説明

PTFE多孔体、PTFE混合体、PTFE多孔体の製造方法、及びPTFE多孔体を用いた電線・ケーブル

【課題】肌理の細かく機械的強度の良好なPTFE多孔体を得ることでき、且つ気孔率を容易に制御することができる技術を提供すること。
【解決手段】PTFE粉末と、造孔剤とを含むPTFE混合体を所定形状に成形した後、上記造孔剤を除去することによって製造するPTFE多孔体であって、上記PTFE粉末は、平均二次粒径が100μm以下であり、且つ、ファインパウダーであることを特徴とするPTFE多孔体。上記PTFE粉末は、二次粒径が30μm以下の粉体を主体とし、且つ、ファインパウダーであることを特徴とするPTFE多孔体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す)多孔体、PTFE混合体、PTFE多孔体を使用した電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
PTFE多孔体は、耐熱性、耐薬品性に優れ、且つ比誘電率、エネルギー損失角などの電気特性に優れるため、電線被覆材、同軸ケーブルの誘電体、フィルタ、ガスケット、断熱材、分離膜、人工血管、カテーテル、培養器など多くの用途に使用されている。このようなPTFE多孔体の製造方法としては、PTFE粉末と結着剤との混合物を微粉砕した後、公知の方法にて成形し、この成形体を焼成する製造方法が広く知られている。また、PTFE多孔体の他の製造方法として、PTFE粉末と造孔剤との混合物を所定形状に成形した後、上記造孔剤を除去することによって気孔を設ける製造方法が広く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、未焼成PTFEをPTFEの融点以上の温度で焼成し、この焼成したPTFEを粉砕して焼成PTFE粉末とし、次いで、この粉末を1g/cm〜800kg/cmの圧力で所定形状に成形し、再度PTFEの融点以上の温度で焼成することでPTFE多孔体を製造する方法が開示されている。また、特許文献2には、PTFE粉末と、融点がPTFEよりも低く且つ分解温度がPTFEの焼成温度よりも高い結着剤とを混合する工程、この混合物をゲル化した後に微粉砕する工程、微粉砕された粉末をラム押出成形して予備成形体を作成する工程、予備成形体を無拘束下で焼成する工程からなるPTFE多孔体の製造方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1,2で開示されたような、微粉砕したPTFE粉末を再度成形する製造方法では、気孔の径が粗大になるため肌理の細かい成形体を得ることができないだけでなく、気孔率の高い成形体を得ることや、気孔率を制御することが非常に困難である。
【0005】
これに対し、例えば、特許文献3には、造孔剤として作用する液状潤滑剤を含むPTFEを成形した後、延伸した状態で加熱することで多孔体を製造する方法が開示されている。また、従来技術として、PTFEと造孔剤として作用する液状潤滑剤を混和して成形した後、この液状潤滑剤を除去することで多孔体を製造する方法が開示されている。ここで、液状潤滑剤としては、ナフサ、ホワイトオイル、トルオール、キシロールなどが挙げられている。また、特許文献4には、PTFE粉末に造孔剤として作用する発泡剤及び液状潤滑剤を加えた混和物を所定形状に成形し、この混和物を加熱して発泡させることで無数の微細気孔を形成した後、延伸をすることで多孔体を製造する方法が開示されている。ここで、発泡剤としては、アゾ系発泡剤、ヒドラジド系発泡剤、セミカルバジド系発泡剤、ニトロソ系発泡剤、炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、亜硝酸アンモニウムなどが挙げられている。液状潤滑剤としては、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイル、トルエン、キシレンなどが挙げられている。また、特許文献5には、PTFE粉末と、造孔剤として作用する細孔形成剤、膨張剤、及び、潤滑油とを混合して冷間押出し、上記潤滑油の蒸発と、上記細孔形成剤及び上記膨張剤の昇華または分解と、PTFEの焼結とを順次行う製造方法が開示されている。ここで、潤滑油としては、脂肪族炭化水素の混合物が挙げられている。細孔形成剤としては、ベンゼン、トルエン、ナフタレン、ベンズアルデヒド、アニリンの如き化合物またはこれら化合物のモノハロゲン化もしくはポリハロゲン化誘導体が挙げられている。膨張剤としては、アゾジカルボンアミド、改質アゾジカルボンアミド、5-フェニルテトラゾール及びその誘導体またはヒドラジンの芳香族誘導体が挙げられている。また、特許文献6,7には、造孔剤を含有したPTFEを加熱焼成し、その際に造孔剤の作用によってPTFEを多孔化させることが開示されている。ここで、造孔剤としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウムが挙げられている。また、特許文献8には、造孔剤として作用する発泡剤を含むPTFEを押出成形した後、この発泡剤を除去することで多孔体を製造する方法が開示されている。ここで、発泡剤としては、アゾ化合物、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、ヒドラジン、テトラゾール、ベンゾキサジン、セミカルバジドなどが挙げられている。また、特許文献9、10には、造孔剤として、ショウノウ、メントール、ナフサを適宜組み合わせることが記載されている。
【0006】
また、本願発明に関連する技術として、特許文献11,12が挙げられる。特許文献11には、懸濁重合によって得られるPTFE粗粒子を平均粒径が10〜100μmの範囲内になるように微粉砕することが記載されている。特許文献12には、乳化重合によって得られる二次平均粒径100〜1000μmのPTFEファインパウダーが記載されている。
【0007】
また、当該出願人より本願発明に関連する発明として特許文献13が出願されている。
【0008】
【特許文献1】特開昭61−66730号公報:中興化成工業
【特許文献2】特開平5−93086号公報:ダイキン工業
【特許文献3】特公昭42−13560号公報:住友電気工業
【特許文献4】特公昭57−30059号公報:日東工業
【特許文献5】特開昭60−93709号公報:アビア・カーブル
【特許文献6】特開平11−124458号公報:日本バルカー
【特許文献7】特開2001−67944公報:日本バルカー
【特許文献8】特表2004−500261公報:スリーエム
【特許文献9】特開2005−336459公報:クラベ
【特許文献10】特開2007−153967公報:クラベ
【特許文献11】特許第3453759号公報:ダイキン工業
【特許文献12】特許第3985271号公報:ダイキン工業
【特許文献13】国際特許出願PCT/JP2007/68106:クラベ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3〜10においては、造孔剤について着目されているものの、PTFE多孔体については詳しい知見は得られていない。当該出願発明者による研究によれば、PTFE多孔体の肌理の細かさや、特に押出成型における寸法精度の良好さや、PTFE多孔体の機械的強度においては、PTFE粉末の形態も重要な要因となることが見出されてきた。
【0010】
なお、特許文献11のPTFE粉末は、懸濁重合によって得られた、所謂モールディングパウダーである。これは、主として圧縮成型やラム押出成型に使用されるものであり、高気孔率のPTFE多孔体を得ようとするには、特許文献1,2のような手法を取らざるを得ないため、特許文献1,2と同様の問題を抱えている。また、特許文献12は、PTFE粉末を添加剤として使用することを主にしたものであり、多孔体にすることは一切開示されていない。
【0011】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、肌理の細かく機械的強度の良好なPTFE多孔体を得ることでき、且つ気孔率を容易に制御することができる技術、及び、このPTFE多孔体を使用した電線・ケーブル等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するべく、本発明の請求項1によるPTFE多孔体は、ポリテトラフルオロエチレン粉末と、造孔剤とを含むポリテトラフルオロエチレン混合体を所定形状に成形した後、上記造孔剤を除去することによって製造するポリテトラフルオロエチレン多孔体であって、上記ポリテトラフルオロエチレン粉末は、平均二次粒径が100μm以下であり、且つ、ファインパウダーであることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔体。
又、請求項2記載のPTFE多孔体は、PTFE粉末と、造孔剤とを含むPTFE混合体を所定形状に成形した後、上記造孔剤を除去することによって製造するPTFE多孔体であって、上記PTFE粉末は、二次粒径が30μm以下の粉体を主体とし、且つ、ファインパウダーであることを特徴とするものである。
又、請求項3記載のPTFE多孔体は、上記造孔剤が、ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上を含むことを特徴とするものである。
又、請求項4記載のPTFE多孔体は、上記造孔剤が、さらに、有機溶剤を含むことを特徴とするものである。
又、請求項5記載のPTFE多孔体は、上記有機溶剤が、動粘度2mm/s(40℃)以上の石油系溶剤であることを特徴とするものである。
又、請求項6記載のPTFE多孔体は、上記ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上が、フマル酸粉末であることを特徴とするものである。
又、請求項7記載のPTFE多孔体は、上記ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上の平均粒径が100μm以下であることを特徴とするものである。
又、請求項8記載のPTFE多孔体は、焼成したとき、一辺の収縮率が35%以下であることを特徴とするものである。
又、請求項9記載のPTFE混合体は、PTFE粉末と、造孔剤とを含むPTFE混合体であって、上記PTFE粉末が、粒径が100μm以下であり、且つ、ファインパウダーであることを特徴とするものである。
又、請求項10記載のPTFE混合体は、PTFE粉末と、造孔剤とを含むPTFE混合体であって、上記PTFE粉末は、二次粒径が10μm以下の粉体を主体とし、且つ、ファインパウダーであることを特徴とするものである。
又、請求項11記載のPTFE混合体は、上記造孔剤は、ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上を含むことを特徴とするものである。
又、請求項12記載のPTFE混合体は、上記造孔剤が、さらに、有機溶剤を含むことを特徴とするものである。
又、請求項13記載のPTFE混合体は、上記ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上が、フマル酸粉末であることを特徴とするものである。
又、請求項14記載のPTFE混合体は、上記ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上の粒径が100μm以下であることを特徴とするものである。
又、請求項15記載のPTFE多孔体の製造方法は、上記PTFE混合体を所定形状に成形した後、上記造孔剤を除去することによって気孔を設けるものである。
又、請求項16記載のPTFE多孔体の製造方法は、加熱により上記造孔剤を除去することを特徴とするものである。
又、請求項17記載のPTFE多孔体の製造方法は、溶媒抽出により上記造孔剤を除去することを特徴するものである。
又、請求項18記載の絶縁電線は、中心導体の周上に、上記PTFE多孔体からなる絶縁体が形成されてなることを特徴とするものである。
又、請求項19記載の同軸ケーブルは、上記絶縁電線と、上記絶縁電線の絶縁体の周上に形成された外部導体とからなることを特徴とするものである。
又、請求項20記載の同軸ケーブルは、上記外部導体が、金属素線の編組からなることを特徴とするものである。
又、請求項21記載の同軸ケーブルは、上記外部導体が、金属パイプからなることを特徴とするものである。
又、請求項22記載の同軸ケーブルは、上記外部導体が、コルゲート加工を施した金属パイプからなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のPTFE多孔体は、 PTFE粉末と、造孔剤とを含むPTFE混合体を所定形状に成形した後、上記造孔剤を除去することによって製造するPTFE多孔体であって、上記PTFE粉末が、平均二次粒径が100μm以下であり、且つ、ファインパウダーであることを特徴とする。あるいは、上記PTFE粉末は、二次粒径が10μm以下の粉体を主体とし、且つ、ファインパウダーであることを特徴とする。
【0014】
本発明のPTFE多孔体は、肌理が細かいとともに、PTFE混合体における造孔剤の混合量を自由に設定することにより、気孔率を容易に制御することが可能であり、高気孔率を実現することができる。また、本発明のPTFE多孔体は、良好な機械的強度を得ることができる。
PTFE多孔体の肌理が細かいことにより、以下のような効果を得ることができる。まず、気孔の大きさが微細且つ均一であり、粗大な気孔がないため、曲げなどの外力が加わっても応力が分散され、割れや切れが起き難く機械的強度に優れたものとなる。また、PTFE多孔体を断熱材の用途で使用した場合は、気孔が微細であるため、熱伝導の一要素である輻射による熱伝達を低減させることができる。また、PTFE多孔体をガスケットなどシール材の用途で使用した場合は、表面平滑性が向上するため、シール性を向上させることができる。また、PTFE多孔体を電線被覆など絶縁体の用途で使用した場合は、絶縁破壊強度を向上させることができる。また、PTFE多孔体を同軸ケーブルなど誘電体の用途で使用した場合、気孔部分とPTFEが存在する部分とでは誘電率が異なるため、気孔が粗大で不均一であると、誘電体の場所により、信号の遅延時間にムラが生じてしまうが、気孔が微細且つ均一であればこのようなムラを防止することができる。
また、PTFE多孔体を高気孔率とすることにより、以下のような効果を得ることができる。まず、PTFE多孔体全体としての比重を小さくすることができるため、軽量化の要求に対応することができる。また、PTFE多孔体を断熱材の用途で使用する場合は、熱伝導率が低い空気の含有量が増加することになるため、断熱効果を向上させることができる。また、PTFE多孔体をフィルタの用途で使用する場合は、導通路が多くなるため、目詰まりまでの寿命を長くすることができる。また、PTFE多孔体を誘電体の用途で使用する場合、多孔体の実効比誘電率(ε)は、PTFEの比誘電率(ε)と気孔率(V)により、
ε=ε1−V
の式によって導かれるため、高気孔率とすることにより、実効比誘電率を低くすることができる。そして、信号の遅延時間(τ)は多孔体の実効比誘電率(ε)により、
τ=3.33561√ε(ns/m)
の式によって導かれることから、高気孔率とすることで信号の遅延時間を小さくすることができる。
【0015】
本発明のPTFE多孔体において、造孔剤は、さらに、有機溶剤を含むことが好ましい。有機溶剤を含むことにより、押出成形を行うとき、管壁抵抗を減らすことができる。この有機溶剤は、動粘度2mm/s(40℃)以上の石油系溶剤であることが好ましい。
【0016】
本発明のPTFE多孔体において、上記造孔剤は、ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。また、上記ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上は、フマル酸粉末であることが好ましい。また、本発明のPTFE多孔体において、上記ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上の粒径は、100μm以下であることが好ましい。また、本発明のPTFE多孔体は、焼成したとき、一辺の収縮率が35%以下であることが好ましい。
【0017】
本発明のPTFE多孔体は、例えば、電線被覆材、同軸ケーブルの誘電体のみならず、フィルタ、ガスケット、断熱材、分離膜、人工血管、カテーテル、培養器など多くの用途に対して好適に使用することができる。
【0018】
本発明のPTFE混合体は、PTFE粉末と、造孔剤とを含むPTFE混合体であって、上記PTFE粉末は、平均二次粒径が100μm以下であり、且つ、ファインパウダーであることを特徴とする。あるいは、PTFE粉末と、造孔剤とを含むPTFE混合体であって、上記PTFE粉末は、二次粒径が10μm以下の粉体を主体とし、且つ、ファインパウダーであることを特徴とする。本発明のPTFE混合体は、上記PTFE多孔体の製造に用いることができる。
【0019】
本発明のPTFE混合体において、上記ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上は、フマル酸粉末であることが好ましい。また、本発明のPTFE混合体において、上記ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上の粒径は100μm以下であることが好ましい。
【0020】
本発明のPTFE多孔体の製造方法は、上記PTFE混合体を所定形状に成形した後、上記造孔剤を除去することによって気孔を設けることを特徴とする。 本発明のPTFE多孔体の製造方法により、上記PTFE多孔体を製造することができる。
【0021】
本発明の絶縁電線は、中心導体の周上に、上述したPTFE多孔体からなる絶縁体を形成したものである。本発明の同軸ケーブルは、上記絶縁電線と、上記絶縁電線の絶縁体の周上に形成された外部導体とからなるものである。本発明の同軸ケーブルにおける上記外部導体は、金属素線の編組からなることが好ましい。または、本発明の同軸ケーブルにおける上記外部導体は、金属パイプ(特に好ましくはコルゲート加工を施した金属パイプ)からなることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
PTFE粉末としては、例えば、乳化重合によって得られたファインパウダーや懸濁重合によって得られたモールディングパウダーが挙げられる。これらの内、繊維化しやすく、それにより得られる成型体の強度が向上するファインパウダーが、本願発明で使用される。一般的なPTFEファインパウダーは、平均粒径約0.2μmの一次粒子が凝集してなる平均粒径約600μmの二次粒子からなるものである。PTFE混合体中のPTFE粉末の含有割合が40%を下回る場合、PTFE同士の結合が弱く、成型中および焼成後に素材が裂けやすくなる傾向がある。そのため、平均二次粒径が100μm以下のPTFE粉末を用いることにより、PTFEの結合点を増やし、機械的強度を向上させることで、より裂け難くすることが必要である。特に、押出成型をする場合は、長手方向は繊維化して成型上十分な強度を有するが、横方向に対しては繊維間の結合が弱く、ペースト成型中および焼成後に素材が裂けやすくなる傾向がある。このように、ファインパウダーによる繊維化と、平均二次粒径100μm以下にすることによる結合点の増加との相乗効果により、PTFE多孔体の機械的強度は格段に向上することになる。更に、PTFE粉末が二次粒径30μm以下の粉体を主体としていれば、例え、粗大なPTFE粉末が存在したとしても、その周囲を二次粒径の細かい粉体が取り囲み、PTFE粉末同士の結合点は増加することになる。そのため、これによってもPTFE多孔体の機械的強度は格段に向上することになる。なお、ここでいう「PTFE粉末が二次粒径30μm以下の粉体を主体とする」とは、PTFE粉末全体の中で、二次粒径30μm以下の粉体の個数が過半数を超える程度であることを示す。
【0023】
本発明において、PTFE粉末と混合される造孔剤は、容易にPTFE混合体から除去できるものであれば特に限定はない。造孔剤を除去する方法としては、設備の簡便さから加熱により造孔剤を気化や熱分解させることが好ましいが、減圧により造孔剤を気化させてもよい。また、溶媒や蒸気等により造孔剤を抽出させてもよい。
【0024】
造孔剤の種類としては、例えば、フマル酸、マロン酸、リンゴ酸、コハク酸、アジピン酸などのジカルボン酸、安息香酸、ショウノウ、メントール、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、アニリン、ナフタレンなどが挙げられる。これらの中でも、フマル酸、マロン酸、リンゴ酸、コハク酸、アジピン酸などのジカルボン酸が好ましい。これらのようなジカルボン酸の粉末であれば、その原因については明確になっていないが、特に、肌理が細かく、且つ、寸法精度が良好なPTFE多孔体を得ることができる。更に、管壁抵抗が大きくなることもないため、押出成形による成形もより良好なものとなる。また、PTFE多孔体の製造時に臭気が発生することがない。これらのジカルボン酸の中でも、フマル酸は、特に焼成時の収縮を抑える効果が大きいため好ましい。また、ジカルボン酸の中でも、空気中での加熱により気化する性質を有するもの(例えば、フマル酸、アジピン酸、コハク酸)であれば、加熱によって造孔剤を気化させて除去することが容易であるため、好ましい。造孔剤を気化させて除去する方法は、例えば、熱分解させて除去する方法に比べて、PTFE中に残渣を残しにくく、残渣による電気諸特性への悪影響を防止することができる。このような空気中での加熱により気化する性質を有するジカルボン酸粉末として、例えば、沸点(又は昇華点)が300℃以下のもの(例えば、フマル酸、コハク酸)であれば、特別な装置を必要とせず、通常用いられる加熱炉などにより容易に造孔剤を除去することができるため、好ましい。また、ジカルボン酸粉末の沸点が300℃以下のものであれば、PTFEの焼成温度(例えば、370〜400℃)より低い温度で除去されるため、ジカルボン酸成分が焼成中に引火することを防ぐことができる。
【0025】
また、造孔剤の平均粒径は100μm以下であることが好ましい。このような粒径であれば、気孔がより小さいものとなり、より肌理の細かいPTFE多孔体を得ることができる。また、粒径のより小さな造孔剤を用いることにより、成型時のクラック、裂けを防止し成型性をより良くする効果も生じる。
【0026】
上記PTFE粉末や造孔剤粉末は、粒径の大きな状態の粉体を粉砕して細粒化することにより製造できる。粉砕は、回転刃方式の混合機や粉砕機を用いて気相中で容易に行うことができる。粉砕方法は、気相中での粉砕に限定されるものではなく、溶液中での粉砕が可能な場合もある。例えば、フマル酸は水への溶解度が小さいので水中での回転刃による粉砕も可能である。しかし、溶液中での粉砕方法では、水との分離工程が生じるので、気相中での粉砕が好ましい。また、粉砕方法や粉砕に用いる設備のサイズ(処理量能力)は、特に限定されず、回転刃方式の他に、ボールミル、ジェットミル(気流粉砕)などを用いることができる。特にPTFE粉末は、細粒化の際に繊維化してしまうと、その後の、積層と圧縮の工程における繊維化の余地がなくなり、最終的な成形品の強度が充分なものにならなくなる恐れがある。そのため、PTFE粉末の細粒化は、繊維化が起こりにくいジェットミルにより行うことが好ましい。
【0027】
本発明において、造孔剤には、さらに、有機溶剤を含むことが好ましい。この有機溶剤としては、例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイル、灯油、軽油等の炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類などの溶剤が挙げられ、これらの中でも、PTFEとの浸透性からナフサ、灯油、軽油等の石油系溶剤を使うことが好ましい。有機溶剤を適量含むことにより、PTFE混合体の成型や加圧の際に割れが生じてしまうことを防止することができる。
【0028】
特に、PTFE粉末に良好に保持させるために、動粘度2mm/s(40℃)以上の石油系溶剤を使うことが好ましい。このような有機溶剤であれば、粉体の粒子間に一旦保持されれば、低粘度の有機溶剤をそのまま造孔剤として使用したときよりも、所定形状に成形する際の圧力が加わった際に有機溶剤のみが滲み出て、PTFE粉末と有機溶剤とが分離するようなことは起こり難く、管壁抵抗を下げる潤滑効果を保持することになる。そのため、PTFE粉末と造孔剤との配合量の適応範囲が広く、また潤滑効果が高く成形性(成形体の外観)が良好となる。更に、PTFE粉末やジカルボン酸粉末による継粉の形成を効果的に防止することができ、気孔の大きさをより微細なものとすることができる。但し、PTFEを焼成させる場合、通常370〜400℃程度の温度で焼成させるが、焼成前に完全に溶剤が蒸発していることが好ましいため、有機溶剤の沸点は300℃以下であることが好ましい。
【0029】
PTFE混合体は、上記のような造孔剤とPTFE粉末とを、例えば、タンブラーなどで攪拌、混合して得ることができる。この際、造孔剤の混合量を変えることにより、気孔率を容易に制御することができる。尚、造孔剤として複数の成分を混合して使用する場合、予め造孔剤を構成する各成分を混合しておけば、造孔剤が均質となるため、より肌理の細かいPTFE多孔体を作製することができ好ましいが、造孔剤を構成する各成分をPTFE粉末に別に加えた後、攪拌などによりこれらを一括して混合しても良い。
【0030】
特に、55%を超える高気孔率の多孔体をペースト押出により作製する場合には、素材の機械的強度(裂けやすさ)の面から、PTFE粉末はもちろんのこと、造孔剤についても、平均粒径100μm以下の微粉末を用いることが好ましい。PTFE粉末の細粒化は必ずしもPTFE粉末単独で行う必要はなく、PTFE粉末及び造孔剤の混合と、PTFE粉末の細粒化とを、1つの工程で同時に行うことができる。この混合と細粒化とを兼ねた処理は、回転刃式の粉砕機、混合機などを用いて気相中で容易に行うことができる。
【0031】
上記のようにして得られたPTFE混合体を所定形状に成形し、造孔剤を除去することにより、PTFEに気孔が設けられ、PTFE多孔体が製造される。PTFE混合体の成形に際して、本発明では、一般に知られている種々の成形方法により成形をすることができる。例えば、金型成形などにより成形してバルク状の素材に仕上げても良いし、圧延成形などにより成形して膜状の素材に仕上げても良い。更に、管壁抵抗が大きくなり難いことから、押出成形を行うこともできるため、押出成形により導体上に被覆成形して電線としても良い。また、造孔剤を除去する方法としては、設備の簡便さから加熱により造孔剤を気化させること好ましいが、減圧により造孔剤を気化させてもよい。また、溶媒や蒸気等により造孔剤を溶出させてもよい。気化の形態としては、昇華するもの、液化を経て蒸発するものがあるが、液化する場合、PTFE混合体表面に液膜を形成することがあることから、加熱速度が速すぎると内部の気化した造孔剤が抜けずにPTFE混合体自体を膨らめることがある。そのため、気化させて除去する場合には、造孔剤としては、液化せず昇華するフマル酸などを使用することが好ましい。溶媒などで抽出する場合の溶媒としては、造孔剤を溶解するものであれば限定されないが、水はPTFEに浸入し難く造孔剤を抽出し難いので、PTFEに浸透しやすいエタノール等のアルコール、ジエチルエーテル等のエーテル、アセトンやメチルエチルケトン等のケトンなどといった有機系の溶媒が好ましい。ただし、溶媒による抽出の場合には、抽出工程に時間を要するので、加熱による昇華が最も好ましい。
【0032】
尚、本発明のPTFE多孔体は、200℃程度の加熱処理などにより造孔剤を除去し、その後に焼成を行わず、未焼成PTFE多孔体として使用しても良い。また、造孔剤を除去した後、更に370℃以上の焼成を行い、完全焼成PTFE多孔体として使用しても良い。また、焼成温度を調節することで未焼成と完全焼成が混在した半焼成PTFE多孔体としても良い。焼成の状態については、示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解曲線によって確認することができる。「未焼成状態」の場合は340℃付近に1箇所だけピークが観察され、「完全焼成状態」の場合は320℃付近に1箇所だけピークが観察され、「半焼成状態」の場合は340℃付近にピークが観察されると同時にその手前の320℃付近にも別のピークが観察される。これらの他に、国際特許公開WO04/086416に記載されたような、「微焼成状態」という状態があり、上記した「未焼成状態」と「半焼成状態」との中間の状態を示している。そして、これを区分けする目安になるのが、320℃付近におけるピークの有無である。つまり、この320℃付近におけるピークが明確に観察されるまで焼成が進行すると「半焼成状態」となってしまい、「微焼成状態」とは、そのようなピークが観察されるに至る手前の焼成状態を意味するものである。
【0033】
ここで、「微焼成状態」に関して更に詳細に説明する。図8〜図11は、何れも、PTFE樹脂を主成分とした誘電体の示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解曲線を示す図であり、横軸に温度をとり縦軸に熱流量をとってその変化を示したものである。このうち、図9は「未焼成状態」を示す図であり、340℃付近に1箇所だけピークP1が観察される。次に、図10は「半焼成状態」を示す図であり、340℃付近にピークP1が観察されると同時にその手前の320℃付近にも別のピークP2が観察される。次に、図11は「完全焼成状態」を示す図であり、この場合には、320℃付近に1箇所だけピークP2が観察される。これに対して、図8は、「微焼成状態」を示す図であり、図9に示す「未焼成状態」と図10に示す「半焼成状態」の中間の状態を示している。そして、これを区分けする目安になるのが、図16に示す320℃付近における別のピークP2の有無である。つまり、この別のピークP2が観察されるまで焼成が進行すると「半焼成状態」となってしまい、本願発明で規定する「微焼成状態」とは、そのような別のピークP2が観察されるに至る手前の焼成状態を意味するものである。上記別のピークP2の有無によって「半焼成状態」か「微焼成状態」かの判別をすることについては、本件特許出願人が繰り返しの実験により発見したものである。尚、これらのPTFE多孔体に、更に延伸加工を加えても構わない。
【0034】
焼成により、PTFEは半溶融状態となるため、程度の大小はあるがPTFE多孔体中の気孔は減少し気孔率が低下することになる。この気孔率が低下する度合いは焼成の進行に従い大きくなる。そのため、焼成前の気孔率は、焼成後の気孔率よりも更に大きくしておく必要があるが、これには造孔剤を過剰気味に添加する必要がある。
【0035】
従来の技術においては、特に押出成型を行った場合、例えば、特許文献13に記載された技術のような適切な造孔剤を選択しなければ、焼成のための熱処理の際に収縮が大きくなることからクラックが入り易いため、長尺のものを得ることが非常に困難であった。このため、気孔率が5%以上、完全焼成、非延伸且つ長尺のPTFE多孔体や、気孔率が22%を超え、微焼成、非延伸且つ長尺のPTFE多孔体は、特許文献13に係る技術を除き、実際には存在していなかった。
【0036】
しかしながら、本願発明においては、今まで知見のなかったPTFE粉体の形態について、粒径が100μm以下であり、且つ、ファインパウダーであるものを選択し使用したため、完全焼成で且つ非延伸であり、長尺なものであっても、気孔率を5%以上とすることができる。また、微焼成で且つ非延伸であり、長尺なものであっても、気孔率が22%を超えるものとすることができる。これは、ファインパウダーによる繊維化と、粒径100μm以下にすることによる結合点の増加との相乗効果により、PTFE多孔体の機械的強度は格段に向上し、それによって、熱収縮による収縮力に耐えることができるためである。
【0037】
ここで、長尺とは、一般的な指標に基づいて判断されるものであるが、おおよそ長さが径の20倍以上となるものが該当することになる。このようなPTFE多孔体であれば、例えば、優れた比誘電率を有する同軸ケーブルの誘電体や、バルクフィルタとしても好適に使用することができる。特に、上記のようにして得られたPTFE多孔体は、肌理が細かく、平均気孔径を100μm以下とすることもできる。このようなものであれば、気体(空気、水蒸気など)と液体(水など)、あるいは、気体(空気、水蒸気など)と固体(粉体など)を分離する目的のフィルタとして、高いフィルタ機能を発現するため好ましい。
【0038】
上記のようにして得られたPTFE多孔体は、気孔状態を制御することも可能であり、例えば、気孔率5%以上40%未満では独立気孔を主体とし、気孔率40%以上50%未満では独立気孔と連続気孔をともに有し、気孔率50%以上では連続気孔を主体とする、というような気孔状態とすることができる。勿論、造孔剤の粒径や混合量を適宜設定することで、気孔率50%未満でも連続気孔を主体としたPTFE多孔体とすることが可能である。また、造孔剤の混合量を増加させることにより、例えば気孔率80%以上のPTFE多孔体を得ることも可能である。また、長尺のPTFE多孔体を押出成形によって製造した場合、その気孔形状は長手方向に配向したものとなる。このような気孔形状であれば、長手方向の引張強度が高いため長尺品であっても切断され難く、クラックが入り難いため曲げに対しても強いものとなり、取扱いが容易である。
【0039】
上記のようにして得られたPTFE多孔体は、フッ素ゴム成形体に保持して複合体とすることも考えられる。このようにPTFE多孔体をフッ素ゴム成形体に保持した複合体は、高温環境での使用が可能なため、例えば、酸素センサに使用されるフィルタ付きグロメットなどに好適に使用することが可能である。具体的な例としては、例えば、特許文献9を参照することができる。
【0040】
また、上記のPTFE多孔体を中心導体の周上に被覆して絶縁電線(リード線)としても良い。本発明によるPTFE多孔体は、上記したように、造孔剤を選択すれば、焼成後の収縮を小さくすることができるから、このようなPTFE多孔体を中心導体の周上に被覆すれば、裂けやひび割れが発生することなく、好適な外観を得ることができる。また、この絶縁電線をフッ素ゴム成形体に保持させて、リード線付きグロメットとしても良い。このような形態の場合、PTFE多孔体の気孔率を調節することで絶縁被覆に通気性を持たせることもできる。
【0041】
更には、上記PTFE多孔体による被覆の周上に、金属線による編組やコルゲート加工を施した金属パイプなどを形成し、同軸ケーブルとしても良い。上記したように、PTFE多孔体による被覆、即ち、誘電体の気孔率を高気孔率とすることで、信号の遅延時間を小さくすることができるため、優れた同軸ケーブルを得ることができる。この際、更に信号の遅延時間を小さくすることを目的として、誘電体の外周に、長手方向に連続した溝やスパイラル状の溝を設けたり、押出し形状を工夫して誘電体内部に長手方向に連続した空隙部を形成したりすることも考えられる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例を、比較例と対比しつつ図1を参照して説明する。
(実施例1〜9)
まず、PTFE粉末をジェットミルにて粉砕する。このPTFE粉末について、任意の部分を抽出して走査型電子顕微鏡を用いて拡大した写真を撮影し、各粉末の定方向径を算術平均して、平均二次粒径を求めた。これによると、本実施例のPTFE粉末の平均二次粒径は、34μmであった。また、この拡大した写真により二次粒径30μm以下の粉体が個数換算で全体の60%を超えていることが確認された。拡大したPTFE粉末の写真を図12に示す。このPTFE粉末と、造孔剤としてのフマル酸、及び有機溶剤(ナフサ(動粘度3mm/s(40℃))、軽油、ナフテン系溶剤(エクソン社製 エクソールD130(動粘度5.79mm/s(25℃)))を表1に示す割合(重量%)になるように混合し、PTFE混合体を得た。このPTFE混合体を金型に入れ圧縮成形して予備成形したのち、ペースト押出成形機(シリンダー径60mmまたは45mm)にてペースト押出成型し、銀メッキ銅被鋼線(外径0.38mm又は1.0mm)からなる中心導体1の外周にPTFE混合体を押出被覆した。さらにPTFEの融点以下の温度で加熱処理して造孔剤を気化させて除去し、さらに同一工程にてPTFEの融点以上の温度で加熱処理をしてPTFE多孔体を焼成した。このようにして、中心導体1の外周に、PTFE多孔体からなる誘電体2が形成された絶縁電線を製造した。こうして得られた誘電体2をサンプル片として、重量とその体積を測定し、PTFEの充実体の比重(2.155g/cm3)から下記式により気孔率を算出した。
計算式「気孔率=100−100×(サンプル片の重量/サンプル片の体積)/充実体の比重」
【0043】
【表1】

【0044】
(比較例1〜4)
PTFE粉末として粉砕しないもの(平均粒径500μm)を用いた以外は、実施例1〜9と同様にしてサンプル片を作成し、気孔率を測定した。混合の割合、気孔率を併せて表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表1に示すように、本発明の実施例1〜9に係るPTFE多孔体は、PTFE混合体の配合を変えることにより、気孔率を制御できることが確認できた。また、実施例1〜9のPTFE多孔体は、押出成型直後や焼成後も表面にしわやクラックの発生がなく、外観が良好であった。これに対し、比較例1の場合、押出成形の際にPTFE混合体の形状が崩れてしまい、絶縁電線として押出成形することができなかった。また、比較例2,3は、誘電体2(PTFE多孔体)の表面にしわが発生し、比較例4は、誘電体2(PTFE多孔体)にクラックが発生してしまった。このようなしわやクラックは、絶縁破壊の起点にともなり、また、同軸ケーブルとする場合には、伝送特性に多大な悪影響を与えることになってしまう。
【0047】
また、実施例3及び比較例3のサンプルについて、中心導体1を抜き取り、誘電体2について、引張速度50mm/minにて引張強度の測定を行った。その結果、実施例3の引張強度は0.65MPa、比較例3の引張強度は0.35MPaであったことから、実施例3は比較例3の2倍に近い引張強度を有していることが確認できる。
【0048】
次いで、実施例4〜9による絶縁電線について、図2に示すように同軸ケーブルとした。 まず、上記した通り、中心導体1の外周に誘電体2を形成して絶縁電線とする。この絶縁電線の誘電体2の外周に、アルミニウム−ポリエチレンテレフタレート(PET)複合テープ(アルミ厚10μm、PET厚12μm、幅5mm)を縦添えしてテープ層3を形成し、その外周に素線径0.05mmのスズメッキ軟銅線による編組被覆層4を形成する。そして、最外層として編組被覆層4の外周にフッ素樹脂(FEP樹脂)のシース5を押出成型して同軸ケーブルを構成した。
【0049】
これら実施例4〜9の同軸ケーブルについて、以下に示す特性評価試験を行った。その結果を表3に示す。
(実効比誘電率)
ネットワークアナライザー(HP8510E、ヒューレットパッカード社製)にて計測した遅延時間から次の計算式を使い算出した。計測条件は、周波数2GHZ、温度20℃とした。
τ=3.33561√εe
τ:信号の遅延時間(ns/m)
εe:誘電体の実効比誘電率
(伝送特性)
測定温度20℃にて、1GHZ〜18GHZにおける減衰量(dB/m)を測定した。併せて、2GHZにおける遅延時間(ns/m)を測定した。
(特性インピーダンス)
TDR法によって測定した実測値と、計算式ZO=60/√εe×1n{(D+1.5dW)/d}により算出した計算値とを比較することにより評価した。ここで、ZOは特性インピーダンス、Dはコア外径(mm)、dWは編組素線径(mm)、εeは誘電体の実効比誘電率である。
【0050】
【表3】

【0051】
上記の通り、本実施例4〜9による同軸ケーブルは、何れも優れた伝送特性及び特性インピーダンスを有していることが確認できる。
【0052】
実施例4の同軸ケーブルを構成する誘電体2のサンプル片をナイフでカットした面について、走査型電子顕微鏡で観察し、気孔状態を確認した。図3は実施例4におけるサンプル片を長手方向にカットした面を100倍に拡大した写真、図4は実施例4によるサンプル片を長手方向にカットした面を1000倍に拡大した写真、図5は実施例4におけるサンプル片を長手方向と垂直にカットした面を100倍に拡大した写真、図6は実施例4におけるサンプル片を長手方向と垂直にカットした面を1000倍に拡大した写真を示す。 何れの写真においても、長手方向に配向した気孔が観察される。また、気孔のサイズが均一であり、誘電体2の肌理が細かいことが確認できた。
【0053】
また、実施例4〜9によるサンプル片について、JIS K7122プラスチックの転移熱測定方法により示差走査熱量測定(DSC)を実施し、それによって得られた結晶融解曲線において、吸熱ピークを確認した。このDSCによれば、何れのサンプル片も、完全焼成PTFEに特徴的な320〜330℃付近のピークが見られていることから、400℃で10分間の加熱焼成処理により完全焼成PTFEとなっていることが確認できた。図7に実施例419の結晶融解曲線を示す。
【0054】
例えば、本発明においては、造孔剤の配合量により気孔率を容易に制御することができる。そのため、上記実施例のような気孔率40〜60%のものだけでなく、例えば、気孔率が5%、10%、20%、30%のものなど、適宜作り分けることができる。このような気孔率の制御を応用すれば、例えば、気−液分離用フィルタなどのフィルタ素材としても非常に有用なものとなる。
【0055】
また、本発明によれば、結着剤や他のフッ素樹脂等を含まない、実質的にPTFEのみからなるPTFE多孔体を得ることができる。従って、結着剤や他のフッ素樹脂等により、伝送特性や特性インピーダンスなどに悪影響が出ることがないため、同軸ケーブルの誘電体をはじめとした電気的用途に対しても非常に有用なものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、肌理の細かく寸法精度が良好なPTFE多孔体を得ることができ、且つ、PTFE多孔体の気孔率を容易に制御することが可能である。このようなPTFE多孔体は、例えば、電線被覆材、同軸ケーブルの誘電体のみならず、フィルタ、ガスケット、断熱材、分離膜、人工血管、カテーテル、培養器など多くの用途に対して好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明による実施例を表わす図で、絶縁電線の構成を示す一部切欠き斜視図である。
【図2】本発明による実施例を表わす図で、同軸ケーブルの構成を示す一部切欠き斜視図である。
【図3】実施例4によるサンプル片を長手方向にカットした面を100倍に拡大した写真である。
【図4】実施例4によるサンプル片を長手方向にカットした面を1000倍に拡大した写真である。
【図5】実施例4によるサンプル片を長手方向と垂直にカットした面を100倍に拡大した写真である。
【図6】実施例4によるサンプル片を長手方向と垂直にカットした面を1000倍に拡大した写真である。
【図7】実施例16の結晶融解曲線である。
【図8】「微焼成状態」にあるPTFE樹脂を主成分とした誘電体の示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解曲線を示す図である。
【図9】「未焼成状態」にあるPTFE樹脂を主成分とした誘電体の示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解曲線を示す図である。
【図10】「完全焼成状態」にあるPTFE樹脂を主成分とした誘電体の示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解曲線を示す図である。
【図11】「半焼成状態」にあるPTFE樹脂を主成分とした誘電体の示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解曲線を示す図である。
【図12】本発明の実施例1〜9に使用したPTFE粉末を100倍に拡大した写真である。
【符号の説明】
【0058】
1 中心導体
2 誘電体
3 テープ層
4 編組被覆層
5 シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン粉末と、造孔剤とを含むポリテトラフルオロエチレン混合体を所定形状に成形した後、上記造孔剤を除去することによって製造するポリテトラフルオロエチレン多孔体であって、上記ポリテトラフルオロエチレン粉末は、平均二次粒径が100μm以下であり、且つ、ファインパウダーであることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔体。
【請求項2】
ポリテトラフルオロエチレン粉末と、造孔剤とを含むポリテトラフルオロエチレン混合体を所定形状に成形した後、上記造孔剤を除去することによって製造するポリテトラフルオロエチレン多孔体であって、上記ポリテトラフルオロエチレン粉末は、二次粒径が30μm以下の粉体を主体とし、且つ、ファインパウダーであることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔体。
【請求項3】
上記造孔剤が、ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体。
【請求項4】
上記造孔剤が、さらに、有機溶剤を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体。
【請求項5】
上記有機溶剤が、動粘度2mm/s(40℃)以上の石油系溶剤であることを特徴とする請求項4記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体。
【請求項6】
上記ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上が、フマル酸粉末であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体。
【請求項7】
上記ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上の平均粒径が100μm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体。
【請求項8】
焼成したとき、一辺の収縮率が35%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体。
【請求項9】
ポリテトラフルオロエチレン粉末と、造孔剤とを含むポリテトラフルオロエチレン混合体であって、上記ポリテトラフルオロエチレン粉末が、粒径が100μm以下であり、且つ、ファインパウダーであることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン混合体。
【請求項10】
ポリテトラフルオロエチレン粉末と、造孔剤とを含むポリテトラフルオロエチレン混合体であって、上記ポリテトラフルオロエチレン粉末は、二次粒径が10μm以下の粉体を主体とし、且つ、ファインパウダーであることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン混合体。
【請求項11】
上記造孔剤は、ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項9又は請求項10記載のポリテトラフルオロエチレン混合体。
【請求項12】
上記造孔剤が、さらに、有機溶剤を含むことを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン混合体。
【請求項13】
上記ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上が、フマル酸粉末であることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン混合体。
【請求項14】
上記ジカルボン酸粉末及び安息香酸粉末から成る群から選ばれる1種以上の粒径が100μm以下であることを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン混合体。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン混合体を所定形状に成形した後、上記造孔剤を除去することによって気孔を設けるポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項16】
加熱により上記造孔剤を除去することを特徴とする請求項15記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項17】
溶媒抽出により上記造孔剤を除去することを特徴する請求項12記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項18】
中心導体の周上に、請求項1〜8のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体からなる絶縁体が形成されてなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項19】
請求項18記載の絶縁電線と、上記絶縁電線の絶縁体の周上に形成された外部導体とからなることを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項20】
上記外部導体が、金属素線の編組からなることを特徴とする請求項19記載の同軸ケーブル。
【請求項21】
上記外部導体が、金属パイプからなることを特徴とする請求項20記載の同軸ケーブル。
【請求項22】
上記外部導体が、コルゲート加工を施した金属パイプからなることを特徴とする請求項21記載の同軸ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−227800(P2009−227800A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74162(P2008−74162)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000129529)株式会社クラベ (125)
【Fターム(参考)】