説明

IR放射線を反射する白色顔料、その製造および使用

本発明は、IR反射性コアを含むIR放射線を反射する顔料に関し、そのIR反射性コアは、IR放射線に対して透過性である実質的に被覆性のコーティングが与えられ、ここでそのIR反射性顔料は実質的に白色である。本発明はさらに、それらの顔料を製造するためのプロセスに関し、さらにはそれらの使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IR放射線を反射する強い白色の顔料、およびそれらの製造、さらにはそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
壁用塗料は典型的には、二酸化チタンまたは硫酸バリウムのような白色顔料を用いて着色される。この白色のベース塗料を基にして、相当する着色顔料を用いて色合いをつけることによって、着色エマルション塗料が得られる。しかしながら、エマルション塗料の構成成分、たとえばバインダー、顔料、および/または充填材は、たとえば、IR放射線の少なくとも部分的な吸収を示す。したがって、熱放射が反射されず、究極的には外側に放出される。
【0003】
K.Rose、U.Posset、K.−H.HaasおよびM.Koehl、Farbe & Lack、108(2002)、p.29から、SiOを用いてコーティングされたアルミニウム顔料が、エマルション塗料におけるIR放射線の改良された反射を可能とする、ということは公知である。
【0004】
“Komfort und Energieeffizienz durch Waermedaemmung”、Prof.Dr.Beck、Otti−Profiforum“Waermedaemmung im Bauwesen”、09.+10.03.2005、Regensburgには、IR反射性顔料を含む壁用塗料を用いて塗装された屋内の室壁が、快適で、心地よい環境を作り出すとの説明がある。室内にいる人が、最大で約10μmのIR放射線を放射する、黒体放射体として機能する。
【0005】
IR放射線は、室内の全熱経済の数パーセントの割合しか占めないが、主観的には、人は室内の放射線シンク(sink)には極めて敏感に反応する。したがって、壁によるIR放射線の均質な反射は、極めて快適で、“心地よい環境”を生み出す。
【0006】
しかしながら、IR反射性顔料としてたとえばアルミニウム顔料を使用することは、壁用塗料がメタリックな外観を与えるという欠点を有している。しかしながら、ほとんどの場合、これは望ましいことではない。壁用塗料中の金属顔料は、さらに、基材における不均一性を顕著に際立たせる。加えて、濃度および粒径に依存するが、アルミニウム顔料を使用すると、エマルション塗料の灰色化という不利な結果を与える。エマルション塗料のほとんどは白色であり、また白色エマルション塗料はさらに、着色エマルション塗料を製造する目的で、着色顔料を用いて色合いをつけるためのベースとしても使用される。
【0007】
DE42 11 560A1には、1μm未満の粒径を有する白色顔料を用いた基材のコーティングが開示されていて、基材はとりわけ、金属フレークまたは雲母顔料であってよい。それらの顔料は、噴霧乾燥だけで基材に適用され、さらなるコーティングを用いないために、前記基材に対する接着性で難点がある。
【0008】
DE100 10 538A1には、汚れ防止のコーティング材料が開示されているが、それに開示されているのは複雑な組成物であって、それには多数の成分および粒子と同様に、微小板形状の粒子、たとえばアルミニウム顔料が含まれていてもよい。DE100 10 538A1から公知のコーティング材料の一つの欠点はその金属顔料が腐蝕する可能性があることであり、もう一つの欠点は、そのコーティング材料がメタリックな外観または金属効果を有していることである。
【0009】
DE195 01 307A1には、着色アルミニウム顔料が開示されているが、ここでは着色顔料が、ゾルゲルプロセスによって製造された金属酸化物マトリックスの中に組み入れられている。得られるアルミニウム顔料は、着色され、金属的な光沢がある。
【0010】
US5,037,475にも同様に、着色顔料を用いてコーティングされた着色アルミニウム顔料が開示されている。この場合、着色顔料の付着は、一方では加熱重合される不飽和の多官能カルボン酸によるものであるし、他方ではプラスチックコーティングによるものである。この場合もまた、そのようにして得られる着色アルミニウム顔料が、はっきりとしたメタリックな外観を有していることが欠点である。
【0011】
さらに、WO91/04293には、着色された金属的な光沢のある金属顔料が開示されている。
【0012】
上で特定した従来技術の場合、その記述はいずれも、装飾分野用の効果顔料についてである。それらの顔料は、金属効果を有しているのみならず、マストーン(masstone)であるが、その理由は、それらの着色顔料が金属表面上に直接固定されているからである。
【0013】
WO96/23337には、2種類の粒子(一つは微小板形状の金属顔料、他は白色顔料)を特徴とするコーティング材料が開示されていて、それらは、近赤外線領域において極めて強い吸収を有している。その白色顔料は、金属顔料に適用されていてもよい。しかしながら、それらの白色顔料を金属顔料の上に固定させる方法は開示されていない。
【0014】
WO2005/007754には、厚みが0.2μm未満の赤外線反射性コアを有する着色顔料が開示されている。この場合、白色顔料の開示はなく、それらを金属顔料の上に固定させる方法についての開示もない。
【0015】
DE40 35 062A1には、白色、灰色、黒色または有色の顔料を含んでいてもよいワニス層でコーティングされたIR反射性基材が開示されている。そこには、通常の方法で壁に塗布することが可能なエマルション塗料は開示されていない。
【0016】
DE197 18 459A1の教示に従えば、それが意図しているのは、やや白色からやや灰色の表面を有する金属顔料を使用することである。このやや白色からやや灰色の表面は、各種の化学反応によって作り出すことが可能であるが、DE197 18 459A1では、述べられている金属顔料を得るためには、どのような反応をどのような条件下で実施しなければならないかが明らかになっていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、白色の外観を有し、しかもあらゆる金属効果が抑制されているような、IR反射性顔料、好ましくは金属顔料が必要とされている。さらなる目的は、たとえば塗料またはワニスのような塗布媒体中で使用したときに、たとえばヒトの眼に顕著に見えることはなく、また塗布媒体を実質的に灰色化させることがまったくないような、IR反射性顔料、好ましくは金属顔料を提供することである。
【0018】
水およびアルカリの影響に関する腐蝕に対して安定なIR反射性顔料を提供することが、本発明のさらなる目的である。その顔料は、室内壁用塗料におけるばかりではなく石工塗料においても、エマルション塗料中で使用しやすいものであるべきである。
【0019】
さらに、そのような顔料を製造するための経済的なプロセスを提供することもまた、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の基礎となる目的は、IR放射線を反射する顔料によって達成されるが、それにはIR反射性コアが含まれ、そのIR反射性コアは、IR放射線に対して実質的に透過性である実質的に被覆性のコーティングにより得られ、そのIR反射性顔料は実質的に白色である。
【0021】
本発明の顔料の好適な展開法は、従属特許請求項2〜23に規定されている。
【0022】
その目的はさらに、特許請求項1〜23のいずれか1項のIR反射性顔料を製造するためのプロセスにより達成されるが、ここで、IR放射線に対して実質的に透過性であるコーティングを、白色顔料と共に、および/または可視光線を散乱させる粒子様コーティング成長物と共に、IR反射性コアに適用する。
【0023】
本発明のプロセスの好適な展開法は、従属特許請求項25〜27に規定されている。
【0024】
本発明の基礎となる目的はさらに、本発明の顔料を、インキ、塗料、ワニス、印刷インキ、セキュリティ印刷インキ、および化粧品に使用することにより達成される。
【0025】
好適な展開法は、従属特許請求項29に規定されている。
【0026】
その目的はさらに、特許請求項1〜23のいずれか1項に記載の本発明の顔料を含むコーティング組成物によって達成される。
【0027】
一つの好適な展開法は、従属特許請求項31に規定されている。
【0028】
その目的はさらに、特許請求項1〜23のいずれか1項に記載の本発明の顔料を用いるか、または特許請求項30および31のいずれかに記載の本発明のコーティング組成物を用いてコーティングされた物品によって達成される。
【0029】
その物品は、たとえば、コーティングされた壁材料または天井材料、コーティングされた建築材料、たとえばファサード材料などであってよい。
【0030】
驚くべきことには、本発明者らは、IR反射性コアを有し、同時にヒトの眼には実質的に白色に映る顔料を提供することが可能であることを見出した。
【0031】
この文脈において特に驚くべきことは、IR反射性コア、たとえばIR放射線を極めて効果的に反射する金属表面を有する基材を、たとえば、一方ではIR反射性能が実質的に損なわれることなく、他方ではその顔料がヒトの眼には強い白色で非メタリックに映るようにコーティングすることが可能であるということであった。
【0032】
したがって、本発明の顔料は、たとえば、インキ、塗料、ワニスまたは化粧品のような白色適用媒体中で使用することが可能であるが、その適用媒体の部分に、明確に認められる灰色化や金属的な光沢や強い光輝効果を一切与えない。
【0033】
したがって、本発明の顔料は、より詳細には、典型的には屋内の室壁を塗装するために使用される白色エマルション塗料中で使用するのに適している。本発明の顔料を含むこの種のエマルション塗料は、典型的な方法でさらなる着色剤を添加することによって色合いをつけることも可能であることは理解されるであろう。
【0034】
本発明の顔料を製造するためには、IR反射性コアに、光学波長範囲において不透明であり、同時にIR透過性が高い顔料様の粒子を実質的に均質にコーティングする。本発明のためのコアは、微粒子、好ましくは球状または微小板形状の基材である。その基材が微小板形状の形態を有しているのが極めて特に好ましいが、その理由は、この幾何学的モルホロジー形状が、最大のIR反射と、最小量の材料、すなわち比較的低いレベルの顔料化とを組み合わせることを可能とするからである。
【0035】
そのコーティングは、一方では実質的にIR透過性の顔料粒子(白色顔料)から、そして他方ではマトリックス材料から構成されているのが好ましい。実質的にIR透過性の顔料粒子は、たとえば光学的に透明なマトリックスの中および/または上に組み入れることによって、IR反射性コアの表面上に固定されてもよい。このマトリックスが好ましくは、コアの均質な被覆を与える。この好適に被覆するマトリックスはまた、水または大気中のガスによる腐蝕の影響からコアを保護する。
【0036】
本発明の目的のための、実質的に被覆性のコーティングとは、IR反射性コアがコーティングによって被覆されて、コアが認知できるような光沢の印象を観察者に対してまったく与えないようにすることを意味する。さらに、その被覆の程度が大きいために、腐蝕の影響を受けやすい金属製のIR反射性コアの場合であっても、腐蝕の発生が抑制または防止される。
【0037】
光学波長範囲において不透明であり、同時にIR透過性が高い顔料様の粒子を用いてIR反射性コアを均質にコーティングした結果として、本発明の顔料は全体として、強い白色の外観が得られる。IR反射性コアから生じる光学効果は、大きく抑制される。驚くべきことには、顔料様の粒子のIR透過性が高いために、コアのIR反射性能には、悪影響がまったく出ないか、または実質的に出ない。
【0038】
本発明の文脈においては、“光学的性質”または“光学効果”は常に、ヒトの眼に見えるIR反射性顔料のそれらの性質である。物理的には、それらの性質は約400〜約800nmの波長範囲における光学的性質によって実質的に決まる。
【0039】
一つの好ましい変化形態においては、白色で、光学的に不透明で、IR透過性の顔料様の粒子は、好ましくは180〜400nm、より好ましくは250〜350nm、さらにより好ましくは270〜330nmの平均一次粒径を有する白色顔料である。ミエ(Mie)理論によれば、この種の顔料は、400〜800nmの光学的範囲内で、電磁気波長の最大の散乱断面積を有する。白色顔料がこれより小さくても、あるいは大きくても、散乱性ははるかに低くなる。最も低い散乱は、たとえば、30〜40nm未満の一次粒径を有するナノ粒子によって得られ、そのものはほとんど完全に透明である。粒子が最大の散乱断面積を伴う粒径を有しているのが好ましいという事実は、それらが実質的に白色に映り、光学的光線がIR反射性コアの表面にほとんど到達しないという効果を有している。したがって、コアの光学効果、たとえば金属効果は、実質的に抑制され、顔料全体としては実質的に白色に映る。
【0040】
白色顔料は、たとえば、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、硫化亜鉛、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、炭酸カルシウム、リトポン、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、バリウムフェライト、およびそれらの混合物からなる群より選択すればよい。白色顔料はIR放射線に対して、実質的に透過性であるか、好ましくは透過性である。その粒径、さらにはIR反射性コアに適用される白色顔料の量は、使用される白色顔料の関数として調節される。
【0041】
ルチルまたはアナターゼ変態のTiO、硫酸バリウム、酸化亜鉛、および/または硫化亜鉛を使用するのが好ましいが、特に好ましいのはTiOおよびZnOである。その理由は、それらがどのような大きさでも自由に入手可能であるからである。ルチル型のTiOが極めて好適であることが判った。
【0042】
IR放射線に対して実質的に透過性であるコーティングは、本発明の目的においては、そのコーティングおよび/または白色顔料によって、IR放射線のわずかな分量だけが吸収されるということを意味している。そのコアが持つIR反射性とあいまって、これが高いIR反射率をもたらす。温度Tの関数としてのIR反射率ρIRは、重み関数としてのプランク関数i(T)で、波長全体にわたって積分することによって、分光反射率R(λ)から計算することができる。
【0043】
【数1】

【0044】
プランク関数i(T)は、所定の温度Tで、黒体がどの程度の放射をするかを示すものである。室温における関連スペクトル範囲は、良好な近似で、1.4〜35μmの波長範囲に対応する。
【0045】
本発明のIR反射性顔料は、2.5〜25μmの波長範囲および300Kの計算温度で、好ましくは50%を超えるIR反射率を有している。IR反射率が少なくとも60%であればさらに好ましく、少なくとも70%であればさらに一層好ましい。IR反射率が少なくとも80%であれば極めて好ましく、それが少なくとも85%であれば最も好ましい。
【0046】
本発明の顔料の分光学的なIR反射性は、下記のような、KBr粉体床中での拡散反射測定によって求めることが可能である。まず第一に、乳鉢中でKBr粉体を微粉砕する。次いで顔料をそのKBr粉体に加えて、1.5重量%の濃度とし、その構成成分を互いに均質に組み合わせる。錠剤の形状のサンプルチャンバー(直径:約0.8cm、深さ:約2.2mm)にその顔料/KBr混合物を充填し、それを突き固める。次いで、2.5〜25μmの波長範囲で拡散反射を測定する。これは、測定部として、Selector(Specac製)を使用して実施する。この機器は、四分球の幾何学的配置(quarter−sphere geometry)で、拡散IR反射を測定する。使用するIR機器は、Thermo製のAvatac360分光計であり、検出器はDTGS検出器である。いずれの場合においても、純粋なKBr粉体をバックグラウンドスペクトルとして測定し、それに対して顔料化したKBrのスペクトルを比較する。この手順を3回繰り返し、測定の平均値を採用した。
【0047】
得られたIR反射スペクトルから、温度300Kでのプランク関数を用いて、式(1)によってIR反射率ρIRを計算することができる。
【0048】
実質的に透過性で、実質的に被覆性のコーティングの吸収のさらなる特徴付けを行う目的で、本発明のコーティングされた顔料の上述のIR反射率を、コーティングしていないIR反射性コア(1.5重量%濃度)のIR反射率に対する百分率で関連づけることができる。この比率は、本発明の文脈においては、“IR反射率、コーティング”と呼ばれる。この比率は、65%を超えるのが好ましく、70%を超えればより好ましく、80%を超えれば特に好ましい。この比率が85%を超えればさらに好ましく、90%を超えればより一層好ましい。上限としては、その比率が99%である。
【0049】
“実質的にまたはほとんど透過性の被覆性コーティング”という用語は、本発明のIR反射性顔料が、そのIR反射率の面で、上述の性質を有しているような、コーティングを指している。実質的にまたはほとんど透過性の被覆性コーティングは、白色外観を生じさせたり改善したりする白色顔料を特徴としているのが好ましい。
【0050】
使用される白色顔料は表面処理されていてもよく、たとえば金属酸化物を用いてコーティングされていてもよい。特にTiO顔料に、TiO顔料の光活性を抑制する目的で、たとえば、SiO、Al、および/または酸化マンガン、および/または酸化セリウムのコーティングをすることも可能である。しかしながら、TiO顔料をIR反射性コアの表面に固定する、被覆マトリックスそのものによってTiO顔料の光活性を抑制するのが有利である。
【0051】
使用される白色顔料の量は、その顔料のタイプおよび大きさ、特にIR反射性コアの比表面積に依存する。IR反射性コアの比表面積とは、単位重量あたりのIR反射性コアの表面積である。IR反射性コアの比表面積は、公知のBET法によって求められる。
【0052】
本発明のIR反射性顔料で十分に高い白色度を得るためには、白色顔料を、いずれの場合もIR反射性顔料の全重量を基準にして、好ましくは20%〜80重量%、より好ましくは35%〜70重量%、特に好ましくは40%〜60重量%の量で含むようにする。この文脈においては、低い比表面積を有するIR反射性コアの場合には約20重量%の量、そして高い比表面積を有するIR反射性コアの場合には約80重量%の量で使用するのが好ましい。
【0053】
白色顔料の量が20重量%未満であると、IR反射性顔料の白色度が低くなりすぎる可能性がある。その量が80重量%を超えると、全顔料を基準にしたIR反射性コアの割合が低くなりすぎて、IR反射が不十分となる可能性がある。後者の顔料、すなわちエマルション塗料で効果的なIR反射を得るためには、そのエマルション塗料は、相応の高い顔料化レベルを有していなければならない。顔料化を高くする、すなわち塗布媒体中における本発明の顔料レベルを高くすると、一方では製造コストが高くなる。他方で、過剰の顔料化となり、そのためにエマルション塗料が部分的に性能低下をきたす可能性もある。
【0054】
使用されるIR反射性コアは、金属粉体および/または微小板形状の金属顔料および/または適切な真珠光沢顔料であるのが好ましい。この文脈において特に好ましいのは、微小板形状の金属顔料であるが、その理由は、それらの形状的性質および光学的性質のために、塗布媒体中において好ましくは面に平行に配向させた場合に、それらは最も高いIR反射を示すからである。金属顔料は、光学的光線およびIR放射線のいずれに対しても不透過性である。たとえば木材チップ壁紙のような、非平面的な基材の上であっても、微小板形状の金属顔料は、入射IR放射線の最も効果的な定方向および/または拡散反射をもたらす。
【0055】
採用される微小板形状の金属顔料または金属粉体は、アルミニウム、銅、亜鉛、チタン、鉄、銀、および/またはそれらの金属の合金であるのが好ましい。特に好ましいのは、アルミニウムおよびアルミニウムの合金であるが、それは、それらが極めて高いIR反射を有し、それらの金属顔料が容易に入手可能であるからである。本発明においては、微小板形状の金属顔料もまた金属効果顔料と呼ばれる。
【0056】
微小板形状の顔料、好ましくは金属顔料または金属効果顔料の長さと幅の寸法は、好ましくは3〜200μmの間、より好ましくは12〜90μmの間、さらにより好ましくは20〜75μmの間、特に好ましくは40〜70μmの間である。
【0057】
微小板形状の顔料、好ましくは金属顔料または金属効果顔料の平均厚みは、好ましくは0.04〜4μmの間、より好ましくは0.1〜3μmの間、特に好ましくは0.3〜2μmの間である。
【0058】
微小板形状の顔料、好ましくは金属効果顔料は、約0.2〜約15m/gの比表面積を有しているのが好ましい。長さまたは幅が3μmよりも短い金属顔料または金属効果顔料は光学的範囲において過度の散乱を示し、そのために、白色顔料を用いて着色させた後においてさえ、かなり灰色に映る。さらに、この大きさの顔料ではIR放射線を最適に反射することがもはやできないが、その理由は、この場合にはその顔料が、反射されるべきIR光の波長よりも小さくなってしまっているからである。さらに、それらの比表面積が高いために、それらの金属顔料または金属効果顔料を、白色顔料を用いて完全にコーティングすることがもはや不可能であるか、あるいは、白色顔料をそれ相当にコーティングの中に結合させることがもはや不可能である。長さまたは幅が200μmを超えると、たとえば適用された壁用塗料またはワニスにおいて、IR反射性金属部分に関して顔料によって得られる不透明度、従ってIR反射が不十分なものとなる。さらに、それらは白色の外観を有してはいるものの、200μmを超える大きさの顔料は、見た目には粒子として認識される可能性があるが、これは望ましいことではない。さらに、顔料の大きさが200μmを超える場合には、集塊し、したがってはん点の生成が起きやすい。
【0059】
微小板形状の金属顔料は、予め不動態化させた形態で存在させてもよい。そのようなものの例としては、SiOコーティングされたアルミニウム顔料(Hydrolan(登録商標)、PCXまたはPCS(登録商標)、Eckart製)またはクロメート処理されたアルミニウム顔料(Hydrolux(登録商標)、Eckart製)がある。このようにして予め安定化された基材を使用することによって、水性塗料、より詳細にはエマルション塗料におけるガス発生に対する安定性の面での安定性、さらにおそらくは、屋外分野における腐蝕に対する安定性が最大化される。
【0060】
また別な好ましい実施態様の場合においては、微小板形状の顔料、好ましくは金属顔料は5〜12μmの長さ方向の寸法を有している。この種の顔料は、主として白色で、不透明な顔料として使用される。この場合、高い不透明度を得る目的で、コアとしては比較的小さい金属顔料が使用される。
【0061】
IR反射性コアとしての微小板形状の金属顔料、より詳細にはアルミニウム顔料のまた別な好ましい場合においては、好ましくは微小板形状の金属顔料に適用される白色顔料の量は、IR反射性金属コアの表面積1mあたり、好ましくは0.3〜10g、より好ましくは0.5〜7g、さらに好ましくは1〜3g、特に好ましくは1.5〜2.5gである。
【0062】
基材表面積あたり0.3g/mよりも少ないと、好ましくは微小板形状の金属顔料の白色顔料を用いたコーティングが少なすぎて、満足な白色効果を与えることができない可能性がある。10g/mを超えると、白色効果が事実上飽和に達してしまい、顔料全体の部分としてのIR反射性コアの割合が低くなり過ぎて、その結果、この種の本発明の顔料がもはや十分なIR反射性を示さない可能性がある。
【0063】
IR反射性コアとしてはさらに、金属粉体を使用することも可能である。好適な粉体は、好ましくは8〜1000μm、より好ましくは10〜500μm、特に好ましくは20〜300μmの平均直径を有する、ほぼ球状のモルホロジーを有しているのが好ましい。
【0064】
しかしながら、不規則な形状の金属粒子もまたIR反射性コアとして使用することが可能である。
【0065】
IR反射性コアとしては、真珠光沢顔料を使用することも可能である。それらの真珠光沢顔料は、高屈折率の酸化物たとえばTiOおよび/またはFeでコーティングされた、たとえば雲母、ガラス、SiOもしくはAlのフレークのような低屈折率のコアを有しているのが好ましい。TiOおよび/またはFeでコーティングされたSiOフレークの例としてはColorstream(登録商標)の名前のものが、そしてそれに相当するAlフレークの例としてはXirallic(登録商標)の名前のものが知られているが、それらはいずれも、Merck、Darmstadt、Germanyの製品である。高屈折率コーティングの光学的厚みを適切にすれば、その干渉条件の結果として、大きなIR放射線の反射が得られる。適切な光学的厚みは、高屈折率の酸化物の屈折率の関数として決められる。
【0066】
本発明の顔料は、好ましくは4〜25μm、より好ましくは5〜15μm、さらに好ましくは8〜12μmのIR範囲で高反射である。先に述べた範囲の中での高反射、好ましくはさらに最大反射が存在すれば、室内における最適に心地よい環境が作られることが判ったが、その理由は、そのような場合に本発明の顔料が人のIR放射線の反射を最適にするからである。したがって、本発明の顔料は、室内で適用される壁用塗料に使用するのに特に適している。
【0067】
さらに、特に有利なことは、本発明の顔料を用いて提供された室内壁を持つ部屋は、本発明の顔料がIR反射性を有しているために、冬期においてもあまり加熱する必要がない。したがって、本発明の顔料を使用することによってエネルギーの節約が可能となり、そのことは、エネルギー資源がますます涸渇していき、エネルギーコストが立て続けに上昇していることを考えれば、環境の見地および経済性の見地の両方から大きな進歩を意味している。
【0068】
IR反射性コアとして使用することが可能な真珠光沢顔料の例としては、Merck、Darmstadt、Germanyにより製造され、商品名Solarflair(登録商標)またはMinatec(登録商標)として販売されている真珠光沢顔料がある。
【0069】
本発明の顔料の中でIR反射性成分として微小板形状のコアを使用することにより、使用するIR反射性材料の量に関連してのIR反射を最適化することができる。微小板形状のコアの場合、一方では、顔料、好ましくは金属顔料の不透明度性能の面で、球状顔料たとえば金属ビーズを用いた場合に比較して、極めて大きな改良が得られる。他方では、球状顔料に比較して、微小板形状の顔料、好ましくは金属顔料の反射性が、反射面積がより大きいために、より大きくなる。
【0070】
IR反射性コアとしては、効果顔料、例を挙げれば金属効果顔料または真珠光沢顔料を使用するのが好ましいが、その理由は、それらの顔料は、それらが微小板の形状をしているために、本発明の文脈における不透明度および反射性の面で特に適しているからである。
【0071】
効果顔料は典型的には、入射および/または観察の角度に依存する光学的外観を有している。その光学効果には、金属顔料の場合においては明度における変化(これは、“フロップ性”と呼ばれることもある)、ならびに真珠光沢効果顔料の場合においては色の変化(これは、“カラーフロップ性”と呼ばれることもある)が包含されていてもよい。
【0072】
効果顔料を含むたとえばインキ、塗料またはワニスのような適用媒体の典型的な特徴は、それらの高い光沢値である。それとは対照的に、金属粉体は、たとえばインキ、塗料またはワニスのような適用媒体中では、光学的な用語でいえば顕著な灰色化を常に起こし、それは明度の低下と密接に関係する。
【0073】
たとえば真珠光沢顔料または金属効果顔料のような効果顔料を使用した際に、または金属粉体を使用した際に典型的に起きるそれらの光学効果が、本発明の顔料の場合には大幅に抑制される。ヒトの眼に対しては、本発明の顔料は強い白色に映る。
【0074】
IR反射性コアとして真珠光沢顔料を使用した場合には、金属効果顔料に比較して所望の白色度が比較的容易に達成できるということが判った。しかしならが、金属効果顔料を用いれば、そのIR反射ははるかに高い。したがって、金属顔料に適用するIR透過性白色顔料の量がより多くなるという事実があるにもかかわらず、本発明の顔料においてはIR反射性コアとしては金属効果顔料が好ましい。この文脈においては、微小板形状のアルミニウム顔料は特に好ましい。
【0075】
ヒトの眼に対しては顕著な金属効果を有さないか、あるいは白色とは異なった色彩効果を有する、本発明の強い白色のIR反射性顔料は、好ましくは以下のような基準に適合する。
【0076】
本発明の顔料、好ましくは金属効果顔料を用いた場合、いずれの場合も45度の一定の入射角で測定した、光沢、彩度C、フロップ指数、および明度Lのパラメーターは、所定の値の範囲内に入るのが好ましい。効果顔料の場合にしばしば起きる光輝効果さえも、大幅に抑制される。しかしながら、この光輝効果は測色法では測定することが不能であり、そのため視覚的にしか評価できない。
【0077】
それらのパラメーターを比較しながら求めることができるようにするには、以下のアプローチをとる:一方では本発明の顔料を、ポリエステル/CABシステム(バインダー:22重量%のCAB381−2および9重量%のCAB551−0.2、いずれもEastman製、ならびに13重量%のViacryl SC303、Surface Specialities製)をベースとしたそれ以外には顔料化しない慣用されるワニスの中に組み入れる。このワニスには他の顔料や艶消剤は一切添加せず、以下においては“試験ワニス”と呼ばれるが、その理由は、それらは、測定しようとしているパラメーター、特に光沢および彩度に影響を与えるであろうからである。選択される顔料化レベルは10重量%であり、その顔料含有ワニスを黒色の基材の上にナイフコーティングする。コーティングナイフの深さは50μmであるが、極めて粗い顔料の場合は100μmである。
【0078】
それらのナイフドローダウン物を用い、CieLab測色システムに従って、彩度、明度の値およびフロップ値を求める。測定は、マルチアングル測色計、たとえばX−Rite製のM682を使用し、メーカーの説明書に従って実施するが、入射角は45度で一定とし、反射角に対して観測角を変化させ、LおよびCの値を確認する。より詳細には、15度、25度、45度、および110度での観測角である。
【0079】
彩度とも呼ばれる、色の飽和度を評価するために採用する値はC25゜である。
【0080】
本発明の顔料のナイフドローダウン物のC25゜値は、好ましくは0.0〜2.5、より好ましくは0.1〜1.0の範囲である。この種の値は、実質的に無色の顔料によってのみ達成される。
【0081】
原理的には、ある種の色消しの金属顔料およびさらには銀色の真珠光沢顔料でさえもこの種のC25゜値に達することができるので、本発明の顔料を特徴づけるためのさらなるパラメーターを採用するのが好ましい。
【0082】
明度Lを評価するためには、この場合、45度における値を採用する。それら明度に関しては、効果顔料は多くの場合、反射角に近い、すなわち15度または20度における値で特徴付けられる。本発明の顔料は、角度とはほとんど無関係な明度を示す、すなわち、それらは顕著な明度フロップ性を有していない。したがって、純粋な金属顔料または金属粉体からの、より効果的な差別化が中央値で達成される。
【0083】
本発明の顔料のL45゜値は、好ましくは50〜90ユニット、より好ましくは55〜80ユニット、さらにより好ましくは60〜75ユニットである。
【0084】
明度フロップ性は、DuPontにより次式に従って表される(A.B.J.Rodriguez、JOCCA、(1992(4))、p.150〜153)。
【0085】
【数2】

【0086】
フロップ指数は、より詳細には金属効果顔料の特徴的な明度フロップ性を示すもので、真珠光沢顔料または金属粉体には適用しにくい。
【0087】
本発明の顔料は、0〜3、好ましくは0.1〜2、より好ましくは0.15〜1.0の明度フロップ性を有している。
【0088】
このような極端に低い値であるということは、たとえば金属効果顔料の場合、そうでなければ約4〜約25の範囲のフロップ指数を有する典型的な明度フロップ性が、本発明の顔料の場合においては、ほとんどまたは完全に抑制されていることを示している。
【0089】
効果顔料のより詳細な一つの特徴は、効果顔料を含むインキ、塗料またはワニスコーティングの高い光沢である。本発明の顔料は、そのような効果顔料に特徴的な光学的光沢性をもはや示さないので、そのドローダウン物は極めて低い光沢値を有する。
【0090】
本明細書で採用されている判定基準は、60度における光沢であって、これは、Byk−Gardner、GermanyのTrigloss測定器を使用し、メーカーの説明書に従って測定した。本発明の顔料は、1〜12、好ましくは1.5〜10ユニットの光沢を有している。効果顔料を用いれば、光沢は典型的には、約30〜160の範囲の中に入る。
【0091】
本発明の顔料の強い白色の外観に関するさらなる判定基準は、市販の白色エマルション塗料中におけるその外観を基にして、求めることができる。この場合、本発明の顔料と、コーティングなしおよび/または白色顔料コーティングなしのIR反射性顔料を比較する。相当する顔料化エマルション塗料の明度を、拡散反射で測定する。この場合におけるIR反射コアの顔料化レベルは、全エマルション塗料を基準にして10重量%である。したがって、対応する明度の差は次式で表される。
【0092】
【数3】

【0093】
好ましくはこの差は、1.5ユニットより大きく、好ましくは3ユニットより大きく、より好ましくは7ユニットより大きくするべきである。
【0094】
しかしながら、明度におけるこの差を単独で、白色度を評価するために使用することはできない。たとえば、金属顔料は必ず明度を顕著に上げ、そのために白色にはならない。したがって、ここで究極的には、決定的なのはやはり依然として視覚的な印象である。
【0095】
コアだけではなく、白色顔料もまたほとんど被覆する、IR放射線に対して実質的に透過性であるコーティングは、光学的な観点からはほとんど無色であるマトリックスを構成する。それは、好ましくは金属酸化物および/または有機ポリマーを含むか、またはそれらからなる。被覆性のコーティングまたはマトリックスの上に、白色顔料を適用してもよい。そのマトリックスは、塗布されるか組み入れられた白色顔料によって得られる白色効果に悪影響を与えないために、ほとんど無色であるのが好ましい。
【0096】
ほとんど無色であるというのは、本発明においては、金属酸化物および/または有機ポリマーが、白色顔料によって作り出される白色効果によってマスキングすることが不可能な、実質的に固有の着色を有していないということを意味している。
【0097】
コアが金属顔料からなっている場合には、そのほとんど無色のマトリックス材料は金属酸化物であるのが好ましいが、その理由は、そのようにすれば、腐蝕に対して極めて良好にコアを保護することができるからである。マトリックス材料のために使用される金属酸化物およびその酸化物の量は、より詳細には、本発明の顔料がIR放射線を可能な限り少ししか吸収しないように考えて選択する。本発明の顔料によるIR吸収はすべて、IR反射の低下を起こし、そのために本発明の顔料の所望の効果を弱める。マトリックス材料は、白色顔料のIR反射性コアの上への接着をもたらし、そのために、エマルション塗料の中に分散させた後であっても、白色顔料がIR反射性コアにほとんど接着されたままでとどまる。このような信頼性のおける付着性があってはじめて、効果顔料に典型的な光学的現象を抑制することが可能となり、そして強い白色の外観がもたらされる。
【0098】
極めて好適な金属酸化物の例は、二酸化チタン、二酸化ケイ素、アルミニウム酸化物/水酸化物、ホウ素酸化物/水酸化物、酸化ジルコニウム、またはそれらの混合物である。二酸化ケイ素が特に好ましい。
【0099】
有機ポリマーとしては、ワニス、エマルション塗料または印刷インキにおけるバインダーとしても採用されるものを使用するのが好ましい。そのようなものの例としては、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリレートおよび/またはポリメタクリレートなどがある。有機コーティングとバインダーとが互いに極めて類似しているか、あるいは同一である場合には、本発明の効果顔料をバインダーの中に極めて効果的に組み入れることができるということが判った。
【0100】
光学的にほとんど無色のマトリックスは、顔料の全重量を基準にして、4%〜40重量%の割合で存在させるのが好ましい。その割合は、好ましくは5%〜20%、より好ましくは6%〜15重量%である。驚くべきことには、そのような小量のマトリックス材料を用いた場合であっても、白色顔料をコアの表面に堅固かつ均質に固着させることが可能であるばかりではなく、さらに、金属コアの場合においては、コアの部分の腐蝕に対する安定性もまた達成される。割合が4重量%未満では、顔料が、IR反射性コアの表面の上に十分に堅固には固着されないことが起こりうる。さらに、金属コアを用いた場合には、コアをマトリックスで極めて実質的に完全に被覆することが要求される、必要とされる腐蝕に対する安定性が、そのような小量では十分には得られないことも起こりうる。量が40重量%を超えると、顔料のIR反射だけではなくその白色度もまた低くなりすぎることが起こりうる。さらに、そのマトリックス材料の結果として、IR吸収が望ましくないほど高くなることも起こりうる。
【0101】
特に好ましい一つの実施態様においては、IR反射性コアがアルミニウムからなり、光学的にほとんど無色のマトリックスがSiOからなる。さらに、白色顔料がTiOZnSおよび/またはZnOであって、それらが好ましくは250〜370nm、特に好ましくは250〜320nmの平均一次粒径を有しているのが好ましい。
【0102】
アルミニウムは、最も高いIR反射を有し、市場で入手するのも極めて容易である。SiOは、アルミニウムに腐蝕に対する安定性を与えるには極めて適しており、TiOは、高い屈折率を有しているので、極めて優れた白色顔料であって、市場で入手するのもまた極めて容易である。さらに、驚くべきことには、ZnS粒子またはZnO粒子、より詳細には250〜370nm、特に好ましくは250〜320nmの範囲の一次粒径を有するものは、IR放射線をほとんど吸収せず、したがって本発明の文脈においては極めて好適であるということが見出された。
【0103】
さらなる好ましい実施態様においては、本発明の顔料が有機表面修飾を有する。本発明の顔料を、リーフィング促進剤を用いて変性するのが好ましい。リーフィング促進剤は、塗布媒体、たとえばインキまたは塗料、好ましくはエマルション塗料、ワニスまたは化粧品の表面上に本発明の顔料を浮き上がらせる。本発明の顔料が塗布媒体の表面で配列されるという事実があるために、適用した状態でのIR反射性が改良されるが、その理由は、IR放射線がまさに塗布媒体の表面で反射され、塗布媒体の中にまず侵入(その場合には、吸収損失が起こりうる)してこないからである。
【0104】
本発明の顔料は、例えばステアリン酸またはパルミチン酸のような長鎖飽和脂肪酸を用いるか、8〜30個の炭素原子、好ましくは12〜24個の炭素原子を有する長鎖アルキルシランを用いるか、または、長鎖のリン酸もしくはホスホン酸もしくはそれらのエステルを用いるか、および/または長鎖アミンを用いて表面変性されているのが好ましい。
【0105】
本発明によるさらなる実施態様の場合においては、顔料様の粒子が、個別の市販されている白色顔料からなるのではなく、その代わりに、2.0を超える屈折率を有するコーティング材料の粒子様成長物からなる。この場合、そのコーティングは、まずはこの高屈折率材料の滑らかな層からなっていてもよいが、次いでそれが、モルホロジー的に言えば、そのIR反射性コアから離れたコーティングの面の側で次第に微粒子の形態をとっている。この種の形態は、その顔料を走査型電子顕微鏡法で観察すると、たとえば一種の“カリフラワー構造”と表すこともできる。本明細書においては、TiOの層と粒子様コーティング成長物とが好ましい。
【0106】
本発明の顔料は、IR放射線に対して実質的に透過性であるコーティングを、可視光線を散乱させる白色顔料および/または粒子様コーティング成長物と共に、IR反射性コアに適用することによって製造することができる。
【0107】
そのコーティングが、実質的に完全に、より好ましくは完全にIR反射性コアを被覆しているのが好ましい。IR放射線に対して実質的に透過性である白色顔料、および/または可視光線を散乱させる粒子様コーティング成長物を、そのコーティングの中および/または上に適用する。
【0108】
繰り返しを避けるために、本発明のプロセスに従って製造される本発明の顔料に関しては、上述の説明を参照し、それを相当する本発明のプロセスに適用することとする。
【0109】
そのプロセスの一つの好ましい変化形態においては、IR放射線に対して実質的に透過性である白色顔料を、湿式化学ゾルゲルプロセスを用いて、金属酸化物と共にコアの周囲にコアを被覆するように沈殿させ、その結果としてその白色顔料を金属酸化物層の中に実質的に埋め込む。
【0110】
プロセスの一つの好適な変化形態には以下の工程が含まれる:
a)微小板形状のIR反射性顔料コアを、溶媒中、好ましくは有機溶媒中に分散させる工程;
b)水、金属アルコキシ化合物、および所望により触媒を添加し、場合によっては加熱して反応を加速させる工程;
c)好ましくは溶媒中、より好ましくは有機溶媒中における分散体の形態でIR透過性白色顔料を添加する工程。
【0111】
反応が終了した後で、本発明の顔料、すなわち白色顔料および金属酸化物を用いてコーティングした微小板形状のIR反射性コアは、未反応の出発物質および溶媒から分離することができる。その後で、乾燥および、場合によっては分級を実施することができる。
【0112】
金属アルコキシ化合物としては、テトラアルコキシシランたとえば、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランを使用して、好ましくは白色顔料をその中に埋め込みながら、コアの上、および好ましくはコアを被覆するようにSiO層を沈殿させるのが好ましい。
【0113】
有機溶媒としては、水混和性の溶媒を使用するのが好ましい。アルコールたとえば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールまたはtert−ブタノールを使用するのが特に好ましい。
【0114】
水の量は、好ましくは、ゾルゲル反応において化学量論的に必要とされる量の1.5倍〜30倍の間とするべきである。水の量は、化学量論的に必要とされる量の2倍〜10倍の間とするのが好ましい。
【0115】
化学量論的に必要とされる量の1.5倍よりも少ないと、ゾルゲルプロセスの反応速度が遅くなりすぎるし、化学量論的に必要とされる量の30倍を超えると、コーティングの形成が十分に均質にならない可能性がある。
【0116】
ゾルゲル反応の間の反応温度は、40℃から使用した溶媒の沸点までの間とするのが好ましい。
【0117】
ゾルゲル反応の場面においては、触媒として弱酸または弱塩基を使用することができる。
【0118】
使用する酸は、たとえば酢酸、シュウ酸、ギ酸のような有機酸が好ましい。
【0119】
使用する塩基は、好ましくはアミンである。それらの例としては以下のものが挙げられる:アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、エチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、1−プロピルアミン、2−プロピルアミン、1−ブチルアミン、2−ブチルアミン、1−プロピルメチルアミン、2−プロピルメチルアミン、1−ブチルメチルアミン、2−ブチルメチルアミン、1−プロピルエチルアミン、2−プロピルエチルアミン、1−ブチルエチルアミン、2−ブチルエチルアミン、ピペラジン、および/またはピリジン。
【0120】
白色顔料は、好ましくはコーティング懸濁液に添加するより前に機械的に微粉砕して、可能な限り多くの一次粒子が存在しているようにしておくことができる。これは、典型的な場合のように、適切であるならば、適切な分散添加剤および/またはバインダーを添加しながら、有機溶媒中で実施してよい。微粉砕は、たとえばトリプルロールミル、共ボールミル、歯車式分散ミルなどのような、典型的な装置の中で実施すればよい。
【0121】
本発明のプロセスのまた別な実施態様の場合においては、本発明の顔料を噴霧乾燥プロセスによって製造する。
【0122】
このプロセスの変化形態では、高揮発性の、好ましくは有機の溶媒、IR反射性コア、好ましくは180〜400nmの平均サイズを有するIR透過性白色顔料、および有機の、好ましくは成膜性のバインダーを合わせて含む分散体を噴霧し、その噴霧の過程で乾燥させる。噴霧乾燥は、好ましくは攪拌雰囲気中で、たとえば流動床中で実施して、集塊を防ぐ。噴霧乾燥の過程で、コアが、有機の、好ましくは成膜性のバインダーと白色顔料とによって均質にコーティングされる。乾燥させた後で、その有機の、好ましくは成膜性のバインダーを硬化させることができる。これは、好ましくは噴霧乾燥装置の中におけるのと同様にして、たとえば供給ガスの温度をバインダーの硬化温度よりも高くすることによって実施することができる。
【0123】
本発明のプロセスのまた別な実施態様においては、IR反射性で、好ましくは微小板形状の本発明の顔料は、IR反射性コアを、流動床プロセス中で、適切な出発物質と白色顔料とを含むマトリックスを用いてコーティングすることによって得ることができる。
【0124】
IR反射性で、好ましくは微小板形状の本発明の顔料は、好ましくは、インキ、塗料、ワニス、印刷インキ、セキュリティ印刷インキ、および化粧品において使用される。
【0125】
IR反射性で、好ましくは微小板形状の本発明の顔料は、好ましくは、屋内または屋外分野のためのエマルション塗料の中で使用される。
【0126】
本発明の顔料を用いて顔料化された適用媒体、たとえばエマルション塗料は、強い白色の外観を有している。それらの適用媒体の白色度は、適切であるならば、白色顔料たとえばTiOまたはその他の充填材をさらに添加することによって、さらに向上させてもよい。さらに、着色剤たとえば有機または無機の着色顔料を用いて色合いをつけることによって、着色エマルション塗料を製造することも可能である。
【0127】
たとえばエマルション塗料を用いて塗装された壁のIR放射率を最大にするためには、そのエマルション塗料が本発明の顔料を、そのエマルション塗料の全非揮発性成分の重量を基準にして、IR反射性コアの割合が、2%〜30%、好ましくは4%〜20%、より好ましくは7%〜15重量%となるような量で含むようにするのが好ましい。
【0128】
本発明の顔料を用いて顔料化されたエマルション塗料を用いると、0.5未満、好ましくは0.4未満、より好ましくは0.3未満のIR放射率を有するコーティングが可能となる。この場合の放射率の下限は約0.2である。
【0129】
IR放射率の大きさは次式で定義される。
【0130】
【数4】

【0131】
これとの比較で言えば、慣用的に適用されている壁用塗料は、約0.9の放射率を有している、別の言い方をすれば、IR放射線の約10%だけが反射され、IR放射線の90%が壁用塗料によって吸収されるかまたは透過されて、究極的には、熱の形で失われている。
【0132】
放射率の最小化、または反射率の最大化を可能とするためには、エマルション塗料のさらなる成分、たとえばバインダーまたは充填材も同様に、極めて低いIR吸収性を有しているのが好ましい。さらに、本発明の顔料によるさらなる顔料化があるために、バインダー、充填材および/または白色顔料の顔料化レベルは、当技術分野における典型的な場合に比較して、顕著に低くてもよい。
【0133】
さらなる実施態様においては、IR反射性で、好ましくは微小板形状の本発明の顔料を、コーティング材料中で、好ましくは着色コーティング材料中で、極めて好ましくは着色産業用コーティング中で、極めて不透明な白色顔料として使用するのが好ましい。
【0134】
この用途の文脈においては、使用されるコアは、好ましくは5〜12μmの平均サイズを有する微小板形状のアルミニウム顔料であり、使用される白色顔料は、好ましくは250〜320nmの直径を有する、好ましくはTiO、ZnSおよび/またはZnOであり、そして使用されるマトリックスは、好ましくはSiOである。産業用コーティングにおける適用の文脈においては、顔料のIR反射性能だけではなく、より詳細には、光学的範囲におけるその微小板形状のアルミニウムコアの傑出した不透明度が、第一の地位を占める。
【0135】
着色産業用コーティングは多くの場合、高価な着色顔料を大量に使用して顔料化されているが、それらの顔料の透明性が原因で、不透明度が不十分である。TiOのような白色顔料を添加すれば不透明度は改良されるが、必然的に色相が明るくなる。本発明の顔料を産業用コーティングに添加することによって、有利なことには、顔料化が極めて低いレベルであっても、すなわち小量を添加するだけで、不透明度が顕著に改良され、しかもそのコーティングが実質的に淡色化の影響を受けることがない。したがって、ワニスまたは産業用コーティングに適用するには、本発明の顔料は、いずれの場合においても配合物の全重量を基準にして、0.1%〜4重量%、好ましくは0.2%〜1.5重量%、より好ましくは0.3%〜1.0重量%の顔料化レベルで使用される。
【0136】
以下の実施例を用いて本発明をさらに説明するが、いかなる点においても、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0137】
本発明実施例1;
100gのアルミニウム粉体(Reflexal 145、d50=145μm)を、250mLのイソプロパノールの中に撹拌しながら分散させ、溶媒を還流下で沸騰させる。次いで17gのテトラエトキシシラン、2分後には完全に脱イオン化させた水50g中の1.7gのエチレンジアミンを添加する。別の容器の中で、200gのTiO顔料(Kronos 2310、平均一次粒径:300nm;Kronos Titan、Friedrichstadt、Germany)を、50gのテトラエトキシシランの中に撹拌しながら分散させる。1時間の反応時間の後、その分散体を連続的に1時間を越える時間をかけて、アルミニウム顔料の懸濁液に添加する。半時間後に、20gのイソプロパノール中の1gのエチレンジアミンの溶液を添加する。1時間後に、20gのイソプロパノール中の2.5gのエチレンジアミンの溶液を添加する。その反応混合物をさらに4時間沸騰させておいてから、冷却して室温とする。翌日に、SiOおよび白色顔料でコーティングされたアルミニウム顔料をブフナーロート上で濾過し、イソプロパノールを用いて繰り返して洗浄し、オーブン中で減圧下80℃で乾燥させる。
【0138】
本発明実施例2:
141gのアルミニウムペースト(Stapa Metalux 274、d50=33μm)を、250mLのイソプロパノールの中に撹拌しながら分散させ、溶媒を還流下で沸騰させる。次いで17gのテトラエトキシシラン、2分後には完全に脱イオン化させた水50g中の1.7gのエチレンジアミン(EDA)を添加する。別の容器の中で、100gのTiO顔料(Kronos 2310)を、50gのテトラエトキシシランの中に撹拌しながら分散させる。1時間の反応時間の後、その分散体を連続的に1時間を越える時間をかけて、アルミニウム顔料の懸濁液に添加する。半時間後に、20gのイソプロパノール中の1gのエチレンジアミンの溶液を添加する。1時間後に、20gのイソプロパノール中の2.5gのエチレンジアミンの溶液を添加する。その反応混合物をさらに4時間沸騰させておいてから、冷却して室温とする。翌日に、SiOおよび白色顔料でコーティングされたアルミニウム顔料をブフナーロート上で濾過し、イソプロパノールを用いて繰り返して洗浄し、オーブン中で減圧下80℃で乾燥させる。
【0139】
比較例3:
市販のアルミニウム粉体であるReflexal 145、d50=145μm(Eckart GmbH & Co.KG製)。本発明実施例1のための出発原料。
【0140】
比較例4:
市販のアルミニウムペーストであるStapa Metalux 274、d50=33μm(Eckart GmbH & Co.KG製)。本発明実施例2のための出発原料。
【0141】
比較例5:
市販のアルミニウム粉体であるPCS 3500(Eckart製)。これは、比較例4のMEX 274に極めて類似した粒子画分を有するSiOコーティングされたアルミニウム顔料である。
【0142】
本発明実施例6:
141gのアルミニウムペースト(Stapa Metalux 274、d50=33μm)を、250mLのイソプロパノールの中に撹拌しながら分散させ、溶媒を還流下で沸騰させる。次いで17gのテトラエトキシシラン、2分後には完全に脱イオン化させた水50g中の1.7gのエチレンジアミン(EDA)を添加する。別の容器の中で、100gのZnS顔料(Sachtolith L;Sachtleben製;平均粒径:0.35μm)を、50gのテトラエトキシシランの中に撹拌しながら分散させる。1時間の反応時間の後、その分散体を連続的に1時間を越える時間をかけて、アルミニウム顔料の懸濁液に添加する。半時間後に、20gのイソプロパノール中の1gのエチレンジアミンの溶液を添加する。1時間後に、20gのイソプロパノール中の2.5gのエチレンジアミンの溶液を添加する。その反応混合物をさらに4時間沸騰させておいてから、冷却して室温とする。翌日に、SiOおよび白色顔料でコーティングされたアルミニウム顔料をブフナーロート上で濾過し、イソプロパノールを用いて繰り返して洗浄し、オーブン中で減圧下80℃で乾燥させる。
【0143】
本発明実施例7:
1部のStandart(登録商標)Reflexal 214(Eckart GmbH & Co.KG製)を、4部のアセトンの中に撹拌しながら組み入れてから、1部のメタクリル酸メチルをベースとする摩砕バルクポリマー(Degalan M527;Degussa製)および1部のKronos 2310を添加し、その混合物を撹拌して、ポリマーを完全に溶解させる。
【0144】
得られた懸濁液を、60℃を超える温度で、噴霧乾燥装置で噴霧する。
【0145】
得られる顔料は、白色で、非光沢性の粉体の形態である。
【0146】
本発明実施例8:
1部のStandart(登録商標)Reflexal 214(Eckart GmbH & Co.KG製)を、4部のアセトンの中に撹拌しながら組み入れてから、1部のメタクリル酸メチルをベースとする摩砕バルクポリマーおよび1部の白色顔料としてのZnS(Sachtolith L;Sachtleben製;平均粒径:0.35μm)を添加し、その混合物を撹拌して、ポリマーを完全に溶解させる。
【0147】
得られた懸濁液を、60℃を超える温度で、噴霧乾燥装置で噴霧する。
【0148】
得られる顔料は、白色で、非光沢性の粉体の形態である。
【0149】
比較例9:
1部のStandart(登録商標)Reflexal 214(Eckart GmbH & Co.KG製)を、1部のKronos 2310白色顔料と、遠心混合装置(DAC 400 FWC、Hausschild製;Hamm)により、1000rpm、5分で混合する。
【0150】
例1〜9の顔料を、ポリエステル/CABシステム(バインダー:22重量%のCAB381−2および9重量%のCAB551−0.2、いずれもEastman製、ならびに13重量%のViacryl SC303、Surface Specialities製)をベースとしたそれ以外には顔料化しない慣用されるワニスの中に組み入れた。顔料化レベルはいずれの場合においても全ワニスを基準にして、10重量%とした。50μmのコーティングナイフを使用して、ドローダウン物を調製し、比色測定にかけた。光沢値は、Byk−GardnerのTri−Gloss光沢計により60度で求め、L、a、b値は、観察角15度、25度、45度、および110度で求めた(M682、X−Rite製)。それらの値を使用して、式(2)に従ってフロップ指数を計算し、また慣用の方法によって、25度における彩度を求めた。それらの結果を表1に示す。
【0151】
【表1】

【0152】
本発明におけるサンプルはすべて、同様の低い彩度C25゜を有するが、それは、金属顔料の彩度はそれらが無色性のため本質的に低いからである。明度フロップ指数において、および光沢においては、本発明実施例は、比較例3〜5に比べるとはるかに低い値を有しており、特に明度フロップ性はほぼ完全に消失してしまっている。それとは対照的に、本発明実施例における明度L45゜は、比較例3〜5の場合よりもはるかに高い。この理由は、白色顔料は一般に比較的高い明度を伴うが、金属顔料の場合、この観察角では、フロップ性の結果として明度がすでに顕著に低下してしまっているからである。
【0153】
比較例9は、光沢、L45゜、彩度、および明度フロップ性について、本発明実施例と類似の値を有している。しかしながら、光沢度が幾分か高い。白色顔料とアルミニウム顔料との純粋に物理的な混合物は、この場合、本発明実施例と明らかに類似の外観を有している。それにも関わらず、その混合物は、はるかに白色が低いと映り、より強い“メタリック”感覚を観察者に与える。
【0154】
このことを説明するために、例1〜9のすべての顔料を、市販の壁用塗料であるKrautol(登録商標)の中に、顔料化レベルを変えて、組み入れた。それらの塗料それぞれについての光学的に不透明なナイフドローダウン物(ナイフ深さ100μm)、およびブランクの見本としてIR反射性顔料を用いた顔料化していないナイフドローダウン物を作製した。顔料の“白色度”を求めるために、すべてのドローダウン物の明度を、拡散反射ジオメトリーで測定した(Minolta CR410、Minolta製)。比較のために、コーティングしていないアルミニウム顔料、および比較のための粒径のSiOコーティングされたアルミニウム顔料それぞれを、その壁用塗料の中に組み入れた(顔料化レベル:10重量%)。比較例4の場合には、白色スピリットペーストとなっている顔料を予めアセトンを用いて洗浄しておく必要があったが、その理由は、そうしないとそれを水性の壁用塗料の中に組み入れることが不可能であるからであった。それらの結果を図1に示す。
【0155】
図1から、顔料の濃度が高くなるほど、明度したがって白色度が低下することが明らかである。比較例における、純粋なコーティングしていない顔料(比較例3および4)ならびに白色顔料無しでコーティングされた顔料(比較例5)の明度はいずれの場合も、本発明実施例のそれらより低い。特に興味深いのは、ナイフドローダウン物中の全体として同一金属含量という見方からの、明度の比較である。それぞれの場合において、矢印がこの比較を示している。ここで明らかになっているのは、本発明実施例においては、本発明の顔料が一貫して1ユニットを超える高い明度を有していることである。視覚的な用語で言えば、これは白色度が顕著に高いことを示している。この差、およびさらには視覚的に知覚される光輝挙動を、表2に簡潔に表示した。視覚的に評価した光輝感覚および白色感覚は5点法にしたがって評価付けを行った。
*極めて強
*強
*中
*弱
*極めて弱
【0156】
【表2】

【0157】
視覚的に評価された光輝感覚は、本発明実施例の顔料の場合においては、弱または極めて弱と判定される。ナイフドローダウン物においては、対照的に、比較例の白色でない着色金属顔料が際立った光輝挙動を示す。この原因は、それらが極めて大きな顔料であって、塗料の内部でも、ヒトの眼によって個別的に認識できるからである。同じことが比較例9にもあてはまるが、このものは比色特性においては依然として、本発明実施例に極めて類似した値を示した。
【0158】
計算された明度差は、本発明実施例の本発明の顔料の場合においては、1.5よりも高い値である。比較例5の顔料(SiOコーティングを有する顔料)も同様に、全くコーティングしていない金属顔料に比較すると、正のΔL値を示してはいるが、その白色度はそれほどには高くない。
【0159】
測定されたΔL値が低くても、ヒトの眼は、特に白色印象の感覚には極めて敏感である。したがって、視覚的な用語で言えば、本発明の顔料を用いて顔料化されたエマルション塗料と、コーティングしていない顔料を用いて顔料化されたエマルション塗料との間の極めて明瞭な差を知覚することができる。
【0160】
したがって、本発明実施例の視覚的に評価された白色度は一貫して、強〜極めて強である。それとは対照的に、比較例9は中程度の白色度しか示さない。ここでは、コーティングしていないアルミニウム顔料が灰色化する傾向がより強く表れている。同じことが比較例4および5にもあてはまるが、それに対して2は、極めて強い白色感覚を呈している。この場合においては、極めて粗いアルミニウム顔料は、それが不透明度に乏しいために、ほとんど灰色化の傾向が無いように見える。
【0161】
拡散IR反射の測定:
(比較例5を除く)例の顔料の場合において、拡散反射におけるIRスペクトルを測定した。この目的のためには、なによりもまず、KBr粉体を乳鉢中で微粉砕した。次いで顔料を1.5重量%の濃度でそのKBrに加え、その構成成分を互いに均質に混合した。錠剤の形状のサンプルチャンバー(直径:約0.8cm、深さ:約2.2mm)にそのKBr/顔料混合物を充填し、それを突き固めた。次いで、2.5〜25μmの波長範囲で拡散反射を測定した。これは、測定部として、Selector(Specac製)を使用して実施した。この機器は、四分球の幾何学的配置(quarter−sphere geometry)で、拡散IR反射を測定するものである。使用したIR機器は、Thermo製のAvatac360分光計であり、検出器はDTGS検出器とした。いずれの場合においても、純粋なKBr粉体をバックグラウンドスペクトルとして測定し、それに対してKBr/顔料混合物のスペクトルを比較した。このプロセスを3回繰り返し、その測定値の平均をとる。
【0162】
図2および3には、いくつかの本発明実施例および比較例のスペクトルを示し、さらに、300Kにおけるプランク放射関数の計算値(目盛りなし)をプロットする。図2においては粗い顔料(D50=約145μm)についての、そして図3においては細かい顔料(D50=約35μm)についての、本発明実施例および比較例のスペクトルを示す。
【0163】
図2のスペクトルを比較すると、本発明実施例1の顔料の方が、比較例3のコーティングしていない金属顔料よりも低い反射を有していることがわかる。これは、コーティングのTiO顔料とSiOマトリックスによるIR吸収の程度に帰することができる。それにも関わらず、総合的には、その反射は十分に高く、IR反射性顔料を製造することが可能である。図3における細かい顔料の場合についても、同様の状況が認められる。この場合には、より詳細には本発明実施例6の場合の反射および反射率が、例2または4よりも顕著に高い。これは、TiO顔料に比較してZnS顔料のIR吸収が低いことに帰することができる。
【0164】
このことは、表3を参照することにより理解することが可能である。ここでは、スペクトル的な、得られたIR反射スペクトルから、IR反射の反射率を、プランク関数のための温度300Kを使用して、式(1)により計算した。
【0165】
【表3】

【0166】
本発明実施例の顔料は、50%をはるかに超えるIR反射率を有している。IR反射率が71%を超える高い値から判るように、IR反射性におよぼすコーティングの影響は比較的低い。特に本発明実施例6の場合においては、コーティングの影響は極めてわずかだけである。
【0167】
したがって、本発明の顔料の利点は、一方では高いIR反射性、他方では白色印象を考え合わせると判る。
【0168】
比較例3および4の顔料は、さらに高い反射率を有しているが、それはコーティングが存在していないからである。しかしながら、それらの灰色化効果およびそれらの明らかな光輝効果のために、それらの顔料は壁用塗料において使用することは不可能である。対照的に、比較例9の場合、反射率が比較的小さいが、これは、この場合、混合物に添加されたTiOが吸収効果を有しているからである。
【0169】
したがって、高いIR反射性、実質的に白色の外観、ならびに効果顔料に特有の性質、たとえば光沢および明度フロップ性が欠如していることなどを考え合わせると、本発明のIR反射性顔料は、コーティングしていない効果顔料と白色エマルション塗料との混合物に関連して、利点を示す。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】実施例における壁用塗料における顔料のドローダウン物の拡散明度を示すグラフである。
【図2】同、拡散IR反射の測定結果を示すグラフである(D50=約145μm)。
【図3】同、拡散IR反射の測定結果を示すグラフである(D50=約35μm)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IR反射性コアを含む、IR放射線を反射する顔料であって、IR反射性コアは、IR放射線に対して実質的に透過性である実質的に被覆性のコーティングが与えられ、ならびに、IR反射性顔料が実質的に白色であることを特徴とする、IR反射性顔料。
【請求項2】
IR反射性コアが、微小板形状または球状であることを特徴とする、請求項1に記載のIR反射性顔料。
【請求項3】
IR放射線に対して実質的に透過性であるコーティングの中、上、および/または下に、好ましくは180〜400nmの平均一次粒径を有する白色顔料が存在することを特徴とする、請求項1または2に記載のIR反射性顔料。
【請求項4】
白色顔料が、250〜370nmの平均一次粒径を有することを特徴とする、請求項3に記載のIR反射性顔料。
【請求項5】
白色顔料が、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、硫化亜鉛、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、炭酸カルシウム、リトポン、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、バリウムフェライト、およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項3または4に記載のIR反射性顔料。
【請求項6】
白色顔料が、TiO、ZnSおよび/またはZnOであることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか1項に記載のIR反射性顔料。
【請求項7】
白色顔料が、IR反射性顔料の全重量を基準にして、20%〜80重量%、好ましくは35%〜70重量%の量で存在することを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載のIR反射性顔料。
【請求項8】
白色顔料が、IR反射性コアの周囲に実質的に均質に配置され、好ましくは、IR反射性顔料中のIR反射性コアの表面積1mあたり、0.3〜10g、好ましくは0.5〜7gの量で存在することを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載のIR反射性顔料。
【請求項9】
実質的にIR透過性のコーティングが、金属酸化物を含むか、または金属酸化物からなることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載のIR反射性顔料。
【請求項10】
金属酸化物が、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化ホウ素、水酸化ホウ素、およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項9に記載のIR反射性顔料。
【請求項11】
実質的にIR透過性のコーティングが、IR反射性顔料の全重量を基準にして、4%〜30重量%の割合で存在することを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載のIR反射性顔料。
【請求項12】
IR反射性コアが、微小板形状の金属顔料であるかまたは球状の金属粒子であり、金属が好ましくは、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、銀、およびそれらの合金からなる群より選択されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載のIR反射性顔料。
【請求項13】
IR反射性コアが、5〜150μmの大きさを有する微小板形状の金属顔料であることを特徴とする、請求項12に記載のIR反射性顔料。
【請求項14】
IR反射性コアが、5〜12μmの大きさを有する微小板形状の金属顔料であることを特徴とする、請求項12または13に記載のIR反射性顔料。
【請求項15】
IR反射性コアが、微小板形状のアルミニウム顔料であることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載のIR反射性顔料。
【請求項16】
IR反射性コアが、微小板形状のアルミニウム顔料であり、IR透過性コーティングがSiOであり、そして白色顔料が好ましくは250〜320nmの平均一次粒径を有する好ましくはTiO、ZnSおよび/またはZnOであることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載のIR反射性顔料。
【請求項17】
IR透過性コーティングが、有機ポリマーであるか、または有機ポリマーを含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のIR反射性顔料。
【請求項18】
IR透過性コーティングが、IR反射性顔料の全重量を基準にして、4%〜30重量%の割合で存在することを特徴とする、請求項17に記載のIR反射性顔料。
【請求項19】
IR反射性コアが、微小板形状の金属顔料であるかまたは球状の金属粒子であり、金属が好ましくは、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、銀、およびそれらの合金からなる群より選択されることを特徴とする、請求項17または18に記載のIR反射性顔料。
【請求項20】
IR反射性コアが、5〜150μmの大きさを有する微小板形状の金属顔料であることを特徴とする、請求項19に記載のIR反射性顔料。
【請求項21】
IR反射性コアが、5〜12μmの大きさを有する微小板形状の金属顔料であることを特徴とする、請求項19または20に記載のIR反射性顔料。
【請求項22】
IR反射性コアが、微小板形状のアルミニウム顔料であることを特徴とする、先行する請求項19〜21のいずれか1項に記載のIR反射性顔料。
【請求項23】
IR反射性コアが、好ましくは主として、6〜14μmのIR放射線を反射する真珠光沢顔料であることを特徴とする、請求項1〜11、または17〜18のいずれか1項に記載のIR反射性顔料。
【請求項24】
IR反射性コアに、白色顔料と共に、および/または可視光線を散乱する粒子様コーティング成長物と共に、IR放射線に対して実質的に透過性であるコーティングを適用することを特徴とする、請求項1〜23のいずれか1項に記載のIR反射性顔料を製造するためのプロセス。
【請求項25】
IR反射性コアに対して白色顔料を、湿式化学ゾルゲルプロセスによって金属酸化物と共に適用することを特徴とする、請求項24に記載のIR反射性顔料を製造するためのプロセス。
【請求項26】
IR反射性コアに対して、湿式化学ゾルゲルプロセスによって金属酸化物としてSiOを適用することを特徴とする、請求項25に記載のIR反射性顔料を製造するためのプロセス。
【請求項27】
高揮発性の有機溶媒、IR反射性コア、好ましくは180〜400nmの平均サイズを有する白色顔料、および有機成膜剤を含む分散体を噴霧乾燥することを特徴とする、請求項24に記載のIR反射性顔料を製造するためのプロセス。
【請求項28】
インキ、塗料、ワニス、印刷インキ、セキュリティ印刷インキおよび化粧品における、請求項1〜23のいずれか1項に記載のIR反射性顔料の使用。
【請求項29】
屋内または屋外分野のためのエマルション塗料における、請求項1〜23のいずれか1項に記載のIR反射性顔料の使用。
【請求項30】
請求項1〜23のいずれか1項に記載のIR反射性顔料を含むことを特徴とする、コーティング組成物。
【請求項31】
コーティング組成物が、化粧品、ワニス、塗料またはインキ、より詳細には印刷インキ、セキュリティ印刷インキ、またはエマルション塗料であることを特徴とする、請求項30に記載のコーティング組成物。
【請求項32】
請求項1〜23のいずれか1項に記載のIR反射性顔料を用いるか、または請求項30または31に記載のコーティング組成物を用いてコーティングされていることを特徴とする、物品。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−520844(P2009−520844A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546270(P2008−546270)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2006/012416
【国際公開番号】WO2007/076967
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(502099902)エッカルト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (48)
【氏名又は名称原語表記】Eckart GmbH
【Fターム(参考)】