RFIDシステム
【課題】簡易な構成と簡単な処理とにより、移動体を認識するために必要なRFIDタグのみとの交信を可能にし、処理時間を短縮する。
【解決手段】移動体(パレット)Pが進行する経路の近傍にアンテナAを配置し、アンテナAからの電波を受信可能な位置に固定タグTを配置する。移動体Pに取り付けられた移動タグMおよび固定タグTは、アンテナAからの読出コマンドを受信すると、一定のタイミングで応答信号を返送する。アンテナAが固定タグTから受信する信号はほぼ一定になるが、移動タグMがアンテナAと交信すべき場所に位置する間は、固定タグTからの信号は移動タグMからアンテナAに送信される信号の中に埋もれて読取が不可能な状態になる。一方、移動タグMがアンテナAから一定の距離以上離れると、移動タグMからの信号が固定タグTからの信号の中に埋もれて読取が不可能な状態になる。
【解決手段】移動体(パレット)Pが進行する経路の近傍にアンテナAを配置し、アンテナAからの電波を受信可能な位置に固定タグTを配置する。移動体Pに取り付けられた移動タグMおよび固定タグTは、アンテナAからの読出コマンドを受信すると、一定のタイミングで応答信号を返送する。アンテナAが固定タグTから受信する信号はほぼ一定になるが、移動タグMがアンテナAと交信すべき場所に位置する間は、固定タグTからの信号は移動タグMからアンテナAに送信される信号の中に埋もれて読取が不可能な状態になる。一方、移動タグMがアンテナAから一定の距離以上離れると、移動タグMからの信号が固定タグTからの信号の中に埋もれて読取が不可能な状態になる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動する物体(以下、「移動体」という。)を、その移動途中に認識するためのRFID(Radio Frequency Identification)システムに関する。
【背景技術】
【0002】
RFIDシステムは、RFIDタグ(以下、単に「タグ」という場合がある。)とリーダライタとの間で電波を介した交信を行うものである。特に、パッシブタイプやセミパッシブタイプのRFIDタグを用いたシステムは、リーダライタからの電波によりRFIDタグを起動して交信を行わせることができることから利便性が高く、様々な目的に使用されている。
【0003】
たとえば、工場では、管理対象の物品の1つ1つにRFIDタグを取り付けて、コンベアにより搬送すると共に、コンベアの近傍位置にリーダライタのアンテナを設置し、物品の移動に伴ってアンテナの交信領域にRFIDタグが入る都度、そのRFIDタグとアンテナとの間で交信を行って、情報の読み書き処理を実施する(特許文献1を参照。)。
【0004】
また、入退出を管理する目的で、出入口への通路にリーダライタのアンテナを設置し、通路を進行する移動体(人または物品)に取り付けられたRFIDタグをアンテナからのコマンドに反応させるようにしたシステムも知られている。
【0005】
たとえば、特許文献2には、近接した複数のゲートを通過するRFIDタグから識別情報を取得するシステムにおいて、ゲート毎に設置されたアンテナから読出信号を送信し、読出信号を受信した全てのRFIDタグからの応答信号によりID情報を取得し、それらの中から不要なRFIDタグからのID情報を除外するフィルタリング処理を実施することが記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、人が通過する複数のゲートにそれぞれ質問器(リーダライタ)と固定タグとを設置し、各ゲートの質問器において、ゲートを通る人が所持する移動タグおよび固定タグを単位時間あたりに複数回同時期に読み出し、各タグとの通信の可否や通信成功率によって各ゲートにおける移動タグの有無を判別することが記載されている。さらに、特許文献3には、固定タグとの通信が困難で移動タグが存在しないという判別がなされた場合に、タグを所持しない人物により固定タグへの電波が遮断されたと認識することや、固定タグおよび移動タグにそれぞれ異なるタイムスロットを割り当てることによって、質問器からのコマンドに対してタグの種毎にタイミングをずらして応答させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−39858号公報
【特許文献2】特開2009−276939号公報
【特許文献3】特開2006−72672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の発明者らは、フォークリフトなどの車両の入退出を管理する目的でRFIDシステムを開発するにあたり、図13に示すようなシステムを構成し、その有用性を検証した。このシステムでは、近接して並設された複数の経路R1〜Rnの一側にリーダライタのアンテナA1〜Anをそれぞれ配備し、フォークリフトBにRFIDタグtを取り付ける。RFIDタグtには、たとえばフォークリフトBにより搬入される貨物に関する情報が予め書き込まれている。
【0009】
各アンテナA1〜Anは読出コマンドを順に送信すると共に、所定の待ち時間が経過するまでタグtからの応答信号の受信に待機する。待ち時間以内に応答信号を受信した場合には、その応答信号に含まれる情報を読み取って分析し、搬入の是非をチェックする。
【0010】
ところが、上記の方法によると、図14に示すように、実際にフォークリフトBが入った経路(この例では経路R2)とは異なる経路(この例では経路R3)のアンテナA3からの電波に経路R2のRFIDタグtが反応し、その結果、誤った情報の読取が行われて、認識結果に誤りが生じることが判明した。
【0011】
特許文献2に記載された発明では、ゲートの周辺に存在するタグからの信号が受信されることを考慮して、毎回の読取信号の送信に対して応答可能な全てのタグからの応答信号を受信して、各ID情報を取得し、同一のID情報毎に応答信号の強度の時系列変化を求めて、この変化の波形に基づきゲートを正しく通過したタグからの応答信号を判別するようにしている。しかし、このような方法では、処理が複雑になり、処理に要する時間も長くなるので、高速の処理が要求される用途には不向きである。
【0012】
特許文献3に記載された発明では、質問器からのコマンドに対し、移動タグおよび固定タグをそれぞれ異なるタイミングで応答させ、移動タグとは交信できたが固定タグとは交信できなかった場合には移動体は当該アンテナと同じ通路に位置し、移動タグおよび固定タグの双方と交信できた場合には移動体は当該アンテナとは異なる通路に位置すると判断する。これにより、各通路の移動タグを精度良く検出することが可能になる。
しかし、特許文献3に記載された発明では、移動タグからの応答を受け付ける時間と固定タグからの応答を受け付ける時間とが個別に設定される上に、各タグとの交信状況を分析する時間をとる必要があり、特許文献2と同様に、処理が複雑で時間がかかる。よって特許文献3に記載された発明も、高速の処理が要求される用途には適していない。
【0013】
また、特許文献3に記載された発明では、アンテナと固定タグとの間に移動体が入ることによって電波が遮蔽されることを前提としているが、電波を通過させる特性を持つ物体が移動体となる場合もある。またアンテナからの電波が反射するなどして、予期しない方向にまでアンテナからの電波が伝搬し、その結果、コマンドを送信したアンテナに交信対象外のタグからの応答信号が届く場合もある。これらの問題に対する対策について、特許文献3には何も記載されていない。
【0014】
本発明は上記の問題点に着目し、簡易な構成と簡単な処理とにより、移動体を認識するために必要なRFIDタグのみとの交信を可能にすると共に、処理時間を短縮することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、認識対象の移動体が進行する経路の近傍に設けられたアンテナを含む交信処理装置と、移動体に関連する情報が書き込まれて当該移動体と共に移動する移動RFIDタグ(以下「移動タグ」と略す。)と、交信処理装置の動作を制御すると共に交信処理装置が移動タグとの交信により得た読取情報を交信処理装置から取得し、この読取情報を用いて移動体に関する認識処理を行う制御装置とを有するRFIDシステムに適用される。
【0016】
上記のRFIDシステムにおいて、交信処理装置は、たとえば、アンテナとこのアンテナの動作を制御する交信制御部とを有するリーダライタにより構成される。また、通常のリーダライタは一対のアンテナと交信制御部とにより構成されるが、この発明の交信処理装置には、複数のアンテナとこれらのアンテナを統括制御する制御部とを含めることもできる。または、アンテナと交信制御部との組み合わせを複数組含めることもできる。
【0017】
本発明によるRFIDシステムには、所定の場所に固定配備される固定RFIDタグ(以下「固定タグ」と略す。)がさらに含まれる。この固定タグは、アンテナと交信すべき場所に位置する移動タグから当該アンテナが受信する信号に埋もれるレベルであって、アンテナと交信すべきでない場所に位置する移動タグから当該アンテナが受信する信号を埋もれさせるレベルの信号を当該アンテナに届ける。
【0018】
さらに、本発明の移動タグおよび固定タグは、それぞれアンテナからのコマンドに対して一定のタイミングで応答する。制御装置は、交信処理装置に、読出コマンドを送信して当該コマンドに対するRFIDタグからの応答信号を受信する処理を繰り返し実行させると共に、応答信号を受信した交信処理装置から移動タグの応答信号による読取情報を取得したとき、その読取情報を用いて前記認識処理を実行する。
【0019】
上記のシステムによれば、アンテナからの読出コマンドが移動タグおよび固定タグの双方に届いた場合には、各RFIDタグは、その種別によらず、一定のタイミングで応答する。よって、これらのタグからの応答信号はアンテナにほぼ同時に届くが、移動タグがアンテナと交信すべき場所に位置している場合には、固定タグから受信した応答信号は移動タグから受信した応答信号に埋もれて読取が不可能な状態になり、移動タグからの応答信号による情報が読み取られる。一方、移動タグがアンテナと交信すべきでない場所に位置している場合には、移動タグから受信した応答信号は固定タグからの応答信号に埋もれて読取が不可能な状態となり、固定タグからの応答信号による情報が読み取られる。
【0020】
よって、移動体の移動に伴ってアンテナと交信すべき場所に入った移動タグの情報を確実に読み取ることができる。また、アンテナと交信すべきでない場所にある移動タグに読出コマンドが届いて、その移動タグがコマンドに応答しても、当該移動タグからの応答信号は固定タグからの応答信号に埋もれてしまうので、アンテナと交信すべきでない場所に位置する移動タグの情報が読み取られるのを防ぐことができる。
【0021】
アンテナからのコマンドに対し複数の移動タグが応答した場合でも、そのうちの1つのみがアンテナと交信すべき場所に位置するのであれば、そのタグからの応答信号のみから情報を読み取ることができる。また、読出コマンドを送信したアンテナは、移動タグからの応答信号を受信できない場合でも、固定タグからの応答信号を受信することができるので、応答信号の受信待ちによって処理が長引くおそれがない。よって、処理時間を短縮することができ、高速処理が要求される現場にも容易に対応することが可能になる。
【0022】
上記のシステムの好ましい一実施態様では、移動体を進行させるために設定された複数の経路毎にアンテナおよび固定タグが設けられる。また、制御装置は、各経路のアンテナにそれぞれ読出コマンドの送信および応答信号の受信を実施させると共に、読取情報として移動タグからの応答信号による情報を取得したとき、その読取情報を含む応答信号を受信したアンテナに対応する経路に移動体が位置すると認識する。
【0023】
上記の実施態様によれば、いずれの経路においても、その経路に設けられた固定タグによって、他の経路の移動タグから受信する信号が読み取られることがなくなり、対応する経路内でアンテナと交信すべき場所に位置する移動タグの情報を安定して読み取ることが可能になる。このように、移動タグの情報を、その移動タグが入った経路のアンテナのみで確実に読み取ることができるので、移動体の位置を誤りなく認識することが可能になる。
【0024】
さらに上記の実施態様における制御装置は、各経路のアンテナに、読出コマンドの送信および応答信号の受信を順に実施させると共に、読出コマンドを送信したアンテナが応答信号を受信したことに応じて次のアンテナに読出コマンドを送信させる。本発明によれば、移動タグが存在しない経路のアンテナも、対応する固定タグからの応答信号を読出コマンドの送信後に速やかに受信することができるので、各アンテナによる受信処理が一巡するのに必要な時間を大幅に短縮することができる。
【0025】
別の観点の実施態様では、制御装置は、移動タグの読取情報を取得したとき、その読取情報が当該読取情報を含む応答信号を受信したアンテナが配備される経路に整合するか否かを判別する判別手段と、この判別手段による判別結果を出力する出力手段とを、さらに具備する。この実施態様によれば、たとえば、移動体の進路の成否を、ランプやブザーなどにより報知することができる。また、移動タグに書き込まれている経路とは異なる経路に移動体が進入した場合には、それを確実に検出して警報を出力したり、ゲートを閉鎖するなどの対応をとることが可能になる。
【0026】
さらに別の観点の実施態様では、移動RFIDタグおよび固定RFIDタグの少なくとも一方に、アンテナからのコマンドに対して応答する際の電波の反射強度を、当該反射強度の変更を求めるコマンドをアンテナから受信したことに応じて変更する機能が設けられる。
この実施態様によれば、アンテナと交信すべき場所に配備された移動タグ、アンテナと交信すべきでない場所に配備された移動タグ、および所定の場所に配置された固定タグのそれぞれに対する交信処理を行って、アンテナが各タグから受信する信号のレベルを計測し、これらの計測値に基づき電波の反射強度を調整することができる。
したがって、たとえばシステムを導入した際に上記の処理を実施すれば、固定タグからアンテナに届けられる信号のレベルを、アンテナと交信すべき場所に位置する移動タグから当該アンテナが受信する信号に埋もれるレベルであって、アンテナと交信すべきでない場所に位置する移動タグから当該アンテナが受信する信号を埋もれさせるレベルに設定することが可能になる。また、システムの導入後に各タグからの受信状態が変動した場合にも、上記の処理によって、アンテナが各タグから受信する信号のレベルの関係を良好な状態に戻すことが可能になる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、アンテナからのコマンドを受信可能な場所に固定タグを配置し、この固定タグおよび移動タグからアンテナに届く信号のレベルの関係を調整することによって、交信すべきでない場所に位置する移動タグの情報が読み取られるのを防止し、読み出しの必要がある情報を確実に取得して、安定した認識処理を実施することができる。また、応答信号を受信する処理や受信した信号から読取情報を抽出する処理がきわめて簡単になるので、処理時間を短縮することができ、処理の高速化が要求される用途にも容易に対応することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1形態のRFIDシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】移動タグおよび固定タグに共通の回路構成を示すブロック図である。
【図3】第1形態のRFIDシステムの導入例を示す図、およびアンテナが各タグから受信する信号の特性を示すグラフである。
【図4】制御装置における処理手順を示すフローチャートである。
【図5】設定処理における処理手順を示すフローチャートである。
【図6】第1形態のRFIDシステムの他の導入例を示す図、およびアンテナが各タグから受信する信号の特性を示すグラフである。
【図7】固定タグの配置の他の例を示す図である。
【図8】第2形態のRFIDシステムの導入例を示す図である。
【図9】第2形態のRFIDシステムの構成を示すブロック図である。
【図10】制御装置における処理手順を示すフローチャートである。
【図11】一対の移動タグを用いてフォークリフトの前進、後退を認識する方法、およびこの方法が適用された場合のアンテナが各タグから受信する信号の特性を示すグラフである。
【図12】車両の進行方向を認識することを目的とするRFIDシステムの構成および導入例、ならびにアンテナが各タグから受信する信号の特性を示すグラフである。
【図13】入退出の管理を目的とする従来のRFIDシステムの導入例を示す図である。
【図14】図13のシステムの問題点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明が適用されたRFIDシステムについて2つの実施形態をあげ、システムの導入例と共に説明する。
【0030】
<第1形態>
第1形態のRFIDシステムは、一定の方向に進行する移動体を検出し、その移動体に対して所定の認識処理を実施する目的に使用される。具体的なシステムは、図1に示すように、2種類のRFIDタグ(移動タグMおよび固定タグT)、リーダライタ2、制御装置1などにより構成される。
【0031】
リーダライタ2には、アンテナAおよび交信制御部20が含まれる。なお、以下に示す導入例では、アンテナAと交信制御部20とが別体となるが、これに代えて両者が一体になったタイプのリーダライタを使用してもよい。
【0032】
各RFIDタグM,TとアンテナAとは、UHF帯域(860〜960MHZ程度)の電波を用いて相互に変調処理や復調処理を行うことにより、交信を実施する。移動タグM、固定タグTは、いずれもパッシブタイプであるが、これに限らず、セミパッシブタイプのRFIDタグを用いてもよい。
移動タグMは、移動体に取り付けられて、当該移動体と共に移動する。固定タグTは、アンテナAから適度な強度の電波を受信する場所に固定配備される。
【0033】
制御装置1の実体は、専用のプログラムがインストールされたパーソナルコンピュータである。交信制御部2には、マイコンや送受信回路が組み込まれ、制御装置1からの指示に応じて、アンテナAから読出コマンドを送信する処理と、この読出コマンドに対するタグM,Tからの応答信号を受信して当該信号に含まれる情報を復号する処理とを繰り返しながら、復号された情報を読取情報として制御装置1に送信する。制御装置1は、移動タグMからの読取情報を取得すると、この情報を用いて移動体に対する認識処理を実行する。
【0034】
図2は、上記の移動タグMおよび固定タグTに共通の回路構成を示すブロック図である。この図2に示すように、各タグM,Tには、交信用のアンテナ部30、変復調回路31、マイクロコンピュータによる処理部32、メモリ33などが含まれる。
アンテナ部30は、リーダライタ2側のアンテナAから搬送波およびコマンド信号を含む電波を受信する。変復調回路31は、アンテナ部30が受信した電波からコマンド信号を復号して処理部32に出力すると共に、処理部32から出力された応答信号に基づきバックスキャッタ方式で応答する。この応答信号はアンテナ部30を介してアンテナAへと伝えられる。
【0035】
メモリ33には、あらかじめ、当該メモリ33が組み込まれるタグの種別情報(移動タグまたは固定タグであることを示すコード)が書き込まれるほか、コマンドへの応答のためにアンテナAからの電波を反射させるときの反射強度を決めるための設定値(この例では、バックスキャッタの変調度を導き出すための利得の設定値)が格納されている。さらに移動タグMのメモリには、対応する移動体に関する情報が書き込まれる。
【0036】
図3(1)は、上記のRFIDシステムを生産現場に導入した例を示す。この実施例の移動体はベルトコンベア10により搬送されるパレットPであり、その一側面に移動タグMが取り付けられる。リーダライタ2のアンテナAは、パレットPがコンベア10上のあらかじめ定められた場所に到達したときに移動タグMに対向する位置に配備される。アンテナAにコンベア10を挟んで対向する位置には、固定タグTが取り付けられたスタンド15が配備される。
【0037】
図3(1)には示されていないが、パレットPには部品が収納されている。移動タグMには、対応する移動体(パレットP)に関する情報として、部品の種別コード、品番、数量、組み込まれる製品の型番、部品が搬送される現場の識別情報などが書き込まれる。
【0038】
アンテナAからは、制御装置1からの指令に基づき、情報の読出を指示するコマンド(以下「読出コマンド」という。)が繰り返し送出される。固定タグTおよび移動タグMはこの読出コマンドを受信すると、自回路のメモリ33に格納されている情報を読み出し、読み出された情報を含む応答信号をアンテナAに対して出力する。交信制御部20は、アンテナAが受信した応答信号に含まれる情報を復号し、読取情報として制御装置1に送信する。これを受信した制御装置1では、まず読取情報に含まれるタグの種別コードを抽出し、移動タグMの種別コードを抽出した場合には、読取情報を詳細に分析する。そしてたとえば、部品の搬送先の識別情報がコンベア10に適合しているか否かを判別し、適合しないと判断した場合には警報情報を出力する。また、部品の種別コードや数量などを認識し、その認識結果を生産ラインを統括するサーバなどに送信する。
【0039】
この実施例のパレットPは、合成樹脂や木質材など、電波を通過させる材料により形成される。このため、アンテナAの正面にパレットPが到達してアンテナAと固定タグTとの間の空間が遮蔽された場合でも、アンテナAからの電波はパレットPを通過して固定タグTに届く。固定タグTが反射した電波も同様に、パレットPを通過して固定タグTに届く。したがって、固定タグTは、移動タグMの位置に関わらず、アンテナAからの読出コマンドに常に反応して応答信号を出力することができる。これらの点を考慮して、この実施例では、後記する設定処理によって、アンテナAが各タグT,Mから受信する信号の間に図3(2)に示すような関係を成立させる。
【0040】
図3(2)は、アンテナAが毎回の読出コマンドに対して固定タグTおよび移動タグMから受信する応答信号のレベルの変化をグラフにより表したものである。
このグラフに示すように、固定タグTからの信号の受信レベルはほぼ一定の値で安定するのに対し、移動タグMからの信号の受信レベルは当該タグMの移動に伴って山状に変動する。
【0041】
具体的には、移動タグMからの信号は、最初のうちは固定タグTからの信号より小さく、また固定タグTからの信号に対して所定値D以上のレベル差が生じる。移動タグMから受信する信号は移動タグMがアンテナAに近づくにつれて高まり、固定タグTからの信号を上回る状態になる。特に、移動体であるパレットPがアンテナAの正面を通過する間(図3(2)中の期間Uがこれに相当する)に移動タグMから受信する信号は、固定タグTから受信する信号に対し、D以上のレベル差をもって優勢になる。その後に移動タグMから受信する信号は、当該移動タグMがアンテナAから遠ざかるにつれて下降し、再び、固定タグTから受信する信号の方が強くなり、それぞれの受信レベルの間にD以上の差が生じる。
【0042】
この実施例の移動タグMおよび固定タグTは、アンテナAからの読出コマンドに対し、一定のタイミング、すなわち読出コマンドの受信後直ちに、または受信から予め定められた一定時間が経過したときに応答信号を出力する。このためアンテナAからの読出コマンドが複数のタグに届いた場合には、これらのタグからの応答信号がほぼ同時にアンテナAに届く可能性があるが、アンテナAに生じる受信信号は各応答信号が重畳されたものとなるので、受信レベルの強い信号の波形が優勢になる。特に、ある応答信号とその他の応答信号との間の受信レベルの差がD以上になると(以下、このDを「基準レベル差D」という。)、最もレベルの強い信号に他の信号が埋もれ、最もレベルの強い信号のみしか復号できない状態となる。よって、アンテナAからの読出コマンドに対して複数のタグが応答した場合でも、そのうちの1つのタグからの信号を排他的に読み取らせることが可能になる。
【0043】
図3(2)に示す期間Uには、移動タグMはアンテナAの正面付近に位置するが、このときの移動タグMからの信号は固定タグTからの信号に対して基準レベル差D以上の差をもって優勢になるので、固定タグTからの信号は移動タグMからの信号の中に埋もれてしまい、実質的に移動タグMからの信号が読み取られる状態になる。したがって、この期間Uでは、移動タグMの情報を確実に読み取ることができる。
【0044】
一方、移動タグMがアンテナAの正面から一定の距離以上離れているときには、固定タグTからの信号が移動タグMからの信号に対して基準レベル差D以上の差をもって優勢になるので、移動タグMからの信号は固定タグTからの信号の中に埋もれてしまい、実質的に固定タグMからの信号が読み取られる状態になる。したがって、アンテナAと交信すべきでない場所に位置する移動タグMに読出コマンドが届いた場合でも、その移動タグMの情報ではなく、固定タグTの情報が読み取られるので、誤った読取処理が実施されるのを防ぐことができる。
【0045】
なお、図3(2)のグラフによれば、期間Uの前後の期間UX,UYにおいては、移動タグMからの信号と固定タグTからの信号との間のレベル差が基準レベル差Dより小さくなる。したがって、これらの期間UX,UYでは、いずれのタグからの情報が読み取られるかが定かでなく、双方の応答信号が混信して読取エラーが生じる可能性もある。しかし、この実施例の移動タグMからの信号の変化曲線は、頂上部分の幅が比較的長く、立ち上がり部分および立ち下がり部分の変化が急峻であるので、受信が不安定な期間UX,UYを短くすることができる。また、期間Uの長さが十分に確保されているので、移動タグMの情報を読み取るのに特段の支障が生じることはない。
【0046】
図4は、図1に示した制御装置1により実施される処理の手順を示す。
このフローチャートに示すように、制御装置1は、ステップS1〜S6のループを繰り返し実行する。ステップS1では、リーダライタ2に読出コマンドを渡して送信を行わせる。ステップS2では、読出コマンドに対する応答信号を受信したリーダライタ2から、この応答信号を復号して得た読取情報を受信する。ステップS3では、読取情報中の識別情報を抽出し、対応するタグの種別を認識する。
【0047】
上記の識別情報が移動タグMを示すものであれば(ステップS4が「YES」)、読取情報の内容を分析して、前述した認識処理を実行し(ステップS5)、その結果を出力する(ステップS6)。これにより1サイクル分の処理が終了するとステップS1に戻り、次の読出コマンドの送信処理が実施される。
一方、読取情報から抽出した識別情報が固定タグTを示すものであった場合(ステップS4が「NO」)には、ステップS5,S6をスキップしてステップS1に戻る。
【0048】
上記の処理によれば、移動タグMがアンテナAの正面から一定の距離以上離れている間は固定タグTからの情報が読み取られて、ステップS4が「NO」となる状態が続き、移動タグMがアンテナAの正面付近に到達して、固定タグTからの応答信号に対して基準レベル差D以上の差を有する応答信号を送信したときに、この応答信号による情報が読み取られてステップS5およびS6が実施される。このように、移動タグMがアンテナAの正面付近に存在する期間に限定して移動タグMの情報を読み取ることにより、コンベア10上を移動する移動タグMの1つ1つと安定して交信を実施することができる。よって確度の高い認識処理を実施することができる。
【0049】
また、図4には明示されていないが、上記のステップS2に関するアルゴリズムは、読出コマンドの送信から一定の待ち時間が経過するまで読取情報の受信に待機するように設定されている。しかし、この実施例では、移動タグMからの応答信号を受信できない場合でも固定タグTからの応答信号を受信することができるので、タイムアップ前にステップS2を終了することができる。よって、ステップS1〜S4またはステップS1〜S6のループの処理時間を短縮することができ、これをもって読出コマンドを送信する時間間隔を短縮することができる。よって、移動タグMが高速で移動する場合にも、支障なく情報を読み取ることができる。
【0050】
次に、アンテナAが各タグM,Tから受信する信号の間に図3(2)のグラフに示した関係を成立させるために実施される設定処理について説明する。
この実施例では、図4の処理を実施するのに先立ち、移動タグMおよび固定タグTを順にリーダライタ2と交信させて、アンテナAが各タグM,Tから得る信号のレベルを計測する。そしてこれらの計測結果に応じて、固定タグTのメモリ33内の利得の設定値を書き換えることにより、固定タグTにおける電波の反射強度を調整する。
【0051】
図5は、上記の設定処理の手順を示す。なお、この手順において、二重枠で示すステップS11,S15,S19は、現場のユーザにより実施されるもので、その他のステップは制御装置1により実施される。ただし、タグとの交信はリーダライタ2を介して実施される。
【0052】
以下、適宜、図5に示されていない処理を補足しながら、設定処理の内容を説明する。
この処理は、固定タグTが設置されていない状態で開始される。まずユーザは、移動タグM(正確には移動タグMが取り付けられたパレットPである。以下も同じ。)を、アンテナAと交信させるべき場所(アンテナAの正面付近)に配置する(ステップS11)。そして、制御装置1に対し、演算の開始を指示するコマンドを入力する。
【0053】
上記のコマンドを受けた制御装置1は、リーダライタ2に、移動タグMとの交信をn回(n≧1)実行し、交信毎に移動タグMから受信した信号のレベルを計測する(ステップS12)。具体的には、リーダライタ2にテスト用のコマンドを送信する処理、このコマンドに対する応答信号を受信する処理、および受信した応答信号のレベルを計測する処理を、nサイクル実行させ、毎回の計測値を取得する。
続いて制御装置1は、これらの計測値の平均値SM1を算出し(ステップS13)、得られた平均値SM1から基準レベル差Dおよびあらかじめ定めたマージン値kを差し引く演算を実施する(ステップS14)。この演算により得られた値R1は、第1の基準値として制御装置1の内部メモリに保存される。
【0054】
ステップS14までの処理が終了すると、制御装置1は、図示しないモニタに第1段階の処理が終了した旨を報知するメッセージを表示する。この表示を確認したユーザは、移動タグMの配置を、アンテナAと交信すべきでない場所に変更する(ステップS15)。変更後の場所としては、アンテナAと交信しても良い場所との境界に近い場所を選択するのが望ましい。
移動タグMの配置の変更作業を終えたユーザは、制御装置1に演算の開始を指示するコマンドを入力する。この入力に応じて、制御装置1は、ステップS12と同様の処理により、移動タグMとの交信をn回行って、交信毎に移動タグMから受信した信号のレベルを計測する(ステップS16)。そして、これらn回分の受信レベルの平均値SM2を算出し(ステップS17)、さらに、平均値SM2に基準レベル差Dおよびマージン値kを加える演算を実施する(ステップS18)。この演算により得られた値R2は、第2の基準値として制御装置1の内部メモリに保存される。
【0055】
ステップS18までの処理が終了すると、制御装置1は、モニタに第2段階の処理が終了した旨を報知するメッセージを表示する。この表示を確認したユーザは、移動タグMをアンテナAからの電波が届かない場所に移すと共に、コンベア10を挟んでアンテナAに対向する場所に固定タグTを設置する(ステップS19)。そして、制御装置1に対し固定タグTに対する設定処理の開始を指示するコマンドを入力する。
【0056】
上記のコマンドを受けた制御装置1は、ステップS12およびステップS16と同様の処理により、固定タグTとの交信をn回行って、交信毎に固定タグTから受信した信号のレベルを計測する(ステップS20)。そして、各計測値の平均値STを求めて(ステップS21)、このSTの値を、各基準値R1,R2と比較する。
【0057】
上記の平均値STが第2の基準値R2より大きく、第1の基準値R1より小さい場合(ステップS22が「YES」)には、各タグM,Tからの受信レベルは図3(2)に示した関係を満たしているとみなして処理を終了する。
【0058】
一方、平均値STが第2の基準値R2以下、または第1の基準値R1以上となった場合(ステップS22が「NO」)には、制御装置1は、リーダライタ2を介して固定タグTに利得の設定値の変更を求めるコマンドを送信する(ステップS23)。具体的には、平均値STがR2以下であれば、利得の設定値を上げることを指示するコマンドを送信し、平均値STがR1以上であれば、利得の設定値を下げることを指示するコマンドを送信する。
上記のコマンドを受けた固定タグTは、そのコマンドの内容に応じて自己のメモリ33内の利得の設定値を変更し、変更が完了した旨を示す応答信号を返送する。制御装置1は、リーダライタ2を介してこの応答信号を受けると、再度、ステップS20〜S22を実行する。この際のステップS20では、固定タグTから変更後の設定値に基づく強度の信号を受信することになる。以下同様にして、固定タグTから受信する信号のレベルの平均値STが基準値R1とR2の間に入るまで、ステップS20〜23のループを繰り返し、しかる後に処理を終了する。
【0059】
図5に示した設定処理によれば、システムの導入時などに、固定タグTを、アンテナAと交信すべき場所に位置する移動タグMからアンテナAが受信する信号に埋もれるレベルであって、アンテナAと交信すべきでない場所に位置する移動タグMからアンテナAが受信する信号を埋もれさせるレベルの信号を受信できる状態にして、設置することができる。また、システムの導入後に、環境の変化などにより各タグM,Tからの受信状態が変動して、各タグM,Tから受信する信号の間に図3(2)に示す関係が成立しなくなった場合にも、再度、上記の設定処理を実行することによって、各信号のレベルの関係を適切な状態に戻すことができる。
【0060】
なお、設定処理は図5に示したものに限らず、固定タグTから受信する信号のレベルに基づいて、移動タグMの利得の設定値を調整してもよい。
また、上記の例では、固定タグTの処理部32において利得の設定値に基づいて変調度を決定しているが、これに限らず、平均値STの値に基づいて制御装置1が変調度の調整値を求め、この調整値を含むコマンドを固定タグTに送信するようにしてもよい。
また、上記の例ではバックスキャッタの変調度を変更することによって電波の反射強度を調整したが、調整方法はこれに限定されるものではない。たとえば、固定タグTのアンテナ部30と変調回路31との間に可変減衰器を設け、その減衰量を調整してもよい。または、アンテナ部30の回路に可変コンデンサを組み込み、この可変コンデンサの容量を利得の設定値の変更に合わせて変更するようにしてもよい。
【0061】
図6(1)は、第1形態のRFIDシステムの他の導入例を示す。
この実施例でも、コンベア10により搬送されるパレットPに取り付けられた移動タグMから情報を読み取るが、パレットPの間の間隔が図3(1)の例より狭いため、アンテナAからの読出コマンドに対し、コンベア10上の複数の移動タグMA,MBが応答する可能性がある。また、コンベア10の隣に別のコンベア11が設置されており、この隣のコンベア11上に位置する移動タグMoutにもアンテナAからの読出コマンドが届き、応答信号が返送される可能性がある。この点に鑑み、この実施例では、図5と同様の設定処理により固定タグTにおける電波の反射強度を調整すると共に、移動タグMA,MBの間隔を調整することにより、アンテナAが各タグから受信する信号の間に図6(2)に示すような関係を成立させる。
【0062】
図6(2)によれば、この実施例でも、固定タグTから受信する信号は、ほぼ一定のレベルで維持される。
コンベア10上の各移動タグMA,MBから受信する信号は、それぞれ図3(1)の移動タグMと同様に、移動タグMA,MBがアンテナAの正面付近に位置する間に、固定タグTからの信号を埋もれさせるレベルとなり、移動タグMA,MBがアンテナAの正面から一定の距離以上離れている場合には、固定タグTからの信号内に埋もれるレベルとなる。またグラフ中の期間UZを除き、いずれか一方の移動タグからの信号が基準レベル差D以上の差をもって固定タグTからの信号より優勢になっているときは、他方の移動タグからの信号は固定タグTからの信号を下回る状態となる。よって、各移動タグMA,MBのいずれもおいても、その応答信号をアンテナAに排他的に読み取らせることが可能な期間を十分な長さで確保することができる。
【0063】
隣のコンベア11の移動タグMoutは、他のタグMA,MB,Moutよりもアンテナから離れた場所に位置するため、この移動タグMoutから受信する信号は、常に固定タグTから受信する信号より弱く、また固定タグTからの信号に対するレベル差は基準レベル差D以上となる。このため、隣のコンベア11の移動タグMoutがアンテナAからの読出コマンドに応答しても、その応答信号は、固定タグTからの応答信号またはこれより優勢になった移動タグMA,MBからの応答信号の中に埋もれて復号できない状態となる。よって、移動タグToutの情報がコンベア10により搬送中のパレットPに関する情報として読み取られるのを防止することができる。
【0064】
また、図6(1)では図示を省略しているが、コンベア11にも、コンベア10と同様に、アンテナや固定タグが配置されており、コンベア11の固定タグにコンベア10のアンテナAからの読出コマンドが届く可能性がある。しかし、コンベア11の固定タグからコンベア10のアンテナAが受信する信号のレベルは、上記の移動タグMoutからの信号と同様の低いレベルになるので、コンベア11の固定タグの情報がコンベア10の固定タグTの情報として誤認識されることはない。
【0065】
なお、図3や図6の例では、固定タグTを、コンベア10を挟んでアンテナAに対向する場所に配置しているが、移動タグMからの信号に対し、図3(2)や図6(2)のグラフに示したのと同様の関係を成立させることができるのであれば、固定タグTの設置場所を限定する必要はない。たとえば、図7に示すように、固定タグTが取り付けられたスタンド15を、アンテナAとコンベア10との間に配備してもよい。また、固定タグTを、リーダライタ2のアンテナAや交信制御部20に一体に設けることも可能である。
【0066】
また、コンベア10より外の空間のタグから復号が可能なレベルの信号がアンテナAに届く可能性がない場合には、固定タグTを配置せずに、移動タグMの送信レベルや間隔を調整することで対応してもよい。たとえば、図6の例のように、コンベア10上を移動する移動タグ毎に、読出コマンドに対する当該移動タグからの応答信号をアンテナAに排他的に読み取らせることができる期間を十分な長さで確保することができれば、固定タグTを設けなくとも、個々の移動タグに対する読取処理を安定して実施することが可能になる。
【0067】
<第2形態>
第2形態のシステムは、入退出を管理するためのものである。システムの導入例を図8に示す。
この実施例では、フォークリフトBにより貨物コンテナに貨物を積み込む際に、貨物の誤配送を防止することを目的とする。現場には、配送先がそれぞれ異なる複数の貨物コンテナ(図示せず。)に対する搬入用の経路R1,R2,R3,・・・Rnが近接して並設されている。
【0068】
各経路R1〜Rnには、それぞれ一側方にリーダライタのアンテナA1〜Anが配備され、経路R1〜Rnを挟んでアンテナA1〜Anに対向する場所に固定タグT1〜Tnが配備される。
【0069】
各経路A1〜Anの後端位置(ゲートの手前位置)には、一対の表示灯9a〜9n,10a〜10nが経路A1〜Anの両側に分けて配備される。フォークリフトBの進行方向に対して左手に配置される表示灯9a,9b,9c・・・9nは通過を許可することを示す青色光を発光し、右手に配置される表示灯10a,10b,10c,・・・10nは通過を許可しないことを示す赤色光を発光する。
【0070】
フォークリフトBには、経路R1〜Rnに入ったときにアンテナA1〜Anに対向する関係になる箇所に、移動タグMが取り付けられる。各タグM,T1〜TnとアンテナA1〜Anとは、UHF帯域の電波を用いて相互に変調処理や復調処理を行うことにより、交信を実施する。また、各タグM,T1〜TnはいずれもパッシブタイプのRFIDタグであるが、セミパッシブタイプのRFIDタグを使用することも可能である。
【0071】
移動タグMには、あらかじめ、移動タグであることを示す種別コードのほか、対応する移動体に関する情報として、フォークリフトBを通過させるべき経路の識別番号、配送品の品番、顧客コード、顧客の工場コード、およびその他の必要な情報が書き込まれる。固定タグT1〜Tnには、固定タグであることを示す種別コードや対応する経路のコードが書き込まれる。
【0072】
図9は、上記の実施例におけるシステム構成(ただし、タグT1〜Tn,Mは図示せず。)を示すブロック図である。
この実施例のRFIDシステムで用いられるリーダライタ200は、各経路R1〜RnのアンテナA1〜Anと、これらのアンテナA1〜Anに共通の交信制御部201とにより構成される。制御装置100には、主制御基板101や光源制御基板102が組み込まれる。主制御基板101には、CPU103、メモリ104、および後記する計時処理のためのタイマ105などが含まれる。
【0073】
リーダライタ200の交信制御部201は、RS232C等のインターフェースを介して主制御基板101に接続される。このほか、主制御基板101には、キーボード106、マウス107、ディスプレー108などの周辺機器や光源制御基板102が接続される。光源制御基板102には、前出の表示灯9a〜9n,10a〜10nが接続される。
【0074】
主制御基板101のメモリ104には、演算に用いるプログラムが格納されると共に、各アンテナA1〜Anが受信した応答信号から復号された読取情報が一時保存される記憶エリア、ソフトタイマを構成するレジスタ領域、移動タグから読み取られた情報を保存するためのデータベース、処理の履歴データ(ログデータ)が保存される記憶エリアなどが設けられる。さらに、メモリ104には、各経路R1〜Rn毎に、通過を許容する配送品の品番、対応するコンテナの顧客コードや工場コードなどの情報が登録される。
【0075】
上記の構成において、主制御基板101のCPU103は、リーダライタ200の交信制御部201に対し、各アンテナA1〜Anを順に作動させて、読出コマンドの送信および応答信号の受信を実施させると共に、交信制御部201が応答信号から復号した読取情報を取得する。さらに、CPU103は、取得した読取情報の種別を判別し、移動タグMの読取情報であると判別すると、その読取情報を当該情報を受信したアンテナに対応する登録情報と照合することによって、読取情報の適否を判別する。
【0076】
図8の導入例によれば、各経路R1〜RnのアンテナA1〜Anから出力された読出コマンドは、対応する経路の固定タグT1〜Tnや移動タグMに届くほか、他の経路の固定タグや移動タグにも届く可能性がある。そこで、この実施例では、第1形態のシステムと同様の原理に基づき、各経路Ri(i=1〜n)のアンテナAiの正面付近に移動タグMが位置するときは、固定タグTiおよび経路Riの外に位置する各種タグからの信号が移動タグMからアンテナAiに送信される信号の中に埋もれて復号できない状態となり、経路Riに移動タグMが含まれていないときは、固定タグTiからアンテナAiに送信される信号のレベルが最も高く、かつ固定タグTi以外のタグからの信号は固定タグTiからの信号の中に埋もれて復号できない状態になるように、各タグの電波の反射強度を設定する。この設定により、いずれのアンテナA1〜Anでも、そのアンテナA1〜Anと交信すべき場所に位置する移動タグMからの応答信号を確実に受信すると共に、他の経路に位置する移動タグMなど、交信すべきでない場所に位置するタグからの応答信号の読取を防止することができる。
【0077】
以下、図10のフローチャートを用いて、第2形態のRFIDシステムの制御装置100により実施される処理を説明する。
まず最初のステップS101では、処理対象の経路を特定するためのカウンタiに初期値の「1」をセットする。つぎのステップS102では、アンテナAi(初期状態ではアンテナA1)に読出コマンドを送信させる。
【0078】
この実施例の固定タグT1〜Tnや移動タグBは、読出コマンドを受信すると、一定のタイミングで応答信号を返送する。制御装置100のCPU103は、読出コマンドの送信に応じてタイマ105に計時を開始させ、計時時間があらかじめ定めた上限値(応答信号の返送に要する時間より所定時間長くなるように設定される。)に達するまで読取情報の送信に待機する(ステップS103,S104)。
【0079】
上記の待ち時間の間に、アンテナAiが読出コマンドに対する応答信号を受信し、交信制御部201が読取情報を復号して制御装置100に送信すると、ステップS103が「YES」となる。これを受けてCPU103は、受信した読取情報のデータ構成に基づき、当該情報に対応するタグの種類を判別する(ステップS105)。
【0080】
読取情報に固定タグの種別コードおよび経路Riのコードが含まれている場合には、CPU103は、当該読取情報は固定タグTiの情報であると判断する。この場合には、ステップS105が「NO」となるので、カウンタiを更新して(ステップS111,S112)、ステップS102に戻る。なお、カウンタiがnに達している場合には、ステップS111からステップS101に戻ってiを初期値の「1」に戻し、しかる後にステップS102に進む。
【0081】
読取情報に移動タグの種別コードが含まれている場合には、ステップS105が「YES」となってステップS106に進む。ステップ106では、読取情報から各種データを切り分けて抽出し、データ破損の有無等の精査を実行した後に、一時データとしてメモリ104に保存する。さらに次のステップS107において、一時保存されたデータを、経路Riに関する登録データと照合する。
【0082】
上記の照合によりデータが一致した場合(ステップS108が「YES」)には、ステップS109の正常時処理に進む。この正常時の処理には、経路Riの青色の表示灯を作動させるための制御指令信号を光源制御基板102に送出する処理、読取情報から抽出した各種データをデータベースに保存する処理、これらの処理を実施したことをログデータに書き込む処理などが含まれる。
【0083】
一方、照合処理により2種類のデータに不一致が認められた場合には、ステップS108は「NO」となり、ステップS110の異常時の処理へと進む。この異常時の処理には、経路Riの赤色の表示灯を作動させるための制御指令信号を光源制御基板102に送出する処理、ディスプレー108に異常の発生を表示する処理、読取情報から抽出した各種データをデータベースに保存する処理、これらの処理を実施したことをログデータに書き込む処理などが含まれる。
【0084】
なお、何らかの原因でアンテナAiと固定タグTiとの間の電波の伝搬が妨げられた場合には、読出コマンドの送信(ステップS102)からの待ち時間が上限値に達しても読取情報を取得することができない状態となる。この場合にはステップS104が「YES」となってステップS110に進み、異常時の処理を実施する。また、図10には示していないが、経路Riの固定タグTiが故障したために他の固定タグの情報が読み取られた場合には、その読取情報に含まれる経路の識別情報がカウンタiと整合しない状態となる。このような不整合が生じた場合には、ステップS110とは異なる態様の異常処理を実施する。
【0085】
上記のとおり、この実施例では、各経路R1〜RnのアンテナA1〜Anから順に読出コマンドを送出して、各アンテナA1〜Anが受信した応答信号から復号された読取情報を取得し、この読取情報が移動タグの情報であったときに当該情報を得たアンテナに対応する経路に適合する情報であるか否かを認識し、その認識結果を表示灯9a〜9n,10a〜10nなどを用いてユーザに報知する。前述したように、いずれのアンテナAiでも、対応する経路Riに入ったフォークリフトBに取り付けられた移動タグMがアンテナAiの正面付近に位置するときに、当該移動タグMからの応答信号を排他的に読み取らせる一方で、アンテナAiから一定の距離以上離れた場所にある移動タグMからの応答信号が読み取られることはないので、制御装置100では、フォークリフトBが進入した経路を正確に認識し、その進入位置の適否を正しく判別することができる。
【0086】
また、この実施例では、各経路R1〜Rnに対する処理を1つずつ順に実施するが、作動中のアンテナAiとこれに対向する固定タグTiとの間で電波が遮蔽される状態にならない限り、固定タグTiを読出コマンドに反応させることができる。したがって、アンテナAiに対応する経路Riに移動タグBが含まれていない場合でも、読出コマンドの送信に対して速やかに固定タグTiからの応答信号を得ることができ、各経路R1〜Rnに対する処理が一巡するまでの時間を短縮することができる。また、経路R1〜Rn毎にリーダライタを設けるよりも、コストを削減することができる。
ただし、上記の構成に代えて、経路R1〜RnのアンテナA1〜An毎に交信制御部を組み合わせ、各経路R1〜Rnに対する処理を並列で実施してもよい。
【0087】
つぎに、第2形態のRFIDシステムでも、図6の例と同様に、同一の経路に位置する複数の移動タグに対する読取処理を、各移動タグの移動の順序に従って実施することができる。図11(1)は、この原理を応用した例であって、フォークリフトBの一側面に、一対の移動タグMFW,MBKを所定の間隔をあけて前後に並べて取り付けている。制御装置100では、これらの移動タグMFW,MBKから情報を読み取った順序に基づきフォークリフトBが前進したか、後退したかを認識する。この認識の確度を得るために、この実施例では、アンテナAiが各タグから受信する信号に図11(2)に示すような関係を成立させる。
【0088】
図11(2)は、上記のフォークリフトBが経路Riを前進する場合にアンテナAiが各タグから受信する信号のレベルの変化を、グラフにしたものである。この例でも、固定タグTiから受信する信号のレベルはほぼ一定に維持される。各移動タグMFW,MBKのうち、先にアンテナAiの正面に到達する移動タグMFWからの信号がまず受信される状態となり、次に移動タグMBKからの信号が受信される状態となる。また、移動タグMFW,MBKのいずれにおいても、固定タグTiおよび他方の移動タグからの信号に対し、基準レベル差D以上のレベル差をもって優勢になる期間が相当の長さで確保される。
【0089】
なお、図11(1)には、経路Riの横手に停車するフォークリフトBが示され、図11(2)には、このフォークリフトBに取り付けられている移動タグMFW1,MBK1からアンテナAiが受信した信号のレベルの変化が示されている。これらの信号は、いずれも、常に固定タグTiからの信号より弱く、かつ固定タグTiからの信号に対し、基準レベル差D以上のレベル差を有する。したがって、これらの移動タグMFW1,MBK1からの信号は、経路Riでの移動タグの有無に関わらず、固定タグTiからの信号の中に埋もれて復号できない状態となる。よって、アンテナAiが受信した信号から移動タグMFW1,MBK1の情報が読み取られることはない。
【0090】
上記の各信号の関係も、図5に準じた設定処理や移動タグMFW,MBKの間隔を調整することによって実現したものである。この調整により、経路Aiに入った移動タグMFW,MBKは、いずれもアンテナAiと交信すべき場所(アンテナの正面)に来たときにその情報が読み取られるので、各移動タグMFW,MBKに対する読取処理を正しい順序で実施して、フォークリフトBの進行方向を正確に認識することが可能になる。
【0091】
なお、第1形態および第2形態のシステムに関するいずれの導入例でも、移動タグに対して読取処理のみを実施するものとしたが、これに限らず、読出コマンドにより移動タグが特定された後に、この移動タグを交信対象に指定した書込コマンドを送信し、当該移動タグに新たな情報を書き込むことも可能である。
【0092】
つぎに、図11の例では、移動体(フォークリフトB)に取り付けられた一対の移動タグMFW,MBKに対する読取処理によって、移動体の前進および後退を認識するようにしたが、前進する車両を対象に、その進行方向を認識するようなシステムを構築することも可能である。その一例を図12に示す。
【0093】
図12の実施例では、車両Cの車体にリーダライタ210のアンテナ211を取り付けると共に、一対の固定タグTDN,TUPを、車両Cの走行路RDの長さ方向に沿って配置する(各タグTDN,TUPは、たとえば走行路RDの路面の下に埋め込まれる。)。また、車両Cの内部には、リーダライタ210の交信制御部212および制御装置110が設けられる。
【0094】
図中の矢印Fは、車両Cの上り方向を示す。以下、一対の固定タグTUP,TDNのうち、上り側に位置するタグTUPを「上りタグTUP」と呼び、下り側に位置するタグTDNを「下りタグTDN」と呼ぶ。各タグTUP,TDNのメモリには、それぞれ自己の種別を示す種別情報などが保存される。
【0095】
制御装置110は、車両Cの走行に伴い、リーダライタ210に読出コマンドの送信および応答信号の受信を繰り返し実施させると共に、応答信号より復号された読取情報を入力し、その種別情報によりいずれのタグの情報であるかを判別する。そして、上りタグTUPの情報を取得してから下りタグTDNの情報を取得した場合には、車両Cは下り方向に沿って移動していると認識し、下りタグTDNの情報を取得してから上りタグTUPの情報を取得した場合には、車両Cは上り方向に沿って移動していると認識する。
【0096】
上記の認識の精度を確保するために、この実施例では、アンテナ211が各タグTUP,TDNから受信する信号に図12(2)に示す関係が成立するように、各タグTUP,TDNにおける電波の反射強度やタグ間の間隔を調整する。たとえば、まず各タグTUP,TDNの場所を定めて、各タグTUP,TDNを1つずつ順に定められた場所に仮配置すると共に、アンテナ210が仮配置されたタグと交信すべき場所にあるときの受信レベルと、アンテナ210が他方のタグと交信すべき場所にあるときの受信レベルとを計測する。そして、各計測値に基づき、各タグTUP,TDNにおける電波の反射強度を調整する。
なお、図12(2)のグラフ中のP0は応答信号から情報を復号するのに要求される最小の受信レベルに相当する。
【0097】
図12(2)の例では、アンテナ211からの読出コマンドに対し、まず下りタグTDNからの応答信号を受信する状態になり、ついで上りタグTUPからの応答信号を受信する状態になる。各タグTDN,TUPからの信号の受信レベルはそれぞれ山状に変化し、図中の期間UVを除いて、いずれか一方の信号が他方の信号に対し、基準レベル差D以上の差をもって優勢な状態になる。
【0098】
上記の信号変化の関係によれば、いずれのタグTUP,TDNも、他方のタグからの信号を埋もれさせるレベルの信号をアンテナ211に送信することができる期間が十分な長さで確保されているから、各タグTUP,TDNに対する読取処理を順序を誤らずに実施することができる。よって、車両Cの走行方向を正しく認識することができる。
【0099】
なお、走行路RDには、3個以上の固定タグを配置することもできる。固定タグの数を増やす場合にも、上記の例と同様に、タグ毎に、他のタグからの信号を埋もれさせるレベルの信号をアンテナに送信することができる期間が十分な長さで確保されるように、各タグにおける電波の反射強度やタグ間の間隔を設定する。
【符号の説明】
【0100】
M,MA,MB,MFW,MDN,M1〜Mn 移動タグ
T,T1〜Tn 固定タグ
A,A1〜An アンテナ
P,B,C 移動体
1,100 制御装置
2,200 リーダライタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動する物体(以下、「移動体」という。)を、その移動途中に認識するためのRFID(Radio Frequency Identification)システムに関する。
【背景技術】
【0002】
RFIDシステムは、RFIDタグ(以下、単に「タグ」という場合がある。)とリーダライタとの間で電波を介した交信を行うものである。特に、パッシブタイプやセミパッシブタイプのRFIDタグを用いたシステムは、リーダライタからの電波によりRFIDタグを起動して交信を行わせることができることから利便性が高く、様々な目的に使用されている。
【0003】
たとえば、工場では、管理対象の物品の1つ1つにRFIDタグを取り付けて、コンベアにより搬送すると共に、コンベアの近傍位置にリーダライタのアンテナを設置し、物品の移動に伴ってアンテナの交信領域にRFIDタグが入る都度、そのRFIDタグとアンテナとの間で交信を行って、情報の読み書き処理を実施する(特許文献1を参照。)。
【0004】
また、入退出を管理する目的で、出入口への通路にリーダライタのアンテナを設置し、通路を進行する移動体(人または物品)に取り付けられたRFIDタグをアンテナからのコマンドに反応させるようにしたシステムも知られている。
【0005】
たとえば、特許文献2には、近接した複数のゲートを通過するRFIDタグから識別情報を取得するシステムにおいて、ゲート毎に設置されたアンテナから読出信号を送信し、読出信号を受信した全てのRFIDタグからの応答信号によりID情報を取得し、それらの中から不要なRFIDタグからのID情報を除外するフィルタリング処理を実施することが記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、人が通過する複数のゲートにそれぞれ質問器(リーダライタ)と固定タグとを設置し、各ゲートの質問器において、ゲートを通る人が所持する移動タグおよび固定タグを単位時間あたりに複数回同時期に読み出し、各タグとの通信の可否や通信成功率によって各ゲートにおける移動タグの有無を判別することが記載されている。さらに、特許文献3には、固定タグとの通信が困難で移動タグが存在しないという判別がなされた場合に、タグを所持しない人物により固定タグへの電波が遮断されたと認識することや、固定タグおよび移動タグにそれぞれ異なるタイムスロットを割り当てることによって、質問器からのコマンドに対してタグの種毎にタイミングをずらして応答させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−39858号公報
【特許文献2】特開2009−276939号公報
【特許文献3】特開2006−72672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の発明者らは、フォークリフトなどの車両の入退出を管理する目的でRFIDシステムを開発するにあたり、図13に示すようなシステムを構成し、その有用性を検証した。このシステムでは、近接して並設された複数の経路R1〜Rnの一側にリーダライタのアンテナA1〜Anをそれぞれ配備し、フォークリフトBにRFIDタグtを取り付ける。RFIDタグtには、たとえばフォークリフトBにより搬入される貨物に関する情報が予め書き込まれている。
【0009】
各アンテナA1〜Anは読出コマンドを順に送信すると共に、所定の待ち時間が経過するまでタグtからの応答信号の受信に待機する。待ち時間以内に応答信号を受信した場合には、その応答信号に含まれる情報を読み取って分析し、搬入の是非をチェックする。
【0010】
ところが、上記の方法によると、図14に示すように、実際にフォークリフトBが入った経路(この例では経路R2)とは異なる経路(この例では経路R3)のアンテナA3からの電波に経路R2のRFIDタグtが反応し、その結果、誤った情報の読取が行われて、認識結果に誤りが生じることが判明した。
【0011】
特許文献2に記載された発明では、ゲートの周辺に存在するタグからの信号が受信されることを考慮して、毎回の読取信号の送信に対して応答可能な全てのタグからの応答信号を受信して、各ID情報を取得し、同一のID情報毎に応答信号の強度の時系列変化を求めて、この変化の波形に基づきゲートを正しく通過したタグからの応答信号を判別するようにしている。しかし、このような方法では、処理が複雑になり、処理に要する時間も長くなるので、高速の処理が要求される用途には不向きである。
【0012】
特許文献3に記載された発明では、質問器からのコマンドに対し、移動タグおよび固定タグをそれぞれ異なるタイミングで応答させ、移動タグとは交信できたが固定タグとは交信できなかった場合には移動体は当該アンテナと同じ通路に位置し、移動タグおよび固定タグの双方と交信できた場合には移動体は当該アンテナとは異なる通路に位置すると判断する。これにより、各通路の移動タグを精度良く検出することが可能になる。
しかし、特許文献3に記載された発明では、移動タグからの応答を受け付ける時間と固定タグからの応答を受け付ける時間とが個別に設定される上に、各タグとの交信状況を分析する時間をとる必要があり、特許文献2と同様に、処理が複雑で時間がかかる。よって特許文献3に記載された発明も、高速の処理が要求される用途には適していない。
【0013】
また、特許文献3に記載された発明では、アンテナと固定タグとの間に移動体が入ることによって電波が遮蔽されることを前提としているが、電波を通過させる特性を持つ物体が移動体となる場合もある。またアンテナからの電波が反射するなどして、予期しない方向にまでアンテナからの電波が伝搬し、その結果、コマンドを送信したアンテナに交信対象外のタグからの応答信号が届く場合もある。これらの問題に対する対策について、特許文献3には何も記載されていない。
【0014】
本発明は上記の問題点に着目し、簡易な構成と簡単な処理とにより、移動体を認識するために必要なRFIDタグのみとの交信を可能にすると共に、処理時間を短縮することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、認識対象の移動体が進行する経路の近傍に設けられたアンテナを含む交信処理装置と、移動体に関連する情報が書き込まれて当該移動体と共に移動する移動RFIDタグ(以下「移動タグ」と略す。)と、交信処理装置の動作を制御すると共に交信処理装置が移動タグとの交信により得た読取情報を交信処理装置から取得し、この読取情報を用いて移動体に関する認識処理を行う制御装置とを有するRFIDシステムに適用される。
【0016】
上記のRFIDシステムにおいて、交信処理装置は、たとえば、アンテナとこのアンテナの動作を制御する交信制御部とを有するリーダライタにより構成される。また、通常のリーダライタは一対のアンテナと交信制御部とにより構成されるが、この発明の交信処理装置には、複数のアンテナとこれらのアンテナを統括制御する制御部とを含めることもできる。または、アンテナと交信制御部との組み合わせを複数組含めることもできる。
【0017】
本発明によるRFIDシステムには、所定の場所に固定配備される固定RFIDタグ(以下「固定タグ」と略す。)がさらに含まれる。この固定タグは、アンテナと交信すべき場所に位置する移動タグから当該アンテナが受信する信号に埋もれるレベルであって、アンテナと交信すべきでない場所に位置する移動タグから当該アンテナが受信する信号を埋もれさせるレベルの信号を当該アンテナに届ける。
【0018】
さらに、本発明の移動タグおよび固定タグは、それぞれアンテナからのコマンドに対して一定のタイミングで応答する。制御装置は、交信処理装置に、読出コマンドを送信して当該コマンドに対するRFIDタグからの応答信号を受信する処理を繰り返し実行させると共に、応答信号を受信した交信処理装置から移動タグの応答信号による読取情報を取得したとき、その読取情報を用いて前記認識処理を実行する。
【0019】
上記のシステムによれば、アンテナからの読出コマンドが移動タグおよび固定タグの双方に届いた場合には、各RFIDタグは、その種別によらず、一定のタイミングで応答する。よって、これらのタグからの応答信号はアンテナにほぼ同時に届くが、移動タグがアンテナと交信すべき場所に位置している場合には、固定タグから受信した応答信号は移動タグから受信した応答信号に埋もれて読取が不可能な状態になり、移動タグからの応答信号による情報が読み取られる。一方、移動タグがアンテナと交信すべきでない場所に位置している場合には、移動タグから受信した応答信号は固定タグからの応答信号に埋もれて読取が不可能な状態となり、固定タグからの応答信号による情報が読み取られる。
【0020】
よって、移動体の移動に伴ってアンテナと交信すべき場所に入った移動タグの情報を確実に読み取ることができる。また、アンテナと交信すべきでない場所にある移動タグに読出コマンドが届いて、その移動タグがコマンドに応答しても、当該移動タグからの応答信号は固定タグからの応答信号に埋もれてしまうので、アンテナと交信すべきでない場所に位置する移動タグの情報が読み取られるのを防ぐことができる。
【0021】
アンテナからのコマンドに対し複数の移動タグが応答した場合でも、そのうちの1つのみがアンテナと交信すべき場所に位置するのであれば、そのタグからの応答信号のみから情報を読み取ることができる。また、読出コマンドを送信したアンテナは、移動タグからの応答信号を受信できない場合でも、固定タグからの応答信号を受信することができるので、応答信号の受信待ちによって処理が長引くおそれがない。よって、処理時間を短縮することができ、高速処理が要求される現場にも容易に対応することが可能になる。
【0022】
上記のシステムの好ましい一実施態様では、移動体を進行させるために設定された複数の経路毎にアンテナおよび固定タグが設けられる。また、制御装置は、各経路のアンテナにそれぞれ読出コマンドの送信および応答信号の受信を実施させると共に、読取情報として移動タグからの応答信号による情報を取得したとき、その読取情報を含む応答信号を受信したアンテナに対応する経路に移動体が位置すると認識する。
【0023】
上記の実施態様によれば、いずれの経路においても、その経路に設けられた固定タグによって、他の経路の移動タグから受信する信号が読み取られることがなくなり、対応する経路内でアンテナと交信すべき場所に位置する移動タグの情報を安定して読み取ることが可能になる。このように、移動タグの情報を、その移動タグが入った経路のアンテナのみで確実に読み取ることができるので、移動体の位置を誤りなく認識することが可能になる。
【0024】
さらに上記の実施態様における制御装置は、各経路のアンテナに、読出コマンドの送信および応答信号の受信を順に実施させると共に、読出コマンドを送信したアンテナが応答信号を受信したことに応じて次のアンテナに読出コマンドを送信させる。本発明によれば、移動タグが存在しない経路のアンテナも、対応する固定タグからの応答信号を読出コマンドの送信後に速やかに受信することができるので、各アンテナによる受信処理が一巡するのに必要な時間を大幅に短縮することができる。
【0025】
別の観点の実施態様では、制御装置は、移動タグの読取情報を取得したとき、その読取情報が当該読取情報を含む応答信号を受信したアンテナが配備される経路に整合するか否かを判別する判別手段と、この判別手段による判別結果を出力する出力手段とを、さらに具備する。この実施態様によれば、たとえば、移動体の進路の成否を、ランプやブザーなどにより報知することができる。また、移動タグに書き込まれている経路とは異なる経路に移動体が進入した場合には、それを確実に検出して警報を出力したり、ゲートを閉鎖するなどの対応をとることが可能になる。
【0026】
さらに別の観点の実施態様では、移動RFIDタグおよび固定RFIDタグの少なくとも一方に、アンテナからのコマンドに対して応答する際の電波の反射強度を、当該反射強度の変更を求めるコマンドをアンテナから受信したことに応じて変更する機能が設けられる。
この実施態様によれば、アンテナと交信すべき場所に配備された移動タグ、アンテナと交信すべきでない場所に配備された移動タグ、および所定の場所に配置された固定タグのそれぞれに対する交信処理を行って、アンテナが各タグから受信する信号のレベルを計測し、これらの計測値に基づき電波の反射強度を調整することができる。
したがって、たとえばシステムを導入した際に上記の処理を実施すれば、固定タグからアンテナに届けられる信号のレベルを、アンテナと交信すべき場所に位置する移動タグから当該アンテナが受信する信号に埋もれるレベルであって、アンテナと交信すべきでない場所に位置する移動タグから当該アンテナが受信する信号を埋もれさせるレベルに設定することが可能になる。また、システムの導入後に各タグからの受信状態が変動した場合にも、上記の処理によって、アンテナが各タグから受信する信号のレベルの関係を良好な状態に戻すことが可能になる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、アンテナからのコマンドを受信可能な場所に固定タグを配置し、この固定タグおよび移動タグからアンテナに届く信号のレベルの関係を調整することによって、交信すべきでない場所に位置する移動タグの情報が読み取られるのを防止し、読み出しの必要がある情報を確実に取得して、安定した認識処理を実施することができる。また、応答信号を受信する処理や受信した信号から読取情報を抽出する処理がきわめて簡単になるので、処理時間を短縮することができ、処理の高速化が要求される用途にも容易に対応することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1形態のRFIDシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】移動タグおよび固定タグに共通の回路構成を示すブロック図である。
【図3】第1形態のRFIDシステムの導入例を示す図、およびアンテナが各タグから受信する信号の特性を示すグラフである。
【図4】制御装置における処理手順を示すフローチャートである。
【図5】設定処理における処理手順を示すフローチャートである。
【図6】第1形態のRFIDシステムの他の導入例を示す図、およびアンテナが各タグから受信する信号の特性を示すグラフである。
【図7】固定タグの配置の他の例を示す図である。
【図8】第2形態のRFIDシステムの導入例を示す図である。
【図9】第2形態のRFIDシステムの構成を示すブロック図である。
【図10】制御装置における処理手順を示すフローチャートである。
【図11】一対の移動タグを用いてフォークリフトの前進、後退を認識する方法、およびこの方法が適用された場合のアンテナが各タグから受信する信号の特性を示すグラフである。
【図12】車両の進行方向を認識することを目的とするRFIDシステムの構成および導入例、ならびにアンテナが各タグから受信する信号の特性を示すグラフである。
【図13】入退出の管理を目的とする従来のRFIDシステムの導入例を示す図である。
【図14】図13のシステムの問題点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明が適用されたRFIDシステムについて2つの実施形態をあげ、システムの導入例と共に説明する。
【0030】
<第1形態>
第1形態のRFIDシステムは、一定の方向に進行する移動体を検出し、その移動体に対して所定の認識処理を実施する目的に使用される。具体的なシステムは、図1に示すように、2種類のRFIDタグ(移動タグMおよび固定タグT)、リーダライタ2、制御装置1などにより構成される。
【0031】
リーダライタ2には、アンテナAおよび交信制御部20が含まれる。なお、以下に示す導入例では、アンテナAと交信制御部20とが別体となるが、これに代えて両者が一体になったタイプのリーダライタを使用してもよい。
【0032】
各RFIDタグM,TとアンテナAとは、UHF帯域(860〜960MHZ程度)の電波を用いて相互に変調処理や復調処理を行うことにより、交信を実施する。移動タグM、固定タグTは、いずれもパッシブタイプであるが、これに限らず、セミパッシブタイプのRFIDタグを用いてもよい。
移動タグMは、移動体に取り付けられて、当該移動体と共に移動する。固定タグTは、アンテナAから適度な強度の電波を受信する場所に固定配備される。
【0033】
制御装置1の実体は、専用のプログラムがインストールされたパーソナルコンピュータである。交信制御部2には、マイコンや送受信回路が組み込まれ、制御装置1からの指示に応じて、アンテナAから読出コマンドを送信する処理と、この読出コマンドに対するタグM,Tからの応答信号を受信して当該信号に含まれる情報を復号する処理とを繰り返しながら、復号された情報を読取情報として制御装置1に送信する。制御装置1は、移動タグMからの読取情報を取得すると、この情報を用いて移動体に対する認識処理を実行する。
【0034】
図2は、上記の移動タグMおよび固定タグTに共通の回路構成を示すブロック図である。この図2に示すように、各タグM,Tには、交信用のアンテナ部30、変復調回路31、マイクロコンピュータによる処理部32、メモリ33などが含まれる。
アンテナ部30は、リーダライタ2側のアンテナAから搬送波およびコマンド信号を含む電波を受信する。変復調回路31は、アンテナ部30が受信した電波からコマンド信号を復号して処理部32に出力すると共に、処理部32から出力された応答信号に基づきバックスキャッタ方式で応答する。この応答信号はアンテナ部30を介してアンテナAへと伝えられる。
【0035】
メモリ33には、あらかじめ、当該メモリ33が組み込まれるタグの種別情報(移動タグまたは固定タグであることを示すコード)が書き込まれるほか、コマンドへの応答のためにアンテナAからの電波を反射させるときの反射強度を決めるための設定値(この例では、バックスキャッタの変調度を導き出すための利得の設定値)が格納されている。さらに移動タグMのメモリには、対応する移動体に関する情報が書き込まれる。
【0036】
図3(1)は、上記のRFIDシステムを生産現場に導入した例を示す。この実施例の移動体はベルトコンベア10により搬送されるパレットPであり、その一側面に移動タグMが取り付けられる。リーダライタ2のアンテナAは、パレットPがコンベア10上のあらかじめ定められた場所に到達したときに移動タグMに対向する位置に配備される。アンテナAにコンベア10を挟んで対向する位置には、固定タグTが取り付けられたスタンド15が配備される。
【0037】
図3(1)には示されていないが、パレットPには部品が収納されている。移動タグMには、対応する移動体(パレットP)に関する情報として、部品の種別コード、品番、数量、組み込まれる製品の型番、部品が搬送される現場の識別情報などが書き込まれる。
【0038】
アンテナAからは、制御装置1からの指令に基づき、情報の読出を指示するコマンド(以下「読出コマンド」という。)が繰り返し送出される。固定タグTおよび移動タグMはこの読出コマンドを受信すると、自回路のメモリ33に格納されている情報を読み出し、読み出された情報を含む応答信号をアンテナAに対して出力する。交信制御部20は、アンテナAが受信した応答信号に含まれる情報を復号し、読取情報として制御装置1に送信する。これを受信した制御装置1では、まず読取情報に含まれるタグの種別コードを抽出し、移動タグMの種別コードを抽出した場合には、読取情報を詳細に分析する。そしてたとえば、部品の搬送先の識別情報がコンベア10に適合しているか否かを判別し、適合しないと判断した場合には警報情報を出力する。また、部品の種別コードや数量などを認識し、その認識結果を生産ラインを統括するサーバなどに送信する。
【0039】
この実施例のパレットPは、合成樹脂や木質材など、電波を通過させる材料により形成される。このため、アンテナAの正面にパレットPが到達してアンテナAと固定タグTとの間の空間が遮蔽された場合でも、アンテナAからの電波はパレットPを通過して固定タグTに届く。固定タグTが反射した電波も同様に、パレットPを通過して固定タグTに届く。したがって、固定タグTは、移動タグMの位置に関わらず、アンテナAからの読出コマンドに常に反応して応答信号を出力することができる。これらの点を考慮して、この実施例では、後記する設定処理によって、アンテナAが各タグT,Mから受信する信号の間に図3(2)に示すような関係を成立させる。
【0040】
図3(2)は、アンテナAが毎回の読出コマンドに対して固定タグTおよび移動タグMから受信する応答信号のレベルの変化をグラフにより表したものである。
このグラフに示すように、固定タグTからの信号の受信レベルはほぼ一定の値で安定するのに対し、移動タグMからの信号の受信レベルは当該タグMの移動に伴って山状に変動する。
【0041】
具体的には、移動タグMからの信号は、最初のうちは固定タグTからの信号より小さく、また固定タグTからの信号に対して所定値D以上のレベル差が生じる。移動タグMから受信する信号は移動タグMがアンテナAに近づくにつれて高まり、固定タグTからの信号を上回る状態になる。特に、移動体であるパレットPがアンテナAの正面を通過する間(図3(2)中の期間Uがこれに相当する)に移動タグMから受信する信号は、固定タグTから受信する信号に対し、D以上のレベル差をもって優勢になる。その後に移動タグMから受信する信号は、当該移動タグMがアンテナAから遠ざかるにつれて下降し、再び、固定タグTから受信する信号の方が強くなり、それぞれの受信レベルの間にD以上の差が生じる。
【0042】
この実施例の移動タグMおよび固定タグTは、アンテナAからの読出コマンドに対し、一定のタイミング、すなわち読出コマンドの受信後直ちに、または受信から予め定められた一定時間が経過したときに応答信号を出力する。このためアンテナAからの読出コマンドが複数のタグに届いた場合には、これらのタグからの応答信号がほぼ同時にアンテナAに届く可能性があるが、アンテナAに生じる受信信号は各応答信号が重畳されたものとなるので、受信レベルの強い信号の波形が優勢になる。特に、ある応答信号とその他の応答信号との間の受信レベルの差がD以上になると(以下、このDを「基準レベル差D」という。)、最もレベルの強い信号に他の信号が埋もれ、最もレベルの強い信号のみしか復号できない状態となる。よって、アンテナAからの読出コマンドに対して複数のタグが応答した場合でも、そのうちの1つのタグからの信号を排他的に読み取らせることが可能になる。
【0043】
図3(2)に示す期間Uには、移動タグMはアンテナAの正面付近に位置するが、このときの移動タグMからの信号は固定タグTからの信号に対して基準レベル差D以上の差をもって優勢になるので、固定タグTからの信号は移動タグMからの信号の中に埋もれてしまい、実質的に移動タグMからの信号が読み取られる状態になる。したがって、この期間Uでは、移動タグMの情報を確実に読み取ることができる。
【0044】
一方、移動タグMがアンテナAの正面から一定の距離以上離れているときには、固定タグTからの信号が移動タグMからの信号に対して基準レベル差D以上の差をもって優勢になるので、移動タグMからの信号は固定タグTからの信号の中に埋もれてしまい、実質的に固定タグMからの信号が読み取られる状態になる。したがって、アンテナAと交信すべきでない場所に位置する移動タグMに読出コマンドが届いた場合でも、その移動タグMの情報ではなく、固定タグTの情報が読み取られるので、誤った読取処理が実施されるのを防ぐことができる。
【0045】
なお、図3(2)のグラフによれば、期間Uの前後の期間UX,UYにおいては、移動タグMからの信号と固定タグTからの信号との間のレベル差が基準レベル差Dより小さくなる。したがって、これらの期間UX,UYでは、いずれのタグからの情報が読み取られるかが定かでなく、双方の応答信号が混信して読取エラーが生じる可能性もある。しかし、この実施例の移動タグMからの信号の変化曲線は、頂上部分の幅が比較的長く、立ち上がり部分および立ち下がり部分の変化が急峻であるので、受信が不安定な期間UX,UYを短くすることができる。また、期間Uの長さが十分に確保されているので、移動タグMの情報を読み取るのに特段の支障が生じることはない。
【0046】
図4は、図1に示した制御装置1により実施される処理の手順を示す。
このフローチャートに示すように、制御装置1は、ステップS1〜S6のループを繰り返し実行する。ステップS1では、リーダライタ2に読出コマンドを渡して送信を行わせる。ステップS2では、読出コマンドに対する応答信号を受信したリーダライタ2から、この応答信号を復号して得た読取情報を受信する。ステップS3では、読取情報中の識別情報を抽出し、対応するタグの種別を認識する。
【0047】
上記の識別情報が移動タグMを示すものであれば(ステップS4が「YES」)、読取情報の内容を分析して、前述した認識処理を実行し(ステップS5)、その結果を出力する(ステップS6)。これにより1サイクル分の処理が終了するとステップS1に戻り、次の読出コマンドの送信処理が実施される。
一方、読取情報から抽出した識別情報が固定タグTを示すものであった場合(ステップS4が「NO」)には、ステップS5,S6をスキップしてステップS1に戻る。
【0048】
上記の処理によれば、移動タグMがアンテナAの正面から一定の距離以上離れている間は固定タグTからの情報が読み取られて、ステップS4が「NO」となる状態が続き、移動タグMがアンテナAの正面付近に到達して、固定タグTからの応答信号に対して基準レベル差D以上の差を有する応答信号を送信したときに、この応答信号による情報が読み取られてステップS5およびS6が実施される。このように、移動タグMがアンテナAの正面付近に存在する期間に限定して移動タグMの情報を読み取ることにより、コンベア10上を移動する移動タグMの1つ1つと安定して交信を実施することができる。よって確度の高い認識処理を実施することができる。
【0049】
また、図4には明示されていないが、上記のステップS2に関するアルゴリズムは、読出コマンドの送信から一定の待ち時間が経過するまで読取情報の受信に待機するように設定されている。しかし、この実施例では、移動タグMからの応答信号を受信できない場合でも固定タグTからの応答信号を受信することができるので、タイムアップ前にステップS2を終了することができる。よって、ステップS1〜S4またはステップS1〜S6のループの処理時間を短縮することができ、これをもって読出コマンドを送信する時間間隔を短縮することができる。よって、移動タグMが高速で移動する場合にも、支障なく情報を読み取ることができる。
【0050】
次に、アンテナAが各タグM,Tから受信する信号の間に図3(2)のグラフに示した関係を成立させるために実施される設定処理について説明する。
この実施例では、図4の処理を実施するのに先立ち、移動タグMおよび固定タグTを順にリーダライタ2と交信させて、アンテナAが各タグM,Tから得る信号のレベルを計測する。そしてこれらの計測結果に応じて、固定タグTのメモリ33内の利得の設定値を書き換えることにより、固定タグTにおける電波の反射強度を調整する。
【0051】
図5は、上記の設定処理の手順を示す。なお、この手順において、二重枠で示すステップS11,S15,S19は、現場のユーザにより実施されるもので、その他のステップは制御装置1により実施される。ただし、タグとの交信はリーダライタ2を介して実施される。
【0052】
以下、適宜、図5に示されていない処理を補足しながら、設定処理の内容を説明する。
この処理は、固定タグTが設置されていない状態で開始される。まずユーザは、移動タグM(正確には移動タグMが取り付けられたパレットPである。以下も同じ。)を、アンテナAと交信させるべき場所(アンテナAの正面付近)に配置する(ステップS11)。そして、制御装置1に対し、演算の開始を指示するコマンドを入力する。
【0053】
上記のコマンドを受けた制御装置1は、リーダライタ2に、移動タグMとの交信をn回(n≧1)実行し、交信毎に移動タグMから受信した信号のレベルを計測する(ステップS12)。具体的には、リーダライタ2にテスト用のコマンドを送信する処理、このコマンドに対する応答信号を受信する処理、および受信した応答信号のレベルを計測する処理を、nサイクル実行させ、毎回の計測値を取得する。
続いて制御装置1は、これらの計測値の平均値SM1を算出し(ステップS13)、得られた平均値SM1から基準レベル差Dおよびあらかじめ定めたマージン値kを差し引く演算を実施する(ステップS14)。この演算により得られた値R1は、第1の基準値として制御装置1の内部メモリに保存される。
【0054】
ステップS14までの処理が終了すると、制御装置1は、図示しないモニタに第1段階の処理が終了した旨を報知するメッセージを表示する。この表示を確認したユーザは、移動タグMの配置を、アンテナAと交信すべきでない場所に変更する(ステップS15)。変更後の場所としては、アンテナAと交信しても良い場所との境界に近い場所を選択するのが望ましい。
移動タグMの配置の変更作業を終えたユーザは、制御装置1に演算の開始を指示するコマンドを入力する。この入力に応じて、制御装置1は、ステップS12と同様の処理により、移動タグMとの交信をn回行って、交信毎に移動タグMから受信した信号のレベルを計測する(ステップS16)。そして、これらn回分の受信レベルの平均値SM2を算出し(ステップS17)、さらに、平均値SM2に基準レベル差Dおよびマージン値kを加える演算を実施する(ステップS18)。この演算により得られた値R2は、第2の基準値として制御装置1の内部メモリに保存される。
【0055】
ステップS18までの処理が終了すると、制御装置1は、モニタに第2段階の処理が終了した旨を報知するメッセージを表示する。この表示を確認したユーザは、移動タグMをアンテナAからの電波が届かない場所に移すと共に、コンベア10を挟んでアンテナAに対向する場所に固定タグTを設置する(ステップS19)。そして、制御装置1に対し固定タグTに対する設定処理の開始を指示するコマンドを入力する。
【0056】
上記のコマンドを受けた制御装置1は、ステップS12およびステップS16と同様の処理により、固定タグTとの交信をn回行って、交信毎に固定タグTから受信した信号のレベルを計測する(ステップS20)。そして、各計測値の平均値STを求めて(ステップS21)、このSTの値を、各基準値R1,R2と比較する。
【0057】
上記の平均値STが第2の基準値R2より大きく、第1の基準値R1より小さい場合(ステップS22が「YES」)には、各タグM,Tからの受信レベルは図3(2)に示した関係を満たしているとみなして処理を終了する。
【0058】
一方、平均値STが第2の基準値R2以下、または第1の基準値R1以上となった場合(ステップS22が「NO」)には、制御装置1は、リーダライタ2を介して固定タグTに利得の設定値の変更を求めるコマンドを送信する(ステップS23)。具体的には、平均値STがR2以下であれば、利得の設定値を上げることを指示するコマンドを送信し、平均値STがR1以上であれば、利得の設定値を下げることを指示するコマンドを送信する。
上記のコマンドを受けた固定タグTは、そのコマンドの内容に応じて自己のメモリ33内の利得の設定値を変更し、変更が完了した旨を示す応答信号を返送する。制御装置1は、リーダライタ2を介してこの応答信号を受けると、再度、ステップS20〜S22を実行する。この際のステップS20では、固定タグTから変更後の設定値に基づく強度の信号を受信することになる。以下同様にして、固定タグTから受信する信号のレベルの平均値STが基準値R1とR2の間に入るまで、ステップS20〜23のループを繰り返し、しかる後に処理を終了する。
【0059】
図5に示した設定処理によれば、システムの導入時などに、固定タグTを、アンテナAと交信すべき場所に位置する移動タグMからアンテナAが受信する信号に埋もれるレベルであって、アンテナAと交信すべきでない場所に位置する移動タグMからアンテナAが受信する信号を埋もれさせるレベルの信号を受信できる状態にして、設置することができる。また、システムの導入後に、環境の変化などにより各タグM,Tからの受信状態が変動して、各タグM,Tから受信する信号の間に図3(2)に示す関係が成立しなくなった場合にも、再度、上記の設定処理を実行することによって、各信号のレベルの関係を適切な状態に戻すことができる。
【0060】
なお、設定処理は図5に示したものに限らず、固定タグTから受信する信号のレベルに基づいて、移動タグMの利得の設定値を調整してもよい。
また、上記の例では、固定タグTの処理部32において利得の設定値に基づいて変調度を決定しているが、これに限らず、平均値STの値に基づいて制御装置1が変調度の調整値を求め、この調整値を含むコマンドを固定タグTに送信するようにしてもよい。
また、上記の例ではバックスキャッタの変調度を変更することによって電波の反射強度を調整したが、調整方法はこれに限定されるものではない。たとえば、固定タグTのアンテナ部30と変調回路31との間に可変減衰器を設け、その減衰量を調整してもよい。または、アンテナ部30の回路に可変コンデンサを組み込み、この可変コンデンサの容量を利得の設定値の変更に合わせて変更するようにしてもよい。
【0061】
図6(1)は、第1形態のRFIDシステムの他の導入例を示す。
この実施例でも、コンベア10により搬送されるパレットPに取り付けられた移動タグMから情報を読み取るが、パレットPの間の間隔が図3(1)の例より狭いため、アンテナAからの読出コマンドに対し、コンベア10上の複数の移動タグMA,MBが応答する可能性がある。また、コンベア10の隣に別のコンベア11が設置されており、この隣のコンベア11上に位置する移動タグMoutにもアンテナAからの読出コマンドが届き、応答信号が返送される可能性がある。この点に鑑み、この実施例では、図5と同様の設定処理により固定タグTにおける電波の反射強度を調整すると共に、移動タグMA,MBの間隔を調整することにより、アンテナAが各タグから受信する信号の間に図6(2)に示すような関係を成立させる。
【0062】
図6(2)によれば、この実施例でも、固定タグTから受信する信号は、ほぼ一定のレベルで維持される。
コンベア10上の各移動タグMA,MBから受信する信号は、それぞれ図3(1)の移動タグMと同様に、移動タグMA,MBがアンテナAの正面付近に位置する間に、固定タグTからの信号を埋もれさせるレベルとなり、移動タグMA,MBがアンテナAの正面から一定の距離以上離れている場合には、固定タグTからの信号内に埋もれるレベルとなる。またグラフ中の期間UZを除き、いずれか一方の移動タグからの信号が基準レベル差D以上の差をもって固定タグTからの信号より優勢になっているときは、他方の移動タグからの信号は固定タグTからの信号を下回る状態となる。よって、各移動タグMA,MBのいずれもおいても、その応答信号をアンテナAに排他的に読み取らせることが可能な期間を十分な長さで確保することができる。
【0063】
隣のコンベア11の移動タグMoutは、他のタグMA,MB,Moutよりもアンテナから離れた場所に位置するため、この移動タグMoutから受信する信号は、常に固定タグTから受信する信号より弱く、また固定タグTからの信号に対するレベル差は基準レベル差D以上となる。このため、隣のコンベア11の移動タグMoutがアンテナAからの読出コマンドに応答しても、その応答信号は、固定タグTからの応答信号またはこれより優勢になった移動タグMA,MBからの応答信号の中に埋もれて復号できない状態となる。よって、移動タグToutの情報がコンベア10により搬送中のパレットPに関する情報として読み取られるのを防止することができる。
【0064】
また、図6(1)では図示を省略しているが、コンベア11にも、コンベア10と同様に、アンテナや固定タグが配置されており、コンベア11の固定タグにコンベア10のアンテナAからの読出コマンドが届く可能性がある。しかし、コンベア11の固定タグからコンベア10のアンテナAが受信する信号のレベルは、上記の移動タグMoutからの信号と同様の低いレベルになるので、コンベア11の固定タグの情報がコンベア10の固定タグTの情報として誤認識されることはない。
【0065】
なお、図3や図6の例では、固定タグTを、コンベア10を挟んでアンテナAに対向する場所に配置しているが、移動タグMからの信号に対し、図3(2)や図6(2)のグラフに示したのと同様の関係を成立させることができるのであれば、固定タグTの設置場所を限定する必要はない。たとえば、図7に示すように、固定タグTが取り付けられたスタンド15を、アンテナAとコンベア10との間に配備してもよい。また、固定タグTを、リーダライタ2のアンテナAや交信制御部20に一体に設けることも可能である。
【0066】
また、コンベア10より外の空間のタグから復号が可能なレベルの信号がアンテナAに届く可能性がない場合には、固定タグTを配置せずに、移動タグMの送信レベルや間隔を調整することで対応してもよい。たとえば、図6の例のように、コンベア10上を移動する移動タグ毎に、読出コマンドに対する当該移動タグからの応答信号をアンテナAに排他的に読み取らせることができる期間を十分な長さで確保することができれば、固定タグTを設けなくとも、個々の移動タグに対する読取処理を安定して実施することが可能になる。
【0067】
<第2形態>
第2形態のシステムは、入退出を管理するためのものである。システムの導入例を図8に示す。
この実施例では、フォークリフトBにより貨物コンテナに貨物を積み込む際に、貨物の誤配送を防止することを目的とする。現場には、配送先がそれぞれ異なる複数の貨物コンテナ(図示せず。)に対する搬入用の経路R1,R2,R3,・・・Rnが近接して並設されている。
【0068】
各経路R1〜Rnには、それぞれ一側方にリーダライタのアンテナA1〜Anが配備され、経路R1〜Rnを挟んでアンテナA1〜Anに対向する場所に固定タグT1〜Tnが配備される。
【0069】
各経路A1〜Anの後端位置(ゲートの手前位置)には、一対の表示灯9a〜9n,10a〜10nが経路A1〜Anの両側に分けて配備される。フォークリフトBの進行方向に対して左手に配置される表示灯9a,9b,9c・・・9nは通過を許可することを示す青色光を発光し、右手に配置される表示灯10a,10b,10c,・・・10nは通過を許可しないことを示す赤色光を発光する。
【0070】
フォークリフトBには、経路R1〜Rnに入ったときにアンテナA1〜Anに対向する関係になる箇所に、移動タグMが取り付けられる。各タグM,T1〜TnとアンテナA1〜Anとは、UHF帯域の電波を用いて相互に変調処理や復調処理を行うことにより、交信を実施する。また、各タグM,T1〜TnはいずれもパッシブタイプのRFIDタグであるが、セミパッシブタイプのRFIDタグを使用することも可能である。
【0071】
移動タグMには、あらかじめ、移動タグであることを示す種別コードのほか、対応する移動体に関する情報として、フォークリフトBを通過させるべき経路の識別番号、配送品の品番、顧客コード、顧客の工場コード、およびその他の必要な情報が書き込まれる。固定タグT1〜Tnには、固定タグであることを示す種別コードや対応する経路のコードが書き込まれる。
【0072】
図9は、上記の実施例におけるシステム構成(ただし、タグT1〜Tn,Mは図示せず。)を示すブロック図である。
この実施例のRFIDシステムで用いられるリーダライタ200は、各経路R1〜RnのアンテナA1〜Anと、これらのアンテナA1〜Anに共通の交信制御部201とにより構成される。制御装置100には、主制御基板101や光源制御基板102が組み込まれる。主制御基板101には、CPU103、メモリ104、および後記する計時処理のためのタイマ105などが含まれる。
【0073】
リーダライタ200の交信制御部201は、RS232C等のインターフェースを介して主制御基板101に接続される。このほか、主制御基板101には、キーボード106、マウス107、ディスプレー108などの周辺機器や光源制御基板102が接続される。光源制御基板102には、前出の表示灯9a〜9n,10a〜10nが接続される。
【0074】
主制御基板101のメモリ104には、演算に用いるプログラムが格納されると共に、各アンテナA1〜Anが受信した応答信号から復号された読取情報が一時保存される記憶エリア、ソフトタイマを構成するレジスタ領域、移動タグから読み取られた情報を保存するためのデータベース、処理の履歴データ(ログデータ)が保存される記憶エリアなどが設けられる。さらに、メモリ104には、各経路R1〜Rn毎に、通過を許容する配送品の品番、対応するコンテナの顧客コードや工場コードなどの情報が登録される。
【0075】
上記の構成において、主制御基板101のCPU103は、リーダライタ200の交信制御部201に対し、各アンテナA1〜Anを順に作動させて、読出コマンドの送信および応答信号の受信を実施させると共に、交信制御部201が応答信号から復号した読取情報を取得する。さらに、CPU103は、取得した読取情報の種別を判別し、移動タグMの読取情報であると判別すると、その読取情報を当該情報を受信したアンテナに対応する登録情報と照合することによって、読取情報の適否を判別する。
【0076】
図8の導入例によれば、各経路R1〜RnのアンテナA1〜Anから出力された読出コマンドは、対応する経路の固定タグT1〜Tnや移動タグMに届くほか、他の経路の固定タグや移動タグにも届く可能性がある。そこで、この実施例では、第1形態のシステムと同様の原理に基づき、各経路Ri(i=1〜n)のアンテナAiの正面付近に移動タグMが位置するときは、固定タグTiおよび経路Riの外に位置する各種タグからの信号が移動タグMからアンテナAiに送信される信号の中に埋もれて復号できない状態となり、経路Riに移動タグMが含まれていないときは、固定タグTiからアンテナAiに送信される信号のレベルが最も高く、かつ固定タグTi以外のタグからの信号は固定タグTiからの信号の中に埋もれて復号できない状態になるように、各タグの電波の反射強度を設定する。この設定により、いずれのアンテナA1〜Anでも、そのアンテナA1〜Anと交信すべき場所に位置する移動タグMからの応答信号を確実に受信すると共に、他の経路に位置する移動タグMなど、交信すべきでない場所に位置するタグからの応答信号の読取を防止することができる。
【0077】
以下、図10のフローチャートを用いて、第2形態のRFIDシステムの制御装置100により実施される処理を説明する。
まず最初のステップS101では、処理対象の経路を特定するためのカウンタiに初期値の「1」をセットする。つぎのステップS102では、アンテナAi(初期状態ではアンテナA1)に読出コマンドを送信させる。
【0078】
この実施例の固定タグT1〜Tnや移動タグBは、読出コマンドを受信すると、一定のタイミングで応答信号を返送する。制御装置100のCPU103は、読出コマンドの送信に応じてタイマ105に計時を開始させ、計時時間があらかじめ定めた上限値(応答信号の返送に要する時間より所定時間長くなるように設定される。)に達するまで読取情報の送信に待機する(ステップS103,S104)。
【0079】
上記の待ち時間の間に、アンテナAiが読出コマンドに対する応答信号を受信し、交信制御部201が読取情報を復号して制御装置100に送信すると、ステップS103が「YES」となる。これを受けてCPU103は、受信した読取情報のデータ構成に基づき、当該情報に対応するタグの種類を判別する(ステップS105)。
【0080】
読取情報に固定タグの種別コードおよび経路Riのコードが含まれている場合には、CPU103は、当該読取情報は固定タグTiの情報であると判断する。この場合には、ステップS105が「NO」となるので、カウンタiを更新して(ステップS111,S112)、ステップS102に戻る。なお、カウンタiがnに達している場合には、ステップS111からステップS101に戻ってiを初期値の「1」に戻し、しかる後にステップS102に進む。
【0081】
読取情報に移動タグの種別コードが含まれている場合には、ステップS105が「YES」となってステップS106に進む。ステップ106では、読取情報から各種データを切り分けて抽出し、データ破損の有無等の精査を実行した後に、一時データとしてメモリ104に保存する。さらに次のステップS107において、一時保存されたデータを、経路Riに関する登録データと照合する。
【0082】
上記の照合によりデータが一致した場合(ステップS108が「YES」)には、ステップS109の正常時処理に進む。この正常時の処理には、経路Riの青色の表示灯を作動させるための制御指令信号を光源制御基板102に送出する処理、読取情報から抽出した各種データをデータベースに保存する処理、これらの処理を実施したことをログデータに書き込む処理などが含まれる。
【0083】
一方、照合処理により2種類のデータに不一致が認められた場合には、ステップS108は「NO」となり、ステップS110の異常時の処理へと進む。この異常時の処理には、経路Riの赤色の表示灯を作動させるための制御指令信号を光源制御基板102に送出する処理、ディスプレー108に異常の発生を表示する処理、読取情報から抽出した各種データをデータベースに保存する処理、これらの処理を実施したことをログデータに書き込む処理などが含まれる。
【0084】
なお、何らかの原因でアンテナAiと固定タグTiとの間の電波の伝搬が妨げられた場合には、読出コマンドの送信(ステップS102)からの待ち時間が上限値に達しても読取情報を取得することができない状態となる。この場合にはステップS104が「YES」となってステップS110に進み、異常時の処理を実施する。また、図10には示していないが、経路Riの固定タグTiが故障したために他の固定タグの情報が読み取られた場合には、その読取情報に含まれる経路の識別情報がカウンタiと整合しない状態となる。このような不整合が生じた場合には、ステップS110とは異なる態様の異常処理を実施する。
【0085】
上記のとおり、この実施例では、各経路R1〜RnのアンテナA1〜Anから順に読出コマンドを送出して、各アンテナA1〜Anが受信した応答信号から復号された読取情報を取得し、この読取情報が移動タグの情報であったときに当該情報を得たアンテナに対応する経路に適合する情報であるか否かを認識し、その認識結果を表示灯9a〜9n,10a〜10nなどを用いてユーザに報知する。前述したように、いずれのアンテナAiでも、対応する経路Riに入ったフォークリフトBに取り付けられた移動タグMがアンテナAiの正面付近に位置するときに、当該移動タグMからの応答信号を排他的に読み取らせる一方で、アンテナAiから一定の距離以上離れた場所にある移動タグMからの応答信号が読み取られることはないので、制御装置100では、フォークリフトBが進入した経路を正確に認識し、その進入位置の適否を正しく判別することができる。
【0086】
また、この実施例では、各経路R1〜Rnに対する処理を1つずつ順に実施するが、作動中のアンテナAiとこれに対向する固定タグTiとの間で電波が遮蔽される状態にならない限り、固定タグTiを読出コマンドに反応させることができる。したがって、アンテナAiに対応する経路Riに移動タグBが含まれていない場合でも、読出コマンドの送信に対して速やかに固定タグTiからの応答信号を得ることができ、各経路R1〜Rnに対する処理が一巡するまでの時間を短縮することができる。また、経路R1〜Rn毎にリーダライタを設けるよりも、コストを削減することができる。
ただし、上記の構成に代えて、経路R1〜RnのアンテナA1〜An毎に交信制御部を組み合わせ、各経路R1〜Rnに対する処理を並列で実施してもよい。
【0087】
つぎに、第2形態のRFIDシステムでも、図6の例と同様に、同一の経路に位置する複数の移動タグに対する読取処理を、各移動タグの移動の順序に従って実施することができる。図11(1)は、この原理を応用した例であって、フォークリフトBの一側面に、一対の移動タグMFW,MBKを所定の間隔をあけて前後に並べて取り付けている。制御装置100では、これらの移動タグMFW,MBKから情報を読み取った順序に基づきフォークリフトBが前進したか、後退したかを認識する。この認識の確度を得るために、この実施例では、アンテナAiが各タグから受信する信号に図11(2)に示すような関係を成立させる。
【0088】
図11(2)は、上記のフォークリフトBが経路Riを前進する場合にアンテナAiが各タグから受信する信号のレベルの変化を、グラフにしたものである。この例でも、固定タグTiから受信する信号のレベルはほぼ一定に維持される。各移動タグMFW,MBKのうち、先にアンテナAiの正面に到達する移動タグMFWからの信号がまず受信される状態となり、次に移動タグMBKからの信号が受信される状態となる。また、移動タグMFW,MBKのいずれにおいても、固定タグTiおよび他方の移動タグからの信号に対し、基準レベル差D以上のレベル差をもって優勢になる期間が相当の長さで確保される。
【0089】
なお、図11(1)には、経路Riの横手に停車するフォークリフトBが示され、図11(2)には、このフォークリフトBに取り付けられている移動タグMFW1,MBK1からアンテナAiが受信した信号のレベルの変化が示されている。これらの信号は、いずれも、常に固定タグTiからの信号より弱く、かつ固定タグTiからの信号に対し、基準レベル差D以上のレベル差を有する。したがって、これらの移動タグMFW1,MBK1からの信号は、経路Riでの移動タグの有無に関わらず、固定タグTiからの信号の中に埋もれて復号できない状態となる。よって、アンテナAiが受信した信号から移動タグMFW1,MBK1の情報が読み取られることはない。
【0090】
上記の各信号の関係も、図5に準じた設定処理や移動タグMFW,MBKの間隔を調整することによって実現したものである。この調整により、経路Aiに入った移動タグMFW,MBKは、いずれもアンテナAiと交信すべき場所(アンテナの正面)に来たときにその情報が読み取られるので、各移動タグMFW,MBKに対する読取処理を正しい順序で実施して、フォークリフトBの進行方向を正確に認識することが可能になる。
【0091】
なお、第1形態および第2形態のシステムに関するいずれの導入例でも、移動タグに対して読取処理のみを実施するものとしたが、これに限らず、読出コマンドにより移動タグが特定された後に、この移動タグを交信対象に指定した書込コマンドを送信し、当該移動タグに新たな情報を書き込むことも可能である。
【0092】
つぎに、図11の例では、移動体(フォークリフトB)に取り付けられた一対の移動タグMFW,MBKに対する読取処理によって、移動体の前進および後退を認識するようにしたが、前進する車両を対象に、その進行方向を認識するようなシステムを構築することも可能である。その一例を図12に示す。
【0093】
図12の実施例では、車両Cの車体にリーダライタ210のアンテナ211を取り付けると共に、一対の固定タグTDN,TUPを、車両Cの走行路RDの長さ方向に沿って配置する(各タグTDN,TUPは、たとえば走行路RDの路面の下に埋め込まれる。)。また、車両Cの内部には、リーダライタ210の交信制御部212および制御装置110が設けられる。
【0094】
図中の矢印Fは、車両Cの上り方向を示す。以下、一対の固定タグTUP,TDNのうち、上り側に位置するタグTUPを「上りタグTUP」と呼び、下り側に位置するタグTDNを「下りタグTDN」と呼ぶ。各タグTUP,TDNのメモリには、それぞれ自己の種別を示す種別情報などが保存される。
【0095】
制御装置110は、車両Cの走行に伴い、リーダライタ210に読出コマンドの送信および応答信号の受信を繰り返し実施させると共に、応答信号より復号された読取情報を入力し、その種別情報によりいずれのタグの情報であるかを判別する。そして、上りタグTUPの情報を取得してから下りタグTDNの情報を取得した場合には、車両Cは下り方向に沿って移動していると認識し、下りタグTDNの情報を取得してから上りタグTUPの情報を取得した場合には、車両Cは上り方向に沿って移動していると認識する。
【0096】
上記の認識の精度を確保するために、この実施例では、アンテナ211が各タグTUP,TDNから受信する信号に図12(2)に示す関係が成立するように、各タグTUP,TDNにおける電波の反射強度やタグ間の間隔を調整する。たとえば、まず各タグTUP,TDNの場所を定めて、各タグTUP,TDNを1つずつ順に定められた場所に仮配置すると共に、アンテナ210が仮配置されたタグと交信すべき場所にあるときの受信レベルと、アンテナ210が他方のタグと交信すべき場所にあるときの受信レベルとを計測する。そして、各計測値に基づき、各タグTUP,TDNにおける電波の反射強度を調整する。
なお、図12(2)のグラフ中のP0は応答信号から情報を復号するのに要求される最小の受信レベルに相当する。
【0097】
図12(2)の例では、アンテナ211からの読出コマンドに対し、まず下りタグTDNからの応答信号を受信する状態になり、ついで上りタグTUPからの応答信号を受信する状態になる。各タグTDN,TUPからの信号の受信レベルはそれぞれ山状に変化し、図中の期間UVを除いて、いずれか一方の信号が他方の信号に対し、基準レベル差D以上の差をもって優勢な状態になる。
【0098】
上記の信号変化の関係によれば、いずれのタグTUP,TDNも、他方のタグからの信号を埋もれさせるレベルの信号をアンテナ211に送信することができる期間が十分な長さで確保されているから、各タグTUP,TDNに対する読取処理を順序を誤らずに実施することができる。よって、車両Cの走行方向を正しく認識することができる。
【0099】
なお、走行路RDには、3個以上の固定タグを配置することもできる。固定タグの数を増やす場合にも、上記の例と同様に、タグ毎に、他のタグからの信号を埋もれさせるレベルの信号をアンテナに送信することができる期間が十分な長さで確保されるように、各タグにおける電波の反射強度やタグ間の間隔を設定する。
【符号の説明】
【0100】
M,MA,MB,MFW,MDN,M1〜Mn 移動タグ
T,T1〜Tn 固定タグ
A,A1〜An アンテナ
P,B,C 移動体
1,100 制御装置
2,200 リーダライタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
認識対象の移動体が進行する経路の近傍に設けられたアンテナを含む交信処理装置と、前記移動体に関連する情報が書き込まれて当該移動体と共に移動する移動RFIDタグと、前記交信処理装置の動作を制御すると共に交信処理装置が移動RFIDタグとの交信により得た読取情報を交信処理装置から取得し、この読取情報を用いて前記移動体に関する認識処理を行う制御装置とを有するRFIDシステムであって、
所定の場所に固定配置され、前記アンテナと交信すべき場所に位置する移動RFIDタグから当該アンテナが受信する信号に埋もれるレベルであって、前記アンテナと交信すべきでない場所に位置する移動RFIDタグから当該アンテナが受信する信号を埋もれさせるレベルの信号を当該アンテナに届ける固定RFIDタグを、さらに具備し
前記移動RFIDタグおよび固定RFIDタグは、それぞれ前記アンテナからのコマンドに対して一定のタイミングで応答し、
前記制御装置は、前記交信処理装置に、読出コマンドを送信して当該コマンドに対するRFIDタグからの応答信号を受信する処理を繰り返し実行させると共に、前記応答信号を受信した交信処理装置から移動RFIDタグの応答信号による読取情報を取得したとき、その読取情報を用いて前記認識処理を実行する、
ことを特徴とするRFIDシステム。
【請求項2】
前記移動体を進行させるために設定された複数の経路毎に前記アンテナおよび固定RFIDタグが設けられ、
前記制御装置は、各経路のアンテナにそれぞれ前記読出コマンドの送信および応答信号の受信を実施させると共に、読取情報として前記移動RFIDタグからの応答信号による情報を取得したとき、その読取情報を含む応答信号を受信したアンテナに対応する経路に前記移動体が位置すると認識する、請求項1に記載されたRFIDシステム。
【請求項3】
前記制御装置は、各経路のアンテナに、前記読出コマンドの送信および応答信号の受信を順に実施させると共に、読出コマンドを送信したアンテナが応答信号を受信したことに応じて次のアンテナに前記読出コマンドを送信させる、請求項2に記載されたRFIDシステム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記移動RFIDタグの読取情報を取得したとき、その読取情報が当該読取情報を含む応答信号を受信したアンテナが配備される経路に整合するか否かを判別する判別手段と、前記判別手段による判別結果を出力する出力手段とを、さらに具備する、請求項2または3に記載されたRFIDシステム。
【請求項5】
前記移動RFIDタグおよび固定RFIDタグの少なくとも一方は、前記アンテナからのコマンドに対して応答する際の電波の反射強度を、当該反射強度の変更を求めるコマンドをアンテナから受信したことに応じて変更する機能を具備する、請求項1に記載されたRFIDシステム。
【請求項1】
認識対象の移動体が進行する経路の近傍に設けられたアンテナを含む交信処理装置と、前記移動体に関連する情報が書き込まれて当該移動体と共に移動する移動RFIDタグと、前記交信処理装置の動作を制御すると共に交信処理装置が移動RFIDタグとの交信により得た読取情報を交信処理装置から取得し、この読取情報を用いて前記移動体に関する認識処理を行う制御装置とを有するRFIDシステムであって、
所定の場所に固定配置され、前記アンテナと交信すべき場所に位置する移動RFIDタグから当該アンテナが受信する信号に埋もれるレベルであって、前記アンテナと交信すべきでない場所に位置する移動RFIDタグから当該アンテナが受信する信号を埋もれさせるレベルの信号を当該アンテナに届ける固定RFIDタグを、さらに具備し
前記移動RFIDタグおよび固定RFIDタグは、それぞれ前記アンテナからのコマンドに対して一定のタイミングで応答し、
前記制御装置は、前記交信処理装置に、読出コマンドを送信して当該コマンドに対するRFIDタグからの応答信号を受信する処理を繰り返し実行させると共に、前記応答信号を受信した交信処理装置から移動RFIDタグの応答信号による読取情報を取得したとき、その読取情報を用いて前記認識処理を実行する、
ことを特徴とするRFIDシステム。
【請求項2】
前記移動体を進行させるために設定された複数の経路毎に前記アンテナおよび固定RFIDタグが設けられ、
前記制御装置は、各経路のアンテナにそれぞれ前記読出コマンドの送信および応答信号の受信を実施させると共に、読取情報として前記移動RFIDタグからの応答信号による情報を取得したとき、その読取情報を含む応答信号を受信したアンテナに対応する経路に前記移動体が位置すると認識する、請求項1に記載されたRFIDシステム。
【請求項3】
前記制御装置は、各経路のアンテナに、前記読出コマンドの送信および応答信号の受信を順に実施させると共に、読出コマンドを送信したアンテナが応答信号を受信したことに応じて次のアンテナに前記読出コマンドを送信させる、請求項2に記載されたRFIDシステム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記移動RFIDタグの読取情報を取得したとき、その読取情報が当該読取情報を含む応答信号を受信したアンテナが配備される経路に整合するか否かを判別する判別手段と、前記判別手段による判別結果を出力する出力手段とを、さらに具備する、請求項2または3に記載されたRFIDシステム。
【請求項5】
前記移動RFIDタグおよび固定RFIDタグの少なくとも一方は、前記アンテナからのコマンドに対して応答する際の電波の反射強度を、当該反射強度の変更を求めるコマンドをアンテナから受信したことに応じて変更する機能を具備する、請求項1に記載されたRFIDシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−98863(P2012−98863A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245151(P2010−245151)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]