説明

Ga含有窒化物結晶の製造方法およびそれを用いた半導体デバイスの製造方法

【課題】工業的に利用可能な方法で、効率良く高品質のGa含有窒化物を均一に結晶成長させること。
【解決手段】少なくとも、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素とGa金属とを含む合金と、窒化物原料とを粉砕して混合した混合物を加熱し、Ga含有窒化物を結晶成長させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ga含有窒化物結晶の製造方法およびそれを用いた半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)に代表される第13族金属と窒素との化合物結晶は、発光ダイオード、レーザダイオード、高周波対応の電子デバイス等で使用される物質として有用である。現在、GaNの場合、公知の方法で製造されるGaN結晶サイズは10mm程度であり(例えば、非特許文献1参照)、半導体デバイスへの応用は不十分である。実用的なGaN結晶の製造方法としては、サファイア基板または炭化珪素等のような基板上にMOCVD(Metal−Organic Chemical Vapor Deposition)法により気相エピタキシャル成長を行う方法が提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
しかし、前記方法では、格子定数および熱膨張係数の異なる異種基板上にGaN結晶をエピタキシャル成長させるため、得られたGaN結晶には多くの格子欠陥が存在する。そのような格子欠陥が多く存在するGaN結晶を用いた場合、電子素子の動作に悪影響を与え、青色レーザ等の応用分野で用いるためには満足すべき性能を発現することはできない。このため、近年、基板上に成長したGaNの結晶の品質の改善、GaNの塊状単結晶の製造技術の確立が強く望まれている。
【0004】
現在、気相法によるヘテロエピタキシャルGaN結晶成長法では、GaN結晶の欠陥濃度を減らすために、複雑かつ長い工程が必要とされる。このため、最近では、GaNの単結晶化について精力的な研究がなされており、例えば、高温、高圧下で窒素とGaを反応させる高圧法(例えば、非特許文献3参照)、GaとNaN3とを昇圧下で反応させる方法(例えば、非特許文献4参照)、フラックス成長法(例えば、非特許文献1、5、6参照)等が提案されている。
フラックス成長法には、アルカリ金属が使われる場合が多い。しかし、結晶の成長速度が遅く、大きさも10mm程度の板状結晶が得られているだけで、結晶の成長のメカニズムや、10mm程度の大きさで結晶の成長が停止してしまう原因等、不明な点が多い。一方、溶融塩中で電極にしたGa表面で窒素イオンを酸化させてGaNを生成させようとの試みがなされているが(例えば、非特許文献7参照)、工業化に至るプロセスは確立されていない。さらに、アモノサーマル法によるGaNの合成法(例えば、非特許文献8参照)も報告されているが、結晶サイズと格子欠陥数等に問題があり、工業化されるに至っていない。
【0005】
様々なGaN合成法において、合成原料としてGa金属が頻繁に利用されている。例えば、特許文献1では原料である高純度の金属Gaと粉体GaN、Li3N等を坩堝に入れ、加熱することによりGaN単結晶を合成している。Ga金属は融点が29.8℃であり、常温では過冷却液体として存在することが多い。しかも常温で液体状態のGa金属は、表面張力が極めて高く、他の窒化物原料とは殆ど相混じらない。このため、GaNを合成するために坩堝などの反応容器にGa金属と窒化物原料を仕込む際は、原料同士を混ぜ合わせることができないために、Ga金属の周りに窒化物原料を置くしかない。このような状態では、原料同士の接触面積が少なくて反応の進行が遅く、また場所によってムラができるため、効率よく目的とするGaNを得ることができなかった。一方、特許文献2では、Li含有量が非常に少ないGa−Li合金を用いることにより、Ga金属を含む液相を形成してGaNを合成しようとしている。しかしながら、やはり窒化物原料とは十分に混ざり合わないために、効率よく目的とするGaNを得ることができなかった。
【特許文献1】中国特許公開第1288079号公報
【特許文献2】特開2006−045052号公報
【非特許文献1】応用物理 第71巻第5号(2002)548頁
【非特許文献2】J. Appl. Phys. 37 (1998) 309頁
【非特許文献3】J. Crystal Growth 178 (1977) 174頁
【非特許文献4】J. Crystal Growth 218 (2000) 712頁
【非特許文献5】J. Crystal Growth 260 (2004) 327頁
【非特許文献6】金属 Vol.73 No.11(2003)1060頁
【非特許文献7】第29回溶融塩化学討論会要旨集 (1997) 11頁
【非特許文献8】Acta Physica Polonica A Vol.88 (1995) 137頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、金属Ga(特許文献1)や、Li含有量が非常に少ないGa−Li合金(特許文献2)を使用した場合、固体の窒化物原料と均一に混ぜ合わせることができないために、Ga含有窒化物を効率良く均一に結晶成長させることはできない。金属Gaは、他の原料が固体ないし液体の場合にも混合しにくい。また、Ga金属の固体は硬度が高く、粉砕は困難である。さらに、Ga含有窒化物原料の多くは空気と反応するために不活性ガス下で取り扱う必要があり、不活性ガス下で冷却しながらの粉砕や混合は工業的には困難であり実用的ではない。
【0007】
また、複数のGa含有窒化物原料を、粉砕して混合することなく使用する際、例えば、金属Gaの上に固体の窒化物原料を載せた場合は、金属Gaと窒化物原料との接触面積が少なく、効率よく目的とするGa含有窒化物の結晶成長を行うことができない。また、原料全体としてムラがあるために、Ga含有窒化物の結晶成長が均一に起こらない。さらに、種結晶基板を使用する場合にも、不均一な原料中にあえて種結晶基板を投入しなくてはならず、均一な結晶成長を望むことはできない。
【0008】
以上の課題を解決すべく、本発明は、工業的に利用可能な方法で、効率良く高品質のGa含有窒化物を均一に結晶成長させることのできるGa含有窒化物の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明のもう一つの目的は、前記製造方法を用いた発光ダイオード、レーザダイオード、高周波対応の電子デバイス等の半導体デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の課題に鑑み鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の目的は、以下のGa含有窒化物結晶の製造方法により達成される。
【0011】
[1]少なくとも、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素とGa金属とを含む合金と、窒化物原料とを粉砕して混合した混合物を加熱し、Ga含有窒化物を結晶成長させる工程を含むことを特徴とするGa含有窒化物の製造方法。
【0012】
[2]前記混合物中の前記合金および前記窒化物原料の平均粒径が1mm以下であることを特徴とする[1]に記載のGa含有窒化物の製造方法。
【0013】
[3]前記合金の組成が、Ga1-xLix(0.03<x<1)であることを特徴とする[1]または[2]に記載のGa含有窒化物の製造方法。
【0014】
[4]前記窒化物原料が、GaLi32またはGaNの少なくとも一方を含むことを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のGa含有窒化物の製造方法。
【0015】
[5]前記混合物がペレット状であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のGa含有窒化物の製造方法。
【0016】
[6]前記混合物は、不活性ガス中で前記合金および前記窒化物原料を粉砕および混合して作製されることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載のGa含有窒化物の製造方法。
【0017】
[7]前記混合物は、前記合金および前記窒化物原料を粉砕しながら混合して作製されることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載のGa含有窒化物の製造方法。
【0018】
[8]種結晶表面または基板上で前記Ga含有窒化物を結晶成長させることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載のGa含有窒化物の製造方法。
【0019】
[9][1]〜[8]のいずれかに記載のGa含有窒化物の製造方法によってGa含有窒化物結晶を製造する工程を含むことを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明のGa含有窒化物の製造方法によれば、高品質のGa含有窒化物を効率良く均一に結晶成長させることができる。すなわち、アルカリ金属元素もしくはアルカリ土類金属元素とGa金属とを含む合金と窒化物原料を粉砕して混合したものを用いることにより、前記合金と前記窒化物原料との反応性が向上し、効率よく目的とするGa含有窒化物の結晶成長を行うことができる。また、原料全体としてムラがなくなり、Ga含有窒化物の結晶成長が均一に起こり易くなる。
【0021】
本発明の半導体デバイスの製造方法は、本発明のGa含有窒化物の製造方法を用いてGa含有窒化物を製造する工程を有する。これにより、本発明によれば、高周波対応可能な半導体デバイスを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明のGa含有窒化物の製造方法およびその製造方法を用いた半導体デバイスの製造方法について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本明細書において「基板上」とは、サファイア、SiC、ZnO等の基板表面のほか、形成されたGa含有窒化物結晶表面も含まれる。
【0023】
[Ga含有窒化物の製造方法]
本発明のGa含有窒化物の製造方法は、少なくとも、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素とGa金属とを含む合金と、窒化物原料とを粉砕して混合した混合物を加熱し、Ga含有窒化物を結晶成長させることを特徴とする。
本発明のGa含有窒化物の製造方法によれば、アルカリ金属元素もしくはアルカリ土類金属元素とGa金属とを含む合金(以下、「本発明における合金」と称することがある。)と、窒化物原料とを粉砕して混合した混合物(以下、「本発明における混合物」と称することがある。)を用いるため、前記合金と前記窒化物原料との反応性が高く、原料内にムラがないので目的とするGa含有窒化物の結晶成長を効率よく均一に行うことができる。
【0024】
[混合物]
上述の通り、本発明のGa含有窒化物の製造方法では、本発明における合金と、窒化物原料とを粉砕して混合した混合物を用いることを特徴とする。また、本発明における混合物においては、Ga金属を、アルカリ金属元素もしくはアルカリ土類金属元素との合金として用いる。Ga金属の固体は硬度が高く、粉砕は困難であるが、Ga金属とアルカリ金属等との合金は、Ga金属の固体に比して粉砕が容易であり、またその融点もGa金属よりも高いため(例えば、Liを50原子%含むGa−Li合金の場合は融点が730℃)、冷却ガスで冷却せずに粉砕や混合を行うことができる。
【0025】
[アルカリ金属元素もしくはアルカリ土類金属元素とGa金属とを含む合金]
本発明における合金は、アルカリ金属元素(Li,Na,K,Rb,Cs,Fr)もしくはアルカリ土類金属元素(Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra)と、Ga金属とを含む合金である。
【0026】
本発明における合金の組成は、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素によっても異なるが、他の粉原料とすり混ぜることが可能な固形度(粉砕性)を持ち、かつGa含有窒化物の生成を阻害しない観点で選択されることが好ましい。また、次に述べるように、合金の組成は反応速度に影響を与え、生成物であるGa含有窒化物の結晶品質にも影響を及ぼすので、適切な範囲を選ぶことが好ましい。本発明における合金の具体例としては、例えば、Ga−Li合金、Ga−Na合金、Ga−Mg合金、Ga−Ca合金などを挙げることができる。本発明における合金は、窒化物原料中の元素に合わせて使用することが好ましい。特に本発明における合金としては、Ga1-xLix(0.03<x<1)の組成を有するものが好ましい。Ga−Li合金の場合、表1に示すとおり、Liの含有率に応じて融点(凝固点)は著しく変化する。Ga−Li合金が粉砕可能な固形度を有するためには、過冷却なども考慮して、Li含有量が最低3原子%以上必要であり、好ましくは5原子%以上、さらに好ましくは10原子%以上、さらに好ましくは20原子%以上がよい。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明において、Ga−Li合金を使用し、窒化物原料としてLi3NまたはGaLi32を用いた場合の反応は、基本的には以下の式などで表される。
Ga + Li3N = GaN + 3Li (1)
Ga + GaLi32 = 2GaN + 3Li (1)’
【0029】
Ga−Li合金中のLiの割合が高すぎると、前記化学式(式(1)および(1)’)が平衡に達してしまい、GaNの生成が阻害される場合がある。また、Gaのみだと最初に反応が急激に右に進んでしまい、GaN結晶の析出が速過ぎて質の悪い結晶が生成してしまう場合がある。Gaの代わりにGa−Li合金を使用すると、右への反応が比較的ゆっくり進行して質の良いGaN結晶が生成しやすいので好ましい。以上の理由から、Ga−Li合金中のLi濃度は、好ましくは3原子%〜50原子%、さらに好ましくは5原子%〜30原子%とする。なお、本発明では、反応場からLiを電気化学的方法等により取り除くことにより前記化学式の平衡を常に右に進行させるようにしてもよい(特開2006−45052号公報参照)。
【0030】
[窒化物原料]
本発明で使用される窒化物原料は、Ga含有窒化物を成長させる際の窒素源となる。前記窒化物原料は、Ga以外の金属元素の窒化物、またはGaとGa以外の金属元素との複合窒化物である。本発明における窒化原料の好ましい具体例としては、Li3N、Mg32、Ca32、GaN、GaLi32、GaMg33、Ca3Ga23などを挙げることができ、これらを組み合わせて使用してもよい。本発明においては、特に前記窒化物原料が、GaLi32またはGaNの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0031】
[他の原料]
本発明のGa含有窒化物の製造方法において、ドーピングを目的としてGa金属以外の物質を用いたい場合には、本発明における合金または前記窒化物原料に前記Ga金属以外の物質を添加することによって、本発明の製造工程内で目的を達することができる。
【0032】
[Ga含有窒化物]
本発明のGa含有窒化物の製造方法により得られるGa含有窒化物とは、主にGaNを示す。但し、本発明におけるGa含有窒化物は他の組成を有するものであってもよい。
【0033】
[粉砕後(本発明における混合物)中の合金および窒化物原料の粒径]
粒径は小さいほうが原料同士の接触面積が高く好ましい。このため、本発明における混合物中の本発明における合金および窒化物原料は、平均粒径が好ましくは1mm以下、より好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.1mm以下である。ここにおいて粒径とは、粒の中で最も長い径を示し、平均粒径とは、各粒の粒径の総和/粒数で表されるもので、平均的な粒の大きさを示すものである。平均粒径は、無作為に100個以上の粒を選択してそれぞれの粒径を測定し平均値を計算することにより求められる。
【0034】
本発明で使用する合金および窒化物原料は、空気中の水分と反応する場合が殆どであり、一般の粒度分布計を使用することは難しい。このため、これら本発明における混合物中の粒子の粒径を確認する手段としては、光学顕微鏡により直接観察する方法が挙げられる。これら粒径の測定は、Arなどの不活性ガス下で行うことが望ましく、空気中で行う場合は速やかに行うことが望ましい。
【0035】
[原料の粉砕および混合方法]
本発明における混合物を作製する際、本発明における合金および窒化物原料は、空気中の水分、酸素、窒素の少なくともいずれかと反応する場合が殆どなので、アルゴンなどの不活性ガス中で粉砕や混合を行うことが望ましい。特に、リチウム合金は、室温でも高温でも窒素と反応して窒化物を形成するため、リチウム合金を用いる場合には、窒素雰囲気下で粉砕や混合を行ってはならない。
【0036】
本発明における混合物を作製する際、合金等の粉砕および混合は、例えば、初めに各原料の粉砕を行ってから、これらを混合して本発明における混合物を作製してもよいし、各原料の粉砕と混合とを同時に行う、即ち、前記合金および前記窒化物原料を粉砕しながら混合して本発明における混合物を作製してもよい。後者の方が、各原料の粒径が揃い易く、より均一に混合できるので好ましい。
【0037】
各原料の粉砕方法としては、乳鉢などを使用して手や機械ですりつぶす方法、スタンプミル、ボールミル、ブレンダーなどの機械を使用する方法等があり、各原料に合わせて適宜使用することができる。また、各原料の混合方法としては、上述の粉砕方法がそのまま使える(本発明における合金および窒化物原料を一緒に粉砕することでこれらも混合される)ほか、ミキサー、ミックスローター、ポットミル、スターラーなどの混合機器を使用する方法があり、これら各方法を適宜利用することができる。各原料の粉砕や混合に使用する容器(乳鉢、乳棒、粉砕ボールなど)の材質としては、粉砕や混合を行う原料の種類にもよるが、主に硬度が充分に高く、高い粉砕能力があり、粉砕や混合によって原料に容器の一部が混入しないことが求められる。各原料の粉砕・混合に用いられる容器の具体例としては、ムライト、ハイアルミナ、めのう、ステンレス、炭化タングステン、ダイヤモンドなどを挙げることができ、中でも炭化タングステンは硬度が高く、比較的安価なので好ましい。
【0038】
[混合後の処理]
前記混合により得られた本発明における混合物は、粉砕されたそのままの状態で反応容器に入れて使用しても構わない。また、種結晶基板への微粒子の舞い上がりによる付着が気になるなどの場合には、混合物を押し固めてペレット状にしてから反応容器に入れることが好ましい。
【0039】
[結晶成長]
本発明のGa含有窒化物の製造方法によれば、本発明における混合物を加熱して、Ga含有窒化物を結晶成長させることにより、Ga含有窒化物を製造する。
Ga含有窒化物の結晶成長は、種結晶表面または基板上に結晶を成長させることにより行うことが好ましい。結晶成長の方法としては、頂部種結晶法、温度勾配法、るつぼ回転法、種結晶回転法、緩慢温度低下法などが採用できる。
【0040】
本発明のGa含有窒化物の製造方法では、窒化物原料を本発明における合金と接触させて反応させる。このとき、Ga含有窒化物の結晶または基板を結晶成長のための種結晶として用いることが好ましい。種結晶の形状は特に制限されず、平板状であっても、棒状であってもよい。また、ホモエピタキシャル成長用の種結晶であってもよいし、ヘテロエピタキシャル成長用の種結晶であってもよい。具体的には、気相成長させたGaN、InGaN、AlGaN等のGa含有窒化物の種結晶を挙げることができる。また、サファイア、シリカ、ZnO、BeO等の金属酸化物や、SiC、Si等の珪素含有物や、GaAs等の気相成長等で基板として用いられる材料を挙げることもできる。これらの種結晶や基板の材料は、本発明で成長させるGa含有窒化物結晶の格子定数にできるだけ近いものを選択することが好ましい。棒状の種結晶を用いる場合には、最初に種結晶部分で成長させ、次いで、主に水平方向に結晶成長を行い、その後、垂直方向に結晶成長を行うことによってバルク状の結晶を作製することもできる。水平方向の結晶成長を行う時は、容器の側壁までの適当な部分で結晶成長が停止するように、水平方向でGa合金の組成分布ができるように制御することが好ましい。
【0041】
[反応条件]
本発明において、本発明における混合物を加熱する際の温度条件としては、通常200〜1000℃であり、好ましくは400〜900℃、さらに好ましくは600〜800℃である。また、加熱時間は、通常2時間から10日であるが、同程度の結晶成長であれば、時間は短いほうがコストダウンにつながるため好ましい。本発明のGa含有窒化物の製造方法は、あらかじめ各原料を均一に混合してから反応を開始するため、同じ程度の結晶成長であれば、反応時間が短くできるので好ましい。また、反応の際の圧力は、通常10MPa以下であり、好ましくは1MPa以下であり、より好ましくは常圧である。本発明は常圧で実施することができるため、他の高圧法に比べて装置が安価であり、かつ安全性が高いので工業的にも大変好ましい。
【0042】
本発明において、本発明における混合物の加熱は、通常、本発明における混合物を坩堝中に入れて加熱する。前記坩堝の材質としては、具体的には、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、石英などの酸化物、窒化ホウ素などの窒化物、モリブデン、タングステンなどの金属を挙げることができる。これらのうち、反応温度に耐え、原料や生成物と反応せず、生成物(Ga含有窒化物)に混入しないものであればどれを使用しても良い。これらの性能が同等であれば、比較的安価な酸化物が工業的には好ましい。
本発明のGa含有窒化物の製造方法においては、本発明における混合物を加熱して、Ga含有窒化物を結晶成長させた後、Ga含有窒化物以外の原料や不純物を除くために、通常は酸処理を施す。前記酸処理は、具体的には、塩酸や硝酸等の酸に反応後の混合物を入れ、沸騰しない程度の温度で数時間加熱することにより行うことができる。
【0043】
[半導体デバイスの製造方法]
本発明のGa含有窒化物の製造方法は、半導体デバイスの製造方法におけるGa含有窒化物を製造する工程に用いることができる。その他の工程における原料、製造条件および装置は一般的な半導体デバイスの製造方法で用いられる原料、条件および装置をそのまま適用できる。前記半導体デバイスとしては、例えば、発光ダイオード、レーザダイオード、高周波対応の電子デバイス等が挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0045】
[実施例1]
不活性ガス(アルゴンガス)下、酸化マグネシウムの坩堝に、GaLi320.15gと、20原子%のLiを含むGa−Li合金3gとを乳鉢でよくすり混ぜることにより粉砕しながら混合した混合物を入れた。この際、混合物中の粒子を、光学顕微鏡により直接観察したところ、平均粒径は約0.1mm以下であった(図1)。次いで、該坩堝を石英反応管に入れて、窒素流通下、780℃から徐々に温度を下げながら770℃まで50時間かけて加熱した。加熱終了後、内容物を酸処理し、透明で板状のGaN結晶92mgを得た。GaLi32から換算したGaNの収率は87%であった。
【0046】
[実施例2]
不活性ガス(アルゴンガス)下、酸化マグネシウムの坩堝に、液体Ga3gを入れ、その上に、GaLi320.15gと20原子%のLiを含むGa−Li合金0.36gとを乳鉢でよくすり混ぜることにより粉砕しながら混合した混合物を載せた。この際、混合物中の粒子を、光学顕微鏡により直接観察したところ、平均粒径は約0.1mm以下であった。該坩堝を石英反応管に入れ、窒素流通下、780℃で40時間加熱した。加熱終了後、内容物を酸処理し、透明で板状のGaN結晶66mgを得た。GaLi32から換算したGaNの収率は62%であった。
【0047】
[実施例3]
不活性ガス(アルゴンガス)下、酸化マグネシウムの坩堝に、GaN種結晶基板を底置きし、その上にGaLi320.15gと15原子%のLiを含むGa−Li合金3gとを乳鉢でよくすり混ぜることにより粉砕しながら混合した混合物を載せた。この際、混合物中の粒子を、光学顕微鏡により速やかに直接観察したところ、平均粒径は約0.1mm以下であった。該坩堝を石英反応管に入れ、窒素流通下、780℃で90時間加熱した。加熱終了後、内容物を酸処理し、透明で板状のGaN結晶28mgを得た。GaLi32から換算したGaNの収率は22%であった。また、GaN種結晶基板をSEMで観察したところ、新たな結晶成長が確認された。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、GaLi32とGa−Li合金とを混合せず、坩堝にまずGa−Li合金を入れ、その上にGaLi32を載せたこと以外は実施例1と同様の条件で実験を行い、不透明で粉状のGaN結晶0.3mgを得た。GaNの収率は0.3%であった。
【0049】
[比較例2]
実施例2において、Ga−Li合金を使わなかったこと以外は実施例2と同様の条件で実験を行い、不透明で粉状のGaN結晶14mgを得た。GaNの収率は14%であった。
【0050】
[比較例3]
実施例3において、Ga−Li合金の代わりに液体Ga3gを使用し、乳鉢ですり混ぜる代わりに、坩堝にまずGaを入れ、その上にGaLi32を載せたこと以外は実施例3と同様の条件で実験を行い、不透明で粉状のGaN結晶6mgを得た。GaNの収率は5%であった。また、GaN種結晶基板をSEMで観察したところ、新たな結晶成長は全く確認できなかった。
【0051】
[比較例4]
実施例3において、15原子%のLiを含むGa−Li合金の代わりに、2原子%のLiを含むGa−Li合金を使用した。2原子%のLiを含むGa−Li合金は常温で固体だったので、秤量するためにヒーターで加熱したところ速やかに液体となったが、秤量後室温まで放冷してもなかなか固体にならなかった。仕方なく液体のままGaLi32と乳鉢で混合しようとしたがうまく混ざり合わず、そのまま坩堝に入れ、実施例3と同様に実験を行い、不透明で粉状のGaN結晶16mgを得た。GaNの収率は15%であり、実施例3に比べて低く、GaN種結晶基板をSEMで観察したところ、新たな結晶成長は全く確認できなかった。
【0052】
以上のように、Gaを含む合金および窒化物原料を粉砕・混合しない比較例は、実施例に比べて収率が著しく低く、得られたGaN結晶のサイズは小さく、透明度が悪く、種結晶基板の結晶成長も全く起こっていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の製造方法によれば、効率良く高品質のGa含有窒化物を均一に結晶成長させることができる。また、収率が高いために工業的に利用しやすく、特に高周波対応可能な半導体デバイスの製造等の幅広い用途に適用しうる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1で調製した混合物中の粒子の光学顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素とGa金属とを含む合金と、窒化物原料とを粉砕して混合した混合物を加熱し、Ga含有窒化物を結晶成長させる工程を含むことを特徴とするGa含有窒化物の製造方法。
【請求項2】
前記混合物中の前記合金および前記窒化物原料の平均粒径が1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のGa含有窒化物の製造方法。
【請求項3】
前記合金の組成が、Ga1-xLix(0.03<x<1)であることを特徴とする請求項1または2に記載のGa含有窒化物の製造方法。
【請求項4】
前記窒化物原料が、GaLi32またはGaNの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のGa含有窒化物の製造方法。
【請求項5】
前記混合物がペレット状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のGa含有窒化物の製造方法。
【請求項6】
前記混合物は、不活性ガス中で前記合金および前記窒化物原料を粉砕および混合して作製されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のGa含有窒化物の製造方法。
【請求項7】
前記混合物は、前記合金および前記窒化物原料を粉砕しながら混合して作製されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のGa含有窒化物の製造方法。
【請求項8】
種結晶表面または基板上で前記Ga含有窒化物を結晶成長させることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のGa含有窒化物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のGa含有窒化物の製造方法によってGa含有窒化物結晶を製造する工程を含むことを特徴とする半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−88025(P2008−88025A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271846(P2006−271846)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】