説明

HDD保護装置

【課題】ディスクモータ(以下ではモータ)の回転が不能となるときの保護機能の無いHDDを使用する場合において、モータの流体軸受の潤滑剤が固体化するときにも、HDDの損傷を防止する。
【解決手段】モータ21を駆動する駆動回路部26に供給される第1の直流電源P1が入力されるモータ用電源端子31と、所定の信号処理を行う信号回路部24に供給される第2の直流電源P2が入力される制御用電源端子32とを備えたHDD2に用いる構成において、モータ用電源端子31に流れる電流を検出する電流センサ部11と、検出された電流値が制限値に接近するときには、モータ用電源端子31に入力される電圧を降下させることによって、モータ用電源端子31に流れる電流を制限値以内に抑制する電流制限部12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクモータを駆動する駆動回路部に供給される第1の直流電源が入力されるモータ用電源端子と、信号回路部に供給される第2の直流電源が入力される制御用電源端子とを備えたハードディスクドライブに用いるHDD保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(以下では、HDDと称する)の磁気ディスクを回転させるディスクモータ(スピンドルモータ)の軸受には、流体軸受が使用されることが多い。これは、流体軸受では、回転軸と軸受部との間に潤滑剤の流体膜が形成され、回転軸は、軸受部に非接触で、軸受部により支持されるので、高速で回転させるときにも、磨耗が少なく、長寿命となるためである。しかし、環境温度が低温(例えば、−15度)となるときでは、潤滑剤の粘度が高くなったり、あるいは、固体化したりして、回転の起動に困難が生じ、過大な電流が流れて、駆動回路やディスクモータを破壊する恐れがある。
【0003】
このため、HDDの内部温度を検出するセンサを設け、検出した温度が所定温度より低い場合には、HDDに供給される電源をオフするための信号を、HDDの筐体の外部に出力する構成が提案されている(第1の従来技術とする)。
【0004】
また、以下に示す技術が提案されている(第2の従来技術とする)。すなわち、この技術では、流体軸受(動圧軸受)の近傍に温度センサとヒータとを設けている。そして、温度センサによって検出された温度が所定値以下であるときには、ヒータによって流体軸受を暖め、潤滑剤の温度を高めることで、回転の起動を確実なものにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、以下に示す技術が提案されている(第3の従来技術とする)。すなわち、この技術では、ディスクモータの駆動コイルの電流を検出する電流センサを設けている。そして、電流センサによって検出された値が規定値より増大したこと(ディスクモータの電流値が増大したこと)を検知したときには、ヘッドを移動させるためのボイスコイルモータに供給する電流を制限するようにしている。すなわち、ディスクモータに供給可能な電流値とボイスコイルモータに供給可能な電流値との合計に制限があるときにも、ディスクモータには、ディスクモータが必要とするだけの電流を供給することにより、低温が原因となって流体軸受の抵抗が増大するときにも、ディスクモータが所定の回転数でもって回転できるようにしている(例えば、特許文献2)。
【0006】
また、以下に示す技術が提案されている(第4の従来技術とする)。すなわち、この技術では、温度を検出する温度センサを設けている。また、駆動コイルを発熱させるための電流を出力する発熱用電源を設けている。そして、温度センサによって検出された温度が規定温度以下であるときには、回転の停止中に、発熱用電源の出力を駆動コイルに供給することで駆動コイルを発熱させ、含油軸受を暖めている。そして、含油軸受の温度が高くなったときには、駆動コイルを駆動するための駆動ICの出力を駆動コイルに導き、モータを回転させている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平6−4988号公報
【特許文献2】特開2003−173638号公報
【特許文献3】特開2000−14114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、第1の従来技術を用いる場合では、HDDに供給される電源のオンオフを外部に指示するための信号線を増設する必要があり、端子の規格等の問題もあって、実現するには多くの別の問題を生じる。また、HDDに供給される電源をオフしたときにも、温度の検出が必要となるので、1系統分の電源を追加して設ける必要も生じ、HDDの構成が複雑となる。また、HDDを使用するユーザ(例えば、HDDレコーダ等を製造するユーザ)が、HDDに関しては、一般的なユーザを超えることの無い立場に留まるときでは、HDDの構成を変えることは困難となっている。
【0008】
第2の従来技術をHDDに適用する場合では、HDDの構成を変える必要がある。しかし、HDDを使用するユーザ(例えば、HDDレコーダ等を製造するユーザ)が、HDDに関しては、一般的なユーザを超えることの無い立場に留まるときでは、HDDの構成を変えることは困難となっている。
【0009】
第3の従来技術は、ディスクモータの電流が増加するときには、ボイスコイルモータに供給される電流の最大値を制限するに過ぎないので、流体軸受の潤滑剤が固体化したときの損傷の発生を防止することができない。
【0010】
第4の従来技術は、駆動コイルに供給する電流を切り換えるための回路を追加して設ける必要がある上に、さらに、発熱用電源を別途に追加して設ける必要があるので、HDDの構成が大幅に複雑化する。また、発熱用電源は、電力を扱う回路部となるので、形状が大きくなり、HDDの形状を小型に維持することが困難になるという問題も生じる。且つ、HDDの構成を変更する必要があるため、適用することも困難となっている。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解決するため創案されたものであり、その目的は、流体軸受の潤滑剤が固体化したときの保護機能の無いハードディスクドライブを使用する場合において、前記潤滑剤が過度の低温のために固体化したときにも、ハードディスクドライブに損傷が発生することを防止でき、且つ、潤滑剤が液体状態にあるときの回転の起動に要する時間が長くなることを防止でき、且つ、流体軸受の固体化した潤滑剤の液体化を速めることのでき、且つ、モータ用電源端子に流れる電流を制限しない状態においては、モータ用電源端子に入力される電圧の降下量を微少な値に抑制することのできるHDD保護装置を提供することにある。
【0012】
また本発明の目的は、ディスクモータを駆動する駆動回路部に供給される第1の直流電源が入力されるモータ用電源端子と、信号回路部に供給される第2の直流電源が入力される制御用電源端子とを備えたハードディスクドライブのモータ用電源端子に入力される電流値が制限値に接近するときには、モータ用電源端子に入力される電圧を降下させることによって、モータ用電源端子に流れる電流を制限値以内に抑制することにより、流体軸受の潤滑剤が固体化したときの保護機能の無いハードディスクドライブを使用する場合において、前記潤滑剤が過度の低温のために固体化したときにも、ハードディスクドライブの損傷の発生を防止することのできるHDD保護装置を提供することにある。
【0013】
また、上記目的に加え、制限値を、ディスクモータの回転が起動されるときにモータ用電源端子に流れる電流の最大値より大きく、ハードディスクドライブの破壊を招く電流値より小さい値とすることにより、流体軸受の潤滑剤が固体化したときの損傷の発生を防止するときにも、潤滑剤が液体状態にあるときの回転の起動に要する時間が長くなることを防止することのできるHDD保護装置を提供することにある。
【0014】
また、モータ用電源端子に入力される電圧を降下させる電圧降下用素子の放熱面を、ハードディスクドライブの筐体の下部面の、ディスクモータの下方となる位置に熱的に接触させることにより、流体軸受の固体化した潤滑剤の液体化を速めることのできるHDD保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、本発明に係るHDD保護装置は、磁気ディスクを回転させるディスクモータと、ディスクモータを駆動する駆動回路部と、所定の信号処理を行う信号回路部と、駆動回路部に供給される第1の直流電源が入力されるモータ用電源端子と、信号回路部に供給される第2の直流電源が入力される制御用電源端子とを備えたハードディスクドライブに用いるHDD保護装置に適用している。そして、モータ用電源端子に流れる電流値を検出する電流センサ部と、電流センサ部によって検出された電流値が制限値に接近するときには、モータ用電源端子に入力される電圧を降下させることによって、モータ用電源端子に流れる電流を制限値以内に抑制する電流制限部とを備え、前記制限値を、ディスクモータの回転が起動されるときにモータ用電源端子に流れる電流の最大値より大きく、ハードディスクドライブの破壊を招く電流値より小さい値とし、電流制限部は、第1の直流電源の経路に挿入され、モータ用電源端子に入力される電圧を降下させるPチャンネルFETと、電流センサ部の出力に基づいてPチャンネルFETにおける電圧降下量を制御する降下量制御部とを備え、PチャンネルFETの放熱面をハードディスクドライブの筐体の下部面であって、ディスクモータの下方となる位置に熱的に接触させている。
【0016】
すなわち、ディスクモータの流体軸受の潤滑剤が固体化し、ディスクモータの回転が不能となるときでも、モータ用電源端子に流れる電流値は、ハードディスクドライブの破壊を招く恐れのない値に抑制される。且つ、起動時では、起動に必要となる値の電流が流れる。また、ディスクモータの流体軸受の潤滑剤が固体化したときに電圧降下用素子が発生する熱は、効率よくディスクモータを暖める。また、PチャンネルFETを使用するときでは、オン抵抗を充分に小さい値とすることができる。
【0017】
また本発明に係るHDD保護装置は、磁気ディスクを回転させるディスクモータと、ディスクモータを駆動する駆動回路部と、所定の信号処理を行う信号回路部と、駆動回路部に供給される第1の直流電源が入力されるモータ用電源端子と、信号回路部に供給される第2の直流電源が入力される制御用電源端子とを備えたハードディスクドライブに用いるHDD保護装置であって、モータ用電源端子に流れる電流値を検出する電流センサ部と、電流センサ部によって検出された電流値が制限値に接近するときには、モータ用電源端子に入力される電圧を降下させることによって、モータ用電源端子に流れる電流を制限値以内に抑制する電流制限部とを備えている。
【0018】
すなわち、ディスクモータの流体軸受の潤滑剤が固体化し、ディスクモータの回転が不能となるときでも、モータ用電源端子に流れる電流値は制限値以内に抑制される。つまり、ディスクモータの流体軸受の潤滑剤が固体化し、ディスクモータの回転が不能となるときでも、駆動回路部に流れる電流、および、ディスクモータに流れる電流は制限値に抑制される。
【0019】
│ また、上記構成に加え、前記制限値は、ディスクモータの回転が起動されるときにモ│タ用電源端子に流れる電流の最大値より大きく、ハードディスクドライブの破壊を招く電流値より小さい値となっている。すなわち、ディスクモータの回転が不能となるときであっても、ハードディスクドライブには、破壊を招く恐れのある値の電流は流れない。且つ、起動時では、起動に必要となる値の電流が流れる。
【0020】
また、上記構成に加え、電流制限部は、第1の直流電源の経路に挿入され、モータ用電源端子に入力される電圧を降下させる電圧降下用素子と、電流センサ部の出力に基づいて電圧降下用素子における電圧降下量を制御する降下量制御部とを備え、電圧降下用素子の放熱面をハードディスクドライブの筐体の下部面であって、ディスクモータの下方となる位置に熱的に接触させている。すなわち、電圧降下用素子が発生する熱は、効率よくディスクモータを暖める。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ディスクモータの流体軸受の潤滑剤が固体化し、ディスクモータの回転が不能となるときでも、モータ用電源端子に流れる電流は、ハードディスクドライブの破壊を招く恐れのない値に抑制される。且つ、起動時では、起動に必要となる値の電流が流れる。また、ディスクモータの流体軸受の潤滑剤が固体化したときに電圧降下用素子が発生する熱は、効率よくディスクモータを暖める。また、PチャンネルFETを使用するときでは、オン抵抗を充分に小さい値とすることができる。このため、流体軸受の潤滑剤が固体化したときの保護機能の無いハードディスクドライブを使用する場合において、前記潤滑剤が過度の低温のために固体化したときにも、ハードディスクドライブの損傷の発生を防止することができ、且つ、潤滑剤が液体状態にあるときの回転の起動に要する時間が長くなることを防止することができ、且つ、流体軸受の固体化した潤滑剤の液体化を速めることができ、且つ、モータ用電源端子に流れる電流を制限しない状態においては、モータ用電源端子に入力される電圧の降下量を微少な値に抑制することができる。
【0022】
また本発明によれば、ディスクモータの流体軸受の潤滑剤が固体化し、ディスクモータの回転が不能となるときでも、モータ用電源端子に流れる電流は制限値以内に抑制される。つまり、ディスクモータの流体軸受の潤滑剤が固体化し、ディスクモータの回転が不能となるときでも、駆動回路部に流れる電流、および、ディスクモータに流れる電流は制限値に抑制される。このため、流体軸受の潤滑剤が固体化したときの保護機能の無いハードディスクドライブを使用する場合において、前記潤滑剤が過度の低温のために固体化したときにも、ハードディスクドライブの損傷の発生を防止することができる。
【0023】
また、さらに、ディスクモータの回転が不能となるときであっても、ハードディスクドライブには、破壊を招く恐れのある値の電流は流れない。且つ、起動時では、起動に必要となる値の電流が流れる。このため、流体軸受の潤滑剤が固体化したときの損傷の発生を防止するときにも、潤滑剤が液体状態にあるときの回転の起動に要する時間が長くなることを防止することができる。
【0024】
また、さらに、電圧降下用素子が発生する熱は、効率よくディスクモータを暖めることになるので、流体軸受の固体化した潤滑剤の液体化を速めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0026】
図1は、本発明に係るHDD保護装置の一実施形態の電気的構成を示す説明図である。
【0027】
図において、ハードディスクドライブ(以下では、HDDと称する)2は、ハードディスクレコーダ等において映像音声情報の記録に使用される記憶装置であり、磁気ディスク22を回転させるディスクモータ21を備えている。なお、ディスクモータ21の軸受には流体軸受が使用されている(後に詳述する)。
【0028】
磁気ヘッド23は、磁気ディスク22にデータの書き込みを行うとともに、磁気ディスク22に書き込みされたデータの再生を行う。信号回路部24は、信号線36を介して外部回路(映像音声信号の伸長圧縮回路等)から導かれたデータを、所定処理した後、磁気ヘッド23を介して磁気ディスク22に書き込む。また、磁気ヘッド23から出力されたデータを、所定処理した後、信号線36を介して外部回路に出力する。
【0029】
モータ制御部25は、ディスクモータ21を回転させるための3相の制御信号を駆動回路部26に出力する。駆動回路部26は、モータ制御部25より出力される制御信号に従って、ディスクモータ21の駆動コイル(図示を省略)を駆動し、ディスクモータ21を所定の回転速度で回転させる。
【0030】
第2の直流電源P2は、信号回路部24およびモータ制御部25の動作電源となっており、制御用電源端子32を介してHDD2の内部に導かれている。第1の直流電源P1は、駆動回路部26に供給される動作電源となっており、HDD保護装置1とモータ用電源端子31とを介して、HDD2の内部に導かれている。なお、第1の直流電源P1の電圧は12Vであり、第2の直流電源P2の電圧は5Vとなっている。
【0031】
HDD保護装置1は、大別すると、電流センサ部11と電流制限部12とを備えている。電流センサ部11は、モータ用電源端子31に流れる第1の直流電源P1の電流値を検出し、検出結果を電流制限部12に出力する。このため、2つのダイオードD1,D2と3つの抵抗R1〜R3とを備えている。
【0032】
第1の直流電源P1の電流経路に挿入された抵抗R3は、モータ用電源端子31に流れる電流を電圧に変換するための電流検出抵抗となっている。アノードが電流検出抵抗R3の端子51に接続され、カソードが抵抗R1を介して接地されたダイオードD1は、電流検出抵抗R3の端子51の電圧(第1の直流電源P1の電圧に等しい)を約0.7V降下させて、降下量制御部15に与える。アノードが電流検出抵抗R3の端子52に接続され、カソードが抵抗R2を介して接地されたダイオードD2は、電流検出抵抗R3の端子52の電圧を約0.7V降下させて、降下量制御部15に与える。
【0033】
電流制限部12は、電流センサ部11によって検出された電流値が制限値(後に詳述する)に接近するときには、モータ用電源端子31に入力される電圧を降下させることによって、モータ用電源端子31に流れる電流を制限値以内に抑制する。このため、降下量制御部15と電圧降下用素子16とを備えている。
【0034】
電圧降下用素子16は、具体的には、モータ用電源端子31に導かれた第1の直流電源P1の経路に挿入されたPチャンネルMOSFET(以下では、単にFETと称する)となっており、ソースには電流検出抵抗R3の端子52が接続され、ドレインはモータ用電源端子31に接続されている(ダイオードD3は、FET16の寄生ダイオードである)。降下量制御部15は、電流センサ部11の出力に基づいてFET16における電圧降下量を制御する。また、第1の直流電源P1の電流値が制限値に接近したことを検出したときには、信号線35を介して、HDD2が使用不能状態にあることを示す信号を、外部ブロック(HDD2にデータの記録を行わせたり、HDD2にデータを再生させる制御を行う)に出力する。
【0035】
以下に、電流センサ部11について補足的な説明を行う。HDD2のモータ用電源端子31に入力される電圧の許容範囲の関係から、モータ用電源端子31に入力される第1の直流電源P1の電圧が、電流検出抵抗R3の端子51に入力される電圧に対して、降下量の少ない電圧とすることが望ましい。このため、電流検出抵抗R3の抵抗値は、電流検出抵抗R3による電圧降下量が、ディスクモータ21が所定回転数で回転する状態では、0.1V程度となるように設定される。
【0036】
一方、降下量制御部15は、第1の直流電源P1を動作電源とする。このため、電流検出抵抗R3より出力される電圧は、第1の直流電源P1に等しい電圧と、第1の直流電源P1の電圧より0.1V(最大となるときでも、約0.3V程度)程度低い電圧となる。このため、降下量制御部15においては、入力される電圧が動作電源の電圧に近いために、増幅等の処理を行うことができない。ダイオードD1,D2は、この不具合を解消するための素子となっている。
【0037】
すなわち、端子51,52の各電圧は、それぞれが約0.7V降下されて降下量制御部15に与えられる(ダイオードD1のカソードの電圧とダイオードD2のカソードの電圧との差異は、電流検出抵抗R3の端子51,52間の電圧の差異に等しい)。従って、降下量制御部15においては、入力される電圧が、動作電源の電圧より、少なくとも0.7V程度は低い電圧となるので、電流検出抵抗R3において生成された電圧を容易に増幅することができ、増幅された電圧に基づいて、容易に、FET16のゲート電圧を制御することができる。
【0038】
また、FET16については、図2に示したように、その放熱面161が、HDD2の筐体201の下部面202であって、ディスクモータ21の直下となる位置に、熱的に接触させて取り付けられる(121は、HDD保護装置1を構成する電子部品が搭載された基板を示している)。従って、FET16から放たれる熱の多くがディスクモータ21の側に伝達され、ディスクモータ21内の流体軸受を暖めることになる。
【0039】
図3は、ディスクモータ21の軸受を示す断面図である。同図に示したように、ディスクモータ21の回転軸212の周面と軸受部211の周面との間213、および、回転軸212の底面と軸受部211の底面との間214には潤滑剤の流体膜が形成されることで、回転軸212は、軸受部211に対し、非接触の状態で回転可能となっている。
【0040】
しかし、流体軸受を用いていることから、ディスクモータ21の環境が過酷な低温状態(HDD2の規格において動作の保証外となる温度であり、例えば、−15度)となる場合、潤滑剤が固体化するという現象が生じ、ディスクモータ21の回転が不能となる。このような状態で駆動回路部26がディスクモータ21を駆動すると、過度の電流が流れて、ディスクモータ21や駆動回路部26が破壊される恐れが生じる。
【0041】
図4は、ディスクモータ21の起動時に、モータ用電源端子31に入力される第1の直流電源P1の電流変化を示す説明図である。同図を参照しつつ、以下に、制限値について説明する。
【0042】
ディスクモータ21の回転が起動されるときには、モータ用電源端子31に流れる電流は、ディスクモータ21が定常状態で回転するときの電流値i−conよりも充分に大きい電流値i−startとなる。また、ディスクモータ21の環境が過酷な低温状態となり、回転が不能となったときでは、ディスクモータ21の駆動を開始したときの電流は、破線61に示したように、急激な増加を示す。そして、このときの電流値は、ディスクモータ21の破壊や駆動回路部26の破壊を招く恐れのある電流値i−max(駆動回路部26の最大定格電流またはディスクモータ21の最大定格電流のうちの値の小さい側の最大定格電流)を超える値となる。
【0043】
以上のことから、制限値については、ディスクモータ21を起動するときの電流の最大値となる電流値i−startよりは大きいが、ディスクモータ21や駆動回路部26の破壊を招く恐れのある電流値i−maxよりは小さい値であるi−limitに設定されている。このため、図5に示したように、モータ用電源端子31に流れる電流が制限値i−limitに接近すると、モータ用電源端子31に入力される電圧が急激に低下する(FET16のゲート電圧がソース電圧に向かって上昇し、ソース・ドレイン間のオン抵抗が増加する)ように制御される。
【0044】
上記構成からなる実施形態の動作について説明する。
【0045】
FET16については、ゲートに印加する電圧を0V近傍とするときでは、モータ用電源端子31に流れる電流が電流値i−conの近傍となる場合、電流検出抵抗R3による電圧の降下量と、FET16による電圧の降下量との合計値が約0.2Vとなるように、その素子の種類が決定されている。また、降下量制御部15は、電流検出抵抗R3に流れる電流が制限値i−limitよりも充分に小さい場合、FET16のゲートに印加する電圧を0V近傍とする。
【0046】
従って、モータ用電源端子31に流れる電流が、ディスクモータ21が定常回転を行うときの電流値i−conの近傍となるときでは、モータ用電源端子31の入力電圧は、第1の直流電源P1の電圧に対し、約0.2Vが低下した電圧となるに過ぎない。このため、HDD2の環境温度が−15度より高く、流体軸受の潤滑剤が液体の状態に保たれている場合では、駆動回路部26がディスクモータ21の駆動を開始すると、ディスクモータ21は回転を開始し、やがて定常の回転速度に達する。
【0047】
一方、HDD2の環境温度が−15度以下となっており、この環境下に、動作の停止状態で長時間放置されていたことから、ディスクモータ21の流体軸受の潤滑剤が固体化し、回転が不能な状態になっていたとする。この状態において、駆動回路部26がディスクモータ21の駆動を開始したときでは、モータ用電源端子31に流れる電流は、図4の破線61に沿った増加を示す。このため、ディスクモータ21の駆動を開始したときでは、モータ用電源端子31に流れる電流は、極めて短時間のうちに制限値i−limitまで増加した後、増加を停止する(実線62により示す)。
【0048】
制限値i−limitは、既に説明したように、駆動回路部26の破壊やディスクモータ21の破壊の恐れのない電流値となっている。従って、ディスクモータ21の流体軸受の潤滑剤が固体化した状態において、駆動回路部26がディスクモータ21の駆動を続けるときでも、駆動回路部26の破壊やディスクモータ21の損傷の発生は防止される。
【0049】
なお、このときでも、信号回路部24やモータ制御部25に入力される第2の直流電源P2の電圧は、規定の電圧である5Vとなっているので、信号回路部24やモータ制御部25は所定の動作を行うことができる。従って、信号回路部24やモータ制御部25からディスクモータ21を見るときでは、ディスクモータ21は、回転を開始する直前の状態にあり、すぐにでも回転を開始するものであると見なされ、異常が生じているとは見なされない。また、このときでは、降下量制御部15は、ディスクモータ21の回転が不能となっていることを、信号線35を介して、外部(例えば、HDDレコーダの制御手段、等)に知らせる。
【0050】
上記したように、モータ用電源端子31に流れる電流を制限値i−limitに制限する動作は、FET16のオン抵抗を増加させ、モータ用電源端子31に入力される電圧を降下させることでもって行われる。従って、ディスクモータ21の回転が不能な状態にあるときでは、FET16において多くの電力が消費されることとなり、FET16は多量の熱を発生する。
【0051】
そして、FET16において発生した多量の熱は、その大部分が、FET16の放熱面161に熱的に接触する筐体201の下部面202に伝達される。従って、FET16において発生した熱は、ディスクモータ21を下方から暖めることとなり、駆動回路部26が発生する熱や、ディスクモータ21の駆動コイルが発生する熱と相乗的に作用することで、短時間の内にディスクモータ21の流体軸受の潤滑剤を液体化する。そして、流体軸受の潤滑剤が液体化したときでは、ディスクモータ21は回転を開始する。
【0052】
ディスクモータ21が回転を開始すると、モータ用電源端子31に流れる電流は減少し、制限値i−limitより充分に小さい値となる。従って、FET16のゲート電圧は0V近傍まで降下され、FET16のオン抵抗は極めて微小となる。従って、以後では、FET16における電力の消費量は微少な値に抑制される。また、降下量制御部15は、ディスクモータ21が回転状態にあることを、信号線35によって外部に知らせる。
【0053】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、電流センサ部については、電圧の降下量を少なくすることができる限りでは、その他の構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係るHDD保護装置の一実施形態の電気的構成を示す説明図である。
【図2】電圧降下用素子(PチャンネルFET)の取り付け位置を示す説明図である。
【図3】ディスクモータの流体軸受を示す断面図である。
【図4】ディスクモータの起動時に、モータ用電源端子に入力される第1の直流電源P1の電流変化を示す説明図である。
【図5】モータ用電源端子に入力される電流と電圧との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0055】
1 HDD保護装置
2 ハードディスクドライブ
11 電流センサ部
12 電流制限部
15 降下量制御部
16 PチャンネルFET(電圧降下用素子)
21 ディスクモータ
24 信号回路部
26 駆動回路部
31 モータ用電源端子
32 制御用電源端子
P1 第1の直流電源
P2 第2の直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスクを回転させるディスクモータと、
ディスクモータを駆動する駆動回路部と、
所定の信号処理を行う信号回路部と、
駆動回路部に供給される第1の直流電源が入力されるモータ用電源端子と、
信号回路部に供給される第2の直流電源が入力される制御用電源端子とを備えたハードディスクドライブに用いるHDD保護装置であって、
モータ用電源端子に流れる電流値を検出する電流センサ部と、
電流センサ部によって検出された電流値が制限値に接近するときには、モータ用電源端子に入力される電圧を降下させることによって、モータ用電源端子に流れる電流を制限値以内に抑制する電流制限部とを備え、
前記制限値を、ディスクモータの回転が起動されるときにモータ用電源端子に流れる電流の最大値より大きく、ハードディスクドライブの破壊を招く電流値より小さい値とし、 電流制限部は、
第1の直流電源の経路に挿入され、モータ用電源端子に入力される電圧を降下させるPチャンネルFETと、
電流センサ部の出力に基づいてPチャンネルFETにおける電圧降下量を制御する降下量制御部とを備え、
PチャンネルFETの放熱面をハードディスクドライブの筐体の下部面であって、ディスクモータの下方となる位置に熱的に接触させたことを特徴とするHDD保護装置。
【請求項2】
磁気ディスクを回転させるディスクモータと、
ディスクモータを駆動する駆動回路部と、
所定の信号処理を行う信号回路部と、
駆動回路部に供給される第1の直流電源が入力されるモータ用電源端子と、
信号回路部に供給される第2の直流電源が入力される制御用電源端子とを備えたハードディスクドライブに用いるHDD保護装置であって、
モータ用電源端子に流れる電流値を検出する電流センサ部と、
電流センサ部によって検出された電流値が制限値に接近するときには、モータ用電源端子に入力される電圧を降下させることによって、モータ用電源端子に流れる電流を制限値以内に抑制する電流制限部とを備えたことを特徴とするHDD保護装置。
【請求項3】
前記制限値は、ディスクモータの回転が起動されるときにモータ用電源端子に流れる電流の最大値より大きく、ハードディスクドライブの破壊を招く電流値より小さい値であることを特徴とする請求項2に記載のHDD保護装置。
【請求項4】
電流制限部は、
第1の直流電源の経路に挿入され、モータ用電源端子に入力される電圧を降下させる電圧降下用素子と、
電流センサ部の出力に基づいて電圧降下用素子における電圧降下量を制御する降下量制御部とを備え、
電圧降下用素子の放熱面をハードディスクドライブの筐体の下部面であって、ディスクモータの下方となる位置に熱的に接触させたことを特徴とする請求項2または請求項3に記載のHDD保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−265580(P2007−265580A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92648(P2006−92648)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】