説明

III族窒化物半導体結晶の製造方法

【課題】結晶成長の終了後にGaN結晶を安全に取り出すことができること。
【解決手段】Naフラックス法によるGaN基板の育成終了後、温度500℃、圧力10PaでNaを蒸発させた。そして、排気管14を通して気体のNaを排出し、冷却器15によってNaを液化してNa回収タンク17によりNaを回収した。その後、圧力を大気圧に戻し、加熱を停止して温度を常温まで下げ、反応容器10を開封して中から坩堝11を取り出した。このとき、坩堝11内にはNaはほとんど残留していないため、GaN基板を短時間で安全に取り出すことができる。また、回収したNaは高純度であり、フラックスとして再利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス法によるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法に関するものであり、特に、結晶成長の終了後にフラックスとして用いたNaを回収して再利用することが可能な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、GaN基板の製造方法として、Naフラックス法の開発が進められている。Naフラックス法は、800〜900℃、30〜50atm程度の温度、圧力下で、NaとGaとの混合融液と窒素ガスとを反応させてGaNを育成する方法である。従来、結晶成長終了後は、反応容器の温度を下げた後、GaとNaの混合融液とGaN基板が入った坩堝を反応容器から空気中に取り出し、冷やしたエタノールの中に坩堝ごと浸漬させ、Naを除去した後にGaN基板を取り出している。この場合、Naはエタノールと反応してNaOHを生成するため、Naを再利用することは難しい。
【0003】
また、Naフラックス法において、結晶成長終了後に残留するNaを回収して再利用する方法が特許文献1に記載されている。特許文献1には、結晶成長終了後に坩堝を100〜200℃に保持してNaを液体とし、この液体Naを真空ポンプやシリンダポンプで吸引して回収することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−297153
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の結晶成長終了後のGaN基板取り出しでは、空気や水との反応性の高いNaを空気中に晒すことになり、浸漬させるエタノールも可燃性であるから、作業は常に発火等の危険がある。また、GaN基板を混合融液中に入れたまま温度を下げるため、GaNの多結晶が発生してしまったり、結晶中に混合融液が取り込まれてインクルージョンとなってしまう。そのため、多結晶やインクルージョンを取り除く工程が必要となる。
【0006】
また、特許文献1の方法では、結晶成長の終了後に未反応で残留したGaも回収してしまうため、Naを再利用するためにはNaとGaとを分離する工程が回収後に必要となり、工程が増して煩雑となってしまう。
【0007】
そこで本発明の目的は、フラックス法によるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法において、結晶成長の終了後にIII 族窒化物半導体結晶を安全に取り出すことができ、かつフラックスとして用いるアルカリ金属を再利用できることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、III 族金属とアルカリ金属とを少なくとも含む混合融液と、少なくとも窒素を含む気体とを反応させ、III 族窒化物半導体を結晶成長させるNaフラックス法によるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法において、結晶成長中に、または結晶成長の終了後、アルカリ金属を蒸発させ、その後アルカリ金属の蒸気を凝縮させることにより、混合融液からアルカリ金属を分離して回収する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0009】
ここでIII 族窒化物半導体とは、一般式Alx Gay Inz N(x+y+z=1、0≦x、y、z≦1)で表される半導体であり、Al、Ga、Inの一部を他の第13族元素(第3B族元素)であるBやTlで置換したもの、Nの一部を他の第15族元素(第5B族元素)であるP、As、Sb、Biで置換したものをも含むものとする。より一般的には、Gaを少なくとも含むGaN、InGaN、AlGaN、AlGaInNを示す。
【0010】
アルカリ金属は、通常はNa(ナトリウム)を用いるが、K(カリウム)を用いてもよく、NaとKの混合物であってもよい。さらには、Li(リチウム)やアルカリ土類金属を混合してもよい。また、混合融液には、結晶成長させるIII 族窒化物半導体の伝導型、磁性などの物性の制御や、結晶成長の促進、雑晶の抑制、成長方向の制御、などの目的で任意の元素を添加してもよい。たとえばC(炭素)を添加すると、雑晶の抑制や結晶成長促進の効果を得られる。また、n型ドーパントしてGe(ゲルマニウム)などを用いることができ、p型ドーパントとしてZn(亜鉛)などを用いることができる。
【0011】
また、窒素を含む気体とは、窒素分子や、アンモニア等の窒素を構成元素として含む化合物の気体であり、それらの混合ガスでもよく、さらには希ガス等の不活性ガスを含んでいてもよい。
【0012】
アルカリ金属としてNaを用いる場合、Naの蒸発は、150〜1000℃の温度で行うことが望ましく、Naの酸化を抑えるために、Arや窒素などの不活性ガス雰囲気中で行うことが望ましく、炉内の酸素分圧は低いことが望ましい。また、圧力は大気圧でもよいが、0.01Pa〜10MPaの圧力で行うことが望ましい。大気圧から減圧することで、より効率的にアルカリ金属を分離させることができる。より望ましい温度は300〜500℃、より望ましい圧力は1〜1000Paである。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、アルカリ金属は、Naであることを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0014】
第3の発明は、第2の発明において、Naの蒸発は、150〜1000℃の温度で行うことを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0015】
第4の発明は、第2の発明または第3の発明において、Naの蒸発は、0.01Pa〜10MPaの圧力で行う、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0016】
第5の発明は、第1の発明から第4の発明において、III 族窒化物半導体結晶は、GaN結晶であることを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、蒸留によって混合融液からアルカリ金属を分離して回収することができ、成長したIII 族窒化物半導体結晶基板の取り出しを短時間で安全に行うことができる。また、分離回収したアルカリ金属は、次回のIII 族窒化物半導体結晶の製造に再利用することができる。また、アルカリ金属を回収した後に降温するため、III 族窒化物半導体結晶基板に雑晶が付着してしまったり、インクルージョンが発生してしまうのを抑制することができる。また、結晶成長中にアルカリ金属を分留することで、混合融液中のIII 族金属とアルカリ金属との比率を一定に制御することができ、III 族窒化物半導体結晶を均質で高品質に育成することができる。
【0018】
また、第2、3の発明によれば、より短時間で効率よくアルカリ金属を分離させることができる。
【0019】
また、第4の発明のように、本発明はNaを分離させるのに適している。また、第5の発明のようにGaN結晶の製造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】製造装置の構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
図1は、実施例1のGaN基板の製造方法に用いる製造装置の構成を示した図である。製造装置は、反応容器10と、坩堝11と、ヒーター12と、供給管13と、排気管14と、冷却器15と、減圧ポンプ16と、Na回収タンク17と、によって構成されている。
【0023】
反応容器10は、耐熱性、耐圧性を有した材料からなる容器で、内部には坩堝11が配置される。反応容器10の側面には、坩堝11を加熱するヒーター12が配置されている。
【0024】
坩堝11はアルミナ製であり、内部にはGaとNaとの混合融液18、および種結晶19が保持される。また、GaN結晶育成中のNaの蒸発を抑制するため、坩堝11には蓋11aが設けられている。
【0025】
供給管13は反応容器10に接続され、反応容器10内に窒素を供給する。窒素の供給量は供給管13に設けられたバルブ13vによって制御可能である。
【0026】
排気管14は坩堝11の蓋11aに接続され、坩堝11内のガスを排出する。排気管14にはバルブ14v1が設けられていて、これによりガスの排出量が制御される。また、排気管14は下流側で排気管14a、bの2つに分岐し、バルブ14v2によって2つに分岐する流路の一方を選択することができる。2つに分岐した排気管14a、bのうち、排気管14aはGaN結晶育成中にガスを排出する側であり、他方の排気管14bは、GaN結晶育成終了後にNaを回収する側である。排気管14bは冷却器15を介して減圧ポンプ16に接続されている。また、冷却器15にはNa回収タンク17が接続されている。
【0027】
なお、製造装置に圧力容器をさらに設け、反応容器10とヒーター12を圧力容器内に配置するようにしてもよい。これにより反応容器10にさほど耐圧性が必要なくなるため、反応容器10として低コストのものを使用することができ、再利用性も向上する。また、製造装置に坩堝11を揺動ないし回転させる装置を設け、GaN結晶の育成中に坩堝11を揺動、回転させることが望ましい。混合融液18が撹拌されるためGaN結晶をより均質に育成することができる。
【0028】
次に、上記製造装置を用いたGaN基板の製造工程について説明する。
【0029】
まず、坩堝11内に、種結晶19として直径2インチ、厚さ400μmのGaN自立基板を配置し、Ga、Na、Cを入れた。Gaは12g、Naは17g(GaとNaとのモル比は1:2)であり、CはNaに対して0.6mol%の量を添加した。NaやGaは、固体の状態で坩堝11内に配置してもよいし、液体のNa、Gaをそれぞれ坩堝11内に入れたり、液体のNa、Gaを混合してから坩堝11内に入れてもよい。Cは雑晶の発生を抑制し、結晶成長を促進するために添加した。そして、坩堝11を反応容器10の内部に配置して封をした。次に、ヒーター12により加熱して坩堝11内にGaとNaの混合融液18を生じさせ、混合融液18の温度を870℃とした。また、供給管13により反応容器10内に窒素を供給し、供給管13のバルブ13vおよび排気管14のバルブ14v1により供給量、排気量を調整して、反応容器11内の圧力を4.2MPaとした。この温度、圧力を100時間維持し、種結晶19上にGaN結晶を育成した。
【0030】
次に、以下のようにして混合融液18を蒸留してNaを分離、回収した。まず、窒素供給による加圧を停止し、反応容器10の温度を500℃に低下させた。そして、排気管14を通して窒素の排気を行い、反応容器10内の圧力を1気圧程度まで低下させた。次に、減圧ポンプ16を稼働させ、排気管14のバルブ14v2によって流路を排気管14b側へと切り換え、バルブ13vで窒素の流量を調節しながら、反応容器10内の圧力を10Paまで低下させた。このような温度、圧力の状態では、坩堝11内のNaのみが蒸発し、排気管14、14bを通して冷却器15へと到達する。そして、冷却器15に達した気体のNaは液化して回収タンク17へと集められる。
【0031】
回収タンク17に集められたNaの重量をモニタリングしたところ、蒸留開始から10時間で、結晶成長開始時に投入した17gのNaのうち90%を回収することができた。
【0032】
なお、実施例1ではNaの蒸発を温度500℃、圧力10Paで行っているが、Naを効率的に蒸発させるためには、温度150〜1000℃、圧力0.01Pa〜10MPaの範囲であればよい。より望ましい温度は300〜500℃、圧力は1〜1000Paである。
【0033】
次に、減圧ポンプ16による減圧を停止して反応容器10内の圧力を大気圧に戻し、ヒーター12による加熱を停止して坩堝11の温度を常温まで下げ、反応容器10を開封して中から坩堝11を取り出した。坩堝11内の側壁やGaN結晶上に少量のNa、Gaが付着していることが認められた。取り出した坩堝11は冷やしたエタノールに浸漬し、残留したNa、Gaを除去したのち、育成したGaN基板を取り出した。このGaN基板の厚さは約1mmであり、雑晶の付着はなかった。
【0034】
このように、実施例1のGaN基板の製造方法では、結晶成長終了後にNaを蒸留によって分離・回収しており、反応容器10から坩堝11を取り出す際、坩堝11内にはNaはほとんど残留しない。そのため、結晶成長終了後のGaN基板の取り出しを短時間で安全に行うことができる。また、回収したNaは高純度であり、次回のGaN結晶育成においてNaを再利用することができる。また、坩堝11内にNaがほとんど残留していないため、降温時にGaN基板への雑晶の付着や、インクルージョンの発生を抑制することができる。
【実施例2】
【0035】
実施例1では結晶成長の終了後にNaの蒸留を行ったが、実施例2では、実施例1と同様にGaN基板を製造する際に、結晶成長中にNaの蒸留を行った。結晶成長に伴い混合融液中のGaは減少するが、これに合わせてNaを蒸発させ、混合融液のGaとNaの比率が一定となるようにNaの蒸発量を制御した。圧力は1〜10MPaの範囲で制御し、これによりNaの蒸発量を制御した。実施例2によると、混合融液のGaとNaの比率を一定に保って結晶成長を行うことができるため、高品質かつ均質なGaN結晶を育成することができる。実施例2において、結晶成長の終了後にさらにNaの蒸留を行うようにしてもよい。
【0036】
なお、実施例1、2はGaN基板の製造方法であったが、本発明はAlGaN、InGaN、AlGaInNなどの基板にも適用可能である。また、実施例1、2ではフラックスとしてNaを用いたが、KやLiを用いた場合でも同様に蒸留して分離・回収することができ、再利用することができる。
【0037】
また、実施例1、2において、Naの蒸留中に、坩堝11を回転・揺動させるようにしてもよい。坩堝11を回転させる場合、回転速度は5〜100rpmとするのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によって得られるIII 族窒化物半導体基板は、発光素子などの半導体素子の作製に利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
10:反応容器
11:坩堝
12:ヒーター
13:供給管
14:排気管
15:冷却器
16:減圧ポンプ
17:Na回収タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III 族金属とアルカリ金属とを少なくとも含む混合融液と、少なくとも窒素を含む気体とを反応させ、III 族窒化物半導体を結晶成長させるNaフラックス法によるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法において、
結晶成長中に、または結晶成長の終了後、前記アルカリ金属を蒸発させ、その後前記アルカリ金属の蒸気を凝縮させることにより、前記混合融液から前記アルカリ金属を分離して回収する、
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属は、Naであることを特徴とする請求項1に記載のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
Naの蒸発は、150〜1000℃の温度で行う、ことを特徴とする請求項2に記載のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
Naの蒸発は、0.01Pa〜10MPaの圧力で行う、ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
前記III 族窒化物半導体結晶は、GaN結晶であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−214302(P2012−214302A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78828(P2011−78828)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】