説明

PC緊張材の中間定着具および定着方法

【課題】 軽量で、締め付け作業が不要、そして1人で作業が可能となるなど施工性に優れた緊張材の中間定着具および定着方法の提供を目的とする。
【解決手段】 既設の連続したコンクリート構造物の中間部における解体・撤去区間に緊張状態のまま露出して残るPC鋼材7を定着するPC鋼材7の中間定着具1において、PC鋼材7の周囲を所定の環状すきま9を保って挟み込む半割りスリーブ2aを合わせてなる鋼管スリーブ2aと、開口部4aを有し鋼管スリーブ2の外周に順に嵌め込まれて鋼管スリーブ2を補強する複数個の板状C形部材4とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物における緊張材の中間定着具および定着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物にプレストレスを付与する緊張材をコンクリートに定着する方法に関しては、例えば、特許文献1〜3に開示された構造・方法が知られている。いずれも緊張材とそれを取り巻く環状定着具との隙間に膨張材を流し込み、膨張圧がでた段階で、定着具に引張負荷をかけるようにしている。緊張材は膨張材の膨張圧による摩擦力で定着される。しかし、これらの定着方法は、緊張材に露出している端末がある場合の定着構造・方法であって、以下に示すような連続していて端末がない場合の緊張材の中間部における定着に適用することはできない。
【0003】
すなわち、図4に示すような、既設の連続したコンクリート構造物21の端部から中央寄りに離れた部分で、ある区間を解体・撤去するような工事を行う場合に、その解体・撤去部22の両側のコンクリートにおいて、解体前にPC鋼材等の緊張材23により付与されていたプレストレスを、解体後も維持すべく緊張材23を継続使用する際の中間定着工法への適用は考慮されていない。
【0004】
一方、長尺の緊張材23の中間部における定着方法として、例えば図5(a)〜(c)に示すような方法が知られている。この方法では、解体により露出した緊張材23の根元部を、2個の鋼製ブロック24,25で挟んでボルト締めし、両ブロック24,25をコンクリート26に定着する。両ブロック24,25の対向面には緊張材23を挟み込む溝27が形成されている。しかし、この方法では、緊張材23の径に応じた寸法に溝27を加工する必要があるなどブロック24,25の加工が面倒であると共に、例えば、緊張材23を挟んでブロック24,25を締め付けるボルト本数が8〜12本程度必要となり、ブロック24,25の長さが30cm程度で、質量が約25kgとなるような場合があって、そのセット作業が2人がかりとなったり、ボルト締めに電動工具が必要となって作業が大変になるという問題がある。
【特許文献1】特公平7−68771号公報
【特許文献2】特開平3−183849号公報
【特許文献3】特開平4−16675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、軽量で締め付け作業も不要であって、1人での作業が可能となり、施工性に優れる緊張材の中間定着具および定着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明のPC緊張材の中間定着具では、既設の連続したコンクリート構造物の中間部における解体・撤去区間に緊張状態のまま露出して残るPC緊張材を定着するPC緊張材の中間定着具において、
PC緊張材の周囲を所定の環状すきまを保って挟み込む半割りスリーブを合わせてなる筒状部材と、開口部を有し筒状部材の外周に順に嵌め込まれて筒状部材を補強する複数個の板状C形部材とを有することを特徴とする。
【0007】
第2発明では、第1発明のPC緊張材の中間定着具において、板状C形部材が筒状部材の全長に亘って外挿されると共に、隣接するC形部材の開口部が筒状部材の周方向にずれて配設されることを特徴とする。
【0008】
第3発明では、第1発明のPC緊張材の中間定着具において、筒状部材内の環状すきまに充填された膨張材の膨張圧により発生する摩擦力によってPC緊張材を定着することを特徴とする。
【0009】
第4発明のPC緊張材の中間定着方法では、第1発明〜第3発明のいずれかの中間定着具を用いてPC緊張材を定着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によると、PC緊張材を挟み込む半割の筒状部材と、筒状部材の外周に複数に分割されたC形部材を嵌め込む簡単な構造であるので、部材が軽量で1人での作業が可能となる。また、ボルト締めする必要も無いため施工性が非常に優れるという効果が得られる。
【0011】
第2発明によると、C形部材が開口部を有するのでPC緊張材に沿って嵌め込み易く、また、隣接するC形部材の開口部を筒状部材の周方向にずらすので、筒状部材の補強を効果的に行うことができる。
【0012】
第3発明によると、PC緊張材を挟んだ筒状部材の外周にC形部材が嵌め込まれて補強しているので、膨張材の膨張圧によるPC緊張材の定着が確実になされる。
【0013】
第4発明によると、第1発明〜第3発明のいずれかの中間定着具を用いてPC緊張材を定着するので、各発明のいずれかによる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。本実施形態は、先に背景技術の項で述べた場合と同じく、連続したコンクリート構造物の一部区間を解体・撤去する工事に適用される場合を示す。
【0015】
図1は本実施形態の中間定着具1の取り付け完了状態における全体概要と各構成部材の概要を示す図である。(a)は取り付け完了状態の正面断面図、(b)は構成部材の正面断面図と側面図、(c)は構成部材それぞれの側面図である。
【0016】
図2は取り付け完了状態の中間定着具1の外観図を示す。(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は構成部材の側面図である。
【0017】
図1に示すように、中間定着具1は、つぎの部材から構成される。すなわち芯部に配設される所定長さの半割りスリーブ2aを合わせてなる筒状部材としての鋼管スリーブ2、その外周に嵌め込まれる複数個の板状C形部材としてのC形スリーブ4(図2a参照)、鋼管スリーブ2の両端にそれぞれ配設される半割りの密閉用鋼板3とから構成される。
2個の半割りスリーブ2aは、取り付け時に貼り合わされ、鋼管スリーブ2はパイプ状を呈する。鋼管スリーブ2の端部には図2(a)に示すように、それぞれ膨張材(後述)注入孔5と空気排出孔6が、鋼管スリーブ2の壁に設けられている。
C形スリーブ4は、C字形に形成された所定厚さの鋼板からなり、複数個用いられる。C字形の開口部4aは取り付け用に設けられたものである。前記のC形スリーブ4の開孔部4aのスリット幅は、PC鋼材7の直径寸法よりも大きく、鋼管スリーブ2の外径よりも小さくされている。
【0018】
中間定着具1を取り付ける前に、工事現場では、シースおよびPC緊張材としてのPC鋼材7の周りを、工具を使用してあるいは手はつりで除去し、PC鋼材7を露出させる。PC鋼材7の表面に付着しているグラウト等を取り除き、後述する膨張材の付着性能を高める。
【0019】
図3は中間定着具1の取り付け状況を示す説明図である。工事現場において上記の構成部材を順次取り付けていって中間定着具1が構成される。すなわち、露出しているPC鋼材7の周囲に、図3に示す鋼管スリーブ2の半割りスリーブ2aを配置し、矢印Bで示すようにPC鋼材7を挟んで合わせ、合わせ目に止水用両面テープ8を貼る。鋼管スリーブ2の内周とPC鋼材7との間には所定の径方向隙間が確保される。鋼管スリーブ2の両端の凹部に半割りの密閉用鋼板3を適宜取り付ける。前記密閉用鋼鈑3の内面あるいは外面には、適宜漏洩防止ゴム材が設けられて、PC鋼材7と鋼製スリ−ブ2との間から膨脹材の漏洩を防止するようにしている。こうして、PC鋼材7と中間定着具1(鋼管スリーブ2)との間に密閉状の環状すきまとしての空間部9が形成される。
【0020】
ついで、図3に矢印Aで示すようにC形スリーブ4をPC鋼材7に外挿し、それに沿って移動させて1個ずつ順に鋼管スリーブ2上にはめ込む。このとき隣接するC形スリーブ4の開口部4aを周方向に180度ずらせてはめ込む。このとき、両端に配置されたC形スリーブ4の開口部4aに、鋼管スリーブ2の端部に設けられた注入孔5と排出孔6が、通じるようにC形スリーブ4を配設する。そして、中間定着具1と継続使用する構造物の端部12との間に、スリット付支圧板10あるいは半割り支圧板10等を隙間無く取り付ける。
【0021】
この状態で注入孔5から空間部9に膨張材11を注入する。膨張材11が空気排出孔6から排出された段階で注入を完了する。膨張材11の硬化膨張によって発生する高膨張圧によってPC鋼材7が強固に定着される。解体・撤去部分の反対側についても同じ方法で中間定着具1を取り付ける。
そして、最後に解体・撤去部分のPC鋼材7を切断する。こうして、残存する部分のPC鋼材7は中間定着具1により緊張力が保持された状態で定着される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)は取り付け完了状態の正面断面図、(b)は構成部材の正面断面図と側面図、(c)は構成部材それぞれの側面図である。
【図2】(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は構成部材の側面図である。
【図3】中間定着具の取り付け状況を示す説明図である。
【図4】既設の連続したコンクリート構造物の一部区間を解体・撤去する背景技術の一例を示す説明図である。
【図5】(a)はコンクリート構造物端部の側面図、(b)はブロック式中間定着具、(c)はボルト締め付け前のC矢視図である。
【符号の説明】
【0023】
1 中間定着具
2 鋼管スリーブ (筒状部材)
2a 半割りスリーブ
3 密閉用鋼板
4 C形スリーブ(C形部材)
4a C形スリーブの開口部
5 膨張材注入孔
6 空気排出孔
7 PC鋼材(PC緊張材)
8 止水用両面テープ
9 空間部(環状すきま)
10 支圧板等
11 膨張材
12 構造物の端部
21 連続したコンクリート構造物
22 解体・撤去部
23 緊張材
24、25 鋼製ブロック
26 コンクリート
27 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の連続したコンクリート構造物の中間部における解体・撤去区間に緊張状態のまま露出して残るPC緊張材を定着するPC緊張材の中間定着具において、
PC緊張材の周囲を所定の環状すきまを保って挟み込む半割りスリーブを合わせてなる筒状部材と、開口部を有し筒状部材の外周に順に嵌め込まれて筒状部材を補強する複数個の板状C形部材とを有することを特徴とするPC緊張材の中間定着具。
【請求項2】
請求項1に記載のPC緊張材の中間定着具において、板状C形部材が開口部を備え、筒状部材の全長に亘って外挿された状態で、隣接するC形部材の開口部が筒状部材の周方向にずれて配設されることを特徴とするPC緊張材の中間定着具。
【請求項3】
請求項1に記載のPC緊張材の中間定着具において、
前記筒状部材内の環状すきまに充填された膨張材の膨張圧により発生する摩擦力によってPC緊張材を定着することを特徴とするPC緊張材の中間定着具。
【請求項4】
請求項1〜請求項3に記載のいずれかの中間定着具を用いてPC緊張材を定着することを特徴とするPC緊張材の中間定着方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−277826(P2007−277826A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102086(P2006−102086)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000103769)オリエンタル建設株式会社 (136)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】