説明

PMフィルタ及びPMフィルタの再生方法

【課題】酸素を効率良く利用してPMフィルタを再生する技術を提供する。
【解決手段】内燃機関1の排気通路2に設けられ、内燃機関1から排出される排気中のPMを、セル壁3aを排気が透過する際に捕集するPMフィルタ3において、PMフィルタ3よりも上流の排気通路2に酸素吸蔵能力を有する触媒を配置せず、PMフィルタ3のセル壁3aの下流側背面に酸素吸蔵能力を有する触媒をコートした。PMフィルタ3よりも上流の排気通路2に酸素吸蔵能力を有する触媒を配置していないので、PMフィルタ3に流入する酸素量を最大限確保することができる。またPMフィルタ3でのPMの酸化除去に消費されなかった酸素を利用してPMフィルタ3を昇温させ、PMフィルタ3の温度がPM自己燃焼温度以上になると、PMフィルタ3に流入する酸素がPMの酸化除去に消費されて、PMフィルタ3を再生することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PMフィルタ及びPMフィルタの再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出される排気中には、PM(Particulate Matter:粒子状物質)が含まれる。このPMを捕集するため、PMフィルタが備えられる。PMフィルタは、多孔質の壁部を用いたハニカム構造となっており、格子状に区画された各流路の入口又は出口のどちらかが目封じされ、出口が目封じされた流路に流入した排気が壁部を透過して入口が目封じされた流路から流出する際に、多孔質の壁部を透過できなかったPMが捕集されて行く。PMフィルタには捕集されたPMが堆積して行き、目詰まりにより排気抵抗が増大し、燃費悪化等の弊害を招く。そこで、PMフィルタに規定以上のPMが堆積した場合に、PMフィルタに堆積したPMを燃焼除去してPMフィルタの再生を強制的に図る技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−161629号公報
【特許文献2】特開2010−013974号公報
【特許文献3】特開2006−320818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PMフィルタの再生では、PMフィルタよりも上流に酸素吸蔵能力を有する触媒を配置し、この酸素吸蔵能力を有する触媒に燃料を供給して排気を昇温し、その下流のPMフィルタをも昇温してPMを酸化除去するものが一般的である。ところで、排気空燃比がストイキ近傍に制御されるストイキ制御車等に搭載された内燃機関から排出される排気中の酸素濃度は低い。このように排気中の酸素が少ない場合に、上記のようにPMフィルタの上流に酸素吸蔵能力を有する触媒を配置して排気を昇温してしまうと、排気中の酸素が当該酸素吸蔵能力を有する触媒で吸蔵や反応に用い尽くされ、触媒下流のPMフィルタにおいてPMと結びつきPMを酸化除去させるための酸素が不足してしまう。つまり、PMフィルタを再生するために必要な酸素の確保が困難となる。
【0005】
また一方で、上記問題を解決するため、電気加熱式等のような酸素を消費せずにPMフィルタを加熱する装置を別途設けると、コストアップとなってしまう。
【0006】
本発明の目的は、酸素を効率良く利用してPMフィルタを再生する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にあっては、以下の構成を採用する。すなわち、本発明は、
内燃機関の排気通路に設けられ、前記内燃機関から排出される排気中のPMを、壁部を排気が透過する際に捕集するPMフィルタにおいて、
前記PMフィルタよりも上流の前記排気通路に酸素吸蔵能力を有する触媒を配置せず、
前記PMフィルタの前記壁部の下流側背面に酸素吸蔵能力を有する触媒をコートしたことを特徴とするPMフィルタである。
【0008】
本発明によると、PMフィルタよりも上流の排気通路に酸素吸蔵能力を有する触媒を配
置していないので、PMフィルタよりも上流で内燃機関から排出された排気中の酸素が吸蔵や反応に利用されることがない。よって、PMフィルタに流入する酸素量を最大限確保することができる。また、PMフィルタの壁部の下流側背面に酸素吸蔵能力を有する触媒をコートしたので、酸素は、まず、PMフィルタの壁部を透過できなかった壁部の上流側表面に堆積したPMと結びつくことができ、PMフィルタの温度がPM自己燃焼温度であれば、PMを酸化除去することができる。そしてPMの酸化除去に消費されなかった酸素は、PMフィルタの壁部を透過し壁部の下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒に供給・吸蔵されるので、酸素吸蔵能力を有する触媒が酸素を反応に利用して発熱し、PMフィルタを昇温させることができる。このように、PMフィルタでのPMの酸化除去に消費されなかった酸素を利用してPMフィルタを昇温させ、PMフィルタの温度がPM自己燃焼温度以上になると、PMフィルタに流入する酸素がPMの酸化除去に消費されて、PMフィルタを再生することができ、酸素を効率良く利用する。したがって、酸素を効率良く利用してPMフィルタを再生することができる。また本発明であると、電気加熱式等のような酸素を消費せずにPMフィルタを加熱する装置を別途設けないので、コストアップを抑制することができる。
【0009】
前記PMフィルタは、排気空燃比がリッチとリーンとに交互に強制的に制御されることで、再生されるとよい。
【0010】
本発明によると、排気空燃比がリーンに制御された際に多量に含まれる酸素が、PMと結びつきPMを酸化除去することができると共に、PMフィルタの壁部の下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒に供給・吸蔵される。また排気空燃比がリッチに制御された際に内燃機関から排出される、例えばHC、CO、H等の還元性ガスが、PMフィルタの壁部の下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒に供給される。以上のことから、PMフィルタの壁部の下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒に供給・吸蔵された酸素及び還元性ガスが酸化反応して酸化反応熱を生じ、PMフィルタを早期に昇温することができる。そして、PMフィルタを早期に昇温させてPMフィルタの温度がPM自己燃焼温度以上になると、排気空燃比がリーンに制御された際に多量に含まれる酸素がPMと結びつきPMの酸化除去に消費されて、PMフィルタを早期に再生することができる。このように本発明であると、PMフィルタを早期に昇温させることができ、PMフィルタを早期に再生することができる。
【0011】
前記PMフィルタの前記壁部の上流側表面に酸素吸蔵能力の無い触媒をコートするとよい。
【0012】
酸素吸蔵能力の無い触媒は、酸素を吸蔵することができないので、あまり酸素を消費せず、酸素及び例えばHC、CO、H等の還元性ガスが同時に供給される場合に酸化反応する。よって、本発明によると、PMフィルタの壁部の上流側表面にコートされた酸素吸蔵能力の無い触媒が、あまり酸素を消費することなく酸化反応熱を生じ、PMフィルタをより早期に昇温させることができる。
【0013】
前記PMフィルタは、前記PMフィルタの温度がPM自己燃焼温度よりも低い場合に、前記内燃機関の複数の気筒のうち、一部の気筒が、排気空燃比が目標排気空燃比よりもリッチに制御されると共に、少なくとも1つの他の気筒が、排気空燃比が目標排気空燃比よりもリーンに制御されることで、再生されるとよい。
【0014】
PMフィルタの温度がPM自己燃焼温度よりも低い場合には、PMが酸素と結びつき難くPMを酸化除去し難いので、PMフィルタをより早期に昇温させることが望まれる。本発明によると、一部の気筒が、排気空燃比が目標排気空燃比よりもリッチに制御されて例えばHC、CO、H等の還元性ガスが排気に多量に含まれることになる。一方、少なく
とも1つの他の気筒が、排気空燃比が目標排気空燃比よりもリーンに制御されて酸素が排気に多量に含まれることになる。このような酸素及び還元性ガスの両方が多量に含まれた排気をPMフィルタに供給することができる。これにより、PMフィルタの壁部の上流側表面にコートされた酸素吸蔵能力の無い触媒では、多量の酸素及び還元性ガスが同時に供給されて酸化反応して高い酸化反応熱を生じる。また、PMフィルタの壁部の下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒でも、多量の酸素及び還元性ガスが同時に供給されて酸化反応して高い酸化反応熱を生じる。よって、PMフィルタをより早期に昇温させることができる。
【0015】
本発明にあっては、以下の構成を採用する。すなわち、本発明は、
内燃機関の排気通路に設けられ、前記内燃機関から排出される排気中のPMを、壁部を排気が透過する際に捕集するPMフィルタであって、前記PMフィルタよりも上流の前記排気通路に酸素吸蔵能力を有する触媒を配置せず、前記PMフィルタの前記壁部の下流側背面に酸素吸蔵能力を有する触媒をコートしたPMフィルタの再生方法であって、
前記PMフィルタを、排気空燃比をリッチとリーンとに交互に強制的に制御して、再生することを特徴とするPMフィルタの再生方法である。
【0016】
前記PMフィルタは、前記PMフィルタの前記壁部の上流側表面に酸素吸蔵能力の無い触媒がコートされており、
前記PMフィルタを、前記PMフィルタの温度がPM自己燃焼温度よりも低い場合に、前記内燃機関の複数の気筒のうち、一部の気筒を、排気空燃比を目標排気空燃比よりもリッチに制御すると共に、少なくとも1つの他の気筒を、排気空燃比を目標排気空燃比よりもリーンに制御することで、再生するとよい。
【0017】
これらの発明によっても、酸素を効率良く利用してPMフィルタを再生することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、酸素を効率良く利用してPMフィルタを再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1に係る内燃機関の概略構成を示す図である。
【図2】実施例1に係るPMフィルタの詳細を示す図である。
【図3】実施例1に係るフィルタ再生制御中の排気空燃比の制御を示す図である。
【図4】実施例1に係るフィルタ再生制御時の酸素の挙動を示す図である。
【図5】実施例2に係るPMフィルタの詳細を示す図である。
【図6】実施例2に係るPM自己燃焼温度より低い場合のフィルタ再生制御中の排気空燃比の制御を示す図である。
【図7】実施例2に係るPM自己燃焼温度より低い場合のフィルタ再生制御時の酸素の挙動を示す図である。
【図8】実施例2に係るPM自己燃焼温度以上の場合のフィルタ再生制御時の酸素の挙動を示す図である。
【図9】実施例3に係るPMフィルタにおける酸素吸蔵能力を有する触媒の分布を示す図である。
【図10】実施例3に係るPM自己燃焼温度以上の場合のフィルタ再生制御中の排気空燃比の制御を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の具体的な実施例を説明する。
【0021】
<実施例1>
(内燃機関)
図1は、本発明の実施例1に係るPMフィルタを適用する内燃機関の概略構成を示す図である。図1に示す内燃機関1は、気筒を4つ有する水冷式の4ストロークサイクル・ガソリンエンジンである。内燃機関1は、車両に搭載されている。この車両は、内燃機関1がガソリンエンジンであることから、通常走行時の内燃機関1の排気空燃比がストイキ近傍に制御されて三元触媒等の触媒で排気浄化を行うストイキ制御車である。なお、内燃機関1は、ディーゼルエンジン等の他の内燃機関であってもよく、その場合にもストイキ制御が行われても良い。
【0022】
内燃機関1には、排気通路2が接続されている。排気通路2には、PMフィルタ3が配置されている。PMフィルタ3は、内燃機関1から排出され排気通路2内を流通する排気中のPM(粒子状物質)を捕集する。PMフィルタ3は、壁部としてのハニカム構造となるコーディエライト等の耐熱性セラミックス基材のセル壁3aを用い、排気の流路となる多数のセルを入口又は出口のどちらかが互い違いとなるように目封じされて構成されている。PMフィルタ3のセル壁3aは多孔性を有する多孔質の壁部である。PMフィルタ3に流入した排気は、出口が目封じされた流路に流入し、セル壁3aを透過しながら下流へ流れ、入口が目封じされた流路から流出する。その間に、PMがセル壁3aの孔やセル壁面に捕集されて堆積して行く。つまり、PMは、PMフィルタ3のセル壁3aを排気が透過する際にPMフィルタ3に捕集される。
【0023】
図2は、本実施例に係るPMフィルタ3の詳細を示す図である。図2に示すように、PMフィルタ3の排気がセル壁を透過した後に現れるセル壁3aの下流側裏面には、酸素吸蔵能力を有する触媒4がコートされている。セル壁3aの下流側裏面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒4は、Pd、Rhを担持したセリア(CeO)をコートしたもの等が用いられる。
【0024】
PMフィルタ3よりも下流の排気通路2には、三元触媒等の触媒ユニット5が配置されている。触媒ユニット5は、Pt、Rhを担持したセリア(CeO)をコートしたモノリス触媒等が用いられる。触媒ユニット5は、酸素吸蔵能力を有する。
【0025】
本実施例では、PMフィルタ3が、触媒ユニット5等の他の酸素吸蔵能力を有する触媒の最上流側に配置されている。つまり、PMフィルタ3よりも上流の排気通路2に酸素吸蔵能力を有する触媒を配置していない。
【0026】
以上述べたように構成された内燃機関1には、内燃機関1を制御するための電子制御ユニットであるECU6が併設されている。ECU6は、内燃機関1の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1の運転状態を制御するユニットである。ECU6には、クランクポジションセンサ、アクセルポジションセンサ等の各種センサが電気配線を介して接続され、これら各種センサの出力信号がECU6に入力される。ECU6は、クランクポジションセンサ、アクセルポジションセンサ等の出力信号を受けて内燃機関1の運転状態を判別し、判別された機関運転状態に基づいて内燃機関1等を電気的に制御する。
【0027】
例えば、ECU6は、燃料噴射制御などの既知の制御の他に、PMフィルタ3を強制的に再生する制御(以下、フィルタ再生制御という)を実行する。フィルタ再生制御は、PMフィルタ3にPMが規定量以上に捕集された場合に行われる。
【0028】
(フィルタ再生制御)
本実施例に係るフィルタ再生制御は、PMフィルタ3にPMが規定量以上に捕集された場合に、PMフィルタ3を、PMが自己燃焼するPM自己燃焼温度である580℃以上に
昇温させて、PMフィルタ3に堆積したPMを酸化除去(自己燃焼)するものである。具体的なフィルタ再生制御は、内燃機関1の運転状態から推定されるPMフィルタ3の温度が、PMフィルタ3の活性温度である350℃以上、且つ、過昇温となる温度である780℃以下の場合に、図3に示すように内燃機関1から排出される排気空燃比をリッチとリーンとに交互に強制的に制御する。図3は、本実施例に係るフィルタ再生制御中の排気空燃比の制御を示す図である。図3に示すように、ストイキ(理論空燃比)であるλ=1を中心に、排気通路2に配置された全触媒の酸素吸蔵能力の範囲内で排気空燃比をリッチとリーンとに交互に制御する。ここで、フィルタ再生制御中は、予め導出したマップを用いて、推定されるPMフィルタ3の温度がPM自己燃焼温度以上の所定温度に制御されるようにするとよい。
【0029】
なお、推定されるPMフィルタ3の温度が350℃よりも低い場合や、780℃を超える場合には、このフィルタ再生制御、すなわち排気空燃比をリッチとリーンとに交互に制御することは行わない。
【0030】
図4は、本実施例に係るフィルタ再生制御時の酸素の挙動を示す図である。図4に示すように、本実施例のフィルタ再生制御を実施すると、排気空燃比がリーンに制御された際に、排気に酸素が多量に含まれることになる。この排気空燃比がリーンに制御された際に多量に含まれる酸素が、PMと結びつきPMを酸化除去することができると共に、PMフィルタ3のセル壁3aの下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒4に供給・吸蔵される。一方、排気空燃比がリッチに制御された際に、排気に内燃機関1から排出される、例えばHC、CO、H等の還元性ガスが多量に含まれることになる。この排気空燃比がリッチに制御された際に多量に含まれる還元性ガスが、PMフィルタ3のセル壁3aの下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒4に供給される。以上のことから、PMフィルタ3のセル壁3aの下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒4に供給・吸蔵された酸素及び還元性ガスが酸化反応して酸化反応熱を生じ、PMフィルタ3を早期に昇温することができる。そして、PMフィルタ3を早期に昇温させてPMフィルタ3の温度がPM自己燃焼温度(580℃)以上になると、排気空燃比がリーンに制御された際に多量に含まれる酸素がPMと結びつきPMの酸化除去に消費されて、PMフィルタ3を早期に再生することができる。このように本実施例であると、PMフィルタ3を早期に昇温させることができ、PMフィルタを早期に再生することができる。
【0031】
以上の本実施例では、PMフィルタ3よりも上流の排気通路2に酸素吸蔵能力を有する触媒を配置していないので、PMフィルタ3よりも上流で内燃機関1から排出された排気中の酸素が吸蔵や反応に利用されることがない。よって、PMフィルタ3に流入する酸素量を最大限確保することができる。また、PMフィルタ3のセル壁3aの下流側背面に酸素吸蔵能力を有する触媒4をコートしたので、上述のように、酸素は、まず、PMフィルタ3のセル壁3aを透過できなかったセル壁3aの上流側表面に堆積したPMと結びつくことができ、PMフィルタ3の温度がPM自己燃焼温度であれば、PMを酸化除去することができる。そしてPMの酸化除去に消費されなかった酸素は、PMフィルタ3のセル壁3aを透過しセル壁3aの下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒4に供給・吸蔵されるので、酸素吸蔵能力を有する触媒4が酸素及び還元性ガスを反応に利用して発熱し、PMフィルタ3を昇温させることができる。このように、PMフィルタ3でのPMの酸化除去に消費されなかった酸素を利用してPMフィルタ3を昇温させ、PMフィルタ3の温度がPM自己燃焼温度以上になると、PMフィルタ3に流入する酸素がPMの酸化除去に消費されて、PMフィルタ3を再生することができ、酸素を効率良く利用する。したがって、酸素を効率良く利用してPMフィルタ3を再生することができる。また本実施例であると、電気加熱式等のような酸素を消費せずにPMフィルタ3を加熱する装置を別途設けないので、コストアップを抑制することができる。
【0032】
<実施例2>
(PMフィルタ)
本実施例では、フィルタ再生制御時にPMフィルタ3をより早期に昇温するものである。本実施例では、その特徴部分のみを説明し、その他の部分は説明を省略する。
【0033】
図5は、本実施例に係るPMフィルタ3の詳細を示す図である。図5に示すように、PMフィルタ3の排気がセル壁を透過する前に現れるセル壁3aの上流側表面には、酸素吸蔵能力の無い触媒7がコートされている。セル壁3aの上流側表面にコートされた酸素吸蔵能力の無い触媒7は、Pd、Rhを担持したAlをコートしたもの等が用いられる。酸素吸蔵能力の無い触媒7は、酸素を吸蔵することができないので、あまり酸素を消費せず、酸素及び例えばHC、CO、H等の還元性ガスが同時に供給される場合に酸化反応する。よって、本実施例によると、PMフィルタ3のセル壁3aの上流側表面にコートされた酸素吸蔵能力の無い触媒7が、あまり酸素を消費することなく酸化反応熱を生じ、PMフィルタ3をより早期に昇温させることができる。また実施例1と同様に、PMフィルタ3の排気がセル壁を透過した後に現れるセル壁3aの下流側裏面には、酸素吸蔵能力を有する触媒4がコートされている。セル壁3aの下流側裏面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒4は、Pd、Rhを担持したセリア(CeO)をコートしたもの等が用いられる。
【0034】
(フィルタ再生制御)
本実施例に係るフィルタ再生制御は、PMフィルタ3にPMが規定量以上に捕集された場合に、PMフィルタ3を、PMが自己燃焼するPM自己燃焼温度である580℃以上に昇温させて、PMフィルタ3に堆積したPMを酸化除去(自己燃焼)するものである。具体的なフィルタ再生制御は、内燃機関1の運転状態から推定されるPMフィルタ3の温度が、PMフィルタ3の触媒ライトオフ温度である230℃以上、且つ、PM自己燃焼温度である580℃より低い場合に、図6に示すように内燃機関1の一部の気筒(第2、第3気筒)を、排気空燃比が目標排気空燃比(ストイキ:λ=1)よりもリッチに制御すると共に、他の気筒(第1、第4気筒)を、排気空燃比が目標排気空燃比(ストイキ:λ=1)よりもリーンに制御する。図6は、本実施例に係るPM自己燃焼温度より低い場合のフィルタ再生制御中の排気空燃比の制御を示す図である。図6に示すように、ストイキ(理論空燃比)であるλ=1よりもリッチ状態に第2、第3気筒を制御し、λ=1よりもリーン状態に第1、第4気筒を制御する。この制御を気筒別空燃比制御という。
【0035】
一方、フィルタ再生制御は、内燃機関1の運転状態から推定されるPMフィルタ3の温度が、PM自己燃焼温度である580℃以上、且つ、過昇温となる温度である780℃以下の場合に、図3に示すように内燃機関1から排出される排気空燃比をリッチとリーンとに交互に強制的に制御する。図3は、本実施例に係るPM自己燃焼温度以上の場合のフィルタ再生制御中の排気空燃比の制御を示す図でもある。図3に示すように、ストイキ(理論空燃比)であるλ=1を中心に、排気通路2に配置された全触媒の酸素吸蔵能力の範囲内で排気空燃比をリッチとリーンとに交互に制御する。この制御をリッチ・リーン制御という。ここで、フィルタ再生制御中は、予め導出したマップを用いて、推定されるPMフィルタ3の温度がPM自己燃焼温度以上の所定温度に制御されるようにするとよい。
【0036】
なお、推定されるPMフィルタ3の温度が230℃よりも低い場合や、780℃を超える場合には、このフィルタ再生制御は行わない。
【0037】
図7は、本実施例に係るPM自己燃焼温度より低い場合のフィルタ再生制御時の酸素の挙動を示す図である。図7に示すように、本実施例のフィルタ再生制御を実施すると、まず、PM自己燃焼温度より低い場合には気筒別空燃比制御が実施され、第2、第3気筒が、排気空燃比がλ=1よりもリッチに制御されて例えばHC、CO、H等の還元性ガス
が排気に多量に含まれることになる。一方、第1、第4気筒が、排気空燃比がλ=1よりもリーンに制御されて酸素が排気に多量に含まれることになる。このような酸素及び還元性ガスの両方が多量に含まれた排気をPMフィルタ3に供給することができる。ここで、酸素吸蔵能力の無い触媒7は、酸素を吸蔵することができないので、あまり酸素を消費せず、酸素及び還元性ガスが同時に供給される場合に酸化反応する。これにより、PMフィルタ3のセル壁3aの上流側表面にコートされた酸素吸蔵能力の無い触媒7では、多量の酸素及び還元性ガスが同時に供給されて酸化反応して高い酸化反応熱を生じる。また、PMフィルタ3のセル壁3aの下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒4でも、多量の酸素及び還元性ガスが同時に供給されて酸化反応して高い酸化反応熱を生じる。よって、PMフィルタ3をより早期に昇温させることができる。
【0038】
図8は、本実施例に係るPM自己燃焼温度以上の場合のフィルタ再生制御時の酸素の挙動を示す図である。図8に示すように、本実施例のフィルタ再生制御でPM自己燃焼温度以上の場合にはリッチ・リーン制御が実施され、排気空燃比がリーンに制御された際に、排気に酸素が多量に含まれることになる。この排気空燃比がリーンに制御された際に多量に含まれる酸素が、PMと結びつきPMを酸化除去することができると共に、PMフィルタ3のセル壁3aの下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒4に供給・吸蔵される。一方、排気空燃比がリッチに制御された際に、排気に内燃機関1から排出される、例えばHC、CO、H等の還元性ガスが多量に含まれることになる。この排気空燃比がリッチに制御された際に多量に含まれる還元性ガスが、PMフィルタ3のセル壁3aの下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒4に供給される。以上のことから、PMフィルタ3のセル壁3aの下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒4に供給・吸蔵された酸素及び還元性ガスが酸化反応して酸化反応熱を生じ、PMフィルタ3を昇温してPMフィルタ3の高温状態を維持することができる。また、PMフィルタ3の温度がPM自己燃焼温度以上であるので、排気空燃比がリーンに制御された際に多量に含まれる酸素がPMと結びつきPMの酸化除去に消費されて、PMフィルタ3を早期に再生することができる。このとき、セル壁3aの上流側表面の酸素吸蔵能力の無い触媒7が、PMの酸化反応を促進するので、PMフィルタ3をより早期に再生することができる。
【0039】
以上のように本実施例であると、PM自己燃焼温度を閾値としてフィルタ再生制御を気筒別空燃比制御とリッチ・リーン制御とに切り換えて、PMフィルタ3をより早期に昇温させることができ、PMフィルタを早期に再生することができる。
【0040】
<実施例3>
(PMフィルタ)
本実施例では、フィルタ再生制御時にPMフィルタ3での温度分布を均一化するものである。本実施例では、その特徴部分のみを説明し、その他の部分は説明を省略する。
【0041】
実施例2と同様に、PMフィルタ3の排気がセル壁を透過する前に現れるセル壁3aの上流側表面には、酸素吸蔵能力の無い触媒7がコートされている。セル壁3aの上流側表面にコートされた酸素吸蔵能力の無い触媒7は、Pd、Rhを担持したAlをコートしたもの等が用いられる。また実施例1,2と同様に、PMフィルタ3の排気がセル壁を透過した後に現れるセル壁3aの下流側裏面には、酸素吸蔵能力を有する触媒4がコートされている。セル壁3aの下流側裏面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒4は、Pd、Rhを担持したセリア(CeO)をコートしたもの等が用いられる。図9は、本実施例に係るPMフィルタ3における酸素吸蔵能力を有する触媒4の分布を示す図である。図9に示すように、酸素吸蔵能力を有する触媒4は、フィルタ再生制御時のPMフィルタ3での温度分布を均一化するようにコート量を変更している。具体的には、フィルタ中心部は、過剰な昇温を回避するように発熱量を少なくするためコート量を少なくする。一方、フィルタ外周部は、放熱して低温になることを回避するように発熱量を多くするため
コート量を多くする。以上のように酸素吸蔵能力を有する触媒4のコート量を変更すると、PMフィルタ3のフィルタ中心部では過昇温を回避し、熱劣化や破損を抑制することができる。また、PMフィルタ3のフィルタ外周部が低温となることがなく、フィルタ全域でPMを効率的に燃焼させることができるので、フィルタ再生制御後にPMの燃え残りを無くすことができる。
【0042】
(フィルタ再生制御)
本実施例に係るフィルタ再生制御は、PMフィルタ3にPMが規定量以上に捕集された場合に、PMフィルタ3を、PMが自己燃焼するPM自己燃焼温度である580℃以上に昇温させて、PMフィルタ3に堆積したPMを酸化除去(自己燃焼)するものである。具体的なフィルタ再生制御は、内燃機関1の運転状態から推定されるPMフィルタ3の温度が、PMフィルタ3の触媒ライトオフ温度である230℃以上、且つ、PM自己燃焼温度である580℃より低い場合に、図6に示すように内燃機関1の一部の気筒(第2、第3気筒)を、排気空燃比が目標排気空燃比(ストイキ:λ=1)よりもリッチに制御すると共に、他の気筒(第1、第4気筒)を、排気空燃比が目標排気空燃比(ストイキ:λ=1)よりもリーンに制御する。図6は、本実施例に係るPM自己燃焼温度より低い場合のフィルタ再生制御中の排気空燃比の制御を示す図でもある。図6に示すように、ストイキ(理論空燃比)であるλ=1よりもリッチ状態に第2、第3気筒を制御し、λ=1よりもリーン状態に第1、第4気筒を制御する。この制御を気筒別空燃比制御という。
【0043】
一方、フィルタ再生制御は、内燃機関1の運転状態から推定されるPMフィルタ3の温度が、PM自己燃焼温度である580℃以上、且つ、過昇温となる温度である780℃以下の場合に、図10に示すように内燃機関1から排出される排気空燃比をPM自己燃焼温度より低い場合に偏らせた排気空燃比の値を中心にリッチとリーンとに交互に強制的に制御する。図10は、本実施例に係るPM自己燃焼温度以上の場合のフィルタ再生制御中の排気空燃比の制御を示す図でもある。図10に示すように、PM自己燃焼温度より低い場合に偏らせたλ=1よりもリッチの値を中心に、第2、第3気筒を排気通路2に配置された全触媒の酸素吸蔵能力の範囲内で排気空燃比をリッチとリーンとに交互に制御する。またPM自己燃焼温度より低い場合に偏らせたλ=1よりもリーンの値を中心に、第1、第4気筒を排気通路2に配置された全触媒の酸素吸蔵能力の範囲内で排気空燃比をリッチとリーンとに交互に制御する。この制御は気筒別空燃比制御及びリッチ・リーン制御を同時に行っているといえる。ここで、気筒別空燃比制御及びリッチ・リーン制御の同時制御中では、気筒別空燃比制御における基準となるリッチとリーンとの差を変えることで、フィルタ全体の温度を制御する。一方、リッチ・リーン制御の振幅を変えることで、フィルタ外周部である低温部を昇温するようにしている。
【0044】
なお、推定されるPMフィルタ3の温度が230℃よりも低い場合や、780℃を超える場合には、このフィルタ再生制御は行わない。
【0045】
図7は、本実施例に係るPM自己燃焼温度より低い場合のフィルタ再生制御時の酸素の挙動を示す図である。図7に示すように、本実施例のフィルタ再生制御を実施すると、まず、PM自己燃焼温度より低い場合には気筒別空燃比制御が実施され、第2、第3気筒が、排気空燃比がλ=1よりもリッチに制御されて例えばHC、CO、H等の還元性ガスが排気に多量に含まれることになる。一方、第1、第4気筒が、排気空燃比がλ=1よりもリーンに制御されて酸素が排気に多量に含まれることになる。このような酸素及び還元性ガスの両方が多量に含まれた排気をPMフィルタ3に供給することができる。ここで、酸素吸蔵能力の無い触媒7は、酸素を吸蔵することができないので、あまり酸素を消費せず、酸素及び還元性ガスが同時に供給される場合に酸化反応する。これにより、PMフィルタ3のセル壁3aの上流側表面にコートされた酸素吸蔵能力の無い触媒7では、多量の酸素及び還元性ガスが同時に供給されて酸化反応して高い酸化反応熱を生じる。また、P
Mフィルタ3のセル壁3aの下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒4でも、多量の酸素及び還元性ガスが同時に供給されて酸化反応して高い酸化反応熱を生じる。よって、PMフィルタ3をより早期に昇温させることができる。
【0046】
本実施例のフィルタ再生制御でPM自己燃焼温度以上の場合には気筒別空燃比制御及びリッチ・リーン制御が同時に実施され、第1、第4気筒が、排気空燃比がリーンに制御された際に、排気に酸素がより多量に含まれることになる。この排気空燃比がリーンに制御された際に多量に含まれる酸素が、PMと結びつきPMを酸化除去することができると共に、PMフィルタ3のセル壁3aの下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒4に供給・吸蔵される。一方、第2、第3気筒が、排気空燃比がリッチに制御された際に、排気に内燃機関1から排出される、例えばHC、CO、H等の還元性ガスがより多量に含まれることになる。この排気空燃比がリッチに制御された際に多量に含まれる還元性ガスが、PMフィルタ3のセル壁3aの下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒4に供給される。以上のことから、PMフィルタ3のセル壁3aの下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒4に供給・吸蔵された酸素及び還元性ガスが酸化反応して酸化反応熱を生じ、PMフィルタ3を昇温してPMフィルタ3の高温状態を維持することができる。また、PMフィルタ3の温度がPM自己燃焼温度以上であるので、第1、第4気筒が、排気空燃比がリーンに制御された際により多量に含まれる酸素がPMと結びつきPMの酸化除去に消費されて、PMフィルタ3をより早期に再生することができる。このとき、セル壁3aの上流側表面の酸素吸蔵能力の無い触媒7が、PMの酸化反応を促進するので、PMフィルタ3をより早期に再生することができる。
【0047】
以上のように本実施例であると、PM自己燃焼温度を閾値としてフィルタ再生制御を気筒別空燃比制御と気筒別空燃比制御及びリッチ・リーン制御の同時制御とに切り換えて、PMフィルタ3をより早期に昇温させることができ、PMフィルタをより早期に再生することができる。
【0048】
<その他>
本発明に係るPMフィルタは、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えてもよい。また、上記実施例は、PMフィルタだけでなくPMフィルタの再生方法の実施例でもある。
【符号の説明】
【0049】
1:内燃機関、2:排気通路、3:フィルタ、3a:セル壁、4:セル壁の下流側背面にコートされた酸素吸蔵能力を有する触媒、5:触媒ユニット、6:ECU、7:セル壁の上流側表面にコートされた酸素吸蔵能力の無い触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、前記内燃機関から排出される排気中のPMを、壁部を排気が透過する際に捕集するPMフィルタにおいて、
前記PMフィルタよりも上流の前記排気通路に酸素吸蔵能力を有する触媒を配置せず、
前記PMフィルタの前記壁部の下流側背面に酸素吸蔵能力を有する触媒をコートしたことを特徴とするPMフィルタ。
【請求項2】
前記PMフィルタは、排気空燃比がリッチとリーンとに交互に強制的に制御されることで、再生されることを特徴とする請求項1に記載のPMフィルタ。
【請求項3】
前記PMフィルタの前記壁部の上流側表面に酸素吸蔵能力の無い触媒をコートしたことを特徴とする請求項1又は2に記載のPMフィルタ。
【請求項4】
前記PMフィルタは、前記PMフィルタの温度がPM自己燃焼温度よりも低い場合に、前記内燃機関の複数の気筒のうち、一部の気筒が、排気空燃比が目標排気空燃比よりもリッチに制御されると共に、少なくとも1つの他の気筒が、排気空燃比が目標排気空燃比よりもリーンに制御されることで、再生されることを特徴とする請求項3に記載のPMフィルタ。
【請求項5】
内燃機関の排気通路に設けられ、前記内燃機関から排出される排気中のPMを、壁部を排気が透過する際に捕集するPMフィルタであって、前記PMフィルタよりも上流の前記排気通路に酸素吸蔵能力を有する触媒を配置せず、前記PMフィルタの前記壁部の下流側背面に酸素吸蔵能力を有する触媒をコートしたPMフィルタの再生方法であって、
前記PMフィルタを、排気空燃比をリッチとリーンとに交互に強制的に制御して、再生することを特徴とするPMフィルタの再生方法。
【請求項6】
前記PMフィルタは、前記PMフィルタの前記壁部の上流側表面に酸素吸蔵能力の無い触媒がコートされており、
前記PMフィルタを、前記PMフィルタの温度がPM自己燃焼温度よりも低い場合に、前記内燃機関の複数の気筒のうち、一部の気筒を、排気空燃比を目標排気空燃比よりもリッチに制御すると共に、少なくとも1つの他の気筒を、排気空燃比を目標排気空燃比よりもリーンに制御することで、再生することを特徴とする請求項5に記載のPMフィルタの再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−219732(P2012−219732A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87256(P2011−87256)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】