説明

PLL回路およびICチップ

【課題】非接触ICチップに設けられる発振器の周波数を上げることなく、通信の転送レートを上げることができるようにする。
【解決手段】外部からの制御信号に従ってφの値が変更され、cosφで表される発振出力信号と、sinφで表される発振出力信号が可変型発振器71から出力される。可変型発振器71から出力された信号の掛け算、加算等が行われ、信号sin(ωt+φ)と、それを基準としてπ/2だけ位相がずれた信号である信号cos(ωt+φ)が出力される。この出力に基づいて、いまの、クロック信号との位相差などが判断され、位相差に応じた制御信号が可変型発振器71に供給されてくる。本発明は、非接触ICチップに搭載されるPLLに適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL(Phase Lock Loop)回路およびICチップに関し、特に、非接触ICチップに設けられる発振器の周波数を上げることなく、通信の転送レートを上げることができるようにするPLL回路およびICチップに関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来のPLL回路の例を示す図である。
【0003】
位相比較器1は、入力される基準入力信号Asinωt(Aは定数)と、制御型発振器3から供給されてきた発振出力信号−cos(ωt+φ)の位相を比較し、位相差を表す信号を低域通過フィルタ2に出力する。
【0004】
低域通過フィルタ2は、位相比較器1から供給されてきた信号の高周波成分を除去し、得られた信号を制御信号として制御型発振器3に出力する。低域通過フィルタ2の出力は、基準入力信号Asinωtと発振出力信号−cos(ωt+φ)を掛け算し、その高周波成分を除いたものであるから、図1に示すように−φ(≒−sinφ)で表される。
【0005】
制御型発振器3は、例えば、VOC(Voltage Controlled Oscillator)であり、低域通過フィルタ2から供給されてきた制御信号に応じた周波数の発振出力信号−cos(ωt+φ)を位相比較器1に出力する。
【0006】
このような構成を有するPLL回路により、外部から入力されてきた信号に基づいてクロック信号が再生される。
【0007】
ところで、このようなPLL回路を含む通信モジュールが搭載されている機器として、外部に設けられたリーダライタと非接触で通信を行う非接触ICチップがあり、この非接触ICチップとリーダライタの間では、マンチェスタ符号を用いてデータのやりとりが行われる。
【0008】
マンチェスタ符号は、デューティー比50%のクロック信号を基準として、H(High)レベル、L(Low)レベルの並びにより“0”の値(データ)を表し、Lレベル、Hレベルの並びにより“1”の値を表すものである。マンチェスタ符号により符号化されたデータを表す信号(マンチェスタ信号)は下式(1)により表される。
【0009】
【数1】

【0010】
従って、図1に示すようなPLL回路が非接触ICチップに設けられる場合、そのPLL回路には、式(1)で表される信号が入力されてくることから、D(t)の値に応じて、すなわち、リーダライタから送信されたデータの内容に応じて位相が逆転してしまい、ロック状態(位相差0の安定化した状態)をキープすることが困難になる。
【0011】
そこで、非接触ICチップには、データの極性を考慮してマンチェスタ信号(PSK(Phase Shift Keying)信号)に追従して位相を制御することができるように、クロック生成回路として、例えば、図2に示すようなコスタスループが設けられる。
【0012】
掛け算器11−1(I乗算器)は、アンテナの後段に設けられるRF(Radio Frequency)アンプなどを介して入力されてきたPSK変調信号Asin(ωt+D(t)π)と、電圧制御型発振器14から供給されてきた発振出力信号sin(ωt+φ)を掛け算し、得られた信号を低域通過フィルタ12−1に出力する。
【0013】
掛け算器11−2(Q乗算器)は、PSK変調信号Asin(ωt+D(t)π)と、電圧制御型発振器14から掛け算器11−1に供給される信号を基準としてπ/2だけ位相が遅れた発振出力信号−cos(ωt+φ)を掛け算し、得られた信号を低域通過フィルタ12−2に出力する。
【0014】
低域通過フィルタ12−1は、掛け算器11−1から供給されてきた信号の高周波成分を除去し、得られた信号を、復調データD(t)(図の「〜」は、リーダライタから送信されたデータ(D(t))に対応するものとして、受信信号から再生されたデータであることを表す)として外部に出力するとともに、PSK変調信号と発振出力信号の位相比較結果(Iアームの位相比較結果)を表す信号として掛け算器13に出力する。
【0015】
低域通過フィルタ12−2は、掛け算器11−2から供給されてきた信号の高周波成分を除去し、得られた信号を、PSK変調信号と発振出力信号の位相比較結果(Qアームの位相比較結果)を表す信号として掛け算器13に出力する。
【0016】
掛け算器13は、低域通過フィルタ12−1から供給されてきた信号と、低域通過フィルタ12−2から供給されてきた信号を掛け算し、得られた信号D(t)φを制御信号として電圧制御型発振器14に出力する。
【0017】
電圧制御型発振器14は、掛け算器13から供給されてきた制御信号D(t)φに基づいて、発振出力信号sin(ωt+φ)を掛け算器11−1に、発振出力信号−cos(ωt+φ)を掛け算器11−2に、それぞれ出力する。
【0018】
図3は、図2のコスタスループをディジタル化した例を示す図である。
【0019】
図2の掛け算器11−1,11−2をEX-OR回路(排他的論理和演算回路)に、低域通過フィルタ12−1,12−2をディジタルフィルタに、電圧制御型発振器14をNCO(Numerical Controlled Oscillator)にそれぞれ置き換え、掛け算器13の掛け算結果(電圧制御型発振器の制御ルール)をテーブル化することにより、コスタスループをディジタル化することができる。
【0020】
ハードリミッタ21は、PSK変調信号を2値化し、得られた2値化信号をEX-OR回路22−1と22−2にそれぞれ出力する。なお、図3中の「」内の説明は、図3のコスタスループを非接触ICチップの1つであるFeliCa(登録商標)に適用した場合の値等の具体例を示す。例えば、ハードリミッタ21に入力されるPSK変調信号は、転送レートが211Kbpsのデータを表す信号であり、ハードリミッタ21においては、PSK変調信号の1周期が8サンプルのデータに2値化される。
【0021】
EX-OR回路22−1は、ハードリミッタ21から供給されてきた2値化信号と、NCO27(分周比可変型分周器32)から供給されてきた発振出力信号の排他的論理和演算を行い、演算結果を低域通過フィルタ23−1に出力する。分周比可変型分周器32からは、図3のコスタスループに入力されるPSK変調信号の周波数とほぼ同じ周波数の信号が供給されてくる。
【0022】
EX-OR回路22−2は、ハードリミッタ21から供給されてきた2値化信号と、NCO27から供給されてきた発振出力信号の排他的論理和演算を行い、演算結果を低域通過フィルタ23−2に出力する。分周比可変型分周器32からは、図3のコスタスループに入力されるPSK変調信号の周波数とほぼ同じ周波数の信号であって、EX-OR回路22−1に供給される信号を基準としてπ/2だけ位相が遅れた信号が供給されてくる。
【0023】
低域通過フィルタ23−1は、EX-OR回路22−1の出力の移動平均を求め、求めた移動平均を、Iアームの位相比較結果として3値化回路24−1に出力する。例えば、PSK変調信号の1周期が8サンプルのデータに2値化されているとすると、その半周期(4サンプルのデータ)を対象として移動平均が求められ、移動平均を5値で表す信号が3値化回路24−1に出力される。
【0024】
低域通過フィルタ23−2は、EX-OR回路22−2の出力の移動平均を求め、求めた移動平均を、Qアームの位相比較結果として3値化回路24−2に出力する。
【0025】
3値化回路24−1は、低域通過フィルタ23−1から供給されてきた移動平均を例えば3値化し、3値化した移動平均をテーブル管理部25に出力する。
【0026】
3値化回路24−2は、低域通過フィルタ23−2から供給されてきた移動平均を例えば3値化し、3値化した移動平均をテーブル管理部25に出力する。
【0027】
テーブル管理部25は、分周比可変型分周器32の分周比の制御方向と、低域通過フィルタ23−1,23−2等により得られた位相比較結果(移動平均)を対応させた制御テーブルを管理しており、3値化回路24−1,24−2から供給されてきた移動平均に基づいて制御方向を決定し、制御信号を標準化回路26に出力する。
【0028】
標準化回路26は、テーブル管理部25から供給されてきた制御信号の標準化(エッジ位置の平均化等)を行うことによってノイズの影響を除去し、標準化された制御信号を分周比可変型分周器32に出力する。制御信号の標準化は、例えば、1周期分のデータである8サンプルのデータ毎に行われ、標準化された制御方向を表す。
【0029】
NCO27は発振器31と分周比可変型分周器32からなる。発振器31は、所定の周波数(N×Frate)の発振出力信号を分周比可変型分周器32に出力する。発振器31からは、例えば、13.56MHz(64×211Kbps)の信号が出力される。
【0030】
分周比可変型分周器32は、標準化回路26から供給されてきた制御信号の正負により分周比を決定し、発振器31の発振出力信号を、その決定した比(N±1)で分周する。分周比可変型分周器32は、得られた発振出力信号(図3のコスタスループに入力されるPSK変調信号の周波数とほぼ同じ周波数の信号)をEX-OR回路22−1に出力するとともに、EX-OR回路22−1に出力した信号を基準としてπ/2だけ位相が遅れた発振出力信号をEX-OR回路22−2に出力する。分周比Nの値は例えば64とされる。
【0031】
図4A乃至Eは、以上のような構成を有する図3のコスタスループで扱われる信号の例を示す図である。
【0032】
図4Aの波形は、図3のコスタスループに入力されたデータ(クロック信号)を表す。
【0033】
図4B上段の波形は、分周比可変型分周器32からEX-OR回路22−1に供給される発振出力信号とクロック信号との位相差が0であるときの、その、分周比可変型分周器32からEX-OR回路22−1に供給される発振出力信号を表す。波形の0レベルの位置を基準として上側に示す数字(図4B上段の場合0)は、EX-OR回路22−1により行われる発振出力信号とクロック信号の演算結果を表し、0レベルの位置を基準として下側に示す数字(図4B上段の場合0)は、EX-OR回路22−1による演算結果の移動平均を表す。ただし、表記は移動平均の4倍の値になっている。移動平均は、半周期である4サンプルのデータを対象として求められたものである。
【0034】
すなわち、クロック信号との位相差が0である場合、0レベルが続く信号が演算結果としてEX-OR回路22−1から低域通過フィルタ23−1に出力され、半周期の4サンプルのデータを対象として求められた移動平均である0を表す信号が低域通過フィルタ23−1から3値化回路24−1に出力される。
【0035】
なお、図4B下段の波形の他、図4C乃至Eの波形においても、0レベルの位置を基準として上側、下側に示す数字は、それぞれ、発振出力信号とクロック信号の排他的論理和演算の結果と、移動平均を表す。
【0036】
図4B下段の波形は、分周比可変型分周器32からEX-OR回路22−2に供給される発振出力信号とクロック信号との位相差が0であるときの、その、分周比可変型分周器32からEX-OR回路22−2に供給される発振出力信号(図4B上段の信号を基準としてπ/2だけ位相が遅れた信号)を表す。図4B下段に示すように、この場合、「00110011」を1周期毎に繰り返す信号が演算結果としてEX-OR回路22−2から低域通過フィルタ23−2に出力され、半周期の4サンプルのデータを対象として求められた移動平均である2を表す信号が低域通過フィルタ23−2から3値化回路24−2に出力される。
【0037】
図4C上段の波形は、分周比可変型分周器32からEX-OR回路22−1に供給される発振出力信号とクロック信号との位相差がπ/2であるときの、その、分周比可変型分周器32からEX-OR回路22−1に供給される発振出力信号を表す。図4C上段に示すように、この場合、「00110011」を1周期毎に繰り返す信号が演算結果としてEX-OR回路22−1から低域通過フィルタ23−1に出力され、半周期の4サンプルのデータを対象として求められた移動平均である2を表す信号が低域通過フィルタ23−1から3値化回路24−1に出力される。
【0038】
図4C下段の波形は、分周比可変型分周器32からEX-OR回路22−2に供給される発振出力信号とクロック信号との位相差がπ/2であるときの、その、分周比可変型分周器32からEX-OR回路22−2に供給される発振出力信号(図4C上段の信号を基準としてπ/2だけ位相が遅れた信号)を表す。図4C下段に示すように、この場合、1レベルが続く信号が演算結果としてEX-OR回路22−2から低域通過フィルタ23−2に出力され、半周期の4サンプルのデータを対象として求められた移動平均である4を表す信号が低域通過フィルタ23−2から3値化回路24−2に出力される。
【0039】
図4D上段の波形は、分周比可変型分周器32からEX-OR回路22−1に供給される発振出力信号とクロック信号との位相差がπであるときの、その、分周比可変型分周器32からEX-OR回路22−1に供給される発振出力信号を表す。図4D上段に示すように、この場合、1レベルが続く信号が演算結果としてEX-OR回路22−1から低域通過フィルタ23−1に出力され、半周期の4サンプルのデータを対象として求められた移動平均である4を表す信号が低域通過フィルタ23−1から3値化回路24−1に出力される。
【0040】
図4D下段の波形は、分周比可変型分周器32からEX-OR回路22−2に供給される発振出力信号とクロック信号との位相差がπであるときの、その、分周比可変型分周器32からEX-OR回路22−2に供給される発振出力信号(図4D上段の信号からπ/2だけ位相が遅れた信号)を表す。図4D下段に示すように、この場合、「11001100」を1周期毎に繰り返す信号が演算結果としてEX-OR回路22−2から低域通過フィルタ23−2に出力され、半周期の4サンプルのデータを対象として求められた移動平均である2を表す信号が低域通過フィルタ23−2から3値化回路24−2に出力される。
【0041】
図4E上段の波形は、分周比可変型分周器32からEX-OR回路22−1に供給される発振出力信号とクロック信号との位相差が3π/2であるときの、その、分周比可変型分周器32からEX-OR回路22−1に供給される発振出力信号を表す。図4E上段に示すように、この場合、「11001100」を1周期毎に繰り返す信号が演算結果としてEX-OR回路22−1から低域通過フィルタ23−1に出力され、半周期の4サンプルのデータを対象として求められた移動平均である2を表す信号が低域通過フィルタ23−1から3値化回路24−1に出力される。
【0042】
図4E下段の波形は、分周比可変型分周器32からEX-OR回路22−2に供給される発振出力信号とクロック信号との位相差が3π/2であるときの、その、分周比可変型分周器32からEX-OR回路22−2に供給される発振出力信号(図4E上段の信号からπ/2だけ位相が遅れた信号)を表す。図4E下段に示すように、この場合、0レベルが続く信号が演算結果としてEX-OR回路22−2から低域通過フィルタ23−2に出力され、半周期の4サンプルのデータを対象として求められた移動平均である0を表す信号が低域通過フィルタ23−2から3値化回路24−2に出力される。
【0043】
このようにして得られた移動平均0が−1、移動平均2が0、移動平均4が1といったように、移動平均が3値化回路24−1,24−2において3値(−1,0,1)で表され、それぞれの値を表す信号がテーブル管理部25に出力される。
【0044】
図5は、横軸を位相差、縦軸を3値(移動平均)として、Iアーム、Qアームの位相比較結果をそれぞれプロットしてグラフ化したものを示す図である。図5において、実線は図4B乃至E上段のIアームの位相比較結果を表し、点線は図4B乃至E下段のQアームの位相比較結果を表す。
【0045】
テーブル管理部25は、図5に示すようなグラフを有しており、3値化回路24−1から供給されてくるIアームの位相比較結果の移動平均と、3値化回路24−2から供給されてくるQアームの位相比較結果の移動平均をモニタすることによって、いま、クロック信号を基準として位相がどれだけずれているのかを判断することができる。
【0046】
例えば、Iアームの位相比較結果の移動平均が2(−1,0,1で3値化した場合0)、Qアームの位相比較結果の移動平均が4(−1,0,1で3値化した場合1)である場合、テーブル管理部25は、図5のグラフでその両方の値をとる位相差を見つけ、いま、クロック信号との位相差がπ/2あることを判断することができる。
【0047】
これにより、テーブル管理部25は、いまの状態から、クロック信号との同期がとれた状態にするためには(位相差を0の状態にするためには)、分周比可変型分周器32の分周比をどのように制御すればよいのかを判断することが可能になる。位相差と、分周比の制御方向を対応付けた制御ルールのテーブルを図6に示す。図6においては、制御方向を+、−により示している。
【0048】
このように、あらかじめ用意されている制御テーブルのルールに従って、π/2だけ位相がずれた発信出力信号による位相比較結果の正負を基準として分周器の分周比を制御するコスタスループについては特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平11−274919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0049】
ところで、以上のようにして分周器の分周比を制御することによってクロック信号との位相の同期を確保する従来の方法では、クロック信号に追従させるために制御する位相の分解能に限界があるという課題があった。
【0050】
すなわち、NCO(分周器)からEX-OR回路に供給される発振出力信号の周波数は下式(2)で表されるため、リーダライタ−非接触ICチップ間の通信をより高い転送レートで行うためにはNdivの値を小さくして、発振出力信号の周波数Fncoを高くする必要があるところ、Ndivの値を小さくすると、位相を制御するために十分な分解能を確保することが困難になる。
【0051】
【数2】

【0052】
例えば、図3に示すように、分周比可変型分周器32の分周比Nの値が64程度であれば、2π/64の分解能で位相を制御することができるが、図7に示すように、発振器の周波数Fmclkは13.56MHzのまま、リーダライタ−非接触ICチップ間の通信の転送レートを847KHz(周波数Fncoを847KHz)とするためには分周比Ndivの値を16とする必要があり、この場合、2π/16の粒度、すなわち、分周比の値が64であるときと較べて1/4程度の粒度でしか、位相を制御することができない。
【0053】
このことは、リーダライタ−非接触ICチップ間の通信の転送レートをより高くすべく、分周比Ndivの値を小さくするほど顕著になる。
【0054】
一方、転送レートを高くするためには、発振器の周波数Fmclkの値を大きくすることも考えられるが、リーダライタからの電磁波を受信し、受信した電磁波から生成された電源を元に駆動する非接触ICチップの発振器という観点からは、周波数Fmclkの値を大きくすることは好ましくない。
【0055】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、非接触ICチップに設けられる発振器の周波数を上げることなく、通信の転送レートを上げることができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0056】
本発明の第1のPLL回路の発振器は、位相の異なる2つの繰り返し波形と、夫々の波形に対して適切な乗数との乗算結果を求め、その線形和として発振器出力を得ることを特徴とする。
【0057】
線形和の係数を変化させる事により、前記発振器の出力波形の位相を制御するようにすることができる。
【0058】
本発明の第2のPLL回路、および本発明のICチップに設けられるPLL回路は、第1の信号と、第1の信号を基準としてπ/2だけ位相がずれた信号である第2の信号とを発生する発生手段と、外部からの電磁波を復調して得られたPSK変調信号との位相比較結果である第1の位相比較結果と、第1の位相比較結果を基準としてπ/2だけ位相がずれた、2値化信号との位相比較結果である第2の位相比較結果とを、発生手段により発生された第1、第2の信号の線形和で表すように演算を行う演算手段と、演算手段による演算により求められた第1、第2の位相比較結果に基づいて、発生手段により発生させる第1、第2の信号の線形和の係数を変化させる事により制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0059】
制御手段は、演算手段による演算により求められた第1、第2の位相比較結果と対応付けて、発生手段の制御内容を表す情報を管理し、管理している情報を参照して、発生手段により発生させる第1、第2の信号の位相を制御するようにすることができる。
【0060】
演算手段は、PSK変調信号から得られる位相の異なる2つの繰り返し波形を、C=cosφ、S=sinφ(φは必要となる繰り返し波形の位相)で表されるC,Sでそれぞれ乗算し、乗算結果の線形和を第1、または第2の位相比較結果として出力するようにすることができる。
【0061】
本発明の第1のPLL回路においては、位相の異なる2つの繰り返し波形と、夫々の波形に対して適切な乗数との乗算結果が求められ、その線形和として発振器出力が得られる。
【0062】
本発明の第2のPLL回路、および本発明のICチップに設けられるPLL回路においては、第1の信号と、第1の信号を基準としてπ/2だけ位相がずれた信号である第2の信号とが発生され、外部からの電磁波を復調して得られたPSK変調信号との位相比較結果である第1の位相比較結果と、第1の位相比較結果を基準としてπ/2だけ位相がずれた、2値化信号との位相比較結果である第2の位相比較結果とが、第1、第2の信号の線形和で表すように演算が行われる。また、演算により求められた第1、第2の位相比較結果に基づいて、線形和の係数を変化させる事により、同期状態が制御される。
【発明の効果】
【0063】
本発明によれば、非接触ICチップに設けられる発振器の周波数を上げることなく、通信の転送レートを上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、本明細書に記載の発明と、発明の実施の形態との対応関係を例示すると、次のようになる。この記載は、請求項に記載されている発明をサポートする実施の形態が本明細書に記載されていることを確認するためのものである。従って、発明の実施の形態中には記載されているが、発明に対応するものとして、ここには記載されていない実施の形態があったとしても、そのことは、その実施の形態が、その発明に対応するものではないことを意味するものではない。逆に、実施の形態が発明に対応するものとしてここに記載されていたとしても、そのことは、その実施の形態が、その発明以外の発明には対応しないものであることを意味するものでもない。
【0065】
さらに、この記載は、本明細書に記載されている発明の全てを意味するものではない。換言すれば、この記載は、本明細書に記載されている発明であって、この出願では請求されていない発明の存在、すなわち、将来、分割出願されたり、補正により追加される発明の存在を否定するものではない。
【0066】
請求項1に記載のPLL回路の発振器(例えば、図9の構成からなる発振器)は、位相の異なる2つの繰り返し波形と、夫々の波形に対して適切な乗数との乗算結果を求め、その線形和として発振器出力を得ることを特徴とする。
【0067】
請求項3に記載のPLL回路は、第1の信号と、前記第1の信号を基準としてπ/2だけ位相がずれた信号である第2の信号とを発生する発生手段(例えば、図12の可変型発振器110)と、外部からの電磁波を復調して得られたPSK変調信号との位相比較結果である第1の位相比較結果と、前記第1の位相比較結果を基準としてπ/2だけ位相がずれた、前記2値化信号との位相比較結果である第2の位相比較結果とを、前記発生手段により発生された前記第1、第2の信号の線形和で表すように演算を行う演算手段(例えば、図14の掛け算器103−1,103−2,104−1,104−2、加算器105−1,105−2)と、前記演算手段による演算により求められた前記第1、第2の位相比較結果に基づいて、前記発生手段により発生させる前記第1、第2の信号の位相を制御する制御手段(例えば、図14のテーブル管理部108)とを備えることを特徴とする。
【0068】
請求項4に記載のPLL回路の制御手段は、前記演算手段による演算により求められた前記第1、第2の位相比較結果と対応付けて、前記発生手段の制御内容を表す情報(制御テーブル)を管理し、管理している情報を参照して、前記発生手段により発生させる前記第1、第2の信号の位相を制御することを特徴とする。
【0069】
請求項6に記載のICチップにおいても、各手段が対応する実施の形態(但し一例)は、請求項1に記載のPLL回路と同様である。
【0070】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0071】
図8は、本発明を適用した非接触ICチップ51の一部の構成例を示すブロック図である。
【0072】
非接触ICチップ51は、例えば、電車の駅に設置されている改札機のリーダライタに翳されるカードなどに内蔵されるものであり、復調回路61、DPLL(Digital Phase Lock Loop)62、およびCPU(Central Processing Unit)63が設けられる。
【0073】
復調回路61は、リーダライタからの電磁波を受信した図示せぬアンテナから供給されてきたRF入力信号に基づいて、非接触ICチップ51の動作に必要な電力を生成し、生成した電力を各部に供給するとともに、復調することによって得られた復調データ(PSK変調信号)をDPLL62に出力する。
【0074】
DPLL62は、復調回路61から供給されてきたPSK変調信号に基づいて、リーダライタから送信されたデータを抽出し、抽出したデータを表すビット列(1,0)をCPU63に出力する。
【0075】
CPU63は、DPLL62から供給されてきたビット列に基づいて、不揮発性メモリに記憶されているデータの読み書きなどの所定の処理を行う。
【0076】
図9は、図8のDPLL62に設けられる構成の例を示す図である。
【0077】
この回路の動作は、入力された2つの異なる位相の繰り返し波形を内部で、夫々C倍とS倍の乗算を行った後、線形加算をして出力信号を生成するものである。その際のCおよびSの生成方法であるが、必要な繰り返し波形の位相をφとするとC=cosφ、S=sinφとして計算する。
【0078】
ここで、必ずしもCとSは計算する必要は無く、変換テーブルによって変換しても良い。
【0079】
可変型発振器71は、外部(後述する、図12のテーブル管理部108、標準化回路109)からの制御信号に従ってφの値を変更し、cosφで表される発振出力信号を掛け算器72−1と72−2に、sinφで表される発振出力信号を掛け算器73−1と73−2にそれぞれ出力する。ここで、φはf(cnt)(cnt:制御内容)で表される。
【0080】
掛け算器72−1は、可変型発振器71から供給されてきた発振出力信号cosφと、供給されてきた発振出力信号sinωt(PSK・sinωt)を掛け算し、掛け算結果を表す信号を加算器74−1に出力する。後述するように、掛け算器72−1には、固定周波数の信号を発生する発振器により生成され、所定の分周比で分周することによって得られた発振出力信号sinωtと、PSK変調信号を掛け算して得られた信号である信号PSK・sinωtが供給されてくる。
【0081】
掛け算器72−2は、可変型発振器71から供給されてきた発振出力信号cosφと、供給されてきた発振出力信号cosωtを掛け算し、掛け算結果を表す信号を加算器74−2に出力する。後述するように、掛け算器72−2には、固定周波数の信号を発生する発振器により生成され、所定の分周比で分周することによって得られた発振出力信号cosωtと、PSK変調信号を掛け算して得られた信号である信号PSK・cosωtが供給されてくる。
【0082】
掛け算器73−1は、可変型発振器71から供給されてきた発振出力信号sinφと、掛け算器72−2に供給されたものと同じ信号である発振出力信号cosωt(PSK・cosωt)を掛け算し、掛け算結果を表す信号を加算器74−1に出力する。
【0083】
掛け算器73−2は、可変型発振器71から供給されてきた発振出力信号sinφと、掛け算器72−1に供給されたものと同じ信号である発振出力信号sinωtとを掛け算し、掛け算結果を表す信号を加算器74−2に出力する。
【0084】
加算器74−1は、掛け算器72−1から供給されてきた信号C・sinωtと、掛け算器73−1から供給されてきた信号S・cosωtを加算し、加算結果を表す信号sin(ωt+φ)を、後段に設けられるフィルタ(図12の低域通過フィルタ106−1)に出力する。Cはcosφ、Sはsinφを表す。
【0085】
すなわち、加算器74−1の出力は下式(3)により表される(反対に、sin(ωt+φ)の信号を出力する構成を式(3)に従って選択すると、図9の掛け算器72−1、掛け算器73−1、および加算器74−1が選択される)。
【0086】
【数3】

【0087】
加算器74−1の後段に設けられるフィルタにおいては、図3の低域通過フィルタ23−1と同様に、加算器74−1の出力の移動平均が求められる。ここで求められた移動平均と、加算器74−2の出力の移動平均に基づいて、図4乃至6を参照して説明したようにして可変型発振器71の制御内容が判断される。
【0088】
加算器74−2は、掛け算器72−2から供給されてきた信号C・cosωtから、掛け算器73−2から供給されてきた信号S・sinωtを減算し、減算結果を表す信号cos(ωt+φ)を、後段に設けられるフィルタ(図12の低域通過フィルタ106−2)に出力する。
【0089】
すなわち、加算器74−2の出力は下式(4)により表される(反対に、cos(ωt+φ)の信号を出力する構成を式(4)に従って選択すると、図9の掛け算器72−2、掛け算器73−2、および加算器74−2が選択される)。
【0090】
【数4】

【0091】
加算器74−1の出力である信号sin(ωt+φ)と、加算器74−2の出力である信号cos(ωt+φ)はπ/2だけ位相がずれた信号であり、この2つの信号から、いま、クロック信号(PSK変調信号)との位相差がどの程度あるのかが判断される。図3等を参照して説明したように、図3のEX-OR回路22−1と22−2の出力はπ/2だけ位相がずれたものであり、この出力に基づいて、いまの、クロック信号との位相差などが判断される。
【0092】
また、式(3)と(4)から、CとSの値として所定の値を設定することによって、所定の位相をもつ信号を任意に生成することができることがわかる。従って、制御信号cntに応じてCとSが設定されるようにすることにより、可変型発振器71を、分周比を変えて発振出力信号を生成する図3の分周比可変型分周器32と較べて、より高い分解能を有するVOCとして利用することができる。
【0093】
付言すると、以上のような回路構成を有する分周器によれば、分周比Ndivの値が小さい場合であっても、全ての位相の繰り返し波形を自由に作り出すことが可能である。
【0094】
なお、図上、繰り返し波形は90度(sinとcos)の位相差を持った2入力正弦波として記述されているが、原理的には90度の位相差である必要は無く、異なる位相(逆位相は除く)を持つものであれば適用可能である。また、正弦波である必要性もなく、三角波、矩形波等の様々の種類の繰り返し波形に適用可能である。従って、原理的にはアナログPLLのVCOにも適用が可能であるし、矩形波出力を持つNCOが使われるデジタルPLLのNCOにも容易に適用が可能である。
【0095】
ここで、図9の回路構成の動作原理についてさらに説明する。
【0096】
この回路構成においては、入力はsinとcosなので、出力の繰り返し波形は、数式上、上式(3)と(4)のように変形されて、φ位相が変化した正弦波が出力される。このことは、もし、現在の位相φより大きなφ´を与えるC´とS´を計算して図9の回路を適用すると一時的に周波数が高くなり、逆に、現在の位相φよりも小さなφ´´を与えるC´´とS´´を与えると一時的に周波数が低くなることを意味する。すなわち、この原理を発振器に応用すると、VCO或いはNCOが構成可能であることを示す。さらに、CとSの生成を精度良く行えば、任意の位相の繰り返し波形がいくらでも細かい精度(粒度)で出力可能なことを示す。
【0097】
また、図9の構成は2つの繰り返し波形を出力するものとして示されているが、このうち片方の出力を使うことにより、コスタスループだけではなく、一般のPLLに広く適用することが可能である。
【0098】
図9の構成による発振器をコスタスループに応用する場合は、図2の電圧制御型発振器14のブロック、または図3のNCO27の一部のブロックをそのまま図9の構成の発振器に置き換えればよい(図10、図11参照)。また、図1の制御型発振器3を、図9の構成によるNCOに置き換える(この場合は片側の繰り返し波形のみ使われる)ことにより、通常のPLLに適用することも可能となる。
【0099】
図10は、図9の構成による発振器を図2のコスタスループに応用したPLLの構成例を示す図である。例えば、図10に示すPLLが、図8のDPLL62に替えて非接触ICチップ51に設けられる。図2、図9と同じ構成には同じ符号を付してある。図10の電圧制御型発振器14は図9の構成からなり、その詳細な説明は省略する。
【0100】
図10の掛け算器11−1(I乗算器)は、アンテナの後段に設けられるRFアンプなどを介して入力されてきたPSK変調信号Asin(ωt+D(t)π)と、電圧制御型発振器14から供給されてきた発振出力信号sin(ωt+φ)を掛け算し、得られた信号を低域通過フィルタ12−1に出力する。
【0101】
掛け算器11−2(Q乗算器)は、PSK変調信号Asin(ωt+D(t)π)と、電圧制御型発振器14から掛け算器11−1に供給される信号を基準としてπ/2だけ位相が遅れた発振出力信号−cos(ωt+φ)を掛け算し、得られた信号を低域通過フィルタ12−2に出力する。
【0102】
低域通過フィルタ12−1は、掛け算器11−1から供給されてきた信号の高周波成分を除去し、得られた信号を、復調データD(t)として外部に出力するとともに、PSK変調信号と発振出力信号の位相比較結果(Iアームの位相比較結果)を表す信号として掛け算器13に出力する。
【0103】
低域通過フィルタ12−2は、掛け算器11−2から供給されてきた信号の高周波成分を除去し、得られた信号を、PSK変調信号と発振出力信号の位相比較結果(Qアームの位相比較結果)を表す信号として掛け算器13に出力する。
【0104】
掛け算器13は、低域通過フィルタ12−1から供給されてきた信号と、低域通過フィルタ12−2から供給されてきた信号を掛け算し、得られた信号D(t)φを制御信号として電圧制御型発振器14の可変型発振器71に出力する。
【0105】
電圧制御型発振器14は、掛け算器13から供給されてきた制御信号D(t)φ(図9の制御信号cntに対応する)に基づいて、発振出力信号sin(ωt+φ)を掛け算器11−1に、発振出力信号−cos(ωt+φ)を掛け算器11−2に、それぞれ出力する。
【0106】
図11は、図9の構成による発振器を図3のディジタルコスタスループに応用したPLLの構成例を示す図である。例えば、図11に示すPLLが、図8のDPLL62に替えて非接触ICチップ51に設けられる。図3、図9と同じ構成には同じ符号を付してある。図11のNCO27は図9の構成と図3の発振器31からなり、その詳細な説明は省略する。
【0107】
ハードリミッタ21は、PSK変調信号を2値化し、得られた2値化信号をEX-OR回路22−1と22−2にそれぞれ出力する。
【0108】
EX-OR回路22−1は、ハードリミッタ21から供給されてきた2値化信号と、NCO27の出力を2値化する2値化回路28−1から供給されてきた発振出力信号の排他的論理和演算を行い、演算結果を低域通過フィルタ23−1に出力する。
【0109】
EX-OR回路22−2は、ハードリミッタ21から供給されてきた2値化信号と、NCO27の出力を2値化する2値化回路28−2から供給されてきた発振出力信号の排他的論理和演算を行い、演算結果を低域通過フィルタ23−2に出力する。2値化回路28−1からは、EX-OR回路22−1に供給される信号を基準としてπ/2だけ位相が遅れた信号が供給されてくる。
【0110】
低域通過フィルタ23−1は、EX-OR回路22−1の出力の移動平均を求め、求めた移動平均を、Iアームの位相比較結果として3値化回路24−1に出力する。例えば、PSK変調信号の1周期が8サンプルのデータに2値化されているとすると、その半周期(4サンプルのデータ)を対象として移動平均が求められ、移動平均を5値で表す信号が3値化回路24−1に出力される。
【0111】
低域通過フィルタ23−2は、EX-OR回路22−2の出力の移動平均を求め、求めた移動平均を、Qアームの位相比較結果として3値化回路24−2に出力する。
【0112】
3値化回路24−1は、低域通過フィルタ23−1から供給されてきた移動平均を例えば3値化し、3値化した移動平均をテーブル管理部25に出力する。
【0113】
3値化回路24−2は、低域通過フィルタ23−2から供給されてきた移動平均を例えば3値化し、3値化した移動平均をテーブル管理部25に出力する。
【0114】
テーブル管理部25は、分周比可変型分周器32の分周比の制御方向と、低域通過フィルタ23−1,23−2等により得られた位相比較結果(移動平均)を対応させた制御テーブルを管理しており、3値化回路24−1,24−2から供給されてきた移動平均に基づいて制御方向を決定し、制御信号を標準化回路26に出力する。
【0115】
標準化回路26は、テーブル管理部25から供給されてきた制御信号の標準化(エッジ位置の平均化等)を行うことによってノイズの影響を除去し、標準化された制御信号を分周比可変型分周器32に出力する。制御信号の標準化は、例えば、1周期分のデータである8サンプルのデータ毎に行われ、標準化された制御方向を表す。
【0116】
NCO27を構成する発振器31は、所定の周波数(N×Frate)の発振出力信号であるsinωt,cosωtを、図9の構成からなる発振器の掛け算器72−1と72−2にそれぞれ出力する。
【0117】
2値化回路28−1は、加算器74−1から供給されてきた信号sin(ωt+φ)を2値化し、得られた2値化信号をEX-OR回路22−1に出力する。
【0118】
2値化回路28−2は、加算器74−2から供給されてきた信号cos(ωt+φ)を2値化し、得られた2値化信号をEX-OR回路22−2に出力する。
【0119】
次に、図9に示す発振器を実装するDPLL62の変形例について説明する。
【0120】
図9の構成によるNCOをコスタスループに応用した場合、図14の様な変形版の構成が考えられる。図12、及び図13は図3のNCO27、EX-OR22−1,22−2、低域通過フィルタ23−1,23−2に対応する構成を切り出したものである。これらの構成による処理の過程を、低域通過フィルタの処理を除いて数式化すると、演算式は後述する式(5)及び(6)で表される。従って、図3の回路は図14の回路のように変形することが可能であるが、このような変形を行うことにより、ロジック回路への実装が大幅に簡略化される場合がある。
【0121】
上述したように、π/2だけ位相がずれた2つの信号のそれぞれと、PSK変調信号の位相差の移動平均がIアーム、Qアームの位相比較結果として、発振器を制御する管理部(制御テーブルを管理する管理部)に供給されるようにすればDPLL62を実現することができる。
【0122】
図12と図13は、それぞれ、IアームとQアームの位相比較結果を出力する構成を模式的に示す図である。
【0123】
図12の構成においては、制御信号に応じて発生された信号sin(ωt+φ)と、復調回路61から供給されてきたPSK変調信号の掛け算が行われることによりそれらの信号の位相が比較され、比較結果の移動平均がIアームの位相比較結果として低域通過フィルタから出力される。図12の掛け算器により行われる演算を下式(5)に示す。なお、Cはcosφ、Sはsinφを表す。
【0124】
【数5】

【0125】
一方、図13の構成においては、制御信号に応じて発生された信号cos(ωt+φ)と、復調回路61から供給されてきたPSK変調信号の掛け算が行われることによりそれらの位相が比較され、比較結果の移動平均がQアームの位相比較結果として低域通過フィルタから出力される。図13の掛け算器により行われる演算を下式(6)に示す。
【0126】
【数6】

【0127】
式(5)に従って図12の構成と等価の構成を選択し、また、式(6)に従って図13の構成と等価の構成を選択することにより、Iアームの位相比較結果、Qアームの位相比較結果を出力する構成を実現することが可能になる。
【0128】
図14は、DPLL62の構成例を示す図である。PLLをこのような構成を有するものとすることにより、ロジック回路への実装が大幅に簡略化される場合がある。
【0129】
図14のDPLL62には、図12と図13を参照して説明したような、CとSの値に従って式(5)、(6)の演算を行う具体的な構成が含まれている。
【0130】
ハードリミッタ101は、PSK変調信号を2値化し、2値化信号を掛け算器102−1と102−2にそれぞれ出力する。
【0131】
掛け算器102−1は、ハードリミッタ101から供給されてきた2値化信号と、分周器111から供給されてきた発振出力信号sinωtの掛け算を行い、掛け算結果を掛け算器103−1と104−2に出力する。掛け算器102−1の演算結果はPSK・sinωtで表される。
【0132】
掛け算器102−2は、ハードリミッタ101から供給されてきた2値化信号と、分周器111から供給されてきた発振出力信号cosωtの掛け算を行い、掛け算結果を掛け算器103−2と104−1に出力する。掛け算器102−2の演算結果はPSK・cosωtで表される。
【0133】
掛け算器103−1は、掛け算器102−1から供給されてきた信号PSK・sinωtと、可変型発振器110から供給されてきた発振出力信号cosφの掛け算を行い、掛け算結果を加算器105−1に出力する。掛け算器103−1の演算結果はC・PSK・sinωtで表される。
【0134】
掛け算器103−2は、掛け算器102−2から供給されてきた信号PSK・cosωtと、可変型発振器110から供給されてきた発振出力信号cosφの掛け算を行い、掛け算結果を加算器105−2に出力する。掛け算器103−2の演算結果はC・PSK・cosωtで表される。
【0135】
掛け算器104−1は、掛け算器102−2から供給されてきた信号PSK・cosωtと、可変型発振器110から供給されてきた発振出力信号sinφの掛け算を行い、掛け算結果を加算器105−1に出力する。掛け算器104−1の演算結果はS・PSK・cosωtで表される。
【0136】
掛け算器104−2は、掛け算器102−1から供給されてきた信号PSK・sinωtと、可変型発振器110から供給されてきた発振出力信号sinφの掛け算を行い、掛け算結果を加算器105−2に出力する。掛け算器104−2の演算結果はS・PSK・sinωtで表される。
【0137】
加算器105−1は、掛け算器103−1から供給されてきた信号C・PSK・sinωtと、掛け算器104−1から供給されてきた信号S・PSK・cosωtを加算し、加算結果を表す信号を低域通過フィルタ106−1に出力する。加算器105−1の演算結果は下式(7)で表される。
【0138】
【数7】

【0139】
加算器105−2は、掛け算器103−2から供給されてきた信号C・PSK・cosωtから、掛け算器104−2から供給されてきた信号S・PSK・sinωtを減算し、減算結果を表す信号を低域通過フィルタ106−2に出力する。加算器105−2の演算結果は下式(8)で表される。
【0140】
【数8】

【0141】
低域通過フィルタ106−1は、加算器105−1の出力の移動平均を求め、求めた移動平均を、Iアームの位相比較結果として3値化回路107−1に出力する。
【0142】
低域通過フィルタ106−2は、加算器105−2の出力の移動平均を求め、求めた移動平均を、Qアームの位相比較結果として3値化回路107−2に出力する。
【0143】
3値化回路107−1は、低域通過フィルタ106−1から供給されてきた移動平均を例えば3値化し、3値化した移動平均をテーブル管理部108に出力する。
【0144】
3値化回路107−2は、低域通過フィルタ106−2から供給されてきた移動平均を例えば3値化し、3値化した移動平均をテーブル管理部108に出力する。
【0145】
テーブル管理部108は、低域通過フィルタ106−1,106−2等により得られた位相比較結果(移動平均)と、制御内容cnt(φの値)を対応付けた制御テーブル管理しており、3値化回路107−1,107−2から供給されてきた移動平均に基づいて、制御信号を標準化回路109に出力する。
【0146】
標準化回路109は、テーブル管理部108から供給されてきた制御信号の標準化を行うことによってノイズの影響を除去し、標準化された制御信号を可変型発振器110に出力する。
【0147】
可変型発振器110は、標準化回路109から供給されてきた制御信号に従ってφの値を変更し、cosφで表される発振出力信号を掛け算器103−1と103−2に、sinφで表される発振出力信号を掛け算器104−1と104−2にそれぞれ出力する。
【0148】
分周器111は、図示せぬ発振器から供給されてきた発振出力信号Fmclkを所定の分周比Ndivで分周し、発振出力信号sinωtを掛け算器102−1に、発振出力信号cosωtを掛け算器102−2にそれぞれ出力する。
【0149】
DPLL62を以上のようにして構成することにより、位相の分解能を上げることが可能となり、クロック信号の周波数が高い場合であっても、それとの同期を確保することができる。従って、リーダライタ間との通信を、より高い転送レートで実現することが可能になる。
【0150】
なお、以上においては、高い分解能を有する発振器が図9に示す構成により実現されるとしたが、例えば、図15に示す構成により実現されるようにしてもよい。
【0151】
分周比可変型分周器121は、外部からの制御信号に従って分周比Ndivを決定し、決定した分周比Ndivで、図示せぬ発振器から供給されてきた発振出力信号Fmclkを分周する。
【0152】
分周比可変型分周器121は、得られた発信出力信号aを掛け算器123−1に出力するとともに、発信出力信号aを基準として位相がN・(2π/Ndiv)だけ遅れた発信出力信号a’を掛け算器124−1に出力する。また、分周比可変型分周器121は、発信出力信号aを基準として位相がπ/2だけ遅れた発信出力信号bを掛け算器124−2に出力するとともに、発信出力信号bを基準として位相がN・(2π/Ndiv)だけ遅れた発信出力信号b’を掛け算器123−2に出力する。
【0153】
掛け算器123−1は、分周比可変型分周器121から供給されてきた発信出力信号aと、可変型発振器122から供給されてきた発振出力信号A(A=f(cnt))の掛け算を行い、掛け算結果を表す信号を加算器125−1に出力する。図15の構成を、図9の構成と同様にして図14のDPLL62に組み込んだ場合、掛け算器123−1には、発振出力信号aと、PSK変調信号を掛け算して得られた信号が供給されてくる。
【0154】
掛け算器123−2は、分周比可変型分周器121から供給されてきた発信出力信号b’と、可変型発振器122から供給されてきた発振出力信号Aの掛け算を行い、掛け算結果を表す信号を加算器125−2に出力する。図15の構成をDPLL62に組み込んだ場合、掛け算器123−2には、発振出力信号b’と、PSK変調信号を掛け算して得られた信号が供給されてくる。
【0155】
掛け算器124−1は、分周比可変型分周器121から供給されてきた発信出力信号a’と、可変型発振器122から供給されてきた発振出力信号Bの掛け算を行い、掛け算結果を表す信号を加算器125−1に出力する。図15の構成をDPLL62に組み込んだ場合、掛け算器124−1には、発振出力信号a’と、PSK変調信号を掛け算して得られた信号が供給されてくる。
【0156】
掛け算器124−2は、分周比可変型分周器121から供給されてきた発信出力信号bと、可変型発振器122から供給されてきた発振出力信号Bの掛け算を行い、掛け算結果を表す信号を加算器125−2に出力する。図15の構成をDPLL62に組み込んだ場合、掛け算器124−2には、発振出力信号bと、PSK変調信号を掛け算して得られた信号が供給されてくる。
【0157】
加算器125−1は、掛け算器123−1から供給されてきた信号と、掛け算器124−1から供給されてきた信号を加算し、加算結果を表す信号sin(ωt+φ)を、後段に設けられるフィルタ(図14の低域通過フィルタ106−1)に出力する。
【0158】
加算器125−2は、掛け算器123−2から供給されてきた信号と、掛け算器124−2から供給されてきた信号を加算し、加算結果を表す信号cos(ωt+φ)を、後段に設けられるフィルタ(図14の低域通過フィルタ106−2)に出力する。
【0159】
すなわち、Aは、発信出力信号aと掛け算して得られた値と、発信出力信号a’と掛け算して得られた値とを加算した値がsin(ωt+φ)により表される関数とされる。また、Bは、発信出力信号bと掛け算して得られた値と、発信出力信号b’と掛け算して得られた値とを加算した値がcos(ωt+φ)により表されような関数とされる。
【0160】
このように、位相を比較する信号(PSK変調信号と掛け算が行われる信号)として、図9に示すようなsin信号とcos信号だけでなく、sin信号を基準として所定の量だけ位相がずれた信号と、cos信号を基準として所定の量だけ位相がずれた信号とを用意することによっても、位相の分解能を上げることができる。すなわち、sin信号とcos信号だけで得ることができない位相の信号を補間することができる。
【0161】
なお、図15に示す構成は、例えば、図14に示す構成のうちの図9の構成に対応する部分に替えてDPLL62に含まれる。また、図15の構成のうちの分周比可変型発振器121は、分周器111に替えてDPLL62に設けられる。これによっても、位相の分解能を上げることが可能となり、クロック信号の周波数が高い場合であっても、それとの同期を確保することができるDPLL62を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】PLL回路の例を示す図である。
【図2】コスタスループの例を示す図である。
【図3】図2のコスタスループをディジタル化した例を示す図である。
【図4】図3のコスタスループで扱われる信号の例を示す図である。
【図5】Iアーム、Qアームの位相比較結果をグラフ化したものを示す図である。
【図6】制御テーブルの例を示す図である。
【図7】分周比可変型分周器の出力の例を説明する図である。
【図8】本発明を適用した非接触ICチップの一部の構成例を示すブロック図である。
【図9】図8のDPLLに設けられる構成の例を示す図である。
【図10】図9の発振器を備えるPLLの構成例を示す図である。
【図11】図9の発振器を備えるPLLの他の構成例を示す図である。
【図12】Iアームの位相比較結果を出力する構成を模式的に示した図である。
【図13】Qアームの位相比較結果を出力する構成を模式的に示した図である。
【図14】図8のDPLLの構成例を示す図である。
【図15】図8のDPLLに設けられる構成の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0163】
51 非接触ICチップ, 61 復調回路, 62 DPLL, 63 CPU, 71 発振器, 101 ハードリミッタ, 102−1,102−2 掛け算器, 103−1,103−2 掛け算器, 104−1,104−2 掛け算器, 105−1,105−2 加算器, 106−1,106−2 低域通過フィルタ, 107−1,107−2 3値化回路, 108 テーブル管理部, 109 標準化回路, 110 発振器, 111 分周器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相の異なる2つの繰り返し波形と、夫々の波形に対して適切な乗数との乗算結果を求め、その線形和として発振器出力を得る発振器を備える
ことを特徴とするPLL回路。
【請求項2】
線形和の係数を変化させる事により、前記発振器の出力波形の位相を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載のPLL回路。
【請求項3】
非接触IC(Integrated Circuit)チップに設けられるPLL(Phase Lock Loop)回路において、
第1の信号と、前記第1の信号を基準としてπ/2だけ位相がずれた信号である第2の信号とを発生する発生手段と、
外部からの電磁波を復調して得られたPSK(Phase Shift Keying)変調信号との位相比較結果である第1の位相比較結果と、前記第1の位相比較結果を基準としてπ/2だけ位相がずれた、前記2値化信号との位相比較結果である第2の位相比較結果とを、前記発生手段により発生された前記第1、第2の信号の線形和で表すように演算を行う演算手段と、
前記演算手段による演算により求められた前記第1、第2の位相比較結果に基づいて、前記発生手段により発生させる前記第1、第2の信号の線形和の係数を制御する制御手段と
を備えることを特徴とするPLL回路。
【請求項4】
前記制御手段は、前記演算手段による演算により求められた前記第1、第2の位相比較結果と対応付けて、前記発生手段の制御内容を表す情報を管理し、管理している情報を参照して、前記発生手段により発生させる前記第1、第2の信号の線形和の係数を制御する
ことを特徴とする請求項3に記載のPLL回路。
【請求項5】
前記演算手段は、前記PSK変調信号から得られる位相の異なる2つの繰り返し波形を、C=cosφ、S=sinφ(φは必要となる繰り返し波形の位相)で表されるC,Sでそれぞれ乗算し、乗算結果の線形和を前記第1、または第2の位相比較結果として出力する
ことを特徴とする請求項3に記載のPLL回路。
【請求項6】
リーダライタと非接触で通信を行うIC(Integrated Circuit)チップにおいて、
第1の信号と、前記第1の信号を基準としてπ/2だけ位相がずれた信号である第2の信号とを発生する発生手段と、
外部からの電磁波を復調して得られたPSK(Phase Shift Keying)変調信号との位相比較結果である第1の位相比較結果と、前記第1の位相比較結果を基準としてπ/2だけ位相がずれた、前記2値化信号との位相比較結果である第2の位相比較結果とを、前記発生手段により発生された前記第1、第2の信号の線形和で表すように演算を行う演算手段と、
前記演算手段による演算により求められた前記第1、第2の位相比較結果に基づいて、前記発生手段により発生させる前記第1、第2の信号の位相を制御する制御手段と
を有するPLL(Phase Lock Loop)回路を備えることを特徴とするICチップ。
【請求項7】
前記制御手段は、前記演算手段による演算により求められた前記第1、第2の位相比較結果と対応付けて、前記発生手段の制御内容を表す情報を管理し、管理している情報を参照して、前記発生手段により発生させる前記第1、第2の信号の位相を制御する
ことを特徴とする請求項6に記載のICチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−28355(P2007−28355A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209442(P2005−209442)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】