
しかしながら、本願発明者は、エンジン排ガスの試験において、コールドスタート測定時にエンジン排ガス中のエタノール測定値(濃度)が、マイナス値を示すことがあることを見出した。このように測定値がマイナス値を示す主な要因として、測定値が測定対象外の成分である未知成分の干渉影響を受けていることが考えられる。
【0005】
そしてこの事象が発生した場合には、その時間におけるデータ信頼性を損なうという問題がある。
【特許文献1】特開2000−346801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、得られた濃度が予め設定した適当でない濃度を示した場合に自動検出し、スペクトル補正した後に濃度を再計算することにより、様々な試料ガスを常に高精度に測定可能にすることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係るFTIR法を用いたガス分析装置は、FTIR法で得られた吸収スペクトルに基づいて試料ガス中の複数成分を定量分析するFTIR法を用いたガス分析装置であって、前記試料ガスに対して赤外光を照射して得られる吸収スペクトルにより、当該試料ガス中に含まれる測定成分の濃度を算出する濃度算出部と、前記濃度算出部により得られた濃度が、所定値未満であるか否かを判断する濃度判断部と、前記濃度判断部において濃度が所定値未満であると判断された場合に、その時間の吸収スペクトルを用いてベースラインを補正し、それによって前記濃度を補正する補正部と、を具備することを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、測定対象外の成分である未知成分の干渉影響を自動検出して、その干渉影響を補正することができるので、データ信頼性を向上させることができるとともに、様々な試料ガスを常に高精度に測定することができる。
【0009】
過去に使用した補正されたベースラインデータを以後の測定に有効活用して、より精度良く測定を行うためには、前記濃度補正部が、前記吸収スペクトルを用いて補正されたベースラインデータを以後の測定に使用可能なライブラリデータとして保存するものであることが望ましい。
【0010】
前記所定値が、物理的に発生し得ない値であることが考えられ、測定値が濃度であるため所定値をマイナス値とすることが好ましい。
【0011】
エンジン排ガス分野における代替燃料や触媒等の研究開発においては、エンジン排ガス中に測定対象外の成分である未知成分の混在が考えられるので、本発明を好適に用いることができる。
【0012】
また、本発明に係るFTIR法を用いたガス分析装置用プログラムは、FTIR法で得られた吸収スペクトルに基づいて試料ガス中の複数成分を定量分析するFTIR法を用いたガス分析装置に用いられるFTIR法を用いたガス分析装置用プログラムであって、得られた濃度が、所定値未満であるか否かを判断する濃度判断部と、前記濃度判断部において濃度が所定値未満であると判断された場合に、その時間の吸収スペクトルを用いてベースラインを補正し、それによって前記濃度を補正する補正部と、としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
このように構成した本発明によれば、得られた濃度が予め設定した適当でない濃度を示した場合に自動検出し、スペクトル補正した後に濃度を再計算することにより、様々な試料を常に高精度に測定可能にするができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明に係るFTIR法を用いたガス分析装置100について、図面を参照して説明する。なお、図1は本実施形態に係るFTIR法を用いたガス分析装置100の全体模式図、図2は情報処理装置2の機器構成図、図3は情報処理装置2の機能構成図、図4は補正手順を示すフローチャートである。
【0015】
<1.装置構成>
本実施形態のFTIR法を用いたガス分析装置100は、自動車のエンジンから排出される排ガス(試料ガス)に含まれる多成分の濃度を連続的に測定する自動車排ガス用のものである。
【0016】
具体的にこのものは、図1に示すように、インターフェログラムを出力する分析部1及び当該分析部1の出力であるインターフェログラムを処理する情報処理装置2を備えている。
【0017】
分析部1は、平行な赤外光を発するように構成された赤外光源3と、この赤外光源3からの赤外光を干渉して出力する干渉機構4と、試料等を収容し、干渉機構4を介して赤外光源3からの赤外光が照射される測定セル5と、当該測定セル5を通過した赤外光を受光する半導体検出器6と、を備えている。干渉機構4は、固定ミラー7と、ビームスプリッター8と、図示しない駆動機構により例えばXY方向に平行移動する可動ミラー9と、からなる。
【0018】
情報処理装置2は、図2に示すように、CPU201、メモリ202、入出力インターフェイス203、AD変換器204等を備えた汎用乃至専用のコンピュータであり、前記メモリ202の所定領域に記憶させた所定プログラムにしたがってCPU201、周辺機器等を協働させることにより、図3に示すように、データ格納部D1、濃度算出部21、濃度判断部22、吸光度比較部23、補正部24等としての機能を発揮する。
【0019】
データ格納部D1は、各測定成分に対するその他の測定成分の干渉影響を示す影響データ及び各測定成分の検量線データ等の吸収スペクトルから各測定成分の濃度を算出するために必要なデータを格納している。なお、これらのデータは予め図示しない入力手段により入力される。また、データ格納部D1は、後述の濃度算出部21により得られた吸収スペクトルデータを格納する。この吸収スペクトルデータは、濃度算出部21から送信される。
【0020】
濃度算出部21は、分析部1の半導体検出器6から出力されるインターフェログラムを受け付けるとともに、濃度算出用データ格納部D1から検量線データ及び干渉影響データを取得して、各測定成分の濃度を算出する。具体的には、比較試料のインターフェログラム及び測定試料のインターフェログラムをそれぞれフーリエ変換してパワースペクトルを得た後、比較試料のパワースペクトルに対する測定試料のパワースペクトルの比を求め、それを吸光度スケールに変換することにより、この吸収スペクトル中の複数の波数ポイントにおける吸光度に基づいて測定試料中に含まれる測定成分(単成分又は多成分)の濃度を算出する。
【0021】
濃度判断部22は、濃度算出部21から濃度データを受け付けて、濃度算出部21により得られた濃度が、所定値未満であるか否かを判断する。具体的に濃度判断部22は、測定成分の濃度が、物理的に発生し得ない値、例えばゼロ未満の値であるか否かを判断する。そして、その判断データを吸光度比較部23に出力する。
【0022】
吸光度比較部23は、濃度判断部22から判断データを受け付けて、濃度判断部22において濃度がゼロ未満の値であると判断された場合に、以下の処理を行う。
【0023】
具体的に吸光度比較部23は、ゼロ未満である濃度を算出する際に用いた吸収スペクトルデータを濃度算出部21から取得するとともに、測定成分の検量線データをデータ格納部D1から取得する。そして、それらデータにおける測定成分(例えばエタノール)を特定するための所定波数域(例えば波数1000〜1250[cm−1])における吸光度を比較する。より詳細には、吸光度比較部23は、その所定波数域におけるピーク値を比較して、所定波数域におけるピークの有無を判定する。そして、その比較結果を示す比較データを補正部24に出力する。
【0024】
補正部24は、吸光度比較部23から比較データを受け付けて、その比較結果により、吸収スペクトルデータの前記波数域において、測定成分を特定するための吸光度が得られていない場合(所定波数域にピーク値がない場合)に、その吸収スペクトルを用いて、比較試料の吸収スペクトル及び測定試料の吸収スペクトルを算出する際の用いるベースラインを補正する。そして、その補正されたベースラインデータを用いて、測定成分の濃度を補正する。より詳細には、ゼロ未満と判断された濃度が存在する場合には、ゼロ未満と判断された濃度測定時の吸収スペクトルをベースラインとして、エタノールの濃度を再計算することにより補正する。そして、補正後の濃度データをディスプレイ等の出力部に出力する。
【0025】
このとき、本実施形態では、ゼロ未満と判断された濃度のうち最小値となる時間の吸収スペクトルデータを代表のベースラインデータとして所定測定成分(例えばエタノール)の濃度全てを補正している。
【0026】
また、濃度補正部24は、前記吸収スペクトルデータを用いて補正されたベースラインデータを以後の測定に使用可能とするためにライブラリデータとして濃度算出用データ格納部D1に格納し、又は更新する。
【0027】
<2.本実施形態の補正方法>
次にエンジン排ガスのコールドスタート測定(Cold試験)を行った場合の本実施形態に係るFTIR法を用いたガス分析装置の補正手順について、図4のフローチャート及び図5〜図7を参照して説明する。
【0028】
通常測定時においては、まず、測定セル5に比較試料を収容して、赤外光源3から赤外光を照射して比較試料のインターフェログラムを測定する。濃度算出部21は、比較試料のインターフェログラムをフーリエ変換してパワースペクトルデータを算出する。また、測定セル5に測定試料を収容して、赤外光源3からの赤外光を測定セル5に照射して、測定試料のインターフェログラムを測定する。濃度算出部21は、測定試料のインターフェログラムをフーリエ変換してパワースペクトルを算出する。
【0029】
そして、濃度算出部21は、比較試料のパワースペクトルに対する測定試料のパワースペクトルの比を求め、それを吸光度スケールに変換して、吸収スペクトルを得る(ステップS1)。その後、濃度算出部21は、この吸収スペクトル中の複数点の波数ポイントにおける吸光度に基づいて試料中に含まれる成分(単成分又は多成分)の濃度を算出する(ステップS2)(図5中補正前の濃度データ)。
【0030】
次に、濃度算出部21は、算出した濃度データを濃度判断部22に出力し、濃度判断部22は、各測定成分毎に得られた濃度がゼロ未満であるか否かを判断する(ステップS3)。濃度がゼロ未満でなければ、上記濃度算出部21により得られた濃度が、測定成分の濃度として確定し、その濃度データをディスプレイ等の出力部に出力する(ステップS4)。
【0031】
一方、濃度がゼロ未満であれば、吸光度比較部23に濃度算出部21から実測の吸収スペクトルデータ(図6参照)を取得するとともに、データ格納部D1から検量線データ(図7参照)を取得する(ステップS5)。そして、吸光度比較部23は、それらデータを比較して、検量線データにおいて、所定波数域において見られる測定成分固有のピーク値が、吸収スペクトルデータに見られるか否かを判定する(ステップS6)。
【0032】
その判定の結果、所定波数域にピーク値がなければ、排ガス中にエタノール等の所定の測定成分が含まれていないとして、その吸収スペクトルデータを用いてベースラインデータを補正する(ステップS7)。その結果、濃度補正部24は、特定成分(例えばエタノール)の濃度全てを補正して(ステップS8)、その補正後の濃度がゼロ未満か否かを判断し、ゼロ未満でなければ、その補正後の濃度データをディスプレイ等の出力部に出力する(図5中補正後の濃度データ)。
【0033】
<3.本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係るFTIR法を用いたガス分析装置100によれば、測定対象外の成分である未知成分の干渉影響を自動検出して、その干渉影響を補正することができるので、データ信頼性を向上させることができるとともに、様々な試料ガスを常に高精度に測定することができる。また、従来のようにユーザが各濃度を判断した上で原因を特定して補正する必要がなく、ユーザの負担を軽減することができる。
【0034】
<4.その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0035】
例えば前記実施形態では、自動車排ガス用のFTIR法を用いたガス分析装置について説明したが、その他、燃料電池用メタノールの改質システム用のFTIR法を用いたガス分析装置等、種々の用途に用いることができる。
【0036】
また、前記実施形態では、濃度データ全てを測定後、濃度が所定値未満か否かを判断して補正するようにしているが、各測定の都度、濃度が所定値未満か否かを判断して補正するようにしても良い。
【0037】
さらに、所定値未満の濃度を補正するのに用いる吸収スペクトルデータは、所定値未満の濃度のうち代表的なもの(最小となる濃度)を算出する際に用いた吸収スペクトルデータにより全ての濃度を補正するようにしても良いし、所定値未満の各濃度を算出する際に用いた吸収スペクトルデータを用いて所定値未満の濃度のみを補正するようにしても良い。
【0038】
その上、前記実施形態では、所定測定成分の濃度が所定値未満である場合には、当該所定測定成分の全ての濃度を補正するようにしているが、所定値未満である濃度のみを補正するようにしても良い。
【0039】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係るFTIR法を用いたガス分析装置の構成を示す模式図。
【図2】情報処理装置の機器構成図
【図3】情報処理装置の機能構成図。
【図4】フーリエ変換赤外分光光度計の補正動作を示すフローチャート。
【図5】Cold試験におけるエタノールの補正前濃度及び補正後濃度を示す図。
【図6】Cold試験におけるエタノール濃度が−10ppmの吸収スペクトルを示す図。
【図7】エタノール標準ガス180ppmの吸収スペクトル(検量線)を示す図。
【符号の説明】
【0041】
100・・・FTIR法を用いたガス分析装置
21 ・・・濃度算出部
22 ・・・濃度判断部
24 ・・・補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FTIR法で得られた吸収スペクトルに基づいて試料ガス中の複数成分を定量分析するFTIR法を用いたガス分析装置であって、
前記試料ガスに対して赤外光を照射して得られる吸収スペクトルにより、当該試料ガス中に含まれる測定成分の濃度を算出する濃度算出部と、
前記濃度算出部により得られた濃度が、所定値未満であるか否かを判断する濃度判断部と、
前記濃度判断部において濃度が所定値未満であると判断された場合に、その時間の吸収スペクトルを用いてベースラインを補正し、それによって前記濃度を補正する補正部と、を具備するFTIR法を用いたガス分析装置。
【請求項2】
前記濃度補正部が、前記吸収スペクトルを用いて補正されたベースラインデータを以後の測定に使用可能なライブラリデータとして保存するものである請求項1記載のFTIR法を用いたガス分析装置。
【請求項3】
前記所定値が、物理的に発生し得ない値である請求項1又は2記載のFTIR法を用いたガス分析装置。
【請求項4】
前記試料が、エンジン排ガスである請求項1、2又は3記載のFTIR法を用いたガス分析装置。
【請求項5】
FTIR法で得られた吸収スペクトルに基づいて試料ガス中の複数成分を定量分析するFTIR法を用いたガス分析装置に用いられるFTIR法を用いたガス分析装置用プログラムであって、
得られた濃度が、所定値未満であるか否かを判断する濃度判断部と、
前記濃度判断部において濃度が所定値未満であると判断された場合に、その時間の吸収スペクトルを用いてベースラインを補正し、それによって前記濃度を補正する補正部と、としての機能をコンピュータに発揮させるFTIR法を用いたガス分析装置用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−151624(P2010−151624A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330241(P2008−330241)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】