説明

MSKキャンセラー装置

【課題】低機能(即ち、低価格)のCPU等を用いたデジタル処理によって、MSK信号を安定して検出してキャンセルすること。
【解決手段】本発明では、MSK信号を検出したときに、音声出力をミュートするMSKキャンセラー装置であって、所定数ビット分の2値符号の全ての組み合わせのパターンとそれぞれのパターンの信号がMSK信号成分を含むか否かの判定結果とを格納した参照テーブルと、2値符号化した入力信号を順次前記所定数ビット分蓄積する蓄積手段と、蓄積された入力信号と前記参照テーブルの前記パターンと比較することによって一致したパターンに対応した判定結果を出力する参照手段とを備え、該参照手段から出力される判定結果によってMSK信号を検出して音声出力をミュートするように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MCA無線で使用されているMSK信号を受信側でミュートする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、制御用にMSK信号を用いているMCA無線では、受信側で、MSK信号が検波されて低周波信号としてスピーカから出力されると耳障りな音となるので、MSK信号をミュートもしくは遮断することが行われていた。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
【特許文献1】実開平4−76734号(実願平2−121412号)公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述したような前記特許文献1に開示された除去回路は、MSK信号を検出するために、1200Hzの信号を検出するためのバンドパスフィルタと検波器、および1800Hzの信号を検出するためのバンドパスフィルタと検波器、さらに、論理回路と、タイマ回路とが必要である。そして、これらの回路をハードウエアのアナログ回路で構成しているために、環境温度の影響を受けやすく、特性が安定しないという問題がある。
また、1200Hzと1800Hz以外の周波数成分を解析していないため、ホワイトノイズとの区別がつき難いという問題がある。そのため、調整を頻繁に行う必要があり使いにくいという問題がある。
【0005】
なお、高機能のDSPやCPUを用いて、上記同様の処理をデジタル処理によって行うことも可能である。
その場合には、受信信号を所定の間隔でサンプリングして、1200Hzと1800Hzに関して、それぞれ基本波の生成、相関処理、積分処理、スペクトル演算処理等の処理を、高速で行う必要がある。
例えば、図6に示した構成が実現可能である。このような構成では、入力されたアナログ信号をアンチエイリアスフィルタとしてのローパスフィルタを介してA/D変換手段でサンプリングして、微分処理によって直流成分の影響を排除し、符号化処理によって振幅による影響を排除して出力する。
そして、前記出力を、生成した1200Hzのデータと1800Hzのデータとの相関演算を行い、相関値を積分して、周波数成分の振幅を求める。ここで、a=cos成分,b=sin成分とする。
前記cos成分とsin成分とは90度の位相差があるので、ベクトルv(=√(a2+b2)、a,bの二乗平均平方根))を求める。このベクトルvの絶対値は振幅スペクトルであり、絶対値の2乗はパワースペクトルである。
これらの振幅スペクトルが所定のしきい値を越えた場合には、何れかの周波数成分があると判定する。
この判定結果に基づいて音声信号を遮断もしくはミュートするのである。
【0006】
そして、このような一連の処理を高速に行う必要がある。そのためには高機能(即ち、高価)なDSPやCPUが必須となり、低機能(即ち、低価格)のCPU等では処理能力が間に合わないために上記デジタル処理が実現できないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、低機能(即ち、低価格)のCPU等を用いたデジタル処理によって、MSK信号を安定して検出してキャンセルすることを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる請求項1のMSKキャンセラー装置においては、
MSK信号を検出したときに、音声出力をミュートするMSKキャンセラー装置であって、所定数ビット分の2値符号の全ての組み合わせのパターンとそれぞれのパターンの信号がMSK信号成分を含むか否かの判定要素とを格納した参照テーブルと、
2値符号化した入力信号を順次前記所定数ビット分蓄積する蓄積手段と、
蓄積された入力信号と前記参照テーブルの前記パターンと比較することによって一致したパターンに対応した判定要素を出力する参照手段と、
該参照手段から出力される判定要素に基づいてMSK信号を含むか否かを判定して判定結果を出力する判定手段とを備え、
該判定手段から出力される判定結果によってMSK信号を検出して音声出力をミュートするように構成されたことを特徴としている。
請求項2の発明では、
前記参照テーブルには、全ての組み合わせのパターン毎に、そのパターンの信号に含まれる第1周波数成分と第2周波数成分との差に対応した出力値を判定要素として格納したことを特徴としている。
請求項3の発明では、
前記参照手段では、蓄積された入力信号と前記参照テーブルの前記パターンとを所定回数比較することによって一致したパターンに対応した判定要素を前記所定回数分積算して出力し、
前記判定手段では、前記蓄積された判定要素が所定のしきい値を超えるか否かによりMSK信号が含まれるか否かの判定結果を出力するように構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、MSK信号の検出に必要な高速演算処理に代えて、所定数ビット分の2値符号の全ての組み合わせのパターンとそれぞれのパターンの信号がMSK信号成分を含むか否かの判定要素とを格納した参照テーブルを予め備えておき、
2値符号化した入力信号を順次前記所定数ビット分蓄積して、前記参照テーブルの前記パターンと比較することによって一致したパターンに対応した判定要素に基づいてMSK信号の有無を判定することによってMSK信号を検出するので、低機能(即ち、低価格)のCPU、例えば、受信機能の制御に用いるCPUを共用することができる。従って、受信装置全体の構成を簡略化することができるので、受信装置全体のコストを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明にかかるMSKキャンセラー装置を、その実施の形態を示した図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明にかかるMSKキャンセラー装置の実施形態としてのMSK信号キャンセル回路(MSKキャンセラー回路)を備えた受信装置のブロック図である。
図1において、
1はMCA無線用の受信装置であり、受信回路2と、スイッチ回路3と、スピーカ4と、MSK信号検出回路5とを備えている。前記スイッチ回路3とMSK信号検出回路5で、MSK信号キャンセル回路6を構成している。
【0011】
前記MSK信号検出回路5の内部構成を図2に示した。
図2において、
51はローパスフィルタであり、後段のA/D変換におけるエイリアス誤差を除くため、サンプリング周波数の1/2以上の高周波成分をカットするアンチエイリアスフィルタとして構成されている。
52はA/D変換手段であり、入力されたアナログ信号を前記サンプリング周波数でサンプリングしてデジタル信号に変換する。前記サンプリング周波数は4800Hzとする。
53は微分処理手段であり、前記デジタル信号に変換されたデジタル信号を微分処理して直流成分の影響を排除して出力する。
54は符号化手段であり、前記微分処理により出力された信号を+1と−1の2値符号に変換して出力する。2値符号に変換することにより、振幅の影響を排除する。
55はバッファであり、前記符号化手段54により出力された2値符号を順次8ビット分蓄積する。このとき、実際には+1を0、−1を1として蓄積する。
56は参照手段であり、蓄積された8ビット分のデジタルデータをROMテーブルの参照データと比較して、一致した参照データに対応したスペクトル値を判定要素として出力する。
57は判定手段であり、前記参照手段56から出力された判定要素のスペクトル値を所定のしきい値と比較して、しきい値を越えた場合に第1周波数成分の1200Hz成分、もしくは第2周波数成分の1800Hz成分があると判定して制御信号を出力する。
なお、第1周波数成分は1200Hz成分に限定されるものではなく、第2周波数成分も1800Hz成分に限定されるものではない。
【0012】
図4の(a)に示したように、1800Hz成分のスペクトル値がしきい値を越えた場合には制御信号を出力し、図4の(b)に示したように、1200Hz成分のスペクトル値がしきい値を越えた場合にも制御信号を出力する。図4の(c)に示したように、何れの成分のスペクトル値もしきい値を越えない場合には制御信号は出力しない。
このように判定して出力される制御信号によって前記スイッチ回路3は制御され音声信号をキャンセル(遮断もしくはミュート)する。
【0013】
なお、ROMテーブルの構成を図3に示した。
図3において、前記ROMテーブルには、00(16)〜FF(16)までの256パターンの8ビット分のデジタルデータに対応したパターンPが参照データとして記録され、各パターンP毎に、1200Hzの場合のスペクトル値S1(振幅相当)と、1800Hzの場合のスペクトル値S2(振幅相当)とが判定要素として予め記録されている。各スペクトル値は二乗平均平方根された値である。
前記参照手段56においては、蓄積された8ビット分のデジタルデータのビットパターンをROMテーブルの前記パターンPと比較し、一致した場合に、そのパターンPに対応した1200Hz成分のスペクトル値S1と1800Hz成分のスペクトル値S2を判定要素として出力する。
【0014】
以上の構成によって、MSK信号が検出されたときには音声信号はキャンセルされるので、スピーカ4からはMSK信号を検波した低周波信号は出力されない。従って、MSK信号を検波した耳障りな音が無くなるので快適な使用が可能となる。
MSK信号が検出されないときには、前記制御信号は出力されず、音声信号はキャンセルされないので、スピーカ4からは通常の受信信号を検波した低周波信号が出力される。このようにして、参照テーブルを用いることによって、低機能(即ち、低価格)のCPU、例えば、受信機能の制御に用いるCPUを共用することができる。従って、受信装置全体の構成を簡略化することができるので、受信装置全体のコストを抑えることができる。
【0015】
なお、前記参照テーブルには判定要素としてスペクトル値を記録したが、実施例1において後述するように、00〜FFまでの各パターンP毎に、1200Hzの場合のスペクトル値S1(振幅相当)と1800Hzの場合のスペクトル値S2(振幅相当)との差を20倍した出力値D(図3参照)を予め計算して、所定のしきい値を超えているか否かの情報、即ち、MSK信号があると判定できるか否かの判定結果までを予め記録してもよい。この場合には、判定手段が参照手段に含まれることになる。
【実施例1】
【0016】
実施例1においては、参照テーブルは、00〜FFまでの各パターンP毎に、1200Hzの場合のスペクトル値S1(振幅相当)と1800Hzの場合のスペクトル値S2(振幅相当)との差を20倍した出力値D(図3参照)を予め計算して判定要素として記録した。
この場合、両スペクトル値の差に基づいて判定するので、より正確な判定が可能となる。なお、両スペクトル値の差を20倍したので、処理が容易になる。
この場合、前記参照手段56においては、蓄積された8ビット分のデジタルデータのビットパターンをROMテーブルの前記パターンPと比較し、一致した場合に、そのパターンPに対応した出力値Dを出力する。
なお、ビットパターンを比較する代りに数値に換算して比較することもできる。
【0017】
図5の(a)、(b)に示したように、MSK信号がある場合には、両周波数成分のスペクトル値の差が十分出現する。しかし、図5の(c)に示したように、MSK信号が無い場合には、両周波数成分のスペクトル値の差が殆ど出現しない。
従って、図3の出力値Dのように、両周波数成分のスペクトル値の差を得ることによって、前記出力値Dをしきい値と比較するだけでよいので、処理が簡略化される。前記出力値Dが前記しきい値を越えたときに、MSK信号があると判定して、未満のときにMSK信号がないと判定する。
また、前記出力値Dを所定回数分蓄積して、その蓄積値をしきい値と比較すると、さらに精度が良くなる。
【0018】
この実施例1によれば、参照テーブルに両スペクトル値の差を20倍した値を判定要素として備えることによって、簡単な処理で精度良くMSK信号のキャンセルが可能となる。従って、低機能(即ち、低価格)のCPU、例えば、受信機能の制御に用いるCPUを共用することができる。従って、受信装置全体の構成を簡略化しても精度の良いMSKキャンセラー回路が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、MSK信号を用いたタクシー無線等のMCA無線に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明にかかるMSKキャンセラー装置の実施の形態の構成を示した構成図である。
【図2】図1の要部の構成図である。
【図3】参照テーブルの構成を説明する説明図である。
【図4】しきい値とスペクトル値との関係を説明する説明図である。
【図5】実施例1の場合のしきい値とスペクトル値の差との関係を説明する説明図である。
【図6】従来例の構成図である。
【符号の説明】
【0021】
1 MCA無線用の受信装置
2 受信回路
3 スイッチ回路
4 スピーカ
5 MSK信号検出回路
51 ローパスフィルタ
52 A/D変換手段
53 微分処理手段
54 符号化手段
55 バッファ
56 参照手段
57 判定手段
6 MSK信号キャンセル回路、MSKキャンセラー回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MSK信号を検出したときに、音声出力をミュートするMSKキャンセラー装置であって、所定数ビット分の2値符号の全ての組み合わせのパターンとそれぞれのパターンの信号がMSK信号成分を含むか否かの判定要素とを格納した参照テーブルと、
2値符号化した入力信号を順次前記所定数ビット分蓄積する蓄積手段と、
蓄積された入力信号と前記参照テーブルの前記パターンと比較することによって一致したパターンに対応した判定要素を出力する参照手段と、
該参照手段から出力される判定要素に基づいてMSK信号を含むか否かを判定して判定結果を出力する判定手段とを備え、
該判定手段から出力される判定結果によってMSK信号を検出して音声出力をミュートするように構成されたことを特徴とするMSKキャンセラー装置。
【請求項2】
前記参照テーブルには、全ての組み合わせのパターン毎に、そのパターンの信号に含まれる第1周波数成分と第2周波数成分との差に対応した出力値を判定要素として格納したことを特徴とする請求項1に記載のMSKキャンセラー装置。
【請求項3】
前記参照手段では、蓄積された入力信号と前記参照テーブルの前記パターンとを所定回数比較することによって一致したパターンに対応した判定要素を前記所定回数分積算して出力し、
前記判定手段では、前記蓄積された判定要素が所定のしきい値を超えるか否かによりMSK信号が含まれるか否かの判定結果を出力するように構成したことを特徴とする請求項1もしくは2の何れかに記載のMSKキャンセラー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−19914(P2006−19914A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194109(P2004−194109)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000100746)アイコム株式会社 (273)
【Fターム(参考)】