説明

IgE抗体産生抑制剤

【課題】 新規のIgE抗体産生抑制剤を提供すること。
【解決手段】 ホップ組織の冷水抽出物、又はホップ組織の冷水抽出物から分離されたフラボノイド配糖体、からなるIgE抗体産生抑制剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IgE抗体産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、茶葉の成分が生体の様々な生理活性を調節することが見出され、特に、カテキン等のポリフェノール類の抗酸化作用が注目されている(非特許文献1)。また、抗酸化剤として有効な成分が、ホップ苞の水溶性画分をゲル型合成吸着剤に吸着させることで得られることが報告されている(特許文献1)。
【特許文献1】特許第3477628号公報
【非特許文献1】New Diet Therapy,Vol.19−9,P.79〜81(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ヒトは体内に侵入した異物(細菌、花粉、ダニ等)を排除するために、それに対抗する生体成分(抗体、リンパ球等)を産生して生体を防御するように機能する免疫系を備えている。ところが、時として免疫反応が過敏になり、身体に有害な作用を及ぼして種々の病気の原因となる。このような免疫機能障害による反応はアレルギーと呼ばれる。
【0004】
アレルギーのうち近年特に増加傾向にあるのは、IgE(免疫グロブリンE)抗体依存性のアレルギー(例えば、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎)である。このようなアレルギーでは、IgE抗体が抗原(アレルゲン)と共にマスト細胞や好塩基球に作用する結果、これらの細胞から種々のケミカルメディエーター(例えば、ヒスタミン、セロトニン、ロイコトリエン)が放出され、アレルギー症状が引き起こされる。
【0005】
抗アレルギー剤としては、個々のケミカルメディエーターの遊離を抑制するものが種々知られているが、IgE抗体依存性のアレルギーを抑制するには、むしろIgE抗体それ自体の産生を抑制する方が効果的であると考えられる。しかしながら、IgE抗体産生抑制剤に関しては、未だその種類が少なく、消費者の需要が十分に満たされていないのが実情である。
【0006】
そこで、本発明は、新規のIgE抗体産生抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ホップの組織の冷水抽出物からなるIgE抗体産生抑制剤を提供する。
【0008】
本発明のIgE抗体産生抑制剤は、IgE抗体の産生を抑制することができ、そのような作用を介して、IgE抗体依存性のアレルギー、すなわちIgE抗体に起因して、又はIgE抗体が関与して生じるアレルギー(例えば、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎)、を効果的に抑制(予防、治療、軽減又は緩和)することができる。
【0009】
また、ホップは、古くから主にビールの醸造に用いられ、醸造以外の種々の用途にも利用されている植物であり、生体に対する安全性が確立されている。従って、本発明のIgE抗体産生抑制剤は、生体に対する安全性が高く、医薬品成分としてのみならず、化粧品、飲食品等の成分としても使用することができる。
【0010】
また、ホップは苦味成分を含有することから、従来、発泡性アルコール飲料(例えばビール)以外の飲食品に利用することが困難であった。しかし、ホップ組織の冷水抽出により得られる親水性成分については、ホップの苦味成分の抽出が抑制されている。また、この親水性成分は飲食品等と容易に混合させることができる。このような点でも、本発明のIgE抗体産生抑制剤は、飲食品等の成分としての使用に好適である。
【0011】
本発明のIgE抗体産生抑制剤における冷水抽出物は、典型的にはフラボノイド配糖体を含有する。そして、冷水抽出物から分離されたフラボノイド配糖体も、IgE抗体産生抑制剤として使用することができる。すなわち、本発明はまた、ホップの組織の冷水抽出物から分離されたフラボノイド配糖体からなるIgE抗体産生抑制剤を提供する。
【0012】
より高いIgE抗体産生抑制効果が得られる点で、フラボノイド配糖体としてはフラボノール配糖体が好ましく、本発明のIgE抗体産生抑制剤は、フラボノール配糖体を含有し、或いはフラボノール配糖体からなるものであることが好ましい。更に、同様の観点から、本発明のIgE抗体産生抑制剤は、フラボノール配糖体として、ケンフェロール配糖体及び/又はケルセチン配糖体を含有することが好ましい。ケンフェロール配糖体を含有するIgE抗体産生抑制剤としては、例えば、ケンフェロールマロニルグルコシド、アストラガリン及びケンフェロールルチノシドのうちの少なくとも1種を含有するものが挙げられる。また、ケルセチン配糖体を含有するIgE抗体産生抑制剤としては、例えば、ケルセチンマロニルグルコシド、ルチン及びイソケルシトリンのうちの少なくとも1種を含有するものが挙げられる。
【0013】
なお、フラボノール配糖体は、経口摂取された場合、消化管内で配糖体のまま吸収されるか、或いは消化管内で加水分解され、遊離型(アグリコン)となって吸収されると考えられる(臨床栄養Vol.102,No3,285(2003))。また、ケンフェロール又はケルセチンの母核を有するフラボノイド配糖体は、加水分解され、アグリコンの状態で吸収されると考えられる。
【0014】
本発明において、冷水抽出物を得るためのホップの組織としては、フラボノール配糖体(特に、ケンフェロール配糖体及び/又はケルセチン配糖体)の含有率の高い抽出物が得られる点で、茎、毬花又は葉が好ましく、乾燥した苞の粉砕物が特に好ましい。また、同様の観点から、ホップの組織としては、乾燥した毬花の粉砕物から、ルプリンの大きさ以下の粉砕物の少なくとも一部が除去されたものも特に好ましく、ここで、乾燥した毬花の粉砕物としては、乾燥した毬花の凍結物の粉砕物が好ましい。なお、ホップの組織としては、ホップの毬花から有機溶媒抽出又は超臨界流体抽出によって抽出される物質の少なくとも一部を、当該毬花から除去して得られたホップ残渣を用いることもできる。
【0015】
本発明のIgE抗体産生抑制剤は、特にアレルギー性皮膚炎抑制剤としても使用することができる。すなわち、本発明はまた、本発明のIgE抗体産生抑制剤からなるアレルギー性皮膚炎抑制剤を提供する。
【0016】
また、本発明のIgE抗体産生抑制剤及びアレルギー性皮膚炎抑制剤は、医薬品、化粧品、飲食品等の成分として使用することができる。すなわち、本発明はまた、本発明のIgE抗体産生抑制剤又はアレルギー性皮膚炎抑制剤を含有する医薬品、化粧品、飲食品等を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、新規のIgE抗体産生抑制剤及びアレルギー性皮膚炎抑制剤が提供される。また、そのようなIgE抗体産生抑制剤又はアレルギー性皮膚炎抑制剤を含有する医薬品、化粧品、飲食品等が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0019】
本発明のIgE抗体産生抑制剤は、ホップの組織の冷水抽出物からなる。
【0020】
本発明において、冷水抽出物を得るためのホップの品種は特に制限されず、例えば、チェコ産ザーツ種、ドイツ産ハラタウ・マグナム種、ドイツ産ハラタウ・トラディション種、ドイツ産ペルレ種、ドイツ産ヘルツブルッカー種、アメリカ産ナゲット種、ニュージーランド産パシフィック・ハラタウ種、又は日本国産フラノ18号を用いることができる。また、1種のホップのみを用いても、2種以上のホップを併せて用いてもよい。
【0021】
本発明において、ホップの組織とは、ホップの組織のいずれか又はその一部を意味する。冷水抽出に用いるホップの組織としては、茎、毬花又は葉が好ましく、中でも毬花(特に苞)が特に好ましい。また、乾燥した組織の粉砕物も好ましく使用される。乾燥した組織の粉砕物とは、例えば、ホップの組織を乾燥、粉砕することによって得られるものであり、乾燥及び粉砕の順序は特に制限されない。乾燥及び粉砕は、例えば、後述の乾燥工程及び粉砕工程と同様に行えばよい。
【0022】
ホップの組織としてはまた、乾燥した毬花(特に苞)の粉砕物から、ルプリンの大きさ以下の粉砕物の少なくとも一部が除去されたものも好ましい。苞は、毬花を構成する苞葉のことであり、毬花からルプリン(油滴状の黄色顆粒)の少なくとも一部を取り除いて得ることができる。従って、ホップの組織は、例えば、発泡性アルコール飲料(例えばビール)の醸造に用いるホップペレットを加工する際に、規定の大きさに粉砕されずに廃棄されるホップの苞であってもよい。
【0023】
乾燥した毬花の粉砕物から、ルプリンの大きさ以下の粉砕物の少なくとも一部が除去されたものは、例えば、毬花を乾燥させて乾燥毬花を得る乾燥工程と、乾燥毬花を粉砕して乾燥毬花の粉砕物を得る粉砕工程と、この粉砕物からルプリンの大きさ以下の粉砕物を取り除く選別工程と、を実施することによって得ることができる。乾燥工程では、毬花を100℃以下の温度で乾燥させ、毬花を保存可能な程度にまで水分を除去すればよいが、55℃以下の温度で、水分含量が7〜9%になるように乾燥させることが好ましい。粉砕工程では、毬花を微粉状に粉砕すればよく、粉砕には、例えば、ピンミル、ハンマーミル、ボールミル等の粉砕機を用いることができる。選別工程では、例えば、粉砕物をふるいにかけ、長径0.1mm以上の粉砕物を、「ルプリンの大きさ」を超えるものとして選別する。ここで、ふるいを通過させない大きさとしては、長径0.3mm以上が好ましく、長径0.5mm以上が特に好ましい。乾燥した毬花の粉砕物から、ルプリンの大きさ以下の粉砕物の少なくとも一部を取り除くには、例えば、目開き0.1mm、0.3mm又は0.5mmのふるいで乾燥毬花の粉砕物をふるい分け、ふるいを通過しなかった粉砕物を回収すればよい。
【0024】
また、乾燥した毬花の粉砕物は、乾燥した毬花の凍結物の粉砕物であることが好ましい。乾燥した毬花の凍結物の粉砕物は、毬花を乾燥、凍結、粉砕することによって得られるものであり、乾燥、凍結及び粉砕の順序は特に制限されない。乾燥及び粉砕は、例えば、前述の乾燥工程及び粉砕工程と同様に行えばよい。また、凍結の方法は特に制限されないが、凍結温度としては−10℃以下が好ましく、−35℃以下が特に好ましい。
【0025】
ホップの組織としては、ホップの毬花から有機溶媒抽出又は超臨界流体抽出によって抽出される物質の少なくとも一部を、当該毬花から除去して得られたホップ残渣を用いてもよい。有機溶媒抽出に用いる有機溶媒としては、例えば、アルコール及びヘキサンが挙げられ、炭素数1〜4の低級アルコールが好ましく、エタノールが特に好ましい。超臨界流体抽出に用いる超臨界流体としては、例えば、二酸化炭素、水、メタン、エタン、エチレン、プロパン、ペンタン、メタノール及びエタノールが挙げられ、二酸化炭素が好ましい。また、ホップの組織としては、毬花又は濃縮ホップペレットの加工時に得られるスペントホップを使用することもできる。
【0026】
ホップの組織の冷水抽出物は、ホップの組織を冷水で抽出することにより得られる。本発明において、「冷水」とは0℃超50℃以下の水を意味する。抽出に使用する水が0℃以下の場合は、凍結のため抽出が実質的に困難となり、50℃を超える場合は、IgE抗体産生抑制活性が顕著に減少するので使用に適さない。冷水の温度としては、1℃以上30℃以下が好ましく、1℃以上10℃以下が特に好ましく、2℃以上8℃以下(特に3℃以上7℃以下)が更に好ましい。なお、抽出効率を上げて抽出時間を短縮するために、冷水には、少量(10重量%以下)のアルコール(好ましくはエタノール)を添加することができる。
【0027】
ホップの組織の冷水抽出は、常法に従って行うことができる。例えば、ホップペレット及び水を容器に入れ、適宜撹拌しながら所定時間静置する。静置して得られた液は、そのまま冷水抽出物として使用可能である。また、例えば、静置して得られた液を遠心して生じる上清(遠心上清)を採取し、これを冷水抽出物として使用することもできる。更に、静置して得られた液又は遠心上清を濃縮、乾燥して水分を除去し、これを冷水抽出物として使用することもできる。
【0028】
本発明における冷水抽出物は、典型的にはフラボノイド配糖体を含有する。そして、冷水抽出物から分離されたフラボノイド配糖体も、IgE抗体産生抑制剤として使用することができる。フラボノイド配糖体の好適な分離方法は、例えば次の通りである。
【0029】
先ず、冷水抽出物をヘキサンに接触させて、水層中に第1の抽出物を得るステップ(以下、「第1ステップ」という。)を実施する。次に、第1の抽出物を酢酸エチルに接触させて、水層中に第2の抽出物を得るステップ(以下、「第2ステップ」という。)を実施する。更に、第2の抽出物を難水溶性アルコールに接触させて、難水溶性アルコール層中に第3の抽出物を得るステップ(以下、「第3ステップ」という。)を実施する。こうして、フラボノイド配糖体が分離される(第3の抽出物は、「冷水抽出物から分離されたフラボノイド配糖体」に当たる)。なお、ここで、「難水溶性アルコール」とは、水と任意の割合で混合しないアルコールをいい、炭素数4〜5のアルカノールが好ましく、ブタノール(例えばn−ブタノール)が特に好ましい。
【0030】
第1ステップでは、冷水抽出物をヘキサンに接触させる。これにより、目的とする有効成分(フラボノイド配糖体等)以外のホップ抽出物がヘキサン中に移行し、これが冷水抽出物から選択的に除去される。冷水抽出物をヘキサンに接触させるための方法としては、例えば、遠心上清及びヘキサンを分液ロートに入れ、この分液ロートを振とうする方法が挙げられる。冷水抽出物をヘキサンに接触させた後、分液ロートを静置して水層(第1の抽出物)とヘキサン層とに分離する。
【0031】
第2ステップでは、第1ステップで得られた第1の抽出物を酢酸エチルに接触させる。これにより、目的とする有効成分以外のホップ抽出物が更に酢酸エチル中に移行し、これが第1の抽出物から選択的に除去される。第1の抽出物を酢酸エチルに接触させるための方法としては、例えば、第1の抽出物及び酢酸エチルを分液ロートに入れ、この分液ロートを振とうする方法が挙げられる。第1の抽出物を酢酸エチルに接触させた後、分液ロートを静置して水層(第2の抽出物)と酢酸エチル層とに分離する。
【0032】
第3ステップでは、第2ステップで得られた第2の抽出物を難水溶性アルコールに接触させる。第2の抽出物を難水溶性アルコールに接触させるための方法としては、例えば、第2の抽出物及び難水溶性アルコールを分液ロートに入れ、この分液ロートを振とうする方法が挙げられる。第2の抽出物を難水溶性アルコールに接触させた後、分液ロートを静置して水層と難水溶性アルコール層とに分離する。フラボノイド配糖体は、難水溶性アルコール層中に含有される。より多くのフラボノイド配糖体を分離するために、第3ステップは複数回(例えば2〜4回)繰り返すのが好ましい。
【0033】
フラボノイド配糖体の分離は、例えば、冷水抽出物を、合成吸着剤を充填したカラムに通すことによって行うこともできる。すなわち、ホップの組織の冷水抽出物を、合成吸着剤を充填したカラムに通し、吸着成分を、例えば水及びメタノールの混合溶媒で溶出させることによって、フラボノイド配糖体を分離することもできる(溶出した吸着成分は、「冷水抽出物から分離されたフラボノイド配糖体」に当たる)。合成吸着剤としては、例えば、Amberlite XAD−4、7及び16(オルガノ社)、活性炭、ポリビニルポリピロリドン(PVPP;ポリフェノール吸着剤)が挙げられ、中でもAmberlite XAD−4が好ましい。
【0034】
本発明のアレルギー性皮膚炎抑制剤は、本発明のIgE抗体産生抑制剤からなる。ここで、「アレルギー性皮膚炎」とは、IgE抗体に起因して、又はIgE抗体が関与して生じる皮膚炎(例えば、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎)を意味し、将来生じるべき未発生のものであっても、既に生じているものであってもよい。また、「抑制」には、予防、治療、軽減及び緩和のいずれもが包含される。
【0035】
本発明のIgE抗体産生抑制剤又はアレルギー性皮膚炎抑制剤を含有する医薬品は、固体(例えば、凍結乾燥させて得られる粉末)、液体(水溶性又は脂溶性の溶液又は懸濁液)、ペースト等のいずれの形状でもよく、また、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、軟膏剤、硬膏剤等のいずれの剤形を取ってもよい。
【0036】
上述の各種製剤は、本発明のIgE抗体産生抑制剤又はアレルギー性皮膚炎抑制剤と、薬学的に許容される添加剤(賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等)と、を混和することによって調製することができる。
【0037】
例えば、賦形剤としては、ラクトース、スクロース、デンプン、デキストリン等が挙げられる。結合剤としては、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン等が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、Tween60、Tween80、Span80、モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。基剤としては、セトステアリルアルコール、ラノリン、ポリエチレングリコール、米糠油、魚油(DHA、EPA等)、オリーブ油等が挙げられる。溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、Tween80等が挙げられる。懸濁化剤としては、上述の界面活性剤の他、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0038】
本発明のIgE抗体産生抑制剤又はアレルギー性皮膚炎抑制剤はまた、飲食品の成分として使用することができる。例えば、本発明のIgE抗体産生抑制剤又はアレルギー性皮膚炎抑制剤は、水、清涼飲料水、果汁飲料、乳飲料、アルコール飲料、パン類、麺類、米類、豆腐、乳製品、醤油、味噌、菓子類等の飲食品への添加物として使用することができる。これらの飲食品は、当分野で通常使用される他の添加物を更に含有していてもよく、そのような添加物としては、例えば、苦味料、香料、リンゴファイバー、大豆ファイバー、肉エキス、黒酢エキス、ゼラチン、コーンスターチ、蜂蜜、動植物油脂;グルコース等の単糖類;スクロース、フルクトース、マンニトール等の二糖類;デキストロース、デンプン等の多糖類;エリスリトール、キシリトール、ソルビトール等の糖アルコール類;ビタミンC等のビタミン類、が挙げられる。本発明のIgE抗体産生抑制剤又はアレルギー性皮膚炎抑制剤はまた、特定保健用食品、特殊栄養食品、栄養補助食品、健康食品、機能性食品、病者用食品等の成分として使用することもできる。
【0039】
本発明のIgE抗体産生抑制剤又はアレルギー性皮膚炎抑制剤はまた、化粧品の成分として、スキンケア製品、ファンデーション、メイクアップ製品等の化粧品に添加することができる。
【0040】
本発明のIgE抗体産生抑制剤又はアレルギー性皮膚炎抑制剤の適切な投与量は、投与される固体の状態、年齢等に応じて適宜決定することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
〔ホップの組織の冷水抽出物の調製〕
ホップペレット(チェコ産ザーツ種:タイプ90)1kgを蒸留水(5℃)10Lに入れ、5℃にて時々攪拌し、ペレット状態を消失させながら一晩静置した。7000rpmで15分間遠心分離した後、上清を回収し、これを更に濃縮して150gの冷水抽出物を得た。
【0043】
〔冷水抽出物の同定〕
上清を分液ロートに移し、ヘキサンを加え、ヘキサン移行成分を廃棄した。次いで、水層に酢酸エチルを加え、酢酸エチル移行成分を廃棄した。更に、水層にn−ブタノールを加えてブタノール層を回収する抽出操作を3回繰り返し、得られたブタノール層を合併し、減圧濃縮してフラボノール画分(「ホップの組織の冷水抽出物から分離されたフラボノイド配糖体」に当たる。)を得た。
【0044】
得られたフラボノール画分を、先ず、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。HPLCによる分析は、C18カラム(Waters Symmetry)を40℃にて使用し、流速を0.2mL/分とした。移動相は、0.05%TFA/HOを1液とし、アセトニトリルを2液とし、2液の割合を16分間で10%から50%まで変化させるリニアグラジエントとした。検出は、350nmのUV検出器で行った。
【0045】
更に、上記フラボノール画分の各ピークを分取用HPLCで分離し、各ピークの成分を同定した。HPLCによる分取用分離は、C18カラム(Waters SunFire)を40℃にて使用し、流速を6mL/分とした。移動相は、10%MeCNを10分間保持し、更に150分かけて60%MeCNまで変化させるリニアグラジエントとした。検出は、350nmのUV検出器で行った。HPLCの分析結果を図1に示す。
【0046】
図1に示されるように、ホップペレット抽出物のフラボノール画分には主要ピークが3つ存在し、これらは、ケンフェロールマロニルグルコシド、アストラガリン及びケルセチンマロニルグルコシドのピークと同定された。図1において、1〜6で示されるピークは、順に、ケンフェロールマロニルグルコシド、アストラガリン、ケルセチンマロニルグルコシド、ルチン、イソケルシトリン及びケンフェロールルチノシドのピークである。
【0047】
なお、フラボノール配糖体の酸加水分解により求めた、冷水抽出物中のケルセチンアグリコン及びケンフェロールアグリコンの含量は、それぞれ158±21μg/g及び186±32μg/gであった。
【0048】
〔ホップ抽出物のIgE抗体産生抑制作用及びアレルギー性皮膚炎抑制作用の確認〕
上記冷水抽出物を用いて、以下のようにしてIgE抗体産生抑制作用及びアレルギー性皮膚炎抑制作用の確認試験を行った。
【0049】
(方法)
動物としては、SPF環境下、温度23±1℃、湿度55±10%、明暗サイクル12時間(明期:8時〜20時、暗期:20時〜8時)の条件で飼育した、4週齢の雌性NC/Ngaマウス(日本チャールス・リバー)を使用した。動物の取扱いは、「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」(日本学術会議)に従った。
【0050】
また、以下の試験において、マウスは、陰性対照群(n=8)、陽性対照群(n=5)、冷水抽出物100mg/kg投与群(n=8)及び冷水抽出物500mg/kg投与群(n=8)の4群に分けた。
【0051】
ハウスダストダニ[Dermatophagoides farinae(mite−Df)]を、10mg/mLとなるように、0.5%Tween20を含有するPBSに懸濁した。マウスの耳介の両面を外科テープで3回皮膚剥離し、その1時間後、皮膚剥離した耳介両面にダニ抗原懸濁液を30μL塗布した。陰性対照群にはPBS30μLのみを塗布した。皮膚剥離及びダニ抗原塗布は、週1回の頻度で1〜11週目に実施した。
【0052】
冷水抽出物100mg/kg投与群及び冷水抽出物500mg/kg投与群には、試験期間中、毎日、蒸留水に溶解した冷水抽出物を、胃ゾンデを用いて投与した(投与量:100及び500mg/5mL/kgマウス)。ダニ抗原を塗布する日は、ダニ抗原塗布の1時間前に冷水抽出物を経口投与した。陽性対照群及び陰性対照群には蒸留水を毎日投与した(投与量:5mL/kgマウス)。
【0053】
試験開始日(0週目)及びダニ抗原を塗布する日(1〜11週目)に、マウスの耳介厚(mm)及び血清中の総IgE抗体量(ng/mL)を測定した。マウスの耳介厚は、ダイヤルシックネスゲージを用いて測定した。また、血清中の総IgE抗体量は、マウス尾静脈から採取した血液について、サンドイッチELISA法にて測定した。いずれの測定も、ダニ抗原を塗布する日は、ダニ抗原塗布の前に行った。
【0054】
最後(11週目)のダニ抗原塗布から24時間後にマウスを解剖し、マウスの心臓から全採血を行い、血清中の総IgE抗体量(ng/mL)及びダニ抗原特異的IgE抗体量(unit)を測定した。また、マウスから脾臓を摘出し、脾臓細胞からの総IgE抗体産生量(ng/mL)を測定した。脾臓細胞は、測定前に、10%FBS、100U/mL ペニシリン及び100μg/mL ストレプトマイシンを含有するRPMI−1640培地を用いて、2.5×10cells/wellとなるように96ウェルプレート上で7日間培養した。
【0055】
また、解剖時にマウス耳介を切り出し、10%ホルマリン溶液で組織固定し、病理組織標本(ヘマトキシリン・エオジン染色像、トルイジンブルー染色像)を作製した。
【0056】
(結果)
以上の試験の結果を図2〜5に示す。図2は、マウスの耳介厚(mm)の経時変化を示すグラフである。図3は、マウス血清中の総IgE抗体量(ng/mL)の経時変化を示すグラフである。図4は、マウス血清中のダニ抗原特異的IgE抗体量(unit)を示すグラフである。図5は、マウス脾臓細胞からの総IgE抗体産生量(ng/mL)を示すグラフである。図2〜5において、「対照(−)」、「対照(+)」、「冷水抽出物100」及び「冷水抽出物500」は、それぞれ、陰性対照群、陽性対照群、冷水抽出物100mg/kg投与群及び冷水抽出物500mg/kg投与群を表す。なお、マウス血清中のダニ抗原特異的IgE抗体量(unit)については、マウスを20μgのダニ抗原で3回(0日目、14日目、21日目)腹腔免疫し、28日目に採血して得られた血清中のダニ抗原特異的IgE抗体濃度を100unitと定義している。
【0057】
なお、試験のデータは平均±標準偏差で示す。マウスの耳介厚、及び血清中の総IgE抗体量については、2元配置分散分析を行った後、Tukey’s HSDテストによる有意差検定を行った。血清中のダニ抗原特異的IgE抗体量、及び脾臓細胞からのIgE抗体産生量については、1元配置分散分析を行った後、Tukey’s HSDテストによる有意差検定を行った。P値が0.05未満の場合に、有意差ありと判定した。図2〜5において、「*」及び「**」は、それぞれ、P<0.05及びP<0.01であることを示す(図3及び5では、陽性対照群との関係でP<0.05及びP<0.01であることを示す)。
【0058】
図2に示されるように、陽性対照群の耳介厚の増加は陰性対照群よりも有意に大きく、ダニ抗原塗布により浮腫が誘導された。冷水抽出物投与群(冷水抽出物100mg/kg投与群及び冷水抽出物500mg/kg投与群)では、耳介厚の増加が陽性対照群よりも低く、ダニ抗原塗布による浮腫の発生が抑制された。特に冷水抽出物500mg/kg投与群では、耳介厚の増加が陽性対照群と比較して有意に抑制された。
【0059】
図3に示されるように、血清中の総IgE抗体量は、陰性対照群では試験期間中ほとんど増加していないのに対して、陽性対照群では顕著に増加した。このことは、陽性対照群の血清中の総IgE抗体量の増加がダニ抗原に起因するものであることを示している。また、血清中の総IgE抗体量の増加には、図2に示される耳介厚の増加との相関関係が認められる。冷水抽出物投与群では、血清中の総IgE抗体量の増加が有意に抑制され、その効果には濃度依存性が認められた。
【0060】
図4に示されるように、血清中のダニ抗原特異的IgE抗体量は、陽性対照群では、陰性対照群と比較して有意に増加した。これに対して、冷水抽出物投与群では、陰性対照群と比較して有意差が認められなかった。
【0061】
図5に示されるように、冷水抽出物投与群では、ダニ抗原により誘起された脾臓細胞からの総IgE抗体の産生が有意に抑制された。
【0062】
マウス耳介標本のヘマトキシリン・エオジン染色像では、冷水抽出物投与群において、陽性対照群と比較して、浮腫、表皮の過形成、及び真皮への炎症性細胞の浸潤、の抑制が認められた。このことは、冷水抽出物の投与により、定期的なダニ抗原塗布によって惹起されるアレルギー性皮膚炎の進展が抑制されることを示している。
【0063】
マウス耳介標本のトルイジンブルー染色像では、ダニ抗原を塗布したマウスの耳介において、マスト細胞の浸潤が認められた。これに対して、陰性対照群の耳介標本では、マスト細胞の存在がほとんど認められなかった。
【0064】
以上の実施例より、本発明のIgE抗体産生抑制剤は、IgE抗体の産生を顕著に抑制することができ、更に、IgE抗体依存性のアレルギー(特にアレルギー性皮膚炎)を効果的に抑制することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のIgE抗体産生抑制剤は、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎等の予防及び治療に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】ホップペレット(チェコ産ザーツ種)から冷水抽出したフラボノール画分のHPLCチャートである。
【図2】マウスの耳介厚の経時変化を示すグラフである。
【図3】マウス血清中の総IgE抗体量の経時変化を示すグラフである。
【図4】マウス血清中のダニ抗原特異的IgE抗体量を示すグラフである。
【図5】マウス脾臓細胞からの総IgE抗体産生量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホップの組織の冷水抽出物からなるIgE抗体産生抑制剤。
【請求項2】
前記冷水抽出物はフラボノイド配糖体を含有する、請求項1に記載のIgE抗体産生抑制剤。
【請求項3】
ホップの組織の冷水抽出物から分離されたフラボノイド配糖体からなるIgE抗体産生抑制剤。
【請求項4】
前記フラボノイド配糖体としてフラボノール配糖体を含有する、請求項2又は3に記載のIgE抗体産生抑制剤。
【請求項5】
前記フラボノール配糖体としてケンフェロール配糖体を含有する、請求項4に記載のIgE抗体産生抑制剤。
【請求項6】
前記ケンフェロール配糖体として、ケンフェロールマロニルグルコシド、アストラガリン及びケンフェロールルチノシドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項5に記載のIgE抗体産生抑制剤。
【請求項7】
前記フラボノール配糖体としてケルセチン配糖体を含有する、請求項4〜6のいずれか一項に記載のIgE抗体産生抑制剤。
【請求項8】
前記ケルセチン配糖体として、ケルセチンマロニルグルコシド、ルチン及びイソケルシトリンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項7に記載のIgE抗体産生抑制剤。
【請求項9】
前記組織は茎、毬花又は葉である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のIgE抗体産生抑制剤。
【請求項10】
前記組織は、乾燥した苞の粉砕物である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のIgE抗体産生抑制剤。
【請求項11】
前記組織は、乾燥した毬花の粉砕物から、ルプリンの大きさ以下の粉砕物の少なくとも一部が除去されたものである、請求項1〜8のいずれか一項に記載のIgE抗体産生抑制剤。
【請求項12】
前記乾燥した毬花の粉砕物は、乾燥した毬花の凍結物の粉砕物である、請求項11に記載のIgE抗体産生抑制剤。
【請求項13】
前記組織は、毬花から有機溶媒抽出又は超臨界流体抽出によって抽出される物質の少なくとも一部を、当該毬花から除去して得られたホップ残渣である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のIgE抗体産生抑制剤。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のIgE抗体産生抑制剤からなるアレルギー性皮膚炎抑制剤。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のIgE抗体産生抑制剤又は請求項14に記載のアレルギー性皮膚炎抑制剤を含有する医薬品。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のIgE抗体産生抑制剤又は請求項14に記載のアレルギー性皮膚炎抑制剤を含有する化粧品。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のIgE抗体産生抑制剤又は請求項14に記載のアレルギー性皮膚炎抑制剤を含有する飲食品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−173583(P2009−173583A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13980(P2008−13980)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】