説明

PPAR結合作用剤

【課題】 副作用が少なく、低濃度で処方可能な、PPARαおよびPPARγの両方の活性化能を有するPPAR結合作用剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドのグリセリド混合物からなるPPAR結合作用剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γリノレン酸(GLA)トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドを含むグリセリド混合物からなるPPAR(peroxisome proliferator-activated receptors;ペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体)結合作用剤に関する。本発明はまた、該PPAR結合作用剤を含む医薬、食品および化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
PPARは近年見つかった新たな核内受容体である。PPARは、核内に存在しており、α、β、γの3種類のサブタイプを有する。
PPARαのリガンドは、主に肝臓のPPARαを活性化し、脂質代謝を改善することから、脂質代謝改善、高脂血症治療効果を有することが知られている。PPARβのリガンドは、骨格筋における脂肪酸のβ酸化などを活性化し、インスリン抵抗性を改善し、肥満などを予防する効果を有していることが知られている。PPARγリガンドは、インスリン抵抗性を改善することから、糖尿病治療効果を有することが知られている。このように、PPAR結合作用剤は、脂質代謝改善、高脂血症治療、糖尿病治療、角化細胞の分化促進(非特許文献1)、抗腫瘍(特許文献1)効果等広範な効果を持つことが知られている。
その一方で、PPARγの結合作用剤であるトログリタゾン(商品名:ノスカール)は、重篤な肝障害等の副作用を引き起こすことが知られている。
高度不飽和脂肪酸の中でもγリノレン酸トリグリセリドがヒト細胞の分化促進活性を発揮することが示されているが(特許文献2)、γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドのグリセリド混合物の活性は調べられておらず、PPARの活性化能についても調べられていない。
また、代謝の改善、それから派生する高脂血症治療や糖尿病治療、角化細胞の分化促進等の効果を発現し、しかも肝障害等の重篤な副作用を生じないようにするには、特定の脂肪酸からなり、特定の活性化能を有することが必要である。
なお、γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドのグリセリド混合物が、PPARγとαに作用することは知られていなかった。
【0003】
【特許文献1】特表2006−501136公報
【特許文献2】特開2006−342074公報
【非特許文献1】J.Invest.Dermatol.2004,123(2)305-312
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、副作用が少なく、低濃度で処方可能な、PPARαおよびPPARγの両方の活性化能を有するPPAR結合作用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドのグリセリド混合物からなるPPAR結合作用剤を提供する。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドのグリセリド混合物からなるPPAR結合作用剤。
(2)前記グリセリド混合物が、下記の性質を有する、(1)に記載のPPAR結合作用
剤:
(i)PPARγの活性化能が、PPARγのリガンド結合領域とGAL4 DNA結合領域の融合タンパク質をコードするDNAを含むプラスミドと、GAL4結合DNA配列にルシフェラーゼをつないだレポータープラスミドを発現する細胞においてルシフェラーゼ活性を測定するレポーター・アッセイで、メタノール対比3〜6、
(ii)PPARαの活性化能が、PPARαのリガンド結合領域とGAL4 DNA結合領域の融合タンパク質をコードするDNAを含むプラスミドと、GAL4結合DNA配列にルシフェラーゼをつないだレポータープラスミドを発現する細胞においてルシフェラーゼ活性を測定するレポーター・アッセイで、メタノール対比2〜4。
(3)前記グリセリド混合物が酵素処理物である、(1)または(2)に記載のPPAR結合作用剤。
(4)前記酵素がリパーゼである、(3)に記載のPPAR結合作用剤。
(5)前記グリセリド混合物が、1〜500μg/mLの濃度で投与されることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載のPPAR結合作用剤。
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載のPPAR結合作用剤を含む医薬。
(7)(1)〜(5)のいずれか1項に記載のPPAR結合作用剤を含む食品。
(8)(1)〜(5)のいずれか1項に記載のPPAR結合作用剤を含む化粧品。
(9)高脂血症治療または糖尿病治療のための(6)記載の医薬。
(10)高脂血症治療効果または糖尿病治療効果を有する旨の表示が付された(7)記載の食品。
(11)γリノレン酸トリグリセリドを酵素処理して、γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドを含むグリセリド混合物を取得し、該混合物を薬理学的に許容し得る担体に配合することを特徴とする、医薬の製造法。
(12)γリノレン酸トリグリセリドを酵素処理して、γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドを含むグリセリド混合物を取得し、該混合物を食品原料に配合することを特徴とする、食品の製造法。
(13)γリノレン酸トリグリセリドを酵素処理して、γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドを含むグリセリド混合物を取得し、該混合物を化粧品原料に配合することを特徴とする、化粧品の製造法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のPPAR結合作用剤は、生体内にもともと存在するものに由来するため、毒性の心配が少ない。また、本発明のPPAR結合作用剤は、トログリタゾンに比べ、低濃度でシグナルを発生可能である。さらに、本発明のPPAR結合作用剤は、医薬、食品、および化粧品などとして利用可能である。なお、本発明のPPAR結合作用剤は、特に、高脂血症治療もしくは糖尿病治療のための医薬またはこれらに効果を有する食品としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のPPAR結合作用剤は、γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドのグリセリド混合物からなる。本発明で使用されるγリノレン酸グリセリド混合物は、γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドを含有し、PPAR結合作用を有するものであれば、その割合は特に制限されないが、好ましくは、グリセリド全量に対してそれぞれ10〜79質量%、20〜70質量%及び1〜70質量%、より好ましくは、グリセリド全量に対してそれぞれ10〜70質量%、25〜60質量%及び3〜65質量%である。
なお、本発明で使用されるγリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリドは、グリセロールの少なくとも1つの水酸基がγリノレン酸とエステル結合していればよく
、グリセロールのγリノレン酸が結合した水酸基以外の水酸基がγリノレン酸以外の脂肪酸とエステル結合したグリセリドも含むものである。
【0009】
本発明のPPAR結合作用剤は、GLAの化学反応により得ることもできるが、GLAのトリグリセリドを酵素処理することにより、切断されたモノ体、ジ体を含有した形態(いわゆる自己乳化型)を含むことが好ましい。本発明で使用されるγリノレン酸のトリグリセリドの酵素処理物は、好ましくはリパーゼなどの酵素でγリノレン酸トリグリセリドを処理して得られたものである。処理の方法としては、特開2005−198648号公報を参照して行うことができる。γリノレン酸のトリグリセリドを高濃度、好ましくは20質量%以上含む油脂を酵素処理したものでもよい。なお、遊離のγリノレン酸やその他の脂肪酸は高濃度で細胞毒性を有することがあるため、酵素処理後、遊離の脂肪酸を除いておくことが好ましい。
γリノレン酸のトリグリセリドは、常法により合成できる。なお、市販品として、NU−CHEK−PREP,Inc社、出光興産株式会社などにより販売されている。また、微生物によって製造されたものでもよい(特開昭63−283589号公報、特開平03−072892号公報、特開平8−214892号公報)。
【0010】
本発明における「PPAR結合作用剤」とは、PPARの少なくともαおよびγに結合し、PPARの標的遺伝子の転写を活性化することができる物質をいう。PPARαの標的遺伝子としては、脂質の輸送などに関連した遺伝子である、FAT (Fatty Acid Transporter)、UCPs (Uncoupling Proteins) (Clapham J.C. et al, Nature 406: 415-418 (2000))が挙げられ、PPARγの標的遺伝子としては、脂質代謝に関連した遺伝子である、レジスチン(Steppan M.C. et al, Nature 409: 307-312 (2001))、レプチンが挙げられる。
【0011】
本発明において、γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドのグリセリド混合物の濃度は、高脂血症治療効果または糖尿病治療効果を発揮し、副作用や細胞毒性を起こさないためには、1〜500μg/mLが好ましく、より好ましくは10〜100μg/mL、さらに好ましくは20〜50μg/mLである。
【0012】
PPARはα、β、γの3種類があるが、脂質代謝のためにはγとαに作用するデュアルアゴニストであることが望ましい。具体的には、高脂血症治療効果または糖尿病治療効果を発揮し、副作用や細胞毒性を起こさないためには、メタノール対比でγの場合、3〜6が好ましく、より好ましくは3〜5である。αの場合、高脂血症治療効果または糖尿病治療効果を発揮し、副作用や細胞毒性を起こさないためには、2〜4が好ましく、より好ましくは2〜3である。PPARの活性化は、レポーター・アッセイにより測定されるルシフェラーゼの発現系などのアッセイ系によって測定される。
本願においては、Biochemical & Biophysical Research Communication 337 (2005) p.440-445のMaterial and methods Luciferase assaysの欄に記載されるように、PPARリガンド結合領域とGAL4 DNA結合領域を有する融合タンパク質を発現するプラスミドと、GAL4結合DNA配列と連結したルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子を含むプラスミドを、CV−1細胞などの哺乳動物細胞に導入し、γリノレン酸トリグリセリドの酵素処理物を入れて、ルシフェラーゼなどのレポーター活性を測定することにより、PPARの活性化を確認することができる。
【0013】
本発明のPPAR結合作用剤を含有してなる医薬は、脂質代謝の改善、高脂血症治療、糖尿病治療、角化細胞の分化促進、腫瘍の治療に効果を有する。
本発明の医薬は、医薬製剤の製造法で一般的に用いられている公知の手段に従って、γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドのグリセリド混合物を、そのまま、あるいは薬理学的に許容される担体と混合して投与
することができる。本発明の医薬は、好ましくは、γリノレン酸トリグリセリドを酵素処理して、γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドを含むグリセリド混合物を取得し、混合物を薬理学的に許容し得る担体に配合することによって製造することができる。
薬理学的に許容される担体としては、例えば固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤及び崩壊剤、あるいは液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤及び無痛化剤等が挙げられる。
本発明の医薬の製剤化には、通常製剤化に用いられる各種の成分が任意に使用されるが、その例としては、例えばデンプン、デキストリン、乳糖、コーンスターチ、無機塩類などが挙げられる。
【0014】
本発明のPPAR結合作用剤を含有してなる医薬の剤型としては、アンプル、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、輸液、ドリンク剤等が挙げられるが、特定の剤型のものに限定されるものではない。
製剤中のPPAR結合作用剤の好ましい含有量は、製剤全量に対して0.1〜80質量%であり、より好ましくは1〜5質量%である。
【0015】
本発明の医薬の投与方法としては特に制限されず、経口投与、静脈投与などが挙げられる。好ましい投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより異なり特に制限されないが、例えば、患者(体重60kgとして)に対して、一日につき約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgである。
本発明のPPAR結合作用剤は、前記グリセリド混合物が1〜500μg/mLの濃度で投与されることを特徴とする。
【0016】
本発明のγリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドのグリセリド混合物からなるPPAR結合作用剤は、食品として一般に用いられる原料、例えば、蛋白質、脂質、炭水化物、ビタミン類などに配合することにより、高脂血症治療または糖尿病治療に効果を有する健康食品、健康補助食品、食事用補添物、栄養組成物としても用いることができる。本発明の食品は、好ましくは、γリノレン酸トリグリセリドを酵素処理して、γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドを含むグリセリド混合物を取得し、混合物を食品原料に配合することにより製造することができる。
本発明の食品中に含まれるPPAR結合作用剤の量は、特に限定されず適宜選択すればよいが、例えば、食品中に0.1〜50質量%、好ましくは1〜10質量%とするのがよい。
また、本発明の食品は、上記のような疾患に対する予防または治療効果を有する健康食品や特定保健用食品などとすることもできる。本発明の食品は、例えば「高脂血症治療効果を有する食品」、「高脂血症治療効果を有する成分を含有する食品」等の表示を付して販売することもできる。また、「糖尿病治療効果を有する食品」、「糖尿病治療効果を有する成分を含有する食品」などの表示を有してもよい。
さらに、本発明のPPAR結合作用剤は、飲食物、動物飼料、ペットフード、ペット用健康食品などとしても用いることができる。
【0017】
本発明のγリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドのグリセリド混合物からなるPPAR結合作用剤は、化粧品、医薬品、医薬部外品等の皮膚外用剤に含有させることができる。本発明の化粧品は、好ましくは、γリノレン酸トリグリセリドを酵素処理して、γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドを含むグリセリド混合物を取得し、混合物を化粧品原料に配合することにより製造することができる。化粧品としては、乳液、石鹸、洗顔料、入浴剤、クリーム、乳液、化粧水、オーデコロン、ひげ剃り用クリーム、ひ
げ剃り用ローション、化粧油、日焼け・日焼け止めローション、おしろいパウダー、ファンデーション、香水、パック、爪クリーム、エナメル、エナメル除去液、眉墨、ほお紅、アイクリーム、アイシャドー、マスカラ、アイライナー、口紅、リップクリーム、シャンプー、リンス、染毛料、分散液、洗浄料等が挙げられる。医薬品または医薬部外品としては、軟膏剤、クリーム剤、外用液剤等の医薬品等が挙げられる。
また、本発明の皮膚外用剤には前記生理活性組成物のほか本発明の効果を損なわない範囲で化粧品、医薬部外品などの皮膚外用剤に配合される成分、油分、高級アルコール、脂肪酸、紫外線吸収剤、粉体、顔料、界面活性剤、多価アルコール・糖、高分子、生理活性物質、溶媒、酸化防止剤、香料、防腐剤等を配合することができる。
【実施例】
【0018】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明が、これら実施例にのみ、限定を受けないことは言うまでもない。
【0019】
実施例1:本発明のPPAR結合作用剤の製造
特開2005−198648号公報に記載されるように、GLA含有油脂(出光興産(株)製、商品名:グラノイルHGC、GLA:25.9質量%)100g及び蒸留水100gを含む反応系に、Rhizopus niveus産生リパーゼ(天野エンザイム(株)製、ニューラーゼF3G、30,000U/g)を、20,000ユニット加え、撹拌しながら30℃で48時間反応させた。酵素処理後、遊離の脂肪酸を除いた。
得られた分解反応物に10質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加して分解反応物のpHを8〜9に調整した後、ジエチルエーテル200ミリリットルを用いて分解反応物中の油分を抽出し、水洗し、脱水後エーテルを除去して油分(油脂組成物)を得た。この組成は、トリグリセリド 59.2質量%、ジグリセリド 37.2質量%、モノグリセリド 3.6質量%であった。
以下、この油脂組成物(GLAトリグリセリドリパーゼ処理物)を、本発明のPPAR結合作用剤として用いた。
【0020】
実施例2:本発明のPPAR結合作用剤のPPARの活性化能
本発明のPPAR結合作用剤のPPARの活性化能の測定は、Tsuyoshi Gotoら、Biochemical & Biophysical Research Communication 337 (2005) p.440-445、「Phytol directly activates proliferator-activated receptor α (PPARα) and regulates gene expression involved in lipid metabolism in PPARα-expressing HepG2 hepatocytes」のMaterial and methods Luciferase assaysの欄を参照して行った。詳細には、PPARリガンド活性は、PPARリガンド結合領域とGAL4 DNA結合領域との融合タンパクに対する結合および標的遺伝子活性化をルシフェラーゼの発現で評価するレポーター・アッセイにより測定した。このアッセイにおいて、サンプルの活性は、溶媒対照と比較し、溶媒対照よりも有意に高い活性を示した。ルシフェラーゼ活性の検出は、FEBS Letters 514 (2002) 315-322に記載されるような、レポータージーンアッセイ法を用いた。
具体的には、CV−1細胞に、PPARリガンド結合領域とGAL4 DNA結合領域の融合タンパク質をコードするDNAを含むプラスミドと、GAL4結合DNA配列にルシフェラーゼをつないだレポータープラスミドを導入し、この細胞に、以下に記載のリガンドを添加して、インキュベートした後にルシフェラーゼ活性の検出を行った。
【0021】
サンプルは、100μg/ml(151μM、グリセリド組成(トリグリセリド 59.2質量%、ジグリセリド 37.2質量%、モノグリセリド 3.6質量%))GLAトリグリセリドリパーゼ処理物(GLAリパーゼ処理物)、100μg/ml(114μM)GLA−トリグリセリド、100μg/mlのキャノーラ油(不飽和脂肪酸であるオレイン酸やリノール酸、リノレン酸などが多く含まれているが、γリノレン酸は含まれていない)、陰性コントロールのMEOH、陰性コントロールのDMSO(ジメチルスルホオキシド)、陽性コントロールの
PPARγ結合作用剤T−174(トログリタゾン類似の作用を有するチアゾリジンジオン誘導体)(1mM)、PPARα結合作用剤GW7647(10μM)、PPARβ結合作用剤GW501516(10μM)を用いた。
結果を以下の表1に示す。GLAリパーゼ処理物、GLA−トリグリセリドの陰性コントロールには、MEOHを用い、PPARγ結合作用剤T−174、PPARα結合作用剤GW7647、PPARβ結合作用剤GW501516の陰性コントロールには、DMSOを用いた。
【0022】
【表1】

【0023】
本発明のγリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドのグリセリド混合物を含むPPAR結合作用剤は、PPARαおよびPPARγを活性化することができることが分かった。PPARβについても、PPARαおよびPPARγと比べて弱いながら活性化することができることが分かった。
【0024】
実施例3:本発明のPPAR結合作用剤(GLAリパーゼ処理物)とGLAトリグリセリドのPPARγおよびαに対する反応性比較
PPARの活性化能の測定およびサンプルは、実施例2と同様にして行った。
結果を図1に示す。
【0025】
本発明のPPAR結合作用剤は、PPARγとαの両方に作用するデュアルアゴニストであるが、GLAトリグリセリドはγにしか作用しなかった。γのみにしか作用しないGLAトリグリセリドでは、脂肪細胞の新生等、肥満の質の改善しか期待できないが、デュアルアゴニストである本発明のPPAR結合作用剤は、血糖値の低下と脂肪の減少による、抗肥満効果が期待できる。
【0026】
実施例4:本発明のPPAR結合作用剤のSDT−ラット(糖尿病モデルマウス)における血糖値降下作用
9週令のSDT/Jcl 雄を10匹、SPF条件下で飼育した。GTT(グルコーストレランステスト:糖負荷試験)を行う24時間前と2時間前の2回、本発明のPPAR結合作用剤(GLAリパーゼ処理物)(100μg/ml)(0.5ml/匹)または生理食塩水(1.5ml/匹)を、それぞれ5匹ずつ経口投与した。GTT開始17時間前より絶食し、体重換算で4.0g/kgのブドウ糖溶液(大塚糖液50%)を腹腔内に投与した。
絶食後、糖負荷後15分、30分、60分、120分経過後に尾静脈より採血し、血清
を分離後、血糖値の測定を行った。血糖値測定には、アキュチェック・アビバ(ロシュ・ダイアグノスティックス)を使用した。
結果を図2に示す。
【0027】
本発明のPPAR結合作用剤を経口投与した群は生理食塩水を投与した群に比べ、糖負荷後15〜30分経過後に血糖値の顕著な低下が観察された。PPAR作用薬はインシュリン感受性の改善作用があることが知られており、本発明のPPAR結合作用剤により、糖尿病モデル動物の低下したインシュリン感受性が改善され、血糖値の降下が観察されたことが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、PPAR結合作用剤を提供することができる。本発明のPPAR結合作用剤は、様々な生理効果(脂質代謝改善、高脂血症治療、糖尿病治療、角化細胞の分化促進、抗腫瘍効果等)を奏し、医薬、食品、化粧品等の用途に展開可能である。また、本発明のPPAR結合作用剤により、低下したインシュリン感受性を改善し、血糖値を降下させることができる。さらに、本発明のPPAR結合作用剤は、PPARγとαの両方に作用するデュアルアゴニストであるため、血糖値の低下と脂肪の減少による抗肥満効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】種々のサンプルのPPARとの反応性を示す。縦軸は反応性(%)を示す。横軸は、それぞれ、左側がPPARγとの反応性、右側がPPARαとの反応性を示す。
【図2】ラットSDT/Jclを用いた検体事前投与による糖負荷試験の結果を示す。縦軸は血糖値(mg/dl)、横軸は経過時間(分)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドのグリセリド混合物からなるPPAR結合作用剤。
【請求項2】
前記グリセリド混合物が、下記の性質を有する、請求項1に記載のPPAR結合作用剤:
(i)PPARγの活性化能が、PPARγのリガンド結合領域とGAL4 DNA結合領域の融合タンパク質をコードするDNAを含むプラスミドと、GAL4結合DNA配列にルシフェラーゼをつないだレポータープラスミドを発現する細胞においてルシフェラーゼ活性を測定するレポーター・アッセイで、メタノール対比3〜6、
(ii)PPARαの活性化能が、PPARαのリガンド結合領域とGAL4 DNA結合領域の融合タンパク質をコードするDNAを含むプラスミドと、GAL4結合DNA配列にルシフェラーゼをつないだレポータープラスミドを発現する細胞においてルシフェラーゼ活性を測定するレポーター・アッセイで、メタノール対比2〜4。
【請求項3】
前記グリセリド混合物が酵素処理物である、請求項1または2に記載のPPAR結合作用剤。
【請求項4】
前記酵素がリパーゼである、請求項3に記載のPPAR結合作用剤。
【請求項5】
前記グリセリド混合物が、1〜500μg/mLの濃度で投与されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のPPAR結合作用剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のPPAR結合作用剤を含む医薬。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のPPAR結合作用剤を含む食品。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のPPAR結合作用剤を含む化粧品。
【請求項9】
高脂血症治療または糖尿病治療のための請求項6記載の医薬。
【請求項10】
高脂血症治療効果または糖尿病治療効果を有する旨の表示が付された請求項7記載の食品。
【請求項11】
γリノレン酸トリグリセリドを酵素処理して、γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドを含むグリセリド混合物を取得し、該混合物を薬理学的に許容し得る担体に配合することを特徴とする、医薬の製造法。
【請求項12】
γリノレン酸トリグリセリドを酵素処理して、γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドを含むグリセリド混合物を取得し、該混合物を食品原料に配合することを特徴とする、食品の製造法。
【請求項13】
γリノレン酸トリグリセリドを酵素処理して、γリノレン酸トリグリセリド、γリノレン酸ジグリセリド、及びγリノレン酸モノグリセリドを含むグリセリド混合物を取得し、該混合物を化粧品原料に配合することを特徴とする、化粧品の製造法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−96799(P2009−96799A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235167(P2008−235167)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】