説明

PEP酵素阻害活性、ならびに抗酸化活性および/または抗神経変性活性を有する、ココアからの生物学的に活性な生成物の生産

本発明は、植物原料、すなわちココア抽出物からの生物学的に活性な生成物の生産に関する。この生成物は、インビトロでのプロリルエンドペプチダーゼ(PEP)酵素阻害活性、ならびにインビボでの抗酸化能および/または抗神経変性能を有する1つ以上の生物学的ペプチドを有し、栄養学、食品および製薬の産業にて使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、植物原料、すなわちココア抽出物からの生物学的に活性な生成物の生産に関する。この生成物は、インビトロでのプロリルエンドペプチダーゼ(PEP)酵素阻害活性、ならびにインビボでの抗酸化能および/または抗神経変性能を有する1つ以上の生物学的ペプチドを有し、栄養学、食品および製薬の産業にて使用され得る。
【0002】
〔背景技術〕
本願は、本願と同一発明者による特許出願PCT/ESS2008/000540の継続出願であることが認識され得る。上記特許出願には、単離されかつ配列によって特徴付けられた一連の8ペプチドの1つ以上を含む、酵素的加水分解によって得られた生物学的に活性な生成物が記載されている。この8つのペプチドの配列は、以下のとおりである:SDNEWAWMF(配列番号29);LSDNEWAWMF(配列番号30);SDNEWAWMFK(配列番号31);LSDNEWAWMFK(配列番号32);RRSDLDNGTPVIF(配列番号33);DNYDNSAGKWWVT(配列番号34);TSTVWRLDNYDNSA(配列番号35)およびDNYDNSAGKWWVTTD(配列番号36)。
【0003】
食品中のタンパク質は、特定の生物学的な活性を有する多数のペプチドの前駆体であり、種々の身体的なプロセスに影響を及ぼす有用な特性を有している。天然製品を開発することに対する非常に多くの興味を集めている。この天然製品は、それを消費するヒトに、健康面で「特別な」有利なある種の効果を提供する。このような興味によって、種々の植物原料供給源を使用して新たな製品および機能的な成分を開発するためのよい機会が訪れる。これらのペプチドを生成することは、栄養学の産業での最新の研究によって可能となり、同様に、新たな機能性食品の生成を可能にする。これにより、食品成分および副生成物の付加価値(慣用的な食品の栄養面での特性を含む。)が向上し、新たなダイエット用サプリメントまたは新たな医薬品が開発される。
【0004】
農業−食品の産業におけるいくつかの副生成物が、高含量のタンパク質および生物学的に活性なペプチドを有しており、付加価値を与える。マトリクスを相当量冨化することによってペプチド含量の増加を増強するための種々のメカニズムが存在し、特定の特徴(例えば、抗高血圧、抗高脂血症、抗神経変性、抗う蝕および抗高リポ蛋白血症の特徴)を与える。
【0005】
蛋白質分解酵素を使用して、特定の位置でタンパク質を加水分解し、複数の生理学的効果を有する広範なペプチドを加水分解生成物中に生成し得る。
【0006】
当該分野における技術常識は、とりわけ以下の文献に見出され得る:特許出願WO91/19800 A1(これは、ココア由来のタンパク質および核酸に関する。特に、請求の範囲は、ココアアロマの前駆体としての、ココア種からのタンパク質アルブミン(21kDa)のフラグメントに関する。)。この特許出願は、205アミノ酸のペプチド、またはそのフラグメントに関し、その機能はココアの香りの前駆体である。
【0007】
欧州特許EP1298210 A1は、チョコレートの香りの前駆体としての、ココア豆からのアルブミンタンパク質およびビシリン(vicilin)タンパク質に由来するペプチドを記載する。この文献には、2〜30アミノ酸、好ましくは2〜5アミノ酸の、その機能がチョコレートの香りの前駆体であるペプチドが記載されている。同様に、この文献の請求の範囲には、アイスクリーム、飲料、乳製品、化粧品、動物の餌、および医薬品を製造するための、これらのペプチドの使用が記載されている。
【0008】
特許出願WO96/38472 A1は、ココアの香りの前駆体であるペプチドとしてアミノ酸配列Lys−Ala−Pro−Leu−Ser−Pro−Gly−Asp−Val−Phe−Valを有するペプチドおよび上記配列中に2〜11アミノ酸が含まれているフラグメントを権利請求している。権利請求された配列およびそのフラグメントは、ココアの香りの前駆体としての機能に寄与している。
【0009】
特許出願WO 02/42327 A2は、ココアの香りの前駆体タンパク質といての、2Sアルブミンタンパク質の単離、精製および同定のプロセスに関する。特に、この特許出願は、ココア/チョコレートの香りを生成するための、上記ポリペプチドまたはそのフラグメントの使用を記載する。
【0010】
特許文献JP 2008019228は、ポリフェノール抽出に供される前のココア抽出物に由来する、アンギオテンシン−1変換酵素(ACE)阻害特性を有するアミノ酸組成物、ならびにこの組成物を含有する食品を記載する。この文献は、上記抽出物に含まれるペプチド/アミノ酸配列を特定しておらず、使用される同定および/または精製のプロセスについて言及されていない。
【0011】
プロリルエンドペプチダーゼ(PEP)酵素活性は、記憶/学習のプロセスの喪失に関する。なぜなら、この酵素は、プロリンリッチなニューロペプチド(例えば、上記プロセスに関連するバゾプレッシンおよびサブスタンスP)を分解するからである。いくつかの研究がまた、上記酵素がアルツハイマー病に関連し得ることを示している。細菌では、数名の研究者が、特定の植物のポリフェノール抽出物がプロリルエンドペプチダーゼ阻害を引き起こしていることを主張している(例えば、Kim et al., (“Prolyl Endopeptidase Inhibitors from Green Tea”, Arch Pharm Res, 24 (4) :292-296 2001)、およびTezuka et al. (“Screening of crude drug extracts for prolylendopeptidase inhibitory activity”, Phytomedicine, 6(3) :197-203 1999))。特許文献US 2007/0116779もまた、ポリフェノール供給源として、薬学的組成物の構成要素の1つとして、そして神経変性疾患(例えばアルツハイマー病またはパーキンソン病)に関連する特定の酵素のインヒビタとしての、ココア豆の使用を記載している。
【0012】
他の研究者は、いくつかのペプチドフラグメントがPEP活性を阻害することを述べている(例えば、Maruyama et al., (“Prolyl Endopeptidase Inhibitory Activity of Peptides in the Repeated Sequence of various Proline-Rich proteins”, Journal of Fermentation and Bioengineering, 74:145-148 1992)、およびAsano et al., (“Inhibition of prolyl endopeptidase by synthetic peptide fragments of human beta-casein”; Agric.Biol.Chem, 55(3):825-828 1991))。しかし、最近では、上記酵素の阻害性の代謝物としてのココアペプチドに関する参考文献はない。
【0013】
従って、この種の阻害活性を有する新たな成分および化合物に対する要求が増加しているので、体によいココアの特性を提供するために、PEP阻害活性を示す、ココア抽出物からの生物学的に活性なペプチドを見出すことの可能性が検討されている。8つのペプチドが単離された。これらは、インビトロでのPEP阻害活性を有しているだけでなく、特許出願PCT/ES/000540に記載された線虫モデルC.elegansを用いたアッセイに従ってインビボでの抗酸化能および/または抗神経変性能もまた示す。
【0014】
驚くことに、継続中の研究において、新たな28個のペプチドを含む、新たな生物学的に活性な生成物が見出されている。
【0015】
〔発明の目的〕
本発明は、インビトロでのPEP酵素阻害活性、ならびにインビボでの抗酸化能および/または抗神経変性能を有する、生物学的に活性な新たなペプチドが冨化された、ココア抽出物からの生物学的に活性な生成物の生産に関する。
【0016】
特に、本発明は、機能性食品に含まれるべき成分として潜在的に使用するためのPEP酵素阻害活性および/または抗酸化能および/または抗神経変性能を有する、精製されたペプチド画分をココアから得ることに関する。
【0017】
生物学的に活性なペプチドは、得られたココア抽出物中に存在する1つ以上のタンパク質またはペプチドの加水分解によって生産され得る。この目的のために、酵素および加水分解条件が、所望のバイオペプチドを得るために設定される。
【0018】
種々の方法論を使用して、これらの阻害活性が研究され得る。インビトロでの試験は、問題のインヒビタの存在下でのPEP酵素活性の測定に基づく。すなわち、本発明において、これはペプチドリッチなココア画分に関する。
【0019】
生物学的に活性なペプチドまたはこれらを含む加水分解物は、機能性食品中に含められ得る。一旦濃縮されると、画分は、食品産業および食品、ならびに医薬品の製造のための製薬産業において使用され得る。好適な量の上記ペプチドを含む生物学的に活性な生成物は、疾患(例えば、血圧コントロール(すなわち高血圧)、変性性疾患(例えばアルツハイマー病、パーキンソン病など))の処置および予防に使用され得る。これらはまた抗酸化剤として使用され得る。よって、本発明は、ココアに関する新たな適用を見出し、健康の観点からのポジティブな再評価に寄与する。
【0020】
本発明の目的である28個のペプチドは、生物学的に活性な生成物に含まれ得、配列決定および同定がなされており、これらを含む任意の原材料または基質より取得され得る。さらに、加水分解物中にて同定されたこれらの生物学的に活性な新たなペプチドは、化学的および/または酵素的なペプチド合成、ならびに組換え法によって取得され得る。
【0021】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、疎水性相互作用のクロマトグラフ(HIC)を示す図であり、214nmでの曲線を観察することで、全てのタンパク質が画分3および4に含まれると結論付けられる.
図2は、HIC(疎水性相互作用のクロマトグラフ)の逆相クロマトグラフを示す図であり、214nmでの曲線を観察することで、全てのタンパク質が画分7および11に含まれると結論付けられる.
図3は、HIC画分4の逆相クロマトグラフを示す図であり、214nmでの曲線を観察することで、全てのタンパク質が画分7および11に含まれると結論付けられる.
図4は、画分F8(31.3μgタンパク質/mL)、F9(18.1μgタンパク質/mL)およびF10(9.9μgタンパク質/mL)を用いた、C.elegans CL4176中のアミロイドβペプチドの集積に対する保護能力のアッセイを示す図である。ポジティブコントロールは、ZPP(0.1mM)およびビタミンC(0.1mg/mL)である。この図から、画分F8、F9およびF10がβアミロイドペプチドの集積に対する保護を提供すると結論付けられ、F9およびF10が最大保護を付与する.
図5は、C.elegans CL2070系統の生存に対する、ペプチド抽出物F8(31.3μgタンパク質/mL)、F9(18.1μgタンパク質/mL)およびF10(9.9μgタンパク質/mL)の効果を示す図である。バーは標準偏差を示す。この図は、酸化ストレス条件に供された場合に、画分F8,F9およびF10からのペプチド抽出物で処置された線虫の生存率がどのように増加するのかを示す.
図6は、線虫C.elegans CL2070系統の生存に対する、ペプチド抽出物F8(31.3μgタンパク質/mL)、F9(18.1μgタンパク質/mL)およびF10(9.9μgタンパク質/mL)の効果を示す図である。ZPP(0.1mM)およびビタミンC(0.1mg/mL)をポジティブコントロールとして使用した。この図は、画分F8,F9およびF10からのペプチド抽出物で処置された線虫に対応する、漸増する生存曲線を示す。
【0022】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、生物学的に活性な生成物を、特に新たなペプチドが富化されたココア画分から得る方法に関し、これらのペプチドは、インビトロでのPEP阻害活性、ならびに/あるいはインビボでの抗酸化能および/または抗神経変性能を有する。特に、本発明は、生物学的に活性なペプチドを得るために、ココア副生産物(バーク)の酵素的な加水分解によって種々のペプチド画分を得ることに基づいており、機能性食品に含ませるための成分として潜在的に使用する目的を有している。
【0023】
本発明の別の局面は、得られたココア抽出物からのペプチドの精製に関する。種々の戦略(例えば、イオン交換または疎水性相互作用による濃縮、および分離(例えばRPC(逆相クロマトグラフィ)またはゲル濾過クロマトグラフィ)を、抽出物中に存在するペプチドに応じて使用する。
【0024】
本発明は、ココア抽出物からの、新たな28個の生物学的に活性なペプチドに関する。このペプチドは、以下に規定されたアミノ酸配列を用いて同定される:配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27および配列番号28。これらは、インビトロでのPEP酵素阻害活性、ならびにインビボでの抗酸化能および/または抗神経変性能を有する。
【0025】
さらに、本発明は、上記生物学的に活性なペプチドの、種々の食品についての機能性成分としての使用に関する。食品は、消費が意図される任意の組成物であることを考慮すると、液体であっても固体であってもよい。
【0026】
本発明の原材料の供給源は、本明細書中に記載された生物学的に活性なペプチドの1つ以上を含む任意の好適な基質であり得る。特定の実施形態において、上記原材料は植物であり、すなわち原材料の供給源はココアである。Theobroma cacaoはココアツリーの特定の名称である。用語ココアはマヤの言語(Ka'kaw)からきており、Theobromaは「神の食べ物」をいうギリシャ語である。より特定には、ココア副産物(いわゆるバーク)が使用され、これは殻付きのココアであり、物理的な加圧によって部分的に脱脂されており、脂質の割合は、重量パーセントで5〜15%の範囲内、好ましくは10%であり得る。
【0027】
原材料の供給源は水に溶解されて、その割合は5〜20%の間を変動し得、好ましくは10%であり得る。一旦バークが水に溶解されると、これは、種々の温度(例えば、40〜60℃、好ましくは50℃で、種々の時間(例えば1〜24時間、好ましくは、1時間、6時間、18時間または24時間)にわたって、種々の濃度の1または複数の加水分解酵素で処理される。目的のペプチドを提供し得る任意の酵素が用いられ得る。特に、使用される酵素は、酵素Termamylの場合、セルロース活性を有する酵素と同等であり、プロテアーゼ活性を有する酵素(例えば、Alcalase、Neutrase、UltrafloまたはFlavourzyme)と同等である。所望の特性を有するバイオペプチドの1つ以上を生産するという条件で、単一の酵素または2つ以上の酵素の組合せが使用される。使用される酵素の濃度は、原材料1gあたり、酵素0.10〜10μLの範囲であり、0.5〜2μLの範囲である。加水分解の条件(pH、温度、圧力、酵素の濃度、反応時間など)は、使用される酵素に応じて最適化される。
【0028】
抽出物を得るために、加水分解反応が一旦完了し、酵素が不活性化される。4000rpmでの遠心分離が15分間行われ、本発明の目的物である、生物学的に活性なペプチドを含む上清が回収され、次いで、単離および精製のために画分および亜画分に分けられる。
【0029】
従って、本発明の別の局面は、ココア抽出物から得られた生物学的に活性なペプチドの精製および同定である。もしも、抽出物中に存在するペプチドが種々のアミノ酸長であり、目的のペプチドが5〜20アミノ酸を有することを考慮すると、所望されないペプチドを除去するために、そして本発明の目的のペプチドを単離および濃縮するために、種々の精製戦略が行われる。例えば、種々の分子量の画分が、加水分解された生成物から限外濾過によって取得され得、イオン交換クロマトグラフィまたは疎水性相互作用クロマトグラフィまたは高速逆相クロマトグラフィまたはゲル濾過クロマトグラフィによって活性な亜画分が単離される。
【0030】
本発明の利点は、新たなペプチドが配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27および配列番号28として示されることだけでなく、上記ペプチドが得られる原材料が、最初のココアから得られた加水分解産物および画分の全てに元々存在し、PEP酵素阻害活性、および/または抗酸化活性および/または抗神経変性活性を同時に示すという、生物学的に活性な特性を有することである。ペプチドおよびこれらのペプチドを含む抽出物の両方が、機能性食品に含まれ得、そして薬学的または栄養学的な化合物の一部を形成し得、種々の疾患(特に心臓血管疾患および中枢の変性)の処置および予防を補助するために使用され得る。
【0031】
〔実施例〕
〔実施例1:生物学的に活性なペプチドが富化されたココア抽出物の調製〕
Ivory Coast からのForastero cocoa種を使用して本プロセスを行った。
【0032】
バークを得るプロセスを、本願と同一発明者による特許文献ES 2286947 A1およびPCT/ES2008/000540に従うプロセスによって、ココアポッドから得られた新鮮なココア種を用いて行った。加圧による脱脂の後に得られた生成物を、本発明の場合、殻付きの豆からのバークと称する。最終的に、連続的な機械的抽出機での加圧によって脱脂して得られた100gのバークを、各々1μL/gの濃度のTermamyl酵素およびAlcalase酵素の組合せとともに1Lの蒸留水中に、1:10(w/v)で溶解し、50℃で1時間撹拌し続けた。撹拌時間が完了した後、100℃で酵素を不活性化し、4000rpmで15分間の遠心分離を行い、約850mLのペプチドリッチな上清を回収した。この上清を用いて、生物学的に活性なペプチドの精製、およびPEP酵素阻害アッセイを行った。
【0033】
〔実施例2:ココア抽出物からのペプチドの精製〕
遠心分離の後に得られた、ペプチドを含む上清を、以下の2ステップに供した。
【0034】
本プロセスの第1ステップは、上記サンプルを、AKTA Explorer chromatographer(GE Healthcare, Amersham Biosciences AB)での疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)による濃縮に供することである。最終的に、HiPrep 16/10 Phenyl FF (high sub)カラムを用い、引き続く溶出のために、平衡化緩衝液(100mMリン酸ナトリウム、1.5M(NHSO(pH7))を、(NHSOの1.5〜0Mのグラジエントで用いた。溶出を214nmにてモニタリングし、得られた10mL画分の各々にて、PEP阻害活性をインビトロで評価した。
【0035】
活性を有する画分を、先ず10kDaフィルタ(Amicon Ultra, Millipore)を用いる限外濾過ステップ、次いで、10kDaより下の画分の逆相クロマトグラフィ(RPC)による精製ステップに供した。AKTA Explorer chromatographer(Amersham Biosciences)での3mLカラム(Amersham Biosciences)、そして、ミリQ水中に0.1%TFA(A)およびアセトニトリル中に0.1%TFA(B)を用いる広範な溶出グラジエントを用いた。プロセス中で用いた溶媒を除去した後に、サンプルを214nmでモニタリングした。得られた画分の各々(今回の場合は2mL)にて、PEP阻害活性をインビトロで再評価した。
【0036】
〔実施例3:インビトロでのPEP酵素阻害活性の評価〕
〔A.PEP阻害活性の評価〕
プロリルエンドペプチダーゼ(PEP)酵素活性を、Yoshimotoによって記載された方法(Yoshimoto, T. and Tsuru, D. 1978. Agr. Biol. Chem., 42, 2417; Yoshimoto, T., Walter, R. and Tsuru, D. 1980. J. Biol. Chem., 255, 4786)) に従い、基質Z−Gly−Pro−p−ニトロアニリンの使用に基づいて測定した。PEP酵素の作用によってこの基質からp−ニトロアニリンが放出される。これは、分光光度計で410nmでの吸収を読み取ることによって定量化され得る。
【0037】
PEP阻害活性を、反応混合物に試験サンプルを添加することによって測定した。最初のバーク阻害を、酵素処理ナシのコントロールとして測定し、市販の酵素を用いたタンパク質加水分解の後に精製したHIC画分を測定した。(図1)。
【0038】
疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)によって種々の画分を分離した。表1は、バークサンプルおよび種々の画分のPEP阻害パーセントを示す。
【0039】
表1は、精製の第1段階を通してのサンプル全てのPEP酵素阻害の結果を含んでいる。
【0040】
〔表1:バークサンプルおよび疎水性相互作用画分のPEP阻害パーセント〕
【0041】
【表1】

【0042】
疎水性相互作用クロマトグラフィによる精製によって得られた画分3および4を、最大のPEP酵素阻害能を有しているものとして選択した。よって、これらを逆相クロマトグラフィに供した(図2および3)。表2および3は、疎水性相互作用画分3および4に由来する、逆相クロマトグラフィによって得られた画分のPEP酵素阻害値、ならびに各々のタンパク質含量を含んでいる。
【0043】
〔表2:疎水性相互作用の画分3より得られたRPC画分の、PEP阻害のパーセントおよびタンパク質定量〕
【0044】
【表2】

【0045】
〔表3:疎水性相互作用の画分4より得られたRPC画分の、PEP阻害のパーセントおよびタンパク質定量〕
【0046】
【表3】

【0047】
HIC画分4からの、RPC画分8,9および10は、最大のPEP酵素阻害値を示したので、これらを、タンパク質含量の評価のために選択した。これらの画分を、質量分析MS/MSによって分析し、28個の新たなペプチドを同定し、これらの配列を表4に挙げた。
【0048】
〔表4:HIC画分4からの、RPC画分8,9および10において同定された28個のペプチドの配列(ペプチド8および12が画分9および10の両方にて同定された)〕
【0049】
【表4】

【0050】
〔実施例3:RPC(逆相クロマトグラフィ)画分のインビボでの評価〕
〔A. C.elegansでの画分の抗神経変性能の評価〕
本研究の目的は、インビトロでのプロリルエンドペプチダーゼ阻害についてのポジティブな結果を与えたRPC画分の機能をインビボで評価することである。この目的のためにモデル生物としてCaenorhabditis elegansを用いた。上記機能は、神経変性疾患であるアルツハイマー病の発達に対して、上記抽出物によって提供される潜在的な保護に関する。この能力を評価するために、HIC画分4からのRPC画分8、9および10を選択し、C.elegans CL4176トランスジェニック系統を用いて無力化(paralisis)を決定するための試験を行った。この系統は、温度での誘導の後にヒトアミロイドβペプチド(Ab1−42)を発現することが特徴付けられている。
【0051】
以前公開された文献中のデータは、アミロイドβペプチドプラークの形成は酸化ストレスに続いて起こることを示す(Drake et al., “Oxidative stress precedes fibrillar deposition of Alzheimer´s disease amyloid beta-peptide (1-42) in a transgenic Caenorhabditis elegans model” Neurobiol Aging 2003, 24(3):415-20)。よって、分子または化合物の作用によって発揮される効果が、ニューロンにおける線維性Aβペプチド沈着の集積により強い体制を提供するか否かを評価することは興味深い。これらのトランスジェニック線虫において、上記ペプチドの発現は、目的の分子または化合物の添加後に評価され得る無力化を引き起こす。
【0052】
実験を行うために、NGM(線虫増殖培地)上にて16℃でプレート培養するによって、年齢を同調させたCL4176系統線虫を得た。100μLの各ペプチド画分(F8,F9およびF10)を含むNGMプレート上で卵を回収した。ポジティブコントロールは、最終濃度0.1mM(プレート表面に10mMストックを100μL)のZ−プロリルプロリナル、および最終濃度0.1μg/mL(0.04mg/mLストックを25μL)のビタミンCである。ネガティブコントロールは、NGM,およびNGM−非誘導(実験を通じて線虫を16℃でインキュベート)である。条件あたり100匹の線虫を分析した。インキュベートの1日後(線虫は約20時間齢)に温度を16℃から25℃に上げてAbペプチド発現を誘導した。次いでインキュベートの24時間後に温度を20℃に下げ、試験期間の残りにわたって維持した。インキュベートの後に、無力化した線虫の割合が100%に達するまで、試験した各条件について、無力化した線虫の数を分析した。
【0053】
図4は、C.elegans CL4176系統を用いた無力化試験の完了に際して得られた結果を示す。これは、試験した画分(F8,F9およびF10)が、NGM誘導コントロールと比較してアミロイドβペプチド集積に対する保護を提供する証拠であり、画分F9およびF10が同様のレベルで最大保護を示している。アミロイドβペプチドを誘導していない線虫は、無力化を患わない。
【0054】
〔B: C.elegansでのペプチド画分の抗酸化能の評価〕
実験を行うために、NGM上にて20℃でプレート培養するによって、年齢を同調させたCL2070系統線虫を得た。100μLの各ペプチド画分(F8,F9およびF10)を含むNGMプレート上で卵を回収した。ポジティブコントロールは、最終濃度0.1mM(プレート表面に10mMストックを100μL)のZ−プロリルプロリナル、および最終濃度0.1μg/mL(0.04mg/mLストックを25μL)のビタミンCである。ネガティブコントロールは、NGMである。条件あたり100匹の線虫を分析した。上記条件下でのインキュベートの7日後に、線虫を酸化ストレスに供した。最終的に、線虫を、H(2mM)を含むS基本培地を含むプレートに移した。プレートを20℃でインキュベートし、5時間後に処置後に生存する線虫の総数を記録した。
【0055】
図5は、H(2mM)を5時間用いた酸化ストレスに供した後にペプチド抽出物(F8,F9およびF10)で処理した線虫の生存の増加を、NGMネガティブコントロールと比較して示す。
【0056】
〔C: 培養培地へのペプチド画分の添加後のC.elegans生存の評価〕
実験を行うために、NGM上にて20℃でプレート培養するによって、年齢を同調させたCL2070系統線虫を得た。100μLの各ペプチド画分(F8,F9およびF10)を含むNGMプレート上で卵を回収した。ポジティブコントロールは、最終濃度0.1mM(プレート表面に10mMストックを100μL)のZ−プロリルプロリナル、および最終濃度0.1μg/mL(0.04mg/mLストックを25μL)のビタミンCである。ネガティブコントロールは、NGMである。条件あたり100匹の線虫を分析した。各条件下での線虫生存の数を、生存する線虫が残らなくなるまで2日毎に係数した。
【0057】
図6は、21日間にわたる種々の条件下にて増殖する線虫についての生存曲線を示す。NGMネガティブコントロールと比較した場合に、ポジティブコントロールおよびペプチド画分の両方が線虫の寿命を延長したことは注目に値する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】疎水性相互作用のクロマトグラフ(HIC)を示す図であり、214nmでの曲線を観察することで、全てのタンパク質が画分3および4に含まれると結論付けられる。
【図2】HIC(疎水性相互作用のクロマトグラフ)の逆相クロマトグラフを示す図であり、214nmでの曲線を観察することで、全てのタンパク質が画分7および11に含まれると結論付けられる。
【図3】HIC画分4の逆相クロマトグラフを示す図であり、214nmでの曲線を観察することで、全てのタンパク質が画分7および11に含まれると結論付けられる。
【図4】画分F8(31.3μgタンパク質/mL)、F9(18.1μgタンパク質/mL)およびF10(9.9μgタンパク質/mL)を用いた、C.elegans CL4176中のアミロイドβペプチドの集積に対する保護能力のアッセイを示す図である。ポジティブコントロールは、ZPP(0.1mM)およびビタミンC(0.1mg/mL)である。この図から、画分F8、F9およびF10がβアミロイドペプチドの集積に対する保護を提供すると結論付けられ、F9およびF10が最大保護を付与する。
【図5】C.elegans CL2070系統の生存に対する、ペプチド抽出物F8(31.3μgタンパク質/mL)、F9(18.1μgタンパク質/mL)およびF10(9.9μgタンパク質/mL)の効果を示す図である。バーは標準偏差を示す。この図は、酸化ストレス条件に供された場合に、画分F8,F9およびF10からのペプチド抽出物で処置された線虫の生存率がどのように増加するのかを示す。
【図6】線虫C.elegans CL2070系統の生存に対する、ペプチド抽出物F8(31.3μgタンパク質/mL)、F9(18.1μgタンパク質/mL)およびF10(9.9μgタンパク質/mL)の効果を示す図である。ZPP(0.1mM)およびビタミンC(0.1mg/mL)をポジティブコントロールとして使用した。この図は、画分F8,F9およびF10からのペプチド抽出物で処置された線虫に対応する、漸増する生存曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ココア抽出物より得られる生物学的に活性な生成物であって、
(a)5〜20アミノ酸の鎖より形成される1つ以上のペプチドを含み、
(b)インビトロでPEP酵素阻害活性を発揮し、
(c)インビボでの抗酸化能および/または抗神経変性能を有し、
SDNEWAWMF(配列番号29);LSDNEWAWMF(配列番号30);SDNEWAWMFK(配列番号31);LSDNEWAWMFK(配列番号32);RRSDLDNGTPVIF(配列番号33);DNYDNSAGKWWVT(配列番号34);TSTVWRLDNYDNSA(配列番号35)およびDNYDNSAGKWWVTTD(配列番号36)からなる群より選択される1つ以上のペプチドを含む生物学的に活性な生成物を除く、生成物。
【請求項2】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27および配列番号28の群からの1つ以上のペプチドを含む、請求項1に記載のココア抽出物より得られる生物学的に活性な生成物。
【請求項3】
バークといわれる殻を有するココア生成物から酵素的加水分解によって得られる、請求項1または2に記載のココア抽出物より得られる生物学的に活性な生成物。
【請求項4】
酵素的加水分解の前に前記バークが物理的加圧によって脱脂されて5〜15%、好ましくは10%の脂質を有している、請求項1〜3のいずれか一項に記載のココア抽出物より得られる生物学的に活性な生成物。
【請求項5】
脱脂された前記生成物が水中に5〜20%溶解されており、酵素的加水分解の工程に供され、
上記工程において、1つ以上の酵素が得られた水溶液に添加され、40〜60℃の温度が連続する1〜24時間にわたって、適切なpHにて維持される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のココア抽出物より得られる生物学的に活性な生成物。
【請求項6】
酵素的加水分解が、Termamyl、Alcalase、Neutrase、UltrafloまたはFlavourzymeの群に属する1つ以上の酵素によって行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のココア抽出物より得られる生物学的に活性な生成物。
【請求項7】
前記生物学的に活性なペプチドが、加水分解が完了した後に加水分解抽出物の遠心分離によって上清から得られる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のココア抽出物より得られる生物学的に活性な生成物。
【請求項8】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27および配列番号28の群からの1つ以上のペプチドを含み、これが、抗高血圧活性および/または抗神経変性活性および/または抗酸化活性をもたらすに要求される量にて機能性食品に添加されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の生物学的に活性な生成物の、使用。
【請求項9】
インビトロでのPEP酵素阻害活性、ならびにインビボでの抗酸化能および/または抗神経変性能を有する1つ以上の生物学的に活性なペプチドを含む、請求項8に記載の機能性食品。
【請求項10】
神経変性状態を処置する医薬を製造するための、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27および配列番号28の群からの1つ以上のペプチドを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の生物学的に活性な生成物の、使用。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27および配列番号28の群からの1つ以上のペプチドを含み、抗高血圧活性および/または抗神経変性活性および/または抗酸化活性を有する、薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−515703(P2013−515703A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545359(P2012−545359)
【出願日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【国際出願番号】PCT/ES2009/000597
【国際公開番号】WO2011/076954
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(512166636)
【氏名又は名称原語表記】Biopolis S.L.
【住所又は居所原語表記】c/ Catedratico Agustin Escardino,No.9,Parc Cientific Universitat de Valencia−Edifico 2,46980 Paterna(Valencia), Spain
【出願人】(508258781)
【氏名又は名称原語表記】NATRACEUTICAL INDUSTRIAL, S.L.U.
【住所又は居所原語表記】Autovia A−3. Salida 343,Cami de Torrent s/n,E−46930 Quart de Poblet−Valencia,Spain
【Fターム(参考)】