説明

NBR組成物及びゴム金属積層体

【課題】オーブン架橋が可能で、補強性と平面平滑性を同時に満たすことができるNBR組成物及びゴム金属積層体を提供すること。
【解決手段】NBRポリマーと、架橋剤と、架橋促進剤と、カーボンブラックとを含むNBR組成物において、前記カーボンブラックは、MTカーボンブラックと、よう素吸着量20mg/g以下かつDBP吸収量40cm/100g以上のカーボンブラックとの組み合わせからなり、NBRポリマー100重量部に対して、総量で110〜250重量部配合され、MTカーボンの配合量は、よう素吸着量20mg/g以下かつDBP吸収量40cm/100g以上のカーボンブラックより多く、よう素吸着量が20mg/g以下かつDBP吸収量が40cm/100g以上のカーボンブラックの配合量はNBRポリマー100重量部に対して、10〜70重量部であることを特徴とするNBR組成物、及び該NBR組成物を積層させた金属積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NBR組成物及びゴム金属積層体に関し、詳しくは、補強性と平面平滑性を同時に満たすことができるNBR組成物及びゴム金属積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属にNBR組成物を積層させた後、架橋して製造するゴム金属積層体は、ガスケット素材として用いられている。
【0003】
ここで、ゴム組成物の架橋方式は、プレス架橋とオーブン架橋が知られているが、生産性向上のため、オーブン架橋が可能なNBR組成物、すなわち硫黄架橋系のNBR組成物の要請があり、さらに、架橋の際にニトロソアミンを発生させないようにする要請がある。
【0004】
ニトロソアミンは、危険物質に対して技術的な規則を定めたドイツの法律、Technische Regeln fur Gefahrstoffeの条項番号552(TRGS552)で規制対象であり、また化学物質排出移動量届出制度(Pollutant Release AND Transfer Register: PRTR)の対象物質であるので、削減の動きが広まっているからである。
【0005】
特許文献1は、架橋剤として硫黄を使用し、架橋促進剤としてテトラベンジルチウラムジスルフィド、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラベンジルジチオカルバミン酸亜鉛および1,6−ビス(N,N−ジベンジルチオカルバモジチオ)ヘキサンの少なくとも一種からなるイオウ供与性化合物を用いたNBR組成物によって、架橋時にニトロソアミンを発生させない課題を解決している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−18707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、オーブン架橋によって、製造されたゴム金属積層体は、プレス架橋で得られた製品には見られなかった現象が見られ、ガスケット素材として使用するには、さらなる課題があることがわかった。
【0008】
すなわち、オーブン架橋によって得られた製品(ゴム金属積層体)の架橋体表面には、凹凸が生じ、かかる凹凸は、低面圧環境、例えば100kPa程度の圧力がかかる環境では密着が不十分となるので、満足なシール性が得られない原因となる。
【0009】
この凹凸の原因は、組成物に配合されるカーボンブラックやホワイトカーボンなどの補強性充填剤が原因であることがわかったが、補強性充填剤は、高面圧環境、例えば100MPa程度の圧力がかかる環境において、ゴム層のフロー(はみ出し、或いは流れともいう)の防止、ゴム層の摩耗防止といった効果をもたらすので、補強性充填剤を配合しないわけにはいかない。
【0010】
凹凸の解消は、通常の混練作業の他に三本ロールやホモジナイザーなどの分散機を用いることで解決可能であるが、そもそもオーブン架橋を採用する目的であった生産性の向上が図れないばかりか、ゴム糊やポリマーに対してせん断作用をもたらすので低分子化が引き起こされ、ゴムとしての物性を低下させてしまう。
【0011】
本発明者らは研究を重ね、特許文献1などで用いられているHAF、FEFなどのカーボンブラックを配合した場合と同様の耐摩耗性を備え、かつ、オーブン架橋で架橋しても、表面に凹凸が生じない(平面平滑性がある)配合を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
そこで、本発明の課題は、オーブン架橋が可能で、補強性と平面平滑性を同時に満たすことができるNBR組成物及びゴム金属積層体を提供することにある。
【0013】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0015】
(請求項1)
NBRポリマーと、架橋剤と、架橋促進剤と、カーボンブラックとを含むNBR組成物において、
前記カーボンブラックは、MTカーボンブラックと、よう素吸着量20mg/g以下かつDBP吸収量40cm/100g以上のカーボンブラックから選ばれる少なくとも1種との組み合わせからなり、
NBRポリマー100重量部に対して、総量で110〜250重量部配合され、
かつ、MTカーボンの配合量は、よう素吸着量20mg/g以下かつDBP吸収量40cm/100g以上のカーボンブラックより多く、
よう素吸着量が20mg/g以下かつDBP吸収量が40cm/100g以上のカーボンブラックの配合量はNBRポリマー100重量部に対して、10〜70重量部であることを特徴とするNBR組成物。
【0016】
(請求項2)
前記カーボンブラックを、NBRポリマー100重量部に対して、総量で160〜220重量部配合することを特徴とする請求項1記載のNBR組成物。
【0017】
(請求項3)
前記架橋促進剤が、スルフェンアミド系架橋促進剤から選ばれる1種または2種以上、または、スルフェンアミド系架橋促進剤から選ばれる1種または2種以上と、チウラム系架橋促進剤、チアゾール系架橋促進剤、スルフェンアミド系架橋促進剤、テトラベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、1,6ビス(N,N−ジベンジルチオカルバモディチオ)ヘキサンから選ばれる1種または2種以上を併用することを特徴とする請求項1又は2に記載のNBR組成物。
【0018】
(請求項4)
前記スルフェンアミド系加硫促進剤がN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、又は、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドであり、前記チウラム系架橋促進剤がテトラベンジルチウラムジスルフィド、又は、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィドであり、前記チアゾール系加硫促進剤が2−メルカプトンベンゾチアゾール、2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾール酸亜鉛、又は、2−メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩であることを特徴とする請求項3記載のNBR組成物。
【0019】
(請求項5)
請求項1〜4のいずれかに記載のNBR組成物をゴム層形成成分として用いて、金属板の片面又は両面に、ゴム層を形成させたゴム金属積層体。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、オーブン架橋が可能で、補強性と平面平滑性を同時に満たすことができるNBR組成物及びゴム金属積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
<NBR組成物>
NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)ポリマーとしては、結合アクリロニトリル含量が18〜48%、好ましくは31〜42%で、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が30〜85、好ましくは40〜70のアクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムが好ましく用いられる。結合アクリロニトリル含量がこの範囲より小さいと、接着剤との接着性が乏しくなり、この範囲より大きいと、耐寒性が損なわれる。また、ムーニー粘度がこの範囲より小さいと、耐摩擦摩耗性が乏しくなり、この範囲より大きいと、混練加工性が損なわれる。
【0023】
架橋剤としては、硫黄または硫黄供与性化合物を用いることができ、硫黄供与性化合物としては、例えば、トリチオシアヌル酸、高分子多硫物等を好ましく例示できる。
【0024】
硫黄または硫黄供与性化合物は、1種あるいは2種以上を混合して用いてよく、配合量は、NBRポリマー100重量部あたり0.5〜5重量部、好ましくは、1〜3重量部の範囲である。
【0025】
架橋促進剤は、二級アミン構造を持たないスルフェンアミド系架橋促進剤から選ばれる1種または2種以上、または二級アミン構造を持たないスルフェンアミド系架橋促進から選ばれる1種または2種以上と二級アミン構造を持たないその他の架橋促進剤から選ばれる1種または2種以上とを併用して用いられる。
【0026】
二級アミン構造を持たないスルフェンアミド系架橋促進剤としては、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CZ)、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(NS)、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(MSA)、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(NS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)等が挙げられ、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CZ)が好ましい。
【0027】
また、二級アミン構造を持たないその他の架橋促進剤としては、2−メルカプトンベンゾチアゾール(MBT)、2−ベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)、2−メルカプトベンゾチアゾール酸亜鉛(ZnMBT)、2−メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩(NaMBT)などのチアゾール系加硫促進剤、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBZTD)、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィドなどのチウラム系加硫促進剤のほか、テトラベンジルシチオカルバミン酸亜鉛、1,6ビス(N,N−ジベンジルチオカルバモディチオ)ヘキサン等が挙げられ、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBZTD)が好ましい。
【0028】
二級アミン構造を持たないスルフェンアミド系架橋促進剤と、二級アミン構造を持たないその他の架橋促進剤を併用する場合、好ましい組合せは、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CZ)とテトラベンジルチウラムジスルフィド(TBZTD)が挙げられる。
【0029】
架橋促進剤の配合量は、NBRポリマー100重量部あたり総量で1〜25重量部、好ましくは、6〜12重量部の範囲である。
【0030】
スルフェンアミド系架橋促進剤と、その他の架橋促進剤とを併用する場合は、スルフェンアミド系架橋促進剤とその他の架橋促進剤との比率を1:1.0〜2.0の範囲とすることが好ましく、1:1.6〜2.0の範囲とすることがより好ましい。さらに好ましくは、前記比率の範囲内でスルフェンアミド系架橋促進剤の配合量がNBRポリマー100重量部あたり5〜12重量部、さらに好ましくは5〜8重量部となるように、その他の架橋促進剤と併用することである。
【0031】
カーボンブラックは、MTカーボンブラックと、よう素吸着量が20mg/g以下且つDBP吸収量が40cm/100g以上のカーボンブラックを組み合わせて配合する。
【0032】
よう素吸着量20mg/g以下且つDBP吸収量40cm/100g以上のカーボンは、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができ、市販品としては、東海カーボン社製「シーストTA」、旭カーボン社製「旭#51」を好ましく例示できる。なお、「シーストTA」は、FTカーボンに分類され、「旭#51」はSRF級に分類される。本発明においては、グレードによらず、よう素吸着量20mg/g以下且つDBP吸収量40cm/100g以上という特性を持ったカーボンブラックを使用することが重要である。
【0033】
よう素吸着量20mg/g以下且つDBP吸収量40cm/100g以上という特性を持ったカーボンブラックは、平面平滑性を損なうことなく、耐摩耗性を向上させるという効果を持つ。
【0034】
カーボンブラックの総配合量は、NBRポリマー100重量部あたり110〜250重量部、好ましくは、160〜220重量部の範囲である。
【0035】
MTカーボンの配合量は、よう素吸着量20mg/g以下かつDBP吸収量40cm/100g以上のカーボンブラックより多く、よう素吸着量が20mg/g以下且つDBP吸収量が40cm/100g以上のカーボンブラックの配合量はNBRポリマー100重量部に対して、10〜70重量部、好ましくは30〜50重量部であることが重要である。
【0036】
総配合量が、NBRポリマー100重量部あたり110〜250重量部の範囲内であっても、よう素吸着量20mg/g以下かつDBP吸収量40cm/100g以上のカーボンブラックの配合量が、10重量部未満であると、耐はみ出し性が劣り(比較例1)、70重量部を超えると架橋体表面に凹凸が見られるようになる(比較例2)。これは、一般の混練機のみでは分散させることが困難になるためである。
【0037】
また、MTカーボンの配合量が、よう素吸着量20mg/g以下かつDBP吸収量40cm/100g以上のカーボンブラックの配合量より少なくなると架橋体表面に凹凸が見られるようになる(比較例4)。
【0038】
カーボンブラックの総量が250重量部を超えると、耐摩耗性が劣る(比較例3)。これは、カーボンブラックの体積効果により、ゴムとしての特性が発現しにくくなるためである。
【0039】
よう素吸着量20mg/g以下かつDBP吸収量40cm/100g以上のカーボンブラックでないカーボンブラックをMTカーボンと併用しても所望の耐摩耗性は得られない。
【0040】
FEF、HAFなどのカーボンブラックを配合したNBR組成物では、表面粗さが大きくなるので、オーブン架橋で成形することができない。
【0041】
以上の各成分を必須成分とするNBR組成物中には、他の必要な配合剤が適切に配合される。
【0042】
無機充填剤についていえば、ホワイトカーボン、シリカ、塩基性炭酸マグネシウム、活性化炭酸カルシウム、特殊炭酸カルシウム、超微粉珪酸マグネシウム、ハードクレー、硫酸バリウム、タルク、グラファイト、マイカ、カオリン、珪酸カルシウム等が、単独または組み合わせて用いられる
【0043】
これらの無機充填剤の添加は、高温浸漬時の接着剤層の剥がれ防止に有効であり、耐水性向上といった効果を示す。例えばホワイトカーボンとしては、ハロゲン化珪酸または有機珪素化合物の熱分解法やけい砂を加熱還元し、気化したSiOを空気酸化する方法等で製造される乾式法シリカ、けい酸ナトリウムの熱分解法などで製造される湿式法シリカなどであって、非晶質シリカを用いることができ、市販品、例えば日本シリカ工業製品Nipsil LPなどがそのまま用いられる。また、その比表面積が約20〜200m/g、好ましくは約30〜100m/g程度のものが一般に用いられる。
【0044】
シリカとして、平均粒径が約20μm以下の天然シリカ、好ましくはシランカップリング剤などで表面処理された天然シリカなどを用いても同様な効果が得られる。
【0045】
ホワイトカーボンは、その価格、取扱い性および耐摩耗性の良さから一般的に用いられているカーボンブラックと比べて耐摩耗性に劣るものの、接着剤との接着性向上を可能とする。
【0046】
これらの無機充填剤を配合する場合には、NBRポリマー100重量部当り約3〜100重量部、好ましくは約10〜80重量部の割合で用いられる。
【0047】
老化防止剤は、加硫系に合わせて、一般的な市販品を用いることができる。
【0048】
以上の各成分以外に、ステアリン酸、パラフィンワックス等の加工助剤、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の受酸剤などのゴム工業で一般的に用いられている各種配合剤が適宜添加されて用いられる。
【0049】
本発明のNBR組成物の調製は、インタミックス、加圧式ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機あるいはオープンロールなどを用いて混練することによって行われる。
【0050】
また、本発明のNBR組成物をゴム金属積層体のゴム層として利用する場合には、混練を行わず、あるいは一部の原料のみをインタミックス、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機あるいはオープンロールなどを用いて混練した後、NBR組成物を沸点250℃以下の溶剤、例えば芳香族炭化水素類、ケトン類またはこれらの混合溶剤などに溶解または分散させて、コーティング溶液として調製される。
【0051】
<ゴム金属積層体>
本発明のゴム金属積層体は、金属板の片面又は両面に、必要によりプライマー層、接着剤層を介して、本発明のNBR組成物をゴム層として形成させたものである。
【0052】
金属板は特に限定されず、ステンレス鋼板(フェライト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス)、SPCC鋼板(冷間圧延鋼板)、アルミニウム鋼板等の金属板を使用することができる。
【0053】
また、表面をショットブラストやスコッチブラスト、ヘアーライン、ダル仕上げなどで粗面化させた金属板も用いることができる。
【0054】
これらの金属板上には、好ましくはプライマー層が形成される。プライマー層は、ゴム金属積層体のゴム接着にかかる耐熱性および耐水性の大幅な向上が望めるものであるので、特にゴム金属積層体をガスケット材料として使用する場合にはプライマー層を形成させることが望ましい。
【0055】
プライマー層としては、リン酸亜鉛被膜、リン酸鉄被膜、クロメート被膜、バナジウム、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガン、亜鉛、セリウム等の金属の化合物、特にこれら金属の酸化物等の無機系被膜、シラン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等の有機系被膜などを用いることができる。
【0056】
本発明において、金属板は、アルカリ脱脂処理等で脱脂した後、クロメート系防錆処理、もしくはノンクロメート系防錆処理によって防錆被膜を形成した金属板が好ましく用いられ、SPCC鋼板ではリン酸亜鉛、リン酸鉄被膜、あるいはそれと同様な被膜が形成されてもよい。
【0057】
金属板の厚さは、ガスケット材料用途には、厚さ約0.1〜1mm程度の金属板が好ましく用いられ、約0.2〜0.8mm程度がより好ましく用いられる。
【0058】
接着剤は、接着性樹脂、架橋剤、架橋促進剤及び未加硫の接着剤用ゴム組成物を一般的な手法で有機溶媒に溶解させて得られ、接着剤溶液を金属板上にコーティングすることによって接着剤層を形成する。
【0059】
接着性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂から選ばれる一種または二種以上の樹脂を組み合わせて用いることが好ましい。
【0060】
フェノール樹脂としては、クレゾールノボラック型、クレゾールレゾール型、アルキル変性型などの任意の熱硬化性フェノール樹脂が挙げられる。
【0061】
エポキシ樹脂としては、一般にクレゾールノボラック変性エポキシ樹脂が挙げられ、その硬化剤としてはビスフェノールノボラック型フェノール樹脂が、硬化触媒としてはイミダゾール化合物がそれぞれ好適に用いられる。
【0062】
キシレン樹脂は、フェノール変性型などの任意の変性キシレン樹脂が挙げられる。
【0063】
接着剤の架橋剤としては、ヘキサメチレンテトラミン等が好ましく用いられ、架橋促進剤としては、2−エチル−4−メチルイミダゾール等が好ましく用いられる。
【0064】
接着剤用ゴム組成物は、NBRやHNBRのゴム組成物が用いられ、ニトリル含量18〜48%のNBRまたはHNBR、カーボンブラック、無機充填剤、酸化亜鉛、硫黄もしくは有機過酸化物、架橋促進剤もしくは架橋助剤を含有できる。
【0065】
有機溶剤は、上記接着性樹脂と架橋剤、架橋促進剤、未加硫の接着剤用ゴム組成物を同時に溶解させるものであれば制限はない。例えば、トルエン等の芳香族炭化水素とメチルエチルケトンやメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、イソプロピルアルコール等のアルコール系有機溶剤や、これら二種以上の混合溶媒などが挙げられる。
【0066】
接着剤溶液は、有機溶媒によって固形分濃度が0.5〜20%となるように調製され、金属板上、好ましくはプライマー層を形成させた金属板上に塗布される。その後、室温下で風乾させ、さらに約100〜250℃で約5〜30分間程度の乾燥(架橋反応を行ってもよい)を行うことにより接着剤層が形成される。
【0067】
接着剤層は、一層の構成のみならず多層構成とすることもできる。例えば、プライマー層上には有機金属化合物を含むフェノール系の接着剤層を形成し、さらにその上には上記ニトリルゴム組成物を含むフェノール系接着剤層を設けて接着剤を多段塗布した上で、ゴム層を形成させたものが挙げられる。このような構成とすることにより、接着剤層の塗布工程は増加するものの、プライマー層およびゴム層の接着性をより強固なものとすることが可能となる。
【0068】
本発明のNBR組成物は、有機溶媒に溶解させてコーティング溶液とし、このコーティング溶液を金属板、好ましくは金属板上に形成された接着剤層上に塗布し、オーブン加硫してゴム層とする。
【0069】
本発明のNBR組成物は、混練を行わず、あるいは一部の原料のみをインタミックス、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機あるいはオープンロールなどを用いて混練した後、有機溶媒に溶解または分散させて、コーティング溶液として調製される。
【0070】
有機溶剤はNBR組成物を溶解させるものであれば制限はない。例えばトルエン等の芳香族炭化水素と、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒等との、二種以上の混合溶媒によってNBR組成物を溶解させ、固形分濃度が25〜50%のコーティング溶液とする。
【0071】
コーティング溶液は、乾燥後の厚みが20〜150μmになるようにコーティングする。
【0072】
コーティング方式としては、ロールコート、ダイコート、ナイフコートなどのほか、スクリーン印刷やディスペンサーやインクジェットによる部分塗布も可能である。コーティング液は、各コーティング方式にそれぞれ適した粘度に調製される。例えば、ロールコートでは粘度が2000〜5000mPa・sが好ましく、気温や液温に応じて固形分濃度が適宜調整される。
【0073】
NBR組成物の架橋は、150℃〜250℃、10秒〜10分の加熱空気による処理(オーブン架橋)により行うことができる。
【0074】
なお、必要により架橋後のゴム表面の粘着を防止するためにパラフィンワックスやグラファイト、ポリエチレン、PTFE、セルロース繊維などの固体離型剤を、バインダーを介してさらに積層してもよい。
【0075】
このようにして得られたゴム金属積層体(ガスケット素材)は、例えばパンチ等により所望の形状に加工され、ガスケットとして好適に用いられる。
【実施例】
【0076】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0077】
(実施例1)
・NBR組成物
NBR(JSR社製「N237」、ニトリル含量34%) 100重量部
MTカーボン(キャンカーブ社製品「サーマックスN990」) 150重量部
よう素吸着量18mg/gでDBP吸収量42cm/100gのカーボンブラック
(東海カーボン社製「シーストTA」) 40重量部
硫黄 2重量部
テトラベンジルチウラムジスルフィド
(大内新興化学社製「ノクセラーTBZTD」) 5重量部
N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
(大内新興化学社製「ノクセラーCZ」) 9重量部
シリカ(ホフマンミネラル社製「アクジルVM56」) 30重量部
酸化亜鉛 5重量部
ステアリン酸 2重量部
老化防止剤(大内新興化学社製「Nocrac224」) 5重量部
【0078】
以上の各配合成分を密閉式加圧ニーダーとオープンロールを用いて混練し、トルエン:メチルエチルケトン=9:1混合溶剤に溶解させて、固形分濃度が25重量%のコーティング溶液を調製した。
【0079】
・ゴム金属積層体
防錆被膜を形成した金属板(SPCC)に、接着剤層を形成した後、コーティング溶液を乾燥後の厚みが100μmになるようにコーティングした後、210℃で3分間加熱空気により架橋させ(オーブン架橋)、ゴム金属積層体(以下、ガスケット素材と称することがある)を得て、以下の評価を行った。
【0080】
1.耐はみ出し:ガスケット素材の高温・高圧下での耐フロー性
150℃に加熱したプレス内でガスケット素材にステンレス製凸形状治具で200MPaの面圧を与え、10分後の状態を以下の基準で評価した。
(評価基準)
◎:ゴムのフローが見られないもの
○:ゴムが若干フローしているものの、金属板の露出がなく、実用上問題ないもの
×:ゴムが完全にフローしてしまい、金属板が露出してしまっているもの
【0081】
2.耐摩耗:ガスケット素材の耐摩耗性
テーバー摩耗試験(JIS−K6264に準拠)を実施し、摩耗容積を測定し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
◎:0.2cc未満
○:0.2cc以上0.5cc未満
×:0.5cc以上
【0082】
3.表面粗さ:ガスケット素材の製品表面粗さ
接触式表面粗さ計(東京精密社製「サーフコム」)を用いて、ガスケット素材のゴム層表面における算術平均粗さRaと最大高さRyを測定し(JIS−B0601)以下の基準で評価した。
(評価基準)
◎:算術平均粗さRaが0.3μm未満で、且つ最大高さRyが2.2μm未満
○:算術平均粗さRaが0.3μm以上0.35μm未満で、且つ最大高さRyが2.2μm以上3.0μm未満
×:算術平均粗さRaが0.35μm以上で、且つ最大高さRyが3.0μm以上
【0083】
◎評価であれば、表面平滑性があると判断され、50〜200kPaといった低面圧環境においても相手面に密着し、シールすることが可能なのでガスケット素材として適し、×評価であれば、シール面に隙間ができてしまいシールできないのでガスケット素材として適さない。
【0084】
4.接着性:ガスケット素材の耐冷凍機油、フロンガス浸漬後の金属とゴム層との接着性
冷凍機に使用する冷凍機油(PAGオイル)50重量%と冷媒のフロンガス(R134a)50重量%との混合液に、得られたガスケット素材を浸漬し、150℃で150時間放置した。所定時間経過後、混合液から取り出して、該塗膜に対して描画試験を行った。描画試験の方法および評価はJIS−K6894の規定に準拠し以下の基準で評価した。
(評価基準)
◎:評価5(描画が鮮明である)
○:評価4
×:評価3以下(塗膜の剥離があり、描画が不鮮明になる)
【0085】
評価結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
(実施例2)
実施例1において、加硫促進剤「ノクセラーCZ」の配合量を5重量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてゴム金属積層体を得た。
【0088】
(実施例3)
実施例1において、加硫促進剤「ノクセラーCZ」の配合量を12重量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてゴム金属積層体を得た。
【0089】
(実施例4)
実施例1において、「シーストTA」の配合量を10重量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてゴム金属積層体を得た。
【0090】
(実施例5)
実施例1において、「シーストTA」の配合量を70重量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてゴム金属積層体を得た。
【0091】
(実施例6)
実施例1において、MTカーボンの配合量を210重量部とし、「シーストTA」の配合量を10重量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてゴム金属積層体を得た。
【0092】
(実施例7)
実施例1において、MTカーボンの配合量を90重量部とし、「シーストTA」の配合量を70重量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてゴム金属積層体を得た。
【0093】
(比較例1)
実施例1において、「シーストTA」を配合量しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてゴム金属積層体を得た。
【0094】
(比較例2)
実施例1において、「シーストTA」の配合量を100重量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてゴム金属積層体を得た。
【0095】
(比較例3)
実施例1において、MTカーボンの配合量を250重量部とし、「シーストTA」の配合量を10重量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてゴム金属積層体を得た。
【0096】
(比較例4)
実施例1において、MTカーボンの配合量を50重量部とし、「シーストTA」の配合量を70重量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてゴム金属積層体を得た。
【0097】
実施例2〜7、比較例1〜4は実施例1と同様に評価し、その評価結果は表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係るNBR組成物は、耐摩耗性などが要求されるオイルシール、ガスケット、Oリング材の架橋成形材料として好適に用いられ、本発明に係るゴム金属積層体は、カーエアコンなどのコンプレッサー用ガスケット、エンジンガスケットなどとして好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NBRポリマーと、架橋剤と、架橋促進剤と、カーボンブラックとを含むNBR組成物において、
前記カーボンブラックは、MTカーボンブラックと、よう素吸着量20mg/g以下かつDBP吸収量40cm/100g以上のカーボンブラックから選ばれる少なくとも1種との組み合わせからなり、
NBRポリマー100重量部に対して、総量で110〜250重量部配合され、
かつ、MTカーボンの配合量は、よう素吸着量20mg/g以下かつDBP吸収量40cm/100g以上のカーボンブラックより多く、
よう素吸着量が20mg/g以下かつDBP吸収量が40cm/100g以上のカーボンブラックの配合量はNBRポリマー100重量部に対して、10〜70重量部であることを特徴とするNBR組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラックを、NBRポリマー100重量部に対して、総量で160〜220重量部配合することを特徴とする請求項1記載のNBR組成物。
【請求項3】
前記架橋促進剤が、スルフェンアミド系架橋促進剤から選ばれる1種または2種以上、または、スルフェンアミド系架橋促進剤から選ばれる1種または2種以上と、チウラム系架橋促進剤、チアゾール系架橋促進剤、スルフェンアミド系架橋促進剤、テトラベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、1,6ビス(N,N−ジベンジルチオカルバモディチオ)ヘキサンから選ばれる1種または2種以上を併用することを特徴とする請求項1又は2に記載のNBR組成物。
【請求項4】
前記スルフェンアミド系加硫促進剤がN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、又は、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドであり、前記チウラム系架橋促進剤がテトラベンジルチウラムジスルフィド、又は、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィドであり、前記チアゾール系加硫促進剤が2−メルカプトンベンゾチアゾール、2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾール酸亜鉛、又は、2−メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩であることを特徴とする請求項3記載のNBR組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のNBR組成物をゴム層形成成分として用いて、金属板の片面又は両面に、ゴム層を形成させたゴム金属積層体。

【公開番号】特開2012−214542(P2012−214542A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78990(P2011−78990)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】