説明

GPS受信装置およびGPS測位装置

【課題】一般的なGPSにおける受信信号処理を行う既存の装置を利用し、受信信号処理のためのソフトウエアを変更することによって妨害波を検知する手段を追加し、妨害波の存在に応じてデータの取得動作を制御することが可能なGPS受信装置およびGPS測位装置を提供する。
【解決手段】複数の捕捉衛星データ取得部10のうちの1つは、妨害波検知のために用いられ、C/Aコード記憶部12が出力する信号は、コード置き換え部14によってすべての符号が1または0に置き換えられる。アンテナ60から妨害波が受信され、ディジタルサンプラ70によってディジタル信号が抽出された場合、妨害波検知コードとの相関は高く、絶対値演算部18の出力は大きな相関値を出力する。当該相関値が妨害波閾値を超えた場合、他の捕捉衛星データ取得部10がデータを取得する際の条件が再設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS衛星から送信される信号を受信するGPS受信装置およびGPS衛星から送信される信号を受信して測位を行うGPS測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS測位装置は、複数のGPS衛星から送信される信号を受信し、受信信号に含まれる情報から各衛星の軌道情報を得るとともに各衛星までの距離を算出し、各衛星の軌道情報と各衛星までの距離に基づいて測位計算を行うものである。GPS衛星から送信される信号は、C/Aコードと称される符号によってスペクトラム拡散が施されているため、受信信号から情報を得るためにはGPS衛星側で用いられたC/Aコードと同一のC/Aコードでスペクトラム逆拡散を施さなければならない。複数のGPS衛星に対してはそれぞれ異なるC/Aコードが割り当てられており、あるC/Aコードを以てスペクトラム逆拡散を行い情報を得たということは、そのC/Aコードが割り当てられたGPS衛星を他のGPS衛星から識別したことに他ならない。
【0003】
GPS測位装置においては予め各衛星に対応するC/Aコードが記憶されており、C/Aコードを周期的に配列したC/Aコード周期信号が生成される。GPS測位装置がGPS衛星を識別するに際しては、受信信号とGPS測位装置で生成されたC/Aコード周期信号との間の相関値が算出される。そして、相関値が所定の値を超えた場合には、その受信信号は、そのC/Aコードに対応するGPS衛星から送信されたものであると認識し、そのGPS衛星から送信される信号からデータを取得する。この受信動作は、GPS衛星を探索してそのGPS衛星からデータを得るという動作から、一般にGPS衛星の捕捉と称される。
【0004】
このように、GPS衛星の捕捉は受信信号とGPS測位装置で生成されたC/Aコード周期信号との間の相関値に基づいて行われるが、この相関値は、妨害波の存在下においては必ずしもC/Aコードの相関を高精度に反映するものであるとは限らない。
【0005】
インバータ回路やディジタル回路等を用いる電子機器からは、ディジタルパルスの高調波が発せられており、その高調波の周波数がGPS測位装置の受信周波数帯と重なる蓋然性は高い。また、そのような電子機器から発せられる妨害波信号の単位周波数当たりの電界強度は、GPS測位装置で受信される所望信号のそれより大きい場合が多い。また、GPS測位装置で受信される所望信号は、装置の受信感度レベル近傍のレベルで受信されることが多く、所望信号に対する相関値は熱雑音によって十分大きな値にならない。このような状況において、電界強度が非常に大きい妨害波が受信された場合には、妨害波によって算出された相関値が、所望波によって算出された相関値よりも相対的に大きくなってしまう可能性がある。この場合、GPS測位装置はその妨害波を以てGPS衛星を捕捉したものと誤って認識し、正確な測位が行われない可能性がある。あるいは、測位が不可能である場合には測位に係る動作を繰り返す制御がなされるGPS装置の場合にあっては、再測の結果、測位に多大な時間を要することとなる。
【0006】
特開2002−122653号公報には、受信したGPS信号の自己相関に基づいて、当該GPS信号が妨害波を含むものであるか否かを判定し、妨害波を含むものであると判定された場合には再受信を行い、妨害波を含まないものであると判定された場合には、GPS信号のフォーマット変換を行うデータ通信送信部を制御し、GPSサーバにデータを転送して測位処理を行うGPSシステムの構成が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−122653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開2002−122653号公報に開示されているGPSシステムの構成では、GPS信号にスペクトラム逆拡散を施して復調処理を行い、復調処理によって得られたデータに基づいて測位演算を行う、という一般的なGPSにおける測位演算処理の前段階において妨害波を検知する手段を設けている。したがって、妨害波を検知するためのハードウエアを一般的なGPSにおける測位演算処理を行うGPSサーバにさらに付け加える必要があり、構成が複雑なものとなっている。このような構成は、設計コスト製造コストの観点から不利である。
【0009】
本発明はこのような課題に対してなされたものであり、一般的なGPSにおける受信信号処理を行う既存の装置を利用し、受信信号処理のためのソフトウエアを変更することによって妨害波を検知する手段を追加し、妨害波の存在に応じてデータの取得動作を制御することが可能なGPS受信装置およびGPS測位装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、GPS衛星が送信した信号を受信する受信機と、前記受信機が受信した信号をスペクトラム逆拡散するための信号である逆拡散信号を生成する逆拡散信号生成手段と、前記受信機が受信した信号と逆拡散信号との間の相関値を算出する相関値算出手段と、
当該相関値に基づいてGPS衛星を識別し、当該GPS衛星が送信した信号から情報を得る衛星捕捉を行う衛星捕捉手段と、を備え、前記逆拡散信号は、逆拡散符号を含み、逆拡散符号が周期的に現れる信号であり、前記衛星捕捉手段は、前記相関値と予め定められた捕捉閾値とを比較し、比較結果に基づいてGPS衛星の捕捉を禁止する捕捉禁止手段を備えるGPS受信装置であって、逆拡散信号に含まれる逆拡散符号の符号要素のすべてを同一のものに置き換えることで、妨害波を検知するための妨害波検知信号を生成する妨害波検知信号生成手段と、前記受信機が受信した信号と妨害波検知信号との間の相関値である妨害波相関値を前記相関値算出手段によって算出し、妨害波相関値に基づいて、前記受信機で受信された信号が妨害波信号であるか否かを判定する妨害波判定手段と、前記受信機で受信された信号が妨害波信号であると判定されたときには、前記捕捉閾値を再設定する捕捉閾値再設定手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、GPS衛星が送信した信号を受信する受信機と、前記受信機が受信した信号をスペクトラム逆拡散するための信号である逆拡散信号を生成する逆拡散信号生成手段と、前記受信機が受信した信号と逆拡散信号との間の相関値を算出する相関値算出手段と、当該相関値に基づいてGPS衛星を識別し、当該GPS衛星が送信した信号から情報を得る衛星捕捉を行う衛星捕捉手段と、捕捉されたGPS衛星までの距離を測定する測距手段と、捕捉された複数のGPS衛星までの距離に基づいて測位を行う測位手段と、を備え、前記逆拡散信号は、逆拡散符号を含み、逆拡散符号が周期的に現れる信号であり、前記衛星捕捉手段は、前記相関値と予め定められた捕捉閾値とを比較し、比較結果に基づいてGPS衛星の捕捉を禁止する捕捉禁止手段を備えるGPS測位装置であって、逆拡散信号に含まれる逆拡散符号の符号要素のすべてを同一のものに置き換えることで、妨害波を検知するための妨害波検知信号を生成する妨害波検知信号生成手段と、前記受信機が受信した信号と妨害波検知信号との間の相関値である妨害波相関値を前記相関値算出手段によって算出し、妨害波相関値に基づいて、前記受信機で受信された信号が妨害波信号であるか否かを判定する妨害波判定手段と、前記受信機で受信された信号が妨害波信号であると判定されたときには、前記捕捉閾値を再設定する捕捉閾値再設定手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るGPS測位装置においては、前記測位手段は、捕捉した複数のGPS衛星のうち測位に関する情報を得るためのGPS衛星を、前記相関値に基づいて選択する構成とすることが好適である。
【0013】
また、本発明は、GPS衛星が送信した信号を受信する受信機と、前記受信機が受信した信号をスペクトラム逆拡散するための信号である逆拡散信号を生成する逆拡散信号生成手段と、前記受信機が受信した信号と逆拡散信号との間の相関値を算出する相関値算出手段と、当該相関値に基づいてGPS衛星を識別し、当該GPS衛星が送信した信号から情報を得る衛星捕捉を行う衛星捕捉手段と、捕捉されたGPS衛星までの距離を測定する測距手段と、捕捉された複数のGPS衛星までの距離に基づいて測位を行う測位手段と、を備え、前記逆拡散信号は、逆拡散符号を含み、逆拡散符号が周期的に現れる信号であるGPS測位装置であって、逆拡散信号に含まれる逆拡散符号の符号要素のすべてを同一のものに置き換えることで、妨害波を検知するための妨害波検知信号を生成する妨害波検知信号生成手段と、前記受信機が受信した信号と妨害波検知信号との間の相関値である妨害波相関値を前記相関値算出手段によって算出し、妨害波相関値に基づいて、前記受信機で受信された信号が妨害波信号であるか否かを判定する妨害波判定手段と、前記受信機で受信された信号が妨害波信号であると判定されたときには測位を禁止して再度測位を行う再測位手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、一般的なGPSにおける受信信号処理を行う装置を利用し、受信信号処理のためのソフトウエアを変更することによって妨害波を検知する手段を追加し、妨害波の存在に応じてデータの取得動作を制御することが可能なGPS受信装置およびGPS測位装置を実現することができる。
【0015】
また、妨害波の有無に基づいてGPS衛星を捕捉する際の条件を決定するため、妨害波の存在下においても高い測位精度を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施形態について図1を参照して説明する。本実施形態においては、複数のGPS衛星から送信される信号を受信して測位を行うとともに妨害波を検知して測位に係る動作の制御を行う。測位に関するデータの取得および妨害波の検知は、GPS衛星から送信される信号を処理する捕捉衛星データ取得部10において行われ、1つのGPS衛星から送信される信号に対して1つの捕捉衛星データ取得部10が割り当てられる。捕捉衛星データ取得部10の動作には、妨害波検知スイッチ16がC/Aコード記憶部12の出力に直接接続されているGPS測位モードと、妨害波検知スイッチ16がコード置き換え部14を介してC/Aコード記憶部12の出力に接続されている妨害波検知モードとがあり、妨害波検知の際には、複数設けられた捕捉衛星データ取得部10のうち少なくとも1つが妨害波検知モードの状態となっている。ここでは、まず、すべての捕捉衛星データ取得部10がGPS測位モードの状態にある場合について説明する。
【0017】
アンテナ60から受信された信号は受信機62において増幅され、無線周波数帯から中間周波数帯に変換された後、検波器68に入力される。検波器68には受信信号とともに局部発振器66から出力される局部発振器信号が入力されており、検波器68は受信信号と局部発振器信号とを掛け合わせることにより受信信号をベースバンド信号に変換する。局部発振器信号の周波数は、受信機62において中間周波数帯に変換された受信信号の中間周波数に等しくなるよう周波数制御部64によって制御される。
【0018】
一般にGPSから送信される信号は直交変調されているため、検波器68としては直交復調器を用いることが好適である。直交復調器は、局部発振器信号から互いに位相が直交する2つの信号を生成し、これを2つの乗算器に入力するものである。また受信信号は2つの乗算器に等分配して入力される。このような構成によって、直交復調器からは、同相成分と直交成分の2チャンネルからなるベースバンド信号が出力される。図1では検波器68からの出力を1系統で示しているが、この検波器68として直交検波器を用いた場合には、同相成分と直交成分の2チャンネルの信号を意味するものとする。
【0019】
検波器68から出力されたベースバンド信号はディジタルサンプラ70に入力される。ディジタルサンプラ70はベースバンド信号の振幅値をサンプル値として時間系列で離散化し、ディジタル信号を生成するものである。ベースバンド信号には周期的にディジタルデータを得ることができるシンボル点が現れ、その点の振幅値をサンプル値とすることでディジタル信号を得ることができる。この際、シンボル点が得られる周期、すなわちシンボル周期を検出する必要があるが、これはベースバンド信号の波形解析等に基づく同期処理によって行うことができる。
【0020】
ディジタルサンプラ70が出力するディジタル信号には、スペクトラム拡散処理が施されている。すなわち、GPS衛星は送信するディジタル信号にPN符号を掛け合わせ、元のディジタル信号に対してその占有周波数帯域を拡張した状態で送信する。スペクトラム拡散が施された信号は、占有周波数帯域が拡張された比率だけ信号振幅レベルが縮小され、一般に単位周波数当たりの振幅レベルは熱雑音のそれを下回ったものとなる。元のディジタル信号は、送信側で用いたPN符号と同一のPN符号を掛け合わせるスペクトラム逆拡散処理を施すことで得ることができる。送信側で用いたPN符号と異なるPN符号を掛け合わせた場合は、PN符号の直交性により占有周波数帯域は拡張されたままであり、当然のことながらその信号からデータを得ることはできない。
【0021】
本実施形態におけるGPS測位装置は、複数のGPS衛星から送信される信号を受信するものであるが、複数のGPS衛星に対してはそれぞれ異なるPN符号が割り当てられている。したがって、あるPN符号を以てスペクトラム逆拡散を行いデータを得ることが可能であった場合には、そのPN符号が割り当てられたGPS衛星が認識されると共に、そのGPS衛星を捕捉することが可能であるということになる。一般に、GPS衛星毎に割り当てられるPN符号はC/Aコードと称され、以下、PN符号にかえてC/Aコードと称することとする。
【0022】
ディジタルサンプラ70が出力したディジタル信号は、搬送波NCO(Numerical Controlled Oscillator)34に入力される。GPS衛星は12時間で軌道上を1周する周回衛星であるため、衛星からの信号に±5kHz程度のドップラー偏移が生じている。このため、GPS衛星からの信号を探索して捕捉する際にはドップラー偏移を見込んだ広い範囲での周波数スキャンが必要であり、搬送波NCO34はこれを可能としている。ドップラー偏移は入力されたディジタル信号の位相変化として現れるため、搬送波NCO34は当該ディジタル信号の位相の制御を行うことによって周波数スキャンを行う。なお、搬送波NCO34は制御部22によって制御されるが、その動作については後述する。
【0023】
搬送波NCO34が出力したディジタル信号は、逆拡散演算部40に入力される。逆拡散演算部40は乗算器42と積分器43とを備え、入力されたディジタル信号と、C/Aコード記憶部12から出力されたC/Aコードとの乗算を行い、C/Aコードの1符号周期に亘って積分を行う。ここで1符号周期とはC/Aコードのコード長をいう。拡散処理は、割り当てられた1つのC/Aコードが繰り返し配列されたC/Aコード周期信号を送信信号に乗算することによって行われるため、スペクトラム逆拡散処理においてはC/Aコードとして意味のある区間、すなわちC/Aコードの1コード長に亘って積分を施すことになる。この積分処理によって、逆拡散演算部40からは1符号周期毎に1つの演算結果が得られる。この演算結果はスペクトラム逆拡散された受信データであるとともに、入力されたディジタル信号が拡散された際に割り当てられたC/Aコードと、スペクトラム逆拡散に用いたC/Aコードとの相関を表すデータであるということができる。したがって、逆拡散演算部40の出力に、相関を表すデータの絶対値を算出する絶対値演算部18を設けることで、その相関を相関値として得ることができる。
【0024】
一方、C/Aコード記憶部12には、測位に用られるGPS衛星に割り当てられたC/Aコードが記憶されている。逆拡散演算部40が動作するに際しては、C/Aコード記憶部12からは順次異なるC/AコードによるC/Aコード周期信号が出力され、絶対値演算部18の出力が予め定められた捕捉可能閾値を超えた場合には、そのときのC/Aコードの出力が保持される。この一連の動作は、絶対値演算部18の出力が制御部22に入力され、制御部22が閾値記憶部24から読み込まれた捕捉可能閾値と絶対値演算部18の出力とを比較し、その比較に基づいてC/Aコード記憶部12を制御することによって行われる。
【0025】
なお、上述の通り、GPS衛星から送信される信号に生じたドップラー偏移は、ディジタルサンプラ70が出力するディジタル信号の位相変化となって現れる。この位相変化は、そのままC/Aコード周期信号の位相誤差となって現れるため、捕捉されたGPS衛星に割り当てられたC/Aコードと、スペクトラム逆拡散に用いたC/Aコードとの間の相関値を低減するように作用する。そこで周波数スキャンは次のように行われる。制御部22は、絶対値演算部18の出力と周波数スキャンを行うために予め定められた周波数スキャン閾値とを比較し、比較結果に基づいて搬送波NCO34を制御する。ここで、周波数スキャン閾値は閾値記憶部24から読み込まれる。搬送波NCO34は、制御部22の制御に基づいてディジタル信号の位相の制御を行い、ドップラー偏移に追随したディジタル信号を出力する。すなわち、絶対値演算部18の出力が周波数スキャン閾値を超えていれば、搬送波NCO34が出力するディジタル信号の位相はドップラー偏移による変化に追随していることになり、GPS衛星を捕捉し続けることができるわけである。
【0026】
絶対値演算部18の出力が予め定められた捕捉可能閾値を超えた場合には、データ抽出部20は逆拡散演算部40が出力した信号から測位に必要なデータ信号を抽出する。データ抽出部20から抽出されたデータ信号は、さらに、衛星ID取得部26、測距部28および軌道データ取得部30に入力される。衛星ID取得部26は、捕捉したGPS衛星を区別するためのIDコードを取得する。測距部28は、捕捉したGPS衛星が信号を送信した時刻をデータ信号から読み取り、当該時刻と現在時刻との差から捕捉したGPS衛星からGPS測位装置まで信号が伝搬するのに要した時間を算出し、これと電磁波の伝搬速度とに基づいて捕捉したGPS衛星までの距離を算出する。軌道データ取得部30は、データ信号から捕捉したGPS衛星の軌道に関するデータを取得する。このように軌道に関するデータを取得するのは、GPS衛星は周回衛星であるため地球上から見た位置が時間と共に変化し、測位に際しては捕捉したGPS衛星の現在位置を把握する必要があるためである。なお、衛星ID取得部26、測距部28および軌道データ取得部30は、相関値が捕捉衛星データ取得閾値を超えた場合にのみデータ等の取得を行う。データの取得状況が良好でないにもかかわらず取得されたデータはビット誤り率が大きいため測位に供することができないためである。また、後述するように、測位には捕捉したGPS衛星のうち、データ取得状況が良好であるものから取得されたデータを選択して用いるため、その選択に要する計算負担を削減できるという効果も期待できる。相関値が捕捉衛星データ取得閾値を超えたか否かの判断は、制御部22が、相関値と予め閾値記憶部24に記憶された捕捉衛星データ取得閾値とを比較することによって行われる。相関値が捕捉衛星データ取得閾値以下であった場合には、制御部22は、衛星ID取得部26、測距部28および軌道データ取得部30に対し、それぞれのデータ取得動作を禁止するよう制御を行う。
【0027】
データ合成部32は、衛星ID、捕捉したGPS衛星までの距離、捕捉したGPS衛星の軌道データ、相関値を1つの捕捉衛星に対する捕捉衛星データとしてまとめ、測位部50に入力する。衛星ID、捕捉したGPS衛星までの距離、捕捉したGPS衛星の軌道データ、相関値のそれぞれを、I、d、O、Cとすれば、捕捉衛星データSはS(I、d、O、C)のように表される。
【0028】
測位部50が測位を行うためには、少なくとも3つの捕捉衛星に対する捕捉衛星データSを得る必要がある。そこで、本実施形態においては、複数の捕捉衛星データ取得部10を設け、それぞれの捕捉衛星データ取得部10が1つの捕捉衛星に対する捕捉衛星データを取得する構成としている。
【0029】
測位に際しては、測位部50は複数の捕捉衛星データSのうち、それらに含まれる相関値Cが予め定められた測位使用閾値よりも大きいものを検索する。これによって、確実に捕捉されたGPS衛星から送信されたデータのみが測位のために使用される。したがって、測位使用閾値を大きく設定しておけば、受信状況が良好でなく信憑性の低い捕捉衛星データSは排除される。検索された捕捉衛星データSからは、各捕捉衛星の軌道データOが参照され、捕捉された各GPS衛星の地球に対する位置座標が取得される。また、捕捉衛星データSには、GPS測位装置から捕捉されたGPS衛星までの距離の情報dが含まれているので、捕捉された各GPS衛星の位置座標と捕捉された各GPS衛星からの距離に基づいて、GPS測位装置が設置されている位置座標を算出することができる。ここで、相関値Cが測位使用閾値よりも大きいGPS衛星が3つ以上存在しない場合には、測位部50はデータの再取得を行う旨の情報をGPS測位装置制御部52に送信し、それを受信したGPS測位装置制御部52は、現在捕捉しているGPS衛星の捕捉を中止して所定の時間経過後に捕捉を再開するよう捕捉衛星データ取得部10を制御する。
【0030】
以上説明したように、GPS測位装置は、相関値を捕捉可能閾値、捕捉衛星データ取得閾値、および測位使用閾値と比較することによって自らの動作を決定している。これらの閾値は、動作環境に応じてより正確な測位が行われるよう、設計において予め設定しておくことが好ましい。ここで、捕捉可能閾値は、捕捉したGPS衛星からデータを抽出するか否かを判定するものであるが、これは受信状況が時間に応じて変動することから次の3つに分類することが好適である。
【0031】
(1)アクイジション閾値:まだGPS衛星を捕捉していない状態からGPS衛星を捕捉する場合の捕捉可能閾値である。(2)追尾閾値:1度捕捉した衛星を捕捉し続けるのに最低限必要とされる受信状況を規定する捕捉可能閾値である。(3)リアクイジション閾値:1度捕捉したGPS衛星の捕捉を受信状況が悪化したために中断した後、再び捕捉を行う場合の捕捉可能閾値である。
【0032】
次に、複数設けられた捕捉衛星データ取得部10のうち1つが妨害波検知モードとなっている状態で、妨害波検知が行われる場合の動作について説明する。妨害波検知モードの状態にある捕捉衛星データ取得部10では、C/Aコード記憶部12が出力するC/Aコード周期信号は、すべての符号が1に、またはすべての符号が0に置き換えられている。この置き換えられたC/Aコードは、妨害波を検知するために用いられるため、以下、これを妨害波検知コードとする。
【0033】
C/AコードはGPS衛星毎に割り当てられ、異なるC/Aコードが直交するよう符号が決定されるため、これを構成する符号としては1と0がほぼ同確率で現れるものとなり、すべての符号が1あるいはすべての符号が0となるよう設定されることはない。そのため、GPS衛星において送信信号が拡散処理された際に割り当てられたC/Aコードと妨害波検知コードとの間に相関はなく、その相関値は理論的に0となる。一般に、GPSにおいては変調方式としてPSK方式が用いられ、あるC/Aコードで拡散された受信信号の時間波形とC/Aコードの時間波形との関係は図2のように、C/Aコードの符号変化点において位相が変化するものとなっている。ただし、図2は説明の便宜上、受信信号の搬送波周波数を低くスケーリングしてあるため、C/Aコードと搬送波の周波数の比率は正確ではない。一方、一般的な妨害波は、GPSにおけるほど広帯域な変調を施されていない場合がほとんどであるため、C/Aコードの1符号周期内においては図3のように位相変化が見られないことが多い。このような妨害波が受信され、ディジタルサンプラ70によってディジタル信号が抽出された場合、妨害波検知コードとの相関は高く絶対値演算部18の出力は大きな相関値を出力する。
【0034】
ここで、妨害波検知モードの状態にある捕捉衛星データ取得部10の制御部22に、予め定められた妨害波閾値よりも大きい相関値が入力された場合、GPS測位装置は妨害波を受信したものと判断する。この判断は、当該制御部22が相関値と予め閾値記憶部24に記憶された妨害波閾値とを比較することで行う。このとき、GPS測位モードの状態にある捕捉衛星データ取得部10の中には、その妨害波を以てGPS衛星を捕捉したものと誤って認識し、妨害波に対して捕捉衛星データSi(I、d、O、C)を算出し、測位部50に入力してしまうものが現れる。この場合Siの内容のうちI、d、Oは無意味なデータであり、Siは相関値Cが捕捉衛星データ取得閾値を超えているという点においてのみ制御上の意味を有する。ここで、測位部50においては、複数の捕捉衛星データSのうち相関値Cが測位使用閾値よりも大きいものを検索するので、妨害波によって生成された衛星捕捉データSiが、その相関値Cが大きいが故に検索対象となってしまう蓋然性は高い。測位部50における検索対象にSiを含むことは測位において無意味なデータを用いることを意味し、そこからは正確な測位データは得られない。そこで、本実施形態においては、以下に示す閾値再設定によって、妨害波によって生成されてしまった捕捉衛星データSiをできる限り測位計算から排除することができる。
【0035】
上述のように、GPS測位モードでは、相関値は、捕捉可能閾値、捕捉衛星データ取得閾値、および測位使用閾値と比較され、GPS測位装置の動作を決定している。捕捉可能閾値はさらに、アクイジション閾値、追尾閾値、リアクイジション閾値のようにGPS衛星の捕捉動作に応じて詳細に決定される。閾値再設定は、妨害波検知モードの状態にある捕捉衛星データ取得部10の制御部22に、予め定められた妨害波閾値よりも大きい相関値が入力された場合、GPS測位モードの状態にある捕捉衛星データ取得部10における捕捉可能閾値、捕捉衛星データ取得閾値、および測位使用閾値を、相関値が妨害波閾値以下である場合よりも大きくするよう再設定を行うものである。これによって、妨害波によって生成された捕捉衛星データSiをできる限り測位計算から排除することができる。また、閾値再設定を行わず、現在の測位を禁止して再度測位を行うこととしてもよい。この場合、妨害波検知モードの状態にある捕捉衛星データ取得部10の制御部22は、妨害波閾値を超える相関値が入力されるとともに、妨害波閾値を超える相関値が入力された旨の情報をGPS測位装置制御部52に送信し、それを受信したGPS測位装置制御部52は、現在捕捉しているGPS衛星の捕捉を中止し、所定の時間経過後に捕捉を再開するようGPS測位モードの状態にある捕捉衛星データ取得部10を制御する。ここで、図4(a)には閾値再設定のフローチャートを、図4(b)には、測位を禁止して再度測位を行う場合のフローチャートを示す。
【0036】
本実施形態は、既存のGPS測位装置のハードウエアに大きな変更を加えることなく実施することが可能である。コード置き換え部14は、C/Aコード記憶部12を制御するソフトウエアプログラムを書き換えることで実現することができる。また、制御部22および閾値記憶部24等はソフトウエアプログラムに応じて動作するため、閾値再設定に係る動作もまた当該ソフトウエアプログラムを書き換えることで実現することができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態になんら限定されるものではない。例えば、上記説明においては、複数ある捕捉衛星データ取得部10のうち1つを妨害波検知モードとし、その他の捕捉衛星データ取得部10をGPS測位モードで動作させる例について示したが、2つ以上の捕捉衛星データ取得部10を妨害波検知モードで動作させることも可能である。また、捕捉衛星データSとしては、衛星ID、捕捉したGPS衛星までの距離、捕捉したGPS衛星の軌道データおよび相関値から構成される例を示したが、測位のために用いる捕捉衛星データ表現としては、例えば、GPS衛星までの距離を電波伝搬時間で表現する等、様々な態様が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るGPS測位装置の構成を示す図である。
【図2】あるC/Aコードで拡散された受信信号の時間波形とC/Aコードの時間波形を示す図である。
【図3】妨害波の時間波形と妨害波検知コードの時間波形を示す図である。
【図4】閾値再設定の際の処理の流れおよび測位を禁止して再度測位を行う処理の流れを示す図である。
【符号の説明】
【0039】
10 捕捉衛星データ取得部、12 C/Aコード記憶部、14 コード置き換え部、16 妨害波検知スイッチ、18 絶対値演算部、20 データ抽出部、22 制御部、24 閾値記憶部、26 衛星ID取得部、28 測距部、30 軌道データ取得部、32 データ合成部、34 搬送波NCO、40 逆拡散演算部、42 乗算器、43 積分器、50 測位部、52 GPS測位装置制御部、60 アンテナ、62 受信機、64 周波数制御部、66 局部発振器、68 検波器、70 ディジタルサンプラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPS衛星が送信した信号を受信する受信機と、
前記受信機が受信した信号をスペクトラム逆拡散するための信号である逆拡散信号を生成する逆拡散信号生成手段と、
前記受信機が受信した信号と逆拡散信号との間の相関値を算出する相関値算出手段と、
当該相関値に基づいてGPS衛星を識別し、当該GPS衛星が送信した信号から情報を得る衛星捕捉を行う衛星捕捉手段と、を備え、
前記逆拡散信号は、逆拡散符号を含み、逆拡散符号が周期的に現れる信号であり、
前記衛星捕捉手段は、前記相関値と予め定められた捕捉閾値とを比較し、比較結果に基づいてGPS衛星の捕捉を禁止する捕捉禁止手段を備えるGPS受信装置であって、
逆拡散信号に含まれる逆拡散符号の符号要素のすべてを同一のものに置き換えることで、妨害波を検知するための妨害波検知信号を生成する妨害波検知信号生成手段と、
前記受信機が受信した信号と妨害波検知信号との間の相関値である妨害波相関値を前記相関値算出手段によって算出し、妨害波相関値に基づいて、前記受信機で受信された信号が妨害波信号であるか否かを判定する妨害波判定手段と、
前記受信機で受信された信号が妨害波信号であると判定されたときには、前記捕捉閾値を再設定する捕捉閾値再設定手段と、を備えることを特徴とするGPS受信装置。
【請求項2】
GPS衛星が送信した信号を受信する受信機と、
前記受信機が受信した信号をスペクトラム逆拡散するための信号である逆拡散信号を生成する逆拡散信号生成手段と、
前記受信機が受信した信号と逆拡散信号との間の相関値を算出する相関値算出手段と、
当該相関値に基づいてGPS衛星を識別し、当該GPS衛星が送信した信号から情報を得る衛星捕捉を行う衛星捕捉手段と、
捕捉されたGPS衛星までの距離を測定する測距手段と、
捕捉された複数のGPS衛星までの距離に基づいて測位を行う測位手段と、を備え、
前記逆拡散信号は、逆拡散符号を含み、逆拡散符号が周期的に現れる信号であり、
前記衛星捕捉手段は、前記相関値と予め定められた捕捉閾値とを比較し、比較結果に基づいてGPS衛星の捕捉を禁止する捕捉禁止手段を備えるGPS測位装置であって、
逆拡散信号に含まれる逆拡散符号の符号要素のすべてを同一のものに置き換えることで、妨害波を検知するための妨害波検知信号を生成する妨害波検知信号生成手段と、
前記受信機が受信した信号と妨害波検知信号との間の相関値である妨害波相関値を前記相関値算出手段によって算出し、妨害波相関値に基づいて、前記受信機で受信された信号が妨害波信号であるか否かを判定する妨害波判定手段と、
前記受信機で受信された信号が妨害波信号であると判定されたときには、前記捕捉閾値を再設定する捕捉閾値再設定手段と、を備えることを特徴とするGPS測位装置。
【請求項3】
請求項2に記載のGPS測位装置であって、
前記測位手段は、捕捉した複数のGPS衛星のうち測位に関する情報を得るためのGPS衛星を、前記相関値に基づいて選択することを特徴とするGPS測位装置。
【請求項4】
GPS衛星が送信した信号を受信する受信機と、
前記受信機が受信した信号をスペクトラム逆拡散するための信号である逆拡散信号を生成する逆拡散信号生成手段と、
前記受信機が受信した信号と逆拡散信号との間の相関値を算出する相関値算出手段と、 当該相関値に基づいてGPS衛星を識別し、当該GPS衛星が送信した信号から情報を得る衛星捕捉を行う衛星捕捉手段と、
捕捉されたGPS衛星までの距離を測定する測距手段と、
捕捉された複数のGPS衛星までの距離に基づいて測位を行う測位手段と、を備え、
前記逆拡散信号は、逆拡散符号を含み、逆拡散符号が周期的に現れる信号であるGPS測位装置であって、
逆拡散信号に含まれる逆拡散符号の符号要素のすべてを同一のものに置き換えることで、妨害波を検知するための妨害波検知信号を生成する妨害波検知信号生成手段と、
前記受信機が受信した信号と妨害波検知信号との間の相関値である妨害波相関値を前記相関値算出手段によって算出し、妨害波相関値に基づいて、前記受信機で受信された信号が妨害波信号であるか否かを判定する妨害波判定手段と、
前記受信機で受信された信号が妨害波信号であると判定されたときには測位を禁止して再度測位を行う再測位手段と、を備えることを特徴とするGPS測位装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−38486(P2006−38486A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214610(P2004−214610)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】