説明

FePd/Feナノコンポジット磁石の製造方法

【課題】FePd相をコアとし、Fe相をシェルとするFePd/Feナノコンポジット磁石を、コアのFePd相の規則度を高め、シェルのFe相の粗大化を防止して合成する方法を提供する。
【解決手段】FePdをコアとし、FeをシェルとするFePd/Feナノコンポジット磁石の製造方法であって、
Pdの塩を界面活性剤を含む溶媒中に溶解させ、還元剤を加えて加熱することでPdナノ粒子を合成する工程1、
Feの塩を界面活性剤を含む溶媒中に溶解させ、上記Pdナノ粒子を添加し、還元剤を加えて加熱することで、該Pdナノ粒子の表面にFeまたはFeの酸化物を析出させてPd/FeOxナノコンポジット粒子(x=0〜1.5)を合成する工程2、
上記Pd/FeOxナノコンポジット粒子を水素雰囲気中で処理温度450℃〜550℃、処理時間3時間以上で熱処理して、上記FePd/Feナノコンポジット粒子を合成する工程3
を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FePdナノ粒子をコアとし、FeをシェルとするFePd/Feナノコンポジット磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノコンポジット磁石は、ナノ粒子の硬磁性相をコアとし、ナノ粒子の軟磁性相をシェルとする硬/軟2相複合構造を備え、特にシェルの軟磁性相を数nm(5nm以下と言われる)の極微細粒とすることにより、コア/シェルの硬軟磁性相間に交換結合が働き、残留磁化を大幅に増大できるという特性が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Pd/Fe酸化物を水素雰囲気下で500℃×3時間の熱処理を行うことにより、FePd/Feナノコンポジット粒子を得ることが記載されている。しかし、Pd粒子内へのFeの拡散よりPd粒子表面におけるFeの拡散が早いため、コアのFePd相の規則化が不十分な上、シェルのFeがコア表面で粗大化してしまい交換結合の効果が得られない。
【0004】
特許文献2〜6には、Pd/FeまたはFePd/Feのナノコンポジット磁石が開示されているが、いずれもコアのFePd相の規則化促進およびシェルのFe層の粗大化防止については、関心が払われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−138238号公報
【特許文献2】特開2008−138243号公報
【特許文献3】特開2007−39794号公報
【特許文献4】特開2007−109705号公報
【特許文献5】特開2007−208144号公報
【特許文献6】特開2005−330526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、FePd相をコアとし、Fe相をシェルとするFePd/Feナノコンポジット磁石を、コアのFePd相の規則度を高め、シェルのFe相の粗大化を防止して合成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、FePdをコアとし、FeをシェルとするFePd/Feナノコンポジット磁石の製造方法であって、下記の工程:
Pdの塩を界面活性剤を含む溶媒中に溶解させ、還元剤を加えて加熱することでPdナノ粒子を合成する工程1、
Feの塩を界面活性剤を含む溶媒中に溶解させ、上記Pdナノ粒子を添加し、還元剤を加えて加熱することで、該Pdナノ粒子の表面にFeまたはFeの酸化物を析出させてPd/FeOxナノコンポジット粒子(x=0〜1.5)を合成する工程2、
上記Pd/FeOxナノコンポジット粒子を水素雰囲気中で処理温度450℃〜550℃、処理時間3時間以上で熱処理して、上記FePd/Feナノコンポジット粒子を合成する工程3
を含む方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、Pd/FeOxナノコンポジット粒子を水素雰囲気中で処理温度450℃〜550℃、処理時間3時間以上で熱処理することにより、コアのFePd相の規則度を高め、シェルのFe相の粗大化を防止して、高い磁性を備えたFePd/Feナノコンポジット粒子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施例1において、種々の熱処理温度における生成相を示すXRDチャートである。
【図2】図2は、実施例1において、熱処理温度と保磁力および規則度との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例1において、種々の熱処理時間における生成相を示すXRDチャートである。
【図4】図4は、実施例1において、熱処理時間と保磁力および規則度との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例1において、熱処理前後のコア相およびシェル相の変化を示すTEM写真および模式図である。
【図6】図6は、実施例2において、工程1のPdナノ粒子を合成するための条件および手順を示すフローチャートである。
【図7】図7は、実施例2において、工程2のPd/FeOxナノコンポジット粒子を合成するための条件および手順を示すフローチャートである。
【図8】図8は、実施例2において、Pd/Fe比を変えた配合1、2、3について、工程3の熱処理後の粒子のXRDチャートである。
【図9】図9は、実施例2において、Pd/Fe比を変えた配合1、2、3について、工程3の熱処理後の粒子のVSMによる磁化特性を示すグラフである。
【図10】図10は、実施例2において、Pd/Fe比を変えた配合1、2、3について、工程2で得られたPd/FeOxナノコンポジット粒子のTEM像である。
【図11】図11は、比較のため、実施例1と同様に粒径5nmのPdナノ粒子表面に種々の当量のFe先駆物質を用いて生成したPd/FeOxナノコンポジット粒子のTEM像である。
【図12】図12は、Pdナノ粒子の粒径が8nmの場合と5nmの場合とについて、Fe先駆物質の増加・減少に伴う、Pdナノ粒子表面へのFeOxナノ粒子の析出形態の差異を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明においては、工程1によりPdナノ粒子を合成し、工程2によりPd/FeOxナノコンポジット粒子を合成し、これを工程3で熱処理することにより、コアがFePd規則相(L1−FePd)を主体とし、極微細な(5nm以下程度の)Fe相のシェルで覆われたFePd/Feナノコンポジット粒子を得る。以下、順次説明する。
【0011】
≪工程1≫
工程1において、Pdナノ粒子を合成する。Pdナノ粒子は、粒径1〜100nm、望ましくは1〜10nmである。これは常法で形成することができる。典型的には、Pdの塩を溶媒中で還元してPdナノ粒子を析出させる。
【0012】
工程1においては下記を用いることができる。ただし、これらに限定する必要はない。
【0013】
<Pdの先駆物質>
Pdの塩として有機配位子を有する金属錯体(アセチルアセトナート塩、酢酸塩)、や塩化パラジウム、テトラアンミンパラジウム、ジクロロエチレンジアミンパラジウム、ジクロロジアンミンパラジウム、ジニトロジアンミンパラジウム、ジクロロテトラアンミンパラジウム、水酸化アンミンパラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、等が挙げられる。具体的にはPd(acac)(パラジウムアセチルアセトナート)を用いることができる。更に好ましくは、Pd(OAc)(酢酸パラジウム)を用いることができる。
【0014】
<界面活性剤>
界面活性剤としては、オレイルアミン、オレイン酸、TOP(トリオクチルリン酸)、トリブチルリン酸、テトラエチレングリコール、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸、ミリスチル酸、ドデカンチオール、ドデシルアミン等を用いることができる。この界面活性剤の添加量はPdの塩の5倍モル以上とすることが好ましい。
【0015】
<溶媒>
界面活性剤としてTOP、トリブチルリン酸、オレイルアミン又はオレイン酸、テトラエチレングリコール、用いる場合、これらは溶媒としても機能するが、必要に応じて溶媒を添加してもよい。この溶媒としては、Pd粒子の析出反応において加熱するため、沸点の高い、かつ安定であるものが好ましく、例えば1−オクタノール、オクチルエーテル、オクタデセン、スクアレン、トリフェニルメタン等を用いることができる。
【0016】
<還元剤>
還元剤としては、一価アルコール、ポリオール(多価アルコール)、アミン系物質、又はジフェニルシランを用いることが好ましい。一価アルコールとしては、特に限定されないが、例えば1−オクタノール、1−デカノール、1−ドデカノール等を用いることができ、還元を行う反応温度より高い沸点を有するものが好ましい。ポリオールとしては、特に限定されないが、例えば1,2−オクタンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,2−テトラデカンジオール、1,2−ヘキサデカンジオール等を用いることができ、還元を行う反応温度より高い沸点を有するものが好ましい。その他にも、ヒドラジン、水素化ほう素ナトリウム、テトラブチルアンモニウムボロンハイドレイト、ジボランなどでも還元が可能である。還元剤の添加量は、Pdの塩の等倍モル以上とすることが好ましい。
【0017】
≪工程2≫
工程2においては、工程1で得られたPdナノ粒子をコアとし、FeまたはFe酸化物をシェルとするPd/FeOx(x=0〜1.5)ナノコンポジット粒子を合成する。これは、典型的にはFeの塩を溶媒中で還元して、Pd粒子の表面にFeまたはFe酸化物として析出させる。
【0018】
工程2においては下記を用いることができる。ただし、これらに限定する必要はない。
【0019】
<Feの先駆物質>
Feの塩としては、有機配位子を有する金属錯体であることが好ましく、例えばアセチルアセトナート塩、フェロセン、酢酸塩、塩化物、硫化物、水酸化物等が挙げられる。具体的には、鉄(II)アセチルアセトナート、鉄(III)アセチルアセトナート等を用いることができる。このFeの添加量はPdの等倍〜4倍モル程度とすることが好ましい。
【0020】
<界面活性剤>
界面活性剤としては、オレイルアミン、オレイン酸、TOP(トリオクチルリン酸)、トリブチルリン酸、テトラエチレングリコール、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸、ミリスチル酸、ドデカンチオール、ドデシルアミン等を用いることができる。この界面活性剤の添加量はFeの塩の等倍モル以上とすることが好ましい。
【0021】
<溶媒>
界面活性剤としてTOP、トリブチルリン酸、オレイルアミン又はオレイン酸、テトラエチレングリコール、用いる場合、これらは溶媒としても機能するが、必要に応じて溶媒を添加してもよい。この溶媒としては、Pd粒子の析出反応において加熱するため、沸点の高い、かつ安定であるものが好ましく、例えば1−オクタノール、オクチルエーテル、オクタデセン、スクアレン、トリフェニルメタン等を用いることができる。
【0022】
<還元剤>
還元剤としては、一価アルコール、ポリオール(多価アルコール)、アミン系物質、又はジフェニルシランを用いることが好ましい。一価アルコールとしては、特に限定されないが、例えば1−オクタノール、1−デカノール、1−ドデカノール等を用いることができ、還元を行う反応温度より高い沸点を有するものが好ましい。ポリオールとしては、特に限定されないが、例えば1,2−オクタンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,2−テトラデカンジオール、1,2−ヘキサデカンジオール等を用いることができ、還元を行う反応温度より高い沸点を有するものが好ましい。その他にも、ヒドラジン、水素化ほう素ナトリウム、テトラブチルアンモニウムボロンハイドレイト、ジボランなどでも還元が可能である。還元剤の添加量は、Feの塩の等倍モル以上とすることが好ましい。
【0023】
≪工程3≫
本発明の特徴は特に工程3にある。すなわち、工程3においては、工程2で得られたPd/FeOx(x=0〜1.5)ナノコンポジット粒子を水素雰囲気中で熱処理することにより、コアがFePd規則相(L1−FePd)を主体とし、極微細な(5nm以下程度の)Fe相のシェルで覆われたFePd/Feナノコンポジット粒子を得る。
【0024】
すなわち、工程3の熱処理は、下記の作用(1)(2)を行なう。
【0025】
(1)Pd/FeOx(x=0〜1.5)ナノコンポジット粒子のPdコアの表面に析出したFe(Fe酸化物の場合は水素で還元してFeとして)を、Pdコア内に拡散させてコアをFePd合金(不規則相)とし、更にこれを規則相L1-FePdに変態させる。これにより、規則度が高まり、保磁力が高まる。
【0026】
(2)Pd/FeOx(x=0〜1.5)ナノコンポジット粒子のPdコアの表面に析出したFe(Fe酸化物の場合は水素で還元してFeとして)を、自己拡散させて極微細な(5nm以下程度の)粒子としてFePdコア表面を覆わせる。これにより、硬磁性のコア相からの交換結合長が軟磁性のシェル相に及び、残留磁化が高まる。
【0027】
このように本発明においては、熱処理により保磁力と残留磁化とを同時に高めることができる。
【0028】
そのために熱処理は処理温度450〜550℃、処理時間3時間以上で行なう。好ましい熱処理条件は、450℃で10時間以上である。
ここで、コアのFePdの規則化が促進される観点から、昇温速度は遅いほど良い。10℃/分以下が好ましく、より好ましくは3℃/分以下である。このように遅い昇温速度を用いる場合、熱処理温度は450〜500℃が好ましく、より好ましくは475〜500℃である。熱処理時間は3時間以上が好ましく、より好ましくは10時間以上である。
熱処理に際しては、前処理として、表面有機物を除去することが望ましい。表面有機物は3wt%以下とすることが好ましく、より好ましくは1wt%以下である。
【0029】
熱処理雰囲気は水素雰囲気とする。工程2で形成されたPdコア/FeまたはFe酸化物シェルのFe酸化物を還元および/またはFeの酸化防止のためである。
【実施例】
【0030】
〔実施例1〕
本発明により、下記の条件および手順でFePd/Feナノコンポジット磁石を製造した。
【0031】
≪工程1:Pdナノ粒子の合成≫
Pdの先駆物質としてパラジウムアセチルアセトナート(Pd(acac))を0.17mmol、溶媒および界面活性剤としてトリオクチル燐酸(TOP)を1.1mmol、界面活性剤としてオレイルアミンを1.1mmol(この場合、オレイルアミンが還元剤の役割を有する)加え、250℃までゆっくりと昇温して30分保持した。常温に冷却後、粒径5nmのPdナノ粒子を回収した。精製後次工程へ供した。
【0032】
≪工程2:Pd/FeOxナノコンポジット粒子の合成≫
工程1で得られたPdナノ粒子の表面に、FeまたはFe酸化物を析出させた。
【0033】
Pdナノ粒子(粒径5nm)を0.085mmol(全量が反応したとして正確にその半量を測り取った)、溶媒としてオクタノールを10ml、Fe(III)アセチルアセトナート(Fe(acac))を0.22mmol、還元剤としてオレイルアミンを0.34mmol、界面活性剤としてオレイン酸を0.34mmol加え、180℃まで昇温して1時間保持した。常温に冷却後、Pd/FeOxナノコンポジット粒子を回収した。エタノール10mlで精製した(微小のFe粒子を取り除くため、エタノールの量を減らした精製した)。
【0034】
≪工程3:FePd/Feナノコンポジット磁石の合成≫
工程2で得られたPd/FeOxナノコンポジット粒子を、水素雰囲気(H:4%、Ar:96%)において、400℃、450℃、500℃、550℃、600℃×10hrの熱処理を行なった。また、450℃については処理時間1、3、5hrでも熱処理した。
【0035】
熱処理前のPd/FeOx粒子と各条件で熱処理後の粒子について、XRDによる結晶構造解析と保磁力の測定とを行なった。XRDデータからは規則度も下記式によって算出した。
【0036】
規則度S={[Im(110)/Im(111)]/[Ir(110)/Ir(111)]}1/2
ただし、Imは試料のピーク面積、IrはPDFカードの強度であり、いずれも(110)ピークと(111)ピークとを用いた。
【0037】
処理温度450、500、550℃×処理時間10hrの場合の測定結果について図1にXRD、図2に保磁力と規則度(400℃、600℃×10hrの場合も含む)を示し、処理温度450℃×処理時間1、3、5、10hrの場合の測定結果について図3にXRD、図4に保磁力と規則度を示す。
【0038】
図1、図3のXRD結果から、熱処理前(0h)には、Fe(すなわちFeOxでx=4/3≒1.33)とPdのピークが明瞭であり、これらのピークは熱処理の進行に伴い消滅してαFeとFePdのピークが現われてくることが分かる。これに伴い図2、図4に示したように、規則度が高まり、同時に保磁力が高まっている。
【0039】
図5に、(1)熱処理前のTEM像(1a)および模式図(1b)、(2)熱処理(450℃×10hr)後のTEM像(2a)および模式図(2b)を示す。図5(1)に示したように、熱処理前にPdコアの表面にFeが存在した状態から、図5(2)に示したように熱処理後にFePdコアの表面をαFeが被覆した状態への変化に対応することを示している。
【0040】
また、図1中に記載したように、450℃、500℃、550℃と熱処理温度が高まるのに伴って、αFe粒径が20nm、40nm、56nmと粗大化しており、保磁力が順次低下していることに対応している。
【0041】
このことから、熱処理温度が500℃以上となると、αFe粒子の表面拡散がPd内部への拡散よりも早くなるため、図5(3)に模式的に示すようにPd粒子の表面でαFe粒子が粗大化してしまう。そのため、FePd相の規則化が十分に進行せず、またFeの粗大化に伴い軟磁性相に及ぼす硬磁性相の交換結合長が及ばなくなると考えられる。
【0042】
図2、図4の保磁力で示されるように、実験した範囲では450℃×10hrが最良の磁気特性が得られる。このことから、低温・長時間の熱処理が、コアのFePd規則化とシェルのFe微細化にとって有利であることが分かる。したがって、この実験結果から、450℃で10時間以上の熱処理が最も有利であることが推察される。
【0043】
〔実施例2〕
本発明により、下記の条件および手順でFePd/Feナノコンポジット磁石を製造した。
実施例2は、実施例1に比べてPdナノ粒子の粒径が比較的大きい点が特徴である。
【0044】
≪工程1:Pdナノ粒子の合成≫
図6に条件および手順を示す。
Pdの先駆物質として酢酸パラジウム(Pd(OAc))を3.30mmol反応チャンバに装入し、チャンバ内の雰囲気を窒素置換した後、溶媒および界面活性剤としてトリオクチル燐酸(TOP)を21.3mmol添加して30分攪拌した。次いで、界面活性剤および還元剤としてオレイルアミン(未精製)を303.9mmol加え、250℃までゆっくりと昇温して30分保持した。常温に冷却後、粒径8nmのPdナノ粒子を回収した。エタノール精製後次工程へ供した。
【0045】
≪工程2:Pd/FeOxナノコンポジット粒子の合成≫
図7に条件および手順を示す。
工程1で得られたPdナノ粒子の1/10量に分けて用いた。
Pdナノ粒子(粒径8nm)0.33mmolに対して、表1に示した配合量でFeの先駆物質としてFe(III)アセチルアセトナート(Fe(acac))、還元剤としてオレイルアミン(精製済)、界面活性剤としてオレイン酸、溶媒としてオクタノールを加え、窒素バブリングを5分間行なった後、3℃/分で180℃まで昇温して1時間保持した。常温に冷却後、Pd/FeOxナノコンポジット粒子を回収した。エタノールで精製した。得られたPd/FeOxナノコンポジット粒子のEPMAによる組成分析結果を表1に併せて示す。
【0046】
【表1】

【0047】
生成したPd/FeOxナノ粒子をEPMAにて組成分析してFe:Pd比を求めた。結果を表1の最下段に示す。なお、得られたPd/FeOxのFeOxはFe(x=3/2=1.5)であることをXRDにて同定した。
Fe:Pd比は概略で、配合1で7:3、配合2で6:4、配合3で5:5である。このFe:Pd比は、次工程で熱処理後の最終的なFePd/Feナノコンポジット粒子でも変わらずに維持される。
【0048】
≪工程3:FePd/Feナノコンポジット磁石の合成≫
工程2で得られたPd/FeOxナノコンポジット粒子を、オゾン酸化処理によって表面有機物を除去した後、水素雰囲気(H:4%、Ar:96%)において、475℃×10hrの熱処理を行なった。
【0049】
熱処理後のナノ粒子について、図8にX線回折(XRD)による構造解析および図9に試料振動型磁力計(VSM)による磁気特性評価の結果をそれぞれ示す。
【0050】
図8のXRDの結果に現れているように、配合3の場合にαFeのピークが認められず、FePd単相(コア相のみ)となったことが分かる。これは表1のEPMAによるFe:Pd比が5:5であることと良く一致している。配合1、2の場合は、Fe(III)アセチルアセトナート(Fe(acac))の配合量の増加に対応してαFeのピーク高さ・幅が大きくなっており、FePd/Feナノコンポジット粒子中のαFeの体積分率が増加していることが分かる。
【0051】
図9の磁化特性に現れているように、配合3の軟磁性αFeシェルの無い硬磁性FePdコアのみの場合に3kOeの保磁力が得られており、配合2→配合1とαFeの体積分率が増加するのに対応して保磁力が減少し、逆に残留磁化は増加していることが分かる。
【0052】
このように、本実施例の特徴として、Fe先駆物質の配合量を変化させることにより、FePd/Feナノコンポジット粒子のαFe体積率を変化させることができることが分かった。これは工程1によって得られるPdナノ粒子の粒径が、実施例1の5nmに比べて実施例2では8nmと大きいことによると考えられる。以下に、想定されるその理由を説明する。
【0053】
(1)工程1において、Pdの先駆物質として酢酸パラジウム(Pd(OAc))を用いたことにより、Pdナノ粒子の粒径が8nmと大きいものが得られた。
【0054】
(2)工程2において、Pdナノ粒子と、その表面に析出するFeOxとの間には、例えばγFe(440)//Pd(220)という優先方位関係があると推定される。すなわち、球形のPdナノ粒子表面のうち、この優先方位関係に一致する位置のみが実質的な析出サイトとなり得ると考えられる。
【0055】
(3)Pdナノ粒子は粒子1個が単結晶ではなく多結晶から成り、粒子を構成する結晶の個数は粒径が大きいほど多くなる。このように粒径増加に伴って粒子の多結晶性が高まると析出サイト(Pd(220))が増加し、Pdナノ粒子表面へのFeOx粒子の析出量が増加し、熱処理後に得られるFePd/Feナノコンポジット粒子のαFe体積分率が増加したと考えられる。すなわち、実施例1のPd粒径5nmの場合に比べて、実施例2のPd粒径8nmでは、Pd粒子の表面に析出するFeOx粒子の体積率の範囲が格段に広がり、組成比Pd/Feの制御可能な範囲が上記のように広がったと考えられる。
【0056】
実施例1と実施例2の比較から、このように組成比の制御範囲が拡大するには、工程1で合成されるPdナノ粒子の粒径が5nmより大、望ましくは8nm以上であることが必要であることが分かった。
【0057】
図10に、表1の配合1、2、3に対して得られたPd/FeOxナノコンポジット粒子のTEM像を示す。いずれもPdナノ粒子(黒色)の周囲にFeナノ粒子が等方的に析出していることが分かる。
【0058】
図11に、比較として、実施例1と同様に粒径5nmのPdナノ粒子表面にFeOxナノ粒子を析出させたPd/FeOxナノコンポジット粒子のTEM像を示す。図11の(a)〜(e)は、実施例1の工程2において、Pdナノ粒子のPd原子モル数に対して、Fe(III)アセチルアセトナート(Fe(acac))を(a)2当量、(b)2.5当量、(c)4当量、(d)6当量、(e)10当量添加した場合を示す。
【0059】
(a)2当量ではほとんどのPdナノ粒子上にFeOxナノ粒子は生成しておらず、(b)2.5当量ではほぼ全てのPdナノ粒子粒子上にFeOxナノ粒子の生成が認められる。
【0060】
2.5当量を超える(c)〜(e)でも全てのPdナノ粒子上にFeOxナノ粒子の生成が認められるが、Pd粒子表面に等方的に析出するのではなく、析出したFeOxナノ粒子上へ更に析出して角状に異方的に成長してしまい、交換相互作用を発現する5nm程度の距離範囲を超えている。
【0061】
図12に、Pdナノ粒子の粒径が8nmの場合と5nmの場合とについて、Fe先駆物質の増加・減少に伴う、Pdナノ粒子表面へのFeOxナノ粒子の析出形態の差異を模式的に示す。なお、簡単のためにFe(III)アセチルアセトナート(Fe(acac))をここでは単に「Fe源」と略称する。
【0062】
例えば、(A)粒径8nmの多結晶Pdナノ粒子は6個の結晶から成り、(B)粒径5nmの多結晶のPdナノ粒子は3個の結晶から成る、と想定できる。いずれも個々のPd結晶毎に1箇所づつのFeOx析出サイトを想定すると、横方向中央に示すように、Fe源がある量の場合は8nm・5nm共に3個のFeOxが析出する。
【0063】
Fe源の量が減少した場合は左端に示すように8nmのPd粒子には2個、5nmのPd粒子には1個のFeOxが析出する(粒径によらず同じ析出頻度を仮定)。5nmの場合は余分なFe源は溶液中に遊離したFeOxとして析出する。
【0064】
一方、Fe源の量が増加した場合は右端に示すように8nmのPd粒子には6個のFeOx粒子が最大で析出できるが、5nmのPd粒子は3個の析出サイトが全て埋まっているため既に析出したFeOx粒子上に更にFeOx粒子が析出して、右下に示すように角状にFeOxが成長した状態になる。
【0065】
これは、粒径8nmの場合、〔配位子(Fe(acac))のPd表面への吸着速度〕>〔還元速度〕となり、液相中での還元が抑制され、少量のFeOxでも粒子表面への不均一核生成が可能となったためであると考えられる。
【0066】
逆に、粒径5nmの場合は、〔配位子(Fe(acac))のPd表面への吸着速度〕<〔還元速度〕となり、液相中で還元反応が進行して均一核生成によるFeOxの生成確立が高まったためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、FePd相をコアとし、Fe相をシェルとするFePd/Feナノコンポジット磁石を、コアのFePd相の規則度を高め、シェルのFe相の粗大化を防止して合成する方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FePdをコアとし、FeをシェルとするFePd/Feナノコンポジット磁石の製造方法であって、下記の工程:
Pdの塩を界面活性剤を含む溶媒中に溶解させ、還元剤を加えて加熱することでPdナノ粒子を合成する工程1、
Feの塩を界面活性剤を含む溶媒中に溶解させ、上記Pdナノ粒子を添加し、還元剤を加えて加熱することで、該Pdナノ粒子の表面にFeまたはFeの酸化物を析出させてPd/FeOxナノコンポジット粒子(x=0〜1.5)を合成する工程2、
上記Pd/FeOxナノコンポジット粒子を水素雰囲気中で処理温度450℃〜550℃、処理時間3時間以上で熱処理して、上記FePd/Feナノコンポジット粒子を合成する工程3
を含む方法。
【請求項2】
請求項1において、上記熱処理を、処理時間10時間以上で行なうことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2において、工程1のPdの塩として、有機配位子を有する金属錯体(アセチルアセトナート塩、酢酸塩)、塩化パラジウム、テトラアンミンパラジウム、ジクロロエチレンジアミンパラジウム、ジクロロジアンミンパラジウム、ジニトロジアンミンパラジウム、ジクロロテトラアンミンパラジウム、水酸化アンミンパラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウムを用いることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3において、工程1のPdの塩として酢酸パラジウムを用い、粒径が5nmより大きいPdナノ粒子を合成することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項において、工程2のFeの塩として、有機配位子を有する金属錯体を用いることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれか1項において、工程2のFeの塩として、アセチルアセトナート塩、フェロセン、酢酸塩、塩化物、硫化物、水酸化物を用いることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項において、工程1および/または工程2の還元剤として、一価アルコール、ポリオール(多価アルコール)、アミン系物質、又はジフェニルシランを用いることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7において、工程1および/または工程2の還元剤は還元を行なう反応温度より沸点が高く、一価アルコールとしては、1−オクタノール、1−デカノール、1−ドデカノールを、ポリオールとしては、1,2−オクタンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,2−テトラデカンジオール、1,2−ヘキサデカンジオールを、あるいは、ヒドラジン、水素化ほう素ナトリウム、テトラブチルアンモニウムボロンハイドレイト、ジボランを用いることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項において、工程1および/または工程2の界面活性剤として、オレイルアミン、オレイン酸、TOP(トリオクチルリン酸)、トリブチルリン酸、テトラエチレングリコール、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸、ミリスチル酸、ドデカンチオール、ドデシルアミンを用いることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図5】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−103512(P2010−103512A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219367(P2009−219367)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】