GasderminBを標的とした癌診断および創薬
【課題】GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの発現や変異を指標とした癌の検査方法を提供する。また、該検査方法に使用する検査薬、検査対象となるSDMB変異体およびGSDMBスプライシングバリアントを提供する。
【解決手段】GSDMBが多くの癌において正常組織で発現していないにもかかわらず、癌になると過発現すること、またヒト17番染色体 17q12 amplicon領域の増幅とは無関係に過発現することを見出した。また、抗GSDMBポリクローナル抗体の作製を行い、組織切片レベルの抗原特異性を確認できることを明らかにした。さらに、GSDMBにおいて未分化胃癌、印環細胞癌患者に2カ所のアミノ酸変化が存在することを見出した。特定のアミノ酸変異は印環細胞癌(sig)、非充実型低分化癌(por2)患者に非常に高い割合で見出され、このアミノ酸変異がこれらの癌の発生、浸潤、転移等に深く関わっていることが示唆された。
【解決手段】GSDMBが多くの癌において正常組織で発現していないにもかかわらず、癌になると過発現すること、またヒト17番染色体 17q12 amplicon領域の増幅とは無関係に過発現することを見出した。また、抗GSDMBポリクローナル抗体の作製を行い、組織切片レベルの抗原特異性を確認できることを明らかにした。さらに、GSDMBにおいて未分化胃癌、印環細胞癌患者に2カ所のアミノ酸変化が存在することを見出した。特定のアミノ酸変異は印環細胞癌(sig)、非充実型低分化癌(por2)患者に非常に高い割合で見出され、このアミノ酸変異がこれらの癌の発生、浸潤、転移等に深く関わっていることが示唆された。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの発現や変異を指標とした癌の検査方法に関する。また、該検査方法に使用する検査薬、検査対象となるGSDMB変異体およびGSDMBスプライシングバリアントに関する。また、該タンパク質に特異的に結合する抗体を有効成分とする癌治療薬に関する。また、癌化すると選択的に使用されるGSDMBのプロモーターに関する。
【背景技術】
【0002】
癌化プロセスは、多くの遺伝子の変異の蓄積、発現の上昇、発現の低下と言った複数の遺伝子レベルでの変化を伴う。これらの原因の一つとしてゲノムの不安定性を挙げることが出来る。
【0003】
ゲノムの不安定性は、ヒトの癌化において良く研究されている。例えば染色体の一部の切断と転座、欠損、重複、均一染色領域(homogeneously staining region: HSR)およびダブルマイニュート(double minute: DM)染色体は、癌細胞において顕著に観察される現象である。癌細胞は、時にHSRやDMを一方もしくは両方持つことが報告されている。これらのゲノムの再構成は、DNAの二重鎖切断(DNA double strand break down)により引き起こされ、その結果、癌遺伝子の増幅や癌抑制遺伝子の欠損につながると考えられる(非特許文献1)。
【0004】
ヒト17番染色体長腕、17q12 ampliconの増幅は、乳癌、胃癌、卵巣癌、膀胱癌、及び子宮癌において良く観察される。原癌遺伝子である上皮増殖因子受容体ファミリーに属すERBB2は、この領域に位置しており、癌化に伴いゲノムあたりのコピー数が増幅されて、乳癌の約20%及び胃癌において過剰発現していることが報告されている(非特許文献2、3)。本発明者らは、17q12 ampliconの構造的な解析を行った過程において、この領域の内CAB1/MLN64, CAB2, ERBB2及びGRB7が位置する領域が癌化において一般に、もしくは主として増幅していることを見いだした。また、マウスにおいてヒトの17q12 ampliconに相同な領域にガスダーミン(後にマウスガスダーミンA-1(GasderminA-1)と名称変更)が存在していることを報告した(非特許文献4)。
【0005】
尚、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【非特許文献1】Coquelle, A., Pipiras, E., Toledo, F., Buttin, G., and Debatisse, M. (1997). Expression of fragile sites triggers intrachromosomal mammalian gene amplification and sets boundaries to early amplicons. Cell 89, 215-225.
【非特許文献2】van de Vijver, M., van de Bersselaar, R., Devilee, P., Cornelisse, C., Peterse, J, and Nusse, R. (1987). Amplification of the neu (c-erbB-2) oncogene in human mammary tumors is relatively frequent and is often accompanied by amplification of the linked c-erbA oncogene. Mol. Cell. Biol. 7, 2019-2023.
【非特許文献3】Yokota, J., Yamamoto, T., Miyajima, N., Toyoshima, K., Nomura, N., Sakamoto, H., Yoshida, T., Terada, M., and Sugimura, T. (1988). Genetic alterations of the c-erbB-2 oncogene occur frequently in tubular adenocarcinoma of the stomach and are often accompanied by amplification of the v-erbA homologue. Oncogene 2, 283-287.
【非特許文献4】Saeki, N., Kuwahara, Y., Sasaki, H., Satoh H., and Shiroishi, T. Gasdermin (Gsdm) localizing to mouse chromosome 11 is predominantly expressed in upper gastrointestinal tract but significantly suppressed in human gastric cancer cells. Mammalian Genome., 11(9): 718-724, 2000.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、国立遺伝学研究所・哺乳動物遺伝研究室において見出されたRecombinant-induced mutation 3 (Rim3) の原因遺伝子が、マウス第11番染色体にクラスターとして存在するGasderminAクラスター(以下GsdmAクラスターと称す)内の1遺伝子であるGasderminA-3 (以下GsdmA3と称す)であることを明らかとしていた(PCT/JP03/02345)。マウスGsdmAクラスターのヒト相同遺伝子は、ヒト第17番染色体に存在するヒトGasderminA(以下GSDMAと称す)遺伝子である。マウスGsdmAクラスターは、GsdmA1(GasderminA-1)、GsdmA2(GasderminA-2)、GsdmA3の3遺伝子から形成されているのに対して、ヒトではGSDMA遺伝子のみが第17番染色体に存在する。
【0007】
また、ヒトのGSDMAの近傍を含むBAC クローンの塩基配列を解析することによりマウスではGsdmA2、GsdmA3が存在する領域に、似てはいるが明らかにGsdmA2、GsdmA3とは異なる遺伝子が存在することを見出し、PCR法を用いてcDNAを単離した。この遺伝子をGasderminB(以下GSDMBと称す)と名付けた(PCT/JP03/02345では、GasderminB-1と記載している)。
【0008】
GSDMBは、Gsddermin Familyメンバーに属する遺伝子であるが、マウスには存在せずヒトのみに存在する。また、Gsddermin Family全てにおいて保存されているC末端側のRex変異領域が欠損しているという特徴を持っている。GSDMBは、ヒト第17番染色体17q12 ampliconに存在する。この領域は、胃癌、食道癌、乳癌、皮膚癌、卵巣癌においてゲノム領域の増幅が認められ、これらの癌化に深く関わっている遺伝子群が存在すると考えられている。これまでに我々は、GSDMBと同じGsddermin Familyメンバーであり、かつ同じヒト第17番染色体17q12 ampliconに存在するGSDMAは、胃癌、食道癌において癌抑制遺伝子として機能していることを明らかにしていた(PCT/JP03/02345)。しかしながらGSDMBの機能については不明であった。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの発現や変異を指標とした癌の検査方法を提供することである。また、該検査方法に使用する検査薬、検査対象となるGSDMB変異体およびGSDMBスプライシングバリアントを提供する。また、該タンパク質に特異的に結合する抗体を有効成分とする癌治療薬を提供する。さらに、癌化すると選択的に使用されるGSDMBのプロモーターを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、まず本願発明者らはGSDMB の発現について鋭意研究を行い、GSDMBが多くの癌において正常組織で発現していないにもかかわらず、癌になると過発現すること、またヒト17番染色体 17q12 amplicon領域の増幅とは無関係に過発現することを見出した。本願発明者らGSDMBは、乳癌組織、胃癌組織、食道癌組織、大腸癌組織、皮膚癌組織、肺癌組織で発現し、皮膚癌、乳癌、食道癌、子宮頸部癌、胃癌、大腸癌、膵臓癌、肝臓癌由来細胞株で発現することを明らかにした。またGSDMBは癌組織だけでなく、大腸におけるポリープや胃における腸上皮化性などの前癌状態おいても発現し、また一部の正常組織おいても発現することを明らかにした。更に各正常、前癌、癌組織におけるGSDMBの発現量は、癌化の進行に比例して増加していくことを確認した。
【0011】
また、本願発明者らは抗GSDMBポリクローナル抗体の作製を行い、組織切片レベルの抗原特異性を確認できることを明らかにした。
【0012】
また、本願発明者らは、前癌段階(外見上は正常組織に分類されるが、すでにGSDMBの発現が開始されている段階を含む)においてGSDMBには2つのプロモーターが存在し、一つは完全に癌化すると抑制され、もう一方のみが選択的に使われることを見出した。また選択的に使われるプロモーターからは、より多くの、かつ特異的なオルタナティブスプライシングバリアントが転写されており、乳癌組織においては特異的なバンドパターンが存在することを明らかにした。さらに、調べた全ての癌組織・癌細胞株においてバリアントの発現を確認した。
【0013】
さらに、本願発明者らは、GSDMBにおいて未分化胃癌(印環細胞癌、非充実型低分化癌)患者に2カ所のアミノ酸変化が存在することを見出した。その位置は、Gasderminファミリー全てで保存されているアミノ酸であり、また上皮形態異常突然変異マウスRim3に変異が存在したファミリー間全てで保存されていたアラニンの近傍であった。本願発明者らが見出したアミノ酸変異は印環細胞癌(sig)、非充実型低分化癌(por2)患者に非常に高い割合で見出された。
【0014】
GSDMBのSNP (Single nucleotide polymorphism)をSNPデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=snp)を用いて解析した結果、アミノ酸304番目のグリシンがアルギニンに変化(塩基G→A)する、またアミノ酸311番目のプロリンがセリンに変化(塩基C→T)する原因塩基は、元々ヒトゲノム中に存在するSNPであることが分かった。その出現頻度はSNPデータベース調査の結果、アミノ酸304番目の変化に相当する塩基Aは26.4 %、アミノ酸311番目の変化に相当する塩基Tは26.7 %であった。さらに、印環細胞癌、非充実型低分化癌患者における出現頻度は、このSNPデータの出現頻度を遙かに上回っていることが明らかとなった。これらの結果は、このアミノ酸変異がこれらの癌の発生、浸潤、転移等に深く関わっていることを示唆すると考えられる。
【0015】
即ち、本発明者らは、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの発現や変異を指標とした癌の検査方法を開発することに成功し、これにより本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、より具体的には、以下の(1)〜(22)を提供する。
(1)以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質の発現量を測定する工程を含む、癌の検査方法。
(a)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAよりコードされるタンパク質
(b)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(2)配列番号:1〜34の偶数番目の配列に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質における変異を検出する工程を含む、癌の検査方法。
(3)タンパク質における変異が、アミノ酸置換を伴う変異である、(2)に記載の癌の検査方法。
(4)配列番号:1〜34の奇数番目の配列に記載のDNA配列における変異を検出する工程を含む、癌の検査方法。
(5)DNA配列における変異が、塩基置換を伴う変異である、(4)に記載の癌の検査方法。
(6)癌が、皮膚癌、乳癌、胃癌、肺癌、大腸癌、食道癌、子宮頸部癌、膵臓癌または肝臓癌のいずれかである、(1)から(5)に記載の癌の検査方法。
(7)以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質またはその断片に結合する抗体。
(a)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAよりコードされるタンパク質
(b)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(8)(7)に記載の抗体を含む、癌の検査薬。
(9)(7)に記載の抗体を有効成分とする、癌の治療薬。
(10)以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、癌の検査薬。
(a)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAであって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(11)癌が皮膚癌、乳癌、胃癌、肺癌、大腸癌、食道癌、子宮頸部癌、膵臓癌または肝臓癌のいずれかである、(8)または(10)に記載の検査薬
(12)以下の(a)〜(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:69に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNAであって、配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNAと同等なプロモーター活性能を持つDNA
(c)配列番号:69に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNAと同等なプロモーター活性能を持つDNA
(13)(12)に記載のDNAと癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNA。
(14)癌において抑制的に作用するタンパク質が、癌抑制タンパク質、細胞障害性タンパク質である、(13)に記載のDNA。
(15)(12)から(14)のいずれかに記載のDNAが挿入されたベクター。
(16)遺伝子治療用である、(15)に記載のベクター。
(17)(15)または(16)に記載のベクターを保持する形質転換細胞。
(18)以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:3〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質をコードするDNAであって、配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:3〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAであって、配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(19)(18)に記載のDNAからコードされるタンパク質
(20)(18)に記載のDNAが挿入されたベクター。
(21)(18)に記載のDNAまたは(19)に記載のベクターを保持する形質転換細胞。
(22)(18)に記載のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチド。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、GSDMBが癌化プロセスに深く関与すること、病理学的、特に組織レベルでの同定では正常組織と分類されるものであってもすでに癌化方向に進んでいる検体の存在があることが示された。即ち、バイオプシーにより得られた検体をGSDMBの発現量を指標として検査することにより、今までは判別不可能であった早期の癌段階(今までは正常と判断された段階)での癌診断が可能になる。
また、本発明の抗体は新たな腫瘍マーカーとして使用できることが期待される。現在使用されている腫瘍マーカーの多くは、多くの癌組織で共通して発現が上がるため、それのみで原発部位を特定することは難しい。例えば、CA-19-9は、膵臓癌などの腫瘍マーカーとして用いられているが、このマーカーは消化管癌一般において抗原の上昇が見られる。本願発明者らは、GSDMBのオルタナティブスプライシング産物の内、少なくとも乳癌において特異的なバンドパターンが存在することを明らかにした。この乳癌特異的な産物に対して抗体を作製し、腫瘍マーカーとして使用すれば、簡単な腫瘍マーカー検査のみで癌原発部位の同定が可能になる。また、この特異的な産物に対するプライマーまたはプローブを設計し、発現を検出することでも、癌原発部位の同定が可能である。癌治療の原則である早期発見、早期治療の原則からしても、この意味するところは非常に大きい。更に、抗GSDMB抗体は、癌特異的に作用し、かつ副作用が少ない安全性の高い医薬品(抗GSDMB抗体抗癌薬)として利用可能であると考えられる。抗GSDMB抗体は、患者自身の免疫反応を利用して癌細胞を攻撃することにより抗癌薬として機能することが予想される。抗GSDMB抗体は、癌細胞特異的に発現するGSDMB蛋白質に結合する抗体であり、抗体がGSDMB蛋白質に結合することで、抗原抗体反応によるシグナル伝達が起こり患者体内の免疫細胞を活性化し、免疫細胞による癌細胞への攻撃を誘発して癌の増大を抑えることができると考えられる。
【0018】
抗GSDMB抗体は、癌に特異的に発現するGSDMB蛋白質を標的とするため、癌に特化して治療する。即ち、正常細胞に作用しないため、副作用が極めて少ないことが予想される。更にGSDMBは、全ての癌に共通して発現するので、幅広い癌への適用が可能である。また、抗GSDMB抗体(抗癌薬)は、治療前に患者の癌細胞のGSDMB発現程度を調べることによって抗体薬の有効性の推測が可能である。よって個々の患者の病態にあわせた治療を行うことが可能となる。
【0019】
本発明のプロモーターの選択とオルタナティブスプライシングの選択性のメカニズムを今後明らかにすることにより、転写レベルでの癌化プロセス解明の大きな手がかりが得られると期待される。また、GSDMBプロモーターは、遺伝子治療を行う上で非常に有用であると考えられる。完全に正常な組織においては機能せず、初期癌化状態から機能して、その活性も癌化の進行と共に強くなるGSDMBプロモーターに癌抑制遺伝子等目的遺伝子を繋ぐことで、極めて癌特異的に目的遺伝子を発現させることが可能となる。この極めて高い癌特異性により、目的遺伝子として毒性の高い産物をコードする物でも正常組織に与える影響はないと考えられる。
【0020】
本発明で見出されたアミノ酸変異は、印環細胞癌(sig)、非充実型低分化癌(por2)患者に非常に高い割合で見出されたことと、GSDMBが非常に初期の前癌段階より発現が始まることを併せて考えると、内視鏡検査時、もしくは癌診断時にバイオプシーなどにより採取された検体をGSDMBの発現量、塩基の変化、アミノ酸変化を指標として診断することにより、非常に早期に非充実型低分化癌、印環細胞癌などの未分化癌を見つけ出すことが可能になると考えられる。
【0021】
さらに、本発明の方法により、癌を健常時において、変異領域のゲノムの塩基配列を解析することにより非充実型低分化癌・印環細胞癌のリスクを判定できると考えられる。例えば、GSDMBのアミノ酸304番目のグリシンがアルギニンに変化する原因である塩基AのSNP、またアミノ酸311番目のプロリンがセリンに変化する原因である塩基TのSNPのどちらを持つのか、片側のみなのか、両方持つのか、またヘテロで持つか、ホモで持つかによりリスクを予想することが可能となると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、GSDMB、GSDMBスプライシングバリアント、GSDMB変異体およびGSDMBスプライシングバリアントの変異体の発現量を測定する工程を含む、癌の検査方法に関する。
【0023】
本発明において、検査対象となる癌は、人間を含む哺乳動物に発症する癌であれば何でもよく。例えば、リンフォーマやメラノーマ等の癌も本発明における癌として含まれる。より好ましくは皮膚癌、乳癌、胃癌、肺癌、食道癌、子宮頸部癌、大腸癌、膵臓癌または肝臓癌を挙げることが出来る。
【0024】
GSDMBのcDNAの塩基配列を配列番号:1に、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
【0025】
本発明におけるGSDMBの変異体としては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を挙げることが出来る。また、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質も、GSDMBの変異体として挙げることができる。GSDMBのより好ましい変異体のcDNAの塩基配列を配列番号:35に、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:36に示す。
【0026】
本発明において、変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内)であると考えられる。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666 、Zoller, M. J. & Smith, M. Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500 、Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433 、Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413)。
【0027】
本発明において「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、該タンパク質と同等の生物学的機能や生化学的機能を有することを指す。本発明において、該タンパク質の生物学的機能や生化学的機能としては、癌細胞に特異的に高発現する性質などが挙げられる。このような性質の測定方法としては、実施例に記載の方法が例示できるが、それらの方法に限定されない。生物学的な性質には発現する部位の特異性や、発現量等も含まれる。
【0028】
目的のタンパク質と「機能的に同等なタンパク質」をコードするDNAを調製するために、当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E.M. (1975) Journal of Molecular Biology, 98, 503)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K. et al. (1985) Science, 230, 1350-1354、Saiki, R. K. et al. (1988) Science, 239, 487-491)を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者にとっては、GSDMBの塩基配列(配列番号:1)もしくはその一部をプローブとして、またGSDMB(配列番号:1)に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、GSDMBと高い相同性を有するDNAを単離することは通常行いうることである。このようにハイブリダイズ技術やPCR技術により単離しうるGSDMBと同等の機能を有するタンパク質をコードするDNAもまた本発明のDNAに含まれる。
【0029】
このようなDNAを単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行う。本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、6M尿素、 0.4%SDS、0.5xSSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指す。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件を用いることにより、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。これにより単離されたDNAは、アミノ酸レベルにおいて、目的タンパク質のアミノ酸配列と高い相同性を有すると考えられる。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%,96%,97%,98%,99%以上)の配列の同一性を指す。アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0030】
本発明の「GSDMBスプライシングバリアント」としては、各種癌組織、癌細胞株cDNAを鋳型としてGSDMB710F(配列番号:72)とGSDMB1185R(配列番号:73)のプライマーセットでPCRを行い、3%アガロースゲルを用いた電気泳導(100ボルト2時間50分)で、約540bp、約500bp、約470bp、約420bp、約400bp、約380bp、約350bpの断片が増幅されるDNAを挙げることが出来る。より好ましいGSDMBスプライシングバリアントのゲノムDNAの塩基配列としては、配列番号:3〜34の奇数番目の塩基配列を、また、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列としては配列番号:3〜34の偶数番目のアミノ酸配列を挙げることができる。配列番号:3〜34の奇数番目の塩基配列とは、配列番号:3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33の配列であり、配列番号:3〜34の偶数番目のアミノ酸配列とは、配列番号:4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34の配列のことである。
【0031】
本発明の「GSDMBスプライシングバリアントの変異体」としては、配列番号:3〜34の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:3〜34の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を挙げることが出来る。また、配列番号:3〜34の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:3〜34の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質も、GSDMBスプライシングバリアントの変異体として挙げることができる。
【0032】
より好ましいGSDMBスプライシングバリアントの変異体のDNAの塩基配列としては配列番号:37〜68の奇数番目の塩基配列を、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列としては配列番号:37〜68の偶数番目のアミノ酸配列を挙げることが出来る。配列番号:37〜68の奇数番目の塩基配列とは、配列番号:37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67の配列であり、配列番号:37〜68の偶数番目のアミノ酸配列とは、38、40、42,44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68の配列のことである。
【0033】
本発明の癌の検査方法では、まず該タンパク質の発現量を測定する。該タンパク質の発現量の測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。上記検査方法の好ましい態様においては、まず、被検者から被検試料を調製する。例えば被検者の血液、皮膚、口腔粘膜、毛髪、手術やバイオプシー等により採取あるいは切除した組織または細胞からタンパク質のmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、またはRT-PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、該タンパク質の発現レベルを測定することも可能である。
【0034】
また、該タンパク質を含む画分を定法に従って回収し、該タンパク質の発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。また、該タンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施し、該タンパク質の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。
【0035】
該癌の検出方法においては、該タンパク質の発現量を測定した後に、発現量に基づいて、癌化しているかどうかを判定する。癌の進行と共にGSDMBの発現が強くなることから、発現量を指標として、被検細胞が正常であるのか、前癌状態にあるのか、癌状態にあるのか判定することが出来る。GSDMBが多くの正常組織では発現していないが一部正常組織で発現が見られることから、病理学的に正常と判断された検体の中にも遺伝子発現のレベルでは既に癌化に向かっている検体が存在すると判定することも出来る。
【0036】
本発明は、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントにおける変異を検出する工程を含む、癌の検査方法に関する。
【0037】
本発明において、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントにおける変異とは、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域も含まれ、遺伝子領域とは、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子および該遺伝子の発現に影響する領域を意味する。該遺伝子の発現に影響する領域としては、特に制限はないが、例えば、プロモーター領域などが例示できる。
【0038】
また、本発明における変異は、癌化に関与する変異であれば、その種類、その数などに制限はない。上記遺伝子の発現量を変化させる、mRNAの安定性等の性質を変化させる、あるいは上記遺伝子によってコードされるタンパク質の有する活性を変化させるような変異であることが多いが、特に制限されない。上記変異の種類としては、例えば、欠失、置換または挿入変異などが挙げられる。上記の変異には、該タンパク質のアミノ酸配列においてアミノ酸の置換が起こる変異、およびアミノ酸の置換は起こらないが、塩基配列における塩基の置換が起こる変異が含まれる。
【0039】
以下に本発明の癌化に関与する塩基置換、アミノ酸置換の一例を示すが、本発明における変異はこれらに限定されるものではない。
【0040】
本発明の癌化に関与する塩基の置換としては、好ましくは以下の表1の(a)に記載の塩基配列における(b)位、および/または(c)位の塩基が、他の塩基に置換するものを挙げることができる。また、より好ましくは以下の表1の(a)に記載の塩基配列における(b)位のグアニンがアデニンへ変異するもの、および/または、(c)位のシトシンがチミンに変異するものを挙げることができる。
【0041】
【表1】
【0042】
また、本発明の癌化に関与するアミノ酸の置換としては、好ましくは以下の表2の(a)に記載のアミノ酸配列における(b)位、および/または(c)位のアミノ酸が、他のアミノ酸に置換するものを挙げることができる。また、より好ましくは以下の表2の(a)に記載のアミノ酸配列における(b)位のグリシンからアルギニンへの変異および/または、(c)位のプロリンからセリンへの変異を挙げることが出来る。
【0043】
【表2】
【0044】
本発明の検査方法では、アミノ酸または塩基の2箇所の変異を同時に検出するものであってもよいし、どちらか一方の変異のみ検出するものであっても良い。
【0045】
以下、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントに生じた変異を検出する工程を含む検査方法の好ましい態様を記載するが、本発明の方法はそれらの方法に限定されるものではない。
【0046】
上記検査方法の好ましい態様においては、まず、被検者からDNA試料を調製する。DNA試料は、例えば被検者の血液、皮膚、口腔粘膜、毛髪、手術やバイオプシー等により採取あるいは切除した組織または細胞から抽出した。染色体DNA、あるいはRNAを基に調製することができる。
【0047】
本方法においては、次いで、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAを単離する。該DNAの単離は、例えば、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAにハイブリダイズするプライマーを用いて、染色体DNA、あるいはRNA由来cDNAを鋳型としたPCR等によって行うことができる。
【0048】
本方法においては、次いで、単離したDNAの塩基配列を決定する。
【0049】
本方法においては、次いで、決定したDNAの塩基配列を対照と比較する。本発明において、対照とは、正常な(より高頻度な、あるいは、野生型の)GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAを言う。一般に健常人のGSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAの配列は正常であるものと考えられることから、上記「対照と比較する」とは、通常、健常人のGSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAの配列と比較することを意味する。
【0050】
本発明における変異の検出は、以下のような方法によっても行うことができる。まず、被検者からDNA試料を調製する。次いで、調製したDNA試料を制限酵素により切断する。次いで、DNA断片をその大きさに応じて分離する。次いで、検出されたDNA断片の大きさを、対照と比較する。また、他の一つの態様においては、まず、被検者からDNA試料を調製する。次いで、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAを増幅する。さらに、増幅したDNAを制限酵素により切断する。次いで、DNA断片をその大きさに応じて分離する。次いで、検出されたDNA断片の大きさを、対照 と比較する。
【0051】
このような方法としては、例えば、制限酵素断片長変異(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR-RFLP法等が挙げられる。具体的には、制限酵素の認識部位に変異が存在する場合、あるいは制限酵素処理によって生じるDNA断片内に塩基挿入または欠失がある場合、制限酵素処理後に生じる断片の大きさが対照と比較して変化する。この変異を含 む部分をPCR法によって増幅し、それぞれの制限酵素で処理することによって、これらの変異を電気泳動後のバンドの移動度の差として検出することができる。あるいは、染色体DNAをこれらの制限酵素によって処理し、電気泳動した後、本発明のプローブDNAを用いてサザンブロッティングを行うことにより、変異の有無を検出することができる。用いられる制限酵素は、それぞれの変異に応じて適宜選択することができる。この方法では、ゲノムDNA以外にも被検者から調製したRNAを逆転写酵素でcDNAにし、これをそのまま制限酵素で切断した後、サザンブロッティングを行うことも可能である。また、このcDNAを鋳型としてPCRでGSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAを増幅し、それを制限酵素で切断した後、移動度の差を調べることも可能である。
【0052】
さらに別の方法においては、まず、被検者からDNA試料を調製する。次いで、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアント遺伝子領域を含むDNAを増幅する。さらに、増幅したDNAを一本鎖DNAに解離させる。次いで、解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離する。分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度を対照と比較する。
【0053】
該方法としては、例えばPCR-SSCP(single-strand conformation polymorphism、一本鎖高次構造変異)法(Cloning and polymerase chain reaction-single-strand conformation polymorphism analysis of anonymous Alu repeats on chromosome 11. Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139-146.、Detection of p53 gene mutations in human brain tumors by single-strand conformation polymorphism analysis of polymerase chain reaction products. Oncogene. 1991 Aug 1; 6(8): 1313-1318.、Multiple fluorescence-based PCR-SSCP analysis with postlabeling. 、PCR Methods Appl. 1995 Apr 1; 4(5): 275-282.)が挙げられる。この方法は操作が比較的簡便であり、また被検試料の量も少なくて済む等の利点を有するため、特に多数のDNA試料をスクリーニングするのに好適である。その原理は次の通りである。二本鎖DNA断片を一本鎖に解離すると、各鎖はその塩基配列に依存した独自の高次構造を形成する。この解離したDNA鎖を、変性剤を含まないポリアクリルアミドゲル中で電気泳動すると、それぞれの高次構造の差に応じて、相補的な同じ鎖長の一本鎖DNAが異なる位置に移動する。一塩基の置換によってもこの一本鎖DNAの高次構造は変化し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動において異なる移動度を示す。従って、この移動度の変化を検出することによりDNA断片に点突然変異や欠失、あるいは挿入等による変異の存在を検出することができる。
【0054】
具体的には、まず、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAをPCR法等によって増幅する。増幅される範囲としては、通常200〜400bp程度の長さが好ましい。PCRは、当業者においては反応条件等を適宜選択して行うことができる。PCRの際に、32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識したプライマーを用いることにより、増幅DNA産物を標識することができる。あるいはPCR反応液に32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を加えてPCRを行うことにより、増幅DNA産物を標識することも可能である。さらに、PCR反応後にクレノウ酵素等を用いて、32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を、増幅DNA断片に付加することによっても標識を行うことができる。こうして得られた標識DNA断片を、熱を加えること等により変性させ、尿素などの変性剤を含まないポリアクリルアミドゲルによって電気泳動を行う。この際、ポリアクリルアミドゲルに適量(5から10%程度)のグリセロールを添加することにより、DNA断片の分離の条件を改善することができる。また、泳動条件は各DNA断片の性質により変動するが、通常、室温(20から25℃)で行い、好ましい分離が得られないときには4から30℃までの温度で最適の移動度を与える温度の検討を行う。電気泳動後、DNA断片の移動度を、X線フィルムを用いたオートラジオグラフィーや、蛍光を検出するスキャナー等で検出し、解析を行う。移動度に差があるバンドが検出された場合、このバンドを直接ゲルから切り出し、PCRによって再度増幅し、それを直接シークエンシングすることにより、変異の存在を確認することができる。また、標識したDNAを使わない場合においても、電気泳動後のゲルをエチジウムブロマイドや銀染色法などによって染色することによって、バンドを検出することができる。
【0055】
さらに別の方法においては、まず、被検者からDNA試料を調製する。次いで、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAを増幅する。さらに、増幅したDNAを、DNA変性剤の濃度が次第に高まるゲル上で分離する。次いで、分離したDNAのゲル上での移動度を対照と比較する。
【0056】
このような方法としては、例えば、変性剤濃度勾配ゲル(denaturant gradient gel electrophoresis: DGGE法)等を例示することができる。DGGE法は、変性剤の濃度勾配のあるポリアクリルアミドゲル中で、DNA断片の混合物を泳動し、それぞれの不安定性の違いによってDNA断片を分離する方法である。ミスマッチのある不安定なDNA断片が、ゲル中のある変性剤濃度の部分まで移動すると、ミスマッチ周辺のDNA配列はその不安定さのために、部分的に1本鎖へと解離する。この部分的に解離したDNA断片の移動度は、非常に遅くなり、解離部分のない完全な二本鎖DNAの移動度と差がつくことから、両者を分離することができる。具体的には、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAを本発明のプライマー等を用いたPCR法等によって増幅し、これを尿素などの変性剤の濃度が移動するに従って徐々に高くなっているポリアクリルアミドゲル中で電気泳動し、対照と比較する。変異が存在するDNA断片の場合、より低い変性剤濃度位置でDNA断片が一本鎖になり、極端に移動速度が遅くなるため、この移動度の差を検出することにより変異の有無を検出することができる。
【0057】
さらに別の方法においては、まず、被検者から調製したGSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNA、および、該DNAにハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された基板、を提供する。
【0058】
本発明において「基板」とは、ヌクレオチドプローブを固定することが可能な板状の材料を意味する。本発明においてヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが含まれる。本発明の基板は、ヌクレオチドプローブを固定することができれば特に制限はないが、一般にDNAアレイ技術で使用される基板を好適に用いることができる。一般にDNAアレイは、高密度に基板にプリントされた何千ものヌクレオチドで構成されている。通常これらのDNAは非透過性(non- porous)の基板の表層にプリントされる。基板の表層は、一般的にはガラスであるが、透過性(porous)の膜、例えばニトロセルロースメンブレムを使用することができる。
【0059】
本発明において、ヌクレオチドの固定(アレイ)方法として、Affymetrix社開発によるオリゴヌクレオチドを基本としたアレイが例示できる。オリゴヌクレオチドのアレイにおいて、オリゴヌクレオチドは通常インサイチュ(in situ)で合成される。例えば、photolithographicの技術(Affymetrix社)、および化学物質を固定させるためのインクジェット(Rosetta Inpharmatics社)技術等によるオリゴヌクレオチドのインサイチュ合成法が既に知られており、いずれの技術も本発明の基板の作製に利用することができる。
【0060】
基板に固定するヌクレオチドプローブは、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域の変異を検出することができるものであれば、特に制限されない。即ち該プローブは、例えば、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAにハイブリダイズするようなプローブである。特異的なハイブリダイズが可能であれば、ヌクレオチドプローブは、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAに対し、完全に相補的である必要はない。本発明において基板に結合させるヌクレオチドプローブの長さは、オリゴヌクレオチドを固定する場合は、通常10〜100ベースであり、好ましくは10〜50ベースであり、さらに好ましくは15〜25ベースである。
【0061】
本方法においては、次いで、該DNAと該基板を接触させる。この過程により、上記ヌクレオチドプローブに対し、DNAをハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションの反応液および反応条件は、基板に固定するヌクレオチドプローブの長さ等の諸要因により変動しうるが、一般的に当業者に周知の方法により行うことができる。
【0062】
本方法においては、次いで、該DNAと該基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの強度を検出する。この検出は、例えば、蛍光シグナルをスキャナー等によって読み取ることによって行うことができる。尚、DNAアレイにおいては、一般的にスライドガラスに固定したDNAをプローブといい、一方溶液中のラベルしたDNAをターゲットという。従って、基板に固定された上記ヌクレオチドを、本明細書においてヌクレオチドプローブと記載する。本方法においては、さらに、検出したハイブリダイズの強度を対照と比較する。
【0063】
このような方法としては、例えば、DNAアレイ法等が挙げられる。
【0064】
上記の方法以外にも、特定位置の変異のみを検出する目的にはアレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法が利用できる。変異が存在すると考えられる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドを作製し、これとDNAでハイブリダイゼーションを行わせると、変異が存在する場合、ハイブリッド形成の効率が低下する。それをサザンブロット法や、特殊な蛍光 試薬がハイブリッドのギャップにインターカレーションすることにより消光する性質を利用した方法等により検出することができる。
【0065】
また、本発明においては、TaqMan PCR法、Acyclo Prime法、およびMALDI-TOF/MS法等も使用することができる。またPCRに依存しない塩基種の決定法としてInvader法やRCA法も使用することができる。以下にこれらの方法について簡単に述べる。ここに述べた方法は、いずれも本発明における変異部位の塩基種の決定に応用できる。
【0066】
[TaqMan PCR法]
TaqMan PCR法の原理は次のとおりである。TaqMan PCR法は、アレルを含む領域を増幅することができるプライマーセットと、TaqManプローブを利用した解析方法である。TaqManプローブは、このプライマーセットによって増幅されるアレルを含む領域にハイブリダイズするように設計される。
【0067】
TaqManプローブのTmに近い条件で標的塩基配列にハイブリダイズさせれば、1塩基の相違によってTaqManプローブのハイブリダイズ効率は著しく低下する。TaqManプローブの存在下でPCR法を行うと、プライマーからの伸長反応は、いずれハイブリダイズしたTaqManプローブに到達する。このときDNAポリメラーゼの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性によって、TaqManプローブはその5'末端から分解される。TaqManプローブをレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、TaqManプローブの分解を、蛍光シグナルの変化として追跡することができる。つまり、TaqManプローブの分解が起きれば、レポーター色素が遊離してクエンチャーとの距離が離れることによって蛍光シグナルが生成する。1塩基の相違のためにTaqManプローブのハイブリダイズが低下すればTaqManプローブの分解が進まず蛍光シグナルは生成されない。
【0068】
変異に対応するTaqManプローブをデザインし、更に各プローブの分解によって異なるシグナルが生成されるようにすれば、同時に塩基種の判定を行うこともできる。例えば、レポーター色素として、あるアレルのアレルAのTaqManプローブに6-carboxy-fluorescein(FAM)を、アレルBのプローブにVICを用いる。プローブが分解されない状態では、クエンチャーによってレポーター色素の蛍光シグナル生成は抑制されている。各プローブが対応するアレルにハイブリダイズすれば、ハイブリダイズに応じた蛍光シグナルが観察される。すなわち、FAMまたはVICのいずれかのシグナルが他方よりも強い場合には、アレルAまたはアレルBのホモであることが判明する。他方、アレルをヘテロで有する場合には、両者のシグナルがほぼ同じレベルで検出されることになる。TaqMan PCR法の利用によって、ゲル上での分離のような時間のかかる工程無しで、ゲノムを解析対象としてPCRと塩基種の決定を同時に行うことができる。そのため、TaqMan PCR法は、多くの被検者についての塩基種を決定できる方法として有用である。
【0069】
[Acyclo Prime法]
PCR法を利用した塩基種を決定する方法として、Acyclo Prime法も実用化されている。Acyclo Prime法では、ゲノム増幅用のプライマー1組と、SNPs検出用の1つのプライマーを用いる。まず、ゲノムの変異部位を含む領域をPCRで増幅する。この工程は、通常のゲノムPCRと同じである。次に、得られたPCR産物に対して、SNPs検出用のプライマーをアニールさせ、伸長反応を行う。SNPs検出用のプライマーは、検出対象となっている変異部位に隣接する領域にアニールするようにデザインされている。
【0070】
このとき、伸長反応のためのヌクレオチド基質として、蛍光偏光色素でラベルし、かつ3'-OHをブロックしたヌクレオチド誘導体(ターミネータ)を用いる。その結果、変異部位に相当する位置の塩基に相補的な塩基が1塩基だけ取りこまれて伸長反応が停止する。ヌクレオチド誘導体のプライマーへの取りこみは、分子量の増大による蛍光偏光(Fluorescence polarization;FP)の増加によって検出することができる。蛍光偏光色素に波長の異なる2種類のラベルを用いれば、特定のSNPsが2種類の塩基のうちのいずれであるのかを特定することができる。蛍光偏光のレベルは定量することができるので、1度の解析でアレルがホモかヘテロかを判定することもできる。
【0071】
[MALDI-TOF/MS法]
PCR産物をMALDI-TOF/MSで解析することによって塩基種の決定を行うこともできる。MALDI-TOF/MSは、分子量をきわめて正確に知ることができるため、タンパク質のアミノ酸配列や、DNAの塩基配列のわずかな相違を明瞭に識別することができる解析手法として様々な分野で利用されている。MALDI-TOF/MSによる塩基種の決定のためには、まず解析対象であるアレルを含む領域をPCRで増幅する。次いで増幅産物を単離してMALDI-TOF/MSによってその分子量を測定する。アレルの塩基配列は予めわかっているので、分子量に基づいて増幅産物の塩基配列は一義的に決定される。
【0072】
MALDI-TOF/MSを利用した塩基種の決定には、PCR産物の分離工程などが必要となる。しかし標識プライマーや標識プローブを使わないで、正確な塩基種の決定が期待できる。また複数の場所の変異の同時検出にも応用することができる。
[IIs型制限酵素を利用したSNPs特異的な標識方法]
【0073】
PCR法を利用した更に高速な塩基種の決定が可能な方法も報告されている。例えば、IIs型制限酵素を利用して変異部位の塩基種の決定が行われている。この方法においては、PCRにあたり、IIs型制限酵素の認識配列を有するプライマーが用いられる。遺伝子組み換えに利用される一般的な制限酵素(II型)は、特定の塩基配列を認識して、その塩基配列中の特定部位を切断する。これに対してIIs型の制限酵素は、特定の塩基配列を認識して、認識塩基配列から離れた部位を切断する。酵素によって、認識配列と切断個所の間の塩基数は決まっている。従って、この塩基数の分だけ離れた位置にIIs型制限酵素の認識配列を含むプライマーがアニールするようにすれば、IIs型制限酵素によってちょうど変異部位で増幅産物を切断することができる。
【0074】
IIs型制限酵素で切断された増幅産物の末端には、SNPsの塩基を含む付着末端(conhesive end)が形成される。ここで、増幅産物の付着末端に対応する塩基配列からなるアダプターをライゲーションする。アダプターは、変異変異に対応する塩基を含む異なる塩基配列からなり、それぞれ異なる蛍光色素で標識しておくことができる。最終的に、増幅産物は変異部位の塩基に対応する蛍光色素で標識される。
【0075】
前記IIs型制限酵素認識配列を含むプライマーに、捕捉プライマー(capture primer)を組み合せてPCR法を行えば、増幅産物は蛍光標識されるとともに、捕捉プライマーを利用して固相化することができる。例えばビオチン標識プライマーを捕捉プライマーとして用いれば、増幅産物はアビジン結合ビーズに捕捉することができる。こうして捕捉された増幅産物の蛍光色素を追跡することにより、塩基種を決定することができる。
【0076】
[磁気蛍光ビーズを使った変異部位における塩基種の決定]
複数のアレルを単一の反応系で並行して解析することができる技術も公知である。複数のアレルを並行して解析することは、多重化と呼ばれている。一般に蛍光シグナルを利用したタイピング方法では、多重化のために異なる蛍光波長を有する蛍光成分が必要である。しかし実際の解析に利用することができる蛍光成分は、それほど多くない。これに対して、樹脂等に複数種の蛍光成分を混合した場合には、限られた種類の蛍光成分であっても、相互に識別可能な多様な蛍光シグナルを得ることができる。更に、樹脂中に磁気で吸着される成分を加えれば蛍光を発するとともに、磁気によって分離可能なビーズとすることができる。このような磁気蛍光ビーズを利用した、多重化変異タイピングが考え出された(バイオサイエンスとバイオインダストリー, Vol.60 No.12, 821-824)。
【0077】
磁気蛍光ビーズを利用した多重化変異タイピングにおいては、各アレルの変異部位に相補的な塩基を末端に有するプローブが磁気蛍光ビーズに固定化される。各アレルにそれぞれ固有の蛍光シグナルを有する磁気蛍光ビーズが対応するように、両者は組み合せられる。一方、磁気蛍光ビーズに固定されたプローブが相補配列にハイブリダイズしたときに、当該アレル上で隣接する領域に相補的な塩基配列を有する蛍光標識オリゴDNAを調製する。
【0078】
アレルを含む領域を非対称PCRによって増幅し、上記の磁気蛍光ビーズ固定化プローブと蛍光標識オリゴDNAをハイブリダイズさせ、更に両者をライゲーションする。磁気蛍光ビーズ固定化プローブの末端が、変異部位の塩基に相補的な塩基配列であった場合には効率的にライゲーションされる。逆にもしも変異のために末端の塩基が異なれば、両者のライゲーション効率は低下する。その結果、各磁気蛍光ビーズには、試料が当該磁気蛍光ビーズに相補的な塩基種であった場合に限り、蛍光標識オリゴDNAが結合する。
【0079】
磁気によって磁気蛍光ビーズを回収し、更に各磁気蛍光ビーズ上の蛍光標識オリゴDNAの存在を検出することにより、塩基種が決定される。磁気蛍光ビーズは、フローサイトメーターでビーズ毎に蛍光シグナルを解析できるので、多種類の磁気蛍光ビーズが混合されていてもシグナルの分離は容易である。つまり、多種類の変異部位について、単一の反応容器で並行して解析する「多重化」が達成される。
【0080】
[Invader法]
PCR法に依存しないジェノタイピングのための方法も実用化されている。例えば、Invader法では、アレルプローブ、インベーダープローブ、およびFRETプローブの3種類のオリゴヌクレオチドと、cleavaseと呼ばれる特殊なヌクレアーゼのみで、塩基種の決定を実現している。これらのプローブのうち標識が必要なのはFRETプローブのみである。
【0081】
アレルプローブは、検出すべきアレルに隣接する領域にハイブリダイズするようにデザインされる。アレルプローブの5'側には、ハイブリダイズに無関係な塩基配列からなるフラップが連結されている。アレルプローブは変異部位の3'側にハイブリダイズし、変異部位の上でフラップに連結する構造を有する。
【0082】
一方インベーダープローブは、変異部位の5'側にハイブリダイズする塩基配列からなっている。インベーダープローブの塩基配列は、ハイブリダイズによって3'末端が変異部位に相当するようにデザインされている。インベーダープローブにおける変異部位に相当する位置の塩基は任意で良い。つまり、変異部位を挟んでインベーダープローブとアレルプローブとが隣接してハイブリダイズするように両者の塩基配列はデザインされている。
【0083】
変異部位がアレルプローブの塩基配列に相補的な塩基であった場合には、インベーダープローブとアレルプローブの両者がアレルにハイブリダイズすると、アレルプローブの変異部位に相当する塩基にインベーダープローブが侵入(invasion)した構造が形成される。cleavaseは、このようにして形成された侵入構造を形成したオリゴヌクレオチドのうち、侵入された側の鎖を切断する。切断は侵入構造の上で起きるので、結果としてアレルプローブのフラップが切り離されることになる。一方、もしも変異部位の塩基がアレルプローブの塩基に相補的でなかった場合には、変異部位におけるインベーダープローブとアレルプローブの競合は無く、侵入構造は形成されない。したがってcleavaseによるフラップの切断が起こらない。
【0084】
FRETプローブは、こうして切り離されたフラップを検出するためのプローブである。FRETプローブは5'末端側に自己相補配列を有し、3'末端側に1本鎖部分が配置されたヘアピンループを構成している。FRETプローブの3'末端側に配置された1本鎖部分は、フラップに相補的な塩基配列からなっていて、ここにフラップがハイブリダイズすることができる。フラップがFRETプローブにハイブリダイズすると、FRETプローブの自己相補配列の5'末端部分にフラップの3'末端が侵入した構造が形成されるように両者の塩基配列がデザインされている。cleavaseは侵入構造を認識して切断する。FRETプローブのcleavaseによって切断される部分を挟んで、TaqMan PCRと同様のレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、FRETプローブの切断を蛍光シグナルの変化として検知することができる。
【0085】
なお、理論的には、フラップは切断されない状態でもFRETプローブにハイブリダイズするはずである。しかし実際には、切断されたフラップとアレルプローブの状態で存在しているフラップとでは、FRETに対する結合効率に大きな差が有る。そのため、FRETプローブを利用して、切断されたフラップを特異的に検出することは可能である。
【0086】
Invader法に基づいて塩基種を決定するためには、アレルAとアレルBのそれぞれに相補的な塩基配列を含む、2種類のアレルプローブを用意すれば良い。このとき両者のフラップの塩基配列は異なる塩基配列とする。フラップを検出するためのFRETプローブも2種類を用意し、それぞれのレポーター色素を識別可能なものとしておけば、TacMan PCR法と同様の考え方によって、塩基種を決定することができる。
【0087】
Invader法の利点は、標識の必要なオリゴヌクレオチドがFRETプローブのみであることである。FRETプローブは検出対象の塩基配列とは無関係に、同一のオリゴヌクレオチドを利用することができる。従って、大量生産が可能である。一方アレルプローブとインベーダープローブは標識する必要が無いので、結局、ジェノタイピングのための試薬を安価に製造することができる。
【0088】
[RCA法]
PCR法に依存しない塩基種の決定方法として、RCA法を挙げることができる。鎖置換作用を有するDNAポリメラーゼが、環状の1本鎖DNAを鋳型として、長い相補鎖を合成する反応に基づくDNAの増幅方法が、Rolling Circle Amplification(RCA)法である(Lizardri PM et al.,Nature Genetics 19, 225, 1998)。RCA法においては、環状DNAにアニールして相補鎖合成を開始するプライマーと、このプライマーによって生成する長い相補鎖にアニールする第2のプライマーを利用して、増幅反応を構成している。
【0089】
RCA法には、鎖置換作用を有するDNAポリメラーゼが利用されている。そのため、相補鎖合成によって2本鎖となった部分は、より5'側にアニールした別のプライマーから開始した相補鎖合成反応によって置換される。例えば、環状DNAを鋳型とする相補鎖合成反応は、1周分では終了しない。先に合成した相補鎖を置換しながら相補鎖合成は継続し、長い1本鎖DNAが生成される。一方、環状DNAを鋳型として生成した長い1本鎖DNAには、第2のプライマーがアニールして相補鎖合成が開始する。RCA法において生成される1本鎖DNAは、環状のDNAを鋳型としていることから、その塩基配列は同じ塩基配列の繰り返しである。従って、長い1本鎖の連続的な生成は、第2のプライマーの連続的なアニールをもたらす。その結果、変性工程を経ることなく、プライマーがアニールすることができる1本鎖部分が連続的に生成される。こうして、DNAの増幅が達成される。
【0090】
RCA法に必要な環状1本鎖DNAが変異部位の塩基種に応じて生成されれば、RCA法を利用して塩基種の決定をすることができる。そのために、直鎖状で1本鎖のパドロックプローブが利用される。パドロックプローブは、5'末端と3'末端に検出すべき変異部位の両側に相補的な塩基配列を有している。これらの塩基配列は、バックボーンと呼ばれる特殊な塩基配列からなる部分で連結されている。変異部位がパドロックプローブの末端に相補的な塩基配列であれば、アレルにハイブリダイズしたパドロックプローブの末端をDNAリガーゼによってライゲーションすることができる。その結果、直鎖状のパドロックプローブが環状化され、RCA法の反応がトリガーされる。DNAリガーゼの反応は、ライゲーションすべき末端部分が完全に相補的でない場合には反応効率が著しく低下する。従って、ライゲーションの有無をRCA法で確認することによって、変異部位の塩基種の決定が可能である。
【0091】
RCA法は、DNAを増幅することはできるが、そのままではシグナルを生成しない。また増幅の有無のみを指標とするのでは、アレル毎に反応を行わなければ、通常、塩基種を決定することができない。これらの点を塩基種の決定のために改良した方法が公知である。例えば、モレキュラービーコンを利用して、RCA法に基づいて1チューブで延期種の決定を行うことができる。モレキュラービーコンは、TaqMan法と同様に、蛍光色素とクエンチャーを利用したシグナル生成用プローブである。モレキュラービーコンの5'末端と3'末端は相補的な塩基配列で構成されており、単独ではヘアピン構造を形成する。両端付近を蛍光色素とクエンチャーで標識しておけば、ヘアピン構造を形成している状態では蛍光シグナルが検出できない。モレキュラービーコンの一部を、RCA法の増幅産物に相補的な塩基配列としておけば、モレキュラービーコンはRCA法の増幅産物にハイブリダイズする。ハイブリダイズによってヘアピン構造が解消されるため、蛍光シグナルが生成される。
【0092】
モレキュラービーコンの利点は、パドロックプローブのバックボーン部分の塩基配列を利用することによって、検出対象とは無関係にモレキュラービーコンの塩基配列を共通にできる点である。アレル毎にバックボーンの塩基配列を変え、蛍光波長が異なる2種類のモレキュラービーコンを組み合せれば、1チューブで塩基種の決定が可能である。蛍光標識プローブの合成コストは高いので、測定対象に関わらず共通のプローブを利用できることは、経済的なメリットである。
【0093】
これらの方法はいずれも多量のサンプルを高速にジェノタイピングするために開発された方法である。MALDI-TOF/MSを除けば、通常、いずれの方法にも何らかの形で標識プローブなどを用意する必要がある。これに対して、標識プローブなどに頼らない塩基種決定法も古くから行われている。このような方法の一つとして、例えば、制限酵素断片長変異(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR-RFLP法等が挙げられる。
【0094】
さらに、本発明は以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質またはその断片に結合する抗体に関する。
(a)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAよりコードされるタンパク質
(b)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
【0095】
本発明の抗体は上記の(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質を認識する限り特に限定されないが、特異的に(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質を認識する抗体であることが好ましい。
【0096】
該タンパク質の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。本発明の該タンパク質を認識する抗体は、既に公知の抗体を用いることが可能であり、又、該タンパク質を抗原とし、当業者に公知の方法により抗体を作製して用いることも可能である。
【0097】
具体的には、例えば、以下のようにして作製することができる。
該タンパク質、あるいはGSTとの融合タンパク質として大腸菌等の微生物において発現させたリコンビナントタンパク質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、該該タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、該該タンパク質またはその部分ペプチドをマウス等の小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、該該タンパク質に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、該該タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0098】
また、ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして取得することができる。該タンパク質若しくはその断片を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングする。抗原の調製は公知の方法、例えばバキュロウイルスを用いた方法(WO98/46777など)等に準じて行うことができる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46)等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行えばよい。その後、ハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成し、得られたcDNAの配列を公知の方法により解読すればよい。
【0099】
該タンパク質を認識する抗体は、該タンパク質と結合する限り特に制限はなく、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体、ヒト抗体等を適宜用いることができる。又、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体なども使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体等であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
【0100】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
【0101】
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(国際特許出願公開番号WO 93/12227, WO 92/03918,WO 94/02602, WO 94/25585,WO 96/34096, WO 96/33735参照)。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を有する適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO 92/01047, WO 92/20791, WO 93/06213, WO 93/11236, WO 93/19172, WO 95/01438, WO 95/15388を参考にすることができる。
【0102】
本発明において、該タンパク質を認識する抗体の具体的な例としてGSDMBタンパク質の67番目から18アミノ酸 :DKWLDELDSGLQGQKAEF(配列番号:77)に相当する領域のペプチドを合成し、ニワトリに免疫することにより作製した抗体が挙げられる。
【0103】
本発明に使用する抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)、放射性物質、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される。
【0104】
本発明において好ましい抗体として、低分子化抗体を挙げることができる。低分子化抗体とは、全長抗体(whole antibody、例えばwhole IgG等)の一部分が欠損している抗体断片を含み、抗原への結合能を有していれば特に限定されない。本発明の抗体断片は、全長抗体の一部分であれば特に限定されないが、重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)を含んでいることが好ましく、特に好ましいのはVHとVLの両方を含む断片である。抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv(シングルチェインFv)、などを挙げることができるが、好ましくはscFv (Huston, J. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883、 Plickthun「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies」Vol.113, Resenburg 及び Moore編, Springer Verlag, New York, pp.269-315, (1994))である。このような抗体断片を得るには、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンなどで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい(例えば、Co, M. S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976 ; Better, M. and Horwitz, A. H., Methods Enzymol. (1989) 178, 476-496 ; Pluckthun, A. and Skerra, A., Methods Enzymol. (1989) 178, 497-515 ; Lamoyi, E., Methods Enzymol. (1986) 121, 652-663 ; Rousseaux, J. et al., Methods Enzymol. (1986) 121, 663-669 ; Bird, R. E. and Walker, B. W., Trends Biotechnol. (1991) 9, 132-137参照)。
【0105】
本発明の抗体は、癌の検査薬として使用することが可能である。上記の検査薬においては、有効成分である抗体以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、タンパク質安定剤(BSAやゼラチンなど)、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい
【0106】
また、本発明の抗体は、癌の検査薬としてだけでなく、癌の治療薬としても使用することが可能である。該抗体は、患者自身の免疫反応を利用して癌細胞を攻撃することにより抗癌薬として機能することができる。該抗体は、癌細胞特異的に発現するGSDMB蛋白質に結合する抗体であり、抗体がGSDMB蛋白質に結合することで、抗原抗体反応によるシグナル伝達が起こり患者体内の免疫細胞を活性化し、免疫細胞による癌細胞への攻撃を誘発して癌の増大を抑えることができる。
【0107】
本発明の抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)、放射性物質、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される。
【0108】
該抗体は、癌に特異的に発現するGSDMB蛋白質を標的とするため、癌に特化して治療すことが出来、正常細胞に作用しないため、副作用が極めて少ないことが可能である。更にGSDMBは、全ての癌に共通して発現するので、幅広い癌への適用が可能である。また、該抗体(抗癌薬)は、治療前に患者の癌細胞のGSDMB発現程度を調べることによって抗体薬の有効性の推測が可能である。よって個々の患者の病態にあわせた治療を行うことが可能となる。
【0109】
本発明の抗体を有効成分とする治療薬には、医薬上許容しうる添加剤を添加してもよい。ここで医薬上許容される添加剤とは、それ自体は抗体とは異なる物質であって、抗体投与において抗体とともに投与可能な医薬上許容される材料を意味する。例えば、保存剤、安定剤等のワクチン添加物が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0110】
安定剤としては、0.2%程度のゲラチンやデキストラン、0.1-1.0%のグルタミン酸ナトリウム、あるいは約5%の乳糖や約2%のソルビトールなどを使用することが出来るが、これらに限定されるものではない。保存剤としては、0.01%程度のチメロサール、0.1%程度のベータプロピオノラクトンや、0.5%程度のフェノキシエタノールなどを使用することが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0111】
注射剤を調製する場合、必要により、pH 調製剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤等を添加し、常法により、皮下、筋肉内、静脈内注射剤とする。注射剤は、溶液を容器に収納後、凍結乾燥等によって、固形 製剤として、用時調製の製剤としてもよい。また、一投与量を容器に収納してもよく、また、投与量を同一の容器に収納してもよい。
【0112】
本発明の抗体の接種法としては、公知の種々の方法が使用できる。接種法としては皮下注射、筋肉内注射、経鼻接種、経口接種、経皮接種等が好ましく、筋肉注射がより好ましいがこれらに限定されるものではない。
【0113】
どの接種方法が適切かは抗体の種類、剤型、接種対象者の年齢、等を考慮して決定される。また、接種を行う対象としてはヒト以外に、家畜、野外動物、鳥類もあげることができる。接種方法は専門家による臨床試験を通じて最終決定され、これらの方法は同業者にとって公知である。一回接種用製品でも複数回接種用製品でも良い。投与量は、患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
【0114】
さらに本発明は、以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドに関する。
(a)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAであって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
【0115】
ここで、オリゴヌクレオチドには、ポリヌクレオチドが含まれる。本発明のオリゴヌクレオチドは、本発明のタンパク質をコードするDNAの検出や増幅に用いるプローブやプライマー、該DNAの発現を検出するためのプローブやプライマー、本発明のタンパク質の発現を制御するためのヌクレオチド又はヌクレオチド誘導体(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドやリボザイム、またはこれらをコードするDNA等)として使用することができる。また、本発明のオリゴヌクレオチドは、DNAアレイの基板の形態で使用することができる。
【0116】
該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bp であり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、本発明のDNAまたはその相補鎖の少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。また、プライマーとして用いる場合、3'側の領域は相補的とし、5'側には制限酵素認識配列やタグなどを付加することができる。
【0117】
また、上記オリゴヌクレオチドをプローブとして使用する場合、該プローブは、本発明のDNAまたはその相補鎖の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするものであれば、特に制限されない。該プローブは、合成オリゴヌクレオチドであってもよく、通常少なくとも15bp以上の鎖長を有する。
【0118】
本発明のオリゴヌクレオチドをプローブとして用いる場合は、適宜標識して用いることが好ましい。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、オリゴヌクレオチドの5'端を32Pでリン酸化することにより標識する方法、およびクレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーオリゴヌクレオチド等をプライマーとして32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)を例示することができる。
【0119】
本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。プローブは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。
【0120】
本発明のオリゴヌクレオチドは癌の検査薬として用いることも可能である。該検査薬においては、有効成分であるオリゴヌクレオチド以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、タンパク質安定剤(BSAやゼラチンなど)、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
【0121】
本発明は、GSDMBのプロモーターDNA(実施例4に記載のプロモーターB)を提供する。該プロモーターDNAとしては、配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNAが例示できる。配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNAとしては、配列番号:69に記載の塩基配列からなるDNA、配列番号:69に記載の塩基配列からなるDNAの上流域や下流域を含むDNAなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0122】
また、本発明におけるプロモーターDNAとしては、配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNAと構造的に類似しており、かつ、配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNAと同等あるいは改善されたプロモーター活性能を持つDNAも挙げられる。このようなDNAとしては、例えば、配列番号:69に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNAが例示できる。該DNAは、ハイブリダイゼーション技術やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術、site-directed mutagenesis法等の方法により調製することが可能である。ハイブリダイゼーションの条件については上記と同様である。
【0123】
調製されたDNAがプロモーター活性を有するか否かは、当業者においてはレポーター遺伝子を用いたレポーターアッセイ等により検討することが可能である。該レポーター遺伝子としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)およびGFP遺伝子等を挙げることができる。レポーター遺伝子の発現レベルは、該レポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、また、β-クロニダーゼ遺伝子(GUS)である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用によるGlucuron(ICN社)の発光や5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-グルクロニド(X-Gluc)の発色を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
【0124】
配列番号:69に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNAには、配列番号:69に記載の塩基配列からなるDNAより短いDNAであって、プロモーター活性に必須な領域からなるDNAも含まれる。このようなDNAは、当業者に周知の方法で同定・単離することができる。
【0125】
また、本発明は、本発明のプロモーターDNAと癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNAを提供する。このようなDNAは、抗癌剤として癌の治療に使用できる有用なDNAである。
【0126】
本発明において、「機能的に結合した」とは、本発明のプロモーターDNAに転写因子が結合することにより、癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAの発現が誘導されるように、本発明のプロモーターDNAと癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAとが結合していることをいう。従って、癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAが他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、本発明のプロモーターDNAに転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。
【0127】
本発明における癌において抑制的に作用するタンパク質としては、癌抑制タンパク質、細胞障害性タンパク質などが例示できるが、これらに限定されるものではない。直接的または間接的に細胞に障害を与え、致死的影響を及ぼすタンパク質であれば、本発明における細胞障害性タンパク質に含まれる。このようなタンパク質としては、ジフテリア毒素、HSV由来チミジンキナーゼなどが例示できる。また、癌抑制タンパク質としては特に限定されず、p53 (Tp53)やRB-1 (Retinoblastoma-1)などが例示できる。
【0128】
本発明のプロモーターDNAは、例えばPCRにて増幅することで得ることができる。得られたプロモーターDNAの3’側に、当業者に周知の方法で、癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAを連結することにより、本発明のプロモーターDNAと癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNAを構築することができる。また、構築されたDNAを、適当なベクターに組み込み、大腸菌等の宿主細胞で増幅することが可能である。
【0129】
ヒトを含む動物の生体内において、本発明のプロモーターDNAと癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNAを発現させる方法としては、該DNAを適当なベクターに組み込み、例えば、レトロウイルス法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、アデノウイルス法などにより生体内に導入する方法などが挙げられる。これにより、癌の遺伝子治療を行うことが可能である。用いられるベクターとしては、例えば、アデノウイルスベクター(例えばpAdexlcw)やレトロウイルスベクター(例えばpZIPneo)などが挙げられるが、これらに制限されない。ベクターへの本発明のDNAの挿入などの一般的な遺伝子操作は、常法に従って行うことが可能である(Molecular Cloning, 5.61-5.63)。生体内への投与は、ex vivo法であっても、in vivo法であってもよい。
【0130】
本発明は、GSDMBスプライシングバリアント、GSDMB変異体、およびGSDMBスプライシングバリアント変異体のDNAに関する。
【0131】
GSDMBスプライシングバリアント、GSDMB変異体、およびGSDMBスプライシングバリアント変異体のDNAとしては、配列番号:3〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNA、および配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
【0132】
本発明は、配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを包含する。このようなDNAには、例えば、該タンパク質の変異体、アレル、バリアント、ホモログ等をコードするDNAが含まれる。「機能的に同等」という記載に関する説明は上記のものと同等のものである。
【0133】
あるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製するための、当業者によく知られた方法としては、タンパク質に変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer, W. et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Proc Natl Acad Sci USA. 82, 488-492、Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763-2766)などを用いて、該タンパク質のアミノ酸に適宜変異を導入することにより、該タンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製することができる。
【0134】
また、アミノ酸の変異は自然界においても生じうる。このように、該タンパク質のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなり、該タンパク質と機能的に同等なタンパク質もまた本発明に含まれる。このような変異体における、変異するアミノ酸数は、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、より好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内)である。
【0135】
変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、 I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸 (D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。
【0136】
あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質がその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666 、Zoller, M. J. & Smith, M. Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500 、Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433 、Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413)。
【0137】
該タンパク質のアミノ酸配列に複数個のアミノ酸残基が付加されたタンパク質には、これらタンパク質を含む融合タンパク質が含まれる。融合タンパク質は、これらタンパク質と他のタンパク質とが融合したものであり、本発明に含まれる。融合タンパク質を作製するには、例えば、該タンパク質をコードするDNAと他のタンパク質をコードするDNAをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよい。本発明のタンパク質との融合に付される他のタンパク質としては、特に限定されない。
【0138】
本発明のタンパク質との融合に付される他のペプチドとしては、特に制限はなく、例えば、6個のHis(ヒスチジン)残基からなる6×His等の公知のペプチドを使用することができる。また、本発明のタンパク質との融合に付される他のタンパク質としては、例えば、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。市販されているこのようなタンパク質をコードするDNAを本発明のタンパク質をコードするDNAと融合させ、これにより調製された融合DNAを発現させることにより、融合タンパク質を調製することができる。
【0139】
また、あるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA を調製する当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. press, 1989)を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者においては、該タンパク質をコードするDNA配列(配列番号:3〜68の奇数番目の配列)もしくはその一部を利用して、これと相同性の高いDNAを単離すること、さらに、該DNAから該タンパク質と機能的に同等なタンパク質を単離することは、周知の技術である。
【0140】
本発明には、該タンパク質をコードするDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、該タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAが含まれる。このようなDNAとしては、例えば、哺乳類由来のDNAであり、より好ましくはヒト、サル、ブタ、ウシ由来のホモログが挙げられるが、これらに制限されない。
【0141】
該タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、5×SSC 、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSの条件である。これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0142】
また、該タンパク質をコードするDNA配列(配列番号:3〜68の奇数番目の配列)の配列情報を基に合成したプライマーを用いる遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して、該タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを単離することも可能である。
【0143】
これらハイブリダイゼーション技術や遺伝子増幅技術により単離されるDNAがコードする、該タンパク質と機能的に同等なタンパク質は、通常、該タンパク質とアミノ酸配列において高い相同性を有する。本発明のタンパク質には、該タンパク質と機能的に同等であり、かつ該タンパク質のアミノ酸配列と高い相同性を有するタンパク質も含まれる。高い相同性とは、アミノ酸レベルにおいて、通常、少なくとも50%以上の同一性、好ましくは75%以上の同一性、さらに好ましくは85%以上の同一性、さらに好ましくは95%以上の同一性を指す。
【0144】
アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている (Altschul et al. J. Mol. Biol.215:403-410, 1990)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターはたとえばscore =100、wordlength =12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターはたとえばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http: //www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0145】
本発明のDNAは、本発明のタンパク質をコードしうるものであればいかなる形態でもよい。即ち、mRNAから合成されたcDNAであるか、ゲノムDNAであるか、化学合成DNAであるかなどを問わない。また、本発明のタンパク質をコードしうる限り、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNAが含まれる。
【0146】
本発明のDNAは、当業者に公知の方法により調製することができる。例えば、本発明のタンパク質を発現している細胞よりcDNAライブラリーを作製し、本発明のDNAの配列(配列番号:3〜68の奇数番目の配列)の一部をプローブにしてハイブリダイゼーションを行うことにより調製できる。cDNAライブラリーは、例えば、文献(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))に記載の方法により調製してもよいし、市販のcDNAライブラリーを用いてもよい。また、本発明のタンパク質を発現している細胞よりRNAを調製し、逆転写酵素によりcDNAを合成した後、本発明のDNAの配列(配列番号:3〜68の奇数番目の配列)に基づいてオリゴDNAを合成し、これをプライマーとして用いてPCR反応を行い、本発明のタンパク質をコードするcDNAを増幅させることにより調製することも可能である。
【0147】
また、得られたcDNAの塩基配列を決定することにより、それがコードする翻訳領域を決定でき、本発明のタンパク質のアミノ酸配列を得ることができる。また、得られたcDNAをプローブとしてゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、ゲノムDNAを単離することができる。
【0148】
本発明は、上記本発明のDNAがコードするタンパク質を提供する。本発明のタンパク質は、後述するそれを産生する細胞や宿主あるいは精製方法により、アミノ酸配列、分子量、等電点又は糖鎖の有無や形態などが異なり得る。しかしながら、得られたタンパク質が、該タンパク質と同等の機能を有している限り、本発明に含まれる。例えば、本発明のタンパク質を原核細胞、例えば大腸菌で発現させた場合、本来のタンパク質のアミノ酸配列のN末端にメチオニン残基が付加される。本発明のタンパク質はこのようなタンパク質も包含する。
【0149】
本発明のタンパク質は、当業者に公知の方法により、組み換えタンパク質として、また天然のタンパク質として調製することが可能である。組み換えタンパク質であれば、本発明のタンパク質をコードするDNAを、適当な発現ベクターに組み込み、これを適当な宿主細胞に導入して得た形質転換体を回収し、抽出物を得た後、イオン交換、逆相、ゲル濾過などのクロマトグラフィー、あるいは本発明のタンパク質に対する抗体をカラムに固定したアフィニティークロマトグラフィーにかけることにより、または、さらにこれらのカラムを複数組み合わせることにより精製し、調製することが可能である。
【0150】
また、本発明のタンパク質をグルタチオンS-トランスフェラーゼタンパク質との融合タンパク質として、あるいはヒスチジンを複数付加させた組み換えタンパク質として宿主細胞(例えば、動物細胞や 大腸菌など)内で発現させた場合には、発現させた組み換えタンパク質はグルタチオンカラムあるいはニッケルカラムを用いて精製することができる。融合タンパク質の精製後、必要に応じて融合タンパク質のうち、目的のタンパク質以外の領域を、トロンビンまたはファクターXaなどにより切断し、除去することも可能である。
【0151】
天然のタンパク質であれば、当業者に周知の方法、例えば、本発明のタンパク質を発現している組織や細胞の抽出物に対し、後述する本発明のタンパク質に結合する抗体が結合したアフィニティーカラムを作用させて精製することにより単離することができる。抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
【0152】
本発明は、また、本発明のDNAが挿入されたベクターを提供する。本発明のベクターは、宿主細胞内において本発明のDNAを保持させたり、本発明のタンパク質を発現させるために有用である。
【0153】
ベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、 DH5α、HB101、XL1Blue)などで大量に増幅させ大量調製するために、大腸菌で増幅されるための「ori」をもち、さらに形質転換された大腸菌の選抜遺伝子(例えばなんらかの薬剤(アンピシリンやテトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコール)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すれば特に制限はない。ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7などが挙げられる。
【0154】
本発明のタンパク質を生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら, Nature (1989) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーター(Betterら, Science (1988) 240, 1041-1043 )、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(ファルマシア社製)、「QIAexpress system」(キアゲン社製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。
【0155】
また、ベクターには、タンパク質分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。タンパク質分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379 )を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
【0156】
大腸菌以外にも、例えば、本発明のタンパク質を製造するためのベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3 (インビトロゲン社製)や、pEGF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990,18(17),p5322)、pEF 、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(ギブコBRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例え ば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、 「Pichia Expression Kit」(インビトロゲン社製)、pNV11 、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
【0157】
CHO 細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモー ター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK- RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
【0158】
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、 また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0159】
一方、動物の生体内で本発明のDNAを発現させる方法としては、本発明のDNAを適当なベクターに組み込み、例えば、レトロウイルス法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、アデノウイルス法などにより生体内に導入する方法などが挙げられる。
【0160】
また、本発明は、本発明のベクターが導入された宿主細胞を提供する。本発明のベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、例えば、大腸菌や種々の動物細胞などを用いることが可能である。
【0161】
真核細胞を使用する場合、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を宿主に用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J. Exp. Med. (1995) 108, 945)、COS、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle, et al., Nature (1981) 291, 358-340)、あるいは昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5が知られている。CHO細胞としては、特に、DHFR遺伝子を欠損したCHO細胞であるdhfr-CHO(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1980) 77, 4216-4220)やCHO K-1(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1968) 60, 1275)を好適に使用することができる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(ベーリンガーマンハイム社製)を用いた方法、エレクトロポーレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
【0162】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞がタンパク質生産系として知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が知られている。
【0163】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli)、例えば、JM109、DH5α、HB101等が挙げられ、その他、枯草菌が知られている。
【0164】
これらの細胞を目的とするDNAにより形質転換し、形質転換された細胞をin vitroで培養することによりタンパク質が得られる。培養は、公知の方法に従い行うことができる。例えば、動物細胞の培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができる。その際、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできるし、無血清培養してもよい。培養時のpHは、約6〜8であるのが好ましい。培養は、通常、約30〜40℃で約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。
【0165】
一方、in vivoでタンパク質を産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。これらの動物又は植物に目的とするDNAを導入し、動物又は植物の体内でタンパク質を産生させ、回収する。本発明における「宿主」とは、これらの動物、植物を包含する。
【0166】
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
【0167】
例えば、目的とするDNAを、ヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子との融合遺伝子として調製する。次いで、この融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ移植する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的のタンパク質を得ることができる。トランスジェニックヤギから産生されるタンパク質を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702)。
【0168】
また、昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。カイコを用いる場合、目的のタンパク質をコードするDNAを挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させることにより、このカイコの体液から目的のタンパク質を得ることができる(Susumu, M. et al., Nature (1985) 315, 592-594)。
【0169】
さらに、植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、目的とするタンパク質をコードするDNAを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に感染させ、本タバコの葉より所望のタンパク質を得ることができる(Julian K.-C. Ma et al., Eur. J. Immunol. (1994) 24, 131-138)。
【0170】
これにより得られた本発明のタンパク質は、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一なタンパク質として精製することができる。タンパク質の分離、精製は、通常のタンパク質の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせればタンパク質を分離、精製することができる。
【0171】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製されたタンパク質も包含する。
【0172】
なお、タンパク質を精製前又は精製後に適当なタンパク質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、部分的にペプチドを除去することもできる。タンパク質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが用いられ る。
【0173】
本発明はまた、本発明のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドを提供する。オリゴヌクレオチドの説明については上記と同様である。
【実施例】
【0174】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。以下に述べる各実施例は、以下の細胞、実験方法において実施されたものである。
【0175】
<癌組織・正常組織>
ヒト癌組織は、順天堂大学・伊豆長岡病院において十分なインフォームドコンセントを受けた患者の外科手術により切除された検体を用いた。正常組織は、同一患者の切除された癌組織周辺の病理学的検査の結果、正常と判断された組織を用いた。前癌病変組織は、順天堂大学・伊豆長岡病院において十分なインフォームドコンセントを受けた患者の外科手術により切除された癌組織の周辺部の内、病理学的検査により前癌段階と判断された組織を用いた。また本研究は、国立遺伝学研究所並びに順天堂大学伊豆長岡病院のヒトゲノム研究倫理委員会の承認を得て実施された。
【0176】
<癌細胞培養方法>
5種の胃癌細胞株:MKN-1(腺扁平上皮癌)、MKN-7(管状腺癌・高分化型)、MKN-45(管状腺癌・低分化型)、MKN-74(管状腺癌・中分化型)、及びKATOIII(印環細胞癌)、膵臓癌細胞株:MIAPaCa-2、KP-2、皮膚癌細胞株:HSC-1、HSC-4、HSC-5、A-431は、ヒューマンサイエンス振興財団・ヒューマンサイエンス研究資源バンクから購入した。大腸癌細胞株:CACO-2、COLO-320、CW-2、TT1TKB、肝臓癌細胞株:HepG2は、理化学研究所 RIKEN CELL BANKから購入した。また乳癌細胞株:SK-BR-3は、大日本製薬株式会社より購入した。各癌細胞株は、購入元から添付された細胞培養データシートに記載のある細胞培養液、細胞培養条件に従って細胞を培養し、実験に用いた。
【0177】
<RT-PCRによるGSDMBの発現解析方法>
ヒト正常組織全RNA、ヒト癌組織全RNA、ヒト前癌病変組織全RNA、並びに胃癌培養細胞からの全RNAの調製は、ISOGEN(日本ジーン社)を使用し、供給元の推奨する手順に従って行った。各皮膚癌培養細胞から得られた全RNAは、37℃で30分間、DNA分解酵素で処理し、サンプル中のゲノムDNAを除去した。全RNAからcDNAの合成の手順は、以下の通りである。ヒト正常、前癌、癌組織由来全RNA、7.5μg、並びに癌培養細胞全RNAに10mM dNTP (10mM dATP, 10mM dCTP, 10mM dGTP, 10mM dTTP)を3μl、Oligo(dT)12-18プライマーを1500ng加え、RNA分解酵素除去処理を行った蒸留水で、最終量39μlに調製した。この溶液を65℃で5分間処理し、その後氷中にて急冷した。十分に氷温まで下がった溶液に5x First strand buffer (250mM Tris-HCl pH 8.3, 375mM KCl, 15mM MgCl2) を12μl、100mM DTTを3μl、RNA Inhibitorを3μl、逆転写酵素(SuperScript III Reverse Transcriptase: Invitrogen社)を3μl加え、55℃で50分間、反応させた。反応終了後、更に70℃で15分間保温し、逆転写酵素の酵素活性除去を行って、この最終反応物をPCRに用いるヒト正常組織、ヒト癌組織、ヒト前癌病変組織、並びに胃癌培養細胞株のcDNAサンプルとした。
【0178】
各ヒト正常、前癌、癌組織由来全、並びに癌培養細胞株サンプルにおけるGSDMB発現の確認には、PCR法により行った。使用したプライマーは、GSDMB420:GGGGACAAGTGGTTAGATGAA(配列番号:70)とGSDMB1388: TAGGAAGAGACAGAGGTAGGC(配列番号:71)、GSDMB710F:GGAGACGGTAAAGGAGGAAAC(配列番号:72)とGSDMB1185R:TACCAAGACCCCAGCAGCATT(配列番号:73)、GSDMB P-A:TGAGGTCAGAGAGGAGTTGGT(配列番号:74)とGSDMB-R:TTAGGAAGAGACAGAGGTAGG(配列番号:75)、GSDMB P-B:GATCTTCAGTTGCTTCAGGCC(配列番号:76)とGSDMB-R、のセットである。反応条件は、DNA変性反応が94℃で30秒間、アニーリング反応が57℃で30秒間、伸長反応が72℃で1分30秒間、反応サイクルは35サイクル、使用した機械は、バイオメトラ社のDNA増幅装置である。反応終了後のPCRサンプルは、1%アガロースゲルにより電気泳動し、各サンプルにおけるGSDMB発現の評価を行った。プロモーターA、及びプロモーターB特異的オルタナティブスプライス産物の検出には、先ずプロモーターA特異的プライマーセットであるGSDMB P-AとGSDMB-R、プロモーターB特異的プライマーセットであるGSDMB P-AとGSDMB-Rを用いて50μl系でRT-PCRを行い、得られたPCRサンプルの一部、1μlを鋳型に用いオルタナティブスプライス産物検出プライマーセットであるGSDMB710FとGSDMB1185Rを用いてNested PCRを行った。この操作により得られたPCR産物は、2.5%もしくは3%アガロースゲルにて電気移動を行って解析した。なお、Nested PCRのPCR条件はDNA変性反応が94℃で30秒間、アニーリング反応が57℃で30秒間、伸長反応が72℃で30秒間、反応サイクルは25サイクル、使用した機械は、バイオメトラ社のDNA増幅装置である。
【0179】
<塩基配列の解析方法>
RT-PCRにおいて増幅されたヒト正常組織、ヒト癌組織、ヒト前癌病変組織、並びに胃癌培養細胞株由来GSDMBは、pGEM-Teasy TA cloning vectorを用いてサブクローニングを行った。サブクローニングされたGSDMBの塩基配列は、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社)を用いてシークエンス反応を行い、ABI PRISM 3700 Analyzer(Applied Biosystems社)により解析した。得られた塩基配列情報は、遺伝子解析ソフトDNASIS Ver. 3.7(日立ソフトウェア社)を用いて解析を行った。
【0180】
<抗GSDMB抗体の作製方法およびIn situ ハイブリダイゼーション法>
抗GSDMB抗体は、GSDMBタンパク質の67番目から18アミノ酸 :DKWLDELDSGLQGQKAEF(配列番号:77)に相当する領域のペプチドを合成し、ニワトリに免疫することにより作製した。抗体の力価測定は、ELISA法により行った。
【0181】
ヒト癌組織サンプルは、手術により切除された後、4 %ホルムアルデヒド溶液で12時間から16時間、固定を行った。固定後の癌組織サンプルはO.C.T.コンパウンドを用いて包埋し、凍結切片用ミクロトーム(Leica CM3050)にて厚さ10μmに薄切した。癌組織・前癌組織におけるGSDMBの局在は、一次抗体に抗GSDMB (50倍希釈)を、二次抗体にFITC標識ロバ抗ニワトリIgYポリクローナル抗体 (500倍希釈, Jacson ImmunoReseach)を使用し、正立型蛍光顕微鏡(OLYMPUS BX51)を用いて可視化した。
【0182】
ヒト癌組織サンプルは、手術により切除された後、4 %ホルムアルデヒド溶液で12時間から16時間、固定を行った。固定後の組織片は、O.C.Tコンパウンド中に包埋し、凍結切片用ミクロトーム(Leica CM3050) を使用して25μm薄切してin situ用プレパラートを作成した。
【0183】
in situ用プレパラートは、42℃で1時間乾燥させた後、4% パラホルムアルデヒド/PBSで固定を行った。その後、PBSで5分間、2回洗浄し、次いで50μg/mlの濃度のProteinase-K (Roche Applied Science)で処理、1度PBSで5分間洗浄し、再度4% パラホルムアルデヒド/PBSで固定を行った。固定後、蒸留水中で5分間処理し、スターラーで攪拌されている0.1 M triethanolamine (pH 8.0)溶液中においた。そこに無水酢酸を0.25 %になるように加え、無水酢酸が全て溶け込んだ状態になったところでスターラーを止め、そのまま10分間放置した。その後、PBSで5分間、0.85 % NaClで5分間処理した。
プレハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーション溶液 (50 % Formamide, 5X SSC, 1 mg/ml Yeast tRNA, 100μg/ml Heparin, 1X Denhardt's solution (50X Denhardt's solution = 1 % Ficoll 400, 1 % polyvinylpyrrolidone, 1 % BSA), 0.1 % Tween 20, 0.1 % CHAPS (3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]-1-propanesulfonate), 5 mM EDTA)中で3時間以上、60℃で行った。
【0184】
in situ用プローブは、ヒトGSDMB cDNAを鋳型としてcRNAを合成した。この時、digoxigenine標識-UTP (Roche Applied Science)を取り込ませることにより、プローブの標識を行った。また、プローブは、組織内への浸透性を良くするために40 mM NaOCO3/60 mM Na2CO3 (pH 10.2)溶液中で、プローブの長さが250塩基になる時間、60℃で保温して、断片化を行った。なお、プローブの長さが250塩基になる時間 (T) は、{(最初のcRNAの長さ,kb) - 0.25}を {0.11 x (最初のcRNAの長さ,kb) x 0.25}で割ることにより導き出した。
プレハイブリダイゼーション後のin situ用プレパラートは、ハイブリダイゼーション溶液に1μg/ml〜2μg/mlの濃度になるようにプローブを加えた溶液内で12時間から16時間、60℃でハイブリダイゼーションを行った。
【0185】
ハイブリダイゼーション後のプレパラートは、1 X SSC, 0.3 % CHAPS, 60℃で10分間、1.5 X SSC, 0.3 % CHAPS, 60℃で10分間、洗浄した後1.5 X SSC, 0.3 % CHAPS溶液中で37℃まで温度を下げた。37℃になった後、2 X SSC, 0.3 % CHAPS、37℃で2回洗浄し、次いで20μg/mlの濃度になるように RNA分解酵素 (Rnase A)を2 X SSC, 0.3 % CHAPSに加え、37℃で30分間、ハイブリダイズしなかったcRNAプローブの消化を行った。その後、室温の2 X SSC, 0.3 % CHAPSで10分間、60℃の0.2 X SSC, 0.3 % CHAPSで30分間を2回、60℃の0.1 % Tween 20, 0.3 % CHAPS/PBSで10分間を2回、室温の0.1 % Tween 20 /PBSで10分間、そして室温のPBT (2mg/ml BSA, 0.1 % Triton-X 100/PBS)で10分間、洗浄を行った。
プローブ洗浄後のプレパラートは、20 % 羊血清を含むPBT溶液を用いて室温で1時間ブロッキングを行い、次いで抗digoxigenine抗体(anti-digoxigenine antibody coupled to alkaline phosphatase, Roche Applied Science)を20 % 羊血清を含むPBT溶液で1000倍希釈した抗体溶液を用いて12時間から16時間、4℃で抗体処理を行った。
【0186】
その後、室温のPBTで4回、30分間ずつ抗体の洗浄を行い、次いでAlkaline phosphatase buffer (100 mM Tris-HCl pH9.5, 100 mM NaCl, 0.1 % Tween 20, 50 mM MgCl2)で5分間ずつ2回、処理した。
【0187】
抗体の洗浄、Alkaline phosphatase buffer処理後のプレパラートは、Alkaline phosphatase検出溶液 (337.5μg/ml Nitro blue tetrazolium, 175μg/ml 5-bromo-4-chrolo-3-indoyl phosphate/Alkaline phosphatase buffer)を用いて、Alkaline phosphataseの可視化を行った。
【0188】
すべての操作が終了したプレパラートは、4 %ホルムアルデヒド溶液で固定を行った後、ガバーガラスをかけて正立型光学顕微鏡(OLYMPUS BX51)を用いて観察を行った。
【0189】
〔実施例1〕RT-PCRを用いたヒト胃癌組織におけるGSDMBの発現解析
GSDMAは、胃正常組織において発現し、胃癌になるとその発現が消失することを我々は明らかにしていた。そこでGSDMBについてヒト胃正常組織、胃癌組織でのGSDMBの発現をPCRプライマーGSDMB420(配列番号:70)とGSDMB1388(配列番号:71)を用いてRT-PCRにより調べた。その結果を図1に示す。GSDMBは、多くの正常胃組織においては発現していないが、前癌段階、癌組織において発現が観察された。同じ遺伝子ファミリーのメンバーであり、かつ同じ染色体領域に存在する両遺伝子の発現が相補的であることは非常に興味深い。
【0190】
更に、GSDMBの発現が一部の正常胃組織と全ての前癌段階、癌組織で見られることより、GSDMBの発現が癌化と密接に関わっていることが考えられる。そこで同一患者由来の正常胃組織、前癌状態組織、癌組織におけるGSDMBの発現を、PCRプライマーGSDMB420(配列番号:70)とGSDMB1388(配列番号:71)を用いて半定量RT-PCRにより調べた。その結果を図2に示す。患者Aの正常胃組織ではGSDMBの発現はないが、癌組織では強く発現していた。患者Bでは正常胃組織においても弱い発現が観察された。患者Cでは患者Aと同様に正常胃組織では発現していないが、前癌状態組織、癌組織で強い発現が観察された。最も注目すべきは患者Dである。患者Dにおいて、正常胃組織2検体、前癌状態1検体、癌組織1検体でのGSDMBの発現は、正常胃組織2検体中1検体では発現が無いが、もう一検体では弱い発現が観察された。更に前癌状態になるとその発現が強くなり、癌組織において最も強い発現が観察された。このことは、癌の進行と共にGSDMBの発現が強くなる、即ちGSDMBの発現量と癌化が密接に関係していることを意味している。また、GSDMBが多くの正常組織では発現していないが一部正常組織で発現が見られることは、病理学的に正常と判断された検体の中にも遺伝子発現のレベルでは既に癌化に向かっている検体が存在すると考えられる。
【0191】
〔実施例2〕in situ hybridization法による胃癌組織におけるGSDMB mRNAの局在の解析
次にヒト胃癌組織におけるGSDMBの発現をin situ hybridization法により調べた。図3Aは、胃癌組織におけるGSDMBの発現を、図3Bには図3Aの拡大像を示した。GSDMBは、癌組織において発現しており癌周辺部の正常組織領域には発現が見られなかった。この結果は、癌が周辺の正常組織に作用し、正常組織においてGSDMBの発現が誘導されるのではなく、癌細胞自体でGSDMBが発現していることを示唆する。また、抗GSDMBポリクローナル抗体を作製し、GSDMBタンパク質の発現を調べたところ、遺伝子発現と同様にGSDMBタンパク質は癌組織に局在することが示された(図4)。
【0192】
〔実施例3〕RT-PCRを用いたヒト癌組織におけるGSDMBの発現解析
上記の結果により胃癌においては、GSDMBの発現量と癌化が密接に関わっている可能性が示された。更に他の癌についてもGSDMBの発現をPCRプライマーGSDMB420(配列番号:70)とGSDMB1388(配列番号:71)を用いてRT-PCRにより調べたところ、興味深い結果が得られた。図5に乳癌、図6に大腸癌でのGSDMBの発現を示した。
【0193】
乳癌、大腸癌でのGSDMBは、一部の正常組織と前癌組織、癌組織において発現していた。これらの癌においても胃癌同様GSDMBの発現量と癌化が密接に関係していると考えられる。乳癌で注目すべき点は、そのPCR産物のサイズである。同じPCRプライマーを用いて解析を行ったが、乳癌においては胃癌、大腸癌とは明らかに異なるバンドパターンを示した。このことは組織特異的なスプライシング産物が存在する可能性を示唆する。
【0194】
大腸癌の場合は、胃癌同様な発現、スプライシングパターンを示している。しかし乳癌では胃癌同様、GSDMBが存在する17q12 amplicon領域の増幅が知られているが、大腸癌では17q12 amplicon領域の増幅は報告されていない(増幅は認められないとされている)。したがって癌化による17q12amplicon領域の増幅が原因でGSDMBが過剰発現しているのではないことを大腸癌での結果は示している。更に他の多くの癌によるGSDMBの発現を癌培養細胞株(これらの細胞株は同一組織由来であっても未分化癌、低分化癌、中分化癌、高分化癌など様々な種類を含んでいる)で調べた。発現確認は、PCRプライマーGSDMB420(配列番号:70)とGSDMB1388(配列番号:71)を用いてRT-PCRにより行った。その結果、調べた全ての皮膚癌、乳癌、胃癌、大腸癌、膵臓癌、肝臓癌由来細胞株においてGSDMBの発現が確認された。以上の結果から、GSDMBは、全ての癌において発現し、また癌化に伴うGSDMBのプロモーター活性の上昇がGSDMBの発現上昇の原因であると考えられた。
【0195】
〔実施例4〕GSDMBのプロモーター解析
GSDMBプロモーターの構造を調べた結果、我々は2種類のプロモーター領域が存在し、また第一エクソンも2種類存在する可能性を見出した(図8)。
【0196】
エクソン1aおよびエクソン1bに5’側プライマー(GSDMB P-A(配列番号:74)およびGSDMB P-B(配列番号:76)を設定し、3’側は共通なプライマーGSDMB-R(配列番号:75)を用いてRT-PCRにより胃癌でのGSDMBを調べたところ、プロモーターBからオルタナティブスプライス産物が転写されていると考えられた(図8)。さらにこのオルタナティブスプライス産物がどの領域の違いによりもたらされるのかを前癌組織、癌組織を用いて数種類のプライマーセットを使用しnested PCR法により調べた結果、殆どのGSDMBオルタナティブスプライス産物は、Gasdermin Family全てで保存性の乏しい中央の領域に違いがある事が明らかとなった(図9)。この際に使用したプライマーセットはGSDMB710F(配列番号:72)とGSDMB1185R(配列番号:73)であり、解析を行ったアガロースゲルは3%、電気泳導の泳導条件は100ボルト2時間50分である。同時にこの結果はプロモーターBのみならず、少なくともプロモーターAからも3種類(GSDMB710F(配列番号:72)とGSDMB1185R(配列番号:73)を用いて約540塩基、約500塩基、約470塩基)、プロモーターBからは少なくとも7種類のオルタナティブスプライス産物(GSDMB710F(配列番号:72)とGSDMB1185R(配列番号:73)を用いて約540塩基、約500塩基、約470塩基、約420塩基、約400塩基、約380塩基、約350塩基前後)が転写されていることを示している。
【0197】
ヒト癌組織は外科手術により切除されるために、その組織サンプル中には癌組織、前癌組織、病理学的には正常であるがすでにGSDMBが発現して癌に進行中の組織等様々な組織が含まれている。そこで癌細胞単体でのGSDMBプロモーターの選択性を調べるために、癌細胞株を用いて実験を行った。その結果、調べた全ての細胞株においてプロモーターAは使われず、プロモーターBが選択的に使用されていることが明らかとなった(図10)。この際に使用したプライマーは、GSDMB P-A(配列番号:74)とGSDMB-R(配列番号:75)、並びにGSDMB P-B (配列番号:76)とGSDMB-R(配列番号:75)である。
【0198】
更に正常胃組織、前癌組織、癌組織、胃癌細胞株におけるプロモーターB由来オルタナティブスプライス産物の増減を調べた結果、正常胃組織、前癌組織、癌組織、胃癌細胞株の順にオルタナティブスプライス産物が増え、同時に正常胃組織において最も転写量の多かった一番長い転写産物が減少することが明らかとなった(図11)。この際に使用したプライマーセットはGSDMB710F(配列番号:72)とGSDMB1185R(配列番号:73)であり、解析を行ったゲルは2.5%である。
【0199】
〔実施例5〕癌特異的なGSDMBの変異の検出
これらの結果は、癌細胞特異的なオルタナティブスプライス産物が癌化に深く関わっていることを示している。しかしながらもう一つの可能性として癌特異的なGSDMBの変異が考えられる。そこで、我々はヒト胃癌において発現しているGSDMBの変異の有無の検証を行った。前述したように患者癌検体は、様々な組織を含んでいるので、第一段階として癌細胞株を用いて実験を行った。その結果、低分化型、中分化型、高分化型胃癌(MKN-1, MKN-7, MKN-45, MKN-74)においては、
TCTGAGGTCCTGATTTCCGGGGAGCTACACATGGAGGACCCAGACAAGCCTCTCCTAAGC(配列番号:78)
の配列であるが、未分化型胃癌(KATOIII)では、特異的に
TCTGAGGTCCTGATTTCCAGGGAGCTACACATGGAGGACTCAGACAAGCCTCTCCTAAGC(配列番号:79)
の変異が見出された。即ち、癌細胞株ではあるが、低分化型、中分化型、高分化型胃癌においては100%(4/4)
TCTGAGGTCCTGATTTCCGGGGAGCTACACATGGAGGACCCAGACAAGCCTCTCCTAAGC(配列番号:78)
であり、未分化型胃癌(KATOIII)のみに塩基の変化が見られた。しかしながら、この結果はあくまで癌細胞株での結果であり、また調べた未分化型胃癌細胞株も1ラインのみである。そこで、この塩基変化が実際に未分化型胃癌(非充実型低分化癌、印環細胞癌)と関係があるか否かを、未分化型胃癌患者由来癌組織を用いて調べることとした。6名の未分化型胃癌患者由来癌組織(印環細胞癌2名、非充実型低分化癌4名)を調べたところ、80%以上(5/6)の検体において同様な2カ所の塩基置換が見出された(図12)。
【0200】
この塩基置換は、アミノ酸置換を引き起こす。前側の塩基、GからAへの置換はアミノ酸282番目のグリシンからアルギニンへのアミノ酸置換を引き起こし、後ろ側の塩基、CからTへの置換はアミノ酸289番目のプロリンからセリンへのアミノ酸置換を引き起こす。さらにこれらのアミノ酸はGasdermin Family全てで保存されているアミノ酸である(図13)。
【0201】
更に興味深いことに、6名の未分化型胃癌患者由来癌組織(印環細胞癌2名、非充実型低分化癌4名)の塩基変化の検証を行う過程で、同一患者前癌病変から3タイプの塩基変化の組み合わせの転写産物が見出された。一つは、正常タイプ、分化型胃癌で見出された
TCTGAGGTCCTGATTTCCGGGGAGCTACACATGGAGGACCCAGACAAGCCTCTCCTAAGC(配列番号:78)
のタイプ、
2つ目が未分化型胃癌で見出された
TCTGAGGTCCTGATTTCCAGGGAGCTACACATGGAGGACTCAGACAAGCCTCTCCTAAGC(配列番号:79)
のタイプ、
3つ目が分化型胃癌と未分化胃癌の中間の
TCTGAGGTCCTGATTTCCAGGGAGCTACACATGGAGGACCCAGACAAGCCTCTCCTAAGC(配列番号:80)。
のタイプである。更にGSDMBのSNP (Single nucleotide polymorphism)をSNPデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=snp)を用いて解析した結果、これらの未分化胃癌に有意に見出された塩基変化は、Single nucleotide polymorphism(SNP)であることが明らかとなった。これらの結果は、これらのSNPが未分化胃癌発症と深い関わりを持つことが考えられ、おそらくはそのSNPの組み合わせとホモで持つか、もしくはヘテロで持つかが重要であろうことが予想された。
【図面の簡単な説明】
【0202】
【図1】RT-PCRを用いたヒト胃癌組織におけるGSDMBの発現解析の結果を示す写真である。1レーンはDNAマーカー、2および3,4および5,6および7,8および9,10および11、12および13,14および15,16および17の2レーンずつが同一患者由来のセットであり、偶数番号は癌組織、奇数番号は前癌状態、もしくは正常組織(前癌状態は3、5、7レーン、正常組織は、9,11,13,15,17レーン)における発現結果を示す
【図2】半定量的RT-PCRを用いたヒト胃癌組織におけるGSDMBの発現解析の結果を示す写真である。1、4および14レーンはDNAマーカーを示す。2から3レーンは同一患者A由来の組織(2レーン:正常胃組織、3レーン:癌組織)、5から6レーンは同一患者B由来の組織(5レーン:正常胃組織、6レーン:癌組織)、7から9レーンは同一患者C由来の組織(7レーン:正常胃組織、8レーン:前癌組織、9レーン:癌組織)、10から13レーンは同一患者D由来の組織(10レーン:正常胃組織、11レーン:正常胃組織、12レーン:前癌組織、13レーン:癌組織)における発現を示す。
【図3】in situ hybridization法による胃癌組織におけるGSDMB mRNAの局在の解析結果を示す写真である。AはGSDMB mRNAの局在(弱拡胃癌組織像)を、Bは図A内に示した四角で囲った領域の拡大図を示す。
【図4】抗GSDMB抗体を用いた胃癌におけるGSDMBタンパク質の検出結果を示す写真である。Aは胃癌組織、Bは胃正常組織におけるGSDMBタンパク質の発現を示す。GSDMBタンパク質は癌組織特異的に発現していることが明らかとなった。
【図5】RT-PCRを用いたヒト乳癌組織におけるGSDMBの発現解析の結果を示す写真である。1レーンはDNAマーカーを示す。2から3レーンは同一患者由来の組織(2レーン:癌組織、3レーン:正常乳腺組織)、4から5レーンは同一患者由来の組織(4レーン:癌組織、5レーン:正常乳腺組織)、6から7レーンは同一患者由来の組織(6レーン:癌組織、7レーン:正常乳腺組織)、8から9レーンは同一患者由来の組織(8レーン:癌組織、9レーン:正常乳腺組織)、10レーンは患者由来の癌組織、11から12レーンは同一患者由来の組織(11レーン:癌組織、12レーン:正常乳腺組織)、13レーンは患者由来の癌組織における発現を示す。
【図6】RT-PCRを用いたヒト大腸癌組織におけるGSDMBの発現解析の結果を示す写真である。1レーンはDNAマーカーを示す。2から3レーンは同一患者由来の組織(2レーン:癌組織、3レーン:正常大腸組織)、4から5レーンは同一患者由来の組織(4レーン:癌組織、5レーン:正常大腸組織)、6から7レーンは同一患者由来の組織(6レーン:癌組織、7レーン:正常大腸組織)、8から9レーンは同一患者由来の組織(8レーン:癌組織、9レーン:正常大腸組織)、10から11レーンは同一患者由来の組織(10レーン:癌組織、11レーン:正常大腸組織)、12から13レーンは同一患者由来の組織(12レーン:癌組織、13レーン:正常大腸組織)、14から15レーンは同一患者由来の組織(14レーン:癌組織、15レーン:正常大腸組織)、16から17レーンは同一患者由来の組織(16レーン:癌組織、17レーン:正常大腸組織)における発現を示す。
【図7】RT-PCRを用いたヒト由来の様々ば部位の癌組織におけるGSDMBの発現解析の結果を示す写真である。1および17レーンはDNAマーカーを示す。2、12および14レーンは、コントロールを示す。3レーンは大腸癌 (CW-2)、4レーンは肝臓癌 (HepG2)を、5レーンは大腸癌 (TT1TKB)、6レーンは大腸癌 (CaCo2)、7レーンは大腸癌 (Colo320)、8レーンは胃癌 (MKN-1)、9レーンは胃癌 (MKN-74)、10レーンは膵臓癌 (KP2)、11レーンは膵臓癌 (MIAPaCa2)、13レーンは胃腸癌 (MKN-1)、15レーンは胃癌 (MKN-45)、16レーンは膵臓癌 (MIAPaCa2亜株) における発現を示す。
【図8】GSDMBのオルタナティブスプライス産物の発現を示す写真、および、GSDMBのプロモーターの構造を示す図である。ゲル写真において、1から4レーンは同一胃癌患者由来の転写産物(1レーン:癌組織プロモーターB由来転写産物、2レーン:癌組織プロモーターA由来転写産物、3レーン:前癌組織プロモーターB由来転写産物、4レーン:前癌組織プロモーターA由来転写産物)を示す。5から8レーンは同一胃癌患者由来の転写産物(5レーン:癌組織プロモーターB由来転写産物、6レーン:癌組織プロモーターA由来転写産物、7レーン:前癌組織プロモーターB由来転写産物、8レーン:前癌組織プロモーターA由来転写産物)を示す。
【図9】癌組織および前癌組織におけるオルタナティブスプライス産物の発現を示す写真である。1レーンはDNAマーカーを、2レーンはプロモーターA由来前癌組織由来オルタナティブスプライス産物、3レーンはプロモーターB由来前癌組織由来オルタナティブスプライス産物、4レーンは癌組織プロモーターA由来オルタナティブスプライス産物、5レーンは癌組織プロモーターB由来オルタナティブスプライス産物を示す。
【図10】癌細胞株におけるGSDMBプロモーターの選択性を示す写真である。1レーンは乳癌細胞株、2レーンは胃癌細胞株、3レーンは大腸癌細胞株、4レーンは皮膚癌細胞株、5レーンは膵臓癌細胞株におけるGSDMBプロモーターの選択性を示す。
【図11】プロモーターB由来オルタナティブスプライス産物の発現を示す図である。1レーンはDNAマーカーを示す。2レーンは正常小腸、3レーンは前癌状態大腸組織(3,4同一患者由来)、4レーンは大腸癌組織、5レーンは大腸癌細胞株(CW-2)、6レーンは前癌状態胃組織(6,7同一患者由来)、7レーンは胃癌組織、8レーンは胃癌細胞株(MKN-1)におけるオルタナティブスプライス産物の発現を示す。
【図12】癌特異的なGSDMBの変異を示す図である。
【図13】Gasdermin Familyにおける、GSDMB変異箇所の相同性を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの発現や変異を指標とした癌の検査方法に関する。また、該検査方法に使用する検査薬、検査対象となるGSDMB変異体およびGSDMBスプライシングバリアントに関する。また、該タンパク質に特異的に結合する抗体を有効成分とする癌治療薬に関する。また、癌化すると選択的に使用されるGSDMBのプロモーターに関する。
【背景技術】
【0002】
癌化プロセスは、多くの遺伝子の変異の蓄積、発現の上昇、発現の低下と言った複数の遺伝子レベルでの変化を伴う。これらの原因の一つとしてゲノムの不安定性を挙げることが出来る。
【0003】
ゲノムの不安定性は、ヒトの癌化において良く研究されている。例えば染色体の一部の切断と転座、欠損、重複、均一染色領域(homogeneously staining region: HSR)およびダブルマイニュート(double minute: DM)染色体は、癌細胞において顕著に観察される現象である。癌細胞は、時にHSRやDMを一方もしくは両方持つことが報告されている。これらのゲノムの再構成は、DNAの二重鎖切断(DNA double strand break down)により引き起こされ、その結果、癌遺伝子の増幅や癌抑制遺伝子の欠損につながると考えられる(非特許文献1)。
【0004】
ヒト17番染色体長腕、17q12 ampliconの増幅は、乳癌、胃癌、卵巣癌、膀胱癌、及び子宮癌において良く観察される。原癌遺伝子である上皮増殖因子受容体ファミリーに属すERBB2は、この領域に位置しており、癌化に伴いゲノムあたりのコピー数が増幅されて、乳癌の約20%及び胃癌において過剰発現していることが報告されている(非特許文献2、3)。本発明者らは、17q12 ampliconの構造的な解析を行った過程において、この領域の内CAB1/MLN64, CAB2, ERBB2及びGRB7が位置する領域が癌化において一般に、もしくは主として増幅していることを見いだした。また、マウスにおいてヒトの17q12 ampliconに相同な領域にガスダーミン(後にマウスガスダーミンA-1(GasderminA-1)と名称変更)が存在していることを報告した(非特許文献4)。
【0005】
尚、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【非特許文献1】Coquelle, A., Pipiras, E., Toledo, F., Buttin, G., and Debatisse, M. (1997). Expression of fragile sites triggers intrachromosomal mammalian gene amplification and sets boundaries to early amplicons. Cell 89, 215-225.
【非特許文献2】van de Vijver, M., van de Bersselaar, R., Devilee, P., Cornelisse, C., Peterse, J, and Nusse, R. (1987). Amplification of the neu (c-erbB-2) oncogene in human mammary tumors is relatively frequent and is often accompanied by amplification of the linked c-erbA oncogene. Mol. Cell. Biol. 7, 2019-2023.
【非特許文献3】Yokota, J., Yamamoto, T., Miyajima, N., Toyoshima, K., Nomura, N., Sakamoto, H., Yoshida, T., Terada, M., and Sugimura, T. (1988). Genetic alterations of the c-erbB-2 oncogene occur frequently in tubular adenocarcinoma of the stomach and are often accompanied by amplification of the v-erbA homologue. Oncogene 2, 283-287.
【非特許文献4】Saeki, N., Kuwahara, Y., Sasaki, H., Satoh H., and Shiroishi, T. Gasdermin (Gsdm) localizing to mouse chromosome 11 is predominantly expressed in upper gastrointestinal tract but significantly suppressed in human gastric cancer cells. Mammalian Genome., 11(9): 718-724, 2000.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、国立遺伝学研究所・哺乳動物遺伝研究室において見出されたRecombinant-induced mutation 3 (Rim3) の原因遺伝子が、マウス第11番染色体にクラスターとして存在するGasderminAクラスター(以下GsdmAクラスターと称す)内の1遺伝子であるGasderminA-3 (以下GsdmA3と称す)であることを明らかとしていた(PCT/JP03/02345)。マウスGsdmAクラスターのヒト相同遺伝子は、ヒト第17番染色体に存在するヒトGasderminA(以下GSDMAと称す)遺伝子である。マウスGsdmAクラスターは、GsdmA1(GasderminA-1)、GsdmA2(GasderminA-2)、GsdmA3の3遺伝子から形成されているのに対して、ヒトではGSDMA遺伝子のみが第17番染色体に存在する。
【0007】
また、ヒトのGSDMAの近傍を含むBAC クローンの塩基配列を解析することによりマウスではGsdmA2、GsdmA3が存在する領域に、似てはいるが明らかにGsdmA2、GsdmA3とは異なる遺伝子が存在することを見出し、PCR法を用いてcDNAを単離した。この遺伝子をGasderminB(以下GSDMBと称す)と名付けた(PCT/JP03/02345では、GasderminB-1と記載している)。
【0008】
GSDMBは、Gsddermin Familyメンバーに属する遺伝子であるが、マウスには存在せずヒトのみに存在する。また、Gsddermin Family全てにおいて保存されているC末端側のRex変異領域が欠損しているという特徴を持っている。GSDMBは、ヒト第17番染色体17q12 ampliconに存在する。この領域は、胃癌、食道癌、乳癌、皮膚癌、卵巣癌においてゲノム領域の増幅が認められ、これらの癌化に深く関わっている遺伝子群が存在すると考えられている。これまでに我々は、GSDMBと同じGsddermin Familyメンバーであり、かつ同じヒト第17番染色体17q12 ampliconに存在するGSDMAは、胃癌、食道癌において癌抑制遺伝子として機能していることを明らかにしていた(PCT/JP03/02345)。しかしながらGSDMBの機能については不明であった。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの発現や変異を指標とした癌の検査方法を提供することである。また、該検査方法に使用する検査薬、検査対象となるGSDMB変異体およびGSDMBスプライシングバリアントを提供する。また、該タンパク質に特異的に結合する抗体を有効成分とする癌治療薬を提供する。さらに、癌化すると選択的に使用されるGSDMBのプロモーターを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、まず本願発明者らはGSDMB の発現について鋭意研究を行い、GSDMBが多くの癌において正常組織で発現していないにもかかわらず、癌になると過発現すること、またヒト17番染色体 17q12 amplicon領域の増幅とは無関係に過発現することを見出した。本願発明者らGSDMBは、乳癌組織、胃癌組織、食道癌組織、大腸癌組織、皮膚癌組織、肺癌組織で発現し、皮膚癌、乳癌、食道癌、子宮頸部癌、胃癌、大腸癌、膵臓癌、肝臓癌由来細胞株で発現することを明らかにした。またGSDMBは癌組織だけでなく、大腸におけるポリープや胃における腸上皮化性などの前癌状態おいても発現し、また一部の正常組織おいても発現することを明らかにした。更に各正常、前癌、癌組織におけるGSDMBの発現量は、癌化の進行に比例して増加していくことを確認した。
【0011】
また、本願発明者らは抗GSDMBポリクローナル抗体の作製を行い、組織切片レベルの抗原特異性を確認できることを明らかにした。
【0012】
また、本願発明者らは、前癌段階(外見上は正常組織に分類されるが、すでにGSDMBの発現が開始されている段階を含む)においてGSDMBには2つのプロモーターが存在し、一つは完全に癌化すると抑制され、もう一方のみが選択的に使われることを見出した。また選択的に使われるプロモーターからは、より多くの、かつ特異的なオルタナティブスプライシングバリアントが転写されており、乳癌組織においては特異的なバンドパターンが存在することを明らかにした。さらに、調べた全ての癌組織・癌細胞株においてバリアントの発現を確認した。
【0013】
さらに、本願発明者らは、GSDMBにおいて未分化胃癌(印環細胞癌、非充実型低分化癌)患者に2カ所のアミノ酸変化が存在することを見出した。その位置は、Gasderminファミリー全てで保存されているアミノ酸であり、また上皮形態異常突然変異マウスRim3に変異が存在したファミリー間全てで保存されていたアラニンの近傍であった。本願発明者らが見出したアミノ酸変異は印環細胞癌(sig)、非充実型低分化癌(por2)患者に非常に高い割合で見出された。
【0014】
GSDMBのSNP (Single nucleotide polymorphism)をSNPデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=snp)を用いて解析した結果、アミノ酸304番目のグリシンがアルギニンに変化(塩基G→A)する、またアミノ酸311番目のプロリンがセリンに変化(塩基C→T)する原因塩基は、元々ヒトゲノム中に存在するSNPであることが分かった。その出現頻度はSNPデータベース調査の結果、アミノ酸304番目の変化に相当する塩基Aは26.4 %、アミノ酸311番目の変化に相当する塩基Tは26.7 %であった。さらに、印環細胞癌、非充実型低分化癌患者における出現頻度は、このSNPデータの出現頻度を遙かに上回っていることが明らかとなった。これらの結果は、このアミノ酸変異がこれらの癌の発生、浸潤、転移等に深く関わっていることを示唆すると考えられる。
【0015】
即ち、本発明者らは、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの発現や変異を指標とした癌の検査方法を開発することに成功し、これにより本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、より具体的には、以下の(1)〜(22)を提供する。
(1)以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質の発現量を測定する工程を含む、癌の検査方法。
(a)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAよりコードされるタンパク質
(b)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(2)配列番号:1〜34の偶数番目の配列に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質における変異を検出する工程を含む、癌の検査方法。
(3)タンパク質における変異が、アミノ酸置換を伴う変異である、(2)に記載の癌の検査方法。
(4)配列番号:1〜34の奇数番目の配列に記載のDNA配列における変異を検出する工程を含む、癌の検査方法。
(5)DNA配列における変異が、塩基置換を伴う変異である、(4)に記載の癌の検査方法。
(6)癌が、皮膚癌、乳癌、胃癌、肺癌、大腸癌、食道癌、子宮頸部癌、膵臓癌または肝臓癌のいずれかである、(1)から(5)に記載の癌の検査方法。
(7)以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質またはその断片に結合する抗体。
(a)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAよりコードされるタンパク質
(b)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(8)(7)に記載の抗体を含む、癌の検査薬。
(9)(7)に記載の抗体を有効成分とする、癌の治療薬。
(10)以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、癌の検査薬。
(a)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAであって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(11)癌が皮膚癌、乳癌、胃癌、肺癌、大腸癌、食道癌、子宮頸部癌、膵臓癌または肝臓癌のいずれかである、(8)または(10)に記載の検査薬
(12)以下の(a)〜(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:69に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNAであって、配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNAと同等なプロモーター活性能を持つDNA
(c)配列番号:69に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNAと同等なプロモーター活性能を持つDNA
(13)(12)に記載のDNAと癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNA。
(14)癌において抑制的に作用するタンパク質が、癌抑制タンパク質、細胞障害性タンパク質である、(13)に記載のDNA。
(15)(12)から(14)のいずれかに記載のDNAが挿入されたベクター。
(16)遺伝子治療用である、(15)に記載のベクター。
(17)(15)または(16)に記載のベクターを保持する形質転換細胞。
(18)以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:3〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質をコードするDNAであって、配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:3〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAであって、配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(19)(18)に記載のDNAからコードされるタンパク質
(20)(18)に記載のDNAが挿入されたベクター。
(21)(18)に記載のDNAまたは(19)に記載のベクターを保持する形質転換細胞。
(22)(18)に記載のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチド。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、GSDMBが癌化プロセスに深く関与すること、病理学的、特に組織レベルでの同定では正常組織と分類されるものであってもすでに癌化方向に進んでいる検体の存在があることが示された。即ち、バイオプシーにより得られた検体をGSDMBの発現量を指標として検査することにより、今までは判別不可能であった早期の癌段階(今までは正常と判断された段階)での癌診断が可能になる。
また、本発明の抗体は新たな腫瘍マーカーとして使用できることが期待される。現在使用されている腫瘍マーカーの多くは、多くの癌組織で共通して発現が上がるため、それのみで原発部位を特定することは難しい。例えば、CA-19-9は、膵臓癌などの腫瘍マーカーとして用いられているが、このマーカーは消化管癌一般において抗原の上昇が見られる。本願発明者らは、GSDMBのオルタナティブスプライシング産物の内、少なくとも乳癌において特異的なバンドパターンが存在することを明らかにした。この乳癌特異的な産物に対して抗体を作製し、腫瘍マーカーとして使用すれば、簡単な腫瘍マーカー検査のみで癌原発部位の同定が可能になる。また、この特異的な産物に対するプライマーまたはプローブを設計し、発現を検出することでも、癌原発部位の同定が可能である。癌治療の原則である早期発見、早期治療の原則からしても、この意味するところは非常に大きい。更に、抗GSDMB抗体は、癌特異的に作用し、かつ副作用が少ない安全性の高い医薬品(抗GSDMB抗体抗癌薬)として利用可能であると考えられる。抗GSDMB抗体は、患者自身の免疫反応を利用して癌細胞を攻撃することにより抗癌薬として機能することが予想される。抗GSDMB抗体は、癌細胞特異的に発現するGSDMB蛋白質に結合する抗体であり、抗体がGSDMB蛋白質に結合することで、抗原抗体反応によるシグナル伝達が起こり患者体内の免疫細胞を活性化し、免疫細胞による癌細胞への攻撃を誘発して癌の増大を抑えることができると考えられる。
【0018】
抗GSDMB抗体は、癌に特異的に発現するGSDMB蛋白質を標的とするため、癌に特化して治療する。即ち、正常細胞に作用しないため、副作用が極めて少ないことが予想される。更にGSDMBは、全ての癌に共通して発現するので、幅広い癌への適用が可能である。また、抗GSDMB抗体(抗癌薬)は、治療前に患者の癌細胞のGSDMB発現程度を調べることによって抗体薬の有効性の推測が可能である。よって個々の患者の病態にあわせた治療を行うことが可能となる。
【0019】
本発明のプロモーターの選択とオルタナティブスプライシングの選択性のメカニズムを今後明らかにすることにより、転写レベルでの癌化プロセス解明の大きな手がかりが得られると期待される。また、GSDMBプロモーターは、遺伝子治療を行う上で非常に有用であると考えられる。完全に正常な組織においては機能せず、初期癌化状態から機能して、その活性も癌化の進行と共に強くなるGSDMBプロモーターに癌抑制遺伝子等目的遺伝子を繋ぐことで、極めて癌特異的に目的遺伝子を発現させることが可能となる。この極めて高い癌特異性により、目的遺伝子として毒性の高い産物をコードする物でも正常組織に与える影響はないと考えられる。
【0020】
本発明で見出されたアミノ酸変異は、印環細胞癌(sig)、非充実型低分化癌(por2)患者に非常に高い割合で見出されたことと、GSDMBが非常に初期の前癌段階より発現が始まることを併せて考えると、内視鏡検査時、もしくは癌診断時にバイオプシーなどにより採取された検体をGSDMBの発現量、塩基の変化、アミノ酸変化を指標として診断することにより、非常に早期に非充実型低分化癌、印環細胞癌などの未分化癌を見つけ出すことが可能になると考えられる。
【0021】
さらに、本発明の方法により、癌を健常時において、変異領域のゲノムの塩基配列を解析することにより非充実型低分化癌・印環細胞癌のリスクを判定できると考えられる。例えば、GSDMBのアミノ酸304番目のグリシンがアルギニンに変化する原因である塩基AのSNP、またアミノ酸311番目のプロリンがセリンに変化する原因である塩基TのSNPのどちらを持つのか、片側のみなのか、両方持つのか、またヘテロで持つか、ホモで持つかによりリスクを予想することが可能となると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、GSDMB、GSDMBスプライシングバリアント、GSDMB変異体およびGSDMBスプライシングバリアントの変異体の発現量を測定する工程を含む、癌の検査方法に関する。
【0023】
本発明において、検査対象となる癌は、人間を含む哺乳動物に発症する癌であれば何でもよく。例えば、リンフォーマやメラノーマ等の癌も本発明における癌として含まれる。より好ましくは皮膚癌、乳癌、胃癌、肺癌、食道癌、子宮頸部癌、大腸癌、膵臓癌または肝臓癌を挙げることが出来る。
【0024】
GSDMBのcDNAの塩基配列を配列番号:1に、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
【0025】
本発明におけるGSDMBの変異体としては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を挙げることが出来る。また、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質も、GSDMBの変異体として挙げることができる。GSDMBのより好ましい変異体のcDNAの塩基配列を配列番号:35に、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:36に示す。
【0026】
本発明において、変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内)であると考えられる。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666 、Zoller, M. J. & Smith, M. Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500 、Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433 、Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413)。
【0027】
本発明において「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、該タンパク質と同等の生物学的機能や生化学的機能を有することを指す。本発明において、該タンパク質の生物学的機能や生化学的機能としては、癌細胞に特異的に高発現する性質などが挙げられる。このような性質の測定方法としては、実施例に記載の方法が例示できるが、それらの方法に限定されない。生物学的な性質には発現する部位の特異性や、発現量等も含まれる。
【0028】
目的のタンパク質と「機能的に同等なタンパク質」をコードするDNAを調製するために、当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E.M. (1975) Journal of Molecular Biology, 98, 503)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K. et al. (1985) Science, 230, 1350-1354、Saiki, R. K. et al. (1988) Science, 239, 487-491)を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者にとっては、GSDMBの塩基配列(配列番号:1)もしくはその一部をプローブとして、またGSDMB(配列番号:1)に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、GSDMBと高い相同性を有するDNAを単離することは通常行いうることである。このようにハイブリダイズ技術やPCR技術により単離しうるGSDMBと同等の機能を有するタンパク質をコードするDNAもまた本発明のDNAに含まれる。
【0029】
このようなDNAを単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行う。本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、6M尿素、 0.4%SDS、0.5xSSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指す。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件を用いることにより、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。これにより単離されたDNAは、アミノ酸レベルにおいて、目的タンパク質のアミノ酸配列と高い相同性を有すると考えられる。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%,96%,97%,98%,99%以上)の配列の同一性を指す。アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0030】
本発明の「GSDMBスプライシングバリアント」としては、各種癌組織、癌細胞株cDNAを鋳型としてGSDMB710F(配列番号:72)とGSDMB1185R(配列番号:73)のプライマーセットでPCRを行い、3%アガロースゲルを用いた電気泳導(100ボルト2時間50分)で、約540bp、約500bp、約470bp、約420bp、約400bp、約380bp、約350bpの断片が増幅されるDNAを挙げることが出来る。より好ましいGSDMBスプライシングバリアントのゲノムDNAの塩基配列としては、配列番号:3〜34の奇数番目の塩基配列を、また、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列としては配列番号:3〜34の偶数番目のアミノ酸配列を挙げることができる。配列番号:3〜34の奇数番目の塩基配列とは、配列番号:3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33の配列であり、配列番号:3〜34の偶数番目のアミノ酸配列とは、配列番号:4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34の配列のことである。
【0031】
本発明の「GSDMBスプライシングバリアントの変異体」としては、配列番号:3〜34の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:3〜34の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を挙げることが出来る。また、配列番号:3〜34の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:3〜34の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質も、GSDMBスプライシングバリアントの変異体として挙げることができる。
【0032】
より好ましいGSDMBスプライシングバリアントの変異体のDNAの塩基配列としては配列番号:37〜68の奇数番目の塩基配列を、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列としては配列番号:37〜68の偶数番目のアミノ酸配列を挙げることが出来る。配列番号:37〜68の奇数番目の塩基配列とは、配列番号:37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67の配列であり、配列番号:37〜68の偶数番目のアミノ酸配列とは、38、40、42,44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68の配列のことである。
【0033】
本発明の癌の検査方法では、まず該タンパク質の発現量を測定する。該タンパク質の発現量の測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。上記検査方法の好ましい態様においては、まず、被検者から被検試料を調製する。例えば被検者の血液、皮膚、口腔粘膜、毛髪、手術やバイオプシー等により採取あるいは切除した組織または細胞からタンパク質のmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、またはRT-PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、該タンパク質の発現レベルを測定することも可能である。
【0034】
また、該タンパク質を含む画分を定法に従って回収し、該タンパク質の発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。また、該タンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施し、該タンパク質の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。
【0035】
該癌の検出方法においては、該タンパク質の発現量を測定した後に、発現量に基づいて、癌化しているかどうかを判定する。癌の進行と共にGSDMBの発現が強くなることから、発現量を指標として、被検細胞が正常であるのか、前癌状態にあるのか、癌状態にあるのか判定することが出来る。GSDMBが多くの正常組織では発現していないが一部正常組織で発現が見られることから、病理学的に正常と判断された検体の中にも遺伝子発現のレベルでは既に癌化に向かっている検体が存在すると判定することも出来る。
【0036】
本発明は、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントにおける変異を検出する工程を含む、癌の検査方法に関する。
【0037】
本発明において、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントにおける変異とは、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域も含まれ、遺伝子領域とは、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子および該遺伝子の発現に影響する領域を意味する。該遺伝子の発現に影響する領域としては、特に制限はないが、例えば、プロモーター領域などが例示できる。
【0038】
また、本発明における変異は、癌化に関与する変異であれば、その種類、その数などに制限はない。上記遺伝子の発現量を変化させる、mRNAの安定性等の性質を変化させる、あるいは上記遺伝子によってコードされるタンパク質の有する活性を変化させるような変異であることが多いが、特に制限されない。上記変異の種類としては、例えば、欠失、置換または挿入変異などが挙げられる。上記の変異には、該タンパク質のアミノ酸配列においてアミノ酸の置換が起こる変異、およびアミノ酸の置換は起こらないが、塩基配列における塩基の置換が起こる変異が含まれる。
【0039】
以下に本発明の癌化に関与する塩基置換、アミノ酸置換の一例を示すが、本発明における変異はこれらに限定されるものではない。
【0040】
本発明の癌化に関与する塩基の置換としては、好ましくは以下の表1の(a)に記載の塩基配列における(b)位、および/または(c)位の塩基が、他の塩基に置換するものを挙げることができる。また、より好ましくは以下の表1の(a)に記載の塩基配列における(b)位のグアニンがアデニンへ変異するもの、および/または、(c)位のシトシンがチミンに変異するものを挙げることができる。
【0041】
【表1】
【0042】
また、本発明の癌化に関与するアミノ酸の置換としては、好ましくは以下の表2の(a)に記載のアミノ酸配列における(b)位、および/または(c)位のアミノ酸が、他のアミノ酸に置換するものを挙げることができる。また、より好ましくは以下の表2の(a)に記載のアミノ酸配列における(b)位のグリシンからアルギニンへの変異および/または、(c)位のプロリンからセリンへの変異を挙げることが出来る。
【0043】
【表2】
【0044】
本発明の検査方法では、アミノ酸または塩基の2箇所の変異を同時に検出するものであってもよいし、どちらか一方の変異のみ検出するものであっても良い。
【0045】
以下、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントに生じた変異を検出する工程を含む検査方法の好ましい態様を記載するが、本発明の方法はそれらの方法に限定されるものではない。
【0046】
上記検査方法の好ましい態様においては、まず、被検者からDNA試料を調製する。DNA試料は、例えば被検者の血液、皮膚、口腔粘膜、毛髪、手術やバイオプシー等により採取あるいは切除した組織または細胞から抽出した。染色体DNA、あるいはRNAを基に調製することができる。
【0047】
本方法においては、次いで、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAを単離する。該DNAの単離は、例えば、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAにハイブリダイズするプライマーを用いて、染色体DNA、あるいはRNA由来cDNAを鋳型としたPCR等によって行うことができる。
【0048】
本方法においては、次いで、単離したDNAの塩基配列を決定する。
【0049】
本方法においては、次いで、決定したDNAの塩基配列を対照と比較する。本発明において、対照とは、正常な(より高頻度な、あるいは、野生型の)GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAを言う。一般に健常人のGSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAの配列は正常であるものと考えられることから、上記「対照と比較する」とは、通常、健常人のGSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAの配列と比較することを意味する。
【0050】
本発明における変異の検出は、以下のような方法によっても行うことができる。まず、被検者からDNA試料を調製する。次いで、調製したDNA試料を制限酵素により切断する。次いで、DNA断片をその大きさに応じて分離する。次いで、検出されたDNA断片の大きさを、対照と比較する。また、他の一つの態様においては、まず、被検者からDNA試料を調製する。次いで、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAを増幅する。さらに、増幅したDNAを制限酵素により切断する。次いで、DNA断片をその大きさに応じて分離する。次いで、検出されたDNA断片の大きさを、対照 と比較する。
【0051】
このような方法としては、例えば、制限酵素断片長変異(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR-RFLP法等が挙げられる。具体的には、制限酵素の認識部位に変異が存在する場合、あるいは制限酵素処理によって生じるDNA断片内に塩基挿入または欠失がある場合、制限酵素処理後に生じる断片の大きさが対照と比較して変化する。この変異を含 む部分をPCR法によって増幅し、それぞれの制限酵素で処理することによって、これらの変異を電気泳動後のバンドの移動度の差として検出することができる。あるいは、染色体DNAをこれらの制限酵素によって処理し、電気泳動した後、本発明のプローブDNAを用いてサザンブロッティングを行うことにより、変異の有無を検出することができる。用いられる制限酵素は、それぞれの変異に応じて適宜選択することができる。この方法では、ゲノムDNA以外にも被検者から調製したRNAを逆転写酵素でcDNAにし、これをそのまま制限酵素で切断した後、サザンブロッティングを行うことも可能である。また、このcDNAを鋳型としてPCRでGSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAを増幅し、それを制限酵素で切断した後、移動度の差を調べることも可能である。
【0052】
さらに別の方法においては、まず、被検者からDNA試料を調製する。次いで、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアント遺伝子領域を含むDNAを増幅する。さらに、増幅したDNAを一本鎖DNAに解離させる。次いで、解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離する。分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度を対照と比較する。
【0053】
該方法としては、例えばPCR-SSCP(single-strand conformation polymorphism、一本鎖高次構造変異)法(Cloning and polymerase chain reaction-single-strand conformation polymorphism analysis of anonymous Alu repeats on chromosome 11. Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139-146.、Detection of p53 gene mutations in human brain tumors by single-strand conformation polymorphism analysis of polymerase chain reaction products. Oncogene. 1991 Aug 1; 6(8): 1313-1318.、Multiple fluorescence-based PCR-SSCP analysis with postlabeling. 、PCR Methods Appl. 1995 Apr 1; 4(5): 275-282.)が挙げられる。この方法は操作が比較的簡便であり、また被検試料の量も少なくて済む等の利点を有するため、特に多数のDNA試料をスクリーニングするのに好適である。その原理は次の通りである。二本鎖DNA断片を一本鎖に解離すると、各鎖はその塩基配列に依存した独自の高次構造を形成する。この解離したDNA鎖を、変性剤を含まないポリアクリルアミドゲル中で電気泳動すると、それぞれの高次構造の差に応じて、相補的な同じ鎖長の一本鎖DNAが異なる位置に移動する。一塩基の置換によってもこの一本鎖DNAの高次構造は変化し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動において異なる移動度を示す。従って、この移動度の変化を検出することによりDNA断片に点突然変異や欠失、あるいは挿入等による変異の存在を検出することができる。
【0054】
具体的には、まず、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAをPCR法等によって増幅する。増幅される範囲としては、通常200〜400bp程度の長さが好ましい。PCRは、当業者においては反応条件等を適宜選択して行うことができる。PCRの際に、32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識したプライマーを用いることにより、増幅DNA産物を標識することができる。あるいはPCR反応液に32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を加えてPCRを行うことにより、増幅DNA産物を標識することも可能である。さらに、PCR反応後にクレノウ酵素等を用いて、32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を、増幅DNA断片に付加することによっても標識を行うことができる。こうして得られた標識DNA断片を、熱を加えること等により変性させ、尿素などの変性剤を含まないポリアクリルアミドゲルによって電気泳動を行う。この際、ポリアクリルアミドゲルに適量(5から10%程度)のグリセロールを添加することにより、DNA断片の分離の条件を改善することができる。また、泳動条件は各DNA断片の性質により変動するが、通常、室温(20から25℃)で行い、好ましい分離が得られないときには4から30℃までの温度で最適の移動度を与える温度の検討を行う。電気泳動後、DNA断片の移動度を、X線フィルムを用いたオートラジオグラフィーや、蛍光を検出するスキャナー等で検出し、解析を行う。移動度に差があるバンドが検出された場合、このバンドを直接ゲルから切り出し、PCRによって再度増幅し、それを直接シークエンシングすることにより、変異の存在を確認することができる。また、標識したDNAを使わない場合においても、電気泳動後のゲルをエチジウムブロマイドや銀染色法などによって染色することによって、バンドを検出することができる。
【0055】
さらに別の方法においては、まず、被検者からDNA試料を調製する。次いで、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAを増幅する。さらに、増幅したDNAを、DNA変性剤の濃度が次第に高まるゲル上で分離する。次いで、分離したDNAのゲル上での移動度を対照と比較する。
【0056】
このような方法としては、例えば、変性剤濃度勾配ゲル(denaturant gradient gel electrophoresis: DGGE法)等を例示することができる。DGGE法は、変性剤の濃度勾配のあるポリアクリルアミドゲル中で、DNA断片の混合物を泳動し、それぞれの不安定性の違いによってDNA断片を分離する方法である。ミスマッチのある不安定なDNA断片が、ゲル中のある変性剤濃度の部分まで移動すると、ミスマッチ周辺のDNA配列はその不安定さのために、部分的に1本鎖へと解離する。この部分的に解離したDNA断片の移動度は、非常に遅くなり、解離部分のない完全な二本鎖DNAの移動度と差がつくことから、両者を分離することができる。具体的には、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAを本発明のプライマー等を用いたPCR法等によって増幅し、これを尿素などの変性剤の濃度が移動するに従って徐々に高くなっているポリアクリルアミドゲル中で電気泳動し、対照と比較する。変異が存在するDNA断片の場合、より低い変性剤濃度位置でDNA断片が一本鎖になり、極端に移動速度が遅くなるため、この移動度の差を検出することにより変異の有無を検出することができる。
【0057】
さらに別の方法においては、まず、被検者から調製したGSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNA、および、該DNAにハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された基板、を提供する。
【0058】
本発明において「基板」とは、ヌクレオチドプローブを固定することが可能な板状の材料を意味する。本発明においてヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが含まれる。本発明の基板は、ヌクレオチドプローブを固定することができれば特に制限はないが、一般にDNAアレイ技術で使用される基板を好適に用いることができる。一般にDNAアレイは、高密度に基板にプリントされた何千ものヌクレオチドで構成されている。通常これらのDNAは非透過性(non- porous)の基板の表層にプリントされる。基板の表層は、一般的にはガラスであるが、透過性(porous)の膜、例えばニトロセルロースメンブレムを使用することができる。
【0059】
本発明において、ヌクレオチドの固定(アレイ)方法として、Affymetrix社開発によるオリゴヌクレオチドを基本としたアレイが例示できる。オリゴヌクレオチドのアレイにおいて、オリゴヌクレオチドは通常インサイチュ(in situ)で合成される。例えば、photolithographicの技術(Affymetrix社)、および化学物質を固定させるためのインクジェット(Rosetta Inpharmatics社)技術等によるオリゴヌクレオチドのインサイチュ合成法が既に知られており、いずれの技術も本発明の基板の作製に利用することができる。
【0060】
基板に固定するヌクレオチドプローブは、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域の変異を検出することができるものであれば、特に制限されない。即ち該プローブは、例えば、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAにハイブリダイズするようなプローブである。特異的なハイブリダイズが可能であれば、ヌクレオチドプローブは、GSDMBおよびGSDMBスプライシングバリアントの遺伝子領域を含むDNAに対し、完全に相補的である必要はない。本発明において基板に結合させるヌクレオチドプローブの長さは、オリゴヌクレオチドを固定する場合は、通常10〜100ベースであり、好ましくは10〜50ベースであり、さらに好ましくは15〜25ベースである。
【0061】
本方法においては、次いで、該DNAと該基板を接触させる。この過程により、上記ヌクレオチドプローブに対し、DNAをハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションの反応液および反応条件は、基板に固定するヌクレオチドプローブの長さ等の諸要因により変動しうるが、一般的に当業者に周知の方法により行うことができる。
【0062】
本方法においては、次いで、該DNAと該基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの強度を検出する。この検出は、例えば、蛍光シグナルをスキャナー等によって読み取ることによって行うことができる。尚、DNAアレイにおいては、一般的にスライドガラスに固定したDNAをプローブといい、一方溶液中のラベルしたDNAをターゲットという。従って、基板に固定された上記ヌクレオチドを、本明細書においてヌクレオチドプローブと記載する。本方法においては、さらに、検出したハイブリダイズの強度を対照と比較する。
【0063】
このような方法としては、例えば、DNAアレイ法等が挙げられる。
【0064】
上記の方法以外にも、特定位置の変異のみを検出する目的にはアレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法が利用できる。変異が存在すると考えられる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドを作製し、これとDNAでハイブリダイゼーションを行わせると、変異が存在する場合、ハイブリッド形成の効率が低下する。それをサザンブロット法や、特殊な蛍光 試薬がハイブリッドのギャップにインターカレーションすることにより消光する性質を利用した方法等により検出することができる。
【0065】
また、本発明においては、TaqMan PCR法、Acyclo Prime法、およびMALDI-TOF/MS法等も使用することができる。またPCRに依存しない塩基種の決定法としてInvader法やRCA法も使用することができる。以下にこれらの方法について簡単に述べる。ここに述べた方法は、いずれも本発明における変異部位の塩基種の決定に応用できる。
【0066】
[TaqMan PCR法]
TaqMan PCR法の原理は次のとおりである。TaqMan PCR法は、アレルを含む領域を増幅することができるプライマーセットと、TaqManプローブを利用した解析方法である。TaqManプローブは、このプライマーセットによって増幅されるアレルを含む領域にハイブリダイズするように設計される。
【0067】
TaqManプローブのTmに近い条件で標的塩基配列にハイブリダイズさせれば、1塩基の相違によってTaqManプローブのハイブリダイズ効率は著しく低下する。TaqManプローブの存在下でPCR法を行うと、プライマーからの伸長反応は、いずれハイブリダイズしたTaqManプローブに到達する。このときDNAポリメラーゼの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性によって、TaqManプローブはその5'末端から分解される。TaqManプローブをレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、TaqManプローブの分解を、蛍光シグナルの変化として追跡することができる。つまり、TaqManプローブの分解が起きれば、レポーター色素が遊離してクエンチャーとの距離が離れることによって蛍光シグナルが生成する。1塩基の相違のためにTaqManプローブのハイブリダイズが低下すればTaqManプローブの分解が進まず蛍光シグナルは生成されない。
【0068】
変異に対応するTaqManプローブをデザインし、更に各プローブの分解によって異なるシグナルが生成されるようにすれば、同時に塩基種の判定を行うこともできる。例えば、レポーター色素として、あるアレルのアレルAのTaqManプローブに6-carboxy-fluorescein(FAM)を、アレルBのプローブにVICを用いる。プローブが分解されない状態では、クエンチャーによってレポーター色素の蛍光シグナル生成は抑制されている。各プローブが対応するアレルにハイブリダイズすれば、ハイブリダイズに応じた蛍光シグナルが観察される。すなわち、FAMまたはVICのいずれかのシグナルが他方よりも強い場合には、アレルAまたはアレルBのホモであることが判明する。他方、アレルをヘテロで有する場合には、両者のシグナルがほぼ同じレベルで検出されることになる。TaqMan PCR法の利用によって、ゲル上での分離のような時間のかかる工程無しで、ゲノムを解析対象としてPCRと塩基種の決定を同時に行うことができる。そのため、TaqMan PCR法は、多くの被検者についての塩基種を決定できる方法として有用である。
【0069】
[Acyclo Prime法]
PCR法を利用した塩基種を決定する方法として、Acyclo Prime法も実用化されている。Acyclo Prime法では、ゲノム増幅用のプライマー1組と、SNPs検出用の1つのプライマーを用いる。まず、ゲノムの変異部位を含む領域をPCRで増幅する。この工程は、通常のゲノムPCRと同じである。次に、得られたPCR産物に対して、SNPs検出用のプライマーをアニールさせ、伸長反応を行う。SNPs検出用のプライマーは、検出対象となっている変異部位に隣接する領域にアニールするようにデザインされている。
【0070】
このとき、伸長反応のためのヌクレオチド基質として、蛍光偏光色素でラベルし、かつ3'-OHをブロックしたヌクレオチド誘導体(ターミネータ)を用いる。その結果、変異部位に相当する位置の塩基に相補的な塩基が1塩基だけ取りこまれて伸長反応が停止する。ヌクレオチド誘導体のプライマーへの取りこみは、分子量の増大による蛍光偏光(Fluorescence polarization;FP)の増加によって検出することができる。蛍光偏光色素に波長の異なる2種類のラベルを用いれば、特定のSNPsが2種類の塩基のうちのいずれであるのかを特定することができる。蛍光偏光のレベルは定量することができるので、1度の解析でアレルがホモかヘテロかを判定することもできる。
【0071】
[MALDI-TOF/MS法]
PCR産物をMALDI-TOF/MSで解析することによって塩基種の決定を行うこともできる。MALDI-TOF/MSは、分子量をきわめて正確に知ることができるため、タンパク質のアミノ酸配列や、DNAの塩基配列のわずかな相違を明瞭に識別することができる解析手法として様々な分野で利用されている。MALDI-TOF/MSによる塩基種の決定のためには、まず解析対象であるアレルを含む領域をPCRで増幅する。次いで増幅産物を単離してMALDI-TOF/MSによってその分子量を測定する。アレルの塩基配列は予めわかっているので、分子量に基づいて増幅産物の塩基配列は一義的に決定される。
【0072】
MALDI-TOF/MSを利用した塩基種の決定には、PCR産物の分離工程などが必要となる。しかし標識プライマーや標識プローブを使わないで、正確な塩基種の決定が期待できる。また複数の場所の変異の同時検出にも応用することができる。
[IIs型制限酵素を利用したSNPs特異的な標識方法]
【0073】
PCR法を利用した更に高速な塩基種の決定が可能な方法も報告されている。例えば、IIs型制限酵素を利用して変異部位の塩基種の決定が行われている。この方法においては、PCRにあたり、IIs型制限酵素の認識配列を有するプライマーが用いられる。遺伝子組み換えに利用される一般的な制限酵素(II型)は、特定の塩基配列を認識して、その塩基配列中の特定部位を切断する。これに対してIIs型の制限酵素は、特定の塩基配列を認識して、認識塩基配列から離れた部位を切断する。酵素によって、認識配列と切断個所の間の塩基数は決まっている。従って、この塩基数の分だけ離れた位置にIIs型制限酵素の認識配列を含むプライマーがアニールするようにすれば、IIs型制限酵素によってちょうど変異部位で増幅産物を切断することができる。
【0074】
IIs型制限酵素で切断された増幅産物の末端には、SNPsの塩基を含む付着末端(conhesive end)が形成される。ここで、増幅産物の付着末端に対応する塩基配列からなるアダプターをライゲーションする。アダプターは、変異変異に対応する塩基を含む異なる塩基配列からなり、それぞれ異なる蛍光色素で標識しておくことができる。最終的に、増幅産物は変異部位の塩基に対応する蛍光色素で標識される。
【0075】
前記IIs型制限酵素認識配列を含むプライマーに、捕捉プライマー(capture primer)を組み合せてPCR法を行えば、増幅産物は蛍光標識されるとともに、捕捉プライマーを利用して固相化することができる。例えばビオチン標識プライマーを捕捉プライマーとして用いれば、増幅産物はアビジン結合ビーズに捕捉することができる。こうして捕捉された増幅産物の蛍光色素を追跡することにより、塩基種を決定することができる。
【0076】
[磁気蛍光ビーズを使った変異部位における塩基種の決定]
複数のアレルを単一の反応系で並行して解析することができる技術も公知である。複数のアレルを並行して解析することは、多重化と呼ばれている。一般に蛍光シグナルを利用したタイピング方法では、多重化のために異なる蛍光波長を有する蛍光成分が必要である。しかし実際の解析に利用することができる蛍光成分は、それほど多くない。これに対して、樹脂等に複数種の蛍光成分を混合した場合には、限られた種類の蛍光成分であっても、相互に識別可能な多様な蛍光シグナルを得ることができる。更に、樹脂中に磁気で吸着される成分を加えれば蛍光を発するとともに、磁気によって分離可能なビーズとすることができる。このような磁気蛍光ビーズを利用した、多重化変異タイピングが考え出された(バイオサイエンスとバイオインダストリー, Vol.60 No.12, 821-824)。
【0077】
磁気蛍光ビーズを利用した多重化変異タイピングにおいては、各アレルの変異部位に相補的な塩基を末端に有するプローブが磁気蛍光ビーズに固定化される。各アレルにそれぞれ固有の蛍光シグナルを有する磁気蛍光ビーズが対応するように、両者は組み合せられる。一方、磁気蛍光ビーズに固定されたプローブが相補配列にハイブリダイズしたときに、当該アレル上で隣接する領域に相補的な塩基配列を有する蛍光標識オリゴDNAを調製する。
【0078】
アレルを含む領域を非対称PCRによって増幅し、上記の磁気蛍光ビーズ固定化プローブと蛍光標識オリゴDNAをハイブリダイズさせ、更に両者をライゲーションする。磁気蛍光ビーズ固定化プローブの末端が、変異部位の塩基に相補的な塩基配列であった場合には効率的にライゲーションされる。逆にもしも変異のために末端の塩基が異なれば、両者のライゲーション効率は低下する。その結果、各磁気蛍光ビーズには、試料が当該磁気蛍光ビーズに相補的な塩基種であった場合に限り、蛍光標識オリゴDNAが結合する。
【0079】
磁気によって磁気蛍光ビーズを回収し、更に各磁気蛍光ビーズ上の蛍光標識オリゴDNAの存在を検出することにより、塩基種が決定される。磁気蛍光ビーズは、フローサイトメーターでビーズ毎に蛍光シグナルを解析できるので、多種類の磁気蛍光ビーズが混合されていてもシグナルの分離は容易である。つまり、多種類の変異部位について、単一の反応容器で並行して解析する「多重化」が達成される。
【0080】
[Invader法]
PCR法に依存しないジェノタイピングのための方法も実用化されている。例えば、Invader法では、アレルプローブ、インベーダープローブ、およびFRETプローブの3種類のオリゴヌクレオチドと、cleavaseと呼ばれる特殊なヌクレアーゼのみで、塩基種の決定を実現している。これらのプローブのうち標識が必要なのはFRETプローブのみである。
【0081】
アレルプローブは、検出すべきアレルに隣接する領域にハイブリダイズするようにデザインされる。アレルプローブの5'側には、ハイブリダイズに無関係な塩基配列からなるフラップが連結されている。アレルプローブは変異部位の3'側にハイブリダイズし、変異部位の上でフラップに連結する構造を有する。
【0082】
一方インベーダープローブは、変異部位の5'側にハイブリダイズする塩基配列からなっている。インベーダープローブの塩基配列は、ハイブリダイズによって3'末端が変異部位に相当するようにデザインされている。インベーダープローブにおける変異部位に相当する位置の塩基は任意で良い。つまり、変異部位を挟んでインベーダープローブとアレルプローブとが隣接してハイブリダイズするように両者の塩基配列はデザインされている。
【0083】
変異部位がアレルプローブの塩基配列に相補的な塩基であった場合には、インベーダープローブとアレルプローブの両者がアレルにハイブリダイズすると、アレルプローブの変異部位に相当する塩基にインベーダープローブが侵入(invasion)した構造が形成される。cleavaseは、このようにして形成された侵入構造を形成したオリゴヌクレオチドのうち、侵入された側の鎖を切断する。切断は侵入構造の上で起きるので、結果としてアレルプローブのフラップが切り離されることになる。一方、もしも変異部位の塩基がアレルプローブの塩基に相補的でなかった場合には、変異部位におけるインベーダープローブとアレルプローブの競合は無く、侵入構造は形成されない。したがってcleavaseによるフラップの切断が起こらない。
【0084】
FRETプローブは、こうして切り離されたフラップを検出するためのプローブである。FRETプローブは5'末端側に自己相補配列を有し、3'末端側に1本鎖部分が配置されたヘアピンループを構成している。FRETプローブの3'末端側に配置された1本鎖部分は、フラップに相補的な塩基配列からなっていて、ここにフラップがハイブリダイズすることができる。フラップがFRETプローブにハイブリダイズすると、FRETプローブの自己相補配列の5'末端部分にフラップの3'末端が侵入した構造が形成されるように両者の塩基配列がデザインされている。cleavaseは侵入構造を認識して切断する。FRETプローブのcleavaseによって切断される部分を挟んで、TaqMan PCRと同様のレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、FRETプローブの切断を蛍光シグナルの変化として検知することができる。
【0085】
なお、理論的には、フラップは切断されない状態でもFRETプローブにハイブリダイズするはずである。しかし実際には、切断されたフラップとアレルプローブの状態で存在しているフラップとでは、FRETに対する結合効率に大きな差が有る。そのため、FRETプローブを利用して、切断されたフラップを特異的に検出することは可能である。
【0086】
Invader法に基づいて塩基種を決定するためには、アレルAとアレルBのそれぞれに相補的な塩基配列を含む、2種類のアレルプローブを用意すれば良い。このとき両者のフラップの塩基配列は異なる塩基配列とする。フラップを検出するためのFRETプローブも2種類を用意し、それぞれのレポーター色素を識別可能なものとしておけば、TacMan PCR法と同様の考え方によって、塩基種を決定することができる。
【0087】
Invader法の利点は、標識の必要なオリゴヌクレオチドがFRETプローブのみであることである。FRETプローブは検出対象の塩基配列とは無関係に、同一のオリゴヌクレオチドを利用することができる。従って、大量生産が可能である。一方アレルプローブとインベーダープローブは標識する必要が無いので、結局、ジェノタイピングのための試薬を安価に製造することができる。
【0088】
[RCA法]
PCR法に依存しない塩基種の決定方法として、RCA法を挙げることができる。鎖置換作用を有するDNAポリメラーゼが、環状の1本鎖DNAを鋳型として、長い相補鎖を合成する反応に基づくDNAの増幅方法が、Rolling Circle Amplification(RCA)法である(Lizardri PM et al.,Nature Genetics 19, 225, 1998)。RCA法においては、環状DNAにアニールして相補鎖合成を開始するプライマーと、このプライマーによって生成する長い相補鎖にアニールする第2のプライマーを利用して、増幅反応を構成している。
【0089】
RCA法には、鎖置換作用を有するDNAポリメラーゼが利用されている。そのため、相補鎖合成によって2本鎖となった部分は、より5'側にアニールした別のプライマーから開始した相補鎖合成反応によって置換される。例えば、環状DNAを鋳型とする相補鎖合成反応は、1周分では終了しない。先に合成した相補鎖を置換しながら相補鎖合成は継続し、長い1本鎖DNAが生成される。一方、環状DNAを鋳型として生成した長い1本鎖DNAには、第2のプライマーがアニールして相補鎖合成が開始する。RCA法において生成される1本鎖DNAは、環状のDNAを鋳型としていることから、その塩基配列は同じ塩基配列の繰り返しである。従って、長い1本鎖の連続的な生成は、第2のプライマーの連続的なアニールをもたらす。その結果、変性工程を経ることなく、プライマーがアニールすることができる1本鎖部分が連続的に生成される。こうして、DNAの増幅が達成される。
【0090】
RCA法に必要な環状1本鎖DNAが変異部位の塩基種に応じて生成されれば、RCA法を利用して塩基種の決定をすることができる。そのために、直鎖状で1本鎖のパドロックプローブが利用される。パドロックプローブは、5'末端と3'末端に検出すべき変異部位の両側に相補的な塩基配列を有している。これらの塩基配列は、バックボーンと呼ばれる特殊な塩基配列からなる部分で連結されている。変異部位がパドロックプローブの末端に相補的な塩基配列であれば、アレルにハイブリダイズしたパドロックプローブの末端をDNAリガーゼによってライゲーションすることができる。その結果、直鎖状のパドロックプローブが環状化され、RCA法の反応がトリガーされる。DNAリガーゼの反応は、ライゲーションすべき末端部分が完全に相補的でない場合には反応効率が著しく低下する。従って、ライゲーションの有無をRCA法で確認することによって、変異部位の塩基種の決定が可能である。
【0091】
RCA法は、DNAを増幅することはできるが、そのままではシグナルを生成しない。また増幅の有無のみを指標とするのでは、アレル毎に反応を行わなければ、通常、塩基種を決定することができない。これらの点を塩基種の決定のために改良した方法が公知である。例えば、モレキュラービーコンを利用して、RCA法に基づいて1チューブで延期種の決定を行うことができる。モレキュラービーコンは、TaqMan法と同様に、蛍光色素とクエンチャーを利用したシグナル生成用プローブである。モレキュラービーコンの5'末端と3'末端は相補的な塩基配列で構成されており、単独ではヘアピン構造を形成する。両端付近を蛍光色素とクエンチャーで標識しておけば、ヘアピン構造を形成している状態では蛍光シグナルが検出できない。モレキュラービーコンの一部を、RCA法の増幅産物に相補的な塩基配列としておけば、モレキュラービーコンはRCA法の増幅産物にハイブリダイズする。ハイブリダイズによってヘアピン構造が解消されるため、蛍光シグナルが生成される。
【0092】
モレキュラービーコンの利点は、パドロックプローブのバックボーン部分の塩基配列を利用することによって、検出対象とは無関係にモレキュラービーコンの塩基配列を共通にできる点である。アレル毎にバックボーンの塩基配列を変え、蛍光波長が異なる2種類のモレキュラービーコンを組み合せれば、1チューブで塩基種の決定が可能である。蛍光標識プローブの合成コストは高いので、測定対象に関わらず共通のプローブを利用できることは、経済的なメリットである。
【0093】
これらの方法はいずれも多量のサンプルを高速にジェノタイピングするために開発された方法である。MALDI-TOF/MSを除けば、通常、いずれの方法にも何らかの形で標識プローブなどを用意する必要がある。これに対して、標識プローブなどに頼らない塩基種決定法も古くから行われている。このような方法の一つとして、例えば、制限酵素断片長変異(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR-RFLP法等が挙げられる。
【0094】
さらに、本発明は以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質またはその断片に結合する抗体に関する。
(a)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAよりコードされるタンパク質
(b)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
【0095】
本発明の抗体は上記の(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質を認識する限り特に限定されないが、特異的に(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質を認識する抗体であることが好ましい。
【0096】
該タンパク質の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。本発明の該タンパク質を認識する抗体は、既に公知の抗体を用いることが可能であり、又、該タンパク質を抗原とし、当業者に公知の方法により抗体を作製して用いることも可能である。
【0097】
具体的には、例えば、以下のようにして作製することができる。
該タンパク質、あるいはGSTとの融合タンパク質として大腸菌等の微生物において発現させたリコンビナントタンパク質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、該該タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、該該タンパク質またはその部分ペプチドをマウス等の小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、該該タンパク質に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、該該タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0098】
また、ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして取得することができる。該タンパク質若しくはその断片を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングする。抗原の調製は公知の方法、例えばバキュロウイルスを用いた方法(WO98/46777など)等に準じて行うことができる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46)等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行えばよい。その後、ハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成し、得られたcDNAの配列を公知の方法により解読すればよい。
【0099】
該タンパク質を認識する抗体は、該タンパク質と結合する限り特に制限はなく、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体、ヒト抗体等を適宜用いることができる。又、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体なども使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体等であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
【0100】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
【0101】
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(国際特許出願公開番号WO 93/12227, WO 92/03918,WO 94/02602, WO 94/25585,WO 96/34096, WO 96/33735参照)。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を有する適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO 92/01047, WO 92/20791, WO 93/06213, WO 93/11236, WO 93/19172, WO 95/01438, WO 95/15388を参考にすることができる。
【0102】
本発明において、該タンパク質を認識する抗体の具体的な例としてGSDMBタンパク質の67番目から18アミノ酸 :DKWLDELDSGLQGQKAEF(配列番号:77)に相当する領域のペプチドを合成し、ニワトリに免疫することにより作製した抗体が挙げられる。
【0103】
本発明に使用する抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)、放射性物質、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される。
【0104】
本発明において好ましい抗体として、低分子化抗体を挙げることができる。低分子化抗体とは、全長抗体(whole antibody、例えばwhole IgG等)の一部分が欠損している抗体断片を含み、抗原への結合能を有していれば特に限定されない。本発明の抗体断片は、全長抗体の一部分であれば特に限定されないが、重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)を含んでいることが好ましく、特に好ましいのはVHとVLの両方を含む断片である。抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv(シングルチェインFv)、などを挙げることができるが、好ましくはscFv (Huston, J. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883、 Plickthun「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies」Vol.113, Resenburg 及び Moore編, Springer Verlag, New York, pp.269-315, (1994))である。このような抗体断片を得るには、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンなどで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい(例えば、Co, M. S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976 ; Better, M. and Horwitz, A. H., Methods Enzymol. (1989) 178, 476-496 ; Pluckthun, A. and Skerra, A., Methods Enzymol. (1989) 178, 497-515 ; Lamoyi, E., Methods Enzymol. (1986) 121, 652-663 ; Rousseaux, J. et al., Methods Enzymol. (1986) 121, 663-669 ; Bird, R. E. and Walker, B. W., Trends Biotechnol. (1991) 9, 132-137参照)。
【0105】
本発明の抗体は、癌の検査薬として使用することが可能である。上記の検査薬においては、有効成分である抗体以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、タンパク質安定剤(BSAやゼラチンなど)、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい
【0106】
また、本発明の抗体は、癌の検査薬としてだけでなく、癌の治療薬としても使用することが可能である。該抗体は、患者自身の免疫反応を利用して癌細胞を攻撃することにより抗癌薬として機能することができる。該抗体は、癌細胞特異的に発現するGSDMB蛋白質に結合する抗体であり、抗体がGSDMB蛋白質に結合することで、抗原抗体反応によるシグナル伝達が起こり患者体内の免疫細胞を活性化し、免疫細胞による癌細胞への攻撃を誘発して癌の増大を抑えることができる。
【0107】
本発明の抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)、放射性物質、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される。
【0108】
該抗体は、癌に特異的に発現するGSDMB蛋白質を標的とするため、癌に特化して治療すことが出来、正常細胞に作用しないため、副作用が極めて少ないことが可能である。更にGSDMBは、全ての癌に共通して発現するので、幅広い癌への適用が可能である。また、該抗体(抗癌薬)は、治療前に患者の癌細胞のGSDMB発現程度を調べることによって抗体薬の有効性の推測が可能である。よって個々の患者の病態にあわせた治療を行うことが可能となる。
【0109】
本発明の抗体を有効成分とする治療薬には、医薬上許容しうる添加剤を添加してもよい。ここで医薬上許容される添加剤とは、それ自体は抗体とは異なる物質であって、抗体投与において抗体とともに投与可能な医薬上許容される材料を意味する。例えば、保存剤、安定剤等のワクチン添加物が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0110】
安定剤としては、0.2%程度のゲラチンやデキストラン、0.1-1.0%のグルタミン酸ナトリウム、あるいは約5%の乳糖や約2%のソルビトールなどを使用することが出来るが、これらに限定されるものではない。保存剤としては、0.01%程度のチメロサール、0.1%程度のベータプロピオノラクトンや、0.5%程度のフェノキシエタノールなどを使用することが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0111】
注射剤を調製する場合、必要により、pH 調製剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤等を添加し、常法により、皮下、筋肉内、静脈内注射剤とする。注射剤は、溶液を容器に収納後、凍結乾燥等によって、固形 製剤として、用時調製の製剤としてもよい。また、一投与量を容器に収納してもよく、また、投与量を同一の容器に収納してもよい。
【0112】
本発明の抗体の接種法としては、公知の種々の方法が使用できる。接種法としては皮下注射、筋肉内注射、経鼻接種、経口接種、経皮接種等が好ましく、筋肉注射がより好ましいがこれらに限定されるものではない。
【0113】
どの接種方法が適切かは抗体の種類、剤型、接種対象者の年齢、等を考慮して決定される。また、接種を行う対象としてはヒト以外に、家畜、野外動物、鳥類もあげることができる。接種方法は専門家による臨床試験を通じて最終決定され、これらの方法は同業者にとって公知である。一回接種用製品でも複数回接種用製品でも良い。投与量は、患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
【0114】
さらに本発明は、以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドに関する。
(a)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAであって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
【0115】
ここで、オリゴヌクレオチドには、ポリヌクレオチドが含まれる。本発明のオリゴヌクレオチドは、本発明のタンパク質をコードするDNAの検出や増幅に用いるプローブやプライマー、該DNAの発現を検出するためのプローブやプライマー、本発明のタンパク質の発現を制御するためのヌクレオチド又はヌクレオチド誘導体(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドやリボザイム、またはこれらをコードするDNA等)として使用することができる。また、本発明のオリゴヌクレオチドは、DNAアレイの基板の形態で使用することができる。
【0116】
該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bp であり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、本発明のDNAまたはその相補鎖の少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。また、プライマーとして用いる場合、3'側の領域は相補的とし、5'側には制限酵素認識配列やタグなどを付加することができる。
【0117】
また、上記オリゴヌクレオチドをプローブとして使用する場合、該プローブは、本発明のDNAまたはその相補鎖の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするものであれば、特に制限されない。該プローブは、合成オリゴヌクレオチドであってもよく、通常少なくとも15bp以上の鎖長を有する。
【0118】
本発明のオリゴヌクレオチドをプローブとして用いる場合は、適宜標識して用いることが好ましい。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、オリゴヌクレオチドの5'端を32Pでリン酸化することにより標識する方法、およびクレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーオリゴヌクレオチド等をプライマーとして32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)を例示することができる。
【0119】
本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。プローブは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。
【0120】
本発明のオリゴヌクレオチドは癌の検査薬として用いることも可能である。該検査薬においては、有効成分であるオリゴヌクレオチド以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、タンパク質安定剤(BSAやゼラチンなど)、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
【0121】
本発明は、GSDMBのプロモーターDNA(実施例4に記載のプロモーターB)を提供する。該プロモーターDNAとしては、配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNAが例示できる。配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNAとしては、配列番号:69に記載の塩基配列からなるDNA、配列番号:69に記載の塩基配列からなるDNAの上流域や下流域を含むDNAなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0122】
また、本発明におけるプロモーターDNAとしては、配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNAと構造的に類似しており、かつ、配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNAと同等あるいは改善されたプロモーター活性能を持つDNAも挙げられる。このようなDNAとしては、例えば、配列番号:69に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNAが例示できる。該DNAは、ハイブリダイゼーション技術やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術、site-directed mutagenesis法等の方法により調製することが可能である。ハイブリダイゼーションの条件については上記と同様である。
【0123】
調製されたDNAがプロモーター活性を有するか否かは、当業者においてはレポーター遺伝子を用いたレポーターアッセイ等により検討することが可能である。該レポーター遺伝子としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)およびGFP遺伝子等を挙げることができる。レポーター遺伝子の発現レベルは、該レポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、また、β-クロニダーゼ遺伝子(GUS)である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用によるGlucuron(ICN社)の発光や5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-グルクロニド(X-Gluc)の発色を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
【0124】
配列番号:69に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNAには、配列番号:69に記載の塩基配列からなるDNAより短いDNAであって、プロモーター活性に必須な領域からなるDNAも含まれる。このようなDNAは、当業者に周知の方法で同定・単離することができる。
【0125】
また、本発明は、本発明のプロモーターDNAと癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNAを提供する。このようなDNAは、抗癌剤として癌の治療に使用できる有用なDNAである。
【0126】
本発明において、「機能的に結合した」とは、本発明のプロモーターDNAに転写因子が結合することにより、癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAの発現が誘導されるように、本発明のプロモーターDNAと癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAとが結合していることをいう。従って、癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAが他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、本発明のプロモーターDNAに転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。
【0127】
本発明における癌において抑制的に作用するタンパク質としては、癌抑制タンパク質、細胞障害性タンパク質などが例示できるが、これらに限定されるものではない。直接的または間接的に細胞に障害を与え、致死的影響を及ぼすタンパク質であれば、本発明における細胞障害性タンパク質に含まれる。このようなタンパク質としては、ジフテリア毒素、HSV由来チミジンキナーゼなどが例示できる。また、癌抑制タンパク質としては特に限定されず、p53 (Tp53)やRB-1 (Retinoblastoma-1)などが例示できる。
【0128】
本発明のプロモーターDNAは、例えばPCRにて増幅することで得ることができる。得られたプロモーターDNAの3’側に、当業者に周知の方法で、癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAを連結することにより、本発明のプロモーターDNAと癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNAを構築することができる。また、構築されたDNAを、適当なベクターに組み込み、大腸菌等の宿主細胞で増幅することが可能である。
【0129】
ヒトを含む動物の生体内において、本発明のプロモーターDNAと癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNAを発現させる方法としては、該DNAを適当なベクターに組み込み、例えば、レトロウイルス法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、アデノウイルス法などにより生体内に導入する方法などが挙げられる。これにより、癌の遺伝子治療を行うことが可能である。用いられるベクターとしては、例えば、アデノウイルスベクター(例えばpAdexlcw)やレトロウイルスベクター(例えばpZIPneo)などが挙げられるが、これらに制限されない。ベクターへの本発明のDNAの挿入などの一般的な遺伝子操作は、常法に従って行うことが可能である(Molecular Cloning, 5.61-5.63)。生体内への投与は、ex vivo法であっても、in vivo法であってもよい。
【0130】
本発明は、GSDMBスプライシングバリアント、GSDMB変異体、およびGSDMBスプライシングバリアント変異体のDNAに関する。
【0131】
GSDMBスプライシングバリアント、GSDMB変異体、およびGSDMBスプライシングバリアント変異体のDNAとしては、配列番号:3〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNA、および配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
【0132】
本発明は、配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを包含する。このようなDNAには、例えば、該タンパク質の変異体、アレル、バリアント、ホモログ等をコードするDNAが含まれる。「機能的に同等」という記載に関する説明は上記のものと同等のものである。
【0133】
あるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製するための、当業者によく知られた方法としては、タンパク質に変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer, W. et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Proc Natl Acad Sci USA. 82, 488-492、Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763-2766)などを用いて、該タンパク質のアミノ酸に適宜変異を導入することにより、該タンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製することができる。
【0134】
また、アミノ酸の変異は自然界においても生じうる。このように、該タンパク質のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなり、該タンパク質と機能的に同等なタンパク質もまた本発明に含まれる。このような変異体における、変異するアミノ酸数は、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、より好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内)である。
【0135】
変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、 I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸 (D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。
【0136】
あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質がその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666 、Zoller, M. J. & Smith, M. Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500 、Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433 、Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413)。
【0137】
該タンパク質のアミノ酸配列に複数個のアミノ酸残基が付加されたタンパク質には、これらタンパク質を含む融合タンパク質が含まれる。融合タンパク質は、これらタンパク質と他のタンパク質とが融合したものであり、本発明に含まれる。融合タンパク質を作製するには、例えば、該タンパク質をコードするDNAと他のタンパク質をコードするDNAをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよい。本発明のタンパク質との融合に付される他のタンパク質としては、特に限定されない。
【0138】
本発明のタンパク質との融合に付される他のペプチドとしては、特に制限はなく、例えば、6個のHis(ヒスチジン)残基からなる6×His等の公知のペプチドを使用することができる。また、本発明のタンパク質との融合に付される他のタンパク質としては、例えば、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。市販されているこのようなタンパク質をコードするDNAを本発明のタンパク質をコードするDNAと融合させ、これにより調製された融合DNAを発現させることにより、融合タンパク質を調製することができる。
【0139】
また、あるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA を調製する当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. press, 1989)を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者においては、該タンパク質をコードするDNA配列(配列番号:3〜68の奇数番目の配列)もしくはその一部を利用して、これと相同性の高いDNAを単離すること、さらに、該DNAから該タンパク質と機能的に同等なタンパク質を単離することは、周知の技術である。
【0140】
本発明には、該タンパク質をコードするDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、該タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAが含まれる。このようなDNAとしては、例えば、哺乳類由来のDNAであり、より好ましくはヒト、サル、ブタ、ウシ由来のホモログが挙げられるが、これらに制限されない。
【0141】
該タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、5×SSC 、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSの条件である。これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0142】
また、該タンパク質をコードするDNA配列(配列番号:3〜68の奇数番目の配列)の配列情報を基に合成したプライマーを用いる遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して、該タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを単離することも可能である。
【0143】
これらハイブリダイゼーション技術や遺伝子増幅技術により単離されるDNAがコードする、該タンパク質と機能的に同等なタンパク質は、通常、該タンパク質とアミノ酸配列において高い相同性を有する。本発明のタンパク質には、該タンパク質と機能的に同等であり、かつ該タンパク質のアミノ酸配列と高い相同性を有するタンパク質も含まれる。高い相同性とは、アミノ酸レベルにおいて、通常、少なくとも50%以上の同一性、好ましくは75%以上の同一性、さらに好ましくは85%以上の同一性、さらに好ましくは95%以上の同一性を指す。
【0144】
アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている (Altschul et al. J. Mol. Biol.215:403-410, 1990)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターはたとえばscore =100、wordlength =12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターはたとえばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http: //www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0145】
本発明のDNAは、本発明のタンパク質をコードしうるものであればいかなる形態でもよい。即ち、mRNAから合成されたcDNAであるか、ゲノムDNAであるか、化学合成DNAであるかなどを問わない。また、本発明のタンパク質をコードしうる限り、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNAが含まれる。
【0146】
本発明のDNAは、当業者に公知の方法により調製することができる。例えば、本発明のタンパク質を発現している細胞よりcDNAライブラリーを作製し、本発明のDNAの配列(配列番号:3〜68の奇数番目の配列)の一部をプローブにしてハイブリダイゼーションを行うことにより調製できる。cDNAライブラリーは、例えば、文献(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))に記載の方法により調製してもよいし、市販のcDNAライブラリーを用いてもよい。また、本発明のタンパク質を発現している細胞よりRNAを調製し、逆転写酵素によりcDNAを合成した後、本発明のDNAの配列(配列番号:3〜68の奇数番目の配列)に基づいてオリゴDNAを合成し、これをプライマーとして用いてPCR反応を行い、本発明のタンパク質をコードするcDNAを増幅させることにより調製することも可能である。
【0147】
また、得られたcDNAの塩基配列を決定することにより、それがコードする翻訳領域を決定でき、本発明のタンパク質のアミノ酸配列を得ることができる。また、得られたcDNAをプローブとしてゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、ゲノムDNAを単離することができる。
【0148】
本発明は、上記本発明のDNAがコードするタンパク質を提供する。本発明のタンパク質は、後述するそれを産生する細胞や宿主あるいは精製方法により、アミノ酸配列、分子量、等電点又は糖鎖の有無や形態などが異なり得る。しかしながら、得られたタンパク質が、該タンパク質と同等の機能を有している限り、本発明に含まれる。例えば、本発明のタンパク質を原核細胞、例えば大腸菌で発現させた場合、本来のタンパク質のアミノ酸配列のN末端にメチオニン残基が付加される。本発明のタンパク質はこのようなタンパク質も包含する。
【0149】
本発明のタンパク質は、当業者に公知の方法により、組み換えタンパク質として、また天然のタンパク質として調製することが可能である。組み換えタンパク質であれば、本発明のタンパク質をコードするDNAを、適当な発現ベクターに組み込み、これを適当な宿主細胞に導入して得た形質転換体を回収し、抽出物を得た後、イオン交換、逆相、ゲル濾過などのクロマトグラフィー、あるいは本発明のタンパク質に対する抗体をカラムに固定したアフィニティークロマトグラフィーにかけることにより、または、さらにこれらのカラムを複数組み合わせることにより精製し、調製することが可能である。
【0150】
また、本発明のタンパク質をグルタチオンS-トランスフェラーゼタンパク質との融合タンパク質として、あるいはヒスチジンを複数付加させた組み換えタンパク質として宿主細胞(例えば、動物細胞や 大腸菌など)内で発現させた場合には、発現させた組み換えタンパク質はグルタチオンカラムあるいはニッケルカラムを用いて精製することができる。融合タンパク質の精製後、必要に応じて融合タンパク質のうち、目的のタンパク質以外の領域を、トロンビンまたはファクターXaなどにより切断し、除去することも可能である。
【0151】
天然のタンパク質であれば、当業者に周知の方法、例えば、本発明のタンパク質を発現している組織や細胞の抽出物に対し、後述する本発明のタンパク質に結合する抗体が結合したアフィニティーカラムを作用させて精製することにより単離することができる。抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
【0152】
本発明は、また、本発明のDNAが挿入されたベクターを提供する。本発明のベクターは、宿主細胞内において本発明のDNAを保持させたり、本発明のタンパク質を発現させるために有用である。
【0153】
ベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、 DH5α、HB101、XL1Blue)などで大量に増幅させ大量調製するために、大腸菌で増幅されるための「ori」をもち、さらに形質転換された大腸菌の選抜遺伝子(例えばなんらかの薬剤(アンピシリンやテトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコール)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すれば特に制限はない。ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7などが挙げられる。
【0154】
本発明のタンパク質を生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら, Nature (1989) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーター(Betterら, Science (1988) 240, 1041-1043 )、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(ファルマシア社製)、「QIAexpress system」(キアゲン社製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。
【0155】
また、ベクターには、タンパク質分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。タンパク質分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379 )を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
【0156】
大腸菌以外にも、例えば、本発明のタンパク質を製造するためのベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3 (インビトロゲン社製)や、pEGF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990,18(17),p5322)、pEF 、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(ギブコBRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例え ば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、 「Pichia Expression Kit」(インビトロゲン社製)、pNV11 、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
【0157】
CHO 細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモー ター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK- RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
【0158】
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、 また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0159】
一方、動物の生体内で本発明のDNAを発現させる方法としては、本発明のDNAを適当なベクターに組み込み、例えば、レトロウイルス法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、アデノウイルス法などにより生体内に導入する方法などが挙げられる。
【0160】
また、本発明は、本発明のベクターが導入された宿主細胞を提供する。本発明のベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、例えば、大腸菌や種々の動物細胞などを用いることが可能である。
【0161】
真核細胞を使用する場合、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を宿主に用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J. Exp. Med. (1995) 108, 945)、COS、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle, et al., Nature (1981) 291, 358-340)、あるいは昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5が知られている。CHO細胞としては、特に、DHFR遺伝子を欠損したCHO細胞であるdhfr-CHO(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1980) 77, 4216-4220)やCHO K-1(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1968) 60, 1275)を好適に使用することができる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(ベーリンガーマンハイム社製)を用いた方法、エレクトロポーレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
【0162】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞がタンパク質生産系として知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が知られている。
【0163】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli)、例えば、JM109、DH5α、HB101等が挙げられ、その他、枯草菌が知られている。
【0164】
これらの細胞を目的とするDNAにより形質転換し、形質転換された細胞をin vitroで培養することによりタンパク質が得られる。培養は、公知の方法に従い行うことができる。例えば、動物細胞の培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができる。その際、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできるし、無血清培養してもよい。培養時のpHは、約6〜8であるのが好ましい。培養は、通常、約30〜40℃で約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。
【0165】
一方、in vivoでタンパク質を産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。これらの動物又は植物に目的とするDNAを導入し、動物又は植物の体内でタンパク質を産生させ、回収する。本発明における「宿主」とは、これらの動物、植物を包含する。
【0166】
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
【0167】
例えば、目的とするDNAを、ヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子との融合遺伝子として調製する。次いで、この融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ移植する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的のタンパク質を得ることができる。トランスジェニックヤギから産生されるタンパク質を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702)。
【0168】
また、昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。カイコを用いる場合、目的のタンパク質をコードするDNAを挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させることにより、このカイコの体液から目的のタンパク質を得ることができる(Susumu, M. et al., Nature (1985) 315, 592-594)。
【0169】
さらに、植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、目的とするタンパク質をコードするDNAを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に感染させ、本タバコの葉より所望のタンパク質を得ることができる(Julian K.-C. Ma et al., Eur. J. Immunol. (1994) 24, 131-138)。
【0170】
これにより得られた本発明のタンパク質は、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一なタンパク質として精製することができる。タンパク質の分離、精製は、通常のタンパク質の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせればタンパク質を分離、精製することができる。
【0171】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製されたタンパク質も包含する。
【0172】
なお、タンパク質を精製前又は精製後に適当なタンパク質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、部分的にペプチドを除去することもできる。タンパク質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが用いられ る。
【0173】
本発明はまた、本発明のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドを提供する。オリゴヌクレオチドの説明については上記と同様である。
【実施例】
【0174】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。以下に述べる各実施例は、以下の細胞、実験方法において実施されたものである。
【0175】
<癌組織・正常組織>
ヒト癌組織は、順天堂大学・伊豆長岡病院において十分なインフォームドコンセントを受けた患者の外科手術により切除された検体を用いた。正常組織は、同一患者の切除された癌組織周辺の病理学的検査の結果、正常と判断された組織を用いた。前癌病変組織は、順天堂大学・伊豆長岡病院において十分なインフォームドコンセントを受けた患者の外科手術により切除された癌組織の周辺部の内、病理学的検査により前癌段階と判断された組織を用いた。また本研究は、国立遺伝学研究所並びに順天堂大学伊豆長岡病院のヒトゲノム研究倫理委員会の承認を得て実施された。
【0176】
<癌細胞培養方法>
5種の胃癌細胞株:MKN-1(腺扁平上皮癌)、MKN-7(管状腺癌・高分化型)、MKN-45(管状腺癌・低分化型)、MKN-74(管状腺癌・中分化型)、及びKATOIII(印環細胞癌)、膵臓癌細胞株:MIAPaCa-2、KP-2、皮膚癌細胞株:HSC-1、HSC-4、HSC-5、A-431は、ヒューマンサイエンス振興財団・ヒューマンサイエンス研究資源バンクから購入した。大腸癌細胞株:CACO-2、COLO-320、CW-2、TT1TKB、肝臓癌細胞株:HepG2は、理化学研究所 RIKEN CELL BANKから購入した。また乳癌細胞株:SK-BR-3は、大日本製薬株式会社より購入した。各癌細胞株は、購入元から添付された細胞培養データシートに記載のある細胞培養液、細胞培養条件に従って細胞を培養し、実験に用いた。
【0177】
<RT-PCRによるGSDMBの発現解析方法>
ヒト正常組織全RNA、ヒト癌組織全RNA、ヒト前癌病変組織全RNA、並びに胃癌培養細胞からの全RNAの調製は、ISOGEN(日本ジーン社)を使用し、供給元の推奨する手順に従って行った。各皮膚癌培養細胞から得られた全RNAは、37℃で30分間、DNA分解酵素で処理し、サンプル中のゲノムDNAを除去した。全RNAからcDNAの合成の手順は、以下の通りである。ヒト正常、前癌、癌組織由来全RNA、7.5μg、並びに癌培養細胞全RNAに10mM dNTP (10mM dATP, 10mM dCTP, 10mM dGTP, 10mM dTTP)を3μl、Oligo(dT)12-18プライマーを1500ng加え、RNA分解酵素除去処理を行った蒸留水で、最終量39μlに調製した。この溶液を65℃で5分間処理し、その後氷中にて急冷した。十分に氷温まで下がった溶液に5x First strand buffer (250mM Tris-HCl pH 8.3, 375mM KCl, 15mM MgCl2) を12μl、100mM DTTを3μl、RNA Inhibitorを3μl、逆転写酵素(SuperScript III Reverse Transcriptase: Invitrogen社)を3μl加え、55℃で50分間、反応させた。反応終了後、更に70℃で15分間保温し、逆転写酵素の酵素活性除去を行って、この最終反応物をPCRに用いるヒト正常組織、ヒト癌組織、ヒト前癌病変組織、並びに胃癌培養細胞株のcDNAサンプルとした。
【0178】
各ヒト正常、前癌、癌組織由来全、並びに癌培養細胞株サンプルにおけるGSDMB発現の確認には、PCR法により行った。使用したプライマーは、GSDMB420:GGGGACAAGTGGTTAGATGAA(配列番号:70)とGSDMB1388: TAGGAAGAGACAGAGGTAGGC(配列番号:71)、GSDMB710F:GGAGACGGTAAAGGAGGAAAC(配列番号:72)とGSDMB1185R:TACCAAGACCCCAGCAGCATT(配列番号:73)、GSDMB P-A:TGAGGTCAGAGAGGAGTTGGT(配列番号:74)とGSDMB-R:TTAGGAAGAGACAGAGGTAGG(配列番号:75)、GSDMB P-B:GATCTTCAGTTGCTTCAGGCC(配列番号:76)とGSDMB-R、のセットである。反応条件は、DNA変性反応が94℃で30秒間、アニーリング反応が57℃で30秒間、伸長反応が72℃で1分30秒間、反応サイクルは35サイクル、使用した機械は、バイオメトラ社のDNA増幅装置である。反応終了後のPCRサンプルは、1%アガロースゲルにより電気泳動し、各サンプルにおけるGSDMB発現の評価を行った。プロモーターA、及びプロモーターB特異的オルタナティブスプライス産物の検出には、先ずプロモーターA特異的プライマーセットであるGSDMB P-AとGSDMB-R、プロモーターB特異的プライマーセットであるGSDMB P-AとGSDMB-Rを用いて50μl系でRT-PCRを行い、得られたPCRサンプルの一部、1μlを鋳型に用いオルタナティブスプライス産物検出プライマーセットであるGSDMB710FとGSDMB1185Rを用いてNested PCRを行った。この操作により得られたPCR産物は、2.5%もしくは3%アガロースゲルにて電気移動を行って解析した。なお、Nested PCRのPCR条件はDNA変性反応が94℃で30秒間、アニーリング反応が57℃で30秒間、伸長反応が72℃で30秒間、反応サイクルは25サイクル、使用した機械は、バイオメトラ社のDNA増幅装置である。
【0179】
<塩基配列の解析方法>
RT-PCRにおいて増幅されたヒト正常組織、ヒト癌組織、ヒト前癌病変組織、並びに胃癌培養細胞株由来GSDMBは、pGEM-Teasy TA cloning vectorを用いてサブクローニングを行った。サブクローニングされたGSDMBの塩基配列は、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社)を用いてシークエンス反応を行い、ABI PRISM 3700 Analyzer(Applied Biosystems社)により解析した。得られた塩基配列情報は、遺伝子解析ソフトDNASIS Ver. 3.7(日立ソフトウェア社)を用いて解析を行った。
【0180】
<抗GSDMB抗体の作製方法およびIn situ ハイブリダイゼーション法>
抗GSDMB抗体は、GSDMBタンパク質の67番目から18アミノ酸 :DKWLDELDSGLQGQKAEF(配列番号:77)に相当する領域のペプチドを合成し、ニワトリに免疫することにより作製した。抗体の力価測定は、ELISA法により行った。
【0181】
ヒト癌組織サンプルは、手術により切除された後、4 %ホルムアルデヒド溶液で12時間から16時間、固定を行った。固定後の癌組織サンプルはO.C.T.コンパウンドを用いて包埋し、凍結切片用ミクロトーム(Leica CM3050)にて厚さ10μmに薄切した。癌組織・前癌組織におけるGSDMBの局在は、一次抗体に抗GSDMB (50倍希釈)を、二次抗体にFITC標識ロバ抗ニワトリIgYポリクローナル抗体 (500倍希釈, Jacson ImmunoReseach)を使用し、正立型蛍光顕微鏡(OLYMPUS BX51)を用いて可視化した。
【0182】
ヒト癌組織サンプルは、手術により切除された後、4 %ホルムアルデヒド溶液で12時間から16時間、固定を行った。固定後の組織片は、O.C.Tコンパウンド中に包埋し、凍結切片用ミクロトーム(Leica CM3050) を使用して25μm薄切してin situ用プレパラートを作成した。
【0183】
in situ用プレパラートは、42℃で1時間乾燥させた後、4% パラホルムアルデヒド/PBSで固定を行った。その後、PBSで5分間、2回洗浄し、次いで50μg/mlの濃度のProteinase-K (Roche Applied Science)で処理、1度PBSで5分間洗浄し、再度4% パラホルムアルデヒド/PBSで固定を行った。固定後、蒸留水中で5分間処理し、スターラーで攪拌されている0.1 M triethanolamine (pH 8.0)溶液中においた。そこに無水酢酸を0.25 %になるように加え、無水酢酸が全て溶け込んだ状態になったところでスターラーを止め、そのまま10分間放置した。その後、PBSで5分間、0.85 % NaClで5分間処理した。
プレハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーション溶液 (50 % Formamide, 5X SSC, 1 mg/ml Yeast tRNA, 100μg/ml Heparin, 1X Denhardt's solution (50X Denhardt's solution = 1 % Ficoll 400, 1 % polyvinylpyrrolidone, 1 % BSA), 0.1 % Tween 20, 0.1 % CHAPS (3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]-1-propanesulfonate), 5 mM EDTA)中で3時間以上、60℃で行った。
【0184】
in situ用プローブは、ヒトGSDMB cDNAを鋳型としてcRNAを合成した。この時、digoxigenine標識-UTP (Roche Applied Science)を取り込ませることにより、プローブの標識を行った。また、プローブは、組織内への浸透性を良くするために40 mM NaOCO3/60 mM Na2CO3 (pH 10.2)溶液中で、プローブの長さが250塩基になる時間、60℃で保温して、断片化を行った。なお、プローブの長さが250塩基になる時間 (T) は、{(最初のcRNAの長さ,kb) - 0.25}を {0.11 x (最初のcRNAの長さ,kb) x 0.25}で割ることにより導き出した。
プレハイブリダイゼーション後のin situ用プレパラートは、ハイブリダイゼーション溶液に1μg/ml〜2μg/mlの濃度になるようにプローブを加えた溶液内で12時間から16時間、60℃でハイブリダイゼーションを行った。
【0185】
ハイブリダイゼーション後のプレパラートは、1 X SSC, 0.3 % CHAPS, 60℃で10分間、1.5 X SSC, 0.3 % CHAPS, 60℃で10分間、洗浄した後1.5 X SSC, 0.3 % CHAPS溶液中で37℃まで温度を下げた。37℃になった後、2 X SSC, 0.3 % CHAPS、37℃で2回洗浄し、次いで20μg/mlの濃度になるように RNA分解酵素 (Rnase A)を2 X SSC, 0.3 % CHAPSに加え、37℃で30分間、ハイブリダイズしなかったcRNAプローブの消化を行った。その後、室温の2 X SSC, 0.3 % CHAPSで10分間、60℃の0.2 X SSC, 0.3 % CHAPSで30分間を2回、60℃の0.1 % Tween 20, 0.3 % CHAPS/PBSで10分間を2回、室温の0.1 % Tween 20 /PBSで10分間、そして室温のPBT (2mg/ml BSA, 0.1 % Triton-X 100/PBS)で10分間、洗浄を行った。
プローブ洗浄後のプレパラートは、20 % 羊血清を含むPBT溶液を用いて室温で1時間ブロッキングを行い、次いで抗digoxigenine抗体(anti-digoxigenine antibody coupled to alkaline phosphatase, Roche Applied Science)を20 % 羊血清を含むPBT溶液で1000倍希釈した抗体溶液を用いて12時間から16時間、4℃で抗体処理を行った。
【0186】
その後、室温のPBTで4回、30分間ずつ抗体の洗浄を行い、次いでAlkaline phosphatase buffer (100 mM Tris-HCl pH9.5, 100 mM NaCl, 0.1 % Tween 20, 50 mM MgCl2)で5分間ずつ2回、処理した。
【0187】
抗体の洗浄、Alkaline phosphatase buffer処理後のプレパラートは、Alkaline phosphatase検出溶液 (337.5μg/ml Nitro blue tetrazolium, 175μg/ml 5-bromo-4-chrolo-3-indoyl phosphate/Alkaline phosphatase buffer)を用いて、Alkaline phosphataseの可視化を行った。
【0188】
すべての操作が終了したプレパラートは、4 %ホルムアルデヒド溶液で固定を行った後、ガバーガラスをかけて正立型光学顕微鏡(OLYMPUS BX51)を用いて観察を行った。
【0189】
〔実施例1〕RT-PCRを用いたヒト胃癌組織におけるGSDMBの発現解析
GSDMAは、胃正常組織において発現し、胃癌になるとその発現が消失することを我々は明らかにしていた。そこでGSDMBについてヒト胃正常組織、胃癌組織でのGSDMBの発現をPCRプライマーGSDMB420(配列番号:70)とGSDMB1388(配列番号:71)を用いてRT-PCRにより調べた。その結果を図1に示す。GSDMBは、多くの正常胃組織においては発現していないが、前癌段階、癌組織において発現が観察された。同じ遺伝子ファミリーのメンバーであり、かつ同じ染色体領域に存在する両遺伝子の発現が相補的であることは非常に興味深い。
【0190】
更に、GSDMBの発現が一部の正常胃組織と全ての前癌段階、癌組織で見られることより、GSDMBの発現が癌化と密接に関わっていることが考えられる。そこで同一患者由来の正常胃組織、前癌状態組織、癌組織におけるGSDMBの発現を、PCRプライマーGSDMB420(配列番号:70)とGSDMB1388(配列番号:71)を用いて半定量RT-PCRにより調べた。その結果を図2に示す。患者Aの正常胃組織ではGSDMBの発現はないが、癌組織では強く発現していた。患者Bでは正常胃組織においても弱い発現が観察された。患者Cでは患者Aと同様に正常胃組織では発現していないが、前癌状態組織、癌組織で強い発現が観察された。最も注目すべきは患者Dである。患者Dにおいて、正常胃組織2検体、前癌状態1検体、癌組織1検体でのGSDMBの発現は、正常胃組織2検体中1検体では発現が無いが、もう一検体では弱い発現が観察された。更に前癌状態になるとその発現が強くなり、癌組織において最も強い発現が観察された。このことは、癌の進行と共にGSDMBの発現が強くなる、即ちGSDMBの発現量と癌化が密接に関係していることを意味している。また、GSDMBが多くの正常組織では発現していないが一部正常組織で発現が見られることは、病理学的に正常と判断された検体の中にも遺伝子発現のレベルでは既に癌化に向かっている検体が存在すると考えられる。
【0191】
〔実施例2〕in situ hybridization法による胃癌組織におけるGSDMB mRNAの局在の解析
次にヒト胃癌組織におけるGSDMBの発現をin situ hybridization法により調べた。図3Aは、胃癌組織におけるGSDMBの発現を、図3Bには図3Aの拡大像を示した。GSDMBは、癌組織において発現しており癌周辺部の正常組織領域には発現が見られなかった。この結果は、癌が周辺の正常組織に作用し、正常組織においてGSDMBの発現が誘導されるのではなく、癌細胞自体でGSDMBが発現していることを示唆する。また、抗GSDMBポリクローナル抗体を作製し、GSDMBタンパク質の発現を調べたところ、遺伝子発現と同様にGSDMBタンパク質は癌組織に局在することが示された(図4)。
【0192】
〔実施例3〕RT-PCRを用いたヒト癌組織におけるGSDMBの発現解析
上記の結果により胃癌においては、GSDMBの発現量と癌化が密接に関わっている可能性が示された。更に他の癌についてもGSDMBの発現をPCRプライマーGSDMB420(配列番号:70)とGSDMB1388(配列番号:71)を用いてRT-PCRにより調べたところ、興味深い結果が得られた。図5に乳癌、図6に大腸癌でのGSDMBの発現を示した。
【0193】
乳癌、大腸癌でのGSDMBは、一部の正常組織と前癌組織、癌組織において発現していた。これらの癌においても胃癌同様GSDMBの発現量と癌化が密接に関係していると考えられる。乳癌で注目すべき点は、そのPCR産物のサイズである。同じPCRプライマーを用いて解析を行ったが、乳癌においては胃癌、大腸癌とは明らかに異なるバンドパターンを示した。このことは組織特異的なスプライシング産物が存在する可能性を示唆する。
【0194】
大腸癌の場合は、胃癌同様な発現、スプライシングパターンを示している。しかし乳癌では胃癌同様、GSDMBが存在する17q12 amplicon領域の増幅が知られているが、大腸癌では17q12 amplicon領域の増幅は報告されていない(増幅は認められないとされている)。したがって癌化による17q12amplicon領域の増幅が原因でGSDMBが過剰発現しているのではないことを大腸癌での結果は示している。更に他の多くの癌によるGSDMBの発現を癌培養細胞株(これらの細胞株は同一組織由来であっても未分化癌、低分化癌、中分化癌、高分化癌など様々な種類を含んでいる)で調べた。発現確認は、PCRプライマーGSDMB420(配列番号:70)とGSDMB1388(配列番号:71)を用いてRT-PCRにより行った。その結果、調べた全ての皮膚癌、乳癌、胃癌、大腸癌、膵臓癌、肝臓癌由来細胞株においてGSDMBの発現が確認された。以上の結果から、GSDMBは、全ての癌において発現し、また癌化に伴うGSDMBのプロモーター活性の上昇がGSDMBの発現上昇の原因であると考えられた。
【0195】
〔実施例4〕GSDMBのプロモーター解析
GSDMBプロモーターの構造を調べた結果、我々は2種類のプロモーター領域が存在し、また第一エクソンも2種類存在する可能性を見出した(図8)。
【0196】
エクソン1aおよびエクソン1bに5’側プライマー(GSDMB P-A(配列番号:74)およびGSDMB P-B(配列番号:76)を設定し、3’側は共通なプライマーGSDMB-R(配列番号:75)を用いてRT-PCRにより胃癌でのGSDMBを調べたところ、プロモーターBからオルタナティブスプライス産物が転写されていると考えられた(図8)。さらにこのオルタナティブスプライス産物がどの領域の違いによりもたらされるのかを前癌組織、癌組織を用いて数種類のプライマーセットを使用しnested PCR法により調べた結果、殆どのGSDMBオルタナティブスプライス産物は、Gasdermin Family全てで保存性の乏しい中央の領域に違いがある事が明らかとなった(図9)。この際に使用したプライマーセットはGSDMB710F(配列番号:72)とGSDMB1185R(配列番号:73)であり、解析を行ったアガロースゲルは3%、電気泳導の泳導条件は100ボルト2時間50分である。同時にこの結果はプロモーターBのみならず、少なくともプロモーターAからも3種類(GSDMB710F(配列番号:72)とGSDMB1185R(配列番号:73)を用いて約540塩基、約500塩基、約470塩基)、プロモーターBからは少なくとも7種類のオルタナティブスプライス産物(GSDMB710F(配列番号:72)とGSDMB1185R(配列番号:73)を用いて約540塩基、約500塩基、約470塩基、約420塩基、約400塩基、約380塩基、約350塩基前後)が転写されていることを示している。
【0197】
ヒト癌組織は外科手術により切除されるために、その組織サンプル中には癌組織、前癌組織、病理学的には正常であるがすでにGSDMBが発現して癌に進行中の組織等様々な組織が含まれている。そこで癌細胞単体でのGSDMBプロモーターの選択性を調べるために、癌細胞株を用いて実験を行った。その結果、調べた全ての細胞株においてプロモーターAは使われず、プロモーターBが選択的に使用されていることが明らかとなった(図10)。この際に使用したプライマーは、GSDMB P-A(配列番号:74)とGSDMB-R(配列番号:75)、並びにGSDMB P-B (配列番号:76)とGSDMB-R(配列番号:75)である。
【0198】
更に正常胃組織、前癌組織、癌組織、胃癌細胞株におけるプロモーターB由来オルタナティブスプライス産物の増減を調べた結果、正常胃組織、前癌組織、癌組織、胃癌細胞株の順にオルタナティブスプライス産物が増え、同時に正常胃組織において最も転写量の多かった一番長い転写産物が減少することが明らかとなった(図11)。この際に使用したプライマーセットはGSDMB710F(配列番号:72)とGSDMB1185R(配列番号:73)であり、解析を行ったゲルは2.5%である。
【0199】
〔実施例5〕癌特異的なGSDMBの変異の検出
これらの結果は、癌細胞特異的なオルタナティブスプライス産物が癌化に深く関わっていることを示している。しかしながらもう一つの可能性として癌特異的なGSDMBの変異が考えられる。そこで、我々はヒト胃癌において発現しているGSDMBの変異の有無の検証を行った。前述したように患者癌検体は、様々な組織を含んでいるので、第一段階として癌細胞株を用いて実験を行った。その結果、低分化型、中分化型、高分化型胃癌(MKN-1, MKN-7, MKN-45, MKN-74)においては、
TCTGAGGTCCTGATTTCCGGGGAGCTACACATGGAGGACCCAGACAAGCCTCTCCTAAGC(配列番号:78)
の配列であるが、未分化型胃癌(KATOIII)では、特異的に
TCTGAGGTCCTGATTTCCAGGGAGCTACACATGGAGGACTCAGACAAGCCTCTCCTAAGC(配列番号:79)
の変異が見出された。即ち、癌細胞株ではあるが、低分化型、中分化型、高分化型胃癌においては100%(4/4)
TCTGAGGTCCTGATTTCCGGGGAGCTACACATGGAGGACCCAGACAAGCCTCTCCTAAGC(配列番号:78)
であり、未分化型胃癌(KATOIII)のみに塩基の変化が見られた。しかしながら、この結果はあくまで癌細胞株での結果であり、また調べた未分化型胃癌細胞株も1ラインのみである。そこで、この塩基変化が実際に未分化型胃癌(非充実型低分化癌、印環細胞癌)と関係があるか否かを、未分化型胃癌患者由来癌組織を用いて調べることとした。6名の未分化型胃癌患者由来癌組織(印環細胞癌2名、非充実型低分化癌4名)を調べたところ、80%以上(5/6)の検体において同様な2カ所の塩基置換が見出された(図12)。
【0200】
この塩基置換は、アミノ酸置換を引き起こす。前側の塩基、GからAへの置換はアミノ酸282番目のグリシンからアルギニンへのアミノ酸置換を引き起こし、後ろ側の塩基、CからTへの置換はアミノ酸289番目のプロリンからセリンへのアミノ酸置換を引き起こす。さらにこれらのアミノ酸はGasdermin Family全てで保存されているアミノ酸である(図13)。
【0201】
更に興味深いことに、6名の未分化型胃癌患者由来癌組織(印環細胞癌2名、非充実型低分化癌4名)の塩基変化の検証を行う過程で、同一患者前癌病変から3タイプの塩基変化の組み合わせの転写産物が見出された。一つは、正常タイプ、分化型胃癌で見出された
TCTGAGGTCCTGATTTCCGGGGAGCTACACATGGAGGACCCAGACAAGCCTCTCCTAAGC(配列番号:78)
のタイプ、
2つ目が未分化型胃癌で見出された
TCTGAGGTCCTGATTTCCAGGGAGCTACACATGGAGGACTCAGACAAGCCTCTCCTAAGC(配列番号:79)
のタイプ、
3つ目が分化型胃癌と未分化胃癌の中間の
TCTGAGGTCCTGATTTCCAGGGAGCTACACATGGAGGACCCAGACAAGCCTCTCCTAAGC(配列番号:80)。
のタイプである。更にGSDMBのSNP (Single nucleotide polymorphism)をSNPデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=snp)を用いて解析した結果、これらの未分化胃癌に有意に見出された塩基変化は、Single nucleotide polymorphism(SNP)であることが明らかとなった。これらの結果は、これらのSNPが未分化胃癌発症と深い関わりを持つことが考えられ、おそらくはそのSNPの組み合わせとホモで持つか、もしくはヘテロで持つかが重要であろうことが予想された。
【図面の簡単な説明】
【0202】
【図1】RT-PCRを用いたヒト胃癌組織におけるGSDMBの発現解析の結果を示す写真である。1レーンはDNAマーカー、2および3,4および5,6および7,8および9,10および11、12および13,14および15,16および17の2レーンずつが同一患者由来のセットであり、偶数番号は癌組織、奇数番号は前癌状態、もしくは正常組織(前癌状態は3、5、7レーン、正常組織は、9,11,13,15,17レーン)における発現結果を示す
【図2】半定量的RT-PCRを用いたヒト胃癌組織におけるGSDMBの発現解析の結果を示す写真である。1、4および14レーンはDNAマーカーを示す。2から3レーンは同一患者A由来の組織(2レーン:正常胃組織、3レーン:癌組織)、5から6レーンは同一患者B由来の組織(5レーン:正常胃組織、6レーン:癌組織)、7から9レーンは同一患者C由来の組織(7レーン:正常胃組織、8レーン:前癌組織、9レーン:癌組織)、10から13レーンは同一患者D由来の組織(10レーン:正常胃組織、11レーン:正常胃組織、12レーン:前癌組織、13レーン:癌組織)における発現を示す。
【図3】in situ hybridization法による胃癌組織におけるGSDMB mRNAの局在の解析結果を示す写真である。AはGSDMB mRNAの局在(弱拡胃癌組織像)を、Bは図A内に示した四角で囲った領域の拡大図を示す。
【図4】抗GSDMB抗体を用いた胃癌におけるGSDMBタンパク質の検出結果を示す写真である。Aは胃癌組織、Bは胃正常組織におけるGSDMBタンパク質の発現を示す。GSDMBタンパク質は癌組織特異的に発現していることが明らかとなった。
【図5】RT-PCRを用いたヒト乳癌組織におけるGSDMBの発現解析の結果を示す写真である。1レーンはDNAマーカーを示す。2から3レーンは同一患者由来の組織(2レーン:癌組織、3レーン:正常乳腺組織)、4から5レーンは同一患者由来の組織(4レーン:癌組織、5レーン:正常乳腺組織)、6から7レーンは同一患者由来の組織(6レーン:癌組織、7レーン:正常乳腺組織)、8から9レーンは同一患者由来の組織(8レーン:癌組織、9レーン:正常乳腺組織)、10レーンは患者由来の癌組織、11から12レーンは同一患者由来の組織(11レーン:癌組織、12レーン:正常乳腺組織)、13レーンは患者由来の癌組織における発現を示す。
【図6】RT-PCRを用いたヒト大腸癌組織におけるGSDMBの発現解析の結果を示す写真である。1レーンはDNAマーカーを示す。2から3レーンは同一患者由来の組織(2レーン:癌組織、3レーン:正常大腸組織)、4から5レーンは同一患者由来の組織(4レーン:癌組織、5レーン:正常大腸組織)、6から7レーンは同一患者由来の組織(6レーン:癌組織、7レーン:正常大腸組織)、8から9レーンは同一患者由来の組織(8レーン:癌組織、9レーン:正常大腸組織)、10から11レーンは同一患者由来の組織(10レーン:癌組織、11レーン:正常大腸組織)、12から13レーンは同一患者由来の組織(12レーン:癌組織、13レーン:正常大腸組織)、14から15レーンは同一患者由来の組織(14レーン:癌組織、15レーン:正常大腸組織)、16から17レーンは同一患者由来の組織(16レーン:癌組織、17レーン:正常大腸組織)における発現を示す。
【図7】RT-PCRを用いたヒト由来の様々ば部位の癌組織におけるGSDMBの発現解析の結果を示す写真である。1および17レーンはDNAマーカーを示す。2、12および14レーンは、コントロールを示す。3レーンは大腸癌 (CW-2)、4レーンは肝臓癌 (HepG2)を、5レーンは大腸癌 (TT1TKB)、6レーンは大腸癌 (CaCo2)、7レーンは大腸癌 (Colo320)、8レーンは胃癌 (MKN-1)、9レーンは胃癌 (MKN-74)、10レーンは膵臓癌 (KP2)、11レーンは膵臓癌 (MIAPaCa2)、13レーンは胃腸癌 (MKN-1)、15レーンは胃癌 (MKN-45)、16レーンは膵臓癌 (MIAPaCa2亜株) における発現を示す。
【図8】GSDMBのオルタナティブスプライス産物の発現を示す写真、および、GSDMBのプロモーターの構造を示す図である。ゲル写真において、1から4レーンは同一胃癌患者由来の転写産物(1レーン:癌組織プロモーターB由来転写産物、2レーン:癌組織プロモーターA由来転写産物、3レーン:前癌組織プロモーターB由来転写産物、4レーン:前癌組織プロモーターA由来転写産物)を示す。5から8レーンは同一胃癌患者由来の転写産物(5レーン:癌組織プロモーターB由来転写産物、6レーン:癌組織プロモーターA由来転写産物、7レーン:前癌組織プロモーターB由来転写産物、8レーン:前癌組織プロモーターA由来転写産物)を示す。
【図9】癌組織および前癌組織におけるオルタナティブスプライス産物の発現を示す写真である。1レーンはDNAマーカーを、2レーンはプロモーターA由来前癌組織由来オルタナティブスプライス産物、3レーンはプロモーターB由来前癌組織由来オルタナティブスプライス産物、4レーンは癌組織プロモーターA由来オルタナティブスプライス産物、5レーンは癌組織プロモーターB由来オルタナティブスプライス産物を示す。
【図10】癌細胞株におけるGSDMBプロモーターの選択性を示す写真である。1レーンは乳癌細胞株、2レーンは胃癌細胞株、3レーンは大腸癌細胞株、4レーンは皮膚癌細胞株、5レーンは膵臓癌細胞株におけるGSDMBプロモーターの選択性を示す。
【図11】プロモーターB由来オルタナティブスプライス産物の発現を示す図である。1レーンはDNAマーカーを示す。2レーンは正常小腸、3レーンは前癌状態大腸組織(3,4同一患者由来)、4レーンは大腸癌組織、5レーンは大腸癌細胞株(CW-2)、6レーンは前癌状態胃組織(6,7同一患者由来)、7レーンは胃癌組織、8レーンは胃癌細胞株(MKN-1)におけるオルタナティブスプライス産物の発現を示す。
【図12】癌特異的なGSDMBの変異を示す図である。
【図13】Gasdermin Familyにおける、GSDMB変異箇所の相同性を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質の発現量を測定する工程を含む、癌の検査方法。
(a)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAよりコードされるタンパク質
(b)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
【請求項2】
配列番号:1〜34の偶数番目の配列に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質における変異を検出する工程を含む、癌の検査方法。
【請求項3】
タンパク質における変異が、アミノ酸置換を伴う変異である、請求項2に記載の癌の検査方法。
【請求項4】
配列番号:1〜34の奇数番目の配列に記載のDNA配列における変異を検出する工程を含む、癌の検査方法。
【請求項5】
DNA配列における変異が、塩基置換を伴う変異である、請求項4に記載の癌の検査方法。
【請求項6】
癌が、皮膚癌、乳癌、胃癌、肺癌、大腸癌、食道癌、子宮頸部癌、膵臓癌または肝臓癌のいずれかである、請求項1から5に記載の癌の検査方法。
【請求項7】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質またはその断片に結合する抗体。
(a)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAよりコードされるタンパク質
(b)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
【請求項8】
請求項7に記載の抗体を含む、癌の検査薬。
【請求項9】
請求項7に記載の抗体を有効成分とする、癌の治療薬。
【請求項10】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、癌の検査薬。
(a)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAであって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
【請求項11】
癌が皮膚癌、乳癌、胃癌、肺癌、大腸癌、食道癌、子宮頸部癌、膵臓癌または肝臓癌のいずれかである、請求項8または10に記載の検査薬
【請求項12】
以下の(a)〜(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:69に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNAであって、配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNAと同等なプロモーター活性能を持つDNA
(c)配列番号:69に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNAと同等なプロモーター活性能を持つDNA
【請求項13】
請求項12に記載のDNAと癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNA。
【請求項14】
癌において抑制的に作用するタンパク質が、癌抑制タンパク質、細胞障害性タンパク質である、請求項13に記載のDNA。
【請求項15】
請求項12から14のいずれかに記載のDNAが挿入されたベクター。
【請求項16】
遺伝子治療用である、請求項15に記載のベクター。
【請求項17】
請求項15または16に記載のベクターを保持する形質転換細胞。
【請求項18】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:3〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質をコードするDNAであって、配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:3〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAであって、配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
【請求項19】
請求項18に記載のDNAからコードされるタンパク質
【請求項20】
請求項18に記載のDNAが挿入されたベクター。
【請求項21】
請求項18に記載のDNAまたは請求項19に記載のベクターを保持する形質転換細胞。
【請求項22】
請求項18に記載のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチド。
【請求項1】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質の発現量を測定する工程を含む、癌の検査方法。
(a)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAよりコードされるタンパク質
(b)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
【請求項2】
配列番号:1〜34の偶数番目の配列に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質における変異を検出する工程を含む、癌の検査方法。
【請求項3】
タンパク質における変異が、アミノ酸置換を伴う変異である、請求項2に記載の癌の検査方法。
【請求項4】
配列番号:1〜34の奇数番目の配列に記載のDNA配列における変異を検出する工程を含む、癌の検査方法。
【請求項5】
DNA配列における変異が、塩基置換を伴う変異である、請求項4に記載の癌の検査方法。
【請求項6】
癌が、皮膚癌、乳癌、胃癌、肺癌、大腸癌、食道癌、子宮頸部癌、膵臓癌または肝臓癌のいずれかである、請求項1から5に記載の癌の検査方法。
【請求項7】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質またはその断片に結合する抗体。
(a)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAよりコードされるタンパク質
(b)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
【請求項8】
請求項7に記載の抗体を含む、癌の検査薬。
【請求項9】
請求項7に記載の抗体を有効成分とする、癌の治療薬。
【請求項10】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、癌の検査薬。
(a)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAであって、配列番号:1〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
【請求項11】
癌が皮膚癌、乳癌、胃癌、肺癌、大腸癌、食道癌、子宮頸部癌、膵臓癌または肝臓癌のいずれかである、請求項8または10に記載の検査薬
【請求項12】
以下の(a)〜(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:69に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNAであって、配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNAと同等なプロモーター活性能を持つDNA
(c)配列番号:69に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:69に記載の塩基配列を含むDNAと同等なプロモーター活性能を持つDNA
【請求項13】
請求項12に記載のDNAと癌において抑制的に作用するタンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNA。
【請求項14】
癌において抑制的に作用するタンパク質が、癌抑制タンパク質、細胞障害性タンパク質である、請求項13に記載のDNA。
【請求項15】
請求項12から14のいずれかに記載のDNAが挿入されたベクター。
【請求項16】
遺伝子治療用である、請求項15に記載のベクター。
【請求項17】
請求項15または16に記載のベクターを保持する形質転換細胞。
【請求項18】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:3〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質をコードするDNAであって、配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:3〜68の奇数番目の配列のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAであって、配列番号:3〜68の偶数番目の配列のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
【請求項19】
請求項18に記載のDNAからコードされるタンパク質
【請求項20】
請求項18に記載のDNAが挿入されたベクター。
【請求項21】
請求項18に記載のDNAまたは請求項19に記載のベクターを保持する形質転換細胞。
【請求項22】
請求項18に記載のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチド。
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−61108(P2006−61108A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249236(P2004−249236)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(504202472)大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 (119)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(504202472)大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 (119)
【Fターム(参考)】
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