説明

Fmocをベースとした加水分解性リンカーの調製方法

Fmoc(9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニル)−をベースとした化合物を製造する新規な方法であって、フルオレン環系の9−ヒドロキシメチル基のための保護基を使用する方法を提供する。これらの化合物は、タンパク質およびペプチド系の薬物の修飾に有用である。一つの実施形態において、本発明の化合物を、フルオレン環系の9−ヒドロキシメチル基のための保護基を用いる、複数ステップの手順によって調製する。これらの誘導体をさらに改変して、スクシンイミジルエステルなどの活性化されたエステルを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2007年6月26日に出願された米国仮特許出願第60/937,125号への優先権を主張し、この米国仮特許出願の全体の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、タンパク質およびペプチド系の薬物の修飾に有用な加水分解性リンカーの作製に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ほとんどのペプチドおよびタンパク質系薬物は寿命が短く、しばしば、インビボで短い循環半減期を有する。ペプチドおよびタンパク質系薬物が経口で吸収されないことを考慮すると、循環系において治療活性のある薬物を長く保持することは、臨床的重要性の点で明らかに望ましい特徴である。
【0004】
タンパク質またはペプチド系薬物の臨床的特性を改善するための好ましい方策は、タンパク質またはペプチド系薬物を、ポリマー、例えばポリアルキレンオキシド(非特許文献1)、またはポリシアル酸(非特許文献2)、デキストランまたはヒドロキシルエチルスターチなどの多糖で修飾することである。しばらくの間、ポリ(エチレングリコール)(PEG)を用いた修飾が知られていた。しかし、PEGを用いたタンパク質の修飾はしばしば、タンパク質の活性の低下をもたらす。したがって、加水分解性または分解性の化学的リンカーを用いたタンパク質またはペプチド系薬物とのポリマーの解放可能な結合を可能にする代替の系が開発されてきた(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4)。タンパク質−ポリマーコンジュゲートはプロドラッグと見なすことができ、タンパク質の活性は、制御放出機序によってコンジュゲートから放出させることができる。この考え方を用いて、薬物の薬物動態特性の改善を行うことができる(非特許文献3)。したがって、特許文献3は加水分解性PEG−リンカーの使用を提案している。(本明細書で引用したすべての文献を参照により本明細書に組み込む)。
【0005】
Tsuberyら、(非特許文献4)は、Fmoc(9−フルオレンイルメチルカルバメート)基をベースとしたタンパク質の誘導体化のための加水分解性PEG−リンカーを示している。フルオレン基を、マレイミドプロピオン酸無水物およびN−ヒドロキシスクシンイミドと反応させ、これを、そのアミノ基で、ポリ(エチレングリコール)(PEG)およびタンパク質とさらに反応させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,515,100号明細書
【特許文献2】米国特許第7,122,189号明細書
【特許文献3】国際公開第04/089280号パンフレット
【特許文献4】国際公開第06/138572号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Robertsら、Advan Drug Rev.第54巻、459〜476頁(2002年)
【非特許文献2】Fernandesら、Biochim Biophys Acta、第1341巻、26〜34頁(1997年)
【非特許文献3】Zhaoら、Bioconjugate Chem.第17巻、341〜351頁(2006年)
【非特許文献4】J Biol Chem.第279巻、38118〜38124頁(2004年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、MAL−FMS−OSU(9−ヒドロキシメチル−2−(アミノ−3−マレイミド−プロピオネート)−7−スルホフルオレンN−ヒドロキシスクシンイミジルカーボネート)と称される加水分解性リンカーの合成は、収率が低く、再現性が劣ることが問題である。Tsuberyらによる合成法の重要な問題点は、9−ヒドロキシメチル−2−アミノフルオレンのマレイミドプロピオン酸無水物との反応によるマレイミド基の導入にある。このステップで、9の位置でのOH基のエステル化などの望ましくない副反応が起こる。したがって、OH基の保護のための追加のステップを含む改善された合成法を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、一般式1の化合物を合成するための新規な方法を提供する。
【0010】
【化1】

ここで、PGは保護基であり、1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つはY基と結合している。
【0011】
YはN−マレイミジル部分を含む基である。
【0012】
Y基と結合していることに加えて、式1の化合物は任意選択で、利用可能な1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つでX基と結合していてもよい。
【0013】
Xは−SO−Rである。
【0014】
は、水素、(C〜C)−アルキルおよび(C〜C)−アルキル−Rからなる群から選択される。
【0015】
はポリマーである。
【0016】
本発明の化合物を、フルオレン環系の9−ヒドロキシメチル基のための保護基を用いる、複数ステップの手順によって調製する。これらの誘導体をさらに改変して、スクシンイミジルエステルなどの活性化されたエステルを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(発明の詳細な説明)
本発明は、式1の化合物を得るために保護基を使用する合成法によって上記問題の克服を可能にする。式1の化合物は、活性なマレイミド(MAL)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(OSU=NHS)基を含むMAL−FMS−OSUならびに他のMAL−Fmoc−OSU誘導体などの加水分解性リンカーを生成する後続の反応ステップに適した前駆体であり、高い収率と純度で所望の生成物を提供する。これらのリンカーは1つまたは複数のポリマーでさらに改変することができ、したがって、ペプチドまたはタンパク質系薬物を修飾するのに用いることができる。
【0018】
式1の化合物はアミノ置換フルオレンから出発して調製することができる。新規な合成手順では、以下に示す手順のステップ4におけるフルオレンの位置9において、ヒドロキシルメチル基のための保護基を導入する。以下の合成スキームは、例として式1の化合物の調製を示す。
【0019】
【化2】

【0020】
【化3】

ステップ1:
第1のステップ(上記スキーム参照)では、アミノ置換フルオレンのアミン基を、例えばBOC無水物などを用いた反応により、BOC基(tert−ブチルオキシカルボニル)で保護する。アミンのための他の適切な任意の保護基(Greeneら、Protective Groups in organic synthesis、Jon Wiley & Sons, Inc.、第3版、New York(1999年))を使用することができる。他の例はZ(ベンジルオキシカルボニル)基である。
【0021】
1、2、3、4、5、6、7または8の位置に2個以上のY基を有する式1の化合物を合成するために、同様の反応において、複数アミノ置換フルオレン誘導体を用いることができる。
【0022】
ステップ2:
第2のステップでは、例えば、NaHまたはリチウムジイソプロピルアミド(LDA)およびギ酸エチルとの反応、続くMeOH中でのNaBH、またはDIBAL(ジイソブチルアルミニウムヒドリド)などの他の還元剤との反応によって、ヒドロキシメチル基を、フルオレンコアの位置9に導入する。
【0023】
ステップ3:
第3のステップでは、BOC保護基を、例えばHCl CFCOOHまたはp−トルオールスルホン酸で開裂させる。
【0024】
ステップ4:
第4のステップでは、例えば、tBDMS−Cl(Coreyら、J Am Chem Soc.第94巻、6190〜6191頁(1972年))または4,4’−トリメトキシトリチルクロリドなどのシリルハロゲン化物との反応によって9−ヒドロキシメチル基を保護する。
【0025】
一実施形態では、シリルハロゲン化物はtBDMS−Cl(tert−ブチルジメチルシリルクロリド)である。tBDMS−Clとの反応は、DMF(ジメチルホルムアミド)中のイミダゾールを用いて実施することが好ましい。シリル保護基を使用することによって、分子はより親油性になり、したがって、2個以上のY基と結合した化合物の調製が容易になる。
【0026】
ステップ5:
第5ステップでは、例えば、アミノ基をマレイミドアルキル酸またはマレイミドアルキル酸無水物と反応させることによってN−マレイミジル部分を導入する。
【0027】
マレイミジル基はチオール基に対して反応性がある。したがって、PEG−SHなどの改変ポリマーを、加水分解性リンカーと共有結合させてポリマー改変加水分解性リンカーを得ることができる。
【0028】
ステップ6:
この任意選択のステップでは、フルオレン環系にX基(−SO)を導入する。この酸性基により化合物はより親水性になり、水性溶媒中での後続のカップリング反応が実施できるようになる。さらに、スルホン酸基は、ポリマーのOH基によるエステル化により、第2のポリマーのカップリングを可能にする。
【0029】
この手順により、X基を導入して、1、2、3、4、5、6、7または8の位置のY基に加えて、利用可能な1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つでX基も含む式1の化合物を得ることが可能になる。
【0030】
一実施形態では、少なくとも1つのX基は2、4、5および/または7の位置で結合している。他の実施形態では、X基は7の位置で結合している。
【0031】
他の実施形態では、ステップ4の後で、X基(−SO)をフルオレン環系に導入する。−SOが−SOHである場合、−SOH基は、エステル化により保護することができる。
【0032】
さらなる反応ステップ:
マレイミドアルキル酸と縮合した後、保護基(PG)を取り除くことによって9−ヒドロキシメチルを脱保護して式2の化合物を得ることができる。脱保護は、BF、例えばBF・EtO(ボロントリフルオリドエーテレート)を用いて実施することが好ましい。
【0033】
【化4】

MAL−FMS−OSUまたはその誘導体は、式2の化合物をN−ヒドロキシスクシンイミド、またはN,N’−ジスクシンイミジルカーボネートなどのその誘導体と反応させて合成することができる。スクシンイミジルエステルの生成のための反応条件は当業界でよく知られている。式2のためのスクシンイミジル改変化合物を、SH−ポリマーと反応させ、続いてペプチドまたはタンパク質系薬物のアミノ基と反応させることによってさらに改変して、ポリマーを含む加水分解性リンカーを有するペプチドまたはタンパク質系薬物のコンジュゲートを得ることができる。
【0034】
上記に例示した手順によって式1の化合物:
【0035】
【化5】

が得られる。
【0036】
ここで、PGは保護基であり、1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つはY基と結合している。
【0037】
YはN−マレイミジル含有部分である。
【0038】
少なくとも1つのY基で置換された式1の化合物は、利用可能な1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つでX基と結合していてもよい。
【0039】
Xは−SO−Rである。
【0040】
は、水素、(C〜C)−アルキルおよび(C〜C)−アルキル−Rからなる群から独立に選択される。
【0041】
「C〜C−アルキル」は、1〜8個の炭素原子を有する一価アルキル基を指す。
【0042】
この用語の例は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシルなどの基である。直鎖状および分岐状アルキルが含まれる。
【0043】
はポリマーである。ポリマーの例は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリシアル酸(PSA)、ヒドロキシアルキルスターチ(HAS)などである。
【0044】
他の実施形態では、本発明は、PGがシリル基である式1の化合物に関する。シリル基の例はトリメチルシリル、トリエチルシリルまたはt−ブチルジフェニルシリルである。
【0045】
他の実施形態では、PGはtert−ブチルジメチルシリル基である。
【0046】
一実施形態では、Yは
【0047】
【化6】

である。
【0048】
はその出現ごとに独立に(C〜C)−アルキルである。
【0049】
一実施形態では、Rはその出現ごとに独立に、メチル、エチル、プロピル、ブチルおよびヘキシルからなる群から選択される。
【0050】
は、−C(O)NR−、−C(O)NR−(C〜C)−アルキル−NR−、−NRC(O)−および−NRC(O)−(C〜C)−アルキル−NRからなる群から独立に選択される。ここで、Rは、独立に水素またはC〜C−アルキルである。
【0051】
一実施形態では、Rは−C(O)NH−である。
【0052】
他の実施形態では、Rは−NHC(O)−である。
【0053】
一実施形態では、式1の化合物は、1、2、3または4の位置の少なくとも1つでY基と結合している。
【0054】
他の実施形態では、式1の化合物は、1、2、3または4の位置の少なくとも1つでY基と結合しており、5、6、7または8の位置の少なくとも1つでX基とさらに結合している。
【0055】
他の実施形態では、2または3の位置の少なくとも1つでY基と結合している式1の化合物は、7または8の位置の少なくとも1つでX基と結合することもできる。
【0056】
少なくとも1つのY基で置換されている式1の化合物の他の実施形態では、X基は位置7と結合している。
【0057】
他の実施形態では、式1の化合物は2および7の位置でY基と結合している。
【0058】
他の実施形態では、式1の化合物は、2および7の位置で、Y基およびX基とそれぞれ結合している。
【0059】
他の実施形態では、式1の化合物は、
【0060】
【化7】

【0061】
【化8】

【0062】
【化9】

である。
【0063】
本発明を、以下の実施例により説明するが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
MAL−Fmoc−OSu分子は、以下の手順(実施例1〜8)によって合成することができる。
【0065】
(実施例1)
2−(Boc−アミノ)フルオレンの合成(Albericioら、Synth Commun.第31巻、225〜32頁(2001年))
【0066】
【化10】

氷浴で冷却した145mlのジオキサン−HO(2:1/容積:容積)と42.5mlの2N NaOH混合液の中に、緩やかに攪拌しながら2−アミノフルオレン(14.4g、79.7ミリモル)の懸濁液を調製した。次いでBocO(19.1g、87.7ミリモル、1.1当量)を加え、攪拌を25℃で続行した。反応の進行はTLC[2−(Boc−アミノ)フルオレンについてR=0.75。CHCl−MeOH−HOAc(95:5:3)]で追跡し、2N NaOHを加えてpHを9〜10に保持した。24時間後、TLC分析により2−アミノフルオレン[R=0.60、CHCl−MeOH−HOAc(95:5:3)]の存在が確認されたので、5.2gのBocO(23.8ミリモル、0.3当量)をさらに加え、出発物質が完全に消失するまで、反応をさらに3時間続行した。懸濁液を1M KHSOでpH3に酸性化した。固体をろ過し、30mlの冷HO、30mlのジオキサン−HO(2:1)、30mlのヘキサンで洗浄し、真空下で乾燥した。生成物の淡黄色粉末(30.1g、90%収率)はTLC[R=0.75;CHCl/MeOH/HOAc95:5:3]により純粋であることが示された。これをNMRで特性評価した。
【0067】
【化11】

(実施例2)
9−ヒドロキシメチル−2−(Boc−アミノ)フルオレンの合成(Albericioら、Synth Commun.第31巻、225〜32頁(2001年))
【0068】
【化12】

140mlの無水THF(ナトリウムを用いて新たに蒸留した)中の2−(Boc−アミノ)フルオレン(13.49g、47.9ミリモル)の溶液を、アルゴン雰囲気下で20mlの無水THF中の6.3gの60%NaH(160ミリモル、3.3当量)の懸濁液に注意深く加えた。ガスの発生が観察され、同時に発熱が観察された。2−(Boc−アミノ)フルオレンを完全に加え終わった後、反応混合物を40℃で1時間攪拌した。次いで反応混合物を室温に冷却し、水素による激しい発泡を避けるように9.7mlのギ酸エチル(120ミリモル、2.5当量)を徐々に加えた。最初粘稠で淡褐色であった懸濁液は、ギ酸エチルを加えると急速に透明化して暗褐色溶液になった。これを1時間攪拌した。反応の進行はTLC[中間生成物についてR=0.52、CHCl−MeOH−HOAc(95:5:3)]で追跡した。反応を氷片と100mlのHOでクエンチし、有機溶媒を回転式蒸発器で除去した。水相に10mlの2N NaOHを加え、これを3×50mlのジエチルエーテルで洗浄し、氷浴中で冷却し、25mlの氷酢酸でpH5に酸性化した。生成した灰白色沈殿物を300mlのEtOAcに溶解した。水相を50mlのEtOAcで抽出し、有機相を2×75mlの飽和NaHCOおよび1×75mlの塩水で洗浄し、NaSOで乾燥した。溶媒を減圧下で除去した。
【0069】
9−ホルミル−2−(Boc−アミノ)フルオレンを100mlのメタノールに懸濁させ、2.0gのNaBH[52.9ミリモル、出発の2−(Boc−アミノ)フルオレンに対して1.1当量]を滴下した。急速に透明になった懸濁液を、マグネチックスターラーで、出発物質が消失するまで室温で4時間攪拌した[TLC、R=0.57、PE:MTBE(1:2)]。反応混合物を300mlのHOで希釈し、15mlの氷酢酸でpH5.0に酸性化し、沈殿物を150mlのEtOAcに直接溶解させた。有機相を3×50mlの飽和NaHCOおよび1×50mlの塩水で洗浄し、無水NaSOで乾燥した。溶媒を回転式蒸発器にかけて固体を得た。これは、さらに精製することなく使用することができる。生成物をNMRで分析した(13.1g、88%収率)。
【0070】
【化13】

(実施例3)
9−ヒドロキシメチル−2−アミノフルオレンの合成
【0071】
【化14】

13.0gの9−ヒドロキシメチル−2−(Boc−アミノ)フルオレンを110mlのアセトニトリルに溶解し、還流下で攪拌した。42mlの2N HCl(2.0当量、84ミリモル)を滴下した。反応混合物を還流下で45分間攪拌した。反応混合物を室温に冷却し、反応をTLC[R=0.1 PE−MTBE(1:2)]で監視した。回転式蒸発器で溶媒を一部除去し、残留物を70mlの2N HClに溶解させた。その溶液を2×50mlのMTBEで注意深く洗浄した。水相をNaCOでpH9に調節し、2×70mlのEtOAcで抽出した。有機相を50mlの塩水で洗浄し、NaSOで乾燥した。回転式蒸発器で溶媒を除去した。生成物をさらに精製することなく使用した。NMRにより構造の同定を行った(8.76g、99%収率)。
【0072】
【化15】

(実施例4)
tert−ブチルジメチルシロキシ−9−メチル−2−アミノフルオレンの合成
【0073】
【化16】

5.91gのイミダゾール(86.8ミリモル、2.1当量)を、24mlの無水DMFに溶解し、氷浴中、アルゴン雰囲気下で10分間攪拌した。無水DMFに溶解した7.47gのtert−ブチルジメチルシリルクロリド(49.6ミリモル、1.2当量)を加えた。氷上で15分間攪拌した後、40mlの無水DMFに溶解した8.73gの9−ヒドロキシメチル−2−アミノフルオレン(41.3ミリモル)をアルゴン雰囲気下で冷却しながら滴下した。反応を、氷上で、続いて室温で15分間続行した。反応をTLC[表記生成物R=0.6、PE−MTBE(1:2)]で監視した。2時間後、出発物質[R=0.1 PE−MTBE(1:2)]は消失した。反応混合物を400mlのCHClで希釈し、100mlの5%NaHCOを加えた。有機相を5×200mlのHOで洗浄し、NaSOで乾燥した。回転式蒸発器でCHClを除去し、DMFをトルエンとの共沸蒸留により除去した。残留する褐色油状物(13.4g、99%収率)をNMRで分析し、さらに精製することなく使用した。
【0074】
【化17】

(実施例5)
tert−ブチルジメチルシロキシ−9−メチル−2−(アミノ−3−マレイミドプロピオネート)フルオレンの合成
【0075】
【化18】

無水THF(ナトリウムを用いて新たに蒸留した)中の13.5gの9−tert−ブチルジメチルシロキシメチル−2−アミノフルオレン(41.5ミリモル)の溶液に、9.42gのN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(75.7ミリモル、1.1当量)および651mgの1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(4.8ミリモル、0.1当量)を加えた。13.5g(41.5ミリモル、1.1当量)の3−マレイミドプロピオン酸を50mlの無水THFに溶解し、滴下した。反応混合物をアルゴン雰囲気下、室温で終夜攪拌し、生成物の生成をTLC[出発原料R=0.6、表記生成物R=0.18、PE−MTBE(1:2)]で監視した。
【0076】
出発原料が検出されなくなったら直ちにジシクロヘキシル尿素をろ別し、THFを回転式蒸発器で除去した。残留固形物を200mlのCHClに溶解し、50mlの5%NaHCOおよび50mlの塩水で洗浄し、NaSOで乾燥した。褐色結晶を20mlのMTBEの中でディジェレート(digerate)した。ろ過した後、洗浄液が無色に保たれるまで、残留物を少量に分けたMTBEで洗浄した。黄色結晶(10.5g、53%収率)をNMRで分析した。
【0077】
【化19】

(実施例6)
9−ヒドロキシメチル−2−(アミノ−3−マレイミドプロピオネート)フルオレンの合成
【0078】
【化20】

10.3gのtert−ブチルジメチルシロキシ−9−メチル−2−(アミノ−3−マレイミドプロピオネート)フルオレン(21.6ミリモル)をアルゴン雰囲気下で230mlのCHClに溶解した。35mlのボロントリフルオリドエーテレートを30分間かけて滴下した。反応をTLC[出発原料R=0.6、表記生成物R=0.38、CHCl−メタノール(10:1)]で監視した。出発原料が消失したら直ちに、溶液を飽和NaHCO溶液で加水分解した。得られた結晶をろ過した。母液の有機相を蒸発させた。この残留物とろ過ケーキを、250mlのEtOAcおよび120mlの5%NaHCOに再溶解させた。有機相を、1×50mlの5%NaHCO、50mlのHOおよび50mlの塩水で洗浄し、NaSOで乾燥した。溶媒を回転式蒸発器で除去した。生成物の構造をNMRと質量分析により検証した。
【0079】
【化21】

【0080】
【化22】

(実施例7)
9−ヒドロキシメチル−2−(アミノ−3−マレイミドプロピオネート)フルオレンN−ヒドロキシスクシンイミジルカーボネートの合成
【0081】
【化23】

7.3mlの無水THF中の1.8gのピリジンの溶液から、1.7ml(5.1ミリモル)を、75mlの無水THF(ナトリウムを用いて新たに蒸留した)中の0.93gの9−ヒドロキシメチル−2−(アミノ−3−マレイミドプロピオネート)フルオレン(2.6ミリモル)および1.1gのトリホスゲン(3.6ミリモル、1.4当量)の攪拌溶液に滴下した。40分後、沈殿したピリジン塩酸塩をセライト(celite)でろ別し、THFを回転式蒸発器で除去した。得られた油状物を、1.1gのN−ヒドロキシスクシンイミド(13.6ミリモル、5.3当量)とともに75mlの無水テトラヒドロフランに溶解した。次いで2.6mlのピリジン溶液(8.2ミリモル)を加え、溶液を40分間攪拌した。いくらかの追加の沈殿ピリジン塩酸塩をセライトでろ別し、THFを回転式蒸発器で除去した。得られた油状物を70mlのクロロホルムに溶解し、4×40mlの0.1N HCl、3×50mlの5%NaHCO水溶液で洗浄し、次いで1×40ml水、40mlの塩水で洗浄し、NaSOで乾燥した。クロロホルムを回転式蒸発器で除去した。NMRおよび質量分析により構造の特定を実施した。
【0082】
【化24】

【0083】
【化25】

(実施例8)
9−ヒドロキシメチル−2−(アミノ−3−マレイミドプロピオネート)−7−スルホフルオレンN−ヒドロキシスクシンイミジルカーボネートの合成
【0084】
【化26】

60mlのトリフルオロ酢酸中の1.2gの9−ヒドロキシメチル−2−(アミノ−3−マレイミドプロピオネート)フルオレンN−ヒドロキシスクシンイミジルカーボネート(2.1ミリモル)の溶液に7mlのクロロスルホン酸を加えた。30分後、反応混合物を4℃に冷却し、350mlの冷ジエチルエーテルを加えた。沈殿した生成物をろ過し、ジエチルエーテルで2回洗浄し、真空下で乾燥した。
【0085】
質量分析により構造の特定を実施した。
【0086】
ESI−MS(実測値):(M+H):583.9
ESI−MS(計算値):(M+H):583。
【0087】
2,7ジアミノフルオレンから出発したMAL2−Fmoc−OSuの合成を実施例9に示す。
【0088】
(実施例9)
9−ヒドロキシメチル−2,7−ジ−(アミノ−3−マレイミドプロピオネート)フルオレンN−ヒドロキシスクシンイミジルカーボネートの合成
【0089】
【化27】

実施例1〜8で説明した条件下で、9−ヒドロキシメチル−2,7−ジ−(アミノ−3−マレイミドプロピオネート)フルオレンN−ヒドロキシスクシンイミジルカーボネートを調製する。Albericioら、Synth Commun.第31巻、225〜32頁(2001年)に記載されているようにして、2,7−ジアミノフルオレンのアミノ基をBocOで保護する。次いで、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)およびギ酸エチルとの反応によって、位置9にホルミル基を導入する。得られたアルデヒドを、水素化ホウ素ナトリウムで還元し、対応するアルコールにして9−ヒドロキシメチル−2,7−ジ−(Boc−アミノ)フルオレンを得る。続いて、BOC保護基をCHCN中の2N HClで開裂させ、9−ヒドロキシメチル−2,7−ジアミノフルオレンを得る。次いで、実施例5に記載したようにしてtert−ブチルジメチルシリルクロリドとの反応によりOH基を保護して、tert−ブチルジメチルシロキシ−9−メチル−2,7−ジアミノフルオレンを得る。次いで、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドおよびヒドロキシベンゾトリアゾールの存在下で、遊離アミノ基とマレイミドプロピオン酸の反応を実施し、tert−ブチルジメチルシロキシ−9−メチル−2,7−ジ−(アミノ−3−マレイミドプロピオネート)フルオレンを得る。9の位置のOH基をボロントリフルオリドエーテレートで脱保護すると、9−ヒドロキシメチル−2,7−ジ−(アミノ−3−マレイミドプロピオネート)フルオレンが得られる。最後に、トリホスゲンおよびN−ヒドロキシスクシンイミドとの反応を実施し、9−ヒドロキシメチル−2,7−ジ−(アミノ−3−マレイミドプロピオネート)フルオレンN−ヒドロキシスクシンイミジルカーボネートを得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1の化合物の調製方法であって、該方法は、
【化28】

(式中、PGは保護基であり、1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つはY基と結合しており、
YはN−マレイミジル部分を含む基であり、
利用可能な1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つは任意選択でX基と結合しており、
Xは−SO−Rであり、
は、水素、(C〜C)−アルキルおよび(C〜C)−アルキル−Rからなる群から独立に選択され、
はポリマーである)
式2の化合物の9−ヒドロキシメチル基を、
【化29】

(式中、1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つはアミンと結合している)
PGを導入する保護試薬と反応させるステップと、
続いて、該化合物をN−マレイミジル誘導体と反応させるステップとを含む方法。
【請求項2】
前記保護試薬がシリルハロゲン化物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シリルハロゲン化物がtert−ブチルジメチルシリルクロリドである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
tBDMS−Clとの前記反応をDMF中のイミダゾールを用いて実施する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記N−マレイミジル誘導体がマレイミドアルキル酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
PGがシリル誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
PGがtert−ブチルジメチルシリル基である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
利用可能な1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つが任意選択でX基と結合している、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
Yが、
【化30】

であり、ここで、
はその出現ごとに独立に(C〜C)−アルキルであり、
は、−C(O)NR−、−C(O)NR−(C〜C)−アルキル−NR−、−NRC(O)−および−NRC(O)−(C〜C)−アルキル−NR(Rは、独立に水素またはC〜C−アルキルである)からなる群から独立に選択される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
式1の化合物
【化31】

(式中、PGは保護基であり、1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つはY基と結合しており、利用可能な1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つは任意選択でX基と結合しており、
YはN−マレイミジル含有部分であり、
Xは−SO−Rであり、
は、水素、(C〜C)−アルキルおよび(C〜C)−アルキル−Rからなる群から独立に選択される)。
【請求項11】
PGがシリル基であり、
Yが、
【化32】

であり、
はその出現ごとに独立に(C〜C)−アルキルであり、
は、−C(O)NR−、−C(O)NR−(C〜C)−アルキル−NR−、−NRC(O)−および−NRC(O)−(C〜C)−アルキル−NR−(Rは、独立に水素またはC〜C−アルキルである)からなる群から独立に選択される、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
PGがt−ブチルジメチルシリル基である、請求項11に記載の化合物。

【公表番号】特表2010−531317(P2010−531317A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513751(P2010−513751)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005164
【国際公開番号】WO2009/000523
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】