説明

OFDM信号受信におけるマルチパス歪み等化装置および受信装置

【課題】OFDM信号受信時に、遅延時間が有効シンボル長TuのL分の1(±Tsp)を越えた場合でもマルチパス歪みを等化する。
【解決手段】マルチパス歪み等化装置1は、マルチパス波から電力スペクトル法により遅延プロファイルを測定する遅延プロファイル測定手段30と、マルチパス波からSPを抽出し、SPの周波数における伝達関数を生成する第1伝達関数生成手段10と、「SPの周波数における伝達関数−1」を「遅延時間の回転子」でそれぞれ除して複素遅延波レベルを求める複素遅延波レベル生成手段21と、各複素遅延波レベルの周波数に対する偏差を算出し、その大小比較から真の遅延時間を特定する遅延時間決定手段22と、真の遅延時間とその複素遅延波レベルとを用いて各周波数における伝達関数を生成する伝達関数算出手段40と、マルチパス波をFFTした信号を各周波数における伝達関数で除した結果をIFFTする等化手段3とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直交周波数分割多重方式(OFDM方式:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)の電波を受信する場合にマルチパスによる歪みを補償するマルチパス歪み等化装置および受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、無線伝送路では、1つの送信アンテナから出た電波が建物や山などで反射した反射波と直接波とを受信する場合がある。このように伝搬経路が異なるため到来時間に差がある複数の同じ信号の電波をマルチパス波という。
【0003】
従来、国内の地上デジタルテレビジョン放送では、OFDM方式と呼ばれる変調方式を基本にしたISDB−T(Integrated Services of Digital Broadcasting Terrestrial)方式が採用されている。OFDM方式の電波を受信する場合、マルチパス波となる場合がある。OFDM方式の地上デジタルテレビジョン放送では、単一周波数網(SFN:Single Frequency Network)により、複数の送信所又は中継所から同一の周波数を用いて同一内容の信号を送信する。つまり、複数の送信アンテナから送信される電波は、その到来経路が異なるため到来時間に差があり、マルチパス波となる。
【0004】
受信したマルチパス波(受信波)のうち最もレベルが大きいものを主波(希望波)と呼び、マルチパス波の主波以外の到来波(希望波以外のその他の電波)を遅延波と呼ぶ。また、主波の到来時間を基準として、主波の到来時間と遅延波の到来時間との差を遅延時間と呼ぶことにする。なお、遅延時間には極性(遅れ、または、進み)があり、遅延時間の符号がプラスの場合は“遅れ”を示し、遅延時間の符号がマイナスの場合は“進み”を意味する。
【0005】
受信装置や等化器が復調したマルチパス波にマルチパス歪みが発生し、遅延波のレベルが所定値を越えると、復調した信号のビット誤り率(BER:Bit Error Ratio)の限度を越え、受信不能となる場合がある。
【0006】
このような事態を改善し、マルチパス波であっても受信を可能にするため、信号方式でガードインターバルを付加した方式が採用されている。この方式では、受信時には、信号の一部に挿入されているスキャッタードパイロット(SP:Scattered Pilot)を用いてマルチパス歪みを等化し、BERが増大することなく、正常な受信が可能となる。そのため、この方式では、遅延時間がガードインターバル以下の状態では問題ない。
【0007】
ここで、マルチパス歪みの等化を次のように数式で表す。なお、簡便のため、遅延波が1つの場合(1遅延波の場合)を想定する。まず、遅延波の伝搬路の伝達関数H(f)は式(1)で表される。
【0008】
【数1】

【0009】
ただし、式(1)において、Rは遅延波レベル/主波レベル(遅延波振幅/主波振幅)、tdはサンプリング間隔で基準化した遅延時間、αは主波と遅延波の高周波位相差、fは基本周波数で基準化した周波数(変数)、Nは解析対象とするデータ総数を示す。なお、解析対象とするデータ総数を含む時間を、解析における周期と呼ぶことにする。
【0010】
このうち、データ総数Nは、時間領域においては、サンプリング間隔で基準化した周期に相当する。具体的には、有効シンボル長Tuを解析における周期として、サンプリング間隔を△tとすると、Tu=N△tの関係がある。
また、このデータ総数Nは、周波数領域においては、基本周波数で基準化したサンプリング周波数に相当する。具体的には、基本周波数f0と、サンプリング周波数fsとを用いると、fs=Nf0の関係がある。
なお、式(1)は、遅延無し(td=0)の場合には、H(f)=1となる。つまり、右辺第1項が主波を表す項を示し、第2項が遅延を表す項を示している。
【0011】
マルチパス波の受信波は、式(l)に示す伝達関数H(f)を用いて式(2)で表される。
【数2】

【0012】
ここで、Cmは主波(Main Wave)、Crは受信波(Received Wave:主波と遅延波の和)を示す。マルチパス歪みの等化とは、受信波を等化し、主波を得ることである。そのため、式(2)を変形して得られる式(3)が、マルチパス歪みの等化を表すことになる。なお、ここでの受信波は周波数領域の信号に変換したキャリヤを示す。
【0013】
【数3】

【0014】
すなわち、遅延歪みであるマルチパス歪みの等化を行うためには、伝達関数をなんらかの手段で得る必要がある。伝達関数は、式(3)を変形した式(4)で表される。
【数4】

【0015】
式(4)において、右辺の分母を示す主波Cm(f)は、一般的には、周波数fの変化に対して明確に求めることはできないが、所定の間隔で挿入されているSPを利用すれば可能である。周波数方向の多数のキャリヤ(識別番号0,1,2,…)において、例えば0本目のキャリヤ、3本目のキャリヤ、6本目のキャリヤ…にSPが配置されているとすると、SPはL本(3本)に1本のキャリヤに配置されている。これをキャリヤL本間隔(キャリヤ3本間隔)ということにする。なお、国内で採用されている方式(モード3)では、L=3であるが、これに限らず、例えばL=6等を採用することも可能である。要するに、SPは、基本周波数で基準化した周波数f(変数)の変化に対して所定の間隔で挿入されていることになる。また、セグメント構成においてSPの配置を示すSPの値は規格で定められている。したがって、例えば、周波数f(変数)のうち、所定間隔で配置されたSPの周波数においては、前記した式(4)を用いて伝達関数をそれぞれ得ることができる。
【0016】
入力するマルチパス波は、受信中は無限に続くデータ列なので、この受信信号からSPを得るためには、まず、有限のデータを用いて離散値処理によるフーリエ変換での解析に供するデータの数を取得する(データを切り取る)。このとき、有効シンボルに同期させて切り出す。なお、切り取ったデータ数(例えばデータ総数N)とサンプリング間隔Δtとの積が示す時間が周期(例えばTu)となる。そして、例えば、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)等の変換により周波数領域の信号に変換し、シンボル(シンボル番号をsとする)ごとにキャリヤを復調する。ただし、このようにSPを抽出する場合の信号は、周波数fだけの1元の変数で表すのではなく、シンボル番号sと周波数fとの2元の変数で表す。この場合、前記した式(4)は式(5)のように書き換えられる。
【0017】
【数5】

【0018】
このようにSPのデータを用いた場合には、周波数領域におけるデータの間隔(周波数間隔)は、1ずつの間隔であったものがLずつの間隔へと広がることになる。したがって、データ総数をNとすると、周波数領域のデータ総数NSPはN/Lとなる。同様に、有効シンボル長をTuとすると、時間領域の信号の周期Tspは、Tu/Lとなる。
【0019】
サンプリング定理は、周波数領域で折り返しなく再現できる周波数がサンプリング周波数fsの1/2以内であることを示す。つまり、周波数がfs/2を越えたfs/2+δの周波数では、折り返しが生じ、−fs/2+δの周波数に再現される。このサンプリング定理を時間領域で言い表すと、再現できる時間は周期の1/2以内であると言える。
【0020】
時間領域の場合、遅延時間などの「事象の時間」の増加に対する“表される時間”の変化の仕方は、「事象の時間」がその周期Tの1/2(T/2)を越えると、“表される時間”は、−T/2に折り返し、「事象の時間」の増加分と等しい関係で増加するというものである。このように「事象の時間」がT/2を越えた場合の“表される時間”のことを折り返し時間という。なお、「事象の時間」が−T/2を越える場合も折り返し時間を同様に定義できる。
【0021】
前記した式(5)に示すSPの周波数における伝達関数H(s,f)は、前記した式(1)のように、R、td、αをそれぞれ含む。この式(5)の伝達関数H(s,f)に含まれるR、td、αは、この伝達関数を、例えば、IFFT(Inverse FFT)により逆フーリエ変換して求めることができる。このときの逆フーリエ変換の計算式は、式(6)で表される。
【0022】
【数6】

【0023】
ここで、h(t)は、マルチパス波における到来時間tに対する到来電波の強度のレベルを表すので、遅延プロファイルという。式(6)の遅延プロファイルh(t)において、t=0における積分値は、主波のレベルを示し、h(0)=Nであるインパルスとなる。また、t=tdにおける積分値は、遅延波のレベルを示し、h(td)=ReNであるインパルスとなる。これらの主波レベルおよび遅延波レベルの数式を両辺でそれぞれ割算すると、次の式(7)が成立する。式(7)の左辺は、主波のレベルを基準とした遅延波のレベルの相対値を複素数で表したものであり、複素遅延波レベルという。
【0024】
【数7】

【0025】
したがって、遅延プロファイルh(t)を測定すれば、前記した式(5)の伝達関数H(s,f)に含まれるR、td、αを求めることができる。
【0026】
遅延プロファイルを得る手段としては、伝達関数をIFFTする方法と、マルチパス波の電力スペクトルをIFFTする方法(電力スペクトル法:特許文献1および非特許文献1参照)とが知られている。伝達関数をIFFTする方法による遅延プロファイル測定においては、折り返しを伴わない“周期/2”が測定可能な遅延時間となる。一方、電力スペクトル法の長所は、SPなどの基準とする信号が不要であり、測定可能な遅延時間には、原理的な制約がないことである。具体的には、信号周期を長くし、折り返し時間を測定目標の時間より長くすることにより、測定可能な遅延時間を長くすることができる。この電力スペクトル法の短所は、電力スペクトルのIFFT出力には、遅延波を表すものとその共役複素数も現れる点である。すなわち、遅延波のインパルスは、“±遅延時間”に現れてしまう。
【0027】
遅延歪み(マルチパス歪み)の等化は、SPの周波数以外の周波数に配置されたキャリヤ(情報キャリヤ)について行う必要がある。一方、伝達関数H(s,f)は、SPの周波数における伝達関数であって、R、td、αを求めるためのものである。そのため、式(3)を用いて等化を行う前に、受信信号に所定の間隔で挿入されているSPとSPとの間のすべての周波数(ただし情報キャリヤの周波数)に対する伝達関数を生成し、これを等化に用いる必要がある。
【0028】
この等化に用いる伝達関数は次のように生成する。すなわち、遅延プロファイルh(t)の測定と、前記した式(7)とから得たR、td、αを、前記した式(1)に代入した上で、情報キャリヤの周波数を示すすべての周波数fについて右辺をそれぞれ計算する。その結果、伝達関数として総数N個のデータが生成される。これらの伝達関数を前記した式(3)に代入すると、マルチパス歪みがない主波Cm(f)を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特開2005−268831号公報
【非特許文献】
【0030】
【非特許文献1】来山和彦、外3名、“SFN環境下における長距離遅延プロファイル測定装置の開発"、映像情報メディア学会誌、2007年、vol.61、No.7、p.990-996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
しかしながら、キャリヤL本間隔のSPのデータを用いたときに、受信信号の時間領域の信号の周期を、有効シンボル長Tuより短い周期のTsp(=Tu/L)であるものとすると、「事象の時間」である遅延時間tdが、Tsp/2を越えた場合には、サンプリング定理により折り返し時間の問題が生じる。
【0032】
前記した式(6)において、遅延波のレベルを表すインパルスの時間は、「事象の時間」の増加に対する“表される時間”に相当する。Tsp/2を越えた場合には、式(6)において遅延波のレベルを表すインパルスの時間はtdとは異なる時間となる。この時間をterrとする。遅延時間tdがTsp/2を越えた場合にSPの周波数における伝達関数を生成すると、式(8)に示す伝達関数Herr(s,f)が生成される。
【0033】
【数8】

【0034】
また、遅延時間tdがTsp/2を越えた場合に、式(3)と同様な等化を表す式は式(9)で表されることになる。
【0035】
【数9】

【0036】
ここで、Cerr(s,f)は、Herr(s,f)に対応した主波のレベルを示し、C(s,f)は、H(s,f)に対応した主波のレベルを示す。式(9)において、右辺の分母で示すHerr(s,f)の遅延時間terrと、右辺の分子で示すH(s,f)の遅延時間tdとは異なる。そのため、式(9)の左辺Cerr(s,f)からは、主波のレベルC(s,f)を得ることができない。
【0037】
このように、理論的には、遅延時間tdがTsp/2を越えた場合に折り返し時間の問題が生じる。また、実際には、受信装置において、遅延時間tdが±Tsp(=±Tu/L)の範囲を越えると、検出する遅延波の到来時間を折り返し時間に誤るため、マルチパス歪みを等化することができなくなるという問題があった。例えば、デジタル地上テレビ放送ではSFN方式が採用されており、設置される中継放送所の増加に伴って、遅延時間が例えば±Tsp(=±Tu/L)の範囲を越えて遅延波が到来することで、良好な受信を妨害したり、受信不能となったりするケースも増大している。要するに、SPを利用するマルチパス歪みの等化では、SPの配置条件のため、検出できる遅延時間が有効シンボル長TuのL分の1(±Tsp)以下に限られている。つまり、OFDM信号受信においては、有効シンボル長TuのL分の1(±Tsp)以下の値を有した遅延時間までの受信波しか等化することができない。
【0038】
そこで、本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、OFDM信号受信において、遅延時間が有効シンボル長TuのL分の1(±Tsp)を越えた場合においてもマルチパス歪みを等化することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0039】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載のマルチパス歪み等化装置は、OFDM方式の電波として到来する主波と遅延波とを含む受信波を示すマルチパス波から等化対象とする周波数における伝達関数を生成する伝達関数生成手段と、入力するマルチパス波から所定の周期で切り出された時間領域のデータを前記周期毎にフーリエ変換により周波数領域の信号に変換し、変換された周波数領域の信号を前記伝達関数でそれぞれ除算した結果を逆フーリエ変換することで、主波の時間領域の信号を生成する等化手段とを備えたOFDM信号受信におけるマルチパス歪み等化装置であって、伝達関数生成手段が、第1伝達関数生成手段と、第2伝達関数生成手段とを備えることとした。
【0040】
かかる構成によれば、マルチパス歪み等化装置は、伝達関数生成手段において、第1伝達関数生成手段によって、入力するマルチパス波から抽出したスキャッタードパイロットのデータと、予め格納されたスキャッタードパイロットの規格値とから遅延波の伝搬路についてのスキャッタードパイロットの周波数における伝達関数を生成する。ここで、スキャッタードパイロットの値は規格で定められているので、マルチパス波のスキャッタードパイロットの値とスキャッタードパイロットの規格値との比からスキャッタードパイロットの周波数における伝達関数を得ることができる。
【0041】
そして、第2伝達関数生成手段は、遅延プロファイル測定手段を有している。遅延プロファイル測定手段は、入力するマルチパス波から所定の周期で切り出された時間領域のデータから前記周期毎に、電力スペクトル法により遅延プロファイルを測定し、遅延波のレベルと主波のレベルとの比と遅延時間とを求める。電力スペクトル法は、測定目標の遅延時間に合わせて信号周期を自由に長くすることができる手法である。そのため、電力スペクトル法では、スキャッタードパイロットの周波数における伝達関数で遅延時間を求めたときに測定可能な時間幅よりも長い時間幅を有した長い遅延時間を検出することができる。したがって、電力スペクトル法により検出した遅延時間には、折り返しによる誤差が生じることがない。ここで、電力スペクトル法では遅延波に2つの遅延時間が検出されるので真の遅延時間を特定する必要がある。
【0042】
そのために、第2伝達関数生成手段は、遅延プロファイルから主波と遅延波との高周波位相差を求め、スキャッタードパイロットの周波数における伝達関数を含む周波数および時間領域の関数に、遅延プロファイルの測定から求めた極性の異なる2つの遅延時間をそれぞれ代入したときに、前記周波数および時間領域の関数の周波数平均が理論的に0になる方と0にならない方のうち、0とならない方の遅延時間を真の遅延時間として特定する。そして、第2伝達関数生成手段は、特定した真の遅延時間と、遅延波のレベルと主波のレベルとの比と、高周波位相差とを用いて、遅延波の伝搬路についての等化対象とする周波数における伝達関数を生成する。この伝達関数は例えば前記した式(1)で表される。したがって、マルチパス歪み等化装置は、等化対象とする周波数における伝達関数として、真の遅延時間が有効シンボル長TuのL分の1(±Tsp)を越えた場合にも対応した伝達関数を生成することが可能となる。そして、マルチパス歪み等化装置は、等化手段によって、この伝達関数を用いてマルチパス波を等化する。その結果、マルチパス歪み等化装置は、遅延時間が有効シンボル長TuのL分の1(±Tsp)を越えた場合においてもマルチパス歪みを等化することができる。
【0043】
また、請求項2に記載のマルチパス歪み等化装置は、請求項1に記載のマルチパス歪み等化装置において、スキャッタードパイロットの周波数における伝達関数および等化対象とする周波数における伝達関数が、主波を表す項と、遅延波のレベルと主波のレベルとの比の成分と、主波と遅延波との高周波位相差成分と、遅延時間を示す時間成分との積により遅延波を表す項とを含み、第2伝達関数生成手段が、複素遅延波レベル生成手段と、遅延時間決定手段と、伝達関数算出手段と、を備えることとした。ここで、これらの伝達関数は例えば前記した式(1)で表される。
【0044】
かかる構成によれば、マルチパス歪み等化装置は、第2伝達関数生成手段の複素遅延波レベル生成手段によって、スキャッタードパイロットの周波数における伝達関数に含まれる遅延波を表す項を、遅延プロファイルを測定するときに検出される遅延時間毎に、当該遅延時間を示す時間成分で除算することで、遅延に起因したレベル低下を示す複素遅延波レベルを、周波数および時間領域の関数としてそれぞれ生成する。そして、マルチパス歪み等化装置は、遅延時間決定手段によって、生成された各複素遅延波レベルの等化対象とする周波数に対する平均を少なくとも含む統計量をそれぞれ算出し、算出した複素遅延波レベルの周波数平均が理論的に0にならない方の複素遅延波レベルを生成した遅延時間を真の遅延時間として特定する。
【0045】
ここで、複素遅延波レベルの定義から、理論的には、真の遅延時間においては複素遅延波レベルの平均値は0とならず、折り返しによる誤りが生じてしまうような遅延時間においては複素遅延波レベルの平均値は0となる。また、算出する統計量としては、遅延プロファイルの測定から理論的に2つ求まる遅延時間から真の遅延時間を1つだけ特定することができるのであれば、複素遅延波レベルの平均に加えて、その平均を用いた分散等の統計量であってもよい。そして、マルチパス歪み等化装置は、伝達関数算出手段によって、特定した真の遅延時間と、この真の遅延時間を生成した複素遅延波レベルとを用いて、遅延波の伝搬路についての等化対象とする周波数における伝達関数を算出する。ここで、この伝達関数は例えば前記した式(1)で表される。
【0046】
また、請求項3に記載のマルチパス歪み等化装置は、請求項2に記載のマルチパス歪み等化装置において、遅延時間決定手段が、平均算出手段と、偏差算出手段と、比較手段と、を備えることとした。
【0047】
かかる構成によれば、マルチパス歪み等化装置は、遅延時間決定手段の平均算出手段によって、等化対象とする周波数の変化に対する複素遅延波レベルの平均を、複素遅延波レベル毎に算出する。そして、マルチパス歪み等化装置は、偏差算出手段によって、平均算出手段でそれぞれ算出された複素遅延波レベルの平均を用いて、当該複素遅延波レベルを生成した遅延時間に応じた偏差をそれぞれ算出する。そして、マルチパス歪み等化装置は、比較手段によって、偏差算出手段でそれぞれ求められた2つの偏差の大小を比較し、偏差が小さい方の複素遅延波レベルを生成した遅延時間を真の遅延時間であるものとして特定する。
【0048】
また、請求項4に記載のマルチパス歪み等化装置は、請求項1に記載のマルチパス歪み等化装置において、スキャッタードパイロットの周波数における伝達関数および等化対象とする周波数における伝達関数が、主波を表す項と、当該主波に対して遅れまたは進みを有した複数の遅延波毎に遅延波のレベルと主波のレベルとの比の成分と、主波および遅延波の高周波位相差成分と、遅延時間を示す時間成分との積によりそれぞれの遅延波を表す項とを含み、第2伝達関数生成手段が、初期位相差算出手段と、遅延時間極性判定手段と、伝達関数算出手段と、を備えることとした。
【0049】
かかる構成によれば、マルチパス歪み等化装置は、第2伝達関数生成手段の初期位相差算出手段によって、スキャッタードパイロットの周波数における伝達関数から主波を表す項を差し引いてから、遅延波について検出された遅延時間の絶対値を示す時間成分で除算して各スキャッタードパイロットの周波数毎に目的関数を周波数および時間領域の関数として生成し、目的関数を各スキャッタードパイロットの周波数について加算した総和を周波数平均として求め、この求めた総和から、当該遅延波の高周波位相差として、主波のキャリヤ中心周波数の位相を基準とした当該遅延波の位相を示す初期位相差を算出する。そして、マルチパス歪み等化装置は、遅延時間極性判定手段によって、目的関数の総和の値が0であるかを判別し、当該値が0とならない場合に、遅延時間の極性が真の極性であると判定し、当該値が0となる場合に真の極性ではないと判定する。そして、マルチパス歪み等化装置は、伝達関数算出手段によって、遅延プロファイルを測定するときに検出される遅延波のレベルと主波のレベルとの比の成分および当該遅延波の遅延時間の絶対値と、当該遅延波について算出された初期位相差および遅延時間極性判定手段の判定結果と、を用いて、遅延波の伝搬路についての等化対象とする周波数における伝達関数を算出する。
【0050】
また、前記目的を達成するために、本発明の請求項5に記載の受信装置は、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のマルチパス歪み等化装置を複数備えた受信装置であって、前記各マルチパス歪み等化装置に入力するマルチパス波から時間領域のデータを切り出す周期は有効シンボル長の3以上の整数倍であり、各マルチパス歪み等化装置毎に切り出すタイミングが異なり、前記受信装置が、受信可能信号抽出手段と、受信可能信号合成手段とを備えることとした。
【0051】
かかる構成によれば、受信装置は、受信可能信号抽出手段によって、各マルチパス歪み等化装置の等化手段で生成された主波の時間領域の信号を前記周期毎に取得し、有効シンボル長の整数倍の周期の主波の信号のうち、予め定められた受信可能信号レベルを満たさない周期の初めの部分と終わりの部分を除いて中間に位置する受信可能信号レベルを満たす所定数の有効シンボル長部分を、マルチパス歪み等化装置毎に抽出する。そして、受信装置は、受信可能信号合成手段を備えているので、受信可能信号抽出手段によってマルチパス歪み等化装置毎に抽出された主波の信号の所定数の有効シンボル長部分を連続させて前記周期の主波の信号を復元することができる。一般に、マルチパス波において、遅延時間が比較的長く、かつ遅延波レベルが主波レベルに近い場合には、周波数領域の信号を時間領域信号に戻したときシンボル間干渉により最初と最後の方のシンボルについてはCNR(Carrier to Noise Ratio)が劣化することがある。しかしながら、この受信装置において、マルチパス歪み等化装置に入力するマルチパス波は、有効シンボル長の整数倍の周期で切り取られており、かつ、各マルチパス歪み等化装置が等化した信号のうち、受信可能信号レベルを満たす有効シンボル長部分を合成するので、この合成した信号からは、低CNR信号が除去される。
【発明の効果】
【0052】
請求項1に係るマルチパス歪み等化装置によれば、スキャッタードパイロットの周波数における伝達関数で測定可能な時間幅よりも長い遅延時間を電力スペクトル法で検出し、この長い遅延時間とスキャッタードパイロットの周波数における伝達関数とを用いて極性を決定した遅延時間に対応した伝達関数を用いてマルチパス波を等化する。したがって、OFDM信号受信において、遅延時間が有効シンボル長TuのL分の1(±Tsp)を越えた場合においてもマルチパス歪みを等化することができる。
【0053】
請求項2に係るマルチパス歪み等化装置によれば、スキャッタードパイロットの周波数における伝達関数と遅延プロファイルを測定するときに検出される遅延時間とを用いて複素遅延波レベルを求め、この複素遅延波レベルを統計的に処理することで真の遅延時間を決定した上で伝達関数を推定し、等化を行うことができる。
【0054】
請求項3に係るマルチパス歪み等化装置によれば、遅延プロファイルを測定するときに検出される2つの遅延時間から真の遅延時間を決定する際に、複素遅延波レベルの平均に加えてその平均から求めた偏差を用いるので、マルチパス波に雑音が含まれていても真の遅延時間を正しく求めることができる。
【0055】
請求項4に係るマルチパス歪み等化装置によれば、電力スペクトル法により主波レベルと遅延波レベルとの比および遅延時間を求め、スキャッタードパイロットを用いた遅延プロファイル測定法により遅延時間の極性と高周波位相差とを求め、これらを用いて伝達関数を推定することにより等化を行うことができる。
【0056】
請求項5に係る受信装置によれば、受信したOFDM信号の遅延時間が有効シンボル長TuのL分の1(±Tsp)を越えた場合においてもマルチパス歪みを等化しつつ、そのCNRを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1実施形態に係るマルチパス歪み等化装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る受信装置の構成を示すブロック図である。
【図3】有効シンボル長を模式的に示す図である。
【図4】1セグメント当たりのSPの配置を模式的に示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るマルチパス歪み等化装置の構成を示すブロック図である。
【図6】13セグメント当たりのSPの配置を模式的に示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る受信装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図8】本発明に係るマルチパス歪み等化装置で検出した初期位相差を示すグラフであって、(a)は遅延時間が20μsの場合、(b)は遅延時間が300μsの場合についてそれぞれ示している。
【図9】本発明に係るマルチパス歪み等化装置を用いて20μsの遅延時間の1遅延波の条件で測定したコンスタレーションを示すグラフであって、(a)は等化前、(b)は等化後をそれぞれ示している。
【図10】本発明に係るマルチパス歪み等化装置を用いて600μsの遅延時間の1遅延波の条件で測定したコンスタレーションを示すグラフであって、(a)は等化前、(b)は等化後をそれぞれ示している。
【図11】本発明に係るマルチパス歪み等化装置を用いて2遅延波の条件で測定したコンスタレーションを示すグラフであって、(a)は等化前、(b)は等化後をそれぞれ示している。
【図12】本発明に係るマルチパス歪み等化装置を用いて遅れの遅延時間の条件で測定した等化後のCNRを示すグラフである。
【図13】本発明に係るマルチパス歪み等化装置を用いて進みの遅延時間の条件で測定した等化後のCNRを示すグラフである。
【図14】本発明のマルチパス歪み等化装置を2台用いて受信可能な信号出力を得る方法を概念的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
図面を参照して本発明のマルチパス歪み等化装置および受信装置を実施するための形態について詳細に説明する。以下では、第1実施形態に係るマルチパス歪み等化装置、受信装置、第2実施形態に係るマルチパス歪み等化装置について順次説明する。なお、背景技術や発明の概要で説明した数式(式(1)〜式(9))を適宜援用して説明することとする。
【0059】
(第1実施形態)
[マルチパス歪み等化装置の構成]
マルチパス歪み等化装置1は、OFDM信号受信におけるマルチパスによる歪みを補償するものであり、図1に示すように、大別して、伝達関数生成手段2と、等化手段3とを備えている。図1に示したマルチパス歪み等化装置1は、図2に示す受信装置100の構成部分のみを示したものであり、図1では省略した受信アンテナ等の受信部を含んでもよい。なお、受信装置100については後記する。
【0060】
伝達関数生成手段2は、等化手段3によってマルチパス波を等化するために用いる伝達関数を生成するものであり、大別して、第1伝達関数生成手段10と、第2伝達関数生成手段20とを備えている。
【0061】
<第1伝達関数生成手段>
第1伝達関数生成手段10は、等化手段3で用いる伝達関数を生成するために、スキャッタードパイロット(SP)の周波数における伝達関数を生成するものである。この第1伝達関数生成手段10は、入力するマルチパス波Vr(t)から抽出したSPのデータから遅延波の伝搬路についてのSPの周波数における伝達関数を生成する。本実施形態では、第1伝達関数生成手段10は、図1に示すように、切り取り部11と、FFT12と、SP抽出部13と、SP規格値格納部14と、除算部15と、伝達関数格納部16とを備えている。
【0062】
切り取り部11は、入力するマルチパス波Vr(t)を、有効シンボルに同期させ切り取って、FFT12に出力するものである。ここで入力するマルチパス波Vr(t)は、時間領域の同期検波波形の同相成分と直交成分のA/D変換後のデータ列であり、例えば、図2に示す受信装置100の同期検波部120で生成されるものである。このマルチパス波Vr(t)は、等化手段3および第2伝達関数生成手段20の遅延プロファイル測定手段30にも同様に入力する。
【0063】
切り取り部11は、図3に示すような有効シンボルとガードインターバルとが交互に現れる信号から、有効シンボル分だけ切り取り、FFT12に出力する。切り取り時間は、例えば、約1[ms]である。なお、図3では、有効シンボル(シンボル番号0、1)の有効シンボル長Tuと、ガードインターバル(図3のハッチング部分)の長さTgとの比は、8対1とした(1シンボル長は有効シンボル長の9/8倍の長さ)。同様に、等化手段3および遅延プロファイル測定手段30も、入力するマルチパス波Vr(t)を切り取る切り取り部(図示を省略する)を備えているが、切り取り周期は異なって長くなっている。その詳細については後記する。
【0064】
FFT12は、切り取り部11で切り取ったマルチパス波の時間領域のデータを高速フーリエ変換し、SP抽出部13に出力する。すると、復調したキャリヤCr(s,f)が得られる(式(2)参照)。復調したキャリヤCr(s,f)には、情報キャリヤとSPが含まれる。SPは、周波数fの変化に対して所定の間隔(キャリヤL本に1本)で配置されている。
SP抽出部13は、FFT12により得られる全体のキャリヤ(SPシンボルとデータシンボル)の中からSP(SPシンボル)だけを抽出し、除算部15に出力する。この抽出したSPをマルチパス波のデータとして用いる。
【0065】
SP規格値格納部14は、SP規格値を格納するものであり、例えば一般的なメモリ等から構成される。具体例として、モード3における1セグメント当たりのSPの配置を図4に示す。図4において、空白のマス目のシンボルはデータシンボル、マス目に「SP」と記載したシンボルは、パイロットシンボル(SPシンボル)を示している。図4に示すように、列で示される縦長の帯状のキャリヤが横方向に並んでいる。並んだ3本に1本のキャリヤにはSPが含まれており、残りの3本に2本のキャリヤにはSPが含まれていない。また、SPが含まれているキャリヤにおいては、4シンボルに1つのSPが含まれている。このため、3本に1本のキャリヤにより4シンボル期間に1回の割合でSPが伝送される。また、別の観点からは、行で示される各シンボル期間において、12本に1本のキャリヤによってSPが伝送される。ISDB−T方式では、キャリヤのセグメント数は13、1フレームは204シンボルで構成されている。モード3の場合、キャリヤ総数は5617、有効シンボル長が1008[μs]、1セグメント当たりのキャリヤ数は432となる。この432のうち、SPと、制御信号であるTMCC(Transmission and Multiplexing Configuration and Control)およびAC(Auxiliary Channel)とを除いた384が情報キャリヤである。
【0066】
除算部15は、前記した式(5)に示した除算を行い、除算結果を伝達関数格納部16に格納するものである。具体的には、式(5)の演算において、右辺分子には、SP抽出部13で抽出したSPについての復調したキャリヤCr(s,f)を用いる。また、この式(5)の演算において、右辺分母には、SP規格値格納部14に格納されているSPの規格値を用いる。除算部15による除算結果が、式(5)の左辺である伝達関数H(s,f)となる。伝達関数H(s,f)の周波数間隔(データ間隔)は、SPと同じくキャリヤ間隔のL倍である(図4において横方向に相当する)。そのため、ここでの伝達関数H(s,f)の周期は、有効シンボル長TuのL分の1(Tsp=Tu/L)となる(図4において縦方向に相当する)。
伝達関数格納部16は、除算部15の除算結果である伝達関数H(s,f)を格納するものであり、例えば一般的なメモリ等から構成される。
【0067】
<第2伝達関数生成手段>
第2伝達関数生成手段20は、第1伝達関数生成手段10で生成されるSPの周波数における伝達関数を利用して、等化手段3で用いる伝達関数を生成するものである。この第2伝達関数生成手段20は、遅延プロファイルから、主波と遅延波との高周波位相差(α)を求め、SPの周波数における伝達関数(H(s,f))を含む周波数および時間の関数に、遅延プロファイルの測定から求めた極性の異なる2つの遅延時間をそれぞれ代入したときに、これら周波数および時間領域の関数の周波数平均が0とならない方の遅延時間を真の遅延時間として特定し、特定した真の遅延時間と、遅延波のレベルと主波のレベルとの比(R)と、高周波位相差(α)とを用いて伝達関数を生成する。
【0068】
第1実施形態では、第2伝達関数生成手段20は、図1に示すように、複素遅延波レベル生成手段21と、遅延時間決定手段22と、遅延プロファイル測定手段30と、伝達関数算出手段40とを備えている。ここでは、説明の都合上、遅延プロファイル測定手段30、複素遅延波レベル生成手段21および遅延時間決定手段22の概要を説明してから、複素遅延波レベル生成手段21、遅延時間決定手段22および伝達関数算出手段40の詳細について数式を用いて説明する。
【0069】
<遅延プロファイル測定手段>
遅延プロファイル測定手段30は、入力するマルチパス波Vr(t)から電力スペクトル法により遅延プロファイルを測定し、遅延波のレベルと主波のレベルとの比(R)と遅延時間とを求めるものである。この遅延プロファイル測定手段30は、例えば、特許文献1に記載された地上デジタルSFN波測定装置の処理手段により構成することができる。この電力スペクトル法によると、遅延波を表すインパルスには、共役複素数のものも現れるので、遅延時間として、極性(遅れ、または、進み)の異なる正負の遅延時間が検出される。なお、正の遅延時間は“遅れ”を示し、負の遅延時間は“進み”を意味する。
【0070】
遅延プロファイル測定手段30は、図示を省略するが、切り取り部11と同様な切り取り部が設けられている。ただし、この図示しない切り取り部は、入力するマルチパス波Vr(t)の切り出しの長さ(所定の周期)を、1有効シンボル長の整数倍の長さとする長周期の切り取り部である。つまり、図3に示すように、有効シンボルとガードインターバルとが交互に現れる信号を切り出す。遅延プロファイル測定手段30は、このように図示しない長周期の切り取り部で切り出した周期を一括して、該当データにFFTなどのフーリエ変換処理を行い、遅延プロファイルを測定する。
【0071】
なお、Tsp/2を越えた遅延時間の場合、SPの周波数における伝達関数H(s,f)をIFFTする方法で得られる遅延プロファイルから検出される遅延時間は、折り返した時間となる。そのため、従来の方法ですべての周波数に対応した伝達関数を生成した場合に、前記した式(8)に示したように、折り返しによる誤りが生じてしまうような遅延時間を用いたものとなるので、マルチパス歪みを等化することができない。
【0072】
<複素遅延波レベル生成手段および遅延時間決定手段の概要>
複素遅延波レベル生成手段21は、SPの周波数における伝達関数H(s,f)に含まれる遅延波を表す項を、遅延プロファイルを測定するときに検出される遅延時間毎に、当該遅延時間を示す時間成分で除算することで、遅延に起因したレベル低下を示す複素遅延波レベルを周波数および時間領域の関数としてそれぞれ生成するものである。
【0073】
遅延時間決定手段22は、複素遅延波レベル生成手段21で生成された2つの複素遅延波レベルの等化対象とする周波数に対する平均を含む統計量をそれぞれ算出する。複素遅延波レベルを用いて周波数平均を求めると、一方は理論的に0となり、他方は理論的に0とならない。そして、遅延時間決定手段22は、理論的に0にならない方(他方の)の複素遅延波レベルを選択し、この選択した(他方の)複素遅延波レベルを生成した遅延時間を真の遅延時間として特定するものである。
【0074】
本実施形態では、複素遅延波レベル生成手段21は、後記する式(11)により、複素遅延波レベルを求めることとした。また、本実施形態では、遅延時間決定手段22は、各複素遅延波レベルの周波数に対する平均から算出した偏差をそれぞれ求め、偏差が小さい方の複素遅延波レベルを生成した遅延時間を真の遅延時間として決定することとした。
【0075】
<複素遅延波レベル生成手段の詳細>
ここでは、まず、数式を用いて、複索遅延波レベルを生成する原理について説明する。
複素遅延波レベルとは、Reのことである。前記した式(1)において、遅延を表す第2項を左辺に移動して時間成分(遅延時間の回転子)で除算すると、式(10)のように、複素遅延波レベルReが得られる。
【0076】
【数10】

【0077】
したがって、式(10)の右辺が示すように、「伝達関数−1」を、遅延時間tdの回転子で除算すれば、複素遅延波レベルを生成することができる。しかし、複素遅延波レベル生成手段21による処理の段階では、真の遅延時間tdは不明であり、かつ、遅延プロファイル測定手段30で検出された極性を有した2つの遅延時間がその候補となっている。そこで、式(10)を援用して、以下の方法で、2つの遅延時間に対応した2つの複素遅延波レベルを生成する。
【0078】
まず、式(10)の右辺の分子に示す伝達関数に対して、H(s,f)を用いる。
また、回転子の時間については、遅延時間に対応させつつ、任意の値をとるものとして、tと表記する。また、遅延プロファイル測定手段30で検出された極性を有した2つの遅延時間をt1,t2と表記して区別する。さらに、式(10)の除算により、複素遅延波レベルとして得られる複素数を、式(11)の左辺に示すように、回転子の時間tおよび周波数fの2元の関数形で表すことにする。
【0079】
【数11】

【0080】
この式(11)に示す複素数を2つの遅延時間t1,t2に対応させると、R(t1,f)とR(t2,f)とが得られる。ここで、真の遅延時間をtdとし、t1=tdと仮定すれば、t2=−tdとなる。また、式(11)の右辺の分子は
【数12】

となる。したがって、2つの複素遅延波レベルR(t1,f)、R(t2,f)は、それぞれ式(12)、式(13)のように表せる。
【0081】
【数13】

【0082】
式(12)は、真の遅延時間を回転子に与えた場合を示している。この場合には、周波数fの変化に関わらず、R(t1,f)は、定数となる。一方、式(13)は、回転子に、折り返しによる誤りが生じてしまうような時間を与えた場合を示している。この場合には、R(t2,f)は、周波数fの変化により回転するベクトルとなる。
【0083】
前記の方法で2つの複素遅延波レベルを生成するために、複素遅延波レベル生成手段21は、図1に示すように、減算値格納部23と、回転子格納部24と、除算部25とを備えている。
【0084】
減算値格納部23は、第1伝達関数生成手段10で生成されたSPの周波数における伝達関数H(s,f)から「1」を減算した減算値を格納するものであり、例えば一般的なメモリ等から構成される。なお、「H(s,f)−1」は、前記した式(11)の右辺の分子を示す。
【0085】
回転子格納部24は、信号の周波数fを変化させる回転子e-j2πft/Nを格納するものであり、例えば一般的なメモリ等から構成される。ここで、回転子格納部24は、遅延プロファイル測定手段30で検出された極性を有した2つの遅延時間t1,t2を格納する。
【0086】
除算部25は、減算値格納部23に格納された減算値を、回転子格納部24に格納された2つの回転子でそれぞれ同様に除算するものである。つまり、除算部25は、前記した式(12)、式(13)の演算を行う。得られた商および2つの複素遅延波レベルR(t1,f)、R(t2,f)は、遅延時間決定手段22に送られる。
【0087】
<遅延時間決定手段の詳細>
遅延時間決定手段22は、複素遅延波レベルの周波数の平均から算出した偏差の大小比較により遅延時間を決定するために、図1に示すように、平均算出部26と、偏差算出部27と、比較部28とを備えている。
【0088】
ここで、複素遅延波レベルR(t1,f)、R(t2,f)は、遅延時間に応じて異なるので、遅延時間(t1またはt2)を表す一般化した遅延時間をtiで表記することとする(i=1,2)。遅延時間決定手段22は、前記した式(12)および式(13)を利用して、t1とt2のどちらが真の遅延時間であるかを特定する。
【0089】
平均算出部26は、周波数の変化に対する複素遅延波レベルの平均を算出するものである。本実施形態では、平均算出部26は、周波数fの変化に対する複素遅延波レベルの平均Aiを式(14)により、遅延時間ti毎にそれぞれ求める。
【0090】
【数14】

【0091】
ここで、nはデータ番号、LはSPのキャリヤ間隔、f0はキャリヤ幅を示す。すなわち、周波数fとの間に、f=nLf0の関係がある。なお、データ総数をNとすると、周波数領域のデータ総数NSPはN/Lとなる。
【0092】
周波数f=nLf0の変化に対するR(t1,f)の平均は、前記した式(12)に示すようにReであり、R(t2,f)の平均は、前記した式(13)に示すように0となる。したがって、この違いから真の遅延時間を特定することも可能である。ただし、実際には雑音があるため、明確な判定が難しい場合もある。そこで、本実施形態では、この平均から偏差を求めることとした。
【0093】
偏差算出部27は、平均算出部26で算出されたそれぞれの平均Aiを用いて、遅延時間tiに応じた偏差Diを式(15)によりそれぞれ求めるものである。なお、標準偏差の代わりに平均偏差を用いることもできる。
【0094】
【数15】

【0095】
比較部28は、遅延時間tiについて式(15)からそれぞれ求められる2つの偏差(D1,D2とする)の大小を比較し、偏差が小さい方の複素遅延波レベルを生成した遅延時間を真の遅延時間tdであるものとして特定する。一方、偏差が大きい方の複素遅延波レベルを生成した遅延時間は、折り返しによる誤りが生じてしまうような時間であることになる。この誤りが生じてしまうような時間側の偏差は、雑音よりはるかに大きい。したがって、本実施形態によれば、雑音がある場合でも、2つの偏差の差異は明確であり、大小の比較判定は容易であり、判定を誤ることはない。
【0096】
また、遅延時間決定手段22は、偏差が小さい方の複素遅延波レベルを、複素遅延波レベルと決定する。この遅延時間決定手段22で決定した真の遅延時間tdと、複素遅延波レベルとは伝達関数算出手段40に出力される。
【0097】
<伝達関数算出手段>
伝達関数算出手段40は、遅延時間決定手段22により特定した真の遅延時間と、この真の遅延時間を生成した複素遅延波レベルとを用いて、遅延波の伝搬路についての各周波数における伝達関数H(f)を算出するものである。本実施形態では、伝達関数算出手段40は、偏差が小さい方の複素遅延波レベルReと、その複素遅延波レベルを生成した遅延時間(真の遅延時間td)とを用いて伝達関数を前記した式(1)右辺の演算により生成することとした。周波数fごとに生成された伝達関数H(f)は、等化手段3に出力される。
【0098】
<等化手段>
等化手段3は、入力するマルチパス波Vr(t)を周波数領域の信号に変換し、変換された周波数領域の信号Cr(f)を、伝達関数算出手段40で生成された伝達関数H(f)でそれぞれ除した結果を逆フーリエ変換し、マルチパス波の主波の時間領域の信号Cm(f)を生成するものである。本実施形態では、等化手段3は、入力するマルチパス波Vr(t)を、所定の周期Tcutで切り出し、切り出した時間領域の信号を周波数領域の信号に変換するためにFFTを行い、その逆フーリエ変換をIFFTにより行うこととした。
【0099】
等化手段3は、図1に示すように、FFT51と、除算部52と、IFFT53とを備える。なお、図示を省略するが、FFT51の前段には、切り取り部11と同様な切り取り部が設けられている。ただし、この図示しない切り取り部は、入力するマルチパス波Vr(t)の切り出しの長さ(所定の周期)を、1有効シンボル長の整数倍の長さとする長周期の切り取り部である。つまり、図3に示すように、有効シンボルとガードインターバルとが交互に現れる信号を切り出す。等化手段3は、このように図示しない長周期の切り取り部で切り出した周期を一括して、該当データにFFTなどの処理を行い、マルチパス歪みの等化を行う。
【0100】
この場合の切り出し周期を、1有効シンボル長のp倍とすると、基本周波数がf0のときに、スペクトルの周波数間隔はf0/pとなる。ここで、整数pの値は、前後を除去して中間を残す意味から、少なくとも3以上の任意の整数である。例えばモード3の信号の場合、有効シンボル長は、1008[μs]であり、p=32として約32[ms]の切り出し長さとすると、高CNRの信号を得ることが期待できる。
【0101】
このようにシンボルを多数連結することが好ましい理由は、次の通りである。遅延時間が1[ms]程度のように比較的長く、かつ、遅延波のレベルが主波のレベルに近い場合には、周波数領域の信号を時間領域信号に戻したときに、シンボル間干渉により最初と最後の方のシンボルについてはCNRが劣化する場合がある。しかしながら、有効シンボル長の32倍とすれば、残りのシンボルでは良好な信号を得ることができるため、本方式を複数用いれば連続した高CNRの信号を得る方法が可能となるからである。なお、遅延波のレベル/主波のレベルの比の誤差を無視するためには16倍以上であることが好ましい。以下では、等化手段3における切り出し長さをTcut(=p×Tu)と表記する。なお、遅延プロファイル測定手段30も、入力するマルチパス波Vr(t)を、等化手段3と同様な周期で切り取る図示しない切り取り部を備えている。
【0102】
FFT51は、周期Tcutで切り出したマルチパス波をFFTしてスペクトルに変換し、前記した式(3)における分子を示す受信波Cr(f)を出力する。
【0103】
除算部52は、前記した式(3)の演算を行う。具体的には、除算部52は、式(3)の右辺分子には、FFT51から出力されるCr(f)を用い、式(3)の右辺分母には、伝達関数算出手段40で生成された伝達関数H(f)を用いる。これにより、除算の商として、マルチパス歪みを等化した主波と等価なスペクトルCm(f)が得られる。
【0104】
IFFT53は、除算の商であるスペクトルCm(f)をIFFTして、入力と同じ周期(周期Tcut)の時間領域信号に戻し、マルチパス歪み等化信号Veq(t)を出力する。
【0105】
なお、前記した第1伝達関数生成手段10、第2伝達関数生成手段20および等化手段3は、例えば半導体メモリや電気回路によって構成することができ、また、プログラムを処理することによって実現することもできる。
【0106】
[マルチパス歪み等化装置の動作]
次に、マルチパス歪み等化装置の動作の流れについて図1を参照して説明する。
マルチパス歪み等化装置1は、第1伝達関数生成手段10において、切り取り部11によって、時間領域の同期検波波形の同相成分と直交成分のA/D変換後のデータ列として入力するマルチパス波Vr(t)を有効シンボルに同期させて切り取る(短周期)。FFT12は、切り取ったデータを高速フーリエ変換し、復調したキャリヤCr(s,f))を出力し、SP抽出部13は、全体のキャリヤの中からSPだけを抽出する。除算部15は、前記した式(5)に基づいて、SP抽出部13で抽出されたSPのCr(s,f)をSP規格値で除算することで伝達関数H(s,f)を得る。
【0107】
一方、マルチパス歪み等化装置1は、第2伝達関数生成手段20の遅延プロファイル測定手段30によって、入力するマルチパス波Vr(t)から有効シンボル長の整数倍の周期(長周期)で切り取ったデータを用いて電力スペクトル法により遅延プロファイルを測定し、極性を有した2つの遅延時間t1,t2をそれぞれ検出する。なお、遅延波ごとに、2つの遅延時間t1,t2をそれぞれ検出する。
【0108】
そして、マルチパス歪み等化装置1は、複素遅延波レベル生成手段21によって、2つの遅延時間t1,t2に対応した複素遅延波レベルR(t1,f)、R(t2,f)をそれぞれ求める。ここで、複素遅延波レベル生成手段21は、前記した式(12)、式(13)に基づいて、除算部25によって、減算値格納部23に格納された減算値を、回転子格納部24に格納された2つの回転子でそれぞれ同様に除算する。
【0109】
続いて、マルチパス歪み等化装置1は、遅延時間決定手段22によって、複素遅延波レベルR(t1,f)、R(t2,f)から、2つの遅延時間t1,t2のうちのいずれかを真の遅延時間tdとして特定する。ここで、遅延時間決定手段22は、平均算出部26によって、前記した式(14)に基づいて、周波数の変化に対する複素遅延波レベルの平均Aiを算出する。そして、偏差算出部27によって、前記した式(15)に基づいて、それぞれの平均Aiを用いて、遅延時間tiに応じた偏差Diを求める。さらに、比較部28によって、偏差が小さい方の複素遅延波レベルを生成した遅延時間を真の遅延時間tdと特定する。
【0110】
次いで、マルチパス歪み等化装置1は、伝達関数算出手段40によって、偏差が小さい方の複素遅延波レベルReと、真の遅延時間tdとを用いて、前記した式(1)右辺を周波数fごとに演算することにより伝達関数H(f)を生成し、等化手段3に出力する。
【0111】
そして、マルチパス歪み等化装置1は、等化手段3において、マルチパス波Vr(t)から有効シンボル長の整数倍の周期(長周期)で切り取ったデータを用いてFFT51によって得られる受信波Cr(f)と、伝達関数算出手段40で生成された伝達関数H(f)とを用いて、除算部52によって、前記した式(3)の演算を行い、IFFT53によって、逆フーリエ変換する。以上の動作の結果、マルチパス歪み等化装置1は、マルチパス波Vr(t)からマルチパス歪みを等化する。
【0112】
[受信装置]
図2に示す受信装置100は、例えば、地上デジタルテレビジョン放送を受信するものであり、マルチパス歪み等化装置1と、その前段に受信部として設けられた周波数変換部110および同期検波部120と、後段に設けられた受像機130とを主に備えている。
【0113】
周波数変換部110は、受信アンテナ140からのアンテナ受信信号が供給されると、選択されたチャンネルのOFDM信号(マルチパス波)を、中間周波数の信号(IF(Intermediate Frequency)信号)にダウンコンバージョンするものである。
【0114】
同期検波部120は、周波数変換部110で変換されたIF信号を直交同期検波し、得られた時間領域の同期検波波形の同相成分と直交成分とをA/D変換したデータ列を、マルチパス波の入力データVr(t)として、マルチパス歪み等化装置1に入力するものである。なお、A/D変換したデータ列の同相成分は、シンボル(キャリヤシンボル)の実数軸成分(Iデータ)を示し、直交成分はシンボルの虚数軸成分(Qデータ)を示す。
【0115】
受像機130は、マルチパス歪み等化装置1により復調および等化されたマルチパス歪み等化信号Veq(t)を復号し、復号した映像信号および音声信号を表示するものである。
【0116】
本実施形態のマルチパス歪み等化装置1および受信装置100によれば、SPの周波数における伝達関数H(s,f)で測定可能な時間幅よりも長い遅延時間t1,t2を電力スペクトル法で検出し、この長い遅延時間t1,t2とSPの周波数における伝達関数H(s,f)とを用いて極性を決定した遅延時間tdに対応した伝達関数H(f)を用いてマルチパス波を等化する。したがって、OFDM信号受信において、遅延時間tdが有効シンボル長TuのL分の1(±Tsp)を越えた場合においてもマルチパス歪みを等化することができる。
【0117】
そして、電力スペクトル法の遅延プロファイル測定では、非特許文献1に記載のように、遅延時間が±1[ms]の範囲を超えても遅延時間の絶対値と遅延波レベルの測定が可能である。したがって、本実施形態のマルチパス歪み等化装置1は、例えば、1[ms]程度のマルチパス波を受信した場合でも、遅延波のレベルにかかわらずマルチパス歪み等化が可能であり、良好な受信ができる。これは、ISDB−T方式において、有効シンボル長Tuの3分の1(トータルで336[μs]:±168[μs])の範囲を大きく越えている。
【0118】
(第2実施形態)
前記実施形態では、時間領域の信号を周波数領域の信号に変換するフーリエ変換を高速フーリエ変換(FFT)で行うものとしたが、スピードを重要視しない場合には離散フーリエ変換(DFT:discrete Fourier transform)で行うことも可能である。また、前記実施形態では、簡便のため、主波に対して1つの遅延波について定式化して説明したが、複数の遅延波についても同様に定式化することができる。さらに、受信波に雑音を含めて解析することもできる。以下では、このような場合を第2実施形態として説明する。
【0119】
[マルチパス歪み等化装置の構成の概要]
第2実施形態のマルチパス歪み等化装置1Aの構成を図5に示す。なお、図1に示したマルチパス歪み等化装置1と同様な構成は、同じ符号を付して説明を適宜省略し、相違点を説明することとする。このマルチパス歪み等化装置1Aがマルチパス波として受信する受信波(vr(t))は、主波(以下では希望波という)、複数の遅延波、および加法的白色ガウス雑音(AWGN:Additive White Gaussian Noise、以下ではガウス雑音という)から成っている。
【0120】
マルチパス歪み等化装置1Aは、図5に示すように、大別して、伝達関数生成手段2Aと、等化手段3Aと、長周期切り取り部70とを備えている。長周期切り取り部70は、入力するマルチパス波Vr(t)を、1有効シンボル長の整数倍の長さ(長周期)で切り取り、伝達関数生成手段2Aおよび等化手段3Aとに出力する。具体的には、実際に運用されているモード3におけるOFDM信号の場合、有効シンボル長(1.008[ms])の32倍(約32[ms])で切り取る。なお、第1実施形態のように、長周期切り取り部70を伝達関数生成手段2Aおよび等化手段3Aの内部に個別に設けてもよい。また、図5に示したマルチパス歪み等化装置1Aは、図2に示す受信装置100の構成部分のみを示したものであり、図5では省略した受信アンテナ等の受信部を含んでもよい。
【0121】
伝達関数生成手段2Aは、等化手段3Aによってマルチパス波を等化するために用いる伝達関数を生成するものであり、大別して、第1伝達関数生成手段10Aと、第2伝達関数生成手段20Aとを備えている。
【0122】
第2実施形態では、第1伝達関数生成手段10Aは、図5に示すように、離散フーリエ変換を行うDFT12Aを備えている点が異なっているが、他は同様なので説明を省略する。一方、第2伝達関数生成手段20Aは、図5に示すように、遅延プロファイル測定手段30と、伝達関数算出手段40Aと、伝達関数解析手段60とを備えている。
【0123】
<伝達関数解析手段>
伝達関数解析手段60は、第1伝達関数生成手段10Aで抽出されたSPデータとSPの規格値を用いて初期位相差を検出すると共に、遅延時間の極性の判別を行うものであり、初期位相差検出手段61と、遅延時間極性判定手段62とを備えている。
【0124】
初期位相差検出手段61は、SPデータから、希望波と遅延波のキャリヤ中心周波数での位相差(以下では初期位相差という)を検出し、伝達関数算出手段40Aに出力する。
遅延時間極性判定手段62は、SPデータから、遅延時間の極性が、遅れまたは進みのいずれであるのか判定し、判定結果を遅延時間極性として伝達関数算出手段40Aに出力する。
【0125】
遅延プロファイル測定手段30は、電力スペクトル法により測定した、遅延波レベルと希望波レベルとの比(遅延波レベル/希望波レベル)と、遅延時間の絶対値とを伝達関数算出手段40Aに出力する。
【0126】
伝達関数算出手段40Aは、初期位相差と、遅延時間極性と、遅延波レベル/希望波レベルと、遅延時間の絶対値とを組み合わせて伝達関数(H(f))を生成する。
【0127】
<等化手段>
第2実施形態では、等化手段3Aは、図5に示すように、離散フーリエ変換を行うDFT51Aと、除算部52Aと、逆離散フーリエ変換を行うIDFT53Aとを備える。モード3におけるOFDM信号の場合、等化手段3Aは、有効シンボル長(1.008[ms])の32倍で切り取られた受信波vr(t)をDFT(離散フーリエ変換)した後、この信号Cr(f)を、伝達関数算出手段40Aで求めた伝達関数H(f)で除算し、さらにこの信号Ceq(f)をIDFT(逆離散フーリエ変換)することにより、等化された時間領域の希望波vcq(t)を得る。
【0128】
[マルチパス歪み等化装置の等化の原理]
実際に運用されているモード3におけるOFDM信号の具体例と、数式(式(21)〜式(24))とを用いて、第2実施形態のマルチパス歪み等化装置1Aの等化の原理について説明する。
【0129】
図3に示したように、モード3におけるOFDM信号の有効シンボル長(Tu)は1.008[ms]、有効シンボルのデータ数(Nu)は8192である。以下では、有効シンボルのデータ数をNuと表記することとする。また、サンプリング間隔は約0.123[μs](=Tu/Nu)、ガードインターバル長(Tg)は126[μs]である。なお、ISDB−T方式では、実効的にSPが周波数方向に3本に1本の割合(L=3)で配置されており、±168[μs](トータルで336[μs]、マイナスは進みを意味する)までの遅延時間であれば、問題は生じない。
【0130】
等化手段3Aは、等化を周波数領域で行っており、周波数領域の受信波を得るための切り取り時間は、有効シンボル長の整数倍(例えば、p=32倍)としている。したがって、この切り取り時間におけるデータ総数はp×Nuである。
【0131】
図5において、希望波+遅延波(複数)の時間領域信号をvi(t)とすれば、DFT後の周波数領域の受信信号(Cr(f))は式(21)で表される。
【0132】
【数16】

【0133】
ここで、tはサンプリング間隔で基準化した時間を示す。具体的には、tは、時間/サンプリング間隔(Tu/Nu)で表される。また、fは、キャリヤを区別するキャリヤ番号であって、離散周波数間隔で基準化した周波数、つまり、周波数/離散周波数間隔で定義される。具体的には、有効シンボル長を1.008[ms]、かつ、p=32とした場合には、有効シンボル長の逆数は約0.992[kHz]なので、この場合には、離散周波数間隔は、約0.992[kHz]/32で表される。なお、p=1としたならば、離散周波数間隔は、約0.992[kHz]で表される。
【0134】
また、式(21)において、Nw(f)は、ガウス雑音、および遅延時間がガードインターバルを超えることにより生じるシンボル間干渉による雑音電圧、の周波数領域信号である。なお、シンボル間干渉については、非特許文献1に記載されている。
【0135】
一方、M個の遅延波(識別番号m=1,2,…,M)が到来するときの伝達関数(H(f))は、前記した式(1)を拡張することで、式(22)で表される。ここで、Rmは、m番目の遅延波レベル/希望波レベルを示す。また、tdmは、m番目の遅延波について、サンプリング間隔で基準化した遅延時間を示す。具体的には、tdmは、遅延時間/サンプリング間隔(Tu/Nu)で表される。さらに、αmは、希望波とm番目の遅延波との初期位相差を示す。
【0136】
【数17】

【0137】
等化された周波数領域の希望波(Ceq(f))は、Cr(f)をH(f)で除算すれば求められ、前記した式(3)と同様に、式(23)で表される。
【0138】
【数18】

【0139】
等化後の時間領域の希望波(vcq(t))は、式(23)をIDFTすれば得られ、式(24)で表される。
【0140】
【数19】

【0141】
ここで、nw(t)は、等化後の時間領域の希望波(vcq(t))に含まれる雑音電圧である。式(24)に示すように、等化後の時間領域においても雑音nw(t)が存在する。ところが、雑音nw(t)のビット誤り率への影響がガウス雑音と同じとすれば、信号電力の比(SN比)が21[dB]以上であれば、判定処理と誤り訂正により、ビット誤りのない受信が可能であることが知られている。ここで、SN比は、「v(t)の電力/nw(t)の電力」で表される。このSN比が21[dB]以上の条件は、ハイビジョン放送用として運用されている64QAM変調時にビタビ復号のビット誤り率が2×10-4となるCNRの条件のことを示す(NHK受信技術センター編「テレビ新時代 知っておきたい 地上デジタル放送」48頁参照)。
【0142】
ただし、式(22)から明らかなように、M個の遅延波の到来時の伝達関数H(f)を求めるためには、各遅延波(識別番号m)についてRm、tdm、αmを知る必要がある。しかしながら、SPを用いた遅延プロファイル測定では、±168[μs]を超えた遅延時間は測定できない。一方、電力スペクトル法の遅延プロファイル測定では、遅延時間が±1[ms]の範囲を超えても遅延時間の絶対値と遅延波レベルの測定は可能である。そこで、知る必要があるパラメータのうち、Rm、|tdm|については、電力スペクトル法のアルゴリズムにより求め、残りのαmおよび遅延時間の極性(遅れ、または、進み)とについては後記する方法で求めた。
【0143】
[希望波と遅延波の初期位相差の検出方法]
次に、マルチパス歪み等化装置1Aの初期位相差検出手段61の解析原理として、M個の遅延波の内、任意のm番目の遅延波における初期位相差の検出方法について、数式(式(25)〜式(34))を用いて説明する。
【0144】
<初期位相差の検出方法>
初期位相差(αm)は、SPを用いて求める。SPは、図6に示すように、周波数方向に12シンボルに1本、時間シンボル方向には4シンボルに1本の割合で間欠的に配置されている。ここで、Kは5616(キャリヤ総数(5617)−1)であり、−K/2≦k≦K/2は帯域を表す。Nuはデータ総数であると同時にサンプリング周波数/離散周波数間隔である。なお、図3では1セグメントを表したが、図6では13セグメントを表している。
【0145】
ここでは、時間方向のシンボル番号をあらためてnで表し、周波数方向のキャリヤ番号をk(離散周波数間隔=0.992[kHz])で表すこととする。この場合に、受信波の任意のシンボルにおける周波数領域信号(Sr(n,k))は式(25)で表される。なお、前記した式(21)では、キャリヤ番号にf(離散周波数間隔=0.992[kHz]/32)を用いたが、ここでは、短周期の切り取り時間が有効シンボル長(1.008[ms])であるため、キャリヤ番号をkとした。
【0146】
【数20】

【0147】
式(25)において、例えばモード3においてNu=8192である。また、シンボル番号n=0,1,2,…に対して、t0=n×(9Nu/8)である。ここで、係数9/8は、ガードインターバルを含めたシンボル長が有効シンボル長の9/8倍であることを表している。また、式(25)に示すSr(n,k)は、任意のシンボルにおける周波数領域信号なので、式(25)に示す信号には、データシンボルとSPシンボルとが含まれている。しかしながら、初期位相差(αm)の検出にはSPだけを用いる。したがって、以下の数式におけるkは、SPが存在するkだけで扱うこととする。例えば、kについての和(シグマ)は、SPシンボルについてのみ行うことを意味する。
【0148】
伝達関数を得るためには受信波のSPに加えて希望波のSPも必要である。希望波(主波)のSPシンボルの周波数領域信号をS(n,k)、ガウス雑音電圧およびシンボル間干渉により生じる雑音電圧の和をN(n,k)とすれば、式(26)が成り立つ。
【0149】
【数21】

【0150】
ここで、Rrmは、遅延時間の遅れあるいは進みにより生じるシンボル間干渉により低下する遅延波レベルである。また、tdmは、サンプリング間隔で基準化したm番目の遅延波の遅延時間である。
【0151】
式(26)に示すSr(n,k)をS(n,k)で除したSr(n,k)/S(n,k)は、SPを用いて検出した伝達関数であり、これをHr(k)と表記すれば、式(27)で表される。このHr(k)は、図5に示す第1伝達関数生成手段10の出力に対応する。なお、希望波のSPシンボルの周波数領域信号S(n,k)が、SP規格値格納部14に格納されている。
【0152】
【数22】

【0153】
式(27)から、Rrmjαmを求める場合には、雑音項(n,kの関数)があるため、kにおける値だけでは精度よく求めることができない。そこで、以下のように平均化することにより、雑音項による誤差を除去して、Rrmjαmを求める。
【0154】
具体的には、M個の遅延波のうち任意のq番目の遅延波のRrqjαqを求める場合について説明する。この場合、式(27)の関係式を用いて、式(27)に示す伝達関数Hr(k)から1を減じた後で、さらに
【数23】

で除算した周波数(k)および時間領域の関数を生成し、これを式(28)に示す目的関数Am(k)として定義する。
【0155】
【数24】

【0156】
すべてキャリヤを加算したAm(k)の総和(周波数平均)は式(29)で表される。
【0157】
【数25】

【0158】
式(29)の右辺カッコ内の第1項において、
【数26】

は、kの変化に対して、複素平面上で半径1の円周上を回転する。したがって、この第1項のkについての和のうち、tdm≠tdqの場合の平均(加算の結果)は0となる。一方、式(29)の右辺カッコ内の第1項のkについての和をとるときに、tdm=tdqの場合の
【数27】

は、すべてのkにおいて1となる。また、式(29)の右辺カッコ内の第2項においては、tdqは0ではない。そのため、第1項のtdm≠tdqの場合と同様に、第2項のkについての和は常に0となる。以上のことから、式(30)の関係が得られる。なお、式(30)において、m=qである。
【0159】
【数28】

【0160】
ここで、式(30)の最右辺において総和の係数がK/12となっているのは、加算をSPだけで行っており、SPは周波数方向に12本に1本配置されているためである。この式(30)を変形すれば、式(31)が得られる。なお、前記した式(28)に示す目的関数Am(k)が観測値および規定値で求められるので、Re(実部)およびIm(虚部)は具体的な複素数として求められている。
【0161】
【数29】

【0162】
式(31)から、初期位相差αmは式(32)で得ることができる。
【0163】
【数30】

【0164】
次に、初期位相差αmが検出可能な遅延時間を求める。ここで、サンプリング間隔で基準化したシンボル間干渉(異シンボル混入)の時間(ti)は式(33)で表される。
【0165】
【数31】

【0166】
ここで、tgはサンプリング間隔で基準化したガードインターバル長、tdmはサンプリング間隔で基準化したm番目の遅延波の遅延時間である。
【0167】
uを有効シンボル期間のサンプリング数とすれば、m番目の遅延波レベル/希望波レベル(Rrm)は式(34)で表される(非特許文献1参照)。なお、Rmは、遅延プロファイル測定手段30で求められる測定値であり、シンボル間干渉により低下する遅延波レベルRrm自体は、シンボル間干渉が起こる領域において、Rmの一部分に相当する。
【0168】
【数32】

【0169】
初期位相差αmが検出可能な遅延時間の範囲は、式(34)から、1−ti/Nu>0となる。このとき、遅延時間が“遅れ”を示す場合には、前記した式(33)の上の式および式(34)から、tdm<Nu+tgとなる。すなわち、Nu+tg未満の遅延時間であれば、初期位相差αmが検出可能である。
【0170】
同様に、遅延時間が“進み”を示す場合には、初期位相差αmが検出可能な遅延時間の範囲は、前記した式(33)の下の式および式(34)から、1−tdm/Nu>0となる。この条件から、tdm<Nuとなる。すなわち、Nu未満の遅延時間であれば、初期位相差αmが検出可能である。
【0171】
[遅延時間の極性検出方法]
次に、マルチパス歪み等化装置1Aの遅延時間極性判定手段62の解析原理として、M個の遅延波の内、任意のm番目の遅延波における遅延時間の極性(遅れ、進み)の検出方法について説明する。
【0172】
遅延時間極性判定手段62は、遅延時間tdmの極性(遅れ/進み)を判別するものである。その原理は、次の通りである。
前記した式(29)に示すAm(k)の総和式において、q番目の遅延波の遅延時間tdqが真の極性の場合(tdm=tdqの場合)、このAm(k)の総和式は、前記した式(30)に示す値をもつ。
一方、逆極性の遅延時間の場合(tdm=−tdq)、このAm(k)の総和式は0となる。
したがって、例えば、±tdqの2つのケースについて前記した式(29)の計算を行い、計算結果を比較すれば判別を行うことができる。
【0173】
[マルチパス歪み等化装置の動作の流れ]
第2実施形態のマルチパス歪み等化装置1Aの動作の流れは、マルチパス歪み等化装置1の動作の流れと同様である。ただし、主に次の(1)〜(3)の動作が異なっている。
【0174】
(1)初期位相差検出手段61は、SPの周波数における伝達関数から主波を表す項を差し引いてから、遅延波について検出された遅延時間の絶対値を示す時間成分で除算して各SPの周波数毎に目的関数を生成し、目的関数を各SPの周波数について加算した総和を求め、この求めた総和から、当該遅延波の高周波位相差として、初期位相差を算出する。
【0175】
(2)遅延時間極性判定手段62は、目的関数の総和の値が0であるかを判別し、当該値が0とならない場合に、遅延時間の極性が真の極性であると判定し、当該値が0となる場合に真の極性ではないと判定する。
【0176】
(3)伝達関数算出手段40Aは、遅延プロファイルを測定するときに検出される遅延波のレベルと主波のレベルとの比の成分(R)および当該遅延波の遅延時間の絶対値(|td|)と、当該遅延波について算出された初期位相差(α)および遅延時間極性判定手段62の判定結果(真の極性)と、を用いて、遅延波の伝搬路についての等化対象とする周波数における伝達関数を算出する。
【0177】
第2実施形態によれば、電力スペクトル法を用いて得た遅延波レベル/希望波レベルおよび遅延時間の絶対値と、希望波と遅延波との初期位相差および遅延時間の極性(遅れ、進み)とを組み合わせて伝達関数を生成し、受信波を除算することにより、マルチパス歪みを等化することができる。
【0178】
また、従来の受信方法では遅延時間がガードインターバル長あるいは±168[μs]を超えると受信が困難あるいは受信不能な状況が発生するが、第2実施形態によれば、後記する実施例に示すとおり、遅延時間が1[ms]程度で、かつ希望波レベル/遅延波レベルが3[dB]程度の遅延波(複数)が混入した場合でも受信が可能なので、今後のSFN局の増加に伴う混信の改善に非常に有効である。
【0179】
(変形例)
以上、各実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その趣旨を変えない範囲で様々に実施することができる。例えば、受信装置100は、単独のマルチパス歪み等化装置1(または1A)を含むものとして説明したが、複数のマルチパス歪み等化装置を含むように構成してもよい。図7は、2つのマルチパス歪み等化装置1A(1a,1b)を並列に設けた場合を示しており、受信装置100Bは、これら2つのマルチパス歪み等化装置1a,1bを備えている。ここで、各マルチパス歪み等化装置1a,1bに入力するマルチパス波Vr(t)から時間領域のデータを周期Tcut(=)で切り出すタイミングは異なっている。マルチパス歪み等化装置1aが、例えば「t=0,32,64,…」のタイミングで切り出すとすると、マルチパス歪み等化装置1bは、例えば「t=16,48,80,…」のタイミングで切り出す。
【0180】
このように複数台設ける理由は次の通りである。各実施形態で説明したようにマルチパス波を有効シンボル長の整数倍の周期で切り出すと、有効シンボルと、ガードインターバルとが交互に現れる信号となる。受信装置が受信するマルチパス波において、遅延時間が比較的長く、かつ遅延波レベルが主波レベルに近い場合には、等化手段3A(図5参照)のIDFT53Aによって、周波数領域の信号を時間領域信号に戻したときシンボル間干渉により最初と最後の方のシンボルについてはCNRが劣化することがある。つまり、マルチパス歪み等化装置1Aから出力されるマルチパス歪み等化信号Veq(t)の各周期(=Tu×p=約32[ms])のうち最初と最後の方はCNRが劣化することがある。
【0181】
そこで、この変形例では、受信装置100Bは、マルチパス歪み等化装置1A(1a,1b)と、受像機130との間に、受信可能信号抽出部150と、受信可能信号合成部160とを備えることとした。
【0182】
受信可能信号抽出部(受信可能信号抽出手段)150は、各マルチパス歪み等化装置1Aで生成された信号Veq(t)を周期Tcut毎に取得し、周期Tcutの信号Veq(t)のうち、予め定められた受信可能信号レベルを満たさない初めの部分と終わりの部分を除いて中間に位置する受信可能信号レベルを満たす所定数の有効シンボル長部分を、マルチパス歪み等化装置1A毎に抽出し、受信可能信号合成部160に出力する。ここで、受信可能信号レベルは、CNRが20[dB]よりも大きいレベルを指す。
【0183】
受信可能信号合成部(受信可能信号合成手段)160は、受信可能信号抽出部150によって抽出されたそれぞれの受信可能信号レベルを満たす信号が連続するように合成し、受像器130に出力する。具体的には、各マルチパス歪み等化装置1a,1bを、受信装置内の等化器1および等化器2と呼ぶ場合に、受信可能信号合成部160は、等化器1が出力する受信可能信号レベルを満たす信号(図14にて“a”で示す部分)の次に、等化器2が出力する受信可能信号レベルを満たす信号(図14にて“b”で示す部分)が連続するように合成し、さらに、“a”で示す部分と、“b”で示す部分とを交互に合成する。これにより、すべてのシンボルについてCNRが受信可能の連続信号を得ることができる。
【0184】
なお、受信装置内100Bのマルチパス歪み等化装置1Aの台数は、受信装置100Bに入力するマルチパス波を長周期で切り取るタイミングをずらして合成可能であれば、3台以上であってもよい。また、マルチパス歪み等化装置1Aの代わりに、受信装置内100B内にマルチパス歪み等化装置1を複数台備える構成としてもよい。
【実施例】
【0185】
本発明による効果を確認するために、本発明のマルチパス歪み等化装置の性能を検証するコンピュータシミュレーションを行った。ここでは、第2実施形態に係るマルチパス歪み等化装置1Aについて、大別して3つの実験(実験1、実験2、実験3)を行った。実験1は初期位相差(αm)の検出性能を検証する実験、実験2は等化前後のコンスタレーションを測定する実験、実験3は等化後のCNRを測定する実験である。なお、実験結果のグラフには、遅延波が1波の場合と2波の場合について適宜条件を変えながら実験を行ったうちの実験結果の代表例のみを示す。
【0186】
(各実験で前提とする実験条件)
切り取り時間(pTu)は、有効シンボル長の32倍(約32[ms])とした。
1シンボルの長さは有効シンボル長の9/8倍であるから、32[ms]の切り取り時間から得られるシンボル数は27となる。
【0187】
(実験1:初期位相差(αm)の検出)
<実験条件>
遅延波が1波で、遅延時間が20[μs]の条件として、キャリヤ番号(k)を変化させた場合に、前記した式(28)に示す目的関数Am(k)の瞬時値と、前記した式(31)に示す複素遅延波レベルRrmjαm(平均値)とを求める実験を行った。
また、遅延時間を300[μs]の条件に変更して、同様に実験した。
【0188】
このとき、入力信号のCNRは50[dB]である。
遅延波が1波の場合の信号条件は、次の通りである。
1(遅延波レベル/希望波レベル)=−6[dB]
α1(希望波と遅延波の初期位相差)=45°
【0189】
<実験結果>
遅延時間が20[μs]の場合の実験結果を複素平面上に示したものが図8(a)である。また、図8(b)は、遅延時間が300[μs]の場合の実験結果を示したものである。なお、各グラフの横軸は実軸、縦軸は虚軸をそれぞれ示している。
【0190】
遅延時間が20[μs]の場合には、シンボル間干渉による雑音がないため、前記した式(29)右辺のカッコにおける第2項の雑音成分の項は、すべてのkにおいてほぼO(入力信号のガウス雑音のみ)である。したがって、図8(a)に示すように、キャリヤ番号(k)を変化させても、Am(k)(瞬時値)は、ほぼ同じ値となっている。また、Am(k)(瞬時値)は、Rrmjαm(平均値)とほぼ一致している。
【0191】
一方、遅延時間が300[μs](ガードインターバル超え)の場合には、シンボル間干渉による雑音の影響が生じる。したがって、図8(b)に示すように、Am(k)の瞬時値は、平均値(Rrmjαm)を中心に分布し、Rrmjαm(平均値)のレベルは、信号条件のR1=−6[dB]に比べて低い値となっている。しかしながら、図8(b)に示すように、Am(k)のRrmjαm(平均値)から検出した複素数の位相角は、与えた信号条件である、希望波と遅延波の初期位相差(45度)とよく一致している。
【0192】
(実験2:等化前および等化後のコンスタレーション)
実験2−1:遅延波が1波の場合
<実験条件>
遅延波が1波で、遅延時間が20[μs]の条件の場合について、マルチパス歪み等化装置1Aによる等化を行う前の出力におけるコンスタレーションと、等化後の出力におけるコンスタレーションを測定した。また、遅延時間を600[μs](ガードインターバル長および±168[μs]を超えた値)の条件に変更して、同様に実験した。
【0193】
<実験結果>
遅延時間が20[μs]の場合について、等化前の実験結果を図9(a)に示し、等化後の実験結果を図9(b)に示す。図9(a)および図9(b)には、切り取った27シンボルのうちほぼ中央部にあたる12番目のシンボルを示す。また、遅延時間が600[μs](ガードインターバル長および±168[μs]を超えた値)の場合について、同様に等化前後の実験結果を図10(a)および図10(b)にそれぞれ示す。
図9および図10に示すように、いずれの遅延時間であっても、マルチパス歪みが良好(シンボル誤りがない)に等化されていることが分かる。
【0194】
実験2−2:遅延波が2波の場合
<実験条件>
遅延波が2波の場合にも同様の実験を行った。
ただし、2波のうち1番目の遅延波の条件は、次の通りである。
1(遅延波レベル/希望波レベル)=−6[dB]
遅延時間(Td1)=150[μs]
2波のうち2番目の遅延波の条件は、次の通りである。
2(遅延波レベル/希望波レベル)=−10[dB]
遅延時間(Td1)=900[μs]
【0195】
<実験結果>
遅延波が2波の場合のコンスタレーションについて、等化前の実験結果を図11(a)に示し、等化後の実験結果を図11(b)に示す。両遅延波とも、遅延時間はガードインターバル長あるいは±168μsを超えているが、図11に示すように、遅延波が1波の場合と同様に良好に等化されていることが分かる。
【0196】
(実験3:各シンボル番号における等化後のCNR)
良好な等化性能を得るためには判定処理後のシンボルにおいてシンボル誤りを生じさせないことが必要である。このためには遅延波によって生じる不要成分(変調誤差)が、位相平面上の各枠内(信号間距離の1/2)以下であることが条件となり、ハイビジョン放送用として運用されている64QAMでは、希望波(到来波の中で最もレベルが高い波)レベルがこれらの値に対して20[dB]以上であることが必要となる。
【0197】
実験3−1:遅延時間が遅れの場合
<実験条件>
遅延波が1波の場合に、遅延時間(Td)をパラメータとして、シンボル番号(n)に対する等化後のCNRを求める実験を行った。
このとき、入力信号のCNR(C/N)は60[dB]である。
遅延波が1波の場合の信号条件は、次の通りである。
1(遅延波レベル/希望波レベル)=−3[dB]
【0198】
<実験結果>
遅れの場合のシンボル番号(n)に対する等化後のCNRの実験結果を図12に示す。図12のグラフの横軸はシンボル番号(n)を示し、縦軸は出力C/Nを示す。シンボル数は27なので、シンボル番号(n)は0〜26である。遅延時間(ここではTd)を種々の値に変化させて実験を行った。このうち、Td=20[μs],100[μs],600[μs],900[μs],1.1[ms]における結果をグラフに示す。
【0199】
本発明の方式において、前記した式(33)および式(34)の考察から、初期位相差αmが検出可能な範囲は、遅延時間が“遅れ”を示す場合の理論的限界値はNu+tgであった。すなわち、実際の時間では、Tu(有効シンボル長)+Tg(ガードインターバル長)が理論的な限界となる。この和は、ISDB−T方式では、(9/8)Tuである。この値に近いTd=1.1[ms]では、図12に示すように、シンボル番号11以降においてもCNRは30[dB]以上確保されている。また、Td=1.1[ms]では、7〜10番目のシンボルにおいても、CNRは21[dB](64QAM変調時にビタビ復号のビット誤り率が2×10-4となるCNR)以上となっており、受信が可能である。
【0200】
実験3−2:遅延時間が進みの場合
<実験条件>
遅延時間が遅れの場合と同様な信号条件とした。
【0201】
<実験結果>
進みの場合のシンボル番号(n)に対する等化後のCNRの実験結果を図13に示す。図13のグラフの縦軸及び横軸は図12のグラフと同様である。遅延時間(ここではTd)を種々の値に変化させて実験を行った。このうち、Td=−20[μs],−100[μs],−600[μs],−900[μs],−1.1[ms]における結果をグラフに示す。
【0202】
本発明の方式において、前記した式(33)および式(34)の考察から、初期位相差αmが検出可能な範囲は、遅延時間が“進み”を示す場合の理論的限界値はNuであった。すなわち、実際の時間では、Tu(有効シンボル長)が理論的な限界となる。この値に近い遅延時間である−900[μs]では、図13に示すように、0〜21番目のシンボルが使用可能である(CNR≧21[dB])。なお、この実験はある種のばらつきのある現象についての実験であり、図示は省略したが、−950[μs]程度でも、同様に、0〜21番目のシンボルが使用可能であることが分かった。
【0203】
図12および図13の結果から、歩留まりが低くなる場合がある。しかしながら、図14に示すように複数台の等化器(等化器1、等化器2)を用いて、それぞれの等化器から、27シンボルのうち、前後に位置するシンボルを除いて中間に位置する受信可能信号レベルを満たす15シンボルをそれぞれ抽出して連続するように合成すれば、低CNRのシンボルを除去した連続信号を生成することが可能である。この場合には、歩留まりを向上させることができる。
【0204】
具体的には、等化器1および等化器2が、図12の結果に基づいて0〜6番目のシンボルを除去し、かつ、図13の結果に基づいて22〜26番目のシンボルも除去し、7〜21番目のシンボルのみをそれぞれ出力する。そして、例えば、等化器1が出力する7〜21番目のシンボル群(図14にて“a”で示す部分)の次に、等化器2が出力する7〜21番目のシンボル群(図14にて“b”で示す部分)が連続するように合成することにより、すべてのシンボルについてCNRが21[dB]以上(受信可能)の連続信号を得ることができる。
【符号の説明】
【0205】
1,1A マルチパス歪み等化装置
2,2A 伝達関数生成手段
3,3A 等化手段
10 第1伝達関数生成手段
11 切り取り部
12 FFT
13 SP抽出部
14 SP規格値格納部
15 除算部
16 伝達関数格納部
20,20A 第2伝達関数生成手段
21 複素遅延波レベル生成手段
22 遅延時間決定手段
23 減算値格納部
24 回転子格納部
25 除算部
26 平均算出部
27 偏差算出部
28 比較部
30 遅延プロファイル測定手段
40,40A 伝達関数算出手段
51 FFT
52 除算部
53 IFFT
51A DFT
52A 除算部
53A IDFT
61 初期位相差算出手段
62 遅延時間極性判定手段
70 長周期切り取り部
100,100B 受信装置
110 周波数変換部
120 同期検波部
130 受像機
140 アンテナ
150 受信可能信号抽出部(受信可能信号抽出手段)
160 受信可能信号合成部(受信可能信号合成手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
OFDM方式の電波として到来する主波と遅延波とを含む受信波を示すマルチパス波から等化対象とする周波数における伝達関数を生成する伝達関数生成手段と、前記入力するマルチパス波から所定の周期で切り出された時間領域のデータを前記周期毎にフーリエ変換により周波数領域の信号に変換し、前記変換された周波数領域の信号を前記伝達関数でそれぞれ除算した結果を逆フーリエ変換することで、前記主波の時間領域の信号を生成する等化手段とを備えたOFDM信号受信におけるマルチパス歪み等化装置であって、
前記伝達関数生成手段は、
前記入力するマルチパス波から抽出したスキャッタードパイロットのデータと、予め格納されたスキャッタードパイロットの規格値とから前記遅延波の伝搬路についてのスキャッタードパイロットの周波数における伝達関数を生成する第1伝達関数生成手段と、
遅延プロファイル測定手段を有した第2伝達関数生成手段と、を備え、
前記遅延プロファイル測定手段は、前記入力するマルチパス波から所定の周期で切り出された時間領域のデータから前記周期毎に、電力スペクトル法により遅延プロファイルを測定し、前記遅延波のレベルと前記主波のレベルとの比と遅延時間とを求め、
前記第2伝達関数生成手段は、
前記遅延プロファイルから前記主波と前記遅延波との高周波位相差を求め、前記スキャッタードパイロットの周波数における伝達関数を含む周波数および時間領域の関数に、前記遅延プロファイルの測定から求めた極性の異なる2つの遅延時間をそれぞれ代入したときに、前記周波数および時間領域の関数の周波数平均が理論的に0になる方と0にならない方のうち、0とならない方の遅延時間を真の遅延時間として特定し、
前記特定した真の遅延時間と、前記遅延波のレベルと前記主波のレベルとの比と、前記高周波位相差とを用いて、前記遅延波の伝搬路についての前記等化対象とする周波数における伝達関数を生成する
ことを特徴とするマルチパス歪み等化装置。
【請求項2】
前記スキャッタードパイロットの周波数における伝達関数および前記等化対象とする周波数における伝達関数は、前記主波を表す項と、前記遅延波のレベルと前記主波のレベルとの比の成分と、前記主波と前記遅延波との高周波位相差成分と、前記遅延時間を示す時間成分との積により遅延波を表す項とを含み、
前記第2伝達関数生成手段は、
前記スキャッタードパイロットの周波数における伝達関数に含まれる前記遅延波を表す項を、前記遅延プロファイルを測定するときに検出される遅延時間毎に、当該遅延時間を示す時間成分で除算することで、遅延に起因したレベル低下を示す複素遅延波レベルを、前記周波数および時間領域の関数としてそれぞれ生成する複素遅延波レベル生成手段と、
前記生成された各複素遅延波レベルの前記等化対象とする周波数に対する平均を少なくとも含む統計量をそれぞれ算出し、前記算出した複素遅延波レベルの周波数平均が0にならない方の複素遅延波レベルを生成した遅延時間を真の遅延時間として特定する遅延時間決定手段と、
前記特定した真の遅延時間と、この真の遅延時間を生成した複素遅延波レベルとを用いて、前記遅延波の伝搬路についての前記等化対象とする周波数における伝達関数を算出する伝達関数算出手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のマルチパス歪み等化装置。
【請求項3】
前記遅延時間決定手段は、
前記等化対象とする周波数の変化に対する複素遅延波レベルの平均を、複素遅延波レベル毎に算出する平均算出手段と、
前記平均算出手段でそれぞれ算出された複素遅延波レベルの平均を用いて、当該複素遅延波レベルを生成した遅延時間に応じた偏差をそれぞれ算出する偏差算出手段と、
前記偏差算出手段でそれぞれ求められた2つの偏差の大小を比較し、偏差が小さい方の複素遅延波レベルを生成した遅延時間を真の遅延時間であるものとして特定する比較手段と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載のマルチパス歪み等化装置。
【請求項4】
前記スキャッタードパイロットの周波数における伝達関数および前記等化対象とする周波数における伝達関数は、前記主波を表す項と、当該主波に対して遅れまたは進みを有した複数の遅延波毎に前記遅延波のレベルと前記主波のレベルとの比の成分と、前記主波および前記遅延波の高周波位相差成分と、前記遅延時間を示す時間成分との積によりそれぞれの遅延波を表す項とを含み、
前記第2伝達関数生成手段は、
前記スキャッタードパイロットの周波数における伝達関数から前記主波を表す項を差し引いてから、前記遅延波について検出された遅延時間の絶対値を示す時間成分で除算して前記各スキャッタードパイロットの周波数毎に目的関数を前記周波数および時間領域の関数として生成し、前記目的関数を前記各スキャッタードパイロットの周波数について加算した総和を周波数平均として求め、この求めた総和から、当該遅延波の高周波位相差として、前記主波のキャリヤ中心周波数の位相を基準とした当該遅延波の位相を示す初期位相差を算出する初期位相差算出手段と、
前記目的関数の総和の値が0であるかを判別し、当該値が0とならない場合に、前記遅延時間の極性が真の極性であると判定し、当該値が0となる場合に真の極性ではないと判定する遅延時間極性判定手段と、
前記遅延プロファイルを測定するときに検出される前記遅延波のレベルと前記主波のレベルとの比の成分および当該遅延波の遅延時間の絶対値と、当該遅延波について算出された初期位相差および前記遅延時間極性判定手段の判定結果と、を用いて、前記遅延波の伝搬路についての前記等化対象とする周波数における伝達関数を算出する伝達関数算出手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のマルチパス歪み等化装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のマルチパス歪み等化装置を複数備えた受信装置であって、
前記各マルチパス歪み等化装置に入力するマルチパス波から時間領域のデータを切り出す周期は有効シンボル長の3以上の整数倍であり、前記各マルチパス歪み等化装置毎に切り出すタイミングが異なり、
前記受信装置は、
前記各マルチパス歪み等化装置の等化手段で生成された主波の時間領域の信号を前記周期毎に取得し、前記有効シンボル長の整数倍の周期の主波の信号のうち、予め定められた受信可能信号レベルを満たさない前記周期の初めの部分と終わりの部分を除いて中間に位置する受信可能信号レベルを満たす所定数の有効シンボル長部分を、前記マルチパス歪み等化装置毎に抽出する受信可能信号抽出手段と、
前記受信可能信号抽出手段によって前記マルチパス歪み等化装置毎に抽出された主波の信号の所定数の有効シンボル長部分を連続させて前記周期の主波の信号を復元する受信可能信号合成手段とを備えることを特徴とする受信装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2011−101149(P2011−101149A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253745(P2009−253745)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)社団法人電子情報通信学会から平成21年10月8日に発行された「電子情報通信学会技術研究報告(信学技報vol.109,no.229),RCS2009−124,pp.83−88」において発表 (2)社団法人電子情報通信学会が平成21年10月16日に開催した「無線通信システム(RCS)研究会」において発表
【出願人】(591164613)株式会社エヌエイチケイアイテック (39)
【出願人】(591053926)財団法人エヌエイチケイエンジニアリングサービス (169)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】