説明

PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物

【課題】PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼを用いたセンサーによるグルコースの測定において、酵素の安定性を担保し、実用性に優れたグルコース測定系を提供する。
【解決手段】宿主由来のタンパク質成分以外のタンパク質成分を含有しないことを特徴とするピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物、あるいは、宿主由来のタンパク質成分以外に、カルシウムまたはカルシウム塩、及び緩衝剤のみを含有する、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安定化されたピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物に関するものである。(以下ピロロキノリンキノンをPQQ、グルコースデヒドロゲナーゼをGDH、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼをPQQGDHともそれぞれ記載する。)
【背景技術】
【0002】
血清、尿などの検体中のグルコース測定法として、PQQを補酵素として必要とするPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼを使用する測定系が知られている(たとえば、非特許文献1)。この測定系は、溶液中の反応に適用することもできるが、一般に広く普及しているのはグルコースセンサーの形態である(たとえば、特許文献1)。このようなグルコースセンサーにおいて、PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼなど反応に必要な成分は乾燥状態でセンサーに固定化されていることが多い。
【非特許文献1】Methods in Enzymology, Vol.89 (1982) p20(Academic Press,Inc)
【特許文献1】特許公開2003−207475
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般的に酵素製剤には、その安定性の向上や維持等を目的に何らかの安定化剤が添加されており、PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ製剤の場合も同様である。しかしながら、PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの場合、酵素をセンサーに適用しようとすると、安定化剤は測定値に影響を与え正確性を損ねるなど不測の問題をひきおこす可能性がある。また、測定時において、反応に必要な成分の溶解性を考慮すると、同一活性を有する酵素製剤としては少量である方が望ましい。これらのことから、添加される安定化剤としては極力少量であることが望ましく、かつ酵素製剤さらにはセンサーとしての安定性と正確性を確保していることが望ましい。
本願発明の課題は、酵素製剤の安定性、と、センサーに適用した場合の測定の正確性を損なう要因の低減、を両立させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者はPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの安定化剤について、種々鋭意検討したところ、生体由来物質を使用しなくとも安定性を担保できる組成を見いだし、本発明に達した。
【0005】
本発明の概要は以下の通りである。すなわち、
[項1]
宿主由来のタンパク質成分以外のタンパク質成分を含有しないことを特徴とする、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物。
[項2]
宿主由来のタンパク質成分以外に、カルシウムまたはカルシウム塩、及び緩衝剤のみを含有する、請求項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物。
[項3]
宿主由来のタンパク質成分以外に、カルシウムまたはカルシウム塩、ピロロキノリンキノン、及び緩衝剤のみを含有する、請求項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物。
[項4]
宿主由来のタンパク質成分以外のタンパク質成分を含有させないことを特徴とする、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物中におけるピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼの安定化方法。
[項5]
宿主由来のタンパク質成分以外に、カルシウムまたはカルシウム塩、及び緩衝剤のみを含有させることを特徴とする、請求項4に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物中におけるピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼの安定化方法。
[項6]
宿主由来のタンパク質成分以外のタンパク質成分を含有させないことを特徴とする、安定化されたピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物の製造方法。
[項7]
宿主由来のタンパク質成分以外に、カルシウムまたはカルシウム塩、及び緩衝剤のみを含有させることを特徴とする、請求項6に記載の安定化されたピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物の製造方法。
[項8]
請求項1に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ組成物を含むグルコースアッセイキット。
[項9]
請求項1に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ組成物を含むグルコースセンサー。
【発明の効果】
【0006】
本願発明によれば、PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼを用いたセンサーによるグルコースの測定において、酵素の安定性を担保し、実用性に優れたグルコース測定系を提供することができる。また、酵素の安定性と測定の正確性を両立させ、実用性に優れたグルコース測定系を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において、PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼとは、補酵素としてPQQを配位する酵素であり、D−グルコースを酸化してD−グルコノ−1,5−ラクトンを生成するという反応を触媒する酵素(EC1.1.5.2(旧EC1.1.99.17))であり、由来や構造に関しては特に限定するものではない。
例えば微生物では、Acinetobacter属細菌、Pseudomonas属細菌、Burkholderia属細菌、Gluconobactor属細菌、あるいはAcetobactor属細菌などから生産される。
例えば、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)(例えば、特許文献1を参照。)、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)(例えば、非特許文献1および2を参照。)、シュードモナス・アエルギノサ(Pseudomonasaeruginosa)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)(例えば、非特許文献3を参照。)等の酸化細菌やアグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacteriumradiobacter)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)(例えば、非特許文献4を参照。)、クレブシーラ・エーロジーンズ(Klebsiella aerogenes)等の腸内細菌、ブルクホルデリア・セパシア(Burkhorderia cepacia)などを挙げることができる。
また、例えばAcinetobacter baumannii NCIMB11517株、Acinetobacter calcoaceticus IFO12552株、Acinetobacter calcoaceticus LMD79.41株などから生産される(特許文献2、3、4)。
【非特許文献1】A.M.Cleton−Jansenら、J.Bacteriol.,170,2121(1988)
【非特許文献2】Mol.Gen.Genet.,217,430(1989)
【非特許文献3】Mol.Gen.Genet.,229,206(1991)
【非特許文献4】A.M.Cleton−Jansenら、J.Bacteriol.,172,6308(1990)
【特許文献2】特開平11−243949
【特許文献3】特開2004−173538
【特許文献4】特表2004−512047
【0008】
本発明に適用することができるPQQGDHは、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する限り、上記に例示されたものにさらに他のアミノ酸残基の一部が欠失または置換されていてもよく、また他のアミノ酸残基が付加されていてもよい。
このような改変は当該技術分野における公知技術を用いて当業者であれば容易に実施することが出来る。例えば、蛋白質に部位特異的変異を導入するために当該蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列を置換または挿入するための種々の方法が、Sambrookら著、Molecular Cloning; A Laboratory Manual 第2版(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに記載されている。
【0009】
これらのPQQGDHは、当該技術分野における公知技術を用いて当業者であれば容易に製造することが出来る。
例えば、上記のPQQGDHを生産する天然の微生物、あるいは、天然のPQQGDHをコードする遺伝子をそのまま、あるいは、変異させてから、発現用ベクター(多くのものが当該技術分野において知られている。例えばプラスミド。)に挿入し、適当な宿主(多くのものが当該技術分野において知られている。例えば大腸菌。)に形質転換させた形質転換体を培養し、培養液から遠心分離などで菌体を回収した後、菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また、必要に応じてEDTAなどのキレート剤や界面活性剤等を添加して可溶化し、PQQGDHを含む水溶性画分を得ることができる。または適当な宿主ベクター系を用いることにより、発現したPQQGDHを直接培養液中に分泌させることが出来る。
上記のようにして得られたPQQGDH含有溶液を、例えば減圧濃縮、膜濃縮、さらに硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、あるいは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿せしめればよい。また、加熱処理や等電点処理も有効な精製手段である。また、吸着剤あるいはゲルろ過剤などによるゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーを行うことにより、精製されたPQQGDHを得ることができる。該精製酵素標品は、電気泳動(SDS−PAGE)的に単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
上記工程と前後して、全GDH酵素タンパク質に対するホロ型PQQGDHの割合を向上させるために、好ましくは25〜50℃、より好ましくは30〜45℃の加熱処理を行っても良い。
【0010】
上記のようにして製造されたPQQGDHは、宿主由来のタンパク質成分以外のタンパク質成分を実質的に含有しない。
あるいは、たとえば東洋紡績製GLD−321など市販の酵素を同様に精製することにより宿主由来のタンパク質成分以外のタンパク質成分を含有しないPGGGDHを製造することができる。
【0011】
本発明の組成物は、上記のようにして製造された宿主由来のタンパク質成分以外のタンパク質成分を含有しないPQQGDHに、さらに「宿主由来のタンパク質を加えること」以外の工程を経ることにより得ることができる。例えば、PQQGDHに何も加えなくても良いし、宿主由来のタンパク質成分以外の種々の成分を添加することによっても得ることができる。
組成物の形態は、液状などの水性組成物(水溶液、懸濁液等)、真空乾燥やスプレードライなどにより粉末化したもの、凍結乾燥など種々の形態をとることができるが特に限定されない。凍結乾燥法としては、特に制限されるものではなく常法に従って行えばよい。本発明の酵素を含む組成物は凍結乾燥物に限られず、凍結乾燥物を再溶解した溶液状態であってもよい。
【0012】
あるいは、本発明の組成物は、上記酵素とカルシウムまたはカルシウム塩、及び緩衝剤から基本的に成る。また、これらを含有した上で、ピロロキノリンキノン、アミノ酸、糖類あるいは有機酸をさらに加えてもかまわない。また、本発明の酵素組成物は、これらを含有するものであれば、水性組成物、凍結乾燥物を問わない。
カルシウムの供給形態としては、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の無機酸または有機酸のカルシウム塩を挙げることができる。中でも塩化カルシウムが好ましい。また、粉末組成物において、カルシウムの含有量(W/W)は、0.05%〜5%であることが望ましく、さらに好ましくは0.1%〜0.5%である。
緩衝剤としては、一般的に使用されるものであれば良く、通常、組成物のpHを5〜10とするものが好ましい。但し、リン酸バッファーのようにカルシウムと不溶性の塩を形成するものは好ましくない。またトリスアミノメタンのようにアミノ基末端を有するものは、PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼのPQQ結合を不安定とするために好ましくない。このため、緩衝剤としてさらに好ましくは、ホウ酸や酢酸といった緩衝剤や、BES、Bicine、Bis−Tris、CHES、EPPS、HEPES、HEPPSO、MES、MOPS、MOPSO、PIPES、POPSO、TAPS、TAPSO、TES、Tricineといったグッド緩衝剤が挙げられる。中でもpH6〜7に緩衝能をもつPIPESなどが好ましい。また、粉末組成物において、緩衝剤の含有量(W/W)は、1.0%〜50%であることが望ましく、さらに好ましくは5%〜10%である。
アミノ酸としては特に限定されないが、グリシルグリシン、ジメチルグリシン、ヒスチジン、セリン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミンなどまたはそれらの塩が好ましいものとして挙げられる。アミノ酸の含有量(W/W)は、10%〜80%であることが望ましく、さらに好ましくは20%〜70%、さらに好ましくは30%〜60%である。
有機酸としては特に限定されないが、αケトグルタル酸、ピルビン酸、L−リンゴ酸、グルクロン酸、αケトグルコン酸などあるいはそれらの塩が好ましいものとして挙げられる。有機酸の含有量(W/W)は、10%〜80%であることが望ましく、さらに好ましくは20%〜70%、さらに好ましくは30%〜60%である。
糖類としては特に限定されないが、αシクロデキストリンなどが好ましいものとして挙げられる。糖類の含有量(W/W)は、10%〜80%であることが望ましく、さらに好ましくは20%〜70%、さらに好ましくは30%〜60%である。
ピロロキノリンキノンの含有量(W/W)は、10%〜80%であることが望ましく、さらに好ましくは20%〜70%、さらに好ましくは30%〜60%である。
さらに、上記のうち2以上の組み合わせであっても良い。好ましい組合わせとしては、図1および図2に記載の組み合わせなどが挙げられる。組合わせた物質の含有量の合計(W/W)は、10%〜80%であることが望ましく、さらに好ましくは20%〜70%、さらに好ましくは30%〜60%である。
なお、上記の試薬類はいずれも市販品などを用いることができる。
【0013】
さらに本発明は、該組成物を含むグルコース測定用試薬、グルコースアッセイキット、グルコースセンサーである。これらにおいてPQQGDH組成物に係る部分は、液状(水溶液、懸濁液等)、真空乾燥やスプレードライなどにより粉末化したもの、凍結乾燥など種々の形態をとることができる。凍結乾燥法としては、特に制限されるものではなく常法に従って行えばよい。本発明の酵素を含む組成物は凍結乾燥物に限られず、凍結乾燥物を再溶解した溶液状態であってもよい。
【0014】
グルコースアッセイキット
本発明のグルコースアッセイキットは、典型的には、PQQGDH、緩衝液、メディエーターなど測定に必要な試薬、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明のキットは、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。好ましくは本発明のPQQGDHはホロ化した形態で提供されるが、アポ酵素の形態で提供し、使用時にホロ化することもできる。
【0015】
グルコースセンサー
本発明のグルコースセンサーは、電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上にPQQGLDを固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどを用いる方法があり、あるいはフェロセンあるいはその誘導体に代表される電子メディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。好ましくは本発明のPQQGDHはホロ化した形態で電極上に固定化するが、アポ酵素の形態で固定化し、PQQを別の層としてまたは溶液中で供給することも可能である。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明のPQQGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。
【0016】
本発明は、例えば上記に記載した手段により、宿主由来のタンパク質成分以外のタンパク質成分を含有させないことを特徴とする、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物中におけるピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼの安定化方法である。
【0017】
また、本発明は、例えば上記に記載した手段により、宿主由来のタンパク質成分以外のタンパク質成分を含有させないことを特徴とする、安定化されたピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物の製造方法である。
【0018】
なお、PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ活性の測定は、次の方法に従った。50mM PIPES緩衝液、pH6.5 25.5ml、3.0mM PMS 2.0ml、6.6mM NTB 1.0mlおよび1M グルコースを含む6.3% TritonX−100 0.9mlを混合する。この混合液を37℃で5分間インキュベートした後、酵素液を0.1ml添加し、混和後、水を対照に37℃に制御された分光光度計で570nmの吸光度変化を4〜5分間記録し、その初期直線部分から1分間当たりの吸光度変化を求める。1分間に1マイクロモルのグルコースを酸化する酵素量を1単位(U)とする。
【0019】
さらに詳しくは、PQQGDHの酵素活性は以下の方法により測定できる。
PQQGDH酵素活性の測定方法
(1)測定原理
D−グルコース+PMS+PQQGDH → D−グルコノ−1,5−ラクトン + PMS(red)
2PMS(red) + NTB → 2PMS + ジホルマザン
フェナジンメトサルフェート(PMS)(red)によるニトロテトラゾリウムブルー(NTB)の還元により形成されたジホルマザンの存在は、570nmで分光光度法により測定した。
(2)単位の定義
1単位は、以下に記載の条件下で1分当たりジホルマザンを0.5ミリモル形成させるPQQGDHの酵素量をいう。
(3)方法
試薬
A.D−グルコース溶液:1.0M(1.8g D−グルコース(分子量180.16)/10ml H2O)
B.PIPES−NaOH緩衝液, pH6.5:50mM(60mLの水中に懸濁した1.51gのPIPES(分子量302.36)を、5N NaOHに溶解し、2.2mlの10% Triton X−100を加える。5N NaOHを用いて25℃でpHを6.5±0.05に調整し、水を加えて100mlとした。)
C.PMS溶液:3.0mM(9.19mgのフェナジンメトサルフェート(分子量817.65)/10mlH2O)
D.NTB溶液:6.6mM(53.96mgのニトロテトラゾリウムブルー(分子量817.65)/10mlH2O)
E.酵素希釈液:1mM CaCl2, 0.1% Triton X−100, 0.1% BSAを含む50mM PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5)
手順
遮光ビンに以下の反応混合物を調製し、氷上で貯蔵した(用時調製)
1. 0.9ml D−グルコース溶液 (A)
25.5ml PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5) (B)
2.0ml PMS溶液 (C)
1.0ml NTB溶液 (D)

上記アッセイ混合物中の濃度は次のとおり。
PIPES緩衝液 42mM
D−グルコース 30mM
PMS 0.20mM
NTB 0.22mM

2.3.0mlの反応混合液を試験管(プラスチック製)に入れ、37℃で5分間予備加 温した。
3.0.1mlの酵素溶液を加え、穏やかに反転して混合した。
4.570nmでの水に対する吸光度の増加を37℃に維持しながら分光光度計で4〜5 分間記録し、曲線の初期直線部分からの1分当たりのΔODを計算した(ODテスト) 。
同時に、酵素溶液に代えて酵素希釈液(E)加えることを除いては同一の方法を繰り 返し、ブランク(ΔODブランク)を測定した。
アッセイの直前に氷冷した酵素希釈液(E)で酵素粉末を溶解し、同一の緩衝液で0.1−0.8U/mlに希釈した(該酵素の接着性のためにプラスチックチューブの使用が好ましい)。
計算
活性を以下の式を用いて計算する:
U/ml={ΔOD/min(ΔODテスト − ΔODブランク)×Vt×df}/(20.1×1.0×Vs)
U/mg=(U/ml)×1/C
Vt:総体積(3.1ml)
Vs:サンプル体積(0.1ml)
20.1:ジホルマザンの1/2ミリモル分子吸光係数
1.0:光路長(cm)
df:希釈係数
C:溶液中の酵素濃度(c mg/ml)
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に示すが、本発明は実施例によって限定されることはない。
実施例1
下記成分を水道水6Lに溶解し、pHを7.0に調整した後、オートクレーブで121℃、20分間滅菌して、培地を得た。
グルコース 60gポリペプトン 180g酵母エキス 30gNaCl 60g上記培地の入った10Lジャーファーメンターに、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)NCIMB11517(National Collection of Industrial Bacteria, Abadeen Scotland) を接種し、30℃で20時間通気攪拌培養後、遠心分離して菌体を取得した。得られた菌体をダイノミルにより破砕し、PEI処理、硫安分画、フェニルセファロースクロマトグラフィーおよびDEAE−セファロースクロマトグラフィーによる精製、及び蒸留水への緩衝液置換を実施し、600UのPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼを得た。
【0021】
実施例2
得られた酵素溶液に下記化合物を添加後、凍結乾燥を実施し、酵素粉末を取得した。各酵素粉末を37℃、1週間保存した後、GLD活性を測定し、保存前と比較した残存活性を求めた。結果を図1に記載する。
従来から知られているBSA(ウシ血清アルブミン)等の生体由来物質を使用せずとも、有機酸やアミノ酸で同等以上の安定性を示すことが確認された。
【0022】
実施例3
得られた酵素溶液に下記化合物を添加後、凍結乾燥を実施し、酵素粉末を取得した。各酵素粉末を37℃、1週間保存した後、GLD活性を測定し、保存前と比較した残存活性を求めた。結果を図2に記載する。
緩衝剤のみでは安定化効果は少ないが、少なくともカルシウム塩を添加することで、一定の安定性を担保可能であることが確認された。また、従来から知られているBSA等のタンパク成分を添加しなくても安定性を担保可能であることも確認された。なお、カルシウム塩と緩衝剤からなる組成にさらにPQQを添加しても問題はなく、むしろ更なる安定化効果が確認された。
【0023】
実施例4
グルタルアルデヒドを用いて本発明のPQQGDH(ホロ型)をカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングすることによりグルコースセンサーを作製する。作製時には、ウシ血清アルブミン添加(A)、無添加(B)の両方で行う。次いで、得られたセンサーを用いて、100mg/dl(濃度)のグルコース水溶液を20回測定する。同時再現性および正確性(理論値との差)は(B)の方が優れている。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明により、グルコースセンサーへの適用上優れたPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例2の各組成における保存後のグルコースデヒドロゲナーゼ残存活性の比較
【図2】実施例3の各組成における保存後のグルコースデヒドロゲナーゼ残存活性の比較

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主由来のタンパク質成分以外のタンパク質成分を含有しないことを特徴とする、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物。
【請求項2】
宿主由来のタンパク質成分以外に、カルシウムまたはカルシウム塩、及び緩衝剤のみを含有する、請求項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物。
【請求項3】
宿主由来のタンパク質成分以外に、カルシウムまたはカルシウム塩、ピロロキノリンキノン、及び緩衝剤のみを含有する、請求項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物。
【請求項4】
宿主由来のタンパク質成分以外のタンパク質成分を含有させないことを特徴とする、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物中におけるピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼの安定化方法。
【請求項5】
宿主由来のタンパク質成分以外に、カルシウムまたはカルシウム塩、及び緩衝剤のみを含有させることを特徴とする、請求項4に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物中におけるピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼの安定化方法。
【請求項6】
宿主由来のタンパク質成分以外のタンパク質成分を含有させないことを特徴とする、安定化されたピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物の製造方法。
【請求項7】
宿主由来のタンパク質成分以外に、カルシウムまたはカルシウム塩、及び緩衝剤のみを含有させることを特徴とする、請求項6に記載の安定化されたピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ組成物を含むグルコースアッセイキット。
【請求項9】
請求項1に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ組成物を含むグルコースセンサー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−149378(P2006−149378A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309676(P2005−309676)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】