説明

R−T−M−B系希土類永久磁石及びその製造方法

【解決手段】 R−T−M−Bで表される希土類燒結磁石の表面に、Fe、Co、Ni、Sn、Cuから選ばれる金属皮膜をメッキ法を用いて形成した後、該磁石をCo、Ni、Sn、Cuから選ばれる金属と、硫酸、硝酸、酢酸、蓚酸、クエン酸、燐酸、ピロ燐酸、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、蓚酸カリウム、蓚酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、ピロ燐酸ナトリウム、ピロ燐酸カリウムから選ばれる化合物を含む水溶液に浸漬することを特徴とするR−T−M−B系希土類永久磁石の製造方法。
【効果】 本発明による永久磁石は、希土類永久磁石に高い耐腐食性、低発塵性、環境適合性、良好な接着性を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐腐食性、低発塵性及び環境適合性を有するR−T−M−B系希土類永久磁石とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類系燒結磁石は、優れた磁気特性と経済性のため多くの分野で多用されてきているが、近年において環境に優しい技術を実現する目的で、エネルギーの効率化を図る手段として、光ピックアップ駆動用や省エネルギーモーター等の需要が増大している。しかし、Ndをはじめ、希土類金属材料は、一般に湿気の多い空気中では極めて短時間のうちに容易に酸化してしまうため、それに伴って生じる磁気特性の劣化や磁石材料の脱落により引き起こされる汚染が欠点として存在する。
このため、一般的な使用にあっては該磁石の表面に保護被膜として特開昭60−54406号公報(特許文献1)にあるような金属被膜、特開平9−63833号公報(特許文献2)にあるような無機質被膜、特開平9−180922号公報(特許文献3)にあるような有機質被膜、特開平7−74043号公報(特許文献4)にあるように、磁石表面をイオンプレーティングを用いたアルミなどの金属蒸着膜等により乾式被覆する方法が提唱されている。
この中で、より高度な低発塵性と耐食性を求める場合は、上記のうち金属皮膜が一般的に処方されるが、これら皮膜に生じる磁石素地まで到達する微細孔が発塵原因や腐蝕原因のひとつになっていることから、金属被膜にショットブラストなど物理的衝激を与えたり、クロム酸化物皮膜でトップコートするなどして、これら微細孔を封止する試みが行われている。
【0003】
また、角部の面取りが行われていない形状や、割れやカケが生じやすい形状の磁石にあっては、バレルと呼ばれる太鼓状の容器に磁石を投入してメッキするバレルメッキ法を用いると磁石に欠損が生じるため、ラックと呼ばれるフレームに取り付けてラックごとメッキ槽に浸漬し、メッキするラックメッキ法が採られているが、このラックメッキ法においても、磁石がラックに挟まれている部分(以下、接点という)にメッキが施されない現象が生じるため、接点跡が先の微細孔と同様に発塵原因や腐蝕原因となるため、クロム酸化物皮膜でトップコートしたり、接点跡をエポキシ樹脂で保護したり、メッキ途中で接点位置を変えたりして封止する試みが行われている。
しかしながら、先の物理的衝撃による封止は、例えば円筒形磁石における円筒内側の皮膜など外部からの衝撃を与えにくい形状では微細孔が塞がらないし、磁石の寸法が数ミリ以下の小物磁石や薄物磁石の場合などは磁石の固定が難しいこともあって衝撃が伝わりにくいため、微細孔が封止されなかったり、また磁石の機械的な強度不足から磁石自体が欠けたり割れてしまうなどの不具合が生じている。
【0004】
クロム酸化物被膜によるトップコートは、クロム酸化物が有する化学的性質から、被膜を生成させる処理液と共に処理時に生じる廃棄物全てに厳密な管理が必要となるなど、扱いが難しく、更に、電気電子部品基板製造における鉛フリーハンダ化に代表されるような近年の環境への意識の高まりからクロム酸化物の使用についても削減や廃止が求められるなど、早急に代替技術が求められている。
接点跡のエポキシ樹脂による封止は、封止部分が盛り上がるため寸法精度が悪くなったり、繁雑な封止作業が別途必要になるなど、生産上の不具合を抱えている。
メッキ途中で接点位置を変える方法では、接点跡にメッキが上手く析出せず、接点跡を充分に埋められない場合があり、後処理としてクロム酸化物によるトップコートが必要になるなど、充分な対策にならない場合がある。
【0005】
【特許文献1】特開昭60−54406号公報
【特許文献2】特開平9−63833号公報
【特許文献3】特開平9−180922号公報
【特許文献4】特開平7−74043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、優れた耐腐食性、低発塵性、環境適合性、接着性を有するR−T−M−B系希土類永久磁石及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、素地上に金属メッキ被膜を有するR−T−M−B系希土類永久磁石において、金属メッキ被膜に存在する素地まで貫通する微細孔の底部(磁石素地部)及びその近傍(金属皮膜部)に、磁石素地よりも電気化学的に貴な金属と金属水酸化物及び/又は金属酸化物を析出又は堆積させた磁石、及び、これら磁石を得るために、素地上に金属メッキ被膜を有するR−T−M−B系希土類永久磁石を磁石素地よりも電気化学的に貴な金属を含んだ特定の酸及び/又は塩基の水溶液に浸漬する製造方法が有効であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
即ち、本発明は、R−T−M−B(RはY及びScを包含する希土類元素のうち少なくとも一種、TはFe又はFe及びCo、MはTi、Nb、Al、V、Mn、Sn、Ca、Mg、Pb、Sb、Zn、Si、Zr、Cr、Ni、Cu、Ga、Mo、W、Taから選ばれる少なくとも一種の元素であって、これらの含有量はそれぞれ5質量%≦R≦40質量%、50質量%≦T≦90質量%、0質量%≦M≦8質量%、0.2質量%≦B≦8質量%である。)で表される希土類燒結磁石の表面に、Fe、Co、Ni、Sn、Cuから選ばれる少なくとも一種からなる金属皮膜をメッキ法を用いて一層又は多層に形成した後、該磁石をCo、Ni、Sn、Cuから選ばれる少なくとも一種の金属と、硫酸、硝酸、酢酸、蓚酸、クエン酸、燐酸、ピロ燐酸、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、蓚酸カリウム、蓚酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、ピロ燐酸ナトリウム、ピロ燐酸カリウムから選ばれる少なくとも一種の化合物を含む水溶液に浸漬することを特徴とするR−T−M−B系希土類永久磁石の製造方法を提供する。また、本発明は、該方法によって得られ、希土類焼結磁石の表面に形成された金属皮膜の上記磁石表面に達する微細孔底部に対応する磁石表面上に、Co、Ni、Sn、Cuから選ばれる少なくとも一種の金属とその水酸化物及び/又は酸化物が堆積されてなるR−T−M−B系希土類永久磁石を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるR−T−M−B系希土類永久磁石及びその製造方法は、希土類永久磁石に高い耐腐食性、低発塵性、環境適合性、良好な接着性を付与し、応用範囲を更に広げるものとして有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において用いるR−T−M−Bで表される希土類系焼結永久磁石において、RはY及びScを含む希土類元素であり、具体的にはY、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちから選ばれる少なくとも一種の希土類元素が挙げられ、特にNdを含むものが好適に用いられる。その含有量は5質量%以上40質量%以下で、好ましくは10質量%以上35質量%以下である。TはFe又はFe及びCoであり、その含有量は50質量%以上90質量%以下で、好ましくは55質量%以上80質量%以下である。MはTi、Nb、Al、V、Mn、Sn、Ca、Mg、Pb、Sb、Zn、Si、Zr、Cr、Ni、Cu、Ga、Mo、W、Taから選ばれる少なくとも一種の元素であり、含有量は8質量%以下で、好ましくは5質量%以下である。Bは0.2質量%以上8質量%以下、好ましくは0.5質量%以上5質量%以下含有される。その他、現時点で工業的に不可避不純物元素とされるC、N、O、H、P、S等も含まれる。
【0011】
この磁石は、原材料から合金を作製した後、これを粉砕して粉末を得、この粉末を求める形状に成型し、焼結するという一般的に公知な製造方法を用いて作製する。例えば、次の方法が挙げられる。希土類酸化物やフッ化物から精製した純希土類金属、希土類合金、純鉄、フェロボロン、各添加物元素の純金属、合金等を原材料とし、これらを耐熱性酸化物でできた坩堝に充填し、真空又は不活性気体、例えばAr雰囲気中で高周波を用いて加熱溶解した後、鋳型に流し込んで冷却するか、回転する冷却ロール上に注いで急冷し、原料合金を作製する。この原料合金にはR2Fe14B相(RはY及びScを含む希土類元素のうち少なくとも一種(前述)、以下同じ)の他にα−Fe相、Rリッチ相、Bリッチ相等が残る場合があり、必要に応じて真空もしくは不活性気体雰囲気にて700〜1,200℃の温度で溶体化処理を行う。
【0012】
原料合金はジョークラッシャー、ブラウンミル、ジェットミル等の機器を用いたり、大まかに粉砕した粒に水素ガスを吸蔵放出させたりして目的とする粒径、例えばレーザー回折式の粒度分布測定器で測定した場合で平均粒径で20μm以下に粉砕する。
次いで、得られた粉末を磁場中でのプレス成型によって所望の形状に成型し、続いて真空もしくは不活性気体雰囲気で900〜1,200℃の温度で焼結する。
必要に応じて焼結後の磁石を任意の形状に切断切削加工したり、熱処理したりしてもよい。
【0013】
焼結して得られた磁石は、製造過程で表面に付着した油脂を塩基性水溶液などによって除去した後、酸性水溶液などによって表面に存在する酸化物などの不動態層を取り除き、例えばワット浴を用いた電気Niメッキ、ピロ燐酸浴を用いた電気Cuメッキ、その他の無電解メッキなど公知のメッキ方法を用いて表面を金属皮膜で被覆する。なお、メッキはラック法でもバレル法でもよい。
【0014】
被覆はFe、Co、Ni、Sn、Cuのうちの一種あるいはこれらの合金を1層施してもよいし、皮膜の機能を高めるため複数層施してもよい。なお、本発明において、耐食性及び低発塵性を得るための被覆層厚みは1〜40μm程度、好ましくは3μm以上25μm以下で施す必要がある。1μm未満では、被覆の処理技術にもよるが、素地を十分に被覆できない場合が多く、皮膜としての機能を発揮できない。また、40μmを超えると、金属皮膜に存在する素地まで達する微細孔が大きく減少し、本発明を実施する意義が薄れると共に、同体積に占める磁石体積が減少してしまうことにより、特に小物薄物磁石や高特性磁石においては最終的に得られる磁気特性が低下し、使用上の問題が発生してしまう。
【0015】
本発明においては、このようにして得られた金属で被覆された磁石を、Co、Ni、Sn、Cuから選ばれる少なくとも一種の金属と、硫酸、硝酸、酢酸、蓚酸、クエン酸、燐酸、ピロ燐酸、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、蓚酸ナトリウム、蓚酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、ピロ燐酸ナトリウム、ピロ燐酸カリウムから選ばれる少なくとも一種とを含む水溶液(処理液)に任意の温度と時間で浸漬する。
【0016】
処理液に含む金属とその他成分の濃度は、処理する温度と時間に合わせて決めればよく、本発明が発現される条件のひとつである処理液のpHを一つの指標とするとき、処理温度でのpHが0.3以上6.5以下もしくは8.0以上12.5以下となるように調製すればよい。なお、pH調整は成分の濃度を増減することで行ってもよいし、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等を用いてもよい。
この場合、温度及び時間は、15〜60℃の間で求める効果が得られる時間を選択すればよいが、生産性を考慮すると、25〜40℃の間で1〜5分であることが好ましい。
また、この際に微細孔への処理液の浸透を十分なものとするため、処理液に高級脂肪酸の塩などを用いた界面活性剤を配合してもよい。
【0017】
このようにして調製した処理液が微細孔にしみ込むと、磁石素地と金属皮膜と処理液の間で局部電池が構成されることが発端となって、電気化学的に卑となる磁石素地の一部分が優先的に比較的速やかに溶解する。磁石素地の溶解が始まると、電気化学的に貴な部分上に処理液中の金属が析出する。
この電気化学的に貴となる部分は、金属皮膜と磁石素地が接しているところでは金属皮膜上になるが、それ以外は外部から強制的に電圧をかけている場合と異なり、溶解が生じている部分近傍の溶解していない部分となるため、そこに処理液中の金属が析出する。
なお、処理液中の磁石素地よりも電気化学的に貴な金属が磁石素地上に順次析出することで、処理液に対しても保護膜の役割を果たすため、従来、微細孔のある金属被膜を有したR−T−M−B希土類燒結磁石を酸又は塩基の水溶液に浸漬した際に微細孔部において生じていた磁石素地の優先的侵食に伴う顕著な腐蝕劣化を最小にすることができる。
また、この際、処理液のpHも変化するため、処理液中の金属が水酸化物や酸化物となって微細孔中に堆積することで、処理液中の金属が析出していない部分も被覆する役割を果たす。
処理後は、イオン交換水を用いてすすいでから乾燥する。
【0018】
なお、本発明で述べる微細孔とは、磁石を被覆している金属の表面に観察される開口部において、その大きさを開口部と同等の面積を有する真円の直径で表した場合で1mm以下のものや、ラックメッキ法によって生じた金属被膜に存在するラックの接点跡をいう。
【0019】
以上の方法により、素地上にFe、Co、Ni、Sn、Cuから選ばれる少なくとも一種からなる金属皮膜を有したR−T−M−B系希土類永久磁石において、金属被膜に存在する素地まで達する微細孔をCo、Ni、Sn、Cuから選ばれる金属と該金属の水酸化物及び/又は該金属の酸化物で封止した希土類永久磁石を得ることができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例及び比較例を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0021】
[実施例1〜4、比較例1〜4]
Ar雰囲気下、所用の原材料から高周波加熱溶解により、Nd32質量%、Co7質量%、Fe59.8質量%、B1.2質量%の原料合金を作製し、ジョウクラッシャーにて粗粉砕した後、窒素雰囲気下、ジェットミルを用いて微粉砕し、平均粒径3.5μmの微粉末を得た。続いて得られた粉末を金型に充填した後、10kOeの磁界を印加しつつ1.0ton/cm2の圧力を加えて成型し、真空中1,100℃で2時間焼結し、550℃で1時間の加熱処理を行った。得られた磁石を10×20×2mmと5×5×2mmの2種類の形状に加工した後、各々、市販の塩基性脱脂水溶液を用いて油脂を取り除き、硝酸水溶液を用いて不動態層を除去した後に、ワット浴を用いてバレルメッキ法による電気Niメッキを施し、皮膜厚み6μmのNi皮膜で被覆して、評価用磁石とした。得られた磁石を以下の各実施例で示す処理液に25℃で2分間浸漬し、イオン交換水ですすいだ後、80℃の強制循環式乾燥機で10分間乾燥した。
実施例1:Ni0.01mol/L、クエン酸0.03mol/L、クエン酸カリウム
0.03mol/L
実施例2:Ni0.01mol/L、ピロ燐酸0.02mol/L、ピロ燐酸カリウム
0.05mol/L
比較例1:未処理
比較例2:市販クロメート処理剤
【0022】
上記と同様に作製した磁石を、市販の塩基性脱脂水溶液を用いて油脂を取り除き、硝酸水溶液を用いて不動態層を除去した後にワット浴を用いてラックメッキ法による電気Niメッキを施し、皮膜厚み6μmのNi皮膜で被覆して、評価用磁石とした。得られた磁石を以下の各実施例で示す処理液に25℃で2分間浸漬し、イオン交換水ですすいだ後、80℃の強制循環式乾燥機で10分間乾燥した。
実施例3:Ni0.01mol/L、酢酸0.05mol/L、酢酸ナトリウム0.0
1mol/L
実施例4:Cu0.01mol/L、ピロ燐酸0.01mol/L、ピロ燐酸ナトリウ
ム0.05mol/L
比較例3:未処理
比較例4:市販クロメート処理剤
【0023】
以上で得られた試料のうち寸法が10×20×2mmのものについて、120℃、2気圧で48時間と72時間と96時間のプレッシャークッカー試験(PCT)した結果と、5質量%塩化ナトリウム水溶液に35℃で48時間と72時間と96時間浸漬した後、水洗、乾燥し、直ちに実体顕微鏡を用いて2.5〜20倍で錆の発生やメッキ被膜のフクレやハガレの程度を観察した結果と、寸法が5×5×2mmのものについて、VSMで測定したパーミアンス1における磁束密度及び保磁力の各値の120℃×24時間前後での変化を百分率で示した磁気特性劣化の程度と、処理後1ヶ月経過した磁石をアクリル系及びエポキシ系接着で鉄板に接着し、磁石を線速10mm/minで圧縮剪断した時の剪断接着強度など各々について評価した結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
[実施例5〜8、比較例5〜8]
Ar雰囲気下、所用の原材料から高周波加熱溶解により、Nd32質量%、Co7質量%、Fe59.8質量%、B1.2質量%の原料合金を作製し、ジョウクラッシャーにて粗粉砕した後、窒素雰囲気下、ジェットミルを用いて微粉砕し、平均粒径3.5μmの微粉末を得た。続いて得られた粉末を金型に充填した後、10kOeの磁界を印加しつつ1.0ton/cm2の圧力を加えて成型し、真空中1,100℃で2時間焼結し、550℃で1時間の加熱処理を行った。得られた磁石を10×20×2mmと5×5×2mmの2種類の形状に加工した後、各々、市販の塩基性脱脂水溶液を用いて油脂を取り除き、硝酸水溶液を用いて不動態層を除去した。次いでピロ燐酸浴を用いてバレルメッキ法による電気Cuメッキを施した後に、ワット浴を用いてバレルメッキ法による電気Niメッキを施し、各々3μm、合計で6μmのCu/Ni2層皮膜で被覆して評価用磁石とした。得られた磁石を以下の各実施例で示す処理液に25℃で2分間浸漬し、イオン交換水ですすいだ後、80℃の強制循環式乾燥機で10分間乾燥した。
実施例5:Ni0.01mol/L、ピロ燐酸0.02mol/L、ピロ燐酸カリウム
0.05mol/L
実施例6:Cu0.01mol/L、硝酸0.03mol/L、硝酸カリウム0.01
mol/L
比較例5:未処理
比較例6:市販クロメート処理剤
【0026】
上記と同様に作製した磁石を、市販の塩基性脱脂水溶液を用いて油脂を取り除き、硝酸水溶液を用いて不動態層を除去した後にピロ燐酸浴を用いてラックメッキ法による電気Cuメッキを施した後、ワット浴を用いてラックメッキ法による電気Niメッキを施し、各々3μm、合計で6μmのCu/Ni2層皮膜で被覆して評価用磁石とした。得られた磁石を以下の各実施例で示す処理液に25℃で2分間浸漬し、イオン交換水ですすいだ後、80℃の強制循環式乾燥機で10分間乾燥した。
実施例7:Ni0.01mol/L、ピロ燐酸0.03mol/L、ピロ燐酸カリウム
0.01mol/L
実施例8:Cu0.01mol/L、ピロ燐酸0.02mol/L、ピロ燐酸ナトリウ
ム0.05mol/L
比較例7:未処理
比較例8:市販クロメート処理剤
【0027】
以上で得られた試料のうち、寸法が10×20×2mmのものについて、120℃、2気圧で48時間と72時間と96時間のプレッシャークッカー試験(PCT)した結果と、5質量%塩化ナトリウム水溶液に35℃で48時間と72時間と96時間浸漬した後、水洗、乾燥し、直ちに実体顕微鏡を用いて2.5〜20倍で錆の発生やメッキ被膜のフクレやハガレの程度を観察した結果と、寸法が5×5×2mmのものについてVSMで測定したパーミアンス1における磁束密度及び保磁力の各値の120℃×24時間前後での変化を百分率で示した磁気特性劣化の程度と、処理後1ヶ月経過した磁石をアクリル系及びエポキシ系接着剤で鉄板に接着し、磁石を線速10mm/minで圧縮剪断した時の剪断接着強度など各々について評価した結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
本発明の実施例では、PCT、塩水浸漬試験ともに96時間で変化が見られた。これは従来のクロメート処理(比較例2,4,6,8)と同等の耐食性であり、比較例1,3,5,7よりよい結果が得られた。磁気特性は、本発明の処理による劣化は見られず、剪断接着強度は、比較例と同等かそれ以上の接着強度が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
R−T−M−B(RはY及びScを包含する希土類元素のうち少なくとも一種、TはFe又はFe及びCo、MはTi、Nb、Al、V、Mn、Sn、Ca、Mg、Pb、Sb、Zn、Si、Zr、Cr、Ni、Cu、Ga、Mo、W、Taから選ばれる少なくとも一種の元素であって、これらの含有量はそれぞれ5質量%≦R≦40質量%、50質量%≦T≦90質量%、0質量%≦M≦8質量%、0.2質量%≦B≦8質量%である。)で表される希土類燒結磁石の表面に、Fe、Co、Ni、Sn、Cuから選ばれる少なくとも一種からなる金属皮膜をメッキ法を用いて一層又は多層に形成した後、該磁石をCo、Ni、Sn、Cuから選ばれる少なくとも一種の金属と、硫酸、硝酸、酢酸、蓚酸、クエン酸、燐酸、ピロ燐酸、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、蓚酸カリウム、蓚酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、ピロ燐酸ナトリウム、ピロ燐酸カリウムから選ばれる少なくとも一種の化合物を含む水溶液に浸漬することを特徴とするR−T−M−B系希土類永久磁石の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の水溶液に浸漬した後、水洗、乾燥する請求項1記載のR−T−M−B系希土類永久磁石の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法により得られ、希土類焼結磁石の表面に形成された金属皮膜の上記磁石表面に達する微細孔底部に対応する磁石表面上に、Co、Ni、Sn、Cuから選ばれる少なくとも一種の金属とその水酸化物及び/又は酸化物が堆積されてなるR−T−M−B系希土類永久磁石。

【公開番号】特開2006−165217(P2006−165217A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353617(P2004−353617)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】